説明

う食原性細菌による酸の産生を検出するための方法

【課題】プラークサンプルまたは唾液サンプル中のう食原性細菌を半定量的に測定するための方法を提供すること。
【解決手段】上記方法において、(a)プラークサンプルまたは唾液サンプルに含まれる微生物を必要に応じて濃縮する;(b)上記微生物を炭素源と接触させ、ここで、この炭素源は、上記う食原性細菌によって酸に発酵される;(c)上記微生物および上記炭素源を、上記う食原性細菌による選択的な酸の形成を可能にする条件下でインキュベートする;(d)上記炭素源の添加後、12時間の期間内で少なくとも一回pHを決定する;ここで、上記サンプル中のう食原性細菌の半定量的な測定は、工程(d)で決定されたpHと1つまたはそれより多くの参照値とを比較することによって実行される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、唾液サンプルおよび/またはプラークサンプル中のう食原性細菌の半定量的な測定のための方法に関し、ここで、プラークサンプルまたは唾液サンプルに含まれる微生物を、炭素源と接触させる。この炭素源は、上記う食原性細菌によって酸に発酵される。次に、この微生物を、上記う食原性細菌による選択的な酸の形成を可能にする条件下でインキュベートする。次に、この酸の形成を、上記炭素源の添加後、12時間の期間内で少なくとも一回pHを決定することによって検出し、ここで、上記サンプル中のう食原性細菌の半定量的な測定は、上記pHと少なくとも1つの参照値とを比較することによって実行される。さらに、本発明は、このような方法を実行するためのキットを提供する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
ヒトの口腔には、通常、互いに天然の平衡状態にある800種超の異なる微生物が集落形成している。しかしながら、実質的に細菌からなるこの微生物叢はまた、歯の健康に損傷を与え得る生物を含む。これは、特に、食事由来の炭水化物を有機酸に代謝することができる細菌に関する。この酸(特に、乳酸)は歯のエナメル質を攻撃し、このことは、まず歯の表面の鉱物質消失をもたらす。鉱物質消失した部位の連続的な集落形成のために、やがては、歯のエナメル質からぞうげ質および歯髄まで攻撃し得る病変をもたらす。
【0003】
う食の原因となる乳酸の大半は、「ミュータンス連鎖球菌(mutans streptococci)」の代謝活動に起因する;この群は、S.mutans種、S.sobrinus種、S.rattus種およびS.cricetus種を含む。さらに、乳酸杆菌属の群は、この状況において重要である。口腔に集落形成する種々の他の細菌種とともに、これらの細菌は、健康な状態においても安定した平衡状態で存在するが、特別な条件下において、ミュータンス連鎖球菌の増大した繁殖が起こり得、その結果として、う食の発生のリスクが顕著に増大する。ミュータンス連鎖球菌によって生じる酸の形成は、酸性環境をもたらし、それは、今度は、乳酸杆菌属の増殖をますます促進する。乳酸杆菌属の増大した増殖には、乳酸杆菌属による酸の産生に起因するpHのさらなる低下が付随し、これは、上記障害の進行を促進する。
【0004】
口腔に集落形成する細菌の発酵活動に起因して、糖の溶液の供給後、数分以内で、プラーク内のpHが大幅に低下することが見出されている。しかしながら、臨床研究において、検出可能なう食を有する小児からのプラークサンプルと、う食を有さない小児からのプラークサンプルとが、口腔内のpHを低下させることに関して匹敵する可能性を有したことが見出されている(非特許文献1)。このことは、ヒト口腔において、連鎖球菌属および乳酸杆菌属に加えて、代謝副産物として酸を排出するが、う食の顕著なリスクを提示しない多くの他の微生物が存在することを示している。したがって、唾液中の全体の酸の産生を測定することは、う食原性細菌の数そして、したがって患者のう食のリスクを決定するのに適していない。むしろ、このリスクは、ミュータンス連鎖球菌および乳酸杆菌属の濃度によって明確に決定される。
【0005】
プラークまたは唾液中のミュータンス連鎖球菌および/または乳酸杆菌属の定量的な測定または半定量的な測定は、患者のう食のリスクについて情報を与え得る。この理由のため、選択栄養培地上で微生物を平板培養することによってその微生物の濃度に関しての、プラークサンプルまたは唾液サンプルの調査を提供する、試験方法が開発されている。例えば、Ivoclar VivadentからCRT(登録商標)バクテリアとして取得可能な試験系は、普通寒天プレート上で唾液サンプルからのミュータンス連鎖球菌または乳酸杆菌属の選択的富化に基づく。唾液サンプルを、それぞれバシトラシン含有Mitis Salivarius寒天培地(連鎖球菌属に関して選択的)、およびそれと並行してRogosa寒天培地(乳酸杆菌属に関して選択的)に画線する。2日間〜3日間、インキュベートした後、寒天平板上に形成されたコロニーを数えることによって、患者それぞれについてのう食のリスクについて報告(statement)を作成することができる。同様な系はまた、Orion DiagnosticsからのDentocultおよびOralBiotechからのCaricultとして利用可能である。
【0006】
しかしながら、栄養培地上で唾液サンプルを培養することは、時間を浪費する。習慣的に、これらの結果は、唾液サンプルを平板培養してからおよそ2日後〜3日後になるまで評価することができない。したがって、本発明の目的は、短時間で確実かつ再現性よくプラークサンプルまたは唾液サンプル中のう食原性細菌の数に関して報告を作成することができる方法を提供することである。この方法は、複雑な装置を使用せずに実行することができるはずであり、この結果は、可能ならば、数時間内に利用可能になるはずである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】MinahおよびLoesche、Infection and Immunity(1977)17:43〜54
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にしたがって、上記目的は、特許請求の範囲の主題によって達成される。第一の局面において、本発明は、プラークサンプルまたは唾液サンプル中のう食原性細菌を半定量的に測定するための方法を提供し、ここで
(a)プラークサンプルまたは唾液サンプルに含まれる微生物を必要に応じて濃縮する;
(b)上記微生物を炭素源と接触させ、ここで、この炭素源は、上記う食原性細菌によって酸に発酵される;
(c)上記微生物および上記炭素源を、上記う食原性細菌による選択的な酸の形成を可能にする条件下でインキュベートする;
(d)上記炭素源の添加後、12時間の期間内で少なくとも一回pHを決定する;
ここで、上記サンプル中のう食原性細菌の半定量的な測定は、工程(d)で決定されたpHと1つまたはそれより多くの参照値とを比較することによって実行される。この参照値またはこれらの複数の参照値を、対応するう食原性細菌の既知濃度を使用することによって前もって決定した。
【0009】
上記方法は、細菌の半定量的な測定に関し、この細菌は、その酸の形成によって、う食の発生に寄与する(う食原性細菌)。したがって、唾液またはプラーク中のこれらの細菌の定量化または半定量化(semi−quantification)は、う食を発生するリスクに関する報告を容易にする。この方法は、細菌による実質的に選択的な酸の形成に基づき、この酸の形成は、う食の発生および/または進行と相関する。対照的に、口の微生物叢の一部でもあるが、う食の発生または進行にほんのわずかしか影響を及ぼさないかまたは何の影響も及ぼさない他の細菌は、可能な限り酸の形成から排除すべきである。本発明の方法を使用して、その酸の形成に基づいて半定量的に検出されるべきである、特に好ましいう食原性細菌は、ミュータンス連鎖球菌および/または乳酸杆菌属である。これらの群の生物の各々について、本質的に選択的な酸の形成を促進する条件が、本明細書に開示される。
【0010】
本発明の方法は、個体からのプラークサンプルまたは唾液サンプルを使用し、ここで、口腔内のそれぞれの細菌の数が半定量的に決定される。習慣的に、この個体はヒトであるが、獣医学の分野におけるこの方法の使用は排除されない。この方法は、任意の所望の年齢のヒトに対して実行され得る。しかしながら、本発明の特定の局面において、このヒト個体が小児、好ましくは、3歳未満、4歳未満、5歳未満、6歳未満または7歳未満の小児であることが好ましい。この年齢において、口腔衛生の確立は、この様式で有効にう食を予防するために、小児への各々のリスクに特につりあい得る。
【0011】
唾液サンプルは、従来の方法を使用して取得され得る。習慣的に、この唾液サンプルの容積は、0.5ml、1ml、2ml、3ml、4ml、5ml、6ml、7ml、8ml、9ml、10mlまたは15mlである。好ましい実施形態において、この唾液サンプルは、0.5ml〜5mlの容積を有するサンプルであり、これは、本発明にしたがう方法において希釈されずに使用される。さらに好ましい実施形態において、この唾液サンプルは、濃縮されたサンプルである、すなわち、例えば、細菌細胞のような唾液中に存在する固体は、濾過、遠心分離などの方法によって唾液の液体成分から分離され、より少ない容積の液体(例えば、バッファー)に移されている。
【0012】
唾液を取得するための複数の方法およびデバイスが先行技術から公知である。単純な実施形態において、ドナーは、口腔から唾液をしたたらせ、ここで、この唾液は、適切なサンプル容器に収集される。これに対して代替的に、唾液はまた、アスピレーターを使用する吸引によって口腔から抽出され得る。比較的大容積の唾液が、本発明にしたがう方法を実行するために望ましい場合、唾液の形成を、好ましくは咀嚼する動作によって、力学的に刺激することができる。例えば、咀嚼される際に唾液の形成を促進するパラフィンペレットを、ドナーに投与し得る。唾液は、約0.5分〜約5分後に、例えば、2分後、3分後、4分後、または5分後に収集され得る。
【0013】
ドナーから取得した唾液は、また、必要とされる場合、本発明の方法において希釈して使用され得る。例えば、唾液の過剰な粘度に起因して、濾過による濃縮が不可能であるか、またはそれが長すぎる時間を必要とする場合、唾液サンプルの希釈が必要とされ得る。希釈が所定の条件下で推奨される場合、微生物学の分野において慣習的である水(例えば、滅菌水)またはバッファーが使用され得、これらは、う食原性細菌の続いての発酵を有意には損ねない。適切なバッファーは、例えば、トリスバッファー、HEPESバッファーまたはリン酸バッファーである。
【0014】
さらに、本発明にしたがう方法はまた、試験下のドナーからのプラークサンプルを使用して実行され得る。この目的のために、フィルム(film)が、剥離によって滅菌ブラシまたはへらを使用して歯の表面から取得され、これを適切なサンプル容器に移す。次に、プラークサンプルは、水または適切なバッファー(例えば、トリスバッファー、HEPESバッファーまたはリン酸バッファー)に溶解され得る。次に、生じた細菌の懸濁物を、本発明にしたがう方法に直接使用し得る。
【0015】
検出されるべきう食原性細菌に依存して、本発明にしたがう方法の最初の工程において、微生物に炭素源を添加する前に、プラークサンプルまたは唾液サンプル中に存在する微生物を最初に濃縮することが必要または好都合であり得る。このような濃縮は、例えば、ドナーから取得したプラークサンプルまたは唾液サンプルを遠心分離すること、続いて、より少ない容積の水またはバッファー(例えば、トリスバッファー、HEPESバッファーまたはリン酸バッファー)中で、サンプル中に存在する固体を再懸濁することによって、達成され得る。この様式において、数mlの唾液が、500μlまたはそれ未満の容積のバッファーまたは水に溶解され得る。上記を実行することにおいて、400μl未満、300μl未満、200μl未満、100μl未満、50μl未満、25μl未満、20μl未満、15μl未満、10μl未満、5μl未満または1μl未満の容積が使用され得る。遠心分離後に取得された固体はまた、上清の一部に直接再懸濁され得る。
【0016】
さらに、本発明にしたがって取得されたプラークサンプルまたは唾液サンプルはまた、濾過によって濃縮され得る。このプロセスにおいて、微生物学上の実施において公知であるフィルター(例えば、溶液の滅菌濾過に使用されるメンブレン)が使用され得る。これらのフィルターは、唾液サンプルから浸透液への細菌の通過を妨害するのに十分小さな孔径を有する。唾液中の連鎖球菌属が一般的にバイオフィルムの形態で増殖し、その結果、それらが細胞外多糖類のマトリクス内に存在することが注記されるべきである。この理由のために、連鎖球菌属はまた、約15μmまたはそれより大きな孔径を有するフィルターを使用して唾液から効率的に濾過して分けることができる。乳酸杆菌属に適切なフィルターは、好ましくは、2μm未満、1μm未満、0.5μm未満、0.3μm未満、例えば、0.25μm未満の孔径を有する。本発明にしたがった特に好ましい実施形態において、唾液サンプルを濃縮するのに使用するためのフィルターは、0.2μm〜0.22μmの範囲の孔径を有する。そのように小さな孔径を有するフィルターは、濾過の間に圧力の適用を必要とする。この濾過が、吸収性マット(以下を参照のこと)上に配置されたフィルター材料を使用して実行される場合、またはこの濾過が重力によってのみ媒介される場合、対応してより大きな孔容積(pore volume)が選択されなければならない。適切な孔径は、1μm〜10μm、好ましくは、2μm〜8μmの範囲である。
【0017】
本発明の状況における濾過のために、ポリプロピレン(PP)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリエーテルサルフォン(PES)、ポリビニルピロリドン(PVP)またはポリエーテルエーテルケトン(PEEK)のようなポリマー材料から習慣的に構成されたフィルターが使用される。ナイロン、セルロース、ニトロセルロース、またはガラスファイバーもしくは石英ファイバーから作製されたフィルターもまた、液体から細菌細胞を分離することにおいて頻繁に使用される。適切なフィルターは、種々の製造者(例えば、Sartorius AG(Goettingen、Germany)、Millipore(Schwalbach、Germany)、Whatman(Maidstone、UK)またはPall GmbH(Dreieich、Germany))から取得可能である。特に好ましいフィルター材料は、Whatmanからのガラスファイバーフィルター材料934−AHである。
【0018】
本発明の一実施形態において、上記濾過は、多層フィルター、好ましくは二重層フィルターを使用して実行される。それによって、種々のフィルターメンブレン(それらの各々は、この多層フィルターの一層を形成する)は、同一の孔径を有しても異なる孔径を有してもよい。好ましくは、種々の層は、それらの孔径に関して異なり、ここで、唾液サンプルと最初に接触するフィルターの層は、その下に配置されるフィルター層よりも大きな孔径を有する。フィルターメンブレンのこのような配置によって、前濾過(prefiltration)が達成され得る。例えば、二重層フィルターにおいて、例えば、0.4μm〜20μmの孔径を有する最初のメンブレンが提供され得、その下に、0.2μmの孔径を有するさらなるメンブレンが配置される。必要とされる場合、これらのメンブレンの表面は、例えば、このメンブレンの親水性特性を改変するために、化学的に改変される。
【0019】
上記濾過は、例えば、シリンジを使用して実行され得る。上記を実行することにおいて、適切なフィルターを備えるアタッチメントを使用し得、ここで、わずかな圧力をかけて、希釈されたまたは希釈されていない唾液サンプルが、フィルター材料を通過する。さらなる単純な実施形態において、吸収性マットが、このフィルターの下に配置され、このマットは、このフィルターと接触する。希釈されたまたは希釈されていない唾液サンプルがこのフィルター上に滴下された場合、例えば、細菌細胞のような、このサンプル中に含まれる固体は、このフィルター材料上に蓄積する一方、このサンプルの水性成分は、この吸収性マットを通過する。使用される吸収性マットは、特に、例えば、BASFから取得可能なLUQUASORBポリマーのような高吸収性材料から作製され得る。例えば、BASFからのLUQUAFLEECEのように既にフリース形態にある高吸収性材料は特に適している。滴下によるサンプルの添加を容易にするために、プラスチックまたはパースペクスから製造されるテンプレート(template)を使用することができ、プラークサンプルまたは唾液サンプルの標的化した滴下を促進する。濾過を実行した後に、このフィルター材料を、続く工程のために、この吸収性マットから分離し得る。
【0020】
上記フィルター材料上に残留する微生物(特に、う食原性細菌)を、このフィルター材料からすすぎ得、その後、ある容積の適切な液体(例えば、水、トリスバッファー、HEPESバッファー、リン酸バッファー)を使用して炭素源とインキュベートする。上記を実行することにおいて、メンブレンから剥離させるために使用される容積は、唾液サンプルの最初の容積よりも少ない。続いて炭素源とのインキュベーションのために使用される細菌の懸濁物の容積は、その後の酸試験(acid test)(以下を参照のこと)のそれぞれの様式に本質的に左右される。例えば、炭素源とのインキュベーションおよび/または酸の形成の検出を、チューブまたはキュベット(例えば、ガラス製またはプラスチック製)内で実行する場合、この細菌の懸濁物の容積は、数mlであり得る。炭素源とのインキュベーションおよび/または酸の形成の検出を、フィルターまたはメンブレン(例えば、本明細書の以下に記載される試験ストリップのうちの1つ)上で実行する場合、この細菌の懸濁物の容積は、一般的に0.5μl〜2000μlの範囲、例えば、約5μl、約10μl、約20μl、約50μl、約60μl、約70μl、約80μl、約90μl、約100μl、約150μl、約200μl、約250μl、約300μl、約350μl、約400μl、約450μlまたは約500μlである。
【0021】
本発明の特に好ましい実施形態において、上記微生物(特に、う食原性細菌)は、上記フィルター材料から除去されないが、濃縮に使用されたこのフィルター材料に残留し、その上で炭素源および/または対応する試験試薬(例えば、pH指示薬など)と直接接触させられる。この場合において酸の形成は、例えば、このフィルター材料上のpH呈色指示薬(pH colour indicator)の変化に直接基づいて、炭素源および試験試薬の添加後に検出され得る。このフィルターの吸収能力は一般的に制限されるので、使用されるフィルターに依存して、炭素源および試験試薬は、このフィルターに小さな容積、好ましくは、約5μl、約10μl、約20μl、約50μl、約60μl、約70μl、約80μl、約90μl、約100μl、約150μl、約200μl、約250μl、約300μl、約350μl、約400μl、約450μlまたは約500μlの容積で添加される。単位フィルター面積あたりの容積が、フィルター材料1mmあたり約0.1μl〜約15μl、好ましくはフィルター材料1mmあたり0.5μl〜10μlの範囲であることが特に好ましい。この試験試薬の濃度は、各々添加される容積に関して調整される。
【0022】
例えば、濾過による濃縮は、20℃〜40℃の温度で実行され得、これは、一般的に、特に、本発明にしたがう方法が、数時間以内に各々の生物の決定を可能にする迅速な試験として設計される場合(例えば、歯科試験の状況において)、室温(すなわち、約20℃)で実行される。濃縮されたプラークサンプルまたは唾液サンプルに含まれるう食原性細菌を、それらの酸の形成に関して、続いての工程で調べるので、濃縮と炭素源の添加との間の時間が長すぎることがないことを確実にしなければならない。このことは、濃縮されたサンプルに含まれる細菌が生存可能でかつ代謝的に活性であることを確実にする。濃縮されたう食原性細菌が、酸の形成の続いての検査において数分のうちに使用されることが好ましい。好ましくは、酸の形成の検査は、唾液サンプルの濃縮の後、1分、5分、10分、15分、20分、25分、30分、60分のうちに進行する。
【0023】
プラークサンプルまたは唾液サンプルを濃縮することは、本発明にしたがう方法の必須の工程ではない。しかしながら、濃縮された細菌の懸濁物の使用は、評価までのこの方法の総所要時間に対して顕著な効果を与える。濃縮されたサンプルは、既に数時間後、好ましくは、3時間未満、2時間未満、1時間未満、例えば、50分以内、40分以内、または30分以内またはそれより短いうちに、この方法の半定量的な評価を可能にする。特に好ましい実施形態において、この方法は、1時間のうちに唾液サンプル中のう食原性細菌の濃度の半定量的な測定を可能にする、迅速な試験として設計されている。これにより、歯科医の単回の診察の状況において、既にこのような測定が可能となる。
【0024】
上記方法の次の工程において、希釈されたまたは希釈されていないプラークサンプルまたは唾液サンプルに含まれる微生物あるいは濃縮によって生成された細菌の懸濁物に含まれる微生物を、炭素源と接触させる。この炭素源は、定量化されるべきう食原性細菌によって酸に発酵され得る。本発明の方法は、検出されるべきう食原性細菌のみが本質的に酸を形成することができる条件を確立することに基づく。したがって、定量化されるべきう食原性細菌によって排他的に利用され得るか、または口の微生物叢の他の微生物よりも、これらの細菌によってより迅速に酸に発酵され得る炭素源を選択することが特に好ましい。本発明にしたがう方法が、例えば、1〜2時間のうちに実行されることが意図される場合、定量化されるべきう食原性細菌が、約1時間以内に既に検出可能な酸の形成を示している一方で、唾液サンプルに存在する他の細菌における酸の形成が、3時間またはそれより遅くまで開始しない、すなわち、その時点で、この方法は既に完了している場合、この方法は十分であることが証明され得る。
【0025】
本発明の状況において、う食原性細菌による酸の形成に極めて有利な条件下において、pH低下の速度、すなわち、単位時間あたりのpHの低下は、唾液サンプル中のそれぞれのう食原性細菌の濃度と相関することが観察されている。したがって、これらの条件下において、炭素源の添加後の種々の時点において、pHを測定することは、元のプラークサンプルまたは唾液サンプル中のリスクに関連するう食原性細菌の数についての情報を与える(実施例を参照のこと)。
【0026】
本発明にしたがう方法に基づいてリスク評価に特に適したう食原性細菌は、いわゆる「ミュータンス連鎖球菌」の群を含み、次に、この群は、S.mutans種、S.sobrinus種、S.rattus種およびS.cricetus種を含む。これらの連鎖球菌属は、きれいにした歯の表面に新規に集落形成する最初の微生物のうちの1つである。さらに、これらは、食物残渣および唾液の成分に由来するポリマー性のスライムを形成することができ、このスライムで、これらは、歯の表面に付着する。これらの連鎖球菌属によって形成されたバイオフィルムはまたプラークと呼ばれる。これは、多糖類および糖タンパク質のマトリクスにおいて生きている微生物および死んだ微生物の構造化されたフィルムである。プラークは、咀嚼面の陥凹部、歯の間の領域、および歯肉の縁に特に容易に蓄積する。このバイオフィルムはまた、他の細菌が歯の表面に定着するようになることを可能にする。
【0027】
唾液サンプル中のミュータンス連鎖球菌の数は、特定の様式において、う食のリスクについての情報を取得するために適切である。本発明の一実施形態において、選択された炭素源は、ミュータンス連鎖球菌の上述した種のうちの複数またはそれらの全てによって利用され得るが、唾液サンプル中に存在する他の細菌は、この炭素源を利用することができないか、または顕著に遅延してそれを利用することしかできない。このような炭素源の特に好ましい例は、グルコース、スクロース、マルトースおよびマルトトリオース(または、これらの混合物)であり、これらは、全てのミュータンス連鎖球菌によって迅速に代謝される。これらの糖はまた、唾液中の他の微生物によって変換されるが、これらは、顕著により遅く変換される(図1を参照のこと)。代替的な実施形態において、この炭素源は、本発明にしたがう方法が実行される規定の時間枠内で、ミュータンス連鎖球菌の群のうちの単一のメンバー(例えば、S.sobrinus)によってのみ利用される。例えば、スクロースを、反応バッチ中、20%の濃度で炭素源として使用する場合、酸の形成は、15分以内にS.sobrinusでのみ検出され得ることが、図1の表1から理解することができる。本発明にしたがう方法を、この炭素源を使用して実行する場合、この方法が、約15分〜約20分後に(すなわち、依然として、スクロースが、他のう食原性細菌または非う食原性細菌によって発酵される前に)終わるならば、この種によって唯一生じる酸の形成が検出され得る。
【0028】
本発明の代替的な実施形態において、定量化されるべきう食原性細菌は、L.acidophilus種、L.casei種、L.rhamnosus種、L.brevis種、L.plantarum種およびL.gasseri種を含む乳酸杆菌属の群である。乳酸杆菌属の細菌は、混合した酸の発酵をすることができ、さらに、口内の微生物によって形成される酸の大半の原因である。乳酸杆菌属は、特に、連鎖球菌属によって形成されたバイオフィルムに集落形成することができる。活動性う食の部位において、乳酸杆菌属の株は、常に同定され得る。上述の理由のために、唾液およびプラーク中の乳酸杆菌属の細菌の定量的な検出はまた、現在、予防に指向した実施および研究の中心をなす。乳酸杆菌属による選択的な酸の形成を検出するために使用され得る炭素源は、例えば、グルコース、ラクトース、N−アセチルグルコサミンおよびマンノース(または、これらの混合物)を含む。
【0029】
上記炭素源は、反応バッチ(唾液サンプルの微生物、炭素源およびさらなる必要に応じた成分から構成される)に、0.05重量%〜60重量%の量、例えば、0.1%、0.5%、1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、15%、20%、30%、40%、50%またはそれより多くの量で添加され得る。例えば、試験溶液中のスクロース濃度を増加させることによって、特定のミュータンス連鎖球菌に対する特異性を改善することができることが、例えば見出されている。
【0030】
プラークサンプルまたは唾液サンプルのう食原性細菌と、選択された炭素源との間の接触を、複数の方法でなすことができる。例えば、この炭素源を、例えば、水または生理学的に受容可能なバッファーに溶解させた溶液として提示することができる。この溶液は、規定の容積の希釈された、希釈されていないまたは濃縮された液体プラークサンプルまたは唾液サンプルと混合され得る。さらに、この炭素源はまた、希釈された、希釈されていないまたは濃縮された液体唾液サンプルに溶解される粉末または顆粒の形態で使用され得る。例えば、粉末形態での規定の量の炭素源を含む、例えば、チューブ、マイクロタイタープレートまたはキュベットが提供され得、液体唾液サンプルの添加に際して、う食原性細菌と炭素源との接触が確立される。例えば、マンノースのような適切な炭素源が、種々の提供者から粉末形態で利用可能である。
【0031】
好ましい実施形態において、炭素源とのインキュベーション、および続いてのpHの決定も、液体反応バッチ(溶液または懸濁物)で実行される。上記方法で使用される細菌の懸濁物および試験試薬の容積に依存して、ガラスまたはプラスチックのチューブまたはキュベット(例えば、5ml〜10mlの容積を有するもの)、Eppendorf反応チューブ(1ml〜2mlの容積を有する)またはマイクロタイタープレートを使用し得る。
【0032】
さらに好ましい実施形態において、上記炭素源および/または上記試験試薬は、フィルター材料(例えば、試験ストリップの表面)上で乾燥形態で固定化され得る。この場合に使用され得る試験ストリップは、濃縮に関連して上述されたフィルター材料(すなわち、フィルターであって、その孔径が、このフィルター材料に添加されたう食原性細菌の、浸透液への移動を妨害する、フィルター)である。希釈された、希釈されていないまたは濃縮された液体唾液サンプルを、このフィルター材料に滴下して加え、そこで、この固定化された炭素源を溶解し、それによってこのう食原性細菌に容易に接近されるようにする。炭素源の利用および生じた酸の形成は、例えば、pH呈色指示薬を使用することによって、このフィルター材料上で直接検出され得る。本発明の特に好ましい実施形態において、この炭素源は、マルトース、マルトトリオース、および/またはスクロースであり、試験ストリップ上に固定化されて存在する。このような試験ストリップは、ミュータンス連鎖球菌による酸の形成を決定するために使用され得る。代替的な実施形態において、この炭素源は、ラクトース、N−アセチルグルコサミンおよび/またはマンノースであり、試験ストリップ上に固定化されて存在する。このような試験ストリップは、乳酸杆菌属による酸の形成を決定するために使用され得る。
【0033】
さらなる特に好ましい実施形態において、上記炭素源および/または上記試験試薬が乾燥形態で固定化される材料は、上記唾液サンプルを濃縮する目的のためにこの唾液サンプルを濾過するのに以前に使用された材料と同じ材料である。このことは、上記フィルター材料が、唾液サンプルを濾過することによってこの唾液からう食原性細菌を富化するために最初に使用されることを意味する。しかしながら、このような実施形態において、濾過において、固定化された炭素源および/または試験試薬は、このフィルター材料から剥離しないか、またはわずかな程度しか剥離しないことを確実にしなければならない。なぜなら、さもなければ、それらは、フィルターを通過して浸透液に入り、そして結果的にその後のフィルター上での酸反応の検出にもはや使用できなくなるからである。プラークサンプルまたは唾液サンプルの濃縮が完了した後でのみ、酸の形成がこのフィルター材料上で生じ得るように、フィルター上の炭素源および/または試験試薬の放出が起こるべきである。このことは、例えば、固定化された試薬の溶液への時間的に遅延した移動を確実にする手段によって達成され得る。したがって、乾燥形態の炭素源および/または試験試薬(例えば、呈色指示薬)をフィルター材料に塗布し、遅延した放出を引き起こすラッカーでコーティングすることが有利であることが実証されている。
【0034】
この場合において、一方で、う食原性細菌による酸の形成のために十分な炭素源および/または試験試薬が存在するが、他方で、フィルターが詰まらないように、定量的な比を選択しなければならない。患者の唾液サンプルの濾過による細菌の富化を促進するために、炭素源の代謝の前に十分な時間が残っているように、フィルター上の炭素源および/または試験試薬の放出は、1分〜2分後でのみ生じなければならない。本発明にしたがう試験ストリップの最適な設計において、この炭素源および/または試験試薬は、唾液サンプルの添加から、約3分〜約10分後、好ましくは、約5分〜約8分後でのみ放出される。したがって、例えば、1mg〜10mgの粉末化した試験試薬を、適切なテンプレートによってフィルターに塗布し得、10μl〜50μl、好ましくは20μlの、例えば、1重量%のヒドロキシプロピルセルロースのようなラッカーを使用してこのフィルターに固定し得る。これらのフィルターは、乾燥キャビネット内で乾燥させ得、使用するまで室温で乾燥状態で保存され得る。
【0035】
固定に適切な他のラッカーは、例えば、キサンタン、キトサン、カラゲーナンのような多糖類;例えば、KurarayからのPovalのようなポリビニルアルコール;例えば、BASFからのKollicoat IRのようなポリビニルアルコール−PEGコポリマー;例えば、ISPからのPlasdoneのようなポリビニルピロリドン;例えば、BASFからのLuviskol VAのようなビニルピロリドン−酢酸ビニルコポリマー;例えば、ISPからのGantrezのような、ポリ(メチルビニルエーテル)マレイン酸無水物のアルキルエステルまたはマレイン酸コポリマー;例えば、BASFからのLuviskol Plusのようなポリビニルカプロラクタム;例えば、EvonikからのEudragitまたはBASFからのLuvimer 100Pのようなアクリラートコポリマー;例えば、BASFからのLuvisetまたはWackerからのVinnapasのようなポリ(酢酸ビニル−co−クロトン酸);例えば、ISPからのAdvantageまたはAquaflexのようなビニルカプロラクタム−ビニルピロリドン−ジメチルアミノアルキルメタクリラートコポリマー;および第4級アンモニウム化合物を有するポリマーを含む。上記試薬を試験ストリップに固定するのに適切な他のポリマーは、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルヒドロキシエチル−セルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースおよびメチル−ヒドロキシエチルセルロースのようなセルロースエーテルを含む。さらに、上記化合物の任意の組み合わせが使用され得る。
【0036】
上記唾液サンプルに含まれる微生物を、選択された炭素源と接触させた後、これらを、う食原性細菌による本質的に選択的な酸の形成を可能にする条件下で、この炭素源とともにインキュベートする。これに関連して、温度、pHおよび容量オスモル濃度について、う食原性細菌による炭素源の特に迅速な代謝が生じ得る、この細菌に適切な条件が選択される。バッファーが使用される場合、バッファーが、6.5と9との間のpH、好ましくは6.5と8.5との間のpH(7.0と8.5との間のpHが特に好ましい(例えば、7.5))を提供するような様式で、これらが選択され得る。この酸の形成がpH呈色指示薬の存在下で進行する場合、酸の形成が開始したとき、指示薬の色の完全な変化を確実にするように、インキュベーションの開始時に、溶液のpHが、指示薬のpKaよりも上になるような様式で、適切なバッファーを使用することによってpHを設定しなければならない。したがって、指示薬であるフェノールレッドが存在する溶液のpHは約8.5の領域にある。なぜなら、このpHよりも下で、約5.0のpHまでの色の変化が検出可能であるからである(表2を参照のこと)。
【0037】
上記炭素源との上記微生物のインキュベーションの温度は、一般的に、20℃と60℃との間、好ましくは25℃と50℃との間、より好ましくは30℃と45℃との間であり得る。酸の形成は、一般的に、35℃と45℃との間の温度で最も迅速に進行する。
【0038】
本発明にしたがって、上記炭素源および/または上記試験試薬が、1mMと10mMとの間のホスフェート濃度を有することが特に好ましく、ここで、高い試験感度が所望されるとき、5mMが特に好ましい。使用されるバッファーの濃度に基づいて、唾液中の比較的高い濃度のう食原性細菌を区別し得るために、試験感度はまた低減され得る。感度を段階分けするために、リン酸バッファーの濃度は、例えば、>10mM、>20mM、>30mM、>40mM、またはさらには>50mMに増大することができる。緩衝化のために、例えば、HEPES、MOPS、トリスなどの他のバッファーも使用され得る。感度を設定するためのさらなる可能性は、適切な量のわずかに塩基性の塩またはポリマーを添加することである。
【0039】
う食原性細菌(特に、ミュータンス連鎖球菌)に有利な増大した選択性は、アミノ酸および/またはアミノ酸含有ポリマーの添加によって達成され得る。口腔内の多くの酸産生細菌が、アミノ酸のアミノ基を酵素的に切断することができる。それによって、塩基性アミノ基の遊離は、これらの細菌によって産生された酸の部分的な中和または完全な中和をもたらす。他方、S.mutansおよびS.sobrinusのようなミュータンス連鎖球菌は、顕著な程度まで、アミノ酸からアミノ基を遊離させることができない。なぜなら、これらの生物は、通常、必要とされる酵素を欠くからである。例えば、S.mutansもS.sobrinusもアルギニンデイミナーゼをもたない。したがって、アルギニンの添加は、ミュータンス連鎖球菌ではない細菌(S.gordonii、S.equinus、S.mitis、S.salivarius、L.caseiおよびL.fermentum、S.aureusなど)による酸の生成を中和するのに特に適している。
【0040】
う食原性細菌の半定量的な測定のための上記に示された方法は、以下の点で改変される:アルギニンのようなアミノ酸および/またはアミノ酸含有ポリマーの存在下で、上記微生物が炭素源とともにインキュベートされ、S.mutansおよびS.sobrinusの酸の産生が影響を受けない一方で、口腔の他の細菌による酸の産生が塩基性アミノ基の遊離によって抑制される。
【0041】
本発明の方法の特に好ましい実施形態において、工程(b)および/または工程(c)は、それゆえ、1つもしくはそれより多くのアミノ酸(複数含む)および/または1つもしくはそれより多くのアミノ酸含有ポリマー(複数含む)の存在下で進行する。好ましくは、このアミノ酸は、反応バッチに遊離アミノ酸として添加される。非ミュータンス連鎖球菌の酸の産生を抑制する、特に好ましい遊離アミノ酸は、アルギニン、アスパラギン、グルタミン、リジンおよびセリンを含む。遊離アミノ酸としてのアルギニンの使用は、特に好ましい。あるいは、1つもしくはそれより多くのアミノ酸含有ポリマー(複数含む)もまた、反応バッチに添加され得る。アミノ酸含有ポリマーは、短いペプチド(例えば、ジペプチド、トリペプチドなど)およびポリペプチド(例えば、>10、>20、>30、>40、>50またはそれより多いアミノ酸長を有する)を含む。遊離アミノ酸とアミノ酸含有ポリマーとの混合物も使用され得る。非ミュータンス連鎖球菌における酸の形成の有効な抑制を提供する、遊離アミノ酸およびアミノ酸含有ポリマーの適切な混合物は、例えば、ペプトンである。
【0042】
さらなる好ましい実施形態において、上記に示された方法において、グルコースを炭素源として使用し、工程(b)および/または工程(c)は、アルギニン、アスパラギン、グルタミン、リジンおよびセリンからなる群より選択されるアミノ酸の存在下で実行され、ここで、アルギニンの添加は、特に好ましい。
【0043】
上記に示された方法において、上記アミノ酸は、工程(b)または工程(c)で添加され得る。このアミノ酸は、反応バッチ(唾液サンプル、炭素源およびさらなる必要に応じた成分から構成される)に、0.01重量%〜5重量%の量、例えば、0.05%、0.1%、0.2%、0.3%、0.5%、1%、1.5%、2%、2.5%、3%、3.5%、4%、4.5%またはそれより多い量で添加され得る。0.1重量%〜0.2重量%の量が特に好ましい。アミノ酸含有ポリマーを使用する場合、当業者は、上記の情報に基づいてそれぞれのポリマーの適切な量を容易に決定し得る。
【0044】
う食原性細菌に有利な改善された選択性はまた、尿素の添加によって達成され得る。尿素の添加は、特に、S.aureusによる酸の形成の抑制を提供する。上記に記載された方法において、工程(b)または工程(c)はまた、それゆえ、尿素の存在下で進行することができる。特に好ましい実施形態において、上記に示された方法においてスクロースを炭素源として使用し、工程(b)または工程(c)は、尿素の存在下で進行する。
【0045】
選択的な酸の形成のさらなる改善は、本発明にしたがう方法の状況において定量化されない細菌の増殖および/または代謝活動を阻害および/または停止することができる抗生物質を添加することによって達成され得、対照的に、ここでは、う食原性細菌の増殖および/または酸の形成は、有意には損なわれない。例えば、例えばバンコマイシン、カナマイシンまたはネオマイシンを上記炭素源および/または上記試験試薬に添加することによって、乳酸杆菌属に対する特に高い特異性が達成され得る。なぜなら、これらは、それらの増殖または代謝活動に関して、この抗生物質によってわずかしか阻害されない一方で、例えば、連鎖球菌属およびブドウ球菌属はかなり阻害されるからである。同様に、バシトラシンおよびメトロニダゾールを使用することによって、ミュータンス連鎖球菌による選択的な酸の形成に特に適した条件を作り出すことができる。適切な抗生物質を、この炭素源および/またはこの試験試薬に、0.01重量%〜2重量%の量、好ましくは、0.1量%〜1重量%(例えば、0.2重量%)の量で添加し得る。乳酸杆菌属の細菌の増殖および/または代謝活動を阻害する、特に好ましい抗生物質は、例えば、バンコマイシン、クリンダマイシンおよびナイシンである。
【0046】
表1は、指示薬であるブロモクレゾールパープルの存在下で、1% グルコースとともにインキュベートされた種々のう食原性細菌および非う食原性細菌による酸の形成の、時間をわたっての進展に対する、抗生物質の添加の影響を示す。試験溶液の正確な組成を、表3に示す。
【0047】
【表1】

本発明にしたがって選択された炭素源とともに微生物をインキュベートするために選択されるインキュベーション時間は、定量化されるべきう食原性細菌、そしてこの炭素源のタイプおよび濃度にも依存する。このインキュベーション時間は、一般的に、可能な限り最も強力な酸の形成が定量化されるべきう食原性細菌によって達成される一方で、非う食原性細菌による酸の形成が可能な限り排除されるべきであるように選択される。
【0048】
上記炭素源とのインキュベーション後に、上記う食原性細菌による酸の形成に、この炭素源の添加後、12時間の期間内で少なくとも1回、pHを決定することが続く。その中で測定が実行される期間は、炭素源の添加後、最長12時間まで延長されるが、しかしながら、この期間は、10時間未満、8時間未満、6時間未満、5時間未満、4時間未満、3時間未満、2時間未満、またはさらには1時間未満であることが好ましい。その中でpHが測定され、したがって、この方法の時間枠を形成する期間が、0.25時間〜3時間を構成する場合に、この方法の特定の利点が生じる。このことは、歯科検査の状況において、う食原性細菌および関連するう食のリスクを決定することを可能にする。1回より多いpHの測定を、この期間内に行うことがさらに好ましい。好ましくは、この期間において、2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回、10回またはそれより多くの測定を実行する。したがって、例えば、1時間、2時間、3時間または4時間の期間にわたり、5分、10分または15分の一定の間隔で、測定を実行することができる。
【0049】
本発明にしたがう方法を実行することにおいて、酵素カルボン酸アンヒドラーゼのインヒビター(例えば、アセタゾラミド、メタゾラミド、ドルゾラミドおよびトピラメート)の存在は、測定可能な酸の生成の速度に関して改善をもたらす。
【0050】
最初に、調べられるべき個体から唾液サンプルを採取した後で、二酸化炭素が、このサンプルから遊離する。唾液は、プロトンを吸収することによって二酸化炭素および水と反応する炭酸水素塩を含む。この反応は、酵素カルボン酸アンヒドラーゼによって触媒される。この唾液サンプルのpHは、サンプリングの直後に、二酸化炭素の遊離によって、約7.4から約8.0またはそれより高くに上昇する。最初に、適切な炭素源のこのサンプルへの添加、そして酸の形成の開始の際に、反応所要時間を不必要に増大させる初期のpH上昇は、相殺されなければならない。したがって、本発明の方法の工程(b)または工程(c)への、酵素カルボン酸アンヒドラーゼのインヒビター(アセタゾラミド、メタゾラミド、ドルゾラミドおよびトピラメートなど)の添加は、完全な方法の所要時間をかなり減少させ得る。
【0051】
上記インヒビターは、反応バッチ(唾液サンプルの微生物、炭素源およびさらなる必要に応じた成分から構成される)に、0.01重量%〜5重量%の量で、例えば、0.05%、0.1%、0.2%、0.3%、0.5%、1%、1.5%、2%、2.5%、3%、3.5%、4%、4.5%またはそれより多い量で添加され得る。0.1重量%の量が特に好ましい。
【0052】
pHは、pH電極によって上記の期間内に決定され得る。pH電極の使用は、プラークサンプルまたは唾液サンプルからの微生物が、水溶液中で炭素源とともにインキュベートされることを必要とする。低下の速度、すなわち、時間単位に関するpHにおける低下は、上述の条件下において、サンプル中のう食原性細菌の濃度と相関するので、最初のサンプルにおけるう食原性細菌の定量的な測定または半定量的な測定は、測定されたpHと参照値とを比較することによって行うことができ、この参照値は、反応の同じ時点において、かつ同じ条件下で、既知の数のそれぞれのう食原性細菌を有するサンプルに基づいて、事前に取得されている。好ましくは、1回より多くの測定が実行され、1回の測定がなされる時点の各々に関して、少なくとも1つの対応する参照値が利用可能である。例えば、pHの測定は、全部で4時間の期間内で1時間後、2時間後、3時間後および4時間後に実行され得る(実施例を参照のこと)。習慣的に、pHが測定される規定の時点の各々に関して、既知の濃度の対応するう食原性細菌を使用して取得された、複数の参照値が利用可能である。炭素源を測定された濃度のう食原性細菌に添加した後、規定の時点におけるpHをそれぞれ反映する、多くの参照値は、未知の濃度のサンプル中のう食原性細菌の、比較的正確な定量的な測定または半定量的な測定を容易にする。例えば、ミュータンス連鎖球菌の測定における参照値は、例えば、10cfu、10cfu、10cfuおよび10cfuの濃度に対応し得る。
【0053】
代替的な実施形態において、pHは、酸の形成に際して色が変化するpH指示薬を使用して決定される。このpH指示薬は、好ましくは、例えば、試験ストリップ上でのpH指示薬および炭素源の組み合わせた固定化(joint immobilization)によってか、あるいは希釈された、希釈されていないまたは濃縮されたプラークサンプルまたは唾液サンプルへの、pH指示薬および炭素源の同時の添加(好ましくは、単一の溶液の形態で)によって、炭素源と一緒にう食原性細菌に添加される。種々のpH指示薬が、本発明にしたがう方法を実行するのに有用であることが実証されている。これらは、例えば、指示薬ブロモクレゾールパープル、ブロモクレゾールグリーン、m−クレゾールパープル、ブロモチモールブルー、フェノールレッドおよびクロロフェノールレッドを含む。表2は、pHの関数としてのこれらの指示薬の色の変化を示す。色の変化を検出できるようになるまで適用されるべきであるインキュベーション時間は、使用された炭素源および試験試薬、そしてまた、それらの、互いに対する絶対的かつ定量的な比および相対的かつ定量的な比にも依存する。好ましい実施形態において、pH指示薬の色の変化までの期間は、細菌、炭素源および指示薬を混合した後、60分未満、45分未満、30分未満、20分未満または15分未満である。
【0054】
呈色反応の速度は、とりわけ、反応バッチ中のバッファーの濃度を介して制御され得る。例えば、指示薬フェノールレッドを含む溶液において、リン酸バッファーの濃度を、5mMから50mMに増大させることによって、呈色反応を約3の因数だけ遅くしたことが見出されている。したがって、バッファーの濃度によって、このう食のリスクの試験の感度を設定することができる。
【0055】
【表2】

指示薬によって引き起こされた色の変化を、既知の数のそれぞれのう食原性細菌を含むサンプルを使用して、同一の条件下で前もって取得された、色の標準と比較する。この色の標準との比較は、元のサンプル中のう食原性細菌の半定量的な測定を可能にする。同様に、この色の標準は多段階である、すなわち、それが、pHの測定が実行された規定の時点の各々について、元の唾液サンプル中の規定の濃度のう食原性細菌に割り当てられ得る、複数の色合い(shade)を含むことが特に好ましい。好ましくは、この色の標準は、濃度に関する差が裸眼で(すなわち、技術的なデバイスを使用しないで)認識され得るものである。この標準の個々の段階は、例えば、細菌の濃度の10を底とする対数であり得、ここで、この濃度は、コロニー形成単位(cfu)で測定される。したがって、例えば、この色の標準(これによって、ミュータンス連鎖球菌の濃度が評価され得る)は、10cfu、10cfu、10cfuおよび10cfuの濃度に対応する4つの段階を含み得る。本発明にしたがった試験法で取得された色の変化は、4つの所定の色の強度と比較され得る。一般的に、調べられたプラークサンプルまたは唾液サンプル中のう食原性細菌の濃度についての報告は、それによって取得され得る;例えば、試験の状況において取得された色の強度が、10cfuと10cfuとの間の範囲のミュータンス連鎖球菌の濃度に起因することが報告され得る。これは、う食のリスクが高いことを示す。
【0056】
さらなる局面において、本発明はまた、上記の方法を実行するための試験ストリップに関し、ここで、この試験ストリップの表面上に、少なくとも1つの炭素源および1つのpH指示薬が、この試験ストリップと細菌の懸濁物とを接触させた際に、これらが、この試験ストリップから放出され、液体の細菌の懸濁物に溶解するような様式で固定化されている。この炭素源は、これが、例えば、ミュータンス連鎖球菌または乳酸杆菌属のようなう食原性細菌によって選択的に酸に発酵されるような様式で、上記のように選択される。このpH指示薬は、酸の形成の際に色が変化し得、ここで、この変化は、裸眼で感知可能であることが好ましい。この試験ストリップが、固定化された形態の、上述された2つの成分のうちの1つを含むことが十分条件である。その他のそれぞれの成分は、例えば、滴下することによって、この試験ストリップに添加され得る。好ましい実施形態において、この炭素源、そしてまたこの指示薬の両方は、この試験ストリップの表面上に固定化される。この炭素源および/またはこのpH指示薬は、ラッカー(上記を参照のこと)によって、この試験ストリップ上に固定化され得る。
【0057】
上記試験ストリップは、好ましくは、1μm〜10μmの範囲の孔径を有するフィルター材料をさらに含む(またはこのフィルター材料から構成される)。好ましい孔径は、2μm〜8μmの範囲、例えば、2μm、3μm、4μm、5μm、6μm、7μmまたは8μmである。上記炭素源および/または上記pH指示薬は、このフィルター材料上に固定化される。これは、このフィルター材料が、う食原性細菌の富化に直接使用され得るという利点を有する。
【0058】
本発明はまた、上述された方法を実行するための試験キットに関し、このキットは:
(a)う食原性細菌の群によって酸へ発酵される炭素源;
(b)酸の形成の際に色が変化するpH指示薬;
(c)サンプル中のう食原性細菌の濃度の半定量的な測定を容易にする色の標準、
を備える。
【0059】
好ましくは、上記色の標準は、上記のような多段階の標準であり、参照の働きをする。さらに、上記キットは、上記方法を実行するための指示書を備え得る。もちろん、このキットはまた、1つまたはそれより多い、上述の試験ストリップを備え得る。
【0060】
したがって、本発明は、以下の項目を提供する:
(項目1)
プラークサンプルまたは唾液サンプル中のう食原性細菌の半定量的な測定のための方法であって、
(a)プラークサンプルまたは唾液サンプル中に含まれる微生物を、必要に応じて濃縮する;
(b)該微生物を、該う食原性細菌によって酸へ発酵される炭素源と接触させる;
(c)該微生物と該炭素源とを、該う食原性細菌による選択的な酸の形成を促進する条件下でインキュベートする;
(d)該炭素源の添加後、12時間の期間内で少なくとも1回、pHを決定する;
ここで、該サンプル中の該う食原性細菌の該半定量的な測定は、工程(d)において決定されたpHと少なくとも1つの参照値とを比較することによって実行される、方法。
(項目2)
上記pHが、pH電極を使用して工程(d)で決定される、上記項目に記載の方法。
(項目3)
上記pHが、酸の形成の際にその色が変化するpH指示薬を使用して工程(d)で決定される、上記項目のいずれか1つに記載の方法。
(項目4)
上記pH指示薬が、ブロモクレゾールパープル、ブロモクレゾールグリーン、m−クレゾールパープル、ブロモチモールブルー、フェノールレッドおよびクロロフェノールレッドからなる群より選択される、上記項目のいずれか1つに記載の方法。
(項目5)
工程(c)が、上記う食原性細菌の増殖および/または酸の形成を有意には損ねない1つまたはそれより多くの抗生物質の存在下で進行する、上記項目のいずれか1つに記載の方法。
(項目6)
工程(b)および/または工程(c)が、1つもしくはそれより多くのアミノ酸および/または1つもしくはそれより多くのアミノ酸含有ポリマーの存在下で進行する、上記項目のいずれか1つに記載の方法。
(項目7)
工程(b)および/または工程(c)が、アルギニン、アスパラギン、グルタミン、リジンおよびセリンからなる群より選択される1つもしくはそれより多くのアミノ酸の存在下で進行する、上記項目のいずれか1つに記載の方法。
(項目8)
工程(b)および/または工程(c)が、アルギニンの存在下で進行する、上記項目のいずれか1つに記載の方法。
(項目9)
上記う食原性細菌がミュータンス連鎖球菌である、上記項目のいずれか1つに記載の方法。
(項目10)
上記ミュータンス連鎖球菌によって酸へ発酵される上記炭素源が、スクロース、マルトースおよびマルトトリオースからなる群より選択される、上記項目のいずれか1つに記載の方法。
(項目11)
上記う食原性細菌が乳酸杆菌属である、上記項目のいずれか1つに記載の方法。
(項目12)
工程(c)が、バンコマイシン、クリンダマイシンおよびナイシンからなる群より選択される1つもしくはそれより多くの抗生物質の存在下で進行する、上記項目のいずれか1つに記載の方法。
(項目13)
上記乳酸杆菌属によって酸へ発酵される上記炭素源が、マンノース、ラクトースおよびN−アセチルグルコサミンからなる群より選択される、上記項目のいずれか1つに記載の方法。
(項目14)
上記項目のいずれか1つに記載の方法を実行するための試験ストリップであって、ここで、
う食原性細菌によって酸へ発酵される炭素源、および酸の形成の際に色が変化するpH指示薬が、該試験ストリップと細菌の懸濁物とが接触した際に、該炭素源と該pH指示薬とが該試験ストリップから放出されるような様式で、該試験ストリップの表面上に固定化されている、試験ストリップ。
(項目15)
上記試験ストリップが、20μm未満の孔径を有するフィルター材料を備え、該フィルター材料上に、上記炭素源および上記pH指示薬が固定化される、上記項目のいずれか1つに記載の試験ストリップ。
(項目16)
上記炭素源および/または上記pH指示薬が、ポリマーラッカーによって上記試験ストリップ上に固定化されている、上記項目のいずれか1つに記載の試験ストリップ。
(項目17)
上記項目のいずれか1つに記載の方法を実行するための試験キットであって、該試験キットは:
(a)う食原性細菌によって酸へ発酵される炭素源;
(b)酸の形成の際に色が変化するpH指示薬;
(c)サンプル中の該う食原性細菌の濃度の半定量的な測定を可能にする色の標準
を備える、試験キット。
(項目18)
上記色の標準が多段階の標準である、上記項目のいずれか1つに記載の試験キット。
(項目19)
上記キットは、上記項目のいずれか1つに記載の少なくとも1つの試験ストリップを備える、上記項目のいずれか1つに記載の試験キット。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】図1は、純粋な培養物による酸の形成の速度論を示す。文字A〜Gは、酸の産生が、pH指示薬に基づいて最初に検出された時点を示す。数字0〜5は、1時間、2時間および4時間後の、pHの低下の段階を示す。したがって、次のコードを適用する:<色の変化の時点><1時間後の色の段階><2時間後の色の段階><4時間後の色の段階>。
【図2】図2は、CRTバクテリアの結果とミュータンス連鎖球菌について4時間後の試験溶液No.136を使用した本発明にしたがう方法の結果との相関を示す。>10cfu/mlのリスク閾値が、約6.5未満へのpHの低下に相当することが見られ得る。
【図3】図3は、CRTバクテリアの結果と乳酸杆菌属について4時間後の試験溶液No.98を使用した本発明にしたがう方法の結果との相関を示す。>10cfu/mlのリスク閾値が、約6.0未満へのpHの低下に相当することが見られ得る。
【図4】図4は、CRTバクテリアの結果と、乳酸杆菌属(A、B)およびミュータンス連鎖球菌(C、D)について3時間後の、小児(A、C、E)および成人(B、C)における、試験溶液no.98(A、B)、試験溶液no.136(C、D)または試験溶液no.323(E)を使用した本発明にしたがう方法の結果との相関を示す。Y−軸上の数字0〜5は、pH低下のレベルを示す(図1と比較する)。pH低下のレベルが、CRTバクテリアの値(X−軸)が上昇するとともに上昇することが明らかである。
【発明を実施するための形態】
【0062】
実施例
細菌株
この実験のために選択された株の保存培養物を、−80℃の温度でCRYOBANK(Mast Diagnostica,CRYO/M)セラミック支持体で保存した。培養のために、セラミックリングを、10mlの栄養培地に入れ、14時間〜72時間インキュベートした。この培養物を、継代0(P0)と指定した。次に、100μlの培養物を、10mlの新鮮な培地に接種し、24時間インキュベートした。継代2の培養物を、酸の産生についての続いての実験のために使用した。この場合において、この培養物を、650nmでの吸収が約0.6〜1.0になるまで希釈した。この細菌の懸濁物を、8000rpmで5分間、遠心分離した。培養上清を除去し、ペレットを、同じ容積の水(10ml、脱イオンした、滅菌)に再懸濁した。サンプルを、再度遠心分離し(8000rpm、5分間)、上清を除去した。続いて、ペレットを、1ml(これは、元の容積の1/10に相当する)の脱イオン水に再懸濁した。
【0063】
インビトロにおける酸の産生
酸の産生を測定するために、40μlの細菌の懸濁物を、96ウェルのポリスチレンマイクロタイタープレートまたは1.5ml 微小遠心分離チューブ内の100μlの試験溶液に添加した。この試験溶液は、適切なpH指示薬(例えば、フェノールレッドおよびブロモクレゾールパープル)の他に、発酵可能な炭素源、5mMのホスフェートまたは5 mMのトリス−HCl、および必要に応じて抗生物質またはアルギニンのようなアミノ酸を含んだ。使用した試験溶液を、規定の開始pHに調整した。試験溶液の作製において、成分を、所望の最終容積の75%の容積の脱イオン水に溶解させた。次に、適切なpHに調整し、この混合物を、脱イオン水を使用して計算された容積まで満たした。作製された溶液を冷蔵庫で保存し、2週間以内に使用した。
【0064】
上記細菌の懸濁物をそれぞれの試験溶液に添加した後、pH指示薬の色の変化を、一定の間隔で、参照サンプル(試験溶液のみ)に対して視覚的に評価した。それらの間、サンプルを、37℃のインキュベーターに保存した。酸の形成を、試験溶液の色の変化によって視覚的に(光学測定デバイスによる補助を受けずに)記載した。この研究の結果を、図1に示す表に列挙する。
【0065】
本発明の状況下で使用された試験溶液の組成を、以下の表3に記載する。
【0066】
【表3−1】

【0067】
【表3−2】

さらに、アミノ酸または尿素の添加が、指示薬フェノールレッドの色が完全に黄色に変わる期間に及ぼす影響を上記のように試験した(以下の表4を参照のこと)。
【0068】
【表4−1】

唾液サンプルを使用した臨床調査
本発明の方法にしたがう、唾液サンプル中のう食原性細菌の半定量的な測定が、証明されたう食リスク試験CRT(登録商標)バクテリアの結果と相関するか否かを調査するために、およそ80個の唾液サンプルを、CRT(登録商標)バクテリア試験、ならびに本発明の試験溶液136および試験溶液98(表3を参照のこと)を使用して、並行して研究した。
【0069】
被験者を指示して、パラフィンペレット(CRT、Ivoclar Vivadent AG、Schaan、Liechtenstein)を30秒間、咀嚼し、そして刺激された唾液を吐き出させた。次に、この被験者に、このパラフィンペレットをさらに5分間咀嚼するように指示し、唾液を、ネジ付き蓋(screw lid)を有する50ml プラスチックチューブに収集した。CRT(登録商標)バクテリア試験は、唾液中に存在するミュータンス連鎖球菌と乳酸杆菌属との並行した半定量的な検出、およびその被験体を4つの異なるリスク段階のうちの1つに分類することを可能にする。この試験を、以下のように実行した。
1.サンプルチューブから寒天培地の支持体を取り外す。
2.このチューブの底にNaHCO錠剤をおく。
3.寒天培地の両方の表面から保護フィルムを注意深く取り外す;この過程で、寒天培地の表面を触らない。
4.寒天培地の表面を引っ掻かずに、ピペットを使用して、各々の寒天培地の表面を50μlの唾液で完全に湿らす。
5.滴らせることによって過剰な唾液を排出する。
6.上記寒天培地の支持体をこのチューブに戻し、しっかりと閉める。
7.インキュベーションキャビネット(例えば、Cultura/Ivoclar Vivadent)内で、37℃、48時間〜72時間、このチューブを直立させて保管する。
8.インキュベーションキャビネットからこのチューブを取り出した後、各々の場合におけるミュータンス連鎖球菌または乳酸杆菌属のコロニー密度を、添付の標準の対応する写真と比較する。
【0070】
段階CRT 0〜1(約10cfuに相当する)、段階CRT 1〜2(約10cfuに相当する)、段階CRT 2〜3(約10cfuに相当する)および段階CRT 3(約10cfuに相当する)への分類を実行した。次に、同じ唾液サンプルの、各々の場合についての50μlのアリコートを、50μlの試験溶液136(ミュータンス連鎖球菌について)または試験溶液98(乳酸杆菌属について)とインキュベートし、pH電極を使用するか、または指示薬の色の変化に基づいて、pHを、各々の場合においてサンプルへの炭素源の添加から1時間後、2時間後、3時間後および4時間後に測定した。この結果を、本明細書の以下にまとめる。
【0071】
【表4−2】

CRTバクテリアと測定されたpHとの間の相関が、統計的に有意であったことが見出された(図2および図3を参照のこと)。
【0072】
本発明の方法にしたがう唾液サンプル中のう食原性細菌の半定量的な測定が、小児および成人において、確立されたう食リスク試験CRT(登録商標)バクテリアの結果と相関するか否かを試験するために、成人の70個の唾液サンプルおよび小児の111個の唾液サンプルを、ミュータンス連鎖球菌について試験改変物(test variant)136および323、ならびに乳酸杆菌属について試験改変物98、ならびに本発明にしたがう試験溶液を使用して調べた。
【0073】
CRT(登録商標)バクテリア試験および対応するレベルでの分類を、上記のように実行した(「唾液サンプルを使用した臨床調査」と比較すること)。CRT(登録商標)バクテリア試験を実行した後、次に、同じ唾液サンプルのアリコートを、それぞれ試験溶液136または323(ミュータンス連鎖球菌について)および試験溶液98(乳酸杆菌属について)とともに1:1でインキュベートし、pH値を、指示薬の色の変化の補助下で、サンプルへの炭素源の添加から3時間後に測定した。この結果を、図4に示す。試験溶液98と一緒になった唾液サンプルにおける酸の形成のレベルが、乳酸杆菌属についてのCRT(登録商標)バクテリアの値と相関することは明らかである(図4A、4B)。同様に、試験溶液136(図4C、4D)および試験溶液323(図4E)と一緒になった唾液サンプルの酸の形成のレベルが、ミュータンス連鎖球菌についてのCRT(登録商標)バクテリア試験から得られた結果と相関する。
【0074】
統計分析の結果を、以下の表5にまとめる。
【0075】
【表5】

唾液サンプルの濃縮についての調査
1回の試験に必要とされる時間を受動的濾過(passive filtration)によって唾液サンプルを濃縮することによって短くすることができるか否かを確認するために、9つの濃縮した唾液サンプルおよび9つの濃縮していない唾液サンプル中のミュータンス連鎖球菌の検出を比較した。この目的のために、直径5mmの孔を、プラスチックディスクに穿孔した。これらの孔を、下からフィルター材料(ガラスファイバー)で密封した。ディスクとフィルターとを、このプラスチックディスクと吸引フリース(セルロース)との間にこのフィルターが配置されるような様式でこの吸引フリースの上においた。60μlの唾液サンプルを、孔のうちの1つを通してこのフィルター上に添加した。続いて、20μlの試験溶液136を、このフィルターに添加した。濾過の完了後に、この吸引フリースを、このディスクおよびこのフィルターから分離し、このプラスチックディスクとこのフィルターを、37℃で最長4時間インキュベートした。
【0076】
比較の目的のために、60μlの唾液を、マイクロタイタープレート内で60μlの試験溶液136と混合し、37℃で最長24時間インキュベートした。プラスチックディスクおよびマイクロタイタープレートにおいて、pHの低下のレベルを、30分、45分、60分、120分および180分のインキュベーション時間の後に、指示薬の色の変化によって測定した。両方の方法を、互いに、そしてCRT(登録商標)バクテリア試験(CRT SM)と比較した(以下の表における0〜5の色の微妙な差異を比較する)
【0077】
【表6】

示された色の変化は、測定されたCRT値と相関する。したがって、フィルターを通して唾液サンプルを濃縮した後に、45分後に生じた色の変化が、マイクロタイタープレートにおいて120分後に生じるものと匹敵するものであることが理解され得る。したがって、上述されたサンプルの濃縮は、かなり短い時間で本発明の方法を遂行することを可能にする。
【0078】
摘要
本発明は、唾液および/またはプラークのサンプル中のう食原性細菌を半定量的に測定するための方法に関し、ここで、プラークまたは唾液のサンプルに含まれる微生物を、炭素源と接触させる。この炭素源は、上記う食原性細菌によって酸に発酵される。次に、この微生物を、上記う食原性細菌による選択的な酸の形成を可能にする条件下でインキュベートする。次に、この酸の形成を、この炭素源の添加後、12時間の期間内で少なくとも一回pHを決定することによって検出し、ここで、上記pHと少なくとも1つの参照値とを比較することによって、上記サンプル中のう食原性細菌を半定量的に測定する。さらに、本発明は、このような方法を実行するためのキットを提供する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラークサンプルまたは唾液サンプル中のう食原性細菌の半定量的な測定のための方法であって、
(a)プラークサンプルまたは唾液サンプル中に含まれる微生物を、必要に応じて濃縮する;
(b)該微生物を、該う食原性細菌によって酸へ発酵される炭素源と接触させる;
(c)該微生物と該炭素源とを、該う食原性細菌による選択的な酸の形成を促進する条件下でインキュベートする;
(d)該炭素源の添加後、12時間の期間内で少なくとも1回、pHを決定する;
ここで、該サンプル中の該う食原性細菌の該半定量的な測定は、工程(d)において決定されたpHと少なくとも1つの参照値とを比較することによって実行される、方法。
【請求項2】
前記pHが、pH電極を使用して工程(d)で決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記pHが、酸の形成の際にその色が変化するpH指示薬を使用して工程(d)で決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記pH指示薬が、ブロモクレゾールパープル、ブロモクレゾールグリーン、m−クレゾールパープル、ブロモチモールブルー、フェノールレッドおよびクロロフェノールレッドからなる群より選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
工程(c)が、前記う食原性細菌の増殖および/または酸の形成を有意には損ねない1つまたはそれより多くの抗生物質の存在下で進行する、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
工程(b)および/または工程(c)が、1つもしくはそれより多くのアミノ酸および/または1つもしくはそれより多くのアミノ酸含有ポリマーの存在下で進行する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
工程(b)および/または工程(c)が、アルギニン、アスパラギン、グルタミン、リジンおよびセリンからなる群より選択される1つもしくはそれより多くのアミノ酸の存在下で進行する、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
工程(b)および/または工程(c)が、アルギニンの存在下で進行する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記う食原性細菌がミュータンス連鎖球菌である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記ミュータンス連鎖球菌によって酸へ発酵される前記炭素源が、スクロース、マルトースおよびマルトトリオースからなる群より選択される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記う食原性細菌が乳酸杆菌属である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
工程(c)が、バンコマイシン、クリンダマイシンおよびナイシンからなる群より選択される1つもしくはそれより多くの抗生物質の存在下で進行する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記乳酸杆菌属によって酸へ発酵される前記炭素源が、マンノース、ラクトースおよびN−アセチルグルコサミンからなる群より選択される、請求項11または12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
請求項3〜13のいずれか一項に記載の方法を実行するための試験ストリップであって、ここで、
う食原性細菌によって酸へ発酵される炭素源、および酸の形成の際に色が変化するpH指示薬が、該試験ストリップと細菌の懸濁物とが接触した際に、該炭素源と該pH指示薬とが該試験ストリップから放出されるような様式で、該試験ストリップの表面上に固定化されている、試験ストリップ。
【請求項15】
前記試験ストリップが、20μm未満の孔径を有するフィルター材料を備え、該フィルター材料上に、前記炭素源および前記pH指示薬が固定化される、請求項14に記載の試験ストリップ。
【請求項16】
前記炭素源および/または前記pH指示薬が、ポリマーラッカーによって前記試験ストリップ上に固定化されている、請求項14または15に記載の試験ストリップ。
【請求項17】
請求項3〜13のいずれか一項に記載の方法を実行するための試験キットであって、該試験キットは:
(a)う食原性細菌によって酸へ発酵される炭素源;
(b)酸の形成の際に色が変化するpH指示薬;
(c)サンプル中の該う食原性細菌の濃度の半定量的な測定を可能にする色の標準
を備える、試験キット。
【請求項18】
前記色の標準が多段階の標準である、請求項17に記載の試験キット。
【請求項19】
前記キットは、請求項14〜16のいずれか一項に記載の少なくとも1つの試験ストリップを備える、請求項17または18に記載の試験キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−24085(P2012−24085A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−156746(P2011−156746)
【出願日】平成23年7月15日(2011.7.15)
【出願人】(501151539)イフォクレール ヴィヴァデント アクチェンゲゼルシャフト (54)
【氏名又は名称原語表記】Ivoclar Vivadent AG
【住所又は居所原語表記】Bendererstr.2 FL−9494 Schaan Liechtenstein
【Fターム(参考)】