説明

くし形共重合体を含む重合体混合物

本発明は、特殊な構造単位からなるブロックを含む少なくとも1種のくし形共重合体Iと、重合している場合により置換されたスチレン単位と無水マレイン酸単位とを含む共重合体塩IIとからなる重合体混合物であって、共重合体塩IIのカルボキシル基は、少なくとも部分的にはアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩またはアンモニウム塩として存在する重合体混合物に関する。本発明はまた、これら重合体混合物の、湿潤剤および分散剤としての使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1に記載の特殊な構造単位からなるブロックを含む少なくとも1種のくし形共重合体Iと、重合している場合により(optionally)置換されたスチレン単位と無水マレイン酸単位とを含む共重合物(copolymerisate)IIとからなる重合体混合物であって、重合体混合物のカルボキシル基が、少なくとも部分的にはアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩またはアンモニウム塩として存在する重合体化合物に関する。本発明はまた、これら重合体混合物の、湿潤(wetting)剤および分散剤としての使用に関する。
【背景技術】
【0002】
固形物、特に顔料に対する湿潤剤および分散剤として複数種のくし形共重合体を使用することができることが知られている。したがって、主鎖としてのスチレン/無水マレイン酸共重合体(SMA樹脂)を側鎖としてのポリアルキレンオキシドアミンおよびポリアルキレングリコールを用いて変換(convert)させることによって得られるくし形共重合体が、先行技術から既に公知である。
【0003】
たとえば、イミド構造の他に、主鎖との側鎖のアミンおよびエステル結合を有する、適宜生成されるくし形共重合体が、米国特許第6310143号に記載されている。このようなくし形共重合体は、一部の使用目的では分散剤および湿潤剤として十分に高い粘度低下を確保せず、その結果、十分に流動性を有する顔料ペーストを処方することができず、または所望の高い顔料分を有する顔料ペーストを製造することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第6310143号
【特許文献2】米国特許第6291620号
【特許文献3】WO98/01478号
【特許文献4】WO98/58974号
【特許文献5】WO99/31144号
【特許文献6】欧州特許出願公開EP−A−0270126号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Polym.Int.2000,49.993
【非特許文献2】Aust.J.Chem 2005,58,379
【非特許文献3】J.Polym.Sci.Part A:Polym.Chem.2005,43,5347
【非特許文献4】Chem.Rev.2001,101,3661
【非特許文献5】W.Herbst、K.Hunger「Industrial Organic Pigments」、1997(出版社:Wiley−VCH、ISBN:3−527−28836−8)
【非特許文献6】G.Buxbaum「Industrial Inorganic Pigments」、1998(出版社:Wiley−VCH、ISBN:3−527−28878−3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、この先行技術に基づき、公知のスチレン−無水マレイン酸共重合物に基づくくし形共重合体を改質し、それら共重合体体を湿潤剤および分散剤として使用することによって非常に良好な流動性を有する固体ペースト、好ましくは顔料ペーストを、固形分が高いにもかかわらず得ることができるようにする必要があった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的は、本発明による重合体混合物を入手可能にすることによって実現される。これら重合体混合物は、
I.
a)XがNHを表す以下の構造単位I〜IVを含む共重合体の少なくとも1つのブロック、
および/または
b)XがOを表す以下の構造単位I、IIおよびIVを含む共重合体の少なくとも1つのブロック
および/または
c)XがNHまたはOを表す以下の構造単位I〜IVを含む共重合体の少なくとも1つのブロック
および/または
d)構造単位Iと、構造単位II〜IVとは異なる少なくとも1種のエチレン不飽和単量体の重合単位とを含む共重合体の少なくとも1つのブロック
を含む少なくとも1種のくし形共重合体であって、
ブロックd)が、前記ブロックa)〜c)のうちの1つと組み合わさるだけでブロック共重合体を形成し、
構造単位I〜IVが、以下を表し、
【化1】

式中、
【化2】

が、連鎖結合(chain linkage)を表し、
RがH、ハロゲン、好ましくは塩素、ニトロ基、炭素原子数1〜15のアルキル基、または炭素原子数6〜18のアリール基を表し、
が、炭素原子数1〜24のアルキレン基または炭素原子数6〜18の置換もしくは無置換アリーレン基を表し、
がHおよび/またはアルキル基を表し、
zが3〜70の整数を表し、
がNHおよび/またはOを表し、
が、モノ不飽和またはポリ不飽和であってよい場合により置換された炭素原子数1〜30のアルキル基、場合により置換された炭素原子数6〜18のアリール基、場合により置換された炭素原子数4〜10のシクロアルキル基を表し、
構造単位IVの遊離型(free)カルボキシル基が、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩またはアンモニウム塩の形で存在することができるくし形共重合体と、
II.構造単位Iおよび構造単位IVに基づく少なくとも1種の共重合体であって、構造単位IVのカルボキシル基が、少なくとも部分的にはアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩またはアルカリ金属塩の形で存在する共重合体と
を含む。
【0008】
好ましくは、構造単位I〜IVにおいて、
RがHであり、
が炭素原子数1〜6のアルキレン基であり、
がHおよび/またはCHであり、構造単位IIおよび構造単位IIIにおけるエチレンオキシド単位対プロピレンオキシド単位のモル比が合計で0:100から100:0であり、
が炭素原子数1〜8のアルキル基または場合により置換された炭素原子数6のアリール基であり、
がNHおよび/またはOであり、
Zが5〜60の整数である。
【0009】
構造単位I〜IVにおいて、
RがHであり、
がエチレン、プロピレンおよび/またはイソプロピレン残基(residue)であり、
がHまたはCH残基であり、エチレンオキシド単位対プロピレンオキシド単位のモル比が合計で70:30〜30:70であり、
がCHまたはC残基であり、
zが27〜50の整数であり、
がNHおよび/またはOを表す場合、特に好ましい。
【0010】
本発明による重合体混合物は、好ましくは少なくとも1種のくし形共重合体Iと、少なくとも1種の共重合体IIとからなる。くし形共重合体I対共重合体IIの重量比は、好ましくは50:50から95:5の範囲内にある。
【0011】
くし形共重合体Iは、たとえば、場合により置換された1種のスチレン/無水マレイン酸共重合物を、
a1)好ましくは反応温度≧150℃で、第一級アミノ末端基を有する少なくとも1種のポリアルキレンオキシドモノアミンを用いて変換させることによって、かつ必要であれば、反応温度<100℃でさらに変換させることによって、
または
a2)好ましくは反応温度≧150℃で、第一級アミノ末端基を有する少なくとも1種のポリアルキレンオキシドモノアミンと、少なくとも1種のモノヒドロキシ末端ポリアルキレンオキシドの混合物を用いて変換させることによって、かつ必要であれば、反応温度<100℃でさらに変換させることによって、
または
a3)好ましくはたとえばスルホン酸など通常のエステル化触媒の存在下、少なくとも1種のモノヒドロキシ末端ポリアルキレンオキシドを用いて変換させることによって、
または
ABブロック共重合体構造を有する少なくとも1種の共重合体を、a1)、a2)もしくはa3)を用いて変換させることによって得られる。このABブロック共重合体構造のAブロックは、場合により置換されたスチレン単位と、(メタ)アクリレートおよびマレイン酸ジアルキルを含む群から選択される少なくとも1種の共重合エチレン不飽和単量体とを含み、このABブロック共重合体構造のBブロックは、場合により置換されたスチレン単位と、共重合無水マレイン酸単位とを含む。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明によれば、少なくとも1種のくし形共重合体Iを、第2の混合物成分と混合するが、共重合体IIは、場合により置換されたスチレン単位と共重合無水マレイン酸単位とを含む少なくとも1種のSMA樹脂から、その加水分解および塩化(salification)によって得ることができる。共重合体IIの場合、遊離型カルボキシル基は、少なくとも部分的にはアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩またはアルカリ金属塩の形で存在する。
【0013】
くし形共重合体Iまたは共重合体IIの生成において使用するSMA樹脂は、場合により置換されたスチレン無水マレイン酸共重合物であり、このスチレンは場合により、炭素原子数1〜15のアルキル基で、好ましくはメチルで、炭素原子数6〜18のアリール基、ハロゲン、好ましくは塩素、または少なくとも1種のニトロ基で、置換することができる。
【0014】
したがって、本発明によれば、用語SMA樹脂の「S」は、置換および無置換スチレンを共に表すと理解される。
【0015】
SMA樹脂は、統計的、交互(alternating)型、傾斜(gradient)型またはブロック型構造を有することができる。SMA樹脂は、たとえばアゾまたは過酸化物開始剤を用いる、ラジカル開始重合プロセスによって生成することができる。所望の分子量を設定するために、たとえばチオール、第二アルコール、または四塩化炭素などのハロゲン化アルキルなどの連鎖移動剤を、重合中に添加することができる。さらに適切なSMA樹脂の生成プロセスは、たとえば以下のような制御されたラジカル重合プロセスである。
・たとえばPolym.Int.2000,49,993、Aust.J.Chem 2005,58,379、J.Polym.Sci.Part A:Polym.Chem.2005,43,5347、米国特許第6291620号、WO98/01478号、WO98/58974号およびWO99/31144号に開示されているような、特定の連鎖移動剤を使用する場合にはMADIXおよび付加開裂連鎖移動とも呼ばれるが、ここではRAFTとだけ称される可逆的付加開裂連鎖移動プロセス(reversible addition fragmentation chain transfer process)、または
・たとえばChem.Rev.2001,101,3661に開示されているような、連鎖移動剤としてニトロキシル化合物を用いる制御された重合(NMP)。
【0016】
米国特許第6291620号に記載されているC−RAFTプロセスが、重合技術として特に好ましい。対応する上記開示は、本願の開示の一部として本明細書に取り入れられる。
【0017】
SMA樹脂の場合により置換されたスチレン無水マレイン酸のモル比は、好ましくは1:1から1:8である。高密度の側鎖を得るためには、場合により置換されたスチレン無水マレイン酸の1:1から2:1のモル比が特に好ましい。使用するSMA樹脂の数平均分子量は、好ましくは1000g/mol〜20000g/molである(GPCによって決定される)。
【0018】
エチレンオキシド単位およびプロピレンオキシド単位から形成され、末端基として第一級アミノ基を有するC〜Cのモノアルコール開始ポリエーテル類を、好ましくは、本発明に従って使用するくし形共重合体Iの生成用にポリアルキレンオキシドモノアミンとして使用する。エチレンオキシド単位対プロピレンオキシド単位の重量比は、好ましくは0:100から100:0、特に好ましくは30:70から70:30となる。使用するポリアルキレンオキシドモノアミンの数平均分子量は、好ましくは500g/mol〜3000g/molである(アミン価(amine value)またはH−NMR分光法によって決定される)。
【0019】
変換a2)またはa3)に使用するモノヒドロキシ末端ポリエーテルは、好ましくはポリアルキレンオキシドである。これらモノヒドロキシ末端ポリエーテルのエチレンオキシド単位対プロピレンオキシド単位の重量比は、好ましくは0:100から100:0、特に好ましくは30:70から70:30である。数平均分子量は、好ましくは200g/mol〜3000g/molである(H−NMR分光法によって測定される)。
【0020】
ABブロック共重合体のAブロックが、場合により置換されたスチレン単位と、(メタ)アクリレートおよびマレイン酸ジアルキルを含む群から選択される少なくとも1種の共重合エチレン不飽和単量体から形成され、ABブロック共重合体のBブロックが、XがOおよび/またはNHである構造要素I、IIおよびIVの組合せまたは構造要素I〜IVの組合せから形成され、ABブロック共重合体が、本発明によるくし形共重合体Iとして使用することもできる。
【0021】
(メタ)アクリル酸アルキルまたは(メタ)アクリル酸アリールの例は、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸i−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、および(メタ)アクリル酸t−ブチル等の、炭素原子数1〜22の直鎖、分岐または脂環式アルコールの(メタ)アクリル酸アルキルが挙げられ、また、メタクリル酸ベンジルやアクリル酸フェニル等の(メタ)アクリル酸アリールであって、アリール残基(residue)が無置換またはメタクリル酸4−ニトロフェニル等の4位置換までであってもよい(メタ)アクリル酸アリールが挙げられる。
【0022】
Aブロック対Bブロックの重量比は、好ましくは95:5から5:95、特に好ましくは90:10から10:90の範囲にある。
【0023】
マレイン酸半エステル(構造要素II)は、好ましくは、モノヒドロキシ末端ポリエーテル、好ましくは上述したようなモノヒドロキシ末端ポリアルキレンオキシドを用いた無水マレイン酸の変換生成物である。
【0024】
マレイン酸半エステルは、重合している無水マレイン酸を上記ポリエーテルと反応させること、および/または重合後に上記ポリエーテルを用いてSMA樹脂を変換させることによって、重合に使用することができ、かつ/または重合中にその場で(in situ)生成することができる。
【0025】
好ましい構成においては、本発明に従って使用するくし形共重合体Iは、好ましくは、まず少なくとも1種のSMA樹脂を適切な溶媒に溶解させることによって得られる。このために、少なくとも1種のポリアルキレンオキシドモノアミン、または少なくとも1種のポリアルキレンオキシドモノアミンと上述のモノヒドロキシ末端ポリエーテルのうちの少なくとも1種との混合物、または少なくとも1種のモノヒドロキシ末端ポリエーテルのみを添加し、それぞれの主鎖を形成する共重合物の無水物構造の少なくとも50%が好ましくは変換するまで、好ましくは20℃〜200℃、特に好ましくは30℃〜170℃、とりわけ好ましくは温度≧150℃で変換させる。この場合、第一級アミノ基は共重合物の無水物構造と反応してアミドおよび/またはイミドを形成する。アミド形成は低い反応温度で促進され、かつイミド形成は上昇する反応温度で促進され、または、ヒドロキシル基が無水物構造と反応して半エステルを形成する。20℃〜50℃の反応温度では、ほぼ例外なくアミド結合が形成され、140℃を超える温度ではイミド結合が有利である。イミド形成の場合には水が放出されるため、共重合物のさらなる無水物構造をカルボン酸官能基に変換させることができる。これらの変換のいずれの場合にも、最初に添加した溶媒を、必要に応じ共沸蒸留によって再度蒸留して、イミド形成によって生成される水も取り除くことができる。
【0026】
アミノ成分および/またはモノヒドロキシ末端成分と共に、共重合物の変換中に溶媒の使用は、共重合物の無水物基すべてが、変換の最初から実質的に同等に反応できることを確実にする。この結果、より均質な生成物が得られる。
【0027】
本発明によれば、くし形共重合体またはくし形ブロック共重合体は、重合体を意味し、その共重合体またはブロック共重合体が、エステル、アミドおよび/またはイミド結合を介して基本重合体または線状重合体側鎖を有する重合体主鎖として、結び付いていると理解される。
【0028】
本発明による重合体混合物の第2の混合物成分は、SMA樹脂である。このSMA樹脂は、好ましくは統計的、交互型、傾斜型またはブロック型構造であり、場合により置換されたスチレン対無水マレイン酸のモル比は1:1から8:1、好ましくは1:1から2:1である。SMA樹脂の無水物基は好ましくは100%加水分解され、遊離型カルボキシル基は好ましくは100%塩化される。第一級アミノ基を末端とする上記ポリアルキレンオキシドモノアミンと、たとえばN,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、N,N−ジブチルエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、エチルジエタノールアミン、またはトリエタノールアミンなどの場合により置換されたモノアミン化合物とを、塩化に使用する。
【0029】
適切なアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩を添加することによって、塩化を実現することもできる。
【0030】
本発明による重合体混合物は、先行技術から公知である多くの水性の使用目的で、湿潤剤および分散剤として適切である。したがって、これらの重合体混合物を、たとえば、塗料、印刷インク、インクジェットプリンタ用などインクジェットプロセス用のインク、コーティング、革および織物染料、ペースト、顔料コンセントレート、セラミックス、化粧品を製造または加工するために使用することができ、また好ましくは顔料および/または充填剤などの固形物が存在する場合はいつでも使用することができる。たとえば、本発明による重合体混合物を、工業用塗料、木材および家具用ワニス、車両用塗料、船舶用塗料、防食塗料、缶およびコイル用コーティング、画家用および建築用塗料の製造に使用することができ、場合により公知の結合剤および/または溶媒などの通常の補助剤と、顔料と、場合により充填剤とを、本発明による重合体混合物に添加する。
【0031】
通常の結合剤の例は、ポリウレタン、硝酸セルロース、セルロースアセトブチレート、アルキド、メラミン、ポリエステル、塩化ゴム、エポキシドおよびアクリレートに基づく樹脂である。
【0032】
本発明による重合体混合物は、たとえば自動車のボディワーク向けのカソードまたはアノードのエレクトロコーティングなど、水性コーティングの製造向けの湿潤剤および分散剤としても適している。分散剤としての使用のさらなる例は、プラスタ、ケイ酸塩塗料、分散液塗料、水で希釈可能なアルキドに基づく水性塗料、アルキドエマルション、ハイブリッド系、2成分系、ポリウレタンおよびアクリレート分散液である。
【0033】
本発明による重合体混合物は、固形物コンセントレートの製造、好ましくは顔料コンセントレートの製造にも特に適している。このために、重合体混合物は、有機溶媒中、軟化剤中および/または水中など、支持媒体中に存在し、撹拌されながら分散固形物に添加される。加えて、これらのコンセントレートは、結合剤および/または他の補助剤を含むことができる。しかしながら、有利には、本発明による重合体混合物を用いて安定な結合剤を含まない顔料コンセントレートを製造することも可能である。同様に、本発明による重合体混合物を用いて、顔料プレスケーキから流動性を有する顔料コンセントレートを製造することも可能である。この場合、本発明による重合体混合物を、水をまだ含むことができるプレスケーキに添加し、このように得られた混合物を分散させる。その後、このような固形分コンセントレート、好ましくは顔料コンセントレートを、たとえばアルキド樹脂、ポリエステル樹脂、アクリレート樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂などの異なる様々な基質へと加工することができる。溶媒なしで本発明による重合体混合物に直接分散している顔料が、顔料着色(pigmenting)熱可塑性プラスチックおよび熱硬化性プラスチック調合物(formulation)には特に適している。
有利には、サーマルインクジェットプロセスやバブルジェット(登録商標)プロセスなどの「ノンインパクト」印刷プロセス用インクの製造において、本発明による重合体混合物を使用することもできる。これらのインクは、たとえば、水性インク調合物でよい。
【0034】
本発明による重合体混合物は、ファンデーション、パウダー、口紅、染髪料、クリーム、マニキュアおよび日焼け止め製剤の製造のためなど、化粧品の製造においても使用することができる。これらの化粧品は、W/OまたはO/Wエマルション、溶液、ゲル、クリーム、ローション、スプレーの形など、通常の調合物で存在することができる。この場合、本発明による重合体混合物は、これら化粧品の製造のために使用する分散液中の分散剤として、既に使用されていることがある。
【0035】
加えて、本発明はまた、本発明による重合体混合物の湿潤剤および分散剤としての使用にも関する。これら湿潤剤および分散剤は、好ましくは上述の使用目的で使用される。
【0036】
さらなる使用目的は、基板上着色コーティングの製造でもあり、基板に顔料用塗料が塗布され、塗布された顔料用塗料が燃焼または硬化または架橋される。
【0037】
本発明による重合体混合物の使用目的のために、これら重合体混合物を、場合により、先行技術による通常の結合剤と共に使用することができる。
【0038】
本発明による使用は、中でも粉末粒子および/または繊維状粒子の形の分散性(dispersible)固形物の製造に、特に分散性顔料の製造にあり、本発明による重合体混合物でこれらの粒子を被覆することができる。有機または無機固形物のこのようなコーティングは、たとえば、欧州特許出願公開EP−A−0270126号などのように、公知のやり方で構成される。この場合、溶媒または乳化剤は取り除いて、または混合物中に残存して、ペーストを形成することができる。このようなペーストは、場合により、結合剤、さらなる補助剤および添加剤を含むことができる現在の商品である。
【0039】
とりわけ顔料の場合、顔料の合成中または合成後に本発明による重合体混合物を添加することによって、すなわち、顔料懸濁液に、または顔料仕上げ時もしくは顔料仕上げ後にそれら重合体混合物を添加することによって、顔料表面の改質、すなわち、コーティングを行うことができる。
【0040】
このようにして前処理を施した顔料は、表面処理されていない顔料と比較して、より容易に加工される能力によって、またより高い色強度によって区別される。
【0041】
本発明による重合体混合物は、モノ−、ジ−、トリ−およびポリアゾ顔料、オキサジン、ジオキサジン、チアジン顔料、ジケトピローロピロール、フタロシアニン、ウルトラマリンおよび他の金属錯体顔料、インジゴイド顔料、ジフェニルメタン、トリアリールメタン、キサンテン、アクリジン、キナクリドン、メチン顔料、アントラキノン、ピラントロン(pyranthrone)、ペリレンおよび他の多環式カルボニル顔料など、複数の顔料用の湿潤剤および分散剤として適切である。本発明による分散性有機顔料のさらなる例は、モノグラフ:W.Herbst、K.Hunger「Industrial Organic Pigments」、1997(出版社:Wiley−VCH、ISBN:3−527−28836−8)に見られるものである。本発明による分散性無機顔料の例は、カーボンブラック、黒鉛、亜鉛、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、リン酸亜鉛、硫酸バリウム、鍾乳石(lithopone)、酸化鉄、ウルトラマリン、リン酸マンガン、アルミン酸コバルト、スズ酸コバルト、亜鉛酸コバルト、酸化アンチモン、硫化アンチモン、酸化クロム、クロム酸亜鉛、混合金属酸化物であってニッケル、ビスマス、バナジウム、モリブデン、カドミウム、チタン、亜鉛、マンガン、コバルト、鉄、クロム、アンチモン、マグネシウム、アルミニウムに基づく混合金属酸化物(たとえば、ニッケル/チタニウムイエロー、バナジウム酸ビスマス/モリブデン酸塩イエローまたはクロム/チタンイエロー)に基づく顔料である。さらなる例は、モノグラフ:G.Buxbaum「Industrial Inorganic Pigments」、1998(出版社:Wiley−VCH、ISBN:3−527−28878−3)に明記されている。無機顔料が、純鉄、酸化鉄および酸化クロムあるいは混合酸化物に基づく磁性顔料、アルミニウム、亜鉛、銅または黄銅で構成される金属効果顔料、真珠光沢顔料、蛍光性および燐光性発光顔料であってもよい。金属または半金属の酸化物または水酸化物で構成される一定のカーボンブラックタイプまたは粒子や、金属および/または半金属の酸化物または水酸化物の混合で構成される粒子など、ナノスケールの、粒径が100nm未満の有機または無機固形物を、本発明による重合体混合物を用いて分散させることもできる。このための適切な酸化物は、アルミニウム、シリコン、亜鉛、チタンの酸化物および/または酸化物水酸化物であり、これら酸化物および/または酸化水酸化物は、このような極めて微細な固形物の製造に使用することができる。これら酸化物または水酸化物または酸化物−水酸化物(oxide-hydroxide)粒子の製造は、様々なプロセス、たとえば、イオン交換プロセス、プラズマプロセス、ゾル−ゲルプロセス、沈殿、破砕(crushing)(たとえば、ミル粉砕による)または火炎(flame)加水分解等を用いて行うことができる。これらナノスケールの固形物は、無機コアと有機シェルとで、またはその逆で構成される所謂「ハイブリッド」粒子であってもよい。
【0042】
本発明によれば、分散性の粉末または繊維状充填剤は、とりわけ、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、珪藻土、シリカ、石英、シリカゲル、タルク、カオリン、雲母、パーライト、長石、スレート粉、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、方解石、ドロマイト、ガラスまたは炭素の粉末または繊維状粒子から形成される分散性の粉末または繊維状充填剤である。分散性顔料または充填剤のさらなる例は、欧州特許出願公開EP−A−0270126号にも見られるものである。たとえばケイ酸などのつや消し剤を、本発明による重合体混合物を用いて見事に分散させ安定させることもできる。
【0043】
したがって本発明はさらに、本発明による少なくとも1種の重合体混合物および少なくとも1種の顔料と、水と、場合により有機基質と、必要に応じて結合剤および通常の補助剤とを含む塗料およびペーストに関する。
【0044】
したがって、本発明はさらに、本発明による少なくとも1種の重合体混合物で被覆された上記顔料に関する。
【実施例】
【0045】
親化合物の生成
a)ポリエーテルMSA半エステル
Pluriol A 750Eの375g、Polyglycol B01/20の42g、無水マレイン酸の55gを、ドデシルベンゾルスルホン酸2gの存在下135℃で3時間反応させる。
【0046】
b)くし形共重合体Iの生成
Pluriol P600の10.5g、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテンの3.9gを、160℃まで加熱する。その後、スチレン8.7gと、マレイン酸ジブチル4.2gと、アクリル酸ベンジルメチル8.7gと、Trigonox C0.2gとを、2時間かけて添加する。その後1時間の反応時間の後、温度を135℃まで下げ、a)に従って得られたポリエーテル−MSA半エステル混合物170gを添加する。その後スチレン34gとTrigonox C1.7gとを、1時間かけて何回かに分けて添加する。その後4時間の反応時間の後、この反応混合物を室温まで冷却する。
【0047】
c)くし形共重合体2の生成
酢酸ブチル60gに溶解させたSMA 2000合成樹脂20gを、116gのJeffamine M 2070と160℃で4時間反応させる。この間に酢酸ブチルを蒸留する。
【0048】
湿潤兼分散剤1の生成(比較例)
100gのくし形共重合体1を水100g中で乳化し、N,N−ジエチルアミノエタノールを用いてpH9に調整する。その後この混合物を1時間で95℃まで加熱し、固形分が40wt%になるまで調整する。
【0049】
湿潤兼分散剤2の生成(本発明の混合物)
SMA 2000合成樹脂5gと、p−トルオールスルホン酸0.1gとを、水100g中で乳化し、95℃で8時間反応させる。その後100gのくし形共重合体1を添加し、N,N−ジエチルアミノエタノールを用いてpH9に調整する。水を添加することによって、固形分40wt%を調整する。
【0050】
湿潤兼分散剤3の生成(比較例)
100gのくし形共重合体2を、水150gに溶解させる。
【0051】
湿潤および分散剤4の生成(本発明の混合物)
SMA 2000合成樹脂5gと、p−トルオールスルホン酸0.1gとを、水100g中で乳化し、95℃で8時間反応させる。その後56gのくし形共重合体2を添加し、塩化のために18gのJeffamine M2070と混合する。水を添加することによって、固形分40wt%を調整する。
Pluriol A 750E ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ヒドロキシル価75g KOH/g、製造業者BASF
Polyglycol B01/20 ポリプロピレングリコールモノブチルエーテル、ヒドロキシル価80g KOH/g、製造業者Clariant
Pluriol P600 ポリプロピレングリコール、ヒドロキシル価195g KOH/g、製造業者BASF
Trigonox C tert−ブチルペルオキソベンゾエート、製造業者Akzo Nobel
SMA2000合成樹脂 スチレン−無水マレイン酸共重合体、製造業者Cray Valley
Jeffamin M2070 アミン末端EO/POポリエーテル、製造業者Huntsman
【0052】
適用例:
I.
【表1】

【0053】
II.
【表2】

【0054】
BYK(登録商標)−017 消泡剤、製造業者Byk Chemie GmbH
下塗り(base coat)Sikkens Autowave MM 無着色自動車修理用ベース塗料、水性アクリレート分散液、製造業者Akzo Nobel
【0055】
結果:
【表3】

【0056】
光沢は、Byk Gardner社製の「曇り度−光沢」測定装置を用いて測定した。透明度またはピンホール(pinholing)は視覚的に評価した。この場合、基準1〜5を用いた(1=透明、5=不透明)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
I.
a)XがNHを表す以下の構造単位I〜IVを含む共重合体の少なくとも1つのブロック、
および/または
b)XがOを表す以下の構造単位I、IIおよびIVを含む共重合体の少なくとも1つのブロック
および/または
c)XがNHまたはOを表す以下の構造単位I〜IVを含む共重合体の少なくとも1つのブロック
および/または
d)構造単位Iと、構造単位II〜IVとは異なる少なくとも1種のエチレン不飽和単量体の重合単位とを含む共重合体の少なくとも1つのブロック
を含む少なくとも1種のくし形共重合体であって、
前記ブロックd)が、前記ブロックa)〜c)のうちの1つと組み合わさるだけでブロック共重合体を形成し、
構造単位I〜IVが、以下を表し、
【化1】

上式中、
【化2】

が、連鎖結合を表し、
RがH、ハロゲン、好ましくは塩素、ニトロ基、炭素原子数1〜15のアルキル基、または炭素原子数6〜18のアリール基を表し、
が、炭素原子数1〜24のアルキレン基または炭素原子数6〜18の置換もしくは無置換アリーレン基を表し、
がHおよび/またはアルキル基を表し、
zが3〜70の整数を表し、
がNHおよび/またはOを表し、
が、モノ不飽和またはポリ不飽和であってよい場合により置換された炭素原子数1〜30のアルキル基、場合により置換された炭素原子数6〜18のアリール基、場合により置換された炭素原子数4〜10のシクロアルキル基を表し、
構造単位IVの遊離型カルボキシル基が、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩またはアンモニウム塩の形で存在することができる、
少なくとも1種のくし形共重合体と、
II.構造単位Iおよび構造単位IVに基づく少なくとも1種の共重合体であって、構造単位IVのカルボキシル基が、少なくとも部分的にはアルカリ土類金属塩、アンモニウム塩またはアルカリ金属塩の形で存在する共重合体と
を含む重合体混合物。
【請求項2】
構造単位I〜IVにおいて、
RがHであり、
が炭素原子数1〜6のアルキレン基であり、
がHおよび/またはCHであり、
構造単位IIおよび構造単位IIIにおけるエチレンオキシド単位対プロピレンオキシド単位のモル比が合計で0:100から100:0であり、
が、炭素原子数1〜8のアルキル基または場合により置換された炭素原子数6のアリール基であり、
がNHおよび/またはOであり、
zが5〜60の整数であることを特徴とする請求項1に記載の重合体混合物。
【請求項3】
構造単位I〜IVにおいて、
RがHであり、
がエチレン、プロピレンおよび/またはイソプロピレン残基であり、
がHまたはCH残基であり、
エチレンオキシド単位対プロピレンオキシド単位のモル比が合計で70:30から30:70であり、
がCHまたはC残基であり、
zが25〜50の整数であり、
がNHおよび/またはOであることを特徴とする請求項1に記載の重合体混合物。
【請求項4】
前記エチレン不飽和単量体が、(メタ)アクリル酸誘導体、好ましくは(メタ)アクリル酸アルキル、(メタ)アクリル酸アリール、およびマレイン酸ジエステル、好ましくはマレイン酸ジアルキルを含む群から選択される少なくとも1種の単量体であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の重合体混合物。
【請求項5】
くし形共重合体I対くし形共重合体IIの重量比が、50:50から95:5の範囲内にあることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の重合体混合物。
【請求項6】
場合により置換されたスチレン単位および無水マレイン酸単位から、無水物基の加水分解および塩化によってくし形共重合体IIを得ることができることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の重合体混合物。
【請求項7】
アミノ基を有する少なくとも1種の化合物により、遊離型カルボキシル基の塩化が生じることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の重合体混合物。
【請求項8】
くし形共重合体Iを共重合体IIと混合することによって得られる請求項1〜7のいずれかに記載の重合体混合物。
【請求項9】
湿潤兼分散剤としての請求項1〜8のいずれかに記載の重合体混合物の使用。
【請求項10】
固形物、好ましくは顔料および/または充填剤に対する請求項9に記載の使用。
【請求項11】
固形物コンセントレート、好ましくは顔料コンセントレートまたはペーストの製造および/または加工するための請求項9または請求項10に記載の使用。
【請求項12】
塗料、印刷インク、インクジェットプロセス用のインク、コーティング、革および/または織物染料、セラミックス、化粧品の製造および/または加工のための請求項9〜11のいずれかに記載の使用。
【請求項13】
通常の補助剤、好ましくは通常の結合剤も使用されることを特徴とする請求項9〜12のいずれかに記載の使用。
【請求項14】
湿潤兼分散剤としての請求項1〜8のいずれかに記載の重合体混合物と、少なくとも1種の固形物、好ましくは顔料と、必要に応じて水性媒体と、必要に応じて少なくとも1種の結合剤とを含有する塗料またはペースト。
【請求項15】
請求項1〜8のいずれかに記載の重合体混合物によって表面が改質された顔料。

【公表番号】特表2010−514864(P2010−514864A)
【公表日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−543388(P2009−543388)
【出願日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【国際出願番号】PCT/EP2007/011330
【国際公開番号】WO2008/080581
【国際公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【出願人】(596089399)ビック−ケミー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (21)
【Fターム(参考)】