説明

どじょう類の養殖施設及びどじょう類の養殖方法

【課題】どじょう類を効率よく養殖することができるどじょう類の養殖施設及びどじょう類の養殖方法を提供する。
【解決手段】どじょう類の養殖施設10は、帯状に伸長された凹部11Aを有する餌場領域11と、餌場領域11の伸長方向に沿って少なくとも片側に設けられた法面領域12と、法面領域12において、法面に根をはって生育する水草13とを備えている。凹部11Aの幅W1は1mから2m、深さH1は0.4mから1mであり、底部11Bはシルトまたは粘性土により構成されている。法面領域12の法面の勾配θは20°から26°である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬骨魚網コイ目ドジョウ科に分類されるどじょう類の養殖施設及びどじょう類の養殖方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
どじょう類は、全て、地球上で最も繁栄している硬骨魚類に含まれ、また、コイの特徴を多く持ち合わせているので、硬骨魚網コイ目ドジョウ科の淡水魚として分類されている。日本には自然分布として、北海道から九州までの間に、3亜科6属11種のどじょうが存在し、そのうち日本固有種はドジョウとフクドジョウを除く4属9種が知られている。どじょう類は、かつては日本各地の水田や水路に多く見られ、食用等にも用いられてきた。しかし、近年の農業形態の変化に伴い、現在では、日本固有種を中心に固体数の減少が著しく、アユモドキをはじめ、イシドジョウ、スジシマドジョウ、ホトケドジョウ、ナガレホトケドジョウ、エゾホトケドジョウの6種類が絶滅危惧種となっている。更に、ドジョウでさえも、将来的には、絶滅危惧種となる可能性が示唆されている。
【0003】
そこで、どじょう類の養殖が行われているが、どじょう類の生態については未だ不明な点が多く、養殖場からどじょう類が逃げ出したり、どじょう類が餌を食べなくなる場合があるなどの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62−96027号公報
【特許文献2】特開昭63−133929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような問題に基づきなされたものであり、どじょう類を効率よく養殖することができるどじょう類の養殖施設及びどじょう類の養殖方法を提供することを目的とする。
【0006】
なお、特許文献1には、活性汚泥法による排水処理中間工程における曝気槽を養殖槽としてどじょうを飼育するどじょうの養殖法が記載され、特許文献2には、外水槽の内に養殖槽を設け、各養殖槽を一連にサイフォン管で連結したどじょう養殖装置が記載されているが、本願発明とは具体的構成が異なっている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のどじょう類の養殖施設は、幅が1mから2m、深さが0.4mから1mの帯状に伸長された凹部を有し、底部がシルトまたは粘性土からなる餌場領域と、この餌場領域の伸長方向に沿って少なくとも片側に設けられ、20°から26°の勾配を有する法面よりなる法面領域と、この法面領域において、法面に根をはって生育する水草とを備えたものである。
【0008】
本発明のどじょう類の養殖方法は、幅が1mから2m、深さが0.4mから1mの帯状に伸長された凹部を有し、底部がシルトまたは粘性土からなる餌場領域と、この餌場領域の伸長方向に沿って少なくとも片側に設けられ、20°から26°の勾配を有する法面よりなる法面領域と、この法面領域において、法面に根をはって生育する水草とを備えた養殖施設に、餌場領域における水深が0.3mから0.9mとなるように水を入れてどじょう類を養殖するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明のどじょう類の養殖施設によれば、餌場領域の幅を1mから2mとしたので、どじょう類に餌を与えやすくかつ十分な広さとすることができると共に、どじょう類の排泄物による水質汚濁を抑制することができる。また、餌場領域の深さを0.4m以上としたので、どじょう類の排泄物による水質汚濁を抑制することができる。更に、餌場領域の深さを1m以下としたので、水草の生育を良好とすることができると共に、上方と下方とで水温が大きく異なってしまうことを防止することができ、水温管理を容易とすることができる。加えて、餌場領域の底部をシルトまたは粘性土により構成するようにしたので、どじょう類が傷つきにくく、病気になることを抑制することができると共に、水が浸透して排出されてしまうことを防止することができる。
【0010】
更にまた、法面領域を設け、法面領域に水草を生育させるようにしたので、人が近づいた時などに水草の陰にどじょう類が隠れることができ、どじょう類にかかるストレスを低減することができる。加えてまた、法面領域の勾配を20°から26°としたので、法面領域が無駄に広くなることを防止しつつ、十分な広さを取ることができる。よって、どじょう類のストレスを解消しつつ、餌を容易に与えることができ、かつ、単位面積当たりの収量を向上させることができる。
【0011】
本発明のどじょう類の養殖方法によれば、本発明のどじょう類の養殖施設を用いてどじょう類を養殖するようにしたので、水質及び水温を良好に管理することができる。また、どじょう類が病気になることを抑制することができると共に、どじょう類にかかるストレスを低減することができる。よって、効率よくどじょう類を養殖することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施の形態に係るどじょう類の養殖施設の構成を表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0014】
図1は、本発明の一実施の形態に係るどじょう類の養殖施設10の断面構成を表すものである。このどじょう類の養殖施設10は、帯状に伸長された凹部11Aを有する餌場領域11と、餌場領域11の伸長方向に沿って餌場領域11の両側に設けられた法面領域12と、法面領域12において、法面に根をはって生育する水草13とを備えている。餌場領域11と法面領域12とは連続して設けられ、一連の窪みを形成しており、水が入れられている。
【0015】
餌場領域11は、例えば、どじょう類が餌を食べたり、排泄する領域である。凹部11Aの幅W1は1mから2mの範囲内とすることが好ましい。幅W1が1mよりも狭いと、餌場が少なくなり、また、どじょう類の排泄物により水質汚濁が顕著となって、どじょう類が生息しにくくなるからである。一方、幅W1が2mよりも広いと、どじょう類に餌を与えにくくなってしまうからである。凹部11Aの深さH1は0.4mから1mの範囲内とすることが好ましい。深さH1が0.4mよりも浅いと、どじょう類の排泄物により水質汚濁が顕著となって、どじょう類が生息しにくくなるからである。また、深さH1が1mよりも深いと、水草13の生育が悪くなると共に、上方と下方とで水温の差が大きくなり、水が二層に分かれてしまい、水温をどじょう類が生息しやすい例えば25℃程度に管理することが難しくなるからである。
【0016】
餌場領域11の底部11Bは、粒径が1mm以下のシルトまたは粘性土により構成されていることが好ましい。どじょう類は、土の中にもぐって生息しているが、砂や砂利では、どじょう類が傷ついてしまい、病気になりやすいからである。また、シルトや粘性土により構成すれば、水が浸透して排出されてしまうことを防止することができるからである。
【0017】
法面領域12は、例えば、どじょう類が水草13の陰に隠れたり、産卵する領域である。どじょう類は、非常に敏感で、人が近づいただけでもストレスを感じ、餌を食べなくなってしまう場合があるが、法面領域12を設け、法面領域12に水草13を生育するようにすれば、人が近づいた時などに水草13の陰にどじょう類が隠れることができ、どじょう類にかかるストレスを低減することができるので好ましい。なお、図1では、法面領域12を餌場領域11の両側に設ける場合について示したが、法面領域12を餌場領域11の伸長方向に沿って餌場領域11の片側に設けるようにしてもよい。また、法面領域12は、餌場領域11の伸長方向において全体にわたって設けることが好ましいが、伸長方向の一部において設けるようにしてもよい。
【0018】
法面領域12の法面の勾配θは、20°から26°の範囲内とすることが好ましい。勾配θが20°よりも小さいと、法面領域12が無駄に広くなり、餌を与えにくくなってしまうと共に、単位面積当たりの収量が減少してしまうからである。また、勾配θが26°よりも大きいと、法面領域12の広さを十分に取ることができず、どじょう類のストレスを十分に低減することができないからである。なお、法面領域12の幅W2は、0.8mから2.7mの範囲内とすることが好ましい。凹部11Aの深さH1と、法面の勾配θとの関係に基づくものである。
【0019】
餌場領域11と法面領域12との境界部には、例えば、水草13が餌場領域11に侵入することを防止するための境界部材14が配設されている。境界部材14は、例えば、餌場領域11の伸長方向に間隔を開けて複数の杭14Aを配設し、板部材14Bを餌場領域11の伸長方向に伸長させて杭14Aに配設した構造を有している。板部材14Bは、餌場領域11及び法面領域12の底から間隔を開けて、水草13の高さに合わせて配設することが好ましい。また、板部材14Bは、餌場領域11の伸長方向において全体にわたって連続して設けられていてもよいが、部分的に分断されて断続的に設けられていてもよい。
【0020】
養殖施設10に入れる水の量は、餌場領域11における水深H2が0.3mから0.9mの範囲内となるようにすることが好ましく、水深H2が0.3mから0.5mの範囲内となるようにすればより好ましい。
【0021】
このどじょう類の養殖施設10では、水を適切な高さまで入れて、どじょう類を養殖する。餌場領域11については、必要に応じて、堆積物の掃除を行う。本実施の形態の養殖施設10を用いれば、水質及び水温を良好に管理することが可能であり、また、どじょう類が病気になることを抑制することができ、どじょう類にかかるストレスも低減することが可能である。
【0022】
このように本実施の形態によれば、餌場領域11の幅W1を1mから2mとしたので、どじょう類に餌を与えやすくかつ十分な広さとすることができると共に、どじょう類の排泄物による水質汚濁を抑制することができる。また、餌場領域11の深さH1を0.4m以上としたので、どじょう類の排泄物による水質汚濁を抑制することができる。更に、餌場領域11の深さH1を1m以下としたので、水草13の生育を良好とすることができると共に、水の上方と下方とで水温が大きく異なってしまうことを防止することができ、水温管理を容易とすることができる。加えて、餌場領域11の底部11Bをシルトまたは粘性土により構成するようにしたので、どじょう類が傷つきにくく、病気になることを抑制することができると共に、水が浸透して排出されてしまうことを防止することができる。
【0023】
更にまた、法面領域12を設け、法面領域12に水草13を生育させるようにしたので、人が近づいた時などに水草13の陰にどじょう類が隠れることができ、どじょう類にかかるストレスを低減することができる。加えてまた、法面領域12の勾配θを20°から26°としたので、法面領域12が無駄に広くなることを防止しつつ、十分な広さを取ることができる。よって、どじょう類のストレスを解消しつつ、餌を容易に与えることができ、かつ、単位面積当たりの収量を向上させることができる。よって、効率よくどじょう類を養殖することができる。
【0024】
以上、実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、種々変形可能である。
【産業上の利用可能性】
【0025】
どじょう類の養殖に用いることができる。
【符号の説明】
【0026】
10…養殖施設、11…餌場領域、11A…凹部、11B…底部、12…法面領域、13…水草、14…境界部材、14A…杭、14B…板部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
幅が1mから2m、深さが0.4mから1mの帯状に伸長された凹部を有し、底部がシルトまたは粘性土からなる餌場領域と、
この餌場領域の伸長方向に沿って少なくとも片側に設けられ、20°から26°の勾配を有する法面よりなる法面領域と、
この法面領域において、法面に根をはって生育する水草と
を備えたことを特徴とするどじょう類の養殖施設。
【請求項2】
幅が1mから2m、深さが0.4mから1mの帯状に伸長された凹部を有し、底部がシルトまたは粘性土からなる餌場領域と、この餌場領域の伸長方向に沿って少なくとも片側に設けられ、20°から26°の勾配を有する法面よりなる法面領域と、この法面領域において、法面に根をはって生育する水草とを備えた養殖施設に、前記餌場領域における水深が0.3mから0.9mとなるように水を入れてどじょう類を養殖することを特徴とするどじょう類の養殖方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−74844(P2013−74844A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−216995(P2011−216995)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(311010660)あきた田園どじょう株式会社 (1)
【出願人】(592144733)
【Fターム(参考)】