説明

けい酸カルシウム材の製造方法

【課題】本発明の目的は、原料としてゾノトライトを使用した場合であっても、原料スラリーのろ水性の低下を抑制し、加圧脱水成形法を用いて軽量のけい酸カルシウム材を効率良く製造するための方法を提供することにある。
【解決手段】本発明は、石灰質原料、けい酸質原料並びにゾノトライトを必須原料とし、これら必須原料に水を加えて混合することにより得られた原料スラリーを加圧脱水成形して生板を得、次いで該生板をオートクレーブ養生して硬化させてなるけい酸カルシウム材の製造方法において、
(1)ゾノトライトとして、予め合成された針状結晶が凝集した二次粒子からなるスラリー状態のゾノトライトを使用し、該スラリー状態のゾノトライトに、石灰質原料と、非晶質シリカを添加し、混合してゾノトライト混合スラリーを得る工程;
(2)得られたゾノトライト混合スラリーを断続的に攪拌しながら、大気圧下において70〜95℃の温度で15分以上の加熱処理を行う工程;
(3)加熱処理したゾノトライト混合スラリーに、原料の残部と水を加えて混合し、原料スラリーを得る工程;
(4)原料スラリーをプレス脱水成形して生板を得る工程
を備えてなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保温材等として使用される密度が0.6〜1.2g/cmの範囲内にあるけい酸カルシウム材の製造方法に関するものであり、更に詳しくは、加圧脱水成形法を用いた成形を行う際に、原料スラリーのろ水性を維持しつつ、軽量化することができるけい酸カルシウム材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
けい酸カルシウム材は、建材や保温材等として広く使用されている材料である。その代表的な製造方法として、抄造法と加圧脱水成形法が知られている。前者は建材、特に厚さが薄い平板形状のけい酸カルシウム材の製造に適しており、後者は厚さが厚い場合や円筒状の平板材以外の形状のけい酸カルシウム材を製造する場合に適している。
【0003】
例えば、特許文献1には、けい酸質原料、石灰質原料および水を混合して得られるスラリーを常圧下で加熱処理した後に成形し、次いで加圧下水熱反応させけい酸カルシウム保温材を製造するに当り、原料中にゾノトライトを内割で5〜30%添加するとともにけい酸質原料と石灰質原料のCa/(Si+Al)モル比を0.9〜1.3とし、かつ原料のスラリーを常圧下で加熱した後に硫酸根を含む化合物を3〜25%内割で添加することを特徴とするけい酸カルシウム保温材の製造方法が開示されている。また、特許文献1の実施例には、成形方法として加圧脱水成形することが開示されている。ここで、ゾノトライト添加の目的は、耐熱性の向上と、原料スラリーの沈降を防止することにある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平1−119553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されているけい酸カルシウム保温材の製造方法において、原料としてゾノトライトを用いると、原料スラリーのろ水性が低下し、加圧脱水成形を行い難くなり、ろ水性が低下した原料スラリーを強引に加圧脱水成形すると、成形体内部に層状亀裂が発生したり、厚さが25ミリ以上の成形体を加圧脱水成形法で成形する場合には、成形体の厚さ方向に密度差が生じてしまい、保温材等として好適なけい酸カルシウム材を得難くなるという問題があった。
【0006】
従って、本発明の目的は、上記従来の課題を解決し、原料としてゾノトライトを使用した場合であっても、原料スラリーのろ水性の低下を抑制し、加圧脱水成形法を用いて軽量のけい酸カルシウム材を効率良く製造するための方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、ゾノトライトの添加によるろ水性の低下は、原料混合工程や原料スラリーのポンプ輸送工程でゾノトライト結晶の二次粒子が崩壊されて微細化することが原因であることをつきとめ、その対策として、ゾノトライトとして、けい酸質原料と石灰質原料に水を加えたスラリーを攪拌しながらオートクレーブ養生することにより合成したスラリー状態のゾノトライト結晶の二次粒子に、更に、非晶質シリカと石灰質原料を添加し、加熱処理することにより得られたスラリーをそのまま、あるいは脱水してグリーンボディ(脱水成形物)とし、このグリーンボディを原料スラリーの原料として使用すれば、けい酸カルシウム材の製造工程中で、ゾノトライト結晶の二次粒子が崩壊することなく、良好なろ水性を維持できるようになり、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、石灰質原料、けい酸質原料並びにゾノトライトを必須原料とし、これら必須原料に水を加えて混合することにより得られた原料スラリーを加圧脱水成形して生板を得、次いで該生板をオートクレーブ養生して硬化させてなるけい酸カルシウム材の製造方法において、
(1)ゾノトライトとして、予め合成された針状結晶が凝集した二次粒子からなるスラリー状態のゾノトライトを使用し、該スラリー状態のゾノトライトに、石灰質原料と、非晶質シリカを添加し、混合してゾノトライト混合スラリーを得る工程;
(2)得られたゾノトライト混合スラリーを断続的に攪拌しながら、大気圧下において70〜95℃の温度で15分以上の加熱処理を行う工程;
(3)加熱処理したゾノトライト混合スラリーに、原料の残部と水を加えて混合し、原料スラリーを得る工程;
(4)原料スラリーをプレス脱水成形して生板を得る工程
を備えてなることを特徴とする。
【0009】
また、本発明のけい酸カルシウム材の製造方法は、(1)工程において、スラリー状態のゾノトライトに添加する石灰質原料と非晶質シリカとの比率が、CaO/SiOモル比(C/S比)で0.8〜1.2の範囲内にあり、かつスラリー状態のゾノトライト、石灰質原料および非晶質シリカの配合割合が、スラリー状態のゾノトライトの固形分に対して石灰質原料および非晶質シリカを外割で10〜40質量%の範囲内にあることを特徴とする。
【0010】
更に、本発明のけい酸カルシウム材の製造方法は、(1)工程におけるスラリー状態のゾノトライトにおけるゾノトライトの二次粒子の平均粒子径が、20〜80μmの範囲内であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明のけい酸カルシウム材の製造方法は、(2)工程で得られた加熱処理したゾノトライト混合スラリーを脱水してグリーンボディ(脱水成形物)とし、該グリーンボディを(3)工程における原料として使用することを特徴とする。
【0012】
更に、本発明のけい酸カルシウム材の製造方法は、原料として更に耐熱充填材を使用することを特徴とする。
【0013】
また、本発明のけい酸カルシウム材の製造方法は、原料として更に補強繊維を使用することを特徴とする。
【0014】
更に、本発明のけい酸カルシウム材の製造方法は、(3)工程で得られた原料スラリーを(4)工程でプレス脱水成形する前に、大気圧下95〜100℃に加温し、この温度を15分から5時間保持することからなる二次加熱処理を行うことを特徴とする。
【0015】
また、本発明のけい酸カルシウム材の製造方法は、得られるけい酸カルシウム材の密度が0.6〜1.2g/cmの範囲内にあることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、原料としてゾノトライトを用いて、加圧脱水成形法によりけい酸カルシウム材を製造する場合であっても、原料スラリーのろ水性の低下が抑制されるので、密度が0.6〜1.2g/cmであるけい酸カルシウム材を効率よく製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の(1)工程は、ゾノトライトとして予め合成された針状結晶が凝集した二次粒子からなるスラリー状態のゾノトライト(以下、「スラリー状態のゾノトライト」と記載する)を使用し、該スラリー状態のゾノトライトに、石灰質原料と、非晶質シリカを添加し、混合してゾノトライト混合スラリーを得る工程である。
【0018】
(1)工程に使用されるスラリー状態のゾノトライトは、常法に従って製造することができ、例えば、けい酸質原料と石灰質原料からなるスラリーを攪拌しながら190〜220℃、好ましくは195〜210℃の飽和水蒸気圧下でオートクレーブ養生(水熱反応)することにより得ることができる。ゾノトライトの個々の結晶は針状であるが、攪拌条件等を調整することにより、針状結晶が凝集して二次粒子を形成したスラリー状態のゾノトライトを得ることができる。ここで、スラリー状態のゾノトライトの二次粒子の平均粒子径は20〜80μm、好ましくは30〜70μmの範囲内である。ゾノトライトの二次粒子の平均粒子径が20μm未満であると、後述する原料スラリーのろ水性が低下し、加圧脱水成形の際に、型枠からのスラリー吹き出し等の問題を生ずる危険性があり、一方、ゾノトライトの二次粒子の平均粒子径が80μmを超えると、必要以上に原料スラリーのろ水性が向上し、加圧脱水成形後、層間剥離が発生し易くなるという問題を生ずる危険性があるために好ましくない。
なお、スラリー状態のゾノトライトを得るための原料であるけい酸質原料と石灰質原料は、(1)工程で使用される石灰質原料および非晶質シリカ並びにけい酸カルシウム材の原料としてのけい酸質原料および石灰質原料には含めないものとする。
【0019】
(1)工程において、上記スラリー状態のゾノトライトに添加される石灰質原料としては、消石灰、特に、JIS R9001に規定された特号相当の消石灰や、生石灰、特に、JIS R9001に規定された特号相当の生石灰を使用することができるが、予めスラリー状態で消化させた形態のものを使用することが好ましい。
【0020】
また、(1)工程において、上記スラリー状態のゾノトライトに添加される非晶質シリカとしては、例えばシリカフューム、ホワイトカーボン等を使用することができる。
【0021】
ゾノトライト混合スラリーに添加される石灰質原料と非晶質シリカの比率は、CaOとSiOのモル比(C/S比)として0.8〜1.2、好ましくは0.9〜1.2、より好ましくは0.9〜1.1の範囲内である。C/S比が0.8未満であるとけい酸カルシウム材の耐熱性能の低下が発生し、また、1.2を超えるとけい酸カルシウム材の強度低下が発生するために好ましくない。
【0022】
スラリー状態のゾノトライトと石灰質原料および非晶質シリカの添加割合は、スラリー状態のゾノトライト中の固形分に対して石灰質原料および非晶質シリカが外割で10〜40質量%、好ましくは10〜35質量%、より好ましくは15〜30質量%の範囲内である。石灰質原料および非晶質シリカの合量が10質量%未満であるとスラリー状態のゾノトライト中のゾノトライト二次粒子への補強効果が小さく、また、40質量%を超えると得られるけい酸カルシウム材に対するゾノトライトの耐熱向上効果が低下するので好ましくない。また、石灰質原料と非晶質シリカの添加量の合量が40質量%までは、生成するCSHゲル(CaO−SiO−HOゲル)のほぼ全量がゾノトライトの二次粒子表面に析出するが、40質量%を超える部分は、遊離した状態でゾノトライト混合スラリー中に存在するため、本来の目的には何ら寄与しないのみならず、むしろけい酸カルシウム材の耐熱性を低下させる原因となる場合もあるために好ましくない。
【0023】
なお、ゾノトライト混合スラリーの調製は、スラリー状態のゾノトライト、石灰質原料及び非晶質シリカに、これらの乾燥固形分質量に対して12〜16倍、好ましくは13〜15倍量となるように水の量を調整して例えばリボンミキサー等の混合機を使用して5〜20分間、好ましくは10〜15分間連続的に攪拌して混合することにより行うことができる。
【0024】
本発明の(2)工程は、上述のようにして得られたゾノトライト混合スラリーを断続的に攪拌しながら、大気圧下において70〜95℃の温度で15分以上の加熱処理を行うものである。この加熱処理を行うことにより、ゾノトライト混合スラリー中のゾノトライトの二次粒子表面にCSHゲルが生成し、ゾノトライトの二次粒子が補強されるので、原料混合時やポンプ輸送時にゾノトライトの二次粒子が破壊されることを防止することができる。それにより、従来の技術において、ゾノトライトを原料スラリーへ添加した場合の問題点であった、原料スラリーのろ水性の低下を防止することができる。ここで、加熱処理が温度が70℃未満であるとCSHゲルの十分な生成が得られず、また、95℃を超えると原料スラリーのろ水性低下を防止する効果が低減されるため好ましくない。また、処理時間は15分以上、好ましくは30分〜2時間、より好ましくは45分〜1.5時間である。処理時間が15分未満であるとCSHゲルが十分に生成しないために好ましくない。
【0025】
なお、スラリー状態のゾノトライトへの石灰質原料および非晶質シリカの添加は、スラリー状態のゾノトライトをオートクレーブから取り出した直後のスラリー温度が95℃以上を維持している時に行うことができる。スラリー温度が95℃以上であれば、石灰質原料や非晶質シリカを添加してゾノトライト混合スラリーの温度が低下しても、特別な加熱を行わずとも70〜95℃の温度を15分以上容易に維持することができる。
【0026】
上述のようにして加熱処理したゾノトライト混合スラリー中のゾノトライトの二次粒子は、後述の原料混合工程やポンプ移送工程でも破壊し難い二次粒子となっており、原料の残部と共にミキサー中で混合して原料スラリーを形成するために使用することができる。
【0027】
本発明の(3)工程は、加熱処理したゾノトライト混合スラリーに、原料の残部と水を加えて混合し、原料スラリーを得る工程である。ここで、原料スラリーを形成するための各原料の配合割合は下記の通りである:
(a)けい酸質原料:15〜39質量%
けい酸質原料の配合割合は、好ましくは18〜35質量%、より好ましくは20〜32質量%の範囲内である。けい酸質原料の配合割合が、15質量%未満であるとけい酸カルシウム材の強度低下が発生し、また、39質量%を超えるとけい酸カルシウム材の耐熱性能の低下が発生するために好ましくない。
【0028】
なお、けい酸質原料としては、非晶質シリカおよび結晶性シリカを併用する。非晶質シリカは、得られるけい酸カルシウム材の軽量化を目的として使用され、例えば、ホワイトカーボン、シリカフューム、珪藻土などが挙げられる。非晶質シリカの添加割合は、0〜15質量%、好ましくは3〜12質量%、より好ましくは5〜10質量%の範囲内である。非晶質シリカの添加割合が15質量%を超えると、成形体の強度が低下するために好ましくない。なお、非晶質シリカの添加量がゼロ、すなわち、原料スラリー調製時に添加しない場合には、前述の(1)工程で添加される非晶質シリカで、原料スラリー中の非晶質シリカを賄うこととなる。
【0029】
また、結晶性シリカは、得られるけい酸カルシウム材のマトリックスを形成し易くすることを目的として使用され、例えば珪石粉末を用いることができ、その粒子径は目開き74μmのふるい全通したものが好ましい。結晶性シリカの添加割合は、15〜39質量%、好ましくは18〜35質量%、より好ましくは20〜32質量%の範囲内である。結晶性シリカの添加割合が15質量%未満ではけい酸カルシウム材の強度低下が発生し、また、39質量%を超えるとけい酸カルシウム材の耐熱性能の低下が発生するために好ましくない。
【0030】
(b)石灰質原料:25〜49質量%
石灰質原料の配合割合は、好ましくは28〜45質量%、より好ましくは30〜40質量%の範囲内である。石灰質原料の配合割合が、25質量%未満であるとけい酸カルシウム材の耐熱性能の低下が発生し、また、49質量%を超えるとけい酸カルシウム材の強度低下が発生するために好ましくない。
なお、石灰質原料は、消石灰、例えば、JIS R9001に規定された特号消石灰や、や、生石灰、特に、JIS R9001に規定された特号相当の生石灰を使用することができるが、予めスラリー状態で消化させた形態のものを使用することが好ましい。
【0031】
(c)加熱処理したゾノトライト混合スラリー:2〜12質量%
加熱処理したゾノトライト混合スラリーの配合割合は、好ましくは2.5〜10質量%、より好ましくは3〜8質量%の範囲内である。加熱処理後のゾノトライト混合スラリーの配合割合が、2質量%未満であるとけい酸カルシウム材への軽量化効果を得ることができず、また、12質量%を超えるとけい酸カルシウム材の強度低下が発生するために好ましくない。なお、加熱処理したゾノトライト混合スラリーの配合割合は、加熱処理したゾノトライト混合スラリー中の固形分としての量である。
【0032】
なお、加熱処理したゾノトライト混合スラリーは直接配合することもできるが、混練水量を減少させて生産効率を向上することを目的として、加熱処理したゾノトライト混合スラリーを加圧脱水してグリーンボディ(脱水成形物)として配合することもできる。グリーンボディはそのまま配合することができ、また、グリーンボディに水を加えて再分散させたスラリーとして配合することもできる。
【0033】
加熱処理したゾノトライト混合スラリーの加圧脱水は、グリーンボディ乾燥時の密度が0.07〜0.25g/cm、好ましくは0.1〜0.2g/cm、より好ましくは0.13〜0.18g/cmの範囲内となるように行うことが好ましい。ここで、密度が0.07g/cm未満では、グリーンボディの取扱いが困難であり、また、0.25g/cmを超えると原料スラリー中において、ゾノトライトの二次粒子に再スラリー化することが困難となるために好ましくない。
【0034】
また、原料スラリーには、必要に応じて下記の範囲で耐熱充填材および補強繊維を用いることができる:
(d)耐熱充填材:10〜50質量%
耐熱充填材の添加割合は、好ましくは20〜40質量%、より好ましくは25〜35質量%の範囲内である。なお、耐熱充填材の添加割合が10質量%未満ではけい酸カルシウム材の耐熱性を向上させる効果が得難く、また、50質量%を超えるとけい酸カルシウム材の強度が低下するために好ましくない。
ここで、耐熱充填材は、けい酸カルシウム材が加熱された際の膨張や収縮を抑制する性質を有する原料である。好適な耐熱充填材としては、例えばワラストナイト、マイカ、バーミキュライト等を挙げることができ、これらの1種を単独でまたは2種以上を併用することができる。
【0035】
(e)補強繊維:0.5〜7.5質量%
補強繊維の添加割合は、好ましくは1.5〜6.5質量%、より好ましくは2.5〜5.5質量%の範囲内である。なお、補強繊維の添加割合が0.5質量%未満ではけい酸カルシウム材に対する補強効果が得難く、また、7.5質量%を超えると原料混合時に補強繊維の分散性が低下し、けい酸カルシウム材の性能が低下することがあるために好ましくない。
ここで、補強繊維は、けい酸カルシウム材の曲げ強度や衝撃強度等の力学的な性能を向上させる原料である。好適な補強繊維としては、例えばセルロースパルプ、耐アルカリガラス繊維、炭素繊維等を挙げることができ、これらの1種を単独でまたは2種以上を併用することができる。
【0036】
上記原料に水を加えてミキサーで混練することにより原料スラリーを得ることができる。ここで、ミキサーとしては、リボンミキサーやパルパーなどの公知のミキサーを使用することができる。添加する水の量は、目的とするけい酸カルシウム材の見かけ密度によっても異なるが、混練して原料スラリーの流動性を確保できる最低限の量を使用することが好ましい。例えば、見かけ密度が0.8g/cm程度のけい酸カルシウム材を得る場合には、原料スラリー中の乾燥固形分質量に対して1.5〜4.5倍の水量が好適である。
【0037】
本発明の(4)工程は、上述のようにして得られた原料スラリーをプレス脱水成形して生板を得る工程である。原料スラリーをプレス脱水成形する際の圧力は、目的とするけい酸カルシウム材の見かけ密度によって異なるが、1〜10MPa、好ましくは3〜9MPa、より好ましくは4〜7MPaの範囲内である。
【0038】
なお、プレス脱水成形前に、原料スラリーに対して例えば水蒸気を導入し、大気圧下95〜100℃程度に加温し、この温度で15分から5時間、好ましくは30〜3時間、より好ましくは30分〜2時間保持することからなる二次加熱処理を行うこともできる。この二次加熱処理により、原料スラリー調製時に添加した石灰質原料と非晶質シリカとが反応してかさ高なCSHゲルを生成し、プレス脱水成形体の軽量化、即ち、軽量な生板であっても、プレス脱水成形において十分なプレス圧力を加えることができ、良好なハンドリング性を有する生板を得ることができる。なお、原料スラリーに対して二次加熱処理を行う場合には、前述の(1)工程、すなわち、ゾノトライト混合スラリーを得る工程において、原料として使用する非晶質シリカを全量添加するのではなく、その一部を(3)工程、すなわち、原料スラリーを調製する工程において、添加することが好ましい。
【0039】
上述のようにして得られた生板を常法に従ってオートクレーブ養生して硬化させることによりけい酸カルシウム材を得ることができる。ここで、トバモライト系のけい酸カルシウム材を所望する場合には、160〜200℃、好ましくは170〜190℃、より好ましくは175〜185℃の飽和水蒸気圧下でオートクレーブ養生を、ゾノトライト系のけい酸カルシウム材を所望する場合には、180〜230℃、好ましくは190〜220℃、より好ましくは195〜210℃の飽和水蒸気圧下でオートクレーブ養生を行うことが好ましい。
【0040】
なお、オートクレーブ養生が終了した後、得られたけい酸カルシウム材を常法に従って含水率が10%以下となるまで乾燥することが好ましい。ここで、含水率とは、含有水分質量を105℃乾燥により恒量にした後の質量で除して100倍した数値である。
【実施例】
【0041】
以下に、実施例および比較例を挙げて本発明のけい酸カルシウム材の製造方法を更に説明する。
加熱処理したゾノトライト混合スラリー(1)の製造
常法に従って製造したスラリー状態のゾノトライトA(平均粒子径50μm、固形分濃度6.5質量%)の固形分100質量%に対して非晶質シリカとしてシリカフュームを外割で6.7質量%並びに消石灰を外割8.3質量%(C/S比1.05)、及び水を混合してゾノトライト混合スラリー(1)を得た。
次に、得られたゾノトライト混合スラリー(1)を80℃で60分間保持することにより、加熱処理したゾノトライト混合スラリー(1)を得た。
【0042】
加熱処理したゾノトライト混合スラリー(2)の製造
スラリー状態のゾノトライトAの固形分100質量%に対して非晶質シリカとしてシリカフュームを外割で8.9質量%並びに消石灰を外割で11.1質量%(C/S比1.05)、及び水を混合してゾノトライト混合スラリー(2)を得た。
次に、得られたゾノトライト混合スラリー(2)を80℃で60分間保持することにより、加熱処理したゾノトライト混合スラリー(2)を得た。
【0043】
加熱処理したゾノトライト混合スラリー(3)の製造
スラリー状態のゾノトライトAの固形分100質量%に対して非晶質シリカとしてシリカフュームを外割で4.4質量%並びに消石灰を外割で5.6質量%(C/S比1.05)、及び水を混合してゾノトライト混合スラリー(3)を得た。
次に、得られたゾノトライト混合スラリー(3)を80℃で60分間保持することにより、加熱処理したゾノトライト混合スラリー(3)を得た。
【0044】
加熱処理したゾノトライト混合スラリー(4)の製造
スラリー状態のゾノトライトAの固形分100質量%に対して非晶質シリカとしてシリカフュームを外割で13.3質量%並びに消石灰を外割で16.7質量%(C/S比1.05)、及び水を混合してゾノトライト混合スラリー(4)を得た。
次に、得られたゾノトライト混合スラリー(4)を80℃で60分間保持することにより、加熱処理したゾノトライト混合スラリー(4)を得た。
【0045】
加熱処理したゾノトライト混合スラリー(5)の製造
常法に従って製造したスラリー状態のゾノトライトB(平均粒子径15μm、固形分濃度6.7質量%)の固形分100質量%に対して非晶質シリカとしてシリカフュームを外割で8.9質量%並びに消石灰を外割で11.1質量%(C/S比1.05)、及び水を混合してゾノトライト混合スラリー(5)を得た。
次に、得られたゾノトライト混合スラリー(5)を80℃で60分間保持することにより、加熱処理したゾノトライト混合スラリー(5)を得た。
【0046】
加熱処理したゾノトライト混合スラリー(6)の製造
常法に従って製造したスラリー状態のゾノトライトC(平均粒子径95μm、固形分濃度6.5質量%)の固形分100質量%に対して非晶質シリカとしてシリカフュームを外割で8.9質量%並びに消石灰を外割で11.1質量%(C/S比1.05)、及び水を混合してゾノトライト混合スラリー(6)を得た。
次に、得られたゾノトライト混合スラリー(6)を80℃で60分間保持することにより、加熱処理したゾノトライト混合スラリー(6)を得た。
【0047】
上述のようにして得られた加熱処理したゾノトライト混合スラリー(1)ないし(6)並びにスラリー状態のゾノトライト(A)を用い、以下の表1および2に記載する配合割合にて原料スラリーを調製し、次いで、プレス脱水成形することにより300mm×300mm、厚さ35mmの生板を得た。次に、得られた生板を200℃の飽和水蒸気圧下オートクレーブ養生を行い、次に、105℃で24時間乾燥することによりけい酸カルシウム材(含水率1%)を製造した。なお、原料スラリーの調製には、パルパーを使用した。得られたけい酸カルシウム材の諸特性を表1および2に併記する。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
表1および2において、
加熱処理したゾノトライト混合スラリーの配合割合は、加熱処理したゾノトライト混合スラリーの固形分量である。また、スラリー状態のゾノトライト(A)の配合割合は、スラリー状態のゾノトライトの固形分量である;
原料スラリーの二次加熱処理は、原料スラリーを95℃に加熱し、この温度を2時間保持することにより行った;
スラリーの沈降性は、原料スラリーをプレス脱水成形前、型枠に流し込んでから成形を行うまでの状態を目視により観察した結果である;
スラリーの流動性は、原料スラリーをパルパーで攪拌する時、目視により観察した結果である;
スラリー吹き出しは、プレス脱水成形時、目視により観察した結果である;
生板ハンドリングは、プレス脱水成形直後の生板をハンドリングし、破損の有無を観察した結果である;
密度は、JIS A9510 6.5密度試験に従って測定した結果である;
密度の上下差は、100×100mmに切断した試験体を、厚さ方向に二等分し、それぞれの密度をJIS A9510 6.5密度試験に従って測定した結果である;
曲げ強さは、JIS A9510 6.6曲げ強さ試験に従って測定した結果である;
線収縮率は、JIS A9510 6.8線収縮率試験に準じて測定した結果である。ただし、試験温度は700℃、保持時間は3時間とした。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明のけい酸カルシウム材の製造方法により得られたけい酸カルシウム材は、各種断熱材、保温材等として使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石灰質原料、けい酸質原料並びにゾノトライトを必須原料とし、これら必須原料に水を加えて混合することにより得られた原料スラリーを加圧脱水成形して生板を得、次いで該生板をオートクレーブ養生して硬化させてなるけい酸カルシウム材の製造方法において、
(1)ゾノトライトとして、予め合成された針状結晶が凝集した二次粒子からなるスラリー状態のゾノトライトを使用し、該スラリー状態のゾノトライトに、石灰質原料と、非晶質シリカを添加し、混合してゾノトライト混合スラリーを得る工程;
(2)得られたゾノトライト混合スラリーを断続的に攪拌しながら、大気圧下において70〜95℃の温度で15分以上の加熱処理を行う工程;
(3)加熱処理したゾノトライト混合スラリーに、原料の残部と水を加えて混合し、原料スラリーを得る工程;
(4)原料スラリーをプレス脱水成形して生板を得る工程
を備えてなることを特徴とするけい酸カルシウム材の製造方法。
【請求項2】
(1)工程において、スラリー状態のゾノトライトに添加する石灰質原料と非晶質シリカとの比率が、CaO/SiOモル比で0.8〜1.2の範囲内にあり、かつスラリー状態のゾノトライト、石灰質原料および非晶質シリカの配合割合が、スラリー状態のゾノトライトの固形分に対して石灰質原料および非晶質シリカが外割で10〜40質量%の範囲内にある、請求項1記載のけい酸カルシウム材の製造方法。
【請求項3】
(1)工程におけるスラリー状態のゾノトライトにおけるゾノトライトの二次粒子の平均粒子径が、20〜80μmの範囲内である、請求項1または2記載のけい酸カルシウム材の製造方法。
【請求項4】
(2)工程で得られた加熱処理したゾノトライト混合スラリーを脱水してグリーンボディとし、該グリーンボディを(3)工程における原料として使用する、請求項1ないし3のいずれか1項記載のけい酸カルシウム材の製造方法。
【請求項5】
原料として更に耐熱充填材を使用する、請求項1ないし4のいずれか1項記載のけい酸カルシウム材の製造方法。
【請求項6】
原料として更に補強繊維を使用する、請求項1ないし5のいずれか1項記載のけい酸カルシウム材の製造方法。
【請求項7】
(3)工程で得られた原料スラリーを(4)工程でプレス脱水成形する前に、大気圧下95〜100℃に加温し、この温度を15分から5時間保持することからなる二次加熱処理を行う、請求項1ないし6のいずれか1項記載のけい酸カルシウム材の製造方法。
【請求項8】
けい酸カルシウム材の密度が0.6〜1.2g/cmの範囲内にある、請求項1ないし7のいずれか1項記載のけい酸カルシウム材の製造方法。

【公開番号】特開2011−206941(P2011−206941A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−74470(P2010−74470)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000126609)株式会社エーアンドエーマテリアル (99)
【Fターム(参考)】