説明

つや消し塗膜の形成方法

【課題】自動車外板等の塗装において、特殊な材料を用いることなく、安価な材料でつや消し効果を付与することができ、また、従来の塗装ブース等の設備を利用して、低コストで塗装することができるつや消し塗膜の形成方法を提供する。
【解決手段】着色ベース1上にクリヤ2を塗装する工程と、セッティング工程と、焼付け工程とを備え、前記クリヤとして、酢酸ブチルの蒸発速度を100としたときの相対蒸発密度が1以下、かつ、溶解パラメータ値が7〜10であるシンナーを、クリヤ塗料樹脂に対して15〜70%添加したものを用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車外板等の塗装において、塗面のつや消し効果に優れたつや消し塗膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車(乗用車に限らず、二輪車、バス、トラック等も含む)の外板表面は、一般に、光沢性があり、つやのある塗膜で仕上げられているが、近年、新たな意匠性の付与を目的として、つや消し塗装のニーズがある。
従来、このようなつや消し塗装の方法としては、塗料にシリカ粉末を配合することが行われていた。しかしながら、シリカ粉末は、塗膜表面に浮きやすいため、塗面のポリッシュ時に脱落しやすく、つや消し効果の持続性や塗膜の耐久性、耐薬品性に劣るという課題を有していた。
【0003】
これに対しては、塗膜の最表層を特殊なつや消しクリヤで塗装する方法が提案されている。例えば、特許文献1には、フッ素系樹脂とアミノ樹脂とガラス粉末を主成分とするクリヤ塗料を用いることが記載されている。
図2に、この方法により形成されたつや消し塗膜を模式的に示す。図2に示した塗膜は、自動車外板等に塗装された着色ベース11の表面をクリヤ塗料12により塗装したものである。このクリヤ塗料12は、フッ素系樹脂とアミノ樹脂とを含むつや消しクリヤ12aに、つや消し剤としてガラス粉末12bが添加されているものである。このガラス粉末12bが光を拡散反射することにより、塗面の光沢性を弱め、つや消し効果を発現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−105825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載されたような塗装方法においては、つや消し剤としてガラス粉末が前記つや消しクリヤに添加されているが、このようなつや消し剤の添加は、上述したシリカ粉末の場合と同様に塗面から脱落し、耐久性や耐薬品性等の低下がすることが懸念される。このため、耐久性の低下を担保すべく、フッ素系樹脂等を含む特殊なつや消しクリヤが用いられている。
このように、つや消しのために、特殊なクリヤを用いたり、また、ガラス粉末を添加したりすることは、つや消し塗装において大幅なコストアップとなる。
また、前記つや消しクリヤに含まれるフッ素系樹脂成分が、飛散して他の着色塗料等に混入した場合、該塗料の塗布性に影響を及ぼすこととなるため、塗装ブース自体も、通常の着色塗装の場合とは別に、専用に設けなければならず、実用性に乏しい。
【0006】
したがって、つや消し塗装の実現化においては、材料コストを大幅に上昇させることなく、かつ、作業性や設備コストの観点からも、従来の塗装ブースを利用して行うことができることが求められる。
【0007】
本発明は、上記技術的課題を解決するためになされたものであり、自動車外板等の塗装において、特殊な材料を用いず、かつ、塗膜の耐久性等を低下させることなく、つや消し効果を付与することができ、また、従来の塗装ブース等の設備を利用して、低コストで塗装することができるつや消し塗膜の形成方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るつや消し塗膜の形成方法は、着色ベース上にクリヤを塗装する工程と、セッティング工程と、焼付け工程とを備え、前記クリヤとして、酢酸ブチルの蒸発速度を100としたときの相対蒸発速度が1以下、かつ、溶解パラメータ(SP)値が7〜10であるシンナーが、クリヤ塗料樹脂に対して15〜70%添加されているものを用いることを特徴とする。
クリヤ塗装において、このようなシンナーを用いることにより、着色ベース表面がクリヤ塗面に転写され、つや消し効果が得られる。
【0009】
前記シンナーは、ジエチレングリコールモノブチルアセテートであることが好ましい。
これを用いれば、つや消し塗装のためのクリヤを単独の溶剤で簡便に調製することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るつや消し塗膜の形成方法によれば、自動車外板等のつや消し塗装において、所定のシンナーを用いることにより、従来のクリヤ塗料樹脂をそのまま用いることができ、塗膜の耐久性や耐薬品性を低下させることなく、簡便につや消し効果を付与することができる。
また、本発明によれば、従来の塗装ブース等の設備を利用することができるため、低コストでのつや消し塗装が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係るつや消し塗膜の模式的な断面図である。
【図2】従来のつや消し塗膜の模式的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を、より詳細に説明する。
本発明に係るつや消し塗膜の形成方法は、着色ベース上にクリヤを塗装する工程と、セッティング工程と、焼付け工程とを備えている。そして、前記クリヤ塗装工程においては、クリヤとして、酢酸ブチルの蒸発速度を100としたときの相対蒸発速度が1以下、かつ、SP値が7〜10であるシンナーを、クリヤ塗料樹脂に対して15〜70%添加したものを用いる。
すなわち、本発明は、クリヤ塗装工程において、上記のようなシンナーを用いてクリヤを調製することを特徴とするものであり、これにより、着色ベース表面がクリヤ塗面に転写され、つや消し効果が簡便に得られる。
【0013】
ここで、「つや消し」とは、つやがないもの、すなわち、目視において塗面の光沢感がないものを言うが、本発明でいう「つや消し」の基準としては、塗面の光沢値が、JIS K 5600−4−7:1999に基づく60°鏡面反射率で50%以下であるものを指すものとする。
【0014】
図1に、本発明に係るつや消し塗膜の断面図を示す。
図1に示すように、本発明に係るつや消し塗膜は、着色ベース1の表面に塗装されたクリヤ2の表面に着色ベース表面が転写されたベース転写層3が形成されている。このようにベース転写層3が塗面に浮き上がってくることにより、別途、つや消し剤を添加することなく、塗膜のつや消し効果が得られ、また、通常のクリヤ塗膜と同等の耐久性や耐薬品性等の塗膜性能を保持することができる。
【0015】
従来の光沢を付与するクリヤ塗装のためのクリヤにおいては、シンナーとして、クリヤ塗料樹脂を溶解及び希釈しやすく、粘度調整が容易であり、かつ、塗装後は揮発しやすく、平滑な塗面を形成するのに適しているものが用いられる。一般的には、酢酸ブチルの蒸発速度と同等又はそれ以下のものが用いられ、例えば、酢酸エチルや酢酸ブチル等の混合有機溶剤が用いられている。
これに対して、本発明においては、酢酸ブチルの蒸発速度を100としたときの相対蒸発速度が1以下であるシンナーを用いる。
このように、蒸発速度が相対的に遅いシンナーを用いると、クリヤ塗装後、塗膜からのシンナーの揮発が遅くなる。このため、セッティング中の塗膜は、従来のクリヤ塗装に比べて粘度が低い状態であり、塗膜の硬化収縮時に、クリヤ塗装の下地である着色ベースの表面が転写される。
【0016】
自動車外板等に用いられるクリヤ塗料樹脂は、一般に、ウレタン系樹脂であり、1液型又は2液型のいずれであってもよい。
シンナーは、このようなクリヤ塗料樹脂を溶解し、希釈するためのものであるため、該クリヤ塗料樹脂のSP値に近似したSP値を有している必要がある。また、着色ベース全体を溶解することなく、着色ベースの表面のみを転写することができる程度の溶解力を有していることが求められる。
したがって、前記シンナーのSP値は、クリヤ塗料樹脂として主に用いられるウレタン系樹脂のSP値に近い、7〜10であることが好ましい。本発明においては、このような範囲内で、クリヤ塗料樹脂の具体的な種類に応じて、SP値を調整したシンナーを用いる。
前記シンナーは、単独の溶剤であっても、複数種類の溶剤を混合したものであってもよい。
【0017】
また、前記シンナーの添加量は、クリヤ塗料樹脂に対して15〜70重量%とする。
前記添加量が15重量%未満の場合、クリヤの粘度を十分に低下させることが困難であり、セッティング工程及び焼付け工程において、着色ベース表面が十分に転写されず、十分なつや消し効果が得られない。一方、前記添加量が70重量%を超える場合、シンナー量が多すぎ、セッティング工程でシンナーを十分に蒸発させるための効率が低下し、また、塗膜厚さの制御も困難となる。
【0018】
前記シンナーとしては、例えば、ジエチレングリコールモノブチルアセテート、トリプロピレングリコールn−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールn−ブチルアセテート等が挙げられるが、特に、ジエチレングリコールモノブチルアセテートを用いることが好ましい。
これによれば、各種溶剤を混合しなくても、単独で簡便に、本発明に係るつや消し塗装に好適なクリヤを調製することができる。
【0019】
本発明におけるつや消し塗装は、上記のように、着色ベースを塗装した後、クリヤ塗装工程、セッティング工程及び焼付け工程を経るものであり、通常のクリヤ塗装と同様の工程により行うことができる。したがって、従来のクリヤ塗装と比較して、作業工程が煩雑化することはない。
【0020】
前記クリヤを塗布する下地である着色ベースは、熱硬化性樹脂と着色顔料とを主成分とした塗料による塗装面であることが好ましい。
前記熱硬化性樹脂の種類は、特に限定されるものではなく、反応硬化型のアクリル樹脂、メラミン樹脂やアルキド樹脂等、自動車外板等の着色塗料において一般的に用いられているものでよい。
【0021】
前記着色ベースの塗装は、通常、金属やプラスチック製の自動車外板等に、必要に応じて下処理、下塗り及び中塗りを施した後に行われる。
前記着色ベースの塗膜厚さは、特に限定されないが、一般に、硬化後の厚さが10〜30μmとなるようにすることが好ましい。
一方、クリヤ塗膜の厚さは、塗膜のつや消し効果を十分に得るためには、硬化後の厚さが15〜40μmとなるようにすることが好ましい。
【0022】
前記セッティング工程は、クリヤ塗装後、後の焼付け工程における焼付け温度よりも低い温度(通常は室温)で放置し、塗膜中のクリヤ塗料樹脂が適正な濃度になるまでシンナーを蒸発させる工程である。
セッティング条件は、使用するシンナーの種類に応じて適宜設定されるが、一般に、セッティング温度は20〜30℃、セッティング時間は5〜30分間であることが好ましい。
セッティング温度が低すぎたり、セッティング時間が短すぎたりする場合は、ワキ等の塗膜欠陥が発生することがある。一方、セッティング温度が高すぎたり、セッティング時間が長すぎたりする場合には、クリヤの粘度が高くなりすぎ、焼付け時に平滑な塗膜が得られないおそれがある。
なお、本発明に係る方法においては、従来よりも蒸発速度が遅いシンナーを用いるため、塗布したクリヤは、粘度がより低い状態のまま、焼付け工程に移る。
【0023】
次の焼付け工程においては、加熱することにより、クリヤ塗料樹脂の重合反応を促進し、硬化させて、緻密で強固な塗膜を形成させる。
焼付け条件は、クリヤ塗料樹脂やシンナーの種類に応じて適宜設定されるが、一般に、焼付け温度は10〜160℃、焼付け時間は10〜60分間であることが好ましい。
焼付け温度が低すぎたり、焼付け時間が短すぎたりする場合は、耐久性等の塗膜性能が十分に得られない。一方、焼付け温度が高すぎたり、焼付け時間が長すぎたりする場合は、塗膜が変色したり、塗面が荒れたりするおそれがある。
【0024】
本発明に係る方法によって形成されるつや消し塗膜は、ワックスや研磨剤等を用いてポリッシュした場合においても、つや消し効果は低下せず、また、耐久性や耐薬品性等の塗膜性能も、通常のクリヤ塗装の場合と同等である。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を実施例に基づきさらに具体的に説明するが、本発明は下記実施例により制限されるものではない。
[実施例1]
鋼板上に、黒色の着色塗料(塗料樹脂:ポリエステル・メラミン系、着色顔料:カーボンブラック)を塗布し、塗膜厚さ15μmの着色ベースを形成した。
その上に、クリヤ塗料を塗布した。このクリヤ塗料には、2液ウレタン硬化型アクリル樹脂を用い、シンナーとしてジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートを前記クリヤ塗料樹脂に対して30重量%添加して用いた。
そして、25℃で10分間セッティングした後、160℃で焼付けを行い、厚さ30μmのクリヤ塗膜を形成した。
【0026】
このクリヤ塗膜の塗面について、以下に示すような性能評価を行った。
<60°鏡面反射率>
JIS K 5600−4−7:1999に基づいて測定した。
<仕上がり外観>
目視により判断した。
<耐酸性>
JIS K 5572に基づいて、硫酸溶液に24時間浸漬した後の変化を観察した。
<耐水性>
JIS K 5572に基づいて、水に18時間浸漬した後の変化を観察した。
<促進耐候性>
JIS K 5572に基づいて、キセノンランプ式耐候試験機にて通算240時間照射した後の変化を観察した。
【0027】
上記評価の結果、60°鏡面反射率は40%であり、外観も良好であり、耐酸性、耐水性及び促進耐候性のいずれの評価試験においても、ほとんど変化は見られなかった。
また、塗膜断面を顕微鏡観察したところ、着色ベースの表面が、クリヤに転写されていることが確認された。
【0028】
[比較例1]
実施例1と同様にして形成した着色ベース上に、2液ウレタン硬化型アクリル樹脂に従来のシンナーを添加したクリヤ塗料を塗布した。このクリヤ塗料に用いたシンナーは、ウレタン系クリヤ塗料樹脂に対して酢酸ブチル7.5重量%、エチル−3−エトキシプロピオネート7.5重量%、酢酸エチル15重量%とした。なお、酢酸ブチルの蒸発速度を100としたとき、エチル−3−エトキシプロピオネートの相対蒸発速度は12、酢酸エチルの相対蒸発速度は615である。
そして、25℃で10分間セッティングした後、150℃で焼付けを行い、厚さ30μmのクリヤ塗膜を形成した。
【0029】
このクリヤ塗膜の塗面について、実施例1と同様にして60°鏡面反射率を測定したところ、95%であった。
また、塗膜断面を顕微鏡観察したところ、着色ベース層とクリヤ層とは完全に区分けできる状態であることが確認された。
【0030】
[比較例2]
実施例1と同様にして形成した着色ベース上に、フッ素系樹脂80重量部及びアミノ樹脂20重量部とを含むつや消しクリヤに、つや消し剤としてガラス粉末が80重量部添加されているクリヤ塗料を塗布した。
そして、25℃で10分間セッティングした後、140℃で焼付けを行い、厚さ30μmのクリヤ塗膜を形成した。
【0031】
このクリヤ塗膜の塗面について、実施例1と同様にして、各種評価を行った。
その結果、60°鏡面反射率は41%であり、外観も良好であり、また、促進耐候性試験の結果も良好であったが、耐酸性及び耐水性の評価試験において、塗膜がやや白化していることが認められた。
【0032】
以上から、クリヤ塗装において、上記実施例1に示すようなシンナーを用いることにより、着色ベース表面がクリヤ塗面に転写され、つや消し効果が得られ、かつ、塗膜の耐久性や耐薬品性にも優れていることが認められた。
【符号の説明】
【0033】
1,11 着色ベース
2,12 クリヤ
3 ベース転写層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色ベース上にクリヤを塗装する工程と、セッティング工程と、焼付け工程とを備え、前記クリヤとして、酢酸ブチルの蒸発速度を100としたときの相対蒸発速度が1以下、かつ、溶解パラメータ値が7〜10であるシンナーが、クリヤ塗料樹脂に対して15〜70%添加されているものを用いることを特徴とするつや消し塗膜の形成方法。
【請求項2】
前記シンナーが、ジエチレングリコールモノブチルアセテートであることを特徴とする請求項1記載のつや消し塗膜の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−143671(P2012−143671A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−2032(P2011−2032)
【出願日】平成23年1月7日(2011.1.7)
【出願人】(000157083)関東自動車工業株式会社 (1,164)
【Fターム(参考)】