説明

さび止め油組成物

【課題】溶剤を含有するさび止め油組成物であって、高いさび止め性を有するとともに、臭気や皮膚障害などの作業環境低下や引火などの安全性への懸念が少ないさび止め油組成物を提供。
【解決手段】5%留出温度が140℃以上250℃以下、95%留出温度が250℃以下、5%留出温度と95%留出温度の差が90℃以下、芳香族分が5容量%以下、ナフテン分が30容量%以上95容量%以下、15℃における密度が0.75g/cm以上、かつ、40℃における動粘度が0.3mm/s以上5.0mm/s以下の鉱油及び合成油からなる群より選ばれる少なくとも1種の基油と、5%留出温度が260℃以上、40℃における動粘度が6.0mm/s以上600mm/s以下の鉱油及び合成油からなる群から選ばれる少なくとも1種の基油と、さび止め添加剤と、を含有するさび止め油組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はさび止め油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
さび止め油の規格はJIS K2246で規定されており、指紋除去形、溶剤希釈形、ペトロラタム形、潤滑油形、気化性さび止め油の5種類に分類されている。また、指紋除去形、ペトロラタム形以外の3種類はその用途や性質によって更に細かく分類されている。
【0003】
溶剤希釈形や指紋除去形などのさび止め油はいずれも溶剤を含有するものであり、その溶剤が揮発することによって油膜そのものの粘度が増加し、もしくは添加剤を含有している場合は塗布された油膜中の添加剤濃度が増加し、高いさび止め性を発揮するものである。これらのさび止め油の溶剤としては、入手し易く安価である灯油が広く使用されている(例えば、特許文献1を参照)。また、洗浄性の高いアルキルベンゼンが使用される場合がある(特許文献2,3を参照)。
【0004】
さび止め油が金属材料に塗布され長い時間を経過すると、その材料はさびとは異なるステインと呼ばれる変色を生じることがある。さび止め油は高いさび止め性能を有するものほど、塗布された材料は長い時間塗布されたままの状態におかれる傾向にあり、ステインへの対策が求められてきた。このステインはさび止め油剤そのもの、もしくは油剤の劣化、分解物が金属表面と反応したものと推測され、さらにさび止め油に硫黄や塩素などを含有する金属加工油が混入してもステインの発生の原因となる(特許文献4を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−132799号公報
【特許文献2】特開2001−226700号公報
【特許文献3】特開2007−262543号公報
【特許文献4】特開平11−92977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、灯油のように揮発性の高い炭化水素は特有の臭気を有し、芳香族成分を含有するとその臭気が強くなり、また皮膚障害を起こす可能性がある。また、灯油は引火点が約50℃程度と低いことから揮発した蒸気に引火するなどの危険性を有する。また、より高いさび止め性に対する潜在的な要望もありより最適な組成の溶剤の適応が望まれていた。
【0007】
ちなみに、芳香族化合物であるベンゼンは労働安全衛生法の「特定化学物質等障害予防規則および有機溶剤中毒予防規則」によりその含有量などに規制がある。また、ベンゼン以外の芳香族化合物でもトルエン、キシレン、トリメチルベンゼンなどが環境及び安全性の点で問題視されることが多い。さらに、多環芳香族の一部には発がん性が確認されているものもある。
【0008】
また、特許文献2、3に記載されているようなアルキルベンゼンは、有害性は低いものの、臭気や皮膚刺激性で問題のある場合がある。
【0009】
その一方で、灯油を製造する際の精製度を上げて芳香族分を除いたもの等を溶剤として使用すると、さび止め油としての安定性が損なわれたり、さび止め性能が低下するといった問題が生じてしまう。これは、芳香族分がなくなることによる溶解性の低下に起因するものと推測できるが、これを解消しようとして、より低留出分の溶剤を用いると引火点も低下してしまうことから安全性で問題が生じる。
【0010】
さらに、溶剤の揮発のし易さはさび止め性能に関わる大きな因子であり、揮発しすぎる(揮発がはやすぎる)と作業性や臭気など作業環境に問題を生じ、また、塗布した油膜の不均一化を生じることによりさび止め性に悪影響を及ぼす可能性がある。一方、揮発が不十分(揮発が遅すぎる)だとさび止め添加剤の濃縮が遅れさび止め性が不十分となる場合がある。この揮発のし易さ、および揮発の速度は蒸留性状での留出温度とともに留出温度の範囲に大きく影響され、灯油に代わる適切な留出温度、留出温度範囲を有する溶剤の適用が求められてきた。
【0011】
さび止め油の溶剤は塗布後に揮発しさび止め性を向上させるとともに、さび止め添加剤などを溶解し、さび止め油剤として安定なものとするといった役割もある。もし、添加剤の溶解性が不足してさび止め油を貯蔵する缶などの容器内で組成の不均一化が生じてしまうと、当然さび止め性は低下することとなる。溶剤中のナフテン分の含有率が多いほど添加剤などの溶解性に優れるが、ナフテンには独特の臭気があるため作業環境も考慮して最適な含有率を求めることが重要となる。
【0012】
溶剤の密度が低すぎると、特に皮膚に付着した際に皮脂を奪う傾向が高くなり皮膚障害を生じやすくなる。また、臭気も強くなる傾向にある。
【0013】
また、溶剤希釈形や指紋除去形などのさび止め油はいずれも溶剤を含有すると記載したが、溶剤とさび止め添加剤のみから構成されるさび止め油は、溶剤が揮発した後にさびを防止する十分な皮膜を作りにくい。つまり、溶剤よりも揮発しにくい高粘度の基油を配合することが高いさび止め性を得るためには必要である。そのためには、金属材料の表面にまずさび止め添加剤が吸着し、その上に基油の分子が何層にもわたって配向することが理想であるが、そのためには密に配向できるパラフィンを多く含有する基油が好ましいと考えられる。
【0014】
また、基油中の硫黄は鉄と反応すると硫化鉄となりステインと呼ばれる変色の原因となるため、脱硫処理などで極力低減させた方がさび止め性能には好ましいと考えられていた。しかし、実際はGTL(Gas−To−Liquids)、GTLE(Gas−To−Liquids Equivalent)など高度に生成され硫黄分が少なく、パラフィン分が90%を超えた基油を用いると逆にさび止め性が低下し、ステインも発生し易くなるといった問題が生じている。これは、さび止め添加剤の基油への溶解性や安定性に起因するものと推測できるが、より高いさび止め性や耐ステイン性を得るには基油の組成、とくに油膜強度を高めるパラフィン分と添加剤の溶解性に優れたナフテン分、および硫黄分の適切な含有量が重要なものと考えられる。
【0015】
本発明は、このような実状に鑑みなされたものであり、その目的は、溶剤を含有するさび止め油組成物であって、高いさび止め性を有するとともに、臭気や皮膚障害などの作業環境低下や引火などの安全性への懸念が少なく、耐ステイン性を有するさび止め油組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、本発明は、5%留出温度が140℃以上250℃以下、95%留出温度が250℃以下、5%留出温度と95%留出温度の差が90℃以下、芳香族分が5容量%以下、ナフテン分が30容量%以上95容量%以下、15℃における密度が0.75g/cm以上、かつ、40℃における動粘度が0.3mm/s以上5.0mm/s以下の鉱油及び合成油からなる群より選ばれる少なくとも1種の基油(以下、場合により「第1の基油」という。)と、5%留出温度が260℃以上、40℃における動粘度が6.0mm/s以上600mm/s以下の鉱油及び合成油からなる群から選ばれる少なくとも1種の基油(以下、場合により「第2の基油」という。)と、さび止め添加剤と、を含有するさび止め油組成物を提供する。
【0017】
本発明における第2の基油は、上記の性状に加え、%Cpが45以上90以下、%Cnが5以上50以下、硫黄含有量が100質量ppm以上20,000質量ppm以下であることが好ましい。
【0018】
本発明においては、さび止め添加剤がスルホン酸塩及びエステルから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0019】
また、本発明のさび止め油組成物の40℃における動粘度は0.5mm/s以上30mm/s以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、溶剤を含有するさび止め油組成物であって、高いさび止め性を有するとともに、臭気や皮膚障害などの作業環境低下や引火などの安全性への懸念が少なく、耐ステイン性を有するさび止め油組成物が実現可能となる。このように優れた特性を有する本発明のさび止め油組成物は、鋼板、軸受、鋼球、ガイドレールなどの様々な金属部品の製造工程において、金属加工後の金属部品の防錆を行う上で非常に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0022】
本発明のさび止め油組成物に含まれる第1の基油は、5%留出温度が140℃以上250℃以下、5%留出温度と95%留出温度の差が90℃以下、芳香族分が5容量%以下、ナフテン分が30容量%以上95容量%以下、15℃における密度が0.75g/cm以上、かつ、40℃における動粘度が0.3mm/s以上5.0mm/s以下の鉱油及び合成油からなる群より選ばれる少なくとも1種の基油である。なお、本発明では安定した性能のさび止め油を得ることができるため、留出温度を初留点と終点ではなく、5%留出温度と95%留出温度で規定した。
【0023】
鉱油及び合成油としては、例えば、パラフィン系又はナフテン系の原油の蒸留により得られる灯油留分;灯油留分からの抽出操作等により得られるノルマルパラフィン;及びパラフィン系又はナフテン系の原油の蒸留により得られる潤滑油留分、あるいは潤滑油脱ろう工程により得られる、スラックワックス等のワックス及び/又はGTLプロセス等により得られる、フィッシャートロプシュワックス、GTLワックス等の合成ワックスを原料とし、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、水素化異性化、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の精製処理を1つ又は2つ以上適宜組み合わせて精製したパラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油、ノルマルパラフィン系基油、イソパラフィン系基油等が挙げられる。これらのうち、5%留出温度、5%留出温度と95%留出温度の差、芳香族分、ナフテン分、15℃における密度及び40℃における動粘度が上記の条件を満たすものが第1の基油として用いられる。
【0024】
第1の基油の5%留出温度は、140℃以上、好ましくは150℃以上、より好ましくは155℃以上、最も好ましくは160℃以上である。また、第1の基油の5%留出温度は250℃以下、好ましくは245℃以下、より好ましくは240℃以下、もっとも好ましくは235℃以下である。また、95%留出温度は250℃以下、好ましくは245℃以下、より好ましくは235℃以下、最も好ましくは220℃以下である。5%留出温度が140℃未満であると臭気を十分に抑制することができず、引火点が低くなりすぎると共に、さび止め油を塗布した後、第1の基油の揮発が早すぎて作業性に支障をきたし、もしくは揮発が早すぎて塗布した油膜が不均一となる可能性があり、さび止め性に悪影響を与える。また、5%留出温度が250℃を超えると第1の基油の揮発が不十分となり十分なさび止め性が得られなくなる。さらに、95%の留出温度が高すぎると第1の基油の揮発による油膜の濃縮が不十分となり十分なさび止め性が得られなくなる。
【0025】
第1の基油の5%留出温度と95%留出温度の差は、90℃以下、好ましくは70℃以下、より好ましくは50℃以下、最も好ましくは30℃以下である。5%留出温度と95%留出温度の差が90℃を超えると十分なさび止め性が得られなくなる。本発明での留出温度の範囲は5%と95%にて規定されるものであるが、第1の基油の留出温度の初留点と終点の差は100℃以下が好ましく、80℃以下がより好ましく、60℃以下が更により好ましく、40℃以下がもっとも好ましい。
【0026】
ここで、第1の基油の5%留出温度及び95%留出温度とは、JIS K 2254「石油製品−蒸留試験方法」の常圧法に準拠して測定された値を意味する。
【0027】
第1の基油の芳香族分は5容量%以下、好ましくは3容量%以下、より好ましくは2容量%以下、最も好ましくは1%以下である。芳香族分が5容量%を超えると臭気及び皮膚刺激性を十分に抑制することができない。ここで、芳香族分とは、JIS K 2536−1996「石油製品−成分試験方法」の蛍光指示薬吸着法に準拠して測定された値を意味する。
【0028】
第1の基油のナフテン分は、30容量%以上、好ましくは35容量%以上、より好ましくは40容量%以上、最も好ましくは45容量%以上である。また、ナフテン分は95容量%以下、好ましくは80容量%以下、より好ましくは75容量%以下、最も好ましくは70容量%以下である。ナフテン分が30容量%未満になると油剤の安定性が損なわれる。また、ナフテン分が80容量%を超えると、臭気を十分に抑制することができず、更には有機材料の溶解の原因となる。
【0029】
ここで、ナフテン分とは、FIイオン化(ガラスリザーバ使用)による質量分析法により得られた分子イオン強度をもって、これらの割合を容量%として定義し決定するものである。以下にその測定法を具体的に示す。
(1)径18mm、長さ980mmの溶出クロマト用吸着管に、約175℃、3時間の乾燥により活性化された呼び径74〜149μmシリカゲル(富士デビソン化学(株)製grade923)120gを充填する。
(2)n−ペンタン75mlを注入し、シリカゲルを予め湿す。
(3)試料約2gを精秤し、等容量のn−ペンタンで希釈し、得られた試料溶液を注入する。
(4)試料溶液の液面がシリカゲル上端に達したとき、飽和炭化水素成分を分離するためにn−ペンタン140mlを注入し、吸着管の下端より溶出液を回収する。
(5)溶出液をロータリーエバポレーターにかけて溶媒を留去し、飽和炭化水素成分を得る。
(6)飽和炭化水素成分を質量分析計でタイプ分析を行う。質量分析におけるイオン化方法としては、ガラスリザーバを使用したFIイオン化法が用いられ、質量分析計は日本電子(株)製JMS−AX505Hを使用する。
測定条件は、加速電圧:3.0kV、カソード電圧:−5〜−6kV、分解能:約500、エミッター:カーボン、エミッター電流:5mA、測定範囲:質量数35〜700、補助オーブン温度:300℃、セパレータ温度:300℃、主要オーブン温度:350℃、試料注入量:1μl。
上記質量分析法によって得られた分子イオンは、同位体補正後、その質量数からパラフィン類(C2n+2)とナフテン類(C2n、C2n−2、C2n−4・・・)の2タイプに分類・整理し、それぞれのイオン強度の分率を求め、飽和炭化水素成分全体に対する各タイプの含有量を定める。次いで、飽和炭化水素成分の含有量をもとに、試料全体に対するナフテン分の含有量を求める。
なお、FI法質量分析のタイプ分析法によるデータ処理の詳細は、「日石レビュー」第33巻第4号135〜142頁の特に「2.2.3データ処理」の項に記載されている。
【0030】
第1の基油の15℃における密度は、0.75g/cm以上、好ましくは0.76g/cm以上、より好ましくは0.77g/cm以上である。15℃における密度が0.75g/cm未満になると臭気及び皮膚刺激性を十分に抑制することができない。ここで、密度は、JIS K 2249−1995「原油及び石油製品−密度試験方法及び密度・質量・容量換算表」に準拠して測定された値を意味する。
【0031】
第1の基油の40℃における動粘度は0.3mm/s以上、好ましくは0.5mm/s以上、より好ましくは0.8mm/s以上、最も好ましくは1.0mm/s以上である。また、第1の基油の40℃における動粘度は5.0mm/s以下、好ましくは4.5mm/s以下、より好ましくは4.0mm/s以下、最も好ましくは3.5mm/s以下である。40℃における動粘度が0.3mm/s未満であると臭気や皮膚刺激性を十分に抑制することができず、5.0mm/sを超えるとさび止め性に劣るため好ましくない。第1の基油は異なる動粘度の2種以上を組み合わせても良い。ここで、第1の基油の40℃における動粘度は、JIS K 2283−2000「原油及び石油製品−動粘度試験方法及び粘度指数算出方法」に準拠して測定される値を意味する。
【0032】
第1の基油の配合量は、組成物全量基準で30質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましく、50%以上が最も好ましい。また、第1の基油の配合量は、組成物全量基準で95質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましく、85質量%以下が最も好ましい。第1の基油の配合量が30質量%未満の場合は十分なさび止め性が得られず、第1の基油の配合量が95質量%を超える場合は油剤塗布量が減少することで、十分なさび止め性が得られなくなる。
【0033】
また、本発明のさび止め油組成物に含まれる第2の基油は、5%留出温度が260℃以上、40℃における動粘度が6.0mm/s以上600mm/s以下の鉱油及び合成油からなる群から選ばれる少なくとも1種の基油である。当該第2の基油は、上記の性状に加えて、その%Cpが45以上90以下、%Cnが5以上50以下、硫黄含有量が100質量ppm以上20,000質量ppm以下であることが好ましい。
【0034】
鉱油及び合成油としては、例えば、パラフィン系又はナフテン系の原油の蒸留により得られる灯油留分;灯油留分からの抽出操作等により得られるノルマルパラフィン;及びパラフィン系又はナフテン系の原油の蒸留により得られる潤滑油留分、あるいは潤滑油脱ろう工程により得られる、スラックワックス等のワックス及び/又はGTLプロセス等により得られる、フィッシャートロプシュワックス、GTLワックス等の合成ワックスを原料とし、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、水素化異性化、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の精製処理を1つ又は2つ以上適宜組み合わせて精製したパラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油、ノルマルパラフィン系基油、イソパラフィン系基油等が挙げられる。これらのうち、5%留出温度及び40℃における動粘度が上記の条件を満たすものが第2の基油として用いられる。
【0035】
第2の基油の5%留出温度は、260℃以上、好ましくは270℃以上、より好ましくは280℃以上、最も好ましくは290℃以上である。5%留出温度が260℃未満であると、十分なさび止め性を得ることができない。ここで、第2の基油の5%留出温度とは、JIS K 2254「石油製品−蒸留試験方法」のガスクロマトグラフ法に準拠して測定された値を意味する。
【0036】
第2の基油の40℃における動粘度は、6.0mm/s以上、好ましくは8.0mm/s以上、より好ましくは10mm/s以上、最も好ましくは12mm/s以上である。また、第2の基油の40℃における動粘度は、600mm/s以下、好ましくは300mm/s以下、より好ましくは200mm/s以下、最も好ましくは120mm/s以下である。40℃における動粘度が6.0mm/s未満であるとさび止め性向上効果が不十分となり、40℃における動粘度が600mm/sを超えると油剤の安定性が低下する。また、ステイン性が悪化する場合がある。なお、第2の基油については40℃における動粘度が40mm/s以下の基油と70mm/s以上の基油とを組み合わせることが好ましい。この際、70mm/s以上の基油の割合を40mm/s以下の基油の割合で割った値が、0.02以上5以下が好ましく、0.04以上4以下がより好ましく、0.06以上3以下がもっとも好ましい。この値が小さすぎても大きすぎてもステイン性が低下する傾向にある。ここで、第2の基油の40℃における動粘度は、JIS K 2283−2000「原油及び石油製品−動粘度試験方法及び粘度指数算出方法」に準拠して測定される値を意味する。
【0037】
第2の基油の%Cpは、好ましくは45以上90以下、より好ましくは50以上85以下、さらに好ましくは55以上80以下、特に好ましくは60以上75以下である。%Cpが上記の範囲内であると、より優れたさび止め性及び耐ステイン性を達成することができる。
【0038】
また、第2の基油の%Cnは、好ましくは5以上50以下、より好ましくは10以上45以下、さらに好ましくは15以上40以下、もっとも好ましくは20以上35以下である。%Cnが上記の範囲内であると、より優れたさび止め性及び耐ステイン性を達成することができる。
【0039】
ここでいう%Cnおよび%Cpは、それぞれASTM D−3238に規定する“Standard Test Method for CalculationDistribution and Structural Group Analysis of Petroleum Oils by the n-d-MMethod”に準拠して測定される%Cn及び%Cpを意味する。
【0040】
また、第2の基油の硫黄含有量は、好ましくは100質量ppm以上20000質量ppm以下、より好ましくは150質量ppm以上18000質量ppm以下、さらに好ましくは180質量ppm以上15000質量ppm以下、もっとも好ましくは200質量ppm以上10000質量ppm以下である。硫黄含有量が上記の範囲内であると、油剤の臭気の問題を生じることなく、炭素分が主体となるステインの発生及び硫化鉄由来のステインの発生の双方をより効果的に抑制することができる。
【0041】
第2の基油の硫黄分はJIS K 2541「原油及び石油製品―硫黄分試験方法」により測定された値を意味する。
【0042】
第2の基油の配合量は、組成物全量基準で0.5質量%以上が好ましく、1.0質量%以上がより好ましく、2.0質量%以上が最も好ましい。また、第2の基油の配合量は、組成物全量基準で50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、30質量%以下が更により好ましく、25質量%以下が最も好ましい。配合量が0.5質量%未満の場合は油剤塗布後の不揮発分が少なくなることで十分なさび止め性が得られず、30質量%を超える場合は油剤塗布後の添加剤濃縮が不十分となり、十分なさび止め性が得られなくなる。
【0043】
本発明のさび止め油組成物の40℃における動粘度は0.5mm/s以上、好ましくは0.7mm/s以上、より好ましくは1.0mm/s以上、最も好ましくは1.5mm/s以上である。また、本発明のさび止め油組成物の40℃における動粘度は30mm/s以下、好ましくは25mm/s以下、より好ましくは20mm/s以下、最も好ましくは15mm/s以下である。本発明のさび止め油組成物の40℃における動粘度が0.5mm/s未満であると、十分なさび止め性が得られず、また取り扱い中の揮発量が多すぎ作業環境を損なう。また、40℃における動粘度が30mm/sを超えると、塗布工程などでの作業性が悪化し、後工程での脱脂など油剤の除去が困難となる。ここで、さび止め油組成物の40℃における動粘度は、JIS K 2283−2000「原油及び石油製品−動粘度試験方法及び粘度指数算出方法」に準拠して測定される値を意味する。
【0044】
本発明のさび止め油組成物の引火点は特に制限されないが、70℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましく、90℃以上が最も好ましい。なお、引火点の測定はJIS K2265−1996「原油及び石油製品−引火点試験方法」に準拠し、80℃以上の場合はクリーブランド開放式で、80℃未満の場合はペンスキーマルテンス密閉式にて実施する。
【0045】
また、本発明のさび止め油組成物は、さび止め添加剤を含有する。さび止め添加剤としては、(A)スルホン酸塩、(B)エステル、(C)サルコシン型化合物、(D)ノニオン系界面活性剤、(E)アミン、(F)カルボン酸、(G)脂肪酸アミン塩、(H)カルボン酸塩、(I)パラフィンワックス、(J)酸化ワックス塩、(K)ホウ素化合物及び(L)アルキル又はアルケニルコハク酸誘導体、等が挙げられ、特に(A)スルホン酸塩及び(B)エステルからなる群より選ばれる1種以上を含有することが好ましい。
【0046】
本発明に用いられる(A)スルホン酸塩の好ましい例としては、スルホン酸アルカリ金属塩、スルホン酸アルカリ土類金属塩またはスルホン酸アミン塩が挙げられる。スルホン酸塩はいずれも人体や生態系に対して十分に高い安全性を有するものであり、アルカリ金属、アルカリ土類金属またはアミンとスルホン酸とを反応させることにより得ることができる。
【0047】
(A)スルホン酸塩を構成するアルカリ金属としては、ナトリウム、カリウム等が挙げられる。また、アルカリ土類金属としては、マグネシウム、カルシウム、バリウム等が挙げられる。中でも、アルカリ金属およびアルカリ土類金属としては、ナトリウム、カリウム、カルシウム及びバリウムが好ましく、カルシウムが特に好ましい。
【0048】
(A)スルホン酸塩がアミン塩である場合、アミンとしては、モノアミン、ポリアミン、アルカノールアミン等が挙げられる。
【0049】
モノアミンとしては、炭素数1〜22のアルキル基を1〜3個有するアルキルアミン、炭素数2〜23のアルケニル基を有するアルケニルアミン、メチル基を2個と炭素数2〜23のアルケニル基1個を有するモノアミン、芳香族置換アルキルアミン、炭素数5〜16のシクロアルキル基を有するシクロアルキルアミン、メチル基2個とシクロアルキル基を有するモノアミン、メチル基及び/又はエチル基が置換したシクロアルキル基を有するアルキルシクロアルキルアミンが挙げられる。ここでいうモノアミンには、油脂から誘導される牛脂アミン等のモノアミンも含まれる。
【0050】
ポリアミンとしては、炭素数2〜4のアルキレン基を1〜5個有するアルキレンポリアミン、炭素数1〜23のアルキル基を有するN−アルキルエチレンジアミン、炭素数2〜23のアルケニル基を有するN−アルケニルエチレンジアミン、N−アルキルまたはN−アルケニルアルキレンポリアミンが挙げられる。ここでいうポリアミンには油脂から誘導されるポリアミン(牛脂ポリアミン等)も含まれる。
【0051】
アルカノールアミンとしては、炭素数1〜16のアルコールのモノ、ジ、トリアルカノールアミンが挙げられる。
【0052】
(A)スルホン酸塩を構成するスルホン酸は、常法によって製造された公知のものを使用することができる。具体的には、一般に鉱油の潤滑油留分のアルキル芳香族化合物をスルホン化したものやホワイトオイル製造時に副生するいわゆるマホガニー酸等の石油スルホン酸、あるいは洗剤等の原料となるアルキルベンゼン製造プラントから副生するポリオレフィンをベンゼンにアルキル化することにより得られる、直鎖状や分岐鎖状のアルキル基を有するアルキルベンゼンをスルホン化したものやジノニルナフタレン等のアルキルナフタレンをスルホン化したもの等の合成スルホン酸等、が挙げられる。
【0053】
上記原料を用いて得られるスルホン酸塩としては、例えば以下のものが挙げられる。アルカリ金属の酸化物や水酸化物等のアルカリ金属の塩基;アルカリ土類金属の酸化物や水酸化物等のアルカリ土類金属の塩基またはアンモニア、アルキルアミンやアルカノールアミン等のアミンとスルホン酸とを反応させることにより得られる中性(正塩)スルホネート;上記中性(正塩)スルホネートと、過剰のアルカリ金属の塩基、アルカリ土類金属の塩基またはアミンを水の存在下で加熱することにより得られる塩基性スルホネート;炭酸ガスの存在下で上記中性(正塩)スルホネートをアルカリ金属の塩基、アルカリ土類金属の塩基またはアミンと反応させることにより得られる炭酸塩過塩基性(超塩基性)スルホネート;上記中性(正塩)スルホネートをアルカリ金属の塩基、アルカリ土類金属の塩基またはアミンならびにホウ酸または無水ホウ酸等のホウ酸化合物との反応、あるいは上記炭酸塩過塩基性(超塩基性)スルホネートとホウ酸または無水ホウ酸等のホウ酸化合物との反応によって得られるホウ酸塩過塩基性(超塩基性)スルホネート、またはこれらの混合物等が挙げられる。
【0054】
本発明においては、上記のうち、中性、塩基性、過塩基性のアルカリ金属スルホネートおよびアルカリ土類金属スルホネートから選ばれる1種または2種以上を用いることがより好ましく;塩基価が0〜50mgKOH/g、好ましくは10〜30mgKOH/gの中性または中性に近いアルカリ金属スルホネート若しくはアルカリ土類金属スルホネートおよび/または塩基価が50〜500mgKOH/g、好ましくは200〜400mgKOH/gの(過)塩基性のアルカリ金属スルホネート若しくはアルカリ土類金属スルホネートを用いることが特に好ましい。また、上記の塩基価が0〜50mgKOH/gのアルカリ金属スルホネートまたはアルカリ土類金属スルホネートと塩基価が50〜500mgKOH/gのアルカリ金属スルホネートまたはアルカリ土類金属スルホネートとの質量比(塩基価が0〜50mgKOH/gのアルカリ金属スルホネートまたはアルカリ土類金属スルホネート/塩基価が50〜500mgKOH/gのアルカリ金属スルホネートまたはアルカリ土類金属スルホネート)は、組成物全量を基準として、好ましくは0.1〜30、より好ましくは1〜20、特に好ましくは1.5〜15である。
【0055】
ここで、塩基価とは、通常潤滑油基油等の希釈剤を30〜70質量%含む状態で、JIS K 2501「石油製品および潤滑油−中和価試験法」の6.に準拠した塩酸法により測定される塩基価を意味する。
【0056】
(A)スルホン酸塩としては、アミンスルホネート、カルシウムスルホネート、バリウムスルホネート、ナトリウムスルホネートが好ましく、アルキレンジアミンスルホネート及びカルシウムスルホネートが特に好ましい。
【0057】
本発明のさび止め油組成物における(A)スルホン酸塩の配合量は特に制限されないが、組成物全量基準で0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1.0質量%以上がさらに好ましく、2.0質量%以上がもっとも好ましい。また、組成物全量基準で35質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、25質量%以下がさらに好ましく、20質量%以下がもっとも好ましい。
【0058】
本発明に用いられる(B)エステルの好ましい例としては、(B1)多価アルコールの部分エステル、(B2)エステル化酸化ワックス、(B3)エステル化ラノリン脂肪酸、(B4)アルキルまたはアルケニルコハク酸エステル等が挙げられる。これらの化合物は、さび止め性をより向上させ得るものである。
【0059】
(B1)多価アルコールの部分エステルとは、多価アルコール中の水酸基の少なくとも1個以上がエステル化されておらず水酸基のままで残っているエステルであり、その原料である多価アルコールとしては任意のものが使用可能であるが、分子中の水酸基の数は好ましくは2〜10、より好ましくは3〜6であり、且つ炭素数が2〜20、より好ましくは3〜10である多価アルコールが好適に使用される。これらの多価アルコールの中でも、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールおよびソルビタンからなる群より選ばれる少なくとも1種の多価アルコールを用いることが好ましく、ペンタエリスリトールを用いることがより好ましい。
【0060】
他方、部分エステルを構成するカルボン酸としては、任意のものが用いられるが、カルボン酸の炭素数は、好ましくは2〜30、より好ましくは6〜24、更に好ましくは10〜22である。また、当該カルボン酸は、飽和カルボン酸であっても不飽和カルボン酸であってもよく、また直鎖状カルボン酸であっても分岐鎖状カルボン酸であってもよい。
【0061】
部分エステルを構成するカルボン酸として、ヒドロキシカルボン酸を用いてもよい。ヒドロキシカルボン酸は、飽和カルボン酸であっても不飽和カルボン酸であってもよいが、安定性の点から飽和カルボン酸が好ましい。また、ヒドロキシカルボン酸は、直鎖カルボン酸または分岐カルボン酸であってもよいが、直鎖カルボン酸、あるいは炭素数1または2、より好ましくは炭素数1の分岐鎖すなわちメチル基を1〜3個、より好ましくは1〜2個、特に好ましくは1個有する分岐カルボン酸が好ましい。
【0062】
ヒドロキシカルボン酸の炭素数は、さび止め性と貯蔵安定性との両立の点から、2〜40が好ましく、6〜30がより好ましく、8〜24がさらに好ましい。ヒドロキシカルボン酸が有するカルボン酸基の個数は特に制限されず、当該ヒドロキシカルボン酸一塩基酸または多塩基酸のいずれでもよいが、一塩基酸が好ましい。ヒドロキシカルボン酸が有する水酸基の個数は特に制限されないが、安定性の点から、1〜4が好ましく、1〜3がより好ましく、1〜2が更に好ましく、1が特に好ましい。
【0063】
ヒドロキシカルボン酸における水酸基の結合位置は任意であるが、カルボン酸基の結合炭素原子に水酸基が結合したカルボン酸(α−ヒドロキシ酸)、またはカルボン酸基の結合炭素原子から見て主鎖の他端の炭素原子に水酸基が結合したカルボン酸(ω−ヒドロキシ酸)であることが好ましい。
【0064】
このようなヒドロキシカルボン酸を含む原料として、羊の毛に付着するろう状物質を、加水分解等により精製して得られるラノリン脂肪酸を好ましく使用することができる。部分エステルの構成カルボン酸としてヒドロキシカルボン酸を用いる場合、水酸基を有さないカルボン酸を併用してもよい。
【0065】
水酸基を有さないカルボン酸としては、飽和カルボン酸であっても不飽和カルボン酸であってもよい。水酸基を有さないカルボン酸のうち、飽和カルボン酸は直鎖カルボン酸または分岐カルボン酸のいずれでもよいが、直鎖カルボン酸、あるいは炭素数1または2、より好ましくは炭素数1の分岐鎖すなわちメチル基を1〜3、より好ましくは1〜2、更に好ましくは1の分岐カルボン酸が好ましい。
【0066】
水酸基を有さない不飽和カルボン酸におけるカルボン酸基の個数は特に制限されず、一塩基酸または多塩基酸のいずれでもよいが、一塩基酸が好ましい。水酸基を有さない不飽和カルボン酸が有する不飽和結合の個数は特に制限されないが、安定性の点から、1〜4が好ましく、1〜3がより好ましく、1〜2が更に好ましく、1が特に好ましい。水酸基を有さない不飽和カルボン酸の中でも、さび止め性および基油に対する溶解性の点からはオレイン酸等の炭素数18〜22の直鎖不飽和カルボン酸が好ましく、また、酸化安定性、基油に対する溶解性および耐ステイン性の点からは、イソステアリン酸等の炭素数18〜22の分岐不飽和カルボン酸が好ましく、特にオレイン酸が好ましい。
【0067】
多価アルコールとカルボン酸との部分エステルにおいて、構成カルボン酸に占める不飽和カルボン酸の割合は5〜95質量%が好ましい。不飽和カルボン酸の割合を5質量%以上とすることで、さび止め性および貯蔵安定性を更に向上させることができる。同様の理由から、当該不飽和カルボン酸の割合は、10質量%以上がより好ましく、20質量%以上が更に好ましく、30質量%以上が一層好ましく、35質量%以上が特に好ましい。他方、当該不飽和カルボン酸の割合が95質量%を超えると、大気暴露性および基油に対する溶解性が不十分となる傾向にある。同様の理由から、当該不飽和カルボン酸の割合は、80質量%以下がより好ましく、60質量%以下が更に好ましく、50質量%以下が特に好ましい。
【0068】
上記部分エステルが、構成カルボン酸に占める不飽和カルボン酸の割合が5〜95質量%である部分エステルである場合、当該部分エステルのヨウ素価は、5〜75が好ましく、10〜60がより好ましく、20〜45が更に好ましい。部分エステルのヨウ素価が5未満であると、さび止め性および貯蔵安定性が低下する傾向にある。また、部分エステルのヨウ素価が75を超えると、大気暴露性および基油に対する溶解性が低下する傾向にある。本発明でいう「ヨウ素価」とは、JIS K 0070「化学製品の酸価、ケン化価、ヨウ素価、水酸基価および不ケン化物価」の指示薬滴定法により測定したヨウ素価を意味する。
【0069】
(B2)エステル化酸化ワックスとは、酸化ワックスとアルコール類とを反応させ、酸化ワックスが有する酸性基の一部または全部をエステル化させたものをいう。エステル化酸化ワックスの原料として使用される酸化ワックスとしては、例えば酸化ワックス;アルコール類としては、炭素数1〜20の直鎖状または分岐状の飽和1価アルコール、炭素数1〜20の直鎖状または分岐状の不飽和1価アルコール、上記エステルの説明において例示された多価アルコール、ラノリンの加水分解により得られるアルコール等、がそれぞれ挙げられる。
【0070】
(B3)エステル化ラノリン脂肪酸とは、羊の毛に付着するろう状物質を、加水分解等の精製によって得られたラノリン脂肪酸とアルコールとを反応させて得られたものを指す。エステル化ラノリン脂肪酸の原料として使用されるアルコールとしては、上記エステル化酸化ワックスの説明において例示されたアルコールが挙げられ、中でも多価アルコールが好ましく、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ソルビタン、ペンタエリスリトール、グリセリンがより好ましい。前記アルキルまたはアルケニルコハク酸エステルとしては、前記アルキルまたはアルケニルコハク酸と1価アルコールまたは2価以上の多価アルコールとのエステルが挙げられる。これらの中でも1価アルコールまたは2価アルコールのエステルが好ましい。
【0071】
1価アルコールは、直鎖状でも分岐鎖状でもよく、また、飽和アルコールでも不飽和アルコールでもよい。また、1価アルコールの炭素数は特に制限されないが、炭素数8〜18の脂肪族アルコールが好ましい。2価アルコールとしては、アルキレングリコール、ポリオキシアルキレングリコールが好ましく用いられる。
【0072】
(B4)アルキルまたはアルケニルコハク酸エステルとしては、アルキルまたはアルケニルコハク酸の2個のカルボキシル基の双方がエステル化されたジエステル(完全エステル)であってもよく、あるいはカルボキシル基の一方のみがエステル化されたモノエステル(部分エステル)であってもよいが、よりさび止め性に優れる点から、モノエステルが好ましい。ここでいう、アルケニル基の炭素数については任意であるが、通常炭素数8〜18のものが使用される。
【0073】
また、エステルを構成するアルコールとしては、1価のアルコールであっても、2価以上の多価アルコールであっても良いが、1価アルコール及び2価アルコールが好ましい。1価アルコールとしては、通常炭素数8〜18の脂肪族アルコールが用いられる。また、直鎖状のものであっても分岐状のものであっても良く、飽和のものであっても不飽和のものであっても良い。また、2価アルコールとしては、通常アルキレングリコール、ポリオキシアルキレングリコールが用いられる。なお、ポリオキシアルキレングリコールにおいて、構造の異なったアルキレンオキシドが共重合している場合、オキシアルキレン基の重合形式に特に制限はなく、ランダム共重合していても、ブロック共重合していても良い。重合度については特に制限はないが、2〜10のものが好ましく、2〜8のものがより好ましく、2〜6のものがさらにより好ましく用いられる。
【0074】
これらのエステルの中では、よりすぐれたさび止め性を発揮する点から、(B1)多価アルコールの部分エステルの使用が特に好ましく、具体的には、ラノリンのペンタエリスリトールエステル、ソルビタンモノオレート、ソルビタンイソステアレート等が挙げられる。
【0075】
本発明のさび止め油組成物に対する(B)エステルの配合量は特に制限されないが、組成物全量基準で0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、0.7質量%以上がさらに好ましく、1.0質量%以上がもっとも好ましい。また、組成物全量基準で30質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましく、15質量%以下がもっとも好ましい。
【0076】
本発明の組成物は、さらに、(C)サルコシン型化合物、(D)ノニオン系界面活性剤、(E)アミン、(F)カルボン酸、(G)脂肪酸アミン塩、(H)カルボン酸塩、(I)パラフィンワックス、(J)酸化ワックス塩、(K)ホウ素化合物、(L)アルキル又はアルケニルコハク酸誘導体、及び(M)水からなる群から選ばれる1種以上の化合物を含有してもよい。これらの化合物の中でも特に(C)ザルコシン型化合物、(D)ノニオン系界面活性剤、(G)脂肪酸アミン塩を用いることが好ましい。また、指紋除去性などの洗浄性を付与する場合は上記に加えて(M)水を用いることが好ましい。
【0077】
(C)サルコシン型化合物は、下記一般式(1)、(2)又は(3)で表される構造を有する。
−CO−NR−(CH−COOX (1)
(式中、Rは炭素数6〜30のアルキル基又は炭素数6〜30のアルケニル基、Rは炭素数1〜4のアルキル基、Xは水素原子、炭素数1〜30のアルキル基又は炭素数1〜30のアルケニル基、nは1〜4の整数を示す。)
[R−CO−NR−(CH−COO]Y (2)
(式中、Rは炭素数6〜30のアルキル基又は炭素数6〜30のアルケニル基、Rは炭素数1〜4のアルキル基、Yはアルカリ金属又はアルカリ土類金属、nは1〜4の整数、mはYがアルカリ金属の場合は1、アルカリ土類金属の場合は2を示す。)
[R−CO−NR−(CH−COO]−Z−(OH)' (3)
(式中、Rは炭素数6〜30のアルキル基又は炭素数6〜30のアルケニル基、Rは炭素数1〜4のアルキル基、Zは2価以上の多価アルコールの水酸基を除いた残基、mは1以上の整数、m’は0以上の整数、m+m’はZの価数、nは1〜4の整数を示す。)
【0078】
一般式(1)〜(3)中、Rは炭素数6〜30のアルキル基又は炭素数6〜30のアルケニル基を表す。基油への溶解性などの点から、炭素数6以上のアルキル基又はアルケニル基であることが必要であり、炭素数7以上であることが好ましく、炭素数8以上であることがより好ましい。また、貯蔵安定性などの点から、炭素数30以下のアルキル基又はアルケニル基であることが必要であり、炭素数24以下であることが好ましく、炭素数20以下であることがより好ましい。これらアルキル基又はアルケニル基は直鎖状でも分枝状でも良く、また、アルケニル基の二重結合の位置は任意である。
【0079】
一般式(1)〜(3)中、Rは炭素数1〜4のアルキル基を表す。貯蔵安定性などの点から、炭素数4以下のアルキル基であることが必要であり、炭素数3以下であることが好ましく、炭素数2以下であることがより好ましい。一般式(1)〜(3)中、nは1〜4の整数を表す。貯蔵安定性などの点から、4以下の整数であることが必要であり、3以下であることが好ましく、2以下であることがより好ましい。
【0080】
一般式(1)中、Xは水素原子、炭素数1〜30のアルキル基又は炭素数1〜30のアルケニル基を表す。Xで表されるアルキル基又はアルケニル基としては、貯蔵安定性などの点から炭素数30以下であることが必要であり、炭素数20以下であることが好ましく、炭素数10以下であることがより好ましい。これらアルキル基又はアルケニル基は直鎖状でも分枝状でも良く、また、アルケニル基の二重結合の位置は任意である。
また、よりさび止め性に優れるなどの点から、アルキル基であることが好ましい。Xとしては、よりさび止め性に優れるなどの点から、水素原子、炭素数1〜20のアルキル基又は炭素数1〜20のアルケニル基であることが好ましく、水素原子または炭素数1〜20のアルキル基であることがより好ましく、水素原子または炭素数1〜10のアルキル基であることがさらにより好ましい。
【0081】
一般式(2)中、Yはアルカリ金属またはアルカリ土類金属を表し、具体的には例えば、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム等が挙げられる。これらの中でも、よりさび止め性に優れる点から、アルカリ土類金属が好ましい。なお、バリウムの場合、人体や生態系に対する安全性が不十分となるおそれがある。一般式(2)中、mはYがアルカリ金属の場合は1を示し、Yがアルカリ土類金属の場合は2を示す。
【0082】
一般式(3)中、Zは2価以上の多価アルコールの水酸基を除いた残基を表す。このような多価アルコールとしては、2価〜6価のアルコールが挙げられる。
【0083】
一般式(3)中、mは1以上の整数、m’は0以上の整数であり、かつm+m’はZの価数と同じである。つまり、Zの多価アルコールの水酸基のうち、全てが置換されていても良く、その一部のみが置換されていても良い。
【0084】
上記一般式(1)〜(3)で表されるサルコシンの中でも、よりさび止め性に優れる点から、一般式(1)および(2)の中から選ばれる少なくとも1種の化合物であることが好ましい。また、一般式(1)〜(3)の中から選ばれる1種の化合物のみを単独で使用しても良く、2種以上の化合物の混合物を使用しても良い。
【0085】
本発明のさび止め油組成物における一般式(1)〜(3)で表されるサルコシンの含有量は、特に制限されないが、組成物全量を基準として、好ましくは0.05〜10質量%、より好ましくは0.1〜7質量%、更に好ましくは0.3〜5質量%である。当該サルコシンの含有量が前記下限値未満の場合、さび止め性及びその長期維持性が不十分となる傾向にある。また、当該サルコシンの含有量が前記上限値を超えても、含有量に見合うさび止め性及びその長期維持性の向上効果が得られない傾向にある。
【0086】
(D)ノニオン系界面活性剤としては、具体的には例えば、アルキレングリコール、ポリオキシアルキレングリコール、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアリールエーテル、多価アルコールのポリオキシアルキレン付加物の脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルアミン、アルキルアルカノールアミド等が挙げられる。これらの中でも、本願のさび止め油組成物のさび止め性により優れることから、本発明に用いられるノニオン系界面活性剤としては、アルキレングリコール、ポリオキシアルキレングリコール、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアリールエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルアミンが好ましく、特に、ポリオキシアルキレンアルキルアミンが好ましい。
【0087】
なお、上記のノニオン系界面活性剤は1種を単独で用いても良いし、2種以上を用いても良い。本発明のさび止め油組成物において、ノニオン系界面活性剤を含有しなくてもよいが、ノニオン系界面活性剤を含有量する場合は、組成物全量基準で、0.01〜10質量%であることが好ましい。含有量の上限値は、さび止め性の点から、10質量%以下であることが好ましく、8質量%以下であることがより好ましく、6質量%以下であることがさらに好ましく、5質量%以下であることが最も好ましい。
【0088】
(E)アミンとしては、前記スルホン酸塩の説明において例示されたアミンが挙げられる。上記アミンの中でも、モノアミンは耐ステイン性が良好であるという点で好ましく、モノアミンの中でもアルキルアミン、アルキル基およびアルケニル基を有するモノアミン、アルキル基およびシクロアルキル基を有するモノアミン、シクロアルキルアミンならびにアルキルシクロアルキルアミンがより好ましい。また、耐ステイン性が良好であるという点から、アミン分子中の合計炭素数3以上のアミンが好ましく、合計炭素数5以上のアミンがより好ましい。
【0089】
(F)カルボン酸としては、任意のものを使用できるが、好ましくは、脂肪酸、ジカルボン酸、ヒドロキシ脂肪酸、ナフテン酸、樹脂酸、酸化ワックス、ラノリン脂肪酸等が挙げられる。前記脂肪酸の炭素数は特に制限されないが、好ましくは6〜24、より好ましくは10〜22である。また、該脂肪酸は、飽和脂肪酸でも不飽和脂肪酸でもよく、また直鎖状脂肪酸でも分岐鎖状脂肪酸でもよい。このような脂肪酸としては、炭素数6〜34の飽和及び不飽和脂肪酸が挙げられる。
【0090】
ジカルボン酸としては、好ましくは炭素数2〜40のジカルボン酸、より好ましくは炭素数5〜36のジカルボン酸が用いられる。これらの中でも、炭素数6〜18の不飽和脂肪酸をダイマー化したダイマー酸、アルキルまたはアルケニルコハク酸が好ましく用いられる。ダイマー酸としては、例えば、オレイン酸のダイマー酸が挙げられる。また、アルキルまたはアルケニルコハク酸の中でも、アルケニルコハク酸が好ましく、炭素数8〜18のアルケニル基を有するアルケニルコハク酸がより好ましい。
【0091】
ヒドロキシ脂肪酸としては、好ましくは炭素数6〜24のヒドロキシ脂肪酸が用いられる。また、ヒドロキシ脂肪酸が有するヒドロキシ基の個数は1個でも複数個でもよいが、1〜3個のヒドロキシ基を有するものが好ましく用いられる。このようなヒドロキシ脂肪酸としては、例えば、リシノール酸が挙げられる。
【0092】
ナフテン酸とは、石油中のカルボン酸類であって、ナフテン環に−COOH基が結合したものをいう。樹脂酸とは、天然樹脂中に遊離した状態またはエステルとして存在する有機酸をいう。酸化ワックスとは、ワックスを酸化して得られるものである。原料として用いられるワックスは特に制限されないが、具体的には、石油留分の精製の際に得られるパラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトラタムや合成により得られるポリオレフィンワックス等が挙げられる。
【0093】
ラノリン脂肪酸とは、羊の毛に付着するろう状物質を、加水分解等の精製をして得られるカルボン酸である。
【0094】
これらのカルボン酸の中でも、さび止め性、脱脂性および貯蔵安定性の点から、ジカルボン酸が好ましく、ダイマー酸がより好ましく、オレイン酸のダイマー酸がより好ましい。
【0095】
(G)脂肪酸アミン塩としては、前記のカルボン酸の説明において例示された脂肪酸と、前記アミンの説明において例示されたアミンとの塩をいう。
【0096】
(H)カルボン酸塩としては、前記カルボン酸のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アミン塩等が挙げられる。カルボン酸塩を構成するアルカリ金属としてはナトリウム、カリウム等が挙げられ、アルカリ土類金属としてはバリウム、カルシウム、マグネシウム等が挙げられる。中でも、カルシウム塩が好ましく用いられる。また、アミンとしてはアミンの説明において例示したアミンが挙げられる。なお、バリウム塩は人体や生態系に対する安全性が不十分となるおそれがある。
【0097】
(I)パラフィンワックスとしては、例えば、石油留分の精製の際に得られるパラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタムや合成により得られるポリオレフィンワックス等が挙げられる。
【0098】
(J)酸化ワックス塩の原料として使用される酸化ワックスとしては特に制限されないが、例えば、前記に記載したパラフィンワックス等のワックスを酸化することによって製造される酸化パラフィンワックス等が挙げられる。
【0099】
(J)酸化ワックス塩がアルカリ金属塩である場合、原料として使用されるアルカリ金属としては、ナトリウム、カリウム等が挙げられる。酸化ワックス塩がアルカリ土類金属塩である場合、原料として使用されるアルカリ土類金属としては、マグネシウム、カルシウム、バリウム等が挙げられる。酸化ワックス塩が重金属塩である場合、原料として使用される重金属としては、亜鉛、鉛等が挙げられる。中でもカルシウム塩が好ましい。なお、人体や生体系に対する安全性の点から、酸化ワックス塩はバリウム塩および重金属塩でないことが好ましい。
【0100】
(K)ホウ素化合物としては、ホウ酸カリウム、ホウ酸カルシウム等が挙げられる。
【0101】
(L)アルキル又はアルケニルコハク酸誘導体としては、エステルの説明において例示した(B4)アルキル又はアルケニルコハク酸とアルコールとのエステル以外の、アルキル又はアルケニルコハク酸とアミノアルカノールとの反応生成物、アルキル又はアルケニルコハク酸無水物とザルコシンとの反応生成物、アルキル又はアルケニルコハク酸無水物とダイマー酸との反応生成物等が挙げられる。
【0102】
(M)水としては、工業用水、水道水、イオン交換水、蒸留水、活性炭または一般家庭用浄水器で処理した水、及び大気中の水分を吸収した水等任意のものが使用可能である。
【0103】
(M)水の含有量は、組成物全量基準で下限値0.1質量%、上限値10質量%の範囲で含有する。水の含有量の下限値は、さび発生の抑制性の点から、0.1質量%以上であり、0.2質量%以上が好ましく、0.5質量%以上が最も好ましい。また、含有量の上限値は、さび発生の抑制性の点及び水の耐分離安定性を示す点から、10質量%以下であり、9質量%以下がより好ましい。
【0104】
水の配合方法は特に限定しないが、例えば(1)界面活性剤と水を予め混合し、その混合液を基油に配合する方法。(2)ホモジナイザーなどの攪拌装置を用いて、水を強制的に配合・分散させる方法。(3)スチームを基油中に吹き込み、水を強制的に配合・分散させる方法、及び(4)本発明のさび止め油組成物を金属製部材に塗布する前、もしくは後に大気中の水分を自然に吸収させる方法などが、例示できる。
【0105】
本発明のさび止め油組成物においては、必要に応じて他の添加剤を含有させてもよい。具体的には例えば、潤滑性向上効果がある硫化油脂、硫化エステル、長鎖アルキル亜鉛ジチオホスフェート、トリクレジルフォスフェート等のリン酸エステル、動物油,植物油等の油脂、およびそれらの誘導体、脂肪酸、高級アルコール、炭酸カルシウム、ホウ酸カリウム;酸化防止性能を向上させるためのフェノール系またはアミン系酸化防止剤;ベンゾトリアゾールまたはその誘導体、チアジアゾール、ベンゾチアゾール等の金属の腐食防止性能を向上させるための腐食防止剤;メチルシリコーン、フルオロシリコーン、ポリアクリレート等の消泡剤、界面活性剤、またはこれらの混合物が挙げられる。これらの中では、特に酸化防止性能を向上させるためのフェノール系酸化防止剤、腐食防止剤としてのベンゾトリアゾールまたはその誘導体を用いることが好ましい。
【0106】
なお、上記他の添加剤の含有量は任意であるが、これらの添加剤の含有量の総和は本発明の組成物全量基準で30質量%以下が好ましい。
【0107】
また、第1、および第2の基油以外の基油を組み合わせてもよい。この場合、その他の基油としては鉱油、合成油が好ましく、その配合量は組成物全量基準で10質量%以下とすることが好ましい。
【0108】
本発明のさび止め油組成物の用途は特に制限されず、鋼板、軸受、鋼球、ガイドレールなどの様々な金属部品の製造工程において、金属加工後の金属部品の防錆に好適に用いることができる。
【実施例】
【0109】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0110】
[実施例1〜23、比較例1〜20]
実施例1〜23及び比較例1〜20においては、それぞれ表1〜5に示す性状に調整した基油及び以下に示す添加剤を用いてさび止め油組成物を調製した。実施例1〜23及び比較例1〜20のさび止め油組成物の各種性状を表3及び表4に示す。
【0111】
【表1】

【0112】
【表2】

【0113】
【表3】

【0114】
【表4】

【0115】
【表5】

【0116】
[添加剤]
<スルホン酸塩>
A1:カルシウムスルホネート(塩基価21mgKOH/gのものと塩基価233mgKOH/gのものとの等量混合物)
A2:エチレンジアミンスルホネート
<エステル>
B1:ソルビタンモノオレート
B2:ラノリンのペンタエリスリトールエステル
<その他の添加剤>
C1:オレオイルサルコシン(N−Methyloleamidoacetic acid)
D1:シクロヘキシルアミンのエチレンオキサイド付加物(シクロヘキシルジエタノールアミン)
E1:オクタン酸のアルキルアミン
F1:酸化防止剤としてのジ−t−ブチル−p−クレゾール
F2:腐食防止剤としてのベンゾトリアゾール
【0117】
次に、実施例1〜23および比較例1〜20のさび止め油組成物について、以下に示す評価試験を実施した。
【0118】
(さび止め性)
JIS K2246−2007「さび止め油」、6.35「中性塩水噴霧試験」に準拠して評価した。さびが発生するまでの時間(h)を測定して評価し、評価は1時間ごとに行った。得られた結果を表6〜10に示す。なお、本試験法でさびが発生するまでの時間が16時間以上あれば、十分なさび止め性を示すものと判断した。ちなみにさびが発生する時間が21時間を越えれば長期さび止め油として最高レベルの性能を有するものと判断できる。
【0119】
(油剤の安定性)
さび止め油組成物を調製後、蓋をしたガラス瓶に入れ25℃に調整した空気恒温槽中に最長90日間静置し、油剤の分離を24時間ごとに観察した。得られた結果を表6〜10に示す。表6〜10中、分離したものについてはその観察時点の日数を、分離しなかったものは「○」と表記した。
【0120】
(臭気)
さび止め油組成物を調製後、40℃に加温しその臭気を判定した。10人の被験者で判断を行い、「気にならない」を5点、「あまり気にならない」を4点、「やや気になる」を2点。「非常に気になる」を1点とし、平均点を算出した。平均点が4点以上を○、2点以上4点未満を△、2点未満を×と判定した。得られた結果を表6〜10に示す。
【0121】
(皮膚刺激性)
さび止め油組成物を調製後、0.3mLを市販のパッチテスト用絆創膏に含浸させ、これを被験者の上腕部内側に5ヶ所貼り付け、1時間後にはがして肌の状態を観察した。被験者は10人で、赤い(3点)、かすかに赤い(2点)、変化無し(1点)の3段階で点数をつけ、平均点が1.5点未満を○、1.5点以上2.5点未満を△、2.5点以上を×とした。得られた結果を表6〜10に示す。
【0122】
(ステイン性)
60mm×80mm角のJIS G 3141に規定するSPCCダル鋼板をn-ヘキサン、メタノールの順で良く洗浄し乾燥させる。その後、さび止め油剤:水(イオン交換水)=95:5に混合した試料油0.2mLを鋼板中央部に滴下し、直ちに別の鋼板で挟む。試料油を挟んだ鋼板を82℃に調整した恒温槽内に水平に置き、上側の鋼板の中央部に100gの分銅を乗せる。24時間静置した後、試料油を挟んだ面をn−ヘキサンで洗浄後ステインの発生度合いを目視で評価する。ステインなしを○、かすかなステイン発生を△、明瞭なステイン発生を×、と評価した。得られた結果を表6〜10に示す。
【0123】
【表6】

【0124】
【表7】

【0125】
【表8】

【0126】
【表9】

【0127】
【表10】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
5%留出温度が140℃以上250℃以下、95%留出温度が250℃以下、5%留出温度と95%留出温度の差が90℃以下、芳香族分が5容量%以下、ナフテン分が30容量%以上95容量%以下、15℃における密度が0.75g/cm以上、かつ、40℃における動粘度が0.3mm/s以上5.0mm/s以下の鉱油及び合成油からなる群より選ばれる少なくとも1種の基油である第1の基油と、
5%留出温度が260℃以上、40℃における動粘度が6.0mm/s以上600mm/s以下の鉱油及び合成油からなる群から選ばれる少なくとも1種の基油である第2の基油と、
さび止め添加剤と、
を含有するさび止め油組成物。
【請求項2】
前記第2の基油の%Cpが45以上90以下、%Cnが5以上50以下及び硫黄含有量が100質量ppm以上20,000質量ppm以下である、請求項1に記載のさび止め油組成物。
【請求項3】
前記さび止め添加剤がスルホン酸塩及びエステルから選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2に記載のさび止め油組成物。
【請求項4】
40℃における動粘度が0.5mm/s以上30mm/s以下である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のさび止め油組成物。


【公開番号】特開2011−80141(P2011−80141A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−192730(P2010−192730)
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】