説明

すぐ使用できる安定なエマルション

本発明は、脂溶性ビタミンまたはカロテノイドのすぐ使用できる安定なエマルション、その製造方法、並びに動物の飼料、食品及び栄養補助食品、及び化粧品及び医薬品への添加剤としてのその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂溶性ビタミンまたはカロテノイドのすぐ使用できる安定なエマルション、その製造方法、並びに動物の飼料、人間の食品及び栄養補助食品、及び化粧品及び医薬品組成物への添加剤としてのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
動物の飼料及び人間の食品業界、化粧品業界及び医薬品業界では、脂溶性ビタミンA、D、EまたはK及びその誘導体、並びにカロテノイド(例えば、カンタキサンチン、アスタキサンチン、ゼアキサンチン、ルテイン、リコペンまたはβ-カロテン)は、多くの場合純粋物質として直接的に使用されてはいない。一方、これらの脂溶性物質を水含有媒体中に均質に細かく分散した形態で分散させることができるように、脂溶性物質の製剤が使用されている。これらの脂溶性物質の固体及び液体製剤が使用分野に応じて商業的に使用されている。
【0003】
ビタミンA、DまたはKは、その生理学的作用のために通常生物体内で使用されているのに対し、ビタミンEは、インビトロで各種用途における抗酸化剤としてしばしば使用されている。同様に抗酸化作用を有するカロテノイドは、多くの用途で着色剤として使用されており、この場合同時に生理学的機能をも満たし得る。β-カロテンは、例えば着色剤であり且つプロビタミンAである。
【0004】
飲料業界では、添加剤は通常飲料に対して液体濃縮物の形態で添加されている。水溶性の粉末状製剤の場合、通常製造工程でこの粉末からまず水性分散物を調製する。エマルションのような液体製剤の場合には、この工程ステップは不要である。
【0005】
欧州特許出願公開第0 239 086号明細書は、カロテノイドが油中に溶解されており、長鎖脂肪酸とアスコルビン酸のエステル及び冷水溶解性デンプン生成物(例えば、オクテニルコハク酸デンプンエステル)の混合物を使用することにより油滴が安定化されているカロテノイドのエマルションを記載している。これらのエマルション中のカロテノイド濃度は0.1〜2%である。
【0006】
欧州特許出願公開第0 551 638号明細書では、連続相がグリセロールまたはグリセロール-水混合物であり、乳化剤及び安定化剤としてアスコルビン酸と長鎖脂肪酸のエステルを用いて、脂溶性ビタミンまたはカロテノイドの安定な液体エマルションが製造されている。β-カロテンの場合、生成物は明黄色の色調の点で顕著である。
【0007】
従来技術に開示されている乳化剤パルミチン酸アスコルビルを含む脂溶性活性物質のエマルションは、使用されているエマルションが不安定であることを示すリングが飲料ボトルに形成されるので、無機物を多く含むスポーツドリンクまたは大量のカルシウムまたはマグネシウムイオンを含む飲料水に使用するにはまだ不満足である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】欧州特許出願公開第0 239 086号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第0 551 638号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、微生物攻撃に対して良好な貯蔵安定性を発揮し、熱的に非感受性であり、特にカルシウムまたはマグネシウム含有飲料中に使用する際または大量のカルシウムまたはマグネシウムイオンを含有する飲料水を使用する際に改善された安定性を示す、すぐ使用できる安定なエマルションを提供するという目的に基づいた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的は、
a)脂溶性ビタミンまたはカロテノイドを含む分散油相、及び
b)生理学的に許容されるポリアルコール及び水溶性保護コロイドとしての化学的に改変されたデンプンを含む水性相
を含み、重量%データがそれぞれエマルションの全重量に基づくとして、脂溶性ビタミンまたはカロテノイドの含量が少なくとも2重量%であり、化学的に改変されたデンプン以外の乳化作用を有する更なる物質の含量が2重量%未満である、すぐ使用できる安定なエマルションにより達成される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のすぐ使用できる安定なエマルション中の脂溶性ビタミンまたはカロテノイドの含量は、重量%データがエマルションの全重量に基づくとして、少なくとも2重量%、好ましくは3〜30重量%、特に好ましくは3〜12重量%、特に3〜6重量%である。
【0012】
本発明のすぐ使用できる安定なエマルション中の化学的に改変されたデンプン以外の乳化作用を有する更なる物質の含量は、2重量%未満、好ましくは1重量%未満である。乳化作用を有する更なる物質がパルミチン酸アスコルビルであるならば、パルミチン酸アスコルビルの含量は、重量%データがエマルションの全重量に基づくとして、好ましくは0.5重量%未満、特に好ましくは0.25重量%未満、特に0.1重量%未満である。
【0013】
脂溶性ビタミンは、例えばビタミンA、D、EまたはK、或いはその誘導体であり得る。本発明のすぐ使用できる安定なエマルションは、好ましくはカロテノイド、例えばカンタキサンチン、アスタキサンチン、ゼアキサンチン、ルテイン、リコペンまたはβ-カロテンを含む。好ましいカロテノイドは、リコペンまたはβ-カロテン、特にβ-カロテンである。
【0014】
本発明のすぐ使用できる安定なエマルションが、生理学的に許容される油中に溶解されているカロテノイド、好ましくはリコペンまたはβ-カロテン、特にβ-カロテンを含む分散油相を含むことが好ましい。
【0015】
適当な生理学的に許容される油は、原則合成油、鉱油、植物または動物起源の油である。例はゴマ油、コーン油、綿実油、大豆油、落花生油、中鎖植物脂肪酸のエステル、オレオステアリン、流動パラフィン、ステアリン酸グリセリル、ミリスチン酸イソプロピル、アジピン酸ジイソプロピル、2-エチルヘキサン酸セチルステアリル、水素化ポリイソブテン、カプリル酸/カプリン酸トリグリセリド、パーム油、パーム核油、ラノリン及びPUFA(ポリ不飽和脂肪酸)(例えば、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサン酸(DHA)およびα-リノレン酸)である。
【0016】
30℃で液体である植物または動物起源の生理学的に許容される油、例えばヒマワリ油、パーム油、パーム核油、ゴマ油、コーン油、綿実油、大豆油、落花生油、中鎖トリグリセリドのエステル(所謂、MCT油)、魚油(例えば、サバ、スプラットまたはサケ油)が好ましい。できる限り飽和脂肪酸のみを含む植物起源の生理学的に許容される油、例えばパーム核油または落花生油、特にこれらから得られ得る中鎖トリグリセリドのエステルが特に好ましい。
【0017】
本発明のすぐ使用できる安定なエマルションは、生理学的に許容されるポリアルコール及び水溶性保護コロイドとしての化学的に改変されたデンプンを含む水性相を含む。生理学的に許容されるポリアルコールの含量は、エマルションの全重量に基づいて、好ましくは10〜60重量%、特に好ましくは30〜55重量%である。
【0018】
生理学的に許容されるポリアルコールは、好ましくはグリセロール、グリセロールとC1-C5モノカルボン酸のモノエステル、グリセロールまたはソルビトールのモノエーテルである。生理学的に許容されるポリアルコールとしてグリセロールが特に好ましい。
【0019】
本発明のすぐ使用できる安定なエマルション中の化学的に改変されたデンプンの含量は、エマルションの全重量に基づいて、5〜40重量%、特に10〜25重量%である。
【0020】
化学的に改変されたデンプンは、化学的及び/または酵素的に調製したデンプン変換生成物を意味する。これに関連して、デンプンエーテル、デンプンエステルまたはデンプンホスフェートが適している。この群の好ましい代表例は、デンプンエステル、特にオクテニルコハク酸デンプンエステル、例えばNational Starch製Capsul(登録商標)(オクテニルコハク酸デンプンナトリウム)、Roquette製Cleargum CO 01またはNational Starch製Purity(登録商標)Gum 2000(オクテニルコハク酸デンプンナトリウム)、特にPurity(登録商標)Gum 2000のようなオクテニルコハク酸デンプンナトリウムである。
【0021】
本発明のすぐ使用できる安定なエマルション中の分散油相の含量は、エマルションの全重量に基づいて、好ましくは10〜40重量%、特に10〜30重量%である。
【0022】
本発明の好ましいすぐ使用できる安定なエマルションは、90重量%超、特に95重量%超がカロテノイド及び生理学的に許容される油からなる分散油相を有している。
【0023】
活性物質の酸化的分解に対する安定性を向上させるために、エマルションが安定化剤、例えばα-トコフェロール、t-ブチルヒドロキシトルエン、t-ブチルヒドロキシアニソール、アスコルビン酸またはエトキシキン、特にα-トコフェロールを含むことが有利である。
【0024】
本発明の特に好ましいすぐ使用できる安定なエマルションは、重量%データがそれぞれエマルションの全重量に基づくとして、分散油相が3〜6重量%のβ-カロテン及び7〜20重量%の中鎖トリグリセリドを含み、水性相が10〜25重量%のオクテニルコハク酸デンプンナトリウム及び30〜55重量%のグリセロールを含み、エマルション中のパルミチン酸アスコルビル含量が0.5重量%未満、好ましくは0.25重量%未満、特に0.1重量%未満のものである。
【0025】
本発明のすぐ使用できる安定なエマルション中の分散油相は、連続水性相中に小さい油滴の形態で存在している。分散油相の油滴の粒度は通常100nm〜100μmであり得る。分散油相の油滴は、好ましくは250〜500nmの平均粒度を有している。
【0026】
平均粒度の言及は、体積加重平均直径(handbook for Malvern Mastersizer S,Malvern Instruments Ltd.,UKを参照されたい)を指し、これはフラウンホーファー回折により測定され得る。
【0027】
化学的に改変されたデンプン以外に、本発明のすぐ使用できる安定なエマルションが更なる保護コロイドを含むことができる。以下の物質がこの目的に適している。例えば、
ウシ、ブタまたは魚類ゼラチン、特に0〜250のブルーム強度を有する酸または塩基分解ゼラチン、非常に特に好ましくはゼラチンA 100、A 200、A 240、 B 100及び B 200; 0のブルーム強度及び15,000〜25,000Dの分子量を有する低分子量の酵素分解ゼラチンタイプ、例えばCollagel A及びGelitasol P(Stoess,Eberbach製); 並びにこれらのゼラチンタイプの混合物。
【0028】
デンプン、デキストリン、ペクチン、アラビアガム(アカシアガム)、リグニンスルホネート、キトサン、ポリスチレンスルホネート、アルギネート、カゼイン、カゼイネート、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、またはこれらの保護コロイドの混合物。
【0029】
植物性タンパク質、例えばダイズ、イネ及び/またはコムギタンパク質。これらの植物性タンパク質は部分的に分解した形態または未分解形態で存在させてもよい。
【0030】
本発明は更に、
a)脂溶性ビタミンまたはカロテノイドを含む分散油相、及び
b)生理学的に許容されるポリアルコール及び水溶性保護コロイドとしての化学的に改変されたデンプンを含む水性相
を含み、重量%データがそれぞれエマルションの全重量に基づくとして、脂溶性ビタミンまたはカロテノイドの含量が少なくとも2重量%であり、化学的に改変されたデンプン以外の乳化作用を有する更なる物質の含量が2重量%未満である、すぐ使用できる安定なエマルションの製造方法であって、
脂溶性ビタミンまたはカロテノイドを含む油相及び生理学的に許容されるポリアルコール及び水溶性保護コロイドとして化学的に改変されたデンプンを含む水性相を一緒に乳化した後、エマルションを高圧力下で均質化することを含む、前記方法に関する。
【0031】
分散油相及び水性相の成分及びその使用量に関する好ましい実施形態は、最初に挙げた説明中に見つけることができる。
【0032】
本発明のすぐ使用できる安定なエマルションは、特にそれ自身が良好な貯蔵安定性を有していることで区別される。更に、本発明のエマルションは、カルシウムまたはマグネシウム含有スポーツドリンクまたは大量のカルシウムまたはマグネシウムイオンを含む飲料水を含む飲料中に容易に配合することができ、製造される飲料は望ましくないリング形成の点で良好な安定性を発揮する。
【0033】
本発明のすぐ使用できる安定なエマルションは、特にヒト食品に対する添加剤として(例えば、飲料のような食品を着色するために)、医薬品及び化粧品を製造するための組成物として、栄養補助食品(例えば、人間及び動物部門のマルチビタミン剤)を製造するために適している。すぐ使用できる安定なエマルションは好ましくは飲料への添加剤として適している。
【0034】
従って、本発明は更に、動物の飼料、人間の食品、栄養補助食品、並びに化粧品及び医薬組成物への添加剤、特に飲料への添加剤としての、上記した本発明のすぐ使用できる安定なエマルションの使用に関する。
【0035】
本発明はまた、本発明のすぐ使用できる安定なエマルションを含む動物の飼料、人間の食品及び栄養補助食品、特に飲料に関する。
【0036】
本発明を以下の実施例により説明するが、これらの実施例は本発明を限定しない。
【実施例】
【0037】
実施例1
水(145g)及びグリセロール(200g)を1L容量のガラスビーカー中で混合し、60℃に加熱した。この混合物に、化学的に改変されたデンプン(National Starch製Purity Gum 2000)(93g)を添加した。混合物を60℃で60分間膨潤させた。
【0038】
250ml容量の3首フラスコ中のβ-カロテン分散物(Lucarotin 33 MCT,BASF,33重量%のβ-カロテン)(65.5g)を、β-カロテンが完全に溶解するまで180℃に加熱した油浴中で加熱した。次いで、歯形環状(tooth-ringed)分散機(Ultra Turrax)を用いて10,000rpmで攪拌しながら油相を水性相に導入した。15分間乳化させた後、エマルションを高圧ホモジナイザーを用いて700バールで細かく乳化させた。4重量%のβ-カロテンを含有する水分散性エマルションを得た。水に分散させると、β-カロテン-油滴は275nmの平均粒度を有していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)脂溶性ビタミンまたはカロテノイドを含む分散油相、及び
b)生理学的に許容されるポリアルコール及び水溶性保護コロイドとしての化学的に改変されたデンプンを含む水性相
を含み、重量%データがそれぞれエマルションの全重量に基づくとして、脂溶性ビタミンまたはカロテノイドの含量が少なくとも2重量%であり、化学的に改変されたデンプン以外の乳化作用を有する更なる物質の含量が2重量%未満である、すぐ使用できる安定なエマルション。
【請求項2】
脂溶性ビタミンまたはカロテノイドの含量がエマルションの全重量に基づいて3〜30重量%である請求項1に記載のすぐ使用できる安定なエマルション。
【請求項3】
分散油相が生理学的に許容される油に溶解されているカロテノイドを含む請求項1または2に記載のすぐ使用できる安定なエマルション。
【請求項4】
生理学的に許容されるポリアルコールの含量がエマルションの全重量に基づいて10〜60重量%である請求項1〜3のいずれかに記載のすぐ使用できる安定なエマルション。
【請求項5】
生理学的に許容されるポリアルコールがグリセロールである請求項1〜4のいずれかに記載のすぐ使用できる安定なエマルション。
【請求項6】
化学的に改変されたデンプンの含量がエマルションの全重量に基づいて5〜40重量%である請求項1〜5のいずれかに記載のすぐ使用できる安定なエマルション。
【請求項7】
分散油相の含量がエマルションの全重量に基づいて10〜40重量%である請求項1〜6のいずれかに記載のすぐ使用できる安定なエマルション。
【請求項8】
分散油相の90重量%超がカロテノイド及び生理学的に許容される油からなる請求項1〜7のいずれかに記載のすぐ使用できる安定なエマルション。
【請求項9】
重量%データがそれぞれエマルションの全重量に基づくとして、分散油相が3〜6重量%のβ-カロテン及び7〜20重量%の中鎖トリグリセリドを含み、水性相が10〜25重量%のオクテニルコハク酸デンプンナトリウム及び30〜55重量%のグリセロールを含み、パルミチン酸アスコルビルの含量が0.5重量%未満である、請求項1に記載のすぐ使用できる安定なエマルション。
【請求項10】
分散油相の液滴が250〜500nmの平均粒度を有している請求項1〜9のいずれかに記載のすぐ使用できる安定なエマルション。
【請求項11】
脂溶性ビタミンまたはカロテノイドを含む油相及び生理学的に許容されるポリアルコール及び水溶性保護コロイドとしての化学的に改変されたデンプンを含む水性相を一緒に乳化した後、エマルションを高圧力下で均質化することを含む、請求項1〜10のいずれかに記載のすぐ使用できる安定なエマルションの製造方法。
【請求項12】
動物の飼料、人間の食品及び栄養補助食品、並びに化粧品組成物及び医薬品組成物への添加剤としての、請求項1〜10のいずれかに記載のすぐ使用できる安定なエマルションの使用。
【請求項13】
飲料への添加剤としての、請求項1〜10のいずれかに記載のすぐ使用できる安定なエマルションの使用。
【請求項14】
請求項1〜10のいずれかに記載のすぐ使用できる安定なエマルションを含む動物の飼料、人間の食品または栄養補助食品。
【請求項15】
請求項1〜10のいずれかに記載のすぐ使用できる安定なエマルションを含む飲料。

【公表番号】特表2012−505155(P2012−505155A)
【公表日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−529556(P2011−529556)
【出願日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際出願番号】PCT/EP2009/062768
【国際公開番号】WO2010/040683
【国際公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】