せん断伝達構造、コンクリート構造物、せん断伝達構造の構築方法、及びせん断伝達構造の設計方法
【課題】簡易な構成で、地中連続壁と、地中連続壁と接合して構築されるコンクリート構造物との間にせん断力を伝達できるようにする。
【解決手段】LNG地下タンク10における、地中連続壁20と、地中連続壁20と接合して構築される貯槽本体30との間に作用するせん断力を伝達するせん断伝達構造1は、貯槽本体30と地中連続壁20との両接合面が、互いに噛み合うような凹凸形状を有する。
【解決手段】LNG地下タンク10における、地中連続壁20と、地中連続壁20と接合して構築される貯槽本体30との間に作用するせん断力を伝達するせん断伝達構造1は、貯槽本体30と地中連続壁20との両接合面が、互いに噛み合うような凹凸形状を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中壁と、地中壁と接合して構築されるコンクリート構造物との間に作用するせん断力を伝達するせん断伝達構造、それを備えるコンクリート構造物、そのせん断伝達構造の構築方法、及びそのせん断伝達構造の設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、LNG地下タンクの底面に作用する土圧や水圧等によるタンクの浮き上がりを防止するために、LNG地下タンクの外周に構築される地中壁とタンクの側壁との接合面間に接合鉄筋を設けたり、例えば特許文献1又は2に記載されるようなせん断力を伝達させる構造を構築することにより、タンクの浮き上がり荷重を地中壁に伝達させて、地中壁の自重及び引き抜き抵抗により抵抗させる技術が提案されている。
【0003】
具体的には、特許文献1には、地下連続壁の頂部に内側方向に突出するような突出部と、地下タンクの側壁に当該突出部と係合するような段差部とを設けたせん断伝達構造が開示されている。また、特許文献2には、地下タンクの外周を形成する地下連続壁が深度方向に向けて広がる形状を有するせん断伝達構造が開示されている。
【特許文献1】特開2003−41608号公報
【特許文献2】特開平7−229321号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、接合鉄筋を設ける場合には、鉄筋の材料コストが増大するだけでなく、地中壁やコンクリート構造物の施工時にコンクリートの充填が不十分になるおそれがある。また施工に手間がかかる。
【0005】
また、特許文献1及び2に開示されるせん断伝達構造は構造が複雑であるため、やはり、施工に手間がかかるうえ、施工にあたって高度な技術が要求されるという問題もある。
【0006】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、簡易な構成で、地中壁と、地中壁と接合して構築されるコンクリート構造物との間にせん断力を伝達できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明は、地中壁と、前記地中壁と接合して構築されるコンクリート構造物との間に作用するせん断力を伝達するせん断伝達構造であって、
前記コンクリート構造物と前記地中壁との両接合面が、互いに噛み合うような凹凸形状を有することを特徴とする(第1の発明)。
【0008】
本発明のせん断伝達構造によれば、接合鉄筋や特許文献1及び2に記載されるせん断伝達構造のように施工に手間や高度な技術を必要とすることなく簡易に構築でき、コンクリート構造物に作用する浮き上がり荷重等の鉛直方向の荷重を地中壁に伝達することができる。
【0009】
第2の発明は、第1の発明において、前記両接合面の凹凸形状は、前記コンクリート構造物が前記地中壁に対して鉛直方向に相対移動すると、前記両接合面間が離間するような形状であることを特徴とする。
【0010】
本発明のせん断伝達構造によれば、例えば、コンクリート構造物に鉛直方向の荷重が作用して微小移動した場合に、コンクリート構造物と地中壁との両接合面が離間するので、この離間にともなって、両接合面間に離間を離間前の状態に戻そうとする反力が生じ、この反力に応じて接合面間の摩擦力(=せん断伝達耐力)も増加するので、両接合面間で鉛直方向の荷重を効果に伝達することができる。
【0011】
第3の発明は、第2発明において、前記凹凸形状は、波状、ノコギリ状、又は略台形状であることを特徴とする。
【0012】
第4の発明は、第2又は3の発明において、前記両接合面の凹凸形状は、前記両接合面同士が鉛直方向に相対移動して前記両接合面の一方の凸部の頂部が他方の凸部の頂部に乗り上げることにより、前記接合面が離間することに応じて前記コンクリート構造物及び前記地中壁に作用する荷重と、前記両接合面間の摩擦係数とに基づいて求められた摩擦力が、前記コンクリート構造物に作用する鉛直方向の荷重よりも大きくなるように形成されていることを特徴とする。
【0013】
本発明のせん断伝達構造によれば、コンクリート構造物に作用する鉛直方向の荷重に対してコンクリート構造物と地中壁との接合面が滑ることなく、かかる荷重をコンクリート構造物から地中壁に確実に伝達させる凹凸形状を、施工上効率良く形成することができる。
【0014】
第5の発明は、表面に凹凸形状を有する地中壁と接合して構築されるコンクリート構造物であって、前記地中壁と接合する接合面に、前記地中壁の凹凸形状と噛み合うような凹凸形状を有することを特徴とする。
【0015】
第6の発明は、第5の発明において、LNG地下タンクに適用されたことを特徴とする。
【0016】
第7の発明は、地中壁と、前記地中壁と接合して構築されるコンクリート構造物との間に作用するせん断力を伝達するせん断伝達構造の構築方法であって、その表面に凹凸形状を有する地中壁を構築し、前記地中壁の凹凸形状の表面に接触するように、コンクリートを打設し、前記打設したコンクリートを養生することを特徴とする。
【0017】
第8の発明は、第1〜4の何れかの発明に記載のせん断伝達構造の設計方法であって、前記両接合面の摩擦力を、前記両接合面同士が鉛直方向に相対移動して前記両接合面の一方の凸部の頂部が他方の凸部の頂部に乗り上げることにより、前記接合面が離間することに応じて前記コンクリート構造物及び前記地中壁に作用する荷重と、前記両接合面間の摩擦係数とに基づいて求め、前記両接合面の凹凸形状を、前記摩擦力が、前記コンクリート構造物に作用する鉛直方向の荷重よりも大きくなるように設定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、簡易な構成で、地中壁と、地中壁と接合して構築されるコンクリート構造物との間にせん断力を伝達することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の好ましい一実施形態について図面に基づき詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係るLNG地下タンク10の縦断面図である。
図1に示すように、LNG地下タンク10は、地盤40中に構築され、仮設の土留めや止水壁の役割をする地中連続壁20(以下、連壁20という)と、連壁20に接合して構築される貯槽本体30とからなる二重の円筒シェル構造を有している。
【0020】
図2は、図1の連壁20と貯槽本体30の側壁32との接合面の拡大断面図である。
図2に示すように、連壁20と貯槽本体30の側壁32との間に作用するせん断力(=つまり鉛直方向に作用する荷重)を伝達するせん断伝達構造1として、連壁20と貯槽本体30の側壁32との両接合面が、互いに噛み合うような凹凸形状を有している。これにより、例えば、貯槽本体30に浮き上がり荷重等が作用し、側壁32が連壁20に対してせん断方向に移動(つまり鉛直方向に相対移動)する場合、両接合面同士が互いに離間するように移動することになる。そして、両接合面が離間すると、側壁32及び連壁20は円筒構造を有していることから、側壁32には縮径するような圧縮方向の軸荷重が作用し、一方、連壁20には拡径するような引張方向の軸荷重が作用し、また、地盤40には連壁20の拡径にともなって連壁20の接面から押されて圧縮荷重が作用することになり、これら荷重に対する離間を離間前の状態に戻そうとする反力が生じ、この反力に応じて接合面間の摩擦力(=せん断伝達耐力)も増加して、両接合面間にせん断力が確実に伝達されるようになっている。
このようなせん断伝達構造1を有するLNG地下タンク10は、次のようにして構築する。
【0021】
図3は、せん断伝達構造1を有するLNG地下タンク10の構築手順を示す工程図である。
図3に示すように、LNG地下タンク10の構築手順は、目荒らし35が形成された連壁20を構築する連壁構築工程S1と、貯槽本体30の側壁32が連壁20の目荒らし35の表面に接合するように、貯槽本体30のコンクリート38を打設する貯槽本体コンクリート打設工程S2と、打設したコンクリート38を養生するコンクリート養生工程S3とを備える。
【0022】
連壁構築工程S1では、先ず地盤40に連壁20を構築する。連壁20の構築は、一般的な公知の施工方法を用いて行うことができる。そして連壁20が充分に養生されて硬化した後に、連壁20の内側(貯槽本体30が構築される側)の表面に、目荒らし35を形成するべくチッピング加工を施す。チッピング加工は、例えば、建機に削岩用のアタッチメントとしてシー・エイ・イー株式会社から販売されるスパイキーハンマー等を用いることにより簡単に施工することができる。ここで、チッピング加工を行うにあたり、目荒らし35の凹凸が所定の高低差となるように形成する。なお、この凹凸の高低差の詳細な設計については後述する。
【0023】
貯槽本体コンクリート打設工程S2では、連壁構築工程S1で構築された連壁20表面の目荒らし35に接するように、貯槽本体30の側壁32となるコンクリート38を打設する。
【0024】
コンクリート養生工程S3では、貯槽本体コンクリート打設工程S2で打設された、貯槽本体30の側壁32を構成するコンクリート38を充分に養生して硬化させる。
【0025】
これら工程S1〜S3を行うことにより、目荒らし35が形成された連壁20が型枠となって、貯槽本体30の側壁32のコンクリート38が打設及び養生され、連壁20と側壁32との両接合面に互いに噛み合うような波状の凹凸が構築されることになる。
【0026】
ただし、実際には、連壁20と側壁32との間に浸入する地下水の水圧等によって、連壁20と側壁32との間にせん断力が作用しなくても、連壁20と側壁32との間に隙間が生じる。これについては、後述の凹凸の高低差の設計と合わせて具体的に説明する。
【0027】
次に、貯槽本体30に作用する浮き上がり力について具体的数値を用いて説明する。
図4は、LNG地下タンク10に最大の浮き上がり力が作用するときに、側壁32と連壁20との間に作用する鉛直方向の荷重(以下、作用荷重Wという)を求めるための説明図であり、図5は、LNG地下タンク10の具体的な寸法を示す断面図である。なお、LNG地下タンク10内にはLNGが貯留されてないときを想定している。
【0028】
作用荷重Wは、図4に示す貯槽本体重量Wtu、揚圧力WU、及び地震時の増加荷重Weを用いて次式(1)により求められる。
W=-Wtu+WU+We ・・(1)
貯槽本体重量Wtuは、例えば、次式(2)のように側壁32の側壁重量Wt1と、底版36の底版重量Wt2と、その他屋根部分等の付帯重量Wt3との和から求められる。
Wtu=Wt1+Wt2+Wt3 ・・(2)
さらに、側壁重量Wt1は、次式(3)のように、側壁32の厚みが一定な一般部33の重量Ws1と、側壁32の下部の厚みが下方に移行するにつれて内側に肉厚になる側壁下端ハンチ部34の重量Ws2との和により求められる。
Wt1=Ws1+Ws2 ・・(3)
例えば、図5に示すような貯槽本体30の寸法の場合には、コンクリートの単位体積重量を24.0kN/m3とすると、一般部33の重量Ws1は、
Ws1=(38.4142-36.0142)×π×(15.800+25.158)×24.0+π×1.20
×{38.4142-(36.0142+36.014×37.214+37.2142)/3}×24.0
=563.84×103kN ・・(4)
となり、側壁下端ハンチ部34の重量Ws2は、
Ws2=π×3.00×{36.0142-(33.0142+33.014×36.014+36.0142)/3}×24.0
=23.76×103kN ・・(5)
となるので、側壁重量Wt1は、
Wt1=563.84×103+23.76×103=587.60×103kN ・・(6)
となる。
【0029】
また、底版重量Wt2は、
Wt2=38.4142×π×6.4×24.0=712.07×103kN ・・(7)
となる。
【0030】
また、付帯重量Wt3は、仮設鋼製屋根、吊デッキ、リングプレート、バレル・ノズル、ステージ、内部足場、メンブレン、保冷パネル等の付帯部材37による重量であり、図5に示すLNG地下タンク10の場合には1698ton程度になるので、重力加速度を乗じて、
Wt3=1698ton×9.80665=16.65×103kN ・・(8)
となる。
したがって、WtuはこれらWt1,Wt2,Wt3の和により、
Wtu=587.60×103+712.07×103+16.65×103=1316.32×103kN ・・(9)
となる。
【0031】
揚圧力WUとしては、例えば、地盤40中の地下水の高水位時(地下水位DL+3.300m)に底版36下に作用する浮力を求める。揚圧力WUは次式(10)で求められ、
WU=ρw×g×π×r2×h ・・(10)
具体的に図5の寸法を代入すると
WU =1.00×9.80665×π×38.4142×(3.3+31.558)=1584.72×103kN
となる。ここで、ρwは水の密度、gは重力加速度、rはタンク中心から側壁32の外側面までの距離、hは地下水位から底版36下端までの深さである。
【0032】
地震時の増加荷重Weは、地震時に鉛直上向方向に作用する慣性力であり、次式(11)のように、LNG地下タンク10の各部分(側壁32、底版36、付帯部材37)により設定される鉛直方向の設計震度(KV1〜3)について、各部分の重量(側壁重量Wt1、底版重量Wt2、付帯重量Wt3)との積を足し合わせることにより求められ、
We=KV1×Wt1+KV2×Wt2+KV3×Wt3 ・・(11)
具体的に図5に示すLNG地下タンク10の場合では、
We=0.119×587.60×103+0.082×712.07×103+0.150×16.65×103=130.81×103 kN
となる。
【0033】
以上により、作用荷重Wは上向きを正として、式(1)により以下のように算定される。
W=-Wtu+WU+We ・・(1)
=−1316.32×103+1584.72×103+130.81×103=399.21×103 kN
したがって、設計せん断力Wdは、荷重係数を1.1として考慮すると、
Wd=1.1×W=439.13×103kN ・・(12)
となる。
このようにして求められた設計せん断力Wdに対抗する、連壁20と側壁32との両接合面の摩擦力(=せん断伝達耐力)は以下のようにして求められる。
【0034】
図2に示すように、貯槽本体30に浮き上がり荷重Sが作用し、側壁32が連壁20に対してせん断方向(つまり鉛直方向に相対移動)に移動するのに伴って、両接合面同士が互いに離間する距離(以下、離れ量という)をδとする。そして、この離れ量δに応じて側壁32、連壁20、及び地盤40に生じる圧縮力をσndとすると、せん断伝達耐力Vcwdは、次式(13)に示すように、圧縮力σndに対する反力-σndに摩擦係数μを乗じたものとして求められる。
Vcwd=μ×(-σnd) ・・(13)
図6は、LNG地下タンク10の側壁32及び連壁20を2重円環として表したLNG地下タンクモデルの横断面図である。
【0035】
図6に示すように、Rは2重円環の中心から側壁32と連壁20との境界までの半径、PWは境界から側壁32側に作用する内圧、PSは境界から連壁20側に作用する外圧、Ec,wは側壁32のヤング率、Ec,wは連壁20のヤング率、twは側壁厚、tsは連壁厚を示している。また、連壁20が構築される地盤40をバネとして仮定し、kgバネ係数である。
【0036】
ここで、側壁32と連壁20との離れ量δは、次式(14)のように、側壁32の貯槽本体30内側への変位量δwと、連壁20の外側への変位量δsとの和として求められる。
δ=δw+δs ・・(14)
ここで円環がδwだけ内側へ変位するとき側壁32に内圧PWが作用する。このとき側壁32の円周方向に作用する軸力Nθ,wは、次式(15)のように表される。
Nθ,w=PW・RW・・(15)
なお、Rwは側壁32の半径である。
【0037】
ここで、Nθ,wは、側壁円周方向歪εθ,wを用いて次式(16)のようにも表され、
Nθ,w=εθ,w×Ec,w×tw ・・(16)
側壁円周方向歪εθ,wは、次式(17)のように表されるので、
式(15)及び式(16)は、次式(18)のように整理される。
一方、円環がδsだけ外側へ変位するためには、連壁20には、外圧PSから地盤40からの反力kgδsを差引いた力(PS-kgδs)が作用するので、式(15)〜(18)と同様に、連壁円周方向に作用する軸力Nθ,sは、次式(19)のように表される。
ここで、PwとPsとは作用・反作用の関係にあるのでPw=Psであり、またRw≒Rs=Rとすると、式(18)と式(19)は次式(20)のように整理される。
また、式(20)からPw・Rを消去して整理すると、δwは次式(21)のように表される。
ここで、具体的に図5のLNG地下タンク10のケースをあてはめ、DL-12.772m以浅又は以深によってヤング率がE1c,w又はE2c,wに変化すると仮定すると、これらの深度域に対応する側壁32の内側への変位量δw1又はδw2は、次式(22)及び(23)のように計算される。
ただし、上記計算には、E1c,w=28kN/mm2(DL-12.772m以浅)、E2c,w=31kN/mm2(DL-12.772m以深)、tw=2400mm、Ec,s=33kN/mm2、ts=1000mm、Kg =0.0050N/mm2、R=38414mmを用いた。
【0038】
また、式(20)により、深度による境界から側壁32側に作用する内圧Pw1及びPw2は、次式(24)及び(25)のように求められる。
したがって、式(22)及び式(23)を式(24)及び式(25)に代入することにより、内圧Pw1及びPw2、外圧Ps1及びPs2は、次式(26)及び(27)のように整理される。
Pw1=Ps1=0.045×0.375δ=0.017δ (DL-12.772以浅) ・・(26)
Pw2=Ps2=0.050×0.352δ=0.018δ (DL-12.772以深) ・・(27)
一方、図3で説明したように、LNG地下タンク10構築後に、側壁32と連壁20との間にせん断力が作用しない場合でも、連壁20と側壁32との間には隙間が生じる。これは、貯槽本体30内のLNGからの冷熱によって側壁32及び連壁20が収縮したり、貯槽本体30及び連壁20に地下水圧の作用したりすることによる。
【0039】
図7は、LNGからの冷熱による側壁32及び連壁20の変位を示すグラフである。
図7に示す側壁32の変位は、躯体の構造解析から得られる温度荷重により求めている。また、連壁20の変位は、躯体の温度解析により得られた連壁20の平均温度T=-12.29℃、地盤40の初期温度To=16.6℃、コンクリートの線膨張係数α=1.0×10-5、連壁20の半径R=38414mmとして、次式(28)により変位δを算定している。
δ=R×α×(T−T0)=38414×1.0×10-5×(−12.29−16.6)=−11.1mm ・・(28)
図8は、水圧及び揚圧力による側壁32の変位を示すグラフである。
図8に示す側壁32の変位は、躯体の構造解析から得られる水圧及び揚圧力により求めている。
【0040】
図9は、水圧による連壁20の変位を示すグラフである。
図9に示すように連壁20は、側壁32と連壁20との間に浸入する水の圧力により外側に変位する。これは、式(22)及び(23)と、式(26)及び(27)とにより、次式(29)及び(30)のように、深度による境界から連壁20側に作用する外圧Ps1及びPs2による連壁20の変位δs1及びδs2が求められる。
δs1=(1−0.375)δ=0.625δ=0.625/0.017×Ps1(DL−12.772以浅) ・・(29)
δs2=(1−0.352)δ=0.648δ=0.648/0.018×Ps2(DL−12.772以深) ・・(30)
そして、図10は、側壁32及び連壁20について、これら温度、水圧及び揚圧力による合計変位量を示したグラフであり、図11は、図10の側壁32と連壁20との変位差を示すグラフである。
図10及び図11に示すように、側壁32と連壁20との変位の差、すなわち隙間(2〜14mm)は下方に推移するほど大きくなり、その平均は10.8mmである。
【0041】
すなわち、以上のような隙間が生じる場合、連壁20の表面にチッピング加工により目高低差15mmの目荒らし35を形成しても、当初側壁32と連壁20との噛み合わせが15mmであったものが、平均4.2mm(=15mm-10.8mm)程度になる。
【0042】
そこで、噛み合わせが4.2mmである場合におけるせん断伝達耐力を求める。すなわち、側壁32と連壁20との両接合面同士が、鉛直方向に相対移動して両接合面の一方の凸部の頂部が他方の凸部の頂部に乗り上げることにより、接合面間の離間が4.2mmになったとき(=噛み合わせがゼロとなったとき)の両接面間に生じる摩擦力を求める。
【0043】
噛み合わせが4.2mmである場合、側壁32と連壁20とが、両接合面に形成された凹凸を乗り越えるために必要な内圧Pw及び外圧Psは、δ=4.2mmを式(26)及び式(27)に代入することにより、
Pw1=Ps1=0.0714 N/mm2 ・・(31)
Pw2=Ps2=0.0756 N/mm2 ・・(32)
となる。
【0044】
ただし、「コンクリート標準示方書 6.3.7設計せん断伝達力」に準拠して、σndが圧縮の場合、安全側になることを考慮したσnd=-σnd/2を用いることとする。したがって、次式(33)及び(34)の圧縮力を、せん断面に垂直に作用する平均応力度として、せん断伝達耐力Vcwdの式中で取り扱うとする。
―σnd1=Pw1/2=Ps1/2=0.0357N/mm2 ・・(33)
―σnd1=Pw2/2=Ps2/2=0.0378N/mm2 ・・(34)
せん断伝達耐力Vcwdの基本式は次式(35)のように表される。
Vcwd=|(τc+p・τs・sin2θ−α・p・fyd ・sinθ・cosθ)・Ac+Vk|/γb ・・(35)
ただし、本実施形態では、側壁32と連壁20との間のせん断面に鉄筋がないこと、及びせん断キーがないことより、式(35)は、次式(36)のように整理される。
Vcwd=τc・Ac/γb、ただし、τc=μ・f’cdb(−σnd)1−b ・・(36)
ここで、μは固体接触に関する平均摩擦係数、Acはせん断面の面積、γbは部材係数、bは面形状を表す係数である。
【0045】
具体的に上記式(36)に図5に示すLNG地下タンク10の具体的寸法を以下のように代入すると、
h1:側壁高さ(DL+4.000〜−12.772m):16.772m ・・(37)
h2:側壁高さ(DL−12.772〜−28.358m):15.586m ・・(38)
Ac1=2×R×π×h1=2×38.414×π×16.772=4048m2 ・・(39)
Ac2=2×R×π×h2=2×38.414×π×15.586=3761m2 ・・(40)
γb=1.3 ・・(41)
f’cd=f’ck/γc=30/1.3=23.1N/mm2(DL−12.772m以浅) ・・(42)
f’cd=f’ck/γc=40/1.3=30.8N/mm2(DL−12.772m以深) ・・(43)
σnd:せん断面に垂直に作用する平均応力度 ・・(44)
せん断伝達力Vcwdは、
Vcwd1=τc・Ac1/γb=0.45×(23.1)1/2×(0.0357)1/2×4048×106/1.3≒1,272,000kN ・・(45)
Vcwd2=τc・Ac2/γb=0.45×(30.8)1/2×(0.0378)1/2×3761×106/1.3≒1,405,000kN ・・(46)
により、
Vcwd=Vcwd1+Vcwd2=1272000+1405000=2677000kN ・・(47)
と算定される。
【0046】
すなわち、このせん断伝達力Vcwd(2677000kN)は、先に式(12)で求めたLNG地下タンク10の貯槽本体30の側壁32と連壁20との間に最もせん断力が大きく作用するときの設計せん断力Wd(439.13×103kN)よりも充分大きい。これにより、当初側壁32と連壁20との噛み合わせが15mmであったものが、平均4.2mm(=15mm-10.6mm)程度になった場合においても、側壁32と連壁20との接合面が互いにその表面に形成された凹凸を乗り越えることなく、せん断力を伝達することができる。
【0047】
なお、本実施形態では、上述のように連壁20の表面に形成する目荒らし35の高低差を先に設定して、その高低差から連壁20と側壁32との間に生じる隙間から両接面間の実質的な噛み合わせ量を求め、そして噛み合わせ量に基づいたせん断伝達力Vcwdを求めることにより、その高低差がせん断力を伝達するのに妥当であるか否かを評価したが、これに限らず、想定される設計せん断力Wdに基づいて、それに必要なせん断伝達力Vcwdを計算し、そのせん断伝達力Vcwdに基づいた噛み合わせ量を設定するとともに、連壁20と側壁32との間に生じる隙間を勘案することにより目荒らし35の高低差を求めてもよい。
【0048】
具体的には、式(26)及び(27)までの内圧PW1及びPW2、外圧Ps1及びPs2を求めるところまでは、上述のとおりである。
【0049】
ここで目荒らし35の高低差を求めるにあたっては、「コンクリート標準示方書 6.3.7設計せん断伝達耐力」により、σndが圧縮の場合、安全側となることを考慮してσnd=-σnd/2を用いる事として、式(26)及び(27)を次式(48)及び(49)のように変換する。
−σnd1=−0.0085δ N/mm2 ・・(48)
−σnd2=−0.0090δ N/mm2 ・・(49)
これらの式を、式(36)中の−σndとして取り扱うことにより、式(37)〜(44)で用いた具体的寸法を代入すると、せん断伝達力Vcwdは、
Vcwd1=τc・Ac1/γb
=0.45×(23.1)1/2×(0.0085δ)1/2×4048×106/1.3≒620900×δ1/2kN ・・(50)
Vcwd2=τc・Ac2/γb
=0.45×(30.8)1/2×(0.0090δ)1/2×3761×106/1.3≒685400×δ1/2kN ・・(51)
により、
Vcwd=Vcwd1+Vcwd2
=620900×δ1/2+685400×δ1/2=1306000×δ1/2kN ・・(52)
と算定される。
【0050】
そして、先に求めたLNG地下タンク10の貯槽本体30の側壁32から連壁20に最もせん断力が大きく作用するときの設計せん断力Wd(439.13×103kN)に基づき、せん断伝達のために必要な噛み合わせ量を、次式(53)のようにして求める。
1306000×δ1/2 ≧439130
δ≧0.113mm ・・(53)
なお、側壁32と連壁20の間の離れ量は、上述したように、その接合面の下方に移行するほど大きくなり、2mm〜14mmとなる。したがって、構築時に形成する側壁32と連壁20との接合面の高低差は、最大14mmの離れ量が生じることを想定して次式(54)のように算定される。
δ0=0.113+14.0 ≒15.0 (mm) ・・(54)
以上、本実施形態に係るLNG地下タンク10のせん断伝達構造1によれば、連壁構築工程S1と、貯槽本体コンクリート打設工程S2と、コンクリート養生工程S3により、貯槽本体30に作用する浮き上がり荷重等の鉛直方向の荷重を連壁20に伝達可能な構造を簡単に構築することができる。
【0051】
また、連壁20と貯槽本体30の側壁32との両接合面が、互いに噛み合うような凹凸形状を有していることにより、例えば、貯槽本体30に浮き上がり荷重等が作用し、側壁32が連壁20に対してせん断方向に移動(つまり鉛直方向に相対移動)する場合、両接合面同士が互いに離間するように移動することになる。そして、両接合面が離間すると、側壁32、連壁20及び地盤40に荷重が作用することになり、これら荷重に対する離間を離間前の状態に戻そうとする反力が生じ、この反力に応じて接合面間の摩擦力(=せん断伝達耐力)も増加するので、両接合面間でせん断力を確実に伝達することができる。
【0052】
また、両接合面の凹凸形状は、両接合面同士が鉛直方向に相対移動して両接合面の一方の凸部の頂部が他方の凸部の頂部に乗り上げることにより、接合面が離間することに応じて側壁32、連壁20、及び地盤40に夫々作用する荷重と、両接合面間の摩擦係数μとに基づいて求められた摩擦力(=せん断伝達耐力Vcwd)が、側壁32に作用する鉛直方向の荷重Sよりも大きくなるように形成されていることにより、側壁32に作用する鉛直方向の荷重に対して側壁32と連壁20との接合面が滑ることなく、かかる荷重を貯槽本体30から連壁20に確実に伝達させる凹凸形状を、施工上効率良く形成することができる。
【0053】
なお、本実施形態の貯槽本体30と連壁20との両接合面は波型に形成されるとしたが、これに限らず、ノコギリ状、又は略台形状であってもよい。すなわち、両接合面の凹凸形状が、側壁32が連壁20に対してせん断方向に微小移動するときに、接合面間が離間するような形状であればよい。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本実施形態に係るLNG地下タンクの縦断面図である。
【図2】図1の連壁と貯槽本体の側壁との接合面の拡大断面図である。
【図3】LNG地下タンク10の構築手順を示す工程図である。
【図4】LNG地下タンク10に最大の浮き上がり力が作用するときに、側壁32と連壁20との間に作用する鉛直方向の荷重を求めるための説明図である。
【図5】LNG地下タンク10の具体的な寸法を示す断面図である。
【図6】LNG地下タンク10の側壁及び連壁を2重円環として表したLNG地下タンクモデルの横断面図である。
【図7】LNGからの冷熱による側壁及び連壁の変位を示すグラフである。
【図8】水圧及び揚圧力による側壁の変位を示すグラフである。
【図9】水圧による連壁の変位を示すグラフである。
【図10】側壁及び連壁について、これら温度、水圧及び揚圧力による合計変位量を示したグラフである。
【図11】図10の側壁と連壁との変位差を示すグラフである。
【符号の説明】
【0055】
10 LNG地下タンク
20 地中連続壁(連壁)
30 貯槽本体
32 側壁
33 一般部
34 側壁下端ハンチ部
35 目荒らし
36 底版
37 付帯部材
38 コンクリート
40 地盤
S1 連壁構築工程
S2 貯槽本体コンクリート打設工程
S3 コンクリート養生工程
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中壁と、地中壁と接合して構築されるコンクリート構造物との間に作用するせん断力を伝達するせん断伝達構造、それを備えるコンクリート構造物、そのせん断伝達構造の構築方法、及びそのせん断伝達構造の設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、LNG地下タンクの底面に作用する土圧や水圧等によるタンクの浮き上がりを防止するために、LNG地下タンクの外周に構築される地中壁とタンクの側壁との接合面間に接合鉄筋を設けたり、例えば特許文献1又は2に記載されるようなせん断力を伝達させる構造を構築することにより、タンクの浮き上がり荷重を地中壁に伝達させて、地中壁の自重及び引き抜き抵抗により抵抗させる技術が提案されている。
【0003】
具体的には、特許文献1には、地下連続壁の頂部に内側方向に突出するような突出部と、地下タンクの側壁に当該突出部と係合するような段差部とを設けたせん断伝達構造が開示されている。また、特許文献2には、地下タンクの外周を形成する地下連続壁が深度方向に向けて広がる形状を有するせん断伝達構造が開示されている。
【特許文献1】特開2003−41608号公報
【特許文献2】特開平7−229321号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、接合鉄筋を設ける場合には、鉄筋の材料コストが増大するだけでなく、地中壁やコンクリート構造物の施工時にコンクリートの充填が不十分になるおそれがある。また施工に手間がかかる。
【0005】
また、特許文献1及び2に開示されるせん断伝達構造は構造が複雑であるため、やはり、施工に手間がかかるうえ、施工にあたって高度な技術が要求されるという問題もある。
【0006】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、簡易な構成で、地中壁と、地中壁と接合して構築されるコンクリート構造物との間にせん断力を伝達できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明は、地中壁と、前記地中壁と接合して構築されるコンクリート構造物との間に作用するせん断力を伝達するせん断伝達構造であって、
前記コンクリート構造物と前記地中壁との両接合面が、互いに噛み合うような凹凸形状を有することを特徴とする(第1の発明)。
【0008】
本発明のせん断伝達構造によれば、接合鉄筋や特許文献1及び2に記載されるせん断伝達構造のように施工に手間や高度な技術を必要とすることなく簡易に構築でき、コンクリート構造物に作用する浮き上がり荷重等の鉛直方向の荷重を地中壁に伝達することができる。
【0009】
第2の発明は、第1の発明において、前記両接合面の凹凸形状は、前記コンクリート構造物が前記地中壁に対して鉛直方向に相対移動すると、前記両接合面間が離間するような形状であることを特徴とする。
【0010】
本発明のせん断伝達構造によれば、例えば、コンクリート構造物に鉛直方向の荷重が作用して微小移動した場合に、コンクリート構造物と地中壁との両接合面が離間するので、この離間にともなって、両接合面間に離間を離間前の状態に戻そうとする反力が生じ、この反力に応じて接合面間の摩擦力(=せん断伝達耐力)も増加するので、両接合面間で鉛直方向の荷重を効果に伝達することができる。
【0011】
第3の発明は、第2発明において、前記凹凸形状は、波状、ノコギリ状、又は略台形状であることを特徴とする。
【0012】
第4の発明は、第2又は3の発明において、前記両接合面の凹凸形状は、前記両接合面同士が鉛直方向に相対移動して前記両接合面の一方の凸部の頂部が他方の凸部の頂部に乗り上げることにより、前記接合面が離間することに応じて前記コンクリート構造物及び前記地中壁に作用する荷重と、前記両接合面間の摩擦係数とに基づいて求められた摩擦力が、前記コンクリート構造物に作用する鉛直方向の荷重よりも大きくなるように形成されていることを特徴とする。
【0013】
本発明のせん断伝達構造によれば、コンクリート構造物に作用する鉛直方向の荷重に対してコンクリート構造物と地中壁との接合面が滑ることなく、かかる荷重をコンクリート構造物から地中壁に確実に伝達させる凹凸形状を、施工上効率良く形成することができる。
【0014】
第5の発明は、表面に凹凸形状を有する地中壁と接合して構築されるコンクリート構造物であって、前記地中壁と接合する接合面に、前記地中壁の凹凸形状と噛み合うような凹凸形状を有することを特徴とする。
【0015】
第6の発明は、第5の発明において、LNG地下タンクに適用されたことを特徴とする。
【0016】
第7の発明は、地中壁と、前記地中壁と接合して構築されるコンクリート構造物との間に作用するせん断力を伝達するせん断伝達構造の構築方法であって、その表面に凹凸形状を有する地中壁を構築し、前記地中壁の凹凸形状の表面に接触するように、コンクリートを打設し、前記打設したコンクリートを養生することを特徴とする。
【0017】
第8の発明は、第1〜4の何れかの発明に記載のせん断伝達構造の設計方法であって、前記両接合面の摩擦力を、前記両接合面同士が鉛直方向に相対移動して前記両接合面の一方の凸部の頂部が他方の凸部の頂部に乗り上げることにより、前記接合面が離間することに応じて前記コンクリート構造物及び前記地中壁に作用する荷重と、前記両接合面間の摩擦係数とに基づいて求め、前記両接合面の凹凸形状を、前記摩擦力が、前記コンクリート構造物に作用する鉛直方向の荷重よりも大きくなるように設定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、簡易な構成で、地中壁と、地中壁と接合して構築されるコンクリート構造物との間にせん断力を伝達することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の好ましい一実施形態について図面に基づき詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係るLNG地下タンク10の縦断面図である。
図1に示すように、LNG地下タンク10は、地盤40中に構築され、仮設の土留めや止水壁の役割をする地中連続壁20(以下、連壁20という)と、連壁20に接合して構築される貯槽本体30とからなる二重の円筒シェル構造を有している。
【0020】
図2は、図1の連壁20と貯槽本体30の側壁32との接合面の拡大断面図である。
図2に示すように、連壁20と貯槽本体30の側壁32との間に作用するせん断力(=つまり鉛直方向に作用する荷重)を伝達するせん断伝達構造1として、連壁20と貯槽本体30の側壁32との両接合面が、互いに噛み合うような凹凸形状を有している。これにより、例えば、貯槽本体30に浮き上がり荷重等が作用し、側壁32が連壁20に対してせん断方向に移動(つまり鉛直方向に相対移動)する場合、両接合面同士が互いに離間するように移動することになる。そして、両接合面が離間すると、側壁32及び連壁20は円筒構造を有していることから、側壁32には縮径するような圧縮方向の軸荷重が作用し、一方、連壁20には拡径するような引張方向の軸荷重が作用し、また、地盤40には連壁20の拡径にともなって連壁20の接面から押されて圧縮荷重が作用することになり、これら荷重に対する離間を離間前の状態に戻そうとする反力が生じ、この反力に応じて接合面間の摩擦力(=せん断伝達耐力)も増加して、両接合面間にせん断力が確実に伝達されるようになっている。
このようなせん断伝達構造1を有するLNG地下タンク10は、次のようにして構築する。
【0021】
図3は、せん断伝達構造1を有するLNG地下タンク10の構築手順を示す工程図である。
図3に示すように、LNG地下タンク10の構築手順は、目荒らし35が形成された連壁20を構築する連壁構築工程S1と、貯槽本体30の側壁32が連壁20の目荒らし35の表面に接合するように、貯槽本体30のコンクリート38を打設する貯槽本体コンクリート打設工程S2と、打設したコンクリート38を養生するコンクリート養生工程S3とを備える。
【0022】
連壁構築工程S1では、先ず地盤40に連壁20を構築する。連壁20の構築は、一般的な公知の施工方法を用いて行うことができる。そして連壁20が充分に養生されて硬化した後に、連壁20の内側(貯槽本体30が構築される側)の表面に、目荒らし35を形成するべくチッピング加工を施す。チッピング加工は、例えば、建機に削岩用のアタッチメントとしてシー・エイ・イー株式会社から販売されるスパイキーハンマー等を用いることにより簡単に施工することができる。ここで、チッピング加工を行うにあたり、目荒らし35の凹凸が所定の高低差となるように形成する。なお、この凹凸の高低差の詳細な設計については後述する。
【0023】
貯槽本体コンクリート打設工程S2では、連壁構築工程S1で構築された連壁20表面の目荒らし35に接するように、貯槽本体30の側壁32となるコンクリート38を打設する。
【0024】
コンクリート養生工程S3では、貯槽本体コンクリート打設工程S2で打設された、貯槽本体30の側壁32を構成するコンクリート38を充分に養生して硬化させる。
【0025】
これら工程S1〜S3を行うことにより、目荒らし35が形成された連壁20が型枠となって、貯槽本体30の側壁32のコンクリート38が打設及び養生され、連壁20と側壁32との両接合面に互いに噛み合うような波状の凹凸が構築されることになる。
【0026】
ただし、実際には、連壁20と側壁32との間に浸入する地下水の水圧等によって、連壁20と側壁32との間にせん断力が作用しなくても、連壁20と側壁32との間に隙間が生じる。これについては、後述の凹凸の高低差の設計と合わせて具体的に説明する。
【0027】
次に、貯槽本体30に作用する浮き上がり力について具体的数値を用いて説明する。
図4は、LNG地下タンク10に最大の浮き上がり力が作用するときに、側壁32と連壁20との間に作用する鉛直方向の荷重(以下、作用荷重Wという)を求めるための説明図であり、図5は、LNG地下タンク10の具体的な寸法を示す断面図である。なお、LNG地下タンク10内にはLNGが貯留されてないときを想定している。
【0028】
作用荷重Wは、図4に示す貯槽本体重量Wtu、揚圧力WU、及び地震時の増加荷重Weを用いて次式(1)により求められる。
W=-Wtu+WU+We ・・(1)
貯槽本体重量Wtuは、例えば、次式(2)のように側壁32の側壁重量Wt1と、底版36の底版重量Wt2と、その他屋根部分等の付帯重量Wt3との和から求められる。
Wtu=Wt1+Wt2+Wt3 ・・(2)
さらに、側壁重量Wt1は、次式(3)のように、側壁32の厚みが一定な一般部33の重量Ws1と、側壁32の下部の厚みが下方に移行するにつれて内側に肉厚になる側壁下端ハンチ部34の重量Ws2との和により求められる。
Wt1=Ws1+Ws2 ・・(3)
例えば、図5に示すような貯槽本体30の寸法の場合には、コンクリートの単位体積重量を24.0kN/m3とすると、一般部33の重量Ws1は、
Ws1=(38.4142-36.0142)×π×(15.800+25.158)×24.0+π×1.20
×{38.4142-(36.0142+36.014×37.214+37.2142)/3}×24.0
=563.84×103kN ・・(4)
となり、側壁下端ハンチ部34の重量Ws2は、
Ws2=π×3.00×{36.0142-(33.0142+33.014×36.014+36.0142)/3}×24.0
=23.76×103kN ・・(5)
となるので、側壁重量Wt1は、
Wt1=563.84×103+23.76×103=587.60×103kN ・・(6)
となる。
【0029】
また、底版重量Wt2は、
Wt2=38.4142×π×6.4×24.0=712.07×103kN ・・(7)
となる。
【0030】
また、付帯重量Wt3は、仮設鋼製屋根、吊デッキ、リングプレート、バレル・ノズル、ステージ、内部足場、メンブレン、保冷パネル等の付帯部材37による重量であり、図5に示すLNG地下タンク10の場合には1698ton程度になるので、重力加速度を乗じて、
Wt3=1698ton×9.80665=16.65×103kN ・・(8)
となる。
したがって、WtuはこれらWt1,Wt2,Wt3の和により、
Wtu=587.60×103+712.07×103+16.65×103=1316.32×103kN ・・(9)
となる。
【0031】
揚圧力WUとしては、例えば、地盤40中の地下水の高水位時(地下水位DL+3.300m)に底版36下に作用する浮力を求める。揚圧力WUは次式(10)で求められ、
WU=ρw×g×π×r2×h ・・(10)
具体的に図5の寸法を代入すると
WU =1.00×9.80665×π×38.4142×(3.3+31.558)=1584.72×103kN
となる。ここで、ρwは水の密度、gは重力加速度、rはタンク中心から側壁32の外側面までの距離、hは地下水位から底版36下端までの深さである。
【0032】
地震時の増加荷重Weは、地震時に鉛直上向方向に作用する慣性力であり、次式(11)のように、LNG地下タンク10の各部分(側壁32、底版36、付帯部材37)により設定される鉛直方向の設計震度(KV1〜3)について、各部分の重量(側壁重量Wt1、底版重量Wt2、付帯重量Wt3)との積を足し合わせることにより求められ、
We=KV1×Wt1+KV2×Wt2+KV3×Wt3 ・・(11)
具体的に図5に示すLNG地下タンク10の場合では、
We=0.119×587.60×103+0.082×712.07×103+0.150×16.65×103=130.81×103 kN
となる。
【0033】
以上により、作用荷重Wは上向きを正として、式(1)により以下のように算定される。
W=-Wtu+WU+We ・・(1)
=−1316.32×103+1584.72×103+130.81×103=399.21×103 kN
したがって、設計せん断力Wdは、荷重係数を1.1として考慮すると、
Wd=1.1×W=439.13×103kN ・・(12)
となる。
このようにして求められた設計せん断力Wdに対抗する、連壁20と側壁32との両接合面の摩擦力(=せん断伝達耐力)は以下のようにして求められる。
【0034】
図2に示すように、貯槽本体30に浮き上がり荷重Sが作用し、側壁32が連壁20に対してせん断方向(つまり鉛直方向に相対移動)に移動するのに伴って、両接合面同士が互いに離間する距離(以下、離れ量という)をδとする。そして、この離れ量δに応じて側壁32、連壁20、及び地盤40に生じる圧縮力をσndとすると、せん断伝達耐力Vcwdは、次式(13)に示すように、圧縮力σndに対する反力-σndに摩擦係数μを乗じたものとして求められる。
Vcwd=μ×(-σnd) ・・(13)
図6は、LNG地下タンク10の側壁32及び連壁20を2重円環として表したLNG地下タンクモデルの横断面図である。
【0035】
図6に示すように、Rは2重円環の中心から側壁32と連壁20との境界までの半径、PWは境界から側壁32側に作用する内圧、PSは境界から連壁20側に作用する外圧、Ec,wは側壁32のヤング率、Ec,wは連壁20のヤング率、twは側壁厚、tsは連壁厚を示している。また、連壁20が構築される地盤40をバネとして仮定し、kgバネ係数である。
【0036】
ここで、側壁32と連壁20との離れ量δは、次式(14)のように、側壁32の貯槽本体30内側への変位量δwと、連壁20の外側への変位量δsとの和として求められる。
δ=δw+δs ・・(14)
ここで円環がδwだけ内側へ変位するとき側壁32に内圧PWが作用する。このとき側壁32の円周方向に作用する軸力Nθ,wは、次式(15)のように表される。
Nθ,w=PW・RW・・(15)
なお、Rwは側壁32の半径である。
【0037】
ここで、Nθ,wは、側壁円周方向歪εθ,wを用いて次式(16)のようにも表され、
Nθ,w=εθ,w×Ec,w×tw ・・(16)
側壁円周方向歪εθ,wは、次式(17)のように表されるので、
式(15)及び式(16)は、次式(18)のように整理される。
一方、円環がδsだけ外側へ変位するためには、連壁20には、外圧PSから地盤40からの反力kgδsを差引いた力(PS-kgδs)が作用するので、式(15)〜(18)と同様に、連壁円周方向に作用する軸力Nθ,sは、次式(19)のように表される。
ここで、PwとPsとは作用・反作用の関係にあるのでPw=Psであり、またRw≒Rs=Rとすると、式(18)と式(19)は次式(20)のように整理される。
また、式(20)からPw・Rを消去して整理すると、δwは次式(21)のように表される。
ここで、具体的に図5のLNG地下タンク10のケースをあてはめ、DL-12.772m以浅又は以深によってヤング率がE1c,w又はE2c,wに変化すると仮定すると、これらの深度域に対応する側壁32の内側への変位量δw1又はδw2は、次式(22)及び(23)のように計算される。
ただし、上記計算には、E1c,w=28kN/mm2(DL-12.772m以浅)、E2c,w=31kN/mm2(DL-12.772m以深)、tw=2400mm、Ec,s=33kN/mm2、ts=1000mm、Kg =0.0050N/mm2、R=38414mmを用いた。
【0038】
また、式(20)により、深度による境界から側壁32側に作用する内圧Pw1及びPw2は、次式(24)及び(25)のように求められる。
したがって、式(22)及び式(23)を式(24)及び式(25)に代入することにより、内圧Pw1及びPw2、外圧Ps1及びPs2は、次式(26)及び(27)のように整理される。
Pw1=Ps1=0.045×0.375δ=0.017δ (DL-12.772以浅) ・・(26)
Pw2=Ps2=0.050×0.352δ=0.018δ (DL-12.772以深) ・・(27)
一方、図3で説明したように、LNG地下タンク10構築後に、側壁32と連壁20との間にせん断力が作用しない場合でも、連壁20と側壁32との間には隙間が生じる。これは、貯槽本体30内のLNGからの冷熱によって側壁32及び連壁20が収縮したり、貯槽本体30及び連壁20に地下水圧の作用したりすることによる。
【0039】
図7は、LNGからの冷熱による側壁32及び連壁20の変位を示すグラフである。
図7に示す側壁32の変位は、躯体の構造解析から得られる温度荷重により求めている。また、連壁20の変位は、躯体の温度解析により得られた連壁20の平均温度T=-12.29℃、地盤40の初期温度To=16.6℃、コンクリートの線膨張係数α=1.0×10-5、連壁20の半径R=38414mmとして、次式(28)により変位δを算定している。
δ=R×α×(T−T0)=38414×1.0×10-5×(−12.29−16.6)=−11.1mm ・・(28)
図8は、水圧及び揚圧力による側壁32の変位を示すグラフである。
図8に示す側壁32の変位は、躯体の構造解析から得られる水圧及び揚圧力により求めている。
【0040】
図9は、水圧による連壁20の変位を示すグラフである。
図9に示すように連壁20は、側壁32と連壁20との間に浸入する水の圧力により外側に変位する。これは、式(22)及び(23)と、式(26)及び(27)とにより、次式(29)及び(30)のように、深度による境界から連壁20側に作用する外圧Ps1及びPs2による連壁20の変位δs1及びδs2が求められる。
δs1=(1−0.375)δ=0.625δ=0.625/0.017×Ps1(DL−12.772以浅) ・・(29)
δs2=(1−0.352)δ=0.648δ=0.648/0.018×Ps2(DL−12.772以深) ・・(30)
そして、図10は、側壁32及び連壁20について、これら温度、水圧及び揚圧力による合計変位量を示したグラフであり、図11は、図10の側壁32と連壁20との変位差を示すグラフである。
図10及び図11に示すように、側壁32と連壁20との変位の差、すなわち隙間(2〜14mm)は下方に推移するほど大きくなり、その平均は10.8mmである。
【0041】
すなわち、以上のような隙間が生じる場合、連壁20の表面にチッピング加工により目高低差15mmの目荒らし35を形成しても、当初側壁32と連壁20との噛み合わせが15mmであったものが、平均4.2mm(=15mm-10.8mm)程度になる。
【0042】
そこで、噛み合わせが4.2mmである場合におけるせん断伝達耐力を求める。すなわち、側壁32と連壁20との両接合面同士が、鉛直方向に相対移動して両接合面の一方の凸部の頂部が他方の凸部の頂部に乗り上げることにより、接合面間の離間が4.2mmになったとき(=噛み合わせがゼロとなったとき)の両接面間に生じる摩擦力を求める。
【0043】
噛み合わせが4.2mmである場合、側壁32と連壁20とが、両接合面に形成された凹凸を乗り越えるために必要な内圧Pw及び外圧Psは、δ=4.2mmを式(26)及び式(27)に代入することにより、
Pw1=Ps1=0.0714 N/mm2 ・・(31)
Pw2=Ps2=0.0756 N/mm2 ・・(32)
となる。
【0044】
ただし、「コンクリート標準示方書 6.3.7設計せん断伝達力」に準拠して、σndが圧縮の場合、安全側になることを考慮したσnd=-σnd/2を用いることとする。したがって、次式(33)及び(34)の圧縮力を、せん断面に垂直に作用する平均応力度として、せん断伝達耐力Vcwdの式中で取り扱うとする。
―σnd1=Pw1/2=Ps1/2=0.0357N/mm2 ・・(33)
―σnd1=Pw2/2=Ps2/2=0.0378N/mm2 ・・(34)
せん断伝達耐力Vcwdの基本式は次式(35)のように表される。
Vcwd=|(τc+p・τs・sin2θ−α・p・fyd ・sinθ・cosθ)・Ac+Vk|/γb ・・(35)
ただし、本実施形態では、側壁32と連壁20との間のせん断面に鉄筋がないこと、及びせん断キーがないことより、式(35)は、次式(36)のように整理される。
Vcwd=τc・Ac/γb、ただし、τc=μ・f’cdb(−σnd)1−b ・・(36)
ここで、μは固体接触に関する平均摩擦係数、Acはせん断面の面積、γbは部材係数、bは面形状を表す係数である。
【0045】
具体的に上記式(36)に図5に示すLNG地下タンク10の具体的寸法を以下のように代入すると、
h1:側壁高さ(DL+4.000〜−12.772m):16.772m ・・(37)
h2:側壁高さ(DL−12.772〜−28.358m):15.586m ・・(38)
Ac1=2×R×π×h1=2×38.414×π×16.772=4048m2 ・・(39)
Ac2=2×R×π×h2=2×38.414×π×15.586=3761m2 ・・(40)
γb=1.3 ・・(41)
f’cd=f’ck/γc=30/1.3=23.1N/mm2(DL−12.772m以浅) ・・(42)
f’cd=f’ck/γc=40/1.3=30.8N/mm2(DL−12.772m以深) ・・(43)
σnd:せん断面に垂直に作用する平均応力度 ・・(44)
せん断伝達力Vcwdは、
Vcwd1=τc・Ac1/γb=0.45×(23.1)1/2×(0.0357)1/2×4048×106/1.3≒1,272,000kN ・・(45)
Vcwd2=τc・Ac2/γb=0.45×(30.8)1/2×(0.0378)1/2×3761×106/1.3≒1,405,000kN ・・(46)
により、
Vcwd=Vcwd1+Vcwd2=1272000+1405000=2677000kN ・・(47)
と算定される。
【0046】
すなわち、このせん断伝達力Vcwd(2677000kN)は、先に式(12)で求めたLNG地下タンク10の貯槽本体30の側壁32と連壁20との間に最もせん断力が大きく作用するときの設計せん断力Wd(439.13×103kN)よりも充分大きい。これにより、当初側壁32と連壁20との噛み合わせが15mmであったものが、平均4.2mm(=15mm-10.6mm)程度になった場合においても、側壁32と連壁20との接合面が互いにその表面に形成された凹凸を乗り越えることなく、せん断力を伝達することができる。
【0047】
なお、本実施形態では、上述のように連壁20の表面に形成する目荒らし35の高低差を先に設定して、その高低差から連壁20と側壁32との間に生じる隙間から両接面間の実質的な噛み合わせ量を求め、そして噛み合わせ量に基づいたせん断伝達力Vcwdを求めることにより、その高低差がせん断力を伝達するのに妥当であるか否かを評価したが、これに限らず、想定される設計せん断力Wdに基づいて、それに必要なせん断伝達力Vcwdを計算し、そのせん断伝達力Vcwdに基づいた噛み合わせ量を設定するとともに、連壁20と側壁32との間に生じる隙間を勘案することにより目荒らし35の高低差を求めてもよい。
【0048】
具体的には、式(26)及び(27)までの内圧PW1及びPW2、外圧Ps1及びPs2を求めるところまでは、上述のとおりである。
【0049】
ここで目荒らし35の高低差を求めるにあたっては、「コンクリート標準示方書 6.3.7設計せん断伝達耐力」により、σndが圧縮の場合、安全側となることを考慮してσnd=-σnd/2を用いる事として、式(26)及び(27)を次式(48)及び(49)のように変換する。
−σnd1=−0.0085δ N/mm2 ・・(48)
−σnd2=−0.0090δ N/mm2 ・・(49)
これらの式を、式(36)中の−σndとして取り扱うことにより、式(37)〜(44)で用いた具体的寸法を代入すると、せん断伝達力Vcwdは、
Vcwd1=τc・Ac1/γb
=0.45×(23.1)1/2×(0.0085δ)1/2×4048×106/1.3≒620900×δ1/2kN ・・(50)
Vcwd2=τc・Ac2/γb
=0.45×(30.8)1/2×(0.0090δ)1/2×3761×106/1.3≒685400×δ1/2kN ・・(51)
により、
Vcwd=Vcwd1+Vcwd2
=620900×δ1/2+685400×δ1/2=1306000×δ1/2kN ・・(52)
と算定される。
【0050】
そして、先に求めたLNG地下タンク10の貯槽本体30の側壁32から連壁20に最もせん断力が大きく作用するときの設計せん断力Wd(439.13×103kN)に基づき、せん断伝達のために必要な噛み合わせ量を、次式(53)のようにして求める。
1306000×δ1/2 ≧439130
δ≧0.113mm ・・(53)
なお、側壁32と連壁20の間の離れ量は、上述したように、その接合面の下方に移行するほど大きくなり、2mm〜14mmとなる。したがって、構築時に形成する側壁32と連壁20との接合面の高低差は、最大14mmの離れ量が生じることを想定して次式(54)のように算定される。
δ0=0.113+14.0 ≒15.0 (mm) ・・(54)
以上、本実施形態に係るLNG地下タンク10のせん断伝達構造1によれば、連壁構築工程S1と、貯槽本体コンクリート打設工程S2と、コンクリート養生工程S3により、貯槽本体30に作用する浮き上がり荷重等の鉛直方向の荷重を連壁20に伝達可能な構造を簡単に構築することができる。
【0051】
また、連壁20と貯槽本体30の側壁32との両接合面が、互いに噛み合うような凹凸形状を有していることにより、例えば、貯槽本体30に浮き上がり荷重等が作用し、側壁32が連壁20に対してせん断方向に移動(つまり鉛直方向に相対移動)する場合、両接合面同士が互いに離間するように移動することになる。そして、両接合面が離間すると、側壁32、連壁20及び地盤40に荷重が作用することになり、これら荷重に対する離間を離間前の状態に戻そうとする反力が生じ、この反力に応じて接合面間の摩擦力(=せん断伝達耐力)も増加するので、両接合面間でせん断力を確実に伝達することができる。
【0052】
また、両接合面の凹凸形状は、両接合面同士が鉛直方向に相対移動して両接合面の一方の凸部の頂部が他方の凸部の頂部に乗り上げることにより、接合面が離間することに応じて側壁32、連壁20、及び地盤40に夫々作用する荷重と、両接合面間の摩擦係数μとに基づいて求められた摩擦力(=せん断伝達耐力Vcwd)が、側壁32に作用する鉛直方向の荷重Sよりも大きくなるように形成されていることにより、側壁32に作用する鉛直方向の荷重に対して側壁32と連壁20との接合面が滑ることなく、かかる荷重を貯槽本体30から連壁20に確実に伝達させる凹凸形状を、施工上効率良く形成することができる。
【0053】
なお、本実施形態の貯槽本体30と連壁20との両接合面は波型に形成されるとしたが、これに限らず、ノコギリ状、又は略台形状であってもよい。すなわち、両接合面の凹凸形状が、側壁32が連壁20に対してせん断方向に微小移動するときに、接合面間が離間するような形状であればよい。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本実施形態に係るLNG地下タンクの縦断面図である。
【図2】図1の連壁と貯槽本体の側壁との接合面の拡大断面図である。
【図3】LNG地下タンク10の構築手順を示す工程図である。
【図4】LNG地下タンク10に最大の浮き上がり力が作用するときに、側壁32と連壁20との間に作用する鉛直方向の荷重を求めるための説明図である。
【図5】LNG地下タンク10の具体的な寸法を示す断面図である。
【図6】LNG地下タンク10の側壁及び連壁を2重円環として表したLNG地下タンクモデルの横断面図である。
【図7】LNGからの冷熱による側壁及び連壁の変位を示すグラフである。
【図8】水圧及び揚圧力による側壁の変位を示すグラフである。
【図9】水圧による連壁の変位を示すグラフである。
【図10】側壁及び連壁について、これら温度、水圧及び揚圧力による合計変位量を示したグラフである。
【図11】図10の側壁と連壁との変位差を示すグラフである。
【符号の説明】
【0055】
10 LNG地下タンク
20 地中連続壁(連壁)
30 貯槽本体
32 側壁
33 一般部
34 側壁下端ハンチ部
35 目荒らし
36 底版
37 付帯部材
38 コンクリート
40 地盤
S1 連壁構築工程
S2 貯槽本体コンクリート打設工程
S3 コンクリート養生工程
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中壁と、前記地中壁と接合して構築されるコンクリート構造物との間に作用するせん断力を伝達するせん断伝達構造であって、
前記コンクリート構造物と前記地中壁との両接合面が、互いに噛み合うような凹凸形状を有することを特徴とするせん断伝達構造。
【請求項2】
前記両接合面の凹凸形状は、前記コンクリート構造物が前記地中壁に対して鉛直方向に相対移動すると、前記両接合面間が離間するような形状であることを特徴とする請求項1に記載のせん断伝達構造。
【請求項3】
前記凹凸形状は、波状、ノコギリ状、又は略台形状であることを特徴とする請求項2に記載のせん断伝達構造。
【請求項4】
前記両接合面の凹凸形状は、前記両接合面同士が鉛直方向に相対移動して前記両接合面の一方の凸部の頂部が他方の凸部の頂部に乗り上げることにより、前記接合面が離間することに応じて前記コンクリート構造物及び前記地中壁に作用する荷重と、前記両接合面間の摩擦係数とに基づいて求められた摩擦力が、前記コンクリート構造物に作用する鉛直方向の荷重よりも大きくなるように形成されていることを特徴とする請求項2又は3に記載のせん断伝達構造。
【請求項5】
表面に凹凸形状を有する地中壁と接合して構築されるコンクリート構造物であって、
前記地中壁と接合する接合面に、前記地中壁の凹凸形状と噛み合うような凹凸形状を有することを特徴とするコンクリート構造物。
【請求項6】
LNG地下タンクに適用されたことを特徴とする請求項5に記載のコンクリート構造物。
【請求項7】
地中壁と、前記地中壁と接合して構築されるコンクリート構造物との間に作用するせん断力を伝達するせん断伝達構造の構築方法であって、
その表面に凹凸形状を有する地中壁を構築し、
前記地中壁の凹凸形状の表面に接触するように、コンクリートを打設し、
前記打設したコンクリートを養生することを特徴とする地中壁とコンクリート構造物とのせん断伝達構造の構築方法。
【請求項8】
請求項1〜4の何れかに記載のせん断伝達構造の設計方法であって、
前記両接合面の摩擦力を、前記両接合面同士が鉛直方向に相対移動して前記両接合面の一方の凸部の頂部が他方の凸部の頂部に乗り上げることにより、前記接合面が離間することに応じて前記コンクリート構造物及び前記地中壁に作用する荷重と、前記両接合面間の摩擦係数とに基づいて求め、
前記両接合面の凹凸形状を、前記摩擦力が、前記コンクリート構造物に作用する鉛直方向の荷重よりも大きくなるように設定することを特徴とするせん断伝達構造の設計方法。
【請求項1】
地中壁と、前記地中壁と接合して構築されるコンクリート構造物との間に作用するせん断力を伝達するせん断伝達構造であって、
前記コンクリート構造物と前記地中壁との両接合面が、互いに噛み合うような凹凸形状を有することを特徴とするせん断伝達構造。
【請求項2】
前記両接合面の凹凸形状は、前記コンクリート構造物が前記地中壁に対して鉛直方向に相対移動すると、前記両接合面間が離間するような形状であることを特徴とする請求項1に記載のせん断伝達構造。
【請求項3】
前記凹凸形状は、波状、ノコギリ状、又は略台形状であることを特徴とする請求項2に記載のせん断伝達構造。
【請求項4】
前記両接合面の凹凸形状は、前記両接合面同士が鉛直方向に相対移動して前記両接合面の一方の凸部の頂部が他方の凸部の頂部に乗り上げることにより、前記接合面が離間することに応じて前記コンクリート構造物及び前記地中壁に作用する荷重と、前記両接合面間の摩擦係数とに基づいて求められた摩擦力が、前記コンクリート構造物に作用する鉛直方向の荷重よりも大きくなるように形成されていることを特徴とする請求項2又は3に記載のせん断伝達構造。
【請求項5】
表面に凹凸形状を有する地中壁と接合して構築されるコンクリート構造物であって、
前記地中壁と接合する接合面に、前記地中壁の凹凸形状と噛み合うような凹凸形状を有することを特徴とするコンクリート構造物。
【請求項6】
LNG地下タンクに適用されたことを特徴とする請求項5に記載のコンクリート構造物。
【請求項7】
地中壁と、前記地中壁と接合して構築されるコンクリート構造物との間に作用するせん断力を伝達するせん断伝達構造の構築方法であって、
その表面に凹凸形状を有する地中壁を構築し、
前記地中壁の凹凸形状の表面に接触するように、コンクリートを打設し、
前記打設したコンクリートを養生することを特徴とする地中壁とコンクリート構造物とのせん断伝達構造の構築方法。
【請求項8】
請求項1〜4の何れかに記載のせん断伝達構造の設計方法であって、
前記両接合面の摩擦力を、前記両接合面同士が鉛直方向に相対移動して前記両接合面の一方の凸部の頂部が他方の凸部の頂部に乗り上げることにより、前記接合面が離間することに応じて前記コンクリート構造物及び前記地中壁に作用する荷重と、前記両接合面間の摩擦係数とに基づいて求め、
前記両接合面の凹凸形状を、前記摩擦力が、前記コンクリート構造物に作用する鉛直方向の荷重よりも大きくなるように設定することを特徴とするせん断伝達構造の設計方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−161951(P2009−161951A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−341044(P2007−341044)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】
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