説明

しわ改善美容方法

【課題】 微弱電流によるしわ改善効果の持続性を高めて、高価な薬剤や保湿剤なしに効果的にしわ改善できる美容方法を提供する。
【解決手段】 皮膚にイオントフォレーシスなどによる微弱電流を与え、強制保水によって角質水分量を高めた後に、常温で半固形状の油性基剤たとえばワセリン、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックスなどを50質量%以上含有しかつ50%以上の閉塞性を有する油性皮膚外用剤を該皮膚に塗布する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、しわを改善するための美容方法に関するものであり、より詳細には、微弱電流と閉塞性の高い油性皮膚外用剤とを利用したしわ改善美容方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
中高年の女性における美容に対する関心の高まりから、加齢に伴う表皮角質層の保水能力の低下や表皮脂質の分泌低下による皮脂の減少によって顕在化する、目尻や口元に生じる小じわに対する関心が高まっている。
【0003】
しわの防止または改善のために、様々な薬剤や保湿剤等を配合したスキンケア製剤が開発されている。例えばビタミンC誘導体、ビタミンAまたはその誘導体などの薬剤を配合した製剤や、グリセリン、ソルビトール、植物液エキス等の保湿剤やコラーゲン等を配合した製剤が知られている。しかしながらそれらスキンケア化粧料は非常に高価であり、また小じわ改善効果をもたらすにはある程度の期間連用する必要がある。そこで、より短期間で効果的にしわ、特に小じわを改善できる美容方法が強く望まれていた。
【0004】
近年、美容形成や医療の分野で、微弱電流を利用した様々な試みがなされている。人間の体には本来100μA〜200μAの微弱な電流(生体電流)が流れており、かかる微弱電流は、ATPの生成やタンパク質合成等に寄与して、生体の成長、代謝、細胞分裂等の様々な生理機能を促進させる働きを有する。例えば美容業界では、皮膚に直接微弱電流を与えて皮膚細胞を活性化させて、肌のスキンケア、むくみ、たるみ、しみ、しわ等の改善を行う美容方法が実施されている。
【0005】
また、そのような微弱電流療法に利用する微弱電流装置も、エステティックサロン等の専門店で用いる大型のものから、ホームケア用美容器として発売されているハンディータイプの比較的小型の装置まで、様々なタイプのものが市販されている。さらに近年、手軽かつ簡便に微弱電流を皮膚に適用できる装置として、3Vの電池を組み込み、ハイドロゲルを介して皮膚に貼付するパッチシートなどもあり(例えば特許文献1および2を参照)、必要な時間単に皮膚に貼り付けるのみで微弱電流をあたえることができ、特に家庭での美容的利用への応用が期待されている。
【0006】
しかしながら、そのような微弱電流を利用したしわ改善は、施術直後には効果を示すが、そのしわ改善効果の持続期間が非常に短いという問題があった。
【特許文献1】特表2002−504836号公報
【特許文献2】特表2000−502206号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような事情に鑑み、微弱電流によるしわ改善効果の持続性を高めて、高価な薬剤や保湿剤等を用いる必要なしに、短期間で効果的にしわを改善できる美容方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、皮膚に微弱電流を与えるとプラス極側の皮膚において強制保水によって皮膚の水分量が一過性に増加し、その一過性の水分量の増加がしわ改善に寄与し得ること、さらにはそのように微弱電流によって水分量が増加した皮膚の上から閉塞性の高い油性皮膚外用剤を塗布することによって、その水分が皮膚表面に長期間に亘り保持されて、シワ改善効果の持続性が高められることを見出し、本発明を達成するに至った。
【0009】
プラス極側の皮膚における強制保水は、負に帯電している角層に吸着している陽イオンがマイナス極に引かれる際に生じるプラス極からマイナス極側への水の流れによる電気浸透流(electro-osmosis)がその1つの要因であると考えられる。図1に、微弱電流を与えた際に生じるプラス極での強制保水の機構を概説する。
【0010】
本発明のしわ改善美容方法は、皮膚に微弱電流を与えた後、常温で半固形状の油性基剤を50質量%以上含有しかつ50%以上の閉塞性を有する油性皮膚外用剤を該皮膚に塗布することを特徴とする。
【0011】
本明細書において「微弱電流」とは、0.001〜0.5mA/cmの通常美容目的で皮膚に適用されるレベルの微弱な電流を意味する。
【0012】
また本明細書において「閉塞性」とは、ヒト前腕内部部位に試料を塗布(2.5mg/cm)し、1時間後の経皮水分蒸散量(TEWL)を水分蒸散計によって測定し、下記の式で算出した値を意味する:
閉塞性(%)=(1−TEWL(試料塗布)/TEWL(試料無し))×100
【0013】
油性基剤は、閉塞性の観点からワセリンを含むことが好ましい。ワセリンを配合することによって、より高い閉塞性をもたらすことができる。
【0014】
さらに、使用性の観点から、油性皮膚外用剤が5〜50質量%の粉末を含有することが好ましい。かかる量の粉末を配合することによって、閉塞性を低下させることなくワセリン等の閉塞性の高い油性基剤におけるベタツキやテカリを軽減して、使用性を改善することができる。
【0015】
また、本発明のシワ改善美容方法は、実際に小じわが形成されやすい部位である、目尻、下瞼または口元の皮膚に適用することが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の美容方法は、微弱電流による強制保水によって角層水分量を高めた後、その上から高い閉塞性を有する皮膚外用剤を塗布するため、微弱電流によって集められた水分を皮膚表面に長期間に亘り保持することができ、長期間皮膚をふっくらした状態に保つことができる。従って、高価な薬剤や保湿剤等を使用する必要なしに、短期間で効果的に小じわを改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明において、皮膚に微弱電流を与える手法、用いる装置、電圧の印加条件等は、通常美容目的やイオントフォレーシスで用いられている任意のものを用いることができる。例えば、電極としては、白金、カーボン、銀、亜鉛、酸化マンガン、塩化銀電極などを用いることができ、通電方法も直接型、パルス型、パルス脱分極型など任意の方法でよい。
【0018】
電流密度は0.001〜0.5mA/cmであり、より好ましくは0.002〜0.1mA/cmである。
【0019】
また微弱電流を与える時間も特に限定されないが、通常0.5〜120分であり、より好ましくは1〜60分である。
【0020】
より手軽にかつ簡便に微弱電流を皮膚に適用できることから、シート型の微小電池をパッチシートに埋め込んだものを本発明において用いることが好ましい。例えば、3Vの電池を組み込んだパッチシートを、電極を被覆するハイドロゲルを介して単に皮膚に貼り付けるのみで微弱電流を与えることができ、また、剥がすことによって簡単に処理を中止できる。
【0021】
尚、必要に応じて、微弱電流を皮膚に与える前に、保湿剤や任意の薬剤を含む化粧水、エッセンス等を皮膚に適用してもよい。あるいは、シート型の微小電池を用いる場合等には、皮膚に接触するハイドロゲル中に例えばグリセリン等の保湿剤やその他しわ改善に効果を有する任意の薬剤を配合させてもよい。
【0022】
本発明で用いる油性皮膚外用剤は、常温で半固形状の油性基剤を50質量%以上含有する。
【0023】
油性基剤は、化粧料の基剤として用いることができる常温で半固形状のものであれば特に限定されず、1種の油性成分から構成されたものであっても、また2種以上の油性成分の配合物であってもよい。例えば、下記のような油性成分を1種または2種以上配合して、常温で半固形状の油性基剤を調製することができる。
【0024】
固形または半固形油分として、例えばワセリン、固形パラフィン、マイクロクリスタリンワックス、セレシン、ビースワックス、バリコワックス、ポリエチレンワックス、シリコンワックス、ベヘニルアルコール、ステアリルアルコール、セチルアルコール、バチルアルコール、カルナウバロウ、ミツロウ、キャンデリラロウ、ジョジョバロウ、ラノリン、セラックロウ、鯨ロウ、モクロウ、ミリスチン酸,パルミチン酸,ステアリン酸、ベヘニン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、カカオ脂、硬化ヒマシ油、硬化油、水添パーム油、パーム油、硬化ヤシ油、ポリエチレン末、各種の水添加動植物油脂、脂肪酸モノカルボン酸ラノリンアルコールエステル等が挙げられる。本発明において油性基剤は、皮膚からの水分蒸散を効率的に防ぎ、皮膚表面に水を保持する働きをする。従って、用いる固形または半固形油分はより閉塞性が高いものが好ましく、ワセリン、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス等の固形または半固形状の非極性炭化水素油を配合することが好ましい。ワセリンは特に閉塞性が高く、油性基剤中にワセリンを配合することが最も好ましい。
【0025】
油性基剤中の固形または半固形油分の配合量は、油性基剤全量に対して好ましくは10〜100質量%であり、より好ましくは20〜100質量%であり、さらに好ましくは30〜100質量%である。固形または半固形油分の配合量が10%未満の場合高い閉塞性が得られない場合がある。特に、固形または半固形の非極性炭化水素油分を、油性基剤全量に対して10%以上、より好ましくは20質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上含有することが好ましい。高い配合量で固形または半固形の非極性炭化水素油分を配合することによって、より高い閉塞性および高温安定性をもたらすことができる。
【0026】
さらに、本発明の目的を達成できる限り、使用性の観点から、室温(25℃)で揮発性の揮発性油分を油性基剤中に配合してもよい。揮発性油分を配合することによって、塗り伸ばしや塗布後のベタツキをさらに改善することができる。本発明において用いることができる揮発性油分は、本発明の目的を達成できる限り特に限定はされないが、例えば、低沸点(常圧における沸点260℃以下)イソパラフィン系炭化水素油や、低沸点シリコーン油等が好ましく用いられる。低沸点イソパラフィン系炭化水素油としては、具体的には、アイソパーA、同C、同E、同G、同H、同K、同L、同M(以上、いずれもエクソン社製)、シェルゾール71(シェル社製)、ソルトロール100、同130、同220(以上、いずれもフィリップ社製)等として市販されており、商業的に入手可能である。また、低沸点シリコーン油としては、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、オクタメチルテトラシクロシロキサン〔例えば、「エキセコールD−4」(信越シリコーン社製)、「SH244」、「SH344」(いずれも東レ・ダウコーニング・シリコーン社製〕、デカメチルシクロペンタシロキサン〔例えば、「エキセコールD−5」(信越シリコーン社製)、「SH245」、「DC345」(いずれも東レ・ダウコーニング・シリコーン社製)、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン〔例えば、「DC246」(東レ・ダウコーニング・シリコーン社製〕、テトラデカメチルシクロヘプタシロキサンなどが好ましいものとして挙げられる。特に、使用性に優れかつ高い閉塞性が得られることから、揮発性油分としてデカメチルシクロペンタンシロキサンを配合することが好ましい。揮発性油分を1種単独で用いても、また2種以上を組合せて用いてもよい。揮発性油分の配合量は、油性基剤全量に対して5〜50質量%であることが好ましく、より好ましくは10〜40質量%であり、さらに好ましくは15〜30質量%である。
【0027】
さらに、本発明の目的を達成できる限り、室温(25℃)において液状の液状油分を油性基剤中に配合してもよい。具体的には、流動パラフィン、スクワラン等の非極性炭化水素油、オリーブ油、マカデミアナッツ油、ホホバ油等の油脂、オレイン酸、トール油脂肪酸、イソステアリン酸等の高級脂肪酸、ラウリルアルコール、オレイルアルコール、イソステアリルアルコール、オクチルドデカノール等の高級アルコール、イソステアリン酸イソセチル、ミリスチン酸ミリスチル、パルミチン酸イソプロピル等のエステル類、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシオキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン等の鎖状ポリシロキサン、ベンゾフェノン誘導体等の紫外線吸収剤、香料等が挙げられる。特に、閉塞性の観点から、流動パラフィン、スクワラン等の非極性炭化水系素系の液状油を配合することが好ましい。上記の液状油分を、1種単独でまたは2種以上を組合せて配合してよい。また、その配合量は配合する油分の種類や組合せによって異なり、特に限定はされないが、油性基剤全量に対して、好ましくは10〜90質量%、より好ましくは20〜80質量%、さらに好ましくは30〜70質量%である。
【0028】
油性基剤の配合量は外用剤全量に対して50%以上であるが、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上である。油性基剤の配合量が多い方がより高い閉塞性をもたらすことができる。
【0029】
さらに使用性の観点から、本発明で用いる油性皮膚外用剤は5〜50質量%の粉末を含有することが好ましい。かかる量の粉末を配合することによって、皮膚に塗布した際にべたつきやテカリを生じさせることなく、皮膚に高い閉塞性をもたらすことができ、また非常に伸びがよいため少量で十分な閉塞効果をもたらすことが可能である。
【0030】
本発明において用いられる粉末は、本発明の目的を達成できる限り特に限定はされないが、特に体質顔料が好ましい。例えば、タルク、カオリン、セリサイトなどの板状粉末、ポリエチレン粉末、ポリメチルメタクリレート粉末、ポリスチレン粉末、ナイロン粉末、シリカ粉末、シリコーンレジン粉末、シリコーンゴム粉末、シリコーンレジン被覆シリコーンゴム粉末、ポリウレタン粉末などの球状粉末等を本発明において好ましく用いることができる。球状粉末は光拡散効果を有するため、球状粉末を配合することによって、肌の凹凸をぼかし、小じわを視覚的に目立たなくすることができ、さらにシリコーンゴム粉末、シリコーンレジン被覆ゴム、ポリウレタン粉末のような弾力のある粉末を配合すると、粉っぽさのない感触が得られ、より好ましい。特に、球状シリコーンゴム粉末、球状シリコーンレジン粉末、シリコーンレジン被覆シリコーンゴム粉末、酸化亜鉛被覆シリコーンレジン被覆シリコーンゴム粉末等の弾性シリコーン系粉末または球状シリコーン系粉末、より好ましくは平均粒径1〜50μmの弾性または球状シリコーン系粉末を配合すると、塗り伸ばしが滑らかでかつ粉っぽさがなく、非常に優れた使用性が得られる。
【0031】
さらに、硫酸バリウム(屈折率1.64)、酸化亜鉛(屈折率2.0)、酸化チタン(ルチル型)(屈折率2.7)のような屈折率1.6以上の粉末で各種体質顔料を被覆または複合化させた粉末を配合するか、あるいは粉末の一部に屈折率1.6以上の粉末を単純混合することによって、高い色ムラ隠し効果をもたらすことができる。単純混合する場合は、屈折率1.6以上の粉末を本発明の油性皮膚外用剤中に0.5〜3質量%程度配合することが好ましい。3%以上配合すると、肌に塗布した際に、肌色が白くなりすぎて不自然に見えるため好ましくない。一方、屈折率1.6以上の粉末で被覆または複合化させた粉末を配合する場合は、本発明の油性皮膚外用剤中にそのような粉末を5〜30質量%程度配合することにより、高い色ムラ隠し効果をもたらすことができる。屈折率1.6以上の粉末で被覆または複合化させた粉末を配合した方が、屈折率1.6以上の粉末を単純混合するよりも、より高い色ムラ隠し効果をもたらすことができ、また肌に塗布した際に肌がきれいに見えるためより好ましい。
【0032】
上記のような粉末を1種単独でまたは2種以上を組合せて配合してよい。またその配合量は、好ましくは外用剤全量に対して5〜50質量%であり、より好ましくは10〜40質量%であり、さらに好ましくは15〜30質量%である。粉末の配合量が5質量%未満の場合、油分のテカリやベタツキ等を十分改善することはできない場合があり、また50質量%を超えると閉塞性が悪くなる。
【0033】
本発明において油性皮膚外用剤は50%以上の閉塞性を有するが、より効果的に水分を皮膚に保持するにはより高い閉塞性を有することが好ましく、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上の閉塞性を有する。閉塞性は、ヒト前腕内部部位に試料を塗布(2.5mg/cm)し、1時間後の経皮水分蒸散量(TEWL)を、例えばTewameter TM210(Courage+Khazaka社製)、MEECO(Meeco社製、Warrington, PA, USA)、Vapometer、またはTEWA meter (Delfin Technologies Ltd, Kuopio, Finland)等の水分蒸散量測定装置を用いて測定し、下記の式で求めることができる:
閉塞性(%)=(1−TEWL(試料塗布)/TEWL(試料無し))×100
【0034】
油性皮膚外用剤は、化粧料、医薬品、医薬部外品等を含む。また、その剤型として、軟膏状、ペースト状、またはクリーム状等が挙げられる。
【0035】
さらに、本発明で用いる油性皮膚外用剤は、上記した成分に加えて、必要により適宜、保湿剤、界面活性剤、紫外線吸収剤、香料、酸化防止剤、防腐防黴剤、体質顔料、着色顔料等の色剤、pH調整剤等、通常皮膚外用剤に用いられる任意の成分を本発明の効果を損なわない範囲で含んでいてよい。閉塞性の観点から、実質的に水および水溶性成分を含まないものが好ましいが、本発明の目的を達成できる限り少量の水を含むW/O型乳化状であってもよく、例えば、油性皮膚外用剤中に含まれる水および水溶性成分の量は、10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である。
【0036】
本発明のしわ改善美容方法は、単独で行っても、あるいは他の任意の美容方法またはスキンケアと組み合わせて行ってもよい。また、その実施回数や間隔も任意であり、例えば毎日または1日おきに、1週間、2週間またはそれ以上連用してもよい。
【0037】
さらに、本発明の美容方法を適用する皮膚の部位も限定されず、本発明の効果が得られる限り任意の部位であってよいが、小じわは通常顔に形成されやすいため、顔面の皮膚、特に目尻、下瞼または口元等の皮膚に本発明の美容方法を適用することが好ましい。
【0038】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0039】
1.微弱電流を皮膚に与えることによるしわ改善効果
微弱電流装置として、一般的なイオントフォレーシス装置である、3Vの電池を組み込んだパッチシート(以下パッチシート(3V)と称する)を用いた。3Vの電池をパッチシートに埋め込み、プラス極およびマイナス極をそれぞれ0.9% KCl含有ハイドロゲルシートで被覆して作製した。ハイドロゲルを介してプラス極およびマイナス極を皮膚に貼り付けることによって皮膚に微弱電流を与えることができる。
【0040】
被験者10名に洗顔させた後、右目尻部位がプラス極、右頬部位がマイナス極となるようにパッチシート(3V)を60分間貼り付けた。また対照として、電池を埋め込んでいない同じパッチシート(以下パッチシート(0V)と称する)を左目尻部位に60分間貼り付けた。パッチシート(3V)を貼り付けている間、電流値をデジタルマルチメーターでモニタリングした。さらに、貼付前、貼付後60分(剥離直後)、および剥離後60分の左右の目尻部位の写真を撮影した。
【0041】
図2に本実験の概要および貼付時の電流密度を示す。電流密度は一貫して約2μA/cmであった。
【0042】
図3Aに、それぞれパッチシート(3V)(上段)またはパッチシート(0V)(下段)を貼り付けた場合における、貼付前、貼付後60分(剥離直後)、および剥離後60分の目尻部位の写真を示す。また、以下の判定基準に基づき2名の判定者にしわ改善効果を独立判定させた結果(平均値)を図3Bに示す:
−1: 悪化
0: 変化なし
1: やや改善
2: 改善
【0043】
パッチシート(3V)を60分間貼り付けて微弱電流を与えた直後にはしわが顕著に改善されたが、剥離60分間後にはその効果はほとんど消失した。
【0044】
2.微弱電流を皮膚に与えることによる角層水分量の変化
微弱電流を皮膚に与えることによるしわ改善効果が、プラス極側皮膚における強制保水により角層水分量が増加することによるものであることを確認するため、ヒト前腕内側部位にパッチシート(3V)を60分間貼り付けて皮膚に微弱電流を与え、貼付前、貼付後60分(剥離直後)、および剥離後60分に、スキコン(Skicon-200)を用いて、プラス極部位、マイナス極部位、および電極を貼り付けていない部位(電極無し)の角層水分量を測定した。結果を図4に示す。
【0045】
微弱電流を60分間与えた直後にはプラス極側皮膚のみにおいて角層水分量が顕著に増加しており、その水分量の増加がしわ改善に寄与することが示唆された。しかしながら角層水分量は剥離後急速に減少した。
【0046】
尚、結果は示していないが、皮膚の水分蒸散量(TEWL)は微弱電流によって変化しなかった。したがって、微弱電流は皮膚のバリア機能に影響を与えないと考えられる。
【0047】
3.微弱電流と閉塞性の高い油性皮膚外用剤との併用
上述したように、パッチシート(3V)により皮膚に微弱電流を与えると、プラス極側の皮膚において強制保水によって角層水分量が一過性に増加してしわ改善をもたらすが、その後皮膚表面から水分が蒸散するため、しわ改善効果が短時間で消失すると考えられた。そこで、微弱電流によって水分量が増加した皮膚の上から閉塞性の高い油性皮膚外用剤を塗布することによって水分を皮膚表面に保持して、しわ改善効果の持続性を高めることについて検討した。
【0048】
上記の実験と同様に、被験者に洗顔させた後、目尻部位がプラス極になるようにパッチシート(3V)を60分間貼り付け、その剥離直後に高い閉塞性を有するワセリンを塗布した場合と塗布しない場合のしわ改善効果を比較した。図5に目尻部位の写真を示す。
【0049】
剥離直後ワセリンを塗布することによって、剥離60分後もしわ改善効果が維持された。一方、剥離後何も塗布しなかった場合は、剥離60分後にはしわ改善効果がほとんど消失した。
【0050】
表1および表2に、50%以上の高い閉塞性を有する油性皮膚外用組成物の処方例を示す:
【表1】

【表2】

【0051】
皮膚に微弱電流を与えた後、これら50%以上の高い閉塞性を有する油性皮膚外用組成物を皮膚に塗布することによって、長期間に亘り高いしわ改善効果をもたらすことができた。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】微弱電流を与えた際に生じるプラス極での強制保水の機構を示す概略図
【図2】微弱電流実験の概略図および電流密度の変化を示すグラフ
【図3】微弱電流を与えた目尻部位の写真(図3A)、およびしわ改善効果を示すグラフ(図3B)
【図4】微弱電流による角層水分量の変化を示すグラフ
【図5】微弱電流を与えた後、ワセリンを塗布した場合と塗布しない場合の目尻部位の写真

【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚に微弱電流を与えた後、常温で半固形状の油性基剤を50質量%以上含有しかつ50%以上の閉塞性を有する油性皮膚外用剤を該皮膚に塗布することを特徴とする、しわ改善美容方法。
【請求項2】
前記油性基剤がワセリンを含むことを特徴とする請求項1記載のしわ改善美容方法。
【請求項3】
前記油性皮膚外用剤が、5〜50質量%の粉末をさらに含有することを特徴とする請求項1または2記載のしわ改善美容方法。
【請求項4】
前記皮膚が、目尻、下瞼または口元の皮膚であることを特徴とする請求項1から3いずれか1項記載のしわ改善美容方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−61483(P2007−61483A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−253649(P2005−253649)
【出願日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【復代理人】
【識別番号】100116540
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 香
【Fターム(参考)】