説明

すべり支承装置

【課題】大きな面圧が摺動面に作用しても、水平抵抗力を所望の値に制限し、広い面圧範囲で一定の水平抵抗力が得られ、構造物との取付け部分を小さく抑えることもでき、高層建築物の地震時の応答解析において、荷重変動を考慮せずに解析的検討を容易に行うことのできるすべり支承装置を提供する。
【解決手段】上部構造物22と下部構造物23の間に配され、上部構造物又は下部構造物の一方に装着されるすべり板2と、他方に装着され、すべり板に対し摺動自在に配される摺動部材3とを備えたすべり支承装置1において、摺動部材は、高摩擦摺動部材4と、該高摩擦摺動部材よりも低摩擦で摺動する低摩擦摺動部材5とからなり、高摩擦摺動部材が弾性部材9を介して上部構造物を支持するとともに、弾性部材が鉛直方向に所定量H変形したときに、低摩擦摺動部材の摺動面がすべり板に当接して鉛直方向荷重の支持を開始する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築構造物及び土木構造物を支持するすべり支承装置に関し、特に地震時等により生じるすべり支承装置への載荷荷重の増減によるすべり抵抗力の依存軽減に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建築構造物及び土木構造物を免震支持する免震機構として、免震周期に影響を及ぼさずに減衰を好ましく得ることのできるすべり支承装置が使用されている。一般的には、すべり支承装置そのものには復元力がないため、積層ゴム支承装置等の復元力を具備した装置と協働的に使用される場合が多い。
【0003】
地震等の外力が免震構造物に作用すると、上部構造物を支持する積層ゴム支承装置に水平変形が生じ、該水平変形により、積層ゴム支承装置に作用する軸力が変動するが、特に、免震構造物の周辺に配された免震装置には、上部構造物のロッキングにより比較的大きな軸力変動が作用する。特に高層ビル等のアスペクト比が大きな上部構造物の場合は顕著である。
【0004】
また、すべり支承装置のすべり材に使用される摩擦材料は、各種依存性を有しているものが多く、面圧依存性、速度依存性、累積のすべり変形依存性等が代表的なものである。そして、これらの依存性を検討する場合に摩擦係数を評価基準にするのが一般的に行われており、主として摩擦係数は面圧に依存するため、面圧依存性の少ない材料及び構造が各種開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−320611
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には、一般的に、すべり支承装置は積層ゴム装置と併用して用いられるため、積層ゴムが大きくせん断変形した際、すべり材に負荷される面圧が大きくなり、摩擦係数が大きく変動し、その結果、すべり免震装置の免震性能が維持できなくなるという問題が示され、地震発生初期段階において安定して免震効果を示し、かつ耐久性に優れ、長期間安定して低い摩擦係数を示し、面圧依存性が極めて少ないすべり免震装置の発明が開示されている。
【0007】
具体的には、特許文献1によれば、摺動面に塗布するグリース及び摺動面の形状を工夫し、面圧に影響されない安定した摩擦係数を得る技術が開示されているが、面圧と摺動部接触面積との積で求められる載荷荷重と摩擦係数により決定される水平抵抗力は、安定した摩擦係数であっても、摺動部の接触面積が一定であれば面圧に応じて変化することになる。
【0008】
上記すべり支承装置を実際の免震構造物に適用した場合は、地震時に免震構造物に生じるロッキング等による軸力変動によってすべり支承装置が発生する水平抵抗力が決定されることになり、換言すれば、地震により刻一刻と変化する載荷荷重が把握できない限り正確な水平抵抗力を求めることができず、水平抵抗力(減衰力)を、軸力変動を考慮した載荷荷重をパラメーターとして求めることになり、振動解析を行う上で煩雑にならざるを得ないため、水平抵抗力を一定として解析可能なすべり支承装置が望まれている。
【0009】
そして、すべり支承装置を高層建築構造物に採用した場合には、高層建築構造物のロッキング作用により非常に大きな支持荷重変動幅となるため、具体的には、面圧幅5〜30MPのように5倍を超える荷重範囲が作用するため、一般的に言われる、面圧が大きくなると摩擦係数が低下する面圧依存性を考慮しても、すべり支承装置が発生する水平抵抗力が過大な大きさになる虞があり、免震性能そのものに悪影響を及ぼす可能性や、過大な水平抵抗力が想定される結果、すべり支承装置の構造物との取付け部分の損傷や破損を防ぐため、取付け部及びその周辺の構造を大きくする必要があった。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、大きな面圧がすべり支承装置の摺動面に作用した場合においても、すべり支承装置が発生する水平抵抗力の値が過大にならず、水平抵抗力を所望の値に制限でき、広い面圧範囲で一定の水平抵抗力が得られ、合わせて、構造物との取付け部分を特別大きくすることを必要としないすべり支承装置を提供し、高層建築物の地震時の応答解析において、荷重変動を考慮せずに解析的検討を容易に行うことを可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
高い水平抵抗力、いわゆる減衰力を得るためのすべり支承装置を提供するには、摩擦摺動材料に高摩擦材料を用いることが好適であるが、高摩擦材料を使用したすべり支承装置は、地震時における免震構造物のロッキング等による軸力変動を受けた場合、その面圧依存性により発生する水平抵抗力に大きな影響を受けることになり、高層建築物の地震時の応答解析において荷重変動を考慮して解析的検討を行う必要があった。
【0012】
他方、低い摩擦係数を示す摺動材料による水平抵抗力の面圧依存性は、そもそも発生する抵抗力自体が小さいこともあり、高い摩擦係数を示す摺動材料の面圧依存性より水平抵抗力として現れる影響が小さいので、高層建築物の地震時の応答解析において荷重変動を考慮することもない。
【0013】
これら各々の摺動部材の特徴を利用し、すべり支承装置の摺動部材を高摩擦部材と低摩擦部材とを適宜組み合わせる構成として一体的に摺動させる場合、高摩擦部材の荷重変動による水平抵抗力上昇の影響を受けるため、水平抵抗力は高摩擦部材の面積比率に応じて変動を示す結果となり、水平抵抗力の変動を回避するように、低摩擦部材の面積比率を大きくすれば水平抵抗力の軸力変動による影響は大きく受けないが、すべり支承装置は発生する水平抵抗力そのものが小さくなり、効果的な減衰を得ることができないという欠点が生じる。
【0014】
そこで、本発明者は、高摩擦材料部分に載荷される荷重を所定の大きさに制限するとともに、前記所定量の荷重を超える荷重が載荷された場合には、所定量の荷重以上の荷重増加分を低摩擦材料部分で負担するとともに、所定量の荷重を越えないように調整された高摩擦材料部分と低摩擦材料部分が協働して摺動するように次の構成を採るすべり支承装置の発明に至った。
【0015】
本発明は、上部構造物と下部構造物の間に配され、該上部構造物又は下部構造物の一方に装着されるすべり板と、他方に装着され、前記すべり板に対し摺動自在に配される摺動部材とを備えたすべり支承装置において、前記摺動部材は、高摩擦摺動部材と、該高摩擦摺動部材よりも低摩擦で摺動する低摩擦摺動部材とからなり、前記高摩擦摺動部材が弾性部材を介して上部構造物を支持するとともに、該弾性部材が鉛直方向に所定量変形したときに、前記低摩擦摺動部材の摺動面が前記すべり板に当接して鉛直方向荷重の支持を開始することを特徴とする。
【0016】
本構成を採ることで、本発明のすべり支承装置は、弾性部材が鉛直方向に所定量変形する所定量の荷重が加わるまでは、上部構造物を高摩擦摺動部材が摺動自在に支持し、前記所定量の荷重を超え前記弾性部材が所定の鉛直方向弾性変形量になると、上部構造物を高摩擦摺動部材と低摩擦摺動部材とが協働して摺動自在に支持することができる。
【0017】
所定量の荷重を超えない、換言すれば軸力変動の少ない範囲での本発明によるすべり支承装置の使用においては、高い摩擦係数を示す摩擦部材により大きな水平抵抗力を得ることができ、所定量の荷重を超えるような、換言すれば大きな軸力変動を伴うような使用範囲においては、前記弾性部材に予め設定された弾性変形量が生じ、低摩擦摺動部材の摺動面がすべり材と当接し、低摩擦摺動部材の摺動面で所定量の荷重以上の荷重分を負担することができるため、所定量の荷重を超えた軸力作用後の本発明によるすべり支承装置が生じる水平抵抗力は、所定量の荷重下で発生する高摩擦材料の水平抵抗力に加え、低摩擦材料により得られる水平抵抗力が加わる形になり、すべり支承装置全体としての水平抵抗力は頭打ちになり、過大な水平抵抗力が発生することを防止できる。
【0018】
上記すべり支承装置において、前記摺動部材を前記上部構造物に装着し、前記低摩擦摺動部材の摺動面が、前記弾性部材の鉛直方向の所定変形量分だけ前記高摩擦摺動部材の摺動面より高い位置に配設することができる。また、前記摺動部材を、前記上部構造物に装着し、前記低摩擦摺動部材を前記すべり板上に載置し、該低摩擦摺動部材と前記上部構造物との間に前記弾性部材の鉛直方向の所定変形量分の隙間を有するように構成することもできる。前記所定量の荷重における弾性部材の鉛直方向弾性変形量の設定は、該弾性部材の硬さ、大きさ及びクリープ特性を考慮することにより適宜調整でき、例えば、同一の所定荷重下で弾性部材の大きさを同じとすると、柔らかい弾性部材を使用する場合は、硬い弾性部材を使用する場合に比べ大きな設定値となる。また、同じ硬さの弾性部材を用い、該弾性部材の鉛直方向弾性変形量の設定を小さくすると、高摩擦摺動部材と低摩擦摺動部材とが協働して摺動自在に支持する状態が早期に生じ、反対に、該弾性部材の鉛直方向弾性変形量の設定を大きくすると、高摩擦摺動部材と低摩擦摺動部材とが協働して摺動自在に支持する状態を遅らせることができるので、所望の荷重又は水平変形量で必要な水平抵抗力の大きさを得るように調整することができる。
【0019】
さらに、本発明によるすべり支承装置は、前記高摩擦摺動部材が前記摺動部材の中心側に配され、前記低摩擦摺動部材が、該高摩擦摺動部材を包囲するとともに、前記弾性部材の水平変形を制限する当接部を有し、前記摺動部材の周辺側に配設されるようにすることができる。
【0020】
上記構成を採ることで、高層建築物等が地震時に上部構造物と下部構造物の間ですべり支承装置を介して水平方向に相対変位を起こした際に、中心側に配された弾性部材に支持された高摩擦摺動部材に所定量の荷重が作用すると、該弾性部材が荷重載荷方向に所定の弾性変形を生じ、高摩擦摺動部材を包囲するように配された低摩擦摺動部材の部分で所定量の荷重を支持しながら摺動できるので、高摩擦材料により得られる大きな水平抵抗力を一定に抑えることができる上に、当該一定の水平抵抗力に、低摩擦材料による面圧依存性の少ない水平抵抗力が加わる状態で摺動させることができるので、すべり支承装置として過大な水平抵抗力が発生することを防止でき、振動解析においても水平抵抗力を一定にみなすことが可能となり解析作業が容易になる。
【0021】
また、前記弾性部材の水平変形を制限する当接部を有するため、上部構造物と下部構造物の水平方向の相対変形に対し、弾性部材が水平方向の変形を生じることがないので、免震構造物としての周期特性に影響を与えることがない。
【0022】
また、本発明によるすべり支承装置は、前記高摩擦摺動部材が前記摺動部材の周辺側に配され、前記低摩擦摺動部材が、該高摩擦摺動部材に包囲されるとともに、前記弾性部材の水平変形を制限する当接部を有し、前記摺動部材の中心側に配設されることができ、このような構成を採れば、高摩擦摺動部材が摺動部材の中心側に配されて低摩擦摺動部材が高摩擦摺動部材を包囲する前記形態と同様の作用を得ることができる。
【0023】
上記すべり支承装置において、前記弾性部材をゴム材料又は積層ゴム体とすることができ、該弾性部材をゴム材料とする場合は、荷重載荷方向(鉛直方向)に所定量の荷重で所望の弾性変形量が得られる硬さを有していればよく、クリープ特性が良好であれば、合成ゴム系であっても天然ゴム系であってもよい。
【0024】
本発明によれば、前記弾性部材を板ばね又は皿ばねとすることができ、高摩擦摺動部材に所定量の荷重が作用すると、該弾性部材としての板ばね又は皿ばねが荷重載荷方向に所定の弾性変形を生じ、低摩擦摺動部材の部分で所定量の荷重以上の荷重を支持しながら摺動できる。
【0025】
前記弾性部材の水平方向への変形を制限する当接部は、鉛直方向に摺動可能に構成され、高摩擦摺動部材が摺動部材の中心側に配される場合も、高摩擦摺動部材が摺動部材の周辺側に配される場合も、高摩擦摺動部材は低摩擦摺動部材と水平方向に当接し、鉛直方向には弾性部材の弾性変形を許容するように摺動可能に構成され、該当接部に鉛直方向の摺動抵抗を低減するため、二硫化モリブデン焼付けコート等の潤滑層やグリース等の潤滑膜を施すことができる。
【発明の効果】
【0026】
以上のように、本発明によれば、大きな面圧がすべり支承装置の摺動面に作用した場合でも、水平抵抗力を所望の値に制限し、広い面圧範囲で一定の水平抵抗力が得られるとともに、構造物との取付け部分を小さく抑えることもでき、高層建築物の地震時の応答解析において、荷重変動を考慮せずに解析的検討を容易に行うことのできるすべり支承装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明にかかるすべり支承装置の第1の実施形態を示す図であって、(a)は断面図、(b)は(a)のA−A矢視図であって摺動部材のみを示している。
【図2】図1のすべり支承装置の動作を説明するための断面図である。
【図3】本発明にかかるすべり支承装置の第2の実施形態を示す断面図である。
【図4】本発明にかかるすべり支承装置の第3の実施形態を示す断面図である。
【図5】本発明にかかるすべり支承装置の第4の実施形態を示す断面図である。
【図6】図5のすべり支承装置の動作を説明するための断面図である。
【図7】本発明にかかるすべり支承装置の第5の実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0029】
図1は、本発明にかかるすべり支承装置の第1の実施形態を示し、このすべり支承装置1は、上部構造物22と下部構造物23の間に配され、下部構造物23に装着されるすべり板2と、上部構造物22に配される摺動部材3(高摩擦摺動部材4及び低摩擦摺動部材5)、弾性部材9等で構成される。
【0030】
すべり板2は、上面視矩形状に形成されて下取付板6上に固定され、下取付板6が下アンカープレート7、下取付ボルト8及び袋ナット16を介して下部構造物23側に固定されることで、すべり板2が下部構造物23に固定される。
【0031】
このすべり板2は、平滑で表面粗さが通常のすべり支承等に用いられる程度の物でよく、例えばステンレス鋼板の一つであるSUS304の研磨仕上げ品が入手性及び価格面で好ましいが、これに限定されるものではない。例えば、全体として高い摩擦係数を必要とする場合には、すべり板2の表面粗さを適宜大きくして使用してもよく、反対に、全体として低い摩擦係数が求められる場合には、すべり板2の表面にフッ素樹脂等の摺動層を焼き付けるなどの処理を施すこともできる。また、すべり板2の表面粗さを部分的に、例えばすべり板2の周辺部分と中央部分で表面粗さを変化させ、摺動する位置により得られる水平抵抗力が変化するように構成してもよい。
【0032】
高摩擦摺動部材4は、全体的に直方体状に形成され、その上部に直方体状の弾性部材9が固着され、下面に矩形板状の高摩擦材料10が固着される。高摩擦摺動部材4は、低摩擦摺動部材5の下方に開口する凹部5a内に鉛直方向に移動可能に収容され、凹部5aの垂直面としての当接部5bによって弾性部材9の水平方向の変形が規制される。弾性部材9には、合成ゴム、天然ゴム等のゴム材料を用いることができ、高摩擦材料10には、フェノール樹脂系軸受材料や焼結軸受材料を用いることができる。
【0033】
低摩擦摺動部材5は、底面側に矩形状に開口する凹部5aを有して全体的に直方体状に形成され、上述のように、凹部5aに高摩擦摺動部材4が鉛直方向に移動可能に収容される。低摩擦摺動部材5は、上面において、摺動部材固定ボルト13を介して上取付板11に接合され、さらに上取付板11は、上取付ボルト14及び袋ナット15によって上アンカープレート12に固定され、これによって低摩擦摺動部材5が上部構造物22側に固定される。低摩擦摺動部材5の下面には、低摩擦材料17が固着され、この低摩擦材料17には、フッ素樹脂系軸受材料を使用することができる。
【0034】
低摩擦摺動部材5の摺動面、すなわち、低摩擦材料17の下面は、弾性部材9の鉛直方向の所定変形量Hだけ高摩擦摺動部材4の摺動面、すなわち、高摩擦材料10の下面より高い位置に配設される。
【0035】
上記高摩擦材料10及び低摩擦材料17には、所望の摩擦係数の確保、摩擦係数の安定性、摺動面の磨耗、摺動時の鳴き、耐候性等の改善のため、補強繊維、固体潤滑剤、オイル等の各種添加剤を加えることができる。尚、高摩擦材料10の摩擦係数と低摩擦材料17の摩擦係数の比率が5:1以上の組合せで、高摩擦材料10は、面圧10MPa時で摩擦係数が0.10〜0.40の範囲、より好ましくは0.13〜0.24で、低摩擦材料17は、同様に面圧10MPa時で摩擦係数が0.10以下、より好ましくは0.01〜0.03であればよく、前記記載の材料に限定されない。
【0036】
さらに、図1(b)に示すように、すべり支承装置1における摩擦摺動面の全体の面積(ΣA)、換言すれば高摩擦摺動部材4に配される高摩擦材料10の摩擦摺動面積(AH)と低摩擦摺動部材5に配される低摩擦材料17の摩擦摺動面積(AL)の合計の面積に占める高摩擦材料10の摩擦摺動面積(AH)の比率(AH)/(ΣA)は、0.25〜0.75の範囲が好適であり、具体的には、各々の摩擦係数、載荷荷重、荷重変動幅等を考慮して前記範囲において適宜定めることができる。
【0037】
次に、上記構成を有するすべり支承装置1の動作について、図1及び図2を参照しながら説明する。
【0038】
図1に示す状態で、地震等の外力がすべり支承装置1を備えた構造物に作用すると、下部構造物23に対して上部構造物22が水平方向に相対移動するとともに、ロッキング等によって構造物への軸力変動が生ずる。ここで、図2(a)に示すように、弾性部材9が鉛直方向に所定変形量Hだけ変形する所定量の荷重が載荷されるまでは、接触範囲R1において、高摩擦摺動部材4が上部構造物22を摺動自在に支持し、水平抵抗力(減衰力)を生じる。
【0039】
次に、構造物への軸力変動により、すべり支承装置1への鉛直方向の荷重が所定の値を超え、弾性部材9が所定の鉛直方向弾性変形量になると、図2(b)に示すように、接触範囲R2において、低摩擦摺動部材5も下部構造物23に固定されたすべり板2の上を摺動可能となり、上部構造物22を高摩擦摺動部材4と低摩擦摺動部材5とが協働して摺動自在に支持し、両摩擦摺動部材4、5による水平抵抗力を生じる。
【0040】
上述のように、すべり支承装置1への鉛直方向の荷重が所定の値を超えない場合、すなわち軸力変動の少ない範囲では、高い摩擦係数を示す高摩擦材料10により大きな水平抵抗力を得ることができ、所定量の荷重を超えるような荷重がすべり支承装置1へ付与された場合、すなわち大きな軸力変動を伴うような範囲では、弾性部材9に予め設定された弾性変形(所定変形量H)が生じ、低摩擦材料17がすべり材2と当接し、高摩擦材料10と低摩擦材料17とで鉛直荷重を負担することができるため、すべり支承装置1が生じる水平抵抗力は、所定量の荷重下で発生する高摩擦材料10の水平抵抗力に加え、低摩擦材料17により得られる水平抵抗力が加わるが、低摩擦材料17により得られる水平抵抗力は小さいため、すべり支承装置1全体としての水平抵抗力はそれ程大きくならず、過大な水平抵抗力が発生することを防止できる。
【0041】
また、低摩擦摺動部材5の凹部5aに高摩擦摺動部材4を収容し、弾性部材9に鉛直方向に摺動可能な当接部5bによって、弾性部材9の水平方向の変形を規制しているため、上記動作中に、弾性部材9の水平方向のはみ出しを抑えることができ、弾性部材9の鉛直方向の弾性変形量を小さくすることができ、所定の載荷荷重が高摩擦摺動部材4に載荷されると、弾性部材9の弾性変形により低摩擦摺動部材5側に荷重が載荷されるようになる。
【0042】
尚、図1(b)に示した(AH)/(ΣA)で求められる高摩擦材料10の面積比率が小さく、また高摩擦摺動部材4に配されている弾性部材9に柔らかい弾性材を用いると、低摩擦摺動部材5での荷重支持状態が早期に生じることになるので、すべり支承装置1の水平抵抗力は高摩擦材料10の面圧依存性の影響を受けなくなるため早期に略々一定となるが、すべり支承装置1が発生する水平抵抗力そのものは小さな値となる。
【0043】
また、(AH)/(ΣA)で求められる高摩擦材料10の面積比率を大きくし、高摩擦摺動部材4に配されている弾性部材9に高剛性の弾性体を用いると、低摩擦摺動部材5での荷重支持状態は遅れて生じることになるので、すべり支承装置1の水平抵抗力は、高摩擦材料10の面圧依存性の影響を受けるため大きな値を得ることになるが、水平抵抗力が一定になるのは遅れることになる。
【0044】
上述のように、本発明によるすべり支承装置1の水平抵抗力は、高摩擦材料10及び低摩擦材料17の各々の摩擦係数、高摩擦材料10の面積比率、弾性部材9の剛性により所望の位置で必要な大きさを得るように調整することができる。
【0045】
また、上記実施の形態では、弾性部材9としてゴム材料を使用したが、弾性部材9の荷重載荷方向(鉛直方向)の弾性変形量を所望の量にする手段として、この弾性部材9を、ゴム材料層と鋼板層を交互に積層した積層ゴム体とすることもできる。積層ゴム体を用いることで、荷重載荷方向(鉛直方向)の剛性を大きくすることができるため、装置を大きくすることなく、低摩擦摺動部材5が上部構造物22の荷重を支持し始める荷重を大きくすることができる。
【0046】
次に、本発明にかかるすべり支承装置の第2の実施形態について、図3を参照しながら説明する。
【0047】
このすべり支承装置31は、上記第1の実施形態におけるすべり支承装置1のゴム材料からなる弾性部材9に代えて、板ばね又は皿ばねなどの弾性部材39を備えることを特徴とし、他の構成要素は、図1に示した第1の実施形態におけるすべり支承装置1と同様であるため、同様の構成要素については、図1に記載したものと同様の参照番号を付して詳細説明を省略する。
【0048】
このすべり支承装置31を用いた場合でも、すべり支承装置1と同様に、高摩擦摺動部材4に所定量の荷重が作用すると、弾性部材39が荷重載荷方向に所定の弾性変形を生じ、低摩擦摺動部材5もすべり板2の上を摺動可能となり、上部構造物22を高摩擦摺動部材4と低摩擦摺動部材5とが協働して摺動自在に支持し、両摩擦摺動部材4、5による水平抵抗力を生じ、すべり支承装置1と同様の作用効果を奏する。
【0049】
次に、本発明にかかるすべり支承装置の第3の実施形態について、図4を参照しながら説明する。
【0050】
このすべり支承装置41は、上記第1の実施形態におけるすべり支承装置1の摺動部材3(高摩擦摺動部材4及び低摩擦摺動部材5)及び弾性部材9に代えて、摺動部材43(高摩擦摺動部材44及び低摩擦摺動部材45)及び弾性部材49を備えることを特徴とし、他の構成要素は、図1に示した第1の実施形態におけるすべり支承装置1と同様であるため、同様の構成要素については、図1に記載したものと同様の参照番号を付して詳細説明を省略する。
【0051】
高摩擦摺動部材44は、全体的に直方体状に形成され、その中間部に直方体状の弾性部材49が挟持され、下面に矩形板状の高摩擦材料46が固着される。高摩擦摺動部材44は、上面において、摺動部材固定ボルト13を介して上取付板11に接合され、さらに上取付板11は、上取付ボルト14及び袋ナット15によって上アンカープレート12に固定され、これによって高摩擦摺動部材44が上部構造物22側に固定される。弾性部材49には、合成ゴム、天然ゴム等のゴム材料を用いることができ、高摩擦材料46には、フェノール樹脂系軸受材料や焼結軸受材料を用いることができる。
【0052】
低摩擦摺動部材45は、中央部に矩形状の貫通孔45aを有して全体的に直方体状に形成され、貫通孔45aに高摩擦摺動部材44が収容される。低摩擦摺動部材45は、すべり板2の上に載置され、いずれの部材にも固定されていない。高摩擦摺動部材44の上面と上取付板11の下面との間には、弾性部材49の鉛直方向の所定変形量Hの隙間が設けられる。低摩擦摺動部材45の下面には、低摩擦材料47が固着され、この低摩擦材料47には、フッ素樹脂系軸受材料を使用することができる。
【0053】
次に、上記構成を有するすべり支承装置41の動作について、図4を参照しながら説明する。
【0054】
図4に示す状態で、地震等の外力がすべり支承装置41を備えた構造物に作用すると、下部構造物23に対して上部構造物22が水平方向に相対移動するとともに、ロッキング等によって構造物への軸力変動が生ずる。ここで、弾性部材49が鉛直方向に所定変形量Hだけ変形する所定量の荷重が載荷されるまでは、上部構造物22を高摩擦摺動部材44が摺動自在に支持し、水平抵抗力(減衰力)を生じる。
【0055】
次に、構造物への軸力変動により、すべり支承装置41への鉛直方向の荷重が所定の値を超え、弾性部材49が所定の鉛直方向に所定変形量Hの弾性変形をすると、低摩擦摺動部材45も下部構造物23に固定されたすべり板2の上を摺動可能となり、上部構造物22を高摩擦摺動部材44と低摩擦摺動部材45とが協働して摺動自在に支持し、両摩擦摺動部材44、45による水平抵抗力を生じる。
【0056】
上述のように、本実施の形態においても、すべり支承装置41への鉛直方向の荷重が所定の値を超えない場合には、高い摩擦係数を示す高摩擦材料46により大きな水平抵抗力を得ることができ、所定量の荷重を超えるような荷重がすべり支承装置41へ付与された場合には、弾性部材49に予め設定された弾性変形(所定変形量H)が生じ、低摩擦材料47がすべり材2と当接し、高摩擦材料46と低摩擦材料47とで鉛直荷重を負担することができるため、すべり支承装置41が生じる水平抵抗力は、所定量の荷重下で発生する高摩擦材料46の水平抵抗力に加え、低摩擦材料47により得られる水平抵抗力が加わるが、低摩擦材料47により得られる水平抵抗力は小さいため、すべり支承装置41全体としての水平抵抗力はそれ程大きくならず、過大な水平抵抗力が発生することを防止できる。
【0057】
また、低摩擦摺動部材45の貫通孔45aに高摩擦摺動部材44を収容し、弾性部材49に鉛直方向に摺動可能な、貫通孔45aの垂直面としての当接部45bによって、弾性部材49の水平方向の変形を規制しているため、上記動作中に、弾性部材49の水平方向のはみ出しを抑えることができ、弾性部材49の鉛直方向の弾性変形量を小さくすることができ、所定の載荷荷重が高摩擦摺動部材44に載荷されると、弾性部材49の弾性変形により低摩擦摺動部材45側に荷重が載荷されるようになる。
【0058】
尚、本実施の形態においても、すべり支承装置1を用いた第1の実施形態と同様に、すべり支承装置41の水平抵抗力は、高摩擦材料46及び低摩擦材料47の各々の摩擦係数、高摩擦材料46の面積比率、弾性部材49の剛性により所望の位置で必要な大きさを得るように調整することができる。
【0059】
また、弾性部材49としてゴム材料に代えて板ばねなどを用いることもでき、さらに、これらの他に、ゴム材料層と鋼板層を交互に積層した積層ゴム体を使用することで、荷重載荷方向(鉛直方向)の剛性を大きくすることができ、装置を大きくすることなく低摩擦摺動部材45が上部構造物22の荷重を支持し始める荷重を大きくすることもできる。
【0060】
次に、本発明にかかるすべり支承装置の第4の実施形態について、図5を参照しながら説明する。
【0061】
このすべり支承装置51は、上記第1の実施形態におけるすべり支承装置1の摺動部材3(高摩擦摺動部材4及び低摩擦摺動部材5)及び弾性部材9に代えて、摺動部材53(高摩擦摺動部材54及び低摩擦摺動部材55)及び弾性部材59を備えることを特徴とし、他の構成要素は、図1に示した第1の実施形態におけるすべり支承装置1と同様であるため、同様の構成要素については、図1に記載したものと同様の参照番号を付して詳細説明を省略する。
【0062】
高摩擦摺動部材54は、中央部に矩形状の貫通孔54aを有して全体的に直方体状に形成され、貫通孔54aに低摩擦摺動部材55の凸部55bが収容される。高摩擦摺動部材54は、上面は高摩擦摺動部材54と上面視同形の弾性部材59の下面と固着され、下面は高摩擦摺動部材54と下面視同形の高摩擦材料56が固着される。そして、弾性部材59の上面が低摩擦摺動部材55の段部55aに固着されるので、高摩擦摺動部材54には低摩擦摺動部材55の段部55a及び弾性部材59を介して上部構造物22の荷重が載荷される。
【0063】
弾性部材59には、合成ゴム、天然ゴム等のゴム材料を用いることができ、高摩擦材料56には、フェノール樹脂系軸受材料や焼結軸受材料を用いることができる。尚、弾性部材59の上下面は、低摩擦摺動部材55の段部55aと高摩擦摺動部材54の上面に固着させ、弾性部材59の上下面を拘束面としたが、弾性部材59のはみ出しやクリープ等に支障がなければ、弾性部材59の上下面を低摩擦摺動部材55の段部55aと高摩擦摺動部材54の上面に各々固着させなくともよい。
【0064】
低摩擦摺動部材55は、下面視矩形状の凸部55bを有して全体的に直方体状に形成され、低摩擦摺動部材55の下面には、低摩擦材料57が固着される。この低摩擦材料57には、フッ素樹脂系軸受材料を使用することができる。低摩擦摺動部材55は、上面において、摺動部材固定ボルト13を介して上取付板11に接合され、さらに上取付板11は、上取付ボルト14及び袋ナット15によって上アンカープレート12に固定され、これによって低摩擦摺動部材55が上部構造物22側に固定される。
【0065】
低摩擦材料57の下面と、高摩擦材料56の下面との間には、弾性部材59の鉛直方向の所定変形量Hの隙間が設けられる。
【0066】
次に、上記構成を有するすべり支承装置51の動作について、図5及び図6を参照しながら説明する。
【0067】
図5に示す状態で、地震等の外力がすべり支承装置51を備えた構造物に作用すると、下部構造物23に対して上部構造物22が水平方向に相対移動するとともに、ロッキング等によって構造物への軸力変動が生ずる。ここで、弾性部材59が鉛直方向に所定変形量Hだけ変形する所定量の荷重が載荷されるまでは、上部構造物22を高摩擦摺動部材54が摺動自在に支持し、水平抵抗力(減衰力)を生じる。
【0068】
次に、構造物への軸力変動により、すべり支承装置51への鉛直方向の荷重が所定の値を超え、弾性部材59が所定の鉛直方向に所定変形量Hの弾性変形をすると、低摩擦摺動部材55も下部構造物23に固定されたすべり板2の上を摺動可能となり、上部構造物22を高摩擦摺動部材54と低摩擦摺動部材55とが協働して摺動自在に支持し、両摩擦摺動部材54、55による水平抵抗力を生じる。
【0069】
上述のように、本実施の形態においても、すべり支承装置51への鉛直方向の荷重が所定の値を超えない場合には、高い摩擦係数を示す高摩擦材料56により大きな水平抵抗力を得ることができ、所定量の荷重を超えるような荷重がすべり支承装置51へ付与された場合には、弾性部材59に予め設定された弾性変形(所定変形量H)が生じ、低摩擦材料57がすべり材2と当接し、高摩擦材料56と低摩擦材料57とで鉛直荷重を負担することができるため、すべり支承装置51が生じる水平抵抗力は、所定量の荷重下で発生する高摩擦材料56の水平抵抗力に加え、低摩擦材料57により得られる水平抵抗力が加わるが、低摩擦材料57により得られる水平抵抗力は小さいため、すべり支承装置51全体としての水平抵抗力はそれ程大きくならず、過大な水平抵抗力が発生することを防止できる。
【0070】
また、高摩擦摺動部材54の貫通孔54aに低摩擦摺動部材55の凸部55bを収容し、弾性部材59に鉛直方向に摺動可能な、凸部55bの垂直面としての当接部55cによって、弾性部材59の水平方向の変形を規制しているため、上記動作中に、弾性部材59の水平方向のはみ出しを抑えることができ、弾性部材59の水平変形を防ぐとともに、鉛直方向の弾性変形量を小さくすることができ、所定の載荷荷重が高摩擦摺動部材54に載荷されると、弾性部材59の弾性変形により低摩擦摺動部材55側に荷重が載荷されるようになる。
【0071】
尚、本実施の形態においても、すべり支承装置1を用いた第1の実施形態と同様に、すべり支承装置51の水平抵抗力は、高摩擦材料56及び低摩擦材料57の各々の摩擦係数、高摩擦材料56の面積比率、弾性部材59の剛性により所望の位置で必要な大きさを得るように調整することができる。
【0072】
また、弾性部材59としてゴム材料に代えて板ばねなどを用いることもでき、さらに、これらの他に、ゴム材料層と鋼板層を交互に積層した積層ゴム体を使用することで、荷重載荷方向(鉛直方向)の剛性を大きくすることができ、装置を大きくすることなく低摩擦摺動部材55が上部構造物22の荷重を支持し始める荷重を大きくすることもできる。
【0073】
次に、本発明にかかるすべり支承装置の第5の実施形態について、図7を参照しながら説明する。
【0074】
このすべり支承装置61は、上記第1の実施形態におけるすべり支承装置1の摺動部材3(高摩擦摺動部材4及び低摩擦摺動部材5)及び弾性部材9に代えて、摺動部材63(高摩擦摺動部材64及び低摩擦摺動部材65)及び弾性部材69を備えることを特徴とし、他の構成要素は、図1に示した第1の実施形態におけるすべり支承装置1と同様であるため、同様の構成要素については、図1に記載したものと同様の参照番号を付して詳細説明を省略する。
【0075】
高摩擦摺動部材64は、中央部に、底面側に矩形状に開口する凹部64aを有して全体的に直方体状に形成され、この凹部64aに低摩擦摺動部材65が収容される。高摩擦摺動部材64は、上面において、摺動部材固定ボルト13を介して上取付板11に接合され、さらに上取付板11は、上取付ボルト14及び袋ナット15によって上アンカープレート12に固定され、これによって高摩擦摺動部材64が上部構造物22側に固定される。高摩擦摺動部材64の中間部に、高摩擦摺動部材64と上面視同形の弾性部材69が挟持され、下面に高摩擦摺動部材64と下面視同形の高摩擦材料66が固着される。弾性部材69には、合成ゴム、天然ゴム等のゴム材料を用いることができ、高摩擦材料66には、フェノール樹脂系軸受材料や焼結軸受材料を用いることができる。
【0076】
低摩擦摺動部材65は、全体的に直方体状に形成され、低摩擦摺動部材65の下面には、低摩擦材料67が固着される。この低摩擦材料47には、フッ素樹脂系軸受材料を使用することができる。低摩擦摺動部材65は、すべり板2に載置された状態で、上述のように高摩擦摺動部材64の凹部64a内に収容され、いずれの部材にも固定されていない。低摩擦摺動部材65の上面と高摩擦摺動部材64の凹部64aの天井面64bとの間には、弾性部材69の鉛直方向の所定変形量Hの隙間が設けられる。
【0077】
次に、上記構成を有するすべり支承装置61の動作について、図7を参照しながら説明する。
【0078】
図7に示す状態で、地震等の外力がすべり支承装置61を備えた構造物に作用すると、下部構造物23に対して上部構造物22が水平方向に相対移動するとともに、ロッキング等によって構造物への軸力変動が生ずる。ここで、弾性部材69が鉛直方向に所定変形量Hだけ変形する所定量の荷重が載荷されるまでは、上部構造物22を高摩擦摺動部材64が摺動自在に支持し、水平抵抗力(減衰力)を生じる。
【0079】
次に、構造物への軸力変動により、すべり支承装置61への鉛直方向の荷重が所定の値を超え、弾性部材69が所定の鉛直方向に所定変形量Hの弾性変形をすると、低摩擦摺動部材65も下部構造物23に固定されたすべり板2の上を摺動可能となり、上部構造物22を高摩擦摺動部材64と低摩擦摺動部材65とが協働して摺動自在に支持し、両摩擦摺動部材64、65による水平抵抗力を生じる。
【0080】
上述のように、本実施の形態においても、すべり支承装置61への鉛直方向の荷重が所定の値を超えない場合には、高い摩擦係数を示す高摩擦材料66により大きな水平抵抗力を得ることができ、所定量の荷重を超えるような荷重がすべり支承装置61へ付与された場合には、弾性部材69に予め設定された弾性変形(所定変形量H)が生じ、低摩擦材料67がすべり材2と当接し、高摩擦材料66と低摩擦材料67とで鉛直荷重を負担することができるため、すべり支承装置61が生じる水平抵抗力は、所定量の荷重下で発生する高摩擦材料66の水平抵抗力に加え、低摩擦材料67により得られる水平抵抗力が加わるが、低摩擦材料67により得られる水平抵抗力は小さいため、すべり支承装置61全体としての水平抵抗力はそれ程大きくならず、過大な水平抵抗力が発生することを防止できる。
【0081】
また、高摩擦摺動部材64の凹部64aに低摩擦摺動部材65を収容し、弾性部材69に対して鉛直方向に摺動可能な、低摩擦摺動部材65の垂直面としての当接部65aによって、弾性部材69の水平方向の変形を規制しているため、上記動作中に、弾性部材69の水平方向のはみ出しを抑えることができ、弾性部材69の水平変形を防ぐとともに、鉛直方向の弾性変形量を小さくすることができ、所定の載荷荷重が高摩擦摺動部材64に載荷されると、弾性部材69の弾性変形により低摩擦摺動部材65側に荷重が載荷されるようになる。
【0082】
尚、本実施の形態においても、すべり支承装置1を用いた第1の実施形態と同様に、すべり支承装置61の水平抵抗力は、高摩擦材料66及び低摩擦材料67の各々の摩擦係数、高摩擦材料66の面積比率、弾性部材69の剛性により所望の位置で必要な大きさを得るように調整することができる。
【0083】
また、弾性部材69としてゴム材料に代えて板ばねなどを用いることもでき、さらに、これらの他に、ゴム材料層と鋼板層を交互に積層した積層ゴム体を使用することで、荷重載荷方向(鉛直方向)の剛性を大きくすることができ、装置を大きくすることなく低摩擦摺動部材65が上部構造物22の荷重を支持し始める荷重を大きくすることもできる。
【0084】
尚、上記各実施の形態においては、上部構造物22側に摺動部材3等を固定し、下部構造物23側にすべり板2を固着したが、これとは逆に、下部構造物23側に摺動部材3等を固定し、上部構造物22側にすべり板2を固着してすべり支承装置を構成することもできる。さらに、高摩擦摺動部材4等、及び低摩擦摺動部材5等の形状を矩形状、直方体状としたが、これに限らず、円形状、円柱状としてもよく、多角形形状としてもよい。また、前記高摩擦摺動部材4等、及び低摩擦摺動部材5等は、各々鋼材、鋳物等の金属からなっていても、前記高摩擦摺動部材4等が弾性部材9等と一体的に鋼板とゴムを積層した積層ゴム体とし、所定量の荷重が載荷された時点で所定変形量Hだけ鉛直方向に変形するように構成してもよい。尚、高摩擦摺動部材4等へ所定の荷重が載荷された時点で、所定の荷重を超える荷重が低摩擦摺動部材5等に載荷され協働して摺動する構成であれば、上記構成に限定されない。
【符号の説明】
【0085】
1 すべり支承装置
2 すべり板
3 摺動部材
4 高摩擦摺動部材
5 低摩擦摺動部材
5a 凹部
5b 当接部
6 下取付板
7 下アンカープレート
8 下取付ボルト
9 弾性部材
10 高摩擦材料
11 上取付板
12 上アンカープレート
13 摺動部材固定ボルト
14 上取付ボルト
15 袋ナット
16 袋ナット
17 低摩擦材料
22 上部構造物
23 下部構造物
31 すべり支承装置
39 弾性部材
41 すべり支承装置
43 摺動部材
44 高摩擦摺動部材
45 低摩擦摺動部材
45a 貫通孔
45b 当接部
46 高摩擦材料
47 低摩擦材料
49 弾性部材
51 すべり支承装置
53 摺動部材
54 高摩擦摺動部材
54a 貫通孔
55 低摩擦摺動部材
55a 段部
55b 凸部
55c 当接部
56 高摩擦材料
57 低摩擦材料
59 弾性部材
61 すべり支承装置
63 摺動部材
64 高摩擦摺動部材
64a 凹部
64b 天井面
65 低摩擦摺動部材
65a 当接部
66 高摩擦材料
67 低摩擦材料
69 弾性部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部構造物と下部構造物の間に配され、該上部構造物又は下部構造物の一方に装着されるすべり板と、他方に装着され、前記すべり板に対し摺動自在に配される摺動部材とを備えたすべり支承装置において、
前記摺動部材は、高摩擦摺動部材と、該高摩擦摺動部材よりも低摩擦で摺動する低摩擦摺動部材とからなり、前記高摩擦摺動部材が弾性部材を介して上部構造物を支持するとともに、該弾性部材が鉛直方向に所定量変形したときに、前記低摩擦摺動部材の摺動面が前記すべり板に当接して鉛直方向荷重の支持を開始することを特徴とするすべり支承装置。
【請求項2】
前記摺動部材は、前記上部構造物に装着され、前記低摩擦摺動部材の摺動面が、前記弾性部材の鉛直方向の所定変形量分だけ前記高摩擦摺動部材の摺動面より高い位置に配設されることを特徴とする請求項1に記載のすべり支承装置。
【請求項3】
前記摺動部材は、前記上部構造物に装着され、前記低摩擦摺動部材が前記すべり板上に載置され、該低摩擦摺動部材と前記上部構造物との間に前記弾性部材の鉛直方向の所定変形量分の隙間を有することを特徴とする請求項1に記載のすべり支承装置。
【請求項4】
前記高摩擦摺動部材が前記摺動部材の中心側に配され、前記低摩擦摺動部材が、該高摩擦摺動部材を包囲するとともに、前記弾性部材の水平変形を制限する当接部を有し、前記摺動部材の周辺側に配設されることを特徴とする請求項1、2又は3に記載のすべり支承装置。
【請求項5】
前記高摩擦摺動部材が前記摺動部材の周辺側に配され、前記低摩擦摺動部材が、該高摩擦摺動部材に包囲されるとともに、前記弾性部材の水平変形を制限する当接部を有し、前記摺動部材の中心側に配設されることを特徴とする請求項1、2又は3に記載のすべり支承装置。
【請求項6】
前記弾性部材は、ゴム材料又は積層ゴム体からなることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のすべり支承装置。
【請求項7】
前記弾性部材は、板ばね又は皿ばねからなることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のすべり支承装置。
【請求項8】
前記弾性部材の水平方向への変形を制限する当接部は、鉛直方向に摺動可能であることを特徴とする請求項4乃至7のいずれかに記載のすべり支承装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−214703(P2011−214703A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−85665(P2010−85665)
【出願日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【出願人】(000103644)オイレス工業株式会社 (384)
【Fターム(参考)】