説明

すべり・ころがり複合型軸受

【課題】高負荷で使用可能であるのみならず、回転軸起動時における摩擦力による動力損失の少ない、潤滑油を用いたすべり・ころがり複合型軸受を提供する。
【解決手段】回転軸1の軸線方向で、すべり軸受部分20と、ころがり軸受部分30とが隣接配置される。すべり軸受部分20は、すべり軸受22とハウジング24から成る。ころがり軸受部分は、複数の転動子42と、これらを個別に回転自在に保持する複数の保持要素40と、該保持要素を個別にかつ出没可能に収容する複数の凹所34を、内周面に有するハウジング32とを有する。各凹所34内に一対の保持要素が出没可能に収容され、該保持要素の突出端に転動子が回転自在に支持されている。一対の保持要素の各々は、圧縮コイルばね44を介して凹所の終端壁面に連結・保持され、圧縮コイルばねの弾発性付勢力を受ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ころがり軸受機能と、すべり軸受機能とを合わせもった複合型軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
回転軸を支えるラジアル軸受としては、ころがり軸受、および、すべり軸受が汎用されている。ころがり軸受は、すべり摩擦に比して、ころがり摩擦が小さいという利点を生かしたものである。しかしながら、ころがり軸受の場合、高負荷用途あるいは高速軸回転用途にあっては、複数の転動体の表面に、回転軸表面との接触による反復応力が作用するため、転動体の表面にフレッチング損傷やフレーキング損傷が生じやすく、耐久性に問題がある。一方、潤滑油を用いるすべり軸受は、回転軸の回転時にはすべり軸受の内周面と回転軸の外周面との間に油膜が形成され、その油膜の圧力により回転軸を支持するので、高負荷用途あるいは高速軸回転用途に適するものの、軸回転始動時における、すべり軸受の内周面と回転軸表面とが接触した状態では、静摩擦係数が大きいので動力損失が大きいという問題を有する。
【0003】
静摩擦係数の大きなすべり軸受の弱点を補う複合型軸受が、特開平5−288220号公報(特許文献1)で提案されている。この複合型軸受は、回転軸を直接支える樹脂製内筒と、この内筒の外周面に軸線方向に沿って形成された複数の保持溝内にそれぞれ収容された転動子(ローラー)と、前記内筒および転動子の全体を覆う金属製外筒とで構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−288220号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1で提案された複合型軸受は、すべり軸受構造と、ころがり軸受構造とを、回転軸を中心として半径方向に配置したものであり、すべり軸受、および、ころがり軸受の有する弱点をある程度解消するが、以下の問題を有する。
(1)回転軸と内筒との間の摩擦で、外筒の内周面に沿って転動子がころがる構造であり、回転軸の起動時における回転軸と内筒との間で静摩擦が生じ、起動時における静摩擦による動力損失を排除できない。
(2)回転軸の起動後にも、転動子と、これに接触する内筒および外筒との間に常時反復負荷が働く。したがって、高負荷軸支持用途には不適切である。
【0006】
特許文献1で提案された複合型軸受と違って、仮に、すべり軸受構造と、ころがり軸受構造とを、回転軸の軸線方向に配列したとしても、ころがり軸受部分にも反復負荷が働くため、やはり高負荷軸支持用途には不適切である。
【0007】
本発明は、かかる技術的背景の下で創案されたものであり、高負荷で使用可能であるのみならず、回転軸起動時における摩擦力による動力損失の少ないすべり・ころがり複合型軸受を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
斯かる目的に照らし、本発明により、以下の特徴を有するすべり・ころがり複合型軸受装置が提供される。
回転軸の軸線方向で、すべり軸受部分と、ころがり軸受部分とが隣接配置された、回転軸を支承するすべり・ころがり複合型軸受装置であり、
前記ころがり軸受部分が、複数の転動子と、該複数の転動子を個別に回転自在に保持する複数の保持要素と、該複数の保持要素を個別に付勢する付勢手段と、前記複数の保持要素を個別にかつ出没可能に収容する複数の凹所を、内周面に有するハウジングとを含み、
前記保持要素に保持された前記複数の転動子は、互いに離隔して円周方向に整列配置され、前記回転軸の起動時に、前記保持要素に作用する前記付勢手段の付勢力の下で潤滑油膜を介して前記回転軸を支えるようになされ、前記付勢手段の付勢力を受けた前記保持要素が前記凹所から突出し、前記転動子が、前記すべり軸受部分に優先して前記回転軸を支え、また、前記回転軸の定常回転時に、前記保持要素が前記凹所内に後退して、前記転動子が前記回転軸から離れ、前記すべり軸受部分が前記回転軸を支えるように構成されており、
前記回転軸の起動時、前記ころがり軸受部分の転動子で規定される軸受内径が、前記すべり軸受部分の軸受内径よりも小さくなり、したがって、前記回転軸に対する前記転動子の接触面が、前記すべり軸受部分のすべり面よりも前記回転軸の外周面に近くなり、かつ
起動後における前記回転軸の定常回転時には、前記ころがり軸受部分の転動子で規定される軸受内径が、前記すべり軸受部分の軸受内径よりも大きくなり、したがって、前記転動子が、前記すべり軸受部分のすべり面よりも前記回転軸から離れた位置に偏位するように構成されている潤滑油を用いたすべり・ころがり複合型軸受装置。
【0009】
本発明の第一の実施形態では、前記すべり軸受部分と前記ころがり軸受部分との隣接配置関係が、一対の前記ころがり軸受部分の間に前記すべり軸受部分が置かれた関係にある。
本発明の第二の実施形態では、前記保持要素の各々が、前記凹所の各々の内部に弾発部材を介して収容されていて、該弾発部材は、前記保持要素に常時付勢力を加えており、それによって、前記回転軸の起動時、前記回転軸に対する前記転動子の接触面が、前記すべり軸受部分のすべり面よりも前記回転軸の外周面に近くなり、
また、前記回転軸の定常回転時には、前記回転軸と前記ハウジングの内周面との間で生じる油膜圧力に起因する前記凹所内への潤滑油流に付随して前記保持要素が前記弾発部材の付勢力に抗して前記凹所内に後退し、それによって、前記転動子が、前記すべり軸受部分のすべり面よりも前記回転軸から離れた位置に偏位するようになっている。
本発明の第三の実施形態では、前記すべり軸受部分が、単一体としての円筒形すべり軸受を含む。
本発明の第四の実施形態では、前記すべり軸受部分が、一対の半円筒体を組合せて成る円筒形すべり軸受を含む。
本発明の第五の実施形態では、前記ころがり軸受部分の前記ハウジングが単一体としての円筒体である。
本発明の第六の実施形態では、前記ころがり軸受部分の前記ハウジングが一対の半円筒体を組合せて成る円筒体である。
本発明の第七の実施形態では、前記保持要素を収容する前記複数の凹所が、前記第五および第六の実施形態における円筒体であるハウジングの内周面の円周方向一部領域で円弧状に配列されている。
本発明の第八の実施形態では、ころがり軸受部分のハウジングが単一の半円筒体であり、該半円筒体内周面の円周方向に沿って前記複数の凹所が配列されている。
【0010】
作用
(1)本発明による、潤滑油を用いたすべり・ころがり複合型軸受装置では、回転軸の軸線方向で、すべり軸受部分と、ころがり軸受部分とが隣接配置され、
回転軸の起動時に、ころがり軸受部分の転動子で規定される軸受内径が、すべり軸受部分の軸受内径よりも小さくなり、したがって、回転軸に対する前記転動子の接触面が、すべり軸受部分のすべり面よりも回転軸の外周面に近くなるように構成され、
また、起動後における回転軸の定常回転時には、ころがり軸受部分の転動子で規定される軸受内径が、すべり軸受部分の軸受内径よりも大きくなり、したがって、転動子が、すべり軸受部分のすべり面よりも回転軸から離れた位置に偏位するように構成されている。
本発明によれば、起動時には、静摩擦係数の小さなころがり軸受部分によって回転軸が支持されるので、起動時の動力損失を低減化でき、起動後における回転軸の定常回転時には、すべり軸受部分によって回転軸が支持されるので、高負荷用途あるいは高速軸回転用途に適する。
なお、すべり軸受部分と、ころがり軸受部分とは、それぞれ独立体として形成したものを、回転軸の軸線方向で互いに隣接関係をもって配置してもよく、あるいはまた、すべり軸受部分と、ころがり軸受部分とを、回転軸の軸線方向で互いに隣接関係をもって単一ハウジンング内に収蔵した単一組立体(アッセンブリー)として用いてもよい。また、ころがり軸受部分の転動子はローラーまたはボールである。
(2)前記第一の実施形態によれば、回転軸の起動時におけるころがり軸受部分による回転軸の支持をより安定的に行なうことができる。
(3)前記第二の実施形態によれば、保持要素の各々が、前記凹所の各々の内部に弾発部材を介して収容されており、回転軸の静止時および起動時にあっては、転動子および保持要素に対する潤滑油の動的影響がなく、弾発部材の付勢力に従って保持要素が前記凹所から突出した状態にある。この状態では、保持要素に支持される転動子の接触面が、すべり軸受部分のすべり面よりも回転軸の外周面に近く、回転軸はもっぱら転動子によって支持される。また、起動後の回転軸の定常回転時には、回転軸と、ころがり軸受部分におけるハウジングの内周面との間で生じる油膜圧力に起因する凹所内への潤滑油流に付随して、保持要素が弾発部材の付勢力に抗して凹所内に後退した状態になる。この状態では、転動子が、すべり軸受部分のすべり面よりも回転軸から離れた位置に偏位しており、回転軸はすべり軸受部分のすべり面によって支持される。
(4)前記第三の実施形態では、すべり軸受部分における回転軸を支える部材である円筒形すべり軸受が、単一円筒体として形成され、定常回転状態の回転軸が単一円筒体としてのすべり軸受によって支持される。
(5)前記第四の実施形態では、すべり軸受部分における回転軸を支える部材である円筒形すべり軸受が、一対の半円筒体を組合せて成る円筒体として形成され、定常回転状態の回転軸が組合せ円筒体としてのすべり軸受によって支持される。
(6)前記第五の実施形態では、ころがり軸受部分のハウジングが単一体としての円筒体であり、該円筒体の内周面に前記凹所が形成され、各凹所内に、転動子を担持する保持要素が弾発部材の付勢力を受けて出没可能に収容されている。
(6)前記第六の実施形態では、ころがり軸受部分のハウジングが一対の半円筒体を組合せて成る円筒体であり、該円筒体の内周面に前記凹所が形成され、各凹所内に、転動子を担持する保持要素が弾発部材の付勢力を受けて出没可能に収容されている。
(7)第七の実施形態では、保持要素を収容する前記複数の凹所が、円筒体であるハウジングの内周面の円周方向一部領域で円弧状に配列されている。静止状態の回転軸は、通常、回転軸の下側にある軸受領域で支持され、回転軸の上側にある軸受領域に負荷はかからない。したがって、回転軸の起動時に働くべきころがり軸受部分は、回転軸の下側を支持すべく、ハウジングの下半内周面に沿ってのみ複数の凹所が配列され、該凹所内にそれぞれ、転動子を担持する保持要素が収容されていれば所期の目的を達成できる。
(8)前記第八の実施形態では、ころがり軸受部分のハウジングが単一の半円筒体であり、該半円筒体内周面の円周方向に沿って前記複数の凹所が配列されている。本例は、前記項目7の例と同じ考え方に基づいており、前記項目7の例におけるハウジングの上半部分を省略した半円筒体ハウジングを用いたものに相当する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施例に係わる模式図であり、すべり・ころがり複合型軸受装置の軸線に沿う断面図。
【図2】図1に示すすべり・ころがり複合型軸受装置の局所を示す模式的斜視図。
【図3】図1に示すすべり・ころがり複合型軸受装置のころがり軸受部分で使用される転動子の異なる2種類の例(a,b)。
【図4】図1に示すすべり・ころがり複合型軸受装置の起動時の状態を示す軸線と交差する方向の局部断面図。
【図5】図1に示すすべり・ころがり複合型軸受装置の定常回転時の状態を示す軸線と交差する方向の局部断面図。
【図6】本発明の別の実施例に係わるすべり・ころがり複合型軸受装置における下位側半体の内部を示す模式図。
【図7】図6に示すすべり・ころがり複合型軸受装置で用いられる上位側半円筒形軸受をその内周面側から見た図。
【図8】図6、図7に示す部材から成るすべり・ころがり複合型軸受装置の模式的横断面図。
【図9】本発明の別の実施例に係わるすべり・ころがり複合型軸受装置の模式的局部断面図。 以下、添付図面を見ながら本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0012】
図1は、本発明の実施例1に係わるすべり・ころがり複合型軸受装置10を軸線に沿う模式的断面図として示す。軸受装置10は回転軸1を回転自在に支承する。
軸受装置10は、単一のすべり軸受部分20と、すべり軸受部分20に隣接する一対のころがり軸受部分30とで構成されている。
【0013】
すべり軸受部分20は、円筒形すべり軸受22と、これを支える円筒形ハウジング24とから成る。
【0014】
ころがり軸受部分30は、円筒形ハウジンング32と、該ハウジンング32の内周面に等間隔を置いて形成された複数の凹所34内にそれぞれ出没可能に収容された一対の保持要素40と、該一対の保持要素40の突出端に回転自在に支持された単一の転動子(ローラー)42とを含む(図2参照)。凹所34は、ハウジンング32の内周面に臨むスリット状開口36と、該開口36から湾曲形状部分を経てハウジンング内周面に沿う方向に延在する横断面形状部分(円筒形ハウジンング32の軸線と直角に交差する横断面に現れる形状部分)とを有する小溝である。
一対の保持要素40の各々は、その尾端で圧縮コイルばね44を介して凹所34の終端壁面に連結・保持され、それによって、圧縮コイルばね44の弾発性付勢力を受ける。弾発性付勢力を受けた保持要素40は、転動子(ローラー)42を伴なって凹所34から押出される方向の付勢力を受ける。
【0015】
転動子42の2つの例を図3(a)、(b)に示す。
図3(a)の転動子42は、支軸42aと、該支軸42aに回転自在に支持される回転筒42bとから成る。支軸42aは一対の保持要素40の突出端にそれぞれ形成されたU字状切り欠き部分内に嵌挿固定される。
図3(b)の転動子42は単一体であり、両端部が切頭円錐形状に小径42cになされている。この小径部分42cが、一対の保持要素40の突出端にそれぞれ形成されたU字状切り欠き部分内に回転自在に嵌挿される。
【0016】
ここでは、図4、5を見ながら、すべり・ころがり複合型軸受装置10の動作について説明する。
回転軸1が非回転状態にある時、または、その起動時、保持要素40は、圧縮コイルばね44の弾発力によって付勢されて、転動子42を担持するその先端部が押出され、転動子42の転動先端面がすべり軸受22の摺動面である内表面を越え、回転軸1に接触して該回転軸1を支える(図4に示される転動子42の位置参照)。
回転軸1が矢印X方向(図4)に回転して、その速度が上昇すると、回転軸1の周囲に存在する潤滑油が回転軸の回転に付随して矢印Y方向(矢印X方向と同方向)に流動し、回転軸1とハウジング32の内周面との間で生じる油膜圧力に起因する凹所34内への潤滑油流に付随して保持要素40が圧縮コイルばね44の付勢力に抗して凹所34内に後退する。その状態を図5に示す。図5の状態では、転動子42の転動先端面がすべり軸受22の摺動面である内表面よりも外側に後退しており、回転軸1は、もっぱら、すべり軸受22の内周面(すべり軸受22の内周面と回転軸1の外周面との間の潤滑油の油膜圧力)によって支持される。
この状態は、回転軸1と軸受との間のクリアランスから凹所34内に、圧力勾配に準じた潤滑油流が生じ、回転軸の回転に付随する潤滑油に遠心力が発生するとともに、くさび油膜作用による油膜圧力が発生し、転動子42の表面および保持要素40の突出部表面に力が作用して、転動子42およびこれを担持する保持要素40が、圧縮コイルばね44の付勢力に抗して回転軸1から離れる方向に動く。なお、回転軸1に対する転動子42の進退距離は、前記潤滑油に生じる力と、圧縮コイルばね44の付勢力との間の均衡関係を調整することによって規定することができる。
【実施例2】
【0017】
実施例1では、すべり軸受部分のハウジング24と、ころがり軸受部分のハウジンング32,32とが別体品として形成されているが、図6〜図8に示すすべり・ころがり複合型軸受装置50では、すべり軸受部分のハウジングと、ころがり軸受部分のハウジンングとが一体に形成されたハウジング52を用いている。このハウジング52は一対の半円筒体を円筒形に組合せて形成される。すべり軸受部分は、下位側半円筒形すべり軸受22Aおよび上位側半円筒形すべり軸受22Bを前記ハウジングに装着して形成される。図6は、回転軸の非回転時および起動時に負荷が作用する下位側半円筒体ハウジングを、前記組合せ端面側から見た状態である。一方、上位側半円筒体ハウジングに転動子および保持要素を配設する必要はない。回転軸の非回転時および起動時に、上位側半円筒体ハウジングに負荷が作用しないからである。場合により、上位側半円筒体ハウジングを省略して、下位側半円筒体ハウジングのみを用いるとともに、すべり軸受を単一円筒体として形成してもよい。また、回転軸の非回転時および起動時に負荷が作用する下位側半円筒体ハウジングの周方向中央部の領域のみに転動子および保持要素を配設し、周方向両端部の領域には配設しなくてもよい。
【実施例3】
【0018】
ここでは、図9を見ながら、ころがり軸受部分の変形例を紹介する。実施例1、2と同様に、ハウジンング32Aの内周面に沿って互いに間隔を置いて複数形成される凹所34Aに、それぞれ、転動子(ローラー)42Aを担持する一対の保持要素40Aが出没可能に収容されている。一対の保持要素40Aの各々は、その尾端で圧縮コイルばね44を介して凹所34Aの終端壁面に連結・保持され、それによって、圧縮コイルばね44の弾発性付勢力を受ける。弾発性付勢力を受けた保持要素40Aは、転動子42Aを伴なって凹所34Aから押出される方向の付勢力を受ける。
図9は、回転軸1が定常回転状態にある場合の、凹所34A内での転動子42Aの出没位置を示しており、転動子42Aが、すべり軸受22のすべり面に対して半径方向外方に後退している。転動子42Aの後退は、実施例1の説明でも述べたように、回転軸1の周囲に存在する潤滑油が回転軸の回転に付随して矢印Y方向(回転軸の回転方向を示す矢印X方向と同方向)に流動し、回転軸1とハウジング32Aの内周面との間で生じる油膜圧力に起因する凹所34A内への潤滑油流に付随して保持要素40Aが圧縮コイルばね44の付勢力に抗して凹所34A内に押し込まれることによって生じる。そして、この状態では、回転軸1は、もっぱら、すべり軸受22の内周面(すべり軸受22の内周面と回転軸1の外周面との間の潤滑油の油膜圧力)によって支持される。
【0019】
なお、実施例では転動子の保持要素を個別に付勢する付勢手段として圧縮コイルばねを示したが、板ばねを用いることも可能である。また、実施例では軸受装置を安価にするために、転動子の保持要素を個別に付勢する付勢手段として、ばねを用いたがこれに限定されるものではなく、その他の公知手段を用いることもできる。例えば、プランジャを有する電磁ソレノイドを用い、これを軸受ハウジングの保持要素を押圧可能な位置に配置し、軸の回転数に応じて電気信号を送りプランジャで保持要素を押圧して転動子の出没を制御してもよい。電磁ソレノイドに変えて電動機等を用いてもよい。
【符号の説明】
【0020】
1: 回転軸
10: すべり・ころがり複合型軸受装置
20: すべり軸受部分
22: 円筒形すべり軸受
22A: 下位側半円筒形すべり軸受
22B: 上位側半円筒形すべり軸受
24: 円筒形ハウジング
30: ころがり軸受部分
32: 円筒形ハウジンング
34: 凹所
36: スリット状開口
40: 保持要素
42: 転動子(ローラー)
42a: 支軸
42b: 回転筒
42c: 小径部分
44: 圧縮コイルばね
50: すべり・ころがり複合型軸受装置
52: ハウジング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸の軸線方向で、すべり軸受部分と、ころがり軸受部分とが隣接配置された、回転軸を支承するすべり・ころがり複合型軸受装置であり、
前記ころがり軸受部分が、複数の転動子と、該複数の転動子を個別に回転自在に保持する複数の保持要素と、該複数の保持要素を個別に付勢する付勢手段と、前記複数の保持要素を個別にかつ出没可能に収容する複数の凹所を、内周面に有するハウジングとを含み、
前記保持要素に保持された前記複数の転動子は、互いに離隔して円周方向に整列配置され、前記回転軸の起動時に、前記保持要素に作用する前記付勢手段の付勢力の下で潤滑油膜を介して前記回転軸を支えるようになされ、前記付勢手段の付勢力を受けた前記保持要素が前記凹所から突出し、前記転動子が、前記すべり軸受部分に優先して前記回転軸を支え、また、前記回転軸の定常回転時に、前記保持要素が前記凹所内に後退して、前記転動子が前記回転軸から離れ、前記すべり軸受部分が前記回転軸を支えるように構成されており、
前記回転軸の起動時、前記ころがり軸受部分の転動子で規定される軸受内径が、前記すべり軸受部分の軸受内径よりも小さくなり、したがって、前記回転軸に対する前記転動子の接触面が、前記すべり軸受部分のすべり面よりも前記回転軸の外周面に近くなり、かつ
起動後における前記回転軸の定常回転時には、前記ころがり軸受部分の転動子で規定される軸受内径が、前記すべり軸受部分の軸受内径よりも大きくなり、したがって、前記転動子が、前記すべり軸受部分のすべり面よりも前記回転軸から離れた位置に偏位するように構成されている潤滑油を用いたすべり・ころがり複合型軸受装置。
【請求項2】
前記すべり軸受部分と前記ころがり軸受部分との隣接配置関係が、一対の前記ころがり軸受部分の間に前記すべり軸受部分が置かれた関係である請求項1に記載された潤滑油を用いたすべり・ころがり複合型軸受装置。
【請求項3】
前記保持要素の各々が、前記凹所の各々の内部に弾発部材を介して収容されていて、該弾発部材は、前記保持要素に常時付勢力を加えており、それによって、前記回転軸の起動時、前記回転軸に対する前記転動子の接触面が、前記すべり軸受部分のすべり面よりも前記回転軸の外周面に近くなり、
また、前記回転軸の定常回転時には、前記回転軸と前記ハウジングの内周面との間で生じる油膜圧力に起因する前記凹所内への潤滑油流に付随して前記保持要素が前記弾発部材の付勢力に抗して前記凹所内に後退し、それによって、前記転動子が、前記すべり軸受部分のすべり面よりも前記回転軸から離れた位置に偏位するようになっている請求項1または請求項2に記載された潤滑油を用いたすべり・ころがり複合型軸受装置。
【請求項4】
前記すべり軸受部分が、単一体としての円筒形すべり軸受を含む請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載された潤滑油を用いたすべり・ころがり複合型軸受装置。
【請求項5】
前記すべり軸受部分が、一対の半円筒体を組合せて成る円筒形すべり軸受を含む請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載された潤滑油を用いたすべり・ころがり複合型軸受装置。
【請求項6】
前記ころがり軸受部分の前記ハウジングが単一体としての円筒体である請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載された潤滑油を用いたすべり・ころがり複合型軸受装置。
【請求項7】
前記ころがり軸受部分の前記ハウジングが一対の半円筒体を組合せて成る円筒体である請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載された潤滑油を用いたすべり・ころがり複合型軸受装置。
【請求項8】
前記保持要素を収容する前記複数の凹所が、円筒体である前記ハウジングの内周面の円周方向一部領域で円弧状に配列されている請求項6または請求項7に記載された潤滑油を用いたすべり・ころがり複合型軸受装置。
【請求項9】
前記ころがり軸受部分の前記ハウジングが単一の半円筒体であり、該半円筒体内周面の円周方向に沿って前記複数の凹所が配列されている請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載された潤滑油を用いたすべり・ころがり複合型軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−154469(P2012−154469A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−16592(P2011−16592)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(591001282)大同メタル工業株式会社 (179)