説明

がんの対象における処置応答の予測

【課題】化学療法剤に対する腫瘍の感受性の予測又は評価に使用できる方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、RRM1又はERCC1遺伝子といった遺伝子の腫瘍内発現レベルに基づき、患者に適切ながん治療を決定する方法に関する。一態様において、本発明は、患者に適切な化学療法を評価する方法を提供する。この方法には、患者由来の腫瘍試料を提供すること、腫瘍試料中のRRM1発現レベルを測定すること、そのRRM1発現レベルに基づいて適切な化学療法を決定することが含まれる。この方法には更に、適切な化学療法剤を患者に投与することが含まれてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願)
本出願は、2005年5月4日に出願された米国仮出願第60/594,763号の利益を主張し、この全体が参考として本明細書に援用される。
【0002】
(政府の支援)
本発明は、国立癌研究所による助成金R01−CA102726及びR21−CA106616に基づく政府の支援を受けて為された。
(技術分野)
本発明は、RRM1またはERCC1遺伝子のような遺伝子の腫瘍内発現レベルに基づき、患者に適切ながん治療を決定する方法に関連する。
【背景技術】
【0003】
(背景)
DNAの合成及び損傷修復にかかわる2つの分子、リボヌクレオチドレダクターゼサブユニットM1(RRM1)遺伝子及び除去修復交差相補群1(ERCC1)遺伝子は、がんの発病において重要である。RRM1及びERCC1は、化学療法剤の標的となることが多い。RRM1はゲンシタビンの分子標的であり、ERCC1は白金が誘発するDNA付加物の修復に決定的な役割を果たす。ゲンシタビン、並びにシスプラチン及びカルボプラチンといった白金含有剤は、がん治療で最も多く使用されている薬剤である。
【0004】
過去において、化学療法はがん患者に対して限られた利益しかもたらさなかった。通常、化学療法から利益を受けるのは、肺がん、乳がん、結腸直腸がん、頭頚部がん及び卵巣がんといった上皮細胞悪性疾患に罹患する患者の僅か25%程度である。しかし、第一選択の療法が奏功しなかった後に、第二選択の化学療法剤が奏功することは多く、このような処置に対する感受性又は耐性は、化学療法剤の代謝経路に関与する分子によって測定される腫瘍の特異的な特徴の一機能であることを示唆している。このため、化学療法剤に対する腫瘍の感受性の予測又は評価に使用できる方法を開発することが望まれる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
RRM1又はERCC1の発現レベルが患者のがん治療に対する反応の指標となり得ることは、既に明らかにされている。この発見により、治療に対する腫瘍の反応の指標となる試験が開発された。この試験結果に基づき選択された療法は、現在使用されている無作為な療法選択に比べて、実質的に優れたがん患者の転帰が得られることが明らかされている。この試験では、腫瘍試料を採取し、処理して、RRM1若しくはERCC1又はそれらの両方の腫瘍内レベルを測定しなければならない。RRM1の発現レベルが低いことは、抗代謝剤との処置反応が良好であることと関係しており、ERCC1の発現レベルが低いことは、白金含有剤との処置反応が良好であることと関係していることが明らかになった。そして、RRM1を発現する腫瘍を有する上位1/4又は下位1/4の患者群が、抗チューブリン剤をはじめとする化学療法に最も良く反応することが明らかになった。
【0006】
一態様において、本発明は、患者に適切な化学療法を評価する方法を提供する。この方法には、患者由来の腫瘍試料を提供すること、腫瘍試料中のRRM1発現レベルを測定すること、そのRRM1発現レベルに基づいて適切な化学療法を決定することが含まれる。RRM1発現レベルが参照コホートの中央RRM1発現レベル以下である場合は、抗代謝剤を含む化学療法が適切であると判断され、RRM1発現レベルが参照コホートの中央RRM1発現レベルより高い場合は、抗代謝剤を含まない化学療法が適切であると判断される。この方法には更に、適切な化学療法剤を患者に投与することが含まれてもよい。例えば、RRM1発現レベルが参照コホートの中央RRM1発現レベル以下であることが明らかになれば、患者には、ゲンシタビン又はペメトレキセドといった抗代謝剤を投与することができる。
【0007】
幾つかの実施形態において、この方法には、抗チューブリン剤又は白金含有剤といった第二の化学療法剤を患者に投与することが含まれる。抗チューブリン剤は、例えば、パクリタキセル若しくはドセタキセルといったタキサン、又はビノレルビン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンフルニン若しくはビンデシンといったビンカアルカロイドであってもよい。白金含有剤は、例えばカルボプラチン、シスプラチン又はオキサリプラチンであってもよい。別の実施形態において、この方法には、適切な化学療法剤に加えて患者に放射線療法を実施することが含まれる。
【0008】
幾つかの実施形態において、上記の方法で評価される患者は、肺がん(例えば、非小細胞肺がん)、乳がん、結腸直腸がん、頭頚部がん又は卵巣がん等の上皮細胞悪性疾患を有する。
【0009】
上述の方法には又、腫瘍試料中のERCC1発現レベルを測定すること、更にRRM1及びERCC1の両発現レベルに基づいて適切な化学療法を決定することも含まれる。ERCC1発現レベルが参照コホートの中央ERCC1発現レベル以下である場合は、白金含有剤を含む化学療法が適切であると判断され、ERCC1発現レベルが参照コホートの中央ERCC1発現レベルより高い場合は、白金含有剤を含まない化学療法が適切であると判断される。例えば、白金含有剤は、シスプラチン、カルボプラチン又はオキサリプラチンであってもよい。この方法には更に、適切な化学療法剤を患者に投与することが含まれてもよい。
【0010】
RRM1及びERCC1の発現レベルは、RT−PCR、ノーザンブロット、ウェスタンブロット又は免疫組織化学的アッセイによって測定することができる。
【0011】
別の態様において、本発明は、患者由来の腫瘍試料を提供すること、腫瘍試料中のRRM1発現レベルを測定すること、そのRRM1発現レベルに基づいて適切な化学療法を決定することにより、患者に適切な化学療法を評価する方法を提供する。ERCC1発現レベルが参照コホートの中央ERCC1発現レベル以下である場合は、白金含有剤を含む化学療法が適切であると判断され、ERCC1発現レベルが参照コホートの中央ERCC1発現レベルより高い場合は、白金含有剤を含まない化学療法が適切であると判断される。
【0012】
幾つかの実施形態において、この方法には更に、腫瘍試料中のRRM1発現レベルを測定すること、RRM11及びERCC1の両発現レベルに基づいて適切な化学療法を決定することが含まれる。RRM1発現レベルが参照コホートの中央RRM1発現レベル以下である場合は、抗代謝剤を含む化学療法が適切であると判断され、RRM1発現レベルが参照コホートの中央RRM1発現レベルより高い場合は、抗代謝剤を含まない化学療法が適切であると判断される。
【0013】
本明細書には又、患者由来の腫瘍試料を提供すること、腫瘍試料中のRRM1発現レベルを測定すること、そのRRM1発現レベルに基づいて適切な化学療法を決定することによって、患者に適切な化学療法を評価する代替の方法も記載される。この方法により、RRM1発現レベルが参照コホートの下位1/4のRRM1発現レベル以下であるか、参照コホートの上位1/4のRRM1発現レベル以上である場合は、抗チューブリン剤を含む化学療法が適切であると判断される。抗チューブリン剤は例えば、パクリタキセル若しくはドセタキセルといったタキサン、又はビノレルビン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンフルニン若しくはビンデシンといったビンカアルカロイドであってもよい。
【0014】
幾つかの実施形態において、この方法には更に、腫瘍試料中のERCC1発現レベルを測定すること、RRM1及びERCC1の両発現レベルに基づいて化学療法を決定することが含まれる。ERCC1発現レベルが参照コホートの中央ERCC1発現レベル以下である場合は、白金含有剤を含む化学療法が適切であると判断され、ERCC1発現レベルが参照コホートの中央ERCC1発現レベルより高い場合は、白金含有剤を含まない化学療法が適切であると判断される。白金含有剤は、例えば、シスプラチン、カルボプラチン又はオキサリプラチンであってもよい。
【0015】
幾つかの実施形態において、この方法には更に、適切な化学療法剤を患者に投与することが含まれる。別の実施形態において、この方法には、患者に放射線療法を実施することが含まれる。
【0016】
一態様において、本発明は、化学療法剤を含有する組成物の有効性を、RRM1発現レベルに基づいて評価する方法を提供する。この方法には、(i)第一の細胞系及び第二の細胞系を提供し(この第一の細胞系のRRM1発現レベルは第二の細胞系よりも高い)、(ii)第一及び第二の細胞系を組成物と、細胞生存率に作用するのに十分な時間にわたり接触させ、(iii)細胞生存率に対する効果について第一及び第二の細胞系をアッセイすることが含まれる。第一の細胞系に比べて第二の細胞系の方が細胞生存率が低い場合は、その組成物が低レベルのRRM1を発現する腫瘍に対しても有効である可能性が高いことが示唆される。第二の細胞系に比べて第一の細胞系の方が細胞生存率が低い場合は、その組成物が高レベルのRRM1を発現する腫瘍に対しても有効である可能性が高いことが示唆される。幾つかの実施形態において、組成物には抗代謝剤(例えば、ゲンシタビン又はペメトレキセド)、抗チューブリン剤又は白金含有剤の1つ以上が含まれる。
【0017】
別の態様において、本発明は、化学療法剤を含有する組成物の有効性を、ERCC1発現レベルに基づいて評価する方法を提供する。この方法には、(i)第一の細胞系及び第二の細胞系を提供し(この第一の細胞系のRRM1発現レベルは第二の細胞系よりも高い)、(ii)第一及び第二の細胞系を組成物と、細胞生存率に作用するのに十分な時間にわたり接触させ、(iii)細胞生存率に対する効果について第一及び第二の細胞系をアッセイすることが含まれる。第一の細胞系に比べて第二の細胞系の方が細胞生存率が低い場合は、その組成物が低レベルのERCC1を発現する腫瘍に対しても有効である可能性が高いことが示唆される。第二の細胞系に比べて第一の細胞系の方が細胞生存率が低い場合は、その組成物が高レベルのERCC1を発現する腫瘍に対しても有効である可能性が高いことが示唆される。幾つかの実施形態において、組成物には抗代謝剤(例えば、ゲンシタビン又はペメトレキセド)、抗チューブリン剤又は白金含有剤の1つ以上が含まれる。
【0018】
更に別の態様において、本発明は、患者の腫瘍組織中のRRM1の発現をアッセイするための試薬及び指示書を含むキットを提供する。幾つかの実施形態において、RRM1の発現をアッセイする試薬には、オリゴ−dTプライマー、RRM1のcDNAにハイブリダイズするフォワードプライマー、RRM1のcDNAにハイブリダイズするリバースプライマー、逆転写酵素、DNAポリメラーゼ、緩衝液、及びヌクレオチドからなる群から選択される試薬の予め量られた部分が含まれる。別の実施形態において、RRM1の発現をアッセイする試薬には、抗RRM1抗体の予め量られた部分、及びウェスタンブロット又は免疫組織化学的アッセイを実施するための緩衝液が含まれる。キットには又、生検組織試料といった患者由来の組織試料を処理するための試薬が含まれてもよい。幾つかの実施形態において、キットには又、組織試料中のERCC1の発現をアッセイするための試薬も含まれる。ERCC1の発現をアッセイするための試薬は、ERCC1のcDNAにハイブリダイズするフォワード及びリバースプライマーの予め量られた部分、又は抗ERCC1抗体であってもよい。
【0019】
一態様において、本発明は、患者の腫瘍組織中のERCC1発現をアッセイするための試薬及び指示書を含むキットを提供する。ERCC1の発現をアッセイするための試薬は、オリゴ−dTプライマー、ERCC1のcDNAにハイブリダイズするフォワードプライマー、ERCC1のcDNAにハイブリダイズするリバースプライマー、逆転写酵素、DNAポリメラーゼ、緩衝液、及びヌクレオチドからなる群から選択される試薬の予め量られた部分であってもよい。別の実施形態において、ERCC1の発現をアッセイするための試薬には、抗ERCC1抗体の予め量られた部分、及びウェスタンブロット又は免疫組織化学的アッセイを実施するための緩衝液が含まれる。キットには又、生検組織試料といった患者由来の組織試料を処理するための試薬も含まれる。幾つかの実施形態において、キットには又、組織試料中のRRM1の発現をアッセイするための試薬も含まれる。RRM1の発現をアッセイするための試薬は、RRM1のcDNAにハイブリダイズするフォワード及びリバースプライマーの予め量られた部分又は抗RRM1抗体であってもよい。
【0020】
別の態様において、本発明は、患者由来の組織試料中のRRM1の発現をアッセイするための試薬、患者由来の組織試料中のERCC1の発現をアッセイするための試薬、及び指示書を含むキットに関する。幾つかの実施形態において、RRM1及びERCC1の発現レベルをアッセイするための試薬には、オリゴ−dTプライマー、RRM1のcDNA又はERCC1のcDNAにハイブリダイズするフォワード及びリバースプライマー、逆転写酵素、DNAポリメラーゼ、緩衝液、及びヌクレオチドからなる群から選択される試薬の予め量られた部分が含まれる。別の実施形態において、RRM1及びERCC1の発現をアッセイするための試薬には、抗RRM1抗体及び抗ERCC1抗体の予め量られた部分、及びウェスタンブロット又は免疫組織化学的アッセイを実施するための緩衝液が含まれる。キットには又、生検組織試料といった患者由来の組織試料を処理するための試薬が含まれてもよい。
【0021】
本発明の1つ以上の実施形態の詳細を、添付の図面及び以下の説明に述べる。本発明のその他の特性、目的及び利点は、これらの説明及び図面に加えて、特許請求の範囲により明らかになるであろう。
本発明はまた、以下の項目を提供する。
(項目1)
被験体に適切な化学療法を評価する方法であって、
(i)該被験体由来の腫瘍試料を提供すること;
(ii)該腫瘍試料中のRRM1発現レベルを測定すること;及び
(iii)該RRM1発現レベルに基づいて適切な化学療法を決定する
ことを含み、該RRM1発現レベルが参照コホートの中央RRM1発現レベル以下である場合に、抗代謝剤を含む化学療法が適切であると判断され、該RRM1発現レベルが該参照コホートの中央RRM1発現レベルより高い場合に、抗代謝剤を含まない化学療法が適切であると判断される、方法。
(項目2)
更に、該腫瘍試料中の該ERCC1発現レベルを測定することを含む、項目1に記載の方法。
(項目3)
更に、該ERCC1発現レベルに基づいて該化学療法を決定することを含み、該ERCC1発現レベルが該参照コホートの中央ERCC1発現レベル以下である場合に、白金含有剤を含む化学療法が適切であると判断され、該ERCC1発現レベルが該参照コホートの中央ERCC1発現レベルより高い場合に、白金含有剤を含まない化学療法が適切であると判断される、項目2に記載の方法。
(項目4)
該白金含有剤がシスプラチン、カルボプラチン又はオキサリプラチンである、項目3に記載の方法。
(項目5)
該RRM1発現レベルの測定が、RT−PCR、ノーザンブロット、ウェスタンブロット又は免疫組織化学的アッセイを実施することを含む、項目1〜4の何れか1項に記載の方法。
(項目6)
該ERCC1発現レベルの測定が、RT−PCR、ノーザンブロット、ウェスタンブロット又は免疫組織化学的アッセイを実施することを含む、項目2〜5の何れか1項に記載の方法。
(項目7)
更に、該適切な化学療法剤を該被験体に投与することを含む、項目1〜6の何れか1項に記載の方法。
(項目8)
更に、該RRM1発現レベルが該参照コホートの中央RRM1発現レベル以下であると判断される場合に、該被験体に抗代謝剤を投与することを含む、項目1〜6の何れか1項に記載の方法。
(項目9)
該抗代謝剤がゲンシタビン又はペメトレキセドである、項目8に記載の方法。
(項目10)
更に、第二の化学療法剤を該被験体に投与することを含む、項目7〜9の何れか1項に記載の方法。
(項目11)
該第二の化学療法剤が抗チューブリン剤又は白金含有剤である、項目10に記載の方法。
(項目12)
該抗チューブリン剤がタキサン又はビンカアルカロイドである、項目11に記載の方法。
(項目13)
該タキサンがパクリタキセル又はドセタキセルである、項目12に記載の方法。
(項目14)
該ビンカアルカロイドがビノレルビン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンフルニン又はビンデシンである、項目12に記載の方法。
(項目15)
該白金含有剤がカルボプラチン、シスプラチン又はオキサリプラチンである、項目11に記載の方法。
(項目16)
更に、該ERCC1発現レベルが該参照コホートの中央ERCC1発現レベル以下であると判断される場合に、該被験体に白金含有剤を投与することを含む、項目3〜15の何れか1項に記載の方法。
(項目17)
該白金含有剤がシスプラチン、カルボプラチン又はオキサリプラチンである、項目16に記載の方法。
(項目18)
更に、該RRM1発現レベルが該参照コホートの中央RRM1発現レベル以下であると判断される場合に、該被験体に抗代謝剤を投与することを含む、項目16に記載の方法。
(項目19)
該抗代謝剤がゲンシタビン又はペメトレキセドである、項目18に記載の方法。
(項目20)
該被験体が上皮細胞悪性疾患を有する、項目1〜19の何れか1項に記載の方法。
(項目21)
該被験体が肺がん、乳がん、結腸直腸がん、頭頚部がん又は卵巣がんを有する、項目1〜19の何れか1項に記載の方法。
(項目22)
該被験体が非小細胞肺がんを有する、項目1〜19の何れか1項に記載の方法。
(項目23)
更に、該被験体に放射線療法を実施することを含む、項目1〜22の何れか1項に記載の方法。
(項目24)
被験体に適切な化学療法を評価する方法であって、
(i)該被験体由来の腫瘍試料を提供すること;
(ii)該腫瘍試料中のERCC1発現レベルを測定すること;及び
(iii)該ERCC1発現レベルに基づいて適切な化学療法を決定する
ことを含み、該ERCC1発現レベルが参照コホートの中央ERCC1発現レベル以下である場合に、白金含有剤を含む化学療法が適切であると判断され、該ERCC1発現レベルが参照コホートの中央ERCC1発現レベルより高い場合に、白金含有剤を含まない化学療法が適切であると判断される、方法。
(項目25)
更に、該腫瘍試料中の該RRM1発現レベルを測定することを含む、項目24に記載の方法。
(項目26)
更に、該RRM1発現レベルに基づいて適切な化学療法を決定することを含み、該RRM1発現レベルが該参照コホートの中央RRM1発現レベル以下である場合に、抗代謝剤を含む化学療法が適切であると判断され、該RRM1発現レベルが該参照コホートの中央RRM1発現レベルより高い場合に、抗代謝剤を含まない化学療法が適切であると判断される、項目24に記載の方法。
(項目27)
被験体に適切な化学療法を評価する方法であって、
(i)該被験体由来の腫瘍試料を提供すること;
(ii)該腫瘍試料中のRRM1発現レベルを測定すること;及び
(iii)該RRM1発現レベルに基づいて適切な化学療法を決定する
ことを含み、該RRM1発現レベルが参照コホートの下位1/4のRRM1発現レベル以下であるか、参照コホートの上位1/4のRRM1発現レベル以上であれば、抗チューブリン剤を含む化学療法が適切であると判断され、RRM1発現レベルが参照コホートの下位又は上位1/4にあると判断されなければ、抗チューブリン剤を含まない化学療法が適切であると判断される、方法。
(項目28)
更に、該腫瘍試料中の該ERCC1発現レベルを測定することを含む、項目27に記載の方法。
(項目29)
更に、該ERCC1発現レベルに基づいて該化学療法を決定することを含み、該ERCC1発現レベルが該参照コホートの中央ERCC1発現レベル以下である場合に、白金含有剤を含む化学療法が適切であり、該ERCC1発現レベルが該参照コホートの中央ERCC1発現レベルより高い場合に、白金含有剤を含まない化学療法が適切である、項目28に記載の方法。
(項目30)
更に、該適切な化学療法剤を該被験体に投与することを含む、項目27に記載の方法。
(項目31)
更に、該適切な化学療法剤を該被験体に投与することを含む、項目29に記載の方法。
(項目32)
更に、該RRM1発現レベルが該参照コホートの下位1/4のRRM1発現レベル以下であるか、該RRM1発現レベルが該参照コホートの上位1/4のRRM1発現レベル以上であると判断される場合に、該被験体に抗チューブリン剤を投与することを含む、項目27に記載の方法。
(項目33)
該抗チューブリン剤がタキサン又はビンカアルカロイドである、項目32に記載の方法。
(項目34)
該タキサンがパクリタキセル又はドセタキセルである、項目33に記載の方法。
(項目35)
該ビンカアルカロイドがビノレルビン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンフルニン又はビンデシンである、項目33に記載の方法。
(項目36)
更に、該ERCC1発現レベルが該参照コホートの中央ERCC1発現レベル以下であると判断される場合に、該被験体に白金含有剤を投与することを含む、項目29に記載の方法。
(項目37)
該白金含有剤がシスプラチン、カルボプラチン又はオキサリプラチンである、項目36に記載の方法。
(項目38)
該被験体が上皮細胞悪性疾患を有する、項目27〜37の何れか1項に記載の方法。
(項目39)
更に、該被験体に放射線療法を実施することを含む、項目27〜38の何れか1項に記載の方法。
(項目40)
更に、該被験体に手術を実施することを含む、項目27〜39の何れか1項に記載の方法。
(項目41)
化学療法剤を含む組成物の有効性を評価する方法であって、
(i)第一の細胞系及び第二の細胞系を提供することであって、該第一の細胞系が該第二の細胞系よりも高いレベルでRRM1を発現すること;
(ii)該第一及び第二の細胞系と該組成物とを、細胞生存率に作用するのに十分な時間にわたり接触させること;及び
(iii)細胞生存率に対する効果について該第一及び第二の細胞系をアッセイする
ことを含み、該第一の細胞系に比べて該第二の細胞系の方が細胞生存率が低いことは、該組成物が低レベルのRRM1を発現する腫瘍に対して有効である可能性が高いことを示す、方法。
(項目42)
該組成物が抗代謝剤、抗チューブリン剤又は白金含有剤の1つ以上を含む、項目41に記載の方法。
(項目43)
該抗代謝剤がゲンシタビン又はペメトレキセドである、項目42に記載の方法。
(項目44)
該抗チューブリン剤がタキサン又はビンカアルカロイドである、項目42に記載の方法。
(項目45)
該タキサンがパクリタキセル又はドセタキセルである、項目44に記載の方法。
(項目46)
該ビンカアルカロイドがビノレルビン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンフルニン又はビンデシンである、項目44に記載の方法。
(項目47)
該白金含有剤がカルボプラチン、シスプラチン又はオキサリプラチンである、項目42に記載の方法。
(項目48)
化学療法剤を含む組成物の有効性を評価する方法であって、
(i)第一の細胞系及び第二の細胞系を提供することであって、該第一の細胞系が該第二の細胞系よりも高いレベルでRRM1を発現すること;
(ii)該第一及び第二の細胞系と該組成物とを、細胞生存率に作用するのに十分な時間にわたり接触させること;及び
(iii)細胞生存率に対する効果について該第一及び第二の細胞系をアッセイする
ことを含み、該第二の細胞系に比べて該第一の細胞系の方が細胞生存率が低いことは、該組成物が高レベルのRRM1を発現する腫瘍に対して有効である可能性が高いことを示す、方法。
(項目49)
化学療法剤を含む組成物の有効性を評価する方法であって、
(i)第一の細胞系及び第二の細胞系を提供することであって、該第一の細胞系が該第二の細胞系よりも高いレベルでERCC1を発現すること;
(ii)該第一及び第二の細胞系と該組成物とを、細胞生存率に作用するのに十分な時間にわたり接触させること;及び
(iii)細胞生存率に対する効果について該第一及び第二の細胞系をアッセイする
ことを含み、該第一の細胞系に比べて該第二の細胞系の方が細胞生存率が低いことは、該組成物が低レベルのERCC1を発現する腫瘍に対して有効である可能性が高いことを示す、方法。
(項目50)
該組成物が抗代謝剤、抗チューブリン剤又は白金含有剤の1つ以上を含む、項目49に記載の方法。
(項目51)
該抗代謝剤がゲンシタビン又はペメトレキセドである、項目50に記載の方法。
(項目52)
該抗チューブリン剤がタキサン又はビンカアルカロイドである、項目50に記載の方法。
(項目53)
該白金含有剤がカルボプラチン、シスプラチン又はオキサリプラチンである、項目50に記載の方法。
(項目54)
該タキサンがパクリタキセル又はドセタキセルである、項目52に記載の方法。
(項目55)
該ビンカアルカロイドがビノレルビン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンフルニン又はビンデシンである、項目52に記載の方法。
(項目56)
化学療法剤を含む組成物の有効性を評価する方法であって、
(i)第一の細胞系及び第二の細胞系を提供することであって、該第一の細胞系が第二の細胞系よりも高いレベルでERCC1を発現すること;
(ii)該第一及び第二の細胞系と該組成物とを、細胞生存率に作用するのに十分な時間にわたり接触させること;及び
(iii)細胞生存率に対する効果について該第一及び第二の細胞系をアッセイする
ことを含み、該第二の細胞系に比べて該第一の細胞系の方が細胞生存率が低いことは、該組成物が高レベルのERCC1を発現する腫瘍に対して有効である可能性が高いことを示す、方法。
(項目57)
(i)患者由来の組織試料中のRRM1の発現をアッセイするための試薬、及び
(ii)指示書を含む、キット。
(項目58)
RRM1の発現をアッセイするための該試薬が、オリゴ−dTプライマー、RRM1のcDNAにハイブリダイズするフォワードプライマー、RRM1のcDNAにハイブリダイズするリバースプライマー、逆転写酵素、DNAポリメラーゼ、緩衝液、及びヌクレオチドからなる群から選択される試薬の予め量られた部分を含む、項目57に記載のキット。
(項目59)
RRM1の発現をアッセイするための該試薬が、抗RRM1抗体の予め量られた部分、及びウェスタンブロット又は免疫組織化学的アッセイを実施するための緩衝液を含む、項目57に記載のキット。
(項目60)
更に、患者由来の組織試料を処理するための試薬を含む、項目57に記載のキット。
(項目61)
更に、生検組織中のERCC1の発現をアッセイするための試薬を含む、項目57に記載のキット。
(項目62)
(i)患者由来の組織試料中のERCC1の発現をアッセイするための試薬、及び
(ii)指示書を含む、キット。
(項目63)
ERCC1の発現レベルをアッセイするための該試薬が、オリゴ−dTプライマー、ERCC1のcDNAにハイブリダイズするフォワード及びリバースプライマー、ERCC1のcDNAにハイブリダイズするリバースプライマー、逆転写酵素、DNAポリメラーゼ、緩衝液、及びヌクレオチドからなる群から選択される試薬の予め量られた部分を含む、項目62に記載のキット。
(項目64)
ERCC1の発現レベルをアッセイするための該試薬が、抗ERCC1抗体の予め量られた部分、及びウェスタンブロット又は免疫組織化学的アッセイを実施するための緩衝液を含む、項目62に記載のキット。
(項目65)
更に、患者由来の組織試料を処理するための試薬を含む、項目62に記載のキット。
(項目66)
(i)患者由来の組織試料中のRRM1の発現をアッセイするための試薬、
(ii)患者由来の組織試料中のERCC1の発現をアッセイするための試薬、及び
(iii)指示書を含む、キット。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】図1A及び1Bは、局所進行性非小細胞肺がん(NSCLC)患者35例にゲンシタビン及びカルボプラチンによる化学療法を2クール行った後における、腫瘍サイズの変化率に対するRRM1(図1A)及びERCC1(図1B)の発現の散布図である。黒色の点は腫瘍の縮小が30%未満であった患者を示し(SD)、灰色の点は腫瘍の縮小が30%を超えた患者を示す(PR/CR)。Spearmanの相関係数は、RRM1でr=−0.498(p=0.002)、ERCC1でr=−0.293(p=0.099)であった。
【図2】図2A及び2Bは、患者の生存率を示すグラフである。図2Aは、RRM1及びERCC1遺伝子の発現に基づいた化学療法で治療を受けた進行性NSCLC患者53例の、全体生存率及び無進行生存率を示す。図2Bは、割り当てられた化学療法別の全体生存率を示す。GC:ゲンシタビン及びカルボプラチン;GD:ゲンシタビン及びドセタキセル;DC:ドセタキセル及びカルボプラチン;DV:ドセタキセル及びビノレルビン。
【図3】図3A〜3Cは、ゲンシタビン及びシスプラチンによる処置の効果を示す。図3A及び3Bは、遺伝子組換え細胞系におけるゲンシタビン及びシスプラチンそれぞれのin vitroにおける有効性を示す。H23−R1は安定したRRM1過剰発現細胞系である。H23siR1は、RRM1を標的とするsiRNAを発現する配列により安定して形質転換される。対照の細胞系であるH23−Ct及びH23siCtは、親H23細胞系と同様のレベルでRRM1を発現する。細胞を種々の濃度に72時間曝露し、生存率をMTS検査により測定した。データは3回の独立した実験の平均値±S.E.である。図3Cは、250nMのゲンシタビン又は200nMのシスプラチンに6時間曝露された細胞のアポトーシスレベルを示す。アポトーシス率は、アネクシンVで標識された細胞の比率を示す指標である。データは3回の独立した実験の平均値±S.E.である。
【図4】図4は、H23siR1及びH23−R1細胞系と対照細胞系を比較した、ゲンシタビン及びドセタキセルによるアポトーシスの誘導を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明で提供される方法を使用することで、上皮細胞悪性疾患等の増殖性障害を有する対象に適切な治療を決定するか、或いは化学療法剤を含有する組成物の有効性を予測又は評価することができる。
【0024】
「増殖性障害」とは、細胞分裂の不規則性により特徴付けられる障害である。がん(神経膠腫、前立腺がん、メラノーマ、がん腫、子宮頚がん、乳がん、大腸がん又は肉腫等)は、増殖性障害の一例である。増殖性障害に特徴的な細胞(即ち、「新生細胞」又は「腫瘍細胞」)は、自律的に増殖する能力、即ち、細胞集団の不適切な増殖性成長により特徴付けられる異常な状態又は病態を引き起こす能力を有する。新生細胞又は腫瘍細胞は、異常に早い速度で増殖する細胞である。新生細胞を含む新たな増殖物は新生物であり、「腫瘍」としても知られる。腫瘍は異常な組織の増殖物であり、正常な組織よりも早く細胞増殖によって成長する明らかな塊を形成するのが一般的である。腫瘍は、構造構成及び正常組織との機能的な協調性が部分的に又は完全に欠けている。本明細書に使用する場合、腫瘍は固形腫瘍のみならず血液腫瘍も包含するものとして意図される。
【0025】
腫瘍は良性(良性腫瘍)である場合もあれば、悪性(悪性腫瘍又はがん)である場合もある。悪性腫瘍は大きく3種類に分けることができる。上皮構造から生じる悪性腫瘍はがん腫と呼ばれ;筋肉、軟骨、脂肪又は骨といった結合組織から生じる悪性腫瘍は肉腫と呼ばれ;免疫系の成分を含めた造血構造(血球の形成に関わる構造)を冒す悪性腫瘍は白血病及びリンパ腫と呼ばれる。その他の腫瘍には、神経線維腫が含まれるが、これに限定されない。
【0026】
増殖性障害には、組織病理学的な種類又は侵襲度のステージに関係なく、あらゆる種類のがん性増殖物又は腫瘍原性プロセス、転移組織又は悪性に変化した細胞、組織又は臓器が含まれる。がんには、肺、乳房、甲状腺、リンパ腺、消化管及び泌尿生殖器といった種々の臓器系の悪性腫瘍、並びに殆どの大腸がん、腎細胞がん、前立腺がん及び/又は精巣腫瘍、非小細胞肺がん、小腸がん及び食道がんといった悪性腫瘍を含む腺がんが含まれる。がん腫には、呼吸器系がん、消化器系がん、生殖泌尿器系がん、精巣がん、乳がん、前立腺がん、内分泌系がん及びメラノーマといった上皮組織又は内分泌組織の悪性腫瘍が含まれる。その他のがん腫には、子宮頚、肺、頭頚部、大腸及び卵巣の組織から形成されるものが含まれる。中枢神経系のがんには、神経膠腫(星状膠細胞腫、混合性乏突起星状膠細胞腫、多形性膠芽腫、上衣腫及び乏突起膠腫を含む)、髄膜腫、脳下垂体腫瘍、血管芽腫、聴神経腫、松果体腫瘍、脊髄腫瘍、造血器腫瘍及び中枢神経系リンパ腫が含まれる。脂肪、筋肉、血管、深部皮膚組織、神経、骨及び軟骨等の結合組織を冒すがんは、肉腫と呼ばれる。肉腫には、例えば脂肪肉腫、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、滑膜肉腫、血管肉腫、線維肉腫、神経線維肉腫、消化管間葉系腫瘍(GIST)、硬性線維腫、ユーイング肉腫、骨肉腫及び軟骨肉腫が含まれる。
【0027】
本明細書に記載の方法は、例えば、肺がん(非小細胞肺がん(NSCLC))、乳がん、結腸直腸がん、頭頚部がん又は卵巣がんといった上皮悪性腫瘍を有する患者の処置に特に関連する。上皮悪性腫瘍は、上皮組織を冒すがんである。
【0028】
本明細書に記載する「患者」は、増殖性障害を来した何れの患者であってもよい。例えば、患者は、ヒトがん患者を含むヒト等の何れかの哺乳動物であってもよい。ヒトでない哺乳動物の例には、非ヒト霊長類(例えば、サル又はヒトニザル)、マウス、ラット、ヤギ、ウシ、オウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、イノシシ、ラッコ、ネコ及びイヌが含まれる。
【0029】
本明細書で使用される「抗代謝剤」は、正常な生物化学的反応に必要となる物質(代謝物)と類似するものの、正常な細胞の機能を十分に干渉できるほどに異なる構造を有する化学物質である。抗代謝剤には、DNA合成に干渉するプリン及びピリミジン類似体が含まれる。抗代謝剤の例には、アミノプテリン、2−クロロデオキシアデノシン、シトシン、アラビノシド(ara C)、シタラビン、フルダラビン、フルオロウラシル(5−FU)(及びカペシタビン及びテガフールをはじめとするその誘導体)、ゲンシタビン、メトプテリン、メトトレキセート、ペメトレキセド、ラルチトレキセド、トリメトレキセート、6−メルカプトプリン及び6−チオグアニンが含まれる。
【0030】
本明細書で使用される「抗チューブリン剤」とは、紡錘体を阻害することによって細胞分裂を遮断する化学療法剤を指す。抗チューブリン剤の例には、タキサン類であるパクリタキセル及びドセタキセル、ビンカアルカロイド類であるビノレルビン、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビンフルニン及びビンデシンが含まれる。
【0031】
本明細書で使用される「白金含有剤」には、白金を含有する化学療法剤が含まれる。白金含有剤は、アルキル化DNAと架橋結合して、DNAの合成及び転写を阻害する。白金含有剤は任意の細胞周期で作用することができることから、新生細胞及び健常な分裂細胞を死滅させる。白金含有剤の例には、例えば、シスプラチン、カルボプラチン及びオキサリプラチンが含まれる。
【0032】
(がん治療を決定する方法)
適切ながん治療を決定する方法には、患者から腫瘍試料を入手するか提供して、患者におけるRRM1又はERCC1の発現レベルを測定することが含まれる。腫瘍試料を入手するには、生検(針生検等)等の何れの方法を使用してもよく、組織をOCT(登録商標)(Optimal Tissue Cutting化合物)に包埋して処理してもよい。例えば、OCT(登録商標)中の組織は、凍結切片として処理してもよい。腫瘍細胞は、レーザーキャプチャーマイクロダイセクション(LCM)等によって収集してもよく、例えばポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)又はノーザンブロット分析法と組み合わせた逆転写によってRNAレベルを測定するか、ウェスタンブロット法によってタンパク質のレベルを測定することによって、遺伝子の発現を検査してもよい。手法の一例では、RRM1又はERCC1の発現レベルが、リアルタイム定量RT−PCRで検査される。これらの遺伝子の発現レベルは又、免疫組織化学的方法によって測定されてもよい。
【0033】
腫瘍内のRRM1レベルが低い場合は、ゲンシタビン又はペメトレキセド等の抗代謝剤を含む化学療法が適切であると判断することができる。一方、腫瘍内のRRM1レベルが高い場合は、抗代謝剤を含まない化学療法が適切であると判断することができる。また、腫瘍内のERCC1レベルが低い場合は、白金含有剤を含む化学療法が適切であると判断することができる。一方、例えば、腫瘍内のERCC1レベルが低い場合は、シスプラチン、カルボプラチン又はオキサリプラチンを含む化学療法が適切である。腫瘍内のERCC1レベルが高い場合は、白金含有剤を含まない化学療法が適切であると判断することができる。
【0034】
発現レベルの「高」「低」は、相対的な価値であり、参照コホートの発現レベルとの比較に基づく。本明細書で使用される「参照コホート」とは、RRM1及び/又はERCC1の発現データを収集したがん患者集団サンプルである。参照コホートにおける発現レベルは、サンプル集団における腫瘍内の遺伝子発現レベルを測定することによって決定される(例えば、Rosell,et al.,Clin Cancer Res 10:1318−25,2004;Lord,et al.,Clin Cancer Res 8:2286−2291,2002;Bepler,et al.,J Clin Oncol 22: 1878−85,2004;及びSimon,et al.,Chest 127:978−83,2005を参照)。通常、発現レベルが参照コホートの中央RRM1発現レベル以下である場合、腫瘍のRRM1発現レベルは「低く」、発現レベルが参照コホートの中央RRM1発現レベル以上であれば、腫瘍のRRM1発現レベルは「高い」。同様に、発現レベルが参照コホートの中央ERCC1発現レベル以下であれば、腫瘍のERCC1発現レベルは「低い」。発現レベルの「高」「低」は、相対的なものであり、新たな各対照群を使用して決定することができる。或いは、患者の化学療法に対する反応を予測すると判断される発現レベルは、参照コホートの下位1/3又は下位1/4の発現レベル以下であってもよければ、この予測する発現レベルは、参照コホートの上位1/3又は上位1/4の発現レベル以上であってもよい。
【0035】
参照コホートの試料は、同じ動物種(ヒト患者等)の患者から採取し、参照コホートの腫瘍は望ましくは同じ型(NSCLCの腫瘍等)であるのがよい。例えば、参照コホートの腫瘍は何れも、がん腫、造血系腫瘍、脳腫瘍又は肉腫であってもよい。幾つかの実施形態において、参照コホートの腫瘍は何れも、例えば肺がん、乳がん、大腸結腸がん、頭頚部がん又は卵巣がんであってもよい。参照コホートの個々のメンバーは、疾患のステージ、処置歴、生活様式(喫煙者又は非喫煙者、肥満型又はやせ型等)、又はその他の背景(年齢、遺伝的素因等)といったその他の類似点を共有する場合もある。例えば、同じ型の腫瘍を有するだけでなく、参照コホートの患者が化学療法剤の全身投与を受けたことがない場合もある。参照コホートは、少なくとも10例、15例、20例、25例、30例、40例、50例、60例、70例、80例、90例、100例、120例、140例、160例、180例又は200例の対象から採取した腫瘍試料による遺伝子発現分析データを含まなければならない。
【0036】
参照コホートの遺伝子発現レベルは、定量RT−PCR、ノーザンブロット分析法、ウェスタンブロット分析法又は免疫組織化学的方法といった何れかの方法で測定することができる。被験者由来の腫瘍試料の発現レベルは、参照コホートの発現レベルと同じ方法で測定される。
【0037】
腫瘍は、RRM1又はERCC1又はその両発現レベルを測定するために採取することができ、測定された発現レベルに基づいて適切な化学療法を決定することができる。化学療法には、単一又は複数の化学療法剤(例えば、2種類、3種類又はそれ以上の化学療法剤)が含まれてもよい。例えば、腫瘍内のRRM1発現レベルが低いと判断される場合、適切な化学療法は抗代謝剤の単独投与であると判断することができる。或いは、適切な化学療法には、抗代謝剤及び第二の薬剤、例えば抗チューブリン剤(タキサン又はビンカアルカロイド等)、アルキル化剤(イフォスファミド、シクロホスファミド又はその他のナイトロジェンマスタード誘導体等)又は白金含有剤(シスプラチン、カルボプラチン又はオキサリプラチン等)が含まれると判断することができる。一方、腫瘍内のRRM1発現レベルが高いと判断される場合、適切な化学療法には、例えば白金含有剤が含まれると判断することができるが、この適切な化学療法に抗代謝剤は含まれてはならない。
【0038】
別の例において、腫瘍内のRRM1発現レベルが参照コホートに比べて下位1/3又は下位1/4であると判断されるか、参照コホートに比べて上位1/3又は上位1/4であると判断される場合、適切な化学療法は抗チューブリン剤の単独投与であると判断することができる。或いは、適切な化学療法には、抗チューブリン剤、及び第二の薬剤(例えば、抗代謝剤又は白金含有剤)が含まれると判断することができる。腫瘍内のRRM1発現レベルが、参照コホートに比べて中間の40〜60%の範囲である判断される場合、適切な化学療法には、抗代謝剤又は白金含有剤の1つ以上が含まれると判断されるが、この適切な化学療法に抗チューブリン剤は含まれてはならない。
【0039】
別の例において、腫瘍内のERCC1発現レベルが低いと判断される場合、適切な化学療法は白金含有剤の単独投与であると判断することができる。或いは、適切な化学療法には、白金含有剤、及び第二の薬剤(例えば、抗代謝剤又は抗チューブリン剤)が含まれると判断することができる。腫瘍内のERCC1発現レベルが高いと判断される場合、適切な化学療法には、抗代謝剤又は抗チューブリン剤の1つ以上が含まれると判断されるが、この適切な化学療法に白金含有剤は含まれてはならないと判断することができる。
【0040】
更に別の例においては、腫瘍内のRRM1及びERCC1の両発現レベルが測定され、適切な化学療法剤が両遺伝子の発現レベルに基づいて決定される。例えば、RRM1及びERCC1の発現レベルが何れも低いと判断される場合、適切な化学療法には、抗代謝剤、及び白金含有剤(カルボプラチン、シスプラチン又はオキサリプラチン等)が含まれると判断することができる。又、RRM1の発現レベルが低く、ERCC1の発現レベルが高いと判断される場合、適切な化学療法には、抗代謝剤、及び任意の第二の薬剤(抗チューブリン剤等)が含まれると判断することができる。このような化学療法の組成物には白金含有剤が含まれてはならない。一方、RRM1の発現レベルが高く、ERCC1の発現レベルが低いと判断される場合、適切な化学療法には、白金含有剤、及び任意の第二の薬剤(抗チューブリン剤又はアルキル化剤等)が含まれると判断することができる。この化学療法の組成物には抗代謝剤が含まれてはならない。又、RRM1及びERCC1の発現レベルが何れも高いと判断される場合、適切な化学療法は抗チューブリン剤を含むものであると判断することができる。この化学療法には抗代謝剤又は白金含有剤が含まれてはならない。
【0041】
更に別の例において、ERCC1の発現レベルが低く、RRM1の発現レベルが参照コホートの下位1/3又は1/4の範囲内又は上位1/3又は1/4の範囲内にある場合、適切な化学療法は、ドセタキセル又はビノレルビン等の抗チューブリン剤及び白金含有剤を含むものであると判断することができる。ERCC1の発現レベルが高く、RRM1の発現レベルが参照コホートの下位1/3又は1/4の範囲内又は上位1/3又は1/4の範囲内にある場合、適切な化学療法は、抗チューブリン剤及び任意の第二の薬剤、例えば抗代謝剤を含むものであると判断することができる。この化学療法の組成物には白金含有剤が含まれてはならない。ERCC1の発現レベルが低く、RRM1の発現レベルが参照コホートの中間の40〜60%である場合、適切な化学療法は、白金含有剤及び任意の第二の薬剤、例えば抗代謝剤又はアルキル化剤を含むものであると判断することができる。この化学療法の組成物には抗チューブリン剤が含まれてはならない。ERCC1の発現レベルが高く、RRM1の発現レベルが参照コホートの中間の40〜60%である場合、適切な化学療法は、抗代謝剤を含むものであると判断することができる。この化学療法には抗チューブリン剤又は白金含有剤が含まれてはならない。
【0042】
この他の化学療法剤も、抗代謝剤、抗チューブリン剤又は白金含有剤と共に、或いは抗代謝剤、抗チューブリン剤又は白金含有剤の代わりに、本明細書に記載のRRM1及びERCC1の発現レベルに基づいて投与することができる。その他の化学療法剤には、例えば、L−アスパラギナーゼ、ビカルタミド、ブレオマイシン、カンプトテシン(CPT−11)、カルミノマイシン、シクロホスファミド、シトシンアラビノシド、ダカルバジン、ダクチノマイシン、ドキソルビシン、ダウノルビシン、エクチナサイジン743、エストラムスチン、エトポシド、リン酸エトポシド、エポチロン、フルタミド、FK506、ヘキサメチルメラミン、イダトレキセート(idatrexate)、レフルニミド(leflunimide)、ロイプロリド、ロイロシンジン、ロイロシン、メルファラン、マイトマイシンC、ミコフェノレートモヘチル、プリカマイシン、ポドフィロトキシン、ポルフィロマイシン、ランピルナーゼ、ラパマイシン、トポテカン、テニポシド及びチオテパが含まれる。
【0043】
腫瘍内のRRM1又はERCC1の発現レベルに従って化学療法を受ける対象は、更に放射線療法、免疫療法又は手術を受けてもよい。
【0044】
化学療法剤は、従来の用法で対象に投与してもよい。適切な用法は、本明細書に記載のRRM1及び/又はERCC1の発現レベルに基づき患者に適切であると判断された特定の化学療法剤によって異なる。
【0045】
化学療法剤は、錠剤の剤型等による経口投与、静脈内注射、体腔への注射(膀胱等)、筋肉内注射又は髄腔内注射といった標準的な方法で投与することができる。化学療法の投与計画は、静脈内、経口又は体腔への持続投与として提供することができる。化学療法の投与計画は、薬剤を投与する一日又は数日後に休薬及び回復期間を設けるサイクルで提供することができる。この回復期間は1週間、2週間、3週間又は4週間又はそれ以上であってもよく、その後サイクルを反復させてもよい。化学療法のクールには少なくとも2〜12サイクル(3サイクル、4サイクル、5サイクル、6サイクル、7サイクル、10サイクル又は12サイクル等)が含まれてもよい。
【0046】
本明細書で提供される方法によって得られる遺伝子発現データは、背景データ、バイタル、教育、飲酒歴、喫煙歴及び薬物乱用歴、既往歴、上述の通り設計した化学療法の投与後における増殖性障害の予後に関する結論を調節するための処置記録を含めた、患者のカルテの情報と組み合わせてもよい。
【0047】
腫瘍内のRRM1又はERCC1の発現レベルに基づき化学療法剤を投与したら、治療に対する患者の反応を監視することができる。例えば、化学療法剤の投与前及び投与後に腫瘍の測定を行って、疾患の進行を監視することができる。腫瘍サイズが縮小している場合は、疾患が寛解状態にあるか、寛解状態へ戻りつつあると判断することができる。又、腫瘍サイズが部分的に縮小している場合は、疾患が部分寛解状態にあることが示され、腫瘍が完全に消失している場合は、疾患が完全寛解したと判断することができる。一方、腫瘍のサイズが大きくなっている場合は、疾患が進行していると判断することができ、化学療法剤の投与後も腫瘍のサイズが変化しない場合は、疾患が安定していると分類される。
【0048】
患者はがんのステージに従って評価することもできる。例えば、患者はTNMステージ分類に従って評価することができる。「T」は腫瘍のサイズと組織近くに浸潤しているかどうかを示し、「N」は関与しているあらゆるリンパ節の数を示し、「M」は転移(身体のある場所から別の場所へのがんの広がり)の有無を示す。TNMスケールに従えば、ステージ0は原位置(in situ)でのがん腫で、それが開始した細胞層にのみ存在する早期がんである。ステージI、II、III及びIVは、段階的に病状が悪化していることを示す。ステージが進むほど、疾患は広がり、腫瘍のサイズ及び/又は近いリンパ節及び/又は原発腫瘍に隣接するがんの広がりが大きくなることを示す。ステージIVでは、腫瘍が少なくとも1つの別の臓器へと広がっている。
【0049】
患者は、体重減少、胸水及びがんに関連する他の症状といった因子に留意して、その全身状態に従って評価することもできる。例えば、小細胞肺がん及び非小細胞肺がんを含む肺がんの症状は、持続性の咳、血痰、胸痛及び再発性の肺炎又は気管支炎を含む。
【0050】
本発明に示す方法は、胎児(子宮内等)、幼児、小児、青少年、成人又は高齢者等あらゆる年齢のあらゆる患者に対して実施することができる。
【0051】
(有効性を予測し方法を選別する方法)
本発明は、化学療法剤を含有する組成物の有効性を評価又は予測する方法にも関する。この方法は、少なくとも2つの細胞系及び1つ以上の化学療法剤を含有する組成物を使用する。これらの細胞系はRRM1又はERCC1の発現レベルが異なる。例えば、1つの細胞系は標準対照細胞系よりもRRM1の発現レベルが低いか、1つの細胞系は標準対照細胞系よりもRRM1の発現レベルが高い。発現レベルの高い細胞系は望ましくは、もう1つの発現レベルの低い細胞系よりもRRM1又はERCC1を少なくとも20%、40%、60%、80%、100%、200%又は300%多く発現するのがよい。
【0052】
RRM1又はERCC1の発現を増加又は減少させるあらゆる方法を使用することができる。例えば、低レベルのRRM1を発現する細胞系は、発現レベルを低くさせるsiRNA又はアンチセンスRNAを発現するように設計することができる。或いは、RRM1の発現は、テトラサイクリン−、IPTG−又はエクジソン−反応性プロモーターといった制御可能なプロモーターの制御下におくことができる。RRM1の発現は、親株における発現よりも低くてよいか、発現は誘導前に完全になくてよい。高レベルのRRM1を発現する細胞は、内因性のRRM1プロモーターよりも高レベルでRRM1を発現させる構成プロモーター(constitutive promoter)の制御下にRRM1遺伝子を含むことができるか、RRM1はテトラサイクリン−又はIPTG−反応性プロモーター等の誘導プロモーターから発現させて、誘導により親株よりも高レベルの発現を行わせることができる。高レベルのRRM1を発現させるか低レベルの発現を行わせる外因性配列を、親株のゲノムに安定に組み入れることができるか、親株に一過性にトランスフェクションすることができる。
【0053】
高レベル及び低レベルのRRM1又はERCC1を発現する細胞を、候補となる化学療法剤又は化学療法剤(2、3又は4種類の化学療法剤)の組み合わせと接触させ、対照株に比べて化学療法剤に対する感受性又は耐性が増えているかどうかを監視する。ある細胞系の感受性を対照の細胞系よりも高くする1つの化学療法剤又は化学療法剤の組み合わせは、それに対応するレベルのRRM1又はERCC1を発現する腫瘍を有する患者に対する化学療法剤の候補とすることができる。
【0054】
例えば、低レベルのRRM1(対照の親株よりも低レベル)を発現する細胞が、対照株の細胞よりもある化学療法剤に対して感受性が高ければ、その薬剤は低レベルのRRM1を発現する腫瘍を有する患者の処置における化学療法剤の候補である。高レベルのRRM1(対照の親株よりも高レベル)を発現する細胞が、対照株の細胞よりもある化学療法剤に対して感受性が高ければ、その薬剤は高レベルのRRM1を発現する腫瘍を有する患者の処置における化学療法剤の候補である。
【0055】
別の例において、低レベルのERCC1(対照の親株よりも低レベル)を発現する細胞が、対照株の細胞よりもある化学療法剤に対して感受性が高ければ、その薬剤は低レベルのERCC1を発現する腫瘍を有する患者の処置における化学療法剤の候補である。高レベルのERCC1(対照の親株よりも高レベル)を発現する細胞が、対照株の細胞よりもある化学療法剤に対して感受性が高ければ、その薬剤は高レベルのERCC1を発現する腫瘍を有する患者の処置における化学療法剤の候補である。
【0056】
本明細書に記載の方法をスクリーニング検査に使用して、高レベル又は低レベルのRRM1又はERCC1を発現する腫瘍の治療に対する候補となる化学療法剤を特定することができる。上述のような細胞系を薬剤(低分子薬、核酸又はポリペプチド等)のパネルと接触させ、低レベル又は高レベルのRRM1を発現する細胞の感受性を高める薬剤を特定することができる。
【0057】
上述のスクリーニング法で化学療法剤の候補として特定した薬剤又は複数の薬剤又は薬剤の組み合わせを、ヒトで試験する前に動物モデルで試験することができる。例えば、ヒトで試験する前に、マウス又は霊長類モデルで化学療法剤の腫瘍サイズを縮小する能力を試験することができる。
【0058】
(キット)
試薬、ツール及び/又は本明細書に記載の方法を実施するための指示書は、キットで提供することができる。例えば、そのキットは試薬、ツール、がん患者に対して適切な治療を決定するための指示書を含んでもよい。このようなキットは、患者から例えば生検等によって組織試料を収集するための試薬及び組織を処理するための試薬を含んでもよい。又、キットは、ヒトの腫瘍試料中のRRM1及び/又はERCC1の発現レベルを測定するために実施するRT−PCR、ノーザンブロット、ウェスタンブロット分析用の試薬といった、遺伝子発現分析を実施するための1種類以上の試薬も含んでもよい。例えば、RT−PCRを実施するためのプライマー、ノーザンブロット分析を実施するためのプローブ及び/又はウェスタンブロット分析及び免疫組織化学的分析を実施するための抗体をこのようなキットに含めることができる。検査に適切な緩衝液も含めることができる。これらの検査の何れかで必要な検出用試薬も含めることができる。
【0059】
又、本明細書に記載のキットは、遺伝子発現を測定するための検査を如何に実施するかを記載した指示書を含んでもよい。この指示書は、如何にして参照コホートを決定するか、如何にして参照コホートのRRM1及び/又はERCC1の発現レベルを測定するか、被験者と比較するための参照を確立するための発現データを如何にして収集するかを記載した指示書も含んでもよい。又、指示書は、被験者にとって適切な化学療法を決定するための、被験者における遺伝子発現の検査及び発現レベルと参照コホートの発現との比較に関する指示書も含めることができる。適切な化学療法を決定するための方法は上に記載されており、指示書には更に詳細を記載することができる。
【0060】
別の例において、本発明に記載のキットは、試薬、ツール及び、RRM1又はERCC1の発現レベルに基づき候補となる化学療法剤の有効性を予測するための指示書を含んでもよい。このようなキットは、細胞内のRRM1又はERCC1の発現レベルを調節するためのベクター及びアポトーシスの検出用の試薬といった細胞の表現型を監視するための試薬を含んでもよい。組織試料中のRRM1及びERCC1の発現レベルを測定するための試薬も上述の通り含めることができる。
【0061】
キットに含められた情報資料は、説明、指示、マーケティングに関するものであってよく、本明細書に記載の方法及び/又は本明細書に記載の方法のための試薬の使用に関する材料であってよい。例えば、キットの情報資料は、キットのユーザーが遺伝子発現分析の実施及び結果の解釈、特に特異的な化学療法剤に対して陽性反応を示すヒトの確率に応用する場合に関する本質的な情報を得ることができる、住所、電子メールアドレス、ウェブサイト又は電話番号といった連絡先の情報を含んでもよい。
【0062】
キットは、試薬及び情報資料のための個別の容器、仕切り又は区画を含んでもよい。容器には、RRM1及びERCC1遺伝子発現レベルを測定し、次にその患者に適切な化学療法剤を決定するための使用法ラベルを貼付することができる。
【0063】
キットの情報資料はその形態に限定されない。多くの場合、情報資料、例えば指示書は印刷物、例えば印刷テキスト、図及び/又は写真、例えばラベル又は印刷シートとして提供される。しかし、又、情報資料は、点字、コンピュータ読み取り可能な資料、ビデオ又はオーディオ記録といった別のフォーマットで提供することもできる。無論、情報資料は複数のフォーマットのあらゆる組み合わせとして提供することもできる。
【0064】
以下の実施例により本発明を更に例示するが、これら実施例は本発明を更に限定するものとして解釈してはならない。
【実施例】
【0065】
(実施例1:RRM1の発現の低下がゲンシタビンに対する感受性の上昇に相関する)
RRM1の発現が増加及び減少した、安定した遺伝子組換え細胞系及び対応する対照細胞系を生成した(Gautam,et al.,Oncogene 22:2135−42,2003)。肺がんに由来するH23株を親細胞系として使用した(Carney,et al.,Cancer Res 45:2913−23,1985)。H23siR1は、pSUPER−siRRM1構築物によるNCI−H23の安定したトランスフェクションによって生成した。これらの細胞はRRM1を標的とするsiRNAを発現し、それによってRRM1の発現を抑える。この構築物を生成するため、pSUPER−GFP/neoベクター(OligoEngine[米国ワシントン州シアトル])をBgIII及びHindIIIで分解して、アニールしたオリゴヌクレオチド(5’−GATCCCCgacgctagagcggtcttatTTCAAGAGAataagaccgctctagcgtcTTTTTGGAAA−3’(配列番号1)及び5’−AGCTTTTCCAAAAAgacgctagagcggtcttatTCTCTTGAAataagaccgctctagcgtcGGG−3’(配列番号2)をベクターに連結した。19個のヌクレオチドRRM1標的配列を小文字で示す。配列GCTAATAGCGCGGAGTCTT(配列番号3)を標的とするsiRNAを発現する対照H23siCt細胞系を生成した。この配列は何れの既知の遺伝子とも類似しない。H23−R1は安定したRRM1過剰発現細胞系であり、H23−Ctはそれに対応する対照である。何れも、既に報告されている通り(Gautam,et al.,Oncogene 22:2135−42,2003)、発現プラスミドpCMV−Tag2(Stratagene[米国カリフォルニア州ラ・ホーヤ])にクローン化した完全長RRM1 cDNAによるトランスフェクションによって生成した。これらの細胞系におけるRRM1の発現レベルを、リアルタイム定量RT−PCR及びウェスタンブロット分析によって評価した。
【0066】
改変MTT検査(MTS検査;Promega[米国ウィスコンシン州マディソン])を使用して、in vitroにおけるゲンシタビン及び白金含有剤の治療有効性に対するRRM1の発現の影響を評価した。このMTS検査では、試薬として3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−5−(3−カルボキシメトキシフェニル)−2−(4−スルホフェニル)−2H−テトラゾリウムを使用した。検査は、4,000細胞/ウェルを96ウェル平底プレートに播種して実施した。H23−Ct、H23−R1、H23siR1、H23siCt細胞を薬剤に72時間又は96時間連続して曝露した。37℃で3時間培養した後、マイクロプレートリーダー(Benchmark Plus,Bio−Rad[米国カリフォルニア州ハーキュリーズ])で490nmにおける吸光度を測定した。実験は全て3回繰り返した。IC50(細胞の増殖を50%抑制する薬剤濃度)は、[(薬剤を入れた3連ウェルにおける平均吸光度−空の3連ウェルにおける平均吸光度)/(薬剤なしの3連ウェルにおける平均吸光度−空の3連ウェルにおける平均吸光度)]×100で算出した。
【0067】
H23−R1におけるRRM1の発現は、H23の2.5〜3.5倍であった(Gautam,et al.,Oncogene 22:2135−42,2003)。H23siR1におけるRRM1の発現は1/5であった。RRM1及び対照遺伝子の発現レベルは、リアルタイム定量RT−PCR及びウェスタンブロットで測定した。触媒性のリボヌクレオチドレダクターゼサブユニットであるRRM2の発現は、影響を受けなかった。これらの細胞系のゲンシタビン、シスプラチン及びカルボプラチンに対する感受性を、トランスフェクトした対照細胞系(H23−Ct及びH23siCt)と比較した。RRM1の発現が増加するにつれて、ゲンシタビンに対する耐性がもたらされた(表1、図3A及び図3Cを参照)。H23−R1のゲンシタビンIC50は、H23−CtのIC50の8倍であった。反対に、RRM1の発現が減少するにつれて、ゲンシタビンに対する感受性が増大した。H23siR1のゲンシタビンIC50は、H23siCtのIC50の1/10であった。ゲンシタビンに対する親細胞系(H23)の反応は、H23−Ct及びH23siCtの反応と同等であった。RRM1の発現とシスプラチン(表1)及びカルボプラチンへの細胞毒性学的反応との間には、ゲンシタビンほど顕著ではないものの、類似する関係が認められた。H23−R1の耐性は対応する対照細胞系の1.2〜1.5倍であり、白金含有剤に対するH23siR1の感受性は1.1〜1.3倍であった。
【0068】
【表1】

薬物により誘発されるin vitroでのアポトーシスを測定するため、3×10細胞/ウェルを6ウェルプレートに播種し、一晩結合させた。化学療法剤を所定の濃度で培養物に添加した。処理から2、4及び6時間後に、製造業者(BD Pharmingen[米国カリフォルニア州サンディエゴ])が推奨する通りにアネクシンVで細胞を標識した。標識細胞の比率をフローサイトメトリー(FACScalibur,Becton Dickinson[米国ニュージャージー州フランクリンレイクス])で測定した。アネクシンVによる標識実験により、薬物により誘発される細胞死とRRM1の発現の逆相関関係が更に明らかになった(図3A〜3Cを参照)。250nMゲンシタビンによる処理から6時間後に標識を行った細胞の比率は、対照細胞系で6.6〜6.9%、H23−R1で2.6%、H23siR1で15.2%であった。200nMのシスプラチンへの6時間の曝露では、H23−Ct及びH23siCtで14.5〜15.1%のアポトーシス細胞が、H23−R1で5.5%のアポトーシス細胞、H23siR1で19.0%のアポトーシス細胞が産生された。
【0069】
(実施例2:RRM1の発現とゲンシタビン系化学療法に対する反応の間の逆相関関係を臨床試験により実証)
腫瘍内のRRM1の発現がゲンシタビン系化学療法に対する反応の指標になるという仮説に前向きに取り組むため、本発明者等は、局所進行性非小細胞肺がん(NSCLC)を来した患者を対象に臨床試験を実施した。臨床試験は治験審査委員会により承認されており、患者は全てインフォームドコンセント文書を提出した。
【0070】
腫瘍内のRRM1の発現が、第一選択のゲンシタビン系化学療法の2サイクルの有効性に与える影響を評価した。局所進行性で手術不能のNSCLC患者に、導入療法としてゲンシタビン及びカルボプラチンを投与した(IndGC)。治療歴のないあらゆるステージのNSCLC患者に対して単剤投与は不十分であると考えられたため、二剤投与による化学療法を選択した(National Comprehensive Cancer Network guidelines or NSCLC treatment)。臨床試験に組み入れる患者の適格性には、組織学的にNSCLCが確認されていること、手術不能のステージIIIA又はIIIVであること(胸水にがん細胞が認められた患者は除外した;ステージIIBの患者1例を特例として組み入れた)、RECISTにより腫瘍が測定可能であること(Therasse,et al.,J Natl Cancer Inst 92:205−16,2000)、以前に化学療法剤の全身投与又は胸部放射線照射を受けていないこと、Eastern Cooperative Oncology Group基準による一般状態が0又は1であること、体重減少がないこと(診断の3ヵ月前に比べて5%未満の減少)及び骨髄、肝及び腎の機能が損なわれていないことを含めた。
【0071】
胸部及び上腹部のコンピュータ断層撮影(CT)、全身FDG陽電子放射断層撮影(PET)及び脳の磁気共鳴映像により全ての患者をステージ分類した。IngGCでは、ゲンシタビン1000mg/m2を第1日及び第8日に、AUC5のカルボプラチンをDay1に投与した。CT及びPETをWeek8に再実施し、腫瘍の反応を、RECISTに従ってCT画像の病変の一次元計測で評価した。その後、最終治療として放射線療法及び化学療法を併用した。本試験は、特に治療前の分子学的分析のための腫瘍標本の収集を必要とし、針生検により直径0.8mmの組織標本を得た。標本は直ちに液体窒素で凍結し、OCT(登録商標)に包埋し、凍結切片として加工した。腫瘍細胞を、Laser capture microdissection(LCM)で収集し、RNAを抽出した。
【0072】
遺伝子発現分析のため、OCT(登録商標)に包埋した凍結組織試料を5〜7μM切片にした。腫瘍細胞をArcturusシステム(60mW、1.5msec、強度100、スポットサイズ20μm以下)を使用してLCMで収集し、市販の方法(PicoPure RNA単離キット;型番KIT0204;Arcturus[米国カリフォルニア州マウンテンビュー])を使用して全RNAを抽出した。相補的DNAをSuperscript II及びoligo−dT(Invitrogen[米国カリフォルニア州カールズバッド])で生成した。リアルタイム定量PCRによる遺伝子分析を、試料毎に96ウェルプレート(ABI prism 7700,Perkin−Elmer[米国カリフォルニア州フォスターシティー])で3連で実施した。各プレートには、標準曲線を得るための倍々希釈の参照cDNA及びテンプレートなしの陰性対照を入れた。RRM1及びERCC1の発現分析のため設計されたプライマー及びプローブは、既に報告されている(Bepler,et al.,J Clin Oncol 22:1878−85,2004;Simon,et al.,Chest 127:978−83,2005)。市販のプライマー及びプローブを使用してハウスキーピング遺伝子18S rRNA(Perkin−Elmer;型番4310893E−0203015)の発現を分析し、内部標準品として使用した。試料中の標的RNAの相対量は、標準曲線の閾値サイクルと比較して決定し、次に、標的量を18S rRNAの量で除して標準化量を求めた。
【0073】
腫瘍の一次元計測は化学療法の前後に実施し、腫瘍の反応を治療前と治療後の比較した変化率として記録し、RECISTに従って、完全寛解(CR)、部分寛解(PR)、不変(SD)及び疾患進行(PD)に分類した。少なくとも1つから6つの個々のがん病変を、造影剤の静脈内投与の後にマルチチャンネルヘリカルCTスキャナーで得られた画像を使用して最も大きい直径として計測した。計測はピクチャー・アーカイブ・コミュニケーションシステムワークステーション(Siemens Magic View 1000)で実施し、6〜8週間間隔で繰り返した。投与後と投与前の計測値を比較した腫瘍直径の合計の変化率を、公式1−(SumCTpost/SumCTpre)を使用して算出した。正の値は腫瘍の縮小を示し、負の値は腫瘍の成長を示す。新しい、これまでに認められていない腫瘍病変が画像検査又は身体検査で発現した場合は、疾患進行としてコードした。全体生存率(OS)を最初の投与日から死亡日までの期間として記録した。無進行生存率(PFS)を最初の投与日から疾患の進行が初めて明らかになった日又は死亡日までの期間として記録した。事象が何ら認められなかった患者を、フォローアップ期間の最終日に打ち切りとした(2006年3月24日)。
【0074】
2003年11月から2006年1月にかけて、40例の適格患者を組み入れた。患者3例が、家に近い場所での治療を望み、投与開始前に同意を取り下げた。患者28例では、分子学的検査のみのため生検を実施して組織を入手し、9例では診断を確定するためにも組織を使用した。1例では気胸が発現し、胸腔チューブの留置が必要であった。2例では腫瘍組織の収集で、遺伝子発現分析に十分な量の材料を回収することができなかった。残る35例で、LCMで30〜4500の腫瘍細胞を収集した。35例の患者全てがIndGCを完了し、腫瘍の反応は腫瘍直径の9%の増加から100%の減少まで幅があった。患者20例はSDであり、14例がPR、1例がCRをみた。患者の臨床背景を表2に要約する。
【0075】
【表2】

【0076】
【表3】

RRM1の発現は0.18〜129.3であった。RRM1の発現と腫瘍の反応の程度には有意な(p=0.002)逆相関関係(r=−0.498、Spearman相関係数)が認められた(図1A)。患者を奏功あり(CR/PR)と奏功なし(SD)に分類したところ、RRM1の発現は奏功と有意な因果関係にあり(p=0.03、χ2検定)、腫瘍内のRRM1発現レベルが高い患者は、発現が低レベルの患者に比べてIndGCに反応しにくかった。ERCC1の発現も、反応の程度と逆相関関係(r=−0.283,p=0.099)にあったが(図1B)、IndGCに対する反応分類とは相関関係になかった(p=0.32)(表3を参照)。遺伝子発現と採取した腫瘍細胞の数、患者の年齢又は性別、腫瘍の組織学的分類及び喫煙状況との間に有意な相関関係は認められなかった。
【0077】
【表4】

統計学的分析には以下を含めた。遺伝子発現と連続変数である腫瘍の反応、分析細胞数及び患者の年齢との間の相関係数をSpearmanに従って算出した。Cox比例ハザード分析を使用して、生存率に対する遺伝子発現の影響を評価した。プールしておいたt検定を使用して、遺伝子発現と性別又は患者に関する他の二分法の変数との間の相関の有意性を試験した。一元配置分散分析を使用して、遺伝子発現と患者の喫煙状況又は他の2つを超える値を有する患者に関する非連続変数との相関関係の有意性を試験した。OS及びPFSの確率をカプランメイヤー法を使用して推定した。ログランク検定を使用して、生存曲線間の有意性を測定した。
【0078】
(実施例3:RRM1及びERCC1の発現レベルに基づいた化学療法剤の投与による患者の反応及び生存率の上昇を臨床試験により実証)
遺伝子発現に基づいて化学療法剤を選択すれば、患者の生存率が改善されるのかどうかを試験するため、進行性及び根治不能のNSCLC患者を対象に第II相単独施設投与試験を実施した。本試験では、RRM1及びERCC1遺伝子の発現に基づいて、化学療法剤2剤を選択した。患者の適格性には、組織学的にNSCLCが確認されていること、ステージIV又はIIIB(悪性胸水あり)であること、RECISTにより腫瘍が計測可能であること(Therasse,et al.,J Natl Cancer Inst 92:205−16,2000)、進行性NSCLCの診断の3年前から化学療法剤の全身投与を受けていないこと、Eastern Cooperative Oncology Group基準に基づく一般状態が0か1であること、年齢が18歳を超えていること、骨髄、肝及び腎機能が損なわれていないことを含めた。脳転移がありながらも安定をみている患者は組み入れた。本試験で選択した化学療法を開始する少なくとも3週間前に終了しており、患者が放射線治療の毒性から回復しており、少なくとも1つの計測可能な標的病変が照射野から外れていれば、放射線療法の治療歴も許可した。
【0079】
腫瘍の収集には針生検が必要であった。標本は直ちに凍結切片にし、LCMを行って腫瘍細胞を収集した。RRM1及びERCC1の発現レベルは、カスタム設計しバリデーションを行ったプライマー及びプローブを使用したリアルタイム定量RT−PCRで測定した(Bepler,et al.,J Clin Oncol 22:1878−85,2004;Simon,et al.,Chest 127:978−83,2005)。化学療法剤に関する決定は、遺伝子発現レベルに基づき行った。RRM1の発現が16.5以下であればゲンシタビンを投与し、ERCC1の発現が8.7以下であればカルボプラチンを投与した。これらのレベルは、予測されるコホートの中央に近い値を達成することを目標とした、NSCLC患者の発現分析の実験結果に基づいて選択した(Rosell,et al.,Clin Cancer Res 10:1318−25,2004;Lord,et al.,Clin Cancer Res 8:2286−2291,2002;Bepler,et al.,J Clin Oncol 22:1878−85,2004;Simon,et al.,Chest 127:978−83,2005)。
【0080】
この患者コホートの実際の中央値は類似していた(中央RRM1は12.1、範囲0.0〜1637.3;中央ERCC1は12.4、範囲0.9〜8102.8)。このため、RRM1及びERCC1が選択した値よりも低い場合はゲンシタビンとカルボプラチン(GC)を投与し、RRM1が選択した値よりも低く、ERCC1が高い場合はゲンシタビンとドセタキセル(GD)を投与し、RRM1が高く、ERCCが低い場合はドセタキセルとカルボプラチン(DC)を投与し、RRM1及びERCC1が高い場合はドセタキセルとビノレルビン(DV)を投与した。
【0081】
2004年2月から2005年12月にかけて、69例の適格患者を組み入れた。8例が同意を取り下げ(5例は生検実施後)、1例は交通機関の問題で投与前に除外した。遺伝子発現分析は5例で奏功せず、2例には2004年夏のフロリダの天災のため割り当てられた薬剤を全く投与できなかった(表2)。割り当てられた治療を受けた患者53例中、12例がGCを、20例がGDを、7例がDCを、14例がDVの投与を受けた。
【0082】
薬剤の送達量は以下とした。ゲンシタビン1,250mg/mを第1日及び第8日に、カルボプラチンAUC5を第1日に21日毎に投与した。ゲンシタビン1250mg/mを第1日及び第8日に、ドセタキセル40mg/mを第1日及び第8日に21日毎に投与した。ドセタキセル75mg/mをDay1に、カルボプラチンAUC5を第1日に21日毎に投与した。ビノレルビン45mg/mを第1日及び第15日に、ドセタキセル60mg/mを第1日及び第15日に28日毎に投与した。CTスキャンを投与前及び2サイクルの投与後毎に実施した。これらを使用して、腫瘍の一次元での反応を計測記録した。投与は、RECISTにより疾患進行が確認されるまでか、合計6サイクルを終了するまで続行した。それ以降の治療は、担当医師の判断に委ねた。各患者で治療への最も良好な反応を記録し、サイクル2、4又は6の後にCTで記録する最大腫瘍縮小と規定した。試験で選択された化学療法の終了後、患者には少なくとも3ヵ月毎にCTスキャンによる追跡調査を行い、疾患の状態を測定した。腫瘍の反応、全体生存率(OS)及び無進行生存率(PFS)を、上述の通り測定し記録した。
【0083】
最も良好な反応は、22例におけるPR(42%、95%信頼区間(CI)29〜57%)、24例におけるSD(46%、95%CI 32〜61%)及び6例におけるPD(12%、95%CI 4〜23%、4例に新たな転移が見られ、2例に20%を超える腫瘍直径の増加が見られた)であった。このように、疾患制御率(PR/SD)は88.5%(95%CI 76.6〜95.6%)であった。患者1例は評価不能であった。この男性患者は、薬剤に起因する肝毒性のため、第1回目のサイクルを終了すできなかった。
【0084】
6ヵ月及び12ヵ月OS率は、それぞれ87%(95%CI 73〜94%)及び62%(95%CI 43〜77%)であった。6ヵ月及び12ヵ月PFS率は、それぞれ60%(95%CI 45〜73%)及び18%(95%CI 7〜33%)であった(図2A及び表4)。
【0085】
【表5】

試験設計から予測される通り、遺伝子発現と治療反応との間(RRM1,r=0.290,p=0.053;ERCC1,r=−0.101,p=0.508)又は遺伝子発現と生存率との間(RRM1とOS,p=0.38;RRM1とPFS,p=0.38;ERCC1とOS,p=0.10;ERCC1とPFS,p=0.32)に有意な相関関係は認められなかった。又、この選択的治療を受けた患者においてOS(p=0.78)又はPFS(p=0.70)に差は認められないようである(図2B)。
【0086】
(実施例4:RRM1が細胞の増殖、アポトーシス及び治療効果に作用)
RRM1の発現が、悪性腫瘍の表現型決定因子としての増殖、アポトーシス及び治療効果に与える作用を調べるため、試験を実施した(図2B)。
【0087】
約10〜15個の細胞を含む領域に焦点を合わせたビデオカメラを使用して、低速度ビデオ撮影(TLV)を実施した。連続記録を10日間実施した。この手法を使用すると、個々の細胞の子孫細胞への増殖を追跡することができた。H23−R1細胞の多くはアポトーシスに至ったが、H23−Ct細胞は指数関数的に増殖した。アポトーシスは形態学的及び生物化学的検査で確認した。H23−R1の分裂間の時間(inter−division time)の平均は41.9時間(標準偏差19.0時間、95%信頼区間32.3〜51.5時間)であり、H23−Ctでは25.7時間(標準偏差3.9時間、95%信頼区間24.3〜27.1時間)であった。
【0088】
細胞増殖を監視するため、RRM1をトランスフェクトした細胞系(H23−R1)及び対照の細胞系(H23−Ct)を使用して、細胞周期分布を解析した。結果は、G2相の細胞の比率がH23−Ct細胞系(6%)に比べてH23−R1細胞系(27%)のほうが有意に高いことを示した。H23−R1のクローン亜系を倍々希釈により生成し、G2相の細胞の比率と定量RT−PCRで測定したRRM1の相対発現との間に強力な相関関係を認めた。細胞がG2相にあってM相にないことは、分裂中期を手動で計数し、ミトラマイシン染色後のFACS解析によって確認した。細胞系間に表現型の差は認められなかった。これは、RRM1の過剰発現がG2相への進行を主として遅延させることを示唆している。
【0089】
RRM1をトランスフェクトした細胞系(H23−R1)及び対照細胞系(H23−Ct)におけるアポトーシスに至る細胞の比率を測定した。アポトーシス細胞の比率は、H23−Ct細胞系(2%)に比べてH23−R1細胞系(11%)で有意に高いことが明らかになった。アポトーシスに至る経路に関与するタンパク質に関する一連のウェスタン分析において、H23−R1ではH23−Ctに比べてタンパク質PARPp89(2.2倍;PARPp116の開裂産物;PARP=ポリADPリボーゼポリメラーゼ)、AIF(2.7倍;AIF=アポトーシス誘導因子)及びチトクロムC(1.7倍)の実質的な増加が見られた。これは、アポトーシスの増加が主として内在性のミトコンドリア経路を介することを示唆している。親細胞系NCI−H23と対照細胞系H23−Ctの間にこれらのタンパク質の発現レベルの有意差は認められなかった。
【0090】
改変MTT検査(MTS)を使用して、肺がん治療に最もよく使用されている薬剤の治療効果に対するRRM1の発現の影響を評価した。RRM1を3.5倍過剰発現している細胞系を使用し、H23−R1及びRRM1の発現が抑えられている細胞系(0.2倍)であるH23siR1を、siRNAテクノロジーを使用して生成した。発現レベルをリアルタイムRT−PCR及びウェスタンブロットで測定した。RRM2及びβアクチンの発現は影響を受けていなかった。
【0091】
pSUPER−siRRM1構築物をNCI−H23に安定したトランスフェクションして、H23siR1を生成した。この構築物を生成するため、pSUPER−GFP/neoベクターをBgIII及びHindIIIで分解して、アニールしたオリゴヌクレオチド(5’−GATCCCCgacgctagagcggtcttatTTCAAGAGAataagaccgctctagcgtcTTTTTGGAAA−3’(配列番号1)及び5’−AGCTTTTCCAAAAAgacgctagagcggtcttatTCTCTTGAAataagaccgctctagcgtcGGG−3’(配列番号2)をベクターに連結した。RRM1標的配列を大文字で示す。何れの既知の遺伝子とも類似しないターゲティング配列GCTAATAGCGCGGAGTCTT(配列番号3)で、H23siCt細胞系を生成した。
【0092】
MTS検査は、4,000細胞/ウェルを96ウェル平底プレートに播種して実施した。H23−Ct、H23−R1、H23siR1、H23siCt細胞を薬剤に72時間又は96時間連続して曝露した。この検査では、試薬として3−(4,5−ジメチルチアゾール−2−イル)−5−(3−カルボキシメトキシフェニル)−2−(4−スルホフェニル)−2H−テトラゾリウムを使用した。37℃で3時間培養した後、490nmにおける吸光度を測定した。実験は全て3回繰り返した。IC50(細胞の増殖を50%抑制する薬剤濃度)は、[(薬剤を入れた3連ウェルにおける平均吸光度−空の3連ウェルにおける平均吸光度)/(薬剤なしの3連ウェルにおける平均吸光度−空の3連ウェルにおける平均吸光度)]×100で算出した。結果を表5に示す。
【0093】
【表6】

RRM1の発現が増加するにつれて、ゲンシタビンに対する耐性がもたらされた。H23−R1のゲンシタビンIC50は、H23−CtのIC50の8倍であった(表4)。ゲンシタビンに対する親細胞系(NCI−H23)の反応は、H23−Ctの反応に類似していた。反対に、RRM1の発現が減少するにつれて、ゲンシタビンに対する感受性が増大した。
【0094】
RRM1の発現とシスプラチンへの細胞毒性学的反応との間には、僅かながらも類似の相関関係が認められた。しかし、対応する対照値に比べて、H23−R1のIC50は僅かに高く、H23siR1のIC50は僅かに低かった。
【0095】
ドセタキセル及びビノレルビンを使用した場合、RRM1の発現を関数とする複雑な細胞毒性学的反応が認められた。H23−R1及びH23siR1は何れも、対照細胞系に比べてドセタキセル及びビノレルビンに対する感受性が高かった。
【0096】
薬剤への曝露の結果としてのアポトーシス誘導を、投与から2、4及び6時間後の6ウェルプレートの3×10細胞/ウェルで測定した。その後細胞をアネクシンVで標識し、標識をフローサイトメトリー(FACScalibur,Becton Dickinson)で測定した。ゲンシタビンの投与から4時間及び6時間後に、H23siCt細胞の2.55%及び5.05%がアポトーシスに至り、H23siR1細胞の5.09%及び15.7%がアポトーシスに至った(図4)。同様に、ドセタキセルへの曝露後のアポトーシス細胞の比率は、対照細胞系よりもH23siR1で高かった。ドセタキセルも対照細胞系よりもH23−R1においてよりアポトーシスを誘導した。両薬剤によるRRM1の発現の減少した細胞系でのアポトーシスの増加は、対照細胞系に比べて有意であった(p<0.05)。
【0097】
【表7】

以上に本発明の種々の実施形態を記載してきたが、本発明の趣旨及び適用範囲を逸脱することなく種々の変更が加えられる場合があることが理解されるであろう。従って、その他の実施形態も、以下の特許請求の範囲内に含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書中に記載の発明。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−196235(P2012−196235A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−161658(P2012−161658)
【出願日】平成24年7月20日(2012.7.20)
【分割の表示】特願2008−510232(P2008−510232)の分割
【原出願日】平成18年5月4日(2006.5.4)
【出願人】(398014333)ユニヴァーシティ オブ サウス フロリダ (17)
【Fターム(参考)】