説明

かび殺傷方法

【課題】書物や絵画等の文化財に付着したかびを殺傷し、文化財の価値の減損を少なくするかび殺傷方法を提供する。
【解決手段】かびの発生した対象物とパラジクロルベンゼン製剤を密封可能な容器内に収容し、密封状態の容器を、所定期間保持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、かび殺傷方法に関し、特に書物、絵画に付着したかびの殺傷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、古書や古い絵画等の紙には、時間の経過とともに、かびが付着する。これは、空気中に浮遊しているかびの胞子が、書物や絵画に付着し、繁殖したものである。
【0003】
従来より、浴室、病院などの内壁、各種収納箱などに塗装して、防菌防かびとともに消臭などの効果を奏する防菌防かび性の表面処理剤が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。これは、水溶液または5%水懸濁液のpHが7.0以上であり皮膜形成能を有する樹脂液中に、pHが8.0〜12.0に調製された0.1〜5.0%の安定化二酸化塩素液を内部に保持した無機質壁マイクロカプセルを分散させた組成物を主成分とした防菌防かび性表面処理剤組成物である。
【0004】
また、防菌、防カビ、防臭、汚れ分解用噴霧剤として、二酸化チタンを含む防菌、防カビ、防臭、汚れ分解用噴霧剤が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。これは、平均粒子径が 0.2μm以下の二酸化チタン 0.1〜20重量%、表面処理剤0.01〜5重量%、分散媒4.89〜60重量%、及び噴射剤15〜95重量%からなる防菌、防カビ、防臭、汚れ分解用噴霧剤である。
【0005】
また、限られた領域内の雑菌やかびをオゾンにより殺菌することが提案されている(例えば、特許文献3参照。)。これは、空気調和機の室内ユニット内にオゾン発生装置を設け、オゾン発生装置で発生するオゾンにより室内ユニット内の雑菌やかびを殺菌するとともに、オゾンを含む空気が室内側に漏れ出ることを確実に防止するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−228469号公報
【特許文献2】特開平8−165215号公報
【特許文献3】特開2006−349339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一旦、かびが付着すると、読書、観賞、研究の際に少なからず障害となっていた。また、書籍や絵画等の価値の低下を招来していた。
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載されている技術は、表面処理剤を塗装するもので、塗装に適さない物体への適用はできないという問題があった。
【0009】
また、特許文献2に記載されている技術は、噴霧剤の噴霧が適さない物体への適用はできないということと、噴霧の効果が永続しにくいという問題があった。
【0010】
また、特許文献3に記載されている技術は、高価なオゾン発生装置を必要とし、オゾンを含む空気が周囲に流出しないようにしなければならない。
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、書物や絵画等の文化財に付着したかびを殺傷し、文化財の価値の減損を少なくするかび殺傷方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題を解決するために、本発明に係るかび殺傷方法は、かびの発生した対象物とパラジクロルベンゼン製剤を密封可能な容器内に収容し、密封状態の前記容器を、所定期間保持することを特徴とする。
【0013】
本発明に係るかび殺傷方法において、前記容器は、チャック付きのビニール袋であることを特徴とする。
【0014】
本発明に係るかび殺傷方法において、前記対象物は、書籍、絵画であることを特徴とする。
【0015】
前記パラジクロルベンゼン製剤は、小片の状態で投入することが好ましい。
【0016】
前記所定期間は、前記容器内のパラジクロルベンゼン製剤が昇華し、前記対象物に浸透するに要する期間であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、かびが発生あるいは付着した対象物において、低廉な費用でかつ確実にかびを殺傷することができる。また、かびを殺傷した後の対象物は、特段の損傷も受けることがないので、対象物が本来有する情報量や文化的価値が損なわれることがない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係るかびの殺傷方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施の形態について、図面を参照して説明する。図1は、本発明の実施形態に係るかびの殺傷方法を説明する図である。図1に示すように、本実施形態に係るかび殺傷方法は、かびが付着した対象物1を限定された空間である密封可能な容器3内に置き、その容器3内にパラジクロルベンゼン製剤2を封入し密閉して、所定期間、放置するものである。かびが付着した対象物1としては、例えば、古書や古い絵画等が該当する。かびが付着した対象物1を収容して封入することができる容器3の大きさは、言うまでもなく該対象物1のサイズや量に応じて選定する。容器3としては、例えば、ポリエチレン製袋や、ポリ塩化ビニル製等が好適である。チャック付きポリエチレン製袋としては、例えば、株式会社 生産日本社製の“ユニパック”(登録商標)を使用することができる。また、防湿性が良好なOP延伸フィルム製のチャック付き袋も好適である。
【0020】
本発明に係るかび殺傷方法では、パラジクロルベンゼン製剤2を使用して、対象物1に付着したかびを殺傷する。パラジクロロベンゼンは、化学式 C6H4Cl2、分子量147の、ベンゼンの二塩化物である。融点53℃、沸点174℃である。常温で、昇華により強い臭気を発する白色の固体である。空気中では固体から気体へゆっくりと昇華する。従来、パラジクロルベンゼン製剤の一般的な用途としては、防虫剤、防かび剤としての利用が周知である。すなわち、いまだ、対象物にかびが発生していない、あるいは付着していない場合の利用方法である。一方、本発明に係るかび殺傷方法は、一旦、対象物にかびが発生、あるいは付着してしまった場合に、殺傷させるところに特徴がある。
【0021】
パラジクロルベンゼン製剤の使用量について、一律に決定することは、適切ではない。すなわち、対象物の大きさや量だけでなく、限られた空間を形成する容器の大きさ、保持期間が関係する。例えば、分厚い書籍に大量のかびが発生している場合と、小型の文庫本に極わずかな量のかびが発生している場合とでは、全てのかびの殺傷に必要な量は異なる。また、パラジクロルベンゼン製剤は、大きな塊よりも、小片の状態のものが好適である。
【0022】
尚、パラジクロルベンゼン製剤が、直接、対象物に触れないようにするのが好ましい。対象物に使用されているインク等によっては、パラジクロルベンゼン製剤との間で化学的な反応をおこす可能性が無いとは言えないからである。
【0023】
密閉状態の容器の保持期間は、投入したパラジクロルベンゼン製剤が十分に昇華して、対象物の隅々まで浸透していく期間である。固形状態のパラジクロルベンゼン製剤が昇華後、直ちに容器を開封することは適切でない。昇華したパラジクロルベンゼンを対象物の中まで、十分に浸透させないと、発生しているかびの一部が生存している虞があるからである。したがって、密閉状態の容器の保持期間は、例えば、2週間〜1ヵ月間に設定する。
【0024】
かびは、書籍等を好んで食い荒らす虫の餌ともなる。したがって、かびを殺傷することによって、以後、書籍等に対しての防虫効果を奏することもできる。
【0025】
(実施例1)
容量45リットル、厚さ0.03ミリのチャック付きビニール袋に、かびの発生した小説等の単行本10冊とパラジクロルベンゼン製剤として株式会社白元製の“パラゾール”(登録商標)120グラムを投入後、密封状態として1カ月間保持した。開封後、顕微鏡にて単行本を調べたところ、多くのかびの死骸が観察され、生存しているかびは、観察されなかった。いわゆるかび臭さは全くなく、かびの死骸がパラパラとした状態で単行本の内側等に残っていた。
【0026】
(実施例2)
容量45リットル、厚さ0.03ミリのチャック付きビニール袋に、かびの発生した写真集5冊とパラジクロルベンゼン製剤として株式会社白元製の“パラゾール”(登録商標)100グラムを投入後、密封状態として2週間保持した。開封後、顕微鏡にて写真集を調べたところ、多くのかびの死骸が観察され、生存しているかびは、観察されなかった。いわゆるかび臭さは全くなく、かびの死骸がパラパラとした状態で写真集の内側等に残っていた。
【0027】
(比較例)
容量45リットル、厚さ0.03ミリのチャック付きビニール袋に、かびの発生した小説等の単行本5冊を入れ、密封状態として1カ月間保持した。開封後、顕微鏡にて単行本を調べたところ、一部の単行本の内側にかびが生存しており、いわゆるかび臭さが観察された。
【0028】
本実施形態によれば、かびが発生あるいは付着した対象物において、低廉な費用でかつ確実にかびを殺傷することができる。また、かびを殺傷した後の対象物は、特段の損傷も受けることがないので、対象物が本来有する情報量や文化的価値が損なわれることがない。
【0029】
本発明の実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0030】
1:対象物(書籍)
2:パラジクロルベンゼン製剤
3:容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
かびの発生した対象物とパラジクロルベンゼン製剤を密封可能な容器内に収容し、密封状態の前記容器を、所定期間保持することを特徴とするかび殺傷方法。
【請求項2】
前記容器は、チャック付きのビニール袋であることを特徴とすることを特徴とする請求項1記載のかび殺傷方法。
【請求項3】
前記対象物は、書籍、絵画であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のかび殺傷方法。
【請求項4】
前記パラジクロルベンゼン製剤は、小片の状態で投入することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のかび殺傷方法。
【請求項5】
前記所定期間は、前記容器内のパラジクロルベンゼン製剤が昇華し、前記対象物に浸透するに要する期間であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のかび殺傷方法。

【図1】
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