説明

う蝕性リスクの判定方法及び判定薬

【課題】 う蝕の発生程度や発生の危険性を簡便かつ迅速に判定するための方法及び判定薬を提供。
【解決手段】 本発明は、ストレプトコッカス・ソブリナス由来のGTF−Iに対するモノクローナル抗体を含有する試薬を用いて口腔内の当該GTF−I量を測定することを特徴とするう蝕性リスクの判定方法、並びにストレプトコッカス・ソブリナス由来のGTF−Iに対するモノクローナル抗体及びストレプトコッカス・ミュータンス由来のGTF−Bに対するモノクローナル抗体を含有するう蝕性リスクの判定薬。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、う蝕性リスクの判定方法及び判定薬に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトのう蝕原因菌としては、ストレプトコッカス・ミュータンスが広く知られており、う蝕は、ストレプトコッカス・ミュータンスが産生するグルコシルトランスフェラーゼ(以下、「GTFという」)により、口中のショ糖から粘着性・非水溶性のグルカンが生成され、これにより当該菌体が歯表面に付着してバイオフィルム(歯垢)を形成し、この歯垢中で種々の口腔内細菌が繁殖して有機酸が産生され、歯表面のpHが低下することによりエナメル質表面に脱灰を招く結果発生すると考えられている。
【0003】
最近になって、ストレプトコッカス・ソブリナスが、ストレプトコッカス・ミュータンスよりもヒトのう蝕に強く影響していることが明らかになってきた。すなわち、ストレプトコッカス・ミュータンスはう蝕のないヒトの口腔内からも検出されたのに対し、ストレプトコッカス・ソブリナスはう蝕の多い患者のみから検出された(非特許文献1)。
【0004】
ストレプトコッカス・ソブリナスの検出手段としては、発色培地を用いる方法(特許文献1等)が一般的である。しかし、この方法では、菌の培養を伴うことから判定までに3日〜1週間を必要とした。一方、ストレプトコッカス・ソブリナスの乾燥菌体を直接抗原として用いて得られた抗ストレプトコッカス・ソブリナス抗体を用いた診断薬(特許文献2及び3)が報告されている。
【非特許文献1】Jorunal of Dental Research, Vol. 74, p.501(1991)
【特許文献1】特開2003−38167号公報
【特許文献2】特開2002−58476号公報
【特許文献3】特開2002−105100号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の抗ストレプトコッカス・ソブリナス抗体は、菌体全体を抗原として用いていることから、これを利用したう蝕判定法は臨床症状と一致しない。すなわち、ストレプトコッカス・ソブリナスもストレプトコッカス・ミュータンス同様に、グルコシルトランスフェラーゼにより、口中のショ糖から粘着性・非水溶性のグルカンを生成する。そして、これにより当該菌体が歯表面に付着してバイオフィルムを形成し、その歯垢中で種々の口腔内細菌が繁殖して有機酸が産生され、歯表面のpHが低下することによりエナメル質表面に脱灰が生じさせることによりう蝕が生じる。菌体全体を抗原として作成した抗体では、このストレプトコッカス・ソブリナス特有の特性を認識する抗体とはいえない。
従って、本発明の目的は、う蝕の発生程度や発生の危険性を簡便かつ迅速に判定するための方法及び判定薬を提供することにある。
【0006】
そこで本発明者は、ストレプトコッカス・ソブリナスによって分泌され、その菌体表面に定着する性質を有する菌体結合性グルコシルトランスフェラーゼ(以下、GTFという)のうち、GTF−Iがストレプトコッカス・ソブリナスに特異的であることに着目し、当該GTF−Iに対するモノクローナル抗体を作成し、これを利用してGTF−I量を測定すれば、ストレプトコッカス・ソブリナスの存在量及びう蝕リスクを正確に判定できることを見出した。さらに本発明者は、当該GTF−I量と、ストレプトコッカス・ミュータンスに特異的なGTF−B量とを同時に測定すれば、う蝕リスクがより正確に判定できることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、ストレプトコッカス・ソブリナス由来のGTF−Iに対するモノクローナル抗体を含有する試薬を用いて口腔内の当該GTF−I量を測定することを特徴とするう蝕性リスクの判定方法を提供するものである。
また、本発明は、ストレプトコッカス・ソブリナス由来のGTF−Iに対するモノクローナル抗体を含有する試薬、及びストレプトコッカス・ミュータンス由来のGTF−Bに対するモノクローナル抗体を含有する試薬を用いて、口腔内の当該GTF−I量及びGTF−B量を測定することを特徴とするう蝕性リスクの判定方法を提供するものである。
また、本発明は、ストレプトコッカス・ソブリナス由来のGTF−Iに対するモノクローナル抗体を含有するう蝕性リスクの判定薬を提供するものである。
さらに本発明は、ストレプトコッカス・ソブリナス由来のGTF−Iに対するモノクローナル抗体及びストレプトコッカス・ミュータンス由来のGTF−Bに対するモノクローナル抗体を含有するう蝕性リスクの判定薬を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、う蝕リスクと相関性の高いストレプトコッカス・ソブリナス由来のGTF−I量が正確かつ迅速に測定でき、その結果、正確なう蝕リスクの判定が可能となった。当該GTF−I量とGTF−B量とを同時に測定することにより、う蝕リスクがさらに正確に判定可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に用いられるGTF−Iに対するモノクローナル抗体は、GTF−Iを抗原として用いて得られたモノクローナル抗体であればよいが、その抗原としては、菌体表層より収集して精製して得られたGTF−Iでもよいが、組み換えGTF−I(rGTF−I)がより好ましい。ここでrGTF−Iとしては、例えば、岡山大学・英保(あぼ)らによって解析されたストレプトコッカス・ソブリナス由来のGTF−Iのアミノ酸配列(配列番号4)をコードする遺伝子配列を用いることができる。この配列番号4に示すGTF−IをコードするDNAから調整する方法として、GTF−IをコードするDNAを含む組み換えベクターを作製し、該ベクターより適当なホスト細胞を形質転換し、その転換体を適当な培地(M4培地など)で培養して得られる培養物から精製することによりGTF−Iを製造することができる。また、ストレプトコッカス・ソブリヌスを含む同属由来のもので、GTF−Iの存在が明らかになっている菌体あれば、いずれの菌種を使っても差し支えない。具体的には、当該rGTF−Iは、例えば、Streptococcus anginosus</I>SS03E形質転換株を1%アンモニウム及び10μM mp−アミノフェニルメチルスルホニルフルオライドを添加したM4培地の8L中で37℃にて30時間培養した後、培養液を遠心分離して、その上清を回収した。この上清より調製用SDS−PAGE等で精製することによって製造することができる。これに用いるStreptococcus anginosus</I>SS03E形質転換株は、すでにShirozaらによって開発(T.Shirozaら、Secretion of heterologous protein by genetically engineered Streptococcus bordonii、Methods in Cell Science、1998、vol.20、127-136)されている口腔連鎖球菌染色体上の外来遺伝子を導入できるインテグレイション−メディエート トランスフォーメーション システムを用いてストレプトコッカス・ソブリヌスのgtfI遺伝子を導入することで酵素学的に活性なGTF−Iを発現・分泌させることができるものである。調製された精製rGTF−Iの濃度は、SSDS−PAGEで1本の均一なバンドとして認識され、その濃度は1mg/mLである。
【0010】
モノクローナル抗体の製造は、実験医学(別冊)細胞工学ハンドブック(黒木登志夫ら編集、羊土社発行、第66〜第74頁、1992年)及び単クローン抗体実験操作入門(安東民衛ら著作、講談社発行、1991年)等に記載されているようなモノクローナル抗体の一般的な製造方法によって行うことができる。すなわち、抗原を哺乳動物に免疫することにより抗体産生細胞を取得し、該抗体産生細胞と自己抗体産生能のない骨髄腫系細胞(ミエローマ細胞)からハイブリドーマを調製し、該ハイブリドーマをクローン化し、哺乳動物の免疫に用いた抗原に対して特異的親和性を示すモノクローナル抗体を産生するクローンを選択することによって製造される。
本発明のう蝕性リスクの判定方法及び判定薬に用いられるモノクローナル抗体の好ましい製造例を示せば以下の通りである。
【0011】
抗体産生細胞の取得は、抗原をマウス、ラット、ハムスター、モルモット又はウサギ等の哺乳動物(ヒト抗体を産生するように遺伝子工学的に作出されたヒト抗体産生マウスのようなトランスジェニック動物も含む)、好ましくはマウス、ラット又はハムスターの皮下内、筋肉内、静脈内、フットパッド内あるいは腹腔内に1〜数回注射することにより免疫感作を施し、通常、初回免疫から約1〜14日毎に1〜4回免疫を行い、最終免疫より約1〜5日後に脾臓、リンパ節、骨髄あるいは扁桃等、好ましくは脾臓を摘出することにより行われる。
【0012】
モノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマの調製は、ケーラー及びミルシュタインらの方法(ネイチャー(Nature)、第256巻、第495〜第497頁、1975年)及びそれに準じる修飾方法に従って行うことができるが、抗体産生細胞と、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ又はヒト等の哺乳動物、より好ましくはマウス、ラット又はヒトに由来する自己抗体産生能のないミエローマ細胞とを細胞融合することにより調製される。ミエローマ細胞としては、例えばマウス由来ミエローマP3/X63−AG8.653(653)、P3/NS1/1−Ag4−1(NS−1)、P3/X63−Ag8.U1(P3U1)、SP2/O−Ag14(Sp2/O、Sp2)、PA1、FOあるいはBW5147、ラット由来ミエローマ210RCY3−Ag.2.3.、ヒト由来ミエローマU−266AR1、GM1500−6TG−A1−2、UC729−6、CEM−AGR、D1R11あるいはCEM−T15等を使用することができる。
【0013】
ハイブリドーマのスクリーニングは、ハイブリドーマを、例えばマイクロタイタープレート中で培養し、増殖の見られたウェルの培養上清の前述の免疫感作で用いた抗原に対する反応性を、RIAやELISA等の酵素免疫測定法によって測定することにより行うことができる。
【0014】
また、目的のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマをクローニングする方法は、通常の方法に従えばよい。例えば限外希釈法、軟寒天法、フィブリンゲル法、蛍光励起セルソーター法等により行うことができる。
【0015】
ハイブリドーマからのモノクローナル抗体の製造は、ハイブリドーマをインビトロ又はインビボ(マウス、ラット、モルモット、ハムスター若しくはウサギ等の腹水中等)で行い、得られた培養上清又は哺乳動物の腹水から単離することにより行うことができる。インビトロで培養する場合には、培養する細胞種の特性、試験研究の目的及び培養方法等の種々条件に合わせて、ハイブリドーマを増殖、維持及び保存させ、培養上清中にモノクローナル抗体を産生させるために用いられるような既知栄養培地あるいは既知の基本培地から誘導調製されるあらゆる栄養培地を用いて実施することができる。基本培地としては、例えば、Ham'F12培地、MCDB153培地あるいは低カルシウムMEM培地等の低カルシウム培地及びMCDB104培地、MEM培地、D−MEM培地、RPMI1640培地、ASF104培地あるいはRD培地等の高カルシウム培地等が挙げられ、該基本培地は、目的に応じて、例えば血清、ホルモン、サイトカイン及び/又は種々の無機若しくは有機物質等を含有することができる。
【0016】
モノクローナル抗体の単離及び精製は、上述の培養上清あるいは腹水を、飽和硫酸アンモニウム、ユーグロブリン沈殿法、カプロイン酸法、カプリル酸法、イオン交換クロマトグラフィー(DEAE又はDE52等)、抗イムノグロブリンカラム又はプロテインAカラム等のアフィニティカラムクロマトグラフィーに供すること等により行うことができる。
【0017】
採取したモノクローナル抗体が目的とするモノクローナル抗体であることの確認は、例えば精製GTF−Iに対するELISA等の酵素免疫測定法によって測定することにより行うことができる。
【0018】
本発明で用いられる抗GTF−Iモノクローナル抗体としては、ハイブリドーマ5A(FERM AP−20151)が産生するモノクローナル抗体が特に好ましい。このモノクローナル抗体は、本発明者らが先に報告した抗GTF−Iモノクローナル抗体B17(FEMS Immunology and Medical Microbiology, 27(2000),9-15)に比べて2.8〜25.6倍GTF−Iとの反応性が高く、特に好ましい。
【0019】
一方、ポリクローナル抗体の調製は、常法に従って行うことができる。すなわち、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、ブタ又はウシ等の哺乳動物、好ましくはラット、モルモット、ウサギ又はヤギに、精製GTF−Iを、前述モノクローナル抗体の製造方法で述べたような方法で免疫することにより抗GTF−B抗体を含む血清を得ることができる。
また、本発明のポリクローナル抗体は、上述の哺乳動物由来の抗血清を、飽和硫酸アンモニウム、ユーグロブリン沈殿法、カプロイン酸法、カプリル酸法、イオン交換クロマトグラフィー(DEAE又はDE52等)、抗イムノグロブリンカラム又はプロテインAカラム等のアフィニティカラムクロマトグラフィーに供すること等により単離及び精製した抗体であることが好ましい。
【0020】
採取したポリクローナル抗体が目的とするポリクローナル抗体であることの確認は、前述の哺乳動物の免疫感作で用いた精製GTF−I等に対する反応性を、RIAやELISA等の酵素免疫測定法によって測定することにより行うことができる。
【0021】
上記で得られた抗体を用い、免疫比濁法、酵素免疫測定法、ラテックス免疫測定法、ラジオイムノアッセイ、フルオロイムノアッセイ、イムノクロマトアッセイ、光学免疫測定法等の免疫学的測定法を用いることにより菌体表面上のGTF−I量を測定することができる。また、GTF−Iはストレプトコッカス・ソブリナスの菌体表面に定着する不溶性酵素であるため、後記実施例に示すようにGTF−I量を測定することにより同時にストレプトコッカス・ソブリナスの検出及び該菌の菌濃度を測定することが可能となる。一方、必要に応じて、膜蛋白質可溶化に有効な界面活性剤を用い、その種類や濃度をコントロールすることで、菌体表面に定着しているGTF−Iを遊離させることができ、GTF−Iのみを測定することも可能である。
【0022】
本発明のう蝕性リスクの判定方法及び判定薬において使用される好ましい免疫測定法の一つとして、競合免疫測定法が挙げられる。
すなわち、検体に放射性同位体等で標識したGTF−Iを一定量混合し、更に抗GTF−I抗体を混合し検体中のGTF−I及び標識GTF−Iと反応させる。検体中のGTF−Iは、標識GTF−Iと競合して抗GTF−I抗体と反応するため、検体中にGTF−Iが存在する分、標識GTF−Iとの反応が減少する。反応後、抗GTF−I抗体をあらかじめ固相担体に結合させておくか、抗イムノグロブリン抗体、プロテインAと抗GTF−I抗体を反応させることにより、結合、非標識GTF−Iを分離する。一般に用いられる方法により結合していない分画を測定することが可能となる。
【0023】
また、いわゆるサンドイッチ系の測定も好適である。すなわち、抗GTF−I抗体をマイクロタイタープレート、ビーズ、ニトロセルロース膜、ナイロン膜等の免疫測定法に一般に用いられる担体に結合させ、これを検体と接触させることにより、検体中の菌体表面GTF−Iを担体上にある抗GTF−I抗体と反応させる。一般に用いられている方法により結合していない分画を洗い、放射性同位元素、酵素、蛍光物質、ビオチン等で標識した抗GTF−I抗体と接触させ、担体上にある抗GTF−I抗体と結合した菌体表面GTF−Iと反応させる。一般に用いられている方法により結合していない分画を洗い、標識されている放射性同位元素、酵素、蛍光物質、ビオチン等を検出することにより菌体表面GTF−I量を測定することが可能となる。また、金コロイドのような視覚的に判定可能な物質を前述の抗体の一つに標識をして、上述のサイドイッチ系又は競合法に応用し、判定することも可能である。
【0024】
この測定系に用いる抗GTF−I抗体、標識抗GTF−I抗体は、前述しようにモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、又はその組み合わせのいずれを用いることも可能である。ここで肝要なことは、担体に結合する抗体とGTF−Iとの複合体が標識抗体と結合できるよう、抗体を組み合わせることである。
【0025】
本発明おいては、GTF−Iを認識するモノクローナル抗体をプラスチックプレートに固定化し、2次抗体にGTF−Iに対するポリクローナル抗体、3次抗体にペルオキシダーゼ標識抗ウサギ抗体を用いたELISA法が特に好ましい。従って、本発明のう蝕性リスクの判定薬は、これらの抗GTF−I抗体、標識抗体及び検出試薬等を含有した酵素免疫測定試薬である場合が好ましい。
【0026】
また、凝集検定も有利な実施形態であり、前述の抗体の一方で被覆された粒子と、他の抗体で被覆された粒子を作製し、検出すべき物質への粒子の結合により、凝集が起こり、これは濁り変化により判定あるいは検出することができる。
【0027】
尚、以上の測定法においては、抗GTF−I抗体のみならず、ペプシン、パパイン等で処理した抗体フラグメント(Fab'又はF(ab')2)を使用することもできる。
【0028】
本発明における被検試料としては、唾液又は歯垢が好ましい。
【0029】
本発明においては、GTF−IだけでなくGTF−Bを同時に測定するのが、う蝕リスクをより正確に判定するうえで好ましい。GTF−Bの測定には、抗GTF−B抗体、特に抗GTF−Bモノクローナル抗体を用いるのが好ましい。
【0030】
本発明で用いられる抗GTF−Bモノクローナル抗体の好ましい具体例としては、特開2002−267673号公報記載のGTF−Bのデキストラン結合部位(配列番号3)を認識するモノクローナル抗体として寄託番号FERM P−17567であるハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体、GTF−BのN末端側活性部位(配列番号2)を認識するモノクローナル抗体として寄託番号FERM P−17566であるハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体等が挙げられる。なお、配列番号1は、GTF−Bのアミノ酸配列である。
【0031】
また、GTF−Bモノクローナル抗体は、GTF−B等に特異的に反応し、ストレプトコッカス・ミュータンスが産生するGTF−D及びGTF−Cに反応しないという性質を併せ持つことが好ましい。
【0032】
斯かるモノクローナル抗体及びポリクローナル抗体は、それぞれを単独で用いてもよいが、複数の抗体を組み合わせて用いることもでき、特に、GTF−Bのデキストラン結合部位(配列番号3)を認識するモノクローナル抗体とGTF−BのN末端側活性部位(配列番号2)を認識するモノクローナル抗体及びGTF−Bに対するポリクローナル抗体を組合せて用いることが好ましい。
これらの抗GTF−B抗体を用いる測定系も、前記抗GTF−I抗体を用いることができる測定系として記載した測定系をすべて用いることができる。このうち、ELISAが特に好ましい。
【0033】
斯かる方法により、無う蝕(正常)者及び高う蝕者の唾液中のGTF−I量を測定したところ、後記実施例に示すように総菌濃度あたりのGTF−I濃度及びGTF−Iを分泌する菌濃度は、高う蝕者のものが無う蝕者のものより高い結果となり、GTF−I濃度及びGTF−Iを分泌する菌濃度はう蝕の程度と有意に相関することが示された。従って、口腔中のGTF−I量は、う蝕の程度を把握するための指標となり、これを測定することによりう蝕性リスクを判定することができ、また抗GTF−I抗体を含有するGTF−I量の測定試薬は、う蝕性リスクの判定薬として用いることができる。また、上記の結果に、さらに、抗GTF−B抗体を用いるGTF−Bの測定結果を組み合せると、よりう蝕リスクの高い患者が正確に判定できる。従って、口腔中のGTF−I量とGTF−B量を測定することは、より正確にう蝕の程度を把握するための指標となり、これらを測定することによりう蝕性リスクをより正確に判定できる。
【実施例】
【0034】
次に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0035】
実施例1 サンドイッチELISAによるソブリナス菌グルコシルトランスフェラーゼ(GTF−I)の定量法
<1−1>免疫抗原GTF−Iの調整
免疫原としてのGTF−I酵素蛋白は、Streptococcus anginosus</I>SS03E形質転換株を1%アンモニウム及び10μM mp−アミノフェニルメチルスルホニルフルオライドを添加したM4培地の8L中で37℃にて30時間培養した後、培養液を遠心分離(8,000rpm、10min)して、その培養上清を回収した。この上清より調製用SDS−PAGEで精製し、rGTF−Iの純化標品を取得した。
【0036】
<1−2>免疫及び細胞融合
(i)免疫動物からの脾臓細胞の調整
免疫方法は8〜10週令のBALB/cマウスの皮下に、精製GTF−Iを適当なアジュバンド、フロインドアジュバンド、RPMI−1640とともに注射することにより初回免疫した。初回免疫から14、28、42日目に精製GTF−Iを皮下に注射することにより追加免疫し、さらにモノクローナル抗体産生ハイブリドーマ調製の前々日及び前日に同様にして免疫し、マウスから脾臓細胞を調製した。
(ii)マウス骨髄細胞の調製
8−アザグアニン耐性マウス骨髄細胞P3−U1を正常培地「RPMI−1640にグルタミン1.5mM及び牛胎児血清13%を加えた培地」に培養(37℃、CO2、5%通気)し、4日後に2×107以上の細胞を得た。
(iii)ハイブリドーマの作製
RPMI−1640(日本製薬社(製))でよく洗浄した免疫マウス脾臓細胞1×108個とマウス骨髄細胞2×107個とを混合し、1500rpmで5分間遠心分離した。
沈殿として得られた脾臓細胞とP3−U1骨髄腫細胞の混合した細胞群をほぐした後、攪拌しながら50%ポリエチレングリコール、10%DMSO溶液を加え、RPMI−1640を徐々に加える。遠心後、集めて細胞をHAT培地(RPMI−1640にヒポキサンチン、チミジン、アミノプテリンを加えた培地)を加え、細胞を懸濁し、CO2インキュベーター37℃中で2時間培養する。再度遠心後、上清を捨て、細胞をゆるやかにほぐし、HAT培地に懸濁し、96穴プレートに分注し、5%CO2インキュベーターで10〜14日間培養する。
【0037】
<1−3>ハイブリドーマのスクリーニング
抗rGTF−Iモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニングは、精製rGTF−Iを固相化したELISAを用いて行った。すなわち、精製rGTF−Iを2μg/mLの濃度に調整後、96穴EIAプレートに50μl/穴ずつ分注し、室温で固相化した。2時間後、Tween20及びNaCl及びリン酸緩衝液でブロッキングを行った。一次抗体として上記ハイブリドーマ培養上清を96穴に移し、4℃一晩放置した。その後、二次抗体としてヤギの抗マウスIgG−POD結合物を分注し、室温で一時間反応させた。反応後、同緩衝液にて2回洗浄し、OPD基質液(o−フェニレンジアミンに過酸化水素を添加した溶液)を分注し発色させ、1Nの硫酸で反応を停止させる。プレートリーダーにより吸光度を主波長492nm、副波長620nmにて測定する。抗rGTF−Iモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマが認められたウェルについて、限界希釈法によりクローニングを2から4回繰り返し、安定して抗体産生の認められたものを、抗GTF−Iモノクローナル抗体産生ハイブリドーマ株#1B、1G、3E、5Aとして選択した。
【0038】
<1−4>モノクローナル抗体の大量調製
プリスタン処理(2,6,10,14−テトラメチルペンタデカン0.5ml/匹を腹腔内投与し、1〜2週間飼育する。)した10週令マウス(BALB/c)に上記のハイブリドーマ株各1×106個細胞/匹を腹腔内注射する。10〜21日後にハイブリドーマ株は腹水癌化する。10〜21日後に腹水のたまったマウスから腹水(4〜10mL/匹)を採取し、遠心分離して固形分を除去した。上清を50%硫安塩析後、150mMのNaCl及び20mMリン酸緩衝液(pH7.4)で一晩透析し、これを粗精製モノクローナル抗体とする。
【0039】
<1−5>抗GTF−Iポリクローナル抗体の調製
粗精製GTF−Iの100μgとフロインドの完全アジュバンド(Freud's Complete adjuvant、Sigma社(製))を等量混合し、ウサギ四肢及び背中の皮膚数十ヶ所に注射して免疫した。2ヵ月〜3ヵ月の間に5〜6回同様に投与した。最終投与2週間後に全血液を採取し、その血清を取得した。血清を50%硫安塩析後、150mMのNaCl及び20mMリン酸緩衝液(pH7.4)で一晩透析し、これを粗精製ポリクローナル抗体とする。
【0040】
<1−6>モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体の精製
前記<1−3>で取得したモノクローナル抗体#1B、1G、3E、5A各々の粗精製モノクローナル抗体、及び前記<1−4>で取得した粗精製ポリクローナル抗体に、MAPSII結合バッファー(バイオラッド社(製))を等量加え、フィルター(ミリポア社(製))で濾過し、白沈を除いた。得られた濾液をHiTrap Protein Aアフィニティーカラム(ファルマシアバイオテック社(製))に添加した。MAPSII結合パッファー(バイオラッド社(製))で洗浄後、MAPSII溶出パッファー(バイオラッド社(製))で溶出させた(3mL/チューブ,10本)。溶出パターンを波長280nmでの吸光度で測定し、該溶出パターンに従い、抗体を含む分画を回収した。
【0041】
<1−7>固相化抗体の作製
150mMのNaClを含む20mMリン酸緩衝液(pH7.4、以下PBSという)に前記で調製した精製モノクローナル抗体#1B、1G、3E、5A及び精製ポリクローナル抗体を10μg/mLの濃度で調製後、96穴EIAプレートに50μl/穴ずつ分注し、室温で2時間放置し抗原をプレートに固相化した。0.05%のTween20を含むPBS(以下、T−PBSという)で2回洗浄後、1%のBSAを含むT−PBSを350μl/穴ずつ分注し、室温で1時間放置し底面上の蛋白結合性残基をブロックした。内容物を除去後、1%のBSA及び10%のシュークロースを含むT−PBSを350μl/穴ずつ分注した。室温で1時間放置後、内容物を除去し自然乾燥させた。
【0042】
<1−8>モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体の精製のペルオキシダーゼ標識
5mMの酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.5)にペルオキシダーゼ(以下、HRPという)を10mg/mLの濃度で溶解した溶液に、メタ過よう酸ナトリウムを蒸留水で100mg/mLの濃度で溶解した溶液を、HRP:メタ過よう酸ナトリウム=1mg:0.43mgの比で加え、暗所、室温で30分間反応させた。ついで反応液を5mMの酢酸ナトリウム緩衝液(pH4.5)で平衡化したセファデックスG−25ゲル(1.5×30cm;ファルマシアバイテック社(製))のカラムに添加して、活性化HRP画分を回収した。次に精製#1B、1G、3E、5Aモノクローナル抗体及びポリクローナル抗体を0.1Mの重炭酸ナトリウム緩衝液(pH9.3)で一晩透析した溶液に、活性化HRP画分を重量比1:1で混合し、暗所、室温で1時間反応させた。反応後、テトラヒドロホウ酸ナトリウムを蒸留水で2mg/mLの濃度で溶解した溶液を、反応液500μlに対して10μlで混合し、暗所、室温で15分間反応させた。反応後、等量の飽和硫安を加え、氷上で1時間放置した。12000rpmで10分間遠心分離後、上清を除去してHRP標識抗体を回収し、PBSに懸濁した。波長280nmでの吸光度を測定し、吸光度を用い以下の試験を行なった。
【0043】
<1−9>モノクローナル抗体の選択
前記<1−7>で作製した固相化抗体、モノクローナル抗体#1B、1G、3E、5A及びポリクローナル抗体(以下、固相化マイクロプレートという)を用いる。固相化マイクロプレートの各ウェルに0.2%のBSAを含むT−PBSで希釈した測定試料(50μl、ストレプトコッカス・ソブリヌス菌(Streptococcus sobrinus)菌体を生理食塩水で懸濁した溶液)を加え、室温で2時間インキュベートした。固相化マイクロプレートをT−PBSで2回洗浄後、0.2%のBSAを含むT−PBSで希釈した前述<1−8>で作製したペルオキシダーゼ標識モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体を4mODに希釈した溶液を50μl/穴ずつ分注し、室温で1時間インキュベートした。固相化マイクロプレートをT−PBSで2回洗浄後、OPD基質液(o−フェニレンジアミンヂアミン2塩酸塩60mgをのクエン酸・リン酸緩衝液(pH5.2)20mLに溶かした溶液に、30%の過酸化水素20μlを加えた溶液)を50μl/穴ずつ分注し発色後、1Nの硫酸溶液を50μl/穴ずつ分注し反応を停止させた。プレートリーダーにて吸光度を主波長492nm、副波長620nmで測定し、測定中の菌体量は、ストレプトコッカス・ソブリヌス菌由来標準物質から作製した検量線から求めた。この中より、特異性が最も優れていた5A抗体とポリクローナル抗体の組み合わせを選択した(表1)。
【0044】
【表1】

【0045】
ウエスタンブロッティングにより、5A抗体及び本発明者が先に作成した抗GTF−Iモノクローナル抗体であるB17抗体のrGTF−Iに対する反応性を検討した。その結果、B17抗体の100倍希釈と5A抗体の1280〜2560倍希釈の反応性がほぼ同等であり、5A抗体はB17抗体の12.8〜25.6倍GTF−Iに対する反応性が高いことが判明した。
【0046】
<1−10>サンドイッチELISA
本発明で確立されたサンドイッチELISAによるGTF−I定量法は<1−9>で選択された#5Aを用いた<1−9>で示した方法である。
GTF−I酵素量は、上述の測定方法において、測定試料を0.5N NaOHで抽出することにより定量することができた。検量線を図1に示す。
【0047】
実施例2 サンドイッチELISAによるソブリナス菌グルコシルトランスフェラーゼ(GTF−I)の定量及びう蝕リスク判定
DMFTとは、永久歯の一人当たりの虫歯罹患経験歯数を言い、D; Decayed teethの略(未処置のムシ歯)、M; Missing teethの略(喪失歯)、F ;Filled teethの略(治療済みの歯)、T; Teethの略である。DMFTが15以上のヒトを高う蝕者(H)と定義する。
この検体2種を用いてGTF−I量との関係を確認した。
【0048】
(1)方法
実検体を用いたS. sobrinusからの菌体結合性GTF−I抽出の検討を行い、実検体(被検者A及びB)を、0.5N NaOHの条件で抽出して、検量線からGTF−I濃度を計算した。
すなわち、2mLの歯垢懸濁液を遠心(10,000rpm,5min)し、沈殿に0.5N NaOHを50μL添加して、1分間放置した。100μLの中和液を添加したものを遠心(10,000rpm,5min)し、150μLの上清から再度沈殿(再抽出)させ、50μLの0.5N NaOHを添加して、1分間放置した。100μLの中和液を添加した後、再度遠心(10,000rpm,5min)し、150μLの上清(2)を得た。表2には、DMFT、S.sobrinus数の比較と精製GTF−I標準物質から作製した検量線から求めたGTF−I量の結果の比較を示した。また図2にそれらを図式化した
ものを示した。
上清(1)と(2)を混合して、約300μLをELISA用の検体とした。この検体50μLをELISAに用いて、検量線(0.5N NaOH)から、GTF−I濃度を計算した。
【0049】
【表2】

【0050】
実施例3 GTF−Bとの組み合わせによるう蝕度判定
虫歯罹患経験歯数、S.mutans及びS.sobrinus菌数既知のブラッシング歯垢0.3mLを0.5N NaClで抽出し、GTF−I及びGTF−Bの両ELISA試薬で測定を行い、発色の有無及び強弱を+・−で評価した。なお、GTF−B ELISA試薬は、以下のように作製した試薬を用いた。すなわち、実施例1の<1−10>サンドイッチELISAの項で示した固相化抗体で使用している#5Aの抗体の替わりに抗GTF−B抗体である#136あるいは#126(特開2002−267673号公報記載の寄託番号FERM P−17566あるいはP−17567であるハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体)を用いて、GTF−I定量法と同様な処方の試薬を作成した。表3には、抗GTF−Bモノクローナル抗体として♯136を用いた場合の結果を示したが、♯126でも同様の結果を得た。
【0051】
【表3】

【0052】
上記の結果、虫歯罹患経験歯数とS.mutans及びS.sobrinus菌数並びにGTF−I及びGTF−Bの両ELISA試薬で測定との間に相関があり、特に菌数を測定しなくても本GTF酵素を測定することで、う蝕度の判定が可能であった。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明測定系によるストレプトコッカス・ソブリナス由来のGTF−I測定結果を示す検量線である。
【図2】歯垢中のGTF−IとDFMTとの関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ストレプトコッカス・ソブリナス由来のグルコシルトランスフェラーゼ−Iに対するモノクローナル抗体を含有する試薬を用いて口腔内の当該グルコシルトランスフェラーゼ−I量を測定することを特徴とするう蝕性リスクの判定方法。
【請求項2】
前記モノクローナル抗体が、寄託番号FERM AP−20151であるハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体である請求項1記載の判定方法。
【請求項3】
前記試薬が、前記モノクローナル抗体及びストレプトコッカス・ソブリナス由来のグルコシルトランスフェラーゼ−Iに対するポリクローナル抗体を含有するものである請求項1又は2記載の判定方法。
【請求項4】
唾液又は歯垢を被検体とする請求項1〜3のいずれか1項記載の判定方法。
【請求項5】
ストレプトコッカス・ソブリナス由来のグルコシルトランスフェラーゼ−Iに対するモノクローナル抗体を含有する試薬、及びストレプトコッカス・ミュータンス由来のグルコシルトランスフェラーゼ−Bに対するモノクローナル抗体を含有する試薬を用いて、口腔内の当該グルコシルトランスフェラーゼ−I量及びグルコシルトランスフェラーゼ−B量を測定することを特徴とするう蝕性リスクの判定方法。
【請求項6】
ストレプトコッカス・ソブリナス由来のグルコシルトランスフェラーゼ−Iに対するモノクローナル抗体を含有するう蝕性リスクの判定薬。
【請求項7】
前記モノクローナル抗体が、寄託番号FERM AP−20151であるハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体である請求項6記載の判定薬。
【請求項8】
さらに、ストレプトコッカス・ソブリナス由来のグルコシルトランスフェラーゼ−Iに対するポリクローナル抗体を含有するものである請求項6又は7記載の判定薬。
【請求項9】
ストレプトコッカス・ソブリナス由来のグルコシルトランスフェラーゼIに対するモノクローナル抗体及びストレプトコッカス・ミュータンス由来のグルコシルトランスフェラーゼ−Bに対するモノクローナル抗体を含有するう蝕性リスクの判定薬。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−322124(P2007−322124A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−237903(P2004−237903)
【出願日】平成16年8月18日(2004.8.18)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【出願人】(390037327)第一化学薬品株式会社 (111)
【Fターム(参考)】