説明

せん断補強材の定着方法

【課題】 下向きの施工と同様の流動性のあるグラウト材を使用でき、かつ経済性、施工性に優れたせん断補強材の定着方法を提供する。
【解決手段】 コンクリート構造体1に挿入孔3を上向きに穿孔する。挿入孔3を密閉するための蓋体5の上にせん断補強材4を設置し、蓋体5に設けた貫通孔にエア抜きホース6を通し、その先端部を挿入孔3の先端部に位置させる。エア抜きホース6の外周部からのグラウト材の漏れを防止するため、鞘管9を介在させる。装置のセットが完了したら、グラウト材8の注入を開始し、挿入孔3内の空気をエア抜きホース6から抜く。挿入孔3内がグラウト材8で充満されたら、エア抜きホース6を蓋体5まで引き抜き、栓をする。その後、グラウト材注入口7からの加圧を止め、グラウト材注入口7を閉じる。グラウト材8の硬化養生後、蓋体5を撤去し、コンクリートの表面の仕上げを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボックスカルバートの壁、底版、頂版、フーチング等の壁状のコンクリート部材のせん断補強におけるせん断補強材の定着方法、特に既設のコンクリート構造体の一面側から有底のせん断補強材挿入孔を穿孔し、せん断補強材を挿入して、グラウト材で定着させるせん断補強材の定着方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ボックスカルバートの壁、底版、頂版、フーチング等の壁状のコンクリート部材の面外荷重に対するせん断補強あるいは耐震補強においては、コンクリート壁の片面または両面から削孔し、不足しているせん断補強鋼材に相当する後挿入のせん断補強材を、削孔内部に挿入し、空隙にセメント系材料などの充填材料を充填し、コンクリートと一体化している(特許文献1〜4、非特許文献1等参照)。
【0003】
ここで、後挿入のせん断補強材とは、寸切りの異形鉄筋、先端定着体または後端定着体を有するせん断補強鉄筋、鋼管、帯状鋼材、形鋼あるいはそれを組み合わせたもの、その他炭素繊維ロープ・ロッドなどである。
【0004】
例えば、古い基準で設計され、せん断補強鉄筋の少ないコンクリート部材に対し、後挿入するせん断補強材により、せん断耐力やじん性を向上させることにより、補強するのである。
【0005】
本発明は、こうした補強のうち、主として、ボックスカルバートの頂版(天井)など、カルバート内部から鉛直上向きに削孔しせん断補強鉄筋を埋め込む場合、あるいは頂版と側壁の接合部のハンチ部分や頂版が馬蹄形のように曲面形状であって削孔が斜め上向きになる場合、さらに削孔が水平横向きになる場合等における、施工方法、特にセメント系グラウト材の充填方法の改良に関するものである。
【0006】
上記の補強において、グラウト材は、後挿入されたせん断補強材と削孔した孔壁との間に隙間なく充填できる必要があり、その硬化体が密実でせん断補強材とコンクリート躯体との間で応カを確実に伝達でき、かつ補修する構造体コンクリートと同等以上の強度である必要がある。そのため、所定の強度や剛性だけでなく、硬化時に収縮を生じないような性質も併せ持つ必要がある。
【0007】
セメント系グラウト材は、例えば、プレミックスされたセメント粉体と所定量の水を、ハンドミキサーなどで攪拌混合するだけで使用でき、価格も比較的安く、強度および剛性も十分であることから、アンカーの設置や各種コンクリート部材の補強において、最も一般的な材料として用いられている。
【0008】
下向きに穿孔した孔にせん断補強材を挿入する場合は、まず穿孔した後、孔内をエアーブロー等で清掃し、充填する材料のドライアウトを防止するため、必要に応じて吸湿防止剤を塗布したり、水で孔壁に吸水させた後、流動性のあるセメント系グラウト材を注ぎ込み、その中にせん断補強材を挿入するだけで、後は養生を行なえば施工を完了することができる。
【0009】
しかしながら、特に鉛直上向きの場合、あるいは水平横向き、斜め上向きの場合は、上述の下向きの場合ように、流動性のあるセメント系グラウト材を充填しても流れ出してしまうため、施工が困難であった。そのため、水平横向きあるいは鉛直上向きの施工においては、以下のような方法が用いられている。
【0010】
方法A:
可塑性グラウト、すなわちスラリー状あるいは粘土状のセメント系充填材料を削孔先端に装填し、せん断補強材を挿入し、せん断補強材の後端部を押し込んだり、打撃を加えて強制的に所定の位置までせん断補強材を挿入し、その後残りの空隙部分に注入ホースおよび排気ホースを挿入し、注入ホースより流動状のセメント系充填材を注入し、硬化により一体化するものである(例えば、非特許文献1参照)。
【0011】
方法B:
注入ホースおよび排気ホースを配置し、注入ホースより流動状のセメント系充填材を注入し、硬化させて一体化するものである(例えば、特許文献5、6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2002−275927号公報
【特許文献2】特開2003−113673号公報
【特許文献3】特開2005−105808号公報
【特許文献4】特開2004−293294号公報
【特許文献5】特開平10−102600号公報
【特許文献6】特開2004−162295号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】「事例3 沈埋トンネル(東京港第二航路海底トンネル)継ぎ手の改良などでせん断補強」、日経コンストラクション平成13年1月12日号、日経BP社、P72−73
【非特許文献2】“Post-Head-bar(後施工プレート定着型せん断補強鉄筋)工法”、[平成20年6月12日検索]、インターネット<http://www.phb-koho.jp/index.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
せん断補強材が1本の異形鉄筋である場合は、注入ホースおよび排気ホースを配置することは、それほど困難ではないものの、こうしたホースは、ビニールホースなどであり、ホースがセメント系グラウトで満たすべき空隙に残置されることから、以下の問題があった。
【0015】
すなわち、ホースの強度および剛性が硬化したグラウト材よりも小さいこと、一体化においてホースが構造上の弱点部となること。さらに、温度変化に対するホースの線膨張係数がグラウト材と大きく異なり、温度変化に対し両者の伸縮量が一致せず、長期的な水道などの弱点の原因となるという問題点があった。
【0016】
また、排気ホースからグラウト材が排出されることを視認することにより充填完了を確認していたが、排気ホースは細径であるため、容易に閉塞することがある。この場合、充填完了が確認できないばかりでなく、排気ホース内に空気が残置されてしまうので、いわばコンクリート躯体内部に空洞があるようなものであり、構造上の弱点となってしまう。
【0017】
前述のAの方法において、せん断補強材を打撃して挿入する場合は、可塑性グラウトの粘性により空気を巻き込む可能性が高く、打撃の振動により可塑性グラウトが分離することもあった。そもそも可塑性グラウトは高性能減水剤や増粘剤などの混和剤を多量に配合したものであって、高価となる。また、各種の条件に最適な配合をその都度調整し練り混ぜることは、品質管理上、非常に煩雑である。
【0018】
本発明は、従来技術における上述のような課題の解決を図ったものであり、上向きあるいは横向きの施工においても下向きの施工と同様の流動性のあるグラウト材を使用でき、かつ経済性、施工性に優れたせん断補強材の定着方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本願の請求項1に係るせん断補強材の定着方法は、既設のコンクリート構造体の一面側から有底のせん断補強材挿入孔を穿孔し、該せん断補強材挿入孔にせん断補強材を挿入して、グラウト材で定着させるせん断補強材の定着方法において、せん断補強材挿入孔を穿孔した後、グラウト材を注入する前に、前記せん断補強材挿入孔にせん断補強材と排気ホースを挿入し、前記排気ホースの先端部を前記せん断補強材挿入孔の先端部に位置させた状態で、該せん断補強材挿入孔の外周部に、グラウト材注入口と前記排気ホースを貫通させるための貫通孔を有する蓋体を密着させて固定し、前記貫通孔と該貫通孔に通した前記排気ホースの外周面との隙間を漏出防止材で塞ぎ、前記せん断補強材挿入孔を密閉した状態で、前記グラウト材注入口からグラウト材を注入し、注入圧により前記せん断補強材挿入孔内の空気を前記排気ホースから排出させ、前記せん断補強材挿入孔がグラウト材で充満した後、前記排気ホースを前記蓋体の貫通孔を通じてせん断補強材挿入孔から引き抜き、該排気ホース部分を閉塞させ、前記グラウト材が硬化した後、前記蓋体を撤去することを特徴とするものである。
【0020】
ここでいう既設のコンクリート構造体としては、主としてボックスカルバートの頂版、壁、トンネルの覆工体等の壁状または版状のコンクリート部材を想定しているが、必ずしもこれらに限定する必要はない。また、コンクリート構造体は、鉄筋コンクリートの場合が一般的であるが、本発明は、コンクリートを主体とし、せん断補強を必要とする構造体一般に適用することができる。
【0021】
なお、「コンクリート構造体の一面側から有底のせん断補強材挿入孔を穿孔し」における「一面側から」というのは、せん断補強材挿入孔についてみた場合の一面側からという意味であり、例えば空間を仕切る中壁の片側(一面側)からの穿孔と、その反対側(一面側)からの穿孔を行う場合も含むものである。
【0022】
せん断補強材も特に限定されず、従来使用されている、異形鉄筋、先端定着体または後端定着体を有するせん断補強鉄筋、鋼管、帯状鋼材、形鋼あるいはそれらを組み合わせたもの、炭素繊維ロープ・ロッド等のせん断補強材について適用可能である。
【0023】
本発明で用いるグラウト材は、下向き施工で用いられているものと同様の流動性を有するグラウト材であり、安価なものとしてはセメント系グラウト材等を使用することができる。このグラウト材は、充填時に流動性を有することが前提になっているため、密閉状態あるいはそれに近い状態がなければ、鉛直方向の充填や斜め上方向、水平方向の充填において、せん断補強材挿入孔から流れ出ることになる。
【0024】
それに対し、請求項1に係る発明では、せん断補強材挿入孔にグラウト材を注入する前に、先にせん断補強材と排気ホースを挿入し、せん断補強材挿入孔の外周部に蓋体を密着させて固定することで、実質的に密閉状態としてグラウト材を注入する。
【0025】
この蓋体には、グラウト材注入口と排気ホースを貫通させるための貫通孔が設けられており、排気ホースの先端部をせん断補強材挿入孔の先端部に位置させた状態で、グラウト材注入口からグラウト材を注入することで、その注入圧によりせん断補強材挿入孔内の空気が排気ホースを通じて排出され、せん断補強材挿入孔内がグラウト材で満たされる。
【0026】
グラウト材注入口からのグラウト材の注入というのは、グラウト材注入口に注入ホース等を接続して注入する場合に限らず、グラウト材の注入ホース等をグラウト材注入口を貫通させて、せん断補強材挿入孔の内側で注入する場合を含む。
【0027】
蓋体は、せん断補強材挿入孔の外周部のコンクリート表面に密着させて、せん断補強材挿入孔を密閉できるものであれば、材質や形状等、特に限定されない。このような蓋体の例としては、例えばプラスチック製あるいは金属製の円盤状のものが考えられ、その場合、コンクリート表面に接着剤、粘着テープ等で貼り付けたり、あるいはシール材等を介在させ、コンクリートビスなどで固定することができる。
【0028】
また、蓋体の貫通孔と排気ホースの外周面との間の隙間については、漏出防止材で塞ぐことで、その部分からのモルタルの漏出を防止する。
【0029】
このようにして、せん断補強材挿入孔をグラウト材で充満させた後、排気ホースを蓋体の貫通孔を通じてせん断補強材挿入孔から引き抜き、この排気ホース部分を閉塞させればよく、排気ホースなどのホースがせん断補強材挿入孔内部に残置されないので、グラウト材の硬化後、蓋体を撤去することで、構造上の弱点のない定着が可能となる。
【0030】
請求項2は、請求項1に係るせん断補強材の定着方法において、前記漏出防止材は、前記排気ホースの外径と同等の内径の鞘管からなり、前記鞘管の孔内に前記排水ホースを嵌め込んだ状態で、前記蓋体内部にねじ込み、鞘管内径と前記排気ホースの外周面との隙間を塞ぐようにしたものであることを特徴とするものである。
【0031】
排気ホースを抜き取る際、鞘管と排気ホースをスライドさせながら抜き取るようにすれば、モルタルが漏れることなく抜き取ることができる。この場合の鞘管としては、例えば銅製で内径が排気ホースの外径と同等で、厚みが2mm以上程度のものを用いる。また、排気ホースとしては、例えば真鍮製で内径1.5mm以上程度のものを用いて作業を行う。
【0032】
また、排気ホースをスライドするだけだと、排気ホース自体の体積分の空隙が生じ、完全ではないということであれば、削孔の入口付近まで排気ホースを引き抜いた時点(つまり完全に排気ホース抜く直前)に、再度、反対側から圧をかけてモルタルの充填を行うことが考えられる。あるいは、排気ホースを引き抜きながら、反対側からモルタルを連続して充填を行う方法でもよい。
【0033】
請求項3は、請求項1に係るせん断補強材の定着方法において、前記漏出防止材が、内側に前記排気ホースの外径より小さい内径の絞り孔を有する弾性体からなり、弾性を利用して該絞り孔内に前記排水ホースを嵌め込んだ状態で、前記蓋体の外面に密着させ、前記蓋体の貫通孔と前記排気ホースの外周面との隙間を塞ぐようにしたものであることを特徴とするものである。
【0034】
この場合の漏出防止材の具体例としては、例えばスポンジゴムのブロック状のものなどが挙げられ、漏出防止材の絞り孔を径方向に押し広げるようにして排水ホースを通せば、その弾性により排水ホースを締め付けた状態となり、排気ホースを蓋体の貫通孔を通じてせん断補強材挿入孔から引き抜く際も、排水ホースが漏出防止材の絞り孔で締め付けられた状態で、グラウト材が漏出する隙間を生じさせることなく排水ホースを抜くことができる。
【0035】
蓋体の貫通孔と前記排気ホースの外周面との隙間を塞ぐように漏出防止材を蓋体の外面に密着させるためには、例えば接着剤などで貼り付ければよい。
【0036】
また、この場合の排気ホースについては、ビニールホース等の弾性あるいは可撓性を有する排気ホースを用い、排気ホースを締め付けながら抜き取るようにすれば、排気ホース内にあるモルタルを削孔内に向けて絞り出すことができる。漏出防止材として、前述したスポンジゴム等の弾性を有する材料を用い、これに排気ホースを貫通させて使用し、モルタル充填が終了して排気ホースを抜き取る際に、スポンジゴムを手でつまんで引き抜けば、排気ホース内のモルタルが絞られて削孔内に残置される。
【0037】
また、手でつまんで絞り出すだけだと、排気ホース自体の体積分の空隙が生じ、完全ではないということであれば、削孔の入口付近まで排気ホースを引き抜いた時点(つまり完全に排気ホース抜く直前)に、再度、反対側から圧をかけてモルタルの充填を行うことが考えられる。あるいは、排気ホースを引き抜きながら、反対側からモルタルを連続して充填を行う方法でもよい。以上のような方法をとれば、スポンジゴムの絞り孔を最初から小さくしておく必要がなく、充填作業がスムーズとなる。
【0038】
請求項4は、請求項3に係るせん断補強材の定着方法において、前記排気ホースを前記蓋体の貫通孔を通じてせん断補強材挿入孔から引き抜いた後、該排気ホースの一部が前記漏出防止材の絞り孔位置にとどまっている状態で、該排気ホースを折り曲げまたは押し潰すことで閉塞させる場合を限定したものである。
【0039】
本発明において、せん断補強材挿入孔は実質的に密閉状態となっているが、厳密には排気ホース部分は外気に通じているため、そのままでは完全な密閉状態とはならない。しかしながら、排気ホースとして用いられるホースにビニールホース等の弾性あるいは可撓性を有する排気ホースを用いた場合、折り曲げたり、あるいは部分的に押し潰すこと、あるいは紐などできつくしばることで、容易に機密性を持たせることができる。
【0040】
本願の請求項5に係るせん断補強材の定着方法は、既設のコンクリート構造体の一面側から有底のせん断補強材挿入孔を穿孔し、該せん断補強材挿入孔にせん断補強材を挿入して、グラウト材で定着させるせん断補強材の定着方法において、せん断補強材挿入孔を穿孔した後、該せん断補強材挿入孔の外周部に、先端部が開口し、後端部にグラウト材注入口と排気ホースを貫通させるための排気ホース貫通孔とを有し、内部にせん断補強材を収納し、さらに排気ホースを貫通させた筒状のせん断補強材挿入装置の、前記先端部を密着させて固定し、前記排気ホースの先端部を前記せん断補強材挿入孔の先端部に位置させた状態で、前記グラウト材注入口からグラウト材を注入し、注入圧により前記せん断補強材挿入孔内の空気を前記排気ホースから排出させ、前記せん断補強材挿入装置内およびせん断補強材挿入孔がグラウト材で充満した後、前記排水ホースの先端部を前記せん断補強材挿入装置内まで引き戻すとともに、前記せん断補強材を前記せん断補強材挿入孔内に押し込み、前記グラウト材が硬化した後、前記せん断補強材挿入装置を撤去することを特徴とするものである。
【0041】
既設のコンクリート構造体、せん断補強材、グラウト材に関しては、請求項1に関して述べた通りである。
【0042】
請求項1に係る発明との違いは、請求項5に係る発明では、せん断補強材の挿入を、グラウト材の注入の後から行なう点であり、せん断補強材挿入孔の外周部に、開口した筒状のせん断補強材挿入装置の先端部を密着させて固定する。この先端部の密着固定は、請求項1に係る発明における蓋体の密着固定と同様である。
【0043】
せん断補強材挿入装置の後端部には、請求項1に係る発明における蓋体と同様に、グラウト材注入口と排気ホースを貫通させるための排気ホース貫通孔とを設ける。せん断補強材はせん断補強材挿入装置の内部に収納される。
【0044】
その状態で、グラウト材注入口からグラウト材を注入し、注入圧によりせん断補強材挿入孔内の空気を前記排気ホースから排出させ、せん断補強材挿入装置内およびせん断補強材挿入孔がグラウト材で充満した後、排水ホースの先端部を前記せん断補強材挿入装置内まで引き戻し、せん断補強材をせん断補強材挿入孔内に押し込む。
【0045】
その他の構成は、基本的に請求項1に係る発明と同様であり、グラウト材が硬化した後、せん断補強材挿入装置を撤去することで、排気ホースなどのホースがせん断補強材挿入孔内部に残置されない形でせん断補強材の定着が可能となる。
【0046】
請求項6は、請求項5に係るせん断補強材の定着方法において、前記せん断補強材挿入装置が、せん断補強材が収納される収納部が長手方向に伸縮可能になっており、前記せん断補強材の前記せん断補強材挿入孔内への押し込みの際、前記収納部を縮小させながら、内部のグラウト材を排出させる場合を限定したものである。
【0047】
せん断補強材がせん断補強材挿入孔内へ挿入された状態では、せん断補強材挿入装置内のグラウト材を排出させることで、余ったグラウト材を再利用し、グラウト材の無駄を最小限に抑えることができる。
【0048】
グラウト材の排出は、せん断補強材挿入装置に例えば逆止弁等を取り付けた排出口を設け、逆止弁の調整等により行なうことができる。
【0049】
請求項7は、請求項6に係るせん断補強材の定着方法において、前記収納部が、前記せん断補強材が納まる大きさを有する変形自在なチューブまたはジャバラ状の筒状体からなる場合を限定したものである。
【0050】
この場合、せん断補強材の押し出しに伴い、せん断補強材の収納空間を縮小させることができ、内部のグラウト材にかかる圧を利用して、逆止弁等を取り付けた排出口からグラウト材を排出させ、再利用することができる。
【発明の効果】
【0051】
本発明によれば、上向きあるいは斜め上方や水平方向の施工においても、下向きの施工と同じように、流動性のあるグラウト材が削孔内に充填された状態を作り出しことができ、また注入ホース等がせん断補強材挿入孔内部に残置されないので、以下のような効果が得られる。
【0052】
(1) せん断補強材挿入孔に空気が残らず、確実な充填ができる。
(2) 注入ホースや排気ホースなどのホースがせん断補強材挿入孔内部に残置されないので、構造上の弱点となることがない。
(3) 高価で製造の煩雑な可塑性グラウトを用いず、安価で練混ぜの容易な流動状のセメントグラウト等を使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】請求項1、2に係る発明の一実施形態における施工手順を示す断面図である。
【図2】図1に続く施工手順を示す断面図である。
【図3】図2に続く施工手順を示す断面図である。
【図4】請求項5〜7に係る発明の一実施形態における施工手順を示す断面図である。
【図5】図4に続く施工手順を示す断面図である。
【図6】図5に続く施工手順を示す断面図である。
【図7】請求項5〜7に係る発明の他の実施形態における施工手順を示す断面図である。
【図8】請求項5〜7に係る発明のさらに他の実施形態を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【実施例1】
【0055】
図1〜図3は、請求項1、2に係る発明の一実施形態(先挿入後充填タイプ)における施工手順を示したものである。
【0056】
この場合の施工手順は以下のようになる。
【0057】
(1) 装置のセット(図1参照)
この例は、鉛直施工の場合であり、せん断補強の対象となるコンクリート構造体1の下面から上向きに削孔し、せん断補強材を挿入するための挿入孔3を形成させる。また、この例では、挿入孔3の下端開口部にせん断補強材の定着体を設置するための拡径部3aを設けている。
【0058】
挿入孔3の削孔完了後、孔内を清掃し、水あるいはプライマー等を用いてドライアウト防止のための処理を行う。
【0059】
次に、挿入孔3を密閉するための蓋体5の上に異形棒鋼などのせん断補強材4を設置するとともに、蓋体5に設けた貫通孔にエア抜きホース(排気ホース)6を通し、その先端部を挿入孔3の先端部に位置させる。
【0060】
蓋体5は、挿入孔の外周部のコンクリート表面にコンクリートビス、あるいは接着剤等で固定し、グラウト材注入口7を設ける。
【0061】
また、エア抜きホース6の外周部からのグラウト材の漏れを防止するため、スポンジゴム等からなる漏出防止材9を設置する。
【0062】
また、この例で、せん断補強鉄筋8の先端には鋼製の先端定着体4aを取り付け、後端には後端定着体4bを取り付け、先端定着体4aが前述した拡径部3に納まるようにしている。
【0063】
(2) グラウト材の注入(図2参照)
装置のセットが完了したら、グラウト材注入口7から、グラウト材8の注入を開始し、挿入孔3内の空気をエア抜きホース6から抜く。エア抜きホース6は先端部が挿入孔3の先端部(上向き施工における上端部)に位置することで、挿入孔3内に空気が残らないようにしている。
【0064】
また、この例では、グラウト材8の注入終了については、エア抜きホース6の排出側に水を入れた容器10を設置し、エアの排出を確認しながらグラウト材8が流出した時点としている。
【0065】
(3) 定着の完了(図3参照)
挿入孔3にグラウト材8が充満されたら、グラウト材注入口7から加圧し、挿入孔3内を加圧した状態で、エア抜きホース6を蓋体5まで引き抜き、エア抜きホース6に栓をする。
【0066】
エア抜きホース6の栓をした後、グラウト材注入口7からの加圧を止め、グラウト材注入口7を閉じる。
【0067】
グラウト材8の硬化養生後、蓋体5を撤去し、コンクリートの表面の仕上げを行う。なお、この例ではせん断補強材4の後端定着体4bがコンクリートの表面に位置することになる。
【実施例2】
【0068】
図4〜図6は、請求項5〜7に係る発明の一実施形態(先充填後挿入タイプ)における施工手順を示したものである。
【0069】
この場合の施工手順は以下のようになる。
【0070】
(1) 装置のセット・グラウト材の注入(図4参照)
この例も鉛直施工の場合であり、せん断補強の対象となるコンクリート構造体1の下面から上向きに削孔し、せん断補強材を挿入するための挿入孔3を形成させる。また、挿入孔3の下端開口部にせん断補強材の定着体を設置するための拡径部3aを設けている。
【0071】
挿入孔3の削孔完了後、孔内を清掃し、水あるいはプライマー等を用いてドライアウト防止のための処理を行う。
【0072】
次に、せん断補強材挿入装置11の筒状の収納部11b内に、異形棒鋼などのせん断補強材4を設置するとともに、エア抜きホース6をセットし、エア抜きホース6の先端部が挿入孔3の先端部に位置するようにして、挿入装置11先端の取付板11aを挿入孔3の外周部のコンクリート表面にアンカーあるいはコンクリートビスなどを利用して固定する。この部分には必要に応じシール材などを挟み込むか、シーリング材あるいは粘着テープなどを用いて、隙間が生じないようにする。
【0073】
挿入装置11の後端には蓋体11cが設けられており、エア抜きホース6はこの蓋体11dを貫通し、またこの蓋体11c部分にグラウト材注入口12が取り付けられる。
【0074】
また、エア抜きホース6の外周部およびグラウト材注入口12部分からのグラウト材の漏れを防止するため、それぞれスポンジゴム等からなる漏出防止材13、14を設置する。
【0075】
また、この例で、せん断補強材8の先端には鋼製の先端定着体4aを取り付け、後端には後端定着体4bを取り付け、先端定着体4aが前述した拡径部3に納まるようにしている。
【0076】
後端定着体4bの材質は、鋼製、セラミックス製、その他特に限定されない。また、後端定着体4bは蓋体11c上に台座11dを介して設置されているが、挿入する方向と直角方向にずれないよう、凹凸の突起などの機構を備えるとよい。図の例では、後端定着体4bの底面に凹部4dを形成し、台座11dの上面に設けた凸部11eが嵌合するようにしている。
【0077】
漏出防止材14の設置後、グラウト材注入口12から、グラウト材8の注入を開始し、挿入孔3内の空気をエア抜きホース6から抜く。
グラウト材8の注入終了については、注入時に注入圧が上がり、グラウト材8を送ることができなくなった時点とする。
【0078】
(2) せん断補強材の挿入(図5参照)
挿入孔3にグラウト材8が充満されたら、グラウト材注入口12から加圧し、挿入孔3内を加圧した状態で、エア抜きホース6を挿入装置11内まで引き込み、エア抜きホース6の栓をした後、グラウト材注入口12からの加圧を止め、グラウト材注入口12を閉じる。
【0079】
この例で、挿入装置11の後端の蓋体11cは、収納部11bの外側に配置した2本の全ねじ棒鋼15を同期させた2つのモーター17によって軸回りに回転させることで、全ねじ棒鋼15に沿って移動できるようになっており、その移動によりせん断補強材8を挿入孔3に向けて押し出し、挿入孔3に挿入できるようになっている。
【0080】
そのため、収納部11bは、その移動に伴って伸縮できるようになっている必要があり、例えばジャバラ構造とする。その際、収納部11b内に充填されていたグラウト材8は、収納部11bに設けた逆止弁の作用で排出され、続く施工に再利用される。
【0081】
(3) 定着の完了(図6参照)
グラウト材8の硬化養生後、挿入装置11を撤去し、コンクリートの表面の仕上げを行う。なお、この例ではせん断補強材4の後端定着体4bがコンクリートの表面に位置することになる。
【実施例3】
【0082】
図7(a)〜(b)は、請求項5〜7に係る発明の他の実施形態(先挿入後充填タイプ)における施工手順を示したものである。
【0083】
この場合の施工手順は以下のようになる。
【0084】
(1) 装置のセット・グラウト材の注入(図7(a)参照)
コンクリート構造体への挿入孔の削孔、清掃、ドライアウト防止の処理までは、実施例2と同様であるので、説明を省略する。
【0085】
実施例3ではせん断補強材挿入装置21の本体として筒状の収納部を構成する伸縮性のある柔軟なホース21aを用いる。この収納用ホース21aとしては、例えば消防ホ−スのようなものを用いることができる。消防ホースは、比較的柔らかい布の片面(内面)にウレタン塗装を施したものになっており、容易に反転することができる。
【0086】
収納用ホース21aの下端は内側に反転させてあり、その内側にホースバンド21cで底部台座21bを固定してある。なお、この例においても底部台座21bの上面に、実施例2の場合と同様の凸部21dを設け、せん断補強材4の後端定着体4bの底面に形成した凹部に嵌合し、挿入する方向と直角方向にずれないようにしている。
【0087】
この収納用ホース21aの内部に、せん断補強材4を入れ、挿入孔3の外周部のコンクリート表面に取り付けたフランジキャップ22にホースバンド23で固定する。
【0088】
図示を省略するがエア抜きホースやグラウト材の注入ホースなどは、底部台座21bの側面または断面内を通すことができ、必要に応じ、実施例2の場合と同様、スポンジゴム等からなる漏出防止材を設置する。
【0089】
せん断補強材挿入装置21を取り付けた状態で、実施例2の場合と同様に、グラウト材の注入を、エア抜きホースから空気を抜きながらグラウト材の注入を行い、挿入孔3にグラウト材を充満させる。
【0090】
(2) せん断補強材の挿入(図7(b)参照)
収納用ホース21aの下端の底部台座21bを、挿入棒25で押し上げると、下端を反転した収納用ホース21aが2重に折りたたまれるように変形しながら、内部に収納したせん断補強材4が挿入孔3に挿入されて行き、余った体積分のグラウト材はバルブ付き排出管24から排出され、再利用される。
【0091】
(3) 定着の完了(図7(c)参照)
以下、実施例2の場合と同様、グラウト材の硬化養生後、挿入装置21を撤去し、コンクリートの表面の仕上げを行う。
【実施例4】
【0092】
図8は、請求項5〜7に係る発明のさらに他の実施形態の図であり、この例でもせん断補強材挿入装置31の本体として、柔軟なホースを利用している。ただし、実施例4に用いるホースは柔軟であれば、伸縮性は不要である。板状に潰れるものが好ましい。
【0093】
実施例3との主な相違点は、コンクリート構造体に穿孔した挿入孔へのせん断補強材4の挿入方法であり、この実施例4ではせん断補強材4を収納したせん断補強材挿入装置31のホースを、練り歯磨きのチューブを絞り出すように、ホースを下から押し潰してグラウト材を排出しながらせん断補強材4を上方に送り出す点である。
【0094】
その際、図8に示すように、せん断補強材4の下に、ローラー付き台座32を設置して、絞り装置33でホースを押し潰すようにすれば、作業性を高めることができる。
【0095】
また、図中、符号32aは、挿入する方向と直角方向にずれないようにするための凸部である。
その他の作業は、基本的に実施例3の場合と同様であるので説明を省略する。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明は、ボックスカルバートの壁、底版、頂版、フーチング等の壁状のコンクリート部材のせん断補強におけるせん断補強材の定着、特に既設のコンクリート構造体の一面側から有底のせん断補強材挿入孔を穿孔し、せん断補強材を挿入して、グラウト材で定着させるせん断補強材の定着に利用することができ、上向きあるいは横向きの施工においても下向きの施工と同様の流動性のあるグラウト材を使用でき、かつ経済性、施工性に優れるものである。
【符号の説明】
【0097】
1…コンクリート構造体、2…地盤、3…挿入孔、3a…拡径部、4…せん断補強材、4a…先端定着体、4b…後端定着体、4c…凹部、5…蓋体、6…エア抜きホース、7…グラウト材注入口、8…グラウト材、9…鞘管、10…容器、
11…せん断補強材挿入装置、11a…取付板、11b…収納部、11c…蓋体、11d…台座、11e…凸部、12…グラウト材注入口、13、14…漏出防止材、15…全ねじ棒鋼、16…逆止弁、17…モーター、
21…せん断補強材挿入装置、21a…収納用ホース、21b…底部台座、21c…ホースバンド、21d…凸部、22…フランジキャップ、23…ホースバンド、24…バルブ付き排出管、25…挿入棒、
31…せん断補強材挿入装置、32…ローラー付き台座、32a…凸部、33…絞り装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設のコンクリート構造体の一面側から有底のせん断補強材挿入孔を穿孔し、該せん断補強材挿入孔にせん断補強材を挿入して、グラウト材で定着させるせん断補強材の定着方法において、せん断補強材挿入孔を穿孔した後、グラウト材を注入する前に、前記せん断補強材挿入孔にせん断補強材と排気ホースを挿入し、前記排気ホースの先端部を前記せん断補強材挿入孔の先端部に位置させた状態で、該せん断補強材挿入孔の外周部に、グラウト材注入口と前記排気ホースを貫通させるための貫通孔を有する蓋体を密着させて固定し、前記貫通孔と該貫通孔に通した前記排気ホースの外周面との隙間を漏出防止材で塞ぎ、前記せん断補強材挿入孔を密閉した状態で、前記グラウト材注入口からグラウト材を注入し、注入圧により前記せん断補強材挿入孔内の空気を前記排気ホースから排出させ、前記せん断補強材挿入孔がグラウト材で充満した後、前記排気ホースを前記蓋体の貫通孔を通じてせん断補強材挿入孔から引き抜き、該排気ホース部分を閉塞させ、前記グラウト材が硬化した後、前記蓋体を撤去することを特徴とするせん断補強材の定着方法。
【請求項2】
前記漏出防止材は、前記排気ホースの外径と同等の内径の鞘管からなり、前記鞘管の孔内に前記排水ホースを嵌め込んだ状態で、前記蓋体内部にねじ込み、鞘管内径と前記排気ホースの外周面との隙間を塞ぐようにしたものであることを特徴とする請求項1記載のせん断補強材の定着方法。
【請求項3】
前記漏出防止材は、内側に前記排気ホースの外径より小さい内径の絞り孔を有する弾性体からなり、弾性を利用して該絞り孔内に前記排水ホースを嵌め込んだ状態で、前記蓋体の外面に密着させ、前記蓋体の貫通孔と前記排気ホースの外周面との隙間を塞ぐようにしたものであることを特徴とする請求項1記載のせん断補強材の定着方法。
【請求項4】
前記排気ホースを前記蓋体の貫通孔を通じてせん断補強材挿入孔から引き抜いた後、該排気ホースの一部が前記漏出防止材の絞り孔位置にとどまっている状態で、該排気ホースを折り曲げまたは押し潰すことで閉塞させることを特徴とする請求項3記載のせん断補強材の定着方法。
【請求項5】
既設のコンクリート構造体の一面側から有底のせん断補強材挿入孔を穿孔し、該せん断補強材挿入孔にせん断補強材を挿入して、グラウト材で定着させるせん断補強材の定着方法において、せん断補強材挿入孔を穿孔した後、該せん断補強材挿入孔の外周部に、先端部が開口し、後端部にグラウト材注入口と排気ホースを貫通させるための排気ホース貫通孔とを有し、内部にせん断補強材を収納し、さらに排気ホースを貫通させた筒状のせん断補強材挿入装置の、前記先端部を密着させて固定し、前記排気ホースの先端部を前記せん断補強材挿入孔の先端部に位置させた状態で、前記グラウト材注入口からグラウト材を注入し、注入圧により前記せん断補強材挿入孔内の空気を前記排気ホースから排出させ、前記せん断補強材挿入装置内およびせん断補強材挿入孔がグラウト材で充満した後、前記排水ホースの先端部を前記せん断補強材挿入装置内まで引き戻すとともに、前記せん断補強材を前記せん断補強材挿入孔内に押し込み、前記グラウト材が硬化した後、前記せん断補強材挿入装置を撤去することを特徴とするせん断補強材の定着方法。
【請求項6】
前記せん断補強材挿入装置は、せん断補強材が収納される収納部が長手方向に伸縮可能になっており、前記せん断補強材の前記せん断補強材挿入孔内への押し込みの際、前記収納部を縮小させながら、内部のグラウト材を排出させることを特徴とする請求項5記載のせん断補強材の定着方法。
【請求項7】
前記収納部が、前記せん断補強材が納まる大きさを有する変形自在なチューブまたはジャバラ状の筒状体からなることを特徴とする請求項6記載のせん断補強材の定着方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−185247(P2010−185247A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−31243(P2009−31243)
【出願日】平成21年2月13日(2009.2.13)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【出願人】(397027787)カジマ・リノベイト株式会社 (9)
【出願人】(501165628)株式会社ティ・エス・プランニング (7)
【Fターム(参考)】