説明

きのこ培養基

【課題】きのこ培養基中に天然品または合成品の炭酸カルシウム・マグネシウムを添加することで、培養基の適正pHを維持し、安価で、高いきのこ収量を安定して得る。
【解決手段】基材、栄養源および添加剤からなるきのこ基本培養基の添加剤として、カルシウム・マグネシウム共沈乾燥物を配合したものを用いることにより、きのこの品種により異なる、もっとも適した生育pHに適合し、かつ、その生育pHを維持できる性能を発揮せしめ、それによりきのこ収量を高め、かつ、安定したきのこ収量を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、きのこ栽培用基本培養基用添加剤およびきのこ栽培用培養基に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、ブナシメジ、ヒラタケ、エリンギ、マイタケ、エノキタケ等の食用きのこの人工栽培は、鋸屑、コ−ンコブ、バガス、ビ−ト粕等の粉砕物を基材にして、これに米糠、ふすま等の栄養源を添加した培養基が主流となっている。これらは瓶または袋で栽培を行う菌床栽培で一年を通じて収穫ができ、現在では企業による大規模的な工業スケ−ルで大量生産が行われている。
【0003】
通常、鋸屑、コ−ンコブ、バガス、ビ−ト粕等からなる基材に米糠、ふすま等の栄養源を添加した場合、これらの基材の組み合わせによっては培養基のpHがきのこの生育に適したpHより低くなったり、瓶、又は袋に充填した培養基が高圧滅菌処理を行うまでの間に腐敗等により変質し、培養基内のpHが低下することがあった。
【0004】
これらの問題解決のために、特許文献1では培養基にきのこの生育に適したpHに調整し、かつ、きのこの生育期間中もその適正pHを維持できるように制酸性のある無機物等(以後、単に制酸剤と記す)を培養基中に添加している。きのこの生育に適したpHを維持することは、きのこの収量を大幅に高め、かつ、安定した収量が得られる。
【特許文献1】特開平1−34216号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
より詳しく記すれば培養基の構成物によっては培養基のpHが5.5以下の酸性に片寄る場合があり、特にビ−ト粕、コ−ンコブ、バガス等の粉砕物を培養基材に用いると培養基のpHが低くなる傾向が見られる。この原因はこれらの構成物に、鋸屑には含まれない糖分が多量に残っており、その糖分の一部は、基材に配合される前の段階で、すでに腐敗等の影響により分解され有機酸が発生しているためで、これが、培養基内のpHを低下させている原因となっていた。このままでは、きのこの至適、生育pHを下回ることになり、高いきのこの収量が得られない事が多く、制酸剤の添加が必要となっている。
【0006】
しかしながら、特開平1−34216号公報に紹介されている制酸剤の中には比較的高い生育pHを要求するきのこや、培養基の構成においては、かならずしも満足の行くものではない。合成水酸化アルミニウムゲルや合成ケイ酸アルミニウムは安価ではあるが、これらの制酸剤は、制酸力を発揮する金属カチオンがアルミニウムである為に酸を中和するpHが4.0付近と低く、きのこの種類によっては生育するpHに対して低い場合がみられ、通常、これらの問題点を解決するために中和能力の異なるもの(制酸特性の異なるもの。中和作用を発起するpH領域が違うもの。)を2種類以上組み合わせたり、多種類の金属カチオンを含有した制酸剤を用いなければならなかった。これらは高価格であったり、または添加量の増加や混合等の手間を必要とし、コスト競争の厳しいきのこの業界においては優位性に劣っており、本発明者等はこれらの問題点を解決する制酸剤を探求してきた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者等は、鋭意研究の結果、制酸剤として、カルシウム(Ca):マグネシウム(Mg)の重量比が0.5〜3:1、好ましくは1〜2:1である高純度炭酸カルシウム・マグネシウムが前記した問題点を解決することを見いだした。Ca:Mg重量比がMgを1にした場合のCaが0.5より少ないと、pHが高すぎて、培地のpHを中性に保てなくなり、3より多いとpHが低すぎて、制酸剤としての働きができない。
【0008】
この炭酸カルシウム・マグネシウムは合成品でも、天然のドロマイトでもよいが、天然品の場合は、鉛化合物、砒素化合物、カドミウム化合物等の有害重金属が多く含まれている場合があり、これら重金属が食用であるきのこに吸収されるので、人体にとって危険である。従って、本発明の高純度炭酸カルシウム・マグネシウム(天然ドロマイトを含む)の砒素化合物およびカドミウム化合物の含有量は、金属に換算して1ppm以下、好ましくは0.5ppm以下である。
【発明の効果】
【0009】
本発明による制酸剤をきのこ培養基に添加すれば、従来の制酸剤と比較して、安価で、より少ない添加量で高いきのこ収量が安定して得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
カルシウムとマグネシウムの割合を変更することにより、きのこの品質により異なる最適の添加剤を供給できる。
カルシウム(Ca)とマグネシウム(Mg)は植物の必須ミネラルでもあり、制酸剤として添加することにより、栄養源としてCaとMgを補給することにもなる。本発明の炭酸カルシウム・マグネシウムは、粉砕して使用しても、造粒しても良い。炭酸カルシウム・マグネシウムはpHが7〜11であり、培養基の腐敗等によるpH低下を中和により、防止し、きのこの収量を高め、さらに安定した収量を得られる。
【0011】
合成ドロマイトの製造はどのような方法で行ってもよいが、カルシウム(Ca)源、マグネシウム(Mg)源、および炭酸源を水中で攪拌しながら反応させる。Ca源としては、例えば、塩化カルシウム、酢酸カルシウム、硝酸カルシウム四水和物、フッ化カルシウム、臭化カルシウム、等があり、これらを2種以上併用してもよい。Mg源としては、塩化マグネシウム、硝酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、フッ化マグネシウム、塩化マグネシウムカリウム、塩化マグネシウムナトリウム、塩化マグネシウムアンモニウム、臭化マグネシウム、等があり、これらを2種以上併用してもよい。炭酸源としては、炭酸水素ナトリウム、炭酸水、炭酸水素カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素アンモニウム等の重炭酸塩、炭酸アンモニウム等の炭酸塩、炭酸ナトリウムカリウム等をあげることが出来る。反応物生成物は、90℃で1時間水熱処理した後、洗浄、乾燥する。

【実施例1】
【0012】
(対照区1)
鋸屑90gにコ−ンコブ粉砕物30gと米糠60g、さらに特開平1−34216号公報に記載されている協和化学工業株式会社製、合成水酸化アルミニウムAl含量、53重量%からなるものを{Al(OH)・nHOの化学組成式で表され、式中nは化合物の水分量を表す}1.5g加え、よく混合する。さらに、水を加えて水分63重量%に調整した培養基を850mL容ポリプロピレン製ビンに充填し高圧滅菌する。冷後、ブナシメジの菌を接種し、25℃で70日間培養した。菌掻きを行った後、さらに、15℃で20日間培養を続け、150gのブナシメジを得た。
【0013】
(実施区1)
対照区1の培養基の素材を混合する時に、合成水酸化アルミニウムの代わりに、天然ドロマイトを1.5g添加する。あとは対照区1と同様に操作を行い、170gのブナシメジを得た。
使用した天然ドロマイトの分析値は下記の通りである。
Ca:Mg 1.67:1
CaO 30.5 wt%
MgO 21.6 wt%
Pb 1.0 ppm
Cd 0.01> ppm
As2O3 0.7 ppm
【0014】
(実施区2)
対照区1の培養基の素材を混合する時に合成水酸化アルミニウムの代わりに、協和化学工業株式会社製、合成ドロマイト(1)を1.5g添加する。あとは対照区1と同様に操作を行い、170gのブナシメジを得た。
合成ドロマイト(1)の分析値は下記である。
Ca:Mg 1.30:1
CaO 24.9 wt%
MgO 22.7 wt%
Pb 0.1> ppm
Cd 0.01 ppm
As2O3 0.26> ppm
【0015】
(実施区3)
対照区1の培養基の素材を混合する時に合成水酸化アルミニウムの代わりに、協和化学工業株式会社製、合成ドロマイト(2)を1.5g添加する。あとは対照区1と同様に操作を行い、160gのブナシメジを得た。
合成ドロマイト(2)の分析値は下記である。
Ca:Mg 2.29:1
CaO 32.80 wt%
MgO 16.99 wt%
Pb 0.1> ppm
Cd 0.01 ppm
As2O3 0.17 ppm
【実施例2】
【0016】
(対照区1)
鋸屑120g、ふすま60gおよびコーンブラン15gを特開平1−34216号公報に記載されている合成ケイ酸アルミニウム Al・9SiO・nHO(式中のnは化合物の水分量を表す)Al含量、12重量%からなる制酸剤を1.5g加え、よく混合する。さらに、水を加えて水分65重量%に調整した培養基を850mL容ポリプロピレン製ビンに充填し高圧滅菌する。冷後、エリンギの菌を接種し、25℃で30日間培養した。菌掻き後、17℃で25日間培養を続け、100gのエリンギを得た。
【0017】
(実施区1)
対照区1の培養基の素材を混合する時に合成ケイ酸アルミニウムの代わりに、実施例1、実施区1で使用の天然ドロマイトを1.5g添加する。あとは対照区1と同様に操作を行い、115gのエリンギを得た。
【0018】
(実施区2)
対照区1の培養基の素材を混合する時に、合成ケイ酸アルミニウムの代わりに、実施例1、実施区2で使用した合成ドロマイト(1)を1.5g添加する。あとは対照区1と同様に操作を行い、125gのエリンギを得た。
【0019】
(実施区3)
対照区1の培養基の素材を混合する時に、合成ケイ酸アルミニウムの代わりに、協和化学工業株式会社製、合成ドロマイト(3)を1.5g添加する。あとは対照区1と同様に操作を行い、125gのエリンギを得た。
合成ドロマイト(3)の分析値は下記である。
Ca:Mg 0.91:1
CaO 21.29 wt%
MgO 27.70 wt%
Pb 0.1> ppm
Cd 0.01 ppm
【0020】
(制酸性試験の比較図)
実施例1と実施例2の対照区で用いた特開平1−34216号に記載の無機合成物(制酸剤)の制酸特性(フックス変法)を図−1(合成水酸化アルミニウム)、図−2(合成ケイ酸アルミニウム)に示す。
同様に実施例1と実施例2の実施区で用いた無機物(制酸剤)の制酸特性(フックス変法)を図−3(天然ドロマイト)、図−4(ドロマイト(1))に示す。
【0021】
(図−1)

【0022】
(図−2)

【0023】
(図−3)

【0024】
(図−4)

【0025】
図1〜4からも明らかなように、特開平1−34216号に記載の合成水酸化アルミニウム、合成ケイ酸アルミニウムは初期のpHが4.0より上がらず、低いpH域で制酸性を示すが、本発明品は初期のpHが4.0以上であり、また高いpH域で制酸性を示す。このことから、本発明品は、きのこ培地から発生する有機酸を中和し、培地のpHをきのこに適当なpH域に調整することができる。
また、本発明における制酸剤は、安価で高いきのこ収量が得られるという特徴を持っており、きのこ栽培に適応するものである。
【0026】
(フックス変法の試験方法)
1.400mL容ビーカーに0.1mol/L塩酸(f=0.990〜1.010)50mLを正確に量り入れ、水温37℃に設定された恒温槽にセットする。
2.吐出量を2.0±0.1mL/min.に調整した定量ポンプの吐出ホースの先を400mLビーカーにセットし、液温が37±0.5℃になれば、正確に量った試料を1.000g投入し、同時に記録を取り始める。
2.試料投入後、はじめてpH3.0に達する時間、pH3.5に達する時間、10分後のpH値を記録し、試料投入10分後直ちに定量ポンプを作動させ、pH3.0を切る時間(のび時間)を記録する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルシウム(Ca):マグネシウム(Mg)の重量比が0.5〜3:1である、高純度炭酸カルシウム・マグネシウムである、きのこ栽培用基本培養基用添加剤。
【請求項2】
炭酸カルシウム・マグネシウムが天然ドロマイトである、請求項1に記載のきのこ栽培用基本培養基用添加剤。
【請求項3】
重金属が10ppm以下である請求項1に記載のきのこ栽培用基本培養基用添加剤
【請求項4】
高純度炭酸カルシウム・マグネシウムは、砒素化合物、カドミウム化合物が、金属に換算して1ppm以下である請求項1に記載のきのこ栽培用基本培養基用添加剤
【請求項5】
高純度炭酸カルシウム・マグネシウムは、砒素化合物、カドミウム化合物、鉛化合物の合計含有量が、金属に換算して2ppm以下である請求項1に記載のきのこ栽培用基本培養基用添加剤
【請求項6】
請求項1に記載の添加剤が、0.05〜3.0重量%の割合で添加されていることを特徴とするきのこ栽培用培養基

【公開番号】特開2006−149257(P2006−149257A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−343233(P2004−343233)
【出願日】平成16年11月29日(2004.11.29)
【出願人】(000162489)協和化学工業株式会社 (66)
【Fターム(参考)】