説明

ぎょう虫卵検査装置及びぎょう虫卵検査方法

【課題】本発明は、簡易にぎょう虫卵を発見する技術を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、蛍光作用を利用して試料中のぎょう虫卵の有無を検査するぎょう虫卵検査装置10を提供する。ぎょう虫卵検査装置10は、試料に紫外光を照射してぎょう虫卵を励起させる励起光照射部52と、励起されたぎょう虫卵が発生させる蛍光を含む画像のデータである画像データを取得する画像データ取得部20と、画像データに基づいて、蛍光を検出することによってぎょう虫を発見する解析部60と、を備える。本発明によれば、顕微鏡を使用して人間の目で検査が行われていた検査の少なくとも一部の自動化を可能とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ぎょう虫卵の有無を検査するぎょう虫卵検査に関する。
【背景技術】
【0002】
ぎょう虫卵の検査方法として、セロハンテープ肛囲検査法が普及している。セロハンテープ肛囲検査法は、ぎょう虫が肛門周囲で産卵する習性を利用したもので,その検出率は他寄生虫卵検出のために用いられる糞便検査法よりも格段に優れている。ところが、この方法では、採取時に角質化した皮膚細胞やごみがついてしまい、その中から人間の目によって顕微鏡によって卵を見つけなければならなかった。このような問題に対して、ぎょう虫卵のみを染色する方法も提案されている(特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−252995号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述の方法では、顕微鏡検査における検査員の目視負担は軽減されるものの、依然として人間の目による検査を行わなければならず、染色の負担も発生する。
【0005】
本発明は、上述の従来の課題の少なくとも一部を解決するために創作されたものであり、簡易にぎょう虫卵を発見する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、上記課題を解決するのに有効な手段等につき、必要に応じて効果等を示しつつ説明する。
【0007】
手段1.蛍光作用を利用して試料中のぎょう虫卵の有無を検査するぎょう虫卵検査装置であって、
前記試料に紫外光を照射して前記ぎょう虫卵を励起させる励起光照射部と、
前記励起されたぎょう虫卵が発生させる蛍光を含む画像のデータである画像データを取得する画像データ取得部と、
前記画像データに基づいて、前記蛍光を検出することによってぎょう虫を発見する解析部と、
を備えるぎょう虫卵検査装置。
【0008】
上記構成によれば、紫外光によって励起されたぎょう虫卵が発生させる蛍光を含む画像のデータである画像データに基づいて分析が行われるので、蛍光作用が無い皮膚細胞やごみから確実に分離することができる。これにより、画像データ内の蛍光を検出することによって簡易にぎょう虫を発見することができる。
【0009】
手段2.手段1のぎょう虫卵検査装置であって、
前記励起光照射部は、紫外線LEDを有し、
前記画像データ取得部は、可視光の範囲の波長の少なくとも一部の波長の光を検出して、前記画像データを取得するぎょう虫卵検査装置。
【0010】
上記構成によれば、ぎょう虫卵が発生させる蛍光のみを検出して画像データを取得することができるので、ぎょう虫卵のみが写った画像データを生成することができる。これにより、画像データに明るい領域が存在するか否かで簡易かつ確実にぎょう虫卵を発見することができる。
【0011】
手段3.手段2のぎょう虫卵検査装置であって、
前記画像データ取得部は、前記紫外線LEDによる紫外光の照射時における照射時画像データと、前記紫外線LEDによる紫外光の非照射時における非照射時画像データと、を取得し、
前記解析部は、前記照射時画像データと前記非照射時画像データの差分データに基づいてぎょう虫を発見する虫卵検査装置。
【0012】
上記構成によれば、紫外光の照射時における照射時画像データと非照射時における非照射時画像データの差分データに基づいてぎょう虫を発見するので、さらに確実にぎょう虫卵を発見することができる。
【0013】
手段4.蛍光作用を利用して試料中のぎょう虫卵の有無を検査するぎょう虫卵検査方法であって、
前記試料に紫外光を照射して前記ぎょう虫卵を励起させる励起工程と、
前記励起されたぎょう虫卵が発生させる蛍光を検出することによってぎょう虫を発見する工程と、
を備えるぎょう虫卵検査方法。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】ぎょう虫卵検査装置10の概略構成を示す断面図。
【図2】ぎょう虫卵検査装置10の光源を示す断面図。
【図3】光分析の処理方法の処理内容を示すフローチャート。
【図4】ぎょう虫卵検査装置10への試料Sの設置方法を示す模式図。
【図5】CCDイメージセンサ20による撮像状態を示す説明図。
【図6】ぎょう虫卵の蛍光状態を示す模式図。
【図7】ぎょう虫卵の蛍光状態を示す写真。
【図8】変形例のぎょう虫卵検査装置の概略構成を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(実施形態)
以下、本発明を具体化した実施の形態を図面に従って説明する。本実施形態は、CCDイメージセンサとLEDとを使用するぎょう虫卵検査装置として具体化しており、まずはぎょう虫卵検査装置の基本構成を図1、図2の概略図に基づいて説明する。
【0016】
図1は、ぎょう虫卵検査装置10の概略構成を示す断面図である。図2は、ぎょう虫卵検査装置10の光源を示す断面図である。ぎょう虫卵検査装置10は、CCDイメージセンサ20と、ドーム型筐体30と、昇降台40と、4個の照明用の白色LED51と、4個の紫外線LED52と、コンピュータ60とを備えている。紫外線LED52は、励起光照射部とも呼ばれる。白色LED51は、内部状態の確認のために使用される。コンピュータ60は、解析部とも呼ばれる。
【0017】
ぎょう虫卵検査装置10は、試料Sに含まれているぎょう虫卵の蛍光作用に基づいて試料Sにぎょう虫卵が含まれているか否かの検査を行う装置である。ぎょう虫卵の蛍光作用は、紫外線LED52の励起光を試料Sに照射することによって生じる。試料Sは、セロハンテープ(セロハン製採卵用紙)である。
【0018】
コンピュータ60は、ぎょう虫卵検査装置10の制御と計測データの処理とを実行する。ぎょう虫卵検査装置10の制御は、試料Sの設置のための昇降台40の昇降の制御、白色LED51及び紫外線LED52への電力供給制御、並びに白色LED51の照明下でのCCDイメージセンサ20による画像データの取得といった操作を含んでいる。計測データの処理は、画像データの取得や分析を含んでいる。コンピュータ60は、CCDイメージセンサ20とともに画像データを取得する機能を有し、画像データ取得部とも呼ばれる。
【0019】
ドーム型筐体30は、外部からの光を透過しない遮光性のドーム部31と、各波長のLED51,52を支持する基底部33と、各波長のLED51,52からの直射光を遮蔽する遮蔽部32と、を備えている。ドーム部31は、中央部(最奥部)にCCDイメージセンサ20を装着している。CCDイメージセンサ20は、ドーム部31によって外部から隔離されている内部空間に配置された試料Sの画像データを取得することができる。ドーム部31の内側には、各波長のLED51,52からの直射光を乱反射して光を拡散する乱反射面34が形成されている。
【0020】
ドーム型筐体30の構造は以下のとおりである。ドーム部31は、お椀型(半球型)の形状を有している。お椀型形状の端部には、ドーナツ型の板形状を有する基底部33が接続されている。基底部33の孔部には、筒形状を有する遮蔽部32が接続されている。遮蔽部32の高さは、各波長のLED51,52の頂部(最も高い位置)よりも高い位置に端部が配置される長さを有することが好ましい。遮蔽部32の直径は、想定される各種の試料Sの最大サイズに合わせて自由に設定することができる。
【0021】
このような構成を有することによって、ぎょう虫卵検査装置10は、外部からの光を遮断するとともに、各波長のLED51,52を光源として利用することによって内部の光環境を制御することができる。この光環境は、拡散光として均一な光を試料Sに対して励起光を照射することが可能である。
【0022】
次に、図3を参照してぎょう虫卵検査装置10を使用したぎょう虫卵検査方法を説明する。図3は、ぎょう虫卵検査方法の処理内容を示すフローチャートである。ステップS10では、オペレータは、校正処理を実行する。校正処理とは、ドーム型筐体30の内部の光環境やCCDイメージセンサ20の経年変化等による変動を抑制するための調整処理である。
【0023】
調整処理は、たとえば基準(ベンチマーク)となる模擬試料を試料として設置し、各波長のLED51,52の光を個別に照射し、模擬試料の画像データに基づいて補正値を決定することによって行われる。補正値は、コンピュータ60によって自動的に生成されるようにしてもよいし、あるいはオペレータが設定するようにしてもよい。
【0024】
ステップS20では、オペレータは、検査対象物として試料Sを設置する。試料Sの設置は、本実施形態では、試料Sが設置される昇降台40を昇降させることによって行われる。昇降台40の昇降機構については、周知の技術が利用できるので図示を省略している。
【0025】
図4は、ぎょう虫卵検査装置10への試料Sの設置方法を示す模式図である。試料Sの設置は、図4(a)に示されるように昇降台40を下降させて昇降台40の上部にアクセス可能とし(図4(a)参照)、次に昇降台40の上部に試料Sを設置し(図4(b)参照)、最後に昇降台40を上昇させて基底部33と昇降台40とを当接させて光漏れが無い状態とする(図4(c)参照)。光漏れの有無は、CCDイメージセンサ20によって確認される。ただし、ドーム型筐体30を上下させて試料Sを設置するようにしてもよい。こうすれば、たとえば試料Sをベルトコンベアで自動的に設置するように構成することもできる。
【0026】
ステップS30では、コンピュータ60は、基準画像撮像処理を実行する。基準画像撮像処理は、CCDイメージセンサ20による光漏れ無しの検知に応じて自動的に開始される。コンピュータ60は、8個のLED51、52を消灯させた状態において撮像処理を実行する。
【0027】
図5は、CCDイメージセンサ20による撮像状態を示す説明図である。撮像対象エリアは、4cm×2.5cmの領域を有し、1000万画素のCCDイメージセンサ20で撮像される。CCDイメージセンサ20は、4000画素×2500画素のCCDセンサであり、各画素は、試料Sにおいて10マイクロメータの正方形となる。
【0028】
ステップS40では、コンピュータ60は、CCDイメージセンサ20によって取得された基準画像データIaをハードディスク(図示省略)に格納する。基準画像データIaは、各画素のRGBデータとして格納される。CCDイメージセンサ20は、本実施形態では、図5に示されるように4cm×2.5cmのサイズの試料Sの画像データを取得することができる。基準画像データIaは、非照射時画像データとも呼ばれる。
【0029】
ステップS50では、コンピュータ60は、励起光照射を開始する。励起光照射は、4個の紫外線LED52の励起光を試料Sに照射する処理である。コンピュータ60は、照射の強度や時間といった照射の制御も予め設定された方法で実行する。励起光照射は、基準画像データIaの格納の確認に応じてコンピュータ60によって自動的に開始される。
【0030】
ステップS60では、コンピュータ60は、励起光照射時像撮像処理を実行する。励起光照射時像撮像処理は、紫外線LED52による照射時において、コンピュータ60によって自動的に実行される。
【0031】
励起光照射時においては、ぎょう虫卵は、図6及び図7に示されるように蛍光作用を示すことが本発明者によって確認された。図6は、3個のぎょう虫卵G1,G2,G3の様子を示す説明図である。図7は、3個のぎょう虫卵G1,G2,G3が実際に撮影された蛍光写真を示す図である。ぎょう虫卵G1,G2,G3は、様々な角度で撮影されており、ベレー帽のような形状を有している。
【0032】
ぎょう虫卵の検査は、以下の検体と装置とを使用して行われた。
(1)検体提供:(財団法人)名古屋公衆衛生研究所。
(2)計測装置:蛍光顕微鏡Biozero(型式:BZ−8000)。
(3)計測装置の製造会社:株式会社キーエンス社製。
(4)計測環境:120W超高圧水銀ランプ。
(5)UV励起スペクトル:340−380nm。
【0033】
コンピュータ60は、撮像によって取得された画像データを逐次的に比較して、画像データの変化量が一定値より小さな状態となったと判断したら、その最終撮像画像の画像データを励起光照射時画像データIbとして決定する。逐次的に比較とは、n番目とn+1番目(たとえば5番目と6番目)のように撮像順序が連続するものを比較することを意味する。これにより、コンピュータ60は、4個の紫外線LED52の点灯が安定した状態でのデータを取得することができる。
【0034】
ステップS70では、コンピュータ60は、CCDイメージセンサ20によって取得された励起光照射時画像データIbをハードディスク(図示省略)に格納する。励起光照射時画像データIbは、基準画像データIaと同様に各画素のRGBデータとして格納される。
【0035】
ステップS80では、コンピュータ60は、差分画像データ生成処理を実行する。差分画像データ生成処理は、励起光照射時画像データIbの格納の確認に応じてコンピュータ60によって自動的に開始される。差分画像データ生成処理は、基準画像データIaの各画素のRGBデータと励起光照射時画像データIbの各画素のRGBデータの差分を算出し、新たな差分画像データIcを生成し、その差分画像データIcを分析する処理である。差分画像データIcは、励起光照射時画像データIbと基準画像データIaとの間の差分を画素値とする画像データである。
【0036】
ステップS90では、オペレータは、判定処理を実行する。判定処理は、予め設定されている判定基準に合致しているか否かに基づいて判定を実行する処理である。具体的には、ぎょう虫の卵のサイズが予めサイズと形状が既知(約50×30マイクロメートル)なので、そのサイズの領域での画素にRGBデータの変動が発生している場合に検出と判定することができる。すなわち、本実施形態の画素サイズ(10×10マイクロメートル)では、少なくとも連続して数個の明るい画素が発見された場合には、「ぎょう虫卵の存在の可能性あり」と簡易に判定することができる。
【0037】
このように、本実施形態によれば、顕微鏡を使用して人間の目で検査が行われていた検査の少なくとも一部の自動化が可能になる。具体的には、たとえば顕微鏡を使用する目視検査は、コンピュータ60によって「ぎょう虫卵の存在の可能性あり」と判定されたものに絞り込むことができるからである。
【0038】
(変形例)
なお、上述した各実施の形態の記載内容に限定されず、例えば次のように実施してもよい。
【0039】
(a)上述した実施の形態では、ドーム型筐体30で遮光して試料Sの光環境を全て人工的に制御可能な状態として構成されているが、たとえば図8(a)乃至(d)に示されるような構成としてもよい。
【0040】
図8は、変形例のぎょう虫卵検査装置の概略構成を示す模式図である。図8(a)では、照明用の白色LED51がレンズ59とハーフミラー58とを介して試料Sに照明用の光を照射し、画像データを取得する形態を示している。図8(b)は、試料Sに対して対称な位置に配置されている偶数個の白色LED51で試料Sに照明用の光を照射する形態を示している。図8(c)は、透光性の光拡散板57を使用して試料Sに照明用の光が照射される形態を示している。図8(d)は、透明板41を使用して試料Sの全面(3方向)から照射する形態を示している。
【0041】
(b)上述した実施の形態では、CCDイメージセンサ20の画素サイズは、本実施形態では、試料Sにおいて10マイクロメータの正方形とされているが、他のサイズでもよい。CCDイメージセンサ20の画素サイズは、試料Sにおけるサイズが小さくなると、画素数が増加して画像データのデータ量の増加やコンピュータ60による解析負担の増大の要因となる。一方、CCDイメージセンサ20の画素サイズは、試料Sにおけるサイズが大きくなって、たとえば100マイクロメータのサイズとなると検出ができなくなる。
【0042】
ぎょう虫卵の検査では、試料Sにおける画素サイズは、1マイクロメータ乃至50マイクロメータのサイズが好ましく、さらに10マイクロメータ乃至30マイクロメータのサイズがより好ましい。
【0043】
(c)上述した実施の形態では、照明用の光の照射にLEDが使用されているが、たとえば水銀ランプ及び励起光フィルタを有する光源のような他の種類の光源を利用してもよい。ただし、LEDを利用すれば、光源の安定性、スペクトルの制御、少ない熱の発生、及び少ない電力消費といった利点が得られる。
【符号の説明】
【0044】
10…ぎょう虫卵検査装置、20…CCDイメージセンサ、30…ドーム型筐体、40…昇降台、51…白色LED、52…紫外線LED、60…コンピュータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光作用を利用して試料中のぎょう虫卵の有無を検査するぎょう虫卵検査装置であって、
前記試料に紫外光を照射して前記ぎょう虫卵を励起させる励起光照射部と、
前記励起されたぎょう虫卵が発生させる蛍光を含む画像のデータである画像データを取得する画像データ取得部と、
前記画像データに基づいて、前記蛍光を検出することによってぎょう虫を発見する解析部と、
を備えるぎょう虫卵検査装置。
【請求項2】
前記励起光照射部は、紫外線LEDを有し、
前記画像データ取得部は、可視光の範囲の波長の少なくとも一部の波長の光を検出して、前記画像データを取得する請求項1に記載のぎょう虫卵検査装置。
【請求項3】
前記画像データ取得部は、前記紫外線LEDによる紫外光の照射時における照射時画像データと、前記紫外線LEDによる紫外光の非照射時における非照射時画像データと、を取得し、
前記解析部は、前記照射時画像データと前記非照射時画像データの差分データに基づいてぎょう虫を発見する請求項2に記載の虫卵検査装置。
【請求項4】
蛍光作用を利用して試料中のぎょう虫卵の有無を検査するぎょう虫卵検査方法であって、
前記試料に紫外光を照射して前記ぎょう虫卵を励起させる励起工程と、
前記励起されたぎょう虫卵が発生させる蛍光を検出することによってぎょう虫を発見する工程と、
を備えるぎょう虫卵検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−209183(P2011−209183A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−78586(P2010−78586)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(510189891)株式会社ESA (4)
【Fターム(参考)】