説明

がん幹細胞を可視化・排除するための組成物および方法

本発明は一般には、がん診断および治療の分野、特に幹様特性を持つがん細胞を排除する上で有益な組成物および方法に関連する。開示された組成物はまた、転移性乳がん、卵巣がん、子宮頸がんまたは子宮内膜(子宮)がんの管理、および患者体内におけるがん細胞の可視化にも有益でありうる。本発明の組成物にはヒトプロラクチン受容体拮抗薬G129Rを含む。例えば、ヒトプロラクチン受容体拮抗薬の有効量の患者への投与を含み、がん細胞がエストロゲン受容体、プロゲステロン受容体およびHer2/neuから成る一群から選定される受容体を発現せず、さらに、該がん細胞が卵巣がん細胞、子宮(子宮内膜)がん細胞、子宮頸がん細胞および乳がん細胞から成る一群から選定される、患者におけるがん細胞の成長を阻害する方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2009年2月26日に提出された米国仮出願第61/155,624号の利益を請求し、その内容を参照により本明細書に組み込む。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、一般にはがん診断および治療の分野、特にHER2乳がん細胞や、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体またはHER2/neuを発現しないトリプルネガティブ乳がん細胞、および幹様特性を持つがん細胞を排除する上で有益な組成物および方法に関連する。本発明の組成物および方法はまた、転移性乳がんの管理、および患者の体内における乳がん細胞の可視化にも有益でありうる。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
乳がんは、エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体およびHer2/neuを発現するかしないかによって亜類型に分類される。がん治療の開始前に、一部の薬物はエストロゲン受容体を発現するがん細胞を標的とする一方、他の薬物は他の受容体を発現するがん細胞を標的とするため、患者のがん亜類型を特定しておくことが重要である。HER2/neu遺伝子は、哺乳類の腫瘍形成、腫瘍増殖および転移と因果関係があるとされてきた。HER2/neuはヒト乳がんの20〜30%で増幅し、乳がんのHER2陽性亜類型は進行性の高い転移性疾患と関連付けられる。(Korkaya et al. 2008. Oncogene)。本発明は、HER2陽性乳がん細胞の排除に使用できる新しい組成物および方法を提供することで、HER2陽性乳がんの治療に有益でありうる。
【0004】
最近、乳がん細胞の新しい亜類型が特定された。これらのがん細胞はエストロゲン受容体、プロゲステロン受容体またはHer2/neuを発現しないため、トリプルネガティブ乳がん細胞と呼ばれている。(非特許文献1(Dent et al. 2007. Clinical Cancer Research 13: 4429−4434))。Cancer Research UK(2007年)によれば、トリプルネガティブ乳がんの症例は乳がんの全症例の約15%を占める。他の既知の乳がん亜類型と比べて、トリプルネガティブ亜類型はより進行性が高く、標準治療に対する反応が低く、患者の予後全体の不良とも関連付けられる。(非特許文献1(Dent et al. 2007. Clinical Cancer Research 13: 4429−4434))。そのため、トリプルネガティブ乳がん患者を診断・治療する組成物および方法に対する必要性が依然として存在する。
【0005】
最近の研究では、乳がんを含むさまざまながんは、自己複製経路の脱制御を通して一部のがん幹細胞(CSC)から生じると指摘されている。幹細胞様特性を持つ乳がん細胞の亜母集団はCD44およびCD133陽性、CD24陰性であり、アルデヒド・デヒドロゲナーゼ1(ALDH1)を発現することが報告されている。(Crocker et al. 2008. J Cell Mol Med)。幹細胞様特性を持つ乳がん細胞の亜母集団を特定・根絶するための組成物および方法に対する必要性が、依然として存在する。
【0006】
プロラクチン(「PRL」)は、成長ホルモンに、また程度は下がるがインターロイキンファミリーの員に、構造的に関連している23−kDa神経内分泌ホルモンである(非特許文献2(Reynolds et al., 1997, Endocrinol. 138:5555−5560)、非特許文献3(Cunningham et al., 1990, Science 247:1461−1465)、非特許文献4(Wells et al., 1993, Recent Prog. Horm. Res. 48:253−275))。プロラクチン受容体は、乳腺、卵巣、下垂体、心臓、肺、胸腺、脾臓、肝臓、膵臓、腎臓、副腎、子宮、骨格筋、皮膚および中枢神経系の領域に存在している。非特許文献5(『Mancini T. (2008), ”Hyperprolactinemia and Prolactinomas,” Endocrinology & Metabolism Clinics of North America 37: 67』)。プロラクチンがその受容体と結合すると、他のプロラクチン受容体と二量体化する原因となり、これがJAK−STAT 経路を開始するチロシンキナーゼであるヤヌスキナーゼ2の活性化を招く。プロラクチン受容体の活性化はまた、マイトジェン活性化タンパク質キナーゼおよびSrcキナーゼマイトジェンの活性化も招く。非特許文献5(『”Hyperprolactinemia and Prolactinomas,” Endocrinology & Metabolism Clinics of North America 37: 67』)。「プロラクチン受容体拮抗薬」は、プロラクチンのシグナル伝達経路を妨害するプロラクチンの一形態を意味する。かかるプロラクチン受容体拮抗薬は、発明者W. ChenおよびT. Wagnerに交付された米国特許出願第2007/0060520号(特許文献1)で過去に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願公開第2007/0060520号明細書
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Dent et al. 2007. Clinical Cancer Research 13: 4429−4434
【非特許文献2】Reynolds et al., 1997, Endocrinol. 138:5555−5560
【非特許文献3】Cunningham et al., 1990, Science 247:1461−1465
【非特許文献4】Wells et al., 1993, Recent Prog. Horm. Res. 48:253−275
【非特許文献5】『Mancini T. (2008), ”Hyperprolactinemia and Prolactinomas,” Endocrinology & Metabolism Clinics of North America 37: 67』
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
(発明の要約)
本発明は、患者においてエストロゲン受容体、プロゲステロン受容体またはHer2/neuを発現しない乳がんトリプルネガティブ細胞の成長を阻害する方法を提供し、これはヒトプロラクチン受容体拮抗薬の患者への投与を含む。本方法において有益なヒトプロラクチン受容体拮抗薬は、位置129のグリシンが別のアミノ酸、例えばアルギニンなどで置換されるものを含む。本方法において有益な他のヒトプロラクチン受容体拮抗薬は、位置129のグリシンが下記のアミノ酸によって置換されるものを含む。バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、プロリン、チロシン、システイン、メチオニン、アルギニン、ヒスチジン、トリプトファン、フェニルアラニン、リシン、アスパラギン、グルタミン、アスパラギン酸またはグルタミン酸。
【0010】
また他の実施態様において、本発明は、乳がん患者における転移の進行を阻害する方法を提供し、これはヒトプロラクチン受容体拮抗薬の患者への投与を含む。本方法において有益なヒトプロラクチン受容体拮抗薬には、位置129のグリシンが別のアミノ酸、例えばアルギニンによって置換されるものを含む。本方法において有益な他のヒトプロラクチン受容体拮抗薬には、位置129のグリシンが下記のアミノ酸によって置換されるものを含む。バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、プロリン、チロシン、システイン、メチオニン、アルギニン、ヒスチジン、トリプトファン、フェニルアラニン、リシン、アスパラギン、グルタミン、アスパラギン酸またはグルタミン酸。
【0011】
本発明はまた、乳がん患者におけるアルデヒド・デヒドロゲナーゼ1(ALDH1)の活性を低下させる方法にも関連しており、これはヒトプロラクチン受容体拮抗薬の患者への投与を含む。本方法において有益なヒトプロラクチン受容体拮抗薬には、位置129のグリシンが別のアミノ酸、例えばアルギニンで置換されるものを含む。本方法において有益な他のヒトプロラクチン受容体拮抗薬には、位置129のグリシンが下記のアミノ酸によって置換されるものを含む。バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、プロリン、チロシン、システイン、メチオニン、アルギニン、ヒスチジン、トリプトファン、フェニルアラニン、リシン、アスパラギン、グルタミン、アスパラギン酸またはグルタミン酸。
【0012】
本発明はまた、乳がん患者のがん幹細胞の数を低下させる方法にも関連しており、これはヒトプロラクチン受容体拮抗薬の患者への投与を含む。本方法において有益なヒトプロラクチン受容体拮抗薬には、位置129のグリシンが別のアミノ酸、例えばアルギニンで置換されるものを含む。本方法において有益な別のヒトプロラクチン受容体拮抗薬には、位置129のグリシンが下記のアミノ酸によって置換されるものを含む。バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、プロリン、チロシン、システイン、メチオニン、アルギニン、ヒスチジン、トリプトファン、フェニルアラニン、リシン、アスパラギン、グルタミン、アスパラギン酸またはグルタミン酸。本発明のいずれの方法も、毒素、放射性同位体、蛍光染料およびタンパク質から成る一群から選択される薬剤に共役されるプロラクチン受容体拮抗薬とともに実践されうる。また他の実施態様において、本発明の方法は、化学療法剤と同時または連続的なプロラクチン受容体拮抗薬の投与によって実施されうる。かかる化学療法剤は、下記の化合物またはその組み合わせを含んでもよい。オールトランス型レチノイン酸、アザシチジン、アザチオプリン、ブレオマイシン、カルボプラチン、カペシタビン、シスプラチン、クロラムブシル、シクロホスファミド、シタラビン、ダウノルビシン、ドセタキセル、ドキシフルリジン、ドキソルビシン、エピルビシン、エポチロン、エトポシド、フルオロウラシル、ゲムシタビン、ヒドロキシウレア、イダルビシン、イマチニブ、メクロレタミン、メルカプトプリン、メトトレキサート、ミトキサントロン、オキサリプラチン、パクリタキセル、ペメトレキセド、テニポシド、チオグアニン、バルルビシン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシンおよび酒石酸ビノレルビン。
【0013】
プロラクチン受容体拮抗薬は、非経口、皮下、腹腔内、静脈内、リンパ管内、髄腔内、心室内または肺内を含むがこれらに限定されない、さまざまな投与経路によって患者に送達されうる。本発明の方法において、プロラクチン受容体拮抗薬は乳がんの切除の前および/または後に投与されうる。
【0014】
本発明はまた、患者の体内においてがん細胞を局在化し、転移を特定する方法にも関している。この目標を達成するため、放射性同位体、蛍光染料または他の標識製剤に共役したプロラクチン受容体拮抗薬が患者に投与され、次に患者は、拮抗薬が局在化された領域を特定する手順を受ける。共役したプロラクチン受容体の局在化に使用されうる手順には、コンピューター断層撮影法、コンピューター断層撮影法、磁気共鳴映像法および核磁気共鳴映像法が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】プロラクチン受容体拮抗薬G129Rによるトリプルネガティブ乳がん細胞の治療は、ALDH1活性の低下を招く。
【図2】プロラクチン受容体拮抗薬G129RによるHER2/neu乳腫瘍を持つマウスの治療は、腫瘍細胞内のALDH1活性を低下する。
【図3】プロラクチン受容体拮抗薬G129Rによる一次HER2/neu乳がん細胞の治療は、ALDH1活性の低下を招く。
【図4】プロラクチン拮抗薬G129Rは、HER2/neu乳腫瘍を持つ哺乳動物における転移の進行を阻害する。
【図5】プロラクチン拮抗薬G129Rは、哺乳動物におけるHER2/neu腫瘍の成長を抑制する。
【図6】プロラクチン拮抗薬G129Rによる治療は、哺乳動物の原発および二次性腫瘍におけるHER2/neu タンパク質のリン酸化反応を抑制する。
【図7】プロラクチン拮抗薬G129Rによる治療に対する体内でのHER2腫瘍の用量依存的反応。
【図8】プロラクチン拮抗薬G129Rによる治療に対する体内でのHER腫瘍の時間依存的反応。
【図9】ヒトプロラクチンのアミノ酸配列。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(発明についての詳細な説明)
ヒトプロラクチンのアミノ酸配列を図9に示す。本明細書での「プロラクチン(PRL)」という用語は、ヒトおよびヒト以外の動物のホルモンプロラクチンを意味する。(Cooke et al., J. Biol. Chem., 256:4007 (1981)、Cooke et al., J. Biol. Chem., 225:6502 (1980)、Kohmoto et al., Eur. J. Biochem., 138:227 (1984)、Tsubokawa et al., Int. J. Peptide Protein Res., 25:442 (1985)、Bondar et al., GenBank登録番号#X63235 (1991)、Sasavage et al., J. Biol. Chem. 257:678 (1982)、Miller et al., Endocrinol. 107:851 (1980)、Li et al., Arch. BioChem. Biophys. 141:705 (1970)、Li, Int. J. Peptide Protein Res., 8:205 (1976)、Martinant et al., Biochim. Biophys. Acta, 1077:339 (1991)、Lehrman et al., Int. J. Peptide Protein Res., 31:544 (1988)、Li et al., Int. J. Peptide Protein Res., 33:67 (1989)、Hanks et al., J. MoI. Endocrinol., 2:21 (1989)、Watahiki et al., J. Biol. Chem., 264:5535 (1989)、Karatzas et al., Nucl. Acids Res., 18:3071 (1990)、Yasuda et al., Gen. Comp. Endocrinol., 80:363 (1990)、Noso et al., Int. J. Peptide Nucl. Res., 39:250、Buckbinder et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A., 90:3820 (1993)、Takahashi et al., J MoI. Endocrinol., 5:281、Yamaguchi et al., J. Biol. Chem., 263:9113 (1988)、Rentler− Delrue et al., DNA, 8:261、Yasuda et al., Gen. Comp. Endocrinol., 66:280 (1987)、Chang et al., GenBank登録番号#X61049 (1991)、Chang et al., GenBank登録番号#X61052 (1991)、Yasuda et al., Arch. BioChem. Biophys., 244:528 (1986)、Kuwana et al., Agric. Biol. Chem., 52:1033 (1988)、Song et al., Eur. J. Biochem., 172:279 (1988)、Mercier et al., DNA 8:119 (1989)も参照のこと)
【0017】
「プロラクチン受容体拮抗薬」という用語は、プロラクチンのシグナル伝達経路を妨害するプロラクチンの一形態を意味する。好適なプロラクチン受容体拮抗薬は、挿入、欠失、および/または置換によって少なくとも一つのアミノ酸がその自然発生する配列から変更されたプロラクチンを含む。G129Rという用語は、例えば位置129のグリシンがアルギニンによって置換される、図9に記載のプロラクチン受容体拮抗薬を意味する。
【0018】
プロラクチン受容体拮抗薬がその受容体でPRLの作用に拮抗する能力は、PRLによって媒介される効果を阻害する変異体の能力と定義される。プロラクチン受容体拮抗薬は、公表された米国特許出願第2005/0271626号に記載の内容を含み、その全体を参照により本明細書に組み込む。
【0019】
プロラクチン受容体拮抗薬は、PRLとPRL変異体の両方が存在するときに、PRLがその受容体を介して作用する能力を阻害するプロラクチン変異体(「PRL変異体」)の能力を決定することにより特定されうる。PRLがその受容体を介して作用する能力は、細胞増殖の変化の監視によって、またMAP−キナーゼおよびHER2/neuシグナル伝達経路における下流ターゲットのリン酸化反応/活性化としても測定されうる。
【0020】
位置129のグリシン残基が別のアミノ酸によって置換されるプロラクチン変異体が、本発明の方法において使用されうる。置換(簡略してG 129で示される置換)(はグリシン以外の自然発生または合成アミノ酸)は、自然発生する配列からの唯一の変形またはいくつかの変更の一つ(他のアミノ酸の挿入、欠失、および/または置換を含む)であってもよい。置換アミノ酸は、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、プロリン、メチオニンなどの中性極性アミノ酸、セリン、トレオニン、チロシン、システイン、トリプトファン、アスパラギン、グルタミン、アスパラギン酸などの中性非極性アミノ酸、アスパラギン酸またはグルタミン酸などの酸性アミノ酸、およびアルギニン、ヒスチジンまたはリシンなどの塩基性アミノ酸であってもよい。本発明の好適な実施態様において、hPRLの位置129でのグリシンは、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、プロリン、チロシン、システイン、メチオニン、アルギニン、ヒスチジン、トリプトファン、フェニルアラニン、リシン、アスパラギン、グルタミン、アスパラギン酸、またはグルタミン酸によって置換されてもよい。本発明の一つの実施態様において、置換は、位置129でのグリシンをアルギニン(G129R)によって置き換える。また別の実施態様において、本発明は位置129でのグリシンが欠失するプロラクチン変異体を提供する。
【0021】
プロラクチン受容体拮抗薬は、融合タンパク質の一部として別のタンパク質に結合されうる。例えば、プロラクチン拮抗薬は、例えば米国特許第7,425,535号などに記載される内容から選択される、インターロイキン2、緑色蛍光タンパク質、βガラクトシダーゼまたは孔形成タンパク質に結合されてもよい。また別の実施態様において、プロラクチン受容体拮抗薬は化合物に共役される。かかる化合物には、蛍光染料、放射性同位体、または細胞アポトーシスを誘発できる小分子などの細胞毒素を含むがこれらに限定はされない。
【0022】
本発明のプロラクチン受容体拮抗薬は、化学合成または組み換えDNA技術によって調製されてもよい。一般に、PRLのcDNAは、標準PCR増幅技法、PRLを生成する細胞(下垂体細胞など)から調製されるテンプレートとしてのRNAまたはcDNA、および既知のPRL核酸またはアミノ酸配列に基づき設計されたオリゴヌクレオチドプライマーを用いて調製されてもよい。cDNAをコードするHPRLの調製の非制限的な例は、公表された米国特許第7,115,556号(Wagner et al.)に記載されている。次に、ランダムにまたは定方向突然変異誘発によって、PRL cDNAに変更が導入されてもよい。
【0023】
プロラクチン受容体拮抗薬が組み換え技術によって生成される場合、PRL変異体をコードする核酸は、適切なプロモーター/エンハンサー配列に操作可能に結合されている発現ベクターに組み込まれてもよい。発現ベクターはさらに、転写終結部位、ポリアデニル化部位、リボソーム結合部位、信号配列など、PRL変異体の発現を支援する一つ以上の要素を含んでもよい。適切な発現システムは、哺乳類細胞、昆虫細胞、植物細胞、酵母細胞、粘菌、および有機体(遺伝子組み換え植物および遺伝子組み換え動物を含む)を含む。適切な発現ベクターには、pHSVlなどの単純ヘルペスウイルスに基づくベクター(Geller et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 87:8950−8954 (1990))、MFGなどのレトロウイルスベクター(Jaffee et al., Cancer Res. 53:2221−2226 (1993))、および特にLN、LNSX、LNCX、LXSNなどのMoloneyレトロウイルスベクター(Miller and Rosman, Biotechniques, 7:980−989 (1989))、MVAなどのワクチンウイルスベクター(Sutter and Moss, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 89:10847−10851 (1992))、pJM17などのアデノウイルスベクター(AIi et al., Gene Therapy 1:367−384 (1994)、Berker, Biotechniques 6:616− 624 (1988)、Wand and Finer, Nature Medicine 2:714−716 (1996))、AAV/neoなどのアデノ関連ウイルスベクター(Mura−Cacho et al., J. Immunother., 11:231−237 (1992))、レンチウイルスベクター(Zufferey et al., Nature Biotechnology 15:871−875 (1997))、pCDNA3およびpCDNAlなどのプラスミドベクター(InVitrogen)、pET 11a、pET3a、pET11d、pET3d、pET22d、およびpET12a(Novagen)、プラスミドAH5(SV40起源およびアデノウイルス主要後期プロモーターを含む)、pRC/CMV(InVitrogen)、pCMU II(Paabo et al., EMBO J., 5:1921 −1927 (1986))、pZipNeo SV(Cepko et al., Cell, 37:1053−1062 (1984))、pSR.alpha.(DNAX、カリフォルニア州パロアルト)およびpBK−CMV、およびp2Bac(InVitrogen)などのバキュロウイルス発現ベクター(O’Reilly et al., BACULOVIRUS EXPRESSION VECTORS, Oxford University Press (1995))。
【0024】
次に、組み換え発現システムにおいて生成されたプロラクチン受容体拮抗薬は、電気泳動、クロマトグラフィー(親和性クロマトグラフィーを含む)、および限外ろ過を含む標準技法によって精製されてもよい。プロラクチン受容体拮抗薬は、放射性同位体または蛍光染料と共役されたペプチドとして生成されうる。ビオチン化または放射性標識されたプロラクチン受容体拮抗薬は、変異体の遺伝子がSP6プロモーターの下でクローンされ、次にビオチンまたは放射性標識が存在する中でSP6転写酵素およびウサギの網状赤血球を用いてタンパク質が生成される生体外での転写/翻訳システムにおいて合成されうる。生体外の転写/翻訳システムはQIAGENより市販されている。あるいは、共役プロラクチン受容体拮抗薬は、放射性標識された、蛍光標識されたまたはビオチン化アミノ酸が存在する中での細菌細胞または哺乳類細胞内でも生成されうる。関連分野の当業者によく公知の標識されたタンパク質を合成する他の方法も、放射性同位体、蛍光染料、常磁性標識またはビオチンと共役されるプロラクチン受容体拮抗薬を生成するために使用されうる。
【0025】
本発明は、プロラクチン受容体拮抗薬がトリプルネガティブ乳がん細胞またはHer2乳がん細胞の増殖を阻害するのに使用されうる方法および組成物を提供している。一部の実施態様において、乳がん患者は、生検を取得してがん細胞がエストロゲン受容体、HER2および/またはプロゲステロン受容体を発現するかどうかを可視化させるマーカーで取得された乳がん細胞を染色するという手段によって、乳がんがトリプルネガティブ乳がん亜類型またはHER2陽性亜類型かどうかを判断するために診断を受ける。患者がトリプルネガティブ乳がん細胞またはHER2乳がん細胞を持つと判断される場合には、プロラクチン受容体拮抗薬を用いて患者の治療を行う。
【0026】
治療に対するプロラクチン受容体拮抗薬の有効量を決定するために、用量反応試験などの標準方法を用いることができる。次に患者は、プロラクチン受容体拮抗薬による治療を毎日受ける。治療に対する患者の反応を監視することができ、トリプルネガティブ乳がん細胞またはHER2陽性細胞の数の低下は治療に対する陽性反応を示す。患者はさらに、各回の治療後の必要性および一般的な改善状況次第により、それ以降も一連の治療を受けてもよい。
【0027】
本発明はまた、プロラクチン受容体拮抗薬が卵巣、子宮(子宮内膜)、および子宮頸がんの治療に使用されうる方法および組成物を提供している。治療に対するプロラクチン受容体拮抗薬の有効量を決定するために、用量反応試験などの標準方法を用いることができる。患者はさらに、各回の治療後の必要性および一般的な改善状況次第により、それ以降も一連の治療を受けてもよい。
【0028】
本発明はまた、プロラクチン受容体拮抗薬が転移を示す患者における二次性腫瘍細胞の根絶に使用されうる方法および組成物を提供している。これらの方法において、乳がん手術中に患者の腫瘍から生検が取得される。次に生検は、患者のがん亜類型がトリプルネガティブまたはHER2陽性かどうかを判断するために分析される。次に患者は、手術から回復する猶予を与えられてから、例えば2週間にわたるG129Rなどのプロラクチン受容体拮抗薬による治療を受ける。1〜2週間後、次に患者はさらに数回の治療を受ける。プロラクチン受容体拮抗薬による治療は、例えば化学療法および/または放射線などの他の方法と同時に投与されうる。
【0029】
本発明はまた、プロラクチン受容体拮抗薬が幹細胞様特性を持つ乳がん細胞の根絶に使用されうる方法および組成物を提供している。一部の実施態様において、患者は上述のプロラクチン受容体拮抗薬による治療を受ける。
【0030】
本発明はまた、プロラクチン受容体拮抗薬が患者において幹細胞様特性を持つ乳がん細胞を可視化するために使用されうる方法および組成物を提供している。一部の実施態様において、プロラクチン拮抗薬はまず蛍光染料または放射性同位体などの検知可能な標識に共役され、その次に患者に投与される。その後、患者体内の拮抗薬の局在化を、分野で公知の手順によって可視化する。かかる手順には、例えばコンピューター断層撮影法、磁気共鳴映像法および核磁気共鳴映像法がある。
【0031】
本発明の方法において、プロラクチン受容体拮抗薬は乳がんの治療に適切な他の薬剤と連続的または組み合わせた治療計画で投与してもよい。非制限的な例として、組み合わせた投与計画に使用される追加の薬剤には、化学療法剤、HER2/neuシグナル伝達経路を非活性化させる薬剤(ハーセプチンなど)、抗アンドロゲンおよび/または抗エストロゲン(タモキシフェンなど)がある。
【0032】
治療の応用として、本発明の組成物は、ボーラスとしての静脈内投与、または一定期間の連続的注入、筋肉内、腹腔内、脳脊髄内、皮下、動脈内、滑液嚢内、髄腔内、経口、局所、または吸入の経路を含めて製薬上許容される剤形で、哺乳動物、望ましくはヒトに投与される。本発明の組成物はまた、局所効果そして全身効果を及ぼすために、腫瘍内、腫瘍周辺、病巣内または病変部近傍の経路によっても相応に投与される。腹腔内経路は、さまざまながんおよび転移性病変の治療において特に有益であると予想される。
【0033】
本発明の組成物は、製薬上有益な組成物を調製するための公知の方法に従って調剤され、それにより組成物の薬剤は製薬上許容される担体との混合物中で混合される。他のヒトタンパク質、例えばヒト血清アルブミンを含む適切な担体およびその製剤は、例えばREMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCES(16th ed., Osol, A., ed., Mack, Easton Pa. (1980))に記載されている。効果的投与にとって適切な製薬上許容される組成物を形成するために、かかる組成物は担体の適切な量と併せて本発明の一つ以上のタンパク質の有効量を含む。より具体的には、有効量(量)とは、HER2乳がん細胞またはトリプルネガティブ乳がん細胞の増殖を阻害するために必要なプロラクチン受容体拮抗薬の量を意味する。有効量は、実施例8に記載の用量反応および時間反応アッセイを用いて決定してもよい。治療上の有効量の決定は特に、薬物の毒性および効力といった要素に左右される。毒性は、当該技術分野および前述文献においてよく公知の方法を用いて決定されうる。効力は、下記の実施例に記載の方法と併せて同じ指針を用いて決定してもよい。そのため治療上の有効量は、臨床者によって毒物学的に許容されるが効力があると見なされる量である。効力は例えば、標的の腫瘤の質量の低下によって測定されうる。
【0034】
乳がん、卵巣がん、子宮(子宮内膜)がんまたは子宮頸がんを持つ患者は、プロラクチン受容体拮抗薬の組成物による治療を受けることができる。患者は、患者のがん細胞におけるALDH1活性の低下を監視することで、幹様特性を持つがん細胞の数の低下について監視を受けることができる。その後、プロラクチン受容体拮抗薬による一連の治療は、幹様特性を持つがん細胞のさらなる根絶のために反復されうる。本発明の一つの実施態様において、患者は1〜6回の一連の治療を処方することができ、各回は1〜10日間である。
【0035】
プロラクチン受容体拮抗薬は、乳がん、卵巣、子宮(子宮内膜)または子宮頸がんの幹様特性を持つ細胞の可視化に使用されうる。一つの実施態様において、プロラクチン受容体拮抗薬は緑色蛍光タンパク質との融合として投与されうる。また他の実施態様において、プロラクチン受容体拮抗薬は蛍光染料または放射性同位体と共役されてから患者に投与される。次に患者は、体内でのプロラクチン受容体拮抗薬の局在化について監視を受ける。
【0036】
本発明に従って使用される組成物は、従来の方法で、一つ以上の薬理学的に許容できる担体または賦形剤を用いて製剤されてもよい。そのため、これらは吸引または気体注入(口または鼻経由)または経口、口腔、非経口または直腸投与による投与用に製剤されてもよい。
【0037】
経口投与のための調製は、活性化合物の徐放を与えるように相応に製剤してもよい。口腔投与のために、組成物は従来の方法で製剤された錠剤またはドロップ剤という形態をとってもよい。吸引投与については、本発明に従った組成物は、適切な高圧ガス、例えばジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素または他の適切なガスの使用による加圧パックまたは噴霧器からのエアゾール噴霧剤という形態で便利に送達される。高圧エアゾールの場合、用量単位は計量された量を送達する弁を提供することで決定されてもよい。吸入剤または吸入器に使用する例えばゼラチンの錠剤およびカートリッジは、化合物の粉末混合物とおよびラクトースまたはでんぷんなどの適切な粉末ベースを含むように製剤されてもよい。
【0038】
本発明の組成物は、注射、例えばボーラス注射または連続注入によって非経口投与のために製剤されてもよい。注射用の製剤は、防腐剤を添加して、例えばアンプルまたは多用量容器における単位剤形で提示してもよい。組成物は、油性または水性の懸濁液、溶液または担体中の乳剤という形態をとってもよく、懸濁剤、安定剤および/または分散剤などの製剤化剤を含んでもよい。あるいは、活性成分は、使用前に例えば滅菌性の発熱物質のない水などの適切な担体と構成するために粉末状であってもよい。組成物はまた、例えばココアバターまたは他のグリセリドなどの従来の坐剤の基剤を含む坐剤または停留かん腸などの直腸組成物として製剤されてもよい。前述の製剤に加え、本発明の組成物はまた、持効性製剤として製剤されてもよい。かかる長期間作用型製剤は、移植(例えば皮下または筋肉内)または筋肉内注射によって投与してもよい。そのため、例えばプロラクチン変異体および/またはHER2/neuシグナル伝達経路を非活性化する薬剤は、適切なポリマー材料または疎水性材料(例えば、許容できる油中の乳剤として)またはイオン交換樹脂とともに、または例えば難溶性塩などの難溶性誘導体として製剤されてもよい。
【0039】
望む場合、組成物は、活性成分を含有した一つ以上の単位剤形を含むパックまたはディスペンサー装置で提示してもよい。パックは例えば、ブリスターパックなどの金属またはプラスチックフォイルから構成されうる。パックまたはディスペンサー装置には、投与指示説明書が付属する。
【0040】
さらに、本発明の組成物はまた、被験者に生じた免疫反応および他のクリアランス機序から組成物を保護することで、より長いクリアランス率を持ってバイオアベイラビリティを高めるようにも修正されうる。例えば、PEG化された化合物は、免疫原性および抗原性の低下を示し、共役されないタンパク質よりも相当長い期間血流内を循環する。PEG(ポリエチレン・グリコール)ポリマー鎖は、『Roberts et al., Adv. Drug Del. Rev., 54(4):459−76 (2002)』に記載されるPEG化手順などの当該技術分野で公知の方法によってプロラクチン変異体/プロラクチン受容体拮抗薬に付着してもよい。しかし、本発明の治療組成物の半減期の排除を長期化させうる他の薬剤は当業者に公知であり、本明細書で企図されるものである。
【0041】
事実、本明細書に記載の組成物はまた、ヒドロキシエチルでんぷん(HES)によって修正されうる。HESは、自然発生するアミロペクチンの誘導体であり、体内においてα−アミラーゼによって分解する。HES−タンパク質の共役を生成する方法は、当業者に公知である。例えば、EP 1398322、DE 2616086およびDE 2646854を参照のこと。
【0042】
クリアランス時間を長期化し、発明の組成物の半減期を高めるために、プロラクチン受容体拮抗薬を血清アルブミンに結合する薬剤も本発明で企図されている。かかる薬剤は公表された米国特許第2007/0160534号(その内容を参照により本明細書に組み込む)で開示されているが、本発明のプロラクチン受容体拮抗薬に共役されうる血清アルブミンに親和性のある他のペプチドリガンドもまた、本明細書での使用に適切だと考えられる。
【0043】
本発明はさらに下記の実施例に言及して記載されるが、これらは説明目的でのみ提供される。本発明は実施例のみに限定されず、むしろ本明細書の教示内容から明らかなすべてのバリエーションを含む。
【実施例1】
【0044】
ヒトプロラクチン拮抗薬G129Rの調製
ヒトPRLは逆転写(RT)その後にポリメラーゼ鎖反応(PCR)を用いてクローンされた。手短に、ヒト下垂体polyA RNA(CloneTech, Inc.、カリフォルニア州パロアルト)をテンプレートとして用いた。HPRLアンチセンスプライマーは、hPRL cDNA(5’−GCTTAGCAGTTGTTGTTGTG−3’、配列番号:1)の終始コドン(TAA)の2つの塩基から開始するように設計され、センスプライマーはATG(5’−ATGAACATCAAAGGAT−3’、配列番号:2)から設計された。RT/PCRは、Perkin−Elmer Cetus, Inc.(コネティカット州ノーウォーク)からのキットを用いて実行された。結果的に得られるhPRLのヌクレオチド配列は、修飾T7 DNAポリメラーゼ(Sequenase、United States Biochemical)を用いたジデオキシチェーンターミネーション法によって決定され、コドン21でサイレント変異になった(CTG −> CTC)1つの塩基の違いを除けばGenBankで報告された内容と同一であることが判明した。pUCIG−Met発現ベクターの調製を含めて、クローニング過程の略図が公表された米国特許出願第2003 0022833号(Wagner et al.)によって要約されており、その全体を参照により本明細書に組み込む。
【0045】
hPRL cDNAおよびMl3 Fl複製起点を含む親プラスミドは、大腸菌(CJ236)に形質転換された。ウリジンを含む一本鎖プラスミドDNAは、ヘルパーバクテリオファージM13k07を用いて形質転換されたCJ236 細菌から分離した。G129R変異を方向付ける配列を含むオリゴヌクレオチド6 pmolを、70°Cで5分間加熱した後ゆっくり冷却して、アニール緩衝液(200 mM Tris−HCl、20 mM MgCl.sub.2、100 mM NaCl)中の一本鎖DNA 0.2 pmolとアニールした。一本鎖DNAをテンプレートとして用いて、G129R変異をコードするオリゴヌクレオチド(5’−CGGCTCCTAGAGAGGATGGAGCT−3’、配列番号:3)を、T4 DNAポリメラーゼによって触媒されるDNAの相補鎖のプライマーを合成するために使用した。合成後、二本鎖DNAを用いて大腸菌(DH5a)を形質転換した。個別のクローンを分離し、DNAヌクレオチド配列によってhPRL−G129Rをスクリーニングした。
【0046】
hPRLおよびG129Rをコードする核酸は各々、cDNAの転写がマウスのメタロチオネインエンハンサー/プロモーター配列およびbGH poly A追加信号によって制御される哺乳類細胞の発現ベクターに挿入された(Chen et al., J. Biol. Chem., 266:2252−2258 (1991)、Chen et al., Endocrinol., 129:1402−1408 (1991)、Chen et al., Mol. Endocrinol., 5:1845−1852 (1991)、Chen et al., J. Biol. Chem., 269:15892−15897 (1994))。hPRLおよびhPRLAを生成する安定したマウスL細胞株を確立するために、マウスL細胞[チミジンキナーゼ陰性(TK)およびアデニンホスホリボシルトランスフェラーゼ陰性(APRT)]を生体外の発現システムとして選択した。HPRL(陽性対照群として使用される)およびヒトプロラクチン拮抗薬(約5〜10 mg/1/24時間/百万細胞)を発現する安定した細胞株を調製した。
【0047】
『Chen et al., J. Biol. Chem. 269:15892−15897 (1994)』に記載の技法を用いて、膜限外ろ過を使用して、hPRLおよびヒトプロラクチン拮抗薬を条件付けされた細胞培地から部分精製・濃縮化した。分離は、相対的な分子の大きさや膜の孔のサイズに基づいた。限外ろ過膜は、Amicon, Inc.(マサチューセッツ州ノースボロー)から入手した。二種類の膜YM10およびYM100を用いた。20 psia膜貫通圧でAmicon YM100と攪拌した細胞200 mlを最初に用いて、培地から大型の不純物の削除を行った。パーミエイト(hPRLの>90%の回復)を第二のろ過プロトコルに適用したが、これには溶液の容積を低下させてタンパク質を濃縮化するためにYM10膜を用いた。HPRLまたはヒトプロラクチン拮抗薬の濃度は、Diagnostic Products Corp.(カリフォルニア州ロサンゼルス)からの免疫放射定量測定法(IRMA)キットを用いて決定した。
【実施例2】
【0048】
プロラクチン受容体拮抗薬G129Rによるトリプルネガティブ乳がん細胞の治療は細胞におけるALDH1活性の低下を招く
ヒトトリプルネガティブ乳がん細胞MDA−MB−231および対照群の乳がん細胞T−47Dを1x10細胞/mlで6ウェルプレートに配置し、培地基において24時間付着させ、その後、無血清培地を2時間枯渇させた。次に細胞をプロラクチン(100ng/ml)またはG129R(10ug/ml)のない状態(対照群)またはある状態で3日間培養した。次に細胞を回収し、ALDH−1活性(この酵素はがん幹細胞のマーカーである。『Ginestier et al., Cell Stem Cell 2007 1(5): 555−567』を参照)をALDEFLUOR(R)蛍光分析(StemCell Technologies)によって測定した。図1に示すように、プロラクチン拮抗薬G129Rによる治療は、トリプルネガティブ乳がん細胞におけるALDH1活性を有意に低下させた。
【実施例3】
【0049】
プロラクチン受容体拮抗薬による治療は腫瘍細胞におけるALDH1活性を低下させる
MMTV/neu遺伝子組み換えマウスは、マウス哺乳類の腫瘍ウイルス(MMTV)プロモーターによって決定される活性化c−neuがん遺伝子を持ち、哺乳類のHER2腺がんを発症する(Muller et al 1988. Cell. 54(l):105−15)。哺乳類の腫瘍を持つMMTV/neu遺伝子組み換えマウスを、PBS(n=4)またはG129Rで5(n=2)または10(n=3)日間(10mg/kg、i.p.)治療した。腫瘍は治療後に分離し、単個細胞懸濁液に消化して、ALDH1活性レベルを比較した。図2に示すように、ALDH1活性は、G129Rで治療した動物から分離されるがん細胞において有意に低下した。G129Rで10日間治療を受けたがん細胞においては実質的に、ALDH1活性は検知されなかった。
【実施例4】
【0050】
プロラクチン受容体拮抗薬によるがん細胞の治療はALDH1活性の低下を招く
【0051】
一次哺乳類の腫瘍細胞は、MMTV/neu遺伝子組み換えマウスから分離し、G129R(10ug/ml)またはPRL(100ng/ml)の存在下で24、48、72、または96時間培養した。特に、MMTV−neuマウスから削除した腫瘍は、単個細胞懸濁液に消化して、1x10細胞/mlで12ウェルプレートに配置した。細胞は培地基において24時間付着させ、その後、無血清培地を2時間枯渇させた。次に細胞は、プロラクチン(100 ng/ml)またはG129R(10 ug/ml)のない状態(対照群)またはある状態で治療した。治療後24、48、72、または96時間目に細胞を回収し、ALDH−1活性を測定した。図3に示すように、G129Rに暴露された一次MMTV/neu腫瘍細胞の経時経過研究はALDH1活性の安定した低下を示し、最終レベルは対照群のレベルよりも有意に低かった(96時間目で92.3%の低下)。
【実施例5】
【0052】
プロラクチン拮抗薬は哺乳動物における転移の進行を阻害する
一次乳腫瘍をMMTV/neu遺伝子組み換えマウスから削除した。次にマウスをPBSまたはG129R(200ug/日、i.p.)で40日以上治療した。二次性腫瘍(再発)が特定の大きさにまで成長した時、マウスを犠牲にし、肺を切除してブアン固定液で固定した上で転移を観察した。図4は、G129R治療の場合と対照群で肺転移があった動物の割合を示している(有意性を決定するためにカイ二乗検定を用いた)。図4に示すように、G129R治療群において肺転移があった動物の割合は、未治療の対照群と比べて有意に低下した**(P<0.05)。
【実施例6】
【0053】
プロラクチン拮抗薬は哺乳動物における腫瘍の成長を抑制する
二つの別々の実験において、腫瘍をメス遺伝子組み換えマウスから分離し、同等の大きさの切片に分けて、年齢の一致するレシピエントのメス遺伝子組み換えマウスに移植した。移植から10日後、マウスを対照群(n=3−4)またはG129R治療群(n=4、10mg/kg、i.p. 毎日)に無作為割付した。マウスは毎日50日間治療を受け、対照群および治療群の腫瘍容積を監視した。図5に示すように、最終的な腫瘍容積は、対照群と比較して二つのG129R治療群で67.1%(±9.18 SEM)または71.5%(±14.9 SEM)小さかった。図5に示すように、最終的な腫瘍量は、対照群と比較してG129R治療群では61.3%(±18.4 SEM)または62.5%(±7.07 SEM)低下した。
【実施例7】
【0054】
プロラクチン拮抗薬による治療は哺乳動物における原発腫瘍および二次性腫瘍内のHER2/neuタンパク質のリン酸化反応を抑制する
MMTV/neuマウス(原発腫瘍および二次性腫瘍を持つ)を、PBS(対照群)または200 ug/日のG129Rで5日間治療した。原発腫瘍および二次性腫瘍を、5回目の治療後24時間経ってから削除し、ウェスタンブロッティングのために処理した。図6に示すように、G129Rで治療した動物から分離された原発腫瘍内のリン酸化Neuタンパク質には有意に低下が見られた。G129Rで治療した動物からの二次性腫瘍はまた、neuのリン酸化反応の低下を示した。しかし、一部のリン酸化neuタンパク質はG129Rで治療したマウスの二次性腫瘍において依然として検出され(図6を参照)、プロラクチン拮抗薬G129Rによる治療は原発腫瘍および二次性腫瘍に違う形で影響を与えていることを示唆している。
【実施例8】
【0055】
プロラクチン拮抗薬G129Rによる治療への生体内でのHER腫瘍の用量依存的反応およびプロラクチン拮抗薬G129Rによる治療への生体内でのHER腫瘍の時間依存的反応
生体内でのHER/neuのリン酸化反応の低下に必要なG129Rの最低用量を決定するために、MMTV/neu遺伝子組み換えマウスの腫瘍から生検を取り出し、自己対照ベースラインとして使用した。次にマウスをi.p.で10日間、PBSまたはG129Rで下記の濃度で治療した。50、100、200または400 ug/日(G129Rを2.5 mg/kg/日、5 mg/kg/日、10 mg/kg/日、または20 mg/kg/日)。次に腫瘍を培養し、ウェスタンブロッティングのために処理した。次にウェスタンブロットを、リン酸化HER2/neuタンパク質を検出する抗体と、ゲルローディングとウェスタンブロッティング転写の対策としてβチューブリンに対する抗体を使用した。図7に示すように、HER/neuのリン酸化反応上でのG129Rの阻害効果は、5 mg/kg/日ほどのG129R用量でも観察された。
【0056】
G129Rによる治療の最適な期間を決定するために、MMTV担がんマウスを200 ug G129Rで5日間または10日間治療した。腫瘍は最後の治療から24時間後に取り出し、ウェスタンブロット分析のために処理した。図8に示すように、G129Rでの5日間の治療(10mg/kg/日、i.p.)を受け取る14匹のマウスのうち、5匹のマウスからの腫瘍は対照群のマウス(n=8)と比較してリン酸化HER2/neuタンパク質の大幅な低下を示し、4匹はリン酸化HER2/neuタンパク質の顕著な低下を示しつつ軽度の反応を示し、5匹は反応を示さなかった。図8に示すように、G129Rでの10日間の治療(10mg/kg/日、i.p.)を受け取る10匹のマウスのうち、3匹のマウスの腫瘍は高い反応を示し、これらの腫瘍においてリン酸化HER2/neuは実質的に検知されず、5匹のマウスは軽度の反応を示し、2匹のマウスが反応を示さなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトプロラクチン受容体拮抗薬の有効量の患者への投与を含み、がん細胞がエストロゲン受容体、プロゲステロン受容体およびHer2/neuから成る一群から選定される受容体を発現せず、さらに、該がん細胞が卵巣がん細胞、子宮(子宮内膜)がん細胞、子宮頸がん細胞および乳がん細胞から成る一群から選定される、患者におけるがん細胞の成長を阻害する方法。
【請求項2】
ヒトプロラクチン受容体拮抗薬の有効量の患者への投与を含み、患者が乳がん患者、卵巣がん患者、子宮(子宮内膜)がん患者および子宮頸がん患者から成る一群から選定される、患者体内での転移の進行を阻害する方法。
【請求項3】
ヒトプロラクチン受容体拮抗薬の有効量の患者への投与を含み、患者が乳がん患者、卵巣がん患者、子宮(子宮内膜)がん患者および子宮頸がん患者から成る一群から選定される、患者体内でのアルデヒド・デヒドロゲナーゼ1(ALDH1)の活性を低下させる方法。
【請求項4】
ヒトプロラクチン受容体拮抗薬の有効量の患者への投与を含み、患者が乳がん患者、卵巣がん患者、子宮(子宮内膜)がん患者および子宮頸がん患者から成る一群から選定される、患者体内のがん幹細胞の数を低下させる方法。
【請求項5】
プロラクチン受容体拮抗薬がヒトプロラクチンであり、位置129でのグリシン残基が別のアミノ酸で置換される、請求項1、2、3、または4の方法。
【請求項6】
アミノ酸がバリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、プロリン、チロシン、システイン、メチオニン、アルギニン、ヒスチジン、トリプトファン、フェニルアラニン、リシン、アスパラギン、グルタミン、アスパラギン酸およびグルタミン酸から成る一群から選定される、請求項5の方法。
【請求項7】
プロラクチン拮抗薬がG129Rである、請求項1、2、3、または4の方法。
【請求項8】
プロラクチン受容体拮抗薬が、毒素、放射性同位体および蛍光染料から成る一群から選定される薬剤に共役される、請求項1、2、3、または4の方法。
【請求項9】
プロラクチン受容体拮抗薬が化学療法剤と同時または連続的に投与される、請求項1、2、3、または4の方法。
【請求項10】
プロラクチン受容体拮抗薬が非経口、皮下、腹腔内、静脈内、リンパ管内、髄腔内、心室内または肺内投与から成る一群から選定される経路によって投与される、請求項1、2、3、または4の方法。
【請求項11】
プロラクチン受容体拮抗薬ががんの切除後に投与される、請求項1、2、3、または4の方法。
【請求項12】
a)検知可能な標識に共役されたがん患者にヒトプロラクチン受容体拮抗薬を投与する、
b)患者体内での共役ヒトプロラクチン受容体拮抗薬の局在化を検知する、
c)プロラクチン受容体発現組織の通常の分布を背景にして局在化のパターンを分析する、および
d)健康な組織では異常な局在化のパターンを特定し、ここで、患者体内の共役されたヒトプロラクチン受容体拮抗薬の異常な局在化はがん細胞の領域を示す、ことを含む、
乳がん、卵巣がん、子宮(子宮内膜)がんまたは子宮頸がん患者のがん細胞を検知する方法。
【請求項13】
手順b)がコンピューター断層撮影法、磁気共鳴映像法または核磁気共鳴映像法によって達成される、請求項12の方法。
【請求項14】
がん細胞が転移した、請求項12の方法。
【請求項15】
検知可能な標識が放射性同位体、蛍光染料、タンパク質、常磁性標識およびビオチンから成る一群から選定される、請求項12の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図9】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2012−519168(P2012−519168A)
【公表日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−552066(P2011−552066)
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【国際出願番号】PCT/US2010/024340
【国際公開番号】WO2010/099003
【国際公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(511196146)オンコリックス, インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】