き裂進展試験方法およびき裂進展試験装置

【課題】き裂進展試験方法において、応力拡大係数が一定のまま、き裂を進展させる。
【解決手段】き裂進展試験方法は、試験片1に、き裂2を形成するき裂形成工程と、試験片1に、き裂2が延びる方向に垂直な方向4に一定の変位を加えたまま保持する保持工程と、を有する。ボールねじ機構や、シリンダの変位を制御可能な油圧機構を備えた保持手段によって、試験片1に一定の変位を加えたまま保持することができる。また、試験片1に加えられた変位を測定してフィードバックすることにより、油圧機構をサーボ制御してもよい。試験片1を水中に配置して試験を行うこともできる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造材料の健全性を試験するために、試験片に形成されたき裂を進展させるき裂進展試験方法、および、き裂進展試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
沸騰水型原子炉の炉内機器などには、応力腐食割れ(SCC)が発生して構造健全性が損なわれるおそれがある。このため、SCCによるき裂の進展速度を、高い精度で測定する試験方法が必要とされている。
【0003】
たとえば特許文献1には、小型で廉価なき裂進展特性評価装置が開示されている。
【特許文献1】特開平8−278241号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、き裂進展速度は、応力拡大係数に支配されていると考えられている。このため、試験により取得したSCCによるき裂進展速度と応力拡大係数との関係を用いて、実機のき裂進展寿命評価が行われている。
【0005】
模擬炉水環境中の試験によるき裂進展速度データにはばらつきが大きく、ある応力拡大係数におけるき裂進展速度を決定するためには信頼性の高い試験データの取得が望まれている。しかし、従来のコンパクトテンション型試験片を用いた試験方法ではき裂長さの増加とともに応力拡大係数が変化するため、ある特定の応力拡大係数におけるき裂進展速度を正確に決定できないという問題がある。
【0006】
本発明は、上述の課題を解決するため、応力拡大係数が一定のままき裂を進展させるき裂進展試験ができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成するため、本発明は、試験片にき裂を進展させるき裂進展試験方法において、前記試験片にき裂を形成するき裂形成工程と、前記試験片に、前記き裂が延びる方向に垂直な強制変位を加え、その強制変位を一定に保つ保持工程と、を有することを特徴とする。
【0008】
また、本発明は、試験片にき裂を進展させるき裂進展試験装置において、き裂が形成された前記試験片に、前記き裂が延びる方向に垂直な強制変位を加え、その強制変位を一定に保つ保持手段、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、応力拡大係数が一定のままき裂を進展させるき裂進展試験ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に係るき裂進展試験方法、および、そのための試験装置の実施の形態を、図面を参照して説明する。なお、同一または類似の構成には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0011】
[第1の実施の形態]
図1は、本発明に係る第1の実施の形態のき裂進展試験方法に用いられる試験片の正面図である。図2は、図1の試験片の側面図である。
【0012】
試験片1は、板厚が均一で、一対の長辺21および一対の短辺22で囲まれる長方形の板である。
【0013】
き裂進展試験は、試験片1にき裂2を形成するき裂形成工程と、試験片1に変位を加えて保持する保持工程を有している。き裂形成工程において、き裂2は、試験片1の一方の長辺21から短辺22にほぼ平行に、その先端20が試験片1のほぼ中央に位置するように形成される。
【0014】
一方の短辺22は、き裂2が剛体壁3にほぼ並行となるように、剛体壁3に固定されている。保持工程において、試験片1のき裂2を挟んで剛体壁3に対向する辺には、その辺の全体に一様な強制変位が加えられ、その強制変位は一定に保持される。図1では、試験片1に加える強制変位の方向を、破線の矢印4で示した。
【0015】
次に、このようなき裂進展試験で、応力拡大係数がほぼ一定となることを、この試験を模擬した数値解析の結果を用いて示す。
【0016】
図3は、き裂進展試験を模擬した数値解析モデルを示す図である。
【0017】
ここで、試験片1の長さは200mm、幅は100mmとし、一方の長辺21から垂直に長さaのき裂2が形成されているとした。なお、解析は、対称性を考慮して1/2の部分をモデル化している。試験片1の短辺22の全体に一様な0.025mmの強制変位を、試験片1を引っ張るように長辺21の方向に加えた状態を模擬している。
【0018】
図4は、き裂長さaを変えて数値解析により求めた応力拡大係数Kを示すグラフである。なお、グラフの横軸は、き裂長さaを試験片1の短辺22の長さWで除して無次元化した無次元化き裂長さa/Wである。
【0019】
図4から、a/Wが0.1から0.4までの間ではき裂長さの増加とともに応力拡大係数Kは大きくなるが、a/Wが0.4から0.7までの間、すなわちき裂長さが板幅の40%から70%の間ではほぼ一定値を取ることがわかる。そこで、この範囲を試験範囲とする。
【0020】
このように、き裂長さaが試験片1の幅の所定の割合の範囲にある場合には、応力拡大係数Kがほぼ一定となる。このため、試験片1にこの範囲のき裂長さのき裂2を形成しておくことにより、試験片1の一端に一様変位を与えるという非常に簡易な方法によって、応力拡大係数が一定のき裂進展試験を行うことができる。
【0021】
また、き裂進展試験では、保持工程の後に、試験片1に強制変位を加えるために負荷した力を除荷する解放工程を追加し、解放工程の後に、再度、試験片1のき裂2を挟んで剛体壁3に対向する辺の全体に一様な強制変位を加えて、その強制変位を一定に保つことにより、試験片1に繰り返し強制変位を加えてもよい。
【0022】
なお、試験片1の形状は長方形に限定されるものではない。
【0023】
[第2の実施の形態]
図5は、本発明に係る第2の実施の形態のき裂進展試験方法に用いられる試験片の正面図である。図6は、図5の試験片をき裂進展試験装置の要部とともに示す側面図である。
【0024】
試験片1の両方の短辺22には、き裂2が形成されている場所の板厚よりも板厚が厚い掴み部5がそれぞれ形成されている。掴み部5の剛性は、板厚が厚いためき裂2が形成されている部分に比べて大きくなっている。
【0025】
き裂進展試験装置は、向かい合う2つのチャック6およびボールねじ7を備えた負荷機構を有している。2つのチャック6は、それぞれ試験片1の掴み部5をつかめるようになっている。一つのチャック6には、ボールねじ7が取り付けられている。もう一方のチャック6は、剛体壁3に固定される。また、ボールねじ7は、ガイド8によって案内されている。
【0026】
掴み部5は、2つのチャック6によって保持される。ボールねじ7は、回転角を制御することにより試験片1の端面に一定の強制変位を与える。
【0027】
また、ガイド8としてシール部材を用いることと、模擬炉水環境中でのき裂進展試験を行うこともできる。
【0028】
[第3の実施の形態]
図7は、本発明に係る第3の実施の形態のき裂進展試験方法に用いられる試験片をき裂進展試験装置の要部とともに示す側面図である。
【0029】
本実施の形態のき裂進展試験装置は、チャック6に直接取り付けられた油圧シリンダ9、チャック6の間の変位を測定する変位計10、および、油圧シリンダの変位を制御するサーボ制御器11を有している。
【0030】
サーボ制御器11は、変位計10によって測定されたチャック6の間の変位を受け取り、この変位量が一定に維持されるように、油圧シリンダ9の変位を制御する。この油圧シリンダ9によって、チャック6に強制変位を与える。これにより、高精度な応力拡大係数一定き裂進展試験が可能である。
【0031】
なお、本実施の形態においても、ガイド8にシール部材を用いることで模擬炉水環境中でのき裂進展試験が可能である。
【0032】
なお、以上の説明は単なる例示であり、本発明は上述の各実施の形態に限定されず、様々な形態で実施することができる。また、各実施の形態の特徴を組み合わせて実施することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係る第1の実施の形態のき裂進展試験方法に用いられる試験片の正面図である。
【図2】図1の試験片の側面図である。
【図3】き裂進展試験を模擬した数値解析モデルを示す図である。
【図4】き裂長さaを変えて数値解析により求めた応力拡大係数Kを示すグラフである。
【図5】本発明に係る第2の実施の形態のき裂進展試験方法に用いられる試験片の正面図である。
【図6】図5の試験片をき裂進展試験装置の要部とともに示す側面図である。
【図7】本発明に係る第3の実施の形態のき裂進展試験方法に用いられる試験片をき裂進展試験装置の要部とともに示す側面図である。
【符号の説明】
【0034】
1…試験片、2…き裂、3…剛体壁、5…掴み部、6…チャック、7…ボールねじ、8…ガイド、9…油圧シリンダ、10…変位計、11…サーボ制御器
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験片にき裂を進展させるき裂進展試験方法において、
前記試験片にき裂を形成するき裂形成工程と、
前記試験片に、前記き裂が延びる方向に垂直な強制変位を加え、その強制変位を一定に保つ保持工程と、
を有することを特徴とするき裂進展試験方法。
【請求項2】
前記保持工程の後に、前記試験片に前記強制変位を加えるために負荷した力を除荷する解放工程と、
前記解放工程の後に、前記試験片に前記強制変位を加えて、その強制変位を一定に保つ再保持工程と、
を有することを特徴とする請求項1記載のき裂進展試験方法。
【請求項3】
前記保持工程は、
前記試験片に加えられた変位を測定する測定工程と、
前記測定工程で測定された変位をフィードバックして前記試験片に加えられる変位をサーボ制御する工程と、
を有することを特徴とする請求項1または請求項2記載のき裂進展試験方法。
【請求項4】
前記保持工程は、前記試験片が水中に配置されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項記載のき裂進展試験方法。
【請求項5】
前記き裂形成工程の前に、数値解析によって、前記試験片の形状および前記保持工程で進展させるき裂の長さの範囲を決定する解析工程を有することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項記載のき裂進展試験方法。
【請求項6】
試験片にき裂を進展させるき裂進展試験装置において、
き裂が形成された前記試験片に、前記き裂が延びる方向に垂直な強制変位を加え、その強制変位を一定に保つ保持手段、
を有することを特徴とするき裂進展試験装置。
【請求項7】
前記試験片は、前記き裂を挟んで変位を加える方向の両側の端部に所定の剛性を持った掴み部を備えていて、
前記保持手段は、前記掴み部を把持して、その掴み部の前記き裂に平行な方向全体にわたって一様な前記強制変位を加え、その強制変位を一定に保つものである、
ことを特徴とする請求項6記載のき裂進展試験装置。
【請求項8】
前記保持手段は、前記強制変位の方向に延びるボールねじ機構を有することを特徴とする請求項6または請求項7記載のき裂進展試験装置。
【請求項9】
前記保持手段は、
前記強制変位の方向に延びるシリンダと、
前記シリンダの変位を制御可能な油圧機構と、
を有することを特徴とする請求項6または請求項7記載のき裂進展試験装置。
【請求項10】
前記保持手段は、
前記試験片に加えられた変位を測定する測定手段と、
前記測定手段が測定した変位をフィードバックして前記シリンダの変位を前記油圧機構を介してサーボ制御する制御手段と、
を有することを特徴とする請求項9記載のき裂進展試験装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【公開番号】特開2007−309736(P2007−309736A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
物理学 | 測定;試験 | 材料の化学的または物理的性質の決定による材料の調査または分析 | 機械的応力の負荷による固体材料の強さの調査 | 定張力または定圧縮力によるもの
物理学 | 測定;試験 | 材料の化学的または物理的性質の決定による材料の調査または分析 | 機械的応力の負荷による固体材料の強さの調査 | 繰返し力または脈動力の適用によるもの
【出願番号】特願2006−137724(P2006−137724)
【出願日】平成18年5月17日(2006.5.17)
【出願人】(000003078)株式会社東芝
【Fターム(参考)】
機械的応力負荷による材料の強さの調査 | 調査方法;試験の仕方 | 引張試験
機械的応力負荷による材料の強さの調査 | 力を掛ける方法(時間的、空間的) | 静的負荷による試験
機械的応力負荷による材料の強さの調査 | 調査環境 | 特殊な媒体の雰囲気中
機械的応力負荷による材料の強さの調査 | 調査対象項目 | 強度 | 亀裂、クラック
機械的応力負荷による材料の強さの調査 | 試験片、形状、構造及び部分、部品 | シート状
機械的応力負荷による材料の強さの調査 | 試験片、形状、構造及び部分、部品 | 切欠のあるもの
機械的応力負荷による材料の強さの調査 | 試験装置;構成、部分構成(治具を含む) | 荷重負荷装置 | 自動制御、目標値制御
機械的応力負荷による材料の強さの調査 | 測定対象 | 変位
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