説明

がん性表現型を反転させるためのメラノーマ分化関連遺伝子(mda7)の使用

【課題】がん細胞のがん性表現型を反転させるための、および腫瘍細胞においてアポトーシスを誘導するための方法の提供。
【解決手段】がん細胞のがん性表現型を反転させるために、または腫瘍細胞においてアポトーシスを誘導するためにメラノーマ分化関連遺伝子(mda-7)を含む一定量の核酸を使用するもので、該核酸がアデノウイルスベクター、アデノ関連ウイルスベクター、エプスタイン−バールウイルスベクター、およびワクシニアウイルスベクターからなる群より選択されるベクターに含まれる。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本願は、1996年6月16日に出願されたU.S.シリアルNo.08/696,573の一部継続出願であり、原出願の内容は、参照により本願の開示内容の一部とする。
【0002】
ここに開示された本発明は、保健社会福祉省(the Department Health and Human Services)からのNCI/NIH助成金No.CA35675の下、政府援助によりなされた。それ故、米国政府が本発明の一部権利をもっている。
【0003】
本願を通して、種々の参照文献がかっこ内に引用されている。これら出版物の全開示は、本発明の属する技術分野の状況をより完全に記載するため、参照により本願の開示内容の一部とする。これら参照文献の完全な書誌的引用は、一連の実験の最後に見ることができる。
【発明の背景】
【0004】
がんは、腫瘍形成の正の制御因子および負の制御因子として機能する複数の遺伝子の相互に関連した発現および抑制が関与する、複雑な多因子および多段階のプロセスである(1−5)。形質転換または腫瘍形成の優性表現型の導入に基づく直接的クローニングストラテジーにより、正に作用するがん遺伝子が同定された(6−9)。対照的に、がんの表現型を抑制する遺伝子の検出およびクローニングは、より困難で捕らえにくいことが分かった(10−15)。増殖および分化の制御に直接的に関与する遺伝子を単離するための直接的アプローチには、活発に増殖するがん細胞から構築されたcDNAライブラリーと不可逆的に増殖能を失い且つ最終分化するように誘導されたがん細胞から構築されたcDNAライブラリーとの差引き(subtraction)ハイブリダイゼーションが必要である(13、14)。この実験ストラテジーは、ヒトのメラノーマ細胞に適用されており、組換えヒトインターフェロンβ(IFN−β)およびメゼライン(mezerein)(MEZ)を用いた処理により最終分化を誘導して、DNAデータベースに以前に記載のない新規メラノーマ分化関連(mda)遺伝子のクローニングに至った(13、14)。増殖および細胞周期の制御を仲介する際の特定のmda遺伝子の直接的な役割は、mda-6の同定およびクローニングにより明らかであり(13−16)、これはサイクリン依存性キナーゼp21の普遍的な阻害剤と同一である(17)。増殖制御におけるp21の重要性は充分記載され、この遺伝子は、種々のアプローチを用いて幾つかの研究室により、WAF−1、CIP−1、およびSDI−1として、個々に単離された(18−20)。これらの研究により、増殖制御に関与する特定遺伝子が誘導され、ヒトのがん細胞における増殖停止および最終分化のプロセスに関与し得ることが示唆される。
【0005】
mda-7遺伝子が、分化誘導剤(IFN−βプラスMEZ)で処理されたヒト・メラノーマ(H0−1)の差引きライブラリーからクローニングされた(13、14)。完全長のmda-7のcDNAは、1718ヌクレオチドであり、その主要なオープンリーディングフレームは、Mrが23.8kDaである206アミノ酸の新規タンパク質をコードしている(21)。以前の研究により、mda-7はヒト・メラノーマ細胞において増殖停止および最終分化誘導の役割として誘導されることが示唆される(14、21)。また、mda-7の発現はメラノーマの進行とは逆の関連性がある。即ち、活発に増殖する正常なヒトのメラニン細胞は、転移性ヒト・メラノーマ細胞よりもmda-7をより多く発現する(21)。その上、mda-7は、一過性のトランスフェクションアッセイにおいて、およびデキサメタゾン(DEX)誘導性mda-7遺伝子を含む安定な形質転換細胞において、ヒト・メラノーマ細胞の増殖を抑制する(21)。これらの研究は、mda-7がヒトのメラニン細胞およびメラノーマの生理学に貢献し得ることを示しており、また、この遺伝子はヒト・メラノーマ細胞で過剰発現したときに増殖抑制特性を有することを示している。
【0006】
mda-7遺伝子は、また、国際特許協力条約出願No.PCT/US94/12160(国際出願日1994年10月24日、国際公開No.WO95/11986)に記載されており、この内容は、参照により本願の開示内容の一部とする。
【0007】
本発明は、mda-7が種々の起源(胸部、中枢神経系、子宮頸部、結腸、前立腺および結合組織など)のがん細胞において有効な増殖抑制遺伝子であることを報告する。コロニー形成の抑制は、p53および/または網膜芽細胞腫(RB)遺伝子に欠陥を有するがん細胞、またはp53およびRBの発現を欠損しているがん細胞で起こる。対照的に、正常なヒト乳房の上皮細胞、ヒト皮膚の繊維芽細胞およびラット胚の繊維芽細胞におけるmda-7の発現は、定量的に、がん細胞ほどは増殖抑制を誘導しない。mda-7は、ヒト子宮頸部のがん腫(HeLa)および前立腺のがん腫(DU−145)細胞で安定に発現すると、増殖およびトランスフォーメーション関連特性に対して負の効果を示す。HeLa細胞に対するmda-7の効果は、アンチセンスmda-7遺伝子を発現する遺伝的に改変されたAd5ベクターの感染により、MDA-7タンパク質の存在しなくなった後には反転可能である。これらの観察により、mda-7は、種々の遺伝的欠陥を示すヒトのがんにおいて、広範囲の抑制作用を有する新規増殖抑制遺伝子であることが示唆される。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、がん細胞のがん性表現型を反転させるための方法であって、メラノーマ分化関連遺伝子(mda-7)を含む核酸を、前記遺伝子の発現可能な条件下でがん細胞に導入することにより、前記がん細胞のがん性表現型を反転させる方法を提供する。本発明は、また、上記核酸を被検者のがん性細胞に導入することにより、被検者におけるがん細胞のがん性表現型を反転させるための方法を提供する。
【0009】
本発明は、また、がん細胞のがん性表現型を反転させるための方法であって、メラノーマ分化関連遺伝子(mda-7)の遺伝子産物をがん細胞に導入することにより、前記がん細胞のがん性表現型を反転させる方法を提供する。本発明は、また、上記遺伝子産物を被検者のがん性細胞に導入することにより、被検者におけるがん細胞のがん性表現型を反転させるための方法を提供する。
【0010】
本発明は、また、がん細胞のがん性表現型を反転させるために有効なメラノーマ分化関連遺伝子(mda-7)を含む一定量の核酸と、薬学的に許容可能なキャリアとを含む薬学的組成物を提供する。本発明は、また、がん細胞のがん性表現型を反転させるために有効な上記遺伝子の一定量の遺伝子産物と、薬学的に許容可能なキャリアとを含む薬学的組成物を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】HeLa細胞における、ハイグロマイシン耐性コロニーの形成に対するmda-7発現の効果。HeLa細胞に、10μgのpREP4ベクター(RSVベクター)、pREP4ベクターにアンチセンス配向でクローニングされたmda-7(RSV−MDA−7−アンチセンス)、またはpREP4ベクターにセンス配向でクローニングされたmda-7(RSV−MDA−7−センス)をトランスフェクションし、100μgのハイグロマイシンを含有する培地で選択した。
【図2】pREP4ベクター HeLa cl 1細胞およびmda-7(S)を発現しているHeLa cl 2細胞の単層増殖に対するアンチセンスmda-7の効果。HeLa cl 1(pREP4ベクターで形質転換されたHeLaクローン)細胞およびHeLa cl 2(mda-7を発現するHeLaクローン)細胞を、アンチセンスmda-7を発現する組み換えタイプ5アデノウイルス(Ad5)[Ad.mda-7(AS)]の10プラーク形成ユニット/細胞での感染後に、または感染させないで、増殖させた。結果は、<10%の差がある3サンプルの平均細胞数である。
【図3】HeLa、HeLa cl 1およびHeLa cl 2細胞における、高分子量−MDA-7複合(HMC)タンパク質、MDA-7タンパク質、アクチンタンパク質に対するアンチセンスmda-7の効果。HeLa細胞およびHeLa cl 1細胞(pREP4ベクターで形質転換されたHeLaクローン)を、[35S]メチオニンでラベルした10プラーク形成ユニット/細胞のAd.mda-7(AS)で96時間感染させるか(+)または感染させないで(−)、HMC、MDA-7およびアクチンタンパク質のレベルを免疫沈降解析により測定した。HeLa cl 2(mda-7を発現するHeLaクローン)に関しては、10プラーク形成ユニット/mLのAd.mda-7(AS)による感染のタンパク質レベルに対する効果を、+24、+48、+72および+96時間後に[35S]メチオニンラベルの細胞溶解物を免疫沈降解析することにより、測定した。HeLa cl 2細胞のコントロール突然変異体Ad5(H5dl 434)による感染の効果を、10プラーク形成ユニット/細胞での感染の96時間後に、[35S]メチオニンラベルの細胞溶解物を免疫沈降解析することにより測定した。
【図4】DEX誘導性mda-7遺伝子を含むDU-145クローンにおけるmda-7RNAおよびタンパク質の合成。 図4A.10-6M DEXの存在下または非存在下で、96時間細胞を増殖させ、全RNAを単離し、ノーザンブロッティングを行い、mda-7、ネオマイシン耐性(NeoR)遺伝子およびGAPDHをプローブを用いて検出した。 図4B.10-6M DEXの存在下または非存在下で、96時間細胞を増殖させ、細胞性タンパク質を[35S]メチオニンでラベルし、MDA-7およびアクチンタンパク質を認識する抗体を用いて免疫沈降させた。
【図5】無胸腺のヌードマウスにおける、株化ヒト子宮頸部がん(HeLa)異種移植片の増殖抑制。
【図6】HeLa腫瘍体積比に対するAd.mda-7 Sの効果。結果は、Ad.mda-7 Sがヌードマウスにおいてin vivoで腫瘍の進行を抑制できることを示している。
【発明の詳細な説明】
【0012】
後述する実験の詳細な説明部分を理解し易くするため、ある程度頻繁に出てくる方法および/または用語は、Sambrookら(45)に説明がある。
【0013】
本発明は、がん細胞のがん性表現型を反転させるための方法であって、メラノーマ分化関連遺伝子(mda-7)を含む核酸を、前記遺伝子の発現可能な条件下でがん細胞に導入することにより、前記がん細胞のがん性表現型を反転させることを具備した方法を提供する。
【0014】
本発明は、また、被検者におけるがん細胞のがん性表現型を反転させるための方法であって、メラノーマ分化関連遺伝子(mda-7)を含む核酸分子を、被検者の細胞内で前記遺伝子の発現が可能な条件下において被検者のがん性細胞に導入することにより、前記がん細胞のがん性表現型を反転させることを具備した方法を提供する。
【0015】
核酸分子を細胞に導入する方法は、当該分野で周知である。裸の(naked)核酸分子を直接的形質転換により細胞に導入することができる。或いは、核酸分子をリポソーム中に埋め込むことができる。それ故、本発明は、裸のDNA技術、アデノウイルスベクター、アデノ−関連ウイルスベクター、エプスタイン−バールウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、弱毒HIVベクター、レトロウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、リポソーム、抗体で被覆したリポソーム、または機械的もしくは電気的手段により核酸分子を細胞に導入する上記方法を提供する。上記列挙した方法は、核酸分子を細胞に導入する実行可能な手段の例として挙げたにすぎない。公知の他の方法を、本発明で使用することもできる。
【0016】
上記方法の一態様において、メラノーマ分化関連遺伝子(mda-7)は、その発現が調節配列の制御下にあるように調節配列に連結されている。さらに別の態様において、調節配列は誘導的であるか、または構成的である。誘導プロモーターのような誘導的調節配列は、当該分野で公知である。構成的発現を指示することができるプロモーターのような調節配列も、当該分野で公知である。
【0017】
別の態様において、調節配列は、組織特異的な調節配列である。このとき、mda-7遺伝子の発現は、組織特異的になるであろう。
【0018】
上記方法の別の態様において、前記がん細胞は、がん細胞内に欠陥性の腫瘍抑制遺伝子が存在することにより特徴づけられる。欠陥性の腫瘍抑制遺伝子には、p53、網膜芽細胞腫(RB)またはp16ink4a遺伝子が含まれるが、これに限定されない。
【0019】
上記方法の一態様において、前記がん細胞は、がん細胞内に優性作用的(dominant acting)がん遺伝子が存在することにより特徴づけられる。特に、優性作用的がん遺伝子は、Ha-ras、突然変異体p53またはヒトパピローマウイルス遺伝子であり得る。Ha-rasは、Harveyウイルスのrasがん遺伝子である。
【0020】
上記方法の一態様において、前記核酸はベクターを含む。該ベクターは、アデノウイルスベクター、アデノ−関連ウイルスベクター、エプスタイン−バールウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、弱毒HIVベクター、レトロウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクターを含むが、これに限定されない。好ましい態様において、アデノウイルスベクターは、mda-7を発現する複製欠陥性アデノウイルスベクターであり、Ad.mda-7 Sと称される。別の態様において、アデノウイルスベクターは、複製コンピテントアデノウイルスベクターである。
【0021】
本発明は、また、がん細胞のがん性表現型を反転させるための方法であって、メラノーマ分化関連遺伝子(mda-7)の遺伝子産物をがん性細胞に導入することにより、前記がん細胞のがん性表現型を反転させることを具備した方法を提供する。
【0022】
本発明は、さらに、被検者におけるがん細胞のがん性表現型を反転させるための方法であって、メラノーマ分化関連遺伝子(mda-7)の遺伝子産物を被検者のがん性細胞に導入することにより、前記がん細胞のがん性表現型を反転させることを具備した方法を提供する。
【0023】
上記方法の一態様において、前記がん細胞は、胸部、子宮頸部、結腸、前立腺、鼻咽頭、肺、結合組織または中枢神経系の細胞を含むが、これに限定されない。前記がん細胞には、さらに、多形膠芽腫、リンパ腫および白血病由来の細胞が含まれる。
【0024】
本発明は、また、がん細胞のがん性表現型を反転させるために有効なメラノーマ分化関連遺伝子(mda-7)を含む一定量の核酸と、薬学的に許容可能なキャリアとを含有する薬学的組成物を提供する。
【0025】
ここで使用する「薬学的に許容可能なキャリア」という用語は、何れの標準的な薬学的キャリアをも包含する。この薬学的組成物は、選択した投薬方法にとって適切な如何なる形態にも構成され得る。経口投薬に適切な組成物は、固形形態(丸剤、カプセル剤、顆粒剤、錠剤、および粉剤など)並びに液体形態(溶剤、シロップ剤、エリキシル剤、および懸濁剤など)を含む。非経口投薬に有効な形態は、滅菌溶剤、乳剤、および懸濁剤などである。
【0026】
ある態様において、前記核酸はベクターを含む。ベクターは、アデノウイルスベクター、アデノ−関連ウイルスベクター、エプスタイン−バールウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、弱毒HIVウイルス、レトロウイルスベクターおよびワクシニアウイルスベクターを含むが、これに限定されない。好ましい態様において、アデノウイルスベクターは、mda-7を発現している複製欠陥性アデノウイルスベクターであり、Ad.mda-7 S.と称される。別の態様において、アデノウイルスは、複製コンピテントアデノウイルスベクターである。
【0027】
本発明は、また、がん細胞のがん性表現型を反転させるために有効な一定量のメラノーマ分化関連子(mda-7)の遺伝子産物と、薬学的に許容可能なキャリアとを含む薬学的組成物を提供する。
【0028】
上記方法の一態様において、前記がん細胞は、胸部、子宮頸部、結腸、前立腺、鼻咽頭、肺、結合組織および中枢神経系の細胞を含むが、これに限定されない。前記がん細胞には、さらに、多形膠芽腫、リンパ腫および白血病由来の細胞が含まれる。
【0029】
本発明は、以下の実験の詳細な説明によりさらに理解されるであろう。しかし、当業者なら、特定の方法および議論されている結果は、後述する請求の範囲で完全に説明された本発明の単なる例示であることを容易に認識するであろう。
【実験の詳細な説明】
【0030】
がんは、増殖制御の欠陥により特徴づけられる病気であり、腫瘍細胞は、しばしば細胞分化の異常パターンを示す。組み換えヒト繊維芽細胞インターフェロンと抗白血病薬剤メゼライン(mezerein)との組み合わせは、ヒト・メラノーマ培養細胞のこれらの異常を直し、その結果、不可逆的な増殖停止および最終分化に至る。差引きハイブリダイゼーションにより、増殖停止し且つ最終分化したヒト・メラノーマ細胞において、発現が高まったメラノーマ分化関連遺伝子(mda-7)が同定される。mda-7が、異なる起源で複数の遺伝的欠陥を有するヒト腫瘍細胞にトランスフェクションされると、コロニー形成は減少する。対照的に、正常細胞(ヒト乳房上皮細胞、ヒト皮膚の繊維芽細胞およびラット胚の繊維芽細胞)を用いた一過性のトランスフェクションアッセイにおいて、増殖およびコロニー形成に対するmda-7の効果は、がん細胞を使って見出された効果より量的に少ない。mda-7の発現が高まった腫瘍細胞は、単層増殖および足場非依存性において抑制を示す。アンチセンスmda-7を発現している組み換えタイプ5のアデノウイルスを用いた感染により、インビトロにおける増殖および形質転換された表現型のmda-7による抑制は除去される。網膜芽細胞腫(RB)およびp53遺伝子の両方を発現していないか、またはこれら両方に欠陥を有するがん細胞において増殖を抑制するmda-7の能力は、mda-7−誘導性の増殖抑制を仲介する際に、これら重要な腫瘍抑制因子が関与していないことを示している。mda-7が以前に記載された増殖抑制遺伝子とタンパク質ホモロジーがないこと、および正常細胞/がん細胞に対するこの遺伝子の分化的効果により、mda-7は新しいクラスのがん増殖抑制遺伝子に相当することが示唆される。
【0031】
材料および方法
細胞系統および培養条件
ヒトがん腫細胞系統、例えばMCF-7およびT47D(胸部)、LS174TおよびSW480(結腸直腸)、HeLa(子宮頸部)、DU-145(前立腺)、並びにHONE−1(鼻咽頭)(9、22−25)を、10%のウシ胎仔血清(DMEM-10)を補充したダルベッコ(Dulbecco)の改良イーグル(Eagle)培地中で、37℃、5%CO2/95%空気−加湿インキュベーターで増殖させた。別のヒト細胞タイプ、例えばHBL−100(正常乳房上皮)、H0−1およびC8161(メラノーマ)、GBM−18およびT98G(多形膠芽腫)、並びにSaos-2(ヒト骨肉腫)を同様の条件下で維持した。初期継代の正常なヒト乳房上皮細胞(HMEC;継代10−12)を、Clonetics Corporation(サンディエゴ、CA)から入手した。HMEC細胞を、Clonetics Corporationにより説明されたように無血清培地中で維持した。CREF−Trans 6(クローン化したフィッシャー(Fischer)ラット胚の繊維芽細胞)(9、26)およびCREF Ha-ras(Ha-ras(T24)がん遺伝子により形質転換されたCREF細胞)(27)を、DMEM-5中で培養した。HeLa cl 1は、ハイグロマイシン耐性(HygR)のラウス肉腫ウイルスRSVベクター(pREP4)(Invitrogen)により形質転換されたHeLaクローンである。HeLa cl 2は、HygRのmda-7を発現するHeLaクローンである。HeLa cl 1およびHeLa cl 2細胞を文献の記載どおりに構築し(12、21)、100μg/mLのハイグロマイシンを含有するDMEM−10中で維持した。DU-145 cl 6およびDU-145 cl 7細胞は、(pMAMneoベクターにクローニングされた)DEX-誘導性mda-7遺伝子(Clontech)を含み(21)、200μg/mLのG418を含有するDMEM-10中で維持した。
【0032】
差引きハイブリダイゼーション、プラスミド、発現ベクター構築物、およびノーザンハイブリダイゼーション
差引きハイブリダイゼーションによるmda-7の同定およびクローニングは、文献の記載どおりに達成された(13)。完全長のmda-7のcDNAを、組み換えIFN−βプラスMEZで処理されたH0−1のcDNAライブラリーをスクリーニングし(13)、文献の記載どおりにcDNA末端迅速増幅法を用いることにより(15)単離した。オープンリーディングフレームを含むmda-7のcDNA断片(ヌクレオチド位置176−960)をPCRで増幅し、TAクローニングによりpCRIITM(Invitrogen)にクローニングした。ベクター中の挿入物の配向を、制限マッピングにより決定した。ヒト細胞発現の構築物は、KpnI−XhoI断片をPCRTMベクターからpREP4ベクター(Invitrogen)にセンス[mda-7(S)]またはアンチセンス[mda-7(AS)]配向で、RSVプロモーターの下流にクローニングすることにより作成された。別途、mda-7遺伝子の断片を、センスおよびアンチセンス配向でpMAMneo(Clontech)ベクターにクローニングした。RNAの単離およびノーザンブロッティングを記載どおりに行った(9,12,13,21)。
【0033】
単層増殖、足場非依存性およびDNA−トランスフェクションアッセイ
単層増殖および足場非依存性増殖アッセイを、以前に文献に記載されたとおりに行った(8,12,26)。単層コロニー形成に対するmda-7の効果を調査するため、挿入物のないベクター、またはmda-7(S)もしくはmda-7(AS)発現構築物を含むベクター[pREP4(RSV)]を、リポフェクション法(GIBCO/BRL)により種々の細胞タイプにトランスフェクションし、ハイグロマイシン中でのハイグロマイシン耐性コロニー形成または細胞増殖を測定した(12,21)。
【0034】
アンチセンス−mda-7 アデノウイルスベクターの構築
組み換え型の複製欠陥性Ad.mda-7(AS)を2段階で作成した。第一に、mda-7遺伝子のコード配列を、改良型のAd発現ベクターpAd.CMVにクローニングした(28)。これは、順に、Adゲノムの左端に由来する355bp、サイトメガロウイルス(CMV)前初期プロモーター、スプライス供与部位および受容部位をコードするDNA、所望の遺伝子(この場合mda-7)のためのクローニング部位、βグロビン遺伝子由来のポリAシグナル配列をコードするDNA、およびE1Bコード領域内から延びる約3kbpのアデノウイルス配列を含む。この配列は、クローニングされた配列のCMV前初期遺伝子プロモーターによる高レベルの発現、およびRNAプロセッシングを可能にする(28)。組み換えウイルスは、mda-7含有ベクターとプラスミドJM17との間の相同的組み換えにより293細胞内でin vivoで作成され(29)、これは、改良型pBR322にクローニングされたAdゲノム全体を含んでいる(30)。JM17は、in vivoでAdゲノムを生じるが、Adゲノムは大きすぎて組み込むことができない。この制約からは、選択遺伝子を含んだ組み込み可能なゲノムを作成するためのベクターとの組み換えにより解放される(30)。組み換えウイルスは、293細胞以外のヒト細胞において複製欠陥があり、これはアデノウイルスE1AおよびE1Bを発現する。二つのプラスミドのトランスフェクションの後、感染ウイルスを回収し、ゲノムを分析して組み換え構造を確認し、次いでウイルスをプラーク精製した。全て標準手法により行った(31)。
【0035】
ペプチド抗体の産生および免疫沈降法解析
ペプチド抗体は、文献の記載どおりにPSQENEMFSIRDに対して調製した(21)。対数的に増殖するHeLa、HeLa Cl 1(HygRのpREP4ベクターコントロールHeLaクローン)およびHeLa cl 2[pREP4-mda-7(S)によりトランスフェクションされたHygRのmda-7発現HeLaクローン]細胞を、未処理にするか、または10プラーク形成ユニットのコントロールアデノウイルス(H5dl434)(32)もしくはmda-7(AS)を発現する組み換えアデノウイルス[Ad.mda-7(AS)]で感染させた。感染後、さまざまな時間において、培養物をメチオニンなしの培地中において37℃で1時間、メチオニン飢餓にし、細胞を沈殿させることにより濃縮し、100μCi(1Ci=37GBq)の35S(NEN;Express 35S)を用いて1mLの同培地中で4時間37℃で標識した。2μgのMDA-7ペプチドのウサギポリクローナル抗体またはアクチンモノクローナル抗体(Oncogene Sciences)を用いた免疫沈降法解析は、文献の記載どおりに行った(15,21)。
【0036】
実験結果
ヒトがん細胞およびHa-ras-形質転換されたラット胚の繊維芽細胞におけるmda-7の増殖抑制特性の増大
DNAトランスフェクションアッセイを行って、細胞増殖に対するmda-7発現増大の効果を評価した。ヒトの子宮頸部癌腫(HeLa)細胞にmda-7(S)構築物をトランスフェクトさせると、mda-7(S)構築物は、pREP4ベクターおよびmda-7(AS)構築物によりトランスフェクションされた培養物と比べて、HygRコロニーが10〜15倍減少する(図1および表1)。
【表1】

【0037】
a 対数的に増殖する細胞を、100-mmプレートあたり1×106で播き、挿入物なしのベクター、またはmda-7(S)もしくはmda-7(AS)を含む10μgのベクターでトランスフェクションした。24時間後、細胞を100μg/mLのハイグロマイシンを含有する培地に、100-mmプレートあたり約2×105細胞で再度播いた。培地を3日または4日ごとに交換し、14日目または21日目にプレートをホルムアミドで固定しギムザ染色をした。50以上の細胞を含むコロニーを数え上げた。表示の値は、4または5プレートで形成された平均HygRコロニー±S.D.である。
b かっこ内の値は、RSV-mda-7(AS)によりトランスフェクションされた細胞と比較したときのコロニー形成の低下倍数を示している。
c MCF-7、T47D、HeLa、LS174T、DU-145およびHONE-1は、表示の構造部位から単離したヒトがん腫(Ca)細胞系統である。T98Gは、ヒト多形膠芽腫の細胞系統である。CREF-rasは、Ha-ras(T24)がん遺伝子により形質転換されたCREFクローンである。
【0038】
より少ないコロニー形成に加えて、mda-7(S)コロニーは、一般に、pREP4ベクターまたはmda-7(AS)構築物でのトランスフェクション後に得られた対応するHygRコロニーよりサイズが小さい(図1)。mda-7(S)構築物を別のヒトがん細胞系統にトランスフェクションすると、HygRコロニー形成を3ないし10倍低下させる(表1)。これらには、ヒト胸部がん腫(MCF-7およびT47D)、結腸がん腫(LS174TおよびSW480)、鼻咽頭がん腫(HONE-1)、前立腺がん腫(DU-145)、メラノーマ(H0-1およびC8161)、多形膠芽腫(GBM-18およびT98G)並びに骨肉腫(Saos-2)が含まれる。HeLa細胞で観察されたとおり、mda-7(S)構築物でトランスフェクション後に形成されるHygRコロニーの平均サイズは、空のpREP4ベクターまたはmda-7(AS)構築物でのトランスフェクション後に形成されたものより小さい。これらの結果は、mda-7が広範囲の組織学的に異なるヒトのがんにおいて過剰発現すると、効力のある増殖抑制遺伝子であることを実証している。
【0039】
mda-7が正常細胞の増殖を抑制するかどうか、およびこの効果がヒトがん細胞で観察された効果と定量的に同一であるかどうかを測定するため、一過性のDNAトランスフェクションアッセイを、継代10ないし12の正常なヒト乳房上皮(HMEC)細胞、正常な胸部上皮細胞系統HBL-100、正常なヒト皮膚繊維芽細胞(継代21)およびクローニングされた正常なラット胚の繊維芽細胞系統(CREF-Trans6)を用いて行った(7,8)。HMEC、HBL-100および正常なヒト皮膚繊維芽細胞は、フィーダー層を用いたときでさえ、高頻度に明確なコロニーを形成しないので、異なるRSV構築物を用いてトランスフェクションし、ハイグロマイシン中で2〜3週間増殖させた後の全細胞数に対する効果を測定した。このアプローチを用いて、mda-7(AS)またはpREP4ベクターでトランスフェクトされた正常細胞に対してmda-7(S)において、HMECでは約1.1ないし1.6倍の減少、HBL-100では1.1ないし1.2倍の減少、正常なヒト皮膚繊維芽細胞数では1.3ないし2.1倍の減少が(各細胞タイプを用いた3回の独立実験で)各々観察された。対照的に、同様の実験プロトコールを用いたT47Dヒト胸部がん腫細胞に関しては、ベクターおよびアンチセンスでトランスフェクトされた細胞と比較して、mda-7(S)構築物でのトランスフェクション後に、約3.2ないし5.2倍増殖は抑制された。CREF-Trans6細胞の場合、6回の独立トランスフェクションアッセイに関するHygRコロニー形成において、mda-7(AS)およびベクタートランスフェクトされた細胞に対するmda-7(S)との間の違いは、0.5から2.8倍まで及んでいる(表1)。対照的に、mda-7(S)構築物のHa-ras形質転換CREF細胞へのトランスフェクションは、コロニー形成を6〜8倍低下させた(表1)。これらの結果は、ヒトがん細胞およびHa-ras形質転換されたラット胚細胞ほど、正常なヒト細胞および正常な齧歯類細胞において、mda-7が、増殖およびコロニー形成を低下させるのに定量的に有効でないことを示している。
【0040】
安定かつ誘導的なmda-7発現の細胞増殖に対する効果、およびmda-7発現のアンチセンス阻害の細胞増殖に対する効果、並びに形質転換された表現型
mda-7(S)遺伝子でのトランスフェクション後に低頻度にHeLa細胞が生存する理由を決定するため、mda-7(S)構築物でのトランスフェクション後に、10個の独立したHygRコロニーを単離した。ノーザンブロッティングによりmda-7発現について解析した10クローンのうち、7クローンは検出可能なmda-7のmRNAを発現しておらず、2クローンは低レベルのmda-7のmRNAを発現しており、1クローン(名称HeLa cl 2)は、高レベルのmda-7のmRNAを発現していた。対照的に、このクローンの全てが、HygRおよびグリセルアルデヒド3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)遺伝子の匹敵するレベルの発現を示した。親のHeLa細胞またはpREP4ベクターHeLaクローン(名称HeLa cl 1)と比較すると、HeLa cl 2(mda-7発現)細胞は低速度で増殖した(図2)。寒天で増殖させると、クローニングされていないHeLaおよびHeLa cl 1細胞は、約42%の効率で増殖したが、HeLa cl 2(mda-7発現)細胞は、約25%の効率で増殖し、コロニーの平均サイズは、親のHeLaおよびpREP4ベクターHeLa cl 1細胞について観察されたよりも小さかった。これらの結果より、mda-7でのトランスフェクションした後のHeLaの生存は、主として、mda-7発現の欠損または低レベルのmda-7発現に起因して起こることが示される。しかし、mda-7を安定に高レベルで発現しているHeLa細胞において、単層培養および足場非依存性における増殖は低下する。
【0041】
HeLa cl 2(mda-7発現)において観察されたin vitroでの増殖の低下および形質転換抑制が、mda-7発現の直接的な結果であるかどうかを決定するため、mda-7発現を直接的に抑制するためにアンチセンスストラテジーを使用した。アンチセンス配向にクローニングされたmda-7遺伝子を含む組み換えAd5ベクター[Ad.mda-7(AS)]を構築した。Ad.mda-7(AS)によるHeLa cl 2(mda-7発現)の感染は、増殖速度および寒天クローニング効率を(約25%から約44%に)増加させるが、HeLa cl 1(pREP4ベクター、mda-7発現せず)または親のHeLaはそうではない(図2)。対照的に、mda-7遺伝子を含有しないコントロールの突然変異体Ad5ベクター(H5dl434)は、親のHeLa、HeLa cl 1またはHeLa cl 2細胞の単層増殖または寒天増殖に影響を及ぼさない(データ示さず)。
【0042】
ウサギで生産したmda-7特異的ペプチド抗体および免疫沈降法解析を使用したところ、HeLa cl 2(mda-7発現)細胞では、約24kDaタンパク質のMDA-7および約90ないし110kDaの高分子量複合(HMC)タンパク質のレベルが増大している(図3)。Ad.mda-7(AS)での感染は、24kDaのMDA-7タンパク質およびHMCタンパク質両方の一時的な低下を引き起こすが、H5dl434コントロールのmda-7非発現ウイルスではそうではない(21)(図3)。両タンパク質の低下したレベルは、Ad.mda-7(AS)での感染後48時間後に見られ、96時間にわたって抑制されたままである。対照的に、アクチンレベルは、ウイルス感染後も未変化のままである。これらの観察は、HeLa cl 2(mda-7発現)におけるMDA-7タンパク質発現のアンチセンス阻害が、mda-7誘導による増殖抑制および足場非依存性増殖の抑制を直接消滅させ得ることを示している。
【0043】
mda-7の細胞増殖に対する抑制効果を確認するため、DU-145ヒト前立腺がん細胞を、DEX誘導性mda-7遺伝子を発現するように操作した。[DEX誘導性mda-7(S)遺伝子を含む]DU-145 cl 6またはcl7細胞を、10-6M DEXの存在下で24〜96時間増殖させると、mda-7のmRNAおよび(HMCタンパク質を含む)タンパク質が誘導されるが、親のDU-145細胞ではそうではない(図4)。対照的に、DEXは、DU-145 cl 6およびcl 7細胞においてネオマイシン耐性(NeoR)遺伝子の発現を変化させず、または試験された細胞全てにおいてGAPDHの発現を変化させない(図4)。DU-145 cl 6およびcl 7細胞において、10-6M DEX中の増殖によるmda-7発現の誘導は、DEXの非存在下の増殖と比べて、96時間後の細胞数を約50%低下させる。対照的に、親のDU-145またはpMAMneoベクター形質転換DU-145細胞を、10-6M DEXを含む培地中で96時間増殖させても、有意な増殖抑制は起こらない(データ示さず)。これらのデータは、mda-7の異所性発現が、前立腺がん細胞において細胞増殖を直接変化させ得ることを示している。
【0044】
実験の考察
差引きハイブリダイゼーションにより、増殖停止し且つ最終分化したヒト・メラノーマ細胞において、発現の増大したmda遺伝子が同定された(13、14、21)。これらmda遺伝子の機能を決定することは、ヒト・メラノーマおよび他の細胞タイプにおける増殖制御および最終分化の分子的根拠を規定する際に重要であろう。mda-7遺伝子(14、21)は、広範囲のヒトがん細胞系統において一過性または安定に発現すると、普遍的な増殖抑制遺伝子であることが今日示されている。この発見は、ヒト・メラノーマ細胞におけるMDA-7タンパク質の増殖抑制特性を示す以前の観察を拡張するものである(21)。がん細胞に対するその効果に対して、正常なヒト乳房上皮、正常なヒト皮膚繊維芽細胞および正常なラット胚繊維芽細胞へのmda-7のトランスフェクションは、定量的により低い増殖抑制を生じさせる。別のmda遺伝子であるmda-6(p21)と同様に、mda-7の発現もメラノーマの進行と逆の関連があり、mda-6(p21)およびmda-7両方のレベルの増大は、転移性ヒト・メラノーマ細胞と比べて正常なヒトメラニン細胞に存在する(14-16、21)。メラノーマ細胞に対して低下した速度ではあるが、正常なメラニン細胞はなお増殖能を保持しているため、mda-6(p21)およびmda-7の両方が、メラニン細胞/メラノーマ直系細胞においてメラノーマ進行の負のレギュレーターとして機能することが可能である(14-16、21)。その上、最終分化をし且つ不可逆的に増殖停止したヒト・メラノーマ細胞において、mda-6(p21)およびmda-7両方の発現が増大することにより、これらの遺伝子が最終分化表現型の重要なレギュレーターであることが示唆され得る(13-16、21)。
【0045】
mda-7がヒトがん細胞に対してその増殖抑制効果を引き出すメカニズムは、現在知られていない。mda-7の構造は、潜在的な作用モードを示唆する配列モチーフが存在しないため、潜在的な機能に対する識見を提供してくれない。細胞増殖に対するmda-7の効果は、広範囲にわたって研究された腫瘍抑制遺伝子p53と区別することができる(33、34)。突然変異体p53を含むヒト胸部のがん腫細胞系統T47Dにおけるp53の一過性発現は、増殖抑制を引き起こすが、野生型p53を含むヒト胸部のがん腫細胞系統MCF-7に野生型p53遺伝子をトランスフェクションしても、増殖抑制を引き起こさない(34)。対照的に、mda-7は、T47DおよびMCF−7細胞の両方において同様の増殖抑制を引き起こす(表1)。mda-7による増殖抑制は、網膜芽細胞腫遺伝子(pRB)、pRb関連のp107遺伝子および推定腫瘍抑制遺伝子p16ink4について観察されたものと切り離して考えることもできる(25、35)。pRbおよびp107の過剰発現は、特定の細胞タイプにおいて細胞周期に依存した方法で細胞増殖を抑制する(35-37)。明らかに正常なRB遺伝子を含むヒトグリア芽細胞腫の細胞系統T98Gに対してpRbまたはp107をトランスフェクションすること(25)によっては増殖抑制は引き起こされないが(35、37)、mda-7(S)の一過性発現は、T98Gコロニー形成を低下させる(表1)。現時点で、mda-7の増殖抑制効果は、RBファミリーメンバーp130/pRb2(これはT98G細胞においても増殖を抑制する)により誘導される増殖抑制と区別することができない(25)。p16ink4遺伝子は、機能的なRB遺伝子を含む細胞において増殖停止を引き起こすが(35、37)、mda-7の増殖抑制は、正常、異常、または非機能的なRB遺伝子を含む細胞において起こる。突然変異したRB遺伝子を含むヒト前立腺がん腫の細胞系統DU-145(38)およびRB(または野生型p53)を発現しないヒト骨肉腫細胞Saos-2にmda-7をトランスフェクションすることによって、コロニー形成の抑制が引き起こされる(表1)。同様に、安定なDEX-誘導性mda-7により形質転換されたDU-145クローンにおけるmda-7発現の誘導は、増殖抑制を引き起こす。これらの発見
により、mda-7による増殖抑制に関しては、機能的RB遺伝子に対する依存性がないことが示される。これらの研究を総合的に考えると、mda-7の抑制効果は、二つの最も広く研究された腫瘍抑制遺伝子であるp53およびpRB、並びに推定腫瘍抑制遺伝子p16ink4の作用様式とは異なるメカニズムにより起こることが説明される。
【0046】
ほ乳類細胞における増殖の停止またはDNA損傷の関数として発現の増大を示す、幾つかの遺伝子が同定された(39,40)。増殖の停止およびDNAの損傷を誘導する3つの(gadd)遺伝子(gadd45、gadd153およびgadd34)、密接に関連した骨髄分化初期応答(MyD118)遺伝子(41)、並びに野生型p53の抑制遺伝子mdm-2(42)は、DNA損傷剤メチルメタンスルホネート(MMS)での処理により細胞内でアップレギュレートされる(40)。gadd45および増殖停止特異的遺伝子(gas1)(43,44)は、細胞を集密状態に維持することにより、血清飢餓細胞により、または低血清で細胞を増殖させることより誘導される(40,43,44)。対照的に、mda-7のmRNA発現は、メチルメタンスルホネート(MMS)による処理後、または細胞を集密状態に維持した後、ヒト・メラノーマ細胞において誘導されない(21)。その上、96時間の無血清培地での増殖後、H0−1ヒト・メラノーマ細胞において、mda-7のmRNA発現にはわずかな増大しか起こらない(21)。gadd、MyD118およびgas-1遺伝子と比べたmda-7の調節における違いにより、mda-7が新規クラスの増殖停止遺伝子の典型であり得ることが示される。
【0047】
要約すると、正常および突然変異のp53遺伝子並びにRB遺伝子の両方を含むヒトがん細胞において増殖抑制を誘導する、負の増殖レギュレーター、即ちmda-7が説明されている。mda-7のゲノム構造の特性決定は、この遺伝子が腫瘍抑制遺伝子として正常に機能するかどうか、および正常細胞と腫瘍細胞との比較においてこの遺伝子に変異が存在するかどうかを決定する際に重要となるであろう。mda-7のプロモーター領域の同定は、更に、この遺伝子が特定の細胞タイプにおいて特異的に発現し、且つIFN−βプラスMEZにより誘導的であるメカニズムの解析を可能にするであろう。mda-7が正常細胞よりもがん細胞および形質転換細胞に対して増殖抑制的であるという発見は、潜在的に重要であり且つ研究の発展を保証するものである。この観点において、特定のヒト悪性疾患の治療における効能について野生型p53遺伝子が現在試験されているのと類似の方法で、mda-7が、がん治療のための遺伝子ベースの治療ストラテジーの一部として有効であることが証明されるであろう。
【参照文献】
【0048】



実験の第二シリーズ
組み換えアデノウイルスにおけるメラノーマ分化関連遺伝子−7(mda-7)は、ヌードマウスの株化ヒト腫瘍の増殖を抑制する。
【0049】
単層培養におけるコロニー形成の低下により示されたように、種々の起源のヒト腫瘍細胞におけるmda-7の異所性発現が増殖を抑制することが、以前の研究により文書で示されている(Jiangら、PNAS、93:9190-9165、1996)。対照的に、mda-7は、正常なヒト上皮細胞または繊維芽細胞の増殖を顕著には変えない。これらの観察は、mda-7が普遍的ながん増殖抑制遺伝子であるという仮説を支持している。
【0050】
がん細胞の増殖を選択的に抑制するmda-7の能力は、この遺伝子がヒトのガン治療において治療上の利益をもたらすことを示唆している。この可能性を詳しく調べるため、複製欠陥性のmda-7を発現するアデノウイルスを作成した。そのプロトコールは、アンチセンスmda-7を発現するアデノウイルス(Ad.mda-7 AS)を構築するために使用したものと類似している(Jiangら、PNAS、93:9160-9165、1996)。組み換え複製欠陥性Ad.mda-7 Sは、2段階で作成した。第一に、mda-7遺伝子を改良型Ad発現ベクターpAd.CMVにセンス配向でクローニングした。このウイルスは、順に、Adゲノムの左端に由来する355bp、サイトメガロウイルス(CMV)前初期プロモーター、βグロビン遺伝子由来のポリAシグナル配列をコードするDNA、およびE1Bコード領域内から延びる約3kbpのアデノウイルス配列を含む。この配列は、CMV前初期遺伝子プロモーターによりクローニング配列の高レベルの発現を、および適切なRNAプロセシングを可能にする。この組み換えウイルスは、mda-7含有ベクターとJM17との間の相同的組み換えにより、293細胞内でin vivoで作成され、これは、改良型pBR322にクローニングされたAdゲノム全体を含んでいる。JM17は、in vivoでAdゲノムを生じるが、大きすぎて詰め込むことができない。この制約からは、選択遺伝子を含んだ組み込み可能なゲノムを作成するためのベクターとの組み換えにより解放される。組み換えウイルスは、293を除くヒト細胞において複製欠陥であり、これはアデノウイルスE1AおよびE1Bを発現する。二つのプラスミドのトランスフェクションの後、全て標準手法により、感染性ウイルスを回収し、ゲノムを解析して組み換え構造を確認し、次いでウイルスをプラーク精製した。
【0051】
mda-7でのトランスフェクションで観察されたように、種々のヒトがん細胞系統のAd.mda-7 Sでの感染は増殖を抑制するが、正常な細胞系統では抑制しない。これらの結果は、このウイルスがmda-7プラスミド構築物で観察される特性を保持していることを証明する。多くのがん細胞、例えば、胸部がん腫(MCF-7およびT47D)、グリア芽細胞腫(GBM-18およびT98G)並びにメラノーマ(H0-1およびC8161)などにおいて、Ad.mda-7 Sでの感染は、プログラムされた細胞死(アポトーシス)の誘導を引き起こす。この効果は、Ad.mda-7 Sでの多数の感染(100pfu/細胞)後でさえ、正常細胞において引き出されなかった。他のがん細胞タイプにおいて、(単層培養におけるコロニー形成の抑制により示されるような)増殖抑制は、核の形態的変化、ヌクレオソームラダー(ladder)の形成または陽性TUNEL反応により示されるように、アポトーシスの兆候がなくとも明らかである。これらの結果は、Ad.mda-7 Sウイルスが in vitroでヒトがん細胞の増殖を選択的に抑制できることを示している。その上、特定のがん細胞タイプにおいて、増殖抑制は、アポトーシスの誘導と関連している。これらの観察は、mda-7により誘導されるがん増殖の抑制が複数の経路によって起こり得ることが示唆される。
【0052】
ヌードマウスヒト腫瘍異種移植モデルを使用して、Ad.mda-7 Sがin vivoでヒトがん細胞の増殖を抑制できるかどうかを決定した。Taconic Labsから入手した無胸腺ヌードマウスに、マトリゲル(matrigel)と混合したPBS中の100万個のヒト子宮頸部がん腫(HeLa)細胞を皮下注射した(最終体積0.4mL;マトリゲル対PBSの比1:1)。腫瘍を平均体積100ないし200mm3(接種後10ないし21日目)に達するまで増殖させた。その後、マウスを無作為に2グループに分けた:グループ1:mda-7遺伝子を欠損している複製欠陥性Ad;ヌル(null)ウイルス(ヌル);およびグループ2:Ad.mda-7 S。処理は、4週間の間、週に3回、ヌルまたはAd.mda-7 Sの腫瘍内注射(4箇所に100μL/注射)から成る。腫瘍を週に2ないし3回カリパスで測定した。腫瘍体積を一般式を用いて計算した:pi/6×大きい直径×(小さい直径)2。治療の4週間後、動物をもう1週間観察し、屠殺した。最初の腫瘍体積で割った最終腫瘍体積は、がん進行の指標として規定された腫瘍体積比に相当する。
【0053】
Ad.mda-7 Sで処理された株化HeLa異種移植は、研究の間を通じて増殖を抑制したが、ヌルウイルスで処理された腫瘍は、進行して増殖し続けた(図5および6)。mda-7の抑制効果は、p値<0.05で有意であった。本研究は反復して行い、同じ結果が得られた。このデータから、mda-7の異所性発現がヒトのがん治療に治療上利益をもたらし得ることが示唆される。実験は、株化ヒト胸部がん腫瘍、MCF-7およびT47Dを用いてヌードマウスで今日進行中である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
がん細胞のがん性表現型を反転させるための方法であって、メラノーマ分化関連遺伝子(mda-7)を含む核酸を、前記遺伝子の発現可能な条件下で前記がん細胞に導入することにより、前記がん細胞のがん性表現型を反転させることを具備した方法。
【請求項2】
被検者におけるがん細胞のがん性表現型を反転させるための方法であって、メラノーマ分化関連遺伝子(mda-7)を含む核酸を、前記被検者の細胞内で前記遺伝子の発現が可能な条件下において前記被検者のがん性細胞に導入することにより、前記がん細胞のがん性表現型を反転させることを具備した方法。
【請求項3】
前記核酸がベクターを含む請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
請求項1または2記載の方法であって、前記メラノーマ分化関連遺伝子(mda-7)が、当該遺伝子の発現が調節配列の制御下にあるように調節配列に連結している方法。
【請求項5】
前記調節配列が誘導的または構成的である請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記調節配列が組織特異的調節配列である請求項4記載の方法。
【請求項7】
請求項1ないし6記載の方法であって、前記核酸が、裸のDNA技術、アデノウイルスベクター、アデノ−関連ウイルスベクター、エプスタイン−バールウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、弱毒HIVベクター、レトロウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター、リポソーム、抗体で被覆したリポソーム、または機械的もしくは電気的手段により、前記がん細胞に導入される方法。
【請求項8】
請求項1ないし7記載の方法であって、前記がん細胞が、当該がん細胞内に欠陥性腫瘍抑制遺伝子が存在することにより特徴付けられる方法。
【請求項9】
請求項8記載の方法であって、前記腫瘍抑制遺伝子がp53、網膜芽細胞腫(RB)またはp16ink4a遺伝子である方法。
【請求項10】
請求項1ないし7記載の方法であって、前記がん細胞が、当該がん細胞内に優性作用的がん遺伝子が存在することにより特徴付けられる方法。
【請求項11】
請求項10記載の方法であって、前記優性作用的がん遺伝子が、Ha-ras、突然変異体p53またはヒトパピローマウイルス遺伝子である方法。
【請求項12】
請求項3記載の方法であって、前記ベクターが、アデノウイルスベクター、アデノ−関連ウイルスベクター、エプスタイン−バールウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、弱毒HIVベクター、レトロウイルスベクターまたはワクシニアウイルスベクターである方法。
【請求項13】
請求項12記載の方法であって、前記アデノウイルスベクターが、mda-7を発現する複製欠陥性アデノウイルスベクター(名称 Ad.mda-7 S)である方法。
【請求項14】
がん細胞のがん性表現型を反転させるための方法であって、メラノーマ分化関連遺伝子(mda-7)の遺伝子産物を前記がん性細胞に導入することにより、前記がん細胞のがん性表現型を反転させることを具備した方法。
【請求項15】
被検者におけるがん細胞のがん性表現型を反転させるための方法であって、メラノーマ分化関連遺伝子(mda-7)の遺伝子産物を前記被検者のがん性細胞に導入することにより、前記がん細胞のがん性表現型を反転させることを具備した方法。
【請求項16】
請求項1ないし15記載の方法であって、前記がん細胞が、胸部、子宮頸部、結腸、前立腺、鼻咽頭、肺、多形膠芽腫、リンパ腫、白血病、結合組織または神経系の細胞である方法。
【請求項17】
がん細胞のがん性表現型を反転させるために有効なメラノーマ分化関連遺伝子(mda-7)を含む一定量の核酸と、薬学的に許容可能なキャリアとを含有する薬学的組成物。
【請求項18】
前記核酸がベクターを含む請求項17記載の薬学的組成物。
【請求項19】
請求項18記載の薬学的組成物であって、前記ベクターが、アデノウイルスベクター、アデノ−関連ウイルスベクター、エプスタイン−バールウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、弱毒HIVベクター、レトロウイルスベクターまたはワクシニアウイルスベクターである薬学的組成物。
【請求項20】
請求項19記載の薬学的組成物であって、前記アデノウイルスベクターが、mda-7を発現する複製欠陥性アデノウイルスベクター(名称 Ad.mda-7 S)である薬学的組成物。
【請求項21】
がん細胞のがん性表現型を反転させるために有効なメラノーマ分化関連遺伝子(mda-7)の一定量の遺伝子産物と、薬学的に許容可能なキャリアとを含有する薬学的組成物。
【請求項22】
請求項17ないし21記載の薬学的組成物であって、前記がん細胞が、胸部、子宮頸部、結腸、前立腺、鼻咽頭、肺、多形膠芽腫、リンパ腫、白血病、結合組織または神経系の細胞である薬学的組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−51909(P2012−51909A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−221094(P2011−221094)
【出願日】平成23年10月5日(2011.10.5)
【分割の表示】特願平10−510102の分割
【原出願日】平成9年8月15日(1997.8.15)
【出願人】(592104782)ザ・トラスティーズ・オブ・コランビア・ユニバーシティー・イン・ザ・シティー・オブ・ニューヨーク (21)
【氏名又は名称原語表記】THE TRUSTEES OF COLUMBIA UNIVERSITY IN THE CITY OF NEW YORK
【Fターム(参考)】