説明

がんマーカー、及び、がんの治療剤

【課題】新たながんマーカーを提供すること。
【解決手段】BMCC1遺伝子の発現量を指標とする、がんの検出方法であって、上記がんが、前立腺がん、肺がん、胃がん、膀胱がん及び子宮がんからなる群より選ばれる、方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がんマーカー、及び、がんの治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
前立腺がんは、欧米において男性の罹患率が最も高いがんである。日本においても、食生活の欧米化及び人口の高齢化に伴い、前立腺がん患者数が年々増加している。前立腺がんにはアンドロゲン依存的腫瘍とアンドロゲン非依存的腫瘍が存在する。一般に前立腺癌細胞の増殖は、アンドロゲンにより刺激される。そのため、切除不能な進行前立腺がんの治療においては、アンドロゲンの産生及び機能を阻害するアンドロゲンブロック療法がしばしば行われる。前立腺がんは、初めは大部分がアンドロゲン依存的ながんであるためアンドロゲンブロック療法に反応することが多いが、アンドロゲン非依存腫瘍に進行すると、アンドロゲンブロック療法を施すことが出来ない上に良い治療方法が存在しない。そこでアンドロゲン非依存腫瘍に対する効果的治療が必要とされている。
【0003】
BMCC1遺伝子は、千葉県がんセンターにおける研究プロジェクト「神経芽腫の腫瘍由来cDNAマイクロアレイを用いた腫瘍組織の網羅的遺伝子発現解析と、それを利用したがん抑制遺伝子、がん遺伝子、および予後決定因子の同定」の成果として明らかとなった新規遺伝子であり、BMCC1遺伝子の発現が神経芽腫の予後と強い相関を示すことが報告されている(特許文献1及び非特許文献1)。しかしながら、BMCC1遺伝子と前立腺がんとの関与は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−061672号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Machida, T. et al.(2006) Oncogene vol.25,p1931−1942
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
がんに関与する遺伝子の分子機構を解明し、新たな機構に基づく治療薬を開発することができれば、がん診断、及び、がん治療の選択の幅を広げることができる。したがって、本発明の目的の一つは、新たながんマーカーを提供することである。本発明の別の目的は、新たながんの治療剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、がん組織における発現解析の実験結果から、BMCC1遺伝子の発現が、これまでに知られていた神経系組織以外の組織にも発現しており、前立腺がん、肺がん、胃がん、膀胱がん及び子宮がんにおけるBMCC1遺伝子の発現が、正常検体よりも低下していることを見出した。また、DD3特異的なsiRNAによってDD3の発現抑制をすると、BMCC1遺伝子の発現が亢進することを本発明者らは新たに見出した。これらの知見は、初期の前立腺がんにおいてDD3の発現が亢進し、後期の前立腺がんにおいてBMCC1の発現が抑制しているという知見と考え併せて、DD3がBMCC1遺伝子の発現を抑制し、がんの進行を促進している可能性を示唆している。以上の知見から、本発明者らは本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、BMCC1遺伝子の発現量を指標とする、がんの検出方法であって、上記がんが、前立腺がん、肺がん、胃がん、膀胱がん及び子宮がんからなる群より選ばれる、方法を提供する。また、上記がんは、前立腺がんであることが好ましい。
【0009】
また、上記の本発明のがんの検出方法は、がんが疑われる検体におけるBMCC1遺伝子の発現量を測定する工程と、BMCC1遺伝子の発現量を、正常検体、及び、がん検体におけるBMCC1遺伝子の発現量と比較する工程と、がんが疑われる検体におけるBMCC1遺伝子の発現量が、(i)正常検体におけるBMCC1遺伝子の発現量よりも低い、(ii)がん検体におけるBMCC1遺伝子の発現量と同じレベル、又は、(i)及び(ii)の両方に該当する場合に、当該がんが疑われる検体をがんと判定する工程と、を備えることを特徴とする。上記検体は、細胞又は組織片であることが好ましい。
【0010】
本発明のがんの検出方法は、BMCC1遺伝子の発現が、これまでに知られていた神経系組織以外の組織にも発現しており、前立腺がん、肺がん、胃がん、膀胱がん及び子宮がんにおけるBMCC1遺伝子の発現が、正常組織よりも低下しているという本願発明者が発見した知見に基づくものである。これによって、がんの検出方法のためのがんマーカーの提供が可能となる。
【0011】
本発明は、DD3を標的とするsiRNAであって、上記siRNAが、下記(a)〜(d)のいずれかのオリゴヌクレオチド対からなる二本鎖siRNAを提供する。
(a)配列番号11に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド、及び、配列番号12に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド;
(b)配列番号13に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド、及び、配列番号14に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド;
(c)配列番号15に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド、及び、配列番号16に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド;
(d)配列番号30に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド、及び、配列番号31に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド
【0012】
本発明は、さらに、上記siRNAを有効成分とする、がん治療剤を提供する。上記がんは、前立腺がん、肺がん、胃がん、膀胱がん及び子宮がんからなる群より選ばれることが好ましく、前立腺がんであることがより好ましい。
【0013】
DD3は、前立腺がんのマーカーとして知られるnon−coding RNAである。DD3は9番染色体のq21.13にコードされるが、興味深いことに、BMCC1遺伝子の第6イントロンに逆向きに挿入されていることから(図1)、本願発明者はDD3がBMCC1遺伝子の発現を抑制的に制御するという仮説を立て、本願の実施例において検証した。実際に、DD3特異的なsiRNAによってDD3の発現抑制をすると、BMCC1遺伝子の発現が亢進すること、及び、がん細胞の増殖を抑制できることを、本願発明者は始めて見いだした。本発明は上記の知見に基づくものであり、本発明の治療剤によって、がんの進行遅延、症状改善等が期待できる。
【0014】
本発明は、抗がん剤をさらに含む、がん治療剤を提供する。抗がん剤は、シスプラチンであることが好ましい。また、本発明は、抗アンドロゲン剤をさらに含む、がん治療剤を提供する。がんは、前立腺がんであることが好ましい。
【0015】
本発明は、DD3の発現抑制に加えてシスプラチン処理及び/又はアンドロゲン除去を併用することによって、より効果的にがん細胞の増殖を抑制できることができるという知見に基づくものであり、本発明の治療剤によって、がんの進行遅延、症状改善等が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】ヒトのBMCC1遺伝子、PRUNE2遺伝子及びDD3遺伝子の染色体位置を模式的に示す図である。
【図2】ヒト正常組織におけるBMCC1遺伝子、PRUNE2遺伝子及びDD3遺伝子の発現を半定量的RT−PCRによって調べた結果を示す図である。
【図3】ヒト正常組織とがん組織のマッチペアにおけるBMCC1遺伝子及びDD3遺伝子の発現を半定量的RT−PCRによって調べた結果を示す図である。N:正常組織由来サンプル、T:腫瘍細胞組織由来サンプル、ND:評価せず。
【図4】前立腺がん細胞株におけるBMCC1遺伝子、PRUNE2遺伝子及びDD3遺伝子の発現を半定量的RT−PCRによって調べた結果を示す図である。
【図5】DD3 non−coding RNA(ncRNA)の構造、及び、DD3に対するsiRNAの位置を模式的に示す図である。
【図6】DD3に対するsiRNAを導入した前立腺がん細胞株におけるBMCC1遺伝子、PRUNE2遺伝子及びDD3遺伝子の発現を半定量的RT−PCRによって調べた結果を示す図である。
【図7】DD3に対するsiRNAを導入したLNCaP細胞におけるBMCC1遺伝子、PRUNE2遺伝子及びDD3遺伝子の発現を半定量的RT−PCRによって調べた結果を示す図(a)、及び、siRNA導入から48時間後の細胞を示す図(b)である。
【図8】DD3に対するsiRNAを導入したLNCaP細胞におけるBMCC1遺伝子、PRUNE2遺伝子及びDD3遺伝子の発現を半定量的RT−PCRによって調べた結果を示す図である。
【図9】siRNA導入から48時間後のLNCaP細胞におけるBMCC1タンパク質の免疫染色像である。
【図10】DD3に対するsiRNAを導入したLNCaP細胞におけるBMCC1タンパク質のウエスタンブロット像である。
【図11】siRNA導入から48時間後のLNCaP細胞の相対的細胞増殖率を示す図である。
【図12】シスプラチン存在下でのsiRNA導入から48時間後のLNCaP細胞を示す図である。
【図13】シスプラチン存在下でのsiRNA導入から48時間後のLNCaP細胞の相対的細胞増殖率を示す図である。
【図14】シスプラチン存在下でのsiRNA導入から48時間後のアポトーシス細胞を示す図である。
【図15】シスプラチン存在下でのLNCaP細胞の相対的細胞増殖率を示す図である。
【図16】シスプラチン存在下でのsiRNA導入から48時間後のLNCaP細胞の相対的細胞増殖率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0018】
(BMCC1遺伝子及びDD3)
BMCC1遺伝子(CH otif−ontaining molecule at the arboxyl terminal region )は、神経芽腫の予後決定に関与する遺伝子として本願発明者らが同定した遺伝子であり(特許文献1及び非特許文献1)、そのGenBank Accession No.は、AB050197である。BMCC1タンパク質は、340kDaであり、Bcl2/Adenovirus E1B 19kDa interacting protein 2(BNIP2)及びCdc42GAPホモロジードメイン(BCHドメイン)をC末端側に有している。図1は、ヒトのBMCC1遺伝子、PRUNE2遺伝子及びDD3遺伝子の染色体位置を模式的に示す図である。図1に示すとおり、BMCC1遺伝子は、ヒト9番染色体のq21.13に位置する。また、同じ染色体領域に、PRUNE2(GenBank Accession No. NM138818)が存在する。また、BMCC1遺伝子の第6イントロンに逆向きにDD3遺伝子が挿入されていることを見いだした。すなわち、DD3遺伝子の配列は、BMCC1遺伝子の第6イントロンの一部に対して、完全に相補的であった。DD3遺伝子によりコードされるDD3(GenBank Accession No.AF103907)は、前立腺がん抗原(PCA)とも呼ばれるnon−coding RNA(ncRNA)であり、前立腺がんのマーカーとして知られている。しかしながら、DD3の腫瘍発生メカニズムへの関与は明らかとなっていない。
【0019】
本発明者らは、DD3遺伝子の配列がBMCC1遺伝子の配列に相補的であること、及び、以下に示す実施例1及び2の結果から示唆された、BMCC1遺伝子の発現とDD3の発現が逆相関の傾向にあるという知見から、BMCC1の機能抑制機構の一つとして、DD3によるBMCC1の発現抑制機構が存在するという仮説を考えた。以下に示す実施例3〜6により、この仮説をサポートする知見を得た。すなわち、DD3の発現抑制により、BMCC1遺伝子の発現が亢進したことから、DD3がBMCC1遺伝子発現を抑制的に制御していることが強く示唆された。また、DD3の発現抑制により、BMCC1遺伝子の発現を亢進でき、がん細胞の増殖を抑制できることが明らかとなった。
【0020】
前立腺がんは、初めは大部分がアンドロゲン依存的ながんであるためアンドロゲンブロック療法によって治癒することが多いが、その後に再発したものに関してはアンドロゲンブロック療法を施すことが出来ない上に、良い治療方法が存在しない。アンドロゲン依存的な前立腺がんの多くがアンドロゲンブロック療法で治癒することは、アンドロゲンによって誘導される遺伝子群が前立腺のがん化に関わることを示唆している。本発明において初めて明らかとなった、初期の前立腺がんにおいてDD3の発現が亢進し、後期の前立腺がんにおいてBMCC1の発現が抑制しているという知見は、DD3がBMCC1遺伝子の発現を抑制し、がんの進行を促進している可能性を示唆している。したがって、DD3を特異的に発現抑制することにより、BMCC1遺伝子の発現を亢進させることは、がん治療、がんの進行遅延という観点から効果が期待できる。また、以下の実施例7及び8に示す通り、DD3の発現抑制に加えてシスプラチン処理及び/又はアンドロゲン除去を併用することによって、より効果的にがん細胞の増殖を抑制できることが分かった。したがって、本発明の治療剤と、抗がん剤や抗アンドロゲン剤等を用いた他の治療法との併用が有効であることが示唆された。
【0021】
(がんの検出方法)
本実施形態である、がんの検出方法について説明する。本実施形態のがんの検出方法は、BMCC1遺伝子の発現量を指標とする。BMCC1遺伝子をがんマーカーとして用いるものであり、BMCC1遺伝子の発現量が低いこととがんとの相関があるという本発明の知見に基づき、がん細胞又はがん組織を検出する。また、本実施形態のがんの検出方法は、がんが疑われる検体におけるBMCC1遺伝子の発現量を測定する工程と、BMCC1遺伝子の発現量を、正常検体、及び、がん検体におけるBMCC1遺伝子の発現量と比較する工程と、がんが疑われる検体におけるBMCC1遺伝子の発現量が、(i)正常検体におけるBMCC1遺伝子の発現量よりも低い、(ii)がん検体におけるBMCC1遺伝子の発現量と同じレベル、又は、(i)及び(ii)の両方に該当する場合に、当該がんが疑われる検体をがんと判定する工程と、を備える。
【0022】
好適な対象としては、ヒトが挙げられる。がんは、前立腺がん、肺がん、胃がん、膀胱がん及び子宮がんからなる群より選ばれることが好ましく、前立腺がんであることがより好ましい。検体は、検査対象のがんが発症する組織の細胞又は組織片であることが好ましい。
【0023】
ここで、遺伝子の発現量とは、遺伝子の転写産物であるmRNAの発現量及び/又はその翻訳産物であるタンパク質の発現量を指す。mRNAの発現量の測定は、当業者にとって公知の測定系を用いて行えばよく、具体的には、半定量的RT−PCR法、定量的real−time RT−PCR法、定量的ノザンブロッティング法、定量的リボヌクレアーゼプロテクション法等が挙げられる。タンパク質の発現量の測定は、当業者にとって公知の測定系を用いて行えばよく、例えば、定量的ウエスタンブロッティング法、ELISA法等が挙げられる。コントロールとして、ハウスキーピング遺伝子であるGAPDHや、ベータアクチン等のmRNA及び/又はタンパク質の発現量を用い、BMCC1遺伝子等の目的の遺伝子の発現量を標準化する。また、同一の対象から採取した複数のサンプル及び/又は同一のサンプルに由来するアリコットにおける目的遺伝子及び/又はコントロール遺伝子の発現量を測定し、それぞれの平均値から発現量を求めてもよい。これら方法を用いることによって、遺伝子発現を定量的に測定することが可能である。
【0024】
BMCC1 mRNAの検出に用いるプライマー及びプローブは、当業者にとって周知の方法により設計することができる。BMCC1 mRNAの検出に用いるプライマーとしては、BMCC1(BNF2/BNR2)プライマーセット(配列番号1及び2)、kiaa0367F/Rプライマーセット(配列番号8及び9)等が例示できるが、これらに限定されない。また、BMCC1タンパク質の検出に用いる抗体、抗体断片等は当業者にとって周知の方法により調製することができる。利用可能な抗BMCC1抗体としては、BMCC1タンパク質の2074−2093番目の残基(アミノ酸配列:AKKPFSLKADGENPDILTHC、アミノ酸一文字表記;配列番号23)を含むエピトープに対して作製した抗体、BMCC1タンパク質の3068−3088番目の残基(アミノ酸配列:YNDPEMSSMEKDIDLKLKEKP、アミノ酸一文字表記)を含むエピトープに対して作製した抗体、BMCC1タンパク質の1733−1753番目の残基(アミノ酸配列:KSENIYDYLDSSEPAENENKSNPFC、アミノ酸一文字表記)を含むエピトープに対して作製した抗体、市販の抗体等が好適に使用できるが、これらに限定されない。
【0025】
正常検体におけるBMCC1遺伝子の発現量とは、単一又は複数の対象から得られたがん化していない複数の正常組織由来の検体(対照群)から得られた発現量の測定値を統計的に処理したものでもよく、また、がん検体におけるBMCC1遺伝子の発現量とは、単一又は複数のがん患者から得られた複数のがん組織由来の検体(疾患群)から得られた発現量の測定値を統計的に処理したものでもよい。がんの検出に関しては、具体的には、(i)がんが疑われる検体におけるBMCC1遺伝子の発現量が、正常検体におけるBMCC1遺伝子の発現量よりも低い場合、及び/又は、対照群から得られた発現量との比較において、統計的に対照群の分布範囲よりも低い範囲に該当する場合に、がんが疑われる検体ががん検体であると判定することができる。また、(ii)がんが疑われる検体におけるBMCC1遺伝子の発現量が、がん検体におけるBMCC1遺伝子の発現量と同じレベル、及び/又は、疾患群から得られた発現量との比較において、統計的に疾患群の分布範囲に該当する場合に、がんが疑われる検体ががん検体であると判定することができる。(i)及び(ii)の両方に該当する場合も、がんが疑われる検体ががん検体であると判定することができる。
【0026】
(がんの治療剤)
本実施形態である、DD3を標的とするsiRNAは、下記(a)〜(d)のいずれかのオリゴヌクレオチド対からなる二本鎖siRNAである。
(a)配列番号11に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド、及び、配列番号12に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド;
(b)配列番号13に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド、及び、配列番号14に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド;
(c)配列番号15に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド、及び、配列番号16に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド;
(d)配列番号30に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド、及び、配列番号31に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド
【0027】
ここで、siRNAとは、short interfering RNAの略称であり、人工的に化学合成されるかまたは生化学的に合成されたものか、あるいは生物体内で合成されたものか、あるいは約40塩基以上の二本鎖RNAが体内で分解されてできた10塩基対以上の二本鎖RNAを指す。siRNAの長さは、一般的には10〜30塩基、好ましくは約15〜25塩基、より好ましくは19〜23塩基程度である。siRNAは、通常、5'−リン酸、3'−OHの構造を有しており、3'末端は約2塩基突出している。
【0028】
siRNAを細胞に投与すると、RNAi効果によりDD3の発現を特異的に抑制することができる。すなわち、siRNAが細胞に導入されると、このsiRNAに特異的なタンパク質が結合して、RISC(RNA−induced−silencing−complex)が形成される。この複合体は、siRNAと同じ配列を有するmRNAを認識して結合し、RNaseIII様の酵素活性によってsiRNAの中央部でmRNAを切断する。上記のように、siRNAは、siRNAと相同な配列を有するmRNAを分解することにより、その標的となる遺伝子(本発明においては、DD3遺伝子)の発現を抑制することができる。このような現象をRNA干渉(RNAi)という。RNAi現象は、線虫、昆虫、原虫、ヒドラ、植物、脊椎動物(哺乳動物を含む)において見られる現象である。
【0029】
また、別の実施形態においては、上記以外のDD3に特異的なsiRNAを用いてもよい。さらに、上記siRNAを生成するようなshRNA(short hairpin RNA)、dsRNA(double strand RNA)又はそれらを発現できる発現ベクターを用いることができる。shRNA、dsRNAまたはそれらの発現ベクターを細胞に投与すると、細胞内でsiRNAが生成する。RNA発現ベクターのプロモーターには、U6RNAまたはH1RNAの転写系であるRNAポリメラーゼIII(PolIII)のプロモーターを用いることができる。
【0030】
さらに、別の実施形態においては、上記siRNAは、RNA、RNA:DNAハイブリッド、又は、修飾された核酸(RNA、DNA)であってもよい。修飾された核酸の具体例としては、核酸の硫黄誘導体やチオホスフェート誘導体、さらにはポリヌクレオチドアミドやオリゴヌクレオチドアミドの分解に抵抗性を有するもの等が挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【0031】
本実施形態であるがん治療剤は、上記のsiRNAを有効成分とする。がん治療剤は、上記のsiRNAのうち、単独又は2以上の組み合わせを含んでいてもよい。
【0032】
本発明のがん治療剤の製剤化にあたっては、常法に従い、必要に応じて薬学的に許容される担体を添加することができる。例えば、界面活性剤、賦形剤、着色料、着香料、保存料、安定剤、緩衝剤、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤等が挙げられるが、これらに制限されず、その他常用の担体を適宜使用することができる。具体的には、軽質無水ケイ酸、乳糖、結晶セルロース、マンニトール、デンプン、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、白糖、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を挙げることができる。
【0033】
本発明のがん治療剤の剤型の種類としては、例えば、経口剤として錠剤、粉末剤、丸剤、散剤、顆粒剤、細粒剤、軟・硬カプセル剤、フィルムコーティング剤、ペレット剤、舌下剤、ペースト剤等、非経口剤として注射剤、坐剤、経皮剤、軟膏剤、硬膏剤、外用液剤等が挙げられ、当業者においては投与経路や投与対象等に応じた最適の剤型を選ぶことができる。有効成分としての上記siRNAは、製剤中0.1から99.9重量%含有することができる。
【0034】
本発明のがん治療剤の有効成分の投与量は、投与対象、対象臓器、症状、投与方法等により差はあるが、経口投与の場合、一般的に例えば、患者(60kgとして)に対して一日につき約0.1mg〜1,000mg、好ましくは約1.0〜100mg、より好ましくは約1.0〜50mgである。非経口的に投与する場合は、その一回投与量は投与対象、対象臓器、症状、投与方法等によっても異なるが、例えば、注射剤の形では通常例えば、患者(60kgに対して)、一日につき約0.01〜30mg程度、好ましくは約0.1〜20mg程度、より好ましくは約0.1〜10mg程度を静脈注射により投与するのが好都合である。しかしながら、最終的には、剤型の種類、投与方法、患者の年齢や体重、患者の症状等を考慮して、医師の判断により適宜決定することができる。
【0035】
本発明のがん治療剤は、前立腺がん、肺がん、胃がん、膀胱がん及び子宮がん等の予防・治療、好ましくは、前立腺がんの予防・治療に用いられる。
【0036】
別の実施形態において、本発明のがん治療剤は、抗がん剤と組合わせて用いることができる。抗がん剤としては、シスプラチン、ペプロマイシン、イフォアファミド、テガフールウラシル、エストラムチン、ドセタキセル、ジェムシタビン、オキサリプラチン等が挙げられ、中でもシスプラチンが好ましい。また、別の実施形態において、本発明のがん治療剤は、抗アンドロゲン剤と組合わせて用いることができる。さらに別の実施形態において、本発明のがん治療剤は、抗がん剤及び抗アンドロゲン剤と組合わせて用いることができる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明の好適な実施例についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0038】
(実施例1:ヒト正常組織におけるBMCC1遺伝子、PRUNE2遺伝子及びDD3遺伝子の発現解析)
ヒト正常組織から抽出したtotalRNA(Clontech社)を用いて、以下の実験手順で半定量的RT−PCRを行い、BMCC1遺伝子、PRUNE2遺伝子及びDD3遺伝子のmRNA発現を調べた。
【0039】
1−1)cDNA合成
SuperScript First−Strand Synthesis System for RT−PCR(invitrogen社)を使用し、製品のプロトコールに沿ってcDNA合成を行った。行った。なお、cDNA合成には、2μgのtotal RNA、及び、ランダムプライマー(Random Hexamers、invitrogen社)を用いた。
【0040】
1−2)PCR反応
以下の条件でPCR反応を行った。
<プライマー>
BMCC1;
BNF2:5’−ctgaacgatgaagggaaactgtcgataacgc−3’ (配列番号1)及び
BNR2:5’−cactgcctgccacggcttctgttg−3’ (配列番号2)
PRUNE2;
BNF2(配列番号1)及び
PRUNE2R1:5’−cacagcagatgttgaactccaggtgttc−3’ (配列番号3)
DD3;
DD3F3:5’−ggtgggaaggacctgatgatac−3’ (配列番号4)及び
DD3R3:5’−gcacagggcgaggctcatcgatg−3’ (配列番号5)
GAPDH1;
GAPDH1F:5’−accacagtccatgccatcac−3’ (配列番号6)
GAPDH1R:5’−tccaccaccctgttgctgta−3’ (配列番号7)
<反応液組成>
cDNA 1μl
10×rTaq Buffer 1μl
2.5mM dNTPs 1μl
フォワードプライマー(10μM) 0.5μl
リバースプライマー(10μM) 0.5μl
滅菌水 6μl
rTaq 0.1μl
総量 10μl
<反応条件>
上記組成の反応液が入ったチューブをサーマルサイクラー(Gene Amp(R)PCR System 9700、Applied Biosystem社)にセットし、BMCC1(BNF2/BNR2)プライマーセット(配列番号1及び2)の場合は、95℃(2分間)に加熱した後、95℃(15秒間)→59℃(15秒間)→72℃(20秒間)のサイクルを38回行い、さらに72℃で6分間保持した。PRUNE2(BNF2/PRUNE2R1)プライマーセット(配列番号1及び3)の場合は、95℃(2分間)に加熱した後、95℃(15秒間)→59℃(15秒間)→72℃(20秒間)のサイクルを38回行い、さらに72℃で7分間保持した。DD3(F3/R3)プライマーセット(配列番号4及び5)の場合は、95℃(2分間)に加熱した後、95℃(15秒間)→63℃(15秒間)→72℃(20秒間)のサイクルを38回行い、さらに72℃で6分間保持した。GAPDH1(F1/R1)プライマーセット(配列番号6及び7)の場合は、95℃(2分間)に加熱した後、95℃(15秒間)→58℃(15秒間)→72℃(20秒間)のサイクルを28回行い、さらに72℃で6分間保持した。得られたPCR産物は、2%アガロースゲルにて電気泳動し、エチジウムブロマイド(SIGMA社)を用いて検出した。
【0041】
ヒト正常組織におけるBMCC1遺伝子、PRUNE2遺伝子及びDD3遺伝子の発現を半定量的RT−PCRによって調べた結果を図2に示す。その結果、これまでにBMCC1の発現が報告されていた神経系以外の組織でも発現が確認された。また、DD3の発現は、前立腺において顕著であった。
【0042】
(実施例2:ヒト正常組織とがん組織のマッチペアにおけるBMCC1遺伝子及びDD3遺伝子の発現解析)
そこで、種々のがんにおけるBMCC1の発現について、肺がん(2例)、胃がん(2例)、膀胱がん(4例)、子宮がん(1例)、前立腺がん(2例)患者由来の正常組織とがん組織のマッチペアを用いてRT−PCR法によって検討した。
【0043】
ヒト正常組織とがん組織のマッチペアから抽出したtotal RNA(クローンテック社)、及び、BMCC1検出用のプライマーとして、BNF2/BNR2プライマーセット(配列番号1及び2)に加えて、kiaa0367F/Rプライマーセット(配列番号8及び9)を用いた以外は、実施例1に記載の方法を用いた。
【0044】
<BMCC1(kiaa0367F/R)プライマー及びPCR反応条件>
BMCC1;
kiaa0367F:5’−gaagcctctggtccagtcag−3’ (配列番号8)及び
kiaa0367R:5’−cttcggccgtatattctgga−3’ (配列番号9)
BMCC1(kiaa0367F/R)プライマーセットを用いたPCR反応は、95℃(2分間)に加熱した後、95℃(15秒間)→61℃(15秒間)→72℃(20秒間)のサイクルを35回行い、さらに72℃で6分間保持することにより行った。
【0045】
ヒト正常組織とがん組織のマッチペアにおけるにおけるBMCC1遺伝子及びDD3遺伝子の発現を半定量的RT−PCRによって調べた結果を図3に示す。その結果、がん部位では正常部位と比べてBMCC1の発現が低下することがわかった。このことは、がんにおけるBMCC1の機能抑制はその発現低下によることを示唆している。また、複数のがん組織において、DD3の発現が亢進していることがわかった。
【0046】
(実施例3:前立腺がん細胞株におけるBMCC1遺伝子、PRUNE2遺伝子及びDD3遺伝子の発現解析)
DD3がBMCC1の遺伝子発現を抑制的に制御する可能性を検証するために、まず、前立腺がんより樹立した細胞株におけるBMCC1遺伝子、PRUNE2遺伝子及びDD3遺伝子の発現を、以下の方法により確認した。
前立腺がんより樹立した細胞株であるLNCaP細胞株、PC3細胞株、及び、Du145細胞株を植田先生(千葉がん泌尿器科部長)より供与頂き、これらを使用した。LNCaP細胞はアンドロゲン依存的な細胞株で、PC3細胞とDu145細胞はアンドロゲン非依存的な細胞株である。これらの細胞株の性質を表1に示す。また、コントロールとして、神経芽腫細胞株であるSK−N−BE細胞株を用いた。
【0047】
【表1】

【0048】
各細胞株の培養細胞(100mm dish、80%コンフルエント)を回収し、1mlのISOGEN(ニッポンジーン社)に懸濁後、製品のプロトコールに従ってtotal RNAを精製した。cDNA合成及びPCR反応は、実施例1に記載の方法を用いた。ただし、DD3検出用のプライマーとして、F3/R3プライマーセット(配列番号4及び5)に加えて、F3/Rプライマーセット(配列番号4及び10)を用いた。
【0049】
<DD3(F3/R)プライマー及びPCR反応条件>
DD3;
F3(配列番号4)及び
DD3R:5’−tcctgcccatcctttaagg−3’ (配列番号10)
DD3(F3/R)プライマーセットを用いたPCR反応では、96℃(5分間)に加熱した後、96℃(30秒間)→62℃(60秒間)のサイクルを35回行った。
【0050】
前立腺がん細胞株におけるBMCC1遺伝子、PRUNE2遺伝子及びDD3遺伝子の発現を半定量的RT−PCRによって調べた結果を図4に示す。その結果、DD3は、アンドロゲン依存的なLNCaP細胞で高発現することが確認できた。興味深いことにBMCC1の発現もLNCaP細胞で高いこと、より悪性度の高い前立腺がんに相当するPC3細胞及びDu145細胞ではBMCC1の発現が低下していることが明らかとなった。このことは、前立腺がんが進行するとBMCC1遺伝子の発現が抑制的に制御されることを示唆している。
【0051】
(実施例4:DD3に対するsiRNAによるDD3発現抑制がBMCC1遺伝子発現に与える影響)
次に、DD3に対するsiRNAによるDD3発現抑制がBMCC1遺伝子発現に与える影響を調べるために、siRNAを導入した前立腺がん細胞株(LNCaP細胞株及びPC3細胞株)から抽出したtotal RNAを用いて半定量的RT−PCTを行った。
【0052】
DD3に対する3種類のsiRNAを設計及び購入した(INTEGRATED DNA TECHNOLOGIES社)。DD3 ncRNAの構造、及び、DD3に対するsiRNAの位置を図5に模式的に示した。DD3に対する3種類のsiRNA(DD3 siRNA1、2及び3)の配列は以下の通りである。
DD3 siRNA1:5’−ggaaccaagauacaaagaacucuga−3’ (配列番号11)及び5’−ucagaguucuuuguaucuugguuccuu−3’ (配列番号12)
DD3 siRNA2:5’−ucacuagaaacagcaagaugacaat−3’ (配列番号13)及び5’−auugucaucuugcuguuucuagugaug−3’ (配列番号14)
DD3 siRNA3:5’−ggcauacuauaucaacuuugauuct−3’ (配列番号15)及び5’−agaaucaaaguugauauaguaugccaa−3’ (配列番号16)
コントロールsiRNA:センス鎖5’−cuuccucucuuucucucccuuguga−3’ (配列番号17)及びアンチセンス鎖5’−ucacaagggagagaaagagaggaagga−3’ (配列番号18)
【0053】
siRNAの形質導入には、キアゲン社のHiPerfectを用いた。製品のプロトコールに従って、各細胞株の培養細胞に、5nMの各siRNAを形質導入した。形質導入から48時間後に培養細胞を回収し、製品のプロトコールに従ってtotal RNAを精製した。cDNA合成及びPCR反応は、実施例1〜4に記載の方法を用いた。ただし、DD3検出用のプライマーとして、図6ではDD3(F3/R)プライマーセット(配列番号4及び10)、図7ではDD3(taqF4/taqR2)プライマーセット(配列番号21及び22)を用いた。BMCC1検出用のプライマーとして、BMCC1(BNF2/BNR2)プライマーセット(配列番号1及び2)、PRUNE2検出用のプライマーとして、PRUNE2(BNF2/PRUNE2R1)プライマーセット(配列番号1及び3)、GAPDH1検出用のプライマーとして、GAPDH1(F/R)プライマーセット(配列番号6及び7)を用いた。
【0054】
<DD3(taqF4/taqR2)プライマー及びPCR反応条件>
DD3;
taqF4:5’−cacagagatccctgggagaaat−3’ (配列番号21)及び
taqR2:5’−ctgcccatcctttaaggaacac−3’ (配列番号22)
<反応液組成>
cDNA 1μl
10×LA−Taq Buffer 1μl
2.5mM dNTPs 1μl
2.5mM MgCl 1μl
フォワードプライマー(10μM) 0.5μl
リバースプライマー(10μM) 0.5μl
滅菌水 5μl
LA−Taq 0.1μl
総量 10μl
DD3(taqF4/taqR2)プライマーセットを用いたPCR反応は、LA−Taq(タカラバイオ株式会社)を含む上記組成の反応液入ったチューブをサーマルサイクラー(Gene Amp(R)PCR System 9700、Applied Biosystem社)にセットし、95℃(2分間)に加熱した後、95℃(15秒間)→60℃(15秒間)→72℃(20秒間)のサイクルを35回行い、さらに72℃で7分間保持することにより行った。
【0055】
DD3に対するsiRNAを導入した前立腺がん細胞株におけるBMCC1遺伝子、PRUNE2遺伝子及びDD3遺伝子の発現を半定量的RT−PCRによって調べた結果を図6及び7に示す。その結果、いずれのsiRNAにおいてもDD3の発現抑制が確認された(図6及び7)。DD3を発現抑制した細胞では、アンドロゲン依存性に関係なくLNCaP細胞とPC3細胞の両方においてBMCC1の発現が亢進することが明らかとなった(図6)。
【0056】
(実施例5:抗BMCC1抗体の作製)
BMCC1タンパク質の2074−2093番目の残基(アミノ酸配列:AKKPFSLKADGENPDILTHC、アミノ酸一文字表記;配列番号23;MBL社製合成ペプチド)を抗原ペプチドとして用い、以下の手順により抗BMCC1抗体を作製した。
【0057】
抗原ペプチドを用いてウサギ(Japanese white rabbit)への免疫及び追加免疫を行った。8回目の免疫後に全採血を行い、抗原ペプチドを固相化したカラムを用いて、抗原ペプチドを特異的に認識する抗体成分を精製した。抗原ペプチドを使用したELISA解析により、抗体の特異性を確認した。得られた抗体成分を抗BMCC1抗体として、以下の実験に用いた。
【0058】
(実施例6:DD3発現抑制がBMCC1タンパク質発現及び細胞増殖に与える影響)
実施例5と同様の手法により、siRNAをリポフェクション法(HiPerfect、キアゲン社)にて導入した後、48時間培養を行ったヒト前立腺がん細胞株LNCaPより抽出した全RNAを用いてcDNA合成し、半定量的RT−PCRを行った(図8)。
BMCC1に対するsiRNAとして、以下の配列を有するsiRNAを設計及び購入した(INTEGRATED DNA TECHNOLOGIES社)。
siBMCC1−1:5’−ggagaaggauauugacuugaagctg−3’ (配列番号24)及び5’−cagcuucaagucaauauccuuucuccau−3’ (配列番号25)
siBMCC1−2:5’−ggaguaucaggaagcaaaucaggta−3’ (配列番号26)及び5’−uaccugauuugcuuccugauacuccaa−3’ (配列番号27)
siBMCC1−3:5’−cccagugagauaaacaaugaagcag−3’ (配列番号28)及び5’−cugcuucauuguuuaucucacugggug−3’ (配列番号29)
また、DD3に対するsiRNAとして、DD3 siRNA1(配列番号11及び12)、DD3 siRNA3(配列番号15及び16)及びDD3 siRNA4(配列番号30及び31)を用いた。
DD3 siRNA4:5’−ggaguuagauuuaugcauauugugguu−3’ (配列番号30)及び5’−ccacaauaugcauaaaucuaacucc−3’ (配列番号31)
【0059】
DD3検出用のプライマーとして、DD3(F3/R)プライマーセット(配列番号4及び10)、BMCC1検出用のプライマーとして、BMCC1N(BNF2/BNR2)プライマーセット(配列番号1及び2)及びBMCC1C(kiaa0367F/R)プライマーセット(配列番号8及び9)、PRUNE2検出用のプライマーとして、PRUNE2(BNF2/PRUNE2R1)プライマーセット(配列番号1及び3)、Caspase−3検出用のプライマーとして、Caspase−3(F/R)プライマーセット(非特許文献1参照)、PSA検出用のプライマーとして、PSA(F/R)プライマーセット(配列番号32及び33)、ADR検出用のプライマーとして、ADR(F/R)プライマーセット(配列番号34及び35)、GAPDH1検出用のプライマーとして、GAPDH1(F/R)プライマーセット(配列番号6及び7)を用いた。
<PSA(F/R)プライマー及びADR(F/R)プライマー>
PSA;
F:5’−gcctctcgtggcagggcagt−3’ (配列番号32)及び
R:5’−gggtgaacttgcgcacacac−3’ (配列番号33)
ADR;
F:5’−tcaaaagagccgctgaagggaaaca−3’ (配列番号34)及び
R:5’−acaccatgagccccatccaggagta−3’ (配列番号35)
【0060】
次に、DD3又はBMCC1を発現抑制した細胞におけるBMCC1タンパク質の発現を、抗BMCC1抗体を用いた免疫染色及びウエスタンブロットによって確認した(図9及び10)。免疫染色の手順は以下の通りである。siRNAを導入後48時間経った細胞を10%ホルマリンにて室温15分間固定した後、0.1%TritonXを含むPBSで室温10分間処理した。さらに、抗BMCC1抗体(1/500希釈)で室温3時間、Alexa488でラベルした抗ウサギ抗体(Molecular Probe社、1/1000希釈)で室温2時間処理を行った。核をDAPIで染色した細胞は共焦点レーザー顕微鏡(ライカ社)にて観察を行った。siRNA導入から48時間後のLNCaP細胞におけるBMCC1タンパク質の免疫染色像(核:青色、BMCC1:緑色、Cy3−siRNA:赤色)を図9に示す。
【0061】
ウエスタンブロットの手順は以下の通りである。siRNAを導入後48時間経った細胞全抽出液をSDS−pageにて分離し、PVDF膜(ミリポア社)に転写した後、抗BMCC1抗体(1/500希釈)で室温3時間、HRPでラベルした抗ウサギ抗体(ZYMED社、1/1500希釈)で室温2時間処理を行った。メンブレンはECL(GE healthcare社)にて発色させた後、X線フィルム(富士フィルム社)に感光させて検出を行った。DD3に対するsiRNAを導入したLNCaP細胞におけるBMCC1タンパク質のウエスタンブロット像を図10に示す。
【0062】
さらに、siRNAを導入後48時間経った細胞の増殖(Viability)はWST−8 kit(DOJINDO社)を用い、マニュアルに従って測定した。siRNA導入から48時間後の細胞増殖を図11に示す。
【0063】
その結果、DD3の発現を抑制したLNCaP細胞においてBMCC1の発現亢進がRT−PCRによって確認された(図8)。mRNAレベルの解析に加えて、タンパク質レベルにおいてもBMCC1の発現が亢進されることが、抗BMCC1抗体を用いた免疫染色とウエスタンブロットによっても確認された(図9及び10)。さらに、DD3を発現抑制したLNCaP細胞において細胞増殖が抑制されることが確認された(図11)。
【0064】
(実施例7:抗がん剤シスプラチン存在下におけるDD3発現抑制が前立腺がん細胞に与える影響)
シスプラチン存在下におけるDD3発現抑制が前立腺がん細胞に与える影響を以下の手法により調べた。DD3に対するsiRNAを導入したLNCaP細胞をDMSO(ナカライテスク社)又はシスプラチン(cisplatin、CDDP;SIGMA社)で48時間処理した後、顕微鏡(ライカ社)観察を行った(図12)。また、siRNA導入から48時間後の細胞の増殖(Viability)をWST−8 kitを用いて測定した(図13)。アポトーシス細胞の検出は、TUNELアッセイkit(Roche社)を用いてマニュアルに従って行い、共焦点レーザー顕微鏡(ライカ社)観察にて定量を行った。図14に、siRNA導入から48時間後のLNCaP細胞におけるアポトーシス細胞の検出結果(核:青色、アポトーシス細胞:赤色)を示す。なお、条件毎に、それぞれ約400個の細胞についてアポトーシス細胞/核の割合を測定し、割合(%)を各パネルの下部に記載した。
【0065】
その結果、DD3の発現を抑制したLNCaP細胞において抗がん剤シスプラチンに対する感受性が上昇することが明らかとなった(図12〜14)。すなわち、シスプラチンによる前立腺がん細胞の増殖抑制効果(図12及び13)及び細胞死の促進効果(図14)が、DD3の発現抑制により相加的及び/又は相乗的に増強されることが分かった。
【0066】
(実施例8:アンドロゲン非存在下におけるDD3発現抑制が前立腺がん細胞に与える影響)
初期段階の前立腺がんは大部分がアンドロゲン依存的であるためアンドロゲンブロック療法が有効であることが知られている。また、LNCaP細胞の増殖はアンドロゲン非存在下で抑制される。そこで、アンドロゲン非存在下におけるDD3発現抑制及びシスプラチン処理が前立腺がん細胞に与える影響を以下の方法により調べた。まず、LNCaP細胞を5%の低アンドロゲン含有FBS(invitrogen社)添加RPMI培地中で、DMSO又はCDDP処理を48、72時間行った後、細胞の増殖についてWST−8 kitを用いて測定した(図15)。次に、siRNAを導入したLNCaP細胞について5%の低アンドロゲン含有FBS添加RPMI培地中で、DMSO又はCDDP(SIGMA社)処理を48時間行った後、細胞の増殖をWST−8 kitを用いて測定した(図16)。
【0067】
その結果、アンドロゲン非存在下でのLNCaP細胞の増殖抑制効果が、シスプラチン処理によってさらに増強された(図15)。ホルモン療法と抗がん剤との併用による前立腺癌の治療は臨床で行われている。興味深いことに、DD3を発現抑制したLNCaP細胞はアンドロゲン非存在下でシスプラチン処理を行うことによって相乗的に細胞の増殖が抑制されることが明らかとなった(図16)。また、アンドロゲン非存在下でのLNCaP細胞の増殖抑制効果が、DD3の発現抑制によってさらに増強された(図16、CDDP添加なしのデータ)。したがって実施例7及び8の結果から、DD3の発現抑制に加えてシスプラチン処理及び/又はアンドロゲン除去を併用することによって、より効果的に細胞の増殖が抑制されることが分かった。この結果は、BMCC1の発現が、DD3の発現抑制に加えて、シスプラチン処理及びアンドロゲン除去によってもそれぞれ上昇することと相関している。反対に、DD3の発現抑制に加えてBMCC1の発現を抑制した細胞は部分的ではあるが細胞の増殖抑制が解除されることも分かった(図11)。したがって、DD3の発現抑制及び他の治療法との併用は、前立腺癌の新規治療法として有用であると考えられる。
【0068】
以上より、初期段階の前立腺がんに相当するアンドロゲン依存的がん細胞において、DD3の発現が亢進し、前立腺がんが進行するとBMCC1遺伝子の発現が抑制的に制御されるという知見(図4)と、DD3の発現抑制によりBMCC1遺伝子の発現が亢進するという知見(図6及び7)から、DD3がBMCC1遺伝子の発現を抑制し、がんの進行を促進している可能性が強く示唆された。BMCC1はアポトーシスを促進する働きを持ち、がん抑制遺伝子としての側面を持つことから、DD3をsiRNAで発現抑制してBMCC1の発現を回復させるという本願の実施例において見出した方法は、がんの治療に有用と考えられる。実際に、DD3の発現抑制によってBMCC1の発現がmRNAレベル及びタンパク質レベルにおいて亢進されること(図6〜10)、及び、DD3の発現抑制によって前立腺がん細胞の細胞増殖が抑制され、細胞死が促進されること(図11及び14)から、DD3の発現抑制がBMCC1遺伝子の発現を亢進し、がんの進行を抑制することが明らかとなり、DD3に対するsiRNAが、がんの治療剤として有用であることが示唆された。また、PC3細胞の結果(図6)から、治療の難しいアンドロゲン非依存性の前立腺がんの治療法としても有用であると考えられる。
【0069】
さらに、DD3の発現抑制に加えてシスプラチン処理及び/又はアンドロゲン除去を併用することによって、より効果的に細胞の増殖が抑制されることが分かった(実施例7及び8)。したがって、本発明の治療剤と、抗がん剤やアンドロゲンブロック療法等の他の治療法との併用が有効であることが示唆された。
【0070】
また、DD3の発現はアンドロゲン依存的であることから、アンドロゲン非依存的な前立腺がんでは検出することができない。したがって、より悪性化した前立腺がんにおいてはDD3の発現亢進よりもBMCC1の発現低下の方がより良いマーカーとなりうる。すなわちBMCC1の発現量を、RT−PCRによりmRNAレベルで、又は、抗体を用いてタンパク質レベルでモニターする手法は、がん細胞の検出にも有用であることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
BMCC1遺伝子の発現量を指標とする、がんの検出方法であって、
前記がんが、前立腺がん、肺がん、胃がん、膀胱がん及び子宮がんからなる群より選ばれる、方法。
【請求項2】
がんが疑われる検体におけるBMCC1遺伝子の発現量を測定する工程と、
前記BMCC1遺伝子の発現量を、正常検体、及び、がん検体におけるBMCC1遺伝子の発現量と比較する工程と、
がんが疑われる検体におけるBMCC1遺伝子の発現量が、
(i)正常検体におけるBMCC1遺伝子の発現量よりも低い、
(ii)がん検体におけるBMCC1遺伝子の発現量と同じレベル、又は、
(i)及び(ii)の両方
に該当する場合に、当該がんが疑われる検体をがんと判定する工程と、
を備える、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記検体が、細胞又は組織片である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記がんが、前立腺がんである、請求項1〜3いずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
DD3を標的とするsiRNAであって、
前記siRNAが、下記(a)〜(d)のいずれかのオリゴヌクレオチド対からなる二本鎖siRNA。
(a)配列番号11に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド、及び、配列番号12に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド;
(b)配列番号13に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド、及び、配列番号14に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド;
(c)配列番号15に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド、及び、配列番号16に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド;
(d)配列番号30に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド、及び、配列番号31に記載の配列からなるオリゴヌクレオチド
【請求項6】
請求項5に記載のsiRNAを有効成分とする、がん治療剤。
【請求項7】
前記がんが、前立腺がん、肺がん、胃がん、膀胱がん及び子宮がんからなる群より選ばれる、請求項6に記載のがん治療剤。
【請求項8】
前記がんが、前立腺がんである、請求項6に記載のがん治療剤。
【請求項9】
抗がん剤をさらに含む、請求項8に記載のがん治療剤。
【請求項10】
前記抗がん剤が、シスプラチンである、請求項9に記載のがん治療剤。
【請求項11】
抗アンドロゲン剤をさらに含む、請求項8〜10いずれか一項に記載のがん治療剤。

【図11】
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【図13】
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【図16】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図12】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−148501(P2010−148501A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−267463(P2009−267463)
【出願日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【出願人】(000160522)久光製薬株式会社 (121)
【出願人】(591014710)千葉県 (49)
【Fターム(参考)】