説明

とくに生体液を濾過するための多孔性ウェブ

流体を濾過するための多孔性ウェブは、異方性特性を有する繊維材料からなる複数の隣り合う層を備えている。この多孔性ウェブは、少なくとも2つの隣り合う層のベクトル特性の異方性の方向が、0°より大きい角度差、好ましくは少なくとも8°の角度差で、互いに相違していることを特徴とする。この多孔性ウェブは、血液及び血液成分などの生体液を濾過するためのフィルタ部材としてとくに有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルタ部材(filter element)ないしは濾過部材として有用な多孔性ウェブ(porous web)と、該多孔性ウェブを備えたとくに生体液を濾過するためのフィルタ装置(filter device)ないしは濾過装置とに関するものである。
【0002】
本発明は、ある特定の実施態様では、血液及び血液成分を濾過するためのフィルタ装置に関するものである。ただし、本発明を、このような特定の実施態様に限定することを意図しているわけではない。
【背景技術】
【0003】
従来、血液及び血液成分の濾過、とくに白血球の除去には、複数の隣り合う溶融吹き付けウェブ(melt-blown web)又は溶融吹き付け層を備えた多孔性部材が用いられている。
【0004】
溶融吹き付け処理法は、ほぼ50年前から不織布の製造に大々的に用いられているが、この処理法においては、熱可塑性の繊維形成ポリマが、数百の小さいオリフィスを備えている直線状の金型を通って押し出される。金型の左側及び右側から抜け出る高温の空気の流れが、押し出されたポリマの流れを急速に減衰させ、極めて微小径の繊維を形成する。
【0005】
この後、流れが減衰させられた繊維は、高速の空気によって収集スクリーンに吹き付けられる。これにより、単一の集合的な工程により、微細な自己結合した不織の溶融吹き付けウェブを形成することができる。繊維の確率的な空間的堆積に起因して繊維の網目状の結合が生じている溶融吹き付けウェブは、一般に、無秩序(ランダム)に分布させられた繊維によって構成されているものと考えられてきた。
【0006】
しかし、近年、物理的な観点から、多穴式の溶融吹き付け処理法が一部で研究されている。この処理法は、例えばコンピュータ流体力学(CFD)などの数学/物理モデル化法及び画像処理技術の効果的な助力により行われている。
【0007】
実際、溶融吹き付けウェブは方向性ないしは配向性(orientation)を有している。この方向性は、材料のレオロジー(流動特性)や、溶融吹き付け装置の仕様(とくに、吸引手段、ベルト及び金型ブロックの仕様)や、装置の装備ないしは設定などに依存し、さらに運転条件、とくに空気力学条件及び熱条件に依存する。
【0008】
商業的な溶融吹き付け処理法においては、2つのよく知られた方向が存在する。これらは、流れ方向(MD:Machine Direction)及び交差方向(CD:Cross Direction)と称されている。ここで、流れ方向は、製造時におけるロールの長手方向に沿った時間とともに進む方向である。また、交差方向は、溶融吹き付け流線の幅方向であり、「ロール幅方向」又は「ロール高さ方向」とも呼ばれている。
【0009】
最終的な結果に影響を及ぼす溶融吹き付け処理法のすべての変数によって与えられる演繹的なウェブの異方性を解明することは困難であるとしても、不織ウェブが製造された後には、ウェブの異方性の態様を推定することは比較的容易である。
【0010】
動力計についての国際的な基準の1つ(例えば、EDANA20.2−89基準)により実施することができる、非常に単純な張力強度試験は、2つのパラメータにより、ウェブの方向性について明確な示唆を与える。これらのパラメータは、MD及びCDの両方における任意の材料について測定される、最大荷重がかけられた時における伸び(破断点伸び)と、ウェブの破壊が生じる荷重(破壊強度)とである。上記引張特性の値の比MD/CDは、一般に、繊維の方向性の指標であると理解されている。
【0011】
ウェブの微視的な構造についてのより最近の研究によれば、異なるパラメータと繊維断面積の比MD/MCもまた有用であるということが確認されている。ウェブの異方性を把握するためのより詳しい方法は、例えば非特許文献1に記載されている。
【0012】
任意のウェブの破壊荷重は、例えば高温カレンダー加工により修正することができるが(すなわち、繊維と繊維の接触部の数及び材料の固有の厚さを修正する)、MD及びCDは、異なる破断点伸びにより明らかに区別可能である。
【0013】
また、繊維の方向性分布関数(ODF:Orientation Distribution Function)を予測するための技術として有効なフラウンフォーファー回折法も提案されている(非特許文献2参照)。
【非特許文献1】ランダル・R・ブレッセ(テネシー州、クノクシビレ、テネシー大学材料科学・工学科)、ユーゼア・A・クレシ(ジョージア州、バッドフォード、ジェンテックス株式会社)著「溶融吹き付けウェブ構造についての処理条件の影響:第1部−DCD」、INJ、2004年春発行
【非特許文献2】ラオル・ファラーら(米国、ノースカロライナ州、レイライ、ノースカロライナ州立大学、繊維単科大学)著「ロボットの溶融吹き付け集合システムにより形成される溶融吹き付け構造の研究:繊維の方向性についての処理パラメータの影響」、INJ、2002年冬発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
ウェブ内における繊維の異方性(anisotropy)は、ウェブの細孔構造(「細孔の形状」)に直接的に関連している。また、最近の研究によれば、不織布の濡れ特性(wetting properties)は、ウェブ構造の異方性によって著しく影響を受けるということが証明されている。
【0015】
本発明は、不織布ウェブ、とくに溶融吹き付けウェブの異方性特性(anisotropy properties)を有効に利用して、良好な濾過性能及び/又は吸着性能を備えたフィルタ部材として有用な複数層ウェブ(多層ウェブ)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
かくして、本発明の要旨は、異方性特性を有する繊維材料からなる複数の隣り合う層を備えている、流体を濾過するための多孔性ウェブであって、少なくとも2つの隣り合う層の所定の1つのベクトル特性(vectorial property)の異方性の方向(anisotropic direction)が、0°より大きい角度差、好ましくは少なくとも8°の角度差で互いに相違していることを特徴とする多孔性ウェブを提供するものである。
【0017】
また、本発明は、前記の1つ又は複数の複数層の多孔性ウェブを備えているインライン型(配管組み込み型)のフィルタ装置(濾過装置)を提供する。さらには、生体液を濾過するための、とくには血液又は血液成分を生体外で濾過するための、より特定すれば血液又は血液成分から白血球を除去するための、上記フィルタ装置を用いる方法を提供する。
【0018】
本発明の要旨及び本発明の付加的な好ましい特徴は、添付の請求の範囲に記載されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
添付の図面において、図1〜図4は、それぞれ、本発明の実施例1〜4に係る複数層の多孔性ウェブの構造を示す模式的な斜視図である。しかしながら、本発明は、添付の図面及び本明細書に記載された実施の形態に限定されるものと解釈すべきでないということが理解できるであろう。
【0020】
本発明によれば、不織布層は、少なくとも2つの隣り合う層の異方性の方向がずれる(振れる、食い違う)ように、すなわち整列しないように積層されている。異方性の方向を決定する上において起こりうる経験的(実験的)な誤差を考慮すれば、少なくとも2つの隣り合う層の異方性の方向は、少なくとも8°は相違しているのが好ましい。
【0021】
このようにして、これらの層の間に、より不規則な(erratic)流れが生成される。この流れは、流体中の粒子と吸着性をもつウェブとの間の衝突の総数を増加させる。その結果、粒子のより効果的な濾過/吸着が生じ、粒子が除去される。この作用は、とくに、白血球を除去するためのフィルタの場合には有利である。ここで、吸着の機構(メカニズム)は総括的なフィルタの性能に関して重要な役割を担う。なぜなら、よく知られているように、白血球の細胞の寸法は細孔の寸法よりも大きいので、白血球の大部分は、濾過されるのではなく、フィルタウェブの表面に吸着されるからである。
【0022】
ここで、異方性の方向は、以下のように定義される。すなわち、この方向は、ウェブの面(広がり面)内における方向であり、この方向に沿って選択されたベクトル特性が最大値をもつような方向である。選択されたベクトル特性は、好ましくはウェブの引張特性(tensile property)であり、最も好ましくはウェブの破断点伸び(elongation at break)である。しかしながら、その他のベクトル特性、例えば前記のような繊維の断面積を選択してもよいということが理解できるであろう。
【0023】
より特定すれば、異方性の方向は、以下で特徴を示すような複数層のウェブの各層に対して規定することができる、ベクトルのODF(Orientation Distribution Function:方向性分布関数)の方向である。
【0024】
ベクトルは、層表面と平行なXY平面内に存在する。
【0025】
[応用の点(point of application)]
ベクトルが存在している層の幾何学的中心である。ベクトルを応用する点は、実際には重要でないということを理解すべきである。なぜなら、本発明の基礎となっている理論(原理)は、XY平面又は平行面への移動(translation)によって影響されないからである。
【0026】
[方向(direction)]
ベクトルの方向は、選択されたベクトル特性が該ベクトルに沿って最大値をもち、ODFベクトルを規定(設定)する上において最大の破断点伸びが生じる方向であるのが好ましい。
【0027】
[方向性(orientation)]
ベクトルの方向性は重要ではない。なぜなら、本発明の基礎となっている理論はπ(180°)の回転又はその繰り返しによって影響されないからである。
【0028】
[長さ(length)]
ベクトルの長さは、選択された特性、好ましくは破壊荷重(breaking load)の比MD/CDに比例するように設定することができる。
【0029】
溶融吹き付け層は、本発明に係るフィルタ及び複数層ウェブに好ましい材料を構成している。それらは、コンベアベルト又は回転ドラムの上に集められたときには、上記の基準によれば、異方性の方向を規定することができる平坦なウェブであると考えるべきである。しかしながら、本発明の理論は、溶融吹き付け以外の技術により得られる不織布のウェブに対しても、同様に応用することができるということが理解できるであろう。
【0030】
異方性の方向及び/又はODFベクトルは、各層に対する同一の基準により決定されるということが理解できるであろう。とくに、破断点伸び及び破壊荷重を評価するための引張強度試験は、MD及びCDの両方におけるのと同一の条件(同一の試験設定)で実施される。ウェブに対して実施される試験については、すでに説明した国際基準の1つ、好ましくはEDANA20.2−89基準による手順を用いることが推奨される。
【0031】
より小さい寸法のウェブのサンプルに対して実施される試験については、必然的に、把持部(grips)間の距離を小さくして試験を緩速化すること、例えば距離を30mmとし、速度を20mm/分とすることが推奨される。
【0032】
これらの条件の下では、ODFベクトルの適切な方向性を設定する上において許容できる実験的誤差は±4°である。これは、試験装置の把持部間の距離が100mmである場合は、およそ±3.5mmの実験的誤差を許容することに相当する。
【0033】
未知のウェブの方向性のフィルタから抽出された層に関しては、フィルタハウジングの複数の軸のうちの1つがMD方向又はCD方向と一致するものとして(一致するように)引張強度試験を実施することが推奨される。
【0034】
ODFベクトルの規定(設定)に関しては、本発明の理論は、以下のように集約することができる。すなわち、複数層ウェブのうちの少なくとも2つの層に対しては、それらのODFベクトルのベクトル積(外積)が0ではなく、ベクトルODFの方向を規定する上において許容できる実験的誤差は±4°である。
【0035】
換言すれば、ベクトルA及びベクトルAを、それぞれ、XY平面内に存在するi番目の層及びj番目の層のODFベクトルとし、αijをベクトルAとベクトルAとが挟む角度とし、Nを本発明を応用する層の全量とすれば、本発明の範囲は、次の状況をカバー(cover)することになる。
【数1】

【0036】
しかしながら、実用上の目的を達するためには、そしてとくに、流れ方向が既知である溶融吹き付けウェブ又は不織ウェブから本発明に係る複数層ウェブを製造する上においては、選択されたベクトル特性が上記のようにODFベクトルの正確な方向、又はこれに沿って最大値をもつような方向を正確に特定(設定)することは必要ではないということを理解すべきである。
【0037】
実際には、この場合は、異方性の方向は、CD又はMDに対応する各層に対する同一の基準により、任意に選択することができ、複数層ウェブを構成している層を積層することができる。これにより、少なくとも2つの隣り合う層のMD又はCDは、0°より大きい角度差、好ましくは8°より大きい角度差でずらされる(回転させられる)。
【0038】
複数層ウェブの層を構成している材料は、微小な繊維の溶融吹き付けに適する樹脂の中から好ましく選択される。このような樹脂には、とくに、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ナイロン6、ポリエステルPET、そして最も好ましいポリエステルPBTが含まれる。また、複数成分(多成分)の繊維で形成された層も含まれる。
【0039】
各層は、同一の材料で形成されてもよく、また異なる材料で形成されてもよい。
【0040】
溶融吹き付けウェブは、高温カレンダー加工(hot calendering)、積層加工(laminating)、含浸加工(impregnating)、コーティング加工(coating)等の製造工程で加工が施された溶融吹き付けウェブを用いてもよい。
【0041】
複数層ウェブにおいて用いられる層は、篩分(物理的)濾過と同一又は類似の機能を有しているのが好ましい。また、異なる細孔寸法及び/又は異なるCWSTを有する層を用いることも、本発明の範囲に含まれる。
【0042】
典型的には、複数層ウェブの全体の厚さ(深さ)は、1mmないし200mmの範囲であり、1つの層の厚さは、0.1mmないし3mmの範囲であろう。
【0043】
本発明の基礎となっている理論は、いくつかの異なる実施の形態にしたがって応用(修正)することができるということを理解すべきである。
【0044】
図1〜図4は、以下で実施例1〜4として説明する典型的な実施の形態を示している。本発明の実施の形態は、前記のように、選択されたベクトル特性又はODFベクトルをあらわすベクトルが、それらの方向が異なるだけであり、同一のベクトル絶対値(magnitude)を有している場合を含むとともに、上記ベクトルがその方向とベクトル絶対値とがともに異なる場合をも含む(例えば、それらのベクトル絶対値が50%までの範囲、すなわちsinα≠0かつ|ベクトルA|=k|ベクトルA|の場合、ただしk≦1.5)。
【実施例1】
【0045】
(図1)
この実施例1においては、複数層ウェブは、2つの層集合を備えている。一方の層集合においてはすべての層がMDの方向を向き、他方の層集合においてはすべての層がCDの方向を向いている。各層集合は、(図1に示すように)同一の数の層を有していてもよく、また異なる数の層を有していてもよい。複数層ウェブは、図示された配置形態に各層を積み重ねた後、従来の切断/打ち抜き加工技術により作成される。
【実施例2】
【0046】
(図2)
この実施例2においては、複数層ウェブは、4つの層集合を備えている。各層集合は、複数の層(すなわち3つの層)を有している。各層集合においては、全ての層が同一の方向を向いている。最も上側の層集合の各層はMDの方向を向き、これに続く各層集合のMDの方向は、その前の層集合のMDの方向に対して、90°だけ角度位置がずれている(回転させられている)。
【実施例3】
【0047】
(図3)
実施例3の設定(set-up)ないしは仕様は、実施例2の設定に対応しているが、各層集合は1つの層だけで構成されている。
【0048】
実施例1〜3については、各層集合を構成している層の数は、広い範囲、例えば1ないし50の範囲で変えることができ、また層集合の数も広い範囲、例えば2ないし50の範囲で変えることができるということが理解されるであろう。
【実施例4】
【0049】
(図4)
前記のすべての実施例1〜3においては、各層集合の異方性の方向は90°ずつ変化しているが、実施例4では、各層の異方性の方向は、その前の層の異方性の方向に対して、360°:m(360°/m)と等しい角度でずれている。なお、mは層の総数である。
【0050】
[実施例1a〜4a]
後記の表1は、本発明の理論に従って製造された4つのフィルタ装置(実施例1a〜4a)による濾過の後における平均の白血球細胞(WBC)と濾過時間とを測定して得た濾過性能のデータを示している。
【0051】
実施例1a〜4aに係るフィルタは、坪量(basis weight)が50g/mである溶融吹き付けPBTからなる同一の層を用いて製造されたものである。
【0052】
実施例1aに係るフィルタは全部で38の層からなり、これらの層は、図1に示す設定(仕様)を3回繰り返すように配列されている。このフィルタは、3つの層からなる第1の層集合と、それぞれ7つの層からなる5つの層集合とを有している。各層集合においては、各層は同一の方向を向いている。奇数番目のすべての層集合は同一の方向を向き、かつ偶数番目のすべての層集合は同一の方向を向いている。偶数番目の各層集合の方向は、その前の奇数番目の層集合の方向に対して、90°回転させられている。したがって、複数層ウェブは、異方性の方向に関して2つの位置(position)ないしは姿勢と全部で5つの回転(rotation)ないしは位置変更とを有することを特徴とする。
【0053】
実施例2aに係るフィルタもまた、全部で38の層を有している。これらの層は、3つの層又は4つの層からなる各層集合が、層集合の総数が12となるように交互に配置されている。層集合は、図2に示す設定を3回繰り返すように配列されている。かくして、偶数番目の各層集合の方向は、その前の奇数番目の層集合の方向に対して、90°回転させられている。したがって、このフィルタは、異方性の方向に関して4つの位置と、11の回転とを有する。
【0054】
実施例3aに係るフィルタは、34の層で構成され、これらの層は図3に示す設定に従って配列されている。すなわち、偶数番目の各層はその前の奇数番目の層に対して、90°回転させられている。したがって、このフィルタの設定では、異方性の方向に関して4つの位置と34の回転とが存在する。
【0055】
実施例4aに係るフィルタは、34の層で構成され、これらの層は図4に示す設定に従って配列されている。各層の方向は、その前の層の方向に対して、およそ9〜10°回転させられている。
【0056】
実施例1a〜4aに係るフィルタの異方性特性は、表1に集約されている。表1には、同一の濾過条件の下で決定された、濾過後における平均のWBCの数と平均の濾過時間の値が記載されている。
【0057】
実施例1a及び実施例2aに係る両フィルタの濾過性能は、層の総数が互いに同一であるので、容易に比較することができる。異方性の方向に関して4つの位置を有し回転の数が11である実施例2aに係るフィルタは、異方性の方向に関して2つの位置を有し回転の数が5である実施例1aに係るフィルタに比べて、濾過時間は長いが、良好な白血球除去性能を有することが分かるであろう。
【0058】
また、実施例3a及び実施例4aに係る両フィルタの性能は、層の数が34で同一でありかつ各層がその前の層に対して回転させられているので、容易に比較することができる。各層が徐々に回転させられている実施例4aに係るフィルタは、各層がその前の層に対して90°の角度で回転させられている実施例3aに係るフィルタに比べて、濾過時間は長いが、良好な白血球除去性能を有する。
【0059】

【0060】
本発明はまた、入口部及び出口部を有するフィルタハウジング内に、前記の複数層ウェブからなる1つ又は複数のフィルタ部材(filter element)が配設されているフィルタ装置に関するものでもある。
【0061】
前記の複数層ウェブ及びフィルタ装置の特定の応用例は、血液及び血液成分の濾過、例えば全血(whole blood)、多血小板血漿、濃縮赤血球、濃縮血小板及び血漿の濾過である。
【0062】
前記のように用いられるこのフィルタ装置は、この技術分野ではよく知られており、それらの構造は、例えば欧州特許出願公開第313348号明細書に記載されている既知の理論に従って構築することができる。これらは、使い捨ての血液バッグシステムで用いるための使い捨てのフィルタを含んでいる。このようなフィルタ装置は、白血球を除去するためのフィルタ部材のほか、異なる機能、例えばゲルを除去する機能を有するさらなるフィルタ部材を含んでいてもよい。
【0063】
本発明の基礎となっている理論は、それらの特定の機能とは独立して、任意のこの種のフィルタ部材に応用することができるということが分かるであろう。
【0064】
本発明の権利範囲には、生体液を生体外で濾過する方法、とくに血液及び前記の血液成分から白血球を除去する方法も含まれている。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の実施例1に係る複数層ウェブの斜視図である。
【図2】本発明の実施例2に係る複数層ウェブの斜視図である。
【図3】本発明の実施例3に係る複数層ウェブの斜視図である。
【図4】本発明の実施例4に係る複数層ウェブの斜視図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異方性特性を有する繊維材料からなる複数の隣り合う層を備えている、流体を濾過するための多孔性ウェブであって、
少なくとも2つの隣り合う層のベクトル特性の異方性の方向が、0°より大きい角度差、好ましくは少なくとも8°の角度差で互いに相違していることを特徴とする多孔性ウェブ。
【請求項2】
上記異方性の方向は、ウェブ面内における方向であり、該方向に沿って上記ベクトル特性が最大値をもつことを特徴とする、請求項1に記載の多孔性ウェブ。
【請求項3】
上記ベクトル特性は、上記層の引張特性であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の多孔性ウェブ。
【請求項4】
上記ベクトル特性は、上記層の破断点伸びであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1つに記載の多孔性ウェブ。
【請求項5】
上記異方性の方向は、上記層のODFベクトルの方向であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1つに記載の多孔性ウェブ。
【請求項6】
上記少なくとも2つの層の異方性の方向が、8°ないし90°の角度で互いにずれていることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1つに記載の多孔性ウェブ。
【請求項7】
上記すべての層の異方性の方向を示すベクトルが同一の絶対値をもつことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1つに記載の多孔性ウェブ。
【請求項8】
上記少なくとも2つの層の異方性の方向を示すベクトルの絶対値が、50%までの範囲内で相違することを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1つに記載の多孔性ウェブ。
【請求項9】
上記層は、溶融吹き付け繊維ウェブであることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1つに記載の多孔性ウェブ。
【請求項10】
上記層は、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート及びポリブチレンテレフタレートの中から選択された繊維形成材料で形成されていることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1つに記載の多孔性ウェブ。
【請求項11】
それぞれ複数の層を有する複数の層集合を備えていて、
各層集合においては、各層が、多孔性の複数層ウェブ内で同一の異方性の方向をもつように方向付けられ、少なくとも2つの連続する層集合の異方性の方向が、少なくとも8°の角度差で互いに相違していることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1つに記載の多孔性ウェブ。
【請求項12】
2ないし50の層集合を備えていて、各層集合が1ないし50の層を有していることを特徴とする、請求項11に記載の多孔性ウェブ。
【請求項13】
ある層集合の異方性の方向は、90°の角度で、隣り合う層集合の異方性の方向からずれていることを特徴とする、請求項11又は12に記載の多孔性ウェブ。
【請求項14】
複数の層を有していて、各層の流れ方向が、先行する層の流れ方向に対して、8°ないし90°の角度差でずれていることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1つに記載の多孔性ウェブ。
【請求項15】
m個の層を有していて、mの値が2ないし100であり、先行する層の異方性の方向に対して、各層の異方性の方向が360°:mと等しい角度でずれていることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1つに記載の多孔性ウェブ。
【請求項16】
入口ポート及び出口ポートを有するハウジングと、請求項1〜14のいずれか1つに記載の少なくとも1つの多孔性ウェブとを備えていることを特徴とする、生体液を濾過するためのフィルタ装置。
【請求項17】
とくに血液又は血液成分の白血球を減少させるために生体液を生体外で濾過する方法であって、
請求項16に記載のフィルタ装置を通して上記生体液を供給することを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−522809(P2008−522809A)
【公表日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−545113(P2007−545113)
【出願日】平成16年12月10日(2004.12.10)
【国際出願番号】PCT/IT2004/000684
【国際公開番号】WO2006/061862
【国際公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【出願人】(505063533)フレゼニウス・ヘモケア・イタリア・ソシエタ・ア・レスポンサビリタ・リミタータ (7)
【氏名又は名称原語表記】FRESENIUS HEMOCARE ITALIA S.r.l.
【Fターム(参考)】