説明

くさび飛散防止構造を備える線材定着装置

【課題】 工期の長期化を防止しながら、PC鋼線などの線材をくさびによって定着しているときに、線材が切断したとしてもくさびの周囲への飛散を防止することができるくさび飛散防止構造を備える線材定着装置を提供する。
【解決手段】 ジャッキ側定着具1は、ジャッキ10を備えており、ジャッキ10の裏面側には、定着金具20における挿入孔21に挿入されてPC鋼線Lを把持するくさび30が設けられている。くさび30の後端部側には、くさび30飛散を防止する飛散防止鉄板40が配設されている。飛散防止鉄板40は、着脱可能とされており、飛散防止鉄板押さえ60によって後方への移動を阻止されている。飛散防止鉄板押さえ部材60は、蝶番61によってリンク部材62が上下動可能とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、くさび飛散防止構造を備える線材定着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
非開削工法などを行うにあたり、函体に推進力を付与して推進させることによって函体を地中内に埋設していく推進工事が行われることがある。函体を推進させるにあたり、推進力をジャッキから得ている。また、この種の推進工事では、ジャッキ反力を得る際には、反力体を函体の推進方向の前方側に配置する場合と推進方向と後方側に配置する場合とがある。
【0003】
ここで、反力体をジャッキの推進方向の前方側に配置する場合に、ジャッキと反力体とをPC鋼線などで接続し、PC鋼線を介して推進力を得るようにしている。このとき、PC鋼線の両端を反力体およびジャッキに対してそれぞれ定着する必要がある。PC鋼線を定着するための装置として、従来、コーンおよびくさびを用いた連続作業用ジャッキ装置がある(たとえば、特許文献1参照)。この連続作業用ジャッキ装置は、複数のPC鋼線が貫通するセンターホールジャッキを備えている。このセンターホールジャッキにおけるピストンロッドの先端に円錐溝を形成し、PC鋼線が貫通するくさびをこの円錐溝に収容する。そして、センターホールジャッキによって推進力を付与する際に、くさびが円錐溝に食い込み、くさびによってPC鋼線が強固に把持されるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−330099号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許文献1に開示された連続作業用ジャッキ装置において、なんらかの理由によってPC鋼線が切断した場合、PC鋼線における緊張力が急激に減少し、PC鋼線を把持するくさびが円錐溝から飛散する事態が生じることがある。このように、くさびが円錐溝から飛散すると、周囲の機器などを破損するなどの事態が生じえる。
【0006】
しかし、上記特許文献1に開示された連続作業用ジャッキ装置では、PC鋼線が切断した場合におけるくさびの飛散について特に考慮されていなかった。このため、上記特許文献1に開示された連続作業用ジャッキ装置では、PC鋼線が切断した場合におけるくさびの周囲への飛散を防止することができないという問題があった。
【0007】
また、PC鋼線の一端側がジャッキにおけるくさびに把持され、他端側が反力体におけるくさびに把持されている態様とされているとき、反力体側については、くさびの飛散防止板を設けることによってくさびの飛散を防止することができる。一方。ジャッキ側では、飛散防止板を設けることはできるものの、函体の推進が進むに連れてジャッキ側ではPC鋼線の把持構造に盛り替えを行う必要が生じる。ここで、飛散防止板が固定されていると、PC鋼線の盛り替えに多大な労力を要することとなり、工期の長期化を招くおそれがあるという問題があった。
【0008】
そこで、本発明の課題は、工期の長期化を防止しながら、PC鋼線などの線材をくさびによって定着しているときに、線材が切断したとしてもくさびの周囲への飛散を防止することができるくさび飛散防止構造を備える線材定着装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決した本発明に係るくさび飛散防止構造を備える線材定着装置は、先端面と後端面とを通って貫通する貫通孔が形成されたくさび部材と、くさび部材における先端部が挿入される挿入孔が形成された定着部材と、くさび部材の飛散を防止するくさび飛散防止板とを備え、貫通孔に線材を挿入した状態でくさび部材の先端部を定着部材の挿入孔に挿入して、線材を定着するくさび飛散防止構造を備える線材定着装置であって、定着部材が、線材を引張するジャッキに対して取り付けられ、くさび部材における後端部側に、くさびの飛散を防止する飛散防止板が着脱可能に配設されており、ジャッキに飛散防止板を支持する支持部材が設けられていることを特徴とする。
【0010】
本発明に係るくさび飛散防止構造を備える線材定着装置は、くさび部材における後端部側に、くさびの飛散を防止する飛散防止板が配設されている。このため、PC鋼線などの線材をくさびによって定着しているときに、線材が切断したとしてもくさびの周囲への飛散を防止することができる。また、飛散防止板は、くさび部材における後端部側に着脱可能に取り付けられている。このため、線材の盛り替えを行う際に、飛散防止板を容易に取り外し、さらには取り付けることができるので、工期の長期化を防止することができる。
【0011】
ここで、支持部材は、線材の延在方向に沿って配置される長尺部材を備えており、長尺部材の一端部がジャッキに対して取り付けられており、飛散防止板の背後に配設され、飛散防止板の後方への移動を抑止するフック部材が長尺部材の他端部に取り付けられている態様とすることができる。
【0012】
かかる態様によれば、長尺部材を容易に着脱することができる。したがって、工期の長期化をさらに好適に防止することができる。
【0013】
また、支持部材は、第1板部材および第2板部材を有する蝶番部材を備えており、蝶番部材における第1板部材がジャッキに対して固定され、第2板部材に長尺部材の一端部が取り付けられている態様とすることができる。
【0014】
かかる態様によれば、長尺部材をさらに容易に着脱することができる。したがって、工期の長期化をさらに好適に防止することができる。
【0015】
さらに、ジャッキに対して固定され、棒状をなし、線材の延在方向に沿って配設された棒状部材に飛散防止板が挿入されており、飛散防止板が、フック部材から独立して取り付けられている態様とすることができる。
【0016】
かかる態様によれば、長尺部材をさらに容易に着脱することができる。したがって、工期の長期化をさらに好適に防止することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るくさび飛散防止構造を備える線材定着装置によれば、工期の長期化を防止しながら、PC鋼線などの線材をくさびによって定着しているときに、線材が切断したとしてもくさびの周囲への飛散を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】くさび飛散防止構造を備える線材定着装置が配置されたトンネルの側断面図である。
【図2】ジャッキ側定着具の斜視図である。
【図3】ジャッキ側定着具の側断面図である
【図4】ジャッキ側定着具の背面図である。
【図5】固定側定着具の斜視図である。
【図6】PC鋼線Lの盛り替えを行う手順を示す工程図である。
【図7】飛散防止鉄板押さえ部材の他の例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、各実施形態において、同一の機能を有する部分については同一の符号を付し、重複する説明は省略することがある。
【0020】
図1は、くさび飛散防止構造を備える線材定着装置が配置されたトンネルの側断面図である。図1に示すように、本実施形態に係る線材定着装置は、たとえば、列車Tが走行する盛土Mに第1函体B1および第2函体B2を埋設する際のけん引工法に用いられる。線材定着装置は、第1函体B1に取り付けられるジャッキ側定着具1と第2函体B2に取り付けられる固定側定着具2とを備えている。
【0021】
ジャッキ側定着具1は、図2および図3に示すように、ジャッキ10を有している。ジャッキ10は、いわゆるセンターホールジャッキであり、シリンダ11、ロッド12、ジャッキヘッド13、および段差解消鉄板14を備えており、シリンダ11が図1に示す第1函体B1に取り付けられている。ジャッキ10を伸長させることにより、PC鋼線Lを引張する。
【0022】
また、ジャッキヘッド13は、ロッド12の先端部に取り付けられており、ジャッキヘッド13の表面には凹部が形成されている。以下、各図において、ジャッキ側定着具1における表裏面を現すに当たり、第1函体B1側(図3における右側)の面を表面、その反対側の面(図3における左側)の面を裏面として説明する。
【0023】
段差解消鉄板14は、ジャッキヘッド13の裏面側に配置されている。段差解消鉄板14は、その裏面側は平面とされているとともにその表面側には、ジャッキヘッド13を全体的に覆う形状とされている。段差解消鉄板14によってジャッキヘッド13を覆うことにより、ジャッキ10の裏面が平面状となる。
【0024】
さらに、段差解消鉄板14によって平面状とされたジャッキ10の裏面には、本発明の定着部材となる定着金具20が取り付けられている。定着金具20には、その厚さ方向に貫通する8つの挿入孔21が形成されている。これらの8つの挿入孔21は、正面視して円形状に配置されている。
【0025】
また、挿入孔21は、断面が円形状をなしている。さらに、挿入孔21は、テーパを備えており、定着金具20における裏面側の面積が広く、定着金具20の厚さ方向略中央位置まで、その面積が徐々に小さくなる円錐状(コーン状)をなしている。また、挿入孔21における定着金具20の厚さ方向略中央位置よりも表面側の形状は、円筒状とされている。
【0026】
定着金具20における挿入孔21には、くさび30が挿入されている。くさび30は、中空の円錐台形状を縦方向に複数に分割した形状をなしている。このくさび30に本発明の線材であるPC鋼線Lを挿入し、この状態でくさび30を挿入孔21に挿入し、くさび30の直径を収縮させることにより、くさび30でPC鋼線Lを把持する。
【0027】
さらに、くさび30の後端部側であり、定着金具20の裏面側におけるくさび30を挟んだ位置には、飛散防止鉄板40が配置されている。飛散防止鉄板40は、図4にも示すように、正面視して円形の本体部41と、本体部の両側にフランジ42が形成された形状をなしている。本体部には、飛散防止鉄板40の厚さ方向に貫通する8つの貫通孔43が形成されている。
【0028】
8つの貫通孔43は、それぞれ定着金具20に形成された挿入孔21に対応する位置に配置されている。このため、PC鋼線Lは、それぞれ挿入孔21および貫通孔43を貫通している。さらに、フランジ42にロッド貫通孔44が形成されている。
【0029】
また、ジャッキ10における段差解消鉄板14を正面視した両端部には、本発明の支持部材である支持ロッド50が取り付けられている。支持ロッド50は棒状をなしており、PC鋼線Lの延在方向に延在している。また、支持ロッド50には、飛散防止鉄板40のフランジ42に形成されたロッド貫通孔44が挿入されている。こうして、飛散防止鉄板40は、支持ロッド50に支持されている。
【0030】
さらに、ジャッキ10における段差解消鉄板14には、飛散防止鉄板押さえ部材60が設けられている。飛散防止鉄板押さえ部材60は、蝶番61、リンク部材62、およびフック部材63を備えている。蝶番61における一方の板は段差解消鉄板14に固定され、他方の板には本発明の長尺部材であるリンク部材62の一端が取り付けられている。
【0031】
また、リンク部材62の他端にはフック部材63が取り付けられている。リンク部材62は、PC鋼線Lの延在方向に直交する水平軸周りに上昇および下降可能とされている。さらに、リンク部材62が下降した際、リンク部材62の他端に取り付けられたフック部材63が飛散防止鉄板40におけるフランジ42の裏面側に配置される。このため、飛散防止鉄板40は、飛散防止鉄板押さえ部材60から独立した状態で取り付けられており、飛散防止鉄板押さえ部材60におけるフック部材63によって、裏面側(ジャッキ10から遠ざかる側)への移動を阻止されている。
【0032】
他方、図5に示すように、固定側定着具2は、定着金具20、くさび30、および飛散防止鉄板40を備えている。定着金具20、くさび30、および飛散防止鉄板40は、ジャッキ側定着具1と同様のものが用いられている。この点では、固定側定着具2は、ジャッキ側定着具1と比較して、ジャッキ10以外の構成と同様の構成を備えている。
【0033】
さらに、固定側定着具2におけるジャッキ側定着具1において支持ロッド50が取り付けられている位置に、雄ねじが切られた支持ボルト51が取り付けられている。支持ボルト51は、飛散防止鉄板40のフランジ42に形成されたロッド貫通孔44を貫通しており、支持ボルト51における飛散防止鉄板40の裏面側には、ナット52が締め付けられている。このナット52が支持ボルト51に締め付けられることによって、飛散防止鉄板40のその裏面側への移動を阻止している。
【0034】
次に、本実施形態に係るくさび飛散防止構造を備える線材定着装置の作用について説明する。本実施形態に係る線材定着装置においては、ジャッキ10の伸縮を繰り返すことにより、第1函体B1および第2函体B2に推進力を付与し、第1函体B1および第2函体B2を地中に埋設していく。
【0035】
具体的には、ジャッキ10を収縮させた状態で、PC鋼線Lを挿入したくさび30を定着金具20における挿入孔に挿入する。このとき、くさび30の後端部側に飛散防止鉄板40を配置しておき、PC鋼線Lは、飛散防止鉄板40に形成された貫通孔43を貫通させておく。
【0036】
この状態で、ジャッキ10におけるシリンダ11からロッド12を引き抜いてジャッキ10を伸長させると、くさび30とPC鋼線Lとの摩擦力によってくさび30が定着金具20における挿入孔に進入していき、PC鋼線Lを締め付けた状態となる。このまま、ジャッキ10を伸長させていくと、ジャッキ10によって第1函体B1および第2函体B2が互いに近づく方向に推進力が付与される。こうして、第1函体B1および第2函体B2を徐々に地中に埋設していく。
【0037】
そして、ジャッキ10におけるロッド12がシリンダ11から限界位置まで引き抜かれた後、ジャッキ10におけるPC鋼線Lの盛り替えを行う。さらには、シリンダ11にロッド12を押し込み、ジャッキ10が収縮した状態とする。PC鋼線Lの盛り替えが済んだら、再びジャッキ10を伸長させて第1函体B1および第2函体B2に推進力を付与して、第1函体B1および第2函体B2を地中に埋設する。以後、この工程を繰り返していく。
【0038】
ここで、ジャッキ10を伸長させて第1函体B1および第2函体B2に推進力を付与している際、なんらかの外力等によってPC鋼線Lが切断することがある。PC鋼線Lが切断すると、ジャッキ10によってPC鋼線Lに付与されている緊張力が急激に開放され、くさび30が挿入孔21から飛び出して後方に飛散する。
【0039】
このとき、くさび30の後端部側には、飛散防止鉄板40が設けられている。飛散防止鉄板40は、ジャッキ側定着具1では飛散防止鉄板押さえ部材60により、固定側定着具2ではナット52によって裏面側への移動が阻止されている。このため、定着金具20の後方に飛散したくさび30は、飛散防止鉄板40によってその後方への飛散が防止される。したがって、PC鋼線Lをくさび30によって定着しているときに、PC鋼線Lが切断したとしても、くさび30の周囲への飛散を防止することができる。
【0040】
次に、PC鋼線Lの盛り替えを行う際の手順について説明する。図6は、PC鋼線Lの盛り替えを行う手順を示す工程図である。PC鋼線Lの盛り替えは、ジャッキ10におけるロッド12が限界位置までシリンダ11から引き抜かれてジャッキ10が伸長し、続いてロッド12をシリンダ11内に押し込み、ジャッキ10が収縮した状態の際に行われる。ジャッキ10が収縮した状態になったとき、PC鋼線Lは緊張状態から解除された緩んだ状態となっている。
【0041】
このときの状態を図6(a)に示す。このとき、図6(a)に示す状態では、飛散防止鉄板押さえ部材60におけるリンク部材62が下降しており、フック部材63によって飛散防止鉄板40の裏面側への移動が阻止されている。ただし、PC鋼線Lは緩んだ状態となっているので、PC鋼線Lが切断する可能性は低く、PC鋼線Lが切れたとしても、くさび30がその後端部側に飛散しにくい状態となっている。
【0042】
ジャッキ10を収縮させてPC鋼線Lが緩んだ状態となった後、図6(b)に示すように、飛散防止鉄板押さえ部材60におけるリンク部材62を上昇させて、飛散防止鉄板40の移動を阻止した状態を解除する。リンク部材62を上昇させる際、リンク部材62は蝶番61に取り付けられている。このため、リンク部材62の上昇動作を容易に行われることができる。
【0043】
リンク部材62を上昇させたら、図6(c)に示すように、飛散防止鉄板40をその裏面側に移動させる。その後くさび30を定着金具20における挿入孔21から引き抜く。このとき、飛散防止鉄板40はその裏面側に移動させられているので、くさび30の引き抜き作業の邪魔にならないようにすることができる。
【0044】
くさび30を挿入孔21から引き抜いたら、ジャッキ10および定着金具20を前方に移動させ、再びくさび30を挿入孔21に挿入して、PC鋼線Lの盛り替えを行う。その後、くさび30の後端部側に飛散防止鉄板40を配置し、飛散防止鉄板押さえ部材60におけるリンク部材62を下降させる。こうして、フック部材63によって飛散防止鉄板40の裏面側への移動を阻止する。その後、ジャッキ10を伸長させて第1函体B1および第2函体B2を移動させる。飛散防止鉄板40では、ジャッキ10を伸長させて第1函体B1および第2函体B2を移動させる際のくさび30の飛散を防止する。
【0045】
固定側定着具2は、PC鋼線Lの盛り替えを行う際にもくさび30を定着金具20から外す必要がない。このため、飛散防止鉄板40を支持する支持ボルト51にねじ込まれたナット52によって飛散防止鉄板40の移動を阻止することにより、工期の長期化の原因とならないようにすることができる。
【0046】
ところが、ジャッキ側定着具1では、PC鋼線Lの盛り替えを行う際にはくさび30を定着金具20から外す必要がある。このため、たとえば固定側定着具2のように飛散防止鉄板40を支持する支持ボルト51にねじ込まれたナット52によって飛散防止鉄板40の移動を阻止すると、ナット52を支持ボルト51から外すのに時間が掛かり、工期の長期化の原因となるおそれがある。
【0047】
この点、本実施形態におけるジャッキ側定着具1では、くさび30の飛散を防止するための飛散防止鉄板40の後方へ移動を飛散防止鉄板押さえ部材60によって阻止している。飛散防止鉄板押さえ部材60は。蝶番61によってフック部材63を容易に上下方向に移動させることができる。したがって、飛散防止鉄板40を容易に着脱することができるので、工期の長期化を防止することができる。
【0048】
このように、本実施形態に係る飛散防止構造を備える線材定着装置においては、飛散防止鉄板押さえ部材60によって飛散防止鉄板40の裏面側への移動を阻止することにより、くさび30の飛散を防止している。このため、PC鋼線Lをくさび30によって定着しているときに、PC鋼線Lが切断したとしても、くさび30の周囲への飛散を防止することができる。
【0049】
また、上記実施形態では、リンク部材62を備える飛散防止鉄板押さえ部材60を備えているが、図7に示す飛散防止鉄板押さえ部材70を用いることもできる。図7に示す飛散防止鉄板押さえ部材70は、蝶番71を備えており、蝶番71の一方の板は図2および図3に示すジャッキ10に取り付けられている。また、蝶番71における他方の板には、第1リンク部材72および第2リンク部材73を備えるリンク部材が取り付けられている。第2リンク部材73の先端には、フック部材74が取り付けられている。
【0050】
さらに、リンク部材における第1リンク部材72および第2リンク部材73の間には、長さ調整装置75が介在されている。長さ調整装置75は、第1リンク部材72および第2リンク部材73のそれぞれの一端側に形成された雄ねじ部と、これらの雄ねじ部がねじ込まれる雌ねじ部が形成された長さ調整ロッドを備えている。第1リンク部材72および第2リンク部材73のそれぞれの一端側に形成された雄ねじ部が、この長さ調整ロッドにねじ込まれる長さによって、リンク部材の長さを調整することができる。
【0051】
このような長さ調整装置75を備えるリンク部材を用いることにより、飛散防止鉄板押さえ部材70によって裏面側への移動を阻止された状態で配置される飛散防止鉄板40とくさび30との間の距離を調整することができる。したがって、たとえば長尺のくさびを用いる場合でも飛散防止鉄板押さえ部材70を利用することができる。
【0052】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。たとえば上記実施形態では、飛散防止鉄板押さえ部材60として、蝶番61が設けられてリンク部材62が上下動する態様としているが、その他の態様とすることもできる。たとえば、リンク部材におけるジャッキ側の端部を折曲させた折曲部とし、この折曲部を挿入させる孔部がジャッキ10に形成されている態様とすることもできる。この態様では、折曲部を孔部に挿入するだけで、リンク部材の他端に設けられたフック部材が飛散防止鉄板40のフランジ42の裏面側に配置され、飛散防止鉄板40の裏面側への移動を阻止できるようになる。
【0053】
また、上記実施形態では、飛散防止鉄板40のフランジ42に形成されたロッド貫通孔44に支持ロッド50を挿入して支持ロッド50によって飛散防止鉄板40を支持するようにしているが、その他の態様とすることもできる。たとえな、リンク部材62におけるジャッキ側端部の反対側端部に飛散防止鉄板40を固定しておき、リンク部材62の上下動に応じて飛散防止鉄板40を上下させて、飛散防止鉄板40をくさび30から遠ざける態様とすることもできる。
【0054】
このとき、飛散防止鉄板40には、PC鋼線Lを貫通させる貫通孔に代えて、下端部からPC鋼線Lが配置される位置まで切りかかれた切欠き部を形成する態様とすることができる。さらに、上記実施形態では、第1函体B1および第2函体B2を埋設する推進工法に用いているが、他の推進工法に用いることもできる。さらに、上記実施形態では、線材としてPC鋼線Lを用いているが、他の鋼線や金属線などを用いる態様とすることもできる。
【符号の説明】
【0055】
1…ジャッキ側定着具
2…固定側定着具
10…ジャッキ
11…シリンダ
12…ロッド
13…ジャッキヘッド
14…段差解消鉄板
20…定着金具
21…挿入孔
30…くさび
40…飛散防止鉄板
41…本体部
42…フランジ
43…貫通孔
44…ロッド貫通孔
50…支持ロッド
51…支持ボルト
52…ナット
60,70…飛散防止鉄板押さえ部材
61,71…蝶番
62,73…リンク部材
63,74…フック部材
72…第1リンク部材
73…第2リンク部材
75…長さ調整装置
B1…第1函体
B2…第2函体
L…鋼線
M…盛土
T…列車

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端面と後端面とを通って貫通する貫通孔が形成されたくさび部材と、前記くさび部材における先端部が挿入される挿入孔が形成された定着部材と、前記くさび部材の飛散を防止するくさび飛散防止板とを備え、前記貫通孔に線材を挿入した状態で前記くさび部材の先端部を前記定着部材の挿入孔に挿入して、前記線材を定着するくさび飛散防止構造を備える線材定着装置であって、
前記定着部材が、前記線材を引張するジャッキに対して取り付けられ、
前記くさび部材における後端部側に、前記くさびの飛散を防止する飛散防止板が着脱可能に配設されており、
前記ジャッキに前記飛散防止板を支持する支持部材が設けられていることを特徴とするくさび飛散防止構造を備える線材定着装置。
【請求項2】
前記支持部材は、前記線材の延在方向に沿って配置される長尺部材を備えており、
前記長尺部材の一端部が前記ジャッキに対して取り付けられており、
前記飛散防止板の背後に配設され、前記前記飛散防止板の後方への移動を抑止するフック部材が前記長尺部材の他端部に取り付けられている請求項1に記載のくさび飛散防止構造を備える線材定着装置。
【請求項3】
前記支持部材は、第1板部材および第2板部材を有する蝶番部材を備えており、
前記蝶番部材における前記第1板部材が前記ジャッキに対して固定され、前記第2板部材に前記長尺部材の一端部が取り付けられている請求項2に記載のくさび飛散防止構造を備える線材定着装置。
【請求項4】
前記ジャッキに対して固定され、棒状をなし、前記線材の延在方向に沿って配設された棒状部材に前記飛散防止板が挿入されており、
前記飛散防止板が、前記フック部材から独立して取り付けられている請求項2または請求項3に記載のくさび飛散防止構造を備える線材定着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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