説明

あと施工アンカー用接着剤の試験体作製方法

【課題】実施工とほぼ同じ条件で、簡単な手順で容易に接着剤の試験体を作製することが可能で、現場施工状態における接着剤の強度や品質などの接着性能を推認するための試験に好ましく用いることができるあと施工アンカー用接着剤の試験体作製方法を提供する。
【解決手段】あと施工アンカーの規格に合わせて供試削孔4を形成することにより、分離されるブロック片6それぞれに溝部8が得られる供試ブロック体1と、供試削孔に挿入される接着剤封入カプセル9を破砕し接着剤を練り混ぜるための練り混ぜ具2とを準備し、次いで、供試削孔内に接着剤封入カプセルを挿入して、練り混ぜ具でカプセルを破砕すると共に接着剤の練り混ぜを行い、次いで、ブロック片を分離して、カプセル片を含む練り混ぜ後の接着剤を試料として溝部から採取し、次いで、試料を、試験体作製用の型枠に充填し硬化させて、試験に供するための試験体を作製するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、実施工とほぼ同じ条件で、簡単な手順で容易に接着剤の試験体を作製することが可能で、現場施工状態における接着剤の強度や品質などの接着性能を推認するための試験に好ましく用いることができるあと施工アンカー用接着剤の試験体作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
躯体表面に形成した削孔に接着剤を介して定着されるあと施工アンカーの施工では、接着剤を封入した接着剤封入カプセルを削孔に挿入し、削孔内でアンカーによりカプセルを破砕し接着剤を練り混ぜるようにしている。
【0003】
接着剤は例えば、セメントや水などの各種材料からなり、カプセルに封入されたこれら各種材料がアンカーによって練り混ぜられることにより、接着性能を発揮する。接着剤自体の強度や品質等の接着性能を確認する場合には、十分に時間をかけて練り混ぜた接着剤から試験体を作製し、この試験体を用いて各種試験を行っている。
【0004】
ところで、実際の施工では、上記のように試験体を作製する場合とは異なり、接着剤の練り混ぜは、アンカーを削孔に打ち込むまでの短い時間で終了し、また、破砕されたカプセル片が混入している。従って、実際の現場施工で得られる接着剤の強度や品質等の接着性能は、各種試験による接着剤そのものの接着性能とは異なっている。
【0005】
現場での実際の施工状態における接着剤の接着性能を確認するための技術としては、特許文献1及び特許文献2が知られている。
【0006】
特許文献1の「耐震補強工事におけるアンカーボルト引張耐力検査工具」は、摩擦圧接ボルトとボルト引張耐力検査用カプラーとテンションバーとから構成される摩擦圧接ボルト引抜治具を設け、該引抜治具を介して工事現場にて高性能・多機能型アンカーボルトの非破壊試験を行うようにしている。
【0007】
特許文献2の「アンカー用せん断試験機」は、躯体表面に沿って配設される本体部およびこの本体部から躯体表面に垂直な方向に突設された突出部を有して前記本体部がアンカーの躯体表面から露出した露出部に着脱可能に連結することが可能になっている支圧板と、固定アンカーによって躯体表面に着脱可能に固定される反力台と、反力台上に載置されると共に反力台に反力を取って支圧板の突出部に対して躯体表面に沿った駆動力を付与する駆動源と、駆動源による荷重を測定する荷重測定器とを備えるアンカー用せん断試験機を用いるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−50877号公報
【特許文献2】特開2005−283224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
現場での実施工にて、接着剤の強度や品質等の接着性能の確認試験を行うことは、試験機の搬入や設置などを含め、非常に手間と労力がかかるという課題があった。
【0010】
本発明は上記従来の課題に鑑みて創案されたものであって、実施工とほぼ同じ条件で、簡単な手順で容易に接着剤の試験体を作製することが可能で、現場施工状態における接着剤の強度や品質などの接着性能を推認するための試験に好ましく用いることができるあと施工アンカー用接着剤の試験体作製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明にかかるあと施工アンカー用接着剤の試験体作製方法は、あと施工アンカーを削孔に定着させるために、該削孔に挿入した接着剤封入カプセルを破砕し練り混ぜたときに得られる、破砕されたカプセル片を含む練り混ぜ後の接着剤を試料にして試験体を作製するためのあと施工アンカー用接着剤の試験体作製方法であって、単一ブロックを分断してブロック片を形成し、これらブロック片を、分断箇所で合わせて分離可能に接合して再生ブロックを形成し、該再生ブロックが有する分断境界位置に、あと施工アンカーの規格に合わせて供試削孔を形成し、該再生ブロックを該ブロック片に分離することによりこれらブロック片それぞれに溝部が得られる供試ブロック体と、上記供試削孔に挿入される接着剤封入カプセルを破砕し接着剤を練り混ぜるための練り混ぜ具とを準備し、次いで、上記供試削孔内に接着剤封入カプセルを挿入して、上記練り混ぜ具でカプセルを破砕すると共に接着剤の練り混ぜを行い、次いで、上記ブロック片を分離して、カプセル片を含む練り混ぜ後の接着剤を試料として上記溝部から採取し、次いで、上記試料を、試験体作製用の型枠に充填し硬化させて、試験に供するための試験体を作製するようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明にかかるあと施工アンカー用接着剤の試験体作製方法にあっては、実施工とほぼ同じ条件で、簡単な手順で容易に接着剤の試験体を作製することができ、現場施工状態における接着剤の強度や品質などの接着性能を推認するための試験に好ましく用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係るあと施工アンカー用接着剤の試験体作製方法の好適な一実施形態に用いられる供試ブロック体を説明する説明図である。
【図2】図1に示した供試ブロック体を組み合わせて供試削孔を再現する一つの方法を示す概略斜視図である。
【図3】本発明に係るあと施工アンカー用接着剤の試験体作製方法の好適な一実施形態における接着剤封入カプセルを練り混ぜ具で破砕し練り混ぜる準備段階を示す概略斜視図である。
【図4】図1に示した供試ブロック体のブロック体の溝部から接着剤の試料を採取する様子を示す概略斜視図である。
【図5】図4で採取した試料を型枠に充填した様子を示す概略斜視図である。
【図6】図5の型枠で硬化させた試験体を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明にかかるあと施工アンカー用接着剤の試験体作製方法の好適な一実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。図1〜図6には、本実施形態に係るあと施工アンカー用接着剤の試験体作製方法の手順が順次示されている。本実施形態に係るあと施工アンカー用接着剤の試験体作製方法では、まず最初に、供試ブロック体1と練り混ぜ具2とを準備する。
【0015】
図1には、供試ブロック体1の作製手順が示されている。供試ブロック体1は、実施工において躯体に設けられる削孔と同じ寸法で、試験体3(図6参照)を作製するための供試削孔4を形成するために用いられる。まず、無垢の単一ブロック5を用意する(図1中、(a)参照)。単一ブロック5は、どのような形態であってもよいが、取扱性からして、図示したような直方体状や円柱状であることが好ましい。単一ブロック5は、金属材料もしくはFRPなどの合成樹脂材料で形成される。
【0016】
単一ブロック5は、ほぼその中央で分断され、これにより互いに向かい合う分断面6aを有する2つのブロック片6が形成される(図1中、(b)参照)。次いで、これらブロック片6を、分断箇所である分断面6a同士を合わせて、元通り分断する前の状態に組み合わせ、その後、溶接(図中、wで示す)や接着、もしくは緊縛するなどして、ブロック片6同士を分離可能に接合し、これにより再生ブロック7を形成する(図1中(c)参照)。再生ブロック7は、その周りに、ブロック片6同士を合わせることで分断面6a同士の突き合わせ位置に形成される分断境界Bを有する。
【0017】
次いで、再生ブロック7のいずれかの平坦面を選択し、選択した平坦面の分断境界B位置に、あと施工アンカーの規格に合わせて供試削孔4を形成する(図1中、(d)参照)。
【0018】
あと施工アンカーはその規格に従って種々の寸法で形成され、このため、実施工で形成される削孔は、種々の寸法のあと施工アンカーに合わせて、様々な寸法で形成される。再生ブロック7に形成される試験体作製用の供試削孔4は、実施工で用いられるいずれかのあと施工アンカー、言い換えれば実施工で形成されるいずれかの削孔の寸法と同じ寸法で形成される。従って、供試削孔4が形成される再生ブロック7は、あと施工アンカーの規格ごともしくは削孔の寸法ごとに複数種類作成される。
【0019】
供試削孔4を再生ブロック7に形成した段階で、供試ブロック体1が完成する。供試ブロック体1は、一体となっている再生ブロック7をブロック片6に分離することにより、これらブロック片6それぞれに、形成した供試削孔4によって各分断面6aに溝部8が得られる構造を備えている(図1中、(e)参照)。試験体3の作製に際しては、供試ブロック体1は、上記溶接wや接着、緊縛するなどした状態で使用に供しても良いし、接合を除去してブロック片6の形態で使用に供してもよい。
【0020】
供試削孔4は、実施工においてあと施工アンカーが定着されると共に、その定着を確保するために接着剤封入カプセル9が挿入される実施工の削孔に対応する。練り混ぜ具2は図3に示すように、実施工と同様に、供試削孔4に挿入される接着剤封入カプセル9を当該供試削孔4内で破砕し接着剤を練り混ぜるために用いられる。練り混ぜ具2は、実施工に用いられるアンカーを使用すればよい。
【0021】
供試ブロック体1及び練り混ぜ具2を準備したならば、接着剤封入カプセル9を用いて、試験体3を作製する。供試ブロック体1をブロック片6に分離している場合には、図2に示すように、治具10にてブロック片6を組み、供試削孔4を再現する。
【0022】
図2に例示している治具10は、直方体状の単一ブロック5から作製した供試ブロック体1の底面及び一側面の位置を規定するL字型定盤10aと、定盤10aで位置規制された一側面とは反対側の他側面から供試ブロック体1にあてがわれる拘束板片10bと、拘束板片10bを定盤10aに緊締するロッド及びナットからなる緊締手段10cとから構成されている。
【0023】
図示した治具10は単なる一例であって、ブロック片6を組んで供試ブロック体1を一体化することにより供試削孔4を再現できるものであれば、どのような構成の治具であっても良いことはもちろんである。上述したように、供試削孔4を形成し終えた状態の、ブロック片6を分離可能に接合したままの供試ブロック体1を用いるようにしてもよい。
【0024】
次いで、図3に示すように、供試ブロック体1の供試削孔4内に接着剤封入カプセル9を挿入し、練り混ぜ具2でカプセルを破砕すると共に接着剤の練り混ぜを行う。練り混ぜは、実施工での練り混ぜ態様に合わせて行う。接着剤は、無機系・有機系のいずれであってもよい。
【0025】
次いで、図4に示すように、供試ブロック体1をブロック片6に分離する。分離した各ブロック片6の溝部8には、破砕されたカプセル片を含む練り混ぜ後の接着剤Aが溜まっている。溜まっている接着剤Aから、練り混ぜ状況を目視で確認することができる。
【0026】
溜まっている接着剤Aを試料として、溝部8からスプーン11などですくい取って採取する。採取する際、実施工でも同様であるが、練り混ぜ具2が到達し難いため、そしてまた外部に開放されているため、接着剤の練り混ぜが不十分な供試削孔4の底部や供試削孔4の開口部周辺の接着剤は採取しないことが好ましい。これにより、均質に練り混ぜられた接着剤Aを、試料として用いることができる。
【0027】
次いで、図5に示すように、採取した試料である接着剤Aを試験体作製用の型枠12に充填し、硬化させた後に脱型する。これにより図6に示すように、接着剤の強度や品質などの接着性能の試験(例えば、圧縮試験など)に供するための試験体3が作製される。図示例にあっては、角柱状の試験体3を例示しているが、円柱状など、その他各種形態の試験体を作製するようにしても良いことはもちろんである。
【0028】
以上説明した本実施形態に係るあと施工アンカー用接着剤の試験体作製方法にあっては、単一ブロック5を分断してブロック片6を形成し、これらブロック片6を、分断箇所で合わせて分離可能に接合して再生ブロック7を形成し、再生ブロック7が有する分断境界B位置に、あと施工アンカーの規格に合わせて供試削孔4を形成し、再生ブロック7をブロック片6に分離することによりこれらブロック片6それぞれに溝部8が得られる供試ブロック体1と、供試削孔4に挿入される接着剤封入カプセル9を破砕し接着剤を練り混ぜるための練り混ぜ具2とを準備し、次いで、供試削孔4内に接着剤封入カプセル9を挿入して、練り混ぜ具2でカプセルを破砕すると共に接着剤の練り混ぜを行い、次いで、ブロック片6を分離して、カプセル片を含む練り混ぜ後の接着剤Aを試料として溝部8から採取し、次いで、試料である接着剤Aを、試験体作製用の型枠12に充填し硬化させて、試験に供するための試験体3を作製するようにしたので、試験室レベルで、実施工とほぼ同じ条件にて簡単な手順で容易に接着剤の試験体3を作製することができ、現場での実施工にて、労力や手間をかけて試験機の搬入や設置を行って接着剤の接着性能の確認試験を行う場合に比べて、作製した試験体3を用いて現場施工状態における接着剤の強度や品質などの接着性能を推認するための試験を適切に実施することができる。
【符号の説明】
【0029】
1 供試ブロック体
2 練り混ぜ具
3 試験体
4 供試削孔
5 単一ブロック
6 ブロック片
7 再生ブロック
8 溝部
9 接着剤封入カプセル
12 型枠
A 破砕されたカプセル片を含む練り混ぜ後の接着剤
B 分断境界

【特許請求の範囲】
【請求項1】
あと施工アンカーを削孔に定着させるために、該削孔に挿入した接着剤封入カプセルを破砕し練り混ぜたときに得られる、破砕されたカプセル片を含む練り混ぜ後の接着剤を試料にして試験体を作製するためのあと施工アンカー用接着剤の試験体作製方法であって、
単一ブロックを分断してブロック片を形成し、これらブロック片を、分断箇所で合わせて分離可能に接合して再生ブロックを形成し、該再生ブロックが有する分断境界位置に、あと施工アンカーの規格に合わせて供試削孔を形成し、該再生ブロックを該ブロック片に分離することによりこれらブロック片それぞれに溝部が得られる供試ブロック体と、上記供試削孔に挿入される接着剤封入カプセルを破砕し接着剤を練り混ぜるための練り混ぜ具とを準備し、
次いで、上記供試削孔内に接着剤封入カプセルを挿入して、上記練り混ぜ具でカプセルを破砕すると共に接着剤の練り混ぜを行い、
次いで、上記ブロック片を分離して、カプセル片を含む練り混ぜ後の接着剤を試料として上記溝部から採取し、
次いで、上記試料を、試験体作製用の型枠に充填し硬化させて、試験に供するための試験体を作製するようにしたことを特徴とするあと施工アンカー用接着剤の試験体作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−215400(P2012−215400A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−79250(P2011−79250)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000000446)岡部株式会社 (277)
【Fターム(参考)】