説明

えのき茸栽培用巻布およびこの巻布を使用したえのき茸栽培方法

【課題】従来の巻紙および巻布などより通気性が優れた、高い品質で日持ちの良いえのき茸を得られるえのき茸栽培用巻布を提供すること。
【解決手段】通気性を0.2〜16.0秒(JIS L1096:1999 8.27 B法)の範囲にした不織布を用いて、円弧状の上下辺1a、1bと、略直線状の左右辺1c、1dとからなる巻布に形成して、左右辺1c、1dの一部に着脱自在な固定手段を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、えのき茸栽培用巻布およびこの巻布を使用したえのき茸の栽培方法に係り、詳しくはえのき茸の栽培工程で栽培瓶の瓶口に巻き付けてえのき茸の茎を伸張させるのに使用するえのき茸栽培用巻布およびこの巻布を使用したえのき茸栽培方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
えのき茸の人工栽培は、通常、上方に所定大きさの瓶口を設けた栽培瓶を用い、この栽培瓶に培地を詰めた後に、えのき茸菌を接種して所定の雰囲気で培養し、えのき茸を発芽・生育することによって行われている。この瓶栽培では、えのき茸を伸長させる生育工程において、瓶口に所定大きさの紙を筒状に巻き付ける紙巻きによって行われている。この紙巻きは、二酸化炭素濃度を上昇させてえのき茸の傘の生育を抑制し茎の生長を促進させるとともに、生長するえのき茸が瓶口から外側に垂れ下がるのを防止する支持体の機能をも果たしている。しかしながら、この紙巻きに使用する巻紙は、その通気性が悪いと生育されるえのき茸が水きのこになり易くなり、反対に通気性が良いと乾燥し易くなって生育の支障となる。また、巻紙に平滑性がないと巻紙に接する側枝の伸びが妨げられて同様の生育の支障を来たすことになる。
【0003】
そこで、この巻紙は、通常、通気性を有する紙材の表面に蝋を塗布した蝋紙(以下、「ロウ紙」という)が使用されている。このロウ紙は、蝋の塗布量を調節することによって、所定の通気性を持たせることができ、また、紙材が有する湿気性により水きのこになるのを防止できるとともに、水濡れを防止できて繰り返しの使用が可能なものになっている。
近年、えのき茸の栽培は、白系のえのき茸栽培が盛んになってきている。この白系のえのき茸は、従来のえのき茸に比べて乾き易い性質があり、従来のロウ紙を使用すると、側枝の伸びが悪くなり、また茸の傘が大きくひらいてしまうなどの課題がある。
そこで、このような課題を解決するために工夫された巻紙が提案されている。
【0004】
例えば、下記特許文献1に記載された巻紙は、通気性遮断材料からなる扇形状のポリエチレンフィルムと、このポリエチレンフィルムの表裏面にそれぞれ配設した扇形状のロウ紙とを用いて、これらを積層して一体的に密着・貼り合わせた構造となっている。この巻紙は、2枚の紙の中間にポリエチレンフィルムを挟み、熱圧着するとともに、ロウを両面に塗布し、蝋を絞るようにして挟圧することによって製造されている。
この巻紙によれば、中間にポリエチレンフィルムが挟まれているので、従来のロウ紙を用いた巻紙に比べて通気性を低下させることができる。また、ポリエチレンフィルムの表裏面にロウ紙が貼り合わされているので、ロウ紙の吸湿性により水きのこになるのを防止できるとされている。
【0005】
また、下記特許文献2に記載された巻紙は、上記特許文献1と同じ出願人によるものであるが、芯材として通気性および吸湿性のある紙材(この紙材は従来の紙材と同じものとなっている)を使用し、その紙材の両表面に蝋材(以下、ロウ材)を塗布することによって、濡れ防止と表面の円滑性が得られるようにするとともに、紙材の通気性を抑えるために紙材に防水処理を施したものである。この防水処理は、紙材に合成樹脂を薄くコートしてからロウ材で表面をコートする方法、或いは防水材を含有したロウ材で紙材をコートする方法によって行われている。また、この特許文献2には、通気性を60%遮断したものがえのき茸栽培で最も良い結果が得られ、特に瓶口径が大きい場合は、通気性を60%遮断するのが好ましいとされている。そしてまた、この構成の巻紙によれば、上記特許文献1の巻紙と同じ結果が得られるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平3−228622号公報(第2頁下段右欄、図2)
【特許文献2】特開平7−203762号公報(段落〔0010〕〜〔0013〕、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の巻紙のうち、ロウ紙は、ある程度の通気性を持たせることができ、また、紙材の湿気性で水きのこになるのを防止でき、しかも水濡れを防止して繰り返して使用できる。しかしながら、このロウ紙は、紙材に蝋を塗布したものであることから、繰り返して使用するうちに磨耗してしまい耐久性に課題が残る。この課題を解消するために、上記特許文献1のポリエチレンフィルムを紙材で挟んだ巻紙が提案されているが、この巻紙は、その製造に専門的な製造技術や専用装置が必要となり、簡単に製造できないという課題がある。そこで、上記特許文献2は、上記特許文献1のものを改良したものとなっている。しかしながら、この特許文献2の巻紙も紙材を加工したものとなっているので、摩耗性、耐久性の課題は解決されていない。なお、この特許文献2の巻紙では、通気性の値を40〜50%となるように調整する旨の説明がなされているが、通気性の計測尺度が不明瞭なため第三者には実施できず、通気性の度合いを説明するのに相応しいものとは言えない。
また、えのき茸の栽培現場では、不織布を使用した巻布、例えば旭・デュポンフラッシュスパンプロダクツ株式会社製の商品名「タイベック 1082D」(登録商標)が使用されている。この巻布は、上記のロウ紙などの巻紙と比べて耐久性には優れるが、えのき茸栽培においては通気性についてより改善の余地があることが判明した。また、樹脂フィルム材からなる樹脂シートに複数個の小孔を設けた巻シートも使用されているが、同様により改善の余地があることが判明した。
【0008】
したがって、このような巻紙および巻布などは、その通気性がえのき茸の栽培に適合しないと、高収量かつ高品質の両立が実現できない。
一方、近年の販売流通経路の多様化により、スーパーマーケットなどの店頭では、日持ちがより良く品質の高いえのき茸が求められている。
【0009】
そこで、発明者は、従来使われてきた巻紙などを検証して、巻紙の通気性が低過ぎると、収量は上がるものの、水きのこになり易く日持ちも悪くなる、一方、通気性が高過ぎると、水きのこになり難く、茎の太さが太くなり日持ちがよくなるものの、収量が下がってしまうとの知見を得て、紙材からなる巻紙に代えて不織布からなる巻布を使用し、この巻布の通気性を所定の範囲にすれば、収量及び品質のバランスがとれたものとなり、A品の収量を高くし、さらに高品質で日持ちのよいえのき茸を栽培することができることを見出して、本発明を完成させるに至ったものである。(なお、A品とは不良品でないものを指し、不良品の詳しい判定方法については後述する。)
【0010】
本発明は、上記の従来技術の課題を解決し、上記の知見に基づいてなさされたもので、本発明の目的は、従来の巻紙および巻布などより通気性の優れた、すなわちガーレ形試験機を用いて計測した通気性が小さいえのき茸栽培用巻布を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、従来の巻紙および巻布などより通気性の優れた、すなわちフラジール形試験機を用いて計測した通気性が大きいえのき茸栽培用巻布を提供することにある。
【0012】
本発明のまた他の目的は、上記えのき茸栽培用巻布を使用し、高い品質で日持ちの良いえのき茸を得られるえのき茸栽培方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、請求項1に記載のえのき茸栽培用巻布は、JIS L1096:1999 8.27 B法に準拠したガーレ形試験機を用いて計測した通気性が0.2〜16.0秒の範囲にある不織布で形成されていることを特徴する。
また、請求書2に記載のえのき茸栽培用巻布は、前記通気性が、1.9〜11.0秒(JIS L1096:1999 8.27 B法)の範囲にあることを特徴とする。
また、請求項3に記載のえのき茸栽培用巻布は、請求項2に記載の巻布に係り、摩耗強さが、JISL1096:1999 8.17 C法(但し、摩耗輪はNo.CS−10を用い、4.9Nの荷重をかけ、摩耗させる所定回数は100回とした。以下、同じ条件とする)に基く外観変化の判定でA級(異常なし)であることを特徴とする。
また、請求項4に記載のえのき茸栽培用巻布は、JIS L1096:1999 8.27 A法に準拠したフラジール形試験機を用いて計測した通気性が0.46〜116cm/cm・sの範囲にある不織布で形成されていることを特徴とする。
また、請求項6に記載のえのき茸栽培用巻布は、請求項1〜5に記載の巻布に係り、扇形にして、前記扇形布の巻回する方向の両端部に着脱自在な固定部材が設けられていることを特徴とする。
また、請求項7に記載のえのき茸栽培用巻布は、請求項6に記載の巻布に係り、前記固定部材が面ファスナーであることを特徴とする。
また、請求項8に記載のえのき茸栽培方法は、請求項1〜7に記載の巻布を、えのき茸の栽培工程で栽培瓶の瓶口に巻き付けてえのき茸を栽培することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、上記構成を備えることにより、以下に示す効果を奏する。すなわち、請求項1の発明によれば、えのき茸栽培用巻布の通気性を、0.2〜16.0秒(JIS L1096:1999 8.27 B法)の範囲にすることにより、通気性がえのき茸の栽培に適したものとなるので、A品の収量を減らすことなく、高品質で日持ちのよいえのき茸を栽培することができるものとなる。また、不織布で形成されているので、これまでの紙材の巻紙に比べて耐久性が増し、長期間の再利用が可能になる。
請求項2の発明によれば、通気性を1.9〜11.0秒(JIS L1096:1999 8.27 B法)の範囲にすることにより、通気性がえのき茸の栽培に更に適したもの、すなわち、収量及び品質のバランスが良いものとなり、請求項1の発明のものに比べて、A品の収量をさらに高くできるとともに、さらに高品質で日持ちのよいえのき茸を栽培することができるものとなる。
請求項3の発明によれば、摩耗強さがA級、すなわち表面の平滑度が高く滑り易いため、えのき茸の栽培時に茎が巻布にくっつき難くなり、茎の成長が阻害されない。更に、劣化しにくいため、これまでの紙材の巻紙に比べて耐久性が高く、長期間の再利用が可能になると同時に、汚れも付着しにくいため、より衛生的である。
請求項4の発明によれば、えのき茸栽培用巻布の通気性を、0.46〜116cm/cm・s(JIS L1096:1999 8.27 A法)の範囲にすることにより、えのき茸の栽培に適した通気性となり、高品質で日持ちのよいえのき茸を栽培することができるものとなる。全体の収量は若干少ないものの、A品での収量は実質的に同等で、かつ日持ちの向上に優れたものとなる。
請求項5の発明によれば、えのき茸栽培用巻布を扇形とし、さらに巻回する方向の両端部に着脱自在な固定部材が設けられているため、瓶口に巻布を固定し易く更に着脱が簡便になるため、えのき茸栽培における作業性を向上させることができる。
請求項6の発明によれば、えのき茸栽培用巻布の固定部材が面ファスナーであるため、着脱がより容易となり、えのき茸栽培における作業性を更に向上させることができる。
請求項7の発明によれば、えのき茸栽培用巻布として、請求項1〜6に記載されている巻布を用いるため、高品質で日持ちのよいえのき茸を作業性良く栽培することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は本発明の実施例1〜3に共通する茸栽培用巻布の平面図である。
【図2】図2は図1のえのき茸栽培用巻布の使用形態の斜視図である。
【図3】図3は図1のえのき茸栽培用巻布を使用したえのき茸の栽培方法の工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。但し、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するためのえのき茸栽培用巻布およびこの巻布を使用したえのき茸の栽培方法を例示するものであって、本発明をこのえのき茸栽培用巻布およびこの巻布を使用したえのき茸栽培方法に特定することを意図するものではなく、特許請求の範囲に含まれるその他の実施形態のものにも等しく適応し得るものである。
【0017】
まず、図3を参照して、一般的なえのき茸の栽培方法を説明する。なお、図3はえのき茸の栽培方法の工程図である。
えのき茸の栽培は、図3に示すように、まず、オガコ又はコーンコブなどの基材に、米ぬか、粉ビートなどの添加材を所定の割合で混合するとともに、所定量の水を加水して水分率が所定の値になるよう調製をして、この調製した培地を所定大きさの瓶容器に詰める(S1、S2)。瓶容器に詰めた培地には、培地の上面から底部へ届く深さの接種孔を1本又は複数本形成する(S3)。この接種孔は、種菌を培地底部まで落下させ、菌糸を培地内全体にスムーズに増殖させるとともに、培地内の空気の流動を良好にするために形成される。
【0018】
接種孔を形成した瓶容器は、殺菌室に搬送して培地を殺菌し、殺菌した培地に、えのきの種菌を接種して所定の雰囲気の培養室へ搬送して培養する(S4〜S6)。
【0019】
次の菌かき(S7)では、活力のある培地内の菌糸からえのき茸を発生させるために、老化した菌種の菌糸を取除く菌かきを行う。
【0020】
菌かき後、所定の雰囲気で芽出し管理(発生操作ともいう)(S8)を行い、続いて、芽が出たえのき茸の傘部分の肥大を促進させ、一方で茎の生長を抑制して生育を揃えるためにならしと抑制(生育前期ともいう)(S9)を行う。このならしと抑制は、芽出し後の子実体(きのこ)は傘が小さく茎も軟弱で、低温や乾燥に弱く、前工程で周囲温度を比較的高い温度(14〜15℃)にして芽出しを行い、そこからこの抑制工程で急に低温(4〜5℃)に遭わせると、子実体の傘が乾燥して生長しなくなるので、この低温に馴化させるため、その温度を略中間の温度(7〜8℃)にして、その後、この温度を下げて(3〜4℃)して茎の生育を抑制する工程となっている。その後、後述する紙巻(S10)を経て温度を5〜7℃に維持し生育後期管理(S11)を行う。
【0021】
紙巻は、えのき茸栽培の独特の工程であって、えのき茸の周囲を巻紙で覆うことにより、二酸化炭素濃度を上昇させて、傘の生育を抑制し、茎の生長を促進させるために行われる。この紙巻により、野生のえのき茸より茎の長いものとなり、収量性が高まり、流通・販売面などで扱いやすいものとなる。反面、えのき茸の生育にとっては、環境が悪くなり、えのき茸の奇形や水きのこなどが発生し易くなる。そこで、巻紙には、通気性などが異なるものが提案されているが、えのき茸の生育環境に合った巻紙を使用しなければ、前述したように、高品質なものにして且つ収量を増大させることはできず、また、日持ちのよいものが得られない。すなわち通気性が悪過ぎると、水きのこになりやすく、収量は上がるものの日持ちが悪くなる、一方、通気性が良過ぎると、二酸化炭素濃度上昇が不十分となり、収量が下がってしまう。
[実施例1]
【0022】
そこで、この実施例1に係るえのき茸栽培用巻布は、これまでの巻紙および巻布に代えて、通気性を1.9〜11.0秒(JIS L1096:1999 8.27 B法)の範囲に選定した不織布で構成する。この巻布により、収量及び品質のバランスがとれたものとなり、A品の収量をさらに高くするともに、さらに高品質で日持ちのよいえのき茸を栽培することができる。
えのき茸の栽培においては、室内のエアコントロールを行うが、このエアコントロールとあわせて、上記のJIS L1096:1999 8.27 B法に準拠したガーレ形試験機を用いて計測した通気性が小さい、すなわち通気性の良い不織布を巻布として用いることで上記の栽培効果を達成できる。
また、この巻布は、摩耗強さをA級(JISL1096:1999 8.17 C法 外観変化の判定)にするのが好ましい。摩耗強さがA級、すなわち表面の平滑度が高く滑り易いため、えのき茸の栽培時に茎が巻布にくっつき難くなり、茎の成長が阻害されない。また、耐久性が高いので繰り返しの使用が可能になる。更に、汚れがつきにくいため衛生的である。
【0023】
以下、この巻布の形状およびこの巻布の生地となる不織布の製造方法を説明する。
この巻布1は、図1に示すように、円弧状の上下辺1a、1bと、略直線状の左右辺1c、1dとからなり、左右辺1c、1dの一部に着脱自在な固定手段を設けた構成を有している。この固定手段は、例えば面ファスナーで構成されている。
【0024】
この巻布1は、不織布を加工して作成するが、以下に、この不織布の製造方法の一例を示す。
この不織布は、紡糸直結タイプの不織布からなる原反を使用することによって製造される。すなわち、この紡糸直結タイプの不織布は、熱可塑性高分子を溶融させ、連続した長繊維状に吐出しながら形成する方法であって、一般にスパンボンド法と呼ばれている。
【0025】
このスパンボンド法による不織布の製造は、原料のポリプロピレンのペレットを押出機へ供給して、ペレットに熱を掛けて溶かしながら次の紡糸・延伸工程へ送り込まれる。この紡糸・延伸工程では、溶けた原料を複数個(例えば10,000個)のノズル(1個のノズル直径は、例えば1mm以下)から押出されて、この押出しと同時に、エジェクターで引っ張られ、その間で冷却されて溶けた原料を固化させることによって、直径20μm以下の細い糸が形成される。次いで、エジェクターから出た糸をコレクターと呼ばれるネット状のコンベアに落とされて、次の融着工程へ搬送される。なお、コレクターに落ちた糸の状態は、ウェブと呼ばれ、綿状の繊維になっている。
【0026】
次いで、このウェブに、ヒートロールで熱を掛けて繊維間が接着される。ヒートロールには、通常、エンボス加工を施しており、繊維の所々を点接着させて布のような柔らかなシートが形成される。このシートをワインダーで巻取り、不織布原反を完成させる。
【0027】
その後、この不織布の原反に、所定温度のヒートロールを通過させることによって、上記の通気性および摩耗強さを調整し、シート材が完成する。
【0028】
次に、上記シート材を加工して、巻布1を作成する方法の例について説明する。上記通気性などを調整したシート材から略扇形にした巻布を複数枚裁断して巻布1を作成する。この巻布1は、栽培瓶の瓶口に巻き付けたときに、上方が若干開いた筒形になるように上端縁と下端縁を僅かに円弧状にするとともに、両端部が一部重なって、瓶口の全周を覆う長さを形成する。すなわち、この巻布1は、図2に示すように、円弧状の上下辺1a、1bと、略直線状の左右辺1c、1dとを有する布片に形成する。この巻布1は、また、左右辺1c、1dの一部に着脱自在な固定手段を設ける。この固定手段は、例えば面ファスナーで構成する。
[実施例2]
【0029】
実施例2に係る巻布は、シート材として用いる不織布を、磨耗強さをB級(JISL1096:1999 8.17 C法 外観変化の判定)に調整し、かつ通気性0.2以上1.9秒未満および11.0秒以上16.0秒未満(JIS L1096:1999 8.27 B法)の範囲のものから選定する他は、実施例1と同様に作成する。
[実施例3]
【0030】
実施例3に係る巻布は、不織布原反に対する温度制御を実施せず、即ちシート材に替えて原反を使用して、通気性が0.46〜116cm/cm・s(JIS L1096:1999 8.27.2 A法)の範囲から選定する他は、実施例1と同様に作成する。
[比較例1、2]
【0031】
比較例1、2の巻紙などは、公知のものであって、比較例1の巻布は不織布で形成されたもので、製造元により、ガーレ形試験機を用いて計測した通気性は目標値(99.7%の製品がこの範囲内に入ると期待される値)として17〜45秒であるとされている。比較例2は樹脂フィルムに複数個の小孔を設けた巻シートであり、この巻シートの通気性は構造上計測できなかった。
【0032】
なお、通気性の計測にあたっては、JIS L1096:1999 8.27 B法による計測値が0.2秒以下になるような通気性の良い素材については、JIS L1096:1999 8.27 B法では事実上計測することはできないため、代わってJIS L1096:1999 8.27 A法で計測されている。
【0033】
上記実施例1〜3並びに比較例1、2の巻紙を使用し、収量、茎の数、不良品率及び変色度に関して試験を行い表1〜4の結果を得た。
試験方法は、
16本の栽培瓶を収容するコンテナーを10個(すなわち、栽培瓶は160本となる)用意して、収量、茎の数、不良品率及び変色度などのデータを個々のコンテナー毎に採り、10コンテナーの平均値を算出した。
【0034】
表1は、収量を示している。
【表1】

この表1から、収量の平均値は、比較例2が271.2gで一番多く、続いて、比較例1の265.7g、実施例1の262.0g、実施例2の253.8g、実施例3の253.0gと続いている。そして、実施例1〜3は、比較例2に対して3〜10%少なくなっている。
【0035】
表2は、茎の数を示している。
【表2】

この表2から、茎数の平均値は、比較例2が811本と一番多くなっていたが、小さい芽が多く目立ち、足も細くなったものが多かった。これに対して、実施例1は693本、実施例2は690本、実施例3は677本で、比較例2の811本に対して最大で約17%程度少なくなっていたが、小さい芽が少なく、5cm以下のものも少なく、しかも足が太いものが多かった。比較例1は750本で本数がそれらの中間にあったが、細いものが目立っていた。
【0036】
表3は、不良品率を示している。後述する5つの基準に一つでもあてはまるものを不良品とし、不良品率とは16本ある瓶のうち、不良品である瓶の本数の割合(百分率を小数点第一位で四捨五入)を意味し、例えば1本の瓶が不良品の場合、そのコンテナーの不良品率は7となる。不良品の判定基準は、1.えのき茸の全長が13cmより短い又は15cmより長い、2.茎の太さで細いものが目立つ、3.傘(茎頭)に病気などがある、4.水きのこになっている、5.茎などが平均的に成長してない、である。
【表3】

この表3から、この不良品率の平均値は、比較例2は11.6%、比較例1は5.5%
であったのに対して、実施例1は2.1%、実施例2は、3.5%、実施例3は2.7%であり、各実施例が比較例に対して不良品の発生を抑制していることが分かる、比較例1に対しては、2割〜3割程度に、比較例2に対しては4割〜6割程度に低減している。特に、比較例2は、見た目に水っぽさがあり、全体的に小さいものとなっていた。
【0037】
表4は、日持ちを示している。この日持ち試験は、各瓶から無作為に10株を取り出し、包装した状態で常温(約8℃〜26℃)で3日間及び6日間放置し、変色度を判定した。
変色度は、10、25、50、75の4段階のスコアで表した。見た目にほとんど変色していない場合が「10」、全体が色づき始めるが濃く変色していない場合が「25」、かなりの変色で食べられない状態である場合が「50」、さらに、全体に濃く変色し一部腐りかけている場合を「75」とする。
【表4】

この表4で、数字が大きい方が変色が激しくすなわち日持ちが悪いことを示している。変色度の平均値は3日間および6日間のいずれにおいても、各実施例の値が比較例1、2を下回り、比較例1、2に対して日持ちが良いことが分かる。特に変色度(3日間)の平均値は、比較例1は27、比較例2は40であるのに対して、実施例1、2はともに19、実施例3は16となり、各実施例は比較例2に対しては半分以下、比較例1に対しては3分2程度になっている。
【0038】
以上により、各実施例に係る巻布を用いたえのき茸栽培によれば、従来の巻紙および巻布と比べて、高品質で日持ちの良いえのき茸を栽培することができる。
【符号の説明】
【0039】
1巻布
2面ファスナー
3栽培瓶

【特許請求の範囲】
【請求項1】
えのき茸の栽培工程で栽培瓶の瓶口に巻き付けて使用するえのき茸栽培用巻布において、
前記巻布は、ガーレ形試験機を用いて計測した通気性が0.2〜16.0秒(JISL1096)の範囲にある不織布で形成されていることを特徴とするえのき茸栽培用巻布。
【請求項2】
前記通気性は、1.9〜11.0秒の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載のえのき茸栽培用巻布。
【請求項3】
前記巻布は、摩耗強さが外観変化の判定でA級(JISL1096)であることを特徴とする請求項2に記載のえのき茸栽培用巻布。
【請求項4】
えのき茸の栽培工程で栽培瓶の瓶口に巻き付けて使用するえのき茸栽培用巻布において、
前記巻布は、フラジール形試験機を用いて計測した通気性が0.46〜116cm/cm・s(JISL1096)の範囲にある不織布で形成されていることを特徴とするえのき茸栽培用巻布。
【請求項5】
前記巻布は、扇形にして、前記扇形布の巻回する方向の両端部に着脱自在な固定部材が設けられていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のえのき茸栽培用巻布。
【請求項6】
前記固定部材は、面ファスナーであることを特徴とする請求項5に記載のえのき茸栽培用巻布。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のえのき茸栽培用巻布をえのき茸の栽培工程で栽培瓶の瓶口に巻き付けてえのき茸を栽培することを特徴とするえのき茸栽培方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−178637(P2010−178637A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−22875(P2009−22875)
【出願日】平成21年2月3日(2009.2.3)
【出願人】(504328152)株式会社サカト産業 (13)
【出願人】(595031775)シンワ株式会社 (12)
【Fターム(参考)】