説明

きのこ類由来エルゴステロールペルオキシドの抽出方法

【課題】種々の生理活性を有するエルゴステロールペルオキシドのきのこ類からの抽出方法であり、高い抽出効率で、短時間で簡便に行なうことができるきのこ由来エルゴステロールペルオキシドの抽出方法を提供する。
【解決手段】エルゴステロールペルオキシドを含有するきのこ類の少なくとも一部を水溶化する処理を行い、前記処理により得られた水不溶性の残渣から有機溶媒を用いて抽出することを特徴とするきのこ類由来エルゴステロールペルオキシドの抽出方法。好ましくは、前記可溶化方法が、酵素処理、熱水処理、酸処理であることを特徴とするきのこ類由来エルゴステロールペルオキシドの抽出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、きのこ類に含まれるエルゴステロールペルオキシド(Ergosterolperoxide、以下、EPOと略す。)の抽出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
EPOは、酸化ステロール型ステロイドの一種であり、自然界においては、種々のきのこ類、酵母類、地衣類、海綿などに含まれている。EPOは、発見当初は細胞毒性活性を有する成分と考えられていたが、近年の研究において、抗菌作用、抗ウイルス作用、抗微生物作用、抗炎症作用、ホスホリパーゼA2阻害、DNAトポイソメラーゼ阻害、スルファターゼ阻害、アルドースレダクターゼ阻害、抗アテローム性動脈硬化症、免疫抑制作用、抗補体活性、ヒトT細胞活性化阻害、アポトーシス誘導能などの生理活性を有することが明らかになってきている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
最近、これら生理活性を利用した用途開発、例えば、食品用変色防止・酸化防止剤(例えば、特許文献1参照)、発癌防止剤(例えば、特許文献2参照)、アポトーシス誘導能を有する食品又は食品素材(例えば、特許文献3参照)、破骨細胞の分化・増殖阻害剤(例えば、特許文献4参照)などの種々の食品、医薬品等への用途開発が進んでいる。
【0004】
種々のきのこ類に含まれているEPO量についても多くの報告がある。例えば、きのこ類乾燥粉末1g中に含まれるEPO量として、Ganoderma lucidum(マンネンタケ、赤霊芝)には100〜200μg、Ganoderma sinense(紫霊芝)には56μg、Ganoderma colossum(黄霊芝)には532μg、Ganoderma applanatum(コフキサルノコシカケ)には110μg、Phellinus linteus(メシマコブ)には37μg、Phellinus igniarius(キコブダケ)には63μg、Agaricus blazei(アガリクス、ヒメマツタケ)には110〜120μg、Grofola frondosa(マイタケ)には377μg、Hericium erinaceum(ヤマブシタケ)には326μg、Cordyceps sinensis(冬虫夏草)には332μg、Coriolus versicolor(カワラタケ)には53μg(以上、例えば、非特許文献2参照)、Hericium erinaceum(ヤマブシタケ)には160μg、Laetiporus sulfureus(マスタケ)には101μg、Morchella esculenta(アミガサタケ)には134μg、Boletus edulis(ヤマドリタケ)には293μg、Suillus bovinus(アミタケ)には173μg、Boletus badius(ニセイロガワリ、イグチ属)には126μg(以上、例えば、非特許文献3参照)、Pisolithus tinctorius(コツブタケ)には3μg、Microporus flabelliformis(ウチワタケ)には78μg、Lenzites betulina(カイガラタケ)には61μg(以上、例えば、非特許文献4参照)などの報告がある。
【0005】
これらEPOを含有する天然のきのこ類あるいは該乾燥粉末から、成人1日あたりの必要量として例えば50mgを摂取しようとすれば、天然のきのこ類として1〜2kg、該乾燥粉末としても100g以上摂取する必要があり、天然のきのこ類などからの必要量の摂取は現実的には困難であった。
【0006】
一方、各種きのこ類の乾燥粉末からアルコール類、アセトンなどの有機溶媒にて抽出を繰り返し、得られた抽出液を濃縮し、さらにカラムクロマトや液々分配による精製工程を経ることで高純度のEPOを得ることは可能であるが、このように煩雑な工程を経て得られるEPOの抽出率は、原料きのこ類100質量%に対し、0.005〜0.05質量%とわずかであった。
【0007】
そのため、EPOの抽出効率の向上は、EPOの食品、医薬品などの各種用途への利用度を高める上で必須の課題であるが、現状、抽出効率向上に関する報告は非常に少ない。例えば、水又は水と有機溶媒の混液を用い抽出温度0〜120℃で抽出する方法(例えば、特許文献1〜3参照)、クロロホルム:メタノール混液の比率を変更しながら複数回抽出する方法(例えば、特許文献4参照)等が挙げられるが、加熱還流(ソックスレー)による抽出、抽出時間の延長、抽出溶媒の入れ換え等、いずれも抽出効率が不十分であると共に高コストな方法であるため、得られるEPOは非常に高価となり、種々の有用な生理活性を有する素材であるにも拘らず、食品、医薬品などへの利用度が低いという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−183266号公報
【特許文献2】特開2006−22017号公報
【特許文献3】特開2005−73502号公報
【特許文献4】特開2008−127378号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Biol.Pharm.Bull.,31,949(2008)
【非特許文献2】J.Trad.Med.,25,18(2008)
【非特許文献3】Food Chem.,113,351(2009)
【非特許文献4】Chem.Pharm.Bull.,42,694(1994)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、きのこ類からのEPOの抽出効率を高め、例えば、食品、医薬品等として安全かつ安価に利用できるきのこ類由来EPOの抽出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、従来までの検討により、EPOには神経成長因子産生促進や神経突起進展作用があり、それらの作用に必要なEPO摂取量は、成人1日あたり0.1〜1000mgであることを明らかにしているが(特願2008−292309号)、これら必要量を安全かつ安価に提供すべく鋭意検討を重ねた結果、きのこ類の少なくとも一部を水溶化する処理を行い、前記処理により得られた水不溶性の残渣から有機溶媒を用いて抽出することで、EPOの抽出効率が飛躍的に高まることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)きのこ類の少なくとも一部を水溶化する処理を行い、前記処理により得られた水不溶性の残渣から有機溶媒を用いて抽出することを特徴とするきのこ類由来エルゴステロールペルオキシドの抽出方法。
(2)前記きのこ類が、ヒラタケ属、サンゴハリタケ属、エノキタケ属、マイタケ属、シイタケ属、シロタモギタケ属、シメジ属、ハナビラタケ属、マンネンタケ属に属する一種または二種以上のきのこ類であることを特徴とする(1)記載のきのこ類由来EPOの抽出方法。
(3)前記水溶化方法が、酵素処理、熱水処理、酸処理から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする(1)又は(2)記載のきのこ類由来EPOの抽出方法。
(4)前記酵素処理に用いる酵素が、セルラーゼ、グルカナーゼ、キシラナーゼ、キチナーゼから選ばれる一種または二種以上の酵素であることを特徴とする(3)記載のきのこ類由来EPOの抽出方法。
(5)前記酵素処理に用いる酵素が、きのこ類固有の自己消化系酵素であることを特徴とする(3)記載のきのこ類由来EPOの抽出方法。
(6)前記酸処理に用いる酸が、酢酸、塩酸、乳酸、硫酸、りん酸から選ばれる一種または二種以上の酸であることを特徴とする(3)記載のきのこ類由来EPOの抽出方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、きのこ類の少なくとも一部を水溶化する処理を行い、前記処理により得られた水不溶性の残渣から抽出することで、短時間で、簡便に、水溶化未処理のきのこ類から抽出するよりも高い効率でEPOを抽出することができるため、種々の生理活性を有する有用な素材であるEPOを安全かつ安価に提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明におけるエルゴステロールペルオキシド(EPO)とは、Ergosterolperoxide(5α,8α−Epidoxyergosta−6,22−dien−3β−ol)をいう。
【0014】
本発明のEPOの抽出方法(以下、「本発明の抽出方法」という)は、きのこ類の少なくとも一部を水溶化する処理を行い、前記処理により得られた水不溶性の残渣から有機溶媒を用いて抽出することが必要である。
【0015】
本発明におけるきのこ類とは、EPOを含有するものであれば特に限定されないが、例えば、ヒラタケ属、サンゴハリタケ属、エノキタケ属、マイタケ属、シイタケ属、シロタモギタケ属、シメジ属、ハナビラタケ属、マンネンタケ属、ハラタケ属、スギタケ属、シュタケ属、アンズタケ属、チチタケ属、コウタケ属、コフキサルノコシカケ属、冬虫夏草属、クリタケ属、コツブタケ属、ツヤウチワタケ属、カイガラタケ属、トンビマイタケ属、キコブタケ属、シカタケ属、カワラタケ属、アミガサタケ属、ヤマドリタケ属、アイカワタケ属、ヌメリイグチ属、イグチ属、キツネノカラカサタケ属、キシメジ属に属する一種または二種以上のきのこの子実体もしくは菌糸体が挙げられる。
【0016】
具体的には、ヒラタケ属に属するきのことしては、例えば、ヒラタケ、エリンギ、ウスヒラタケ、タモギタケ、トキイロヒラタケ、ヒマラヤヒラタケなどが挙げられる。サンゴハリタケ属に属するきのことしては、例えば、サンゴハリタケ、サンゴハリタケモドキ、ヤマブシタケ、フサハリタケなどが挙げられる。エノキタケ属に属するきのことしては、例えば、エノキタケなどが挙げられる。マイタケ属に属するきのことしては、例えば、マイタケ、シロマイタケ、アンニンコウなどが挙げられる。シイタケ属に属するきのことしては、例えば、シイタケなどが挙げられる。ハラタケ属に属するきのことしては、例えば、ウスキモリノカサ、ザラエノハラタケ、ツクリタケ、ヒメマツタケなどが挙げられる。シロタモギタケ属に属するきのことしては、例えば、ブナシメジ、シロタモギタケなどが挙げられる。シメジ属に属するきのことしては、例えば、シャカシメジ、ハタケシメジ、オシロイシメジ、ホンシメジ、スミゾメシメジなどが挙げられる。スギタケ属に属するきのことしては、例えば、ナメコ、スギタケ、スギタケモドキ、ハナガサタケ、ヌメリスギタケモドキ、アカツムタケ、ヤケアトツムタケ、チャナメツクタケ、シロナメツムタケなどが挙げられる。ハナビラタケ属に属するきのことしては、例えば、ハナビラタケが挙げられる。マンネンタケ属に属するきのことしては、例えば、マンネンタケ、霊芝(赤、黄、紫、黒)、ツガノマンネンタケ、マゴジャクシなどが挙げられる。シュタケ属に属するきのことしては、例えば、シュタケ、ヒイロタケなどが挙げられる。アンズタケ属に属するきのことしては、例えば、アンズタケ、トキイロラッパタケ、ヒナアンズタケ、ベニウスタケなどが挙げられる。チチタケ属に属するきのことしては、例えば、チチタケ、ハツタケ、カラハツタケ、クロチチタケなどが挙げられる。コウタケ属に属するきのことしては、例えば、コウタケ、ケロウジなどが挙げられる。コフキサルノコシカケ属に属するきのことしては、例えば、コフキサルノコシカケが挙げられる。冬虫夏草属に属するきのことしては、例えば、サナギタケ、セミタケ、ハナサナギタケなどが挙げられる。クリタケ属に属するきのことしては、例えば、クリタケ、ニガクリタケなどが挙げられる。コツブタケ属に属するきのことしては、例えば、コツブタケなどが挙げられる。ツヤウチワタケ属に属するきのことしては、例えば、ウチワタケ、ツヤウチワタケなどが挙げられる。カイガラタケ属に属するきのことしては、例えば、カイガラタケなどが挙げられる。トンビマイタケ属に属するきのことしては、例えば、トンビマイタケなどが挙げられる。キコブタケ属に属するきのことしては、例えば、キコブタケ、メシマコブなどが挙げられる。シカタケ属に属するきのことしては、例えば、ベニクスノキタケなどが挙げられる。カワラタケ属に属するきのことしては、例えば、カワラタケなどが挙げられる。アミガサタケ属に属するきのことしては、例えば、アミガサタケ、トガリアミガサタケ、アシブトアミガサタケなどが挙げられる。ヤマドリタケ属に属するきのことしては、例えば、ヤマドリタケ、ヤマドリタケモドキ、ムラサキヤマドリタケ、イロガワリ、などが挙げられる。アイカワタケ属に属するきのことしては、例えば、マスタケ、アイカワタケなどが挙げられる。ヌメリイグチ属に属するきのことしては、例えば、ヌメリイグチ、シロヌメリイグチ、アミタケなどが挙げられる。イグチ属に属するきのことしては、例えば、ニセイロガワリなどが挙げられる。キツネノカラカサタケ属に属するきのことしては、例えば、アメリカキツネノカラカサなどが挙げられる。キシメジ属に属するきのことしては、例えば、キシメジ、マツタケ、ムレワシメジなどが挙げられる。
【0017】
その中でも、効率よくEPOを抽出する観点から、特にEPOを多量に含有する、ヒラタケ属、サンゴハリタケ属、エノキタケ属、マイタケ属、シイタケ属、シロタモギタケ属、シメジ属、ハナビラタケ属、マンネンタケ属に属する一種または二種以上のきのこが好ましく、いっそう好ましくは、ハタケシメジ、ブナシメジ、エリンギ、シイタケ、エノキタケ、ハナビラタケ、ヤマブシタケ、マイタケ、マンネンタケからなる群より選ばれた一種または二種以上のきのこを好適に用いることができる。
【0018】
また、前記の天然のきのこ類だけでなく、人工栽培されたきのこ、あるいは天然又は人工栽培きのこの廃棄部分を用いることによって、EPOの製造コストをさらに安価にすることができるため、好ましい。
【0019】
本発明におけるきのこ類の水溶化とは、きのこ類を構成する種々の構成体、例えば、セルロース、α−グルカン、β−グルカン、キシログルカン、キチンなどの少なくとも一部を水溶化させることをいう。本発明においては、EPOの抽出率の観点から、水溶化処理によるきのこ類の減量率が、きのこ類100質量%に対して、5〜95質量%が好ましく、より好ましくは30〜90質量%であり、いっそう好ましくは40〜80質量%である。
【0020】
本発明におけるきのこ類の水溶化方法としては、前記のように、きのこ類の構成成分の一部を水溶化するものであれば特に限定されないが、例えば、自己消化系酵素処理、各種酵素による分解処理(酵素処理)、熱水処理、酸処理などの水溶化方法が挙げられる。
水溶化のための酵素処理に用いられる酵素としては、前記水溶化が可能な酵素であれば特に限定されないが、例えば、前記きのこ類自身に含まれている酵素(自己消化系酵素)に加え、水溶化処理効率の観点から、グルカナーゼ、セルラーゼ、キシラナーゼ、キチナーゼなどが好適に用いられる。これらの中でも、特にそれらの食品加工用酵素を用いることは、抽出画分から得られたEPOを食品、医薬品などの分野に用いる上での安全性の観点からより好ましい。
【0021】
水溶化のための酸処理に用いられる酸としては、前記水溶化が可能な酸であれば特に限定されないが、例えば、酢酸、塩酸、乳酸、硫酸、りん酸などが好適に用いられる。
【0022】
前記の酵素処理、熱水処理、酸処理等によりきのこ類を水溶化する処理を行い、前記処理により得られた水不溶性の残渣から有機溶媒を用いて抽出する方法が、きのこ類をそのまま有機溶媒を用いて抽出する方法に比べて、EPOの抽出効率が顕著に向上する理由は明らかではないが、きのこ類の少なくとも一部を水溶化することで、きのこ類に内在するEPOが抽出されやすくなったものと推定している。
【0023】
本発明の抽出方法は、前記のきのこ類の少なくとも一部を水溶化させたときに残存する水不溶性の残渣から有機溶媒で抽出することにより得ることができる。
本発明の抽出方法で用いる有機溶媒は、一般的に植物成分の抽出に用いられている有機溶媒であれば特に限定されず、例えばメタノール、エタノール、アセトンなどの親水性有機溶媒や、クロロホルムなどの親油性有機溶媒を用いることができる。必要に応じて、水と有機溶媒を併用することもできる。特に、エタノール、アセトンが、食品などとして利用する上で好ましい。
【実施例】
【0024】
以下、具体例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0025】
<原料の調製>
比較例、実施例の操作を行なうにあたり、EPO抽出原料としたハタケシメジ、ブナシメジ、エリンギ、シイタケのそれぞれの子実体は、細断、凍結の後、凍結乾燥装置にて水分含量が10%以下となるまで乾燥し、ブレンダーにて微粉末とした。
【0026】
<比較例1>
ハタケシメジ、ブナシメジ、エリンギ、シイタケそれぞれの子実体の凍結乾燥粉末2gを30mLのエタノールに添加し、25℃に調整したシェーカー内で16時間振盪、抽出を行なった。抽出液を分離し、ロータリーエバポレータにて濃縮、乾固させ、各種きのこ子実体エタノール抽出物を得た。
【0027】
<実施例1>
ハタケシメジ、ブナシメジ、エリンギ、シイタケそれぞれの子実体の凍結乾燥粉末10gを100mLのイオン交換水に添加し、35℃に調整したインキュベータ内で16時間保温し、自己消化系酵素水溶化処理を行なった。自己消化系酵素水溶化処理後、固液分離により固形分(残渣)を回収し、イオン交換水にて十分に洗浄した後、真空乾燥、粉砕を行ない、真空乾燥粉末を、ぞれぞれおよそ5gを得た(水溶化処理減量率:約50質量%)。
得られた乾燥粉末のうち2gについて、比較例1と同様の抽出処理を行い各種きのこ子実体エタノール抽出物を得た。
【0028】
<実施例2>
ハタケシメジ、ブナシメジ、エリンギ、シイタケそれぞれの子実体の凍結乾燥粉末30gを300mLのイオン交換水に添加し、35℃に調整したインキュベータ内で16時間保温し、自己消化系酵素水溶化処理を行なった。自己消化系水溶化処理後、固液分離により固形分(残渣)を回収し、イオン交換水にて十分に洗浄した後、再び、イオン交換水300mLを添加し、続いて、オートクレーブ装置を用いて、121℃、20分の熱水水溶化処理を行なった。固液分離により固形分(残渣)を回収し、洗浄した後、再度、同条件で熱水水溶化処理を行なった。固液分離により固形分(残渣)を回収し、洗浄した後、真空乾燥、粉砕を行ない、真空乾燥粉末を、ぞれぞれおよそ6g(水溶化処理減量率:約80質量%)を得た。
得られた乾燥粉末のうち2gについて、比較例1と同様の抽出処理を行い各種きのこ子実体エタノール抽出物を得た。
【0029】
<実施例3>
酵素処理に用いる酵素として、食品加工用酵素「ツニカーゼFN(大和化成製グルカナーゼ、ユニット数:4050ユニット/g」9gを添加した以外は、実施例1と同様にして、各種きのこ子実体エタノール抽出物を得た。
なお、酵素処理後に得られた真空乾燥粉末は、それぞれおよそ5g(水溶化処理減量率:約50質量%)であった。
【0030】
<実施例4>
酵素処理に用いる酵素として、食品加工用酵素「セルラーゼ「アマノ」3(天野エンザイム製セルラーゼ、ユニット数:30000ユニット/g)」150mgを添加し、45℃で酵素水溶化処理を行なった以外は、実施例1と同様にして、各種きのこ子実体エタノール抽出物を得た。
なお、酵素処理後に得られた真空乾燥粉末は、それぞれおよそ5g(水溶化処理減量率:約50質量%)であった。
【0031】
<実施例5>
酵素処理に用いる酵素として、食品加工用酵素「セルロシンTP25(エイチビイアイ製キシラナーゼ、ユニット数:25000ユニット/g)」1.5gを添加した以外は、実施例1と同様にして、各種きのこ子実体エタノール抽出物を得た。
なお、酵素処理後に得られた真空乾燥粉末は、それぞれおよそ5g(水溶化処理減量率:約50質量%))であった。
【0032】
<実施例6>
イオン交換水に代えて4%酢酸水溶液を用い酸処理を行なった以外は、実施例1と同様にして、各種きのこ子実体エタノール抽出物を得た。
なお、酸処理後に得られた真空乾燥粉末は、それぞれおよそ3g(水溶化処理減量率:約70質量%)であった。
【0033】
<EPOの定量>
比較例1、実施例1〜6で得られた各種処理各種きのこ子実体エタノール抽出物をエタノールに再溶解し0.25g/mLの濃度に調整した。TLCプレート(メルク製、シリカゲル60HPTLC)を適当な大きさに切り、再溶解した各種処理各種きのこ子実体エタノール抽出物を20μLずつアプライした。EPO標準品については、0.1、0.5、1.0mg/mLの濃度に調整したエタノール溶液を、同様に20μLずつアプライした。風乾の後、n−ヘキサン/酢酸エチル(2:1)の展開溶媒にて展開した。風乾の後、15%りんタングステン酸エタノール溶液を均一に噴霧し、加熱によりスポットを発色させた。発色したプレートをスキャナで取り込み、標品より得られたスポット濃さより、サンプルのEPO濃度を「JustTLC(SWEDAY製、画像解析ソフトウェア)」を用いて定量した。
得られた各種きのこ子実体エタノール抽出物中のEPO量を、抽出物10g当たりの mg量に換算した結果を表1に示した。
【0034】
【表1】

【0035】
表1に示したように、本発明の水溶化処理を行なって得た残渣から抽出した実施例1〜6においては、水溶化処理を行なわなかったきのこ類から抽出した比較例1と比べて、EPO抽出量がはるかに増大し、本発明の抽出方法がEPOの抽出効率の向上に極めて有効であることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
きのこ類の少なくとも一部を水溶化する処理を行い、前記処理により得られた水不溶性の残渣から有機溶媒を用いて抽出することを特徴とするきのこ類由来エルゴステロールペルオキシドの抽出方法。
【請求項2】
前記きのこ類が、ヒラタケ属、サンゴハリタケ属、エノキタケ属、マイタケ属、シイタケ属、シロタモギタケ属、シメジ属、ハナビラタケ属、マンネンタケ属に属する一種または二種以上のきのこ類であることを特徴とする請求項1記載のきのこ類由来エルゴステロールペルオキシドの抽出方法。
【請求項3】
前記水溶化方法が、酵素処理、熱水処理、酸処理から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1又は2記載のきのこ類由来エルゴステロールペルオキシドの抽出方法。
【請求項4】
前記酵素処理に用いる酵素が、セルラーゼ、グルカナーゼ、キシラナーゼ、キチナーゼから選ばれる一種または二種以上の酵素であることを特徴とする請求項3記載のきのこ類由来エルゴステロールペルオキシドの抽出方法。
【請求項5】
前記酵素処理に用いる酵素が、きのこ類固有の自己消化系酵素であることを特徴とする請求項3記載のきのこ類由来エルゴステロールペルオキシドの抽出方法。
【請求項6】
前記酸処理に用いる酸が、酢酸、塩酸、乳酸、硫酸、りん酸から選ばれる一種または二種以上の酸であることを特徴とする、請求項3記載のきのこ類由来エルゴステロールペルオキシドの抽出方法。

【公開番号】特開2011−236183(P2011−236183A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−111274(P2010−111274)
【出願日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】