説明

ω−3脂肪酸を含む組み合わせを用いて、精神障害、物質乱用障害、および他の障害を治療する方法

本発明は、精神障害、物質乱用障害、および他の病気(例えば、心血管疾患および癌)を治療または予防する方法であって、治療有効量のシトシン含有化合物またはシチジン含有化合物、クレアチン含有化合物、アデノシン含有化合物、アデノシン増加化合物、ω-3脂肪酸、またはその組み合わせを哺乳動物に投与することを含む方法を提供する。さらに、本発明は、有効量のシトシン含有化合物またはシチジン含有化合物、クレアチン含有化合物、アデノシン含有化合物、アデノシン増加化合物、ω-3脂肪酸、またはその組み合わせを哺乳動物に投与することによって、神経発達を促進する方法および未熟妊娠(premature pregnancy)を遅らせる方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
発明の背景
本発明は、精神障害(例えば、抑うつ障害)、物質乱用障害、および他の障害を治療するための組成物および方法に関する。
【0002】
精神障害および物質乱用障害は、患者、臨床医、および介護者にとって他に例を見ない面倒な問題である。これらの障害は明確に診断することが難しく、患者は、社会的な非難を怖がり、簡単かつ有効な治療が無いために医療専門家に症状を見せるのをいやがり、社会上および健康上の不都合な結果につながることが多い。
【0003】
精神障害および物質乱用障害として、特に、アルコールおよびアヘン剤の乱用または依存、うつ病、気分変調、および注意欠陥多動障害が挙げられ、これらは全ての年齢および背景の人で起こる。
【0004】
アルコールおよびアヘン剤などの物質の使用はこれらの物質への耽溺および依存につながることが多く、様々な不都合な結果(臨床毒性、組織損傷、身体的依存および禁断症状、ならびに社会上および職業上の関係を維持する能力の欠陥を含む)の原因となる。物質乱用または依存の原因は分かっていないが、使用者の身体的特徴(例えば、遺伝的素因、年齢、もしくは体重)、性格、または社会経済的階級などの要因が決定要因であると仮定されている。
【0005】
うつ病および気分変調は、慢性であることが多く、頻繁な再発および長期間のエピソードと関連する、よく見られる障害である。これらの障害は心理社会的欠陥および身体的欠陥ならびに罹患者間での高い自殺率を伴う。生涯有病率は約17%であることが広く報告されており、再発の可能性は50%を超える(Angst,J.Clin.Psychiatry 60 Suppl.6:5-9,1999)。臨床効力のある大部分の抗うつ薬はモノアミン(主に、ノルエピネフリンおよびセロトニン)に作用するので、これらの神経伝達物質とその再取り込み輸送体(reuptake transporter)および受容体タンパク質との相互作用に研究意欲がかなり向けられてきた。うつ病のほとんどの薬物療法は脳モノアミン伝達に直ぐに効果があるのにもかかわらず、数週間または数ヶ月の処置を必要とする。結果として、研究は受容体自体には進んで向けられず、抗うつ薬治療の細胞内機能に向けられるようになった。うつ病および気分変調の基礎となる神経学的機構は十分に理解されておらず、それに伴って、これらの障害を治療する適切な薬理学的療法は無い。現行の療法は多くの副作用を有することが多く、ある特定のコホートへの投与に適していない。例えば、うつ病は老人(特に、長期介護施設にいる老人)によく見られ、若い成人および中年の成人のうつ病より治療しにくいことが多い。しかしながら、老人は、多くの抗うつ薬の一般的な副作用(特に、抗コリン作用性副作用)に対して特に感受性が高い。同様に、成人への投与に適した療法は小児に適さないことがある。
【0006】
注意欠陥多動障害(ADHD)は、遺伝性が高く有病率の高い神経精神障害であり、米国では学童期小児の6%が罹患していると見積もられている。一般的に、ADHDは幼いころに発症し、大人になるまで存続するが、青年期になって初めて診断されるか、または青年期後に診断される場合が多い。ADHDの臨床上の顕著な特徴は、不注意、機能亢進、および衝動性であり、これらは興奮薬(例えば、メチルフェニデート、デキストロアンフェタミン、またはペモリンマグネシウム)を用いた治療に応答することが多いが、非興奮薬(例えば、β-遮断薬(例えば、プロプラノロールまたはナドロール)、三環系抗うつ薬(例えば、デシプラミン)、および降圧剤(例えば、クロニジン))も用いられる。しかしながら、これらの薬物を用いた治療は、有害な影響(医薬品の乱用の可能性、成長遅延、心臓リズムの乱れ、血圧の上昇、嗜眠状態、うつ病、睡眠障害、頭痛、胃痛、食欲抑制、反跳応答を含む)、および脳機能に及ぼす薬物投与の不明瞭な長期の影響によって複雑になる。
【0007】
これらの障害の簡単かつ有効な薬理学的治療は現在まで不足していることが分かっている。老人および小児を含む全ての集団への投与に適した、物質乱用および精神障害(例えば、うつ病)を治療するための薬物療法を提供することは有益であろう。
【発明の開示】
【0008】
発明の概要
一般的に、本発明は、シチジン含有化合物、シトシン含有化合物、クレアチン含有化合物、ウリジン含有化合物、アデノシン含有化合物、またはアデノシン増加化合物と、ω-3脂肪酸を組み合わせて哺乳動物に投与することによって、精神障害、物質乱用または依存、および他の障害、ならびにこれらの症状を治療する方法を特徴とする。本明細書に記載の方法によって治療される物質乱用および依存として、例えば、アルコール、アヘン剤、コカイン、アンフェタミン、メタンフェタミン、およびメチルフェニデートの乱用または依存が挙げられる。本明細書に記載の方法によって治療される精神障害として、気分障害(例えば、単極性うつ病、気分変調、循環気質、および双極性障害)、注意欠陥多動障害(ADHD)、不安障害(例えば、パニック障害および全般性不安障害)、強迫性障害(OCD)、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、恐怖症、ならびに精神病性障害(例えば、統合失調症および分裂情動障害)が挙げられる。好ましい精神障害として、単極性うつ病、気分変調、循環気質、パニック障害、全般性不安障害、強迫性障害(OCD)、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、および恐怖症が挙げられる。本発明の方法によって治療される他の障害として、心血管疾患、癌、月経困難症、不妊、子癇前症、産後抑うつ、閉経期の不快感、骨粗鬆症、血栓症、炎症、高脂血症、高血圧、慢性関節リウマチ、高グリセリド血症、および妊娠糖尿病が挙げられる。さらに、本発明は、シチジン含有化合物、シトシン含有化合物、クレアチン含有化合物、ウリジン含有化合物、アデノシン含有化合物、アデノシン増加化合物、またはω-3脂肪酸を哺乳動物に投与することによって、神経発達を促進する方法および早産を遅らせる方法を特徴とする。
【0009】
本発明のシチジン含有化合物、シトシン含有化合物、クレアチン含有化合物、ウリジン含有化合物、アデノシン含有化合物、アデノシン増加化合物、またはω-3脂肪酸はどれでも別々にまたは組み合わせて投与することができる。化合物の組み合わせを用いる場合、1種類またはそれ以上の種類の化合物は、治療有効量未満でまたは望ましい結果を生じるのに単独では不十分な量で使用することができる。この態様において、組み合わせは治療有効量でまたは望ましい結果を生じるのに十分な量で投与されるが、1種類またはそれ以上の種類の活性成分は有効濃度未満で投与される。本明細書に記載の任意の方法において使用するための例示的な組み合わせとして、ω-3脂肪酸と、ウリジン含有化合物、シチジン含有化合物、またはシトシン含有化合物のいずれかが挙げられる。
【0010】
従って、本発明は、ω-3脂肪酸と、ウリジン含有化合物、シチジン含有化合物、またはシトシン含有化合物のいずれかとの組み合わせを含む組成物を特徴とする。例えば、この場合、少なくとも1種類の化合物は治療有効量未満で存在する。
【0011】
本発明の任意の局面の好ましい態様において、シチジン含有化合物はシチジン、CDP、またはCDP-コリンであり、シチジン含有化合物はコリンを含み、哺乳動物はヒトの小児、青年、成人、または老人である。他の好ましい態様において、CDP-コリンは経口投与され、投与は慢性である。
【0012】
ウリジン含有化合物は、例えば、ウリジン、UMP、UDP、UTP、またはトリアセチルウリジンである。例示的なω-3脂肪酸として、例えば、魚油、アマニ油、または微細藻類に由来する、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、およびα-リノレン酸が挙げられる。
【0013】
他の好ましい態様において、脳リン脂質(例えば、レシチン)または脳リン脂質前駆体(例えば、脂肪酸もしくは脂質)も哺乳動物に投与される。他の好ましい態様において、抗うつ薬も哺乳動物に投与される。
【0014】
他の好ましい態様において、哺乳動物は、共存症性神経疾患(例えば、脳卒中後うつ病)を有する。
【0015】
治療方法はまた、特定の障害または病気の投与前の、医師または他の医療専門家による特定の障害または病気の診断を含んでもよい。治療用化合物の投与はまた、医師または医療専門家の継続的な監督の下で行われてもよい。
【0016】
本明細書で使用する「アルコール」とは、エチルアルコールを含有する物質を意味する。「アヘン剤」とは、アヘンの任意の調製物または誘導体を意味する。アヘンは、ケシ植物(例えば、パパベル-ソムニフェラム(Papaver somniferum))の莢から抽出される天然物質であり、多くのアルカロイド(モルヒネ、ノスカピン、コデイン、パパベリン、またはテバインを含む)を含有する。非合法の習慣性の高い薬物であるヘロインはモルヒネから加工される。本発明の目的のために、用語「アヘン剤」はオピオイドを含む。
【0017】
「オピオイド」とは、作用がアヘン剤に似ているが、アヘンに由来しない合成麻薬を意味する。
【0018】
「乱用」とは、物質、特に、身体機能を変えることができる物質(例えば、アルコールまたはアヘン剤)の過度の使用を意味する。
【0019】
「依存」とは、少なくとも部分的に物質の使用に起因する、決断能力の変化または低下を示す任意の行動形態を意味する。依存行動の代表的な形態は、反社会的な、不適切な、または非合法の行動形態をとることがあり、物質の欲求、計画、獲得、および使用に向けられた行動を含む。この用語はまた、物質の精神的な欲求(生理学的依存が伴っていても、伴っていなくてもよい)、ならびに精神的な効果を得ることを目的とした、または物質が無いことの不快感を避けることを目的とした継続的または周期的な物質服用の強迫がある状態を含む。「依存」の種類として、習慣(すなわち、緊張および精神的な不快感を免れるための物質への精神的または心理的な依存);耐性(すなわち、望ましい効果を達成および維持するために用量増加の必要性の進行);耽溺(すなわち、自発的な対照を上回る身体的または生理学的な依存);および禁断症状を阻止するための物質の使用が挙げられる。依存は、使用者の身体的特徴(例えば、遺伝的素因、年齢、性別、もしくは体重)、性格、または社会経済的階級を含む多くの要因の影響を受けることがある。
【0020】
「気分変調」または「気分変調性障害」とは、一日の大半で生じ、出現する日のほうがしない日よりも多く、少なくとも2年間続く、慢性的な抑うつ気分を意味する。小児および青年では、気分は抑うつではなく怒りっぽくなる場合があり、必要とされる最低持続期間は1年である。2年間(小児または青年の場合、1年間)、無症状の間隔は2ヶ月より長く続かない。抑うつ気分の間、以下のさらなる症状のうち少なくとも2つが存在する:食欲不振または過食、不眠または過眠、気力の減退または疲労、自尊心の低下、集中力の低下または決断の困難、および絶望感。これらの症状は、社会での場、仕事(もしくは学校)での場、または他の重要な活動の場での臨床的に重大な苦痛または欠陥を引き起こす。気分変調の診断は、今までに躁エピソード、混合性エピソード、軽躁エピソードがあった場合;今までに循環病の基準に適合したことがある場合;抑うつ症状が慢性の精神病性障害(例えば、統合失調症)の間にだけ生じる場合;または障害が、物質もしくは一般医学的病態(general medical condition)の直接的な生理学的影響によるものである場合にはつけられない。最初の2年間の気分変調性障害の後、大うつ病エピソードが気分変調性障害に重ね合わされることがある(「重複うつ病」)。(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders(DSM IV),American Psychiatric Press,4th Edition,1994)。
【0021】
「単極性うつ病」または「大うつ病性障害」とは、躁エピソード、混合性エピソード、または軽躁エピソードの病歴のない個体における1つまたはそれ以上の大うつ病エピソードを特徴とする臨床経過を意味する。単極性うつ病の診断は、躁エピソード、混合性エピソード、もしくは軽躁エピソードがうつ病の間に発症する場合;うつ病が物質の直接的な生理学的影響によるものである場合;うつ病が一般医学的病態の直接的な生理学的影響によるものである場合;うつ病が死別もしくは他の重大な喪失によるものである場合(「反応性うつ病」);またはエピソードが分裂情動障害によってうまく説明がつき、統合失調症、精神分裂病様障害、妄想障害、もしくは精神病性障害に重ね合わされない場合にはつけられない。躁エピソード、混合性エピソード、または軽躁エピソードが発症した場合、この診断は双極性障害に変更される。うつ病は、慢性の一般医学的病態(例えば、糖尿病、心筋梗塞、癌腫、および脳卒中)と関連していることがある。一般的に、単極性うつ病は気分変調より重篤である。
【0022】
大うつ病エピソードの必須の特徴は、少なくとも2週間、ほとんど全ての活動において抑うつ気分または関心もしくは喜びの喪失があることである。小児または青年では、気分は悲しみではなく怒りっぽくなる場合がある。エピソードは単一のエピソードでもよく、再発性でもよい。個体はまた、食欲または体重、睡眠、および精神運動活動の変化;気力の減退;役に立たないという気持ちもしくは罪悪感;思考、集中、もしくは決断の困難;あるいは死にたいと繰り返し考える、または自殺の観念化、計画、もしくは試みを含むリストから示される少なくとも4つのさらなる症状を体験している。各症状は新規に存在しなければならないか、またはエピソード前の状態と比較して明らかに悪化していなければならない。これらの症状は、一日の大半、ほぼ毎日、少なくとも2週間連続して持続しなければならず、エピソードは、社会での場、仕事(もしくは学校)での場、または他の重要な活動の場での臨床的に重大な苦痛または欠陥を伴わなければならない。(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders(DSM IV),American Psychiatric Press,4th Edition,1994)。
【0023】
「神経疾患」とは、神経系の神経細胞が関与する疾患を意味する。具体的には、プリオン病(例えば、クロイツフェルト‐ヤコブ病);発達中の脳の異常(例えば、アミノ酸代謝の先天性欠損、例えば、アルギニノコハク酸尿症、シスタチオニン尿症、ヒスチジン尿症、ホモシスチン尿症、高アンモニア血症、フェニルケトン尿症、チロシン血症、および脆弱X症候群);成熟した脳の異常(例えば、神経線維腫症、ハンチントン舞踏病、うつ病、筋萎縮性側索硬化症、多発性硬化症);成人期に襲う病気(例えば、アルツハイマー病、クロイツフェルト‐ヤコブ病、レヴィー小体病、パーキンソン病、ピック病);および他の脳の異常(例えば、脳の事故、脳の外傷、昏睡、様々な病原体による感染、食事の欠乏、脳卒中、多発硬塞性痴呆、および心血管の事故)が挙げられる。
【0024】
「共存症の」または「共存症」とは、同時に存在するが無関係な異常、疾患、または障害を意味する。用語「共存症の」は、通常、2種類以上の疾患過程が同時に存在することを示す。
【0025】
「注意欠陥多動障害」または「ADHD」とは、発達上適切でない不注意、衝動性、および機能亢進の永続的かつ頻度の多いパターンを特徴とする行動障害を意味する。ADHDの徴候として、運動協調性の欠如、知覚-運動機能不全(perceptual-motor dysfunction)、EEG異常、情動不安定、反抗、不安、攻撃性、欲求不満耐性の低さ、社会スキルおよび仲間関係の低さ、睡眠障害、不快気分、ならびに気分変動(mood swing)が挙げられる。(「Attention Deficit Disorder」,The Merck Manual of Diagnosis and Therapy(17th Ed.),eds. M.H.Beers and R.Berkow,Eds.,1999,Whitehouse Station,NJ)。
【0026】
「治療する」とは、疾患、病理学的状態、または障害の治癒、寛解、または予防を目的とした患者の医療管理を意味する。この用語は、積極的治療(すなわち、特に、疾患、病理学的状態、または障害の改善に向けられた治療)を含み、原因治療(すなわち、疾患、病理学的状態、または障害の原因の除去に向けられた治療)も含む。さらに、この用語は、待期療法(すなわち、疾患、病理学的状態、または障害の治癒ではなく症状の緩和を目的とした治療)、予防的治療(すなわち、疾患、病理学的状態、または障害の予防に向けられた治療)、および支持精神療法(すなわち、疾患、病理学的状態、または障害の改善に向けられた別の特定の療法を補うために用いられる治療)を含む。用語「治療する」はまた、対症療法(すなわち、疾患、病理学的状態、または障害の全身症状に向けられた治療)を含む。
【0027】
「治療有効量」とは、ある特定の治療において治す効果、治癒する効果、予防する効果、安定にする効果、または寛解する効果を生じるのに十分な、シチジン含有化合物、シトシン含有化合物、ウリジン含有化合物、クレアチン含有化合物、アデノシン含有化合物、アデノシン増加化合物、ω-3脂肪酸、またはその組み合わせの量を意味する。
【0028】
「治療有効量未満の量」とは、ある特定の治療において治す効果、治癒する効果、予防する効果、安定にする効果、または寛解する効果を生じるのにそれ自体では十分でない、シチジン含有化合物、シトシン含有化合物、ウリジン含有化合物、クレアチン含有化合物、アデノシン含有化合物、アデノシン増加化合物、またはω-3脂肪酸の量を意味する。
【0029】
「シチジン含有化合物」とは、成分としてシチジン、CMP、CDP、CTP、dCMP、dCDP、またはdCTPを含む任意の化合物を意味する。シチジン含有化合物として、シチジンの類似体を挙げることができる。好ましいシチジン含有化合物として、CDP-コリンおよびシチジン5'-ジホスホコリン(シチジン5'-ジホスホコリン[ナトリウム塩]として調製されることが多く、シチコリンとしても知られる)が挙げられるが、これに限定されない。
【0030】
「シトシン含有化合物」とは、成分としてシトシンを含む任意の化合物を意味する。シトシン含有化合物として、シトシンの類似体を挙げることができる。
【0031】
「アデノシン含有化合物」とは、成分としてアデノシンを含む任意の化合物を意味する。アデノシン含有化合物として、アデノシンの類似体を挙げることができる。
【0032】
「アデノシン増加化合物」とは、脳アデノシン濃度を増やす任意の化合物(例えば、アデノシンの輸送または代謝を阻害する、または変える化合物(例えば、ジピリダモールまたはS-アデノシルメチオニン))を意味する。
【0033】
「ウリジン含有化合物」とは、成分としてウリジンまたはUTPを含む任意の化合物を意味する。ウリジン含有化合物として、ウリジンの類似体(例えば、トリアセチルウリジン)を挙げることができる。
【0034】
「クレアチン含有化合物」とは、成分としてクレアチンを含む任意の化合物を意味する。クレアチン含有化合物として、クレアチンの類似体を挙げることができる。
【0035】
「リン脂質」とは、リンを含有する脂質(例えば、ホスファチジン酸(例えば、レシチン)、ホスホグリセリド、スフィンゴミエリン、およびプラスマローゲン)を意味する。「リン脂質前駆体」とは、リン脂質の合成中にリン脂質に作られる物質(例えば、脂肪酸、グリセロール、またはスフィンゴシン)を意味する。
【0036】
「ω-3脂肪酸」とは、ω炭素から3番目の炭素に不飽和結合を有する脂肪酸を意味する。この用語は、遊離酸、塩、またはエステル型(例えば、リン脂質)を含む。ω-3脂肪酸は一不飽和でも多価不飽和でもよい。
【0037】
「小児または青年」とは、完全に成長および成熟していない個体を意味する。一般的に、小児または青年は21歳未満である。
【0038】
「老人」とは、人生の晩年に入っている個体を意味する。一般的に、老人は60歳以上である。
【0039】
特別の定めのない限り、全ての精神障害および物質乱用障害は、参照により本明細書に組み入れられる、「Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders」, 4th ed.,Text Revision,Washington,DC: American Psychiatric Association,2000に記載のものである。
【0040】
本発明は、物質の乱用または依存、精神障害、ならびに他の障害および病気の治療法を提供する。本明細書で用いられる化合物は比較的毒性が無く、特に、CDP-コリン、ウリジン、トリアセチルウリジン、およびω-3脂肪酸は薬物動態学的に理解されており、哺乳動物における忍容性が高いことが知られている。従って、本発明は、副作用がほとんどないと思われ、小児および青年ならびに老人、または既存の身体状態により健康が損なわれている人に投与可能な治療法を提供する。
【0041】
発明の詳細な説明
本明細書に記載の発明は、物質乱用障害(例えば、アルコールおよびアヘン剤の乱用または依存)、精神障害(例えば、気分障害(例えば、単極性うつ病、気分変調、循環気質、および双極性障害)、注意欠陥多動障害(ADHD)、不安障害(例えば、パニック障害および全般性不安障害)、強迫性障害(OCD)、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、恐怖症、ならびに精神病性障害(例えば、統合失調症および分裂情動障害)、ならびにこれらの症状、ならびに他の障害(心血管疾患、癌、月経困難症、不妊、子癇前症、産後抑うつ、閉経期の不快感、骨粗鬆症、血栓症、炎症、高脂血症、高血圧、慢性関節リウマチ、高グリセリド血症、および妊娠糖尿病)を治療するための組成物および方法を特徴とする。本発明はまた、神経発達を促進する方法および早産を遅らせる方法を特徴とする。
【0042】
これらの適応症に対して、本発明は、シチジン含有化合物、シトシン含有化合物、ウリジン含有化合物、クレアチン含有化合物、アデノシン含有化合物、もしくはアデノシン増加化合物、またはω-3脂肪酸を使用することを特徴とする。好ましいシチジン含有化合物はCDP-コリン(シチコリンまたはCDPコリン[ナトリウム塩]とも呼ばれる)であり、好ましいアデノシン含有化合物はS-アデノシルメチオニン(SAMe)であり、好ましいウリジン含有化合物はトリアセチルウリジンである。
【0043】
シチジン含有化合物、シトシン含有化合物、ウリジン含有化合物、クレアチン含有化合物、アデノシン含有化合物、またはアデノシン増加化合物は、脳リン脂質を合成するための前駆体である他の化合物(例えば、脂肪酸(例えば、ω-3脂肪酸)、脂質、またはレシチン)と同時に投与されてもよい。
【0044】
本明細書に記載の治療剤の組み合わせ(例えば、ω-3脂肪酸およびウリジン)が用いられる場合、予想外の協力作用が観察される。このように組み合わせると、治療有効量未満の量の1種類またはそれ以上の種類の組み合わせ成分を用いて治療効果を得ることができる。
【0045】
気分障害
脳リン脂質代謝の変化が気分障害(例えば、うつ病、双極性障害、気分変調、および循環気質)の病態生理に関与していることがある。リン脂質代謝は神経膜の流動性に影響を及ぼすので、細胞外プロセス(表面受容体結合および膜タンパク質相互作用を含む)ならびに細胞内プロセス(シグナル伝達およびミトコンドリア機能を含む)において重要な役割を果たしている(Pacheco et al.Prog Neurobiol 50:255-273 1996;Shetty et al.J Neurochem 67:1702-1710 1996;Exton Eur J Biochem 243:10-20 1997;Nomura et al.Life Sci 68:2885-2891 2001)。うつ病は膜合成および流動性の異常と結び付けられてきた(Moore et al.American Journal of Psychiatry 154:116-118 1997;Sonawalla et al.Am J Psychiatry 156:1638-1640 1999;Detke et al.Archives of General Psychiatry 57:937-943 2000;Moore et al.Bipolar Disorder 3:207-216 2000;Steingard et al.Biol Psychiatry 48:1053-1061 2000)。従って、リン脂質の代謝または神経膜へのリン脂質の取り込みに影響を及ぼす治療は、うつ病および他の気分障害の治療に効果があるかもしれない。
【0046】
リン脂質代謝および膜流動性に影響を及ぼす治療には抑うつ症状の治療に何らかの効果があるという証拠があるが、効果は低いことが多く、因果関係は証明することが難しい。例えば、魚を多く食べている集団は大うつ病の有病率が低い(Hibbeln Lancet 351:1213,1998)。魚は、神経膜に取り込まれる長鎖多価不飽和脂肪酸であるω-3脂肪酸を特に多く含んでいる(概説については、Freeman Ann Clin Psychiatry 12:159-165,2000を参照のこと)。ω-3脂肪酸などの多価不飽和脂肪酸の中の二重結合は、リン脂質が密に詰まらないような高次構造(structural conformation)を生じさせ、それによって膜流動性に影響を及ぼしている(Popp-Snijders et al.Scand J Clin Lab Invest.44:39-46,1984;Cartwright et al.Atherosclerosis 55:267-281,1985)。ヒトにおけるω-3脂肪酸を用いた治療は脳の水プロトン横緩和時間(T2)を減少させる(これは膜流動性の増加と一致する)。ω-3脂肪酸は大うつ病の無作為化臨床試験において評価されたことがないが、抑うつ状態を含む双極性障害の患者の病気の経過を改善する(Stoll et al.Arch Gen Psychiatry 56:407-412,1999)。同様に、コカイン禁断症状(抑うつ症状を含むことが多い)の一部の症状は、シチコリンを用いて臨床集団において治療することができる(Renshaw et al.Psychopharmacology 142:132-138,1999)。シチコリンは一部がヌクレオシドシチジンに代謝される。シチジンは構造膜リン脂質の生合成経路を誘導し、膜生成を増加させる(Lopez-Coviella et al.J Neurochem 65:889-894,1995;Knapp et al.Brain Res 822:52-59,1999)。ラットでの全身注射によるシチジン短期投与には抗うつ様効果がある(Carlezon et al.Biol.Psychiatry 51:882-889,2002)。シチジンはさらにヌクレオシドウリジンに変換されるが(Wurtman et al.Biochem Pharmacol 60:989-992, 2000)、これらの薬剤はいずれも気分障害患者の臨床試験において調べられていない。
【0047】
今や、本発明者らは、CDP-コリンがヒト試験において有効であり、シチジン含有化合物およびシトシン含有化合物がうつ病の治療に使用できることを発見している。CDP-コリンは、2種類の重要な治療特性を有することが分かっている。第1に、CDP-コリンは、健常成人において脳の化学的特性を改善する(例えば、リン脂質合成を増加させる)。この効果は特に老人においてはっきりとしている。第2に、CDP-コリンには、うつ病治療に広く用いられている薬物であるフルオキセチンに似た抗うつ効果がある。
【0048】
シチジン含有化合物およびシトシン含有化合物は特に老人での治療に有効であり、これらの化合物は、共存症性神経疾患(例えば、脳卒中後うつ病)患者のうつ病の治療に有効である。さらに、これらの化合物はリン脂質(例えば、レシチン)または脳リン脂質合成の前駆体である化合物(例えば、脂肪酸もしくは脂質)と共に投与することができ、それによって、これらと協力的に作用する。
【0049】
今や、本発明者らは、ウリジンおよびω-3脂肪酸が単独でかつ組み合わせで単極性うつ病または気分変調の治療に有効であることも発見している。ウリジン含有化合物の治療特性はシチジン含有化合物の治療特性と似ているのに対して、ω-3脂肪酸は膜流動性を増大させるように見える。さらに、ウリジン含有化合物とω-3脂肪酸を組み合わせると協力作用が生じる。すなわち、2種類の薬剤を組み合わせることで各成分の用量が少なくなる。
【0050】
物質乱用または依存
リン-31磁気共鳴スペクトロスコピー(MRS)研究から、アルコール依存者およびアヘン剤依存者の脳中リン脂質濃度は低いことが分かっている。さらに、健常な老人から得られたデータから、CDP-コリンの慢性投与は、リン脂質合成と一致する神経化学的変化と関連することが分かっている。リン脂質合成を助けるのにATPの形でエネルギーが必要とされるので、脳中サイトゾルアデノシン濃度の増大もアルコールまたはアヘン剤の乱用または依存への有効な治療となる。本明細書に記載の本発明者らの結果に基づいて、物質(例えば、アルコール、アヘン剤、コカイン、アンフェタミン、メタンフェタミン、およびメチルフェニデート)の乱用または依存を治療する本発明の別の方法において、ω-3脂肪酸が用いられる。ω-3脂肪酸はまた、本明細書に記載の他の化合物と共に使用することができる。
【0051】
注意欠陥多動障害(ADHD)
ADHDと診断された小児の機能的核磁気共鳴画像法(fMRI)実験から、機能亢進および不注意の症状は、強力なドーパミン作動性の脳領域である被殻内の血流測定値と強い相関関係があることが分かっている。さらに、ADHDの治療に用いられる興奮薬であるメチルフェニデートを投与すると、運動活動の低下と同時に被殻内の血流が増加する。ADHD症状は、主に運動行動の調節に関与している被殻の機能異常と密接に結びついている可能性がある。従って、シチジン含有化合物およびシトシン含有化合物(例えば、CDP-コリン)にはドーパミン作動活性があるので、これらの化合物は、興奮薬治療に関連する多くの副作用を伴わずに、ADHDと診断された人を治療するのに使用することができる。特に、シチジン含有化合物またはシトシン含有化合物を用いた治療は、ADHDと診断された小児の機能亢進治療に有効である。本明細書に記載の本発明者らの結果に基づいて、ADHDは、ウリジン含有化合物、あるいはω-3脂肪酸と、シチジン含有化合物、シトシン含有化合物、ウリジン含有化合物、クレアチン含有化合物、アデノシン含有化合物、もしくはアデノシン増加化合物のいずれか(例えば、ウリジン含有化合物もしくはシチジン含有化合物)、またはその組み合わせを含む組み合わせを用いて治療することができる。
【0052】
他の精神障害
ω-3脂肪酸は、不安障害(例えば、パニック障害および全般性不安障害)、強迫性障害(OCD)、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、恐怖症、ならびに精神病性障害(例えば、統合失調症および分裂情動障害)などの他の精神障害の治療に使用することができる。これらの治療において、ω-3脂肪酸は、シチジン含有化合物、シトシン含有化合物、ウリジン含有化合物、クレアチン含有化合物、アデノシン含有化合物、またはアデノシン増加化合物と組み合わせて使用することができる。
【0053】
神経発達
本発明の化合物はまた、神経発達(例えば、神経突起成長)を促進するのに使用することもできる。この適応症のための例示的な組み合わせとして、ω-3脂肪酸と、シチジン含有化合物、シトシン含有化合物、ウリジン含有化合物、クレアチン含有化合物、アデノシン含有化合物、またはアデノシン増加化合物が挙げられる。神経発達の促進を評価する方法は当技術分野において周知である(例えば、Gibson,R.A. and M. Makrides Acta Paediatr,1998,87:1017-22,Fewtrell,M.S.,et al.,J Pediatr,2004,144:471-9,Fewtrell,M.S.,et al.,Pediatrics,2002,110:73-82,O'Connor,D.L.,et al.,Pediatrics,2001,108:359-71,Clandinin,M.,et al.,Pediatric Res,2002,51:187A-8A,Innis,S.M.,et al.,J Pediatr,2002,140:547-54,Clandinin,M.T.,et al.,Pediatr Res,1997,42:819-25,Uauy,R.,et al.,J Pediatr,1994,124:612-20,Werkman,S.H. and S.E.Carlson,Lipids,1996,31:91-7.,Carlson,S.E.,et al.,Eur J Clin Nutr,1994,48 Suppl 2:S27-30.,Vanderhoof,J.,et al,J Pediatr Gastroenterol Nutr,2000,31:121-7, and Marszalek,J.R.,et al.,J Biol Chem,2004,279:23882-91)。神経発達を測定する例示的な方法として、ベーリー精神発達指数(Bayley Mental Developmental Index)(MDI)、ベーリー精神運動発達指数(Bayley Psychomotor Developmental Index)(PDI)、クノブロック、パサマニック-シェラード発達スクリーニング表(Knobloch, Passamanick and Sherrard's Developmental Screening Inventory)、およびファーガン乳児知能検査(Fagan Test of Infant Intelligence)が挙げられる。例えば、促進は、対照群(本発明の化合物を投与しなかった群)と比較して測定することができる。
【0054】
心血管疾患
本発明の化合物はまた、心血管疾患(CVD)(アテローム性動脈硬化症、冠状動脈疾患、冠状動脈病変の後退および進行の遅延、血中トリグリセリド濃度の低下、HDLコレステロールの減少、LDLコレステロールの中和、心臓事象による死亡率の低下、ならびに心室性頻拍の減少を含む)を治療するのに使用することもできる。これらの適応症のための例示的な組み合わせとして、ω-3脂肪酸と、シチジン含有化合物、シトシン含有化合物、ウリジン含有化合物、クレアチン含有化合物、アデノシン含有化合物、またはアデノシン増加化合物が挙げられる。
【0055】
腫瘍学
本発明の化合物はまた、癌の治療(癌を発症するリスクの低下を含む)(Larsson,S.C.,et al.,Am J Clin Nutr,2004,79:935-45)、放射線療法および化学療法中の癌悪液質の治療ならびに回復率の増大(Heller,A.R.,et al.,Int J Cancer,2004,111:611-6)、ならびに癌に関連した、るいそうの治療(Jatoi,A.,et al.,J Clin Oncol,2004,22:2469-76)に使用することもできる。例示的な癌として、乳癌、結腸癌、膵臓癌、慢性骨髄性白血病、および黒色腫が挙げられる。これらの適応症のための例示的な組み合わせとして、ω-3脂肪酸と、シチジン含有化合物、シトシン含有化合物、ウリジン含有化合物、クレアチン含有化合物、アデノシン含有化合物、またはアデノシン増加化合物が挙げられる。
【0056】
女性の健康
本発明の方法はまた、女性しかかからない、または特に女性がかかる多くの医学的問題(例えば、月経困難症、不妊(例えば、子宮血流の増加による不妊)、子癇前症、産後抑うつ、閉経期の不快感、および骨粗鬆症)にも対処する。本発明の化合物はまた、例えば、出産に関与するエイコサノイドのバランスを取り、胎盤の血流を改善することによって、早産を遅らせるのに使用することもできる。これらの適応症のための例示的な組み合わせとして、ω-3脂肪酸と、シチジン含有化合物、シトシン含有化合物、ウリジン含有化合物、クレアチン含有化合物、アデノシン含有化合物、またはアデノシン増加化合物が挙げられる。
【0057】
他の適応症
本発明の化合物はまた、血栓症、炎症、高脂血症、高血圧、慢性関節リウマチ、高グリセリド血症、および妊娠糖尿病などの他の適応症を治療するのに使用することもできる。これらの適応症のための例示的な組み合わせとして、ω-3脂肪酸と、シチジン含有化合物、シトシン含有化合物、ウリジン含有化合物、クレアチン含有化合物、アデノシン含有化合物、またはアデノシン増加化合物が挙げられる。
【0058】
シチジン含有化合物およびシトシン含有化合物
有用なシチジン含有化合物またはシトシン含有化合物として、以下:シトシン、シチジン、CMP、CDP、CTP、dCMP、dCDP、およびdCTPの1つを含む任意の化合物を挙げることができる。好ましいシチジン含有化合物として、CDP-コリンおよびシチジン5'-ジホスホコリン[ナトリウム塩]が挙げられる。シチジン含有化合物およびシトシン含有化合物のこのリストは本発明の限定ではなく例示のために示され、前記の化合物は、例えば、Sigma Chemical Company(St.Louis,MO)から市販されている。
【0059】
CDP-コリンは、構成成分であるシチジンおよびコリンにインビボで加水分解される天然化合物である。CDP-コリンは、酵素CTP:ホスホコリンシチジルトランスフェラーゼによって触媒される可逆反応おいて、シチジン-5'-三リン酸およびホスホコリンから無機ピロリン酸の付随生成を伴って合成される(Weiss,Life Sciences 56:637-660,1995)。CDP-コリンは、500mgの長円形錠剤の状態で経口投与することができる。各錠剤には、522.5mgのCDP-コリンナトリウム(500mgのCDP-コリンに相当する)が含まれている。適合するプラセボ錠剤も使用することができる。活性錠剤およびプラセボ錠剤の両方に含まれる賦形剤は、タルク、ステアリン酸マグネシウム、コロイド状二酸化ケイ素、硬化ヒマシ油、カルボキシメチルセルロースナトリウム、および微結晶性セルロースである。CDP-コリン[ナトリウム塩]の分子構造を図5に示す。
【0060】
精神障害および物質乱用障害を治療または予防するための他の処方物は、薬学的に許容される希釈剤、担体、安定剤、または賦形剤と組み合わせたシトシン含有化合物またはシチジン含有化合物の形をとってもよい。
【0061】
アデノシン含有化合物およびアデノシン増加化合物
アデノシン含有化合物またはアデノシン増加化合物は、リン脂質合成に必要なATPを供給するので有用な治療法を提供する。有用なアデノシン含有化合物またはアデノシン増加化合物として、以下のアデノシン、ATP、ADP、またはAMPの1つを含む任意の化合物が挙げられるが、これに限定されない。1つの好ましいアデノシン含有化合物はS-アデノシルメチオニン(SAMe)である。
【0062】
さらに、他の機構によってアデノシン濃度を上げることができる化合物が知られている。例えば、アデノシンの取り込みは、プロペントフィリン(参照により本明細書に組み入れられるU.S.Patent No.5,919,789に記載)を含む多くの既知化合物によって阻害することができる。アデノシンの取り込みを阻害する別の既知化合物はEHNAである。
【0063】
脳中アデノシン濃度を上げるのに使用することができる他の有用な化合物は、アデノシンを分解する酵素(例えば、アデノシンデアミナーゼおよびアデノシンキナーゼ)を阻害する化合物である。最後に、アデノシンまたはインビボでアデノシンとして放出されるアデノシン前駆体を含む化合物の投与も使用することができる。
【0064】
ウリジン含有化合物
ウリジンおよびウリジン含有化合物はPC生合成における律速因子であるCTPに変換できるので、有用な治療法を提供する可能性がある(Wurtman et al.,Biochemical Pharmacology 60:989-992,2000)。有用なウリジン含有化合物として、ウリジン、UTP、UDP、またはUMPを含む任意の化合物が挙げられるが、これに限定されない。ウリジンならびにウリジン含有化合物およびウリジン類似体はヒトにおける忍容性が高い。ヒトにおけるウリジンの経口バイオアベイラビリティは、様々な手段(例えば、トリアセチルウリジンの場合のように環ヒドロキシル基のアセチル化)によって高めることができる。または、バイオアベイラビリティを高める処方物を使用することができる。
【0065】
クレアチン含有化合物
クレアチンおよびクレアチン含有化合物は脳中リン脂質濃度の上昇によってATP濃度を上げることができるので有用な治療法を提供する。クレアチンおよびクレアチン含有化合物は、ヒトにおいて比較的高い用量で忍容性が高いことが知られている。
【0066】
ω-3脂肪酸
ω-3脂肪酸は、膜流動性を高める可能性が高いので有用な治療法を提供する。例示的なω-3脂肪酸として、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、およびα-リノレン酸が挙げられる。ω-3脂肪酸は、遊離酸、塩、またはエステル型(例えば、トリグリセリドまたはリン脂質)として投与することもできる。ω-3脂肪酸は、合成または微細藻類の培養によって純粋な形で入手することができる。ω-3脂肪酸はまた、天然の供給源(例えば、魚油、アマニ油、ダイズ、ナタネ油、または微細藻類)から混合物の状態で投与することができる。ω-3脂肪酸と本発明の他の治療用化合物を使用すると、協力作用が生じる可能性がある。すなわち、2種類の薬剤を組み合わせることで各成分の用量が少なくなる。
【0067】
投与
患者への投与に適した処方物または組成物を提供するために、従来の薬務が用いられる。経口投与が好ましいが、他の任意の適切な投与経路(例えば、非経口投与、静脈内投与、皮下投与、筋肉内投与、頭蓋内投与、眼窩内投与、眼投与、脳室内投与、嚢内投与、脊髄内投与、槽内投与、腹腔内投与、鼻腔内投与、またはエアロゾル投与)を使用することができる。治療処方物は、液体溶液または懸濁液(例えば、静脈内投与の場合)の形であってもよい。経口投与の場合、処方物は、液体、錠剤、またはカプセルの形であってもよい。鼻腔内処方物の場合、散剤、点鼻剤、またはエアロゾルの形であってもよい。特に、ω-3脂肪酸は、2004年10月8日に出願された米国特許出願第10/号、出願の名称「ENHANCED EFFICACY OF OMEGA-3 FATTY ACID THERAPY IN THE TREATMENT OF PSYCHIATRIC DISORDERS」に記載のように、封入複合体(inclusion complex)、分散液(例えば、ミセル、マイクロエマルジョン、およびエマルジョン)、またはリポソームに入れて投与することができる。さらに、本明細書に記載の方法に有用な化合物として、カプセル化化合物(例えば、リポソームまたはポリマーでカプセル化されたシチジン含有化合物、シトシン含有化合物、ウリジン含有化合物、クレアチン含有化合物、アデノシン含有化合物、およびアデノシン増加化合物)も挙げられる。さらに、有用な化合物として、シチジン含有化合物、シトシン含有化合物、ウリジン含有化合物、クレアチン含有化合物、アデノシン含有化合物、またはアデノシン増加化合物が、例えば、腎臓および肝臓によって血流から取り除かれる前に、および分解される前に標的部位(例えば、中枢神経系)に到達できるように、様々な抗体、リガンド、または他の標的化剤および被覆剤もしくは保護剤(例えば、アルブミンもしくはデキストロース)と結合した化合物が挙げられる。
【0068】
処方物を製造する当技術分野において周知の方法は、例えば、Remington:「The Science and Practice of Pharmacy」(20th ed.)ed.A.R.Gennaro,Lippincott:Philadelphia 2003で述べられている。非経口投与用の処方物は、例えば、賦形剤、滅菌水、生理食塩水、ポリアルキレングリコール(例えば、ポリエチレングリコール)、植物由来の油、または硬化ナフタレン(hydrogenated naphthalene)を含有してもよい。
【0069】
所望であれば、徐放送達システムまたは長期放出送達システムを使用することができる。化合物の放出を制御するために、生体適合性生分解性ラクチドポリマー、ラクチド/グリコリドコポリマー、またはポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレンコポリマーを使用することができる。他の潜在的に有用な非経口送達システムとして、エチレン-酢酸ビニルコポリマー粒子、浸透圧ポンプ(osmotic pump)、移植注入システム、およびリポソームが挙げられる。吸入用処方物は賦形剤(例えば、ラクトース)を含有してもよく、水溶液(例えば、ポリオキシエチレン-9-ラウリルエーテル、グリココレート、およびデオキシコレートを含有する水溶液)でもよく、点鼻剤の形での、またはゲルとしての投与の場合、油状溶液でもよい。
【0070】
好ましくは、本発明の化合物(例えば、CDP-コリン)は、経口投与によって少なくとも500mgの投与量で1日2回投与される。経口投与されるCDP-コリンは生物利用可能であり、99%を超えるCDP-コリンおよび/またはその代謝産物が吸収され、1%未満が糞便中に排泄される。経口投与または静脈内投与されたCDP-コリンは、2つの主要な循環代謝産物であるコリンおよびシチジンに迅速に変換される。主な排出経路は肺(12.9%)および尿(2.4%)である。残りの用量(83.9%)は見かけ上代謝され、組織中に保持される。
【0071】
一般的に、CDP-コリン、ウリジン、UTP、クレアチン、またはSAMeなどの本発明の化合物は、実現しようとする効果に適した投与量で投与され、一般的に、単位剤形で投与される。投与量は、好ましくは、50mg/day〜2000mg/dayである。化合物の正確な投与量は、例えば、レシピエントの年齢および体重、投与経路、ならびに治療しようとする症状の重篤度および種類に左右されることがある。一般的に、選択される投与量は、ある特定の適応症、またはその1つもしくはそれ以上の症状を予防、寛解、または治療するのに十分でなければならないか、あるいは重大な毒性のまたは望ましくない副作用を生じずに、ある特定の結果をもたらさなければならない。前記のように、ほとんどの適応症に好ましい投与経路は経口経路である。
【0072】
CDP-コリンの場合、過量例は報告されていない。CDP-コリンの毒性は主に自己限定的であり、前臨床試験での大量摂取から、一般的なコリン作動性症状(唾液分泌、流涙、排尿、排便、および嘔吐)が認められている。
【0073】
他の治療剤との組み合わせ
本発明のシチジン含有化合物、シトシン含有化合物、ウリジン含有化合物、クレアチン含有化合物、アデノシン含有化合物、アデノシン増加化合物、およびω-3脂肪酸は単独療法として投与されてもよく、互いに組み合わせて投与されてもよく、本明細書に記載の適応症の他の医薬品と組み合わせて投与されてもよい。
【0074】
好ましくは、本発明の化合物は、これらの適応症の低用量の現行の医薬品(興奮薬および抗うつ薬を含む)と共に投与されてもよい。例えば、本発明の化合物はリン脂質(例えば、レシチン)または脳リン脂質前駆体(例えば、脂肪酸もしくは脂質)と共に投与されてもよく、精神障害または物質乱用障害を治療するための標準療法の補助として投与されてもよい。
【0075】
特定の1つの例において、本発明の化合物は、抗うつ薬、抗痙攣薬、抗不安薬、抗躁病薬、抗精神病薬(antipyschotic)、抗肥満薬、催眠鎮静薬、興奮薬、または降圧薬と組み合わせて投与することができる。これらの医薬品の例として、抗不安薬(アルプラゾラム、塩酸ブスピロン、クロルジアゼポキシド、塩酸クロルジアゼポキシド、クロラゼペート二カリウム、塩酸デシプラミン、ジアゼパム、ハラゼパム、塩酸ヒドロキシジン、ヒドロキシジンパモエート、ロラゼパム、メプロバメート、オキサゼパム、プラゼパム、マレイン酸プロクロルペラジン、プロクロルペラジン、プロクロルペラジンエディシレート、およびマレイン酸トリミプラミン)、抗痙攣薬(アモバルビタール、アモバルビタールナトリウム、カルバマゼピン、クロルジアゼポキシド、塩酸クロルジアゼポキシド、クロラゼペート二カリウム、ジアゼパム、ジバルプロエクス(divalproex)ナトリウム、エトサクシミド、エトトイン、ガバペンチン(gabapentin)、ラモトリジン(lamotrigine)、硫酸マグネシウム、メフェニトイン、メフォバルビタール、メトスクシミド、パラメタジオン、ペントバルビタールナトリウム、フェナセミド、フェノバルビタール、フェノバルビタールナトリウム、フェンサクシミド、フェニトイン、フェニトインナトリウム、プリミドン、セコバルビタールナトリウム、トリメタジオン、バルプロ酸、およびクロナゼパム)、抗うつ薬(塩酸アミトリプチリン、アモキサピン、塩酸ブプロピオン、塩酸クロミプラミン、塩酸デシプラミン、塩酸ドクサピン、フルオキセチン、フルボキサミン、塩酸イミプラミン、イミプラミンパモエート、イソカルボキサジド、ラモトリジン、塩酸マプロトリン、塩酸ノルトリプチリン、塩酸パロキセチン、硫酸フェネルジン、塩酸プロトリプチリン、塩酸セルトラリン、硫酸トラニルシプロミン、塩酸トラゾドン、マレイン酸トリミプラミン、および塩酸ベンラファキシン(venlafaxine))、抗躁病薬(炭酸リチウムおよびクエン酸リチウム)、抗肥満薬(フルボキサミンおよび塩酸クロミプラミン)、抗精神病薬(マレイン酸アセトフェナジン、塩酸クロルプロマジン、クロルプロチキセン、塩酸クロルプロチキセン、クロザピン、デカン酸フルフェナジン、フルフェナジンエナスレート(fluphenazine enathrate)、塩酸フルフェナジン、デカン酸ハロペリドール、ハロペリドール、乳酸ハロペリドール、炭酸リチウム、クエン酸リチウム、塩酸ロクサピン、コハク酸ロクサピン、メソリダジンベシレート、塩酸モリンドン、ペルフェナジン、ピモジド、マレイン酸プロクロルペラジン、プロクロルペラジン、プロクロルペラジンエディシレート、塩酸プロマジン、リスペリドン、チオリダジン、塩酸チオリダジン、チオチキセン、塩酸チオチキセン、および塩酸トリフロペラジン(trifluoperzine))、催眠鎮静薬(アモバルビタール、アモバルビタールナトリウム、アプロバルビタール、ブタバルビタール、抱水クロラール、クロルジアゼポキシド、塩酸クロルジアゼポキシド、クロラゼペート二カリウム、ジアゼパム、ジフェンヒドラミン、エスタゾラム、エトクロルビノール、塩酸フルラゼパム、グルテチミド、塩酸ヒドロキシジン、ヒドロキシジンパモエート、ロラゼパム、塩酸メトトリメプラジン、塩酸ミダゾラム、オキサゼパム、ペントバルビタールナトリウム、フェノバルビタール、フェノバルビタールナトリウム、クアゼパム、セコバルビタールナトリウム、テマゼパム、トリアゾラム、および酒石酸ゾルピデム)、興奮薬(硫酸デキストロアンフェタミン、塩酸メタンフェタミン、塩酸メチルフェニデート、およびペモリン)、ならびに降圧薬(クロニジン)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0076】
以下の実施例は本発明の例示のために示され、本発明を限定するものと解釈すべきでない。
【0077】
単極性うつ病または気分変調
シチジン含有化合物またはシトシン含有化合物を用いたヒト被験者の治療
気分障害被験者のプロトンリン磁気共鳴(MR)スペクトロスコピー研究によって、うつ病に関連した神経化学的特性の変化の2種類のパターンが特徴付けられている。第1のパターンは、サイトゾルコリンの変化(増加または減少)ならびに前頭葉ホスホモノエステルの増加を示すのに対して、第2のパターンは、脳プリン(サイトゾルアデノシン含有化合物)の減少およびヌクレオシド三リン酸(NTP)の減少を示す。前者の結果はリン脂質代謝の変化を反映しているのに対して、後者の結果は脳エネルギー特性の変化を示している。長期研究はほどんと行われていないが、これらの代謝産物濃度の変化は形質に依存するのではなく、気分状態に依存するように見られる。
【0078】
慢性CDP-コリン投与によって、リン-31 MRスペクトルにおける脂質代謝産物共鳴が検出可能に変化するかどうか評価するために、18人の健常被験者(平均年齢:70歳)に、6週間、毎日、500mgのCDP-コリン経口処方物を投与した。6週目〜12週目に、被験者の半分にCDP-コリンを与え続け、半分に二重盲式でプラセボを与えた。MRデータから、CDP-コリン治療は、リン脂質合成の増大を示す知見である、脳ホスホジエステルの有意な増加(p=0.008)と関連することが証明された。神経心理学検査によって、12週目に全被験者で言語流暢性(p=0.07)、言語学習(p=0.003)、視空間学習(p=0.0001)が向上していることも明らかになった。従って、CDP-コリンの投与によって、特に、慢性投与間に、健常成人における言語流暢性および空間記憶の測定値が改善し、老人における脳リン脂質合成が増大する。
【0079】
第2の試験では、12人のうつ病被験者(平均年齢40歳)に、8週間、1日2回、500mgのCDP-コリン経口処方物を与えた。8週間の治療で、17項目ハミルトンうつ病評価尺度(HDRS)の平均スコアが21±3から10±7に減少した(p<0.0001)。CDP-コリンに対する首尾よい応答はまた、前帯状皮質(anterior cingulate cortex)でのプロトンMR分光学的サイトゾルコリン共鳴の低下とも関連していた。画像化試験に参加し、非盲検フルオキセチン(20mg/day,8週間)を用いて治療された41人のうつ病被験者の比較データは、21±4から11±6へのHDRSスコアの減少を示した(p<0.0001)(図1)。CDP-コリンおよびフルオキセチンは、それぞれ、被験者の6/12(50%)および17/41(41%)における完全寛解と関連していた(図1)。従って、うつ病成人では、CDP-コリンの抗うつ効果はフルオキセチンの抗うつ効果に匹敵していた。
【0080】
これらのデータは、薬理学的方法を用いてヒトの脳脂質代謝を改変ことができ、特に老人において治療が認知動作の改善と関連性を示すという初めての証明である。これらのデータから、生化学的変化の逆転を目的としたシトシン含有化合物およびシチジン含有化合物(例えば、CDP-コリン)を用いた治療法はうつ病または気分変調の治療に有益であることが証明される。
【0081】
うつ病のげっ歯類モデルにおけるシチコリンの使用
シチコリンの効果を、本明細書に記載のように、うつ病のげっ歯類モデルである強制水泳検査(FST)で調べた。シチコリンはシチジンおよびコリンに急速に変換されるので、これらの効果もFSTで調べた。げっ歯類の実験的虚血において神経保護効果があることが示されている範囲の用量(50mg/kg〜500mg/kg,IP)のシチコリンは、FSTにおいてラットに抗うつ効果を示さなかった。実際には、高用量のシチコリンには、このモデルにおいてわずかな抑うつ促進(pro-depressant)作用があるように見えた。モル等量のシチジン(23.8mg/kg〜238mg/kg,IP)にはFSTにおいて有意な抗うつ作用があったが、モル等量のコリン(13.7mg/kg〜136.6mg/kg,IP)には有意な抑うつ促進作用があった。最適有効量のシチジン(238mg/kg,IP)は歩行活動に影響を及ぼさず、治療濃度での条件報酬効果も確立しなかった。
【0082】
うつ病のラットモデルにおけるウリジンおよびω-3脂肪酸の使用
ウリジンおよびω-3脂肪酸の組み合わせの行動に対する効果もまた、ラットでの強制水泳試験(FST)を用いて評価した。このアッセイによって、ヒトにおいて抗うつ効果のある治療がげっ歯類において特定される(Porsolt et al.Nature 266:730-732 1977;Carlezon et al.Biol.Psychiatry 51:882-889,2002)。ウリジンは全身注射を用いて投与したのに対して、ω-3脂肪酸は、様々な期間(3日間、10日間、または30日間)、餌への添加によって投与した。これらの効果が相加的であるかどうか確かめるために、ω-3脂肪酸を豊富に含む餌を与えて飼育したラットにおけるウリジンの効果も評価した。比較のために、標準的な抗うつ薬であるデシプラミン(三環系抗うつ薬[TCA])ならびにフルオキセチンおよびシタロプラム(選択的セロトニン再取り込み阻害剤[SSRI])の効果を確かめた。2種類の異なる評価方法:無動潜時(latency to become immobile)(抗うつ効果のある薬剤を特定する簡単かつ迅速な方法である) (Pliakas et al.J Neurosci 21:7397-7403 2001)および行動サンプリング(behavioral sampling) (薬理学的機構に従って抗うつ薬を区別するより複雑な方法)(Detke et al.Psychopharmacology 121:66-72 1995)を用いて、FSTにおける各治療の効力を評価した。最後に、水泳試験からのデータの解釈を複雑にする可能性のあるオープンフィールドでの活動に及ぼす非特異的影響について、FSTにおいて抗うつ様効果のあった治療を評価した。
【0083】
方法
ラット:
これらの試験には、合計197匹の雄スプラーグ-ドーリー(Sprague-Dawley)ラット(Charles River Laboratories,Boston MA)を使用した。ラットを4匹からなる群に収容し、行動試験時の体重は325gm〜375gmであった。ラットを12時間明(0700〜1900h)-12時間暗周期で飼育し、試験時以外は餌と水が自由にとれるようにした。1996 Guide for the Care and Use of Laboratory Animals(NIH)およびMcLean Hospital指針に従って実験を行った。
【0084】
薬物:
投与量のデシプラミンHCl(DMI)、フルオキセチンHCl(FLX)、シタロプラムHBr(CIT)、およびウリジン(URI)を、蒸留水ビヒクル(VEH)に溶解して1cc/kgの体積で投与した。CITを除く全ての薬物はRBI-Sigma(St.Louis,MO)から購入した。CITはForest Laboratories(New York,NY)から贈与された。脂肪酸は、ω-3脂肪酸を含有するメンヘーデン油(OMG)または対照としてオリーブ油(CON)のいずれかで強化された食物中の食品添加物として投与した(それぞれ、4.5%w/w(Research Diets Inc.,New Brunswick NJ))。メンヘーデン油は27%w/wのω-3脂肪酸を含有し、ラットは、毎日、平均25gmの食物(0.3gm OMG)を食べた。これらの餌は、脂肪、タンパク質、炭水化物、およびカロリーの総含有量が等しかった。
【0085】
強制水泳試験(FST):
167匹のラットをFST試験に使用した。FST試験は、わずかな変更を加えた以外は以前に述べられた通りに行った(Carlezon et al.Biol.Psychiatry 51:882-889,2002)。FSTは、逃亡が不可能な条件下でラットが泳ぐ、2日を要する手順である。1日目に、ラットを、高さ65cm-直径25cmの透明な円柱(48cmまで25℃の水で満たされている)に入れる。ラットは、最初、水から逃れようともがくが、最終的には、水から頭を出すのに必要な動きしかしない無動姿勢をとる。15分の強制水泳の後に、ラットを水から取り出し、タオルで乾かし、30分間、暖めた囲いの中に入れる。ラット間で円柱を空にし、きれいにした。ラットを24時間後に同一条件下で5分間再試験すると、無動が増加する。強制水泳に対する最初の暴露と再試験との24時間の期間内に標準的な抗うつ薬で治療を行うと、無動の促進を弱めることができる。これは、ヒトでの抗うつ効果と相関する効果である(Porsolt et al.Nature 266:730-732 1977;Detke et al.Psychopharmacology 121:66-72 1995,Carlezon et al.Biol.Psychiatry 51:882-889,2002)。
【0086】
DMI、FLX、CIT、またはURIを用いて試験するラットには、強制水泳に対する最初の暴露の1時間後、19時間後、および23時間後に、薬物(またはVEH)を3回、腹腔内(IP)注射した。この共通して用いられるレジメは多くの標準的な薬剤の抗うつ様効果に対して感度が高い(Porsolt et al.Nature 266:730-732 1977;Detke et al.Psychopharmacology 121:66-72 1995;Carlezon et al.Biol.Psychiatry 51:882-889,2002)。OMG(またはCON)を用いて試験したラットには、水泳試験開始の3日前、10日前、または30日前に特殊な餌を与え、強制水泳の1時間後、19時間後、および23時間後に食塩水またはURI注射(IP)を与えた。治療条件あたりのラットは7匹〜12匹であり、別々のラットを、それぞれの治療レジメに使用した。
【0087】
水泳試験を円柱の側面からビデオ撮影し、治療条件を知らない評価者によって評価した。DMI、FLX、CIT、URI、またはVEH注射のみを与えた群については、FSTの再試験(2日目)をビデオ撮影した。なぜなら、これらのラットは、強制水泳に対する最初の暴露前に治療を全く受けていないからである。特殊な餌を与えて飼育したラットについては、両FST試験日をビデオ撮影した。なぜなら、群が、強制水泳に対する最初の暴露の前と異なるからである。ラットを、異なるが補足的な2種類の方法:無動潜時および行動サンプリングを用いて評価した。無動潜時は、ラットが水から逃れようとする試みを示さない無動姿勢を初めて開始した時間と定義した。この特徴的な姿勢では、前肢は動いておらず、体に引き寄せられている。無動とみなすために、この姿勢ははっきりと目に見えていなければならず、2.0秒以上維持されなければならなかった。行動サンプリングのために、ラットを、強制水泳課題の期間全体を通して5秒間隔で評価した。それぞれの5秒の間隔で、顕著な行動を、4つの分類:無動、水泳、よじ登り、または潜水の1つに割り当てた(Detke et al.Psychopharmacology 121:66-72 1995)。ラットは、水から頭を出すのに必要な動きしかしない場合に無動と判断され、円柱の壁に向けて前肢で力強くばたつかせる動きをしている場合によじ登っていると判断され、円柱の中心に移動するように活発に泳ぐ動きをしている場合に、水泳していると判断され、水面下に円柱の底に向かって泳いでいる場合に潜水していると判断された。潜水行動はめったに起こらず、試験したどの治療の影響も受けなかった。行動サンプリング法は抗うつ薬のクラスを報告によって区別する。例えば、TCAは無動を減少させ、よじ登りを増加させるが、水泳に影響を及ぼさないのに対して、SSRIは無動を減少させ、水泳を増加させるが、よじ登りに影響を及ぼさない(Detke et al.Psychopharmacology 121:66-72 1995)。
【0088】
標準的な薬剤(DMI、FLX、およびCIT)を用いた試験からのデータは一緒に分析したが、URIのみを用いた試験からのデータは別々に分析した。これらの治療については、無動潜時またはそれぞれの行動分類の出現回数を、別々の一元配置(治療)分散分析(ANOVAs)を用いて分析した。有意な効果は、ポストホックフィッシャーHSD(post hoc Fisher's honestly significant difference)検定を用いてさらに分析した。OMGのみを用いた試験のデータおよびOMG+URIを用いた試験からのデータは別々に分析し、各試験日を独立して分析した。これらの治療レジメについては、無動潜時またはそれぞれの行動分類の出現回数を、別々の二元配置(治療×餌の期間)分散分析(ANOVAs)を用いて分析し、その後にポストホックフィッシャーHSD検定を用いて分析した。
【0089】
歩行活動:
30匹のラットを使用して、FST試験において有効であった治療が、強制水泳に以前に暴露されたラットの活動レベルに非特異的な影響を及ぼしたかどうか確かめた。再試験時までFST試験が行われた通り正確に、これらの試験を実施した。すなわち、全てのラットにFSTの1日目を受けさせたが、24時間後、強制水泳に再度暴露する代わりに、17×17×12 in(L×W×H)の自動オープンフィールド自動チャンバー(Med Associates, St. Albans VT)に1時間入れた。治療条件あたりのラットは6匹〜8匹であった。対照ラットにはVEH注射を与えた。試験課題間に移動した全距離(cm)を定量し、データを一元配置(治療)ANOVAで分析した後に、ポストホックフィッシャーHSD検定で分析した。FSTを設定した研究者は、強制水泳に対する第2の暴露間の無動の促進を、抑うつ様症状である「絶望行動」を示すものと解釈した(Porsolt et al. Nature 266:730-732,1977)。無動の促進の原因に関係なく、TCA、SSRI、非定型抗うつ薬(atypical)、モノアミンオキシダーゼ阻害剤、および電気痙攣ショック療法(Porsolt et al.Nature 266:730-732,1977;Borsini et al.Psychopharmacol 94:147-160,1988;Detke et al. Psychopharmacology 121:66-72,1995)を含む主なクラスの抗うつ治療の全てがFSTにおける無動の指標を効果的に減少させる。FSTの主な強みは、ヒトにおいて抗うつ効力のある治療を、ラットにおいて特定できることである(Willner Psychopharmacology 83:1-16,1984)。DMI、FLX、およびCITは、強制水泳に対する第1の暴露と第2の暴露との間に注射によって与えられた時に無動を減少させた。ウリジンを用いた同様の治療レジメもFSTにおいて無動の指標を減少させた。このことから、この薬剤にはラットにおいて抗うつ様効果があることが分かる。ω-3脂肪酸を豊富に含む餌を与えたラットも、抗うつ様効果と一致するFSTでの無動の減少を示した。ω-3脂肪酸の食物添加という通常無効な治療レジメを与えたラットにおいて、通常無効な用量のウリジンに抗うつ様効果があった。このことは、これらの2種類の治療の抗うつ様効果が互いの効果を高めることを示唆している。まとめると、これらのデータは、リン脂質代謝および膜流動性に影響を及ぼす治療がヒトでのうつ様症状の治療となり得るという強力な証拠を示している。
【0090】
結果
標準的な抗うつ薬治療(DMI、FLX、CIT)は、使用した判定方法に関係なく、再試験間(2日目)のFSTの無動の指標を減少させた。これらの薬剤は無動潜時を使用した時に、この判定方法に影響を及ぼした(F3,39=5.73,P<0.01)(図6A)。すなわち、DMI(10mg/kg;P<0.01,フィッシャーHSD)、FLX(20mg/kg;P<0.05)、およびCIT(5.0mg/kg;P<0.01)によって、無動発作が最初に現れる前の経過時間が増加した。これらの薬剤はまた、サンプリング法を使用した時に行動パターンに影響を及ぼした(図6B)。すなわち、これらは、無動行動(F3,39=9.14,P<0.01)、水泳行動(F3,39=10.3,P<0.01)、およびよじ登り行動(F3,39=16.1,P<0.01)の出現回数に違いを生じさせた。以前の観察と一致して(Detke et al. Psychopharmacology 121: 66-72,1995)、DMI(TCA)は無動を減少させ、よじ登りを増加させたが(P's<0.01)、水泳に影響を及ぼさなかったのに対して、FLXおよびCIT(SSRI)は無動を減少させ、水泳を増加させたが(P's<0.01)、よじ登りに影響を及ぼさなかった。ラットの体重は再試験時に群間で差がなかった(図6C)。このことは、体重が水泳行動に影響を及ぼすことがあるので重要である(Pliakas et al. J Neurosci 21:7397-7403,2001)。
【0091】
URIは用量依存的に無動潜時に影響を及ぼした(F3,32=3.05,P<0.05)(図7A)。すなわち、この薬剤は239mg/kgで潜時を延長したが(P<0.05)、130mg/kgでも71.7mg/kgでも潜時を延長しなかった。行動サンプリング法では(図7B)、URIは、無動(F3,32=3.10,P<0.05)および水泳(F3,32=3.07,P<0.05)の出現に有意な影響を及ぼしたが、よじ登りには影響を及ぼさなかった。URIは239mg/kgのみで無動を減少させ(P<0.01)、水泳行動を増加させた(P<0.01)。この行動パターンは、SSRI治療後に見られるものと似ている。ラットの体重は再試験時に群間で差がなかった(図7C)。
【0092】
OMGのみを用いた食物添加の影響は治療の長さに依存し、再試験課題の間にしか識別できなかった。強制水泳に対する最初の暴露の間に、食物OMGは無動潜時に影響を及ぼさず(図8A)、どの行動サブタイプにも影響を及ぼさなかった(図8B)。しかしながら、再試験間に、OMGは無動潜時に影響を及ぼした(治療の主効果:F1,50=4.08,P<0.05)(図8C)。すなわち、潜時はOMGを30日間与えたラットにおいて延長したが(P<0.05)、OMGを10日間与えたラットでも3日間与えたラットでも延長しなかった。同様に、OMGは、無動(治療×期間交互作用:F1,50=3.22,P<0.05)および水泳(治療×期間交互作用:F1,50=3.42,P<0.05)の出現に有意な影響を及ぼしたが、よじ登りに影響を及ぼさなかった(図8D)。OMGは、30日の治療後のみに無動を減少させ(P<0.01)、水泳行動を増加させた(P<0.01)。この行動パターンはSSRI治療後に見られるものと似ている。ラットの体重は再試験時に治療群間で差がなかった(図8E)。
【0093】
OMG食物添加という通常無効なレジメで飼育したラットに無効量のURIを投与すると、行動に影響が生じた。以前の観察を確認すると、3日間または10日間のOMG添加は、強制水泳に対する最初の暴露間の行動に影響を及ぼさなかった(図9A〜9B)。しかしながら、OMGを与え、71.7mg/kgのURIも与えたラットでは、再試験の間に無動潜時が変化した(期間の主効果:F1,28=4.52,P<0.05)(図9C)。すなわち、10日間のOMG添加後にURIを与えたラットでは潜時が延長したが(P<0.05)、3日間のOMG添加後にURIを与えたラットでは潜時が延長しなかった。同様に、URIおよびOMGを用いた通常無効な治療の組み合わせが、無動(治療の主効果:F1,28=17.7,P<0.01)、水泳(治療の主効果:F1,28=6.46,P<0.02)、およびよじ登り(治療×期間交互作用:F1,28=7.77,P<0.01)の行動に影響を及ぼした(図9D)。URI治療は、OMGを10日間与えたラットにおいて無動を減少させ(P<0.01)、水泳を増加させ(P<0.05)、よじ登りを増加させたが(P<0.05)、OMGを3日間与えたラットでは影響を及ぼさなかった。ラットの体重は再試験時に治療群間で差がなかった(図9E)。
【0094】
再試験間にラットを強制水泳用円柱ではなくオープンフィールドチャンバーで試験した時に、FSTにおいて抗うつ様効果があった治療はどれも活動レベルに影響を及ぼさなかった(図10A)。ラットの体重は、これらの群の間で差がなかった(図10B)。
【0095】
ラットでのFSTは、ヒトでのうつ病治療の有益な効果を予測する有用なモデルである。FSTにおけるウリジンの効果は等モル濃度のシチジンの効果と似ている。ウリジンおよびシチジンがFSTにおいて抗うつ様効果を発揮する機構は分かっていない。1つの可能性は、これらのヌクレオシドが神経膜の合成または流動性に影響を及ぼすということである(Lopez-Coviella et al. J Neurochem 65:889-894,1995;Knapp et al.,1999;Wurtman et al.Biochem Pharmacol 60:989-992,2000)。これらはどちらも気分障害で異常が見られることがある(Moore et al.American Journal of Psychiatry 154:116-118 1997;Sonawalla et al.Am J Psychiatry 156:1638-1640 1999;Detke et al.Archives of General Psychiatry 57:937-943 2000;Moore et al.Bipolar Disorder 3:207-216 2000;Steingard et al.Biol Psychiatry 48:1053-1061 2000)。もう1つの可能性は、脳のカテコールアミン機能を変えるウリジンの能力によって、ウリジンの作用が媒介されるということである。ウリジンそれ自体がカテコールアミン機能に及ぼす影響は分かっていないが、シチコリンはノルエピネフリンおよびドーパミンなどの神経伝達物質の脳生産を(恐らく、チロシンなどの前駆体に影響を及ぼすことによって)増加させる(Martinet et al.Arch Int Pharmacodyn 239:52-56 1979)。ウリジンが抗うつ様効果を発揮する機構の調査に取りかかるために、本発明者らは、様々なクラスの抗うつ薬を区別することができる詳細な判定方法である行動サンプリング(Detke et al.Psychopharmacology 121:66-72 1995)を用いてFSTを判定した。行動サンプリングが用いられた以前の試験(Detke et al. Psychopharmacology 121:66-72 1995)と一致して、標準的なノルエピネフリン取り込み阻害剤であるデシプラミンは無動の測定値を減少させ、よじ登りの測定値を増加させたが、水泳の測定値に影響を及ぼさなかった。逆に、標準的なSSRIであるフルオキセチンおよびシタロプラムは無動を減少させ、水泳を増加させたが、よじ登りに影響を及ぼさなかった。水泳およびよじ登りの測定値に及ぼす影響の違いにはノルエピネフリン-セロトニン相互作用以外の要因が関与している可能性があるが、FSTにおけるウリジンの効果は、デシプラミンの効果(無動およびよじ登りの変化)ではなく、フルオキセチンおよびシタロプラムの効果(無動および水泳の変化)と似ている。このことから、ウリジンは、セロトニン作動性機能に及ぼす影響のために、このアッセイにおいて有効であった可能性があることが分かる。
【0096】
ω-3脂肪酸が抗うつ様効果を発揮する機構は分かっていない。ω-3脂肪酸は神経膜の流動性に非常に大きな影響を及ぼすように思われる。重要なことに、ω-3脂肪酸の抗うつ様効果は長期間の栄養強化でしか見られず、短期間のレジメの後では見られなかった。これらの結果は、ヒトにおけるω-3脂肪酸の微細な効果を説明し、この種の薬剤を用いた臨床試験を複雑にする難題に光を当てているのかもしれない。さらに、これらの効果は、ラットの強制水泳に対する最初の暴露の間では見られなかったが、再試験の間だけ見られた。FSTにおける無動の促進は、ストレスに関連する細胞内シグナル伝達経路および遺伝子の活性化によるものであるので(Pliakas et al.J Neurosci 21:7397-7403,2001)、これらの発見から、ω-3脂肪酸は、どうにもならないと学習したことを反映している可能性のある、無動行動の発生に寄与する神経適応誘導を妨げることが示唆される。
【0097】
低投与量のウリジンを用いた治療によって、短期間のω-3脂肪酸治療レジメがFSTにおいて有効になった。この相互作用の機構は分かっていないが、膜合成に及ぼすヌクレオシドの影響(Lopez-Coviella et al.J Neurochem 65:889-894,1995;Knapp et al.,1999;Wurtman et al.Biochem Pharmacol 60:989-992,2000)が神経膜へのω-3脂肪酸の取り込みを促進するように思われる。神経膜において、ω-3脂肪酸は、細胞外プロセス(表面受容体結合および膜-タンパク質相互作用を含む)ならびに細胞内プロセス(シグナル伝達およびミトコンドリア機能を含む)に影響を及ぼす(Pacheco et al.Prog Neurobiol 50:255-273 1996;Shetty et al.J Neurochem 67:1702-1710 1996;Exton Eur J Biochem 243:10-20 1997;Nomura et al.Life Sci 68:2885-2891 2001)。エネルギー代謝に必要不可欠であり、リン脂質内膜に高濃度の多価不飽和脂肪酸を有するミトコンドリア内では、膜流動性への影響は特に重要であるかもしれない(Buttriss et al.Biochim Biophys Acta 962:81-90,1988;Raederstorff et al.Lipids 26:781-787,1991)。実際に、双極性障害などのうつ病関連症候群ではミトコンドリア機能の調節不全が疑われており(Kato et al.Bipolar Disorder 2:180-190,2000)、双極性障害を有する個体はω-3脂肪酸療法から利益を得るように思われる(Stoll et al.Arch Gen Psychiatry 56:407-412,1999)。
【0098】
アルコールまたはアヘン剤の乱用または依存
脳リン脂質の測定
ヒト脳リン脂質に由来するリン-31MRスペクトル内の広範囲成分を確実に測定することができる(図2)。予備結果から、アルコールおよび/またはアヘン剤の依存を有する人では、この広範囲のリン脂質共鳴の強度が比較被験者の値と比較して10%〜15%減少することが分かっている。従って、例えば、リン脂質合成の増加によって、この生化学的変化を逆転することを目的とした治療計画はアルコールおよび/またはアヘン剤の依存の治療に有益である。
【0099】
CDP-コリンの投与によってリン脂質合成が増大する
慢性CDP-コリン投与によってリン-31 MRスペクトルの脂質代謝産物共鳴が検出可能に変化するかどうか評価するために、18人の健常被験者(平均年齢:70歳)に、6週間、毎日、500mgのCDP-コリン経口処方物を投与した。6週目〜12週目に、被験者の半分にCDP-コリンを与え続け、半分に二重盲式でプラセボを与えた。MRデータから、CDP-コリン治療は、リン脂質合成の増大を示す知見である、脳ホスホジエステルの有意な増加(p=0.008)と関連することが証明された。神経心理学検査によって、12週目に全被験者で言語流暢性(p=0.07)、言語学習(p=0.003)、視空間学習(p=0.0001)が向上していることも明らかになった。従って、CDP-コリンを投与することによって、特に、慢性投与間に、健常成人における言語流暢性および空間記憶の測定値が改善し、老人における脳リン脂質合成が増大する。
【0100】
注意欠陥多動障害(ADHD)
ADHDと診断された小児の機能的核磁気共鳴画像法
定常状態の条件下で6歳〜12歳の少年の線条体(尾状核および被殻)の血液量を間接的に評価するために、新たなfMRI法(T2緩和時間測定法または「T2-RT」)を開発した。非処置の健常対照と、プラセボまたは最高量のメチルフェニデートを与えたADHD小児とのfMRIの差を調べるために、6人の健常対照少年(10.2±1.5歳)およびADHDと診断された11人の少年(9.3±1.6歳)をこの試験の被験者とした。健常対照は、体系化された診断面接(K-SADS-E;Orvaschel,H.&Puig-Antich,J.,The schedule for affective disorders and schizophrenia for school-age children-epidemiologic version(Kiddie-SADS-E),University of Pittsburgh,Pittsburgh,PA,1987)を用いてスクリーニングされ、大きな精神障害(major psychiatric disorder)が全く無く、DSM-IV基準による不注意または機能亢進-衝動性の起こり得る9つの症状のうち3つを超えて有さなかった。ADHD小児は体系化された診断面接でADHDの基準を満たした場合に加えられ、不注意または機能亢進-衝動性の9つの症状のうち少なくとも6つを有した。ADHD小児は、活動、注意、およびfMRIに及ぼすメチルフェニデート(0、0.5、0.8、1.5mg/kg(分割量))の効果の三重盲検(親、小児、評価者)無作為化プラセボ対照試験に参加した。ADHD小児を、プラセボまたはある特定の用量のメチルフェニデートを用いて1週間連続して治療し、週の終わりの午後の投薬の1時間〜3時間以内に、注意および活動の客観的測定値ならびにfMRIを用いて、薬物の効果について試験した(方法を参照のこと)。投薬と試験との間の時間は、4種類の治療条件全体を通して各被験者に一定に保たれた。ADHD小児と同じ手順を用いて、非処置健常対照の活動および注意を評価し、その後に同じ時間枠内でfMRIを行った。
【0101】
定常状態の血流測定値を得るために、および永続的な投薬効果について試験するために、新規のfMRI法であるT2緩和時間測定法を使用した。従来のBOLD(Blood Oxygenation Level Dependent)fMRIは、ベースラインと活動状態との間の動的な脳活動変化を観察するのに有益な技法であるが、今までは、被験者群間の局所灌流における安静時または定常状態の差に関する手掛かりが得られず、脳基礎機能に及ぼす慢性薬物治療の効果も示されなかった。BOLDと同様にT2緩和時間測定法はデオキシヘモグロビンの常磁性に依存している。しかしながら、BOLDにおける神経活動増大に対する急性反応として起こる血流と酸素抽出との不一致は、定常状態の条件下では持続しない。その代わりに、局所血流は、灌流と進行中の代謝要求を適切に合わせるように調節され、デオキシヘモグロビン濃度は定常状態において領域間で一定になる。従って、連続活動の大きな領域は速い速度で灌流が起こり、これらの領域が流れる組織体積当たりの血液量およびデオキシヘモグロビン分子の数はだんだんと増加する。従って、T2緩和時間の減少として検出可能な領域の常磁性は増加する。
【0102】
従来のT2強調画像では、著しく異なるT2特性を有する病態の領域(例えば、腫瘍)を特定するのに有用な大まかなT2概算しか得られなかった。血液量の機能変化に関連した灰白質のT2のわずかな(約2%)差を確実に感知できるのに十分な精度でT2-RTを計算するために、本発明者らは高速エコープラナー画像法(fast echoplanner imaging)を用いて、異なるエコー時間での32の連続測定値に基づくシグナル強度減衰曲線を設定した。32枚の画像のそれぞれについて、リフォーカスドスピンエコー(refocused spin echo)が観察された。
【0103】
赤外線運動分析装置が運動を捕捉および記録しながら、コンピュータによる覚醒状態試験を小児に行わせることによって、非常に精度の高い研究室ベースでの活動および注意の測定値が得られた(方法を参照のこと)。これらの発見を用いて、T2-RTの局所測定値と、単調であるが要求の厳しい課題に参加しながら運動活動を低レベルまで阻止する能力との関連性を確かめた。
【0104】
予想通り、プラセボを与えたADHD少年は、注意試験の間、健常対照と同じようにじっと座っていなかった。彼らは、動いている時間が長く(時間スケール(temporal scaling):F1,14=9.42,P=0.008)、複雑な運動パターンが少なかった(空間スケール:F1,14=9.68,P=0.008)。注意の尺度の1つである連続遂行課題(CPT)では、ADHD小児は精度が低く(92.0% vs. 97.1%;F1,14=2.94,P=0.10)、反応潜時にばらつきがあったが(F1,14=3.11,P<0.10)、これらの差は、この限られた試料では統計学的有意性に達しなかった。
【0105】
ADHD小児および健常対照の尾状核領域および被殻領域の違い、ならびにメチルフェニデートに応答したこれらの領域におけるT2-RT変化も画像化によって試験した。視床を、群の違いまたは薬物の効果が期待されない対照領域として評価した。尾状核の両側T2-RT測定では、プラセボを与えたADHD小児および健常対照の間では有意な差は現れなかった(F1,14=2.80,P=0.12)。対照的に、被殻の両側T2-RT測定では、ADHD小児および対照に著しい差が認められた(77.9±1.1ミリ秒vs.76.1±1.1ミリ秒;F1,14=9.40,P=0.008)。平均して、ADHD小児のT2-RTは対照より左被殻では3.1%大きく(F1,14=14.5,P=0.002;図3B)、右被殻では1.6%大きかった(F1,14=2.62,P=0.13)。
【0106】
健常対照およびプラセボを与えたADHD小児については、運動活動と、被殻の両側T2-RTとの間に著しくかつ有意な相関関係があったが、尾状核についても視床についても相関関係はなかった(表1A)。活動-不活動の2つの尺度である時間スケールおよび平均無動時間と、被殻のT2-RTとの相関関係は、それぞれ、-0.752(P<0.001)および-0.730(P<0.001)であった。運動パターンの複雑さも被殻のT2-RTと相関関係があった(rs=0.630,P<0.01)。同様に、片側分析では、3種類全ての運動活動測定値は右被殻および左被殻両方のT2測定値と相関関係があった(表1A)。
【0107】
CPT遂行の測定値と被殻の両側T2-RTとの間にも強い相関関係があった(表1B)。CPTの精度とT2-RTの相関関係は-0.807(P<0.0001)であったのに対して、応答潜時のばらつき(S.D.)とT2-RTの相関関係は0.652(P<0.005)であった。これらの関連性は右被殻および左被殻の両方で観察された(表1B,図4A)。さらに、右視床についてもCPT課題の精度とT2-RTとの間で有意な関連があったが、左視床では関連が無かった。図4Aに示したように、精度とT2緩和時間との間には有意で直線的な負の相関関係がある(高レベルのT2-RTは灌流が少ないことを示している)。
【0108】
メチルフェニデートは注意に対して強い効果を発揮し、遂行精度を高め(F1,10=5.98,P<0.05)、応答のばらつき(S.D.)を242ミリ秒から149ミリ秒に低下させた(F1,10=14.5,P<0.005)。メチルフェニデートはまた活動に対して有意な効果を発揮し、無動時間を126%増やし(F1,10=5.47,P<0.05)、運動パターンの複雑さを増やした(F1,10=5.73,P<0.05)。しかしながら、活動に対する薬物効果は、被験者の非処置活動レベルに強く依存していた。例えば、空間的複雑さは、プラセボを与え、客観的に運動亢進状態にある(正常対照より少なくとも25%以上活動的である)6人の被験者において52.6%増加したが(F1,5=13.16,P<0.02)、運動亢進状態になかった5人のADHD小児では影響が見られなかった(<8%の増加)(p>0.6)。
【0109】
右被殻および左被殻両方のT2-RTは、メチルフェニデートを用いた進行中の治療によって有意に変化したが(ANCOVA:F1,9=12.81,P=0.006)、応答は、被験者の非処置活動状態と強く結びついていた(薬物×時間スケール共変式F1,9=11.09,P=0.008;図4B)。メチルフェニデートは視床のT2-RTに対して有意な効果を発揮しなかった(F1,9=0.13,P>0.7)。トレンドレベルの差が右尾状核で観察された(F1,9=3.85P=0.08)。
【0110】
全体的に見ると、T2-RTの大きさと灌流の低さは対応するので、ADHD小児の被殻ではT2-RTが増加することと、T2-RTと疾患重篤度の客観的マーカーとの間には相関関係があるという、この発見は、以前の研究と矛盾がない。さらに、この発見はまた、被験者間の機能亢進および不注意の程度のばらつきのかなりの割合が被殻内のT2-RTの差だけで説明できることも示唆している。
【0111】
まとめると、ADHDの少年(n=11)の被殻の両側T2緩和時間(T2-RT)測定値は健常対照(n=6;P=0.008)より大きい。緩和時間は、小児がじっと座っている能力(rs=-0.75,P<0.001)、およびコンピュータによる注意課題の遂行における精度(rs=-0.81,P<0.001)と相関関係があった。メチルフェニデートを毎日与えたプラセボ対照盲検治療は、ADHD小児の被殻のT2-RTを有意に変えたが(P=0.006)、この効果の大きさおよび方向は、小児の非処置時の活動状態に強く依存していた。類似しているが有意でないトレンドが右尾状核で観察された。視床におけるT2-RT測定値は群の間で有意な差が無く、メチルフェニデートの影響を受けなかった。
【0112】
方法
活動および注意の評価
以前に述べられたように(Teicher et al.,J.Am.Acad.Child Adolesc.Psychiatry 35:334-342,1996)、活動および注意のデータを集めた。簡単に述べると、小児をコンピュータの前に座らせ、簡単なゴー/ノーゴー(GO/NO-GO)CPTを用いて評価した。このCPTでは、被験者は、固定された2秒の慣性間隔(inertial interval)でスクリーン中央に現れる標的の視覚表示に応答し、標的でない刺激への応答を抑える(Greenberg et al.,Psychopharmacol.Bull.23:279-282,1987)。刺激は、右/左を見分けることなく区別できる単純な幾何学的形状であり、正常対照と同様に失読症の小児が遂行できるように設計されている。赤外線運動分析装置(Qualisys,Glastonbury,CT)が、小児の頭、肩、ひじ、および背中に取り付けられた小さな反射マーカーの動きを記録している間に、3回5分の試験課題を30分の試験中に記録した。運動分析装置は、1秒間に50回、0.04mmの分解能まで、各マーカーの重心の正確な垂直位置および水平位置を記録した。
【0113】
「マイクロイベント(micro-event)」の概念を用いて結果を分析した。新たなマイクロイベントは、マーカーが最も新しい静止位置から1.0ミリメートル以上動いた時に開始し、その位置および期間によって定義される。空間スケール指数部は、運動経路の空間的複雑さの尺度であり、累進的に低い分解能での情報減衰(information decay)の対数率(logarithmic rate)から計算される。時間スケール指数部は、活動時間パーセントのスケール不変確率論的尺度である。値は0(無動)〜1(絶え間ない活動)であり、マイクロイベントの期間とその頻度とのlog-log関係の傾きから計算される(Paulus et al.,Neuropsychopharmacology 7:15-31,1992)。刺激を提示し、活動を記録し、結果を分析するためのソフトウェアはM.Teicherによって書かれ、Cygnex Incにライセンス供与されている。
【0114】
T2緩和時間測定fMRI法および緩和時間計算
小児をスキャナーに配置し、可能な限りじっとしているように指示した。エコープラナーイメージング(echo planar imaging)が可能な全身共鳴勾配セット(Advanced NMR Systems,Inc.,Wilmington,MA)が装備されている1.5-T磁気共鳴スキャナー(Signa,General Electric Medical Systems,Milwaukee,WI)と、画像検出用の標準的なクワドラチャ頭部コイルを用いて、画像を取得した。それぞれの検査の間に、3つの分類の画像を入手した。(1)スカウト画像(一般的に、T1強調サジタル画像);(2)T2画像が作成された10枚の平面による高分解能T1強調適合軸方向画像(High resolution T1-weighted matched axial image);および(3)32スピンエコー,エコープラナー画像セット(TEは、同じ10枚の軸面を通して、それぞれの連続画像セットにおいて4ミリ秒だけ増分されている(例えば、TE(1)=32ミリ秒,TE(2)=36ミリ秒,...TE(32)=160ミリ秒))(TR=10秒,スライス厚=7mm(3mmスキップ),インプレーン分解(in-plane resolution)=3.125mm×3.125mm,FOV=200mm)。次いで、32枚のTEステップ画像をオフラインワークステーションに転送し、DART画像レジストレーションアルゴリズム(Maas et al.,Magn.Reson.Med.37:131-139,1997)の改良版を用いてインプレーンモーション(in plane motion)について補正した。次いで、T2-RT値を、シグナル強度S(x,y,n)の線形回帰によって画素ベースで概算した。1nS(x,y,TE(n))=1nS(x,y,TE=0)-(TE(n)/T2-RT(x,y))であるような、S(x,y,n)(時定数T2-RT(x,y))の指数減衰と仮定した。式中、(x,y)は画素位置であり、TE(n)は、シリーズのn番目の画像に対応するスピンエコー時間である。
【0115】
左前方および右前方の尾状核、被殻、および視床(対照領域)の局所T2-RTの計算は、T1強調画像で観察され、脳室空間に侵入しないように控えめに線を引かれた解剖学的境界を用いて行った(関心対象の領域については図3Aを参照のこと)。領域の線引きおよび画像データの分析は符号化像に対して行い、担当研究者は被験者の身元、診断、または治療条件を知らされなかった。白質および脳脊髄液領域の境界付けによる誤った値による汚染の影響を平均より受けにくい局所推定値が中央値から得られるので、T2-RTは全て指定画素の中央値から計算した。
【0116】
T2-RT測定値の固有信頼性(intrinsic reliability)は、必要であれば、頭部の位置を変える被験者内法(within subject procedure)を用いて求めた。第1の課題の終わりと第2の課題の始まりとの間の時間のずれは約5分であった。正常な成人ボランティアとの8つの課題内比較に基づいて、本発明者らは被殻のT2-RTについて0.942の相関関係、および-0.17%の平均値の差を観察した。
【0117】
統計解析
群間の差は、年齢を共変動としたANCOVAを用いて評価した。群は年齢に有意な差は無かったが、行動測定値およびfMRI測定値は年齢依存的な差を示し、ANCOVAは誤差分散のこの成分を最小限にした。スペルマンランクオーダー(Spearman Rank-Order)検定を用いて、相関関係を計算した。メチルフェニデートを与えたADHD被験者の行動測定値およびfMRI測定値と、プラセボを与えたADHD被験者の行動測定値およびfMRI測定値との間の差は、プラセボ活動(時間スケール)を共変動とした反復測定ANCOVAを用いて評価した。メチルフェニデートの効果がかなり速度依存的であるので、これは分析において非常に重要であり、プラセボ時の基礎活動が薬物効果の大きさの約50%を占めた。
【0118】
他の態様
本明細書で述べられた全ての刊行物および特許出願は、それぞれの独立した刊行物または特許出願が参照として組み入れられるように詳細にかつ個々に示されるのと同じ程度で参照として本明細書に組み入れられる。
【0119】
本発明は本発明の特定の態様に関して説明されたが、さらなる変更が可能であり、この適用は、一般的に本発明の原理に従って、かつ本発明が属する技術分野内の既知のまたは従来の実施の中に入り、前記の本質的な特徴に適応することができ、添付の特許請求の範囲に従う本発明の開示からの逸脱を含めて、本発明の任意の変化、使用、または適合を含むことと意図されることが理解されるだろう。
【0120】
他の態様は添付の特許請求の範囲の範囲内である。
【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】CDP-コリンおよびフルオキセチンの相対効力を示す棒グラフである。
【図2】ヒト脳からのリン-31 MRSデータを示すグラフである。
【図3A】大脳基底核および視床のT1強調解剖画像である。C(尾状核)、P(被殻)、およびT(視床)については、T2緩和時間をサンプリングするために用いられた関心対象の領域を示す。
【図3B】プラセボで治療したADHD小児および健常小児の右被殻の個別のT2緩和時間の散布図である。ADHD試料で見られるT2緩和時間の増加は、局所血液量の減少を示している。
【図4A】プラセボを服用したADHD小児(黒丸)と正常対照(白丸)における、コンピュータによる注意課題の遂行時の右被殻におけるT2-RTと精度の関係を示すグラフである。図示されるように、精度とT2緩和時間には有意で直線的な負の相関関係がある(T2-RTレベルが高いほど灌流が少ない)。
【図4B】ADHD小児におけるメチルフェニデート治療後の右被殻におけるT2-RTパーセント変化を示すグラフである。応答の程度は、活動のベースラインレベルの影響を受けることに留意のこと。時間スケールが大きければ大きいほど、被験者の活動が活発である。0未満のT2-RT変化の値は、メチルフェニデート投与後の局所血液量の増加を示している。
【図5】CDP-コリンの分子構造の模式図である。
【図6】異なるが補足的な2通りの判定方法を用いた標準的な抗うつ薬の効果を示すグラフである。(A)無動潜時(平均±SEM)を測定すると、デシプラミン(DMI)、フルオキセチン(FLX)、およびシタロプラム(CIT)は無動潜時を延長した。(B)行動サンプリングを使用すると、DMIは無動の出現を減少させ、よじ登りの出現を増加させたが、水泳の出現に影響を及ぼさなかった(平均±SEM)。この行動パターンはノルアドレナリン作動性の作用機序と一致している(Detke et al.Psychopharmacology 121:66-72 1995)。対照的に、FLXおよびCITは無動を減少させ、水泳を増加させたが、よじ登りに影響を及ぼさなかった。この行動パターンはセロトニン作動性の作用機序と一致している(Detke et al.Psychopharmacology 121:66-72 1995)。(C)抗うつ薬はラットの体重に影響を及ぼさなかった。P<0.05,**P<0.01,フィッシャーHSD検定,一群あたり7匹〜12匹のラット。
【図7】FSTにおける行動に及ぼすウリジン(URI)単独の影響を示すグラフである。(A)URIは無動潜時を用量依存的に延長した。(B)URIは用量依存的に無動を減少させ、水泳を増加させたが、よじ登りに影響を及ぼさなかった。この行動パターンは、FLXおよびCITなどのSSRIで見られるものと似ている。(C)URIはラットの体重に影響を及ぼさなかった。P<0.05,**P<0.01,フィッシャーHSD検定,一群あたり7匹〜12匹のラット。
【図8】FSTでの行動に及ぼすω-3脂肪酸(OMG)食物添加の影響を示したグラフである。強制水泳に対する最初の暴露の間に、OMGの添加は、前暴露の長さに関係なく、無動潜時(A)にも行動サブタイプ(B)にも影響を及ぼさなかった。しかしながら、再試験の間に、OMGは暴露依存的に無動潜時を延長した(C)。OMGはまた暴露依存的に無動を減少させ、水泳を増加させたが、よじ登りに影響を及ぼさなかった(D)。この行動パターンはSSRIで見られるものと似ている。(E)OMG治療はラットの体重に影響を及ぼさなかった。P<0.05,**P<0.01,フィッシャーHSD検定,一群あたり7匹〜12匹のラット。
【図9】通常、治療有効量未満のOMGを食物添加(3日または10日)したラットにおいて、通常、治療有効量未満のURI(71.7mg/kg)がFSTにおける行動に効果を示したグラフである。予想通り、OMGの添加は、強制水泳に対する最初の暴露の間に、無動潜時(A)にも行動サブタイプ(B)にも影響を及ぼさなかった。しかしながら、再試験の間に、この低投与量のURIは、OMGを10日間与えたラットにおいて無動潜時(C)を延長したが、3日間与えたラットでは無動潜時を延長しなかった。この低投与量のURIはまた、OMGを10日間与えたラットにおいて無動を減少させ、水泳とよじ登りを両方とも増加させたが(D)、3日間与えたラットでは影響を及ぼさなかった。この行動パターンは、TCAまたはSSRIで見られるのもとは異なる。(E)URIとOMGとを用いた組み合わせ治療はラットの体重に影響を及ぼさなかった。P<0.05,**P<0.01,フィッシャーHSD検定,一群あたり7匹〜12匹のラット。
【図10】FSTにおいて抗うつ様効力のあった治療が強制水泳に1回暴露したラットの歩行活動に効果を示したグラフである。(A)再試験の間に、水泳ではなくオープンフィールドで移動した距離(平均±SEM,cm)を測定した場合、どの治療も行動に影響を及ぼさなかった。(B)これらの治療の間でラットの体重に差は無かった。P<0.05,**P<0.01,フィッシャーHSD検定,一群あたり6匹〜8匹のラット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物における精神障害を治療する方法であって、以下の工程を含む方法:
該哺乳動物に、(i)シチジン含有化合物、シトシン含有化合物、またはウリジン含有化合物、および(ii)ω-3脂肪酸を含む組み合わせを投与する工程であって、該組み合わせが治療有効量で投与される、工程。
【請求項2】
シチジン含有化合物、シトシン含有化合物、ウリジン含有化合物、またはω-3脂肪酸が治療有効量未満で投与される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ウリジン含有化合物がウリジン、UTP、またはトリアセチルウリジンである、請求項1記載の方法。
【請求項4】
シチジン含有化合物がシチジンまたはCDPである、請求項1記載の方法。
【請求項5】
シチジン含有化合物がコリンをさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項6】
シチジン含有化合物がCDP-コリンである、請求項1記載の方法。
【請求項7】
ω-3脂肪酸がエイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、またはα-リノレン酸である、請求項1記載の方法。
【請求項8】
ω-3脂肪酸が、魚油、アマニ油、または微細藻類として投与される、請求項1記載の方法。
【請求項9】
精神障害が気分障害である、請求項1記載の方法。
【請求項10】
気分障害が、双極性障害、単極性うつ病、循環気質、または気分変調である、請求項10記載の方法。
【請求項11】
精神障害が注意欠陥多動障害である、請求項1記載の方法。
【請求項12】
精神障害が、強迫性障害(OCD)、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、または恐怖症である、請求項1記載の方法。
【請求項13】
精神障害が精神病性障害である、請求項1記載の方法。
【請求項14】
精神病性障害が統合失調症または分裂情動障害である、請求項13記載の方法。
【請求項15】
精神障害が不安障害である、請求項1記載の方法。
【請求項16】
不安障害がパニック障害または全般性不安障害である、請求項15記載の方法。
【請求項17】
哺乳動物における物質の乱用または依存を治療する方法であって、以下の工程を含む方法:
該哺乳動物に、(i)シチジン含有化合物、シトシン含有化合物、クレアチン含有化合物、ウリジン含有化合物、アデノシン含有化合物、またはアデノシン増加化合物、および(ii)ω-3脂肪酸を含む組み合わせを投与する工程であって、該組み合わせが治療有効量で投与される、工程。
【請求項18】
シチジン含有化合物、シトシン含有化合物、クレアチン含有化合物、ウリジン含有化合物、アデノシン含有化合物、もしくはアデノシン増加化合物、またはω-3脂肪酸が治療有効量未満で投与される、請求項17記載の方法。
【請求項19】
(i)の化合物がシチジン含有化合物、シトシン含有化合物、またはウリジン含有化合物である、請求項17記載の方法。
【請求項20】
ウリジン含有化合物がウリジン、UTP、またはトリアセチルウリジンである、請求項17記載の方法。
【請求項21】
シチジン含有化合物がシチジンまたはCDPである、請求項17記載の方法。
【請求項22】
シチジン含有化合物がコリンをさらに含む、請求項17記載の方法。
【請求項23】
シチジン含有化合物がCDP-コリンである、請求項17記載の方法。
【請求項24】
ω-3脂肪酸がエイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、またはα-リノレン酸である、請求項17記載の方法。
【請求項25】
ω-3脂肪酸が魚油またはアマニ油として投与される、請求項17記載の方法。
【請求項26】
物質がアルコールまたはアヘン剤である、請求項17記載の方法。
【請求項27】
物質がコカイン、アンフェタミン、メタンフェタミン、またはメチルフェニデートである、請求項17記載の方法。
【請求項28】
哺乳動物における心血管疾患、癌、月経困難症、不妊、子癇前症、産後抑うつ、閉経期の不快感、骨粗鬆症、血栓症、炎症、高脂血症、高血圧、慢性関節リウマチ、高グリセリド血症、または妊娠糖尿病を治療する方法であって、以下の工程を含む方法:
該哺乳動物に、(i)シチジン含有化合物、シトシン含有化合物、クレアチン含有化合物、ウリジン含有化合物、アデノシン含有化合物、またはアデノシン増加化合物、および(ii)ω-3脂肪酸を含む組み合わせを投与する工程であって、該組み合わせが治療有効量で投与される、工程。
【請求項29】
シチジン含有化合物、シトシン含有化合物、クレアチン含有化合物、ウリジン含有化合物、アデノシン含有化合物、もしくはアデノシン増加化合物、またはω-3脂肪酸が治療有効量未満で投与される、請求項28記載の方法。
【請求項30】
(i)の化合物がシチジン含有化合物、シトシン含有化合物、またはウリジン含有化合物である、請求項28記載の方法。
【請求項31】
ウリジン含有化合物がウリジン、UTP、またはトリアセチルウリジンである、請求項28記載の方法。
【請求項32】
シチジン含有化合物がシチジンまたはCDPである、請求項28記載の方法。
【請求項33】
シチジン含有化合物がコリンをさらに含む、請求項28記載の方法。
【請求項34】
シチジン含有化合物がCDP-コリンである、請求項28記載の方法。
【請求項35】
ω-3脂肪酸がエイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、またはα-リノレン酸である、請求項28記載の方法。
【請求項36】
ω-3脂肪酸が魚油またはアマニ油として投与される、請求項28記載の方法。
【請求項37】
哺乳動物における神経発達を促進する方法であって、以下の工程を含む方法:
該哺乳動物に、(i)シチジン含有化合物、シトシン含有化合物、クレアチン含有化合物、ウリジン含有化合物、アデノシン含有化合物、またはアデノシン増加化合物、および(ii)ω-3脂肪酸を含む組み合わせを投与する工程であって、該組み合わせが神経発達を促進するのに有効な量で投与される、工程。
【請求項38】
シチジン含有化合物、シトシン含有化合物、クレアチン含有化合物、ウリジン含有化合物、アデノシン含有化合物、もしくはアデノシン増加化合物、またはω-3脂肪酸が、神経発達を促進するのに有効な量で投与されない、請求項37記載の方法。
【請求項39】
(i)の化合物がシチジン含有化合物、シトシン含有化合物、またはウリジン含有化合物である、請求項37記載の方法。
【請求項40】
ウリジン含有化合物がウリジン、UTP、またはトリアセチルウリジンである、請求項37記載の方法。
【請求項41】
シチジン含有化合物がシチジンまたはCDPである、請求項37記載の方法。
【請求項42】
シチジン含有化合物がコリンをさらに含む、請求項37記載の方法。
【請求項43】
シチジン含有化合物がCDP-コリンである、請求項37記載の方法。
【請求項44】
ω-3脂肪酸がエイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、またはα-リノレン酸である、請求項37記載の方法。
【請求項45】
ω-3脂肪酸が魚油またはアマニ油として投与される、請求項37記載の方法。
【請求項46】
哺乳動物における早産を遅らせる方法であって、以下の工程を含む方法:
該哺乳動物に、(i)シチジン含有化合物、シトシン含有化合物、クレアチン含有化合物、ウリジン含有化合物、アデノシン含有化合物、またはアデノシン増加化合物、および(ii)ω-3脂肪酸を含む組み合わせを投与する工程であって、該組み合わせが早産を遅らせるのに有効な量で投与される、工程。
【請求項47】
シチジン含有化合物、シトシン含有化合物、クレアチン含有化合物、ウリジン含有化合物、アデノシン含有化合物、もしくはアデノシン増加化合物、またはω-3脂肪酸が、早産を遅らせるのに有効な量で投与されない、請求項46記載の方法。
【請求項48】
(i)の化合物がシチジン含有化合物、シトシン含有化合物、またはウリジン含有化合物である、請求項46記載の方法。
【請求項49】
ウリジン含有化合物がウリジン、UTP、またはトリアセチルウリジンである、請求項46記載の方法。
【請求項50】
シチジン含有化合物がシチジンまたはCDPである、請求項46記載の方法。
【請求項51】
シチジン含有化合物がコリンをさらに含む、請求項46記載の方法。
【請求項52】
シチジン含有化合物がCDP-コリンである、請求項46記載の方法。
【請求項53】
ω-3脂肪酸がエイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、またはα-リノレン酸である、請求項46記載の方法。
【請求項54】
ω-3脂肪酸が魚油またはアマニ油として投与される、請求項46記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2007−508315(P2007−508315A)
【公表日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−534417(P2006−534417)
【出願日】平成16年10月8日(2004.10.8)
【国際出願番号】PCT/US2004/033354
【国際公開番号】WO2005/086619
【国際公開日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【出願人】(594185673)ザ マクレーン ホスピタル コーポレーション (8)
【Fターム(参考)】