説明

がん細胞のアポトーシス誘導剤、がん細胞の転移抑制剤、抗がん剤、食品製剤、抗HIV剤、および抗HIV作用を有する食品製剤

【課題】 がん細胞のアポトーシス誘導剤、がん細胞の転移抑制剤、抗がん剤、食品製剤、抗HIV剤、および抗HIV作用を有する食品製剤を提供する。
【解決手段】 本発明のがん細胞のアポトーシス誘導剤は、ナンキンハゼおよび/またはその抽出物を有効成分として含む。本発明の抗がん剤および食品製剤は、上記本発明のがん細胞のアポトーシス誘導剤を有効成分として含む。本発明のがん細胞の転移抑制剤は、ナンキンハゼおよび/またはその抽出物を有効成分として含む。本発明の抗がん剤および食品製剤は、上記本発明のがん細胞の転移抑制剤を有効成分として含む。本発明の抗HIV剤は、ナンキンハゼおよび/またはその抽出物を有効成分として含む。本発明の抗HIV作用を有する食品製剤は、ナンキンハゼおよび/またはその抽出物を有効成分として含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規ながん細胞のアポトーシス誘導剤、がん細胞の転移抑制剤、抗がん剤、食品製剤、抗HIV剤、および抗HIV作用を有する食品製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ガンの治療方法としては一般に、化学療法、放射線療法、および外科手術が広く用いられている。このうち、化学療法は、化学物質を有効成分とする抗がん剤を患者に投与して、がんを縮小させる、あるいはがんの再発を防ぐ方法である。
【0003】
化学療法では一般に、様々な副作用が出現することが広く知られている。このような副作用の制御は、患者のQOL(クオリティー・オブ・ライフ)を向上させるうえで重要である。しかしながら、抗がん剤による副作用の制御は非常に困難である。すなわち、抗がん剤による副作用を低減するためには、患者の体質や年齢、性別、既往症などの様々な条件を考慮して、患者毎に使用する抗がん剤の種類や投与量を厳密に調整する必要がある。
【0004】
ところで、ここ25年の間、後天性免疫不全症候群(acquired immunodeficiency Syndrome,AIDS)は世界中に急速に広まり、その予防法や治療法の確立が必要とされている。AIDSは、レトロウィルスの一種であるヒト免疫不全ウイルス(Human Immunodeficiency Virus,HIV)によって引き起こされることから、HIVの増殖を抑制する薬剤の開発研究が活発に行われている。
【0005】
その結果、これまでに、ジドブジン,ジダノシン,ジダノシン,ザルシタビン,ラミブジン,サニルブジン,アバカビルなどの核酸系逆転写酵素阻害剤、ネビラピン,エファビレンツ,デラビルジンなどの非核酸系逆転写酵素阻害剤、インジナビル,メシル酸サキナビル,サキナビル,リトナビル,ネルフィナビル,アンプレナビル,ロピナビル・リトナビルなどのプロテアーゼ阻害剤が抗HIV剤として臨床で用いられている。
【0006】
しかしながら、上記抗HIV剤においてはいずれも、副作用の発生が問題となっている。例えば、アジドチミジンやジダノシンでは、吐気などの消化器症状や筋肉痛や頭痛などの疼痛症状の発生のみならず、造血機能の抑制や脂肪肝の発生などの副作用が生じることが多い。また、例えば、インジナビルでは、吐気などの消化器症状や、腎結石などの副作用が生じることが多い。そのうえ、AIDSを発症した患者は免疫機能が大幅に低下しているため、上述した副作用の発生は、免疫機能が低下した患者にとって大きなダメージとなる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、重篤な副作用がないがん細胞のアポトーシス誘導剤、ならびに前記がん細胞のアポトーシス誘導剤を有効成分として含む抗がん剤および食品製剤を提供することにある。
【0008】
また、本発明の他の目的は、重篤な副作用がないがん細胞の転移抑制剤、ならびに前記がん細胞のアポトーシス誘導剤を有効成分として含む抗がん剤および食品製剤を提供することにある。
【0009】
さらに、本発明の他の目的は、優れた抗HIV作用を有し、かつ、重篤な副作用がない、抗HIV剤、ならびに抗HIV作用を有する食品製剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本特許出願の発明者は、ナンキンハゼおよび/またはその抽出物が、がん細胞の転移抑制作用およびがん細胞のアポトーシス誘導作用などの優れた抗がん作用、ならびに抗HIV作用を有することを見出した。
【0011】
本発明のがん細胞のアポトーシス誘導剤は、ナンキンハゼおよび/またはその抽出物を有効成分として含む。
【0012】
本発明の抗がん剤および食品製剤は、上記本発明のがん細胞のアポトーシス誘導剤を有効成分として含む。
【0013】
本発明のがん細胞の転移抑制剤は、ナンキンハゼおよび/またはその抽出物を有効成分として含む。
【0014】
本発明の抗がん剤および食品製剤は、上記本発明のがん細胞の転移抑制剤を有効成分として含む。
【0015】
本発明の抗HIV剤は、ナンキンハゼおよび/またはその抽出物を有効成分として含む。
【0016】
本発明の抗HIV作用を有する食品製剤は、ナンキンハゼおよび/またはその抽出物を有効成分として含む。
【0017】
本発明において、「がん(cancer)」とは、「癌(carcinoma;『癌腫』ともいう)」を含む「悪性腫瘍(malignancy)」をいうものとする。
【0018】
また、本発明において、「ナンキンハゼの抽出物」とは、ナンキンハゼから溶媒によって抽出された抽出液、あるいはこの抽出液の乾燥物をいうものとする。
【発明の効果】
【0019】
本発明のがん細胞のアポトーシス誘導剤によれば、ナンキンハゼおよび/またはその抽出物を有効成分として含むことにより、重篤な副作用を生じさせることなく、がん細胞をアポトーシスへと誘導することができる。よって、本発明のがん細胞のアポトーシス誘導剤は例えば、抗がん剤および食品製剤として有用である。
【0020】
本発明のがん細胞の転移抑制剤によれば、ナンキンハゼおよび/またはその抽出物を有効成分として含むことにより、重篤な副作用を生じさせることなく、がん細胞の転移を抑制することができる。これにより、優れた抗がん作用を有する。よって、本発明のがん細胞の転移抑制剤は例えば、抗がん剤および食品製剤として有用である。
【0021】
本発明の抗HIV剤および抗HIV作用を有する食品製剤によれば、ナンキンハゼおよび/またはその抽出物を有効成分として含むことにより、重篤な副作用を生じさせることなく、抗HIV作用を発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明のがん細胞のアポトーシス誘導剤、がん細胞の転移抑制剤、および抗HIV剤(以下、これらを総称して「組成物」ともいう。)は、ナンキンハゼおよび/またはその抽出物を有効成分として含む。本発明の組成物によれば、がん細胞のアポトーシス誘導作用および転移抑制作用により、がんの発生防止、がんの再発防止、ならびにがんの生長期間の延長を達成することができる。また、本発明の組成物によれば、HIVの細胞内への侵入を防止することができる。
【0023】
本発明の組成物は、例えば、抗がん剤および食品製剤の有効成分として有用である。本発明の組成物によれば、優れた抗がん作用および抗HIV作用を有するうえに、重篤な副作用がない点で非常に有用である。以下、本発明について具体的に説明する。
【0024】
1.トウダイグサ科サピウム属の植物
本発明の組成物において原料として使用されるトウダイグサ科サピウム属(Euphobiaceae Sapium)の植物は、落葉または常緑の低木または高木である。トウダイグサ科サピウム属の植物は、東南アジアおよび中南米などの熱帯や亜熱帯に分布している。トウダイグサ科サピウム属の植物としては、例えば、ナンキンハゼが挙げられる。
【0025】
トウダイグサ科サピウム属の植物を本発明の原料として使用する場合、その使用部位は特に限定されないが、例えば、葉、茎、根、根皮、花、種子、樹皮、枝などを使用することができる。これらの素材は、湿潤状態および乾燥状態のいずれでもよい。また、溶媒によって抽出された抽出液、あるいはこの抽出液を乾燥させて得られる乾燥物を用いてもよい。
【0026】
抽出用溶媒の種類としては、特に限定されないが、例えば、水、親水性有機溶媒、および親油性有機溶媒が挙げられる。親水性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどの低級アルコール類、ギ酸、酢酸などの有機酸類、ジメチルスルホキシド、フェノール類などが例示できる。これらのうち、食用に用いられる点で、水またはエタノールが好ましい。親油性有機溶媒としては、クロロホルム、ペンタン、ヘキサン、アセトン、酢酸エチル、アセトニトリル、ベンゼン、ならびにナタネ油などの植物油脂が例示できる。
【0027】
ナンキンハゼ(南京黄櫨、学名:Sapium sebiferum (L.) Roxb、英名:Vegetable tallow)は中国原産のトウダイグサ科サピウム属落葉高木で、秋には葉が美しい赤紅色に色づき、街路樹や庭園樹として広く植栽されている。日本では、その乾燥根皮は利尿剤または下剤として利用され、その種子は蝋燭や石鹸の原料として利用されている。
【0028】
ナンキンハゼを本発明の組成物の原料として使用する場合、その使用部位は特に限定されないが、例えば、根皮、根、茎、種子、葉、花、樹皮、枝を使用することができる。また、本発明の組成物の原料として、ナンキンハゼから溶媒によって抽出された抽出液、あるいはこの抽出液を乾燥させて得られる乾燥物を用いてもよい。ナンキンハゼおよび/またはその抽出物をヒトが摂取した場合、下痢が生じることがあるが、約半日位経つと回復する。その他に副作用はなく、毒性もない。
【0029】
ナンキンハゼの抽出物の製造方法(有効成分の抽出方法)としては、特に限定されないが、例えば、ナンキンハゼの乾燥根皮を蒸留水に浸して、低温にて24時間以上静置する方法が挙げられる。その他の抽出物の製造方法としては、例えば、熱水抽出法や溶媒抽出法が挙げられる。
【0030】
2.抗がん作用の評価方法
本発明の組成物の抗がん作用を評価する方法としては、公知の方法を用いることができる。抗がん作用を評価する方法としては、in vitro、ex vivo、またはin vivoで行なわれる公知の方法を用いることができる。
【0031】
抗がん作用を評価するための指標としては、特に限定されるわけではないが、in vitroで抗がん作用を評価する方法として、例えば、がん細胞の殺傷指標であるアポトーシス率、がん転移能の指標であるCXCR4陽性率、およびがん抑制遺伝子の一つである変異型p53蛋白質の発現率が挙げられる。
【0032】
2.1. アポトーシス率
ガンはアポトーシスが関与する疾患の一つである。より具体的には、がん細胞の増殖は、アポトーシスの減少により促進される。よって、がん細胞のアポトーシス率が高いほど、抗がん作用が高いといえる。
【0033】
2.2. CXCR4陽性率
CXCR4はケモカインレセプターの一種である。ケモカインは、細胞遊走活性(ケモタキシス)を有するサイトカインの総称であり、主に、IL−8などのCXCファミリー、MIP−1などのCCファミリー、Cファミリーに分類される。がんの転移におけるCXCR4は、がんの種類によらず、がんの転移に関して共通する現象と考えられている(Staller, P. et al: Chemokine receptor CXCR4 downregulated by von Hippel-Lindau tumor suppressor pVHL, Nature 425, 307-311, September 18, 2003)。例えば、このCXCR4は乳がんの肺やリンパ節への転移に関与していることが知られている(Muller A et al: Involvement of chemokine receptors in breast cancer metastasis, Nature 410, 50-56, 2001)。また、CXCR4の発現量と生存率との間には、強い負の相関関係があることが報告されている(W. Krek, Nature Reviews Cancer 3, 2003, R. Bernards, Nature, 425, 247-248, 2003 )。よって、CXCR4陽性率が高いほど、がん転移能が高いといえる。言い換えれば、ある細胞において、CXCR4陽性率が低いほど、がん転移能が低く、抗がん作用が大きいといえる。
【0034】
2.3. 変異型p53蛋白質の発現率
p53遺伝子はがん抑制遺伝子の一つであり、がんの抑制に重要な役割を果たしている。例えば、p53遺伝子のノックアウトマウスでは、リンパ腫をはじめとする種々の腫瘍が自然発生することが報告されている。また、多くのがん細胞においてはp53遺伝子が変異しており、この変異型p53遺伝子はがんの生長を促進する機能を有していることが明らかになっている。したがって、がん細胞において、変異型p53遺伝子の発現が低いほど、抗がん作用が大きいといえる。
【0035】
変異型p53遺伝子は未変異のp53遺伝子と比較して、分解時間が著しく長い。よって、PCRや免疫染色などにより、細胞の核内に蓄積した変異型p53遺伝子を検出することができる。
【0036】
また、変異型p53遺伝子は変異型p53蛋白質を産生する。変異型p53蛋白質は、変異型p53エピトープを認識する抗体によって検出可能である。
【0037】
3.抗HIV作用の評価方法
本発明の組成物の抗がん作用を評価する方法としては、公知の方法を用いることができる。抗がん作用を評価するための指標としては、特に限定されないが、例えば、CXCR4が挙げられる。
【0038】
CXCR4陽性率は、同じくケモカインレセプターの1種であるCCR5とともに、HIV感染時のコレセプターであることが知られている。T細胞指向性のHIVがCXCR4と結合すると、膜同士が融合して、HIVが細胞内に侵入することができるようになる。すなわち、ある細胞において、CXCR4陽性率が高いほど、HIVに感染しやすいといえる。言い換えれば、ある細胞において、CXCR4陽性率が低いほど抗HIV作用が高いといえる。
【0039】
4.用途
本発明の組成物は、例えば、がん細胞のアポトーシス誘導剤、がん細胞の転移抑制剤、がんの再発防止剤、がんの生長期間の延長剤、がんの発生防止剤、がんの発生防止作用を有する抗がん剤および食品製剤、がん患者の生存期間延長作用を有する食品製剤、発がん防止作用を有する食品製剤、抗HIV剤、ならびに抗HIV作用を有する食品製剤に用いることができる。
【0040】
4.1. 抗がん作用に関する用途
がん(cancer)は大別して、造血器由来のがんと、上皮細胞からなる癌(carcinoma)と、非上皮性細胞からなる肉腫(sarcoma)とに分類される。造血器由来のがんとしては、例えば、白血病、悪性リンパ腫、骨髄腫などが挙げられる。上皮細胞由来の癌としては、例えば、肺癌、乳癌、胃癌、大腸癌、子宮癌、卵巣癌、頭頸部の癌(喉頭癌、咽頭癌、舌癌など)などが挙げられる。また、肉腫としては、例えば、骨肉腫、軟骨肉腫、横紋筋肉腫、平滑筋肉腫、線維肉腫、脂肪肉腫、血管肉腫などが挙げられる。
【0041】
本発明の組成物は、あらゆるがん細胞に対して抗がん作用を発揮することができる。すなわち、本発明の組成物の対象となるがんとしては、例えば、悪性リンパ腫(ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫など)、胃がん、陰茎がん、咽頭がん(上咽頭がん、中咽頭がん、下咽頭がんなど)、外陰がん、下垂体線腫、肝細胞がん、胸腺腫、菌状息肉症、原発不明がん、骨髄異形成症候群、子宮がん(子宮頸部がん、子宮体部がん、子宮肉腫など)、絨毛性疾患、食道がん、腎盂がん、尿管がん、神経膠腫、腎細胞がん、膵がん、膵内分泌腫瘍、精巣腫瘍、前立腺がん、大腸がん、多発性骨髄腫、胆管がん、胆嚢がん、膣がん、中皮腫、聴神経鞘腫、軟部肉腫、乳がん、脳腫瘍、肺がん、白血病(急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、成人T細胞白血病リンパ腫、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病など)、皮膚がん(悪性黒色腫など)、膀胱がん、慢性骨髄増殖性疾患、卵巣がん、卵巣胚細胞腫瘍が挙げられる。
【0042】
本発明の組成物を抗がん剤として用いる場合、他の抗がん剤と併用することができる。この場合、本発明の組成物を、免疫機能を増強させるインターフェロンやサイトカイン類と併用することができる。さらに、本発明の組成物を、例えば、シスプラチン、カルボプラチン、オキザロプラチン、マイトマイシン、ブレオマイシン、アドリアマイシン、5−フルオロウラシル、タキソールなどの他の抗がん剤と併用したり、あるいは放射線治療と併用したりすることもできる。
【0043】
4.2. 抗HIV作用に関する用途
本発明の組成物を抗HIV剤として用いる場合、他の抗HIV剤と併用することができる。この場合、本発明の組成物を、免疫機能を増強させるインターフェロンやサイトカイン類と併用することができる。さらに、本発明の組成物を、例えば、ジドブジン,ジダノシン,ジダノシン,ザルシタビン,ラミブジン,サニルブジン,アバカビル、ネビラピン,エファビレンツ,デラビルジン、インジナビル,メシル酸サキナビル,サキナビル,リトナビル,ネルフィナビル,アンプレナビル,ロピナビル・リトナビルなどの他の抗HIV剤と併用することもできる。
【0044】
4.3. 投与形態
本発明の組成物の投与形態は特に限定されないが、例えば、経口投与、局所投与、ワンショット静注、点滴静注、持続点滴静注、動注、腔内投与、腹腔内投与などある。
【0045】
本発明の組成物の剤型は特に限定されないが、経口剤および非経口剤であることができる。例えば、本発明において、ナンキンハゼの乾燥物、ナンキンハゼの抽出物、あるいは前記抽出物の乾燥品を含む材料を下記剤型に加工することができる。
【0046】
経口剤としては、例えば、錠剤、カプセル剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、液剤、シロップ剤、ドリンク剤などの内服剤が挙げられる。この場合、本発明の組成物とともに、結合剤、賦形剤、膨化剤、滑沢剤、甘味剤、香味剤などを用いることができる。ここで、錠剤は、シェラックまたは砂糖で被覆することもできる。また、カプセル剤は、上記の材料にさらに油脂などの液体担体を含有させることができる。シロップ剤およびドリンク剤には、甘味剤、防腐剤、色素香味剤などを含有させてもよい。
【0047】
非経口剤としては、例えば、軟膏剤,クリーム剤,水剤などの外用剤、注射剤、坐剤などが挙げられる。外用剤の基材としては、ワセリン、パラフィン、油脂類、ラノリン、マクロゴールドなどが用いられ、通常の方法によって軟膏剤やクリーム剤などとすることができる。注射剤としては、液剤、凍結乾燥剤などが挙げられる。凍結乾燥剤は、使用時に注射用蒸留水や生理食塩液などに無菌的に溶解して用いられる。
【0048】
4.4. 食品製剤用途
また、本発明の組成物を有効成分として、食品製剤を調製することができる。この場合、前記食品製剤は、抗がん作用および/または抗HIV作用を有する。また、この場合、種々の食品素材または飲料品素材を添加することによって、例えば、粉末状、錠剤状、カプセル状、液状(ドリンク剤など)などの形態の食品製剤とすることができる。また、この食品製剤には、基材、賦形剤、添加剤、副素材、増量剤などを適宜添加してもよい。また、上記形態のほかに、飴、せんべい、クッキー、飲料などの形態にしてもよい。前記食品製剤は、1日数回に分けて経口摂取されるのが好ましい。
【0049】
また、本発明の食品製剤に、他の免疫機能調節物質(例えば、ヒメマツタケ、霊芝、カワラタケなどのキノコ類、その抽出物およびそれらの加工物)を副素材として添加することは、機序が異なった多彩な効果が発揮される点で好ましい。これらの食品製剤は、がんまたはAIDSの発症を防止したいヒトまたはヒト以外の動物に対して予防的に使用される。
【0050】
5.実施例
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0051】
5.1. 実験例1
5.1.1. 試験方法
5.1.1−1. ナンキンハゼの抽出液の調製
本実験例において、ナンキンハゼの乾燥根皮は、中国平和県県立病院に依頼して、中国福建省平和県で採取したものを使用した。10gのナンキンハゼの乾燥根皮を20mlの蒸留水に浸し、冷蔵庫にて2−8℃で24時間以上静置して、有効成分を抽出し、ナンキンハゼ抽出液を得た。このナンキンハゼ抽出液は、0.22μmのシリンジフィルター(Millipore社、米国)で除菌してから、培養実験に用いた。
【0052】
5.1.1−2. 培養方法
ヒト胃がん細胞株(NUGC−4株(JCRB0834,Lot♯:031197)またはMKN1株(JCRB0252,Lot♯:072999)、財団法人ヒューマンサイエンス振興財団・ヒューマンサイエンス研究資源バンク、大阪)を用いて、5%CO、37℃で10%ウシ胎児血清(インヴィトロジェン(Invitrogen)社,非動化血清:Cat♯:10082−139,動化血清:Cat♯:16000−036)および0.2%の抗生物質−抗真菌剤(商品名「Antibiotic−Actimycotic(100×),Liquid」,インヴィトロジェン社,Cat♯:15240−062)を含有するRPMI1640培地(インヴィトロジェン社,Cat♯:11875−093)にて培養を行なった。
【0053】
細胞の培養は、ナンキンハゼの抽出液を添加した群と、対照のために蒸留水を添加して処理をした群(コントロール群)とに分けて行なった(各々、n=6ウェル)。ナンキンハゼの抽出液を添加した群は、ナンキンハゼの抽出液を1%(ナンキンハゼ抽出液/RPMI1640培地;v/v)添加した群(以下、「抽出液1%添加群」という)と、ナンキンハゼの抽出液を2%(ナンキンハゼ抽出液/RPMI1640培地;v/v)添加した群(以下、「抽出液2%添加群」という)との2種類とした。
【0054】
5.1.1−3. 評価項目
上記細胞を78時間培養した後、以下の項目について評価を行なった。
【0055】
アポトーシスキット(Cat#:4700,医薬生物学研究所,名古屋)を用いて、MKN1細胞のアポトーシス率をフローサイトメトリー装置(ベックマン コールター(Beckman Coulter)社,東京)にて測定した。その結果を図4に示す。図4において、Y軸は前方散乱光強度およびX軸は側方散乱光強度をそれぞれ示し、灰色のスポットは生細胞を示し、黒色のスポットは死細胞を示す。
【0056】
抗体CXCR4−FITC(Cat#:D123−4,医薬生物学研究所,名古屋)を用いて、NUGC−4細胞のCXCR4陽性率を上記フローサイトメトリー装置にて測定した。その結果を図5に示す。図5において、Y軸は前方散乱光強度およびX軸は側方散乱光強度をそれぞれ示し、灰色のスポットはCXCR4陰性細胞を示し、黒色のスポットはCXCR4陽性細胞を示す。
【0057】
抗体p53−FITC(Cat#:227−040,アンセルコーポレーション(Ancell Corporation),米国)を用いて、変異型p53蛋白質の発現率を上記フローサイトメトリー装置にて測定した。その結果を図6に示す。図6において、Y軸は前方散乱光強度およびX軸は側方散乱光強度を示し、灰色のスポットは変異型p53蛋白質陰性細胞をそれぞれ示し、黒色のスポットは変異型p53蛋白質陽性細胞を示す。
【0058】
5.1.2. 評価結果
5.1.2−1. アポトーシス率(apoptosis ratio)
図1に示されるように、抽出液1%添加群におけるMKN1細胞のアポトーシス率は69.1±19.0%であり、コントロール群におけるMKN1細胞のアポトーシス率(23.0±9.7%)よりも有意に高くなっていた(p<0.05)。また、抽出液2%添加群では、24時間後に全細胞の死滅が顕微鏡により確認され、アポトーシス率は100%であった。この結果から、ナンキンハゼは、がん細胞の用量依存的なアポトーシス誘導作用を有することが明らかになった。
【0059】
5.1.2−2. CXCR4陽性率(CXCR4 positive ratio)
図2に示されるように、抽出液1%添加群におけるNUGC−4細胞のCXCR4陽性率は3.5±0.7%で、コントロール群におけるNUGC−4細胞のCXCR4陽性率(7.3±1.5%)よりも有意に低下した(p<0.05)。すなわち、抽出液1%添加群では、ヒト胃がん細胞(NUGC−4)のCXCR4発現が有意に抑制された。この結果から、ナンキンハゼは、がん転移に対する抑制作用があり、かつ、抗HIV作用を有することが明らかになった。
【0060】
5.1.2−3. 変異型p53蛋白質の発現率(Mutated p53 protein positive ratio)
図3は、抽出液1%添加群およびコントロール群それぞれにおける変異型p53蛋白質の発現率を示す図である。抽出液1%添加群における変異型p53蛋白の発現率は35.8±9.8%で、コントロール群における変異型p53蛋白質の発現率(62.6±5.1%)より有意に低下した(p<0.05)。この結果から、コントロール群の細胞における変異型p53蛋白質の発現率は、その細胞が本来有している変異型p53蛋白質の割合であり、抽出液1%添加群において変異型p53蛋白質の発現が低下したことは、変異型p53蛋白質が正常化して、p53蛋白質本来の機能が回復したことを意味すると解釈できる。すなわち、抽出液1%添加群では、ヒト胃がん細胞(NUGC−4)における変異型p53蛋白質の発現を有意に抑制したことが判明した。この結果から、ナンキンハゼは抗がん作用があることが明らかになった。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】コントロール群および抽出液1%添加群にそれぞれおけるMKN1細胞のアポトーシス率(%)を示す図である。
【図2】コントロール群および抽出液1%添加群にそれぞれおけるNUGC−4細胞のCXCR4陽性率(%)を示す図である。
【図3】コントロール群および抽出液1%添加群にそれぞれおけるNUGC−4細胞の変異型p53蛋白質の発現率(%)を示す図である。
【図4】フローサイトメトリー装置により測定された、(a)コントロール群および(b)抽出液1%添加群にそれぞれにおける、MKN1細胞のうち生細胞および死細胞を示すスキャッター図である。
【図5】フローサイトメトリー装置により測定された、(a)コントロール群および(b)抽出液1%添加群にそれぞれにおける、NUGC−4細胞のうちCXCR4陽性細胞およびCXCR4陰性細胞を示すスキャッター図である。
【図6】フローサイトメトリー装置により測定された、(a)コントロール群および(b)抽出液1%添加群にそれぞれにおける、NUGC−4細胞のうちp53陽性細胞およびp53陰性細胞を示すスキャッター図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナンキンハゼおよび/またはその抽出物を有効成分として含む、がん細胞のアポトーシス誘導剤。
【請求項2】
請求項1に記載のがん細胞のアポトーシス誘導剤を有効成分として含む、抗がん剤。
【請求項3】
請求項1に記載のがん細胞のアポトーシス誘導剤を有効成分として含む、食品製剤。
【請求項4】
ナンキンハゼおよび/またはその抽出物を有効成分として含む、がん細胞の転移抑制剤。
【請求項5】
請求項4に記載のがん細胞の転移抑制剤を有効成分として含む、抗がん剤。
【請求項6】
請求項4に記載のがん細胞の転移抑制剤を有効成分として含む、食品製剤。
【請求項7】
ナンキンハゼおよび/またはその抽出物を有効成分として含む、抗HIV剤。
【請求項8】
ナンキンハゼおよび/またはその抽出物を有効成分として含む、抗HIV作用を有する食品製剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−169171(P2006−169171A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−364329(P2004−364329)
【出願日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【出願人】(504462652)
【Fターム(参考)】