説明

あたたまり感を保持した高香味麦茶飲料

【課題】麦茶のあたたまり感として感じられる焙煎香味を保持し、かつ、苦味・エグミを抑制し、しかも甘味のある香りと香しい焙煎風味及び濃い色調のバランス良く調和された、色調及び香味に優れた高香味の麦茶飲料、及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】L値30〜40の焙煎大麦の抽出液と、ハトムギ及び/又はとうもろこしの抽出液を配合することにより焙煎大麦によるあたたまり感が感じられ、苦味・エグミの抑制された高香味麦茶飲料を製造する。本発明の高香味麦茶飲料の製造方法において、L値30〜40の焙煎大麦の抽出液と、ハトムギ及び/又はとうもろこしの抽出液の配合は、L値30〜40の焙煎大麦の抽出液を、ブリックス寄与度として0.09〜0.3の範囲、ハトムギ及び/又はとうもろこしの抽出液を、ブリックス寄与度0.04〜0.5の範囲で配合される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、あたたまり感があり、しかも麦茶の苦味・エグミを抑制した高香味麦茶飲料、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
麦茶は、焙煎大麦が持つ香しい香りやほのかな甘みを有する嗜好性飲料として古くから飲用されてきた飲料であり、現在では、飲用時にお湯や冷水で抽出して飲用するためのパック等に納められた焙煎大麦製品や、麦茶抽出液として、容器詰めされた麦茶飲料製品として、広く販売、流通されている。麦茶は、甘味のある香りと香しい焙煎風味及び濃い色調を有するものが嗜好され、これらの香味と色調とがバランス良く調和されたものが志向される。
【0003】
麦茶の製造に際しては、甘味のある香りと香しい焙煎風味と濃い色調とのバランス良く調和された抽出液が得られるように大麦の焙煎条件が調整されるが、これらの香味や色調を十分得られるように焙煎度合いを進めると、焙煎香味とともに、苦味・エグミが強くなり、香味及び色調のバランスの良い麦茶抽出液が得られないという問題があった。これらの問題を回避するために、例えば、原料大麦を強い加熱条件下で焙燒して得た色付け用大麦と、原料大麦を弱い加熱条件下で焙燒して得た風味付け用大麦とを混合する麦茶の製造方法が開示されている(特開昭56−96683号公報、特開平6−46808号公報)。しかし、これらのものは、色調の付与や、苦味・エグミの減少の点では改善されているものの、なお、強い加熱条件下の焙燒により生じる焦げ臭やエグミも残り、一方で、全体的な大麦の焙煎の不足により、十分な焙煎香味が得られないという問題がある。
【0004】
また、甘味のある香りと香しい焙煎風味及び濃い色調のバランス良く調和された麦茶抽出液を得るために、焙煎した大麦の麦芽を用い、L値が、(A)84〜90の範囲にある焙煎麦芽20〜50重量%、(B)50〜83の範囲にある焙煎麦芽40〜70重量%、及び(C)35〜45の範囲にある焙煎麦芽10〜30重量%を混合することにより、従来の麦芽よりも香りがよくかつ軽い甘みのある麦茶を製造する方法が開示されている(特開平8−38126号公報)。この方法のものは、渋味、苦味の改善と色調及び香味のバランスの調和の点では改善されているものであるが、麦茶本来の香しい焙煎風味の点では、必ずしも満足の行くものとはなっていない。更に、こげ臭や雑味が除去できた香ばしい香りの穀類茶を製造するために、麦類のような穀類粒の焙煎物を、アスコルビン酸やエリソルビン酸のような還元性物質の存在下で温水により抽出する方法が開示されている(特開2000−116364号公報)。しかしながら、この開示のものは、アスコルビン酸やエリソルビン酸のような還元性物質の添加のために、麦茶飲料本来の自然な風味への影響が避けられないものである。
【0005】
その他、麦茶の抽出液の製造に際して、麦茶の抽出液の苦味や渋味或いはエグミを改善する方法が、種々提案されている。例えば、特開昭60−83574号公報には、苦味質であるホップ毬果の侵出液を含有させることにより麦茶抽出液の単純な渋味を改善する方法が、特開2003−102450号公報には、焙煎大麦等のブリックス糖度0.6未満の抽出物に褐藻類由来のフコイダンを含有させ、エグミが少なく、香味の高い麦茶飲料が、特開2010−207113号公報には、焦げた部分を除去した焙煎穀物からの抽出物に緑茶抽出物を混合することにより、焙煎に起因するこげ臭や苦味が少なく、かつ甘味の強い穀物茶飲料が、及び、特開2010−268774号公報には、焙煎大麦等に、レモンバームや、ハニーブッシュ等のハーブの抽出物の粉末体を配合し、容器詰め麦茶入り飲料における好ましくない後味(苦味、渋味、くせ)を改善した麦茶入り飲料について、それぞれ開示されている。しかしながら、これらのものは上記の場合と同様に、麦茶成分と異なる添加物の添加による香味の改善であるため、麦茶飲料本来の自然な風味への影響が避けられないものである。
【0006】
一方で、冷え性でないヒトの需要に対する「あたたまり」を与える飲料としてピペリン含有飲料が開示され、この飲料は「首」、「背中」、「へその周り」にあたたまり感を速やかに与えるとしている(特開2007−274929号公報)。また、冬の寒い時期、或いは過剰な冷房の室内において感じる手足などの末梢部の冷えは、外気温の低下や体内的な原因(自律神経等)により起こる症状であり、かかる状態においては、血行不良、すなわち身体の末梢に血液がうまく行きわたらないことが認められる場合もある。
【0007】
あたたまり感は、大麦の焙煎によっても生成され得るものであるが、麦茶において苦味・エグミを回避できる焙煎条件(焙煎大麦のL値が40以上)ではあたたまり感を有効に担保することが難しい。
【0008】
ところで、あたたまり感と同様に、焙煎した大麦の生理機能に着目した飲料として、例えば、特開2004−267078号公報には、焙煎温度300℃以上を用い、焙煎中の大麦品温が150〜250℃に達した段階、かつ30分以内で焙煎を終了するという、限定的な焙煎条件で焙煎処理を行うことにより、血流改善効果等を有するピラジン類を生成、残存させた麦茶が開示されている。また、特開2006―42742号公報には、大麦を、特定粒径の珊瑚石、軽石、ゼオライトのような多孔性粒子の共存下で焙煎し、該多孔性粒子を分離したのち、熱水抽出処理することにより、全糖の含有量とピラジン類の含有量を増大した麦茶がそれぞれ開示されている。しかしながら、これらのものは、その機能成分の生成等を目的としていることから、麦茶飲料に求められる麦茶本来の香味や色調のバランスにおいては満足のいくものではなく、上記公報に記載されているように、上記のような麦茶を、麦茶として風味的、色調的に好ましい製品に仕上げるためには、他の焙煎大麦と適宜ブレンドすることが必要となるものであった。
【0009】
このように従来、十分なあたたまり感の得られる大麦の焙煎条件で生成する苦味・エグミを抑制し、しかも甘味のある香りと香しい焙煎風味及び濃い色調のバランス良く調和された、麦茶飲料を提供することはなされていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭56−96683号公報。
【特許文献2】特開昭60−83574号公報。
【特許文献3】特開平6−46808号公報。
【特許文献4】特開平8−38126号公報。
【特許文献5】特開2000−116364号公報。
【特許文献6】特開2003−102450号公報。
【特許文献7】特開2004−267078号公報。
【特許文献8】特開2006―42742号公報。
【特許文献9】特開2007−274929号公報。
【特許文献10】特開2010−207113号公報。
【特許文献11】特開2010−268774号公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、焙煎大麦によるあたたまり感を感じさせ、かつ、苦味・エグミを抑制し、しかも甘味のある香りと香しい焙煎風味及び濃い色調のバランス良く調和された、色調及び香味に優れた高香味の麦茶飲料、及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決すべく、甘味のある香りと香しい焙煎風味及び濃い色調のバランス良く調和された麦茶抽出液を得るために、あたたまり感を感じさせる成分が生成される大麦の焙煎条件下で、同時に生成される苦味・エグミを抑制し、色調及び香味に優れた高香味の麦茶飲料を製造すべく鋭意検討する中で、L値30〜40の焙煎大麦の抽出液と、ハトムギ及び/又はとうもろこしの抽出液を配合することにより、麦茶のあたたまり感を有効に生成することができ、しかも、このような大麦の焙煎の条件下でも、焙煎大麦の抽出液の苦味・エグミの生成を抑制することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち本発明は、L値30〜40の焙煎大麦の抽出液を、飲料全体に対するブリックス寄与度として0.09〜0.3となるように配合し、かつハトムギ及び/又はとうもろこしの抽出液を配合することを特徴とする、苦味・エグミの抑制された高香味麦茶飲料の製造方法からなる。ここで、「ブリックス寄与度」とは、飲料全体のブリックス度に対して該配合成分(例えば、焙煎大麦の抽出液)が付与するブリックス度分をいう。本発明において、焙煎大麦を調製するために用いられる大麦としては、二条大麦又は六条大麦を挙げることができる。該焙煎大麦の抽出液の調製において、麦茶のあたたまり感を感じさせる焙煎香味の生成、保持のためには、焙煎大麦の抽出液のL値が30〜40の焙煎大麦の抽出液が用いられる。
【0014】
本発明の高香味麦茶飲料の製造方法においては、L値30〜40の焙煎大麦の抽出液に、ハトムギ及び/又はとうもろこしの抽出液をブリックス寄与度0.04〜0.5の範囲となるように配合することが好ましい。本発明の高香味麦茶飲料の製造方法において、L値30〜40の焙煎大麦の抽出液と、ハトムギ及び/又はとうもろこしの抽出液のブリックス寄与度全量が、0.1〜0.7の範囲で配合されることが好ましい。
【0015】
本発明は、麦茶飲料が、飲用時にあたたまり感を感じさせる麦茶飲料である、高香味麦茶飲料の製造方法を包含する。
【0016】
また、本発明は、本発明の高香味麦茶飲料の製造方法によって製造された、苦味・エグミが抑制された高香味麦茶飲料自体の発明を包含する。更に、本発明は、該高香味麦茶飲料が、容器詰め麦茶飲料として調製された高香味麦茶飲料自体の発明を包含する。
【0017】
更に、本発明は、L値30〜40の焙煎大麦の抽出液を、飲料全体に対するブリックス寄与度として0.09〜0.3となるように配合し、かつハトムギ及び/又はとうもろこしの抽出液を配合することを特徴とする、麦茶飲料の苦味・エグミの抑制方法の発明を包含する。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、苦味・エグミを抑制し、かつ、麦茶のあたたまり感を保持し、しかも甘味のある香りと香しい焙煎風味及び濃い色調のバランス良く調和された、色調及び香味に優れた高香味の麦茶飲料、及びその製造方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施例における本発明の高香味麦茶飲料のあたたまり感の生理学的機能に関する試験において、体表面温度回復率の結果について示す図である。
【図2】本発明の実施例における本発明の高香味麦茶飲料のあたたまり感の生理学的機能に関する試験において、血流変化率の結果について示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、L値30〜40の焙煎大麦の抽出液を、飲料全体に対するブリックス寄与度として0.09〜0.3となるように配合し、かつハトムギ及び/又はとうもろこしの抽出液を配合することにより、苦味・エグミが抑制され、麦茶のあたたまり感を感じさせる高香味麦茶飲料を製造することからなる。
【0021】
[原料の調製]
【0022】
(焙煎大麦の調製)
本発明において、抽出液の調製に用いられる大麦は、特定の品種に限定されないが、あたたまり感への寄与の観点からは二条大麦、六条大麦が好ましい。焙煎に供する大麦の形状は任意であり、丸粒、割砕品等が使用できるが、苦味・エグミの抑制の観点からは、丸粒が好ましい。抽出液とした場合、丸粒は割砕品よりエグミが少なく香味が優れるからである。
【0023】
焙煎大麦の調製のための焙煎方法は任意である。従来、麦茶の製造に用いられている麦類の焙煎装置及び焙煎方法を適宜用いることができる。本発明において、焙煎大麦の調製に際しての大麦の焙煎度合い(焙煎度)は、L値により評価、調整することができる。L値とは、色調を表すために使用されている値(指標)であり、分光式色差計(例えば、分光測色計CM3500d:ミノルタ製)で測定することができ、本発明において、大麦の焙煎度の指標として用いることができる。
【0024】
本発明において、焙煎された大麦のL値は30〜40とすることが好ましく、30〜36とすることがより好ましく、30〜34とすることが更に好ましい。麦茶の製造に際しての麦類の焙煎に際して、焙煎により生成される苦味やエグミを抑制するためには、一般的にはL値40以上のものが使用される。L値が低いと抽出液の苦味、エグミが強すぎ他の原料と混合しても好ましい香味が得られにくいという問題がある。一方、L値が高いと、抽出液の苦味、エグミを抑制することができるが、麦茶飲料の飲用時にあたたまり感が十分に得られにくいという問題がある。したがって、本発明においては、抽出液飲用時のあたたまり感を担保するためにL値30〜40の焙煎大麦を用いる。
【0025】
(配合穀類)
本発明においては、焙煎大麦抽出液の苦味、エグミを抑制するために、ハトムギ及び/又はとうもろこしの抽出液が配合される。抽出液の調製に用いるハトムギ及び/又はとうもろこしの形状は任意であり、丸粒、割砕品等が使用できるが、割砕品が好ましい。丸粒抽出液より割砕品抽出液の方が焙煎大麦由来の苦味、エグミの調整効果が大きいからである。すなわち、焙煎大麦由来の苦味、エグミを調整するために必要と思われる成分が、割砕品から抽出されるものに比較して、丸粒では十分に抽出されないためである。丸粒、割砕品いずれの場合も市販品を使用することができる。
【0026】
(添加物)
本発明の麦茶飲料の製造に際しては、本発明の麦茶飲料の自然な香味及び色調を損なわない範囲で、適宜の成分及び添加物を添加することができる。たとえば、穀類以外の植物としては、カメリアシネンシス由来の茶葉(紅茶葉、烏龍茶葉、緑茶葉)、杜仲茶、グァバ葉、柿の葉、あまちゃづる、びわの葉、チコリー、大麦若葉、明日葉等を挙げることができ、該植物成分を添加して、香味の付与を行うことができるが、該成分の添加は、本発明の麦茶飲料の自然な香味及び色調を損なわない範囲で行うことが望ましい。また、コショウ、ショウガ、のような香辛料を添加することができる。該香辛料を添加する場合、その種類、形状(固体、液体)、状態(乾燥、湿潤)は任意であり、固体の場合は粒径や破砕度も任意であり、更に、搾り汁やその濃縮液、乾燥品、アルコール抽出物等、いずれの調製法によるものでもよい。しかし、かかる場合にも、本発明の麦茶飲料の自然な香味及び色調を損なわない範囲での添加が望ましい。
【0027】
[麦茶飲料の調製]
本発明の麦茶飲料の製造は、原料抽出工程、調合工程、及び殺菌工程からなる。
【0028】
(原料抽出工程)
本発明の麦茶飲料の製造における原料抽出工程は、原料として用いるL値30〜40の焙煎大麦、或いは、ハトムギ及び/又はとうもろこしからなる麦茶飲料の被抽出原料を熱水抽出する工程からなる。被抽出原料から抽出液を調製し、該抽出液を配合するには、L値30〜40の焙煎大麦、或いは、ハトムギ及び/又はとうもろこしからなる被抽出原料から、それぞれ熱水抽出により抽出液を調製し、該抽出液を混合するか、或いは、L値30〜40の焙煎大麦とハトムギ及び/又はとうもろこしとを合わせて被抽出原料とし、該被抽出原料から熱水抽出により抽出液を調製することによって行うことができる。
【0029】
被抽出原料の熱水抽出において、抽出に用いる水の温度は任意であり、被抽出原料の種類、目標とする香味によって適宜調整すればよいが、L値30〜40の焙煎大麦の場合は、70〜120℃が好ましく、80〜100℃がより好ましい。ハトムギの場合は、70〜120℃が好ましく、80〜100℃がより好ましい。とうもろこしの場合は、70〜120℃が好ましく、80〜100℃がより好ましい。L値30〜40の焙煎大麦とハトムギを混合したものの場合は、70〜120℃が好ましく、80〜100℃がより好ましい。L値30〜40の焙煎大麦とハトムギととうもろこしを混合したものの場合は、70〜120℃が好ましく、80〜100℃がより好ましい。
【0030】
被抽出原料の熱水抽出において、被抽出原料を合わせてから抽出した場合も、被抽出原料をそれぞれ抽出して得られた抽出液を混合した場合も、被抽出原料と水の割合は任意であり、製造設備や目標とする香味により調整すればよいが、被抽出原料に対する水の重量比として、1:132〜1:0.031が好ましく、1:99〜1:39がより好ましい。得られる抽出液の濃度は任意であり、製造設備や目標とする香味、飲料の形態により調整すればよい。
【0031】
(原料抽出液の調製)
本発明の麦茶飲料の製造において、L値30〜40の焙煎大麦の抽出液と、ハトムギ及び/又はとうもろこしの抽出液を配合し、麦茶飲料の飲用時にあたたまり感の得られるような焙煎の条件下で生成される苦味やエグミを抑制した高香味の抽出液を調製するには、L値30〜40の焙煎大麦の抽出液、或いは、ハトムギ及び/又はとうもろこしの抽出液が、飲料全体のブリックス度に対して与えるブリックス度分(ブリックス寄与度)を調整することが必要である。ここで、ブリックス度とは濃度であり、屈折示度を用いて、示差屈折計((株)アタゴ製)により測定することができる。
【0032】
本発明の麦茶飲料を容器詰め飲料とする場合、高香味の付与の観点から飲料における被抽出原料全体のブリックス寄与度としては、0.1〜0.7とすることが好ましく、0.2〜0.6がより好ましい。98℃の熱水抽出の場合、L値30〜40の焙煎大麦による飲料中のブリックス寄与度は、0.1〜0.7が好ましく、0.2〜0.6がより好ましい。L値30〜40の焙煎大麦の抽出液の場合、0.09〜0.3が好ましく、0.1〜0.25がより好ましい。ブリックス寄与度が低いと抽出液の飲用によるあたたまり感が得られず、一方、ブリックス寄与度が大きいとエグミが強くなり、香味上好ましくないからである。
【0033】
L値31〜35の焙煎大麦を用いる場合、大麦、ハトムギ、とうもろこしのブリックス寄与度の比は、1:0.5:0.4〜1:0.04:0.02が好ましく、1:0.5:0.4〜1:0.04:0.25がより好ましい。1:0.5:0.4〜1:0.05:0.25が更に好ましい。比が低いと飲用時のあたたまり感が得られず、比が高いと香味上好ましくないからである。
【0034】
(調合工程)
本発明の麦茶飲料の製造における調合工程は、所定の抽出液に任意の原料を添加し、更に、水を加え目的濃度の飲料液とすることからなる。該任意の原料と水の添加順序、添加方法は限定はないが、例えば、pHを調整した抽出液に香辛料粉末を溶解させた後に必要量の水を加える方法とすることができる。
【0035】
(殺菌工程)
本発明の麦茶飲料の製造における殺菌工程は、容器詰め麦茶飲料等、提供する飲料形態に合わせたいずれの方法を用いてもよいが、加熱殺菌法を採用することができる。加熱殺菌条件が120℃4分相当以上であればレトルト殺菌とUHT殺菌のいずれでもよい。本発明の高香味麦茶飲料の製造方法を工程で示すと:L値30〜40の焙煎大麦の熱水抽出液と、ハトムギ及び/又はとうもろこしの熱水抽出液を配合するか、或いはL値30〜40の焙煎大麦と、ハトムギ及び/又はとうもろこしとを熱水抽出することによるL値30〜40の焙煎大麦の熱水抽出液とハトムギ及び/又はとうもろこしの配合熱水抽出液を調製する工程;配合熱水抽出液に水を添加して、L値30〜40の焙煎大麦の熱水抽出液とハトムギ及び/又はとうもろこしのブリックス寄与度を0.1〜0.7の範囲に調合する工程;及び調合した麦茶飲料液を、120℃4分相当以上の殺菌強度で加熱殺菌処理する工程からなる。
【0036】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0037】
[試験1:焙煎大麦のL値と飲料寄与ブリックス度(°Bx)の香味への影響]
【0038】
<試験方法>
L値21〜42である焙煎六条大麦(カナダ産、熱風焙煎品、丸粒)40gに98℃400gの熱水を加え、30分間保持し、120メッシュのストレーナーを通して固液分離した。抽出液に水を加え下記°Bx、20℃とした後、4人の訓練されたパネルの官能評価により評価した。評価基準は表1のとおりである。
【0039】
【表1】

【0040】
<結果>
結果を表2に示す。L値は、32〜40のとき香味が良好な傾向にあった。L値36〜38のとき、°Bx0.22以上で香味が低下する傾向(評価が◎でなく○又は△となることを意味する)が見られた。L値34以下では、°Bx0.18以上で香味が低下する傾向が見られ、0.22以上では良好な香味とは言えなかった。
【0041】
【表2】

【実施例2】
【0042】
[試験2:焙煎大麦への添加試験]
【0043】
<試験方法>
L値32の焙煎六条大麦から得られた、°Bx0.24に調整した抽出液100gに、°Bx0.24に調整した表4に示す原料の熱水抽出液20gを配合し評価した。評価は試験1と同様の官能評価により行った。ただし、評価基準は表3のとおりとした。
【0044】
【表3】

【0045】
<結果>
結果を表4に示す。ハトムギ、とうもろこしで良好な結果を得ることができた。なお、いずれにおいても配合後の混合液の、°Bxは0.24であった。
【0046】
【表4】

【0047】
表4中の原料の性状は表5のとおりである。
【0048】
【表5】

【実施例3】
【0049】
[試験3−1:ハトムギ及びとうもろこしを添加した焙煎大麦のL値、飲料寄与°Bx、の香味への影響]
【0050】
<試験方法>
焙煎六条大麦30gとハトムギ4gととうもろこし2gを混合し、98℃400gの熱水を加え、30分間保持し、120メッシュのストレーナーを通して固液分離して試験飲料とした。評価方法は試験1と同様とした。
【0051】
<結果>
結果を表6に示す。L値30〜40のときの香味が良好な傾向にあり、焙煎六条大麦のみの場合(試験1)より、良好な香味の得られるL値の範囲が広くなった(評価○以上の得られるL値の範囲;試験1では32〜40であり、試験2では30〜40であった)。また、L値34のとき、焙煎六条大麦の°Bx寄与度0.3で香味が低下する傾向(評価が◎でなく○又は△となることを意味する)が見られた。L値31〜32のとき香味低下の傾向は、0.24以上において認められた。すなわち、L値31〜34の場合、試験2の方が試験1と比較して、焙煎六条大麦の°Bx寄与度の高いときにも香味が良好となることが確認された。なお、本試験における°Bx寄与度の比は、六条大麦:とうもろこし:ハトムギについて、1:0.13:0.11であった。
【0052】
【表6】

【実施例4】
【0053】
[試験3−2:(1)ハトムギ及びとうもろこしを添加した焙煎大麦、飲料寄与°Bx、の香味への影響]
【0054】
<試験方法>
焙煎六条大麦(丸粒、L値32)、ハトムギ(割砕品、L値36)、とうもろこし(割砕品、L値22)、各40gにそれぞれ98℃400gの熱水を加え、30分間保持し、120メッシュのストレーナーを通して固液分離し抽出液を得た。得られた抽出液を混合し、香味評価を行った。評価方法は試験1と同様とした。
【0055】
<結果>
結果を、表7に示す。該表は、各原料の、°Bx寄与度が下記のときの香味評価について記載した。焙煎六条大麦ととうもろこしにハトムギを追加することにより非常に良好な香味となった。また、このとき、全体の、°Bxが少なくとも0.267〜0.343の範囲において非常に良好な香味であった。表中、全体°Bxとは、焙煎六条大麦、とうもろこし、ハトムギそれぞれの°Bx寄与度の合計を意味する。
【0056】
【表7】

【実施例5】
【0057】
[試験3−2:(2)ハトムギ及びとうもろこしを添加した焙煎大麦、飲料寄与、°Bx、の香味への影響]
【0058】
<試験方法>
焙煎六条大麦(丸粒、L値32)20〜40g、ハトムギ20〜40g、とうもろこし20〜40gを各原料の、°Bx寄与度が目標値となるように適宜混合し、98℃400gの熱水を加え、30分間保持し、120メッシュのストレーナーを通して固液分離した。評価方法は試験1と同様とした。
【0059】
<結果>
結果を表8に示す。該表は、各原料の、°Bx寄与度が下記のときの香味評価について記載した。焙煎六条大麦:ハトムギ:とうもろこしの、°Bx寄与度の比が1:0.1:0.2のとき(全体の、°Bxが0.286)、1:1:1のとき(全体の、°Bxが0.66)香味が良好な傾向であった。比が1:0.01:0.01のとき(全体の、°Bxが0.224444)不快な香味であった。
【0060】
【表8】

【実施例6】
【0061】
[試験4:製造試験]
【0062】
<試験方法>
82kgの焙煎大麦とハトムギ12kgととうもろこし6kgを混合し、熱水を加え保持した後に固液分離した(抽出液)。得られた抽出液に抽出に供されない原料を添加し、表9記載の組成の容器詰飲料とした。殺菌処理は容器充填後に行い、条件は121℃×20分とした。評価は殺菌前、殺菌後において行った。
評価方法は試験2と同様とした。
【0063】
【表9】

【0064】
<結果>
結果を表10に示す。殺菌前はハトムギととうもろこし由来の甘く香ばしい香りが立っているが、殺菌後に大麦の香ばしさが出現し、麦の風味を増したものとなった。
【0065】
【表10】

【実施例7】
【0066】
[試験5:ヒトにおけるダブルブラインド並行群間比較試験(生理機能評価試験)]
【0067】
<試験方法>
処方飲料を用い、後述方法による部分冷え改善効果検証試験を行った。
【0068】
(1.方法;部分冷え改善効果検証試験の概要)
安静にさせた被験者にプラセボ飲料(偽飲料)或いは処方飲料を摂取させた後、15℃に調整した水槽に、被験者の左手の手のひら全体を浸け、1分間冷却した。1分後に左手を引き上げて水滴を拭き取った時点を冷却後0分とし、冷却開始後から5分、10分、15分、20分、30分経過時における手のひらの温度および血流を測定した。温度はサーモグラフィー、血流はレーザードップラー血流計を用いて、それぞれの冷却直前の温度あるいは血流を基準にし、各経過時間での温度による回復率を求めた。回復率は、次の計算式により算出した:T分後の回復率(%)=(T分後の値−冷却負荷直後(0分)の値)/(冷却負荷前(−5分)の値−冷却負荷直後(0分)の値)×100
【0069】
[1]試験飲料:
表11に記載の2つの処方飲料と、プラセボ飲料を試験飲料として評価した。プラセボ飲料としてカラメル色素を配合したイオン交換水(擬似茶飲料)を用いた。焙煎六条大麦、とうもろこし、ハトムギの配合量は°Bx寄与度として記載した。
【0070】
【表11】

【0071】
[2]部分冷え改善効果検証試験のタイムスケジュール:
(1)問診、身体検査、理学検査を行う。
(2)約45分間安静にする(室温25〜26℃、湿度45〜60%)。
(3)安静終了後(冷却負荷終了の約11分前)に摂取前のサーモグラフィー、血流の測定を行う。
(4)冷却負荷終了の10分前に試験食品250mLを摂取する。試験食品摂取5分後に冷却負荷前のサーモグラフィー、血流の測定を行う。
(5)試験食品摂取9分後に冷却負荷(15℃、1分間)を行い、その負荷直後(0)、5、10、15、20、30分後にサーモグラフィー、血流の測定を行う。
(6)事前検査では、試験食品の代わりに水を250mL摂取する。また、事前検査は、冷負荷後15分までの測定とする。
【0072】
[3]測定方法:
(1)サーモグラフィーは左手手のひら全体、レーザー血流計は左手中指を測定する
(2)測定は、サーモグラフィー、レーザー血流計の順とする。
【0073】
<結果>
結果を図1及び図2に示す。処方飲料を摂取すると、冷却負荷後の皮膚表面の体温の回復が早かった。また、血流が増加していることがわかった。また血流については、冷却負荷直後より処方飲料のほうが高い値を示した。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、麦茶の焙煎大麦によるあたたまり感を感じさせ、かつ、苦味・エグミが抑制された、しかも甘味のある香りと香しい焙煎風味及び濃い色調のバランス良く調和された、色調及び香味に優れた高香味の麦茶飲料を提供する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
L値30〜40の焙煎大麦の抽出液を、飲料全体に対するブリックス寄与度として0.09〜0.3となるように配合し、かつハトムギ及び/又はとうもろこしの抽出液を配合することを特徴とする、苦味・エグミの抑制された高香味麦茶飲料の製造方法。
【請求項2】
焙煎大麦が、二条大麦又は六条大麦の焙煎大麦であることを特徴とする請求項1記載の高香味麦茶飲料の製造方法。
【請求項3】
L値30〜40の焙煎大麦の抽出液に、ハトムギ及び/又はとうもろこしの抽出液をブリックス寄与度0.04〜0.5の範囲となるように配合することを特徴とする請求項1又は2記載の高香味麦茶飲料の製造方法。
【請求項4】
L値30〜40の焙煎大麦の抽出液と、ハトムギ及び/又はとうもろこしの抽出液のブリックス寄与度全量が、0.1〜0.7の範囲であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の高香味麦茶飲料の製造方法。
【請求項5】
麦茶飲料が、飲用時にあたたまり感を感じさせる麦茶飲料である、請求項1〜4のいずれか記載の高香味麦茶飲料の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか記載の高香味麦茶飲料の製造方法によって製造された苦味・エグミが抑制された高香味麦茶飲料。
【請求項7】
高香味麦茶飲料が、容器詰麦茶飲料であることを特徴とする請求項6記載の高香味麦茶飲料。
【請求項8】
L値30〜40の焙煎大麦の抽出液を、飲料全体に対するブリックス寄与度として0.09〜0.3となるように配合し、かつハトムギ及び/又はとうもろこしの抽出液を配合することを特徴とする、麦茶飲料の苦味・エグミの抑制方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2013−42669(P2013−42669A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−180353(P2011−180353)
【出願日】平成23年8月22日(2011.8.22)
【出願人】(391058381)キリンビバレッジ株式会社 (94)
【出願人】(000253503)キリンホールディングス株式会社 (247)
【Fターム(参考)】