説明

ころ保持用のゲル状潤滑剤を充填した総ころ軸受

【課題】このころ保持用のゲル状潤滑剤を充填した総ころ軸受は,ゲル状潤滑剤によってローラを外輪の内周側に的確に且つ確実に保持する。
【解決手段】この総ころ軸受は,外輪1,外輪1内で相対回転する内輪等の軸体6,及び外輪1と軸体6の間に転動自在に配設された複数の転動体でなるローラ2を備えており,ローラ2間及びローラ2と外輪1との間の隙間7には,ローラ2を外輪1の内周側に保持するため,潤滑油とゲル化剤の混合物からなる半固体化したゲル状潤滑剤3が充填されている。ゲル状潤滑剤3は,鉱油又は合成油からなる潤滑油と,パウダー状のアミノ酸系油ゲル化剤との混合物から生成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,外輪と内輪等の軸体との間に配設された複数の転動体であるローラを外輪の内側に保持するため,ローラと外輪との間にころ保持用のゲル状潤滑剤を充填した総ころ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来,総ころ軸受について,保持器を持たないローラタイプの転がり軸受では,外輪の内側に配設された転動体でなるローラにグリースを塗布し充填して,グリースの粘着力でローラを外輪の内側に保持していた。このような総ころ軸受では,グリースの保持力が低く,取り扱い中に転動体でなるローラが脱落し易いという問題があった。
【0003】
また,転動体の連結構造として,保持材を充填して転動体を連結固着したものが知られている。該転動体の連結構造は,複数の転動体を環状等の形状に配列し,各々の転動体間を,合成樹脂を主体としてその中に無機質の固体潤滑材を混合した保持材を充填し,該保持材で転動体を連結固着したものであり,保持材を固体潤滑材で構成することによって潤滑性能を持たせているものである(例えば,特許文献1参照)。
【0004】
また,従来知られているころ軸受は,外輪の内周面の軌道面に多数のころを配列したものであって,各ころを相互に一定間隔をおいて配列し,各ころ相互間に固形潤滑剤を充填し,その固形潤滑剤と各ころとを一体化したものであり,固形潤滑剤としては超高分子量ポリオレフィンとグリースの混合物からなる潤滑組成物である(例えば,特許文献2参照)。
【0005】
また,熱可逆性ゲルの潤滑性を有する組成物として,鉱油系及び/又は合成系の液状潤滑基油とビスアミド及び/又はモノアミドとを含有するものは知られている。該組成物は,グリースと同様に半固体ゲル状であるが,摺動接触部位など局所的高温領域になると,均一に溶解して異物の析出がなく,卓越した低摩擦特性に基づく大幅な省エネ性能を示すものであって,グリースでは実現不可能な熱可逆性ゲル状の潤滑性を有するものである(例えば,特許文献3参照)。
【0006】
また,ゲル化剤を用いて半固形状にした潤滑剤組成物の流動性や流動−復元可逆性をより高めるとともに,潤滑寿命が長く低トルクでもある転がり軸受が知られている。該転がり軸受は,アミノ酸系ゲル化剤及びベンジリデンソルビトール系ゲル化剤のみにより基油を増ちょうしてなる潤滑剤組成物であり,アミノ酸系ゲル化剤とベンジリデンソルビトール系ゲル化剤との質量比は,20〜80:80〜20である。また,上記転がり軸受は,内輪と,外輪と,それらの間に転動自在に配置された複数の転動体とを有し,内輪と外輪の間に形成される内部空間に上記潤滑剤組成物が充填されているものである(例えば,特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭46−9082号公報
【特許文献2】特開平7−238940号公報
【特許文献3】WO2006/051671号公報
【特許文献4】特開2011−26432号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで,総ころ軸受では,外輪の内側にグリースで転動体であるローラを保持のみに用いるという技術的思想を有しているものはなく,あくまでもグリースを潤滑機能として作用させるという目的があり,そのため,総ころ軸受において,外輪の内側にグリースを塗布してグリースの粘着力でローラを保持するものでは,グリースの保持力が低く,ローラを配列した外輪を内輪等の軸体に組み込む時,或いは搬送する時,例えば,ショックアブソーバ,スイングアーム等の組立工程等の取り扱い中にローラが外輪から脱落し易く,スムーズな組み立てや搬送を行うことができず,問題があった。また,上記の総ころ軸受において,固形潤滑剤を用いて転動体のローラを外輪に保持させた場合には,固形潤滑剤を保持器の役割にして,固形潤滑剤で転動体を保持すると,転動体に対する固形潤滑剤の拘束力が大きくなり,回転トルクが高くなり,総ころ軸受の作動に好ましくない状態になるという問題があった。
【0009】
この発明の目的は,上記の課題を解決することであり,例えば,総ころタイプのニードルベアリングについて,ローラを外輪の内周側に的確に且つ確実に保持できるようにゲル状潤滑剤を用いたものであり,外輪へのローラの保持力を向上させることであり,従来のようなグリースの粘着力を利用したローラ保持力に比較して,半固体化したゲル状の潤滑剤をローラと一体化して外輪の内周側に配置してローラを外輪へ保持することによって,ローラを的確に,しっかりとした保持力で外輪に保持させ,総ころ軸受の組立時や搬送時の取り扱い処理を飛躍的に向上させたころ保持用のゲル状潤滑剤を充填した総ころ軸受を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明は,外輪と前記外輪の内周側に配列された複数の転動体であるローラとを備えた総ころ軸受において,
前記ローラ間及び前記外輪と前記ローラとの間の隙間には,前記ローラを前記外輪内に保持するため,潤滑油とゲル化剤の混合物からなる半固体化したゲル状潤滑剤が充填されていることを特徴とするころ保持用のゲル状潤滑剤を充填した総ころ軸受に関する。
【0011】
また,この総ころ軸受において,前記混合物は,前記潤滑油に対して前記ゲル化剤を4重量%〜10重量%の割合で混合して,前記ローラを前記外輪の内周側に保持することができる半固体化した前記ゲル状潤滑剤に調製されているものである。即ち,前記ゲル状潤滑剤は,前記潤滑油に対して前記ゲル化剤を,例えば,10重量%未満,好ましくは,5重量%の割合で混合して,ローラ保持に適した半固体化したゲル状になるものである。
【0012】
また,この総ころ軸受において,前記潤滑油は,40℃における動粘度が100cSt〜680cSt(=mm2 /s,センチストークス)の鉱油又は合成油である。
【0013】
また,この総ころ軸受において,前記ローラを保持する前記ゲル状潤滑剤は,前記外輪に対して軸体が相対回転することによって剪断力が加わって,ゲル構造に力が加わり三次元の網目構造の結合が壊れ,流動性が増した潤滑剤になる。また,前記ゲル状潤滑剤は,前記転動体である前記ローラ間及び前記外輪と前記ローラとの間の前記隙間に配置されて,前記外輪の内周側から回転中心方向に前記ローラの直径と同等のサイズの厚みに延びて成形されているものである。また,前記ゲル化剤は,例えば,酸性アミノ酸であるグルタミン酸を主骨格とした油ゲル化剤であってジブチルエチルヘキサノイルグルタミドで構成された有機化合物を用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
この発明によるころ保持用のゲル状潤滑剤を充填した総ころ軸受は,上記のように構成されているので,転動体であるローラを保持するゲル状潤滑剤は,複数の転動体であるローラを外輪の内周側に埋め込んだ状態に環状に成形されて,的確にしっかりとローラを保持することができ,輸送中にローラ脱落防止の仮軸等を使用する必要が無く,外輪を内輪等の軸体に組み付ける際にローラが外輪から脱落することがなく,組み立て作業がスムーズに且つ迅速に行われるものである。また,この総ころ軸受では,内輪等の軸体に組み立てられた後には,外輪に対して軸体が相対回転することによって,ゲル状潤滑剤に剪断力が加わってゲルを構成する網目構造の結合が壊れて流動性が増えた潤滑剤になり,軸体の外輪に対する相対回転に抵抗となることがなく,スムーズな回転作動が可能になる。即ち,総ころタイプのシェル形ニードルベアリングにおいて,半固体化したゲル状潤滑剤に剪断力が作用しない状態では,転動体であるローラを外輪の内周側に確実に容易に保持することができる。即ち,この総ころ軸受は,ローラ保持にゲル状潤滑剤を用いることによって,従来のグリースを用いて外輪にローラを保持している従来の総ころ軸受に比較して,約2倍のローラ保持力を確保することができ,組み付け後においても,潤滑油を適正に選定しておけば,潤滑性能を損なうことがなく,外輪の良好な相対回転を長期にわたって維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】この発明によるころ保持用のゲル状潤滑剤を充填した総ころ軸受を示す断面図である。
【図2】図1のA−A断面における総ころ軸受を示す断面図である。
【図3】従来の転がり軸受を構成する総ころ軸受を示す断面図である。
【図4】総ころ軸受におけるローラ保持力を示し,150℃で15分間加熱後冷却した試料である実施例1〜8及び比較例1,2の評価結果を示すグラフである。
【図5】この総ころ軸受の各実施例3,4,7,8について,150℃で10分間,15分間,20分間加熱後冷却した試料で,グリース保持品を1として対比したローラ保持力を示すグラフである。
【図6】この総ころ軸受の各実施例3,4,7,8について,130℃と150℃で15分間加熱後冷却した試料で,グリース保持品を1として対比したローラ保持力を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下,図面を参照して,この発明によるころ保持用のゲル状潤滑剤を充填した総ころ軸受を説明する。この総ころ軸受は,総ころタイプのシェル形ニードルベアリングにおいて,潤滑油とゲル化剤の混合液を,転動体であるローラ2間及び外輪1とローラ2との間の隙間7に充填して,これを加熱した後に冷却して混合液をゲル状に変化させてゲル状潤滑剤3を生成し,ローラ2と半固体状のゲル状潤滑剤3とが一体に成形して保持されるものである。各実施例1〜8では,ゲル状潤滑剤3は,鉱油又は合成油である潤滑油と,ゲル化剤とから成る混合液が130℃〜150℃の加熱温度のもとで,10分〜30分の時間で加熱され,次いで,これを冷却して固体化したものである。ここで,ゲルとは,分散質のネットワーク構造を持ち,例えば,常温や,例えば,40℃では流動性を失い,半固体状になった物質であり,温度を上げると,該半固体状の物質の流動性が増し,温度を下げると,再び半固体状のゲルになるという熱可逆性ゲルを意味している。
【0017】
この発明による総ころ軸受において,ゲル状潤滑剤3を作製するのに,鉱油又は合成油の潤滑油と混合させたゲル化剤は,例えば,パウダー状のアミノ酸系油ゲル化剤であって,酸性アミノ酸であるグルタミン酸を主骨格とした油ゲル化剤を使用したものであり,アミノ酸系油ゲル化剤は,ワックスのような層状構造とは異なり,液状油中でナノサイズの繊維状ネットワークを形成することによって油をゲル化しているジブチルエチルヘキサノイルグルタミドで構成された有機化合物である。
【0018】
この総ころ軸受におけるゲル状潤滑剤3は,上記のようなゲル化剤と潤滑油とを混合したゲル化油である。ゲル状潤滑剤3は,転動体であるローラ2の直径とほぼ同等の厚さに成形されて,外輪1の内周面5に接してローラ2を埋め込んだ状態に環状に成形されて外輪1の内周側に配設されている。ゲル状潤滑剤3は,外輪1の内周面5に充填されてローラ2を外輪1の内周側に保持する保持力を高めるために,ニードルベアリングの内接円径内側となるローラ表面にもゲル状潤滑剤3の層を形成した構造でローラ2を外輪1に保持している。この総ころ軸受では,内輪等の軸体6にユーザで組み付けられる時には,ゲル状潤滑剤3については,半固体状であって内接円径のローラ表面に突出している突出部分即ち不要部分を容易に外輪1から除去できる。ゲル状潤滑剤3は,潤滑油とゲル化剤の混合液であって,外輪1と転動体であるローラ2との間にできた隙間7やローラ2同士の間の隙間7に充填して,加熱後冷却することによって,混合液をゲル状に変化させて,ローラ2を半固体状の潤滑油であるゲル状潤滑剤3と一体化することができる。
【0019】
ゲル状潤滑剤3を製造するには,ゲル化剤と潤滑油から成る混合液とローラとを混ぜて外輪1の内周面5に配置するので,製造時の作業性は,従来のグリース保持タイプと同程度である。ゲル化する前の混合液は,潤滑油に対してゲル化剤を10重量%未満の割合,好ましくは,5重量%で混合する。潤滑油に5重量%のゲル化剤を配合したものを,加熱後冷却すると,ローラ2を外輪1に保持するのに適した保持力を有する状態になってゲル状潤滑剤3に変化する。潤滑油としては,40℃における動粘度が100cSt〜680cSt(=mm2 /s,センチストークス)の鉱油又は合成油を使用する。ゲル状潤滑剤3は,液状即ちゾルの潤滑油の中で,ゲル化剤がナノサイズの繊維状ネットワークを形成して潤滑油をゲル化している。ゲル状潤滑剤3は,剪断力が加わることによって,ゲルを構成する繊維状ネットワークの結合が壊れて流動性が増すので,外部から軸受に加わる回転力等によって剪断力が加わることで,ゲル状潤滑剤3は流動性が増し,総ころ軸受の潤滑性能を維持して低い回転トルクで外輪1を相対回転させることができる。
【0020】
ローラ2とゲル状潤滑剤3とを外輪1の内周側に配列するには,次の工程を行えば製作できる。まず,ローラ2とゲル化油即ちゲル状潤滑剤3とを混合し,次いで,ローラ2を外輪1の内周面5に予め決められた間隔で順次配列して組み込む。更に,ローラ2間やローラ2と外輪1の隙間7にゲル状潤滑剤3を充填し,次いで,130℃〜150℃に保温させたオーブンに入れ,例えば,20分間以上ゲル状潤滑剤3を加熱させる。次いで,これをオーブンから取り出し,空冷してゲル化させ,外輪1に付着した余分なゲル状潤滑剤3を除去して成形し,総ころ軸受を完成させる。ローラ2を外輪1の内周側に組み込む時には,ローラ2が倒れたり,外輪1から脱落しないので,作業性が良好であり,従来のグリースを用いるものに比較して作業性は同程度のものである。
【0021】
また,ゲル化剤と潤滑剤とを混合した混合液は,加熱後に冷却して流動性を失い,半固体化したゲル状潤滑剤3になると,ゲル状潤滑剤3は,転動体のローラ2を外輪1に保持するようになる。この総ころ軸受におけるゲル状潤滑剤3は,従来のグリースの付着力でローラを保持していたものと比較して,ローラ2の保持力が向上し,グリース保持タイプの約2倍以上の効果があり,総ころ軸受の取り扱い中のローラ2の脱落が発生し難くなる。ゲル状潤滑剤は,そのもの自体に剪断力が加わると,ゲル状潤滑剤3は流動性が増し,従来の固形潤滑剤を内蔵するタイプに比べて,軸受の運転中の回転トルクが低く,省エネルギーに貢献することになる。ゲル状潤滑剤3は,ローラ2とゲル化剤及び潤滑油が一体構造に成形される時に,ローラ2が外輪1に対して僅かに傾いてゲル状潤滑剤3と一体化されていても,従来の固形潤滑剤の保持構造と比べて,ゲル状潤滑剤3自体のローラ拘束力は弱いので,総ころ軸受が回転することによって,ゲル状潤滑剤3に剪断力が加わり,ゲル状潤滑剤3は流動性が増し,ローラ2が外輪1の内側に整列することができ,ローラ2が外輪1に対して僅かに傾いた状態で組み込まれてもその状態を無視することができる。
【0022】
また,この総ころ軸受では,外輪1にローラ2を配設してゲル状潤滑剤3を充填した状態で,内輪等の軸体6に組み付け,外輪1を軸体に対して相対回転させることによってゲル状潤滑剤3に剪断力を作用させれば,ゲル状潤滑剤3の流動性が増すが,潤滑油の動粘度を適正に調製しておけば,流動性が増したゲル状潤滑剤3は総ころ軸受に保持されており,総ころ軸受の潤滑機能を損ねることはない。しかしながら,この総ころ軸受は,場合によっては,総ころ軸受の潤滑機能が不十分になる可能性もあるので,潤滑機能を良好にするため,総ころ軸受の作動に先立って或いは作動の途中に,潤滑油を補給即ち供給できるように構成することもできる。その場合には,図示していないが,例えば,外輪1のフランジ部4に給油口を設けることによって総ころ軸受への給油が可能になる。なお,外輪1に設けた給油口は,通常,埋栓等の手段で塞いでいることが好ましいものである。
【0023】
また,この総ころ軸受の製造時に,外輪1の内周面5にローラ2を組み込む作業性は,現行のグリース保持タイプと同程度であり,少量のゲル化剤で繊維状ネットワークを形成できるので,同体積の場合には,従来の固形潤滑剤と比較して潤滑油成分が多くなる。この総ころ軸受は,ゲル状潤滑剤の使用温度範囲や,許容回転数について,従来の固形潤滑剤による保持構造のものに比べて汎用性がある。また,このゲル状潤滑剤を用いた総ころ軸受は,従来の固形潤滑剤での保持構造に比べて,大幅なコストダウンが見込めるものである。現行のグリース保持タイプの総ころ軸受は,図3に示されている。従来の総ころ軸受は,両端にフランジ部14をそれぞれ備えた外輪11の内周面15にローラ12を配設し,外輪11とローラ12との間及びローラ12間の隙間17にグリース13が充填されている。
【0024】
次に,図4〜図6を参照して,この総ころ軸受について,ローラ保持力の評価結果を説明する。
評価用の各試料は,図1及び図2に示す本発明構造であるゲル状潤滑剤3によるローラ2の保持の総ころタイプシェル形ニードルベアリングを実施例1〜実施例8とし,図3に示す従来構造であるグリース保持の総ころタイプシェル形ニードルベアリングを比較例1及び比較例2として示している。実施例1〜実施例8では,ゲル化剤が潤滑油に対していずれも5重量%が混合されているものである。
各試料における軸受の主要寸法は,内接円径17mm,外径24mm,幅20mmである。
本願発明の構造品では,外輪1の内周面5側において,ローラ2と半固体のゲル状潤滑剤3であるゲル化油とが一体化されている。
ゲル状潤滑剤3は,表1に記載されているように,40℃における異なる動粘度の潤滑油とゲル化剤とを混合した混合液を,加熱後冷却して固体化したものである。
ゲル状潤滑剤3を構成する混合液は,潤滑油に対して,5重量%の割合でゲル化剤を混合したものである。ゲル状潤滑剤3は,外輪1とローラ2との間及びローラ2間の隙間7に,及びローラ2の直径と同程度の厚みで充填されて固体化している。
【0025】
【表1】

【0026】
表1から分かるように,比較例1及び比較例2は,ローラ保持潤滑剤として鉱油から製造したグリースを用い,以下,動粘度は40℃の動粘度で示すが,比較例1は鉱油の動粘度が130cStであり,比較例2は鉱油の動粘度は1070cStである。
実施例1〜4は,ローラ保持潤滑剤として鉱油から製造したゲル状潤滑剤をそれぞれ用い,鉱油の動粘度がそれぞれ100cSt,220cSt,320cSt,460cStであり,実施例5〜8は,ローラ保持潤滑剤としてポリオレフィン系の合成油から製造したゲル状潤滑剤をそれぞれ用い,ポリオレフィン系の合成油の動粘度がそれぞれ150cSt,220cSt,460cSt,680cStである。
【0027】
この総ころ軸受の 評価方法は,試料のシェル外輪1,11の外形面8,18に,おもりを衝突させ,外輪1,11内のローラ2,12が外輪1,11から脱落するのに要するエネルギー即ち保持力から試料の評価をした。
評価に用いたおもりは,質量53.4g,直径約28mmの略球体である。
おもりの落下高さは,シェル外輪1の外形面より150mmの高さからおもりを2回連続して落下させ,10mmの間隔で高さを上げて試験をした。
ローラ2が外輪1から脱落した時のおもりの高さから位置エネルギーを求め,本発明品と従来品のグリース保持品との比較を行った。
【0028】
図4には,本願発明品の実施例1〜実施例8と,比較例1及び比較例2とのローラ保持力評価結果が示されている。
図4では,横軸に各試料(比較例1,2,及び実施例1〜8)が列記され,縦軸にローラ保持力の比率を示している。
ローラ保持力評価結果は,実施例1〜8では,150℃で15分間加熱し,冷却してゲル化剤を半固体化したゲル状潤滑剤3に生成し,比較例1,2では,グリースでローラを保持したものである。
比較例1を比率1として,比較例2は比率1.7であった。比較例2では,用いた鉱油の40℃の動粘度が1070cStであり,外輪の内輪等の軸体に対する相対回転が高抵抗となり,ローラの保持力があっても,実用的でないことを示している。
実施例1,2,7,8は比率1.7であり,実施例5は比率1.6であり,実施例6は比率1.8であり,実施例3は比率2.2であり,実施例4は比率2.6であった。
【0029】
また,図5には,本願発明品の実施例3,実施例4,実施例7及び実施例8のローラ保持力評価結果が示されている。実施例3,実施例4,実施例7及び実施例8の試験では,いずれも150℃で,10分間,15分間,20分間加熱して冷却してゲル状潤滑剤にして試験を行った。
実施例3では,保持力は比率が10分間で2.2,15分間で2.2,及び20分間で2.1であった。
実施例4では,保持力は比率が10分間で1.4,15分間で2.6,及び20分間で2.5であった。
実施例7では,保持力は比率が10分間で1.3,15分間で1.7,及び20分間で1.5であった。
実施例8では,保持力は比率が10分間で1.5,15分間で1.7,及び20分間で1.7であった。
即ち,いずれもローラの保持力がグリースのものに比較して良好であることが分かる。
【0030】
また,図6には,本願発明品の実施例3,実施例4,実施例7及び実施例8のローラ保持力評価結果が示されている。実施例3,実施例4,実施例7及び実施例8の試験では,いずれも15分間にわたって,130℃,及び150℃で加熱して冷却してゲル状潤滑剤にして試験を行った。
実施例3では,保持力は比率が130℃で2.1であり,150°で2.2であった。 実施例4では,保持力は比率が130℃で2.2であり,150°で2.6であった。 実施例7では,保持力は比率が130℃で1.8であり,150°で1.7であった。 実施例8では,保持力は比率が130℃で2.1であり,150°で1.7であった。 即ち,いずれもローラの保持力がグリースのものに比較して良好であることが分かる。
【0031】
固体化したゲル状潤滑剤3でなる固形潤滑剤は,基油の動粘度,成形温度,加熱時間,成形時の治具の有無により差はあるが,グリースの粘着力だけでローラを保持する仕様の製品の保持力と比較して,約1.3倍から2.6倍の保持力となることが確認された。
試験の結果から,実施例4である鉱油である潤滑油は,動粘度460cSt(センチストークス)であり,加熱温度が150℃で15分加熱することによって固体化したものが,最も高いローラ保持力を有することが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0032】
この発明によるころ保持用のゲル状潤滑剤を充填した総ころ軸受は,内輪等を構成する軸体を持つ各種の装置における軸受に組み込んで利用して好ましいものである。
【符号の説明】
【0033】
1 外輪
2 ローラ(転動体)
3 ゲル状潤滑剤
4 外輪フランジ部
5 外輪の内周面
6 軸体(内輪)
7 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外輪と前記外輪の内周側に配列された複数の転動体であるローラとを備えた総ころ軸受において,
前記ローラ間及び前記外輪と前記ローラとの間の隙間には,前記ローラを前記外輪内に保持するため,潤滑油とゲル化剤の混合物からなる半固体化したゲル状潤滑剤が充填されていることを特徴とするころ保持用のゲル状潤滑剤を充填した総ころ軸受。
【請求項2】
前記混合物は,前記潤滑油に対して前記ゲル化剤を4重量%〜10重量%の割合で混合して,前記ローラを前記外輪の内周側に保持することができる半固体化した前記ゲル状潤滑剤に調製されていることを特徴とする請求項1に記載の総ころ軸受。
【請求項3】
前記潤滑油は,40℃における動粘度が100cSt〜680cStの鉱油又は合成油であることを特徴とする請求項1又は2に記載の総ころ軸受。
【請求項4】
前記ローラを保持する前記ゲル状潤滑剤は,前記外輪に対して軸体が相対回転することによってせん断力が加わって,流動性が増した潤滑剤になることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の総ころ軸受。
【請求項5】
前記ゲル状潤滑剤は,前記転動体である前記ローラ間及び前記外輪と前記ローラとの間の前記隙間に配置されて,前記外輪の内周側から回転中心方向に前記ローラの直径と同等のサイズの厚みに延びて成形されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の総ころ軸受。
【請求項6】
前記ゲル化剤は,酸性アミノ酸であるグルタミン酸を主骨格とした油ゲル化剤であって,ジブチルエチルヘキサノイルグルタミドで構成された有機化合物であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の総ころ軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−189161(P2012−189161A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−53984(P2011−53984)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(000229335)日本トムソン株式会社 (96)
【Fターム(参考)】