説明

がんの治療および診断の標的遺伝子としてのPRMT1

がん、特に、膀胱がん、胃がん、結腸直腸がん、乳がん、食道がん、肺がん、リンパ腫、膵臓がん、および精巣がんを発症する素因を診断するための客観的方法を、本明細書において記載する。一態様において、診断法は、PRMT1遺伝子の発現レベルを決定する工程を含む。本発明は、がん等の、例えば、膀胱がん、胃がん、結腸直腸がん、乳がん、食道がん、肺がん、リンパ腫、膵臓がん、および精巣がん等のPRMT1関連疾患の治療において有用な治療剤をスクリーニングする方法をさらに提供する。本発明は、細胞増殖を阻害して、PRMT1関連疾患の症状を治療または軽減する方法をさらに提供する。本発明はまた、二本鎖分子およびそれをコードするベクターを含む生成物、ならびにそれらを含む組成物も特色とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権
本願は、2008年8月27日付で出願された米国特許仮出願第61/190,416号の恩典を主張するものである。その内容全体は参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
技術分野
本発明は、がん、特に、膀胱がん、胃がん、直腸結腸がん、乳がん、食道がん、肺がん、リンパ腫、膵臓がん、および精巣がんを検出する方法、ならびにそれらを発症する素因を診断する方法に関する。本発明は、PRMT1の過剰発現を伴うがん、特に、膀胱がん、胃がん、直腸結腸がん、乳がん、食道がん、肺がん、リンパ腫、膵臓がん、および精巣がんの治療および予防のための候補化合物をスクリーニングする方法にも関する。さらに、本発明は、PRMT1遺伝子発現を低下させる二本鎖分子およびその使用に関する。特に、本発明は、PRMT1に関する。
【背景技術】
【0003】
真核生物のゲノムは、ヌクレオソームが連なったものであるクロマチンへと収納されており、各ヌクレオソーム内では、146塩基対(bp)のDNAが、H2A、H2B、H3、およびH4などのコアヒストンタンパク質の八量体に巻き付いている(非特許文献1)。クロマチンは、遺伝材料への調節因子の接近を調整する動的な構造である。それゆえに、DNAへの接近を必要とする転写およびその他の細胞プロセスは、クロマチン構造によって調節されており、したがって、これらの細胞プロセスが正常に機能するためには、クロマチン開閉の際の諸イベントの正確な協調および組織化が極めて重要である。ヒストンのメチル化は、遺伝子調節のための重要なプラットフォームとして浮上している。ヒストンH3またはH4の特定のリジンは、モノメチル化、ジメチル化、またはトリメチル化を受けることがあり、この調節モードをさらに一層複雑にしている(非特許文献2)。さらに、これらの修飾は、遺伝子発現の活性化(H3K4、H3K36、およびH3K79)、またはサイレンシング(H3K9、H3K27、およびH4K20)のいずれかのシグナル伝達を行うことができる(非特許文献3〜4)。転写調節に対するこれらの効果は、細胞分化からX染色体不活性化にわたる生物学的影響を有する(非特許文献3、5〜6)。歴史的には、ヒストンのメチル化は永続的な修飾と見なされていた。しかしながら、過去の数年の間に、幾つかのグループが、ヒストン脱メチル化酵素が存在する証拠を提供した(非特許文献7〜10)。したがって、この修飾は、細胞の生理学的機能を動的にかつ様々に調節し得ると想定されている。
【0004】
がん等の疾患におけるヒストンメチル化システムの生物学的重要性が、これらの修飾に関与する酵素の機能分析によって、より明らかになっている。ヒストンメチルトランスフェラーゼ(HMTase)が、これらの修飾を担う酵素であり、リジン残基またはアルギニン残基のいずれかに特異的である。アルギニンメチル化は、HMTaseのPRMT/CARMファミリーによって触媒され、リジンメチル化は、SETドメインを含むHMTaseによって行われる。ヒストンおよびその他の核タンパク質のアルギニンメチル化は、ヒトでは9つのメンバーを含むPRMT(タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ)のファミリーによって行われる(非特許文献11〜12)。PRMTは、S−アデノシルメチオニン(SAM)依存性のメチル化を用いて、1個または2個のメチル基を付加することによりアルギニン側鎖のグアニジノ窒素を修飾する(非特許文献13)。脱メチル化生成物に関して、PRMTは、非対称性NG,NG−ジメチルアルギニンを触媒するI型酵素と、PRMT5、PRMT7、およびPRMT9からなり、対称性NG,NG−ジメチル化をもたらすII型酵素とに分類される(非特許文献12〜13)。その他のヒストン修飾と同様に、ヒストンアルギニンメチル化は、転写調節に寄与しており、ファミリーメンバーのサブセットによって触媒される:PRMT1はH4/H2AをR3でメチル化し(非特許文献14)、PRMT4/CARM1(コアクチベーター関連アルギニンメチルトランスフェラーゼ1)はH3をR17/R26でメチル化し(非特許文献15〜16)、PRMT5はH3をR8で、H4/H2AをR3でメチル化する(非特許文献17)。ヒストンを修飾するPRMTは、転写因子との相互作用によってクロマチンへとリクルートされ、遺伝子の活性化および抑制を調節する(非特許文献12)。
【0005】
ヒストンメチルトランスフェラーゼであるSMYD3は、そのメチルトランスフェラーゼ活性によって、細胞の増殖を刺激し、ヒトの発がんにおいて重要な役割を果たすことが、以前に示された(非特許文献18〜24)。さらにまた、幾つかのヒストンメチルトランスフェラーゼも、ヒト細胞の悪性化に関係し得ることが示された(非特許文献25〜27)。この種の証拠によると、ヒストンメチルトランスフェラーゼの機能障害は、ヒトの発がんに正に寄与する可能性があるが、ヒストンメチル化異常とがんとの間の関係の一般的な理解は、未だ明確にはなっていない。本発明はこれらおよびその他の必要性に応えるものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Luger K, et al., Nature 1997;389:251-260
【非特許文献2】Strahl BD, et al., Proc Natl Acad Sci U S A 1999;96:14967-14972
【非特許文献3】Martin C and Zhang Y, Nat Rev Mol Cell Biol 2005;6:838-849
【非特許文献4】Sims RJ, 3rd, et al., Trends Genet 2003;19:629-639
【非特許文献5】Kouzarides T, Curr Opin Genet Dev 2002;12:198-209
【非特許文献6】Margueron R, et al., Curr Opin Genet Dev 2005;15:163-176
【非特許文献7】Tsukada Y, et al., Nature 2006;439:811-816
【非特許文献8】Shi Y, Lan F, et al., Cell 2004;119:941-953
【非特許文献9】Klose RJ, et al., Nature 2006;442:312-316
【非特許文献10】Cloos PA, et al., Nature 2006;442:307-311
【非特許文献11】Boisvert FM, et al., Sci STKE 2005;2005:re2
【非特許文献12】Cook JR, et al., Biochem Biophys Res Commun 2006;342:472-481
【非特許文献13】Bedford MT and Richard S, Mol Cell 2005;18:263-272
【非特許文献14】Wang H, et al., Science 2001;293:853-857
【非特許文献15】Schurter BT, et al., Biochemistry 2001;40:5747-5756
【非特許文献16】Bauer UM, et al., EMBO Rep 2002;3:39-44
【非特許文献17】Pal S, et al., Mol Cell Biol 2004;24:9630-9645
【非特許文献18】Tsuge M, et al., Nat Genet 2005;37:1104-1107
【非特許文献19】Liu C, et al., Cancer Res 2007;67:2626-2631
【非特許文献20】Hamamoto R, et al., Cancer Sci 2006;97:113-118
【非特許文献21】Hamamoto R, et al., Nat Cell Biol 2004;6:731-740
【非特許文献22】Chen LB, et al., World J Gastroenterol 2007;13:5718-5724
【非特許文献23】Kunizaki M, et al., Cancer Res 2007;67:10759-10765
【非特許文献24】Silva FP, et al., Oncogene 2008;27:2686-2692
【非特許文献25】Sparmann A and van Lohuizen M, Nat Rev Cancer 2006;6:846-856
【非特許文献26】Takeshita F, et al., Proc Natl Acad Sci U S A 2005;102:12177-12182
【非特許文献27】Schneider R, et al., Trends Biochem Sci 2002;27:396-402
【発明の概要】
【0007】
本発明において、ヒトの発がんに寄与することができるメチルトランスフェラーゼを同定することを目的として、臨床組織におけるPRMTファミリーメンバーの発現プロファイルが確認された。
【0008】
本発明において、PRMT1が数種類のがん細胞において過剰発現されていることが、RT−PCRによって同定された。PRMT1は、成人正常器官にはほとんど発現していなかったことから、有害作用が最小限である新規治療アプローチのための適切で有望な分子標的である。機能的には、がん細胞株におけるsiRNAによる内在性PRMT1のノックダウンが、がん細胞増殖の劇的な抑制をもたらし、このことは、がん細胞の生存能の維持における必須の役割を実証している。
【0009】
したがって、本発明は、生検材料などの対象由来の生物学的試料におけるPRMT1の発現レベルを決定することにより、対象におけるがん、特に、膀胱がん、胃がん、結腸直腸がん、乳がん、食道がん、肺がん、リンパ腫、膵臓がん、および精巣がんを診断またはその素因を決定する方法を特色とする。正常対照レベルと比較したPRMT1の発現のレベルの増加は、対象が、がん、特に、膀胱がん、胃がん、結腸直腸がん、乳がん、食道がん、肺がん、リンパ腫、膵臓がん、および精巣がんに罹患しているか、またはそれらを発症するリスクを有することを示す。該方法においては、PRMT1遺伝子を適切なプローブによって検出してもよく、またはPRMT1タンパク質を抗PRMT1抗体によって検出してもよい。
【0010】
本発明は、PRMT1遺伝子の発現またはその遺伝子産物の活性を阻害する剤を同定する方法をさらに提供する。さらに、本発明は、がん等の、例えば、膀胱がん、胃がん、結腸直腸がん、乳がん、食道がん、肺がん、リンパ腫、膵臓がん、および精巣がん等のPRMT1関連疾患を治療もしくは予防するための候補剤、またはPRMT1遺伝子を過剰発現している細胞の増殖を阻害する候補剤を同定する方法を提供する。該方法はインビトロまたはインビボで実施され得る。試験剤の非存在下の場合と比較した、PRMT1遺伝子の発現レベルおよび/またはその遺伝子産物の生物学的活性における減少は、その試験剤が、PRMT1の阻害剤であること、ならびに例えば、膀胱がん、胃がん、結腸直腸がん、乳がん、食道がん、肺がん、リンパ腫、膵臓がん、および精巣がんにおけるがん性細胞等の、PRMT1遺伝子を過剰発現している細胞の増殖を阻害するために使用され得ることを示す。
【0011】
別の局面において、本発明は、PRMT1の発現および/またはPRMT1タンパク質の機能を阻害する剤を投与することにより、PRMT1を過剰発現しているがん性細胞の増殖を阻害する方法を提供する。好ましくは、剤は阻害性の核酸(例えば、アンチセンス、リボザイム、二本鎖分子)である。剤は、二本鎖分子を提供するための核酸分子またはベクターであり得る。PRMT1遺伝子の発現を阻害するのに十分な量の二本鎖分子を、標的細胞へ導入することによって、遺伝子の発現を阻害することができる。本発明は、対象におけるPRMT1を過剰発現しているがん性細胞の増殖を阻害する方法も提供する。該方法は、がん、特に、膀胱がん、胃がん、結腸直腸がん、乳がん、食道がん、肺がん、リンパ腫、膵臓がん、および精巣がんを治療または予防するために有用である。別の局面において、本発明は、活性成分としての二本鎖分子またはそれをコードするベクターと、薬学的に許容可能な担体とを含む、がんを治療または予防するための薬学的組成物に関する。本発明において提供される二本鎖分子は、細胞に導入された場合に、PRMT1遺伝子の発現を阻害し、かつPRMT1を過剰発現しているがん性細胞の増殖を阻害する特性を有する。例えば、そのような分子は、SEQ ID NO:1の803〜821位に対応する配列を標的とする。本発明の分子は、センス鎖とアンチセンス鎖とを含み、センス鎖は標的配列を含む配列を含み、アンチセンス鎖はセンス鎖に相補的な配列を含む。分子のセンス鎖およびアンチセンス鎖は、互いにハイブリダイズして二本鎖分子を形成する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】定量的RT−PCRを使用した膀胱組織におけるPRMT1遺伝子発現の定量分析およびPRMT1タンパク質の細胞内局在を示す。A:PRMT1の発現プロファイル。膀胱がんのコホートおよび正常膀胱試料における遺伝子発現を研究するために、定量的RT−PCRを使用した。比較定量化の変法であるPfafflの方法を使用して、相対的な遺伝子発現を評価した。B:正常組織および腫瘍組織におけるPRMT1遺伝子発現を箱髭図によって示す。P値はマンホイットニーU検定を使用して算出した。C:T−REx293−PRMT1細胞において外因的に発現させたV5タグ付きPRMT1タンパク質のウェスタンブロット分析。T−REx−293(モック)およびT−REx−CATを陰性対照として使用した。D:V5タグ付きPRMT1タンパク質を、Flp−In T−REx細胞内に外因的に発現させ、抗V5モノクローナル抗体により染色した。該タンパク質を、Alexa546結合型二次抗マウスIgG抗体によって可視化した(左パネル)。核を、DAPIにより対比染色した(中央パネル)。Alexa546およびDAPIのマージ像(右パネル)。
【図2】cDNAマイクロアレイ分析に基づく29種の正常組織におけるPRMT1の相対的な遺伝子発現を示す。個々の組織に由来するポリ(A)+RNAの12.5μg分量、および29種の組織全てに由来する汎用対照としての等量のポリ(A)+RNAの混合物を、Cy5−dCTP色素およびCy3−dCTP色素によりそれぞれ標識した。HEA:心臓、LUN:肺、LIV:肝臓、KID:腎臓、ADI:腸間膜脂肪、BM:骨髄、BRA:脳、COL:結腸、FBRA:胎児脳、FKID:胎児腎臓、FLIV:胎児肝臓、FLUN:胎児肺、LN:リンパ節、MG:乳腺、OVA:卵巣、PAN:膵臓、PLA:胎盤、PRO:前立腺、SC:脊髄、SG:脊髄神経節、SI:小腸、SKM:骨格筋、SPL:脾臓、STO:胃、TES:精巣、THYM:胸腺、THYR:甲状腺、TRA:気管、UTE:子宮。
【図3】膀胱がん細胞および肺がん細胞の増殖に対するPRMT1の関与を示す。A:SW780膀胱がん細胞におけるPRMT1発現に対するPRMT1−siRNA(siPRMT1#2)および対照siRNA(siEGFP)の効果。siRNAオリゴヌクレオチド二重鎖をトランスフェクトした細胞から抽出されたRNAを使用して、定量的RT−PCRを実施した。B:肺がん細胞(A549、RERF−LC−AI、LC319、SBC5)および膀胱がん細胞(SW780、SCaBER)の増殖に対するsiRNAの効果をcell counting kit 8により分析した。
【発明を実施するための形態】
【0013】
態様の説明
定義
「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」という単語は、本明細書で使用される場合、特に指定のない限り、「少なくとも1つの」を意味する。
【0014】
cDNA分子などの「単離された」または「精製された」核酸分子は、組換え技術によって作製された場合には、他の細胞物質もしくは培養培地を実質的に含まないものであり得、または、化学合成された場合には、前駆化学物質もしくはその他の化学物質を実質的に含まないものであり得る。好ましい態様において、本発明の抗体をコードする核酸分子は、単離または精製されている。
【0015】
「ポリペプチド」、「ペプチド」、および「タンパク質」という用語は、アミノ酸残基のポリマーをさすために、互換可能に本明細書中で使用される。これらの用語は、天然に存在するアミノ酸ポリマーのみならず、1つまたは複数のアミノ酸残基が修飾された残基であるか、または対応する天然に存在するアミノ酸の人工化学的模倣体などの天然には存在しない残基である、アミノ酸ポリマーにも当てはまる。
【0016】
「アミノ酸」という用語は、天然に存在するアミノ酸および合成アミノ酸をさし、かつ、天然に存在するアミノ酸と同様に機能するアミノ酸類似体およびアミノ酸模倣体をさす。天然に存在するアミノ酸とは、遺伝暗号によってコードされたもの、ならびに細胞内で翻訳後に修飾されたもの(例えば、ヒドロキシプロリン、γ−カルボキシグルタミン酸、およびO−ホスホセリン)である。「アミノ酸類似体」という語句は、天然に存在するアミノ酸と同一の基本化学構造(水素に結合したα炭素、カルボキシ基、アミノ基、およびR基)を有するが、修飾されたR基または修飾された骨格を有する化合物(例えば、ホモセリン、ノルロイシン、メチオニン、スルホキシド、メチオニンメチルスルホニウム)をさす。「アミノ酸模倣体」という語句は、一般的なアミノ酸と異なる構造を有するが、類似した機能を有する化学物質をさす。
【0017】
アミノ酸は、本明細書中、IUPAC−IUB Biochemical Nomenclature Commissionによって推奨された、それらの一般的に公知の3文字記号または1文字記号により言及される場合もある。
【0018】
「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」、「ヌクレオチド」、「核酸」、および「核酸分子」という用語は、特に指定のない限り、互換可能に使用され、アミノ酸と同様に、それらの一般的に認められている1文字表記により言及される。アミノ酸と同様に、それらには、天然に存在する核酸ポリマーおよび天然には存在しない核酸ポリマーの両方が包含される。ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、ヌクレオチド、核酸、または核酸分子は、DNA、RNA、またはそれらの組み合わせから構成され得る。
【0019】
PRMT1遺伝子またはPRMT1タンパク質
本発明は、PRMT1をコードする遺伝子が、非がん性組織と比較して、数種類のがんにおいて過剰発現されているという発見に一部基づく。PRMT1のcDNAは1131ヌクレオチド長である。PRMT1の核酸配列およびポリペプチド配列は、SEQ ID NO:1および2にそれぞれ示されているものに限定されるとはみなされない。配列データはまた、以下のアクセッション番号を介して入手可能である。
PRMT1:BC109283、NM_001536、NM_198319またはNM_198318(これらの開示全体が参照により本明細書に組み入れられる)
【0020】
本発明の一局面によると、機能的等価物も「PRMT1ポリペプチド」であると見なされる。本明細書において、タンパク質(例えば、PRMT1ポリペプチド)の「機能的等価物」とは、そのタンパク質と等価な生物学的活性を有するポリペプチドである。すなわち、PRMT1タンパク質の生物学的能力を保持している任意のポリペプチドが、本発明において、そのような機能的等価物として使用され得る。そのような機能的等価物には、PRMT1タンパク質の天然に存在するアミノ酸配列と比べて、1つまたは複数のアミノ酸が置換されているか、欠失しているか、付加されているか、または挿入されているものが含まれる。あるいは、該ポリペプチドは、それぞれのタンパク質の配列に対して少なくとも約80%の相同性(配列同一性とも呼ばれる)、より好ましくは少なくとも約90%〜95%の相同性、多くの場合は約96%、97%、98%または99%の相同性を有するアミノ酸配列から構成されていてもよい。他の態様において、該ポリペプチドは、PRMT1遺伝子の天然に存在するヌクレオチド配列にストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによってコードされていてもよい。
【0021】
本発明のポリペプチドは、それを作製するために使用された細胞もしくは宿主、または利用された精製法に依って、アミノ酸配列、分子量、等電点、糖鎖の有無、または形態における変動を有していてもよい。にもかかわらず、本発明のヒトPRMT1タンパク質のものと等価な機能を有する限り、それは本発明の範囲内である。
【0022】
「ストリンジェントな(ハイブリダイゼーション)条件」という語句は、核酸分子が、典型的には核酸の複合混合物中において、その標的配列とハイブリダイズするが、他の配列とは検出可能にハイブリダイズしない条件をさす。ストリンジェントな条件は、配列依存性であり、異なる状況下では異なる。より長い配列は、より高い温度で特異的にハイブリダイズする。核酸のハイブリダイゼーションに関する広範なガイドは、Tijssen, Techniques in Biochemistry and Molecular Biology - Hybridization with Nucleic Probes, "Overview of principles of hybridization and the strategy of nucleic acid assays" (1993)に見出される。一般的に、ストリンジェントな条件は、規定のイオン強度およびpHにおける特定の配列の熱融解点(Tm)よりも約5〜10℃低く選択される。Tmとは、平衡状態で、標的に相補的なプローブの50%が、標的配列とハイブリダイズする(規定のイオン強度、pH、核濃度での)温度である(標的配列が過剰に存在するので、Tmでは、平衡時に、プローブの50%が占有される)。ホルムアミドなどの脱安定化剤の添加によっても、ストリンジェントな条件を達成することができる。選択的または特異的なハイブリダイゼーションのためには、陽性シグナルは、バックグラウンドの少なくとも2倍、好ましくは、バックグラウンドハイブリダイゼーションの10倍である。例示的なストリンジェントなハイブリダイゼーション条件には、以下のものが含まれる:50%ホルムアミド、5×SSC、および1%SDS、42℃でのインキュベーション、または5×SSC、0.1%SDS、65℃でのインキュベーションと、50℃での0.2×SSCおよび1%SDSによる洗浄。
【0023】
本発明との関連において、ヒトPRMT1タンパク質と機能的に等価なポリペプチドをコードするDNAを単離するためのハイブリダイゼーションの条件を、当業者は規定どおりに選択することができる。例えば、「Rapid−hyb buffer」(Amersham LIFE SCIENCE)を使用して、68℃で30分以上プレハイブリダイゼーションを実施し、標識されたプローブを添加し、68℃で1時間以上加熱することにより、ハイブリダイゼーションを実施することができる。例えば、低ストリンジェントな条件においては、以下の洗浄工程を実施することができる。例示的な低ストリンジェントな条件には、42℃、2×SSC、0.1%SDS、好ましくは、50℃、2×SSC、0.1%SDSが含まれ得る。多くの場合、高ストリンジェンシー条件が好んで使用される。例示的な高ストリンジェンシー条件には、2×SSC、0.01%SDSで20分間、室温での3回の洗浄、次いで1×SSC、0.1%SDSで20分間、37℃での3回の洗浄、および1×SSC、0.1%SDSで20分間、50℃での2回の洗浄が含まれ得る。しかしながら、温度および塩濃度などの幾つかの因子が、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに影響を及ぼす場合があり、当業者は、必要なストリンジェンシーを達成するために適切に因子を選択することができる。
【0024】
一般的に、タンパク質内の1つまたは複数のアミノ酸の改変は、タンパク質の機能に影響を与えないことが知られている。実際に、変異したタンパク質または改変されたタンパク質、あるアミノ酸配列の1つまたは複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入、および/または付加することにより改変されているアミノ酸配列を有するタンパク質は、元の生物学的活性を保持することが公知である(Mark et al., Proc Natl Acad Sci USA 81:5662-6 (1984);Zoller and Smith, Nucleic Acids Res 10:6487-500 (1982);Dalbadie-McFarland et al., Proc Natl Acad Sci USA 79:6409-13 (1982))。したがって、タンパク質の変化が類似の機能を有するタンパク質をもたらす場合、単一のアミノ酸、もしくは少ない比率のアミノ酸を変えるアミノ酸配列に対する個々の付加、欠失、挿入、もしくは置換、または「保存的改変」であるとみなされるものが、本発明との関連において許容可能であることを、当業者は認識するであろう。
【0025】
タンパク質の活性が維持される限り、アミノ酸変異の数は特に限定されない。しかしながら、アミノ酸配列の5%以下を変えることが一般的に好ましい。したがって、好ましい一態様において、そのような変異体において変異させるべきアミノ酸の数は、一般的には、30アミノ酸以下、好ましくは20アミノ酸以下、より好ましくは10アミノ酸以下、より好ましくは6アミノ酸以下、さらに好ましくは3アミノ酸以下である。
【0026】
変異されるアミノ酸残基は、好ましくは、アミノ酸側鎖の特性が保存される異なるアミノ酸に変異される(保存的アミノ酸置換として公知のプロセス)。アミノ酸側鎖の特性の例は、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、および以下の官能基または特徴を共通に有する側鎖である:脂肪族側鎖(G、A、V、L、I、P);ヒドロキシル基を含有している側鎖(S、T、Y);硫黄原子を含有している側鎖(C、M);カルボン酸およびアミドを含有している側鎖(D、N、E、Q);塩基を含有している側鎖(R、K、H);ならびに芳香族を含有している側鎖(H、F、Y、W)。機能的に類似したアミノ酸を提供する保存的置換表は、当技術分野で周知である。例えば、以下の8つの群は、各々、互いに保存的置換であるアミノ酸を含有している:
1)アラニン(A)、グリシン(G);
2)アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E);
3)アスパラギン(N)、グルタミン(Q);
4)アルギニン(R)、リジン(K);
5)イソロイシン(I)、ロイシン(L)、メチオニン(M)、バリン(V);
6)フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、トリプトファン(W);
7)セリン(S)、スレオニン(T);および
8)システイン(C)、メチオニン(M)(例えば、Creighton, Proteins 1984を参照されたい)。
【0027】
そのような保存的に改変されたポリペプチドは、本PRMT1タンパク質に含まれる。しかしながら、本発明は、これらに限定されず、PRMT1タンパク質は、PRMT1タンパク質の生物学的活性が少なくとも1つ保持される限り、非保存的改変を含む。さらに、改変されたタンパク質は、多型バリアント、種間相同体、およびこれらのタンパク質の対立遺伝子によってコードされるものを除外しない。
【0028】
さらに、本発明のPRMT1遺伝子には、PRMT1タンパク質のそのような機能的等価物をコードするポリヌクレオチドが包含される。PRMT1タンパク質と機能的に等価なポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを単離するためには、ハイブリダイゼーションに加えて、タンパク質をコードするDNAの配列情報(SEQ ID NO:1)に基づき合成されたプライマーを使用した、遺伝子増幅法、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法を利用することができる。ヒトPRMT1遺伝子およびヒトPRMT1タンパク質と機能的に等価なポリヌクレオチドおよびポリペプチドは、それぞれ、通常、元のヌクレオチド配列またはそのアミノ酸配列に対して高い相同性を有する。「高い相同性」とは、典型的には40%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%〜95%以上の相同性をさす。特定のポリヌクレオチドまたはポリペプチドの相同性は、「Wilbur and Lipman, Proc Natl Acad Sci USA 80: 726-30 (1983)」のアルゴリズムに従い、決定され得る。
【0029】
がんを診断するための方法
PRMT1の発現は、膀胱がん、胃がん、結腸直腸がん、乳がん、食道がん、肺がん、リンパ腫、膵臓がん、および精巣がんにおいて特異的に上昇することが見出された(図1および表3)。したがって、本明細書中で同定されるPRMT1遺伝子、ならびにその転写産物および翻訳産物は、膀胱がん、胃がん、結腸直腸がん、乳がん、食道がん、肺がん、リンパ腫、膵臓がん、および精巣がん等のがんのマーカーとして、および試料中のPRMT1の発現を測定することにより、診断における有用性が見出される。対象由来の試料と正常試料との間でPRMT1の発現レベルを比較することにより、それらのがんを診断または検出することが可能である。特に、本発明は、対象におけるPRMT1の発現レベルを決定することにより、がんを診断または検出するための方法を提供する。本発明において、がんとは、膀胱がん、胃がん、結腸直腸がん、乳がん、食道がん、肺がん、リンパ腫、膵臓がん、および精巣がんを示し、本方法によって診断可能な肺がんには、NSCLCおよびSCLCが含まれる。さらに、肺腺がんおよび肺扁平上皮細胞がん(SCC)を含むNSCLCも、本発明によって診断または検出することができる。
【0030】
あるいは、本発明は、対象由来の生物学的試料におけるPRMT1遺伝子の発現レベルを決定する工程を含む、対象由来の膵臓組織試料におけるがん細胞を検出または同定するための方法を提供し、前記遺伝子の正常対照レベルと比較した前記発現レベルの上昇は、組織にがん細胞が存在する、または組織にがん細胞が存在する疑いがあることを示す。
【0031】
本発明によれば、対象の状態を検査するための中間的な結果を提供することができる。そのような中間的な結果は、医師、看護師、またはその他の実務者が、対象が疾患に罹患していることを診断するのを補助するために、付加的な情報と組み合わせてもよい。あるいは、本発明を、対象由来の組織におけるがん性細胞を検出するために使用することができ、かつ本発明は、対象が疾患に罹患していると診断するために有用な情報を、医師に提供することができる。
【0032】
例えば、本発明によれば、対象から入手された組織におけるがん細胞の存在に関して疑いがある場合、組織病理学、公知の血中腫瘍マーカーのレベル、および対象の臨床経過等を含む、疾患の異なる局面に加えて、PRMT1遺伝子の発現レベルを考慮することにより、臨床的な決定に到達することができる。例えば、幾つかの周知の血中診断用膵臓がんマーカーは、ACT、AFP、BCA225、BFP、CA15−3、CA19−9、CA50、CA72−4、CA125、CA130、CA602、CEA、DUPAN−2、IAP、KMO−1、αマクログロブリン、NCC−ST−439、NSE、PIVKA−II、SCC、sICAM−1、SLX、SP1、SOD、Span−1、STN、TK活性、TPA、YH−206、エラスターゼI、サイトケラチン−19フラグメント、およびCYFRA21−1を含む。すなわち、本発明のこの特定の態様において、遺伝子発現分析の結果は、対象の疾患状態のさらなる診断のための中間的な結果として役立つ。
【0033】
具体的には、本発明は、以下の[1]〜[10]の方法を提供する:
[1]対象由来の生物学的試料におけるPRMT1の発現レベルを決定する工程を含む、対象におけるがんを検出または診断する方法であって、該遺伝子の正常対照レベルと比較した該レベルの増加が、該対象ががんに罹患しているか、またはがんを発症するリスクを有することを示す、方法;
[2]発現レベルが正常対照レベルよりも少なくとも10%大きい、[1]に記載の方法;
[3]発現レベルが、
(a)PRMT1の配列を含むmRNAを検出する方法、
(b)PRMT1のアミノ酸配列を含むタンパク質を検出する方法、および
(c)PRMT1のアミノ酸配列を含むタンパク質の生物学的活性を検出する方法
の中から選択される方法によって検出される、[1]に記載の方法;
[4]がんが膀胱がん、胃がん、直腸結腸がん、乳がん、食道がん、肺がん、リンパ腫、膵臓がん、および精巣がんである、[1]に記載の方法;
[5]発現レベルが、前記遺伝子の遺伝子転写物に対するプローブのハイブリダイゼーションを検出することにより決定される、[3]に記載の方法;
[6]発現レベルが、遺伝子によってコードされるタンパク質に対する抗体の結合を、該遺伝子の発現レベルとして検出することにより決定される、[3]に記載の方法;
[7]生物学的試料が生検材料、痰、または血液を含む、[1]に記載の方法;
[8]対象由来の生物学的試料が上皮細胞を含む、[1]に記載の方法;
[9]対象由来の生物学的試料ががん細胞を含む、[1]に記載の方法;ならびに
[10]対象由来の生物学的試料ががん性上皮細胞を含む、[1]に記載の方法。
【0034】
がんを診断する方法を、以下に、より詳細に説明する。
【0035】
本方法によって診断される対象は、好ましくは、哺乳動物である。例示的な哺乳動物には、例えば、ヒト、非ヒト霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマ、およびウシが含まれるが、これらに限定されない。
【0036】
診断を実施するためには、診断すべき対象から生物学的試料を採取することが好ましい。PRMT1の目的の転写産物または翻訳産物を含む限り、任意の生物学的材料を、決定のための生物学的試料として使用することができる。生物学的試料には、がんを診断することが望まれるかまたはがんに罹患していることが疑われる体組織、ならびに生検材料、血液、痰、および尿などの体液が含まれるが、これらに限定されない。好ましくは、生物学的試料は、上皮細胞、より好ましくは、がん性上皮細胞、またはがん性であることが疑われる組織に由来する上皮細胞を含む細胞集団を含有している。さらに、必要であれば、得られた体組織および体液から細胞を精製し、次いで、それを生物学的試料として使用してもよい。
【0037】
本発明によると、対象由来の生物学的試料におけるPRMT1の発現レベルが決定される。当技術分野で公知の方法を使用して、転写(核酸)産物レベルで、発現レベルを決定することができる。例えば、PRMT1のmRNAを、ハイブリダイゼーション法(例えば、ノーザンハイブリダイゼーション)によってプローブを使用して定量することができる。検出は、チップ上またはアレイ上で実施されてもよい。アレイの使用は、PRMT1を含む複数の遺伝子(例えば、様々ながんに特異的な遺伝子)の発現レベルを検出するために好ましい。当業者は、PRMT1の配列情報を利用して、そのようなプローブを調製することができる。例えば、PRMT1のcDNAをプローブとして使用することができる。必要であれば、色素、蛍光、および同位体などの好適な標識によりプローブを標識し、ハイブリダイズした標識の強度として、遺伝子の発現レベルを検出してもよい。
【0038】
さらに、増幅に基づく検出法(例えば、RT−PCR)により、プライマーを使用して、PRMT1の転写産物を定量することもできる。そのようなプライマーも、利用可能な遺伝子の配列情報に基づき調製され得る。例えば、実施例で使用されるプライマー(SEQ ID NO:7および8、または9および10)が、RT−PCRまたはノーザンブロットによる検出のために利用され得るが、本発明はそれらに限定されない。
【0039】
特に、本発明の方法のために使用されるプローブまたはプライマーは、ストリンジェントな条件、中程度にストリンジェントな条件、または低ストリンジェントな条件の下で、PRMT1のmRNAとハイブリダイズする。本明細書で使用される場合、「ストリンジェントな(ハイブリダイゼーション)条件」という語句は、プローブまたはプライマーが、その標的配列とハイブリダイズするが、他の配列とはハイブリダイズしない条件をさす。ストリンジェントな条件は、配列依存性であり、異なる状況下では異なる。より長い配列の特異的なハイブリダイゼーションは、より短い配列よりも高い温度で観察される。一般的に、ストリンジェントな条件の温度は、規定のイオン強度およびpHでの特定の配列の熱融解点(Tm)よりも約5℃低く選択される。Tmとは、平衡時に、標的配列に相補的なプローブの50%が標的配列とハイブリダイズする(規定のイオン強度、pH、および核酸濃度における)温度である。概して標的配列が過剰に存在するので、Tmでは、平衡時に、プローブの50%が占有される。典型的には、ストリンジェントな条件は、塩濃度が、pH7.0〜8.3で、約1.0M未満のナトリウムイオン、典型的には、約0.01〜1.0Mのナトリウムイオン(またはその他の塩)であり、温度が、短いプローブまたはプライマー(例えば、10〜50ヌクレオチド)の場合には少なくとも約30℃であり、より長いプローブまたはプライマーの場合には少なくとも約60℃である条件である。ホルムアミドなどの脱安定化剤の添加によっても、ストリンジェントな条件を達成することができる。
【0040】
あるいは、本発明の診断のために、翻訳産物を検出することもできる。例えば、PRMT1タンパク質の量を決定することができる。翻訳産物として該タンパク質の量を決定する方法には、該タンパク質を特異的に認識する抗体を使用するイムノアッセイ法が含まれる。抗体はモノクローナルであってもよく、またはポリクローナルであってもよい。さらに、断片がPRMT1タンパク質との結合能を保持している限り、抗体の任意の断片または改変(例えば、キメラ抗体、scFv、Fab、F(ab’)2、Fv等)を、検出のために使用することができる。タンパク質の検出のためのこれらの種類の抗体を調製する方法は、当技術分野で周知であり、本発明においては、そのような抗体およびそれらの等価物を調製するために、任意の方法を利用することができる。
【0041】
翻訳産物に基づきPRMT1遺伝子の発現レベルを検出する別の方法として、PRMT1タンパク質に対する抗体を使用した免疫組織化学分析を介して染色の強度を観察することができる。すなわち、強い染色の観察は、増加したタンパク質の存在を示し、同時に、PRMT1遺伝子の高い発現レベルを示す。
【0042】
さらに、診断の正確性を改善するために、PRMT1遺伝子の発現レベルに加えて、他のがん関連遺伝子、例えば、がんにおいて異なって発現されることが公知の遺伝子の発現レベルも決定することができる。
【0043】
生物学的試料におけるPRMT1遺伝子を含むがんマーカー遺伝子の発現レベルは、対応するがんマーカー遺伝子の対照レベルから、例えば、10%、25%、もしくは50%増加している場合;または1.1倍超、1.5倍超、2.0倍超、5.0倍超、10.0倍超、もしくはそれ以上に増加している場合、増加していると見なされ得る。
【0044】
疾患状態(がん性であるか非がん性であるか)が既知である対象から以前に採取され保存されていた試料を使用することによって、試験生物学的試料と同時に対照レベルを決定することができる。あるいは、疾患状態が既知である対象由来の試料において以前に決定されたPRMT1遺伝子の発現レベルを分析することによって得られた結果に基づき、統計的方法によって対照レベルを決定してもよい。さらに、対照レベルは、以前に試験された細胞からの発現パターンのデータベースであってもよい。さらに、本発明の一局面によると、複数の参照試料から決定された複数の対照レベルと、生物学的試料におけるPRMT1遺伝子の発現レベルを比較してもよい。患者由来の生物学的試料のものと類似した組織型に由来する参照試料から決定された対照レベルを使用することが好ましい。さらに、疾患状態が既知である集団におけるPRMT1遺伝子の発現レベルの標準値を使用することが好ましい。標準値は、当技術分野で公知の任意の方法によって入手され得る。例えば、平均値±2S.D.または平均値±3S.D.の範囲を、標準値として使用することができる。
【0045】
本発明との関連において、がん性ではないことが既知の生物学的試料から決定された対照レベルは、「正常対照レベル」と呼ばれる。他方、対照レベルががん性生物学的試料から決定される場合、それは「がん性対照レベル」と呼ばれる。
【0046】
PRMT1遺伝子の発現レベルが正常対照レベルと比較して増加しているか、またはがん性対照レベルと類似している場合、対象は、がんに罹患しているかまたはがんを発症するリスクを有すると診断され得る。さらに、複数のがん関連遺伝子の発現レベルが比較される場合、試料とがん性である参照との間の遺伝子発現パターンの類似性は、対象が、がんに罹患しているかまたはがんを発症するリスクを有することを示す。
【0047】
試験生物学的試料の発現レベルと対照レベルとの間の差は、細胞のがん性状態または非がん性状態によって発現レベルが異ならないことが既知の対照核酸、例えば、ハウスキーピング遺伝子の発現レベルに対して標準化され得る。例示的な対照遺伝子には、βアクチン、グリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼ、およびリボソームタンパク質P1が含まれるが、これらに限定されない。
【0048】
がんを診断するためのキット
本発明は、がんを診断するためのキットを提供する。好ましくは、がんは膀胱がん、胃がん、直腸結腸がん、乳がん、食道がん、肺がん、リンパ腫、膵臓がん、または精巣がんである。具体的には、キットは、以下の群から選択され得る、対象由来の生物学的試料におけるPRMT1遺伝子の発現を検出するための試薬を少なくとも1つ含む:
(a)PRMT1遺伝子のmRNAを検出するための試薬;
(b)PRMT1タンパク質を検出するための試薬;および
(c)PRMT1タンパク質の生物学的活性を検出するための試薬。
【0049】
PRMT1遺伝子のmRNAを検出するための好適な試薬には、PRMT1のmRNAの一部に相補的な配列を有するオリゴヌクレオチドなどの、PRMT1のmRNAに特異的に結合するかまたはPRMT1のmRNAを特異的に同定する核酸が含まれる。これらの種類のオリゴヌクレオチドの例は、PRMT1のmRNAに特異的なプライマーおよびプローブである。当技術分野で周知の方法に基づき、これらの種類のオリゴヌクレオチドを調製することができる。必要であれば、PRMT1のmRNAを検出するための試薬を、固体マトリックス上に固定化してもよい。さらに、PRMT1のmRNAを検出するための複数の試薬が、キットに含まれていてもよい。
【0050】
他方、PRMT1タンパク質を検出するための好適な試薬には、PRMT1タンパク質に対する抗体が含まれる。抗体はモノクローナルであってもよく、またはポリクローナルであってもよい。さらに、断片がPRMT1タンパク質との結合能を保持している限り、抗体の任意の断片または改変(例えば、キメラ抗体、scFv、Fab、F(ab’)2、Fv等)を、試薬として使用することができる。タンパク質の検出のためのこれらの種類の抗体を調製する方法は、当技術分野で周知であり、本発明においては、そのような抗体およびそれらの等価物を調製するために、任意の方法を利用することができる。さらに、直接結合または間接標識技術を介して、シグナル生成分子によって抗体を標識してもよい。標識、および抗体を標識して抗体とその標的との結合を検出する方法は、当技術分野で周知であり、任意の標識および方法を本発明のために利用することができる。さらに、PRMT1タンパク質を検出するための複数の試薬が、キットに含まれていてもよい。
【0051】
さらに、生物学的試料において、例えば、発現されたPRMT1タンパク質による細胞増殖活性を測定することによって、生物学的活性を決定してもよい。例えば、細胞を、対象由来の生物学的試料の存在下で培養し、次いで、増殖のスピードを検出するか、または細胞周期もしくはコロニー形成能を測定することによって、生物学的試料の細胞増殖活性を決定することができる。必要であれば、PRMT1のmRNAを検出するための試薬を、固体マトリックス上に固定化してもよい。さらに、PRMT1タンパク質の生物学的活性を検出するための複数の試薬が、キットに含まれていてもよい。
【0052】
キットは、前記試薬を複数含有していてもよい。さらに、キットは、PRMT1遺伝子に対するプローブまたはPRMT1タンパク質に対する抗体を結合させるための固体マトリックスおよび試薬、細胞を培養するための培地および容器、陽性および陰性の対照試薬、ならびにPRMT1タンパク質に対する抗体を検出するための二次抗体を含んでいてもよい。例えば、がんに罹患しているかまたは罹患していない対象から入手された組織試料が、有用な対照試薬として役立ち得る。本発明のキットは、緩衝液、希釈剤、フィルター、針、注射器、および使用のための説明を含む添付文書(例えば、文書、テープ、CD−ROM等)を含む、商業的見地および使用者の見地から望ましいその他の材料をさらに含んでいてもよい。これらの試薬等は、ラベルを有する容器に含まれ得る。好適な容器には、ボトル、バイアル、および試験管が含まれる。容器は、ガラス、またはプラスチックなどの多様な材料から形成されていてよい。
【0053】
本発明の一態様として、試薬がPRMT1のmRNAに対するプローブである場合、少なくとも1つの検出部位が形成されるよう、該試薬を多孔質ストリップなどの固体マトリックスの上に固定化することができる。多孔質ストリップの測定領域または検出領域は、各々が1つの核酸(プローブ)を含有している複数の部位を含んでいてもよい。テストストリップは、陰性対照および/または陽性対照のための部位も含んでいてもよい。あるいは、対照部位は、テストストリップから分離されたストリップの上に位置していてもよい。任意で、異なる検出部位は、固定化された核酸を、異なる量、含有していてもよい。すなわち、第1の検出部位に、より高い量を含有し、その後の部位に、より少ない量を含有していてもよい。試験試料の添加時、検出可能シグナルを示す部位の数が、試料中に存在するPRMT1のmRNAの量の定量的な指標を提供する。検出部位は、任意の適切に検出可能な形状で配置され得、典型的には、テストストリップ幅にわたるバーまたはドットの形状である。
【0054】
本発明のキットは、さらに、陽性対照試料またはPRMT1標準試料を含んでいてもよい。PRMT1陽性試料を採取することにより本発明の陽性対照試料を調製してもよく、次いで、これらのPRMT1レベルをアッセイする。陽性対照試料のPRMT1レベルは、例えば、カットオフ値より大きい。
【0055】
抗がん化合物のスクリーニング
本発明との関連において、本スクリーニング法により同定される剤は、任意の化合物、または幾つかの化合物を含む組成物であり得る。さらに、本発明のスクリーニング法によって細胞またはタンパク質に曝露される試験剤は、単一の化合物であっても、または化合物の組み合わせであってもよい。化合物の組み合わせを前記方法において使用する場合には、化合物を逐次的に接触させてもよく、または同時に接触させてもよい。
【0056】
任意の試験剤、例えば、細胞抽出物、細胞培養上清、発酵微生物産物、海洋生物抽出物、植物抽出物、精製されたタンパク質または粗タンパク質、ペプチド、非ペプチド化合物、合成微小分子化合物(アンチセンスRNA、siRNA、リボザイム、およびアプタマーなどの核酸構築物を含む)、および天然化合物を、本発明のスクリーニング法において使用することができる。本発明の試験剤は、(1)生物学的ライブラリ、(2)空間的にアドレス可能なパラレルな固相または液相のライブラリ、(3)デコンボリューションを必要とする合成ライブラリ法、(4)「一ビーズ一化合物」ライブラリ法、および(5)アフィニティクロマトグラフィ選択を使用する合成ライブラリ法を含む、当技術分野で公知のコンビナトリアルライブラリ法の多数のアプローチのいずれかを使用して入手され得る。アフィニティクロマトグラフィ選択を使用する生物学的ライブラリ法はペプチドライブラリに限定されるが、他の4つのアプローチは化合物のペプチドライブラリ、非ペプチドオリゴマーライブラリ、または低分子ライブラリに適用可能である(Lam, Anticancer Drug Des 1997, 12:145-67)。分子ライブラリの合成法の例は、当技術分野で見い出され得る(DeWitt et al., Proc Natl Acad Sci USA 1993, 90:6909-13;Erb et al., Proc Natl Acad Sci USA 1994, 91:11422-6;Zuckermann et al., J Med Chem 37:2678-85, 1994;Cho et al., Science 1993, 261:1303-5;Carell et al., Angew Chem Int Ed Engl 1994, 33:2059;Carell et al., Angew Chem Int Ed Engl 1994, 33:2061;Gallop et al., J Med Chem 1994, 37:1233-51)。化合物のライブラリは、溶液中(Houghten, Bio/Techniques 1992, 13:412-21を参照されたい)、またはビーズ上(Lam, Nature 1991, 354:82-4)、チップ上(Fodor, Nature 1993, 364:555-6)、細菌上(米国特許第5,223,409号)、胞子上(米国特許第5,571,698号;第5,403,484号、および第5,223,409号)、プラスミド上(Cull et al., Proc Natl Acad Sci USA 1992, 89:1865-9)、もしくはファージ上(Scott and Smith, Science 1990, 249:386-90;Devlin, Science 1990, 249:404-6;Cwirla et al., Proc Natl Acad Sci USA 1990, 87:6378-82;Felici, J Mol Biol 1991, 222:301-10;米国特許出願第2002103360号)に提示され得る。
【0057】
本スクリーニング法のいずれかによってスクリーニングされた化合物の構造の一部が、付加、欠失、および/または置換により変換された化合物は、本発明のスクリーニング法によって入手される剤に含まれる。
【0058】
さらに、スクリーニングされた試験剤がタンパク質である場合、タンパク質をコードするDNAを入手するためには、タンパク質の全アミノ酸配列を決定して、タンパク質をコードする核酸配列を推定することもできるし、または入手されたタンパク質の部分アミノ酸配列を分析して、その配列に基づきオリゴDNAをプローブとして調製し、そのプローブを用いてcDNAライブラリをスクリーニングして、タンパク質をコードするDNAを入手することもできる。入手されたDNAは、がんを治療または予防するための候補である試験剤の調製における有用性に関して確認される。
【0059】
本明細書に記載されるスクリーニングにおいて有用な試験剤は、PRMT1タンパク質に特異的に結合する抗体であってもよく、またはインビボで元のタンパク質の生物学的活性を欠くPRMT1タンパク質の部分ペプチドに特異的に結合する抗体であってもよい。
【0060】
試験剤ライブラリの構築は当技術分野で周知であるが、本スクリーニング法のための試験剤の同定およびそのような剤のライブラリの構築に関するさらなる指針を以下に提供する。
【0061】
(i)分子モデリング
試験剤ライブラリの構築は、求められる特性を有することが既知の化合物の分子構造、および/またはPRMT1の分子構造の知識により容易になる。さらなる評価に適した試験剤を予備スクリーニングするための1つのアプローチは、試験剤とその標的との間の相互作用のコンピュータモデリングである。
【0062】
コンピュータモデリング技術により、選択された分子の三次元原子構造の可視化、およびその分子と相互作用する新たな化合物の合理的設計が可能になる。三次元構築物は、典型的には、選択された分子のX線結晶学的分析またはNMRイメージングからのデータに依存する。分子動力学は力場データを必要とする。コンピュータグラフィックスシステムは、新たな化合物が標的分子にどのように結合するかを予測可能にし、結合特異性を完全にするための化合物および標的分子の構造の実験的操作を可能にする。一方または両方に軽微な変化が加えられた場合に、分子−化合物相互作用がどのようになるかを予測するには、分子力学ソフトウェアおよび計算集約型コンピュータが必要とされ、それらは、通常、分子設計プログラムと使用者との間のユーザーフレンドリーなメニュー方式のインターフェースと連結される。
【0063】
上記に概説された分子モデリングシステムの例には、CHARMmプログラムおよびQUANTAプログラム、Polygen Corporation,Waltham,Massが含まれる。CHARMmは、エネルギー最小化および分子動力学の機能を実行する。QUANTAは、分子構造の構築、グラフィックモデリング、および分析を実行する。QUANTAは、相互作用的構築、改変、可視化、および分子の互いの挙動の分析を可能にする。
【0064】
例えば、Rotivinen et al. Acta Pharmaceutica Fennica 1988, 97:159-66;Ripka, New Scientist 1988, 54-8;McKinlay & Rossmann, Annu Rev Pharmacol Toxiciol 1989, 29:111-22;Perry & Davies, Prog Clin Biol Res 1989, 291:189-93;Lewis & Dean, Proc R Soc Lond 1989, 236:125-40, 141-62;および核酸成分のモデル受容体に関するAskew et al., J Am Chem Soc 1989, 111:1082-90など、特定のタンパク質と相互作用する薬物のコンピュータモデリングについては多数の論文に総説されている。
【0065】
化学物質をスクリーニングし図示するその他のコンピュータプログラムは、BioDesign, Inc.(Pasadena,Calif.)、Allelix, Inc.(Mississauga,Ontario,Canada)、およびHypercube, Inc.(Cambridge,Ontario)などの会社から入手可能である。例えば、DesJarlais et al., J Med Chem 1988, 31:722-9;Meng et al., J Computer Chem 1992, 13:505-24;Meng et al., Proteins 1993, 17:266-78;Shoichet et al., Science 1993, 259:1445-50を参照されたい。
【0066】
推定の阻害剤が同定されたならば、以下に詳述されるように、同定された推定の阻害剤の化学構造に基づき、多数のバリアントを構築するため、コンビナトリアルケミストリー技術を利用することができる。その結果得られた推定の阻害剤または「試験剤」のライブラリは、膀胱がん、胃がん、直腸結腸がん、乳がん、食道がん、肺がん、リンパ腫、膵臓がん、および精巣がん等のがんを治療または予防する試験剤の同定のために、本発明の方法を使用してスクリーニングされ得る。
【0067】
(ii)コンビナトリアル化学合成
試験剤のコンビナトリアルライブラリは、既知の阻害剤に存在しているコア構造の知識を含む、合理的薬物設計プログラムの一部として作製され得る。このアプローチにより、ハイスループットスクリーニングを容易にする適度のサイズにライブラリを維持することが可能になる。あるいは、ライブラリを構成する分子ファミリーの全順列を簡便に合成することにより、単純な、特に短い、重合体分子ライブラリを構築することもできる。この後者のアプローチの一例は、6アミノ酸長の全ペプチドのライブラリである。そのようなペプチドライブラリは、6アミノ酸配列のあらゆる順列を含み得る。この種類のライブラリは、線形コンビナトリアルケミカルライブラリと称される。
【0068】
コンビナトリアルケミカルライブラリの調製は、当業者に周知であり、化学合成または生物学的合成のいずれかにより作製され得る。コンビナトリアルケミカルライブラリには、ペプチドライブラリ(例えば、米国特許第5,010,175号;Furka, Int J Pept Prot Res 1991, 37:487-93;Houghten et al., Nature 1991, 354:84-6を参照されたい)が含まれるが、これらに限定されない。化学的多様性ライブラリを作製するためのその他の化学を使用することもできる。そのような化学には、ペプチド(例えば、PCT公報WO91/19735)、コードされたペプチド(例えば、WO93/20242)、ランダムバイオオリゴマー(例えば、WO92/00091)、ベンゾジアゼピン(例えば、米国特許第5,288,514号)、ヒダントイン、ベンゾジアゼピン、およびジペプチドなどのダイバーソマー(diversomers)(DeWitt et al., Proc Natl Acad Sci USA 1993, 90:6909-13)、ビニロガス(vinylogous)ポリペプチド(Hagihara et al., J Amer Chem Soc 1992, 114:6568)、グルコース足場を有する非ペプチド性ペプチド模倣体(Hirschmann et al., J Amer Chem Soc 1992, 114:9217-8)、低分子化合物ライブラリの類似有機合成(Chen et al., J. Amer Chem Soc 1994, 116:2661)、オリゴカルバメート(Cho et al., Science 1993, 261:1303)、および/またはペプチジルホスホネート(Campbell et al., J Org Chem 1994, 59:658)、核酸ライブラリ(Ausubel, Current Protocols in Molecular Biology 1995 supplement;Sambrook et al., Molecular Cloning:A Laboratory Manual, 1989, Cold Spring Harbor Laboratory, New York, USAを参照されたい)、ペプチド核酸ライブラリ(例えば、米国特許第5,539,083号を参照されたい)、抗体ライブラリ(例えば、Vaughan et al., Nature Biotechnology 1996, 14(3):309-14およびPCT/US96/10287を参照されたい)、炭水化物ライブラリ(例えば、Liang et al., Science 1996, 274:1520-22;米国特許第5,593,853号を参照されたい)、ならびに有機低分子ライブラリ(例えば、ベンゾジアゼピン、Gordon EM. Curr Opin Biotechnol. 1995 Dec 1; 6(6):624-31.;イソプレノイド、米国特許第5,569,588号;チアゾリジノンおよびメタチアザノン、米国特許第5,549,974号;ピロリジン、米国特許第5,525,735号および第5,519,134号;モルホリノ化合物、米国特許第5,506,337号;ベンゾジアゼピン、米国特許第5,288,514号等を参照されたい)が含まれるが、これらに限定されない。
【0069】
コンビナトリアルライブラリの調製のための装置は市販されている(例えば、357 MPS、390 MPS(Advanced Chem Tech, Louisville KY)、Symphony(Rainin, Woburn, MA)、433A(Applied Biosystems, Foster City, CA)、9050 Plus(Millipore, Bedford, MA)を参照されたい)。さらに、コンビナトリアルライブラリ自体も多数市販されている(例えば、ComGenex, Princeton, N.J.、Tripos, Inc., St. Louis, MO、3D Pharmaceuticals, Exton, PA、Martek Biosciences, Columbia, MD等を参照されたい)。
【0070】
(iii)その他の候補
別のアプローチは、ライブラリを作製するために組換えバクテリオファージを使用する。「ファージ法」(Scott & Smith, Science 1990, 249:386-90;Cwirla et al., Proc Natl Acad Sci USA 1990, 87:6378-82;Devlin et al., Science 1990, 249:404-6)を使用すれば、極めて大きいライブラリを構築することができる(例えば、106〜108個の化学物質)。第2のアプローチは、主として化学的な方法を使用し、Geysenの方法(Geysen et al., Molecular Immunology 1986, 23:709-15;Geysen et al., J Immunologic Method 1987, 102:259-74);およびFodorらの方法(Science 1991, 251:767-73)がその例である。Furkaら(14th International Congress of Biochemistry 1988, Volume #5, Abstract FR:013; Furka, Int J Peptide Protein Res 1991, 37:487-93)、Houghten(米国特許第4,631,211号)、およびRutterら(米国特許第5,010,175号)は、アゴニストまたはアンタゴニストとして試験され得るペプチドの混合物を作製する方法を記載している。
【0071】
アプタマーは、特定の分子標的に強固に結合する核酸から構成された巨大分子である。TuerkおよびGold(Science. 249:505-510 (1990))は、アプタマーの選択のためのSELEX(Systematic Evolution of Ligands by Exponential Enrichment)法を開示している。SELEX法においては、核酸分子の大きなライブラリ(例えば、1015個の異なる分子)をスクリーニングに使用することができる。
【0072】
PRMT1と結合する化合物のスクリーニング
本発明において、正常器官では発現が見られないにもかかわらず、膀胱がん、胃がん、直腸結腸がん、乳がん、食道がん、肺がん、リンパ腫、膵臓がん、および精巣がんにおいてPRMT1の過剰発現が検出された(図1、2、および表3)。したがって、PRMT1遺伝子、およびその遺伝子によりコードされるタンパク質を使用して、PRMT1と結合する化合物をスクリーニングする方法を、本発明は提供する。がんにおけるPRMT1の発現のため、PRMT1と結合する化合物は、がん細胞の増殖を抑制することが期待され、したがって、がんを治療または予防するのに有用である。したがって、本発明は、PRMT1ポリペプチドを使用して、がん細胞の増殖を抑制する化合物をスクリーニングするための方法、およびがんを治療または予防するための化合物をスクリーニングするための方法を提供する。具体的には、このスクリーニング法の一態様は、以下の工程を含む:
(a)試験化合物を、PRMT1のポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドと接触させる工程;
(b)前記ポリペプチドと試験化合物との間の結合活性を検出する工程;および
(c)前記ポリペプチドと結合する試験化合物を選択する工程。
【0073】
本発明の方法を、以下に、より詳細に説明する。
【0074】
スクリーニングに使用されるPRMT1ポリペプチドは、組換えポリペプチドもしくは自然界由来のタンパク質、またはそれらの部分ペプチドであり得る。試験化合物と接触させるポリペプチドは、例えば、精製されたポリペプチド、可溶性タンパク質、担体と結合した形態、または他のポリペプチドと融合した融合タンパク質であり得る。
【0075】
タンパク質、例えば、PRMT1ポリペプチドに結合するタンパク質を、PRMT1ポリペプチドを使用してスクリーニングする方法として、当業者に周知の多くの方法を使用することができる。そのようなスクリーニングは、例えば、免疫沈降法により、特に、以下のように実施され得る。PRMT1ポリペプチドをコードする遺伝子を、pSV2neo、pcDNA I、pcDNA3.1、pCAGGS、およびpCD8などの外来遺伝子の発現ベクターに挿入することにより、宿主(例えば、動物)細胞等において発現させる。
【0076】
発現に使用されるプロモーターは、一般に使用され得る任意のプロモーターであってよく、例えば、SV40初期プロモーター(Rigby in Williamson (ed.), Genetic Engineering, vol. 3. Academic Press, London, 83-141 (1982))、EF−αプロモーター(Kim et al., Gene 91:217-23 (1990))、CAGプロモーター(Niwa et al., Gene 108:193 (1991))、RSV LTRプロモーター(Cullen, Methods in Enzymology 152:684-704 (1987))、SRαプロモーター(Takebe et al., Mol Cell Biol 8:466 (1988))、CMV前初期プロモーター(Seed and Aruffo, Proc Natl Acad Sci USA 84:3365-9 (1987))、SV40後期プロモーター(Gheysen and Fiers, J Mol Appl Genet 1:385-94 (1982))、アデノウイルス後期プロモーター(Kaufman et al., Mol Cell Biol 9:946 (1989))、HSV TKプロモーター等を含み得る。
【0077】
外来遺伝子を発現させるための宿主細胞への遺伝子の導入は、任意の方法、例えば、エレクトロポレーション法(Chu et al., Nucleic Acids Res 15:1311-26 (1987))、リン酸カルシウム法(Chen and Okayama, Mol Cell Biol 7:2745-52 (1987))、DEAEデキストラン法(Lopata et al., Nucleic Acids Res 12:5707-17 (1984);Sussman and Milman, Mol Cell Biol 4:1641-3 (1984))、リポフェクチン法(Derijard B., Cell 76:1025-37 (1994);Lamb et al., Nature Genetics 5:22-30 (1993):Rabindran et al., Science 259:230-4 (1993))等に従い実施され得る。
【0078】
ポリペプチドのN末端またはC末端に、特異性が明らかなモノクローナル抗体のエピトープを導入することにより、モノクローナル抗体の認識部位(エピトープ)を含む融合タンパク質として、PRMT1遺伝子によりコードされるポリペプチドを発現させることができる。市販のエピトープ−抗体システムを使用することができる(Experimental Medicine 13:85-90 (1995))。マルチクローニング部位の使用により、例えば、βガラクトシダーゼ、マルトース結合タンパク質、グルタチオンS−トランスフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)等との融合タンパク質を発現し得るベクターが、市販されている。また、融合によりPRMT1ポリペプチドの特性が変化しないよう、数個〜十数個のアミノ酸からなる小さなエピトープのみを導入することにより調製された融合タンパク質も報告されている。ポリヒスチジン(His−タグ)、インフルエンザ凝集HA、ヒトc−myc、FLAG、水疱性口内炎ウイルス糖タンパク質(VSV−GP)、T7遺伝子10タンパク質(T7−タグ)、ヒト単純ヘルペスウイルス糖タンパク質(HSV−タグ)、E−タグ(モノクローナルファージ上のエピトープ)などのエピトープと、これらを認識するモノクローナル抗体とを、PRMT1ポリペプチドに結合するタンパク質をスクリーニングするためのエピトープ−抗体システムとして使用することができる(Experimental Medicine 13:85-90 (1995))。
【0079】
免疫沈降においては、適切な界面活性剤を使用して調製された細胞溶解物に、これらの抗体を添加することにより、免疫複合体が形成される。免疫複合体は、PRMT1ポリペプチド、該ポリペプチドとの結合能を有するポリペプチド、および抗体からなる。免疫沈降は、上記エピトープに対する抗体を使用する以外に、PRMT1ポリペプチドに対する、上記のように調製され得る抗体を使用して実施されてもよい。抗体がマウスIgG抗体である場合、例えば、プロテインAセファロースまたはプロテインGセファロースにより、免疫複合体を沈降させることができる。PRMT1遺伝子によりコードされるポリペプチドが、GSTなどのエピトープとの融合タンパク質として調製される場合には、グルタチオン−セファロース4Bなどのこれらのエピトープと特異的に結合する物質を使用して、PRMT1ポリペプチドに対する抗体を使用する場合と同様に免疫複合体を形成させることができる。
【0080】
免疫沈降は、例えば、文献中の方法に従ってまたは準じて実施され得る(Harlow and Lane, Antibodies, 511-52, Cold Spring Harbor Laboratory publications, New York (1988))。
【0081】
免疫沈降したタンパク質の分析には、SDS−PAGEが一般に使用され、結合したタンパク質は、適切な濃度を有するゲルを使用して、タンパク質の分子量により分析され得る。PRMT1ポリペプチドに結合したタンパク質は、クーマシー染色または銀染色などの一般の染色法によって検出することが困難であるため、細胞を、放射性同位体35S−メチオニンまたは35S−システインを含有している培養培地中で培養し、細胞内のタンパク質を標識し、タンパク質を検出することにより、タンパク質の検出感度を改善することができる。タンパク質の分子量が明らかである場合には、標的タンパク質をSDS−ポリアクリルアミドゲルから直接精製し、その配列を決定することができる。
【0082】
PRMT1ポリペプチドに結合するタンパク質を、該ポリペプチドを使用してスクリーニングする方法として、例えば、ウエストウエスタンブロット分析(Skolnik et al., Cell 65:83-90 (1991))を使用することができる。具体的には、PRMT1ポリペプチドに結合するタンパク質を発現すると予想される培養細胞から、cDNAライブラリを、ファージベクター(例えば、ZAP)を使用して調製し、LB−アガロース上でタンパク質を発現させ、発現されたタンパク質をフィルタ上に固定し、精製され標識されたPRMT1ポリペプチドを上記フィルタと反応させ、PRMT1ポリペプチドに結合したタンパク質を発現しているプラークを標識によって検出することにより、PRMT1ポリペプチドに結合するタンパク質を入手することができる。PRMT1ポリペプチドは、ビオチンとアビジンとの間の結合を利用するか、またはPRMT1ポリペプチドと特異的に結合する抗体、もしくはPRMT1ポリペプチドと融合されるペプチドもしくはポリペプチド(例えば、GST)を利用することにより、標識され得る。放射性同位体または蛍光等を使用する方法も、使用することができる。
【0083】
あるいは、本発明のスクリーニング法の別の態様において、細胞を利用するツーハイブリッドシステムを使用してもよい(「MATCHMAKER Two−Hybrid system」、「Mammalian MATCHMAKER Two−Hybrid Assay Kit」、「MATCHMAKER one−Hybrid system」(Clontech);「HybriZAP Two−Hybrid Vector System」(Stratagene);参考文献「Dalton and Treisman, Cell 68:597-612 (1992)」、「Fields and Sternglanz, Trends Genet 10:286-92 (1994)」)。
【0084】
ツーハイブリッドシステムにおいては、PRMT1ポリペプチドをSRF結合領域またはGAL4結合領域に融合させ、酵母細胞において発現させる。PRMT1ポリペプチドに結合するタンパク質を発現すると予想される細胞からのcDNAライブラリを、ライブラリが、発現された場合にVP16またはGAL4の転写活性化領域に融合するよう、調製する。次いで、cDNAライブラリを上記酵母細胞に導入し、ライブラリに由来するcDNAを、検出された陽性クローンから単離する(本発明のポリペプチドに結合するタンパク質が酵母細胞において発現される場合、その2つの結合がレポーター遺伝子を活性化し、陽性クローンを検出可能にする)。上記の単離されたcDNAを大腸菌に導入し、タンパク質を発現させることにより、cDNAによりコードされるタンパク質を調製することができる。レポーター遺伝子としては、HIS3遺伝子に加えて、例えば、Ade2遺伝子、lacZ遺伝子、CAT遺伝子、ルシフェラーゼ遺伝子等も使用することができる。
【0085】
アフィニティクロマトグラフィを使用して、PRMT1遺伝子によりコードされるポリペプチドに結合する化合物をスクリーニングすることもできる。例えば、PRMT1ポリペプチドをアフィニティカラムの担体上に固定化し、本発明のポリペプチドに結合可能なタンパク質を含有している試験化合物をカラムに適用することができる。本明細書中の試験化合物は、例えば、細胞抽出物、細胞溶解物等であり得る。試験化合物を負荷した後、カラムを洗浄し、本発明のポリペプチドに結合した化合物を調製することができる。試験化合物がタンパク質である場合には、入手されたタンパク質のアミノ酸配列を分析し、配列に基づきオリゴDNAを合成し、オリゴDNAをプローブとして使用してcDNAライブラリをスクリーニングして、タンパク質をコードするDNAを入手する。
【0086】
本発明においては、結合した化合物を検出または定量化する手段として、表面プラズモン共鳴現象を使用するバイオセンサーを使用してもよい。そのようなバイオセンサーを使用した場合、極微量のポリペプチドのみを使用して、標識することなく、PRMT1ポリペプチドと試験化合物との間の相互作用を、表面プラズモン共鳴シグナルとしてリアルタイムで観察することができる(例えば、BIAcore、Pharmacia)。したがって、BIAcoreなどのバイオセンサーを使用して、本発明のポリペプチドと試験化合物との間の結合を評価することが可能である。
【0087】
タンパク質だけでなくPRMT1タンパク質に結合する化学化合物(アゴニストおよびアンタゴニストを含む)も単離するための、固定化されたPRMT1ポリペプチドを合成化学化合物または天然物質バンクもしくはランダムファージペプチドディスプレイライブラリに曝露した場合に結合する分子をスクリーニングする方法、およびコンビナトリアルケミストリー技術に基づくハイスループットを使用したスクリーニング法(Wrighton et al., Science 273:458-64 (1996);Verdine, Nature 384:11-13 (1996);Hogan, Nature 384:17-9 (1996))が当業者に周知である。
【0088】
PRMT1の生物学的活性を抑制する化合物のスクリーニング
本発明において、PRMT1タンパク質は、がん細胞の細胞増殖を促進する活性を有する(図3)。さらに、ヒストンおよびその他の核タンパク質のアルギニンメチル化は、PRMT(タンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ)のファミリーによって行われる。PRMTは、S−アデノシルメチオニン(SAM)依存性のメチル化を用いて、1個または2個のメチル基を付加ことによりアルギニン側鎖のグアニジノ窒素を修飾する(Bedford MT and Richard S, Mol Cell 2005;18:263-272)。PRMT1は、PRMTファミリーのメンバーのうちの1つであり、これもまた、メチルトランスフェラーゼ活性、特に、H4/H2Aをアルギニン3でメチル化する能力を有することが実証されている(Wang H. et al, Science 2001; 293: 853-857)。これらの生物学的活性を使用して、本発明は、PRMT1を発現しているがん細胞の増殖を抑制する化合物をスクリーニングするための方法、ならびにがんを治療または予防するための候補化合物をスクリーニングするための方法を提供し、そのようながんには、膀胱がん、胃がん、結腸直腸がん、乳がん、食道がん、肺がん、リンパ腫、膵臓がん、および精巣がんが含まれる。したがって、本発明は、以下の工程を含む、PRMT1遺伝子によりコードされるポリペプチドを使用して、がんを治療または予防するための候補化合物をスクリーニングする方法を提供する:
(a)試験化合物を、PRMT1のポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドと接触させる工程;
(b)工程(a)のポリペプチドの生物学的活性を検出する工程;および
(c)試験化合物の非存在下で検出されるポリペプチドの生物学的活性と比較して、PRMT1のポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドの生物学的活性を抑制する試験化合物を選択する工程。
【0089】
本発明によると、PRMT1の生物学的活性(例えば、細胞増殖活性またはメチルトランスフェラーゼ活性)の抑制に関する試験化合物、またはがんを治療もしくは予防するための候補化合物の治療効果を、評価することができる。したがって、本発明は、以下の工程を含む、PRMT1ポリペプチドまたはその断片を使用して、PRMT1の生物学的活性を抑制するための候補化合物、またはがんを治療もしくは予防するための候補化合物をスクリーニングする方法も提供する:
(a)試験化合物を、PRMT1ポリペプチドまたはその機能的断片と接触させる工程;および
(b)工程(a)のポリペプチドまたは断片の生物学的活性を検出する工程;および
(c)(b)の生物学的活性を試験化合物の治療効果と相関させる工程。
【0090】
そのようながんには、膀胱がん、胃がん、直腸結腸がん、乳がん、食道がん、肺がん、リンパ腫、膵臓がん、および精巣がんが含まれる。本発明において、治療効果は、PRMT1ポリペプチドまたはその機能的断片の生物学的活性と相関し得る。例えば、試験化合物が、試験化合物の非存在下で検出されるレベルと比較して、PRMT1ポリペプチドまたはその機能的断片の生物学的活性を抑制または阻害する場合には、その試験化合物を、治療効果を有する候補化合物として同定または選択することができる。あるいは、試験化合物が、試験化合物の非存在下で検出されるレベルと比較して、PRMT1ポリペプチドまたはその機能的断片の生物学的活性を抑制または阻害しない場合には、その試験化合物を、有意な治療効果を有しない剤または化合物として同定することができる。
【0091】
本発明の方法を、以下に、より詳細に説明する。
【0092】
PRMT1タンパク質の生物学的活性を含む限り、任意のポリペプチドをスクリーニングに使用することができる。そのような生物学的活性には、PRMT1タンパク質の細胞増殖活性またはメチルトランスフェラーゼ活性が含まれる。例えば、PRMT1タンパク質を使用することができ、これらのタンパク質と機能的に等価なポリペプチドも使用することができる。そのようなポリペプチドは、細胞により内因的にまたは外因的に発現され得る。
【0093】
このスクリーニングにより単離される化合物は、PRMT1遺伝子によりコードされるポリペプチドのアンタゴニストの候補である。「アンタゴニスト」という用語は、ポリペプチドに結合することにより、その機能を阻害する分子をさす。この用語は、PRMT1をコードする遺伝子の発現を低下させるかまたは阻害する分子もさす。さらに、このスクリーニングにより単離される化合物は、PRMT1ポリペプチドと分子(DNAおよびタンパク質を含む)とのインビボ相互作用を阻害する化合物の候補である。
【0094】
本方法において検出される生物学的活性が細胞増殖である場合、それは、例えば、PRMT1ポリペプチドを発現している細胞を調製し、試験化合物の存在下で細胞を培養し、細胞周期等を測定する、細胞増殖のスピードを決定することにより、および、例えば図3に示される生存細胞またはコロニー形成活性を測定することにより、検出され得る。PRMT1を発現している細胞の増殖のスピードを低下させる化合物を、がんを治療または予防するための候補化合物として選択する。
【0095】
より具体的には、方法は、以下の工程を含む:
(a)試験化合物を、PRMT1を過剰発現している細胞と接触させる工程;
(b)細胞増殖活性を測定する工程;および
(c)試験化合物の非存在下での細胞増殖活性と比較して、細胞増殖活性を低下させる試験化合物を選択する工程。
好ましい態様において、本発明の方法は、以下の工程をさらに含みうる:
(d)PRMT1を全くまたはほとんど発現していない細胞に対して効果を及ぼさない試験化合物を選択する工程。
【0096】
本方法において検出される生物学的活性がメチルトランスフェラーゼ活性である場合、メチルトランスフェラーゼ活性は、基質のメチル化に適した条件の下で、基質(例えば、ヒストンH4/H2A、またはアルギニン3を含むそれらの断片)および補因子(例えば、S−アデノシル−L−メチオニン)とポリペプチドとを接触させ、かつ基質のメチル化レベルを検出することにより決定され得る。
【0097】
より具体的には、方法は、以下の工程を含む:
[1]以下の工程を含む、PRMT1のメチルトランスフェラーゼ活性を測定する方法;
(a)PRMT1のポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドを接触させる工程;
(b)基質のメチル化レベルを検出する工程;および
(c)工程(b)のメチル化レベルをメチルトランスフェラーゼ活性と相関させることにより、メチルトランスフェラーゼ活性を測定する工程。
[2]基質がヒストンであるか、または少なくとも1つのメチル化領域を含むその断片である、[1]に記載の方法。
[3]基質がヒストンH4もしくはH2Aであるか、または少なくとも1つのメチル化領域を含むそれらの断片である、[2]に記載の方法。
[4]メチル化領域がアルギニン3である、[3]に記載の方法。
[4]補因子がS−アデノシルメチオニンである、[1]に記載の方法。
[6]ポリペプチドを、メチル化増強剤の存在下で基質および補因子と接触させる、[1]に記載の方法。
[7]メチル化増強剤がS−アデノシルホモシステインヒドロラーゼ(SAHH)である、[1]に記載の方法。
【0098】
本発明において、PRMT1ポリペプチドのメチルトランスフェラーゼ活性は、当技術分野で公知の方法によって決定され得る。例えば、PRMT1および基質を、好適なアッセイ条件の下で、標識されたメチルドナーと共にインキュベートすることができる。ヒストンH4ペプチドまたはヒストンH2Aペプチド、およびS−アデノシル−[メチル−14C]−L−メチオニンまたはS−アデノシル−[メチル−H]−L−メチオニンを、好ましくは、それぞれ、基質およびメチルドナーとして使用することができる。例えば、SDS−PAGE電気泳動およびフルオログラフィーによって、ヒストンH4ペプチドまたはヒストンH2Aペプチドへの放射標識の転移を検出することができる。あるいは、反応の後、ヒストンH4ペプチドまたはヒストンH2Aペプチドを濾過によってメチルドナーから分離し、フィルター上に保持された放射標識の量をシンチレーション計数によって定量化してもよい。発色標識および蛍光標識等の、メチルドナーに付着させることができるその他の好適な標識、ならびにヒストンおよびヒストンペプチドへのこれらの標識の転移を検出する方法は、当技術分野で公知である。
【0099】
あるいは、未標識のメチルドナー(例えば、S−アデノシル−L−メチオニン)、およびメチル化されたヒストンまたはヒストンペプチドを選択的に認識する試薬を使用して、PRMT1のメチルトランスフェラーゼ活性を決定することもできる。例えば、基質のメチル化が可能な条件の下で、メチル化されるPRMT1基質およびメチルドナーをインキュベートした後、メチル化された基質を免疫学的な方法によって検出することができる。メチル化された基質を認識する抗体を使用した任意の免疫学的技術を、検出のために使用することができる。例えば、メチル化されたヒストンに対する抗体が市販されている(abcam Ltd.)。メチル化されたヒストンを認識する抗体を用いたELISAまたはイムノブロッティングを、本発明のために使用することができる。
【0100】
本発明において、物質のメチル化を増強する剤を使用することができる。SAHHまたはその機能的等価物が、好ましいメチル化増強剤のうちの1つである。剤は、物質のメチル化を増強し、それにより、より高い感度でメチルトランスフェラーゼ活性を決定することが可能となる。増強剤の存在下で、PRMT1を基質および補因子と接触させることができる。
【0101】
さらに、メチルトランスフェラーゼ活性を検出する本方法は、PRMT1ポリペプチドを発現する細胞を調製し、試験化合物の存在下で細胞を培養し、かつヒストンのメチル化レベルを、例えば、メチル化領域に特異的に結合する抗体を使用して決定することにより、実施されてもよい。
【0102】
より具体的には、方法は、以下の工程を含む:
[1]試験化合物を、PRMT1を発現している細胞と接触させる工程;
[2]ヒストンH4またはH2Aアルギニン3のメチル化レベルを検出する工程;および
[3]試験化合物の非存在下でのメチル化レベルと比較して、メチル化レベルを低下させる試験化合物を選択する工程。
【0103】
本明細書中で定義される「生物学的活性を抑制する」とは、化合物の非存在下と比較した、PRMT1の生物学的活性の、好ましくは少なくとも10%の抑制、より好ましくは少なくとも25%、50%、または75%の抑制、および最も好ましくは90%の抑制である。
【0104】
PRMT1の発現を変える化合物のスクリーニング
本発明において、siRNAによるPRMT1の発現の減少は、がん細胞増殖の阻害をもたらす(図3および表4)。したがって、本発明は、PRMT1の発現を阻害する化合物をスクリーニングする方法を提供する。PRMT1の発現を阻害する化合物は、がん細胞の増殖を抑制すると予想され、したがって、がんを治療または予防するのに有用であり、そのようながんには、膀胱がん、胃がん、直腸結腸がん、乳がん、食道がん、肺がん、リンパ腫、膵臓がん、および精巣がんが含まれる。したがって、本発明は、がん細胞の増殖を抑制する化合物をスクリーニングするための方法、およびがんを治療または予防するための化合物をスクリーニングするための方法も提供する。本発明との関連において、そのようなスクリーニングは、例えば、以下の工程を含み得る:
(a)候補化合物を、PRMT1を発現している細胞と接触させる工程;および
(b)対照と比較して、PRMT1の発現レベルを低下させる候補化合物を選択する工程。
【0105】
本発明の方法を、以下に、より詳細に説明する。
【0106】
PRMT1を発現している細胞には、例えば、膀胱がん、胃がん、直腸結腸がん、乳がん、食道がん、肺がん、リンパ腫、膵臓がん、または精巣がんから樹立された細胞株が含まれ;そのような細胞を、本発明の上記スクリーニングのために使用することができる。発現レベルは、当業者に周知の方法、例えば、RT−PCR、ノーザンブロットアッセイ、ウェスタンブロットアッセイ、免疫染色、およびフローサイトメトリー分析により推定され得る。本明細書中で定義される「発現レベルを低下させる」とは、PRMT1の発現レベルの、化合物の非存在下での発現レベルと比較した、好ましくは少なくとも10%の低下、より好ましくは少なくとも25%、50%、または75%低下したレベル、および最も好ましくは少なくとも95%低下したレベルである。本明細書中の化合物には、化学化合物、二本鎖ヌクレオチド等が含まれる。二本鎖ヌクレオチドの調製は前記説明にある。スクリーニング法において、PRMT1の発現レベルを低下させる化合物を、がんの治療または予防に使用される候補化合物として選択することができる。
【0107】
あるいは、本発明のスクリーニング法は、以下の工程を含み得る:
(a)PRMT1の転写調節領域と、該転写調節領域の制御下で発現されるレポーター遺伝子とを含むベクターが導入された細胞に、候補化合物を接触させる工程;
(b)レポーター遺伝子の発現または活性を測定する工程;および
(c)レポーター遺伝子の発現または活性を低下させる候補化合物を選択する工程。
【0108】
好適なレポーター遺伝子および宿主細胞は、当技術分野で周知である。例えば、レポーター遺伝子は、ルシフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質(GFP)、ディスコソマ種(Discosoma sp.)赤色蛍光タンパク質(DsRed)、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)、lacZ、およびβグルクロニダーゼ(GUS)であり、宿主細胞は、COS7、HEK293、HeLa等である。スクリーニングに必要とされるレポーター構築物は、レポーター遺伝子配列をPRMT1の転写調節領域と接続することにより調製され得る。本明細書中のPRMT1の転写調節領域は、転写開始部位から少なくとも500bp上流、好ましくは1000bp、より好ましくは5000bpまたは10000bp上流までの領域である。転写調節領域を含有しているヌクレオチドセグメントは、ゲノムライブラリから単離されてもよく、またはPCRによって増幅されてもよい。スクリーニングに必要とされるレポーター構築物は、レポーター遺伝子配列をこれらの遺伝子のいずれか1つの転写調節領域と接続することにより調製され得る。転写調節領域を同定するための方法、およびアッセイプロトコルも周知である(Molecular Cloning third edition chapter 17, 2001, Cold Springs Harbor Laboratory Press)。
【0109】
レポーター構築物を含有しているベクターを、宿主細胞に導入し、レポーター遺伝子の発現または活性を、当技術分野で周知の方法により(例えば、ルミノメーター、吸光度計、フローサイトメーター等を使用して)検出する。本明細書中で定義される「発現または活性を低下させる」とは、レポーター遺伝子の発現または活性の、化合物の非存在下と比較した、好ましくは少なくとも10%の低下、より好ましくは少なくとも25%、50%、または75%の低下、および最も好ましくは少なくとも95%の低下である。
【0110】
(i)PRMT1ポリペプチドに結合する候補化合物;(ii)PRMT1ポリペプチドの生物学的活性(例えば、細胞増殖活性またはメチルトランスフェラーゼ活性)を抑制する/低下させる候補化合物;(iii)PRMT1の発現レベルを低下させる候補化合物をスクリーニングすることによって、がん(例えば、膀胱がん、胃がん、直腸結腸がん、乳がん、食道がん、肺がん、リンパ腫、膵臓がん、および精巣がん)を治療または予防する可能性を有する候補化合物を同定することができる。これらの候補化合物が、がんを治療または予防する可能性は、がん治療剤を同定するための第2のスクリーニングおよび/またはさらなるスクリーニングによって評価されてもよい。例えば、PRMT1ポリペプチドに結合する化合物が前記のがんの活動を阻害する場合、このような化合物はPRMT1特異的な治療効果を有すると結論付けることができる。
【0111】
二本鎖分子
本明細書で使用される場合、「単離された二本鎖分子」という用語は標的遺伝子の発現を阻害する核酸分子を意味し、例えば短鎖干渉RNA(siRNA、例えば二本鎖リボ核酸(dsRNA)または低分子ヘアピン型RNA(shRNA))および短鎖干渉DNA/RNA(siD/R−NA、例えばDNAとRNAとの二本鎖キメラ(dsD/R−NA)またはDNAとRNAとの低分子ヘアピンキメラ(shD/R−NA))を含む。
【0112】
本明細書で使用される場合、「siRNA」という用語は、標的mRNAの翻訳を妨げる二本鎖RNA分子をさす。DNAが、RNAが転写される鋳型である技術を含む、siRNAを細胞に導入する標準的な技術が用いられる。siRNAは、PRMT1のセンス核酸配列(「センス鎖」とも称される)、PRMT1のアンチセンス核酸配列(「アンチセンス鎖」とも称される)、またはその両方を含む。単一の転写産物が、標的遺伝子のセンス核酸配列および相補的なアンチセンス核酸配列の両方を有するように(例えばヘアピン)、siRNAを構築してもよい。siRNAはdsRNAまたはshRNAのいずれであってもよい。
【0113】
本明細書で使用される場合、「dsRNA」という用語は、互いに相補的な配列から構成され、かつその相補的な配列を介して共にアニーリングして二本鎖RNA分子を形成している、2つのRNA分子の構築物をさす。2つの鎖のヌクレオチド配列は、標的遺伝子配列のタンパク質コード配列から選択される「センス」または「アンチセンス」RNAだけでなく、標的遺伝子の非コード領域から選択されるヌクレオチド配列を有するRNA分子も含み得る。
【0114】
本明細書で使用される場合、「shRNA」という用語は、互いに相補的である第1および第2の領域、すなわちセンス鎖およびアンチセンス鎖から構成される、ステム−ループ構造を有するsiRNAをさす。該領域の相補性および配向性の程度は、塩基の対合が領域間で起こるのに十分であり、第1および第2の領域はループ領域によって連結し、該ループは、ループ領域内のヌクレオチド(またはヌクレオチド類似体)間の塩基対合の欠如によって生じる。shRNAのループ領域は、センス鎖とアンチセンス鎖との間に介在する一本鎖領域であり、「介在一本鎖」とも称され得る。
【0115】
本明細書で使用される場合、「siD/R−NA」という用語は、RNAおよびDNAの両方から構成される二本鎖ポリヌクレオチド分子を意味し、RNAおよびDNAのハイブリッドおよびキメラを含み、標的mRNAの翻訳を妨げる。本明細書において、ハイブリッドは、DNAから構成されるポリヌクレオチドとRNAから構成されるポリヌクレオチドとが互いにハイブリダイズして二本鎖分子を形成する分子を示し、キメラは、二本鎖分子を含む鎖の一方または両方がRNAおよびDNAを含有し得ることを示す。siD/R−NAを細胞に導入する標準的な技術が用いられる。siD/R−NAは、PRMT1のセンス核酸配列(「センス鎖」とも称される)、PRMT1のアンチセンス核酸配列(「アンチセンス鎖」とも称される)、またはその両方を含む。単一の転写産物が、標的遺伝子由来のセンス核酸配列および相補的なアンチセンス核酸配列の両方を有するように(例えばヘアピン)、siD/R−NAを構築してもよい。siD/R−NAはdsD/R−NAまたはshD/R−NAのいずれであってもよい。
【0116】
本明細書で使用される場合、「dsD/R−NA」という用語は、互いに相補的な配列から構成され、かつ該相補的な配列を介して共にアニーリングして二本鎖ポリヌクレオチド分子を形成している、2つの分子の構築物をさす。2つの鎖のヌクレオチド配列は、標的遺伝子配列のタンパク質コード配列から選択される「センス」または「アンチセンス」ポリヌクレオチド配列だけでなく、標的遺伝子の非コード領域から選択されるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドも含み得る。dsD/R−NAを構築する2つの分子の一方または両方が、RNAおよびDNAの両方から構成されるか(キメラ分子)、またはもう一つの選択肢として分子の一方がRNAから構成され、もう一方がDNAから構成される(ハイブリッド二本鎖)。
【0117】
本明細書で使用される場合、「shD/R−NA」という用語は、互いに相補的である第1および第2の領域、すなわちセンス鎖およびアンチセンス鎖から構成される、ステム−ループ構造を有するsiD/R−NAをさす。該領域の相補性および配向性の程度は、塩基の対合が領域間で起こるのに十分であり、第1および第2の領域はループ領域によって連結し、該ループは、ループ領域内のヌクレオチド(またはヌクレオチド類似体)間の塩基対合の欠如によって生じる。shD/R−NAのループ領域は、センス鎖とアンチセンス鎖との間に介在する一本鎖領域であり、「介在一本鎖」とも称され得る。
【0118】
本明細書で使用される場合、「単離された核酸」は、その元の環境(例えば、天然物の場合は自然環境)から取り出した核酸であり、したがって、その自然状態から合成的に変化させた核酸である。本発明において、単離された核酸の例としてはDNA、RNA、およびその誘導体が挙げられる。
【0119】
標的mRNAにハイブリダイズする、PRMT1に対する二本鎖分子は、遺伝子の通常一本鎖であるmRNA転写物と結合し、それにより、翻訳に干渉し、したがって、タンパク質の発現を阻害することにより、PRMT1遺伝子によってコードされるPRMT1タンパク質の産生を減少させるかまたは阻害する。本明細書中で実証されている通り、数種類のがん細胞株におけるPRMT1の発現はdsRNAによって阻害された(図3)。したがって、本発明は、PRMT1遺伝子を発現している細胞に導入された場合に、PRMT1遺伝子の発現を阻害することができる単離された二本鎖分子を提供する。二本鎖分子の標的配列は、後述されるものなどのsiRNA設計アルゴリズムによって設計され得る。
【0120】
PRMT1標的配列には、例えば、SEQ ID NO:17(SEQ ID NO:1のヌクレオチド803〜821位)のヌクレオチドが含まれる。
【0121】
具体的には、本発明は、以下の[1]〜[18]の二本鎖分子を提供する:
[1]互いにハイブリダイズすることで二本鎖分子を形成するセンス鎖とこれに相補的なアンチセンス鎖とから構成され、細胞に導入された場合にPRMT1のインビボ発現および細胞増殖を阻害する、単離された二本鎖分子;
[2]SEQ ID NO:17(SEQ ID NO:1のヌクレオチド803〜821位)の標的配列に一致するmRNAに対して作用する、[1]に記載の二本鎖分子;
[3]センス鎖が、SEQ ID NO:17の標的配列に対応する配列を含有している、[2]に記載の二本鎖分子;
[4]約100ヌクレオチド未満の長さを有する、[3]に記載の二本鎖分子;
[5]約75ヌクレオチド未満の長さを有する、[4]に記載の二本鎖分子;
[6]約50ヌクレオチド未満の長さを有する、[5]に記載の二本鎖分子;
[7]約25ヌクレオチド未満の長さを有する、[6]に記載の二本鎖分子;
[8]約19〜約25ヌクレオチドの長さを有する、[7]に記載の二本鎖分子;
[9]介在一本鎖により連結されたセンス鎖およびアンチセンス鎖の両方を有する単一ポリヌクレオチドから構成される、[1]に記載の二本鎖分子;
[10]一般式5’−[A]−[B]−[A’]−3’を有する二本鎖分子であって、式中、[A]はSEQ ID NO:17の標的配列に対応する配列を含むセンス鎖であり、3〜23ヌクレオチドから構成される介在一本鎖であり、[A’]は[A]と相補的な配列を含むアンチセンス鎖である、[9]に記載の二本鎖分子;
[11]RNAから構成される、[1]に記載の二本鎖分子;
[12]DNAおよびRNAの両方から構成される、[1]に記載の二本鎖分子;
[13]DNAポリヌクレオチドとRNAポリヌクレオチドとのハイブリッドである、[12]に記載の二本鎖分子;
[14]センス鎖およびアンチセンス鎖がそれぞれDNAおよびRNAから構成される、[13]に記載の二本鎖分子;
[15]DNAとRNAとのキメラである、[12]に記載の二本鎖分子;
[16]アンチセンス鎖の3’末端に隣接する領域、またはセンス鎖の5'末端に隣接する領域およびアンチセンス鎖の3’末端に隣接する領域の両方がRNAである、[15]に記載の二本鎖分子;
[17]隣接領域が9〜13ヌクレオチドから構成される、[16]に記載の二本鎖分子;ならびに
[18]3’オーバーハングを含有する、[2]に記載の二本鎖分子。
【0122】
本発明の二本鎖分子は以下でより詳細に説明される。
【0123】
細胞において標的遺伝子の発現を阻害する能力がある二本鎖分子を設計する方法が知られている(例えば米国特許第6,506,559号(その全体が参照により本明細書に組み入れられる)を参照されたい)。例えば、siRNAを設計するためのコンピュータプログラムは、Ambionのウェブサイトから入手可能である(http://www.ambion.com/techlib/misc/siRNA_finder.html)。
【0124】
コンピュータプログラムは、以下のプロトコルに基づき、二本鎖分子に対する標的ヌクレオチド配列を選択する。
【0125】
標的部位の選択
1.転写産物のAUG開始コドンから始めて、AAジヌクレオチド配列について下流を探索する。潜在的なsiRNA標的部位として、それぞれのAAの存在とその3’側に隣接した19ヌクレオチドとを記録する。Tuschl et al.は、5’および3’非翻訳領域(UTR)および開始コドン近くの領域(75塩基以内)に対してsiRNAを設計することを避けることを推奨している。これは、これらの領域に調節タンパク質結合部位がより多く存在する可能性があり、UTR結合タンパク質および/または翻訳開始複合体が、siRNAエンドヌクレアーゼ複合体の結合に干渉する可能性があるためである。
【0126】
2.潜在的な標的部位と、適当なゲノムデータベース(ヒト、マウス、ラット等)とを比較し、他のコード配列との相同性が大きい任意の標的配列を考慮から外す。基本的には、www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/でのNCBIサーバーにあるBLASTを用いる(Altschul SF et al., Nucleic Acids Res 1997 Sep 1, 25(17):3389-402)。
【0127】
3.合成のために適格である標的配列を選択する。評価するために、遺伝子の長さに沿って標的配列を幾つか選択するのが一般的である。
【0128】
上記のプロトコルを使用して、本発明の単離された二本鎖分子の標的配列を、PRMT1遺伝子に関して、SEQ ID NO:17として設計した。
【0129】
上述の標的配列を標的とする二本鎖分子をそれぞれ、標的遺伝子を発現する細胞の増殖を抑制する能力について調査した。したがって、本発明は、PRMT1遺伝子に関して、SEQ ID NO:17(SEQ ID NO:1のヌクレオチド803〜821位)の配列を標的とする二本鎖分子を提供する。
【0130】
本発明の二本鎖分子は単一の標的PRMT1遺伝子配列を対象としてもよく、または複数の標的PRMT1遺伝子配列を対象としてもよい。
【0131】
上述のPRMT1遺伝子の標的配列を標的とする本発明の二本鎖分子は、標的配列の核酸配列および/または該標的配列に相補的な配列を含有する単離されたポリヌクレオチドを含む。PRMT1遺伝子を標的とするポリヌクレオチドの例としては、SEQ ID NO:17の配列、および/またはこれらのヌクレオチドに相補的な配列を含有するポリヌクレオチドが挙げられる。しかしながら、本発明はこの例に限定されず、上述の核酸配列における軽微な改変は、改変された分子がPRMT1遺伝子の発現を抑制する能力を保持する限りは許容可能である。本明細書において、核酸配列と関連して使用される「軽微な改変」という句は、配列に対する核酸の1つ、2つ、または幾つかの置換、欠失、付加、または挿入を示す。
【0132】
本発明との関連において、核酸の置換、欠失、付加、および/または挿入に対し適用される「幾つか」という用語は、3〜7個、好ましくは3〜5個、さらに好ましくは3〜4個、さらに好ましくは3個の核酸残基を意味し得る。
【0133】
本発明によれば、本発明の二本鎖分子は、実施例で利用される方法を用いて、その能力に関して試験することができる。本明細書の以下の実施例では、PRMT1遺伝子のmRNAの様々な部分のセンス鎖、またはそれに対して相補的なアンチセンス鎖から構成される二本鎖分子を、標準的な方法に従って、がん細胞株におけるPRMT1遺伝子産物の産生を低減させる能力に関して、インビトロで試験した。さらに、例えば、候補分子の非存在下で培養した細胞に比べた、候補二本鎖分子と接触させた細胞におけるPRMT1遺伝子産物の低減は、例えば、実施例1における「定量的RT−PCR」の項で述べられたPRMT1のmRNAに対するプライマーを用いて、RT−PCRにより検出することができる。インビトロでの細胞ベースのアッセイにおいてPRMT1遺伝子産物の産生を低減する配列は、続いて、細胞増殖に及ぼすその阻害効果に関して試験することができる。インビトロでの細胞ベースのアッセイにおいて細胞増殖を阻害する配列は、続いて、PRMT1遺伝子産物の産生の低減およびがん細胞増殖の低減を確認するために、がんを有する動物、例えばヌードマウス異種移植片モデルを用いて、これらのインビボ能力に関して試験することができる。
【0134】
単離されたポリヌクレオチドがRNAまたはそれらの誘導体である場合、ヌクレオチド配列において塩基「t」は「u」に置き換えるものとする。本明細書で使用される場合、「相補性」という用語は、ポリヌクレオチドのヌクレオチドユニット間のワトソンクリック型またはフーグスティーン型の塩基対合を表し、「結合」という用語は、2つのポリヌクレオチド間の物理的なまたは化学的な相互作用を意味する。ポリヌクレオチドが改変ヌクレオチドおよび/または非ホスホジエステル結合を含む場合、これらのポリヌクレオチドもまた同じように互いに結合することができる。一般的に、相補的なポリヌクレオチド配列は、適当な条件下でハイブリダイズして、ほとんどまたは全くミスマッチを含有しない安定二本鎖を形成する。さらに、本発明の単離されたポリヌクレオチドのセンス鎖およびアンチセンス鎖は、ハイブリダイゼーションによって二本鎖分子またはヘアピンループ構造を形成することができる。好ましい態様において、このような二本鎖は10個のマッチ毎にわずか1個のミスマッチしか含有していない。特に好ましい態様では、二本鎖の鎖が完全に相補的である場合、このような二本鎖はミスマッチを含有しない。
【0135】
ポリヌクレオチドは好ましくは、PRMT1では1131ヌクレオチド長未満である。例えば、ポリヌクレオチドは、全ての遺伝子に関して、500ヌクレオチド長未満、200ヌクレオチド長未満、100ヌクレオチド長未満、75ヌクレオチド長未満、50ヌクレオチド長未満、または25ヌクレオチド長未満である。本発明の単離されたポリヌクレオチドは、PRMT1遺伝子に対する二本鎖分子を形成するのに、または該二本鎖分子をコードする鋳型DNAを調製するのに有用である。ポリヌクレオチドが二本鎖分子の形成に使用される場合、ポリヌクレオチドは19ヌクレオチドより長く、好ましくは21ヌクレオチドより長くてもよく、およびより好ましくは、約19〜25ヌクレオチドの長さを有する。あるいは、本発明の二本鎖分子は、センス鎖が、標的配列においてアンチセンス鎖とハイブリダイズして、500ヌクレオチド対未満、200ヌクレオチド対未満、100ヌクレオチド対未満、75ヌクレオチド対未満、50ヌクレオチド対未満、または25ヌクレオチド対未満の長さを有する二本鎖分子を形成する、二本鎖分子であってもよい。好ましくは、二本鎖分子は、約19〜約25ヌクレオチド対の長さを有する。さらに、二本鎖分子のセンス鎖は、好ましくは、500ヌクレオチド未満、200ヌクレオチド未満、100ヌクレオチド未満、75ヌクレオチド未満、50ヌクレオチド未満、30ヌクレオチド未満、28ヌクレオチド未満、27ヌクレオチド未満、26ヌクレオチド未満、25ヌクレオチド未満を含み得、より好ましくは、約19〜約25ヌクレオチドを含み得る。
【0136】
本発明の二本鎖分子は、1つまたは複数の修飾ヌクレオチドおよび/または非ホスホジエステル結合を含有し得る。当技術分野において公知の化学修飾は、二本鎖分子の安定性、利用可能性、および/または細胞取り込みを増大させることができる。当業者は、本発明の分子に取り込むことができる他の種類の化学修飾にも気づくであろう(WO03/070744、WO2005/045037)。一態様では、分解耐性の改善または取り込みの改善を与えるために、修飾を用いることができる。このような修飾の例としては、非限定的に、ホスホロチオエート結合、2’−O−メチルリボヌクレオチド(特に二本鎖分子のセンス鎖上)、2’−デオキシ−フルオロリボヌクレオチド、2’−デオキシリボヌクレオチド、「ユニバーサル塩基」ヌクレオチド、5’−C−メチルヌクレオチド、および逆方向デオキシ塩基残基の組み込みが挙げられる(米国特許出願第20060122137号)。
【0137】
別の態様では、二本鎖分子の安定性を向上させるために、または標的指向化効率を増大させるために、修飾を用いることができる。このような修飾の例としては、非限定的に、二本鎖分子の2つの相補鎖間の化学架橋結合、二本鎖分子の鎖の3’または5’末端の化学修飾、糖修飾、核酸塩基修飾および/または骨格修飾、2−フルオロ修飾リボヌクレオチド、ならびに2’−デオキシリボヌクレオチドが挙げられる(WO2004/029212)。別の態様では、標的mRNAにおける、および/または相補的二本鎖分子鎖における相補的ヌクレオチドに対する親和性の増減に修飾を用いることができる(WO2005/044976)。例えば、非修飾ピリミジンヌクレオチドを2−チオピリミジン、5−アルキニルピリミジン、5−メチルピリミジン、または5−プロピルピリミジンに置換することができる。さらに、非修飾プリンを7−デザプリン、7−アルキルプリン、または7−アルケニルプリンに置換することができる。別の態様では、二本鎖分子が3’オーバーハングを有する二本鎖分子である場合、3’末端のヌクレオチドオーバーハングヌクレオチドをデオキシリボヌクレオチドに置き換えることができる(Elbashir SM et al., Genes Dev 2001 Jan 15, 15(2): 188-200)。さらに詳細には、公開文献、例えば米国特許出願第20060234970号が利用可能である。本発明は、これらの例には限定されず、得られた分子が標的遺伝子の発現を阻害する能力を保持していれば、任意の公知の化学修飾を本発明の二本鎖分子に利用することができる。
【0138】
さらに、本発明の二本鎖分子はDNAおよびRNAの両方を含み得る(例えばdsD/R−NAまたはshD/R−NA)。特に、DNA鎖とRNA鎖とのハイブリッドポリヌクレオチドまたはDNA−RNAキメラポリヌクレオチドは安定性の増大を示す。DNAとRNAとの混合物、すなわちDNA鎖(ポリヌクレオチド)およびRNA鎖(ポリヌクレオチド)から構成されるハイブリッド型二本鎖分子、一本鎖(ポリヌクレオチド)の一方または両方上でDNAおよびRNAの両方を含むキメラ型二本鎖分子等を、二本鎖分子の安定性を向上させるために形成することができる。
【0139】
DNA鎖とRNA鎖とのハイブリッドは、標的遺伝子を発現する細胞に導入した場合に該標的遺伝子の発現を阻害することが可能であれば、センス鎖がDNAであり、アンチセンス鎖がRNAであるか、またはその反対のいずれであってもよい。好ましくは、センス鎖のポリヌクレオチドがDNAであり、アンチセンス鎖のポリヌクレオチドがRNAである。また、キメラ型二本鎖分子は、標的遺伝子を発現する細胞に導入した場合に該標的遺伝子の発現を阻害する活性があれば、センス鎖およびアンチセンス鎖の両方がDNAおよびRNAから構成されるか、またはセンス鎖およびアンチセンス鎖のいずれか一方がDNAおよびRNAから構成されるか、のいずれであってもよい。二本鎖分子の安定性を向上するためには、分子は可能な限り多くのDNAを含有する事が好ましいが、標的遺伝子発現の阻害を誘導するためには、分子は発現の十分な阻害を誘導する範囲内でRNAである事が必要である。
【0140】
キメラ型二本鎖分子の好ましい例では、二本鎖分子の上流部分領域(すなわちセンス鎖またはアンチセンス鎖内の標的配列またはその相補配列に隣接する領域)はRNAである。好ましくは、上流部分領域は、センス鎖の5’側(5’末端)およびアンチセンス鎖の3’側(3’末端)を示す。あるいは、センス鎖の5’末端および/またはアンチセンス鎖の3’末端に隣接する領域が、上流部分領域と称される。すなわち、好ましい態様では、アンチセンス鎖の3’末端に隣接する領域、またはセンス鎖の5’末端に隣接する領域およびアンチセンス鎖の3’末端に隣接する領域の両方がRNAから構成される。例えば、本発明のキメラまたはハイブリッド型の二本鎖分子は以下の組み合わせを含む。
センス鎖:
5’−[−−−DNA−−−]−3’
3’−(RNA)−[DNA]−5’
:アンチセンス鎖、
センス鎖:
5’−(RNA)−[DNA]−3’
3’−(RNA)−[DNA]−5’
:アンチセンス鎖、および
センス鎖:
5’−(RNA)−[DNA]−3’
3’−(−−−RNA−−−)−5’
:アンチセンス鎖。
【0141】
上流部分領域は、好ましくは、二本鎖分子のセンス鎖またはアンチセンス鎖内で、標的配列またはこれに対する相補配列の末端から数えて9〜13ヌクレオチドから構成されるドメインである。さらに、そのようなキメラ型二本鎖分子の好ましい例としては、ポリヌクレオチドの少なくとも上流半分の領域(センス鎖では5’側領域およびアンチセンス鎖では3’側領域)がRNAであり、もう半分がDNAである、19〜21ヌクレオチド鎖長を有するものが挙げられる。そのようなキメラ型二本鎖分子では、アンチセンス鎖全体がRNAである場合、標的遺伝子の発現阻害効果が非常に高くなる(米国特許出願第20050004064号)。
【0142】
本発明において、二本鎖分子は、ヘアピン、例えば低分子ヘアピン型RNA(shRNA)およびDNAおよびRNAからなる低分子のヘアピン(shD/R−NA)を形成することができる。shRNAまたはshD/R−NAは、RNA干渉を介して遺伝子発現をサイレンシングするのに使用することができる、タイトなヘアピンターン(tight hairpin turn)を作る、RNAまたはRNAとDNAとの混合物の配列である。shRNAまたはshD/R−NAは、一本鎖上にセンス標的配列とアンチセンス標的配列とを含み、これらの配列はループ配列によって分けられる。一般的に、ヘアピン構造は、細胞機構によってdsRNAまたはdsD/R−NAに切断され、続いてRNA誘導サイレンシング複合体(RISC)と結合する。この複合体は、dsRNAまたはdsD/R−NAの標的配列に適合するmRNAと結合してこれを切断する。
【0143】
任意のヌクレオチド配列から構成されるループ配列は、ヘアピンループ構造を形成するために、センス配列とアンチセンス配列との間に位置し得る。したがって、本発明は、一般式5’−[A]−[B]−[A’]−3’を有する二本鎖分子も提供し、式中、[A]は標的配列に対応する配列を含むセンス鎖であり、[B]は介在一本鎖であり、かつ[A’]は[A]に対する相補配列を含むアンチセンス鎖である。標的配列は、例えば、PRMT1に関して、SEQ ID NO:17のヌクレオチドの中から選択され得る。
【0144】
本発明はこれらの例には限定されず、[A]における標的配列は、二本鎖分子が標的となるPRMT1遺伝子の発現を抑制する能力を保持していれば、これらの例から改変された配列であってもよい。[A]領域は[A’]領域とハイブリダイズし、[B]領域から構成されるループを形成する。介在一本鎖部分[B]、すなわちループ配列は、好ましくは3〜23ヌクレオチド長であり得る。例えばループ配列は以下の配列の中から選択することができる(http://www.ambion.com/techlib/tb/tb_506.html)。さらに、23ヌクレオチドからなるループ配列は活性siRNAも提供する(Jacque JM et al., Nature 2002 Jul 25, 418(6896): 435-8, Epub 2002 Jun 26):
CCC、CCACC、またはCCACACC:Jacque JM et al., Nature 2002 Jul 25, 418(6896): 435- 8, Epub 2002 Jun 26;
UUCG:Lee NS et al., Nat Biotechnol 2002 May, 20(5): 500-5、Fruscoloni P et al., Proc Natl Acad Sci USA 2003 Feb 18, 100(4): 1639-44, Epub 2003 Feb 10;および
UUCAAGAGA:Dykxhoorn DM et al., Nat Rev Mol Cell Biol 2003 Jun, 4(6): 457-67。
【0145】
ヘアピンループ構造を有する本発明の好ましい二本鎖分子の例は以下に示される。以下の構造では、ループ配列は、AUG、CCC、UUCG、CCACC、CTCGAG、AAGCUU、CCACACC、およびUUCAAGAGAの中から選択することができるが、本発明はこれらに限定されない:
GAGUUCACACGCUGCCACA−[B]− UGUGGCAGCGUGUGAACUC(標的配列SEQ ID NO:17に関する)。
【0146】
さらに、二本鎖分子の阻害活性を増強するために、標的配列のセンス鎖および/またはアンチセンス鎖の3’末端に、3’オーバーハングとして数ヌクレオチドが付加されてもよい。3’オーバーハングを構成するヌクレオチドの好ましい例には「t」および「u」が含まれるが、これに限定されない。付加されるヌクレオチドの数は、少なくとも2個、一般的には2〜10個、好ましくは2〜5個である。付加されるヌクレオチドは、二本鎖分子のセンス鎖および/またはアンチセンス鎖の3’末端で一本鎖を形成する。二本鎖分子が、ヘアピンループ構造を形成する単一のポリヌクレオチドからなる場合、3’オーバーハング配列は単一のポリヌクレオチドの3’末端に付加され得る。
【0147】
二本鎖分子を調製するための方法は特に限定されないが、当技術分野で公知の化学合成方法を使用するのが好ましい。化学合成方法に従って、センスおよびアンチセンスの一本鎖ポリヌクレオチドを別々に合成した後、それらを適当な方法により共にアニーリングして二本鎖分子を得る。アニーリングの具体的な例では、合成一本鎖ポリヌクレオチドは好ましくは少なくとも約3:7、より好ましくは約4:6、最も好ましくは実質的に等モル量(すなわち約5:5のモル比)のモル比で混合される。次に、混合物を二本鎖分子が解離する温度まで加熱した後、徐々に冷ます。アニーリングした二本鎖ポリヌクレオチドは、当技術分野で公知の通常利用される方法によって精製することができる。精製方法の例としては、アガロースゲル電気泳動を利用するか、または残存一本鎖ポリヌクレオチドが、例えば適当な酵素による分解によって任意で取り除かれる方法が挙げられる。
【0148】
PRMT1配列に隣接する調節配列は同一であってもまたは異なっていてもよく、このためこれらの発現は独立に、または時間的もしくは空間的様式で調節することができる。二本鎖分子は、PRMT1遺伝子鋳型を、例えば低分子核RNA(snRNA)U6由来のRNA pol III転写ユニットまたはヒトH1 RNAプロモーターを含有するベクターにクローニングすることによって細胞内で転写することができる。
【0149】
本発明の二本鎖分子を含有するベクター
本明細書に記載の二本鎖分子を1つまたは複数含有するベクター、および該ベクターを含有する細胞も本発明に包含される。
【0150】
具体的には、本発明は、以下の[1]〜[10]のベクターを提供する:
[1]互いにハイブリダイズすることで二本鎖分子を形成するセンス鎖とセンス鎖に相補的なアンチセンス鎖とから構成され、細胞に導入された場合にPRMT1のインビボ発現および細胞増殖を阻害する二本鎖分子をコードするベクター;
[2]SEQ ID NO:17(SEQ ID NO:1のヌクレオチド803〜821位)の標的配列に一致するmRNAに対して作用する二本鎖分子をコードする、[1]に記載のベクター;
[3]センス鎖が、SEQ ID NO:17の標的配列に対応する配列を含有している、[1]に記載のベクター;
[4]約100ヌクレオチド長未満である二本鎖分子をコードする[3]に記載のベクター;
[5]約75ヌクレオチド長未満である二本鎖分子をコードする[4]に記載のベクター;
[6]約50ヌクレオチド長未満である二本鎖分子をコードする[5]に記載のベクター;
[7]約25ヌクレオチド長未満である二本鎖分子をコードする[6]に記載のベクター;
[8]約19〜約25ヌクレオチド長である二本鎖分子をコードする[7]に記載のベクター;
[9]二本鎖分子が、介在一本鎖により連結されたセンス鎖およびアンチセンス鎖の両方を有する単一のポリヌクレオチドから構成される、[1]に記載のベクター;
[10]一般式5’−[A]−[B]−[A’]−3’を有する二本鎖分子をコードするベクターであって、式中、[A]はSEQ ID NO:17の標的配列に対応する配列を含有しているセンス鎖であり、[B]は3〜23ヌクレオチドから構成される介在一本鎖であり、かつ[A’]は[A]に相補的な配列を含有しているアンチセンス鎖である、[9]に記載のベクター。
【0151】
本発明のベクターは、好ましくは、発現可能な形態で本発明の二本鎖分子をコードする。本明細書において、「発現可能な形態で」という語句は、細胞に導入された場合に、ベクターが前記分子を発現することを示す。好ましい態様では、ベクターは、二本鎖分子の発現に必要な調節要素を含む。そのような本発明のベクターは、本発明の二本鎖分子を生成するのに使用でき、またはがんを治療するための活性成分として直接使用することができる。
【0152】
本発明のベクターは、例えば、両方の鎖が(DNA分子の転写によって)発現されるような方法で制御配列がPRMT1配列と機能的に連結するように、PRMT1配列を発現ベクターにクローニングすることによって生成することができる(Lee NS et al., Nat Biotechnol 2002 May, 20(5): 500-5)。例えば、mRNAに対するアンチセンスであるRNA分子が第1のプロモーター(例えばクローニングされたDNAの3’末端と隣接するプロモーター配列)によって転写され、mRNAに対するセンス鎖であるRNA分子が第2のプロモーター(例えばクローニングされたDNAの5’末端に隣接するプロモーター配列)によって転写される。センス鎖とアンチセンス鎖とがインビボでハイブリダイズし、遺伝子をサイレンシングするための二本鎖分子構築物を生成する。あるいは、二本鎖分子のセンス鎖およびアンチセンス鎖をそれぞれコードする2つのベクター構築物が、センス鎖およびアンチセンス鎖をそれぞれ発現した後、二本鎖分子構築物を形成するために利用される。さらに、クローニングされた配列は二次構造(例えばヘアピン)を有する構築物、すなわち標的遺伝子のセンス配列および相補的なアンチセンス配列の両方を含有するベクターの単一転写産物をコードすることができる。
【0153】
本発明のベクターは、標的細胞のゲノムへの安定した挿入を達成するためにそのようなものを具備することもできる(例えば相同的な組換えカセットベクターの説明に関しては、Thomas KR & Capecchi MR, Cell 1987, 51: 503-12を参照されたい)。例えば、Wolff et al., Science 1990, 247: 1465-8、米国特許第5,580,859号、同第5,589,466号、同第5,804,566号、同第5,739,118号、同第5,736,524号、同第5,679,647号、およびWO98/04720を参照されたい。DNAベースの送達技術の例としては、「ネイキッドDNA」、促進性(ブピバカイン、ポリマー、ペプチド媒介性)送達、カチオン性脂質複合体、および粒子媒介性(「遺伝子銃」)または圧力媒介性の送達が挙げられる(例えば米国特許第5,922,687号を参照されたい)。
【0154】
本発明のベクターは例えば、ウイルスベクターまたは細菌ベクターを含む。発現ベクターの例としては、弱毒化ウイルス宿主、例えばワクシニアまたは鶏痘が挙げられる(例えば米国特許第4,722,848号を参照されたい)。このアプローチは、例えば二本鎖分子をコードするヌクレオチド配列を発現するためのベクターとしてのワクシニアウイルスの使用を含む。標的遺伝子を発現する細胞に導入すると、組換えワクシニアウイルスは前記分子を発現し、それにより細胞の増殖を抑制する。使用することのできるベクターの別の例としてはカルメット・ゲラン桿菌(Bacille Calmette Guerin)(BCG)が挙げられる。BCGベクターはStover et al., Nature 1991, 351: 456-60に記載されている。広範な他のベクターが、二本鎖分子の治療的投与および生成に有用である。例としては、アデノウイルスベクターおよびアデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、チフス菌(Salmonella typhi)ベクター、無毒化炭疽毒素ベクター等が挙げられる。例えば、Shata et al., Mol Med Today 2000, 6: 66-71、Shedlock et al., J Leukoc Biol 2000, 68: 793-806、およびHipp et al., In Vivo 2000, 14: 571-85を参照されたい。
【0155】
本発明の二本鎖分子を使用して、がん細胞の増殖を阻害するかもしくは低下させる、またはがんを治療する方法
本発明において、PRMT1についてのdsRNAを、細胞増殖を阻害する能力について試験した。数種類のがん細胞株における遺伝子の発現を効果的にノックダウンした、PRMT1についてのdsRNA(図3)は、細胞増殖の抑制と一致した。
【0156】
したがって、本発明は、PRMT1の発現の阻害を介して、PRMT1遺伝子の機能障害を誘導することにより、細胞増殖、すなわち、膀胱がん、胃がん、直腸結腸がん、乳がん、食道がん、肺がん、リンパ腫、膵臓がん、および精巣がんを阻害するための方法を提供する。PRMT1遺伝子の発現は、PRMT1遺伝子を特異的に標的とする本発明の前記二本鎖分子のいずれかによって阻害され得る。
【0157】
本二本鎖分子および本ベクターの、がん性細胞の細胞増殖を阻害するそのような能力は、それらが、膀胱がん、胃がん、直腸結腸がん、乳がん、食道がん、肺がん、リンパ腫、膵臓がん、および精巣がん等のがんを治療するための方法に使用され得ることを示す。したがって、PRMT1遺伝子は正常器官では最小限しか検出されなかったため(図2)、本発明は、有害作用なしに、PRMT1遺伝子に対する二本鎖分子、または該分子を発現するベクターを投与することによって、がんを有する患者を治療する方法を提供する。
【0158】
具体的には、本発明は、以下の[1]〜[32]の方法を提供する:
[1]互いにハイブリダイズすることで二本鎖分子を形成するセンス鎖とこれに相補的なアンチセンス鎖とから構成され、かつPRMT1遺伝子を過剰発現している細胞におけるPRMT1の発現および細胞増殖を阻害する単離された二本鎖分子を、少なくとも1つ投与する工程を含む、がん細胞の増殖を阻害してがんを治療するための方法であって、該がん細胞またはがんがPRMT1遺伝子を発現している、方法;
[2]二本鎖分子が、SEQ ID NO:17(SEQ ID NO:13のヌクレオチド803〜821位)の標的配列に一致するmRNAにおいて作用する、[1]に記載の方法;
[3]前記センス鎖が、SEQ ID NO:17の標的配列に対応する配列を含有している、[2]に記載の方法;
[4]治療されるがんが膀胱がん、胃がん、直腸結腸がん、乳がん、食道がん、肺がん、リンパ腫、膵臓がん、および精巣がんである、[1]に記載の方法;
[5]二本鎖分子が約100ヌクレオチド長未満である、[3]に記載の方法;
[6]二本鎖分子が約75ヌクレオチド長未満である、[5]に記載の方法;
[7]二本鎖分子が約50ヌクレオチド長未満である、[6]に記載の方法;
[8]二本鎖分子が約25ヌクレオチド長未満である、[7]に記載の方法;
[9]二本鎖分子が約19〜約25ヌクレオチド長である、[8]に記載の方法;
[10]二本鎖分子が、介在一本鎖により連結されたセンス鎖およびアンチセンス鎖の両方を含有している単一のポリヌクレオチドから構成される、[1]に記載の方法;
[11]二本鎖分子が、一般式5’−[A]−[B]−[A’]−3’を有し、式中、[A]はSEQ ID NO:17の標的配列に対応する配列を含有しているセンス鎖であり、[B]は3〜23ヌクレオチドから構成される介在一本鎖であり、かつ[A’]は[A]に相補的な配列を含有しているアンチセンス鎖である、[10]に記載の方法;
[12]二本鎖分子がRNAである、[1]に記載の方法;
[13]二本鎖分子がDNAおよびRNAの両方を含有している、[1]に記載の方法;
[14]二本鎖分子がDNAポリヌクレオチドとRNAポリヌクレオチドとのハイブリッドである、[13]に記載の方法;
[15]センス鎖ポリヌクレオチドおよびアンチセンス鎖ポリヌクレオチドが、それぞれDNAおよびRNAから構成される、[14]に記載の方法;
[16]二本鎖分子がDNAおよびRNAのキメラである、[13]に記載の方法;
[17]アンチセンス鎖の3’末端に隣接する領域、またはセンス鎖の5’末端に隣接する領域およびアンチセンス鎖の3’末端に隣接する領域の両方が、RNAから構成される、[16]に記載の方法;
[18]隣接領域が9〜13ヌクレオチドから構成される、[17]に記載の方法;
[19]二本鎖分子が3’オーバーハングを含有している、[1]に記載の方法;
[20]二本鎖分子が、該分子に加えて、トランスフェクション増強剤と薬学的に許容可能な担体とを含む組成物に含有されている、[1]に記載の方法;
[21]二本鎖分子がベクターによりコードされる、[1]に記載の方法;
[22]ベクターによりコードされる二本鎖分子が、SEQ ID NO:17(SEQ ID NO:1のヌクレオチド803〜821位)の標的配列に一致するmRNAにおいて作用する、[21]に記載の方法;
[23]ベクターによりコードされる二本鎖分子のセンス鎖が、SEQ ID NO:17の中から選択される標的配列に対応する配列を含有している、[22]に記載の方法;
[24]治療されるがんが膀胱がん、胃がん、直腸結腸がん、乳がん、食道がん、肺がん、リンパ腫、膵臓がん、および精巣がんである、[21]に記載の方法;
[25]ベクターによりコードされる二本鎖分子が約100ヌクレオチド長未満である、[23]に記載の方法;
[26]ベクターによりコードされる二本鎖分子が約75ヌクレオチド長未満である、[25]に記載の方法;
[27]ベクターによりコードされる二本鎖分子が約50ヌクレオチド長未満である、[26]に記載の方法;
[28]ベクターによりコードされる二本鎖分子が約25ヌクレオチド長未満である、[27]に記載の方法;
[29]ベクターによりコードされる二本鎖分子が約19〜約25ヌクレオチド長である、[28]に記載の方法;
[30]ベクターによりコードされる二本鎖分子が、介在一本鎖により連結されたセンス鎖およびアンチセンス鎖の両方を含有している単一のポリヌクレオチドから構成される、[21]に記載の方法;
[31]ベクターによりコードされる二本鎖分子が、一般式5’−[A]−[B]−[A’]−3’を有し、式中、[A]はSEQ ID NO:17の標的配列に対応する配列を含有しているセンス鎖であり、[B]は3〜23ヌクレオチドから構成される介在一本鎖であり、かつ[A’]は[A]に相補的な配列を含有しているアンチセンス鎖である、[30]に記載の方法;ならびに
[32]ベクターによりコードされる二本鎖分子が、該分子に加えて、トランスフェクション増強剤と薬学的に許容可能な担体とを含む組成物に含有されている、[21]に記載の方法。
【0159】
本発明の方法を、以下に、より詳細に説明する。
【0160】
PRMT1遺伝子を発現している細胞の増殖は、PRMT1遺伝子に対する二本鎖分子、該分子を発現するベクター、またはそれらを含有している組成物と、細胞を接触させることにより阻害され得る。さらに、細胞をトランスフェクション剤と接触させることもできる。好適なトランスフェクション剤は当技術分野で公知である。「細胞増殖の阻害」という語句は、その細胞が、分子に曝露されていない細胞と比較して、より低い速度で増殖するか、または減少した生存能を有することを示す。細胞増殖は、当技術分野で公知の方法によって、例えば、MTT細胞増殖アッセイを使用して、測定され得る。
【0161】
細胞が本発明の二本鎖分子の標的遺伝子を発現または過剰発現している限り、任意の種類の細胞の増殖を、本方法によって抑制することができる。例示的な細胞には、膀胱がん、胃がん、直腸結腸がん、乳がん、食道がん、肺がん、リンパ腫、膵臓がん、および精巣がんが含まれる。
【0162】
したがって、PRMT1に関連した疾患に罹患しているかまたはそれを発症するリスクを有する患者を、本二本鎖分子、該分子を発現している少なくとも1つのベクター、または該分子を含有している組成物の投与によって治療することができる。例えば、がん患者が、本方法によって治療され得る。がんの種類は、診断される腫瘍の特定の種類によって、標準的な方法により同定され得る。より好ましくは、本発明の方法によって治療される患者は、RT−PCRまたはイムノアッセイによって、患者由来の生検材料におけるPRMT1の発現を検出することにより選択される。好ましくは、本発明の治療の前に、対象由来の生検試料を、当技術分野で公知の方法、例えば、免疫組織化学分析またはRT−PCRによって、PRMT1遺伝子の過剰発現について確認する。
【0163】
細胞増殖を阻害するために、本発明の二本鎖分子は、該分子と対応するmRNA転写産物との結合を達成する形態で、細胞に直接導入することができる。あるいは、上記のように、二本鎖分子をコードするDNAは、ベクターとして細胞に導入することができる。二本鎖分子およびベクターを細胞に導入するために、トランスフェクション増強剤、例えばFuGENE(Roche diagnostices)、Lipofectamine 2000(Invitrogen)、Oligofectamine(Invitrogen)、およびNucleofector(Wako pure Chemical)を利用することができる。
【0164】
治療は、臨床的利点、例えばPRMT1遺伝子の発現の低減、または対象におけるがんのサイズ、有病率、もしくは転移能の減少をもたらす場合に、「有効」とみなされる。治療を予防的に適用する場合、「有効」とは、治療ががんの形成を遅らせるもしくは防ぐか、またはがんの臨床症状を防ぐかもしくは緩和するという意味である。有効性(Efficaciousness)は、特定の腫瘍の種類を診断または治療するための任意の公知の方法に関連して求められる。
【0165】
本発明の二本鎖分子は、準化学量論的な量でPRMT1のmRNAを分解することが理解される。いかなる理論にも束縛されることを望まないが、本発明の二本鎖分子によって、触媒的様式で標的mRNAの分解が起こると考えられている。したがって、標準的ながん治療に比べて、治療効果を発揮するためにがん部位またはその近くへの送達が必要とされる二本鎖分子は有意に少ない。
【0166】
当業者は、例えば対象の体重、年齢、性別、疾患の種類、症状、および他の状態;投与経路;ならびに投与が局所的または全身的のいずれであるかなどの因子を考慮して、所定の対象に投与されるべき本発明の二本鎖分子の有効量を容易に求めることができる。概して、本発明の二本鎖分子の有効量は、がん部位またはその近くにおいて約1ナノモル(nM)〜約100nM、好ましくは約2nM〜約50nM、より好ましくは約2.5nM〜約10nMである細胞内濃度である。より多くのまたはより少ない量の二本鎖分子を投与することができることが意図される。特定の状況において必要とされる正確な用量は、当業者により容易にかつ規定どおりに決定され得る。
【0167】
本方法は、少なくとも1つのPRMT1を発現しているがん、例えば、膀胱がん、胃がん、結腸直腸がん、乳がん、食道がん、肺がん、リンパ腫、膵臓がん、および精巣がんの増殖または転移を阻害するために使用され得る。特に、PRMT1の標的配列(すなわち、SEQ ID NO:17)を含有している二本鎖分子が、がんの治療のために特に好ましい。
【0168】
がんを治療するために、本発明の二本鎖分子は、該二本鎖分子とは異なる薬剤と併用して対象に投与することもできる。あるいは、本発明の二本鎖分子は、がんを治療するために設計された別の治療法と併用して対象に投与することができる。例えば、本発明の二本鎖分子は、がんを治療するまたはがん転移を予防するのに現在利用されている治療法(例えば放射線療法、外科的手術、および化学療法剤、例えばシスプラチン、カルボプラチン、シクロホスファミド、5−フルオロウラシル、アドリアマイシン、ダウノルビシン、またはタモキシフェンを用いた治療)と併用して投与することができる。
【0169】
本方法において、二本鎖分子は、送達試薬と共にネイキッド二本鎖分子として、または該二本鎖分子を発現する組換えプラスミドもしくはウイルスベクターとしてのいずれかで対象に投与することができる。
【0170】
本発明の二本鎖分子と共に投与するのに好適な送達試薬としては、Mirus Transit TKO脂溶性試薬、リポフェクチン、リポフェクタミン、セルフェクチン、またはポリカチオン(例えばポリリジン)、またはリポソームが挙げられる。好ましい送達試薬はリポソームである。
【0171】
リポソームは、特定の組織、例えば肺の腫瘍組織への二本鎖分子の送達に役立ち、二本鎖分子の血液半減期も増大させ得る。本発明における使用に好適なリポソームは、標準的な小胞形成脂質から形成され、概してこれには、中性または負に帯電したリン脂質およびステロール、例えばコレステロールが含まれる。一般的には、所望のリポソームサイズおよび血流中におけるリポソームの半減期などの因子を考慮して、脂質の選択が導かれる。リポソームを調製するのに、例えばSzoka et al., Ann Rev Biophys Bioeng 1980, 9: 467、ならびに米国特許第4,235,871号、同第4,501,728号、同第4,837,028号、および同第5,019,369号(その開示全体が参照により本明細書に引用される)で記載されるような様々な方法が知られている。
【0172】
好ましくは、本発明の二本鎖分子を封入するリポソームは、リポソームをがん部位に送達することができるリガンド分子を含む。腫瘍または血管内皮細胞に広まった受容体に結合するリガンド、例えば腫瘍抗原または内皮細胞表面抗原と結合するモノクローナル抗体が好ましい。
【0173】
特に好ましくは、本発明の二本鎖分子を封入するリポソームは、例えばその構造の表面に結合したオプソニン化阻害部分を有することによって、単核マクロファージおよび網内系によるクリアランスを避けるように改変される。一態様では、本発明のリポソームは、オプソニン化阻害部分およびリガンドの両方を含み得る。
【0174】
本発明のリポソームを調製するのに用いるオプソニン化阻害部分は典型的に、リポソーム膜と結合する巨大な親水性ポリマーである。本明細書で使用される場合、オプソニン化阻害部分は、例えば脂質−可溶性アンカーの膜自体へのインターカレーションによって、または膜脂質の活性基への直接結合によって、膜と化学的にまたは物理的に接着する場合に、リポソーム膜と「結合」する。これらのオプソニン化阻害親水性ポリマーは、例えば米国特許第4,920,016号(その開示全体は参照により本明細書に組み入れられる)に記載されるように、マクロファージ−単球系(「MMS」)および網内系(「RES」)によるリポソームの取り込みを有意に低減する保護表面層を形成する。したがって、オプソニン化阻害部分を用いて改変されたリポソームは、非改変リポソームよりも非常に長く循環中に留まる。この理由から、そのようなリポソームは「ステルス」リポソームと呼ばれることもある。
【0175】
ステルスリポソームは、多孔性または「漏出性(leaky)」微小血管系によって送り込まれる組織中で集積することが知られている。したがって、そのような微小血管系の欠陥を特徴とする標的組織、例えば固形腫瘍は、効率的にこれらのリポソームを集積する。Gabizon et al., Proc Natl Acad Sci USA 1988, 18: 6949-53を参照されたい。さらに、RESによる取り込みの低減が、肝臓および脾臓における有意な集積を防ぐことによって、ステルスリポソームの毒性を低下させる。したがって、オプソニン化阻害部分を用いて改変された本発明のリポソームは、本発明の二本鎖分子を腫瘍細胞に送達することができる。
【0176】
リポソームを改変するのに好適なオプソニン化阻害部分は、好ましくは、分子量が約500ダルトン〜約40,000ダルトン、より好ましくは約2,000ダルトン〜約20,000ダルトンの水溶性ポリマーであり得る。そのようなポリマーとしては、ポリエチレングリコール(PEG)またはポリプロピレングリコール(PPG)誘導体;例えばメトキシPEGまたはPPG、およびPEGまたはPPGステアレート;合成ポリマー、例えばポリアクリルアミドまたはポリN−ビニルピロリドン;直鎖、分岐、または樹状のポリアミドアミン;ポリアクリル酸;多価アルコール、例えばカルボン酸基またはアミノ基が化学結合したポリビニルアルコールおよびポリキシリトール、ならびにガングリオシド、例えばガングリオシドGMが挙げられる。PEG、メトキシPEG、もしくはメトキシPPGのコポリマー、またはそれらの誘導体も好適である。さらに、オプソニン化阻害ポリマーは、PEGと、ポリアミノ酸、多糖、ポリアミドアミン、ポリエチレンアミン、またはポリヌクレオチドのいずれかとのブロックコポリマーであり得る。オプソニン化阻害ポリマーは、アミノ酸またはカルボン酸を含有する天然多糖例えばガラクツロン酸、グルクロン酸、マンヌロン酸、ヒアルロン酸、ペクチン酸、ノイラミン酸、アルギン酸、カラゲナン;アミノ化多糖またはオリゴ糖(直鎖状または分岐状);または、例えばカルボン酸基の結果として生じた連結を有するカルボン酸の誘導体と反応させた、カルボキシル化多糖またはカルボキシル化オリゴ糖でもあり得る。
【0177】
好ましくは、オプソニン化阻害部分はPEG、PPG、またはその誘導体である。PEGまたはPEG誘導体を用いて改変したリポソームは「PEG化リポソーム」と呼ばれることもある。
【0178】
オプソニン化阻害部分は、多くの公知の技術のいずれか1つによってリポソーム膜と結合することができる。例えば、PEGのN−ヒドロキシスクシンイミドエステルは、ホスファチジル−エタノールアミン脂質可溶性アンカーと結合し、続いて膜と結合することができる。同様に、デキストランポリマーは、60℃でNa(CN)BHおよび溶媒混合物、例えば30:12の比のテトラヒドロフランおよび水を用いて、還元アミノ化によってステアリルアミン脂質可溶性アンカーで誘導体化することができる。
【0179】
本発明の二本鎖分子を発現するベクターが上記で検討されている。少なくとも1つの本発明の二本鎖分子を発現するそのようなベクターもまた、直接、またはMirus Transit LT1脂溶性試薬、リポフェクチン、リポフェクタミン、セルフェクチン、ポリカチオン(例えばポリリジン)、またはリポソームを含む好適な送達試薬と共に、投与することができる。本発明の二本鎖分子を発現する組換えウイルスベクターを患者のがん領域に送達する方法は当技術分野の技術範囲内である。
【0180】
本発明の二本鎖分子は、二本鎖分子をがん部位に送達するのに好適な任意の手段によって、対象に投与することができる。例えば、二本鎖分子は、遺伝子銃、電気穿孔法、または他の好適な非経口投与経路もしくは腸内投与経路によって投与することができる。
【0181】
好適な腸内投与経路としては、経口、直腸、または鼻腔内送達が挙げられる。
【0182】
好適な非経口投与経路としては、血管内投与(例えば静脈ボーラス注射、静脈注入、動脈内ボーラス注射、動脈内注入、および血管系へのカテーテル点滴注入);周囲組織および組織内への注射(例えば腫瘍周囲および腫瘍内注射);皮下注入を含む皮下注射または皮下沈着(例えば浸透圧ポンプによって);例えばカテーテルもしくは他の留置装置(例えば、多孔性、非孔性、またはゼラチン様の材料を含む、坐剤またはインプラント)による、がん部位の領域またはその近くの領域への直接適用;ならびに吸入が挙げられる。二本鎖分子またはベクターの注射または注入は、がんの部位でまたはその近くで行われることが好ましい。
【0183】
本発明の二本鎖分子は、単回投与または複数回の投与で投与することができる。本発明の二本鎖分子の投与が注入によるものである場合、注入は、単回の持続投与で行うか、または複数回の注入によって送達することができる。剤の注射は、がん部位の組織、またはがん部位の近くの組織に直接行うことが好ましい。がん部位の組織にまたはがん部位の近くの組織に剤を複数回注射することが特に好ましい。
【0184】
当業者は容易に、本発明の二本鎖分子を所定の対象に投与するのに適当な投与計画を決定することもできる。例えば、二本鎖分子は、例えばがん部位でのまたはその近くでの単回注射または沈着として、対象に1回で投与することができる。あるいは、二本鎖分子は、約3日〜約28日、より好ましくは約7日〜約10日の間、1日1回または2回、対象に投与することができる。好ましい投与計画では、二本鎖分子は1日1回7日間、がん部位にまたはその近くに注射される。投与計画に複数回の投与が含まれる場合、対象に投与される二本鎖分子の有効量は、投与計画全体を通して投与される二本鎖分子の総量を含むことが理解される。
【0185】
本発明の二本鎖分子を含有している組成物
上記に加えて、本発明は、本二本鎖分子または該分子をコードするベクターを含む薬学的組成物も提供する。具体的には、本発明は、以下の[1]〜[32]の組成物を提供する:
[1]PRMT1の発現および細胞増殖を阻害する単離された二本鎖分子を含む、PRMT1遺伝子を発現しているがん細胞の増殖を阻害してPRMT1遺伝子を発現しているがんを治療するための組成物であって、該分子が、互いにハイブリダイズすることで二本鎖分子を形成するセンス鎖とこれに相補的なアンチセンス鎖とから構成される、組成物;
[2]二本鎖分子が、SEQ ID NO:17(SEQ ID NO:1のヌクレオチド803〜821位)の標的配列に一致するmRNAにおいて作用する、[1]に記載の組成物;
[3]二本鎖分子、センス鎖が、SEQ ID NO:17の標的配列に対応する配列を含有している、[2]に記載の組成物;
[4]治療されるがんが膀胱がん、胃がん、直腸結腸がん、乳がん、食道がん、肺がん、リンパ腫、膵臓がん、および精巣がんである、[1]に記載の組成物;
[5]二本鎖分子が約100ヌクレオチド長未満である、[3]に記載の組成物;
[6]二本鎖分子が約75ヌクレオチド長未満である、[5]に記載の組成物;
[7]二本鎖分子が約50ヌクレオチド長未満である、[6]に記載の組成物;
[8]二本鎖分子が約25ヌクレオチド長未満である、[7]に記載の組成物;
[9]二本鎖分子が約19〜約25ヌクレオチド長である、[8]に記載の組成物;
[10]二本鎖分子が、介在一本鎖により連結されたセンス鎖およびアンチセンス鎖を含有している単一のポリヌクレオチドから構成される、[1]に記載の組成物;
[11]二本鎖分子が、一般式5’−[A]−[B]−[A’]−3’を有し、式中、[A]はSEQ ID NO:17の標的配列に対応する配列を含有しているセンス鎖配列であり、[B]は3〜23ヌクレオチドからなる介在一本鎖であり、かつ[A’]は[A]に相補的な配列を含有しているアンチセンス鎖である、[10]に記載の組成物;
[12]二本鎖分子がRNAである、[1]に記載の組成物;
[13]二本鎖分子がDNAおよび/またはRNAである、[1]に記載の組成物;
[14]二本鎖分子がDNAポリヌクレオチドとRNAポリヌクレオチドとのハイブリッドである、[13]に記載の組成物;
[15]センス鎖ポリヌクレオチドおよびアンチセンス鎖ポリヌクレオチドが、それぞれDNAおよびRNAから構成される、[14]に記載の組成物;
[16]二本鎖分子がDNAおよびRNAのキメラである、[13]に記載の組成物;
[17]アンチセンス鎖の3’末端に隣接する領域、またはセンス鎖の5’末端に隣接する領域およびアンチセンス鎖の3’末端に隣接する領域の両方が、RNAから構成される、[14]に記載の組成物;
[18]隣接領域が9〜13ヌクレオチドから構成される、[17]に記載の組成物;
[19]二本鎖分子が3’オーバーハングを含有している、[1]に記載の組成物;
[20]トランスフェクション増強剤と薬学的に許容可能な担体とを含む、[1]に記載の組成物;
[21]二本鎖分子がベクターによりコードされ、かつ組成物に含有されている、[1]に記載の組成物;
[22]ベクターによりコードされる二本鎖分子が、SEQ ID NO:17(SEQ ID NO:1のヌクレオチド803〜821位)の標的配列に一致するmRNAにおいて作用する、[21]に記載の組成物;
[23]ベクターによりコードされる二本鎖分子のセンス鎖が、SEQ ID NO:17の標的配列に対応する配列を含有している、[22]に記載の組成物;
[24]治療されるがんが膀胱がん、胃がん、直腸結腸がん、乳がん、食道がん、肺がん、リンパ腫、膵臓がん、および精巣がんである、[21]に記載の組成物;
[25]ベクターによりコードされる二本鎖分子が約100ヌクレオチド長未満である、[23]に記載の組成物;
[26]ベクターによりコードされる二本鎖分子が約75ヌクレオチド長未満である、[25]に記載の組成物;
[27]ベクターによりコードされる二本鎖分子が約50ヌクレオチド長未満である、[26]に記載の組成物;
[28]ベクターによりコードされる二本鎖分子が約25ヌクレオチド長未満である、[27]に記載の組成物;
[29]ベクターによりコードされる二本鎖分子が約19〜約25ヌクレオチド長である、[28]に記載の組成物;
[30]ベクターによりコードされる二本鎖分子が、介在一本鎖により連結されたセンス鎖およびアンチセンス鎖の両方を含有している単一のポリヌクレオチドから構成される、[21]に記載の組成物;
[31]二本鎖分子が、一般式5’−[A]−[B]−[A’]−3’を有し、式中、[A]はSEQ ID NO:17の標的配列に対応する配列を含有しているセンス鎖であり、[B]は3〜23ヌクレオチドから構成される介在一本鎖であり、かつ[A’]は[A]に相補的な配列を含有しているアンチセンス鎖である、[30]に記載の組成物;ならびに
[32]トランスフェクション増強剤と薬学的に許容可能な担体とを含む、[21]に記載の組成物。
【0186】
本発明の好適な組成物は以下でより詳細に説明される。
【0187】
本発明の二本鎖分子は、好ましくは、当技術分野で公知の技術に従って、対象に投与する前に薬学的組成物として調合することができる。本発明の薬学的組成物は、少なくとも無菌でありかつパイロジェンを含まないことを特徴とする。本明細書で使用される場合、「薬学的組成物」は、ヒトおよび獣医学的使用のための製剤を含む。本発明の薬学的組成物を調製する方法は、例えばRemington's Pharmaceutical Science, 17th ed., Mack Publishing Company, Easton, Pa.(1985)(その開示全体が参照により本明細書に組み入れられる)に記載のように当技術分野の技術範囲内である。
【0188】
本発明の薬学的組成物は、生理学的に許容可能な担体媒体と混合して、本発明の二本鎖分子もしくはこれをコードするベクター(例えば0.1重量%〜90重量%)、または該分子の生理学的に許容可能な塩を含有する。好ましい生理学的に許容可能な担体媒体は、水、緩衝水、通常の生理食塩水、0.4%生理食塩水、0.3%グリシン、ヒアルロン酸等である。
【0189】
さらに、本発明の二本鎖分子は、本発明の組成物中にリポソームとして含有され得る。リポソームの詳細に関しては、「二本鎖分子を使用してがんを治療する方法」の項を参照されたい。
【0190】
本発明の薬学的組成物は、従来の薬学的賦形剤および/または添加剤も含み得る。好適な薬学的賦形剤としては、安定剤、抗酸化剤、浸透圧調整剤、緩衝剤、およびpH調整剤が挙げられる。好適な添加剤としては、生理学的に生体適合性がある緩衝剤(例えば塩酸トロメタミン)、キレート剤(chelant)の添加物(例えばDTPAもしくはDTPA−ビスアミド)もしくはカルシウムキレート錯体(例えばカルシウムDTPA、CaNaDTPA−ビスアミド)、または任意でカルシウム塩もしくはナトリウム塩の添加物(例えば塩化カルシウム、アスコルビン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、もしくは乳酸カルシウム)が挙げられる。本発明の薬学的組成物は、液体形態での使用のために包装されていても、または凍結乾燥されていてもよい。
【0191】
固体組成物には、従来の非毒性固体担体、例えば医薬品グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、タルカム、セルロース、グルコース、スクロース、炭酸マグネシウム等を使用することができる。
【0192】
例えば、経口投与用の固体薬学的組成物は、上記で列挙された担体および賦形剤のいずれかと、10%〜95%、好ましくは25%〜75%の1つまたは複数の本発明の二本鎖分子とを含み得る。エアロゾル(吸入)投与用の薬学的組成物は、上記のようにリポソームに封入された0.01重量%〜20重量%、好ましくは1重量%〜10重量%の1つまたは複数の本発明の二本鎖分子と、噴霧剤とを含み得る。所望に応じて、担体、例えば鼻腔内送達ではレシチンが含まれ得る。
【0193】
上記に加えて、本発明の組成物は、本二本鎖分子のインビボ機能を阻害しない限り、他の薬学的に活性のある成分を含有することができる。例えば組成物は、がんを治療するのに従来使用される化学療法剤を含有することができる。
【0194】
別の態様において、本発明は、PRMT1の発現を特徴とするがんの治療用の薬学的組成物の製造における、本発明の二本鎖核酸分子の使用も提供する。例えば、本発明は、PRMT1を発現しているがんの治療用の薬学的組成物の製造のための、細胞におけるPRMT1遺伝子の発現を阻害する二本鎖核酸分子の使用に関し、該分子は、互いにハイブリダイズすることで二本鎖核酸分子を形成するセンス鎖とこれに相補的なアンチセンス鎖とを含み、かつSEQ ID NO:17の配列を標的とする。
【0195】
あるいは、本発明は、PRMT1遺伝子を過剰発現している細胞におけるPRMT1の発現を阻害する二本鎖核酸分子と共に薬学的または生理学的に許容可能な担体を調合する工程を含む、PRMT1の発現を特徴とするがんの治療用の薬学的組成物を製造するための方法またはプロセスをさらに提供し、該分子は、活性成分として、互いにハイブリダイズすることで二本鎖核酸分子を形成するセンス鎖とこれに相補的なアンチセンス鎖とを含み、かつSEQ ID NO:17の配列を標的とする。
【0196】
別の態様において、本発明は、活性成分を薬学的または生理学的に許容可能な担体と混和する工程を含む、PRMT1の発現を特徴とするがんの治療用の薬学的組成物を製造するための方法またはプロセスも提供し、該活性成分は、PRMT1遺伝子を過剰発現している細胞におけるPRMT1の発現を阻害する二本鎖核酸分子であり、該分子は、互いにハイブリダイズすることで二本鎖核酸分子を形成するセンス鎖とこれに相補的なアンチセンス鎖とを含み、かつSEQ ID NO:17の配列を標的とする。
【0197】
本発明を以下、実施例に関して詳細に説明する。しかし、下記の材料、方法、および例は本発明の局面を例証するだけであり、これらは本発明の範囲を限定する意図は少しもない。したがって、本明細書に記載のものと同様または等価の方法および材料を、本発明の実施または試験に使用することができる。
【0198】
他に規定のない限り、本明細書中で使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者により一般に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載のものと同様または同等の方法および材料を本発明の実施または試験に使用することができるが、好適な方法および材料を以下で説明する。本明細書において言及した全ての刊行物、特許出願、特許、および他の参考文献は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。矛盾が生じた場合には、定義を含めて本明細書に照らし合わせるものとする。さらに、材料、方法、および例は、例示的なものに過ぎず、限定することを意図していない。
【実施例】
【0199】
本発明を以下の実施例でさらに説明するが、これは特許請求の範囲に記載される本発明の範囲を限定しない。
【0200】
実施例1:一般的方法
組織試料およびRNA調製
膀胱切除または経尿道的切除のいずれかの際に、原発性尿路上皮細胞がんの外科的試料126個を採取し、液体窒素中で急速凍結させた。正常膀胱尿路上皮の試料34個を、尿路上皮悪性病変の所見がない患者の肉眼上正常な尿路上皮の区域から採取した。計30個の30μm(マイクロメートル)の切片を、RNA抽出用にホモジナイズし、RNA抽出に使用された組織に隣接する2つの7μmの「サンドイッチ」切片を切り出し、染色し、独立したコンサルタントである泌尿組織病理学者が細胞性および腫瘍悪性度について査定した。さらに、切片は、炎症性細胞浸潤の程度(低、中、および高)に従って類別した。高度の炎症性細胞浸潤を示す試料は除外した(Wallard MJ, et al., Br J Cancer 2006;94:569-577)。
【0201】
製造業者のプロトコルに従い、TRI Reagent(商標)(Sigma, Dorset, UK)を使用して、全RNAを抽出した。DNase工程を含め、RNEasy Minikits(商標)(Qiagen, Crawley, UK)を使用して、RNA純度を最適化した。Agilent 2100(商標)の全RNA生物分析を実施した。各試料に由来する再懸濁RNA 1μlをRNA 6000 NanoLabChip(商標)に適用し、製造業者の指示に従い処理した。全てのチップおよび試薬を、Agilent Technologies(商標)(West Lothian, UK)から調達された。
【0202】
逆転写
全RNA濃度を、Nanodrop(商標)ND1000分光光度計(Nyxor Biotech, Paris, France)を使用して決定した。製造業者の説明書に従って、20μl(マイクロリットル)の反応物中、2μg(マイクログラム)のランダム六量体(Amersham)およびSuperscript III逆転写酵素(Invitrogen, Paisley, UK)を用いて、1マイクログラムの全RNAを逆転写した。次いで、cDNAをPCRグレード水で100倍希釈し、−20℃で保存した。
【0203】
定量的RT−PCR
定量的RT−PCR反応用に、ヒトGAPDH(ハウスキーピング遺伝子)、ヒトSDH(ハウスキーピング遺伝子)、ヒトOMD、およびヒトPRELPについて特異的なプライマーを設計した(表1)。18S増幅用に、TaqMan Ribosomal RNA Control ReagentsをApplied Biosystems(Warrington, UK)から購入した。PCR反応は、製造業者のプロトコルに従い、ABI prism 7700 Sequence Detection System(Applied Biosystems, Warrington, UK)を使用して行った。18S分析のための反応は、逆転写されたRNAの1ng相当分、UNGを含まない50%SYBR GREEN universal PCR Master Mix(Applied Biosystems, Warrington, UK)、各200nMの順方向プライマーおよび逆方向プライマー、ならびに100nMのプローブを含有している10μlのPCR容量で実施した。増幅条件は、50℃で2分間、95℃で10分間、次いで、1サイクルが95℃15秒間および60℃1分間からなる40サイクルであった。標的遺伝子増幅のための反応条件は上記の通り、逆転写されたRNAの5ng相当分を各反応において使用した。
【0204】
(表1)定量的RT−PCRのためのプライマー配列

【0205】
試料内の相対RNAレベルを決定するために、18S反応については2〜0.625ngのRNA、全ての標的遺伝子については20〜0.5ngのRNAの範囲をカバーするcDNAの2倍段階希釈列から、PCR反応の標準曲線を作成した。ABI prism 7700により、40サイクルのPCR反応全体を通して蛍光レベルの変化を測定し、増幅が対数期に入る点に相関するサイクル閾値(Ct)を各試料について得た。この値を、出発鋳型の量の指標として使用した;したがって、より低いCt値は、初期の完全cDNAの量がより多いことを示した。
【0206】
レーザーキャプチャー・マイクロダイセクション
レーザーキャプチャー・マイクロダイセクション用の組織を、上に概説した手順に従って、予め採取した。厚さ7μmの5個の連続切片を各組織から切り取り、製造業者のプロトコルに従い、Histogene(商標)染色溶液(Arcturus, California, USA)を使用して染色した。次いで、スライドを、Pix Cell IIレーザーキャプチャー顕微鏡(Arcturus, CA, USA)を使用したマイクロダイセクションに直ちに移した。この技術は、関心対象の細胞の上にある熱可塑性フィルムを融解し、それに細胞を接着させるために、低出力の赤外レーザーを利用する。
【0207】
各組織内の間質コンパートメントおよび上皮/腫瘍コンパートメントの両方から、およそ10000個の細胞をマイクロダイセクションした。RNAをRNEasy Micro Kit(Qiagen, Crawley, UK)を使用して抽出した。高度の炎症性細胞浸潤を含有している腫瘍または間質の高度炎症性区域を含有しているがんまたは間質の区域は、夾雑を防止するために回避した。
【0208】
上記の通り、全RNAを逆転写し、qRT−PCRを実施した。そのような少量の試料からのRNAの収量は低いため、Nanodrop(商標)定量化は実施しなかったが、内在性18S CT値による補正を、出発の完全RNAの量の正確な基準として使用した。転写物分析をPRMT1遺伝子について実施した。
【0209】
マイクロダイセクションの正確性を確証するために、ビメンチンおよびウロプラキン用のプライマーおよびプローブを調達し、製造業者の説明書(Assays on demand(Applied Biosystems, Warrington, UK))に従いqRT−PCRを実施した。ビメンチンは、間葉系由来細胞に主に発現しており、間質マーカーとして使用された。ウロプラキンは、尿路上皮分化のマーカーであり、90%もの上皮由来腫瘍で保存されている(Olsburgh J, et al., J Pathol 2003;199:41-49)。
【0210】
cDNAマイクロアレイ
ゲノムワイドcDNAマイクロアレイを、National Center for Biotechnology Information(NCBI)のUniGeneデータベースから選択された36864種のcDNAを用いて製作した。このマイクロアレイシステムは、本質的には以前に記載された通りに構築された(Ono K, et al., Cancer Res 2000;60:5007-5011)。簡単に説明すると、様々なヒト器官から単離されたポリ(A)+RNAを鋳型として使用したRT−PCRによって、cDNAを増幅した;アンプリコンの長さは、反復配列またはポリ(A)配列は含めずに、200〜1100bpの範囲であった。
【0211】
siRNAのトランスフェクション
ヒトPRMT1転写物を標的とするためのsiRNAオリゴヌクレオチド二重鎖、または対照siRNAとしてのEGFPおよびFFLucの転写物を標的とするためのsiRNAオリゴヌクレオチド二重鎖を、SIGMA Genosysから購入した。siRNA配列を表2に記載する。siRNA二重鎖(100nM最終濃度)を、lipofectamine2000(Invitrogen)を用いて、48時間、膀胱がん細胞株および肺がん細胞株にトランスフェクトし、cell counting kit 8(同仁化学研究所)を使用して、細胞生存能を確認した。
【0212】
(表2)siRNA配列

【0213】
実施例2:臨床がん組織におけるPRMT1の発現レベルおよびPRMT1タンパク質の細胞内局在
少数の臨床膀胱試料を使用して、幾つかのPRMT1ファミリー遺伝子の発現レベルを比較した手始めの結果は、正常組織と腫瘍組織との間のPRMT1発現の有意な差を示した(データは示していない)。したがって、PRMT1の転写物レベルを定量的に測定するために、より多数の臨床試料のさらなる分析を実施した。膀胱がん試料121個および正常対照試料24個を分析した(図1AおよびB)。PRMT1の発現レベルは、正常組織と比較して腫瘍では有意に高いことが見出された(P<0.0001)。日本人の対象由来の多数の臨床試料を使用して、多くの種類のがんにおけるPRMT1の発現プロファイルもまた、cDNAマイクロアレイにより確認した(表3)。PRMT1の発現レベルは、対応する非腫瘍性組織と比較して、びまん性胃がん、結腸直腸がん、乳がん、食道がん、小細胞肺がん、リンパ腫、非小細胞肺がん、膵臓がん、および精巣がんにおいて有意に上方制御されている。
【0214】
(表3)がん組織におけるPRMT1の遺伝子発現プロファイル

【0215】
これらの遺伝子の発現レベルはcDNAマイクロアレイによって分析した。PRMT1のシグナル強度は、腫瘍組織を、同一患者に由来する対応する非腫瘍性組織と比較することにより作成した。
【0216】
さらに、V5タグ付きPRMT1を発現するプラスミド(pcDNA5/FRT/V5−His−PRMT1)を調製し、ゲノム内にFlp組換え標的(FRT)部位を含有しているFlp−In T−REx293細胞にトランスフェクトした。Flp−In T−REx293からの抽出物を使用したイムノブロット分析は、タグ付きPRMT1タンパク質に対応する40kDaのバンドを示した(図1C)。T−REx293−PRMT1細胞の免疫細胞化学染色によって、タグ付きPRMT1タンパク質が細胞質および核の両方に存在することが明らかになった(図1D)。
【0217】
実施例3:ヒト正常組織におけるPRMT1の発現レベル
アレイ上の36864種の遺伝子の各々の相対発現比(Cy5/Cy3)を算出するために、29種の組織全てに由来するポリ(A)RNAの混合物を対照として使用して、cDNAマイクロアレイ上で、25種の成人ヒト組織および4種の胎児ヒト組織におけるPRMT1の遺伝子発現プロファイルを分析した。各ハイブリダイゼーションシグナルの強度を、Array Visionコンピュータプログラムによって測光法により算出し、バックグラウンド強度を差し引いた。Cy3およびCy5の各蛍光強度の標準化は、52種のハウスキーピング遺伝子からの平均シグナルを使用して行った。詳細な分析結果は、全ての確認された正常組織において、PRMT1の発現レベルが、GAPDHの発現レベルと比較して有意に低いことを示した(図2)。全ての正常組織におけるPRMT1の平均シグナル強度はほぼ10000であったので、この値は36864種の遺伝子の中で相対的に低かった。したがって、PRMT1はがん治療の良好な候補と見なされた。
【0218】
実施例4:がん細胞の生存能に対するPRMT1抑制の効果
PRMT1の上昇した発現が、がん細胞の増殖において重大な役割を果たすか否かを試験するために、PRMT1の発現を特異的に抑制するsiRNAオリゴヌクレオチド二重鎖(siPRMT1#2)を、2つの対照(siEGFPおよびsiFFLuc)と共に調製し、PRMT1を多量に発現している数種類の肺がん細胞株および膀胱がん細胞株にトランスフェクトした。図3Aに示されるように、siPRMT1#2は、対照としてのsiEGFPと比較して、PRMT1の発現を有意に抑制した。その後、PRMT1の抑制が増殖遅滞および/または細胞死をもたらすか否かを試験するために、siRNAオリゴヌクレオチド二重鎖をがん細胞にトランスフェクトし、トランスフェクトされた細胞の増殖を細胞計数キットシステムによって調べた(図3B)。重要なことに、4種の肺がん細胞株(A549、RERF−LC−AI、LC319、およびSBC5)ならびに2種の膀胱がん細胞株(SW780およびSCaBER)へのsiPRMT1#2のトランスフェクションは、siEGFPおよびsiFFLucをトランスフェクトした細胞と比較して、それらの能力を低下させた。さらに、SW780膀胱がん細胞を使用した細胞周期分析のデータは、siPRMT1#2による処理の後、S期の細胞が有意に減少し、Go期およびG1期の細胞が同時に増加することを示した(表4)。これらのデータは、PRMT1が肺がん細胞および膀胱がん細胞の増殖または生存において必須の役割を果たし得ることを示唆している。
【0219】
(表4)siRNA処理後のSW780細胞の細胞周期分析

1:p=0.0173、2:p=0.0110、3:p=0.0107、4:p=0.0022;p値はスチューデントt検定によって算出した。
【0220】
産業上の利用可能性
本発明者らは、PRMT1遺伝子を特異的に標的とする二本鎖核酸分子によって、細胞増殖が抑制されることを示した。したがって、この二本鎖核酸分子は抗がん剤の開発に有用である。例えば、PRMT1タンパク質の発現を阻止するか、またはその活性を妨げる剤は、抗がん剤として、特に膀胱がん、胃がん、直腸結腸がん、乳がん、食道がん、肺がん、リンパ腫、膵臓がん、または精巣がんの治療のための抗がん剤として治療における有用性を示す可能性がある。
【0221】
本発明はその特定の態様を参照して詳細に記載されているが、ここにおいて、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、種々の変更および改変がなされる可能性があることは、当業者にとって明白であろう。本明細書において言及した全ての刊行物、特許出願、特許、および他の参考文献は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。矛盾が生じた場合には、定義を含めて本明細書に照らし合わせるものとする。さらに、材料、方法、および例は、例示的なものに過ぎず、限定することを意図していない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象由来の生物学的試料におけるPRMT1遺伝子の発現レベルを決定する工程を含む、対象におけるがんを検出または診断する方法であって、前記遺伝子の正常対照レベルと比較した前記レベルの増加が、前記対象ががんに罹患しているかまたはがんを発症するリスクを有することを示し、前記発現レベルが、以下からなる群より選択される任意の1つの方法によって決定される、方法:
(a)PRMT1のmRNAを検出する方法、
(b)PRMT1遺伝子によってコードされるタンパク質を検出する方法、および
(c)PRMT1遺伝子によってコードされるタンパク質の生物学的活性を検出する方法。
【請求項2】
前記増加が正常対照レベルより少なくとも10%大きい、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
対象由来の生物学的試料が生検材料である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
がんが膀胱がん、胃がん、結腸直腸がん、乳がん、食道がん、肺がん、リンパ腫、膵臓がん、および精巣がんからなる群より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
以下からなる群より選択される試薬を含む、がんを診断するためのキット:
(a)PRMT1のmRNAを検出するための試薬;
(b)PRMT1遺伝子によってコードされるタンパク質を検出するための試薬;および
(c)PRMT1遺伝子によってコードされるタンパク質の生物学的活性を検出するための試薬。
【請求項6】
試薬がPRMT1の遺伝子転写物に対するプローブである、請求項5に記載のキット。
【請求項7】
試薬がPRMT1遺伝子によってコードされるタンパク質に対する抗体である、請求項5に記載のキット。
【請求項8】
以下の工程を含む、がんを治療もしくは予防するための、またはがん細胞増殖を阻害するための候補化合物をスクリーニングする方法:
(a)試験化合物を、PRMT1遺伝子によってコードされるポリペプチドと接触させる工程;
(b)ポリペプチドと試験化合物との間の結合活性を検出する工程;および
(c)ポリペプチドに結合する化合物を選択する工程。
【請求項9】
以下の工程を含む、がんを治療もしくは予防するための、またはがん細胞増殖を阻害するための候補化合物をスクリーニングする方法:
(a)試験化合物を、PRMT1遺伝子を発現している細胞と接触させる工程;および
(b)試験化合物の非存在下での発現レベルと比較して、PRMT1遺伝子の発現レベルを低下させる試験化合物を選択する工程。
【請求項10】
以下の工程を含む、がんを治療もしくは予防するための、またはがん細胞増殖を阻害するための候補化合物をスクリーニングする方法:
(a)試験化合物を、PRMT1遺伝子によってコードされるポリペプチドと接触させる工程;
(b)工程(a)のポリペプチドの生物学的活性を検出する工程;および
(c)試験化合物の非存在下で検出された生物学的活性と比較して、ポリペプチドの生物学的活性を抑制する試験化合物を選択する工程。
【請求項11】
生物学的活性が細胞増殖活性またはメチルトランスフェラーゼ活性である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
以下の工程を含む、がんを治療もしくは予防するための、またはがん細胞増殖を阻害するための候補化合物をスクリーニングする方法:
(a)PRMT1遺伝子の転写調節領域と、該転写調節領域の制御下で発現されるレポーター遺伝子とを含むベクターが導入されている細胞に、試験化合物を接触させる工程;
(b)前記レポーター遺伝子の発現または活性を測定する工程;および
(c)試験化合物の非存在下でのレベルと比較して、前記レポーター遺伝子の発現または活性のレベルを低下させる試験化合物を選択する工程。
【請求項13】
がんが膀胱がん、胃がん、結腸直腸がん、乳がん、食道がん、肺がん、リンパ腫、膵臓がん、および精巣がんからなる群より選択される、請求項8、9、10、および12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
センス鎖とアンチセンス鎖とを含み、かつPRMT1遺伝子を発現している細胞に導入された場合に該遺伝子の発現を阻害する二本鎖分子であって、前記センス鎖がSEQ ID NO:17からなる標的配列に対応するヌクレオチド配列を含み、前記アンチセンス鎖が前記センス鎖に相補的なヌクレオチド配列を含み、前記センス鎖と前記アンチセンス鎖とが互いにハイブリダイズして二本鎖分子を形成する、二本鎖分子。
【請求項15】
約19〜約25ヌクレオチド長である、請求項14に記載の二本鎖分子。
【請求項16】
一本鎖ヌクレオチド配列を介して連結されたセンス鎖およびアンチセンス鎖を含む単一のポリヌクレオチド分子である、請求項14に記載の二本鎖分子。
【請求項17】
ポリヌクレオチドが下記一般式を有する、請求項16に記載の二本鎖分子:
5’−[A]−[B]−[A’]−3’
式中、[A]はSEQ ID NO:17の標的配列に対応するヌクレオチド配列を含むセンス鎖であり;[B]は約3〜約23ヌクレオチドからなるヌクレオチド配列であり;かつ[A’]は[A]に相補的なヌクレオチド配列を含むアンチセンス鎖である。
【請求項18】
センス鎖核酸およびアンチセンス鎖核酸を含むポリヌクレオチドの組み合わせの各々または両方をコードし、かつPRMT1遺伝子を発現している細胞に導入された場合に該遺伝子の発現を阻害するベクターであって、前記センス鎖核酸がSEQ ID NO:17のヌクレオチド配列を含み、前記アンチセンス鎖が前記センス鎖に相補的なヌクレオチド配列を含み、前記センス鎖の転写物と前記アンチセンス鎖の転写物とが互いにハイブリダイズして二本鎖分子を形成する、ベクター。
【請求項19】
ポリヌクレオチドが約19〜約25ヌクレオチド長のオリゴヌクレオチドである、請求項18に記載のベクター。
【請求項20】
ベクターによってコードされる二本鎖分子が、一本鎖ヌクレオチド配列を介して連結されたセンス鎖およびアンチセンス鎖を含む単一の転写物分子である、請求項18に記載のベクター。
【請求項21】
ポリヌクレオチドが下記一般式を有する、請求項20に記載のベクター:
5’−[A]−[B]−[A’]−3’
式中、[A]はSEQ ID NO:17の標的配列に対応するヌクレオチド配列を含むセンス鎖であり;[B]は約3〜約23ヌクレオチドからなるヌクレオチド配列であり;かつ[A’]は[A]に相補的なヌクレオチド配列を含むアンチセンス鎖である。
【請求項22】
薬学的に有効な量の、PRMT1遺伝子に対する二本鎖分子、またはそれをコードするベクターと、薬学的に許容可能な担体とを対象に投与する工程を含む、対象におけるがんを治療または予防する方法であって、二本鎖分子が、PRMT1遺伝子を発現している細胞に導入された場合に細胞増殖およびPRMT1遺伝子の発現を阻害する、方法。
【請求項23】
二本鎖分子が請求項14に記載の二本鎖分子である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
ベクターが請求項18に記載のベクターである、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
がんが膀胱がん、胃がん、結腸直腸がん、乳がん、食道がん、肺がん、リンパ腫、膵臓がん、および精巣がんからなる群より選択される、請求項22に記載の方法。
【請求項26】
薬学的に有効な量の、PRMT1遺伝子に対する二本鎖分子、またはそれをコードするベクターと、薬学的に許容可能な担体とを含む、がんを治療または予防するための組成物であって、二本鎖分子が、PRMT1遺伝子を発現している細胞に導入された場合に細胞増殖およびPRMT1遺伝子の発現を阻害する、組成物。
【請求項27】
二本鎖分子が請求項14に記載の二本鎖分子である、請求項26に記載の組成物。
【請求項28】
ベクターが請求項18に記載のベクターである、請求項26に記載の組成物。
【請求項29】
がんが膀胱がん、胃がん、結腸直腸がん、乳がん、食道がん、肺がん、リンパ腫、膵臓がん、および精巣がんからなる群より選択される、請求項26に記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−501164(P2012−501164A)
【公表日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−509332(P2011−509332)
【出願日】平成21年8月25日(2009.8.25)
【国際出願番号】PCT/JP2009/004091
【国際公開番号】WO2010/023877
【国際公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(502240113)オンコセラピー・サイエンス株式会社 (142)
【Fターム(参考)】