説明

ごぼう由来抽出物の抽出方法、二次胆汁酸抑制剤、IgA産生促進剤、ムチン産生促進剤および免疫賦活食品

【課題】二次胆汁酸の抑制、ムチンの産生促進、IgAの産生促進および免疫の賦活を行うことのできるごぼう由来抽出物を抽出するためのごぼう由来抽出物の抽出方法、二次胆汁酸抑制剤、IgA産生促進剤、ムチン産生促進剤および免疫賦活食品を提供する。
【解決手段】本発明に係るごぼう由来抽出物の抽出方法は、ごぼうをブランチングし、ブランチングした前記ごぼうの皮むきを行ない、皮むきを行った前記ごぼうをカットし、カットした前記ごぼうを30〜70℃で乾燥し、乾燥した前記ごぼうを132〜240℃で焙煎し、焙煎した前記ごぼうを熱水に浸けてごぼう由来抽出物を抽出するものである。また、かかるごぼう由来抽出物の抽出方法により抽出したごぼう由来抽出物を有効成分とする二次胆汁酸抑制剤、IgA産生促進剤、ムチン産生促進剤、または免疫賦活食品とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ごぼうから抽出したごぼう由来抽出物を有効成分とする製剤に関し、より具体的には、ごぼう由来抽出物の抽出方法、これにより抽出されたごぼう由来抽出物を有効成分とする二次胆汁酸抑制剤、IgA産生促進剤、ムチン産生促進剤および免疫賦活食品に関する。
【背景技術】
【0002】
現代の食生活は欧米化が進み、高脂肪・低食物繊維食の傾向が強くなっている。それに伴って肥満などの生活習慣病の増加が問題になっている。また、近年、このような食事の欧米化により、大腸がんや炎症性腸疾患などの大腸疾病の発症率も年々増加しており、その原因の一つとして高脂肪食が指摘されている。
【0003】
高脂肪食を摂取すると胆汁酸の分泌量が増加し、胆汁酸が化学変化した二次胆汁酸の分泌量も増加する。図4は、一次胆汁酸から二次胆汁酸への代謝を説明するフロー図であるが、この図4を参照して大腸がんや炎症性腸疾患などの大腸疾病となる1つのモデルについて説明する。
高脂肪食を摂取すると、これを消化して吸収するために小腸に胆汁が分泌される。この胆汁に含まれる胆汁酸の一部が大腸へ移行し、図4に示すように、腸(Intestine)内の悪玉菌(Intestinal bacteria)によって二次胆汁酸(Secondary bile acids)に変換される。この二次胆汁酸には強い毒性があり、腸粘膜の炎症をもたらすことやDNAに損傷を与えること、がん細胞の増殖を促進し、大腸がんや大腸炎などの疾病を引き起こすことなどが報告されている。また、二次胆汁酸の中ではリトコール酸の毒性が最も高いこと、二次胆汁酸の引き起こす影響は大腸がんだけではなく、肝がん、すい臓がん、および胆管がんの発症を促進することも報告されている。そのため、大腸疾病を予防するために、二次胆汁酸の抑制が重要であると考えられている。
【0004】
そのような中、最近、広島大学のHanらは、クルクミン、カフェ酸、カテキン、ルチンなどのポリフェノールが大腸内の二次胆汁酸を抑制させることを明らかにし、ポリフェノールによる大腸疾病予防の可能性を指摘している(非特許文献1)。
【0005】
また、最近、(株)あじかんの井上らはごぼうを焙煎することにより、抗酸化指標であるORAC(Oxygen Radical Absorbance Capacity:活性酸素吸収能力)値が増大することを報告している(非特許文献2)。この非特許文献2には、国内産ごぼうを、蒸気加熱(ブランチング)後にカットし、乾燥した後、さらに130〜180℃で焙煎を行う旨が記載されている。かかる方法によって焙煎されたごぼうのORAC値は、計算上、30100であったのに対し、生のままのごぼうのORAC値は2170、ブランチングしたのみの段階では5780、焙煎前の乾燥した段階では20700であったと報告されている。また、かかる方法によって焙煎したごぼうを用いて淹れた茶外の茶には、イヌリンやフラクトオリゴ糖などの食物繊維も含まれることが報告されている。なお、茶外の茶とは、茶の木(Camellia sinensis)の葉ではないものから作られる茶をいう。
【0006】
大腸がんや炎症性腸疾患などの大腸疾病の原因は二次胆汁酸だけではない。ウィルス、細菌、寄生虫、病原性抗原、食物抗原などの多くの物質も原因となり得る。ヒトは、これらの物質を摂取した場合であっても、腸内における物理的なバリアー機能による腸管内への侵入防止と、腸管内に侵入された場合であっても生物的なバリアー機能による排除と、によって健康を維持している。腸内の物理的なバリアー機能にはムチンと呼ばれる糖タンパク質を主成分とする粘液が大きく関与し、生物的なバリアー機能にはIgAなどの免疫機能が大きく関与している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Han Y, Haraguchi T, Iwanaga S, Tomotake H, Okazaki Y, Mineo S, Moriyama A, Inoue J, Kato N. Consumpiton of some polyphenols reduces fecal deoxycholic acid and lithocholic acid, the secondary bile acids of risk factors of colon caner. J Agric Food Chem. Vol. 57: P. 8587-8590, 2009
【非特許文献2】井上ら、日本調理科学会大会研究発表要旨集 Vol. 21: P. 1086, 2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
二次胆汁酸の抑制、ムチンの産生促進、IgAの産生促進、つまり免疫の賦活は、大腸がんや炎症性腸疾患などの大腸疾病の予防や治療に大いに役立つと考えられるが、これらを食餌によりコントロールするのは容易ではないという問題がある。
【0009】
本発明は前記問題点に鑑みてなされたものであり、二次胆汁酸の抑制、ムチンの産生促進、IgAの産生促進および免疫の賦活を行うことのできるごぼう由来抽出物を抽出するごぼう由来抽出物の抽出方法と、これにより抽出されたごぼう由来抽出物を有効成分とする二次胆汁酸抑制剤、IgA産生促進剤、ムチン産生促進剤および免疫賦活食品とを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者は、高脂肪食条件下、ごぼうから抽出したごぼう由来抽出物を含有するごぼう抽出液をラットに摂取させ、糞中胆汁酸の分析をした結果、特定の条件で抽出したごぼう抽出液の摂取がIgAやムチンを増加させ、大腸がんの危険因子であるリトコール酸(二次胆汁酸)を減少させ、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
前記課題を解決した請求項1に記載の発明は、ごぼうをブランチングし、ブランチングした前記ごぼうの皮むきを行ない、皮むきを行った前記ごぼうをカットし、カットした前記ごぼうを30〜70℃で乾燥し、乾燥した前記ごぼうを132〜240℃で焙煎し、焙煎した前記ごぼうを熱水に浸けてごぼう由来抽出物を抽出することを特徴とする。
【0012】
このように、ブランチングと皮むきとカットとを行ったごぼうに対して30〜70℃で乾燥を行ない、さらに、132〜240℃で焙煎を行ったごぼうを用いて熱水に浸すことにより、ごぼうに含まれている糖質、フラクトオリゴ糖を含んだ水溶性食物繊維、ポリフェノールなどの成分を、抽出物(ごぼう由来抽出物)として抽出することができる。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のごぼう由来抽出物の抽出方法によって抽出したごぼう由来抽出物を有効成分とする二次胆汁酸抑制剤である。
【0014】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載のごぼう由来抽出物の抽出方法によって抽出したごぼう由来抽出物を有効成分とするIgA産生促進剤である。
【0015】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載のごぼう由来抽出物の抽出方法によって抽出したごぼう由来抽出物を有効成分とするムチン産生促進剤である。
【0016】
請求項5に記載の発明は、請求項1に記載のごぼう由来抽出物の抽出方法によって抽出したごぼう由来抽出物を有効成分とする免疫賦活食品である。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に記載の発明によれば、ブランチングと皮むきとカットとを行った後、30〜70℃で乾燥し、さらに132〜240℃で焙煎し、熱水に浸すことによりごぼう由来抽出物を抽出することができる。そして、このごぼう由来抽出物により二次胆汁酸の抑制、ムチンの産生促進、IgAの産生促進および免疫の賦活を行うことができる。
【0018】
また、請求項1に記載の発明によれば、30〜70℃で乾燥するため、早期にごぼう中の水分を除去することができ、その結果、ポリフェノールオキシダーゼによるポリフェノール成分の酸化減少を抑制することができる。また、乾燥温度が適切であるので、色、味、風味といった官能を優れたものとすることができる。さらに、請求項1に記載の発明によれば、132〜240℃で焙煎するので、土臭さ、泥臭さ、苦味がなく、甘さ、香ばしさに富むものとすることができる。
したがって、請求項1に記載の発明は、ブランチングと皮むきとカットとを行い、前記した条件で乾燥と焙煎を行ったごぼうを用いて茶外の茶(ごぼう茶)として淹れた場合に、二次胆汁酸の抑制、ムチンの産生促進、IgAの産生促進および免疫の賦活といった作用を奏することができるとともに、ごぼう茶として飲食したときに味、風味、色、などの官能に優れたものとすることができる。
【0019】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載のごぼう由来抽出物の抽出方法によって抽出したごぼう由来抽出物を有効成分として含んでいるので、二次胆汁酸を抑制することができる。
【0020】
請求項3に記載の発明によれば、請求項1に記載のごぼう由来抽出物の抽出方法によって抽出したごぼう由来抽出物を有効成分として含んでいるので、IgAの産生を促進させることができる。
【0021】
請求項4に記載の発明によれば、請求項1に記載のごぼう由来抽出物の抽出方法によって抽出したごぼう由来抽出物を有効成分として含んでいるので、ムチンの産生を促進させることができる。
【0022】
請求項5に記載の発明によれば、請求項1に記載のごぼう由来抽出物の抽出方法によって抽出したごぼう由来抽出物を有効成分として含んでいるので、免疫を賦活することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】表3に記載した各群間における最終体重(Final body wt (g))を示すグラフである。
【図2】(a)〜(d)はそれぞれ、表6に示した糞中パラメーターのうち、各群間における糞の重量(Fecal wet wt (g/3 d))、糞中の水分(Fecal water (%))、糞中のIgA量(Fecal IgA (mg/3 d))、および糞中のムチン量(Fecal Mucin (mg/3 d))をグラフ化したものである。
【図3】(a)〜(d)はそれぞれ、表8に示した糞中胆汁酸組成のうち、各群間におけるリトコール酸(Lithocholic acid)量(μmol/g)、デオキシコール酸(Deoxycholic acid)量(μmol/g)、ヒオデオキシコール酸(Hyodeoxycholic acid)量(μmol/g)、およびコール酸(Cholic acid)量(μmol/g)をグラフ化したものである。
【図4】一次胆汁酸から二次胆汁酸への代謝を説明するフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の一実施形態に係るごぼう由来抽出物の抽出方法、二次胆汁酸抑制剤、IgA産生促進剤、ムチン産生促進剤および免疫賦活食品について詳細に説明する。
【0025】
本発明の一実施形態に係るごぼう由来抽出物の抽出方法は、ごぼうをブランチングし、ブランチングした前記ごぼうの皮むきを行ない、皮むきを行った前記ごぼうをカットし、カットした前記ごぼうを30〜70℃で乾燥し、乾燥した前記ごぼうを132〜240℃で焙煎し、焙煎した前記ごぼうを熱水に浸けてごぼう由来抽出物、つまり、ごぼう由来の抽出成分を抽出するものである。
【0026】
ブランチングは、ごぼうに含まれる多糖類を分解し、フルクトースやイヌリン、フラクトオリゴ糖などを得るために行うものである。
ブランチングは、蒸すことにより行うことができるがこれに限定されるものではない。例えば、焙焼、湯浴、焙煎、温蔵庫や蒸し庫で加熱することなどによっても行うことができる。
また、ブランチングの処理温度および処理時間は、甘みの強弱など消費者の嗜好に合わせて任意に設定することができる。
【0027】
例えば、ブランチングの処理温度を35℃とした場合は処理時間を180分間などとし、ブランチングの処理温度を95℃とした場合は処理時間を5分間などとすることができる。
ブランチングの処理温度が低く、処理時間を短くすると、多糖類の分解があまり行われないため、フルクトースの生成量が少なくなり、甘みが弱くなる。一方、ブランチングの処理温度が高く、処理時間が長くなると、多糖類の分解が多く行われるため、フルクトースの生成量が多くなり、甘みが強くなる。
なお、ブランチングの処理温度と処理時間は、処理量と設備によっても異なるが、大型の蒸し庫であれば処理温度を40〜90℃とするのが好ましく、75〜90℃とするのがより好ましい。処理時間は10〜180分間とするのが好ましい。
【0028】
ごぼうの皮むきおよびカットは、ごぼうの乾燥と焙煎を行い易くするとともに、熱水による抽出を容易とするために必要な工程である。
ごぼうの皮むきおよびカットは、市販の自動野菜加工機、例えば、ごぼう皮むき機や電動ごぼう切り機などで行うことができる。ごぼうの皮むきは、ごぼうの外皮を除去できればよく、ごぼうのカットは、薄切り、輪切り、半月切り、いちょう切り、短冊切り、斜め切り、ささがきなどとすることができればよい。これらはもちろん、作業員の手によって行うこともできる。
【0029】
次いで行うごぼうの乾燥は、ポリフェノールオキシダーゼによるポリフェノール成分の酸化減少を抑制し、ORAC値を高く維持するためと、色、味、風味といった官能を優れたものにするために行うものである。
ごぼうの乾燥は、前記したように30〜70℃で行う。乾燥は、天日干し、熱風乾燥など適宜の方法により行うことができる。ここで、乾燥温度が30℃未満であると、乾燥が不十分となるおそれがあり、ごぼうに含まれるポリフェノールオキシダーゼによるポリフェノール成分の酸化減少が促進するので好ましくない。また、黒っぽい褐色を呈し、酸味が強く、風味は生臭くなるため、官能の点で好ましくない。一方、乾燥温度が70℃を超えると乾燥し過ぎてしまい、メイラード反応が促進して黒っぽい褐色を呈し、えぐみと酸味が強くなる傾向にあり、官能の点で好ましくない。また、ポリフェノール成分の酸化による減少が促進されるので好ましくない。なお、乾燥温度は40〜60℃とするのがより好ましく、50℃程度とすると明るい褐色を呈し、甘みおよび香りもよく、ポリフェノール成分の含有量が高くなるのでさらに好ましい。
【0030】
乾燥時間は、前記した温度範囲であれば、例えば、30分間から8時間、より好ましくは5〜6時間行えばよいが、所望の効果を奏するようにごぼうを乾燥することができれば特にこれに限定されるものではない。ただし、時間がかかるほどごぼうの酸化が進み、酸味が強くなる傾向にあるため、なるべく短時間で行った方がよい。
【0031】
なお、ごぼうの乾燥は、水分率が2〜15%になるまで行うのがよい。水分率がこの範囲にあればポリフェノールオキシダーゼによるポリフェノール成分の酸化減少を抑制することや、ORAC値を高く維持すること、色、味、風味といった官能を優れたものとすることが可能である。一方、水分率が15%を超えると、乾燥が不十分となるおそれがあり、ごぼうに含まれるポリフェノールオキシダーゼによるポリフェノール成分の酸化減少が促進するので好ましくない。また、色は黒っぽい褐色を呈し、酸味が強く、風味は生臭くなるため、官能の点で好ましくない。
【0032】
次いで行うごぼうの焙煎は、土臭さ、泥臭さ、甘さ、苦味、香ばしさなどの官能を優れたものとするために行うものである。つまり、土臭さ、泥臭さ、苦味がなく、甘さ、香ばしさに富むものとするために行うものである。
ごぼうの焙煎は、前記したように132〜240℃で行う。焙煎は、例えばガス式焙煎機(ニチモウ(株)製RC−1)などにより行うことができる。ここで、焙煎温度が132℃未満であると、焙煎が不十分となり、焙煎香(ロースト香)が得られず、ごぼうの生臭み(土臭さ、泥臭さ)が残ってしまうので好ましくない。一方、焙煎温度が240℃を超えると乾燥し過ぎてしまい、コゲ臭の発生と、炭化が進むため苦味が強くなり過ぎてしまう。また、クロロゲン酸などのポリフェノール成分や総食物繊維、オリゴ糖などが高温により減少するので好ましくない。なお、ORAC値を高く維持する点および官能の点から、焙煎温度は180℃を超え240℃以下とするのがより好ましい。
【0033】
焙煎時間は、前記した温度範囲であれば、5〜15分間程度行えばよいが、所望の効果を奏するようにごぼうを焙煎することができれば特にこれに限定されるものではない。なお、ごぼうの焙煎は、香り、風味がより増強され、水分が5%以下となればよい。
【0034】
次いで行う熱水によるごぼう由来抽出物の抽出は、例えば、85〜95℃の熱水を用いて行うことができる。抽出時間は、5〜10分間程度とすることができるが、適宜にこれよりも長くしたり、短くしたりしてもよい。
【0035】
このようにして抽出されるごぼう由来抽出物としては、例えば、果糖、ブドウ糖、ショ糖などの糖質、アルギニンなどのアミノ酸、1−ケストース、ニストース、フラクトフラノシルニストースなどのフラクトオリゴ糖、食物繊維(イヌリン、オリゴ糖、リグナン)などが挙げられる。また、カフェ酸、クエルセチン、リグナンなどのポリフェノールおよびこれらの誘導体も含有され得る。なお、カフェ酸の誘導体としては、例えば、クロロゲン酸、ネオクロロゲン酸、クリプトクロロゲン酸、イソクロロゲン酸、トリカフェオイルキナ酸、ロスマリン酸などを挙げることができる。クエルセチンの誘導体は、配糖体としてクエルシトリン、イソクエルシトリン、クエルシメリトリン、アビクラリン、ヒペリン、レイノウトリン、クエルシツロン、ルチン等がある。リグナンの誘導体は、アルクチゲニンやジアルクチゲニン、アルクチイン、lappaol A〜F、isolappaol Cなどがある。
なお、前記したもの以外にも、ブランチング、皮むき、カット、乾燥、焙煎および熱水での抽出のうちの少なくとも1つの工程により生成し、または増加した成分がごぼう由来抽出物として含有され、かかる成分により二次胆汁酸の抑制、ムチンの産生促進、IgAの産生促進、免疫の賦活といった効果を奏している可能性もある。
【0036】
ごぼう由来抽出物は熱水にて抽出した後、必要に応じて当該熱水をろ紙やろ過フィルターなどを用いてろ過してもよい。このようにすれば、ごぼう由来抽出物を含有し、かつ濁りがなく清らかな溶液を得ることができる。さらに、熱水にて抽出したごぼう由来抽出物は、ろ過しないまま、または、ろ過した後に、加温したり、乾燥条件下や減圧条件下においたりして水分を除去し、固形物や粉末物、結晶物などとしてもよい。
【0037】
このようにして熱水中に抽出されたごぼう由来抽出物は、後記する[実施例]で説明するように、二次胆汁酸の産生を抑制する効果と、ムチンの産生を促進する効果とを有するとともにIgAの産生を促進する効果を有している。そのため、免疫を賦活化する効果を有しているといえる。
したがって、前記した抽出方法によって抽出したごぼう由来抽出物を有効成分とする薬剤や機能性飲食料品は、前記した効果を奏することが期待できる。
【0038】
このような薬剤としては、二次胆汁酸抑制剤、IgA産生促進剤、ムチン産生促進剤、免疫賦活剤を挙げることができる。これらの薬剤は、前記した抽出方法でごぼう由来抽出物を抽出した熱水を必要に応じてろ過や乾燥等した後、適宜の形態に製剤し、任意の投与形態で投与することができる。投与形態としては、経口、経腸、経粘膜、注射などが挙げられる。経口投与のための製剤の剤型としては、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤などが挙げられる。非経口投与としては、静脈内注射、筋肉注射剤、坐剤、吸入薬、経皮吸収剤、点眼剤、点鼻剤等が挙げられる。
【0039】
また、かかる薬剤では、二次胆汁酸抑制剤、IgA産生促進剤、ムチン産生促進剤、若しくは免疫賦活剤を単独で、または他の薬学的に許容される担体と組み合わせて使用することができる。かかる担体としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、希釈剤、浸透圧調整剤、pH調整剤、乳化剤、防腐剤、安定剤、酸化防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、保湿剤、増粘剤、光沢剤、活性増強剤、抗炎症剤、殺菌剤、矯味剤、矯臭剤、増量剤、界面活性剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、香料、被膜剤などが挙げられる。
【0040】
前記した機能性飲食料品としては、二次胆汁酸抑食品、IgA産生促進食品、ムチン産生促進食品、免疫賦活食品を挙げることができる。機能性飲食料品は、飲料品(機能性飲料品)であってもよく、また、食料品(機能性食料品)であってもよい。飲料品としては、前記した抽出方法でごぼう由来抽出物を抽出した熱水(ごぼう抽出液)をそのまま飲用するごぼう茶や、かかる熱水を必要に応じてろ過等し、ボトリングしたペットボトル飲料、缶飲料、あるいはスープなどを挙げることができる。また、食料品としては、前記した抽出方法でごぼう由来抽出物を抽出した熱水をそのまま、あるいは必要に応じて乾燥等して得た固形物や粉末物とした上で混合したパン、菓子、惣菜などを挙げることができる。
【実施例】
【0041】
次に、本発明のごぼう由来抽出物の抽出方法、二次胆汁酸抑制剤、IgA産生促進剤、ムチン産生促進剤および免疫賦活食品について実施例を示して具体的に説明する。
【0042】
<第1実施例>
[ごぼう由来抽出物の抽出]
ごぼう由来抽出物を抽出して実験動物に投与するため、当該ごぼう由来抽出物を含有する飲料としてごぼう抽出液を製造した。
ごぼう抽出液は、ごぼうを水洗いした後、50℃で15分間のブランチングを行い、ごぼうを水冷した後、皮むきとカット(2mm×2mm×20mm)を行った。次いで、カットしたごぼうを熱風乾燥機にて50℃で8時間熱風乾燥し、180℃で13分間焙煎した。
そして焙煎したごぼうを、2.8%(w/v)の濃度で、90℃、10分間の熱水抽出を行い、ろ過したものを供試サンプルとした。
【0043】
製造したごぼう抽出液の食物繊維およびフラクトオリゴ糖の成分分析を行った。食物繊維の成分分析は日本食品分析センターに依頼し、酵素−HPLC法にて分析してもらった。フラクトオリゴ糖については、HPLC法により、1−ケストース(GF2)、ニストース(GF3)、フラクトフラノシルニストース(GF4)について分析した。製造したごぼう抽出液の食物繊維およびフラクトオリゴ糖の成分の分析結果を下記表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
表1に示すとおり、製造したごぼう抽出液は、100ml当たり1.3gの食物繊維を含み、フラクトオリゴ糖である1−ケストース、ニストース、フラクトフラノシルニストースを含有していた。また、総ポリフェノール量がクロロゲン酸当量で100ml当たり0.157g含んでいた。
【0046】
[動物飼育]
実験動物としてSD(Sprague-Dawley)系雄ラット(3週齢、初体重40−50g、Charles River Japan Inc.社製)を用いた。実験動物の飼育は、広島大学の実験動物取扱規程に準じて行った。具体的には、ステンレス製ケージに1匹ずつ入れ、12時間明暗交代(8:00〜20:00明、20:00〜翌朝8:00暗)の恒温環境(24℃±1℃)で飼育した。予備飼育期間は7日間とし、市販の固形飼料(MF、オリエンタル酵母社製)、および脱イオン水を自由に摂取させた。予備飼育後、ラットは3群(8匹/1群)に分け、30%牛脂の高脂肪食の条件下で一定量の制限食(下記表2参照)とし、脱イオン水、ごぼう抽出液、およびごぼうからのポリフェノール抽出物(以下、「ごぼうポリフェノール」と略)(ごぼう抽出液相当量:0.157%)を自由に摂取させて、21日間飼育した。実験食は、1日目に9g、2−4日目に10g、5−7日目に12g、8−13日目に14g、および14−21日目に15gを毎日定刻(19:00)にラットに与えた。いずれも翌朝までに食べきる量を与えた。体重は毎朝定刻(10:00)に測った。飼育最後の3日間に糞を採取した。糞の湿重量を測定し、12時間凍結乾燥後、乳鉢を用いて磨り潰した。乾燥糞は、−30℃で冷凍保存し、糞中IgAおよび糞中ムチンの分析を行った。
飼育終了日の午前(8:00)に餌を抜き取り、12時頃に体重を測り、午後(13:00〜15:00)にジエチルエーテル麻酔下で断頭屠殺を行い、血液、肝臓、および盲腸内容物を速やかに採取した。盲腸内容物の一部からは、DNA抽出を行った。血液は採取後、氷の中で2〜3時間放置した後に4℃で2000×g、20分間遠心分離し、得られた血清を−80℃で冷凍保存した。
【0047】
【表2】

【0048】
[分析方法]
(1)糞中IgA測定方法
糞中IgAの測定は、Sharmaらの方法(Sharma A, Honma K, Evans RT, Hruby DE, Genco RJ. Oral Immunization with Recombinant Streptococcus gordoni Expressing Porphyromonas gingivalis FimA Domains. Infection and Immunity. 69: 2928-2934, 2001)に従って以下のようにして行った。
【0049】
(IgAの抽出)
乾燥糞(0.1g)に40倍量のトリプシンインヒビター(0.1mg/ml、大豆由来、和光純薬社製)、EDTA(50mM)、フェニルメチルスルフォニルフルオライド(PMSF、1mM)を含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS、pH7.2)を加えた。試験管ミキサーで1分間攪拌後、4℃で一晩静置した。その後、4℃、9000×gで10分遠心分離し、上清を回収し、IgA測定用サンプルとした。得られたサンプルは、測定まで−30℃で冷凍保存した。
【0050】
(IgA量の測定)
IgA量の測定は、Rat IgA ELISA Quantitation Kit(BETHYL社製)を用いたELISA法によって行った。抗原としてヤギ抗ラットIgA抗体を使用し、0.05M 炭酸カルシウム緩衝液(pH9.6)で1μl抗原原液/0.1ml濃度となるように希釈した。この希釈溶液を96穴プレートの各ウェルに100μl入れ、4℃で一晩静置させて抗原処理を行った。翌日、各ウェルを洗浄液(0.05%Tween20、50mM Tris緩衝液、0.14M NaCl、pH8.0)で3回洗浄し、各ウェルに、1%BSAを含む50mM Tris緩衝液、0.14M NaCl溶液(pH8.0)200μlを加え、マイクロプレートミキサーで攪拌後、室温(20℃−25℃)で30分間ブロッキングした。サンプルまたはラットIgA抗体の標準液を、希釈液(1%BSA、0.05%Tween20、50mM Tris緩衝液−0.14M NaCl、pH8.0)で希釈した。各ウェルを洗浄液で3回洗浄後、サンプルおよびラットIgA抗体の標準品100μlを加え、マイクロプレートミキサーで攪拌後、室温(20〜25℃)で1時間インキュベートした。各ウェルを洗浄液で5回洗浄後、2次抗体として、希釈したHRP標識ヤギ抗ラットIgA抗体液を100μl加え、マイクロプレートミキサーで攪拌後、室温(20〜25℃)で1時間インキュベートした。各ウェルを洗浄液で5回洗浄後、0.4mg/ml濃度のOPD(和光純薬社製)と0.026%H22を含む0.1M クエン酸リン酸緩衝液(pH5.0)を加えアルミホイルで遮光しながら室温(20〜25℃)で15分間反応させた。反応後、2M H2SO4を100μl加えて反応を停止し、450nmにおける吸光度をマイクロプレートリーダーにより測定した。
【0051】
(2)糞中ムチン測定方法
(糞中ムチンの抽出その加水分解)
糞中ムチンの抽出はBovee-Oudenhovenらの方法(Bovee-Oudenhoven IM, Termont DS, Heidt PJ, Van der Meer R. Increasing the intestinal resistance of rats to the invasive pathogen Salmonella enteritidis: additive effects of dietary lactulose and calcium. Gut. 40: 497-504, 1997)に従って次のように行った。
【0052】
乾燥糞0.10gをマイクロテストチューブ(エッペンドルフ社製)に採取し、1.5mlのリン酸緩衝生理食塩水を加え、試験管ミキサーで1分間攪拌した。その後、腸内細菌のグリコシダーゼを失活させるため95℃で10分加温し、ムチンを可溶化させるため、さらに37℃で90分間インキュベーションした。インキュベーション後、4℃、20000×gで15分間遠心分離し、上澄み0.2mlをマイクロテストチューブ(エッペンドルフ社製)に採取し、0.4M 酢酸緩衝液(pH4.75)を上澄みと同容量加えた。さらに10μlのアミログルコシダーゼ液(Sigma社製)を加え、50℃で20分間インキュベーションし、可溶性デンプンを完全に加水分解した。その後、混合物を冷却し、60%(v/v)の氷冷エタノール液を加え、−30℃で一晩放置した。放置後、4℃、2000×gで10分間遠心分離し、沈殿物を約2mlのリン酸緩衝生理食塩水に溶かし、ムチン測定用サンプルとした。
【0053】
糞中ムチンの測定は、Crowtherらの方法(Crowther RS, Wetmore RF. Fluorimetric assay of o-linked glycoproteins by reaction with 2-cyanoacetamide. Anal Biochem. 163: 170-174, 1987)に従って次のように行った。
【0054】
ムチン測定用サンプルを100μl採取し、120μlの0.6M CNA:0.15M NaOH(1:5,v/v)混合溶液を加え、100℃で30分間インキュベーションした。その後、0.6M ホウ酸緩衝液(pH8.0)を1ml加え、溶液を室温まで冷却し、島津分光光度計(励起波長336nm、測定波長383nm)を用いてムチンを定量した。糞中ムチンは、この操作過程でムチンから遊離したO−結合性オリゴ糖の量として定量し、標準溶液にはN−アセチルガラクトサミンを用いた。
【0055】
(3)腸内細菌の遺伝子解析
腸内細菌の遺伝子解析は、T−RFLP(Terminal Restriction Fragment Length Polymorphism)法(Liu W-T, Marsh T, Cheng H, Forney LJ. Characterization of microbial diversity by determining terminal restriction fragment length polymorphisms of genes encoding 16S rRNA. Appl. Environ. Microbiol. 63: 4516-4522, 1997))により行った。
なお、T−RFLP法とは、末端を蛍光標識したプライマーセットで鋳型DNAをPCR(Polymerase Chain Reaction)にて増幅し、制限酵素による消化後、フラグメント解析を行い、塩基配列の違いから制限酵素切断部位が異なることを利用し、検出ピークの強度、位置、数により評価・比較する断片多型性解析である。
【0056】
(盲腸内容物中の腸内細菌DNAの抽出)
腸内細菌叢の解析には、市販のキット(UltraCleanTM Fecal DNA Kit、Mo BIO Laboratories, Inc.社製)を用いて行った。このキットの原理は、ビーズ−フェノール法を用いて盲腸内容物のDNAを抽出するものである。まず、チューブのなかにサンプルとビーズを入れて振動させてビーズがサンプルにぶつかることで物理的に細菌の細胞壁を破壊し、さらに溶菌バッファーを加えて菌体を破砕する。次に、フェノール・クロロホルム抽出による不要なタンパク質を除去し、イソプロパノール沈殿を行った後、エタノールでリンスし、TEバッファーにDNAを溶解させることにより、盲腸内容物サンプルからDNAを抽出した。
【0057】
(盲腸内容物中の腸内細菌16SrDNAの解析)
前記したDNAの抽出の操作によって得られた盲腸内容物中の腸内細菌DNA抽出物を前記したT−RFLP法を用いて解析した。T−RFLP法による腸内細菌叢の解析は、細菌の16SrDNA遺伝子が標的となる。まず、末端を蛍光標識した共通のプライマーを用いて盲腸内容物中のDNAを増幅し、得られた16SrDNAを制限酵素で消化した後、キャピラリー電気泳動法を用いたDNAシークエンサーによって蛍光標識された末端を含むDNA断片(Terminal Restriction Fragment:T−RF)のみを検出する方法である。腸内フローラの構成菌種は16SrDNAの塩基配列が異なるため、制限酵素による切断部位は菌種固有のものとなる。これらの処理によって得られるT−RFに対応したピークの位置(断片長)、面積(菌数)および数(菌種の多様性)を解析することで糞便中の構成菌種およびその割合を推定する方法である。本発明では、各サンプルの細菌叢に由来する16SrDNA(16SrRNA)部分塩基配列のT−RFLP解析を行い、得られたデータに基づいてサンプル中の主要な分類群の推定およびクラスター解析によるサンプル間の比較を行った。
【0058】
T−RFLP解析の主な方法は長島らの方法およびCollinsらの方法(Nagashima K, Hisada T, Satou M, Mochizuki J. Application of New Prmer-Enzyme Combination to Terminal Restricition Fragment Length Polymorphism Profiling of Bacterial Populations in Human Feces. Appl. Environ. Micobiol. 69: 1251-1262, 2003、Nagashima K, Mochizuki J, Hisada T, Suzuti S, Shimomura K. Phylogenetic analysis of 16S ribosomal RNA gene sequences from Human fecal microbiota and improved utility of terminal restriction fragment length polymorphism profiling. Bioscience Microflora. 25: 99-107, 2006、Collins MD, Lawson PA, Willems A, Cordoba JJ, Fernandez-Garayzabal J, Garcia P, Cai J, Hippe H, Farrow JAE. The Phylogeny of the Genus Clostridium:Proposal of Five New Genera and Eleven New Species Combinations. Int. J. Syst. Bacteriol. 44: 812-826, 1994)に基づいて行った。
【0059】
なお、フラグメント解析にはABI PRISM 3130xl DNA Sequencer(Applied Biosystem, CA, USA)およびGeneMapper(Applied Biosystems, CA, USA)を使用した。各フラグメントの長さはoperational taxonomic unit(以下OUTと省略)で判断した。クラスター解析は、解析ソフトGene Maths(Applied Biosystems, CA, USA)を使用した。クラスタリングの方法は、Pearson correlation、UPGMA(非加重結合法(Unweighted Pair Group Method with Arithmetic mean)を選択した。
【0060】
(4)盲腸内有機酸
盲腸内容物の有機酸(コハク酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、イソ酪酸、酪酸、イソ吉草酸、吉草酸)の分析は、HPLC法で測定した。
【0061】
サンプル調製方法とHPLC分析条件は以下のとおりである。盲腸内容物200〜300mgを2.0mlマイクロテストチューブ(エッペンドルフ社製)に精秤し、10mM クロトン酸(10mM NaOHに溶解)を1.0ml加え、ホモジネート攪拌混合した。
【0062】
15000rpm、4℃の条件で10分間遠心分離して得られた上清を2.0mlマイクロテストチューブ(エッペンドルフ社製)に分取した後、0.8mlのクロロホルムを加え、30秒間振とうした。10000rpm、4℃の条件で15分間遠心分離を行い、上層500μlを1.5mlマイクロテストチューブ(エッペンドルフ社製)に分取した。
そして、除たんぱく処理のため、10%過塩素酸を50μl添加して混合し、HPLC分析まで−30℃で凍結させた。
【0063】
HPLCインジェクトの前に解凍し、15000rpm、4℃で10分間遠心分離した。上清をフィルター付きマイクロテストチューブ(Ultrafree-MC,エッペンドルフ社製)に採取し、0.22μmフィルターで遠心ろ過(5000rpm、4℃、5分間)し、10μlをインジェクトした。
【0064】
〔HPLC条件〕
カラム:Shim−pack SCR−102H(8.0mm I.D.×300mm)
ガードカラム:SCR−102H
移動相:5mM p−トルエンスルホン酸水溶液
流量:0.8 ml/min.
温度:40℃
(検出条件)
試薬:5mM p−トルエンスルホン酸水溶液および100μM EDTAを含む20m
M Bis−Tris水溶液
検出:電気伝導度検出器(Shimadzu CDD−10A)
ポンプ:Shimadzu(LC−20Aシリーズ)
【0065】
得られた測定値は平均値±標準誤差(SE)で表した。統計的有意性は、スチューデントのT検定により評価し、P<0.05の場合有意差有りとした。
【0066】
(5)血清グルコース測定法
血清グルコースの定量には、市販キット(グルコースCII−テストワコー、和光純薬社製)を用いて行った。このキットの測定方法は、グルコースオキシダーゼ(GOD)法である。試料に発色試液を作用させると、試料中のグルコースは発色試液中に含まれるムタロターゼの作用によりα型からβ形へすみやかに変換する。β−D−グルコースは、グルコースオキシダーゼ(GOD)の作用を受けて酸化され、同時に過酸化水素を生じる。生成した過酸化水素は、共存するペルオキシダーゼ(POD)の作用により発色試液中のフェノールと4−アミノアンチピリンを定量的に酸化縮合させ、赤色の色素を生成させる。この赤色の色素を505nmで比色定量し、得られた吸光度よりグルコース濃度を計算した。
【0067】
(6)血清トリグリセライド測定法
血清トリグリセライドの定量は、市販のキット(トリグリセライドE−テストワコー、和光純薬社製)を用いて行った。このキットの測定方法は、3,5−ジメトキシ−N−エチル−N−(2´−ヒドロキシ−3´−スルホプロピル)−アニリンナトリウム(DAOS)法である。
試料中のトリグリセライドは、リポプロテインリパーゼ(LPL)の作用によりグリセリンと脂肪酸に分解される。生成したグリセリンは、ATPの存在下でグリセロールキナーゼ(GK)の作用でグリセロール−3−リン酸になる。生成したグリセロール−3−リン酸は、グリセロール−3−リン酸オキシダーゼ(GPO)の作用を受けて酸化され、同時に過酸化水素を生じる。生成した過酸化水素は、ペルオキシダーゼ(POD)の作用によりDAOSと4−アミノアンチピリンを定量的に酸化縮合させ、青色の色素を生成させる。この青色の色素を600nmで比色定量し、得られた吸光度よりトリグリセライド濃度を計算した。
【0068】
(7)血清コレステロール測定法
血清コレステロールの定量には、市販キット(コレステロールE−テストワコー、和光純薬社製)を用いて行った。このキットの測定方法は、3,5−ジメトキシ−N−エチル−N−(2´−ハイドロキシ−3´−スルホプロピル)−アニリンナトリウム(DAOS)法である。
試料に発色試液を作用させると、試料中のコレステロールエステル類は、コレステロールエステラーゼの作用により遊離のコレステロールと脂肪酸に分解される。生成したコレステロールは、既存の遊離型コレステロールと共にコレステロールオキシダーゼの作用を受けて酸化され、同時に過酸化水素を生じる。生成した過酸化水素は、ペルオキシダーゼ(POD)の作用によりDAOSと4−アミノアンチピリンを定量的に酸化縮合させ青色の色素を生成させる。この青色の色素を600nmで比色定量し、得られた吸光度より総コレステロール濃度を計算した。
【0069】
(8)肝臓コレステロール測定法
肝臓脂質の定量にはFolchらの方法(Folch J, Lees M, Sloane S G.H. A simple method for the isolation and purification of total lipids from animal tissues. J. Biol. Chem. 226: 497-509, 1957)に従って次のようにして行った。
約1gの肝臓に4倍量の0.14M 塩化カリウム溶液を加え、ポッターエルビーエム型ホモジナイザーを用いて氷冷下でホモジナイズ(2000rpm、30〜60秒)した。このホモジネート液0.5mlを15mlファルコンチューブに採取し、クロロホルム:メタノール(2:1,v/v)混合溶液を8mlの標線まで加えて4℃で一晩放置した。放置後、ろ紙を用いてろ過し、ろ液3.5mlを遠心管に採取し、0.04%塩化カルシウム溶液を0.75ml加え、遠心(4℃、2000×g、10分)した。上清をパスツールピペットで注意深く除去した。続いて、クロロホルム:メタノール:水(3:48:47,v/v/v)混合溶液を0.75ml加え、遠心(4℃、2000×g、10分)した。遠心分離後、上述と同様に上清を除去し、メタノールを0.2ml加えて一層にした。そして、クロロホルム:メタノール(2:1,v/v)混合溶液を用いて、5mlにメスアップした。これを肝臓中総コレステロール測定用として0.2ml試験管に採取し、60℃でドライアップした。血清中の総コレステロールと同様に市販キット(コレステロール−テストワコー、和光純薬社製)を用いて測定した。
【0070】
(9)肝臓トリグリセライド測定法
肝臓脂質の定量にはFolchらの方法(Folch J, Lees M, Sloane S G.H. A simple method for the isolation and purification of total lipids from animal tissues. J. Biol. Chem. 226: 497-509, 1957)に従って次のようにして行った。
約1gの肝臓に4倍量の0.14M 塩化カリウム溶液を加え、ポッターエルビーエム型ホモジナイザーを用いて氷冷下でホモジナイズ(2000rpm、30〜60秒)した。このホモジネート液0.5mlを15mlファルコンチューブに採取し、クロロホルム:メタノール(2:1,v/v)混合溶液を8mlの標線まで加えて4℃で一晩放置した。放置後、ろ紙を用いてろ過し、ろ液3.5mlを遠心管に採取し、0.04%塩化カルシウム溶液を0.75ml加え、遠心(4℃、2000×g、10分)した。上清をパスツールピペットで注意深く除去した。続いて、クロロホルム:メタノール:水(3:48:47,v/v/v)混合溶液を0.75ml加え、遠心(4℃、2000×g、10分)した。遠心分離後、上述と同様に上清を除去し、メタノールを0.2ml加えて一層にした。そして、クロロホルム:メタノール(2:1,v/v)混合溶液を用いて、5mlにメスアップした。これを肝臓中中性脂肪測定用として0.2ml試験管に採取し、60℃でドライアップした。続いて、メタノール:トリトンx−100(1:1,v/v)混合液60μlと第3ブチルアルコール90μlを添加した。血清中のトリグリセライドと同様に市販キット(トリグリセライドE−テストワコー、和光純薬社製)を用いて測定した。
【0071】
(10)糞中胆汁酸分析法
(糞中胆汁酸抽出法)
乾燥させた糞を乳鉢で粉末になるまで細かく砕いた後、約0.6g採取し、次いで0.5%(w/w)となるようにクルクミンとヘスペリジンをそれぞれ添加し、混合した。次いで、9倍量の蒸留水を加えてホモジナイズを行い、一晩凍結乾燥した。凍結乾燥終了後、再び糞を乳鉢で粉砕し、サンプルとした。
【0072】
(糞中胆汁酸組成の分析法)
糞中の胆汁酸測定は、ガスクロマトグラフィーを用いて、Suganoらの方法(Sugano M, Ryu K, Ide, T. Cholesterol dynamics in rats fed cis- and trans- octadecenoate in the form of triglyceride. J. Lipid Res. 25: 474-485, 1984)に従って次のようにして行った。
ラットから採取した糞便は凍結乾燥した後、エタノールを加えてホモジナイズを行った。糞中の胆汁酸は、エタノールで2回処理して抽出した。胆汁酸のアルカリ加水分解は110℃で18時間行い、その後、120℃で1時間加熱した。加熱後、塩酸でpH1に酸性化し、5mlのジエチルエーテル処理を2回行い、胆汁酸を抽出した。抽出した胆汁酸は、アルカリ加水分解後に塩酸でpH1まで低下させ、エチルエーテルで胆汁酸を抽出した。得られた胆汁酸のメチル化、およびトリメチルシリル誘導体への変換は、市販の誘導体化試薬(GL Science)を用いて行った。
前記したガスクロマトグラフィーによる糞中の胆汁酸の分析は、GL Science GC-380を用いて行った。測定条件として、TC-1 column(30m×0.25mm)を用い、温度を250℃から290℃まで上昇させて分析を行った。なお、試料の抽出の段階から、一定量のノルデオキシコール酸を加え、内部標準とした。胆汁酸量は、ガスクロマトグラフィー分析を行った結果を基に、コール酸、デオキシコール酸、リトコール酸、およびヒオデオキシコール酸の濃度値を求めた。
【0073】
(11)統計処理方法
実験により得られた各群のデータは、平均±標準誤差で示し、一元配置の分散分析を行った後、各群の有意差の判定はFisher’s multiple - range testを用いて行った(P<0.05)。
【0074】
[結果]
ごぼう由来抽出物を含有する飲料であるごぼう抽出液の摂取による腸内環境に及ぼす影響は次のようになった。
(1)体重、食餌摂取量、飲水量、肝臓重量
下記表3に最終体重、飲水量、食餌摂取量、および肝臓重量を示した。
表3に示すように、最終体重(Final body wt (g))、飲水量(Drinking water (ml/3d))、食餌摂取量(Food intake (g/3 wk))、肝臓重量(Liver wt (g)、Liver wt (%))は、各群間で有意な差はみられなかった(p>0.05)。また、肝臓重量の体重比においても各群間で差はみられなかった(p>0.05)。
【0075】
【表3】

【0076】
ここで、図1は、表3に記載した各群間における最終体重(Final body wt (g))を示すグラフである。図1のグラフからも分かるように、最終体重は各群間で有意な差はみられなかった。
【0077】
(2)血清中のグルコース、血清、および肝臓中の脂質
下記表4に血清中のグルコース、血清、および肝臓中の脂質濃度を示した。表4に示すように、血清中のトリグリセリド(Serum triglyceride (mg/100 ml))、コレステロール(Serum cholesterol (mg/100 ml))、グルコース(Serum glucose (mg/100 ml))、肝臓中のトリグリセリド(Liver triglyceride (mg/g))、およびコレステロール(Liver cholesterol (mg/g))において、各群間で有意差はみられなかった(p>0.05)。
【0078】
【表4】

【0079】
(3)盲腸内容物の有機酸濃度、および糞中パラメーター
下記表5に盲腸内容物の有機酸濃度、および下記表6に糞中パラメーターを示した。
表5に示すように、盲腸内容物である盲腸内有機酸量(μmol / cecum contents)は、酢酸(Acetic acid)が若干増加したが、その他の有機酸については大きな変化はみられなかった。
また、表6に示すように、糞の重量(Fecal wet wt (g/3 d)、Fecal dry wt (g/3 d))、糞中の水分(Fecal water (%))において、各群間で有意差はみられなかった(p>0.05)。糞中のIgA量(Fecal IgA (μg/g dry feces)、Fecal IgA (mg/3 d))については、3日間の総排泄量で表すと、ごぼう抽出液群(Burdock extraction liquid)の摂取群はコントロール群(Control)と比較して、174%の顕著な増加がみられた(p<0.05)。ただし、ごぼうポリフェノール群(Burdock polyphenols)では、増加はみられなかった。また、ごぼう抽出液の摂取群で糞中のムチン量(Fecal Mucin (μg/g dry feces)、Fecal Mucin (mg/3 d))も68%の有意な増加がみられた(p<0.05)。
【0080】
【表5】

【0081】
ここで、図2(a)〜(d)はそれぞれ、表6に示した糞中パラメーターのうち、各群間における糞の重量(Fecal wet wt (g/3 d))、糞中の水分(Fecal water (%))、糞中のIgA量(Fecal IgA (mg/3 d))、および糞中のムチン量(Fecal Mucin (mg/3 d))をグラフ化したものである。
図2の(a)および(b)のグラフから、表6に示すとおり、糞の重量および糞中の水分については各群間で有意な差はみられないことが分かる。一方で、図2の(c)および(d)のグラフから、表6に示すとおり、ごぼう抽出液群における糞中のIgA量および糞中のムチン量が有意に増加することが分かる。
【0082】
【表6】

【0083】
(4)盲腸内容物のミクロフローラ
下記表7に盲腸内容物のミクロフローラ(腸内細菌)の分布を示した。表7に示すように、ごぼう抽出液群(Burdock extraction liquid)のBifidobacteriumが増加傾向(P=0.13)を示した。他の腸内細菌叢には変動はみられなかった(p>0.05)。
【0084】
【表7】

【0085】
(5)糞中胆汁酸組成分析
下記表8に糞中胆汁酸組成を分析した結果を示した。表8に示すように、二次胆汁酸であるリトコール酸(Lithocholic acid)は著しく低下していた(p<0.05)。もう一つの二次胆汁酸であるデオキシコール酸(Deoxycholic acid)については各群間で有意差はみられないが(p>0.05)、減少する傾向にあった。一次胆汁酸であるコール酸(Cholic acid)については、各群間で有意差はみられないが(p>0.05)、増加する傾向にあった。また、ヒオデオキシコール酸(Hyodeoxycholic acid)についても各群間で有意差はみられないが(p>0.05)、減少する傾向にあった。3日間の総排泄量で表しても同様の結果であった(データ未掲載)。
【0086】
【表8】

【0087】
ここで、図3(a)〜(d)はそれぞれ、表8に示した糞中胆汁酸組成のうち、各群間におけるリトコール酸(Lithocholic acid)量(μmol/g)、デオキシコール酸(Deoxycholic acid)量(μmol/g)、ヒオデオキシコール酸(Hyodeoxycholic acid)量(μmol/g)、およびコール酸(Cholic acid)量(μmol/g)をグラフ化したものである。
図3の(a)のグラフおよび表8に示すとおり、ごぼう抽出液群における糞中のリトコール酸量が著しく減少していることが分かる。また、図3の(c)のグラフおよび表8に示すとおり、ごぼう抽出液群における糞中のヒオデオキシコール酸量が減少する傾向にあることが分かる。一方で、図3の(b)および(d)のグラフからは、表8に示すとおり、ごぼう抽出液群における糞中のデオキシコール酸量およびコール酸量は有意に減少しないことが分かる。
【0088】
[考察]
前記結果から、ごぼう由来抽出物を含有する飲料であるごぼう抽出液(ごぼう茶)の摂取による腸内環境に及ぼす影響について次のように考察される。
【0089】
腸管における免疫反応(腸管免疫)は、病原菌やウィルスをはじめとする外敵から身を守る防御機構の最前線として機能している。その防御因子の一部がIgAであり、その量は腸管免疫の代表的な指標とされている。
【0090】
前記[結果]の(3)に記載したように、ごぼう抽出液群の糞中へのIgAおよびムチンの排泄が著しく増加していることが明らかとなった。このことは、ごぼう由来抽出物(ごぼう抽出液)の機能性として生物的なバリアー機能(腸管免疫)や物理的なバリアー機能を改善できることを示唆している。
【0091】
さらに、大腸がんの危険因子とされる二次胆汁酸について、前記[結果]の(5)に記載したように、糞中のリトコール酸を有意に減少させていることから、大腸がんを予防する可能性が示唆される。
【0092】
生体が外界と接する境面である皮膚および粘膜、特に、腸管粘膜などの消化管粘膜は、ウィルス、細菌、寄生虫、病原性抗原、食物抗原などの多くの物質と接触している。哺乳動物は、これら異物の体内への侵入を防止するために、粘膜面に腸管粘膜免疫システムを有し、生体を防御している。粘膜面に分泌型IgAの産生を誘導し、粘膜免疫システムを増強させることができれば、抗原の侵入を抑制することができ、粘膜免疫機能の低下に起因して起こる感染症や炎症性腸疾患、あるいはアレルギー疾患など様々な疾患を予防することができると解される。
【0093】
IgA分泌を増加させる食餌因子としては、動物実験ではレジスタントスターチ、幼児に対してはガラクトオリゴ糖やフラクトオリゴ糖、培養細胞実験ではビタミンAが知られているが、ポリフェノールの一種であるクルクミンによる増加も広島大学の研究グループによって報告されている(Okazaki Y, Han Y, Kayahara M, Watanabe T, Arishige H, Kato N. Consumption of Curcumin Elevates Fecal Immunoglobulin A, an Index of Intestinal Immune Function, in Rats Fed a High-Fat Diet. J Nutr Sci Viyaminol (in press), 2010)。イヌリンやオリゴ糖は糞中への分泌型IgAの増加を促進し、腸管免疫やバリアー機能を改善し、大腸腫瘍を改善することが報告されている(Petra AMJ S, Philippe A, Marc R, Martine S, Alles H K, Guenther B, Leon MJ K, Jan K, Yvan V. Fecal secretory Immunoglobulin A is increased in healthy infants who receive a formula with short-chain galacto-oligosaccharides and long-chain fructo-oligosaccharides. J. Nutr. 138: 1141-1147, 2008、Stephanie S, Bernhard W. Inulin and oligofructose: Review of experimental data on immune modulation. J. Nutr. 137: 2563S-2567S, 2007、Sandra JM Ten Bruggencate, Ingeborg MJ Bovee-Oudenhoven, Mischa LG Lettink-Wissink, Martijn B Katan, Roelof van der Meer. Dietary fructooligosacch-arides affect intestinal barrier function in healthy men. J. Nutr. 136: 70-74, 2006、Fabrice P, Pascale P, Mactine C, Francis B, Khaled M, Jean M. Short-Chain Fructo-oligosaccharides Reduce the Occurrence of Colon Tumors and Develop Gut-associated Lymphoid Tissue in Min Mice. Cancer Research. 57: 225-228, 1997、Yoshida N, Sato W, Hate S, Takeda Y, Onodera S, Ando K, Shiomi N. Effect of 1-kestose and nystose on the intestinal microorganisms and immune system in mice. J. Appl. Glycosci. 53: 175-180, 2006、Monika Roller, Gerhard Rechkemmer, Bernhard Watzl. Prebiotic Inulin Enriched withOligofructose in Combination with the Probiotics Lactobacillus rhamnosus and Bifidobacterium lactis Modulates Intestinal Immune Functions in Rats1. J. Nutr. 134: 153-156, 2004)。
【0094】
ここで、前記[結果]の(3)に記載したように、ごぼうポリフェノール群(Burdock polyphenols)では糞中のIgA量が増加しなかったため、ごぼうのポリフェノールによりIgAの分泌が増加するという可能性は否定されたと解される。
一方で、本発明の要件を満たす抽出方法によって抽出して得たごぼう抽出液は、分泌型IgAの増加促進が確認された。かかるごぼう抽出液の成分分析((株)あじかん)の結果から、ポリフェノール以外にもオリゴ糖やイヌリンが多量に含まれていることがわかっている(前記表1参照)。そのため、前記知見にもあるように、かかるごぼう抽出液における分泌型IgAの増加促進効果は、オリゴ糖やイヌリンなどのポリフェノール以外の抽出物が作用している可能性が高いと解される。そして、前記したごぼう抽出液は、分泌型IgAの増加促進効果を有するため、腸管免疫やバリアー機能の改善、大腸腫瘍の改善といった効果を奏する可能性がある。
【0095】
イヌリンの摂取は、ハムスターの糞中の二次胆汁酸と一次胆汁酸の割合を減少させることが報告されており(Elke A, Trautwein, Dorte Rieckhoff, Helmut F Erbersdobler. Dietary Inulin Lowers Plasma Cholesterol and Triacylglycerol and Alters Biliary Bile Acid Profile in Hamsters. J. Nutr. 128: 1937-1943, 1998)、また、オリゴ糖は、糞中の二次胆汁酸のデオキシコール酸を減少させることも報告されている(Sung H, Choi Y, Cho S, Yun J. Fructooligosaccharides alter profiles of fecal short-chain fatty acids and bile acids in rats. Food. Sci. Biotechnol. 15: 51-56, 2006)。従って、ごぼう抽出液のイヌリンやオリゴ糖によりリトコール酸が減少した可能性もある。
【0096】
そして、前記[結果]の(1)、(2)に記載したように、最終体重、飲水量、食餌摂取量、肝臓重量、血清中のグルコース、血清および肝臓中の脂質濃度については、各群間で差異はみられなかったことから、本発明に係るごぼう由来抽出物の抽出方法によって抽出されたごぼう由来抽出物を投与した場合であっても、被投与体に対して大きな影響を与えるものではないこと、つまり、副作用などがなく安全であることが示唆された。
【0097】
なお、<第1実施例>で分析した成分以外にも、ブランチング、皮むき、カット、乾燥、焙煎および熱水での抽出のうちの少なくとも1つの工程により生成し、または増加した成分であって前記した分析法によっては検出されていない成分が、ごぼう由来抽出物として含有されている可能性は十分に考えられる。そして、かかる成分によって二次胆汁酸の抑制、ムチンの産生促進、IgAの産生促進および免疫の賦活といった効果のうちの少なくとも1つの効果が奏されている可能性も十分に考えられる。
【0098】
<第2実施例>
<第2実施例>では、ごぼう由来抽出物の抽出方法におけるごぼうのブランチングの影響について調べた。
まず、ブランチングを行わないで皮むきとカットを行なったサンプル1と、40℃で2時間のブランチングを行った後に皮むきとカットを行なったサンプル2と、40℃で2.5時間のブランチングを行った後に皮むきとカットを行なったサンプル3と、40℃で3時間のブランチングを行った後に皮むきとカットを行なったサンプル4と、を用意した。
【0099】
そして、用意したサンプル1〜4をそれぞれTESCOM社製TM24型ミル&ミキサーを使用して20分間処理して微粉砕し、3.80gを精秤して100mLの純粋を加え、40℃で60分間Bransonic Ultrasonic Cleaner model 8200を使用して超音波を付与し、サンプル1〜4に係る抽出液を得た。
【0100】
得られたサンプル1〜4に係る抽出液を、5Aのろ紙を用いてろ過し、ミリポアフィルターで精密ろ過してHPLC用のサンプルを作製した。作製したHPLC用のサンプルをSHIMAZU製C−R4A型CHROMATPACに供して、HPLC法によりフルクトースの含有量を測定した。HPLC法の条件は、次のとおりである。
カラム:KS801(80℃)
サイズ:直径φ8mm×長さ300mm
移動相:0.02Mリン酸緩衝液(pH7、30℃)
流量 :1mL/min
検出器:RI
標準液:和光純薬社製フルクトース(濃度0.05%、20μL)
【0101】
前記したHPLC法によるフルクトースの含有量の測定結果は、サンプル1が17mg/gであり、サンプル2が18mg/gであり、サンプル3が20mg/gであり、サンプル4が29mg/gであった。
したがって、ブランチングを長く行うほどフルクトースの含有量を増やすことができ、甘さを強くすることができることがわかった。また、この結果から、ブランチングの温度を高く(例えば90℃)して行っても同様に甘さを強くすることができることが示唆された。
【0102】
<第3実施例>
<第3実施例>では、ごぼう由来抽出物の抽出方法におけるごぼうの乾燥温度の影響について調べた。
(1)乾燥したごぼうの水分、ポリフェノール成分の含有量および色について
<第1実施例>と同様の条件でブランチングと皮むきとカットとを行ったごぼうを、乾燥機を用いて下記表9に示す各条件(乾燥温度(℃)および乾燥時間(時間))で乾燥した。
そして、乾燥したごぼうについて、水分(%)およびポリフェノール成分の含有量(g/100g)を分析した。なお、ポリフェノール成分の含有量は、Folin-Ciocalteu法((+)−カテキン当量)にて定量した。なお、Folin-Ciocalteu法は、George S, Brat P, Alter P, Amiot M-J. “Rapid Determination of Polyphenols and Vitamin C in Plant-Derived Products.” J. Agric. Food Chem., 2005, 53 (5), pp 1370-1373に従って行った。
【0103】
(2)味、風味について
次いで、前記乾燥したごぼうを180℃で13分間焙煎した後、焙煎したごぼうを熱水に浸けてごぼう由来抽出物を抽出し、ごぼう茶(ごぼう抽出液)として得た。
そして、得られたごぼう抽出液の味、風味を評価した。
【0104】
表9に、ごぼうの乾燥条件(乾燥温度(℃)および乾燥時間(時間))と、乾燥したごぼうの水分(%)、ポリフェノール成分の含有量(g/100g)および色と、表9に示す条件で乾燥したごぼうを焙煎した後、熱水に浸けてごぼう由来抽出物を抽出して得たごぼう抽出液の味、風味の評価と、を併せて示す。
【0105】
【表9】

【0106】
表9に示すように、30℃未満(送風のみ)では、乾燥に時間がかかり、酸化が進むため酸味が強くなる傾向があった。また、酸化により黒っぽい褐色を呈するとともに、風味も生臭くなる傾向にあった。さらに、ポリフェノールオキシダーゼの働きを抑制することができなかったためか、ポリフェノール成分の酸化減少が見受けられた。
一方、乾燥温度が高くなるとメイラード反応によって色が黒っぽくなり、えぐみと酸味が強くなる傾向にあった。
乾燥温度は、50℃で色、味、風味ともに優れているとともに、ポリフェノール成分の含有量が高い結果となった。
【0107】
以上、<第3実施例>の(1)、(2)を総合的に評価すると、乾燥は、短時間で行う方がよく、時間がかかるほどごぼうの酸化が進み、酸味が強くなることがわかった。また、乾燥温度が高いほど、メイラード反応が促進され、えぐみと酸味が強くなる傾向にあることがわかった。
熱風乾燥機では、時間と温度の両方を考慮した場合、50℃で5〜6時間程度で行うと、ポリフェノール含有量、つまり機能の観点、および色、味、風味といった官能の観点から好ましいことがわかった。
【0108】
<第4実施例>
<第4実施例>では、ごぼう由来抽出物の抽出方法におけるごぼうの焙煎温度の影響について調べた。
(1)総食物繊維とクロロゲン酸
<第1実施例>と同様の条件でブランチングと皮むきとカットとを行ったごぼうを50℃で乾燥した後、さらに下記表10に示す各条件で焙煎し、焙煎したごぼうの総食物繊維とクロロゲン酸を分析した。分析は、日本食品分析センターに依頼した。なお、総食物繊維は酵素−HPLC法によって分析し、クロロゲン酸はHPLC法によって分析した。
【0109】
【表10】

【0110】
表10に示すように、180℃を超え240℃以下で焙煎したものは、総食物繊維が65.4g/100g、クロロゲン酸が130mg/100gであったのに対し、240℃を超える温度で焙煎したものは、総食物繊維が49.0g/100g、クロロゲン酸が42mg/100gであった。つまり、240℃を超える温度で焙煎すると、総食物繊維とクロロゲン酸は、ともに含有量が大幅に減少してしまうことがわかった。
【0111】
(2)ORAC値
カットしたごぼうを50℃で乾燥した後、さらに下記表11に示す各条件で8〜15分間焙煎した。焙煎したごぼうを2.5g使用して250mlの熱水(80〜90℃)で30秒間浸けてごぼう由来抽出物を抽出し、これを含有するサンプル(いわゆるごぼう茶)を得た。
かかるサンプルのORAC値(μmolトロロックス当量/ml)を測定した。ORAC値を表11に併せて示す。
【0112】
【表11】

【0113】
表11に示すように、170℃を超え180℃以下の条件で焙煎するよりも、180℃を超え220℃以下の条件や220℃を超え240℃以下の条件で焙煎した方が、抗酸化能の指標となるORAC値が高かった。したがって、より高いORAC値を得るためには180℃を超え220℃以下の温度や220℃を超え240℃以下の温度、つまり、180℃を超え240℃以下の温度で焙煎する方が好ましいことがわかった。なお、ORAC値を高くする必要がない場合は、180℃以下の温度で焙煎してもよいことがわかった。
【0114】
(3)官能試験
パネリスト12名により、前記(2)ORAC値と同じ条件で抽出したサンプルの官能試験を行った。
評価項目は、土臭さ、泥臭さ;甘み;苦味;香ばしさの4つとし、各評価項目について、以下の評価基準により5段階評価で採点した。
土臭さ、泥臭さは、臭い(5点)、やや臭い(4点)、並(3点)、あまり臭くない(2点)、臭くない(1点)で評価した。
甘みは、甘い(5点)、やや甘い(4点)、並(3点)、あまり甘くない(2点)、甘くない(1点)で評価した。
苦味は、苦い(5点)、やや苦い(4点)、並(3点)、あまり苦くない(2点)、苦くない(1点)で評価した。
香ばしさは、香ばしい(5点)、やや香ばしい(4点)、並(3点)、あまり香ばしくない(2点)、香ばしくない(1点)で評価した。
評価結果を下記表12に示す。
【0115】
【表12】

【0116】
表12に示すように、焙煎温度が高いほどごぼうの土臭さ、泥臭さが低減する傾向があった。また、焙煎温度が高いほど甘みが低減する傾向があった。さらに、焙煎温度が高いほど苦味と香ばしさが増加する傾向があった。なお、240℃を超える温度で焙煎するとこげ臭と苦味が強くなり過ぎてしまい、官能面で評価が低くなった。
なお、焙煎温度が132℃であるごぼうについても同様に官能評価を行ったところ、香ばしさ(ロースト香)を得ることができず、ごぼうの生臭みが残ってしまい、よい評価を受けることはできなかった。
【0117】
以上、<第4実施例>の(1)〜(3)を総合的に評価すると、総食物繊維、クロロゲン酸、ORAC値といった機能の観点からは、180℃を超え240℃以下の温度で焙煎するのが好ましいことがわかった。また、官能の観点からは、甘みを強くしたい場合は220℃以下の焙煎温度とし、土臭さや泥臭さを少なくしたい場合や、苦味や香ばしさを増したい場合は、220℃を超え240℃以下の焙煎温度とするとよいことがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ごぼうをブランチングし、ブランチングした前記ごぼうの皮むきを行ない、皮むきを行った前記ごぼうをカットし、カットした前記ごぼうを30〜70℃で乾燥し、乾燥した前記ごぼうを132〜240℃で焙煎し、焙煎した前記ごぼうを熱水に浸けてごぼう由来抽出物を抽出することを特徴とするごぼう由来抽出物の抽出方法。
【請求項2】
請求項1に記載のごぼう由来抽出物の抽出方法によって抽出したごぼう由来抽出物を有効成分とする二次胆汁酸抑制剤。
【請求項3】
請求項1に記載のごぼう由来抽出物の抽出方法によって抽出したごぼう由来抽出物を有効成分とするIgA産生促進剤。
【請求項4】
請求項1に記載のごぼう由来抽出物の抽出方法によって抽出したごぼう由来抽出物を有効成分とするムチン産生促進剤。
【請求項5】
請求項1に記載のごぼう由来抽出物の抽出方法によって抽出したごぼう由来抽出物を有効成分とする免疫賦活食品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−25691(P2012−25691A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−165396(P2010−165396)
【出願日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (1)平成22年3月5日社団法人日本農芸化学会発行の「大会講演要旨集 2010年度(平成22年度)大会[東京]」に発表 (2)平成22年3月29日社団法人日本農芸化学会が開催する「日本農芸化学会2010年度(平成22年度)大会[東京]」において文書をもって発表
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【出願人】(000125912)株式会社あじかん (12)
【Fターム(参考)】