説明

π共役有機ホウ素化合物及びその製造方法

【課題】ホウ素まわりを強固に平面固定化して四配位構造をとりにくくした新たな有機ホウ素化合物を合成する。
【解決手段】特定の有機ホウ素化合物に特定の化合物を導入し、その後フリーデルクラフツ反応を起こさせることで、ホウ素まわりを強固に平面固定化して安定化した有機ホウ素化合物を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、π共役有機ホウ素化合物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特徴的な電子構造や構造特性を有するπ共役骨格の開発は、有機EL、有機薄膜トランジスタ、太陽電池等に代表される有機エレクトロニクス材料への応用の可能性から、益々その重要性が高まっている。そのため、優れた機能を有する、新たなπ共役骨格の開発が活発におこなわれている。
【0003】
ところで、13族元素であるホウ素は、炭素に比べて価電子数が一つ少ないことから電子不足な元素である。また、ホウ素は、空のp軌道を有するため、強いπ電子受容性を有する。このため、ホウ素をπ共役骨格に組み込むことで、炭素だけでは成し得なかった性質を有するπ共役有機化合物が得られることが期待される。
【0004】
しかし、一般に有機ホウ素化合物は空のp軌道に求核攻撃を受けやすいことから不安定であることから、有機ホウ素化合物を機能性材料として応用するためには、これをいかに安定化させるかが分子設計の鍵となる。これに対して、ホウ素まわりを立体的に保護することで求核剤の接近を防ぎ、速度論的に安定化させるという手法が現在一般的に用いられている。例えば、以下の式:
【0005】
【化1】

【0006】
で示されるトリメシチルボランは、メチル基同士の反発によりメシチル基がプロペラ型にねじれており、ホウ素まわりが立体的に保護されている(非特許文献1)。このことから、トリメシチルボランは、空気、水等に対して安定である。
【0007】
この他にも、π共役系骨格自体にホウ素を組み込み、ホウ素上にかさ高い置換基を導入することで、ホウ素化合物を安定化させることが数多く行われている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Olmstead, M. M.; Power, P. P. J. Am. Chem. Soc. 1986, 108, 4235.
【非特許文献2】Tomioka, H.; Hirai, K.; Ishihara, Y.; Hu, Y. Bull. Chem. Soc. Jpn. 2001, 74, 2207.
【非特許文献3】Kinzel, T.; Zhang, Y.; Buchwald, S. L. J. Am. Chem. Soc. 2010, 132, 14073.
【非特許文献4】G. M. Sheldric, SHELX-97, Program for the Refinement of Crystal Structures; Universityof Gottingen: Gottingen, Germany, 1997.
【非特許文献5】A. L. Spek. PLATON, A MultipurposeCrystallographic Tool, Utrecht, The Netherlands, 2005
【非特許文献6】P. van der Sluis, A. L. Spek. Acta Crystallogr. Sect. A, 1990, 46. 194.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このように、有機ホウ素化合物を安定化させるためには、ホウ素上にかさ高い置換基を導入することが一般的である。そして、ホウ素上にかさ高い置換基を少なくとも一つ導入することが必須と考えられている。しかし、かさ高い置換基をホウ素上に導入すると、三つの置換基のすべてをπ共役系に活かすことができない。また、このような有機ホウ素化合物は、固体状態において分子間相互作用が阻害されるという問題点もある。
【0010】
このような観点から、本発明は、ホウ素まわりを立体的に保護して求核剤の接近を防ぐという従来の手法に代わり、ホウ素まわりを強固に平面固定化して四配位構造をとりにくくすることで、求核剤との反応性を下げるという新たな分子設計指針を着想した。このような新たな有機ホウ素化合物を合成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題に鑑み鋭意研究を重ねた結果、本発明者らは、特定の有機ホウ素化合物に特定の化合物を導入し、その後フリーデルクラフツ反応を起こさせることで、ホウ素まわりを強固に平面固定化して安定化した有機ホウ素化合物が得られることを見出した。本発明は、このような知見に基づき、さらに研究を重ねた結果、完成されたものである。すなわち、本発明は、以下の項1〜12に係る発明を包含する。
【0012】
項1.一般式(A):
【0013】
【化2】

【0014】
[式中、RA1〜RA4は、同じか又は異なり、それぞれ単独でRA1及びRA4が水素原子、RA2及びRA3が炭素数3〜22の1−アルキルエテニル基であってもよく、RA1とRA2、RA3とRA4が互いに結合してホウ素原子を有する6員のヘテロ環を形成してもよい;RA5〜RA6は同じか又は異なり、それぞれ単独で水素原子、又は炭素数1〜20のアルキル基であってもよく、RA5とRA6が一緒になってオキソ基を形成していてもよい。]
で示される3反応点を有する単位、及び
一般式(B):
【0015】
【化3】

【0016】
[式中、RB1〜RB8は、同じか又は異なり、それぞれ単独でRB1、RB4、RB5及びRB8が水素原子、RB2、RB3、RB6及びRB7が炭素数3〜22の1−アルキルエテニル基であってもよく、RB1とRB2、RB3とRB4、RB5とRB6、RB7とRB8が互いに結合してホウ素原子を有する6員環のヘテロ環を形成してもよい]
で示される2反応点を有する単位
よりなる群から選ばれる少なくとも1種の単位を1個以上有するπ共役有機ホウ素化合物。
【0017】
項2.前記一般式(A)で示される単位が、一般式(A1):
【0018】
【化4】

【0019】
[式中、RA7〜RA10は同じか又は異なり、それぞれ水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基;RA11〜RA12は同じか又は異なり、それぞれ単独で水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基であってもよく、RA11とRA12が一緒になってオキソ基を形成していてもよい。]
で示される3反応点を有する単位である、項1に記載のπ共役有機ホウ素化合物。
【0020】
項3.前記一般式(B)で示される単位が、一般式(B1):
【0021】
【化5】

【0022】
[式中、RB9〜RB16は同じか又は異なり、それぞれ水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基である]
で示される2反応点を有する単位である、項1又は2に記載のπ共役有機ホウ素化合物。
【0023】
項4.一般式(A)で示される3反応点を有する単位及び一般式(B)で示される2反応点を有する単位よりなる群から選ばれる少なくとも1種を1〜3個有する、項1〜3のいずれかに記載のπ共役有機ホウ素化合物。
【0024】
項5.一般式(A1a):
【0025】
【化6】

【0026】
[式中、RA7〜RA10は同じか又は異なり、それぞれ水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基;RA11〜RA12は同じか又は異なり、それぞれ単独で水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基であってもよく、RA11とRA12が一緒になってオキソ基を形成していてもよい;RA13〜RA15は同じか又は異なり、それぞれ水素原子、ハロゲン原子、ボロン酸若しくはそのエステル基、シリル基又はスタンニル基である。]
、又は一般式(B1a):
【0027】
【化7】

【0028】
[式中、RB9〜RB16は同じか又は異なり、それぞれ水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基;RB17〜RB18は同じか又は異なり、それぞれ水素原子、ハロゲン原子、ボロン酸若しくはそのエステル基、シリル基又はスタンニル基である。]
で示される、項1〜4のいずれかに記載のπ共役有機ホウ素化合物。
【0029】
項6.さらに、π結合を有する基を有する、項1〜5のいずれかに記載のπ共役有機ホウ素化合物。
【0030】
項7.前記π結合を有する基が、チオフェン骨格を有する基、フルオレン骨格を有する基、チアゾール骨格を有する基、ピリジン骨格を有する基、オキサジアゾール骨格を有する基、チアジアゾール骨格を有する基,ベンゾチアジアゾール骨格を有する基、アリーレン基、及びトリアリールアミンよりなる群から選ばれる少なくとも1種である、項6に記載のπ共役有機ホウ素化合物。
【0031】
項8.一般式(C1):
【0032】
【化8】

【0033】
[式中、RC1〜RC12は同じか又は異なり、それぞれ水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基;RC13〜RC16は同じか又は異なり、それぞれ水素原子、ハロゲン原子、ボロン酸若しくはそのエステル基、シリル基又はスタンニル基;Yはπ結合を有する基である。]
で示される、項1、2及び4〜7のいずれかに記載のπ共役有機ホウ素化合物。
【0034】
項9.一般式(A1):
【0035】
【化9】

【0036】
[式中、RA7〜RA10は同じか又は異なり、それぞれ水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基;RA11〜RA12は同じか又は異なり、それぞれ単独で水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基であってもよく、RA11とRA12が一緒になってオキソ基を形成していてもよい。]
で示される3反応点を有する単位を有するπ共役有機ホウ素化合物の製造方法であって、一般式(A2a):
【0037】
【化10】

【0038】
[式中、RA11〜RA12は同じか又は異なり、前記に同じ;RA13〜RA15は同じか又は異なり、それぞれ水素原子、ハロゲン原子、ボロン酸若しくはそのエステル基、シリル基又はスタンニル基;RA17〜RA18は同じか又は異なり、それぞれ炭素数1〜20のアルキル基である。]
で示される化合物にルイス酸触媒を作用させる工程
を備える、製造方法。
【0039】
項10.一般式(B1):
【0040】
【化11】

【0041】
[式中、RB9〜RB16は同じか又は異なり、それぞれ水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基である。]
で示される2反応点を有する単位を有するπ共役有機ホウ素化合物の製造方法であって、
一般式(B2a):
【0042】
【化12】

【0043】
[式中、RB17〜RB18は同じか又は異なり、それぞれ水素原子、ハロゲン原子、ボロン酸若しくはそのエステル基、シリル基又はスタンニル基;RB19〜RB22は同じか又は異なり、それぞれ炭素数1〜20のアルキル基である。]
で示される化合物にルイス酸触媒を作用させる工程
を備える、製造方法。
【0044】
項11.前記ルイス酸触媒が、トリフルオロメタンスルホン酸スカンジウム(III)である、項9又は10に記載の製造方法。
【0045】
項12.一般式(C1):
【0046】
【化13】

【0047】
[式中、RC1〜RC12は同じか又は異なり、それぞれ水素原子、炭素数1〜20のアルキル基;RC13〜RC16は同じか又は異なり、それぞれ水素原子、ハロゲン原子、ボロン酸若しくはそのエステル基、シリル基又はスタンニル基;Yはπ結合を有する基である。]
で示されるπ共役有機ホウ素化合物の製造方法であって、
一般式(A1a−1):
【0048】
【化14】

【0049】
[式中、RA7〜RA12は同じか又は異なり、それぞれ水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基;RA16はハロゲン原子、ボロン酸若しくはそのエステル基、シリル基又はスタンニル基である。]
で示されるπ共役有機ホウ素化合物と、有機金属化合物とをカップリング反応させる工程
を備える、製造方法。
【発明の効果】
【0050】
本発明によれば、ホウ素まわりを強固に平面固定化して安定化した有機ホウ素化合物が得られる。この化合物は、高い化学的安定性を示し、且つ、高い電子輸送能と発光性能を有する。また、当該化合物に、π結合を有する基を導入することで、容易にπ共役系を拡大することができ、より安定な化合物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】THF中における実施例3及び比較例1で得た化合物の紫外可視九州スペクトル及び蛍光スペクトルである。
【図2】比較例1で得た参照化合物のX線結晶構造(存在確率50%の熱振動楕円体)である。
【図3】実施例3で得た平面固定ボラン置換チオフェンのX線結晶構造(存在確率50%の熱振動楕円体)である。
【図4】実施例3で得た平面固定ボラン置換チオフェンの結晶構造である。明確にするために、水素原子は記載していない。なお、(a)はパッキング構造の空間充填モデル、(b)は 3分子で取り囲まれた空隙の拡大図である。
【図5】実施例3で得た平面固定ボラン置換チオフェンと、比較例1で得た参照化合物のKohn-Shamプロットと、HOMO及びLUMOのエネルギーレベルである (B3LYP/6-31G(d)// B3LYP/6-31G(d))。
【図6】熱振動楕円体作画ソフト(ORTEP)による、実施例7で得た平面固定トリフェニルボラン誘導体のX線結晶構造(存在確率50%の熱振動楕円体)である。それぞれの結合の長さ(Å)と角度(°)は、B1-C1 1.519(2), B1-C9 1.520(3), C1-C2 1.414(2), C1-C6 1.410(2), C9-C10 1.411(2), C2-C7 1.537(2), C6-C13 1.539(2), C10-C13 1.542(2), C1-B1-C1* 119.8(2), C1-B1-C9 120.1(1), C1*-B1-C9 120.1(1)である。
【図7】熱振動楕円体作画ソフト(ORTEP)による、実施例5で得た平面9,10−ジフェニル−9,10−ジヒドロ−9,10−ジボラアントラセンのX線結晶構造(存在確率50%の熱振動楕円体)である。それぞれの結合の長さ(Å)と角度(°)は、B1-C7 1.522(3), B1-C2* 1.530(3), B1-C1 1.531(3), C1-C6 1.396(3), C1-C2 1.428(3), C2-C3 1.395(3), C7-C8 1.416(3), C7-C12 1.417(3), C7-B1-C1 118.9(2), C7-B1-C2* 118.8(2), C2*-B1-C1 122.3(2)である。
【図8】実施例7で得た平面固定トリフェニルボラン誘導体、及び実施例5で得た平面9,10−ジフェニル−9,10−ジヒドロ−9,10−ジボラアントラセンのサイクリックボルタンメトリーである。測定条件:THF (1 mM), 支持電解質n-Bu4N+PF6- (0.1 M),走引速度100 mV s-1
【発明を実施するための形態】
【0052】
1.π共役有機ホウ素化合物
本発明のπ共役有機ホウ素化合物は、一般式(A):
【0053】
【化15】

【0054】
[式中、RA1〜RA4は、同じか又は異なり、それぞれ単独でRA1及びRA4が水素原子、RA2及びRA3が炭素数3〜22の1−アルキルエテニル基であってもよく、RA1とRA2、RA3とRA4が互いに結合してホウ素原子を有する6員のヘテロ環を形成してもよい;RA5〜RA6は同じか又は異なり、それぞれ単独で水素原子、又は炭素数1〜20のアルキル基であってもよく、RA5とRA6が一緒になってオキソ基(=O)を形成していてもよい。]
で示される3反応点を有する単位(A)、及び
一般式(B):
【0055】
【化16】

【0056】
[式中、RB1〜RB8は、同じか又は異なり、それぞれ単独でRB1、RB4、RB5及びRB8が水素原子、RB2、RB3、RB6及びRB7が炭素数3〜22の1−アルキルエテニル基であってもよく、RB1とRB2、RB3とRB4、RB5とRB6、RB7とRB8が互いに結合してホウ素原子を有する6員環のヘテロ環を形成してもよい]
で示される2反応点を有する単位(B)
よりなる群から選ばれる少なくとも1種の単位を1個以上(好ましくは1〜3個)有するものである。
【0057】
なお、本明細書では、便宜上「反応点」と表現するが、それぞれの一般式において、3個又は2個有する結合手が、水素原子等の反応性のない原子又は基と直接結合していてもよい。
【0058】
一般式(A)において、RA1〜RA4が単独で存在する場合、RA1及びRA4は水素原子であり、RA2及びRA3は炭素数3〜22の1−アルキルエテニル基である。1−アルキルエテニル基の具体例としては、例えば、1−メチルエテニル基、1−エチルエテニル基、1−プロピルエテニル基(好ましくは1−メチルエテニル基)等が挙げられる。この場合、RA2とRA3は、同じでもよいし、異なっていてもよい。なお、RA1とRA2、RA3とRA4は互いに結合してホウ素原子を有する6員のヘテロ環を形成してもよい。
【0059】
A5〜RA6は、単独で存在する場合、それぞれ水素原子、炭素数1〜20のアルキル基であり、好ましくは水素原子又はメチル基である。この場合、RA5とRA6は、同じでもよいし、異なっていてもよい。なお、RA5〜RA6は、一緒になってオキソ基(=O)を形成していてもよい。
【0060】
このような3反応点を有する単位(A)としては、一般式(A1):
【0061】
【化17】

【0062】
[式中、RA7〜RA10は同じか又は異なり、それぞれ水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基;RA11〜RA12は同じか又は異なり、それぞれ単独で水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基であってもよく、RA11とRA12が一緒になってオキソ基(=O)を形成していてもよい。]
で示される3反応点を有する単位(A1)と、式(A2):
【0063】
【化18】

【0064】
[式中、RA11〜RA12は同じか又は異なり、前記に同じ;RA17〜RA18は同じか又は異なり、それぞれ炭素数1〜20のアルキル基である。]
で示される3反応点を有する単位とがある。
【0065】
一般式(A1)において、RA7〜RA10は、それぞれ水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基であり、好ましくは水素原子又はメチル基である。
【0066】
一般式(A1)において、RA11〜RA12は、単独で存在する場合、それぞれ水素原子、炭素数1〜20のアルキル基であり、好ましくは水素原子又はメチル基である。この場合、RA11とRA12は、同じでもよいし、異なっていてもよい。また、RA11とRA12は一緒になってオキソ基(=O)を形成していてもよい。
【0067】
このような3反応点を有する単位(A1)としては、具体的には、
【0068】
【化19】

【0069】
等が挙げられる。
【0070】
一般式(A2)において、RA11〜RA12は、前記の一般式(A1)と同様である。
【0071】
一般式(A2)において、RA17〜RA18は、それぞれ炭素数1〜20のアルキル基であり、好ましくはメチル基である。
【0072】
このような3反応点を有する単位(A2)としては、具体的には、
【0073】
【化20】

【0074】
等が挙げられる。
【0075】
このような条件を満たす3反応点を有する単位(A)を有する本発明のπ共役有機ホウ素化合物の典型例としては、一般式(A1a):
【0076】
【化21】

【0077】
[式中、RA7〜RA12は同じか又は異なり、前記に同じ;RA13〜RA15は同じか又は異なり、それぞれ水素原子、ハロゲン原子、ボロン酸若しくはそのエステル基、シリル基又はスタンニル基である。]
で示される化合物(A1a)や、一般式(A2a):
【0078】
【化22】

【0079】
[式中、RA11〜RA15及びRA17〜RA18は同じか又は異なり、前記に同じである。]
で示される化合物(A2a)等が挙げられる。
【0080】
一般式(A1a)及び(A2a)において、RA7〜RA12及びRA17〜RA18は前記に同じである。また、RA13〜RA15は、水素原子、ハロゲン原子、ボロン酸若しくはそのエステル基、シリル基又はスタンニル基である。また、RA13〜RA15の少なくとも1つ(特に全て)をハロゲン原子、ボロン酸若しくはそのエステル基、シリル基又はスタンニル基とすれば、鈴木−宮浦カップリング等の有機金属化合物を用いた各種クロスカップリング反応により、容易にπ結合を有する基を導入することができる。つまり、簡便にπ共役系を拡大することができる。なお、RA13〜RA15は、同じでも異なっていてもよい。
【0081】
ここで、ボロン酸又はそのエステル基としては、一般式(5):
【0082】
【化23】

【0083】
[式中、2個のRは同じか又は異なり、それぞれ単独で水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基であってもよく、2個のRが互いに結合して環を形成していてもよい。]
で示される基が挙げられる。
【0084】
上記一般式(5)に示されるボロン酸又はそのエステル基のRは、単独で存在する場合、水素原子又はアルキル基である。このアルキル基の炭素数は、1〜10であり、好ましくは1〜8であり、より好ましくは1〜5である。また、2つのRは同一であっても異なっていてもよい。また、2個のRが、互いに結合してホウ素原子及び酸素原子とともに環を形成してもよい。
【0085】
上記一般式(5)に示されるボロン酸又はそのエステル基としては、具体的には、例えば、以下の式:
【0086】
【化24】

【0087】
等が挙げられる。
【0088】
なお、化合物(A2a)は、化合物(A1a)の製造中間体となり得る化合物である。
【0089】
このような条件を満たす本発明のπ共役有機ホウ素化合物としては、具体的には、
【0090】
【化25】

【0091】
【化26】

【0092】
(Xはいずれもハロゲン原子、ボロン酸若しくはそのエステル基、シリル基又はスタンニル基である)
等が挙げられる。
【0093】
一般式(B)において、RB1〜RB8が単独で存在する場合、RB1、RB4、RB5及びRB8は水素原子であり、RB2、RB3、RB6及びRB7は炭素数3〜22の1−アルキルエテニル基である。1−アルキルエテニル基の具体例としては、例えば、1−メチルエテニル基、1−エチルエテニル基、1−プロピルエテニル基(好ましくは1−メチルエテニル基)等が挙げられる。この場合、RB2、RB3、RB6及びRB7は、同じでもよいし、異なっていてもよい。なお、RB1とRB2、RB3とRB4、RB5とRB6、RB7とRB8は互いに結合してホウ素原子を有する6員のヘテロ環を形成してもよい。
【0094】
このような2反応点を有する単位(B)としては、一般式(B1):
【0095】
【化27】

【0096】
[式中、RB9〜RB16は同じか又は異なり、それぞれ水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基である。]
で示される2反応点を有する単位(B1)と、式(B2):
【0097】
【化28】

【0098】
[式中、RB19〜RB22は同じか又は異なり、それぞれ炭素数1〜20のアルキル基である。]
で示される2反応点を有する単位とがある。
【0099】
一般式(B1)において、RB9〜RB16は、それぞれ水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基であり、好ましくは水素原子又はメチル基である。これらはそれぞれ同じでもよいし、異なっていてもよい。このような2反応点を有する単位(B1)としては、具体的には、
【0100】
【化29】

【0101】
等が挙げられる。
【0102】
一般式(B2)において、RB19〜RA22は、それぞれ炭素数1〜20のアルキル基であり、好ましくはメチル基である。
【0103】
このような2反応点を有する単位(B2)としては、具体的には、
【0104】
【化30】

【0105】
等が挙げられる。
【0106】
このような条件を満たす2反応点を有する単位(B)を有する本発明のπ共役有機ホウ素化合物の典型例としては、一般式(B1a):
【0107】
【化31】

【0108】
[式中、RB9〜RB16は同じか又は異なり、それぞれ水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基;RB17〜RB18は同じか又は異なり、それぞれ水素原子、ハロゲン原子、ボロン酸若しくはそのエステル基、シリル基又はスタンニル基である。]
で示される化合物(B1a)や、一般式(B2a):
【0109】
【化32】

【0110】
[式中、RB17〜RB22は前記に同じである。]
で示される化合物(B2a)等が挙げられる。
【0111】
一般式(B1a)及び(B2a)において、RB9〜RB16及びRB19〜RB22は前記に同じである。また、RB17〜RB18は、それぞれ水素原子、ハロゲン原子、ボロン酸若しくはそのエステル基、シリル基又はスタンニル基である。また、RB17〜RB18の少なくとも1つ(特に全て)をハロゲン原子、ボロン酸若しくはそのエステル基、シリル基又はスタンニル基とすれば、鈴木−宮浦カップリング等の有機金属化合物を用いた各種クロスカップリング反応により、容易にπ結合を有する基を導入することができる。つまり、簡便にπ共役系を拡大することができる。なお、RB17〜RB18は、同じでも異なっていてもよい。
【0112】
なお、化合物(B2a)は、化合物(B1a)の製造中間体となり得る化合物である。
【0113】
このような条件を満たす本発明のπ共役有機ホウ素化合物としては、具体的には、
【0114】
【化33】

【0115】
(Xはいずれもハロゲン原子、ボロン酸若しくはそのエステル基、シリル基又はスタンニル基である)
等が挙げられる。
【0116】
このように、本発明では、3反応点を有する単位(A)及び2反応点を有する単位(B)の少なくとも1種を1つ以上有することにより(特に、3反応点を有する単位(A1)及び2反応点を有する単位(B1)の少なくとも1種を1つ以上有することにより)、ホウ素まわりを強固に平面固定化することができる。このため、求核剤との反応性を低減することができるため、従来よりも高い化学安定性を有するπ共役有機ホウ素化合物が得られる。
【0117】
また、本発明のπ共役有機ホウ素化合物は、ホウ素を骨格に組み込んでおり、電子受容性に富んでいるため、高い電子輸送能と発光性能を有する。このことから、従来の化合物と比較し、高い電子輸送能を長時間にわたって維持することができるため、有機EL、有機薄膜トランジスタ、太陽電池等の用途に有用である。
【0118】
特に、上記の化合物のなかでも、3反応点を有する単位(A)を有する化合物(特に3反応点を有する単位(A1))と比較し、2反応点を有する単位(B)(特に2反応点を有する単位(B1)を有する化合物は、より還元されにくいため、さらに化学的安定性に優れるものである。
【0119】
また、本発明の有機ホウ素化合物には、例えば、末端にハロゲン原子、ボロン酸若しくはそのエステル基、シリル基又はスタンニル基を含ませれば、π結合を有する基を容易に導入することができる。これにより、π共役系を拡大することができ、さらに化学的安定性を向上させることができる。
【0120】
このように、π共役系を拡大した有機ホウ素化合物としては、上述した3反応点を有する単位(A)及び2反応点を有する単位(B)の少なくとも1種を含み、且つ、π結合を有する基を含んでいれば特に制限されない。また、このようなπ共役系を拡大した有機ホウ素化合物において、上述した3反応点を有する単位(A)及び2反応点を有する単位(B)の個数は特に制限はなく、1個以上(特に1〜3個)とすればよく、また、π結合を有する基の個数も特に制限はなく、1個以上(特に1〜3個)とすればよい。
【0121】
π結合を有する基としては、特に制限はなく、例えば、チオフェン骨格(チオフェン、ベンゾチオフェン、ベンゾジチオフェン、チエノチオフェン、ジチエノチオフェン等)を有する基、フルオレン骨格(フルオレン等)を有する基、チアゾール骨格(チアゾール等)を有する基、ピリジン骨格を有する基(ピリジル基等)、オキサジアゾール骨格を有する基(オキサジアゾリル基等)、チアジアゾール骨格を有する基(チアジアゾリル基等)、ベンゾチアジアゾリル骨格を有する基(ベンゾチアジアゾリル基)、アリーレン基(フェニレン基等)を有する基、トリアリールアミン(トリフェニルアミン等)由来の基等が挙げられる。
【0122】
このように、π結合を有する基でπ共役系を拡大したπ共役有機ホウ素化合物としては、様々な化合物が挙げられる。例えば、3反応点を有する単位(A)の1箇所のみにπ結合を有する基を導入する場合には、一般式(C1):
【0123】
【化34】

【0124】
[式中、RC1〜RC12は同じか又は異なり、それぞれ水素原子、炭素数1〜20のアルキル基;RC13〜RC16は同じか又は異なり、それぞれ水素原子、ハロゲン原子、ボロン酸若しくはそのエステル基、シリル基又はスタンニル基;Yはπ結合を有する基である。]
で示されるπ共役有機ホウ素化合物(C1)等が挙げられる。
【0125】
π共役系を拡大した有機ホウ素化合物としては、上記の化合物に限られず、例えば、一般式(C2):
【0126】
【化35】

【0127】
[式中、RC7〜RC12及びYは前記に同じである。]
で示されるように、3反応点を有する単位(A)又は2反応点を有する単位(B)の周囲にπ結合を有する基を複数導入してもよい。また、このπ結合を有する基に、さらに、3反応点を有する単位(A)又は2反応点を有する単位(B)を導入してもよい。
【0128】
また、一般式(C3):
【0129】
【化36】

【0130】
[式中、RC17〜RC34は同じか又は異なり、それぞれ水素原子、炭素数1〜20のアルキル基;RC35〜RC40は同じか又は異なり、それぞれ水素原子、ハロゲン原子、ボロン酸若しくはそのエステル基、シリル基又はスタンニル基;Yはπ結合を有する基である。]
で示されるように、π結合を有する基の周囲に3反応点を有する単位(A)又は2反応点を有する単位(B)を複数導入してもよい。また、この3反応点を有する単位(A)又は2反応点を有する単位(B)に、さらに、π結合を有する基を導入してもよい。
【0131】
2.π共役有機ホウ素化合物の製造方法
<3反応点を有する単位(A)及び/又は2反応点を有する単位(B)を有する化合物>
本発明の3反応点を有する単位(A)を有するπ共役有機ホウ素化合物は、例えば、以下の式:
【0132】
【化37】

【0133】
[式中、X及びXは同じか又は異なり、Xはハロゲン原子;Xは水素原子、ハロゲン原子、ボロン酸若しくはそのエステル基、シリル基又はスタンニル基;MはLi又はMgX(Xはハロゲン原子);RA5〜RA6及びRA17〜RA18は前記に同じである。]
で示される反応のように、一般式(1):
【0134】
【化38】

【0135】
[式中、Xは水素原子、ハロゲン原子、ボロン酸若しくはそのエステル基、シリル基又はスタンニル基;MはLi又はMgX(Xはハロゲン原子);RA17〜RA18は前記に同じである。]
で示される化合物(1)に、
一般式(2):
【0136】
【化39】

【0137】
[式中、RA5〜RA6は前記に同じ;Xはハロゲン原子である。]
で示される化合物(2)を作用させる工程
を備える。
【0138】
この反応で得られる化合物は、3反応点を有する単位(A)を有する本発明のπ共役有機ホウ素化合物である。
【0139】
ここでは、化合物(1)に、化合物(2)を作用させ、ハロゲン−金属交換反応を行う。
【0140】
一般式(1)で示される化合物としては、公知のものを使用してもよいし、合成してもよい。合成する場合は、例えば、以下の式:
【0141】
【化40】

【0142】
[式中、X及びXは同じか又は異なり、Xは水素原子、ハロゲン原子、ボロン酸若しくはそのエステル基、シリル基又はスタンニル基;Xはハロゲン原子;2個のRは同じか又は異なり、それぞれ炭素数1〜20のアルキル基(特にメチル基);RA17〜RA18は同じか又は異なり、それぞれ炭素数1〜20のアルキル基(特にメチル基);MはLi又はMgX(Xはハロゲン原子)である。]
の反応経路により合成することができる。
【0143】
ステップ(1)
【0144】
【化41】

【0145】
[式中、X、X及びRは前記に同じである。]
【0146】
一般式(1a)で示される化合物は、公知の文献(非特許文献2)にしたがって合成すればよい。
【0147】
一般式(1a):
【0148】
【化42】

【0149】
[式中、X及びXは前記に同じである。]
で示される化合物(1a)において、X及びXは、上述のとおり、同じでも異なっていてもよく、Xは水素原子、ハロゲン原子、ボロン酸若しくはそのエステル基、シリル基又はスタンニル基、Xはハロゲン原子である。後述のステップ(4)のことを考慮すると、Xは反応性が低く、Xは反応性が高いことが好ましい。この観点から、XがBrの場合にはXはIであることが好ましい。また、XがClの場合にはXはBr又はIであることが好ましい。なお、Xをトリアルキルシリル基等のシリル置換基とすれば、Xとしては全てのハロゲン原子が使用可能である。
【0150】
このステップ(1)では、上記の一般式(1a)で示される化合物を酸化して一般式(1a−1):
【0151】
【化43】

【0152】
[式中、X及びXは前記に同じである。]
で示される化合物(1a−1)とした後に、アルコール類を用いて、カルボキシル基にエステル化反応を起こさせればよい。
【0153】
一般式(1a)で示される化合物の酸化には、通常の酸化剤を用いればよい。具体的には、過マンガン酸塩(過マンガン酸カリウム等)等が使用できる。
【0154】
その他、溶媒や条件等は、公知のものを採用すればよい。
【0155】
上記の方法により化合物(1a−1)を合成した後、アルコール類(特にメタノール)を用いて、カルボキシル基にエステル化反応を起こさせ、一般式(1b):
【0156】
【化44】

【0157】
[式中、X及びXは前記に同じ;2個のRは同じか又は異なり、それぞれ炭素数1〜20のアルキル基(特にメチル基)である。]
で示される化合物(1b)を合成すればよい。
【0158】
ここで使用できるアルコール類としては、メタノール、エタノール、プロピルアルコール等(特にメタノール等)が好ましく使用される。また、その使用量は特に制限はなく、過剰量とすればよい。
【0159】
さらに、化合物(1b)を得ることができる限り、反応系に他の物質を添加してもよい。例えば、反応を確実に進ませるために、塩化チオニル(SOCl)、塩化スルフリル(SOCl)、三塩化リン(PCl)等の求電子的ハロゲン化剤でカルボン酸ハライドを形成してからアルコール類と反応させることが好ましい。
【0160】
この場合、求電子的ハロゲン化剤の使用量は、化合物(1a−1)1モルに対して、通常、2〜5モル、好ましくは2〜3モル程度とすればよい。
【0161】
エステル化反応の条件には特に限定はない。反応時間は1〜24時間、好ましくは4〜20時間とすることができる。反応温度は、通常還流下にて行われ、例えば、20〜200℃、好ましくは40〜150℃とすることができる。反応雰囲気も特に限定はない。反応雰囲気として具体的には、例えば、空気雰囲気、不活性ガス雰囲気等が挙げられる。
【0162】
ステップ(2)
【0163】
【化45】

【0164】
[式中、X、X、R及びRA17〜RA18は前記に同じである。]
【0165】
ステップ(2)では、ステップ(1)で得られた化合物(1b)をアルキルマグネシウム化合物で還元した後に、ハロゲンを作用させる。
【0166】
アルキルマグネシウム化合物としては、例えば、式:
R’MgX’
[式中、R’は炭素数1〜20のアルキル基;X’はハロゲン原子を示す。]
で表されるアルキルマグネシウム化合物が挙げられる。
【0167】
R’としては、例えば、メチル基が挙げられる。
【0168】
X’は、好ましくは臭素又はヨウ素である。
【0169】
上記のアルキルマグネシウム化合物は、通常、THF等の不活性溶媒中、アルキルハライドとマグネシウム金属(Mg)とを反応させて得られるグリニャール試薬を用いることができ、公知の方法を採用することができる。
【0170】
アルキルマグネシウム化合物の使用量は、化合物(1b)1モルに対して、通常、4〜20モル、好ましくは4〜6モル程度とすればよい。
【0171】
この反応は、通常溶媒中で行われる。溶媒としては、特に制限はなく、公知のものを採用すればよい。
【0172】
この反応の条件としては、反応時間は1〜24時間、好ましくは4〜20時間とすることができる。反応温度は、通常還流下にて行われ、溶媒によって異なるが、例えば、20〜200℃、好ましくは40〜150℃とすることができる。反応雰囲気は特に限定はない。反応雰囲気として具体的には、例えば、空気雰囲気、不活性ガス雰囲気等が挙げられる。化合物(1c)を得ることができる限り、反応系に他の物質を添加してもよい。
【0173】
このようにして、化合物(1b)が還元されるが、化合物(1b)において、X及びXのいずれかが反応性が高いハロゲンの場合、同時に反応してしまう場合もある。このことから、X及びXのいずれかが反応性が高いハロゲン(例えばヨウ素)の場合には、同じハロゲン(例えばヨウ素)を作用させることが好ましい。
【0174】
ステップ(3)
【0175】
【化46】

【0176】
[式中、X〜X及びRA17〜RA18は前記に同じである。]
【0177】
ステップ(3)では、ステップ(2)で得られた化合物(1c)に脱水反応を起こさせる。
【0178】
ステップ(3)では、脱水剤として、p−トルエンスルホン酸、濃硫酸、塩酸等が使用できる。
【0179】
その他、溶媒等は、公知のものを採用すればよい。
【0180】
この反応の条件には特に限定はない。反応時間は0.1〜24時間、好ましくは0.5〜20時間とすることができる。反応温度は、通常還流下にて行われ、溶媒によって異なるが、例えば、20〜200℃、好ましくは40〜150℃とすることができる。反応雰囲気も特に限定はない。反応雰囲気として具体的には、例えば、空気雰囲気、不活性ガス雰囲気等が挙げられる。化合物(1d)を得ることができる限り、反応系に他の物質を添加してもよい。
【0181】
ステップ(4)
【0182】
【化47】

【0183】
[式中、X、X、RA17〜RA18及びMは前記に同じである。]
【0184】
ステップ(4)では、ステップ(3)で得られた化合物(1d)において、有機リチウム化合物又は有機マグネシウム化合物を用いてXをハロゲン−金属交換反応を起こさせる。
【0185】
この際使用できる化合物としては、特に制限はなく、公知のものが採用でき、好ましくは、有機リチウム化合物として、エチルリチウム、n−プロピルリチウム、イソプロピルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウム、ペンチルリチウム、ヘキシルリチウム、シクロヘキシルリチウム、フェニルリチウム等が挙げられる。これらのうち、n−ブチルリチウム等が好ましい。
【0186】
上記有機リチウム化合物又は有機マグネシウム化合物の使用量は、化合物(1d)1モルに対して、1〜1.2モルが好ましく、1〜1.1モルがより好ましい。
【0187】
化合物(2)としては、公知のものを使用すればよい。
【0188】
化合物(2)の使用量は、化合物(1)1モルに対して、0.5〜2モルが好ましく、0.9〜1.1モルがより好ましい。
【0189】
この反応は通常溶媒中で行われる。溶媒としては、非プロトン性溶媒である脂肪族有機溶媒でもよく、芳香族有機溶媒でもよい。脂肪族有機溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン等が挙げられる。芳香族有機溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン等が挙げられる。
【0190】
この反応の条件には特に限定はない。反応時間は1〜24時間、好ましくは4〜20時間とすることができる。反応温度は、溶媒によって異なるが、例えば、−100〜200℃、好ましくは0〜20℃とすることができる。反応雰囲気も特に限定はない。反応雰囲気として具体的には、例えば、空気雰囲気、不活性ガス雰囲気等が挙げられる。目的とする化合物を得ることができる限り、反応系に他の物質を添加してもよい。
【0191】
本発明の2反応点を有する単位(B)を有するπ共役有機ホウ素化合物は、上記の3反応点を有する単位(A)を有するπ共役有機ホウ素化合物と同様に合成することができる。例えば、以下の式:
【0192】
【化48】

【0193】
[式中、X〜Xは同じか又は異なり、Xは水素原子又はハロゲン原子;X〜Xはハロゲン原子;RB19〜RB22は同じか又は異なり、それぞれ炭素数1〜20のアルキル基;MはLi又はMgX(Xはハロゲン原子)である。]
で示される反応のように、一般式(1’):
【0194】
【化49】

【0195】
[式中、X、RB19〜RB22及びMは前記に同じである。]
で示される化合物(1’)に、
一般式(3):
【0196】
【化50】

【0197】
[式中、X〜Xは同じか又は異なり、前記に同じである。]
で示される化合物(3)を作用させる工程
を備える。
【0198】
化合物(1’)は、上述した化合物(1)と同じものを使用することができる。また、化合物(3)としては、公知又は市販のものを使用すればよい。
【0199】
化合物(3)の使用量は、化合物(1’)1モルに対して、0.3〜1.5モルが好ましく、0.45〜0.55モルがより好ましい。
【0200】
この反応は通常溶媒中で行われる。溶媒としては、非プロトン性溶媒である脂肪族有機溶媒でもよく、芳香族有機溶媒でもよい。脂肪族有機溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン等が挙げられる。芳香族有機溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン等が挙げられる。
【0201】
この反応の条件には特に限定はない。反応時間は1〜24時間、好ましくは4〜20時間とすることができる。反応温度は、溶媒によって異なるが、例えば、−100〜200℃、好ましくは0〜20℃とすることができる。反応雰囲気も特に限定はない。反応雰囲気として具体的には、例えば、空気雰囲気、不活性ガス雰囲気等が挙げられる。目的とする化合物を得ることができる限り、反応系に他の物質を添加してもよい。
【0202】
<化合物(A1)及び化合物(B1)>
上記で合成方法を説明した、化合物(A2a−1)と同様に、一般式(A2a):
【0203】
【化51】

【0204】
[式中、RA11〜RA15及びRA17〜RA18は前記に同じである。]
で示される化合物(A2a)を合成することができる。
【0205】
また、この化合物(A2a)は、本発明のπ共役有機ホウ素化合物であるが、同じく本発明のπ共役有機ホウ素化合物である一般式(A1a):
【0206】
【化52】

【0207】
[式中、RA7〜RA15は同じか又は異なり、前記に同じである。]
で示される化合物(A1a)の合成中間体となり得る。
【0208】
上記で合成方法を説明した、化合物(B2a−1)と同様に、一般式(B2a):
【0209】
【化53】

【0210】
[式中、RB17〜RB22は前記に同じである。]
で示される化合物(B2a)を合成することができる。
【0211】
また、この化合物(B2a)は、本発明のπ共役有機ホウ素化合物であるが、同じく本発明のπ共役有機ホウ素化合物である一般式(B1a):
【0212】
【化54】

【0213】
[式中、RB9〜RB16は同じか又は異なり、それぞれ水素原子、炭素数1〜20のアルキル基である;RB17〜RB18は同じか又は異なり、それぞれ水素原子、ハロゲン原子、ボロン酸若しくはそのエステル基、シリル基又はスタンニル基である。]
で示される化合物(B1a)の合成中間体となり得る。
【0214】
以下、化合物(A1a)及び(B1a)の合成方法について、説明する。
【0215】
化合物(A1a)
【0216】
【化55】

【0217】
[式中、RA7〜RA15及びRA17〜RA18は前記に同じである。]
【0218】
ここでは、化合物(A2a)に、ルイス酸触媒を作用させてフリーデルクラフツ反応(Friedel-Crafts reaction)を起こさせ、化合物(A1a)を得ることができる。
【0219】
使用できるルイス酸触媒としては、塩化アルミニウム、塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、トリフルオロボラン・ジエチルエーテル錯体、塩化チタン(IV)、トリフルオロメタンスルホン酸スズ(II)、トリフルオロメタンスルホン酸ビスマス(III)、トリフルオロメタンスルホン酸スカンジウム(III)等が挙げられるが、反応性を考慮すると、トリフルオロメタンスルホン酸スカンジウム(III)が好ましい。
【0220】
ルイス酸触媒の使用量は、化合物(A2a)1モルに対して、0.1〜5モルが好ましく、1.5〜2.5モルがより好ましい。
【0221】
この反応は通常溶媒中で行われる。溶媒としては、非極性溶媒が好ましく、塩化メチレン、1,2−ジクロロエチレン等のハロゲン系溶媒や、ベンゼン、トルエン等の芳香族溶媒等が用いられる。
【0222】
この反応の条件には特に限定はない。反応時間は1〜24時間、好ましくは4〜20時間とすることができる。反応温度は、溶媒によって異なるが、例えば、−80〜200℃、好ましくは20〜100℃とすることができる。反応雰囲気も特に限定はない。反応雰囲気として具体的には、例えば、空気雰囲気、不活性ガス雰囲気等が挙げられる。目的とする化合物を得ることができる限り、反応系に他の物質を添加してもよい。
【0223】
化合物(B1a)
【0224】
【化56】

【0225】
[式中、RB9〜RB22は前記に同じである。]
【0226】
ここでも、化合物(A2a)から化合物(A1a)の反応と同様に、ルイス酸触媒を作用させてフリーデルクラフツ反応(Friedel-Crafts reaction)を起こさせ、化合物(B1a)を得ることができる。
【0227】
使用できるルイス酸触媒としては、前記したものが挙げられる。
【0228】
ルイス酸触媒の使用量は、化合物(B2a)1モルに対して、0.5〜8モルが好ましく、3.5〜4.5モルがより好ましい。
【0229】
この反応は通常溶媒中で行われる。溶媒としては、非極性溶媒が好ましく、塩化メチレン、1,2−ジクロロエチレン等のハロゲン系溶媒や、ベンゼン、トルエン等の芳香族溶媒等が用いられる。
【0230】
この反応の条件には特に限定はない。反応時間は1〜24時間、好ましくは4〜20時間とすることができる。反応温度は、溶媒によって異なるが、例えば、−80〜200℃、好ましくは20〜100℃とすることができる。反応雰囲気も特に限定はない。反応雰囲気として具体的には、例えば、空気雰囲気、不活性ガス雰囲気等が挙げられる。目的とする化合物を得ることができる限り、反応系に他の物質を添加してもよい。
【0231】
<化合物(C1)>
上記のようにして得られた、本発明のπ共役有機ホウ素化合物に、π結合を有する基を導入すれば、π共役系をより拡大することができる。ここでは、このようなπ共役系を拡大した化合物のうち、典型例として、一般式(C1):
【0232】
【化57】

【0233】
[式中、RC1〜RC12は同じか又は異なり、それぞれ水素原子、炭素数1〜20のアルキル基;RC13〜RC16は同じか又は異なり、それぞれ水素原子、ハロゲン原子、ボロン酸若しくはそのエステル基、シリル基又はスタンニル基;Yはπ結合を有する基である。]
で示されるπ共役有機ホウ素化合物(C1)を、一般式(A1a−1):
【0234】
【化58】

【0235】
[式中、RA7〜RA12は同じか又は異なり、それぞれ水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基;RA16はハロゲン原子である。]
で示される化合物(A1a−1)を用いて合成する方法を説明する。
【0236】
ここでは、化合物(A1a−1)と、有機金属化合物とを、鈴木−宮浦カップリングに代表されるクロスカップリング反応により、π共役有機ホウ素化合物(C1)が得られる。
【0237】
ここで使用できる有機金属化合物としては、例えば、有機ホウ素化合物、有機マグネシウム化合物、有機スズ化合物、有機亜鉛化合物、有機ケイ素化合物等が挙げられる。
【0238】
具体的には、一般式(4):
Z−Y−Z
[式中、Yはπ結合を有する基;2個のZは同じか又は異なり、それぞれ一般式(5):
【0239】
【化59】

【0240】
(2個のRは同じか又は異なり、それぞれ単独で水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基であってもよく、2個のRが互いに結合して環を形成していてもよい。)
で示される基、−MgX(Xはハロゲン原子)、−SnR(Rはアルキル基)、−ZnX(Xはハロゲン原子)、−SiR3−n(Rはアルキル基、Xはハロゲン原子、nは0〜3の整数)である。]
で示される化合物等が挙げられる。
【0241】
ここでは、有機金属化合物の使用量は、化合物(A1a−1)1モルに対して、0.3〜0.6モルが好ましく、0.45〜0.5モルがより好ましい。
【0242】
反応は、通常、触媒の存在下で行われ、好ましくはパラジウム錯体が使用される。このパラジウム錯体としては、式:
【0243】
【化60】

【0244】
[式中、XPhosは2−ジシクロヘキシルホスフィノ−2’,4’,6’−トリイソプロピルビフェニルである。]
で示されるものが好ましい。
【0245】
パラジウム錯体の使用量は、化合物(A1a−1)1モルに対して、0.01〜0.5モルが好ましく、0.02〜0.1モルがより好ましい。
【0246】
この反応では、パラジウム錯体とともに、配位子を使用してもよい。配位子を使用する場合には、Pd(PPh3)4, PdCl2(PPh3)2や、Pd2(dba)3とPPh3, P(o-tolyl)3, P(t-Bu)3, XPhos, SPhos等の配位子を合わせて用いればよい。
【0247】
また、上記パラジウム錯体に加えて、必要に応じて、塩基(ホウ素原子の活性化剤)を使用してもよい。この塩基は、クロスカップリング反応において、ホウ素原子上にアート錯体を形成し得る化合物であれば特に限定はされない。具体的には、フッ化カリウム、フッ化セシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシド、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウム、リン酸カリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム等が挙げられる。これらのうち、好ましくは、フッ化セシウム、炭酸セシウム及びリン酸カリウムである。
【0248】
上記で説明したのはあくまで典型例であり、同様の方法で、原料等を適宜変えることにより、π共役系を拡大した様々な化合物を合成することができる。
【実施例】
【0249】
以下、本発明について、実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら制約されるものではない。
【0250】
本実施例において、融点は、ヤナコ機器製微量融点測定装置を用いて測定した。1H、11B、13C NMRスペクトルは、JEOL AL-400(1H:400 MHz、13C:100 MHz、11B:128MHz)を用いて測定した。化学シフトはppmで表記し、1H、13C NMR測定時は内部標準に重溶媒中の残存溶媒を用い、11B NMR測定時はBF・OEt(Et:エチル基;0ppm)を外部標準に用いた。質量分析は日本電子のBruker micrOTOF Focusを用いて測定した。紫外可視吸収スペクトルは島津UV-3150を、蛍光スペクトルは日立F-4500を、絶対量子収率は浜松ホトニクスC9920-02システムを用いて測定した。カラムクロマトグラフィーは、富士シリシアPSQ 100Bを用いて行った。反応は、特に記述がない限り乾燥させた容器、脱水溶媒を用いてAr雰囲気下で行った。光物性測定に用いたTHFはナカライテスク製の溶媒をArバブリングして用いた。Pd触媒を用いた反応には上記の脱水溶媒を30分以上Arバブリングして用いた。4−ブロモ−2,6−ジメチルヨードベンゼン:
【0251】
【化61】

【0252】
の合成については、文献に従って合成した(非特許文献2)。
【0253】
平面固定ボラン部位をπ電子系に組み込むために、メタル化、カップリング等による構造修飾を行うための官能基を有する誘導体を合成する必要がある。そのような鍵前駆体として、実施例1では、臭素原子を有するモノブロモ平面固定ボラン:
【0254】
【化62】

【0255】
を、4−ブロモ−2,6−ジメチルアニリン:
【0256】
【化63】

【0257】
から出発して合成した。
【0258】
[合成例1:4−ブロモ−2,6−ジメチルヨードベンゼン]
【0259】
【化64】

【0260】
アセトニトリル中0℃で亜硝酸ナトリウムと塩酸を用いて4−ブロモ−2,6−ジメチルアニリンをジアゾ化し、ヨウ化カリウムを加えることでアミノ基をヨウ素に変換して、4−ブロモ−2,6−ジメチルヨードベンゼンを収率96%で得た。この方法は、文献(非特許文献2)記載の公知の方法である。
【0261】
[合成例2:5−ブロモ−2−ヨード−1,3−ベンゼンジカルボン酸ジメチル]
【0262】
【化65】

【0263】
合成例1で得た4−ブロモ−2,6−ジメチルヨードベンゼンのメチル基を過マンガン酸カリウムで酸化し、ジカルボン酸を得た後、メタノール中で塩化チオニルを作用させてジカルボン酸ジメチル体を収率77%で得た。具体的には、以下のとおりである。
【0264】
4−ブロモ−2,6−ジメチルヨードベンゼン(37.7g、121mmol)のt−ブタノール/水(体積比で1:1)懸濁液(410mL)に過マンガン酸カリウム(99.6g、630mmol)とセライト(登録商標)(約80g)を加え、16.5時間加熱還流した。沈殿物をろ別してメタノールで洗浄し、ろ液は減圧下溶媒を留去して約3分の1に濃縮した。これに濃塩酸100mLを加え、生じた白色沈殿を吸引ろ過し、乾燥させて5−ブロモ−2−ヨード−1,3−ベンゼンジカルボン酸:
【0265】
【化66】

【0266】
の粗生成物を白色固体として得た(38.6g)。
1H NMR (270 MHz, DMSO-d6) δ 7.78 (s, 2H).
【0267】
これ以上精製せずに次の合成に用いた。この白色固体にメタノール(192mL)を加え、0℃で塩化チオニル(SOCl、23mL、315mmol)を15分かけて滴下した後、加熱還流下で12時間撹拌した。室温まで放冷した後、水125mLを加えてジクロロメタンで3回抽出し、有機相を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液と飽和食塩水で洗浄して無水硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムをろ別し、減圧下溶媒を留去して得られた白色固体をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、酢酸エチル)により精製することで、37.2g(93mmol)の5−ブロモ−2−ヨード−1,3−ベンゼンジカルボン酸ジメチル:
【0268】
【化67】

【0269】
を白色固体として収率77%で得た。
5−ブロモ−2−ヨード−1,3−ベンゼンジカルボン酸ジメチル:融点86〜87℃; 1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 7.75 (s, 2H), 3.96 (s, 6H); 13C{H} NMR (100 MHz, CDCl3) δ166.62, 141.95, 134.20, 122.12, 90.09, 53.04; HRMS (APCI, positive) calcd for C10H8BrIO4m/z 397.8651, found: 397.8654.
【0270】
[合成例3:4−ブロモ−2,6−ジ(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ヨードベンゼン]
【0271】
【化68】

【0272】
合成例2で得た5−ブロモ−2−ヨード−1,3−ベンゼンジカルボン酸ジメチル1モルに対して5.5モルのヨウ化メチルマグネシウムを作用させることでジヒドロキシ体を収率24%で得た。具体的には、以下のとおりである。
【0273】
削状マグネシウム(3.95g、162mmol)を少量のジエチルエーテルに浸し、そこへヨードメタン(13.5mL、217mmol)のジエチルエーテル溶液(137mL)を室温で1.5時間かけて滴下し、加熱還流下で1時間撹拌した。合成例2で得た5−ブロモ−2−ヨード−1,3−ベンゼンジカルボン酸ジメチル(15.9g、39.7mmol)のTHF溶液(114mL)を室温で1時間かけて滴下し、加熱還流下で15.5時間撹拌すると溶液は橙色から褐色に変わり、白色固体が沈殿した。ヨウ素(約10g、約39mmol)とTHF(30mL)を加えて室温まで放冷しながら3時間撹拌した。飽和塩化アンモニウム水溶液と飽和亜硫酸ナトリウム水溶液を加え、有機相と水相に分離した。水相をジクロロメタンで抽出して有機相に加え、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムをろ別し、減圧下溶媒を留去して得られた褐色液体をジクロロメタンからの再結晶により精製することで、3.84g(9.63mmol)の4−ブロモ−2,6−ジ(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ヨードベンゼン:
【0274】
【化69】

【0275】
を白色固体として収率24%で得た。
【0276】
この反応では、目的とするグリニャール試薬のエステル基への求核攻撃とともに、1位のヨウ素原子とグリニャール試薬とのハロゲン−金属交換反応が競争して起こったため、単体ヨウ素を用いて1位を再びヨウ素化することを試みた。
4−ブロモ−2,6−ジ(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ヨードベンゼン:融点147〜148℃; 1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 7.72 (s, 2H), 1.84 (s, 12H); 13C{H} NMR (100 MHz, CDCl3) δ152.08, 129.38, 123.24, 92.20, 75.25, 30.63; HRMS (APCI, positive) calcd for C12H16BrIO2m/z 397.9378, found: 397.9366.
【0277】
[合成例4:4−ブロモ−2,6−ジイソプロピルフェニルヨードベンゼン]
【0278】
【化70】

【0279】
次に、4−ブロモ−2,6−ジ(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ヨードベンゼンをp−トルエンスルホン酸一水和物を用いて脱水することで、オレフィン体を収率97%で得た。具体的には、以下のとおりである。
【0280】
この実験は空気下で行った。合成例3で得た4−ブロモ−2,6−ジ(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ヨードベンゼン(3.84g、9.63mmol)とp−トルエンスルホン酸一水和物(0.372g、1.95mmol)をトルエン(50mL)に溶解させ、加熱還流下で1時間撹拌した。室温まで放冷した後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加え、有機相と水相に分離した。水相をジエチルエーテルで3回抽出して有機相に加え、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムをろ別し、減圧下溶媒を留去して得られた橙褐色液体をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、ヘキサン)により精製することで、3.39g(9.33mmol)の4−ブロモ−2,6−ジイソプロピルフェニルヨードベンゼン:
【0281】
【化71】

【0282】
を白色固体として収率97%で得た。
4−ブロモ−2,6−ジイソプロピルフェニルヨードベンゼン:融点47〜48℃; 1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 7.19 (s, 2H), 5.23 (s, 2H), 4.90 (s, 2H), 2.06 (s, 6H); 13C{H} NMR (100 MHz, CDCl3) δ 151.51, 148.17, 129.31, 122.00, 116.48, 98.08, 23.83; HRMS (APCI, positive) calcd for C12H12BrI m/z 361.9167, found: 361.9168.
【0283】
[実施例1:9−(4−ブロモ−2,6−ジイソプロピルフェニル)−9,10−ジヒドロ−9−ボラアントラセン]
【0284】
【化72】

【0285】
さらに、合成例4で得た4−ブロモ−2,6−ジイソプロピルフェニルヨードベンゼン1モルに対して、n−ブチルリチウムを1モル作用させて1位をモノリチオ化し、続いて、原料1モルに対して1モルのホウ素試薬(9−ブロモ−9,10−ジヒドロ−9−ボラアントラセン)を作用させることで、9−(4−ブロモ−2,6−ジイソプロピルフェニル)−9,10−ジヒドロ−9−ボラアントラセンを収率77%で得た。具体的には、以下のとおりである。
【0286】
合成例4で得た4−ブロモ−2,6−ジイソプロピルフェニルヨードベンゼン(3.34g、9.20mmol)のトルエン溶液(48mL)にn−ブチルリチウム−ペンタン溶液(6.0mL、9.60mmol)を0℃で10分かけて滴下した。ゆっくりと室温まで昇温し6時間撹拌すると、黄色溶液から橙色懸濁液、そして黄色懸濁液に変化した。そこへ9−ブロモ−9,10−ジヒドロ−9−ボラアントラセン:
【0287】
【化73】

【0288】
のトルエン溶液(30mL)を0℃で滴下し、室温まで昇温して4.5時間撹拌すると白濁した。飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加え、有機相と水相に分離した。水相をジエチルエーテルで3回抽出し、有機相と合わせて無水硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムをろ別し、減圧下溶媒を留去して得られた黄色固体をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、ヘキサン:ジクロロメタン=体積比で4:1)により精製することで、2.94g(7.12mmol)の9−(4−ブロモ−2,6−ジイソプロピルフェニル)−9,10−ジヒドロ−9−ボラアントラセン:
【0289】
【化74】

【0290】
を白色固体として収率77%で得た。
9−(4−ブロモ−2,6−ジイソプロピルフェニル)−9,10−ジヒドロ−9−ボラアントラセン:融点167〜168℃; 1H NMR (400 MHz, CD2Cl2) δ7.60 (d, JHH = 7.59 Hz, 2H), 7.50 (m, 6H), 7.26 (m, 2H), 4.64 (s, 2H), 4.50 (s, 2H), 4.44 (s, 2H), 1.89 (s, 6H); 11B NMR (128 MHz, CD2Cl2) δ59.11; 13C{H} NMR (100 MHz, CD2Cl2) δ 149.07, 146.85, 146.76, 137.15, 132.13, 128.50, 128.38, 125.84, 121.61, 117.77, 38.44, 24.05; HRMS (APCI, positive) calcd for C25H22BBr m/z 412.0998, found: 412.1001.
【0291】
[実施例2:モノブロモ平面固定ボラン]
【0292】
【化75】

【0293】
実施例1で得た9−(4−ブロモ−2,6−ジイソプロピルフェニル)−9,10−ジヒドロ−9−ボラアントラセンにルイス酸触媒としてトリフルオロメタンスルホン酸スカンジウム(III)を1,2−ジクロロエタン中加熱還流下で作用させることで、分子内フリーデル−クラフツ反応が進行し、目的とするモノブロモ平面ボランを収率58%で得ることができた。具体的には、以下のとおりである。
【0294】
実施例1で得た9−(4−ブロモ−2,6−ジイソプロピルフェニル)−9,10−ジヒドロ−9−ボラアントラセン(1.01g、2.43mmol)とトリフルオロメタンスルホン酸スカンジウム(III)(2.38g、4.84mmol)に1,2−ジクロロエタン(600mL)を加え、加熱還流下で54時間撹拌した。室温まで放冷したのち、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて有機相と水相に分離し、水相をジクロロメタンで抽出して有機相と合わせて無水硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムをろ別し、減圧下溶媒を留去して得られた黄褐色の固体をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、ヘキサン:ジクロロメタン=4:1(体積比))により精製することで、585.5mg(1.42mmol)のモノブロモ平面ボラン:
【0295】
【化76】

【0296】
を白色固体として収率58%で得た。
モノブロモ平面固定ボラン:融点234〜235℃; 1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 7.80 (s, 2H), 7.68 (m, 4H), 7.43 (d, JHH = 6.79 Hz, 2H), 4.59 (s, 2H), 1.78 (s, 12H); 11B NMR (128 MHz, CDCl3) δ 45.06; 13C{H} NMR (100 MHz, CDCl3) δ 158.21, 155.67, 146.15, 132.56, 128.36, 127.58, 125.24, 123.89, 42.94, 37.36, 34.29, 2; HRMS (APCI, positive) calcd for C25H2211BBr m/z 412.0998, found: 412.1002.
【0297】
後述の試験例に示されるように、この化合物はかさ高い置換基による立体保護がないにもかかわらず、空気中で扱うことが可能であり、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製できるほどの安定性を示した。
【0298】
また、この化合物は、ルイス塩基アミンである
【0299】
【化77】

【0300】
と反応しなかった。
【0301】
[実施例3:平面固定ボラン置換チオフェン]
【0302】
【化78】

【0303】
平面固定ボラン置換チオフェンは、実施例2で得たモノブロモ平面固定ボランと2,5−チオフェンジボロン酸との鈴木−宮浦クロスカップリングにより合成した。
【0304】
ここでは、2010年にBuchwaldらによって報告されたPd錯体:
【0305】
【化79】

【0306】
[式中、XPhosは2−ジシクロヘキシルホスフィノ−2’,4’,6’−トリイソプロピルビフェニルである。]
を触媒として用いる検討を行った。このPd錯体は、開始反応が速く、アリールボロン酸のトランスメタル化を促進して、室温〜40℃程度という穏和な条件で反応を進行させることができるため、ペルフルオロフェニルボロン酸、ヘテロアリールボロン酸等のカップリング条件下で不安定なボロン酸を使う場合に有効であるとされている(非特許文献3)。このPd錯体を用いて、チオフェンジボロン酸1モルに対して2モルのモノブロモ平面固定ボランをTHF/KPO水溶液中40℃で反応させると、カップリング反応が進行し、目的化合物:
【0307】
【化80】

【0308】
の生成が確認された。反応混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製することで、平面ボラン置換チオフェンを黄色固体として収率57%で得ることに成功した。具体的には、以下のとおりである。
【0309】
実施例2で得たモノブロモ平面固定ボラン(417.8mg、1.01mmol)、2,5−チオフェンジボロン酸:
【0310】
【化81】

【0311】
(87.0mg、0.506mmol)、Pd錯体:
【0312】
【化82】

【0313】
[式中、XPhosは2−ジシクロヘキシルホスフィノ−2’,4’,6’−トリイソプロピルビフェニルである。]
(43.1mg、54.8μmol)にTHF(1mL)、リン酸三カリウム(214.8mg、1.01mmol)の水溶液(2mL)を加えて加熱還流下で3時間撹拌した後、40℃で23.5時間撹拌した。途中、2,5−チオフェンジボロン酸(43.7mg、0.254mmol)のTHF溶液(0.5mL)を2回に分けて追加した。室温まで放冷した後、有機相と水相を分離した。水相をジクロロメタンで3回抽出し、有機相と合わせて無水硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムをろ別し、減圧下溶媒を留去して得られた黄色固体をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、ヘキサン:クロロホルム=7:3(体積比))により精製することで、216.5mg(0.289mmol)の平面固定ボラン置換チオフェンを黄色固体として収率57%で得た。
平面固定ボラン置換チオフェン:融点137〜138℃(分解); 1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 7.98 (s, 4H), 7.68 (m, 8H), 7.59 (s, 2H), 7.45 (d, JHH= 6.8 Hz, 4H), 4.62 (s, 4H), 1.90 (s, 24H); 11B NMR (128 MHz, CDCl3) δ 45.97; 13C{H} NMR (100 MHz, CDCl3) δ 157.21, 156.34, 146.26, 145.53, 138.33, 132.53, 125.35, 125.07, 124.14, 121.88, 43.20, 37.59, 34.69; HRMS (APCI, positive) calcd for C54H4711B2S [M+H]+ m/z 749.3596, found: 746.3592.
【0314】
[比較例1:.参照化合物]
【0315】
【化83】

【0316】
実施例3で得た平面固定ボラン置換チオフェンのホウ素置換基の物性に及ぼす効果について調べるために、中心骨格となる2,5−ビス(3,5−ジメチルフェニル)チオフェンを参照化合物として、1−ブロモ−3,5−ジメチルベンゼンと2,5−チオフェンジボロン酸との鈴木−宮浦クロスカップリング反応により合成した。具体的には、以下のとおりである。
【0317】
2,5−チオフェンジボロン酸(171.2mg、0.997mmol)、Pd錯体:
【0318】
【化84】

【0319】
[式中、XPhosは2−ジシクロヘキシルホスフィノ−2’,4’,6’−トリイソプロピルビフェニルである。]
(46.7mg、59.4μmol)、1−ブロモ−3,5−ジメチルベンゼン:
【0320】
【化85】

【0321】
(373.4mg、2.02mmol)のTHF溶液(2mL)にリン酸三カリウム(419.7mg、1.99mmol)の水溶液(4mL)を加え、室温で21時間撹拌した。有機相と水相に分離し、水相をジエチルエーテルで3回抽出して有機相と合わせて無水硫酸マグネシウムで乾燥した。硫酸マグネシウムをろ別し、減圧下溶媒を留去して得られた褐色固体をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、ヘキサン)により精製することで、100.9mg(0.345mmol)の2,5−ビス(3,5−ジメチルフェニル)チオフェン:
【0322】
【化86】

【0323】
を白色固体として収率35%で得た。
2,5−ビス(3,5−ジメチルフェニル)チオフェン:融点106〜107℃; 1H NMR (400 MHz, アセトン−d6) δ 7.41 (s, 2H), 7.32 (s, 4H), 6.96 (s, 2H), 2.34 (s, 12H); 13C{H} NMR (100 MHz, アセトン−d6) δ144.32, 139.50, 135.15, 130.21, 125.09, 124.20, 21.44; HRMS (APCI, positive) calcd for C20H21S [M+H]+m/z 293.1358, found: 293.1310.
【0324】
[試験例1:光物性]
実施例3で得た平面固定ボラン置換チオフェンについて、THF溶液中の紫外可視吸光スペクトル、蛍光スペクトル、絶対蛍光量子収率の測定を行った。また、平面固定ホウ素をπ共役骨格に組み込んだ効果について考察するために、比較例1で得た参照化合物についても同様の測定を行った。結果を表1及び図1に示す。なお、図1において、14は実施例3で得た平面固定ボラン置換チオフェン、26は比較例1で得た参照化合物を示す。
【0325】
【表1】

【0326】
実施例3で得た平面固定ボラン置換チオフェンは391nm(ε=5.64×104-1cm-1)に吸収極大を示し、また、441nmを極大波長として、青色の強い蛍光(ΦF=0.92)を示した。一方、比較例1で得た参照化合物は吸収極大波長330nm(ε=2.81×104-1cm-1)の吸収と、極大波長395nm(ΦF=0.17)の弱い蛍光を示した。実施例3で得た平面固定ボラン置換チオフェン、比較例1で得た参照化合物の吸収及び蛍光スペクトルの形状がおおむね一致していることから、これらは同様の遷移に由来するものであると考えられる。これらの結果から、ジフェニルチオフェンというπ共役骨格に平面固定ボラン部位を導入することで、π共役系が効果的に拡張され、より長波長に吸収および蛍光スペクトルが観測されることがわかった。また、実施例3で得た平面固定ボラン置換チオフェンに比べ、比較例1で得た参照化合物ではモル吸光係数ε及び絶対蛍光量子収率ΦFの著しい増大が見られ、基底状態−励起状態間の遷移確率、失活経路等が異なることが示唆された。
【0327】
[試験例2:X線結晶構造解析]
強度データは、Rigaku Single Crystal CCD X線回折装置(Saturn 70 with MicroMax-007, Mo Kα照射(λ=0.71070Å), Vari Max)を用いて123Kで得た。
【0328】
比較例1で得た参照化合物の結晶は、シクロヘキサンからの再結晶により得た。構造は直接法 F2 (SHELXS-97(非特許文献4))により解き、full-matrix least-squares on F2 (SHELXS-97)により最適化した。水素原子以外は異方的に最適化し、水素原子はAFIX instructionsを用いて配置した。結晶データ:C20H20S; FW = 292.42, Orthorhombic, Pbca, a = 13.665(15) Å, b= 16.268(12) Å, c = 14.394(11) Å, V= 3200(5) Å3, Z= 8, Dc = 1.214 g/cm3, F(000) = 1248, Reflections collected = 19484, Independent reflections = 2772 [R(int) = 0.0310], GOF = 1.192, R1 [I>2σ(I)] = 0.0398, wR2(all data) = 0.1611.
【0329】
比較例1で得た参照化合物のX線結晶構造を図2に示す。
【0330】
実施例3で得た平面固定ボラン置換チオフェンの結晶はクロロホルム/ヘキサンの蒸気拡散法による再結晶で得た。構造は直接法 F2 (SHELXS-97(非特許文献4))により解き、full-matrix least-squares on F2 (SHELXS-97)により最適化した。結晶格子中に含まれる溶媒分子に由来する複雑に分散して観測された電子密度は、PLATONのSQUEESEプログラムを用いて除いた(非特許文献5〜6)。水素原子以外に関しては電子密度の異方性に対してISOR 0.001、SIMU 0.005の制限をかけて最適化した。水素原子はAFIX instructionsを用いて配置した。結晶データ:C54H46B3S; FW = 748.59, Monoclinic, P21, a = 14.544(11) Å, b= 26.440(19) Å, c = 25.33(3) Å, β = 93.68(2)°, V = 9719(16) Å3, Z = 8, Dc = 1.023 g/cm3, F(000) = 3168, Reflections collected = 64636, Independent reflections = 25657 [R(int) = 0.0480], GOF = 1.195, R1 [I>2σ(I)] = 0.1110, wR2(all data) = 0.3099.
【0331】
結果を表2及び図3に示す。
【0332】
【表2】

【0333】
実施例3で得た平面固定ボラン置換チオフェンの結晶構造では、単位格子中に結晶学的に独立な四分子が存在していた。それらは、平面ボラン部位とチオフェンとが成す二面角α及びβが異なる値をとっていた。
【0334】
平面固定ボラン部位に注目してみると、C−B結合距離にもこの骨格の特徴が見られた。結果を表3に示す。なお、表3において、平面固定ボランとは、式:
【0335】
【化87】

【0336】
で示される化合物のことであり、合成例1〜実施例2までの経路と同様の経路により合成することができる。また、MesBとは、式:
【0337】
【化88】

【0338】
で示される化合物のことである。
【0339】
【表3】

【0340】
表3から、MesBにおけるC−B結合距離(非特許文献1)に比べて、実施例3で得た平面固定ボラン置換チオフェンでは明らかに短くなっていた。この傾向は平面固定ボランにおいても見られることから、ホウ素上の三つのアリール基をメチレン基で架橋することによってC−B結合が短くなったと考えられる。
【0341】
さらに、パッキング構造を図4に示す。
【0342】
結晶構造中には直径約1〜1.4nmの空隙が存在し、中には溶媒分子を取り込んでいた。実施例3で得た平面固定ボラン置換チオフェンの平面ボラン部位はメチレン基に結合した二つのメチル基の立体障害のために効果的なπ−πスタッキングを形成できないと考えられる。そこで、平面ボラン部位同士はCH…π相互作用により凝集し、生じた空隙を溶媒分子で埋めることで、このような複雑な結晶構造を形成したと考えられる。
【0343】
[試験例3:理論計算]
実施例3で得た平面ボラン置換チオフェンと比較例1で得た参照化合物の紫外可視吸光スペクトル及び蛍光スペクトルの違いを考察するために、分子軌道計算による構造最適化及びTD-DFT計算を行った。結果を図5に示す。
【0344】
この結果から、実施例3で得た平面ボラン置換チオフェンと比較例1で得た参照化合物それぞれの吸収はともに分子全体に広がったHOMOからLUMOへの遷移に帰属されるものであることがわかった。ホウ素部位を導入したことで、HOMOには顕著な違いがみられないものの、p−π*共役によってLUMOのエネルギー準位が大きく低下しており、HOMO−LUMOギャップが縮められていることがわかった。このことは、実施例3で得た平面ボラン置換チオフェンの吸収及び蛍光スペクトルが、比較例1で得た参照化合物と比べて長波長シフトしていたことと一致している。また、振動子強度fについて比較例1で得た参照化合物ではf = 0.9014であるのに対し、実施例3で得た平面ボラン置換チオフェンではf = 1.4719に達することからモル吸光係数εの増大という実験事実とも一致する。
【0345】
[実施例4:9,10−ビス[2,6−(プロパ−1−エン−2−イル)フェニル]−9,10−ジボラアントラセン(10)]
【0346】
【化89】

【0347】
2,6−ジイソプロピルフェニルヨードベンゼン(S3; 244.8 mg, 1.03 mmol)のトルエン溶液(5 mL)にn-ブチルリチウム(1.6 M ヘキサン溶液, 0.80 mL, 1.09 mmol)を0℃で滴下しながら加えた。室温で6.5時間撹拌した後、9,10−ジボラアントラセン(9;174.3 mg, 0.52 mmol)のトルエン溶液(5 mL)を加えた。反応混合物を室温で12時間撹拌した。反応混合物に水を加え、ジクロロメタンで抽出を行った。得られた有機相を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、ろ過し、そのろ液を減圧濃縮した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより分離を行い(ジクロロメタン/ヘキサン = 1/5, Rf =0.35)、148.3 mg (0.30 mmol)の目的物10を無色固体として収率58%で得た。
融点:255.0-256.0℃. 1H NMR (400 MHz, CD2Cl2) δ (7.53-7.50, m, 4H), 7.44-7.42 (m, 2H), 7.40-7.36 (m, 6H), 4,61 (d, JHH = 1.6 Hz, 2H), 4,60 (d, JHH = 7.6 Hz, 2H), 1.96 (s, 2H); 13CNMR δ (148.5, 147.0, 137.4, 131.7, 127.5, 125.6, 116.5, 24.2; 11BNMR (128 MHz, CD2Cl2) δ 61.7 ppm (h1/2= 1000 Hz). HRMS cald for C36H34B2, 488.2847, found. 488.2863.
【0348】
[実施例5:平面9,10−ジフェニル−9,10−ジヒドロ−9,10−ジボラアントラセン(4)]
【0349】
【化90】

【0350】
Sc(OTf)3 (528.3 mg, 1.07 mmol)と9,10−ビス[2,6−(プロパ−1−エン−2−イル)フェニル]−9,10−ジボラアントラセン(10)(111 mg, 0.27 mmol)の混合物に1,2−ジクロロエタン(100 mL)を加え、24時間環流した。反応混合物に水30 mLを加え、ジクロロメタンを用いて抽出を行った。得られた有機相を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、ろ過し、そのろ液を減圧濃縮した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより分離を行い(ジクロロメタン/ヘキサン = 1/5, Rf =0.40)、28 mg (0.068 mmol)の目的物4を無色固体として収率25%で得た。
融点 > 300 °C; 1H NMR (300 MHz, CDCl3) δ 7.99 (s, 4H), 7.76 (q, 2H, JHH = 7.76 Hz), 7.72 (t, 4H, JHH = 7.76 Hz), 1.83(s, 24); 13C NMR (75 MHz, CDCl3) δ 156.7, 154.2, 132.8, 131.3, 124.2, 42.5, 33.4; 11BNMR (128 MHz, CDCl3) δ 48.4 ppm (h1/2= 1000 Hz); HRMS cald for C36H34B2, 488.2847, found. 488.2852. Anal. Calcd for C36H42B2: C, 88.55; H, 7.02. Found: C, 88.30; H, 7.02.
【0351】
[実施例6:カルボニル架橋平面トリフェニルボラン(8)]
【0352】
【化91】

【0353】
化合物7(40.7 mg, 0.122 mmol)の酢酸溶液(10 mL)にCrO3(18.3 mg, 0.180 mmol)を加え、1時間加熱環流した。反応混合物に水を加え、ジクロロメタンを用いて抽出を行った。得られた有機相を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、ろ過し、そのろ液を減圧濃縮した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより分離を行い(ジクロロメタン/ヘキサン = 1/1, Rf=0.30)、27.7 mg(0.078 mmol)の目的物8を無色固体として収率65%で得た。
融点:289-290 ℃. 1H NMR (300 MHz, CDCl3) δ 8.28 (dd, 2H, JHH = 7.5 Hz, 0.9 Hz), 7.97 (dd, 2H, JHH = 7.5 Hz, 0.9 Hz), 7.80 (t, 3H, JHH = 7.5 Hz), 7.69 (d, 2H, JHH = 7.5 Hz),1.81 (s, 12H); 13C NMR (75 MHz, CDCl3) δ 189.3, 156.5, 156.0, 138.2, 134.2, 133.5, 132.9 (br), 131.4, 128.7 (br), 125.6, 124.3, 43.0, 33.5 ppm; 11BNMR (128 MHz, CDCl3) δ 45.3 ppm (h1/2= 770 Hz). HRMS cald for C25H21BO, 348.1685 found, 348.1670.
【0354】
[実施例7:平面固定トリフェニルボラン誘導体(1)]
【0355】
【化92】

【0356】
TiCl4(2.5 mL, 1 M ジクロロメタン溶液, 2.5 mmol)を10 mLのジクロロメタンで希釈し、この溶液にジメチル亜鉛のトルエン溶液(2 M, 1.26 mL, 2.52 mmol)を-25℃で加えた。30分同じ温度で撹拌した後、実施例6で得た化合物8(87.5 mg, 0.251 mmol)のジクロロメタン溶液(12 mL)をゆっくりと加えた。そして、反応混合物を-25℃で12 時間撹拌した。反応混合物に水を加え、ジクロロメタンを用いて抽出を行った。得られた有機相を無水硫酸マグネシウムで乾燥した後、ろ過し、そのろ液を減圧濃縮した。シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより分離を行い(ジクロロメタン/ヘキサン = 1/4, Rf=0.50)、69.1 mg (0.191 mmol)の目的物1を無色固体として収率76%で得た。
融点:290.0-291.0 ℃ (sublimation 231.1-232.0 ℃), 1H NMR (300 MHz, CDCl3) δ7.71 (t, 3H, JHH = 8.0 Hz), 7.66 (d, 6H, JHH = 8.0 Hz), 1.80 (s, 18H); 1H NMR (300 MHz, THF-d8) δ 7.68 (br, 9H), 1.76 (s, 18H); 13C NMR (CDCl3, 75 MHz) δ 156.0, 132.7, 123.9, 42.8, 34.5 ppm; 11B NMR (128 MHz, CDCl3). δ 48.6 ppm (h1/2= 1000 Hz). HRMS Calcd for C27H27B, 362.2206. Found, 362.2188,Anal. Calcd for C27H27B: C, 89.50; H, 7.51. Found: C, 89.46; H, 7.49.
【0357】
[試験例4:X線結晶構造解析]
実施例7で得た平面固定トリフェニルボラン誘導体の構造は直接法F2(SHELXS-97(非特許文献4))により解き、full-matrix least-squares on F2(SHELXS-97)により最適化した。水素原子以外は異方的に最適化し、水素原子はAFIX instructionsを用いて配置した。結果を図6に示す。結晶データ:C27H27B; FW = 362.30, crystal size 0.20×0.20×0.10 mm3, Orthorhombic, Pbcn, a = 9.8794(10)Å, b = 18.5005(18)Å, c = 11.0075(10) Å, V = 2011.9(3) Å3, Z = 4, Dc = 1.196 g cm-3. The refinement converged to R1 = 0.0480, wR2 = 0.0696(I > 2σ(I)), GOF = 1.096
【0358】
実施例5で得た平面9,10−ジフェニル−9,10−ジヒドロ−9,10−ジボラアントラセンの構造は直接法 F2(SHELXS-97(非特許文献4))により解き、full-matrix least-squares on F2(SHELXS-97)により最適化した。結果を図7に示す。水素原子以外は異方的に最適化し、水素原子はAFIX instructionsを用いて配置した。結晶データ:C37H34B2Cl2; FW = 571.16, crystal size 0.08×0.08×0.02 mm3, Monoclinic, C2/c, a = 27.583(7)Å, b = 9.566(2)Å, c = 12.031(3)Å, β= 104.380(4)°, V = 3075.0(13) Å3, Z = 4, Dc = 1.234g cm-3. The refinement converged to R1 = 0.0650, wR2 = 0.1667(I > 2σ(I)), GOF = 1.084.
【0359】
[試験例5:電気化学特性]
実施例7で得た平面固定トリフェニルボラン誘導体、及び実施例5で得た平面9,10−ジフェニル−9,10−ジヒドロ−9,10−ジボラアントラセンのサイクリックボルタンメトリーはALS/chi-617A電気化学アナライザーを用いて測定した。測定には、グラッシー炭素電極と白金対電極、Ag/AgNO3参照電極から構成される電気化学セルを用いた。THFを溶媒に用い、サンプルと支持電解質n-Bu4N+PF6-の濃度がそれぞれ1 mM、0.1Mになるようにアルゴン雰囲気下で調製し、測定を行った。得られた酸化還元電位は内部標準として用いたフェロセンの酸化還元電位を基準として補正した。結果を図8に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(A):
【化1】

[式中、RA1〜RA4は、同じか又は異なり、それぞれ単独でRA1及びRA4が水素原子、RA2及びRA3が炭素数3〜22の1−アルキルエテニル基であってもよく、RA1とRA2、RA3とRA4が互いに結合してホウ素原子を有する6員のヘテロ環を形成してもよい;RA5〜RA6は同じか又は異なり、それぞれ単独で水素原子、又は炭素数1〜20のアルキル基であってもよく、RA5とRA6が一緒になってオキソ基を形成していてもよい。]
で示される3反応点を有する単位、及び
一般式(B):
【化2】

[式中、RB1〜RB8は、同じか又は異なり、それぞれ単独でRB1、RB4、RB5及びRB8が水素原子、RB2、RB3、RB6及びRB7が炭素数3〜22の1−アルキルエテニル基であってもよく、RB1とRB2、RB3とRB4、RB5とRB6、RB7とRB8が互いに結合してホウ素原子を有する6員環のヘテロ環を形成してもよい]
で示される2反応点を有する単位
よりなる群から選ばれる少なくとも1種の単位を1個以上有するπ共役有機ホウ素化合物。
【請求項2】
前記一般式(A)で示される単位が、一般式(A1):
【化3】

[式中、RA7〜RA10は同じか又は異なり、それぞれ水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基;RA11〜RA12は同じか又は異なり、それぞれ単独で水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基であってもよく、RA11とRA12が一緒になってオキソ基を形成していてもよい。]
で示される3反応点を有する単位である、請求項1に記載のπ共役有機ホウ素化合物。
【請求項3】
前記一般式(B)で示される単位が、一般式(B1):
【化4】

[式中、RB9〜RB16は同じか又は異なり、それぞれ水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基である]
で示される2反応点を有する単位である、請求項1又は2に記載のπ共役有機ホウ素化合物。
【請求項4】
一般式(A)で示される3反応点を有する単位及び一般式(B)で示される2反応点を有する単位よりなる群から選ばれる少なくとも1種を1〜3個有する、請求項1〜3のいずれかに記載のπ共役有機ホウ素化合物。
【請求項5】
一般式(A1a):
【化5】

[式中、RA7〜RA10は同じか又は異なり、それぞれ水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基;RA11〜RA12は同じか又は異なり、それぞれ単独で水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基であってもよく、RA11とRA12が一緒になってオキソ基を形成していてもよい;RA13〜RA15は同じか又は異なり、それぞれ水素原子、ハロゲン原子、ボロン酸若しくはそのエステル基、シリル基又はスタンニル基である。]
、又は一般式(B1a):
【化6】

[式中、RB9〜RB16は同じか又は異なり、それぞれ水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基;RB17〜RB18は同じか又は異なり、それぞれ水素原子、ハロゲン原子、ボロン酸若しくはそのエステル基、シリル基又はスタンニル基である。]
で示される、請求項1〜4のいずれかに記載のπ共役有機ホウ素化合物。
【請求項6】
さらに、π結合を有する基を有する、請求項1〜5のいずれかに記載のπ共役有機ホウ素化合物。
【請求項7】
前記π結合を有する基が、チオフェン骨格を有する基、フルオレン骨格を有する基、チアゾール骨格を有する基、ピリジン骨格を有する基、オキサジアゾール骨格を有する基、チアジアゾール骨格を有する基、ベンゾチアジアゾール骨格を有する基、アリーレン基、及びトリアリールアミンよりなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項6に記載のπ共役有機ホウ素化合物。
【請求項8】
一般式(C1):
【化7】

[式中、RC1〜RC12は同じか又は異なり、それぞれ水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基;RC13〜RC16は同じか又は異なり、それぞれ水素原子、ハロゲン原子、ボロン酸若しくはそのエステル基、シリル基又はスタンニル基;Yはπ結合を有する基である。]
で示される、請求項1、2及び4〜7のいずれかに記載のπ共役有機ホウ素化合物。
【請求項9】
一般式(A1):
【化8】

[式中、RA7〜RA10は同じか又は異なり、それぞれ水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基;RA11〜RA12は同じか又は異なり、それぞれ単独で水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基であってもよく、RA11とRA12が一緒になってオキソ基を形成していてもよい。]
で示される3反応点を有する単位を有するπ共役有機ホウ素化合物の製造方法であって、一般式(A2a):
【化9】

[式中、RA11〜RA12は同じか又は異なり、前記に同じ;RA13〜RA15は同じか又は異なり、それぞれ水素原子、ハロゲン原子、ボロン酸若しくはそのエステル基、シリル基又はスタンニル基;RA17〜RA18は同じか又は異なり、それぞれ炭素数1〜20のアルキル基である。]
で示される化合物にルイス酸触媒を作用させる工程
を備える、製造方法。
【請求項10】
一般式(B1):
【化10】

[式中、RB9〜RB16は同じか又は異なり、それぞれ水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基である。]
で示される2反応点を有する単位を有するπ共役有機ホウ素化合物の製造方法であって、
一般式(B2a):
【化11】

[式中、RB17〜RB18は同じか又は異なり、それぞれ水素原子、ハロゲン原子、ボロン酸若しくはそのエステル基、シリル基又はスタンニル基;RB19〜RB22は同じか又は異なり、それぞれ炭素数1〜20のアルキル基である。]
で示される化合物にルイス酸触媒を作用させる工程
を備える、製造方法。
【請求項11】
前記ルイス酸触媒が、トリフルオロメタンスルホン酸スカンジウム(III)である、請求項9又は10に記載の製造方法。
【請求項12】
一般式(C1):
【化12】

[式中、RC1〜RC12は同じか又は異なり、それぞれ水素原子、炭素数1〜20のアルキル基;RC13〜RC16は同じか又は異なり、それぞれ水素原子、ハロゲン原子、ボロン酸若しくはそのエステル基、シリル基又はスタンニル基;Yはπ結合を有する基である。]
で示されるπ共役有機ホウ素化合物の製造方法であって、
一般式(A1a−1):
【化13】

[式中、RA7〜RA12は同じか又は異なり、それぞれ水素原子又は炭素数1〜20のアルキル基;RA16はハロゲン原子、ボロン酸若しくはそのエステル基、シリル基又はスタンニル基である。]
で示されるπ共役有機ホウ素化合物と、有機金属化合物とをカップリング反応させる工程
を備える、製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−56859(P2013−56859A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−196567(P2011−196567)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り ▲1▼発行者名 社団法人日本化学会 刊行物名 日本化学会第91春季年会(2011)講演予稿集IV 発行年月日 2011年3月11日 ▲2▼発行者名 名古屋大学 Global COE 化学 刊行物名 Nagoya University Joint Symposia GLOBAL COE−RCMS INTERNATIONAL SYMPOSIUM ON ORGANIC CHEMISTRY AND 7TH YOSHIMASA HIRATA MEMORIAL LECTURE 発行年月日 2011年3月17日
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】