説明

ざ瘡の治療におけるTACEインヒビター

本発明は、TACEの発現または活性を阻害する化合物の能力を決定するステップを含む、ざ瘡の予防または治療処置のための候補化合物をスクリーニングするin vitro方法、およびざ瘡の治療のための、この酵素の発現または活性のインヒビターの使用にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ざ瘡の治療のための、TACE酵素を調節する化合物の同定および使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ざ瘡は、異常なケラチノサイト増殖、および思春期にしばしば起こり、皮脂腺における脂漏の顕著な増加を引き起こす男性ホルモンの機能亢進による、毛嚢脂腺管の上端部およびさらに内部における閉塞により生ずる皮膚の状態である。毛嚢脂腺管の閉塞は、閉塞した毛嚢脂腺の濾胞におけるざ瘡プロピオンバクテリウム(Propionibacterium acnes)細菌およびまたピチロスポルムオバーレ(Pytirosporum ovale)の増殖を伴う、面疱および小嚢腫の形成を引き起こす。
【0003】
この状態は、青年期に特によくあり、皮膚の炎症反応を伴い、一般に表層真皮に位置する丘疹または膿疱の形態をとり得る。特定の症例では、炎症反応は、深部真皮に達し、小結節やマクロ嚢腫を形成し得る。
【0004】
ざ瘡の従来の治療では、過酸化ベンゾイル、エリスロマイシン、イソトレチノイン、および種々の消毒薬が使用される。しかし、エリスロマイシンなどの抗生物質の使用は、最近、細菌抵抗性および細菌叢の改変現象に直面する。
【0005】
本出願人は、ざ瘡現象の予防および/または改善のために、TACE酵素インヒビターを使用することを提案する。
【0006】
好ましくは、TACE酵素インヒビターは、単独で、すなわち、いかなる他の抗ざ瘡活性成分も、さらにいかなる他の活性成分も使わないで使用する。
【0007】
治療されるざ瘡には、すべての形態のざ瘡が含まれ、特に、尋常性ざ瘡、面皰様ざ瘡、多形ざ瘡、結節性嚢腫性ざ瘡、集簇性ざ瘡、またはその他の日焼けざ瘡、薬物性ざ瘡もしくは職業性ざ瘡などの二次的なざ瘡も含む。
【0008】
TACE
TNFα変換酵素であるTACE酵素は、TNFαの産生にかかわっている。この酵素は、メタロプロテアーゼのADAMファミリーの一員である(Bechererら、Handb.Exp.Pharmacol、2000年、第140巻、235〜258頁)。この酵素は、26kDaの前駆体タンパク質であるproTNFαを、成熟した17kDaのTNFαタンパク質に急速に変換する。TACE(またはADAM17)の阻害は、TNFα合成の阻害を引き起こす(Nelsonら、Exp.Opin.Invest.Drugs、1999年、第8巻、383〜392頁)。さらに、TACEインヒビターは、コラーゲン起因の関節炎を患っているモデル動物においてTNF産生および炎症応答を抑制することが示されている(Newtonら、Ann Rheum、Dis、2001年、第60巻、iii25〜iii32頁)。
【0009】
また、ざ瘡プロピオンバクテリウムは、ケラチノサイトおよびマクロファージによるTNFαの放出を刺激することが示されている(Groら、Br J Dermatol.、2004年、第150(3)巻、421〜428頁)。さらに、TNFαの過剰発現がざ瘡病変において観察されている(Kangら、Am J Pathol.、2005年、第166(6)巻、1691〜9頁)。
【0010】
炎症過程にあるざ瘡病変のトランスクリプトーム分析は、病変で優先的に発現している遺伝子の広汎なパネルの同定を可能とした(Trivediら、JID.、2006年5月、第126(5)巻、1071〜9頁)。特定の作用機構に固執するわけではないが、本発明者らは、TACEインヒビターが、特に、炎症に関与しているいくつかの遺伝子の、TNFαによる調節を通じて、ざ瘡において観察される炎症現象に影響を与えるという仮説を提示する。TNFαへの露出に応答して誘発されると報告されている炎症性ざ瘡病変に対するマーカーの中には、
「ストレス応答」に関与している次の遺伝子:
-SGK (Li Xら、J Biol Chem、2002年11月22日、第277(47)巻、45129〜40頁);
-SOD2 (Horrevoetsら、Blood、1999年5月15日、93(10) 3418〜31頁);
血管新生に関与している次の遺伝子:
-ECGF1 (Zhuら、Oncogene、2002年12月5日、第21(55)巻、8477〜85頁);
細胞移動と再構成に関与している次の遺伝子:
-MMP1、MMP3 (Reunanenら、J Biol Chem、2002年8月30日、第277(35)巻、32360〜8頁);
-T1A-2 (Bannoら、J Biol.Chem.、2004年7月30日、第279(31)巻、32633〜42頁. Epub 2004年5月15日);
免疫応答に関与している次の遺伝子:
-DEFB4 (Seo SJら、J Dermatol Sci.、2001年11月、第27(3)巻、183〜91頁);
-IL1F9 (Kumarら、J Biol Chem、2000年4月7日、第275(14)巻、10308〜14頁);
-CXCL2 (Bannoら、J Biol Chem、2004年7月30日、第279(31)巻、32633〜42頁;Siwkowskiら、Mol Pharmacol、2004年9月1日、第66(3)巻、572〜9頁);
-IL-8 (Brasierら、J Biol Chem、1998年2月6日、第273(6)巻、3551〜61頁;Teruiら、Blood、1998年10月15日、第92(8)巻、2672〜80頁);
-CCR1 (Liら、J Biol Chem、2002年11月22日、第277(47)巻、45129〜40頁;Sozzaniら、J Immunol、1998年8月1日、第161(3)巻、1083〜6頁);
-CD14 (Enomotoら、J Pharmacol Exp Ther、2003年9月1日、第306(3)巻、846〜54頁);
-CD47 (Bannoら、J Biol Chem、2004年7月30日、第279(31)巻、32633〜42頁);
-FPR1 (Mandalら、J Immunol、2005年11月1日、第175(9)巻、6085〜91頁);
-PLSCR1 (Bannoら、J Biol Chem、2004年7月30日、第279(31)巻、32633〜42頁);
-TNC (Scherberichら、Oncogene、2005年2月24日、第24(9)巻、1525〜32頁;Bannoら、J Biol Chem、2004年7月30日、第279(31)巻、32633〜42頁);
-CYBB (Dusiら、Eur J Immunol、2001年3月1日、第31(3)巻、929〜38頁)
が見出される。
一方、TNFαは、発生に関与しているFRZB遺伝子を阻害する(Tianら、J Biol Chem、2005年4月29日、第280(17)巻、17435〜48頁)。
最後に、TNFαは、代謝に関与する2つの遺伝子を阻害する:
-KYNU (Bannoら、J Biol Chem、2004年7月30日、第279(31)巻、32633〜42頁)、
-AKR1B10 (Iwataら、J Biol Chem、1999年3月19日、第274(12)巻、7993〜8001頁)。
【0011】
いくつかのTACEインヒビター分子が、主として関節炎の治療のために、開発中である。また、米国特許出願第2004122011号(Masferrer JL)および国際公開第99/42436号(American Cyanamid社)などの多くの特許出願が、関節炎、癌または他の疾病の治療のためのTACEインヒビターを提案している。特に、これらの2つの出願は、ざ瘡を含む種々の病理学的な状態の治療のためのTACEインヒビターを含む治療法または組成物を記載している。
【0012】
本発明の文脈においては、「TACE遺伝子」または「TACE核酸」という用語は、TACE酵素をコードしている遺伝子または核酸を示す。好ましくは、意図した標的がヒト遺伝子またはその発現生成物である場合、本発明は、また、酵素をコードしている外来性の核酸のゲノム組込みまたは一時的な発現により、異種のTACEを発現する細胞を利用し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許出願第2004122011号
【特許文献2】国際公開第99/42436号
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Bechererら、Handb.Exp.Pharmacol、2000年、第140巻、235〜258頁
【非特許文献2】Nelsonら、Exp.Opin.Invest.Drugs、1999年、第8巻、383〜392頁
【非特許文献3】Newtonら、Ann Rheum、Dis、2001年、第60巻、iii25〜iii32頁
【非特許文献4】Groら、Br J Dermatol.、2004年、第150(3)巻、421〜428頁
【非特許文献5】Kangら、Am J Pathol.、2005年、第166(6)巻、1691〜9頁
【非特許文献6】Trivediら、JID.、2006年5月、第126(5)巻、1071〜9頁
【非特許文献7】Li Xら、J Biol Chem、2002年11月22日、第277(47)巻、45129〜40頁
【非特許文献8】Horrevoetsら、Blood、1999年5月15日、93(10) 3418〜31頁
【非特許文献9】Zhuら、Oncogene、2002年12月5日、第21(55)巻、8477〜85頁
【非特許文献10】Reunanenら、J Biol Chem、2002年8月30日、第277(35)巻、32360〜8頁
【非特許文献11】Bannoら、J Biol.Chem.、2004年7月30日、第279(31)巻、32633〜42頁. Epub 2004年5月15日
【非特許文献12】Seo SJら、J Dermatol Sci.、2001年11月、第27(3)巻、183〜91頁
【非特許文献13】Kumarら、J Biol Chem、2000年4月7日、第275(14)巻、10308〜14頁
【非特許文献14】Siwkowskiら、Mol Pharmacol、2004年9月1日、第66(3)巻、572〜9頁
【非特許文献15】Brasierら、J Biol Chem、1998年2月6日、第273(6)巻、3551〜61頁
【非特許文献16】Teruiら、Blood、1998年10月15日、第92(8)巻、2672〜80頁
【非特許文献17】Sozzaniら、J Immunol、1998年8月1日、第161(3)巻、1083〜6頁
【非特許文献18】Enomotoら、J Pharmacol Exp Ther、2003年9月1日、第306(3)巻、846〜54頁
【非特許文献19】Mandalら、J Immunol、2005年11月1日、第175(9)巻、6085〜91頁
【非特許文献20】Scherberichら、Oncogene、2005年2月24日、第24(9)巻、1525〜32頁
【非特許文献21】Dusiら、Eur J Immunol、2001年3月1日、第31(3)巻、929〜38頁
【非特許文献22】Tianら、J Biol Chem、2005年4月29日、第280(17)巻、17435〜48頁
【非特許文献23】Iwataら、J Biol Chem、1999年3月19日、第274(12)巻、7993〜8001頁
【非特許文献24】Jinら、Anal Biochem.、2002年3月15日、第302(2)巻、269〜75頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
スクリーニング法
本発明の主題は、ざ瘡の予防および/または治療処置のための候補化合物をスクリーニングするin vitro方法であって、TACEの発現もしくは活性、またはその遺伝子の発現もしくはそのプロモーターの少なくとも1種の活性を阻害する化合物の能力を決定するステップ、TACEの発現もしくは活性、またはその遺伝子の発現もしくはそのプロモーターの少なくとも1種の活性の阻害するステップを含む方法であり、化合物がざ瘡の予防および/または治療処置に有用であることを示す。
【0016】
「阻害」という用語は、酵素の発現もしくは活性、その遺伝子の発現もしくはそのプロモーターの少なくとも1種の活性に対するなんらかの減少効果を意味することを意図している。
【課題を解決するための手段】
【0017】
試験される化合物はどのようなタイプのものでもよい。化合物は、天然起源でもよいしまたは化学合成で製造されてもよい。化合物は、構造が規定されている化合物、特性決定されていない化合物もしくは物質、または化合物の混合物のライブラリーでもよい。
【0018】
様々な技法を使用してこれらの化合物を試験し、また、治療上の関心のある、すなわち、TACEの発現または活性の調節因子である化合物を同定し得る。
【0019】
好ましくは、スクリーニング法は、以下のステップを含む:
a.少なくとも2つの生物学的試料または反応混合物を用意するステップ;
b.試料または反応混合物の1つを試験化合物の1種または複数と接触させるステップ;
c.生物学的試料または反応混合物中で、TACE酵素の発現もしくは活性、その遺伝子の発現もしくはそのプロモーターの少なくとも1種の活性を測定するステップ;
d.TACE酵素の発現もしくは活性の阻害、またはその遺伝子の発現の阻害もしくはそのプロモーターの少なくとも1種の活性の阻害を、未処理の試料または混合物と比較して、ステップb)で処理された試料または混合物中で測定する化合物を選択するステップ。
【0020】
本明細書を通じて、別に規定しない限り、「酵素の発現」という用語は、この酵素の量を意味することを意図している。
【0021】
「酵素の活性」という用語は、その生物学的活性を意味することを意図している。
【0022】
「プロモーターの活性」という用語は、このプロモーターの下流にコードされているDNA配列の転写(およびここで間接的には、対応するタンパク質、この場合は酵素の合成)を開始するこのプロモーターの能力を意味することを意図している。
【発明を実施するための形態】
【0023】
第1の実施形態によれば、ステップa)における生物学的試料または反応混合物は、TACE遺伝子プロモーターのすべてまたは一部に機能的に関連付けられているレポーター遺伝子で形質移入した細胞である。この場合、方法は、化合物をこれらの生物学的試料または反応混合物と接触させること(ステップb))、および次いで前記レポーター遺伝子の発現水準を決定すること(ステップc))により実行される。ステップd)における選択は、発現水準における差を、化合物を存在させないで実行した対照と比べて観察することにより実行される。この差は、ざ瘡の予防または治療処置における化合物の有用性を示している。
【0024】
レポーター遺伝子は、特に、所与の基質の存在下で、着色生成物の形成を引き起こす、CAT(クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ)、GAL(ベータガラクトシダーゼ)またはGUS(ベータグルクロニダーゼ)などの、酵素をコードしていてもよい。レポーター遺伝子は、また、ルシフェラーゼまたはGFP(緑色蛍光性タンパク)遺伝子であってもよい。レポーター遺伝子によりコードされているタンパク質またはその活性の検定は、とりわけ、比色分析法、蛍光分析法または化学ルミネッセンス法で、従来のように、実行される。
【0025】
第2の実施形態によれば、ステップa)における生物学的試料または反応混合物は、TACEをコードしているTACE遺伝子を発現する細胞である。この場合、スクリーニング法は、生物学的試料または反応混合物と化合物を接触させるステップ(ステップb))、および次いで前記遺伝子の発現水準を決定するステップ(ステップc))を含む。ステップd)における選択は、TACE遺伝子の発現水準における差を、化合物を存在させないで実行した対照と比べて観察することにより実行される。この差は、ざ瘡の予防または治療処置における化合物の有用性を示している。
【0026】
ここで用いられる細胞は、どのようなタイプのものでもよい。細胞は、内因的にTACE遺伝子を発現する細胞であってもよく、例えば、肝臓細胞、卵巣細胞、またはケラチノサイトもしくは、THP1細胞などの免疫系の細胞ならなおよい。
【0027】
細胞は、TACEをコードしている異種の核酸で形質転換した細胞でもよく、好ましくは、ヒトまたは哺乳動物のものである。
【0028】
例えば、Cos-7、CHO、BHK、3T3またはHEK293細胞などの、広範囲の宿主細胞系を使用してもよい。また、細菌(例えば、大腸菌(E.coli)または枯草菌(B.subtilis));イースト(例えば、サッカロミセスピチア(Saccharomyces pichia));またはSf9もしくはSf21などの昆虫細胞などの微生物を使用することも可能である。
【0029】
前記核酸は、当業者に公知のいずれかの方法で、例えば、リン酸カルシウム、DEAE-デキストラン、リポソーム、ウィルス、電気穿孔法または微量注入法により、安定的にまたは一時的に形質移入し得る。
【0030】
本発明の方法では、TACE遺伝子の発現水準は、前記遺伝子の転写水準、またはその翻訳水準を評価することにより決定できる。
【0031】
「遺伝子の転写水準」という用語は、産生された対応するmRNAの量を意味することを意図している。
【0032】
「遺伝子の翻訳水準」という用語は、産生されたタンパク質の量を意味することを意図している。
【0033】
当業者ならば、目的遺伝子のmRNAの定量的および半定量的検出技法に関してなじみがある。特定のヌクレオチドプローブとmRNAのハイブリダイゼーションに基づく技法(ノーザンブロット、RT-PCR、リボヌークレアーゼ防護検定法)は、最も普通のものである。また、蛍光法、放射性または酵素活性試剤または他のリガンド(例えば、アビジン/ビオチン)などの検出ラベルの使用も有利であり得る。
【0034】
遺伝子の翻訳水準は、例えば、免疫学的検定法のタイプ、質量分析(MALDI-TOFおよび薄層分析)などの方法により評価する。前記遺伝子生成物の免疫学的検定法のためには、使用される抗体は、ポリクローナルまたはモノクローナルタイプでもよい。前記抗体の産生は従来の技法の結果である。免疫学的検定法は、非制限的な例としてあげるが、固相または均一相で、1段階または2段階法で、サンドイッチ法または競合法で実行してもよい。1つの好ましい実施形態によれば、捕獲抗体は、固相上に固定化される。固相の非制限的な例として、マイクロプレート、特に、ポリスチレンマイクロプレート、または固体粒子もしくはビーズ、常磁性ビーズを使用してもよい。
【0035】
ELISA検定法、放射免疫測定法、または他の検出技法は、形成された抗原-抗体複合体の存在を示すのに使用し得る。
【0036】
抗原/抗体複合体、およびより一般的には、単離もしくは精製された、組換え体でもある(in vitroでおよびin vivoで得られた)タンパク質の特性決定は、質量分析(プロテオミクス)法により実行し得る。
【0037】
第3の実施形態によれば、ステップa)における生物学的試料または反応混合物は、TACE酵素、または好ましくは、ヒト組換えTACE酵素の610アミノ酸N-末端断片、および酵素の基質を含む反応混合物である。この場合は、スクリーニング法は、これらの混合物と化合物を接触させるステップ(ステップb))次いで酵素活性を決定するステップ(ステップc))を含む。ステップd)における選択は、活性の減少を、化合物を存在させないで実行した対照と比べて観察することにより実行される。この減少は、ざ瘡の予防または治療処置における化合物の有用性を示している。
【0038】
酵素の活性試験は、Jinら、Anal Biochem.、2002年3月15日、第302(2)巻、269〜75頁に記載されている。この試験は、異なる基質を用いて変更することもできる。それ故、TNFα前駆体切断部位を取り囲むアミノ酸配列である、ペプチドMCA-PLAQAV(Dpa)RSSSR-NH2を、蛍光発生基質として用いることが可能である。切断部位はアラニンとバリン残基の間に位置する。蛍光を与える基は、MCA((7-メトキシクマリン-4-イル)アセチル)であり、消光受容部位は、Dpa(3-(2,4-ジニトロフェニル)-L-2,3-ジアミノプロピオン酸アミド)である。ヒト組換えTACE酵素による基質切断活性は、320nmで励起され、420nmの発光する蛍光でモニターされる。
【0039】
TACEの活性を測定できる別の方法は、例えば、ケラチノサイトまたはTHP1細胞培養物でのHTRF(均一時間分解蛍光法)技法を用いる免疫測定法によりTNFαの産生を測定することである。このためには、細胞は、LPSおよび/またはTPAで前もって刺激され、細胞により産生されるTNFαは、ヒトTNFαのそれぞれ異なるエピトープを認識する2つのマウス抗体を用いて検定される。それぞれの抗体は、ユロピウムクリプテート、またはアロフィコシアニンXL665のどちらかと結合する。2つの抗体が、産生されたTNFαの一端にそれぞれ結合すると、この組合せがFRET信号を測定可能とする。
【0040】
候補TACEインヒビターは、次いで、ざ瘡モデルまたはざ瘡を患っている患者で試験し得る。本発明は、それ故、ざ瘡の治療および/または予防のための候補化合物をスクリーニングする方法も提供し、前記方法は、TACEインヒビター化合物をざ瘡のあるまたはざ瘡になりやすい皮膚を有する個人に投与するステップ、およびざ瘡の状態を評価するステップを含む。投与は、好ましくは、局所的に実行される。「局所的に」という用語は、皮膚または粘膜への適用を意味することを意図している。
【0041】
酵素インヒビター
また、本発明の主題は、ヒトTACE酵素インヒビター、特に、上述したスクリーニング法により得たインヒビターの、ざ瘡の予防および/または治療処置に使用するための薬剤の調製における使用である。好ましくは、薬剤は、シクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)インヒビターを含まない。
【0042】
好ましくは、ヒトTACE酵素インヒビターは、薬剤中に含まれている唯一の抗ざ瘡活性成分である。さらに好ましくは、ヒトTACE酵素インヒビターは、薬剤中に含まれている唯一の活性成分である。
【0043】
したがって、ざ瘡の予防および/または治療処置の方法が本明細書に記載され、前記方法は、そのような処置を必要とする患者に対する、治療有効量のヒトTACE酵素調節因子の投与を含む。
【0044】
「インヒビター」という用語は、TACEの酵素活性を除去または実質的に減少させる化合物または化学物質を意味する。「実質的に」という用語は、少なくとも20%、好ましくは、少なくとも30%、より好ましくは、少なくとも50%、より好ましくは、少なくとも70%または90%の減少を示す。より特には、インヒビターは、酵素の触媒作用部位と相互作用し、それを遮断する化合物でもよい。
【0045】
好ましいインヒビターは、溶液中で、1μM未満、好ましくは、0.1μM未満、より好ましくは、0.01μM未満のインヒビター濃度で、酵素と相互作用する。
【0046】
調節化合物は、抗TACE阻害性抗体、好ましくは、モノクローナル抗体でもよい。有利には、そのような阻害性抗体は、約0.01μg/ml〜約100μg/ml、好ましくは、約1μg/ml〜約5μg/mlの血中濃度を得るに十分な量で投与される。
【0047】
他の好ましいインヒビターは以下のTable 1(表1)に表示されている。
【0048】
【表1A】

【0049】
【表1B】

【0050】
【表1C】

【0051】
【表1D】

【0052】
【表1E】

【0053】
【表1F】

【0054】
さらにより好ましいインヒビターの、名前、CAS番号および参考文献を以下のTable 2(表2)にあげる。
【0055】
【表2A】

【0056】
【表2B】

【0057】
【表2C】

【0058】
【表2D】

【0059】
【表2E】

【0060】
好ましいTACEインヒビターとしては、W-3646、Ro-32-7315、GW-3333、アプラタスタットまたは(3S)-N-ヒドロキシ-4-[[4-[(4-ヒドロキシブタ-2-イニル)オキシ]フェニル]スルホニル]-2,2-ジメチルチオモルフォリン-3-カルボキシアミド、GW-4459、CGS-33090A、DPC-333、TNF-484、WTACE2、SP-057、SL-422、FYK-1388およびKB-R7785が含まれる。
【0061】
次のTACEインヒビターもまた有利である。3-[3-[N-イソプロピル-N-(4-メトキシフェニル-スルホニル)アミノ]フェニル]-3-(3-ピリジル)-2(E)-プロペノ-ヒドロキサム酸、(2R,3S)-3-(ホルミルヒドロキシアミノ)-4-メチル-2-(2-メチルプロピル)-N-[(1S,2S)-2-メチル-1-[(2-ピリジニルアミノ)カルボニル]ブチル]ペンタンアミド、(2R,3S)-3-(ホルミルヒドロキシアミノ)-N-[(1S)-4-[[イミノ(ニトロアミノ)メチル]アミノ]-1-[(2-チアゾリルアミノ)カルボニル]ブチル]-2-(2-メチルプロピル)ヘキサンアミド、(αR,1α,4β)-α-[[(4-エトキシフェニル)スルホニル](4-ピリジニルメチル)アミノ]-N-ヒドロキシ-4-プロポキシシクロヘキサンアセトアミドおよび(αR)-N-ヒドロキシ-α,3-ジメチル-2-オキソ-3-[4-(2-メチル-4-キノリニルメトキシ)フェニル]-1-ピロリジンアセトアミド。
【0062】
以下のTable 3(表3)は、種々のTACEインヒビターを記載している特許出願参考文献を示す。
【0063】
【表3A】

【0064】
【表3B】

【0065】
インヒビター化合物は、薬学的に許容される担体と組み合わせて薬剤組成物中に製剤される。このような組成物は、例えば、経口で、経腸で、非経口でまたは局所的に投与されてもよい。好ましくは、薬剤組成物は、局所的に適用される。経口投与される場合、薬剤組成物は、錠剤、ゲルカプセル、糖衣錠、シロップ、懸濁液、溶液、粉末、粒剤、乳化液、またはマイクロ球体もしくはナノ球体の懸濁液または徐放のための脂質もしくは高分子小胞の形態であってもよい。非経口的に投与される場合は、薬剤組成物は、点滴もしくは注射用に溶液または懸濁液の形態であってもよい。
【0066】
局所適用される場合は、薬剤組成物は、より特には、皮膚および粘膜の治療に使用され、軟膏(salves)、クリーム、ミルク、軟膏(ointments)、粉末、充填パッド、溶液、ゲル、スプレー、ローション、懸濁液またはパッチの形態であってもよい。また、マイクロ球体もしくはナノ球体の懸濁液または徐放のための脂質もしくは高分子小胞もしくは高分子パッチもしくはヒドロゲルの形態であってもよい。局所適用用のこの組成物は、無水の形態、水性の形態または乳化液の形態であってもよい。好ましい変形では、薬剤組成物は、ゲル、クリームまたはローションの形態である。
【0067】
薬剤組成物は、また、不活性の添加剤またはそのような添加剤の組合せを含んでもよい。例えば、
-湿潤剤;
-芳香増強剤;
-パラヒドロキシ安息香酸エステルなどの防腐剤;
-安定化剤;
-湿度調節剤;
-pH調節剤;
-浸透圧調節剤;
-乳化剤;
-UV-AおよびUV-B遮蔽剤;
-および抗酸化剤、例えば、αトコフェロール、ブチルヒドロキシアニソールもしくはブチルヒドロキシトルエン、スーパーオキシドジスムターゼ、ユビキノールまたは特定の金属キレート剤。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
TACE酵素の発現もしくは活性、またはその遺伝子の発現もしくはそのプロモーターの少なくとも1種の活性を阻害する化合物の能力を決定するステップを含む、ざ瘡の予防および/または治療処置のための候補化合物をスクリーニングするin vitro方法。
【請求項2】
a.少なくとも2つの生物学的試料または反応混合物を用意するステップ;
b.試料または反応混合物の1つを試験化合物の1種または複数と接触させるステップ;
c.生物学的試料または反応混合物中で、TACE酵素の発現もしくは活性、その遺伝子の発現もしくはそのプロモーターの少なくとも1種の活性を測定するステップ;
d.TACE酵素の発現もしくは活性の阻害、またはその遺伝子の発現の阻害もしくはそのプロモーターの少なくとも1種の活性の阻害を、未処理の試料または混合物と比較して、b)で処理された試料または混合物中で測定する化合物を選択するステップ
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ざ瘡の予防および/または治療処置用薬剤の調製におけるTACE酵素インヒビターの使用であって、前記薬剤がシクロオキシゲナーゼ-2インヒビターを含まない、使用。
【請求項4】
TACE酵素インヒビターがE-3-[3-[N-(4-メトキシフェニルスルホニル)-N-イソプロピルアミノ]-フェニル]-3-(3-ピリジル)-2(E)-プロペノヒドロキサム酸、(2R,3S,5E)-3-[(ヒドロキシアミノ)カルボニル]-2-(2-メチルプロピル)-6-フェニル-5-ヘキセン酸2-(2-メチルプロピル)-2-(メチルスルホニル)ヒドラジド、(2R,3S)-3-(ホルミルヒドロキシ-アミノ)-4-メチル-2-(2-メチルプロピル)-N-[(1S,2S)-2-メチル-1-[(2-ピリジニルアミノ)カルボニル]ブチル]ペンタンアミド、アプラタスタット(apratastat)、(2R,3S)-3-(ホルミルヒドロキシアミノ)-N-[(1S)-4-[[イミノ(ニトロアミノ)メチル]アミノ]-1-[(2-チアゾリルアミノ)カルボニル]ブチル]-2-(2-メチルプロピル)ヘキサンアミド、(αR,1α,4β)-α-[[(4-エトキシフェニル)スルホニル](4-ピリジニルメチル)アミノ]-N-ヒドロキシ-4-プロポキシシクロヘキサンアセトアミド、(αR)-N-ヒドロキシ-α,3-ジメチル-2-オキソ-3-[4-(2-メチル-4-キノリニルメトキシ)フェニル]-1-ピロリジンアセトアミド、TNF-484、WTACE2、(8S,11R,12S)-N12-ヒドロキシ-11-(2-メチルプロピル)-N8-[2-(4-モルホリニル)-2-オキソエチル]-2,10-ジオキソ-1-オキサ-3,9-ジアザシクロペンタデカン-8,12-ジカルボキサミド、(6S,7R,10S)-N6-ヒドロキシ-N10-[2-(メチル-アミノ)-2-オキソエチル]-7-(2-メチルプロピル)-8-オキソ-2-オキサ-9-アザビシクロ[10.2.2]ヘキサデカ-12,14,15-トリエン-6,10-ジカルボキサミド、[2R-[1(S*),2R*,3S*]]-N1-[1-[[4-(アミノ-イミノメチル)アミノ]フェニル]メチル]-2-(メチルアミノ)-2-オキソエチル]-N4-ヒドロキシ-2-(2-メチルプロピル)-3-(3-フェニルプロピル)ブタンジアミド一酢酸塩、(2S,3R)-N1-ヒドロキシ-2-メチル-N4-[(1S)-2-(メチルアミノ)-2-オキソ-1-フェニルエチル]-3-(2-メチルプロピル)ブタンジアミド、3-[3-[N-イソプロピル-N-(4-メトキシフェニルスルホニル)アミノ]フェニル]-3-(3-ピリジル)-2(E)-プロペノヒドロキサム酸、(2R,3S)-3-(ホルミルヒドロキシアミノ)-4-メチル-2-(2-メチルプロピル)-N-[(1S,2S)-2-メチル-1-[(2-ピリジニルアミノ)カルボニル]ブチル]-ペンタンアミド、(2R,3S)-3-(ホルミルヒドロキシアミノ)-N-[(1S)-4-[[イミノ(ニトロアミノ)メチル]アミノ]-1-[(2-チアゾリルアミノ)-カルボニル]ブチル]-2-(2-メチルプロピル)ヘキサンアミド、(αR,1α,4β)-α-[[(4-エトキシフェニル)スルホニル](4-ピリジニルメチル)-アミノ]-N-ヒドロキシ-4-プロポキシシクロヘキサンアセトアミド、および(αR)-N-ヒドロキシ-α3-ジメチル-2-オキソ-3-[4-(2-メチル-4-キノリニルメトキシ)フェニル]-1-ピロリジンアセトアミドから選択されることを特徴とする、請求項3に記載の使用。
【請求項5】
TACE酵素インヒビター化合物が、唯一の活性成分である、請求項3または4に記載の使用。
【請求項6】
前記インヒビター化合物が、請求項1または2に記載の方法により同定される化合物である、請求項3から5の一項に記載の使用。
【請求項7】
前記薬剤が、局所投与用である、請求項3から6の一項に記載の使用。

【公表番号】特表2010−532658(P2010−532658A)
【公表日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−512749(P2010−512749)
【出願日】平成20年6月18日(2008.6.18)
【国際出願番号】PCT/FR2008/051085
【国際公開番号】WO2009/004247
【国際公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【出願人】(599045604)ガルデルマ・リサーチ・アンド・デヴェロップメント (117)
【Fターム(参考)】