説明

そば殻抽出物を有効成分とする脂肪肝の改善剤

【課題】そば殻抽出物を用いた新たな抗肥満用途の開発を目的とする。
【解決手段】そば殻の80%メタノール抽出物を使用した、食物繊維を含まない抽出物を長期に摂取することにより、脂肪肝の改善効果のあることを見出した。この結果、本発明のそば殻抽出物を有効成分とする脂肪肝改善剤または脂肪肝改善食品を提供することが可能になった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、そば殻より得られるエキス、特に食物繊維を含まないそば殻抽出物を有効成分とする脂肪肝改善剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
そばは、健康食品として広く知られており、ルチンやケルセチンなどのポリフェンールがそばの多様な生理作用の源であるとされている(非特許文献1,2)。そして、そば殻にも、ルチンやケルセチン、カテキン−カテキン重合体が含まれていることが報告されている(非特許文献2)。
また、そば殻のメタノール抽出物の研究から、ルチン以外に数種類のフラボノイド配糖体や多種類のポリフェノールの存在が報告されている(非特許文献1)。
そば殻抽出物のポリフェノールの用途については、過酸化脂質抑制剤やコレステロール低下剤、中性脂肪低下剤、高脂血症改善剤に使用可能であることが報告されている(特許文献1)。更に、そば殻のメタノール抽出物が血中のトリグリセリドを低下させることも報告されている(非特許文献3)。
また、そば殻のエタノール抽出物が、デンプン分解酵素の阻害活性を示し(特許文献2)、その結果として血糖値を下げる効果を示している(特許文献3)。
【0003】
そば殻の抽出物であるポリフェノールに含有されるルチン、ケルセチン又はフェルラ酸の作用効果を確認するために、マウスを用いた飼料への添加実験が行なわれた。その結果、ケルセチンは血清中のコレステロールとトリグリセリドを低下させたが、ルチンやフェルラ酸にはこれらの効果が認められなかったと報告されている(非特許文献4)。更に、ケルセチンは、肝臓での脂肪酸合成に関与する諸酵素の活性とmRNA濃度を有意に低下させたが、ルチンにはその様な作用が少ないことも報告されている。
以上のことから、ポリフェノールの中でも、ケルセチンが肝臓での脂肪酸合成を抑制し、その結果、血中のコレステロール濃度を低下させることが明らかになってきた。
【0004】
しかし、そば粉に含まれるケルセチンの含量は極めて僅かであり、ダッタンそば粉においてさえ、3〜6mg/100gの含量であることが報告されている(非特許文献5)。そこで、そば殻抽出物の中に存在する、血中のコレステロール濃度を低下させる因子が、僅かに含有されるケルセチンであるのか、或いは他のポリフェノールであるのかは未だに明確にはなっていない状況であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−218786号公報
【特許文献2】特開2005−220110号公報
【特許文献3】US2006/0029690公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】廃棄物学会論文誌、Vol.18,No.2、137−144(2007)
【非特許文献2】環境技術、Vol.34,No.7、474−479(2005)
【非特許文献3】平成20年度徳島県立工業技術センター業務報告、29頁(2009年)
【非特許文献4】J.Argric FoodChem.Vol.54,No.21,8261−8265(2006)
【非特許文献5】徳島県立工業技術センター研究報告、第11巻5−8頁(2002年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、食物繊維を含まないそば殻抽出物を用いて、脂質代謝を改善させる食品または医薬組成物を提供することを目的とする。特に、脂肪肝の改善と血清中性脂肪を減少させる効果を有する食品または医薬組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、そば殻の室温下での80%メタノール抽出物には、食物繊維が含まれていないことを確認しており、本発明で用いるそば殻抽出物はポリフェノール等の有効成分の活性を評価するのに良好な抽出物であることを明らかにしてきた。
また、本発明者らは、非特許文献3において本発明のそば殻抽出物が、2型糖尿病モデルマウスにおいて血清中性脂肪(血中トリグリセリド)を低下させることを見出している。そこで、本発明者らは更に検討を進めたところ、本発明のそば殻抽出物は、マウスの摂餌量に影響を及ぼさず、体重増加を有意に抑制して、脂肪肝改善による肝臓重量の減少をもたらすことが出来た。更に、本発明のそば殻抽出物は、肝臓での脂肪酸合成系遺伝子発現を有意に減少させることを見出した。即ち、本発明のそば殻抽出物の組成物は、転写因子SREBP1cとChREBPの発現抑制作用を有することを見出した。
一方、非特許文献4では、ケルセチンやルチンが転写因子SREBP1cの発現抑制作用を示さないことが報告されている。即ち、本発明のそば殻抽出物の有効成分には、ルチンやケルセチンとは異なる成分が存在して、上記の効果を示していることが示された。本発明者らは、以上の知見に基いて本発明を完成した。
【0009】
即ち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)そば殻抽出物を有効成分とする、脂肪肝を改善するための組成物。
(2)組成物が食品である、上記(1)に記載の組成物。
(3)そば殻抽出物が、80%メタノールで室温下にそば殻から抽出されたものである、上記(1)または(2)に記載の組成物。
(4)そば殻抽出物を有効成分とする、転写因子SREBP1cおよびChREPBの発現を抑制するための組成物。
(5)そば殻抽出物が、80%メタノールで室温下にそば殻から抽出されたものである、上記(4)に記載の組成物。
(6)そば殻抽出物を有効成分とする、転写因子SREBP1cおよびChREPBの発現異常に伴って生じる生活習慣病の予防、改善剤。
(7)転写因子SREBP1cおよびChREPBの発現異常が肝臓におけるものである、上記(6)に記載の生活習慣病の予防、改善剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明のそば殻抽出物の組成物は、2型糖尿病モデルマウスへの投与結果から、転写因子SREBP1cとChREBPの発現抑制作用を有しており、更に脂肪合成系の遺伝子であるstearoyl−CoA
desaturase1とfatty acid synthaseの発現抑制作用も有することが示された。しかし、本発明の組成物は、肝臓でのβ酸化系酵素、炎症サイトカインの発現やヒラメ筋での脂質代謝、更にはエネルギー代謝系タンパク質の発現には、有意な影響を与えないことが分かった。これらのことから、本発明の組成物は、肝臓における脂質代謝にのみ作用を発揮して、肝臓の脂肪肝を改善する、選択的な薬剤組成物である。更に、本発明の組成物は、筋肉や肝臓のエネルギー代謝に影響を与えないことから、副作用の少ない、選択的な脂肪肝改善作用を持つ組成物であることが示されている。このように本発明の組成物は、副作用の少ない脂肪肝改善剤または脂肪肝改善食品として有用なものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】2型糖尿病モデルKKAyマウスに対して、6週間そば殻抽出物を投与した群(黒い棒グラフ)とコントロール群(白い棒グラフ)の脂肪肝の状態を比較すると、そば殻抽出物投与群の方が、コントロール群(白色)より体重当りの肝臓重量が有意に減少していたことを表わす図である。
【図2】2型糖尿病モデルKKAyマウスに対して、図1と同様に行い、精巣上体脂肪の挙動の相違を見た。そば殻抽出物を投与した群(黒い棒グラフ)とコントロール群(白い棒グラフ)の精巣上皮脂肪の体重当りの重量を比較したが、そば殻抽出物投与群とコントロール群とで有意な相違が見られなかったことを表わしている図である。
【図3】6週間そば殻抽出物を投与した2型糖尿病モデルKKAyマウスの肝臓組織とコントロールの2型糖尿病モデルKKAyマウスの肝臓組織とを比較対比した図(写真)である。各写真の右下に組織の拡大図(拡大写真)を掲載した。拡大図(拡大写真)を比較すれば、コントロール群の肝臓では、顕著な脂肪蓄積(脂肪肝)が生じているが、そば殻抽出物投与群の肝臓では、脂肪蓄積(脂肪肝)がほとんど消失していた。
【図4】6週間そば殻抽出物を投与した2型糖尿病モデルKKAyマウスの精巣上体脂肪組織とコントロールの2型糖尿病モデルKKAyマウスの精巣上皮脂肪組織とを比較対比した図(写真)である。各写真の右下に組織の拡大図(拡大写真)を掲載した。これを対比して分かるように、そば殻抽出物投与群とコントロール群の間に有意な差は認められなかった。
【図5】2型糖尿病モデルKKAyマウスにおけるそば殻抽出物投与群とコントロール群の肝臓組織を採取して、定量的PCR解析を行い、転写因子SREBP1cとChREBPのmRNAの発現量の変化を対比して表わした図である。そば殻抽出物投与群では、転写因子SREBP1cの発現量に有意な低下が認められた。また、転写因子ChREPBの発現量についてもそば殻抽出物投与群では発現を抑制する傾向にあることが見出された。
【図6】図5と同様に、脂肪合成系遺伝子(SCD1、FASN)の発現量に対するそば殻抽出物の影響を示した図である。いずれの遺伝子も、そば殻抽出物の影響を受けて、発現量が抑制されている。
【図7】図5と同様に、脂肪合成系遺伝子(ACC1、ACC2)の発現量に対するそば殻抽出物の影響を示した図である。ACC2遺伝子は、そば殻抽出物の影響を受けて、発現量が抑制されている。ACC1遺伝子については、発現量が抑制される傾向にあることが示された。
【図8】そば殻抽出物がII型糖尿病モデルKKAyマウスの血清中性脂肪に与える影響を表わした図である。6週間のそば殻抽出物の投与により、血清中性脂肪(トリグリセリド)が有意に低下した。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の「そば殻抽出物」とは、メタノール溶液で室温下にそば殻から抽出されたものを言う。ソバ殻のメタノール抽出は、ソバ殻に含まれる成分(例えば、抗酸化物質であるルチン、およびプロアントシアニジン、フラボノイド、フェノール酸等のフェノール性物質等)を効率的に抽出し、かつ苦味成分といった食品への利用上好ましくない成分が抽出されないという条件を満たすメタノール濃度、抽出温度および/または抽出時間を用いて実施する。
このようなメタノールの濃度としては、80%メタノール水溶液を好適な例として挙げることができるが、上記条件を満たす濃度であれば特に限定されず、通常使用する他の濃度のメタノールを使用することもできる。
また抽出温度は、上記条件を満たす温度であれば特に限定されないが、好ましくは室温下で行なうことが挙げられる。抽出時間も同様に、上記条件を満たす時間であれば特に限定されないが、例えば30分以上、好ましくは60分とすることができる。
上記操作により得られるソバ殻メタノール抽出物は、表1のソバ殻成分の中で、主に食物繊維以外のものが抽出されている。例えば、抗酸化物質であるルチン、およびプロアントシアニジン、フラボノイド、フェノール酸等のフェノール性物質等が抽出されている。
【0013】
非特許文献4によると、ルチンやケルセチンは、転写因子SREBP1cのmRNAレベルを抑制しないことが明らかにされた(非特許文献4の図2を参照)。本発明のそば殻抽出物には、転写因子SREBP1cのmRNAの発現抑制作用があることから、ルチンやケセルチン以外のポリフェノール類か、その他の活性成分が有効成分として働いていることが示されている。また、非特許文献1には、HPLC的に、ルチンのピークの周辺に、フラボノイド配糖体と予想される成分が数種類確認されている(非特許文献1、34頁左欄下15〜下12行目)。一方、非特許文献4には、ルチンが血清の中性脂肪(トリグリセリド)を低下させる効果がないと記載されている(要約及び表1)。
本発明のそば殻抽出物は、図8に示されるように血清中の中性脂肪を低下させている。これらのことから、本発明のそば殻抽出物に含まれる、ルチンやケルセチン以外の有効成分が作用し、更には、ルチン等の成分と複合して作用することにより、脂肪肝の改善効果が得られたと考えられる。
【0014】
本発明の「脂肪肝」とは、糖分や脂質を摂りすぎて、血中に脂肪酸が増えると、脂肪酸から作られる中性脂肪が肝臓にたまるようになる。肝臓に脂肪が溜まった状態のことを脂肪肝と言う。脂肪肝になっている組織を顕微鏡で観察すると、図3のコントロール群の拡大図に示されるように、肝細胞内に球状の脂肪が異常に増えているのが分かる。
本発明の「脂肪肝を改善するための組成物」とは、脂肪肝を予防または改善、治療する組成物を言い、医薬用途もしくは健康食品用途に供する組成物のことである。本発明のそば殻抽出物以外に、医薬品や食品で一般的に使用される添加剤、増量剤、賦形剤等を適宜含んでいてもよい。
本発明の「転写因子SREBP1cおよびChREBPの発現異常に伴って生じる生活習慣病」とは、これら転写因子の過剰発現に起因する生活習慣病のことを言う。即ち、これら転写因子は脂肪合成系酵素の産生に関与するものであるため、これら脂肪合成酵素が過剰産生されると、血中の脂肪酸や中性脂肪等の脂質が増大し、その結果、肝臓等の内臓臓器への脂肪蓄積が生じ、更には糖尿病、高脂血症、高血圧、肥満、ガン等の生活習慣病に移行していくことになる。
【0015】
本発明の組成物は、医薬品などとして、錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤どの各種形態として経口摂取したり、機能性食品として、そばぼうろ、そば切り、アイスクリームなどの各種形態で経口摂取し、またはサプリメントとして、経口摂取することができる。
本発明のそば殻抽出物の使用量については、基本的には脂肪肝の改善を行なうために有効な量であり、特に制限されることはないが、通常は抽出物量として、0.001〜1g、好ましくは0.05〜1g程度が摂取されるように、1日1回ないし数回に分けて用いることが望ましい。
【実施例】
【0016】
次に実施例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0017】
(実施例1)そば殻抽出物の調製
普通そば(Fagopyrum esculentum Moench)の殻の粉末を10g秤量し、これに80%メタノールを50ml(5倍量)加えて、1時間攪拌した。濾紙(ADVANTEC社No.5B)にて吸引濾過して得られた濾液をロータリーエバポレーターにて濃縮した後、−80℃で凍結乾燥したそば殻抽出物を作製した。
なお、本発明で用いた、そば殻の粉末の組成を以下に示す。そば殻の食物繊維は、ほとんどセルロースまたはヘミセルロースであるので、メタノールでは溶出されないものであった。従って、本発明のそば殻抽出物は、食物繊維をほとんど含んでいないもの(5%以下)である。
【0018】
【表1】

【0019】
上記表1に示されるように、ケルセチンの含量は非常に少ないものであった。従って、本発明のそば殻抽出物においても、ケルセチンの含量は少なく、その影響は少ないものと考えられた。
【0020】
(実施例2)そば殻抽出物の脂質代謝への効果評価
(1)評価試験方法
2型糖尿病モデルKKAyマウス(6週令、オス)を用いて、そば殻抽出物投与群(6匹1群)、コントロール群(6匹1群)に分け、そば殻抽出物投与群には、そば殻抽出物1mg/20gマウス体重を投与し、コントロール群には、vehicleを投与した。
そば殻抽出物の1mgが100μlに含まれるように、0.1%
DMSO/PBS溶液に溶解し、超音波処理を行って、そば殻抽出物の投与液とした。この投与液を用いて、6週間一日一回の強制経口投与を行なった。
投与期間中、摂餌量と体重の測定、血液の採取を行なった。マウスは6週間後に、エーテル麻酔で屠殺し、組織標本として、肝臓、ヒラメ筋、精巣上体脂肪を採取した。採取した血液と組織は、液体窒素で直ちに凍結し、−80℃で保存した。また、組織については、リン酸緩衝液(37.5mMのリン酸二水素ナトリウム、183mMのリン酸水素二ナトリウム)の3.8%ホルムアルデヒドで固定して、H&E染色液で染色した。
【0021】
(2)肝臓と精巣上体脂肪に対するそば殻抽出物の効果
そば殻抽出物投与群とコントロール群の間で、6週間投与後の肝臓と精巣上体脂肪の組織重量を比較した。その結果を図1に示す。肝臓の場合、図1に示されるように、そば殻抽出物投与群(黒色)では、体重当りの肝臓重量が、コントロール群(白色)に比べて有意に減少していた。しかし、精巣上体脂肪においては、図2に示されるように、体重当りの精巣上体脂肪量は、そば殻抽出物投与群(黒色)とコントロール群の間で有意な差は見られなかった。
このように、そば殻抽出物は選択的に肝臓重量を減少させることが示された。
【0022】
同様に、6週間投与後の肝臓と精巣上体脂肪の組織分析をおこなった。その結果を図3に示す。肝臓の場合、そば殻抽出物投与群の肝臓では、脂肪蓄積(脂肪肝)がほとんど消失していた。一方、コントロール群の肝臓では、顕著な脂肪蓄積(脂肪肝)が生じている。また、精巣上体脂肪の場合、図4に示されるように、そば殻抽出物投与群では、脂肪細胞のサイズと脂肪細胞間への単核球細胞の浸潤の様子は、コントロール群のものと異なっていなかった。
このように、そば殻抽出物は選択的に肝臓の脂肪蓄積(脂肪肝)を減少またはほとんど消失させることが示された。
【0023】
(実施例3)転写因子SREBP1cとChREBP等の脂肪合成系遺伝子のmRNA発現に関するそば殻抽出物の抑制効果
評価試験方法(定量的PCR解析法)
実施例2で得られた、そば殻抽出物投与群とコントロール群の6週間後の各肝臓組織から、RNAiso(タカラ製)を使用して、全RNAを単離した。前記全RNAに、タカラPrimeScript RT試薬キット(タカラ製)を使用して逆転写を行なった。次いで、タカラSYBR Premix Ex Taq IIを使用して、LightCycler system(ロシュ製)で定量的リアルタイムPCRを実施した。その際、表2の遺伝子特異的プライマーを使用した。
【0024】
【表2】

【0025】
上記PCR反応後に、それぞれのPCR生成物の融解曲線分析を行なって、単一増幅が出来ているか否かを確認した。
【0026】
(2)転写因子SREBP1cとChREBPのmRNAの発現抑制
18SリボゾームRNAの産生量を基準として、それぞれ転写因子SREBP1cとChREPBのmRNAの発現量を比較した。
その結果を図5に示す。図5に示されるように、そば殻抽出物投与群において、転写因子SREBP1cのmRNAの有意な発現低下が認められた。また、転写因子ChREBPのmRNAの発現についても低下傾向にあることを認めた。同様のことは、ヒラメ筋を用いた場合においても認められた。
【0027】
(3)脂肪合成系遺伝子(SCD1、FASN、ACC1、ACC2)に関するmRNAの発現抑制
前記(2)と同様にして、上記脂肪合成系遺伝子に対するそば殻抽出物の効果を評価した。その結果を図6と図7に示す。
そば殻抽出物は、脂肪合成系遺伝子であるSCD1、FASN、ACC2に対して、有意な発現低下を与えることが認められた。また、ACC1に対しても、そば殻抽出物は、発現を低下させる傾向になることが示された。
なお、肝臓でのβ酸化系酵素、炎症サイトカインの発現や、ヒラメ筋における脂質・エネルギー代謝系タンパク質の発現には、そば殻抽出物投与群とパラメーター群の間で有意な変化は認められなかった。
【0028】
(実施例4)そば殻抽出物の糖代謝への効果評価
実施例2の評価試験で2型糖尿病モデルKKAyマウスから採取された血液サンプルを用いて、糖代謝に関する血清パラメーターの評価を行なった。
そば殻抽出物投与群とパラメーター群の血清パラメーターを対比すると、遊離脂肪酸や総コレステロールには差が見られなかったが、図8に示されるように、中性脂肪(トリグリセリド)は、そば殻抽出物投与群の方が有意に減少していた。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明のそば殻抽出物の長期投与により、2型糖尿病モデルマウスの結果から、糖代謝にはあまり影響を与えず、肝臓における脂肪酸合成系の遺伝子の発現を抑制し、その結果、効果的に脂肪肝の改善と血清中性脂肪の低下を行えることが確認できた。このことから、本発明のそば殻抽出物は、副作用の少ない脂肪肝改善剤または脂肪肝改善食品として非常に有用である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
そば殻抽出物を有効成分とする、脂肪肝を改善するための組成物。
【請求項2】
組成物が食品である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
そば殻抽出物が、80%メタノールで室温下にそば殻から抽出されたものである、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
そば殻抽出物を有効成分とする、転写因子SREBP1cおよびChREBPの発現を抑制するための組成物。
【請求項5】
そば殻抽出物が、80%メタノールで室温下にそば殻から抽出されたものである、請求項4に記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−171905(P2012−171905A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−35012(P2011−35012)
【出願日】平成23年2月21日(2011.2.21)
【出願人】(304020292)国立大学法人徳島大学 (307)
【出願人】(592197108)徳島県 (30)
【Fターム(参考)】