説明

かご型シルセスキオキサン(POSS)及び親水性コモノマーから作成されたポリマー膜

【課題】 かご型シルセスキオキサン(POSS)及び親水性コモノマーから作成されるポリマー膜を提供する。
【解決手段】 複合膜は、ろ過膜、及びろ過膜の表面上の層を含む。この層は、少なくとも1つの頂点に結合した親水性部分を有するかご型シルセスキオキサン(POSS)誘導体を含んだポリマーを含む。複合膜を作成する方法は、ろ過膜の表面に、POSS化合物、親水性コモノマー、及び光開始剤を含んだ光重合可能組成物を塗布するステップを含む。この組成物を硬化させてろ過膜のうえに親水性層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はかご型シルセスキオキサン(POSS)化合物及び親水性コモノマーから作成されたポリマー膜に関する。この膜は、例えば、ろ過用途に、或は別の膜上に設けて性能強化層を形成するように用いることができる。
【背景技術】
【0002】
精密ろ過(MF)、限外ろ過(UF)、ナノろ過(NF)、及び逆浸透(RO)などの膜技術は、エネルギー効率が良く、費用効率が高く、操作が簡単であるために、浄水のために広く用いられている。しかし、多くの市販の膜は、例えば、無機塩、乳化油滴、及び天然有機物質のような汚染物質に曝されると、大幅な透過流束の低下をこうむる。水中のこれらの汚染物質は膜表面上に付着し及び/又は膜の細孔をふさぐ可能性があり、これが膜を汚染してその有用寿命を短くする。
【0003】
この汚染問題に対処するための現在の手法には、供給水の前処理、膜管の定期的減圧、流れ反転、及び膜表面から汚染膜を除去するための洗浄剤の使用が含まれる。これらの方法はエネルギー及び/又は付加的な化学薬品を必要とし、生産的な膜稼働時間を減らし、これが直接に稼働費用の増加をもたらす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
汚染抵抗性材料で膜の表面を修飾することは、場合により膜の有用寿命を延ばし稼働費用を減らすことができる別の手法である。例えば、ナノ粒子、酵素、及びエポキシ化合物のような材料は、多少の汚染抵抗性を示すが、長時間の膜稼働時間にわたって膜を通しての大きな透過水流束を維持する高透水性の防汚材料を開発する必要性が依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一般的に、本発明はかご型シルセスキオキサン(POSS)化合物で架橋された薄い膜に関する。POSS化合物は、かご様構造を有するもので、その頂点に種々様々な連結基及び/又は官能基を有することができる(かご構造に応じて)。これらの連結基を用いて、POSS化合物を種々様々なコモノマーと重合することができる。
【0006】
一実施形態において、POSS化合物を親水性コモノマーと反応させて、ろ過膜の表面上に貼付又は形成することができる親水性の性能強化層を形成する。一実施形態において、この層は、少なくとも1つのその頂点に結合した親水性部分を有するかご型シルセスキオキサン(POSS)誘導体を含んだポリマーを含む。
【0007】
この層の吸水率及び透水率は、POSS化合物と親水性コモノマーの間の構成比を操作することにより制御することができる。性能強化層の構造には、随意に付加的なナノチャネル及び/又は孔を含めて、例えば、その吸水率及び透水率を向上させることができる。性能強化層は透水性が高く、幾つかの実施形態においては、有機又は生体化合物に起因する汚染に冒されにくい複合膜構造をもたらす。そのような膜を含む複合膜は長い稼働時間の間高い透過水流速を維持する。
【0008】
さらに別の実施形態において、本発明はろ過膜の表面上に薄い膜層を作成する方法に関する。この方法は、POSS化合物、親水性コモノマー、及び溶媒抽出可能な犠牲化合物を含む組成物を硬化させて膜上に層を形成するステップを含む。幾つかの実施形態においては、薄い膜に溶媒を塗布して犠牲化合物を抽出し、層内に孔及びチャネルの少なくとも1つを形成する。
【0009】
本発明の1つ又は複数の実施形態の詳細が、添付の図面及び以下の説明において記載される。本発明の他の特徴、目的、及び利点は説明及び図面、並びに特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】メタクリルPOSSとPEG−Mの混合物(POSS:PEG−Mの重量比=1:20)に(A)0%、(B)30%、及び(C)50%のPEG添加物を加えることにより調製した自立型膜の一連の断面SEM像である。
【図2】複合膜の断面構造の略図である。
【図3】コーティングされた及び無コーティングのポリスルホン(PSF)膜についての油/水エマルジョンのクロスフローろ過試験に関する透過流束対時間のプロットである。
【図4】(A)純粋な重合前混合物(POSS−PEG−M A50N)によりコーティングされた複合膜の断面SEM像、及び(B)希釈された重合前混合物(POSS−PEG−M A50D、20%(w/w)EtOHで希釈)によりコーティングされた複合膜の断面SEM像である。
【図5】コーティングされた及び無コーティングのPSF膜についてのタンパク質供給溶液のクロスフローろ過における透過流束対時間のプロットである。
【図6】無コーティングPSF、POSS−PEG−M A50Nでコーティングされた膜、及びPOSS−PEG−M A50Dでコーティングされた膜の流束回復指数のプロットである。Pw,o=汚染実験前に測定した純水の透水率、Pw,f=汚染実験後に測定した純水の透水率。
【発明を実施するための形態】
【0011】
一態様において本発明は、かご型シルセスキオキサン(POSS)化合物及び適切な親水性コモノマーを含む組成物を重合(硬化)させることにより形成される薄い膜に関する。POSS化合物は、かご型の構造を有するもので、そのかごの頂点に様々な連結基及び/又は官能基を有し、非常に効果的な架橋剤として機能するように合成することができる。POSS化合物上の連結基及び/又は官能基は、POSSモノマーを重合又は接合してポリマー鎖にするのに適した反応官能性、並びに、ある官能基に連結し、及び/又は、例えば、特定のポリマーシステムとのPOSS化合物の溶解性及び親和性を強化する非反応官能性を有することができる。連結基及び/又は官能基は、POSS化合物を種々様々なコモノマーと重合させるのに用いることができる。
【0012】
本出願において、用語POSS化合物は以下の構造(I)、(II)、(III)又は(IV)を有する樹脂を意味する。ここで、
【化1】


は式Tで表示され、TはRSiO3/2を表し、
【化2】


は式T10で表示され、TはRSiO3/2を表し、
【化3】


は式T12で表示され、TはRSiO3/2を表し、そして
【化4】


である。
【0013】
上記の式(I)〜(IV)において、1つ又は複数のR基は独立に、例えば、
(1)
【化5】


及び、
【化6】


を含むメタクリレート、並びに、
(2)
【化7】


及び、
【化8】


を含むアクリレート、のような重合可能基から選択される。
【0014】
代替的に、重合可能R基は構造(L)−Pを有することができ、ここでLは連結基であり、nは0又は1であり、Pは重合可能部分であり、ここで各々の連結基は独立に、アルキル基、シクロアルキル基、シロキサン、アルキルシリル基、及びアルキルシロキシル基から選択される。
【0015】
置換POSS化合物を、mが8、10又は12に等しい一般式Tで表示することができる。m=8のときの化合物の一般名はオクタキス(N)シルセスキオキサンであり、ここでNはR基を示す名称である。
【0016】
構造(IV)は、第1の型の開放かご型置換POSSオリゴマーの典型と考えることができ、この場合、かごの各々のシリコン原子が固有数の酸素原子(構造IVにおいては3個)に結合するが、幾つかの酸素原子は2個のシリコン原子には結合しない(構造IVにおいては2つの−OH基)。
【0017】
以下に示す構造(VI)及び(VII)は第2の型の開放かご型POSS構造の例であり、この場合、かごの1つ又は複数のシリコン原子が存在せず、しかし、かごの全てのシリコン原子が依然として固有数の酸素原子に結合する。
【化9】


ここで、R=エチル基及びOR=構造(V)Cであり、
【化10】


ここで、R=イソブチル基及びOR=構造(V)Aである。
【0018】
構造(I)、(II)及び(III)は閉かご型置換POSS化合物である。構造(IV)は、2つの−Si−O−Si−かごブリッジが開いた開かご型置換TPOSS化合物である。構造(VI)及び(VII)は1つのかごSi原子が存在しない開かご型置換TPOSS化合物である。置換POSS化合物は、1つ又は複数の開いた−Si−O−Si−O−ブリッジを有するか、或は1つ又は複数のかごSi原子が存在しない、開かごT、T10及びT12構造を包含することができる。
【0019】
幾つかの実施形態において、本発明の薄い膜を作成するのに用いる配合物は、異なるR基を有するTPOSS化合物の混合物、異なるR基を有するT10POSS化合物の混合物、及び/又は異なるR基を有するT12POSS化合物の混合物を含むことができる。幾つかの実施形態において、本発明の組成物は開かご型及び閉かご型T、T10及びT12POSS化合物の混合物を含むことができる。
【0020】
POSS化合物上のR基は同じものでも異なるものでも良く、そして独立に、重合可能基又は非重合可能基、例えば、直鎖アルキル、分岐アルキル、シクロアルキル、フッ素化直鎖アルキル、フッ素化分岐アルキル、フッ素化シクロアルキル、シクロアルキル置換アルキル、ヘテロアルキル基を有するアルキル置換シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アルキル基が直鎖、分岐、又は環状であるアラルキル、アルキル基が直鎖、分岐、又は環状であるアルカリル、フェニル、置換フェニル、フェナントリル、置換フェナントリル、アリール、置換アリール、ナフチル、置換ナフチル、1つ又は複数の縮合環を有する多核芳香族基、1つ又は複数の縮合環を有する置換多核芳香族基、芳香族基、及び置換芳香族基から選択することができる。
【0021】
特に好ましいPOSS化合物には、メタクリルPOSS(nが8、10又は12である(C11(SiO1.5)、アクリルPOSS(nが8、10又は12である(C(SiO1.5)、及び他の官能性(メタ)アクリルPOSS化合物、例えば、アクリルイソブチルPOSS、メタクリルイソブチルPOSS、メタクリルエチルPOSS、メタクリルイソオクチルPOSS、及びメタクリルフェニルPOSSなどが含まれる。好適なPOSS化合物は、マサチューセッツ州ハッチスバーグのハイブリッドプラスチック社から入手可能である。
【0022】
膜形成組成物中のPOSS化合物の量は、約1重量%乃至約30重量%であることが好ましく、より好ましくは3%乃至15%であり、さらにより好ましくは凡そ3重量%乃至7重量%である、
【0023】
POSS化合物は、種々様々な親水性コモノマーと重合させることができる。適切なコモノマーには、モノマー、オリゴマー、ポリマー、又はそれらの混合物から選択されたエチレン型不飽和化合物が含まれ、種々の組合せで用いて膜形成組成物の性質、例えば、粘度、硬化速度、ぬれ及び粘着性などを変えることができる。
【0024】
好ましいエチレン型不飽和化合物は(メタ)アクリレート官能基を含む(ここで、「(メタ)アクリレート」はアクリレート及びメタクリレートを意味する)。本開示の膜形成組成物は、好ましくは1つ又は複数の(メタ)アクリル官能性モノマー、オリゴマー又はポリマーを含み、これらは随意に多官能性とすることができる。(メタ)アクリレートコモノマーの(メタ)アクリレート官能基はコア構造基に結合し、このコア構造基は、トリプロピレングリコール、イソボルニルアルコール、イソデシルアルコール、フェノキシエチルアルコール、トリスヒドロキシエチルイソシアヌレート、トリメチロールプロパンエトキシレート、ヘキサンジオール、エトキシ化及びプロポキシ化ネオペンチルグリコール、オキシエチル化フェノール、ポリエチレングリコール、ビスフェノールエトキシレート、ネオペンチルグリコールプロポキシレート、トリメチロールプロパン、プロポキシ化グリセロール、ジ−トリメチロールプロパン、ペンタエリトリトール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ベータ−カルボキシエチルアルコール、上記化合物の置換誘導体、及び上記化合物の組合せなどを含む種々様々な有機構造体に基づくものとすることができる。
【0025】
適切な官能性を有するアクリル官能性コモノマーの例としては、ポリ(エチレングリコール)アクリレート、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレート、ポリ(エチレングリコール)メタクリレート、アクリル酸、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−(2−エトキシエトキシ)エチルアクリレート、及びテトラヒドロフルフリルアクリレートなどが挙げられる。
【0026】
単又は多官能性ポリエチレングリコール(PEG)(メタ)アクリレートは膜形成組成物内で多くの有益な性質を有することが見出されている。PEG(メタ)アクリレートの分子量(M)を変えることで、POSS化合物とコモノマーの重合した薄膜反応生成物の吸水率を制御することができる。幾つかの実施形態において、PEG−MのMは好ましくは約150乃至2000、より好ましくは200乃至1000、さらにより好ましくは約500乃至600である。
【0027】
膜形成組成物中のコモノマーの量は、好ましくは約70重量%乃至約99重量%、より好ましくは85重量%乃至97重量%、さらにより好ましくは約93重量%乃至約97重量%である。
【0028】
POSS化合物とコモノマーの重合した薄膜反応生成物の吸水率を制御するために、膜形成組成物中のPOSS化合物とコモノマーの間の重量比を広範囲に変化させることができる。POSS化合物とコモノマーの間の適切な重量比は、約1:1から約1:30まで、好ましくは約1:5から約1:20まで、より好ましくは約1:20である。
【0029】
膜形成組成物は放射硬化性であることが好ましく、可視光線、電子ビーム、熱開始、又はカチオン開始により硬化することができる。好ましい実施形態において、膜形成組成物は紫外(「UV」)線硬化性であり、POSS化合物、親水性コモノマー、及び光開始剤を含む。光開始剤は、膜形成組成物の総重量に基づいて、典型的には約0.1wt%乃至約10wt%の量で存在する。
【0030】
本発明において、(メタ)アクリレート官能基を有する官能性コモノマーと共に用いるのに特に適した光開始剤は、アルファ開裂型光開始剤及び水素引抜き型光開始剤である。光開始剤は、光化学開始反応を助長する共開始剤又は光開始剤共力剤のような他の薬剤を含むことができる。適切なアルファ開裂型光開始剤には、アルファ−ジエトキシアセトフェノン(DEAP)、ジメトキシフェニルアセトフェノン(ニューヨーク州アーズリーのチバ社(Ciba Corp.)からIRGACURE651の商品名で市販されている)、ヒドロキシシクロ−ヘキシルフェニルケトン(チバ社からIRGACURE184の商品名で市販されている)、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン(チバ社からDAROCUR1173の商品名で市販されている)、ビス−(2、6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキシドと2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オンの25:75の混合物(チバ社からIRGACURE1700の商品名で市販されている)、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オンと2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニルフォスフィンオキシドの50:50混合物(TPO、チバ社からDAROCUR4265の商品名で市販されている)、フォスフィンオキシド、2,4,6−トリメチルベンゾイル(チバ社からIRGACURE819及びIRGACURE819DWの商品名で市販されている)、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニルフォスフィンオキシド(ニュージャージー州マウントオリーブのBASF社から商品名LUCIRINで市販されている)、70%のオリゴ2−ヒドロキシ−2−メチル−4−(1−メチルビニル)フェニルプロパン−1−オンと30%の2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オンとの混合物(ペンシルバニア州エクストンのサルトマ(Sartomer)社から商品名KIP100で市販されている)、及びチバ社から商品名TINOCUREで市販の化合物のような芳香族ケトンが含まれる。適切な水素引抜き型光開始剤には、ベンゾフェノン、置換ベンゾフェノン(Fratelli−Lamberti社製、ペンシルバニア州エクストンのサルトマ社から販売の商品名ESCACURE TZTで入手可能なものなど)、及びキサントン、チオキサントン、ミヒラーケトン、ベンジル、キノンのような他のジアリールケトン、並びに上記の全ての化合物の置換誘導体が含まれる。好ましい光開始剤には、DAROCUR1173、KIP100、ベンゾフェノン、IRGACURE184及びTINOCUREが含まれる。
【0031】
好ましい光開始剤には、ベンゾフェノン、4−メチルベンゾフェノン、ベンゾイルベンゾエート、フェニルアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、アルファ,アルファ−ジエトキシアセトフェノン、ヒドロキシシクロ−ヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキシド、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニルフォスフィンオキシド、及びそれらの組合せが含まれる。
【0032】
幾つかの実施形態において、膜形成組成物には、低粘度の重合可能モノマー希釈剤及び/又は溶媒を随意に含めることができる。低粘度の重合可能モノマー希釈剤及び/又は溶媒を含める1つの目的は、組成物の粘度を低下させることである。適切な低粘度の重合可能モノマー希釈剤としては、それらに限定されないが、イソボルニルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、メチルメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレートを含む単又は2官能性メタクリレート、並びに、メタクリレートエステル、並びに、イソボルニルアクリレート、オクチルアクリレート、エチレングリコールジアクリレートを含む単又は2官能性アクリレート、並びに、ブチルビニルエーテル、エチレングリコールジビニルエーテルを含むビニルエーテル、並びに、エチレングリコールジグリシジルエーテルを含むグリシジルエーテルが挙げられる。
【0033】
薄膜の厚さを制御するために、膜形成組成物の全ての成分と混ざり合う希釈剤を随意に用いることができる。好ましい希釈剤には、それらに限定されないが、エタノール、エタノールと水の混合物、又はイソプロパノールが含まれる。
【0034】
POSS化合物と選択されたコモノマーとの重合した薄膜反応生成物の水輸送特性をさらに向上させるために、膜形成組成物に非架橋性で溶媒抽出可能な犠牲化合物を随意に含めることができる。如何なる理論にも束縛されることを望まないが、重合の後、これらの溶媒抽出可能な犠牲化合物は溶媒により抽出され硬化薄膜から洗い流され及び/又は外部に移動させられて、これが硬化薄膜内に付加的な孔又はナノチャネル構造体を生成するようである。
【0035】
溶媒抽出可能な化合物を抽出するのに適した溶媒は、組成物中に用いるように選択された犠牲化合物の種類に応じて広範囲に変えることができるが、水が好ましい。適切な水抽出可能な非架橋性犠牲添加物には、それらに限定されないが、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリアクリル酸、ヒドロキシエチルセルロース、又はシクロデキストリン誘導体が含まれる。
【0036】
溶媒抽出可能な犠牲化合物は、膜形成組成物の50重量%までの量を添加することができる。溶媒抽出可能添加物の好ましい量は、約10wt%乃至約50wt%、又は約20wt%乃至約50wt%、又は約30wt%乃至約50wt%、又は約40wt%乃至約50wt%である。
【0037】
一実施形態において、膜形成組成物はろ過膜の主表面上に塗布又は形成され、硬化されてろ過膜上に性能強化層を形成することができる。一実施形態において、例えば、性能強化層は、少なくとも1つの頂点に親水性部分が付いたかご型シルセスキオキサン(POSS)誘導体を含んだポリマーを含む。好ましい一実施形態において、ポリマーは、少なくとも1つの頂点に親水性(メタ)アクリル部分(moiety)を有するかご型シルセスキオキサン(POSS)誘導体を含む。この実施形態において、適切な(メタ)アクリル部分は、例えば、ポリ(エチレングリコール)アクリレート、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレート、ポリ(エチレングリコール)メタクリレート、アクリル酸、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−(2−エトキシエトキシ)エチルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレートなどから誘導される。ポリ(エチレングリコール)アクリレート及びポリ(エチレングリコール)メタクリレートから誘導される部分が特に好ましい。
【0038】
溶媒抽出可能犠牲化合物は、膜形成組成物中に随意に用いて、所望のサイズの孔及び/又はナノチャネルを有する硬化薄膜をもたらすことができる。好ましい一実施形態においてその層は、約0.5乃至約10kDa、又は約1乃至約8kDa、又は約1.5乃至約7.5kDaの分子量カットオフ(膜により90%が阻止される基準ポリエチレングリコールの分子量、本明細書ではMWCOと記す)を有する少なくとも1つの孔又はチャネルを含む。
【0039】
任意の型のろ過膜を、それらに限定されないが、精密ろ過(MF)、限外ろ過(UF)、ナノろ過(NF)、及び逆浸透(RO)膜を含むろ過膜と性能強化層とを含む複合膜構造体の基材として用いることができる。
【0040】
上記の何れの膜も随意に、例えば、不織ポリエステルウェブのような裏当て材で支持することができる。幾つかの実施形態において、裏当て材は約120μmの厚さを有する。
【0041】
膜形成組成物は、例えば、スプレー、ペイント、ロールコーティング、ブラッシング、ファンコーティング、カーテンコーティング、拡散、エアーナイフコーティング、金型コーティング、真空コーティング、スピンコーティング、電着、及びディッピングを含む様々な方法により、膜に塗布することができる。
【0042】
層の厚さは用途によって異なり、より薄いコーティング層は複合膜の透過水流束を増加させることができる。典型的には、層は、約50nm乃至約5μm、好ましくは約50nm乃至約2μmの乾燥厚を有することになる。しかし、より厚い又はより薄いコーティングもまた、例えば、複合膜の所望の透過水流束、吸水率、及び阻止特性に応じて企図される。
【0043】
本発明はまた、膜形成組成物を基材、例えばろ過膜などに塗布するステップと、コーティング組成物を硬化させる(例えば、好ましくはコーティング組成物をUV光のような放射に曝すことにより)ステップとを含むコーティングの方法を提供する。好ましいコーティングは、コーティングを約200nm乃至約800nmの範囲の波長を有する放射に曝すことによって硬化させる。好ましいコーティングは、紫外又は可視光により硬化させるように設計されるものであり、好ましくは200mJ/cm乃至1000mJ/cmに曝され、より好ましくは500mJ/cm乃至800mJ/cmに曝される。
【0044】
以下の実施例において示すように、複合膜の防汚染抵抗性は無コーティングの膜に比べて著しく強化される。
【0045】
本発明は、ここで以下の非限定的な実施例に関連してさらに説明する。
【実施例】
【0046】
自立型薄膜の調製
以下の調製実施例において詳しく論じるように、自立型薄膜は、ハイブリッドプラスチック社(HybridPlastics Co.)から市販のPOSS化合物である(メタ)アクリル置換かご型シルセスキオキサン(n=8、10、12の(C11(SiO1.5のメタクリルPOSSかご混合物、以下のスキーム1にはn=8のみを示す)と、ミズーリ州セントルイスのシグマ−アルドリッチ社から市販の親水性コモノマーであるポリエチレングリコールモノアクリレート(PEG−M)とを反応させて作成した。この膜は、ニューヨーク州タリタウンのチバ社(BASF)から商品名DAROCUR4265で市販の光開始剤TPOの存在下でのUV硬化プロセスで作成した。
【0047】
POSSとPEG−Mの間の重量組成比は1:1から1:30までに制御した。これらの自立型膜の純水吸水率を測定して、膜の水輸送性質の特性を明らかにしたが、吸水率はPEG−Mの含量が増加するにつれて7%から120%まで増加した(吸水率値はPEG−MのMを変えることによっても変化させることができる)。
【0048】
膜の水輸送特性をさらに改善するために、ナノチャネル構造体を、犠牲添加物を加えることにより生成した。水溶性非架橋性ポリエチレングリコール(PEG)をPOSSとPEG−Mの重合前混合物(POSS:PEG−Mの重量比=1:20)に加え、UV硬化し、次いで水中においてPEG添加物を抽出し、以下のスキーム1に示すように膜内にナノスケールのチャネルを作成した。
【化11】

【0049】
膜内のナノチャネルの密度及びサイズはPEG添加物の量を制御することにより調整することができる。結果として、より大きなチャネル密度及び/又はサイズを有する膜はより優れた水輸送特性(例えば、吸水率及び透水率)を示す。
【0050】
図1(A)〜(C)は、メタクリルPOSS及びPEG−Mの膜形成組成物(POSS:PEG−Mの重量比=1:20)中に0%、30%、及び50%のPEG添加物を加えて調製した自立型膜の断面SEM像を示す。
【0051】
表1は、チャネルが形成された自立型膜から測定された吸水率、透水率及びMWCO(分子量カットオフ)データの概要を示す(MWCOは膜に関するダルトン単位のサイズ表示であり、膜により90%が阻止される基準ポリエチレングリコールの分子量である)。
【表1】

【0052】
上記のデータは、PEG添加物の量が増加するにつれてチャネルの密度及びサイズが
増加すること、並びに、吸水率及び透水率もまたPEG添加物の含量に強く依存することを示す。最大の吸水率及び透水率の値(276%、133 L μm m−2h−1atm−1)は、50%(w/w)PEGを用いて調製した膜で観測された(50%は、可能な成膜処理のために加えることができる最大量であった)。
【0053】
吸水率及び透水率は、PEG添加物のMを操作することによりさらに制御することができる。これらのチャネル形成された自立型膜のMWCO値(1kDa未満〜7kDa)は、有機又はバイオ汚染を阻止するのに十分に適当であり、この膜が膜の内部汚染(膜の内部孔をふさぐ)を著しく減らすことができることを示し、高い吸水率及び透水率から分かる膜の親水性は、同じくこの膜が疎水性の有機及びバイオ汚染物による表面汚染を減らすのに有効であろうことを示す。
【0054】
複合膜の調製及び防汚効率の評価。
以下の実施例においてさらに詳細に説明するように、メタクリルPOSS、PEG−M及びPEG添加物の、光開始剤を含んだ重合前混合物を、ポリスルホン(PSF)限外ろ過膜の上面に塗布し、UV−硬化させた。塗布するコーティング層の厚さを制御するために、適当な希釈剤を重合前混合物に加えることができる。
【0055】
次に膜を水に浸して水溶性PEG添加物を膜から抽出した。
【0056】
これらのチャネル形成された膜の防汚効率を評価するために、油及びタンパク質のような標的汚染物を含む人工供給水を用い、クロスフローろ過システムを用いて、複合膜(チャネル形成材料でコーティングされた膜、図2)の分離性能を、無コーティングのポリスルホン(PSF)膜の性能と比較した。
【0057】
図3は、透過水流束を、油−水エマルジョンのクロスフローろ過の稼働時間の関数として示す。チャネル形成コーティング層を、メタクリルPOSSとPEG−Mの純粋な重合前混合物に40%及び50%のPEG添加物を加えて調製した2つの複合膜の試験を行った。POSSとコモノマー(PEG−M)の間の重量比は1:20に固定し、両方の複合膜は、図中において、それぞれPOSS−PEG−M A40N及びPOSS−PEG−M A50Nのように示した(「A」はPEG添加物を意味し、「N」な純粋な重合前混合物を意味する)。
【0058】
無コーティングのPSF膜の透過水流束は2時間以内に著しく低下し、これは重度の油汚染を示す。しかし、両方のコーティングされた膜はより少ない汚染(3時間後に殆ど透過流束の変化がない)を示し、無コーティングの膜より遥かに大きな透過流束を有した(40%PEG添加物を用いて作成した膜であるPOSS−PEG−M A40Nに対して16倍、50%PEG添加物を用いて作成した膜であるPOSS−PEG−M A50Nに対して20倍)。2つのコーティングされた膜の間の透過流束の差は、チャネル形成材料の透水率の差によるものである(高添加物配合が高透水率を生じる)。
【0059】
薄膜の厚さ及び複合膜の透過水流束
コーティングされた膜のろ過中の絶対透過水流束は、コーティング層の厚さ減らすことにより増加させることができる。50%のPEG添加物を用いて調製したコーティング層(POSS−PEG−M A50N)の厚さは、図4(A)に示すように、乾燥状態で約4μmであった。
【0060】
重合前混合物(メタクリルPOSS、PEG−M及び50%のPEG添加物)を20%(w/w)のエタノール(EtOH)で希釈することにより、コーティング層の厚さを乾燥状態において2μmに減らした(コーティング層は図4(B)においてPOSS−PEG−M A50Dとして示した。即ち、Dはエタノールで希釈した重合前混合物を意味する)。
【0061】
図5は、これら2つの複合膜のバイオ汚染抵抗性を無コーティングのPSF膜と比較して示す。透過水流束はタンパク質(ウシ血清アルブミン、BSA)供給溶液のクロスフローろ過の稼働時間の関数としてモニターした。純粋重合前混合物(POSS−PEG−M A50N)及び希釈重合前混合物(POSS−PEG−M A50D)により調製した両方の複合膜は優れたタンパク質汚染抵抗性(長時間にわたって透過流束の減少がない)を示したが、一方無コーティングのPSF膜はタンパク質汚染に起因する著しい透過流束の低下を示した。
【0062】
希釈重合前混合物(POSS−PEG−M A50D)を用いて調製した複合膜の絶対透過水流束は、純粋重合前混合物(POSS−PEG−M A50N)を用いて調製した複合膜の透過流束よりもほぼ2倍大きかったが、その理由は前者のコーティング層の厚さが後者のコーティング層の厚さより薄いためである。両方の複合膜はまた、むきだしのPSF膜に比べて不可逆汚染を減らし、汚染実験後のより良好な透過流束回復をもたらした(図6)。
【0063】
チャネル形成親水性コーティング材料はタンパク質阻止においても付加的な利益をもたらした。複合膜は、コーティング材料の低いMWCO(約7.4KDa)のために、無コーティングのPSF膜(0%阻止率、PSFのMWCO=100KDa)に比べて、標的タンパク質BSAに対する改善された阻止機能(95%を上回るBSA阻止率)を示した。
【0064】
調製実施例
実施例1:純粋重合前混合物と40%PEG添加物(POSS−PEG−M A40N)から作成された、チャネル形成された膜
自立型膜:0.29gのメタクリルPOSS(かご混合物8−12、ハイブリッドプラスチック社)、5.71gのポリ(エチレングリコール)メタクリレート(Mw:526、アルドリッチ社)、4gのポリエチレングリコール(Mw:400)及び0.06gの開始剤(チバ社、Darocur4265)を窒素グローブボックス内で混合し一晩撹拌した。
【0065】
この混合溶液を、テフロン膜で覆われ、スペーサで隔てられた2枚の石英板の間に挟んだ。次に溶液を365nmUV光に9mV/cmで90秒間曝して重合させた。このプロセスによって得られた架橋膜を蒸気浴槽内で湿らせて大量の脱イオン水中に少なくとも1日間浸した。
【0066】
乾燥膜(W)と湿った膜(W)の重量から計算した吸水率(S)は212%(S=(W−W)/W×100)であった。撹拌式限外ろ過セルにより10psiで測定した透水率は77.48L μm m−2 h−1 atm−1であった。モル質量が200乃至35,000の標準ポリエチレングリコールの0.5%溶液を用いて測定したMWCOは2.9kDaであった。これらのデータは上の表1にまとめてある。
【0067】
複合膜:PSF支持膜を、グリセロールとメタノールの混合溶媒(15%グリセロール)中に浸して上面上のあらゆる塵埃を除去し、コーティング前に空気中で乾燥した。重合前混合物を乾燥PSF支持膜の上面上に、コーティングロッドを有するガードコ(Gardco)自動ドローンダウン(drawdown)マシーンを用いて塗布した(サイズ:0、コーティング速度:2.5cm/s)。
【0068】
実施例2:純粋重合前混合物と50%PEG添加物(POSS−PEG−M A50N)から作成された、チャネル形成された膜
自立型膜:0.24gのメタクリルPOSS(かご混合物8−12、ハイブリッドプラスチック社)、4.76gのポリ(エチレングリコール)メタクリレート(Mw:526、アルドリッチ社)、5gのポリエチレングリコール(Mw:400)及び0.05gの開始剤(チバ社、Darocur4265)を窒素グローブボックス内で混合し一晩撹拌した。膜の調製及び特性解析は実施例1と同じ方法で行った。
【0069】
吸水率、透水率およびMWCOは、それぞれ276%、133.22L μm m−2 h−1 atm−1、及び7.4kDaであった。これらのデータは表1にまとめた。
【0070】
複合膜:調製手順は実施例1に示したのと同じである。POSS−PEG−M A50Nコーティング層の厚さは4.5μmであった(図4(A))
【0071】
実施例3:希釈重合前混合物と50%PEG添加物(POSS−PEG−M A50D)から作成された、チャネル形成された膜
重合前混合物の調製:0.24gのメタクリルPOSS(かご混合物8−12、ハイブリッドプラスチック社)、4.76gのポリ(エチレングリコール)メタクリレート(Mw:526、アルドリッチ社)、5gのポリエチレングリコール(Mw:400)及び0.05gの開始剤(チバ社、Darocur4265)を窒素グローブボックス内で混合し、2gのエタノール(EtOH)で希釈し、一晩撹拌した。
【0072】
複合膜:調製手順は実施例1に示したのと同じである。POSS−PEG−M A50Dコーティング層の厚さは2.3μmであった(図4(B))。
【0073】
実施例4:POSS−PEG−M A40N及びPOSS−PEG−M A50Nによって調製した複合膜の、油−水エマルジョン中での防汚効率の評価
POSS−PEG−M A40N及びPOSS−PEG−M A50Nでコーティングされた複合膜の透過流束をモニターするために、市販のクロスフローろ過システムを用いて、油/水エマルジョンのクロスフローろ過を行った。油/水エマルジョンは、植物油/界面活性剤(重量比=9:1)を3Lの脱イオン水と混合して調製した(油の濃度:1500ppm)。クロスフローろ過は25℃で行い、クロスフロー速度は100psiにおいて0.35Gal/minであった。透過流束はコンピュータに接続した直示天秤で記録した。
【0074】
POSS−PEG−M A40N及びPOSS−PEG−M A50Nでコーティングされた複合膜は、20時間の間非常に一定の透過流束(POSS−PEG−M A40Nに対して9.5LMH及びPOSS−PEG−M A50Nに対して13.0LMH)を示したが、一方無コーティングのPSF膜は2時間後に重度の透過流束低下を示した(30LMHから1LMH未満まで)。これらのデータは図3にプロットした。
【0075】
実施例5:POSS−PEG−M A50N及びPOSS−PEG−M A50Dによって調製した複合膜のバイオ汚染抵抗性の評価
POSS−PEG−M A50N及びPOSS−PEG−M A50Dでコーティングされた複合膜の透過流束をモニターするために、市販のクロスフローろ過システムを用いて、タンパク質供給溶液のクロスフローろ過を行った。タンパク質供給溶液は5gのウシ血清アルブミン(BSA)を、0.1Mリン酸緩衝剤を含む5Lの脱イオン水(pH7.4)に溶解させて調製した。クロスフローろ過は25℃で行い、クロスフロー速度は30psiにおいて0.8L/minであった。透過流束はコンピュータに接続した直示天秤で記録した。
【0076】
POSS−PEG−M A50N及びPOSS−PEG−M A50Dでコーティングされた複合膜は、60分の間非常に一定の透過流束(POSS−PEG−M A50Nに対して30LMH及びPOSS−PEG−M A50Dに対して75LMH)を示したが、一方無コーティングのPSF膜は10分後に著しい透過流束の低下を示した(160LMHから40LMH未満まで)。これらのデータは図5にプロットした。
【0077】
POSS−PEG−M A50N及びPOSS−PEG−M A50Dでコーティングされた複合膜はまた、高いBSA阻止率(POSS−PEG−M A50Nに対して95.0%及びPOSS−PEG−M A50Dに対して97.5%)を示したが、一方無コーティングのPSF膜は0%のBSA阻止率を示した。
【0078】
実施例6:POSS−PEG−M A50N及びPOSS−PEG−M A50Dによって調製した複合膜についての不可逆バイオ汚染の決定(透過流束回復)
不可逆タンパク質汚染は、複合膜(POSS−PEG−M A50N及びPOSS−PEG−M A50Dでコーティングされた)の汚染実験の前後の純水透水率を比較することにより決定される。汚染実験の前に、膜の純水透過流速(Pw,0)を、汚染実験を行ったのと同じ圧力及びクロスフロー速度(30psi及び0.8L/min)において決定した。
【0079】
次に、実施例4で説明したようにタンパク質供給溶液を用いて、その膜に対する汚染実験を60分間行った。
【0080】
汚染実験の後、クロスフロー・システムを脱イオン水で少なくとも3回洗い流し、その後全部で30分間、水をシステムの中を循環させて洗浄した。汚染後の純水透過流束(Pw,f)を洗浄サイクル後に記録した。次にPw,fをPw,0で割ることにより透過水流束の回復指数を計算した。
【0081】
POSS−PEG−M A50N及びPOSS−PEG−M A50Dでコーティングされた複合膜は、無コーティングのPSF膜(0.07)に比べてより高い透過流束回復指数(それぞれ、0.18及び0.22)を示したが、これはコーティング材料が膜表面上の不可逆バイオ汚染を減少させることを示す。これらのデータは図6にプロットした。
【0082】
実施例7:POSS−PEG−M A50N及びPOSS−PEG−M A50Dによって調製した複合膜についてのタンパク質付着実験
タンパク質付着実験は、標識を付けたウシ血清アルブミン(BSA)の蛍光分析を用いて行った。POSS−PEG−M A50N及びPOSS−PEG−M A50Dにより調製された複合膜の平坦シートから直径2.5cm(1インチ)のサンプルを切り取った。この円形サンプルを、3.5cmの有効表面積を有するデッドエンド型セル(米国カリフォルニア州ダブリンのアドバンテックMFS社の#UHP25)の内部に配置し、脱イオン水で数回洗浄した。次にR−NHS標識付きBSA溶液(脱イオン水中0.1mg/mL)をセルに加えた。10分後、タンパク質溶液を傾斜除去し、膜表面を脱イオン水で繰り返し洗浄した。
【0083】
次いで膜を風乾し、蛍光顕微鏡(米国イリノイ州バノックバーンのライカ社のDM IRBE)又は蛍光プレートリーダー(スイス、マンネドルフのテカン社のサファイアII)を用いて蛍光強度の試験を行った。複合膜について測定した蛍光強度を、むき出しのPSF膜について測定した強度で規格化した。POSS−PEG−M A50N及びPOSS−PEG−M A50Dにより調製された複合膜の規格化蛍光強度値はそれぞれ0.24及び0.38(1未満)であった。この結果は、PSF限外ろ過膜に比べて、コーティング材料がタンパク質付着に対して遥かに強い抵抗性を有することを示す。
【0084】
本発明の種々の実施形態を説明した。これら及び他の実施形態は、添付の特許請求の範囲内にある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ろ過膜と、該ろ過膜の表面上の層とを含み、
前記層は、少なくとも1つの頂点に結合した親水性部分を有するかご型シルセスキオキサン(POSS)誘導体を含むポリマーを含む、
複合膜。
【請求項2】
前記親水性部分は、ポリ(エチレングリコール)アクリレート、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレート、ポリ(エチレングリコール)メタクリレート、アクリル酸、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−(2−エトキシエトキシ)エチルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、及びそれらの組合せから成る群から選択された化合物から誘導される、請求項1に記載の複合膜。
【請求項3】
前記層は、0.5乃至10kDaのMWCOを有する孔及びチャネルの少なくとも1つを含み、
前記MWCOは、前記膜により90%が阻止される基準ポリエチレングリコールの分子量である、
請求項1に記載の複合膜。
【請求項4】
前記層は50nm乃至5μmの乾燥厚を有する、請求項1に記載の複合膜。
【請求項5】
複合膜を作成する方法であって、
ろ過膜の表面に、POSS化合物、親水性コモノマー、及び光開始剤を含む光重合可能組成物を塗布するステップと、
前記組成物を硬化させて前記ろ過膜のうえに親水性層を形成するステップと
を含む方法。
【請求項6】
前記POSS化合物は、各々が1つ又は複数の重合可能基を有する1つ又は複数のかご型シルセスキオキサン構造を有し、
前記重合可能基は、前記かご型シルセスキオキサン構造のそれぞれのシリコン原子に結合する、
請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記1つ又は複数の重合可能基は、構造−(L)−Pを含み、ここでLは連結基であり、nは0又は1であり、Pは重合可能基である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記連結基は独立に、アルキル基、シクロアルキル基、シロキサン、アルキルシリル基、アルキルシロキシル基及びそれの組合せから成る群から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記1つ又は複数の重合可能基は独立に(メタ)アクリレートから選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記選択された(メタ)アクリレートは、以下のメタクリレートのうちの少なくとも1つである、請求項9に記載の方法。
【化1】

及び
【化2】

【請求項11】
前記選択された(メタ)アクリレートは、
【化3】

を含むアクリレートである、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記重合可能基は、
【化4】

である、請求項9に記載の方法。
【請求項13】
前記コモノマーは、ポリ(エチレングリコール)アクリレート、ポリ(エチレングリコール)ジアクリレート、ポリ(エチレングリコール)メタクリレート、アクリル酸、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−(2−エトキシエトキシ)エチルアクリレート、又はテトラヒドロフルフリルアクリレートのうちの少なくとも1つである、請求項5に記載の方法。
【請求項14】
前記コモノマーはPEG(メタ)アクリレートである、請求項5に記載の方法。
【請求項15】
前記光重合可能組成物は、溶媒抽出可能な犠牲化合物をさらに含み、
前記方法は前記硬化するステップの後に薄膜に溶媒を塗布して前記溶媒抽出可能な犠牲化合物を抽出し、前記薄膜内に孔及びチャネルの少なくとも1つを作成して膜を形成するステップをさらに含む、請求項5に記載の方法。
【請求項16】
前記溶媒は水を含み、前記犠牲化合物は、ポリエチレングリコール、ポリアクリル酸、ヒドロキシエチルセルロース、及びそれらの組合せから成る群から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記親水性層は、1乃至10kDaのMWCOを有する孔及びチャネルの少なくとも1つを含み、
前記MWCOは、前記膜により90%が阻止される基準ポリエチレングリコールの分子量である、
請求項16に記載の方法。

【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−110552(P2011−110552A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−247449(P2010−247449)
【出願日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(390009531)インターナショナル・ビジネス・マシーンズ・コーポレーション (4,084)
【氏名又は名称原語表記】INTERNATIONAL BUSINESS MASCHINES CORPORATION
【Fターム(参考)】