説明

たて糸に優しいアイを有するヘルド

【課題】たて糸の摩耗を抑えるヘルドを提供すること。
【解決手段】本発明は、ヘルド枠14のためのヘルド10に関する。ヘルド10は、射出成形により好ましくは樹脂材料で作製された、ヘルド本体11を含む。ヘルド10のアイ15は、それを通してたて糸16がたて糸方向Fに動くように設けられている。ヘルド本体11の長さ方向Lから見ると、アイ15は、向き合って配置された2つの糸支持面25により仕切られている。2つの糸支持面25は、同一の構成を有する。各糸支持面25は、第1平坦面区画42と第2平坦面区画43とを有する。たて糸方向Fから見ると、2つの面区画42、43の傾斜角δは一定であり、異なる大きさであるのが好ましい。傾斜角δは、ヘルドが使用位置にある時に、水平方向に向いている基準面Eに対して測られる。2つの面区画42、43は、それらの間に置かれた中心曲線区画44により、段差や角を作らず互いに接続され、その中心曲線区画44は糸支持面25の方向から見ると凸形状を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、織機のヘルド枠のためのヘルドに関する。ヘルド枠には、多数のヘルドが装着される。各ヘルドはアイ(糸口)を有し、ヘルドが使用位置にある時たて糸を案内する。動作中、ヘルド枠は織機内で上下に動きひ(杼)口を形成する。横糸はそのひ口内に入る。その際、たて糸は、ヘルドとともに、相当の応力を受ける。しかし、ヘルドの大きな加速又は遅延が、たて糸及びヘルドに対して、過度の摩耗又は何らかの損傷をもたらすことがあってはならない。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、帯金(ウェブ)形の金属部で作られたヘルドを開示している。金属製の帯金に開口を穴開けすることにより、アイが作られる。その結果、アイを仕切り、ヘルド本体の長さ方向に延びる2つのブリッジが形成される。横糸を動かすために、ブリッジは、金属製のウェブの面から曲げ出され、その結果、各々のブリッジの間には、たて糸方向を横断し、長さ方向を横断する方向に、それらを互いに隔てる間隔が生じる。このようなヘルドでは、アイの領域に角が形成され、これらの角は、たて糸の摩耗を潜在的にもたらすものとなる。特許文献2も同様のヘルドを開示している。
【0003】
特許文献3は、樹脂材料のヘルドを開示している。糸の長さ方向にアイを仕切る2つの糸支持面は平坦であり、ヘルド本体の外側面で曲線を描いて面の端に至る。たて糸方向の2つのブリッジ間の、それらを横断する距離は、概ね矩形の外形を有する糸支持面の寸法を規定する。その結果、ヘルドはアイの領域において比較的厚い。
【0004】
別の樹脂材料のヘルドが特許文献3に記載されている。長さ方向にアイを仕切る2つの糸支持面は、ブリッジのように構成され、薄状で、アイを仕切る2つのブリッジと概ね同じ厚さである。たて糸支持面は極めて小さい。
【0005】
他の樹脂材料のヘルドが特許文献4により知られている。曲線を描いた糸支持面が、アイを仕切りヘルド本体の長さ方向に延びる2つのブリッジの間に設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願公開第5348055号明細書
【特許文献2】ドイツ特許第4336362号明細書
【特許文献3】欧州特許第1739215号明細書
【特許文献4】中国実用新案第2723472号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来技術の内容を考慮し、本発明の目的は、たて糸の摩耗を抑えるヘルドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、ヘルドは2つの端部小穴の間に長さ方向に延びるヘルド本体を含む。ヘルド本体には、たて糸を受け入れるアイが設けられる。たて糸は、アイを通ってたて糸方向に動く。たて糸方向とは、たて糸の長さ方向から見たとき、又は関連する糸支持面を見たときに、アイ中でたて糸が延びる方向を意味するものと理解される。たて糸は、ヘルドにより糸の長さ方向の向きを変えられる。たて糸の全長に沿って見ると、このたて糸は、基本的に、ヘルド本体の長さ方向とたて糸とにより規定されるたて糸面に延びる。
【0009】
アイは、ヘルド本体の2つの糸支持面によって仕切られており、この支持面は、互いに長さ方向に間隔を置いて設けられている。各糸支持面は、ヘルド本体の第1長さ方向側と第2長さ方向側との間に延びている。2つの長さ方向側は、段差及び/又は角を作らずにアイとつながるように構成されているのが好ましい。各糸支持面は、第1平坦面区間と、第2平坦面区間とを有している。2つの面区間は、曲線を描いた中央区間を介して、段差及び/又は角を作らずに互いに接続されている。従って、2つの面区間は、糸に優しい方法で互いに接続される。2つの面区間を用いて、アイのたて糸入口側及びたて糸出口側で、たて糸の傾斜が各々の面区画に対して適切なものとなるよう事前に定めることができる。このようにして、たて糸が各々の糸支持面に置かれた時に、たて糸方向から見た糸支持面の大きさを、ヘルドのひ口開口位置に適合させることができる。従って、ひ口開口位置では、たて糸とヘルドとの間の支持面は大きなものとなり、その結果、たて糸に作用する局所的応力を減らすことができる。ヘルドの摩耗とともに、たて糸の摩耗を抑えることができる。
【0010】
この曲線を描いた中央区画の曲率を、たて糸方向に一定にすることができると都合が良い。弓状区間の外形は、従ってたて糸方向の一定の半径に従うものとなり、言うなれば円柱の円筒区間を形成するものとなる。その曲率は、アイ内でのたて糸に作用する応力が過度に大きくならないことを確実にする。
【0011】
ヘルド本体の長さ方向から見ると、このヘルド本体は、アイを仕切るための2つのブリッジを含んでおり、このブリッジは同一の外形を有するのが好ましい。本態様において、各ブリッジには、糸支持面に面する側に平坦な糸案内面が設けられる。特に、各糸案内面については、その法線ベクトルが、たて糸方向に対して横断し、長さ方向に対して横断する横方向を指すように、各糸案内面の向きが定められている。その結果、糸案内面は、たて糸方向と長さ方向とにより規定される1つの平面に延びる。たて糸方向に向きが定められている糸案内面は、糸に優しい方法で、アイを通るたて糸を案内するように配置されている。
【0012】
別の態様において、たて糸方向に測った2つのブリッジ間の長さ方向距離は、横方向距離の少なくとも5倍の長さであるが、ここで横方向距離とは、たて糸方向に直角で、長さ方向に直角な横方向で測った2つのブリッジ間の距離である。そのようにすると、ブリッジ間の領域に位置する糸支持面は、たて糸に対して、そのたて糸の長さ方向に十分に大きな支持面を提供し、たて糸に作用する局所的応力をさらに減らすことができる。アイでのヘルドの幅は、たて糸方向に直角で、長さ方向に直角に測った横方向の2つのブリッジの厚さの合計に比べ、多くて20%大きなものであってよい。その結果、ヘルドは横方向に比較的薄いものとなる。これがヘルド枠上のヘルド数が極めて多い理由である。
【0013】
さらに、各糸支持面が、ヘルド本体の第1長さ側と第1面区画との間でたて糸方向に曲線を描く第1遷移区間、及び/又は、ヘルド本体の第2長さ側と第2面区画との間でたて糸方向に曲線を描く第2遷移区間を有すると都合が良い。この結果、各糸支持面とヘルド本体の2つの外側面との間で、角のない弓状遷移が可能となる。2つの遷移区画の曲率は、異なる値を有してもよい。好適な態様において、第1及び/又は第2遷移区間の曲率は、たて糸方向から見て一定である。第1及び/又は第2遷移区間は、特に段差や角を作らずに、糸支持面の隣接する平坦面区画と、隣接する長さ方向側に遷移する。
【0014】
第1遷移区画に隣接する第1外側面の端部、及び/又は第2遷移区画に隣接する第2外側面の端部は、たて糸方向と鋭角をなすことが好ましい。特に、第1及び第2外側面の端部は、たて糸方向に対して傾いて互いに平行に同一の長さだけ延びている。遷移区画に隣接する各外側面の端部は、ヘルド本体の2つのブリッジに接続している。
【0015】
一態様において、第1外側面及び/又は第2外側面は、長さ方向から見て少なくともアイに隣接する領域において、長さ方向に平行な軸のまわりで回転させられ、第1外側面及び/又は第2外側面の法線ベクトルが、各糸支持面に隣接するたて糸方向と鋭角をなすようになっている。そのアイの領域において、本態様のヘルド本体は、長さ方向に対して平行に延びる軸のまわりで回転させられ、その結果、2つのブリッジ間にたて糸のための糸道領域を形成する。
【0016】
関連するヘルドが開口位置にある場合、たて糸方向の第1面区画の傾斜がたて糸入口角に適合し、及び/又は、たて糸方向の第2面区画の傾斜がたて糸出口角に適合していると都合が良い。たて糸入口角とは、アイにより案内されるたて糸が、ヘルドに向けて動く時に、長さ方向に直角に伸びる基準面に対してなす角度である。たて糸出口角とは、たて糸が基準面に対してなす角度であり、たて糸は、その角度で、ヘルドからセルベージに向けて動く。この構成において、たて糸に作用する局所的応力と、以て、ヘルドのたて糸支持面にも作用する局所的応力とは、極めて小さいものとなり、その結果、摩耗を最小限なものとする。たて糸入口角とたて糸出口角は、概ね同一の寸法を有している。
【0017】
たて糸案内面の反対側では、各ブリッジは平坦な外部面を有しており、それはたて糸案内面に平行に配置されているのが好ましい。平坦な外部面は、従って、たて糸方向に平行に延び、これが2つの隣接するヘルド間で動くたて糸が、外側面に沿ってスライドできる理由である。
【0018】
長さ方向に位置するヘルド本体の2つの端部に、ヘルド本体は、ヘルド支持レールを取り付けるためのヘルドの端部小穴が配置された、端部小穴領域を有している。一態様において、ヘルド本体の2つの外側面は、少なくともこれらの端部小穴領域の外において、段差や角を作らないように設計されている。その結果、ヘルドは、そのヘルドを通って動くたて糸に沿ってスライドし、これらのたて糸にヘルドが引っかかることがない。
【0019】
ヘルドは、特に、例えば射出成形などの流し込成形により作製された樹脂材料、及び/又は樹脂材料を母体とした複合材料から構成されるのが好ましい。このヘルドは、継ぎ目や接続のない一体形として、凝集材料で作製することができる。アイは、ヘルド本体によって直接仕切られているのが好ましい。例えばヘルドアイなどのヘルド本体インサートは省いてもよい。
【0020】
本発明によるヘルドの有利な態様は、従属請求項及び本願の記載の結果として生じる。記載は発明の本質的な特徴とその他の状況に限定されたものである。図面は補助的な参考として用いるべきものである。以下に、図面を引用して、実施例により本発明を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】たて糸方向を横断し、ヘルド本体の長さ方向を横断する横方向から見た、側面図で示したヘルドの概略図である。
【図2】2つの例示的なヘルドを通るたて糸の進行状況を斜視図で示した概略図である。
【図3】図2に示したたて糸の進行状況の概略側面図である。
【図4】ヘルドの例示的な実施例のアイを有する部分の斜視図である。
【図5】図4の切断線V−Vに沿った、図4のヘルドの断面図である。
【図6】図4及び図5に示したヘルドのアイの拡大図である。
【図7】長さ方向から見た、ヘルドの糸支持面の概略図である。
【図8】糸支持面の領域で切断した、切断面がたて糸方向及び長さ方向に向いた、ヘルド本体の部分図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明は、図1に概略を示したヘルド10に関する。実施例において、ヘルド10は、例えば射出成形などの流し込成形により、樹脂材料、または樹脂材料を母体とした複合材料から作製された、ヘルド本体11を含んでいる。ヘルド本体は、長さ方向Lに延び、その長さ方向端部の各々には、端部小穴(耳穴)13をもつ端部小穴領域12を有している。端部小穴13は、ヘルド枠14の各々付随するヘルド支持レールにヘルド10を取り付けるために設けられている。ヘルド本体11は、2つの端部小穴13の間の概ね中央に位置するアイ15を有する。ヘルド10の使用位置において、たて糸16はアイ15を通して案内される。たて糸方向Fの長さ方向Lから見ると、たて糸16はヘルド10のアイ15を通って動く。
【0023】
ひ口を生成するために、ヘルド枠14は、ヘルド10の使用位置において、ヘルド本体11の長さ方向Lに対応した垂直方向に動く。そのようにした際、ヘルド10のアイ15を通して案内されるたて糸16は、水平面から上方向又は下方向に曲げられる。バックレスト19又はパーシャルロッドから出発し、たて糸16は、各々関連するヘルド10に向けて延び、たて糸入口側20のヘルド10のアイ15に入る。ひ口開口位置において、たて糸16は、たて糸入口側20で水平面に対してたて糸入口角αをなしてアイ15に向けて傾いて延びている。たて糸入口側20の反対側のたて糸出口側21において、たて糸16は、反対側の垂直面に対してたて糸出口角βをなして、アイ15から出て、セルベージ22に向けて延びている。図3に概略的に示すように、ヘルド枠14が上側ひ口又は下側ひ口のどちら側にあるかに応じて、たて糸入口角αとたて糸出口角βの大きさは異なっていてもよく、例えば、上側ひ口では第1値α1、β1となり、下側ひ口では第2値α2、β2となっていてもよい。さらに、たて糸入口角α及び糸出口角βは、セルベージ22とバックレスト19との間のヘルド枠の位置の関数でもあり、この位置は、図3において、破線で描いたヘルド枠14により示されている。ここで記載されている実施例において、ヘルド枠14とバックレスト19との間の距離は、ヘルド枠14とセルベージ22との間の距離よりも長いため、たて糸入口角αはたて糸出口角βよりも小さい。
【0024】
ヘルド本体11は、少なくともその2つの端部小穴領域12の外側では、角や段差が完全にない外側面を有する。その結果、2つの隣接するヘルド10間を通る他のヘルド枠14のたて糸16は、糸に優しい方法で、ヘルド10に沿って引っかかることなくスライドできる。その結果、たて糸16に過度の摩耗を生じるリスクや、糸の切断の恐れは抑えられる。図4でヘルド本体11に描かれた線は、ヘルド本体11の外形を図示するためのものであり、角を表すものではない。
【0025】
糸に優しい方法でたて糸16をピックアップするために、アイ15は特別な構成となっている。長さ方向Lにおいて、アイ15は、互いに向き合って配置された2つの糸支持面25によって仕切られている。ヘルド10を支えるヘルド枠14が、上側ひ口又は下側ひ口のいずれかにある時には、アイ15を通して案内されたたて糸16は、2つの糸支持面25の一方によって支持される。
【0026】
アイ15は、たて糸方向Fと長さ方向Lの両方に直角な横方向Qに、互いに間隔を置いて配置された2つのブリッジ26により仕切られている。アイ15を通って動くたて糸16に面した側に、各ブリッジ26は平坦な糸案内面27を有している。ブリッジ26の糸案内面27は、たて糸方向Fと長さ方向Lとにより定義された平面内に延びている。糸案内面27の法線ベクトルNFは横方向Qを指している。ブリッジ26の糸案内面27は、ヘルド本体11の2つの糸支持面25をその間で接続している。その結果、アイ15が形成され、そのアイは、2つの糸支持面25と、ブリッジ26上の2つの糸案内面27とにより周辺が仕切られる。
【0027】
各ブリッジ16は、糸案内面27と反対の、アイ15から離れた側に面した、平坦な外側面28を有している。外側面28は糸案内面27に平行に延びている。ブリッジ26の横方向Qの厚さdは、糸案内面27と外側面28との間の長さとして測られるものであり、概ね0.4mmと0.5mmの間である。ブリッジ26の外側面28は、ヘルド本体11の外側面の一部であり、段差や角によって仕切られてはいない。
【0028】
たて糸方向Fにほぼ向かう各ブリッジの2つの長さ方向縁端29は、糸案内面27と外側面28に接続している。これらの縁端は、糸案内面27及び外部面28が、段差や角を作らずにブリッジ26の2つの長さ方向の縁端29を介して互いに接続し合うように、曲線又は弓状となっている。ヘルド本体11の、たて糸方向Fに互いに向き合う2つのブリッジ26の2つの長さ方向縁端29は、本実施例においては、図5から明らかなように、一定の半径を有している。アイ15から離れて配置されているブリッジ26の長さ方向縁端29は、いくつかの円弧及び/又は平坦区間を有していてもよい。
【0029】
アイ15を仕切る2つのブリッジ26の間には、距離DLが存在し、この距離は、2つのブリッジ26のたて糸方向Fの内幅に対応している。横距離DQは、2つのブリッジ26間を横方向Qに測った距離、すなわち、例に示すように、2つの平坦な糸支持面27の間の距離であり、この横距離DQは、ブリッジ26間の横方向Qの内幅に対応している。長さ方向距離DLは、横距離DQの少なくとも5倍、特に5倍から7倍、である。横距離DQは、例えば、0.15mmから0.2mmであってよい。長さ方向距離DLは、例えば、1mmから1.5mmであってよい。アイ15領域のヘルド本体11の幅Bは、ブリッジ26の外側面28間を横方向Qに測ったものである。ここに示す実施例において、幅Bは、1.0mmから1.5mmであってよい。アイ15のヘルド本体11の幅Bは、例えば、2つのブリッジ26の厚さdの和よりも、最大で10%だけ長いものであってよい。
【0030】
糸支持面25は、いくつかの領域に分けられている。図7及び図8には、複数の異なる領域が示されている。各糸支持面25は、ヘルド本体11の第1外側面33及び第2外側面34の間に延びている。2つの外側面33、34は、ヘルド本体11の長さ方向縁端35で、互いに離れて面し、段差や角を作らずに遷移し合う、ヘルド本体11の2つの平坦な側に配置されている。2つの外側面33、34は、常に互いに平行となるように配置されている。第1外側面33の法線ベクトルNAと、第2外側面34の法線ベクトルNBは、横方向Qを指し、端部小穴領域12まで達している。2つの外側面33、34は、アイ15に隣接し、ヘルド本体13の長さ方向中心面Mに関して回転するが、その中心面は横方向Qに対して直角に延びており、アイ15に隣接する2つの外側面33、34の法線ベクトルNAが横方向Qに対して傾き、また、たて糸方向Fに対しても傾くようになっている。法線ベクトルNAは、横方向Zと回転角γをなしており、その角度は、例えば、15°から20°である。従って、2つのブリッジ26は、ヘルド本体11の異なる側で長さ方向中心面Mに関してオフセットして配置され、その結果、2つのブリッジ26の間に横距離DQが形成される。
【0031】
アイ15の領域で、ヘルド本体11の外側面33、34の向きがこのように定められることにより、糸支持面28に隣接する第1外側面33の端部33a、又は糸支持面25に隣接する第2外側面34の端部34bは、たて糸方向Fに対して回転角γをなし、その結果、たて糸方向Fに対して傾きを有し、また、横方向Qに対しても傾きを有して延びる。
【0032】
アイ15に隣接するヘルド本体11の2つの外側面33、34の間の、2つの外側面33、34の法線ベクトルNAの方向に測った距離DSは、1つのブリッジ26の厚さdよりも長い。本実施例において、2つの外側面33、34の間の距離DSは、ブリッジ26の対角長に概ね相当する。2つの外側面33、34の間の距離DSは、2つのブリッジ26の間の長さ方向距離DLよりも短い。
【0033】
糸支持面25は、第1外側面33の端部33aと、第2外側面34の端部34aとの間で延びている。前記糸支持面は、第1外側面33に隣接する第1遷移区間40と、第2外側面34に隣接する第2遷移区間41とを含んでいる。2つの遷移区間40、41は曲線を描いている。本例において、遷移区間40、41の曲率は、たて糸方向Fに対し一定である。図8において、ヘルド本体11は、糸支持面25の領域において面で切断して示されており、前記面は、ヘルド本体11の長さ方向中心面Mに対して平行に延びている。その結果、この切断面は、たて糸方向Fと、長さ方向Lとにより規定される。切断面は、糸支持面25に隣接し、第1外側面33及び第2外側面34に対して傾いて延びている。この切断面において、2つの遷移区間40、41は、弓状の外形、例えば、円弧の外形を有しており、第1遷移区間40の円弧は半径r1を有し、第2遷移区間41の円弧は第2半径r2を有している。2つの半径r1、r2は、異なる長さ又は同一の長さを有するものであってよい。
【0034】
遷移区間40、41の外形は、アイ15の糸案内領域Aに限定されている。糸案内領域Aは、たて糸16がブリッジ26の間を横方向Qに動くことができるアイ15の領域を意味するものと理解される。本例によれば、糸案内領域Aは、ブリッジ26の2つの糸案内面27により規定された2つの面により仕切られている(図7)。本実施例において、以上及び以下で記載されている糸支持面25の形状と、その断面は、糸案内領域Aに限定されたものである。この糸案内領域Aの外では、糸案内面25は、特に、段差や角がなく、糸案内領域Aで定義された形状から変化した、面状及び/又は凸形状を有している。この糸案内領域の内部及び外部では、糸支持面25に凹みが生じることを防いでいる。
【0035】
変形実施例においては、2つの遷移区間40、41の一方の曲率は、たて糸方向Fに対して一定でなくてもよい。
【0036】
さらに、糸支持面25は、第1平坦面区間42と第2平坦面区間43とを有している。2つの面区間42、43は、異なる平面に延びている。第1平坦面区間42は、基準面Eに対して傾斜角δ1で延びており、その基準面は長さ方向Lに対して直角に延びている。第1傾斜角δ1は、たて糸方向に対して一定である。第2面区画43は、基準面Eに対して第2傾斜角δ2で傾いて延びる。第2傾斜角δ2は、たて糸方向Fに対して一定である。第1傾斜角δ1は、たて糸入口角αに対応し、第2傾斜角δ2は、たて糸出口角βに対応している。ヘルド10がひ口開口位置でヘルド枠14内に位置している時、たて糸は2つの面区画42、43に接しており、特に、2つの遷移領域40、41を通して応力を受けることはない。遷移領域40、41の曲面に向かい、たて糸16が各平坦面区画42又は43方向に接して延びるため、前記たて糸は遷移区画40、41よりも上に延び、先ず平坦面区画42、43と接するようになる。
【0037】
2つの平坦面区画42、43の間には、中央曲線区画44が存在し、この曲線区画は、段差及び角を作らずに2つの平坦区画42、43と互いに接続している。本実施例において、曲線区画44は、たて糸方向Fに一定の外形を有している。図8に示したたて糸方向Fに沿った断面図において、曲線区画44の外形は、第3半径r3を有する円弧によって形成される。本実施例において、曲線区間44の円弧の中心は、第1外側面33と第2外側面34の間の中心面Xの外側に位置している。
【0038】
従って、糸支持面25の外形は、2つの外側面33、34の間の中心面Xに関して非対称である。しかし、変形実施例において、外形は中心面Xに関して対称であってもよい。
【0039】
全体として、糸支持面25は、段差や角を作らないように設計されている。たて糸方向Fから見ると、前記面は、これらの区画での一定の傾斜又は一定の曲率を示しており、この場合、各々、接線方向の遷移が生じている。本発明によれば、糸支持面の外形輪郭は、たて糸方向Fに対してあらかじめ規定されており、ヘルド本体11の外形面33、34の法線ベクトルNAに対して傾いており、前記面は糸支持面25に隣接している。
【0040】
糸支持面25とその区画40、41、42、43、44の記載された曲率又は傾斜は、上述したように少なくとも糸案内領域Aにおいて備えられており、したがって糸案内領域Aの外ではそれらの値から変化してもよい。
【0041】
本発明は、ヘルド枠14のためのヘルド10に関する。ヘルド10は、射出成形により好ましくは樹脂材料で作製された、ヘルド本体11を含む。ヘルド10のアイ15は、それを通してたて糸16がたて糸方向Fに動くように設けられている。ヘルド本体11の長さ方向Lから見ると、アイ15は、向き合って配置された2つの糸支持面25により仕切られている。2つの糸支持面25は、同一の構成を有する。各糸支持面25は、第1平坦面区画42と第2平坦面区画43とを有する。たて糸方向Fから見ると、2つの面区画42、43の傾斜角δは一定であり、異なる大きさであるのが好ましい。傾斜角δは、ヘルドが使用位置にある時に、水平方向に向いている基準面Eに対して測られる。2つの面区画42、43は、それらの間に置かれた中心曲線区画44により、段差や角を作らず互いに接続され、その中心曲線区画44は糸支持面25の方向から見ると凸形状を有する。
【符号の説明】
【0042】
10 ヘルド
11 ヘルド本体
12 端部小穴領域
13 端部小穴
14 ヘルド枠
15 アイ(糸口)
16 たて糸
19 バックレスト
20 たて糸入口側
21 たて糸出口側
22 セルベージ
25 糸支持面
26 ブリッジ
27 糸案内面
28 外側面
29 フィラーの長さ方向縁端
33 第1外側面
33a 第1外側面端
34 第2外側面
34a 第2外側面端
35 ヘルド本体の長さ方向縁端
40 第1遷移区画
41 第2遷移区画
42 第1面区画
43 第2面区画
44 曲線区画
α たて糸入口角
α1 たて糸入口角の第1値
α2 たて糸入口角の第2値
β たて糸出口角
β1 たて糸出口角の第1値
β2 たて糸出口角の第2値
γ 回転角
δ1 第1傾斜角
δ2 第2傾斜角
B ヘルド本体幅
d ブリッジ厚さ
DL 長さ方向距離
DQ 横距離
DS 外側面間距離
E 基準面
F たて糸方向
L 長さ方向
M 長さ方向中心面
NA 外側面の法線ベクトル
NF 糸案内面の法線ベクトル
r1 第1半径
r2 第2半径
r3 第3半径
Q 横方向
X 中心面


【特許請求の範囲】
【請求項1】
長さ方向(L)に延び、たて糸(16)を受け入れるために設けられたアイ(15)を有し、当該たて糸はたて糸方向(F)に当該アイ(15)を通って動く、ヘルド本体(11)を含む、ヘルド枠(14)のためのヘルド(10)であって、
当該アイ(15)は、当該ヘルド本体(11)に互いに距離をおいて当該長さ方向(L)に存在する2つの糸支持面(25)により仕切られ、当該糸支持面は、当該ヘルド本体(11)の第1外側面(33)と第2外側面(34)との間に延び、
各当該糸支持面(25)は、曲線区画(44)により段差や角を作らずに互いに接続された第1平坦面区画(42)と第2平坦面区画(43)とを有する
ヘルド。
【請求項2】
中央の前記曲線区間(44)の曲率(1/r3)は、前記たて糸方向(F)に対して一定である、ことを特徴とする請求項1に記載のヘルド。
【請求項3】
前記アイ(15)は、前記ヘルド本体(11)の前記長さ方向(L)に延びる2つのブリッジ(26)により更に仕切られ、当該ブリッジの各々は平坦な糸案内面(27)を有する、ことを特徴とする請求項1又は2に記載のヘルド。
【請求項4】
前記糸案内面(27)の法線ベクトル(NF)は、前記たて糸方向(F)を横断し、前記長さ方向(L)を横断する横方向(Q)に向いている、ことを特徴とする請求項3に記載のヘルド。
【請求項5】
前記たて糸方向に測った2つの前記ブリッジ(26)の長さ方向距離(DL)は、前記たて糸方向(F)に直角で、前記長さ方向(L)に直角な、前記横方向(Q)に測った2つの前記ブリッジ(26)の横距離(DQ)の少なくとも5倍の長さである、ことを特徴とする請求項3又は4に記載のヘルド。
【請求項6】
前記アイ(15)上の前記ヘルド(10)の幅(B)は、前記たて糸方向(F)に直角で、前記長さ方向(L)に直角な横方向(Q)に測った2つの前記ブリッジ(26)の厚さの合計に比べ、多くても20%だけ大きい、ことを特徴とする請求項2乃至5のいずれか1に記載のヘルド。
【請求項7】
各前記糸支持面(25)は、第1の前記糸支持面が前記第1外部面(33)と前記第1面区画(42)との間の第1遷移面(40)であって、前記たて糸方向(F)に曲線を描く当該第1遷移面を、及び/又は、第2の前記支持面が前記第2外部面(34)と前記第2面区画(43)との間の第2遷移区間(41)であって、前記たて糸方向(F)に曲線を描く当該第2遷移面を有する、ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1に記載のヘルド。
【請求項8】
前記第1遷移区画(40)に隣接する前記第1外側面(33)の端部(33a)、及び/又は、前記第2遷移区画(41)に隣接する前記第2外側面(34)の端部(34a)は、前記たて糸方向(F)と鋭角をなす、ことを特徴とする請求項7に記載のヘルド。
【請求項9】
前記第1遷移区間(40)の曲率(1/r1)及び/又は前記第2遷移区間(41)の曲率(1/r2)は、前記たて糸(16)が前記ブリッジ(26)間を前記アイ(15)中で横方向(Q)に動くことができる少なくとも1つの糸案内領域(A)において、前記たて糸方向(F)に対して一定である、ことを特徴とする請求項7又は8に記載のヘルド。
【請求項10】
各前記糸支持面(25)に隣接する前記第1外側面(33)及び/又は前記第2外側面(34)の法線ベクトル(NA)は、前記たて糸方向(F)と鋭角をなす、ことを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1に記載のヘルド。
【請求項11】
関連する前記ヘルド枠(14)のひ口開口位置において、前記第1面区画(42)の傾斜角(δ1)は、たて糸入口角(α)に対応し、及び/又は、前記第2面区画(43)の傾斜角(δ2)は、たて糸出口角(β)に適応している、ことを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1に記載のヘルド。
【請求項12】
各前記ブリッジ(26)は、前記糸案内面(27)の反対側に、平坦な外側面(28)を有し、当該外側面は、前記糸案内面(27)に平行に向いている、ことを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1に記載のヘルド。
【請求項13】
前記第1外側面(33)及び/又は前記第2外側面(34)は、少なくとも端部小穴領域(12)の外では、段差や角を作らないようにっ構成されている、ことを特徴とする請求項1乃至12のいずれか1に記載のヘルド。
【請求項14】
前記アイ(15)は前記ヘルド本体(11)により直接仕切られている、ことを特徴とする請求項1乃至13のいずれか1に記載のヘルド。
【請求項15】
前記ヘルド(10)は樹脂製のヘルドである、ことを特徴とする請求項1乃至14のいずれか1に記載のヘルド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−87410(P2013−87410A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−224441(P2012−224441)
【出願日】平成24年10月9日(2012.10.9)
【出願人】(598132646)グロツ・ベッケルト コマンディートゲゼルシャフト (77)