説明

においセンサおよびにおい検知方法

【課題】検出システムを大型化することなく、優れた感度でにおいを検知し、識別することができるにおいセンサ、およびにおい検知方法の提供を目的とする。
【解決手段】基板11と、基板11上に配置された嗅細胞12と、嗅細胞12の嗅覚受容体ににおい分子が結合したときの該嗅細胞12の応答を光学的に計測する計測手段と、を有するにおいセンサ1。また、該においセンサ1を用いたにおい検知方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、においセンサおよびにおい検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
「におい」は、分子量60〜300程度のにおい分子(揮発性化合物)の単体あるいは混合物に起因しており、現在600万種程度のにおいがあるとされている。動物のにおいの認識は種によって異なり、ヒトの場合は1000種類程度のにおいを嗅ぎ分けられるとされている。
哺乳類の嗅覚システムでは、におい分子Aは、図1に示すように、嗅上皮101にある粘膜に溶け込み、嗅細胞102によって受容される。そして、嗅細胞102においてその受容による化学的信号が電気信号に変換され、嗅球103における糸球体104に投射され、さらに脳内すなわち嗅皮質に信号として伝達される。嗅皮質は大脳辺縁系に存在し、経験を基ににおいを識別することができる。嗅細胞102におけるにおい分子Aの受容は、図2に示すように、におい分子Aが嗅細胞102の嗅繊毛102a上に発現している嗅覚受容体に結合することで行われる。
ヒトの嗅覚受容体は、遺伝子レベルでは約500種であり、実際に発現している嗅覚受容体は約400種である。犬ではヒトの約2倍の種類の嗅覚受容体がある。このように、嗅覚受容体の種類が数百種であるのに対し、におい分子は数百万種である。しかし、1つのにおい分子は種類の異なる複数の嗅覚受容体に結合することができ、それに対して脳では、同一の嗅覚受容体と結合した異なるにおい分子を識別する高度な情報処理が行われているということが明らかになっている。さらに、におい分子が嗅覚受容体に結合したという情報が脳へ運ばれる際には、複数の嗅覚受容体の情報が混合し、さらに介在ニューロンからの投射を受けていることが分かっている。
【0003】
一方、これまで、安全および環境の面から、有害なガスを検知するガスセンサ、悪臭の発生を検知する悪臭センサ等のにおいセンサが開発されている。においセンサの先駆けとなったのは、1969年に世界で初めて実用化された日本の半導体ガスセンサである。この開発を機に、種々の材料・原理を用いた研究開発が活発に行われるようになった。ガスセンサにおいては、固体電解質および酸化物半導体を用いる方法が現在でも最も有力であるとされている。
1972年には、環境問題の深刻化を受けて悪臭防止法が施行された。これにより、NO、CO、SO、O、フロン、NH、HS等の22種類の特定悪臭物質に対する濃度調査の重要性が高まり、ガスセンサの開発が活発に行われるようになった。さらに、都市生活を営むうえで身のまわりにごく普通に存在するにおいに対する苦情もあったことから、物質濃度規制のみではなく複合臭も対象にする臭気指数規制が1995年の法改正(1996年施行)で導入され、ますますにおいセンサの必要性が高まった。
【0004】
アメニティの分野においては、アロマテラピーや五感通信(高臨場感通信)等で嗅覚が注目されている(非特許文献1〜3)。総務省では、五感情報通信技術に関する調査研究会が設立され、2006年に報告書が発表されている(非特許文献4)。しかし、特に嗅覚については、においに関する基礎的な知見があまり得られておらず、その通信への応用は遠い夢の話になっている。また、日本では清潔に対する意識の高まりから、口臭や体臭、老人臭を客観的に計測できるセンサの需要が高まっているものの、市販されているセンサの精度はまだ充分とは言えない。
【0005】
医療分野では、健康状態と呼気や体臭との間に関連があるとされている。例えば、黄熱病では肉屋のにおいのような体臭、痛風では特徴的な汗のにおい、フェニルケトン尿病ではかび臭いにおいがするとされている。そのため、健康管理や病気の診断に、においセンサを応用することが期待されている。特に、呼気のにおいが健康管理や病気の診断に有効であるとされており、近年においセンサの開発が行われている(非特許文献5)。また、2008年8月24日付の読売新聞では、県立静岡がんセンターと大手香料会社の高砂香料工業が、癌患者から出る特有のにおい(病臭)を減らす研究を共同で始めたことが報じられている。
【0006】
また、特に食品や香料の分野では、においは重要な知的財産であり、においを含む商品を商標化する動きがある。特許庁は、音やにおい、動き等の新しいタイプの商標の導入を検討するため、2008年8月に研究会を発足した。これは、インターネットの普及等で企業が自社の製品やサービスを他社と区別する方法が多様化し、新しい権利の保護が必要になっているためであり、2010年に商標法改正案の提出を目指すとしている。しかし、そのためには、においを検出し、それを分析、分類するというにおい情報のデジタル化が必要になると考えられる。
【0007】
以上のように、様々な分野において、においを高感度に検知し、識別する技術が求められている。
においを高感度に検出・識別する技術としては、これまで様々な技術が用いられてきた。それらの技術の基本は、複数の異なるセンサ素子を有する検出システムを用い、それら個々のセンサ素子からの情報をコンピュータ処理し、予め学習させて作成しておいたデータベースに基づいてにおいの識別を行うというものである。
においの検出については、半導体ガスセンサや、有機薄膜付き水晶振動子、導電性高分子デバイス等が開発されている(例えば、非特許文献6および7)。これらのにおいセンサは、いずれもセンサ表面ににおい分子が吸着したときの応答を捉えるものであり、センサ表面の特性を変えることで異なる吸着特性を持たせて、におい分子をセンサ表面に個別に吸着させて識別を行うものである。また、必要に応じて、においの識別のために、既知ににおい分子を用いて各センサの応答を予め学習させ、検知対象のにおいのパターン認識を行う方法も行われている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】[平成21年3月13日検索]、インターネット<URL:http://www.ntt.com/kaori/index.html>
【非特許文献2】[平成21年3月13日検索]、インターネット<URL:http://www.ntt-west-recruiting.jp/about/vision2.html>
【非特許文献3】[平成21年3月13日検索]、インターネット<URL:http://www.ntt.co.jp/RD/OFIS/vision/future senses.html>
【非特許文献4】[平成21年3月13日検索]、インターネット<URL:http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/policyreports/chousa/gokan/pdf/060922_1.pdf>
【非特許文献5】日経エレクトロニクス特集2007年7月
【非特許文献6】瀬山倫子他、プラズマ有機薄膜を用いたニオイセンサ、NTT技術ジャーナル2003.12、p47−50
【非特許文献7】M. Seyama, et al. Aroma sensing and indoor air monitoring by quartz crystal resonators with sensory films prepared by sputtering of biomaterials and sintered polymers, Biosensors and Bioelectronics 20, 814-824 (2004).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、前記においセンサは、におい分子が吸着したときのセンサの応答を捉える技術であるため、類似した分子構造を有する複数のにおい分子に対する応答はほとんど同じである。そのため、検知対象のにおい分子の分子構造が類似していると、ヒトの嗅覚システムにおいては異なるにおいとして認識されるにおい分子であっても、前記においセンサでそれらを正確に識別することは困難である。特に、光学異性体の場合は、構造が類似していても異なるにおいであることが多く、前記においセンサで識別することは非常に難しい。
また、前記においセンサは、ほとんどのにおい分子に対して感度が低く、ヒトの嗅覚システムの感度には遠く及ばない。これらのにおいセンサでは、必要な感度を得ようとすると、検出システムを非常に大型化する必要がある。このように検出システムを大型化すると、においが発生している場所でにおいを検知することが困難になるため、においセンサの需要からかけ離れたものになってしまう。
さらに、試料中の水分がセンサの応答に干渉する場合には、水蒸気除去等の煩雑な前処理が必要となる。
【0010】
前述したように、においは特に食品や香料の分野では重要な知的財産である。また、におい情報を含む通信には、においのデジタル化、におい情報のデータベース化、におい分子の分子構造との相関やマッピングが不可欠である。また、においを検知する技術の向上のためには、哺乳類における嗅覚神経系のさらなる理解が必要である。
以上のことから、においの記録、保存、伝達等のために、少なくともヒトの嗅覚システムに匹敵する感度と識別能を有するにおいセンサが望まれている。
【0011】
本発明では、検出システムを大型化することなく、優れた感度でにおいを検知し、識別することができるにおいセンサ、およびにおい検知方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。
[1]基板と、前記基板上に配置された嗅細胞と、前記嗅細胞の嗅覚受容体ににおい分子が結合したときの該嗅細胞の応答を光学的に計測する計測手段と、を有するにおいセンサ。
[2]電極が設けられた基板と、前記電極上に配置された嗅細胞と、前記嗅細胞の嗅覚受容体ににおい分子が結合したときの該嗅細胞の応答を電気的に計測する計測手段と、を有するにおいセンサ。
[3]基板と、該基板に配置された、嗅細胞および該嗅細胞と結合した糸球体と、前記嗅細胞の嗅覚受容体ににおい分子が結合したときの該嗅細胞に結合する糸球体の応答を光学的に計測する計測手段と、を有するにおいセンサ。
[4]電極が設けられた基板と、前記基板上に配置された嗅細胞と、前記電極上に配置された、前記嗅細胞と結合した糸球体と、前記嗅細胞の嗅覚受容体ににおい分子が結合したときの該嗅細胞に結合した糸球体の応答を電気的に計測する計測手段と、を有するにおいセンサ。
[5]前記電極が、前記嗅細胞から糸球体に投射する神経伝達物質を酸化する酸化酵素、および前記酸化酵素と前記電極の間の電子の移動を媒介する電子移動メディエータが固定化された酵素電極である、前記[2]または[4]に記載のにおいセンサ。
[6]さらに、前記基板上に配置される前記嗅細胞を区画する、または前記嗅細胞と前記糸球体を区画する配列層を有する、前記[1]〜[5]のいずれかに記載のにおいセンサ。
[7]前記[1]〜[6]のいずれかに記載のにおいセンサを用いてにおいを検知するにおい検知方法。
[8]前記[3]〜[5]のいずれかに記載のにおいセンサを用いてにおいを検知する方法であって、基板上に嗅細胞および糸球体を配置する配置工程と、前記嗅細胞および糸球体を培養し、前記嗅細胞と該嗅細胞に対応する糸球体とを結合させる培養工程と、前記糸球体の応答を計測する計測工程と、を有するにおい検知方法。
[9]前記[1]または[3]に記載のにおいセンサを用いてにおいを検知する方法であって、膜電位感受性蛍光色素、カルシウム感受性蛍光色素、神経伝達物質感受性蛍光色素からなる群から選ばれる1種以上の蛍光色素を、前記基板上の前記嗅細胞、または前記嗅細胞と前記糸球体が配置された位置に加え、該蛍光色素が発する蛍光強度を計測する、前記[7]に記載のにおい検知方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明のにおいセンサは、検出システムを大型化することなく、優れた感度でにおいを検知することができる。
また、本発明のにおい検知方法によれば、高い感度でにおいを検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】ヒトの嗅覚システムを示した概念図である。
【図2】図1の嗅覚システムにおける嗅細胞および糸球体の部分の拡大図である。
【図3】本発明のにおいセンサの実施形態の一例を示した平面図である。
【図4】本発明のにおいセンサの他の実施形態例を示した斜視図(A)および平面図(B)である。
【図5】本発明のにおいセンサの他の実施形態例を示した平面図である。
【図6】本発明のにおいセンサの他の実施形態例を示した斜視図(A)および平面図(B)である。
【図7】本発明のにおいセンサの他の実施形態例を示した平面図である。
【図8】本発明のにおいセンサの他の実施形態例を示した平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のにおいセンサは、基板と、基板上に配置された嗅細胞を有していることを特徴とする。本発明のにおいセンサは、生体の嗅覚システムのしくみを利用したセンサであり、数百程度の種類の嗅細胞を用いることで、数万種のにおい分子を検出、識別することが可能な優れたセンサである。
以下、本発明のにおいセンサの実施形態の一例を示し、該においセンサを用いたにおい検知方法と共に詳細に説明する。
【0016】
[第1実施形態]
本実施形態のにおいセンサ1は、図3に示すように、基板11と、基板11上に配置された嗅細胞12と、におい分子に対する嗅細胞12の応答を光学的に計測する図示しない計測手段(以下、「光学的計測手段」という。)とを有している。
【0017】
基板11は、生体親和性に優れたものが好ましい。例えば、ガラス、アクリル樹脂、ポリプロピレン等からなる透明基板、シリコン、シリコン酸化物等からなる基板、白金、金等からなる金属基板、インジウムスズ酸化物(ITO)等の金属酸化物からなる基板、カーボンからなる基板が挙げられる。また、これらの基板に、嗅細胞12の接着因子や、吸着性を高めるpoly−L−lysine等の高分子や、Laminin、コラーゲン等の接着性タンパク質を塗布した基板を用いてもよい。
基板11の形状は、基板11上に配置した嗅細胞12を利用してにおいが検知できる形状であればよく、平板状が好ましい。
基板11の大きさは、特に限定されず、適宜選定することができる。
【0018】
嗅細胞12は、カエル等の両生類、魚類、マウス、ラット等の哺乳類から精製したものが使用できる。基板11上に配置される嗅細胞12は、1種であってもよく、2種以上であってもよい。
【0019】
嗅細胞の精製は、公知の精製方法が使用でき、例えば、Hirono等による方法(Simultaneous recording of [Ca2+]i increases in isolated olfactory receptor neurons retaining their original spatial relationship in intact tissue, Journal of Neuroscience Methods, 42 (1992) 185-194.)、Wang等による方法(Reconstruction of renal glomerular tissue using collagen vitrigel scaffold. Journal of Bioscience and Bioengineering, 99 (2005) 529-40.)が挙げられる。
また、前述の方法により精製した嗅細胞は、異なる嗅覚受容体をそれぞれ発現している複数種類の嗅細胞の混合であるため、さらに個別の嗅細胞ごとに分離することが好ましい。嗅細胞を分離する方法としては、例えば、抗体カラムを用いる方法が挙げられる。該方法は、嗅覚受容体の特定のアミノ酸配列に対応する抗体をカラムに固定しておき、その嗅覚受容体を表面に発現している嗅細胞を該カラムにより分離する方法である。
【0020】
精製・分離した嗅細胞を基板11上に配置する方法は、基板11上に配置した嗅細胞12の応答を個別に計測できるように配置できる方法であればよい。例えば、特定の種類の嗅細胞のみを含む懸濁液を、基板11の特定の位置にスポッティングする方法、精製後に分離を行わず、異なる種類の嗅細胞が混ざった混合物を基板上に加えて、それら複数の嗅細胞12を基板11上にランダムに配置する方法が挙げられる。
また、いずれの場合も、基板11上に嗅細胞12を配置した後に、それら嗅細胞12を培養して成長させてもよい。
【0021】
基板11上に配置する嗅細胞12の量は、光学的計測手段により嗅細胞12の応答を計測してにおいを検知するのに充分な量であればよく、10〜10cells/cmであることが好ましい。
【0022】
光学的計測手段は、嗅細胞12に発現している嗅覚受容体ににおい分子が結合したときの嗅細胞12の応答を光学的に計測できる手段であればよく、例えば、蛍光計測法を用いる計測手段が挙げられる。具体的には、蛍光顕微鏡等の蛍光強度を計測できる装置等が挙げられる。
【0023】
においセンサ1を用いたにおいの検知方法は、膜電位感受性蛍光色素、カルシウム感受性蛍光色素、神経伝達物質感受性蛍光色素からなる群から選ばれる1種以上の蛍光色素を嗅細胞12内に導入し、該蛍光色素が発する蛍光の蛍光強度を計測することにより行うことができる。
【0024】
嗅細胞12は、嗅覚受容体ににおい分子が結合に伴って膜電位が変化する。そのため、膜電位に依存して蛍光を発する膜電位感受性蛍光色素を電気刺激等によって嗅細胞12内に導入しておくことにより、蛍光強度の変化により、におい分子に対する嗅細胞12の応答を計測できる。
膜電位感受性蛍光色素としては、例えば、di−4−ANEPPS、DiBAC4が挙げられる。
【0025】
また、嗅細胞12には、嗅覚受容体の他にカルシウムチャネルが発現しており、嗅覚受容体へのにおい分子の結合に伴ってカルシウムチャネルが開き、カルシウムイオンが嗅細胞12内に移動する。そのため、カルシウムイオン感受性蛍光色素を嗅細胞12内に導入しておくことにより、におい分子の嗅覚受容体への結合による、嗅細胞12内へのカルシウムイオンの流入を蛍光強度の変化により計測することができる。これにより、におい分子に対する嗅細胞12の応答を計測でき、におい分子を定量的に計測できる。
カルシウムイオン感受性蛍光色素としては、例えば、fura−2、fluo−3、fluo−4が挙げられる。
【0026】
また、嗅細胞12は、嗅覚受容体ににおい分子が結合すると、糸球体に神経伝達物質を投射するようになっている。そのため、神経伝達物質感受性蛍光色素を嗅細胞12内に導入しておくことで、該蛍光色素の蛍光強度の変化から前記神経伝達物質を計測して、におい分子の定量的に検知することができる。
前記神経伝達物質としては、例えば、グルタミン酸が挙げられる。
神経伝達物質感受性蛍光色素としては、例えば、グルタミン酸蛍光プローブであるEOS(Glutamate(E) Optical Sensor)が挙げられる。
これらの蛍光色素を嗅細胞12に導入する方法としては、細胞内への蛍光色素の導入に通常用いられる公知の導入方法が使用できる。
【0027】
本実施形態のにおいセンサ1に用いる嗅細胞12は、それぞれの嗅細胞12が特定の嗅覚受容体を発現しており、該嗅覚受容体はそれぞれ特定のにおい分子と結合する。そのため、異なる嗅覚受容体を発現している複数の嗅細胞12を基板11上に配置し、それら嗅細胞12の応答をそれぞれ非侵襲に計測することで、特定の嗅細胞12の応答として、におい分子を検知し、識別することができる。
また、においセンサ1を用いるにおい検知方法では、既知のにおい分子を用いて、予めどのにおい分子によりどの嗅細胞12が応答するかを調べておき、それら応答をデータベース化しておくことにより、そのにおいセンサで検知したにおい分子を容易に識別して同定することが可能となる。
このようなデータベース化を行った検知方法によれば、におい分子の分子構造と生体活性の相関を求めることができるようになる可能性もあると考えられる。
【0028】
本実施形態のにおいセンサ1は、より明確な計測が行える点から、図4(A)および図4(B)に示すように、基板11上に、該基板11に配置される嗅細胞12を区画する配列層13を有するにおいセンサ1Aであることが好ましい。
【0029】
配列層13は、複数の微小な孔14が形成されている。
配列層13の材質を、配列層13上では細胞が成長できないものであることが好ましい。これにより、各々の孔14内に嗅細胞12を別々に配置しやすくなり、それらの嗅細胞12を別々に計測してにおい分子の識別を行うことが容易になる。
配列層13の材質は、細胞が成長しにくい材質であればよく、例えば、疎水性の高い一般的なフォトレジストやシリコン系等の高分子、銀等の金属、SiO等の金属酸化物が挙げられる。
【0030】
においセンサ1Aでは、精製した多種類の嗅細胞12が、混合した状態でそれぞれの孔14にランダムに配置されるようにしてもよく、精製後の多種類の嗅細胞の混合物から1種の嗅覚受容体を有する嗅細胞のみを分離し、所望の孔14に同一種類の嗅細胞12のみが配置されるようにしてもよい。
同一の孔14内に複数種類の嗅細胞12が配置される場合、各々の孔14には同一種類の嗅細胞12が2種以上配置されないようにすることが好ましい。また、同一の孔14に同一種類の嗅細胞12が配置される場合、同一の孔14内における同一の嗅細胞12の数は2以上であることが好ましい。
【0031】
複数の微小な孔14内に嗅細胞12を配置する方法としては、例えば、精製した嗅細胞の混合物からそれぞれ分離した個別の嗅細胞をそれぞれ含む複数の懸濁液を、適度な濃度に希釈して、該懸濁液を孔14の1つ1つにディスペンサーで供給する方法が挙げられる。また、配置後には、孔14内で嗅細胞12を培養してもよい。
また、においセンサ1Aでは、前記蛍光色素は、嗅細胞12内に導入せずに孔14内に配置し、電気刺激等によって細胞内に取り込ませてもよい。
【0032】
[第2実施形態]
以下、本発明の他の実施形態例であるにおいセンサ2、およびにおいセンサ2を用いたにおい検知方法ついて説明する。
においセンサ2は、図5に示すように、複数の電極22が設けられた基板21と、電極22上に配置された嗅細胞23と、におい分子に対する嗅細胞23の応答を電気的に計測する図示しない計測手段(以下、「電気的計測手段」という。)とを有している。
基板21は、生体親和性に優れ、かつ絶縁性に優れた基板を用いることができ、例えば、ガラス基板、シリコン酸化物からなる基板等が挙げられる。
【0033】
電極22の材料としては、生体親和性に優れた導電性を有する材料が好ましく、ITO等の金属酸化物、白金、金等の金属が挙げられる。
電極22の数および大きさは、特に限定されず、測定に用いる嗅細胞12の種類、量に応じて適宜選定すればよい。電極22は1つのみ設けられていてもよい。
電極22の形成方法は、特に限定されず、例えば、フォトリソグラフィーによる形成方法等が挙げられる。
【0034】
においセンサ2では、電極22上に嗅細胞23が配置されている。嗅細胞23は、前述したにおいセンサ1における嗅細胞12と同じである。
1つの電極22上に配置される嗅細胞23は、1種のみであってもよく、2種以上であってもよいが、1つの電極22に1種の嗅細胞23が配置されていることが好ましい。
【0035】
電気的計測手段は、例えば、電極22と接続される電流計を有し、電極22で生じる電流を測定できる公知の装置を用いることができる。具体的には、複数の電極22における各々の電流を同時に計測できる多チャネル電気生理計測システムが挙げられる。
【0036】
においセンサ2では、電極22上に配置された嗅細胞23における、イオンチャネルによるイオンの移動によって発生する活動電位を計測することで、におい分子が嗅覚受容体に結合したときの嗅細胞23の応答を計測し、におい分子を定量的に検知することができる。すなわち、各々の電極22上の嗅細胞23で発生する電気信号を個別に計測することで、それら電極22上の嗅細胞23の応答を非侵襲に検出することができる。これにより、におい分子の検知、識別を行うことができる。
【0037】
また、嗅細胞は、糸球体への投射を神経伝達物質により行っているため、嗅細胞において産生される神経伝達物質を計測することでも、においの検知が行える。これは、N.Kasai等による、神経伝達物質の1つであるグルタミン酸を検知するグルタミン酸センサアレイの技術に基づくものである(Real-time observation of evoked glutamate distribution in rat hippocampal slices. Neuroscience Letters, 304 (2001) 112-116.)。
この場合、電極22として、嗅細胞23により産生される神経伝達物質を酸化する酸化酵素と、該酸化酵素と電極22の間の電子移動を媒介す電子移動メディエータ(以下、「メディエータ」という。)を、電極上に塗布して固定化した酵素電極を用いる。
【0038】
具体的には、神経伝達物質であるグルタミン酸を計測する場合、グルタミン酸酸化酵素およびメディエータを電極22上に塗布して固定化しておき、電極22の電位をメディエータの酸化電位よりも高い電位に保持しておく。これにより、グルタミン酸の酸化に伴って酸化酵素が還元型に変化し、還元型の酸化酵素をメディエータにより酸化型に戻し、それと同時に還元型に変化したメディエータが電極22上で酸化されることで電極22ではメディエータの酸化電流を検出することができる。すなわち、におい分子が結合した嗅細胞23のみでグルタミン酸が産生され、それによりメディエータの前記酸化電流を検出することができるため、嗅覚受容体ににおい分子が結合したときの嗅細胞23の応答を計測することができ、におい分子の検知、識別が可能となる。
また、前述した方法の他にも、電界効果トランジスタのような半導体を用いた構造物を用いて、電極22上の嗅細胞23の応答を電気的に計測することもできる。
【0039】
また、においセンサ2においても、用いる嗅細胞23は、それぞれ特定の嗅覚受容体を発現しており、該嗅覚受容体はそれぞれ特定のにおい分子と結合する。そのため、各電極22上に配置された嗅細胞23の応答をそれぞれ非侵襲に計測することで、特定の嗅細胞23の応答として、におい分子を検知し、識別することができる。
また、においセンサ1を用いるにおい検知方法と同様に、既知のにおい分子を用いて、嗅細胞23の応答をデータベース化しておくことにより、そのにおいセンサで検知したにおい分子を容易に識別して同定することが可能となる。
【0040】
また、においセンサ2においても、前述のにおいセンサ1と同様に、より明確な計測が行える点から、図6(A)および図6(B)に示すように、基板21上に、該基板21に設けられた電極22上に配置される嗅細胞23を区画する配列層24を有するにおいセンサ2Aであることが好ましい。
配列層24は、複数の微小な孔25が形成されている。配列層24は、においセンサ1Aにおける配列層13と同じものが使用できる。
【0041】
においセンサ2Aでは、精製した多種類の嗅細胞23が、混合した状態でそれぞれの孔25にランダムに配置されるようにしてもよく、精製後の多種類の嗅細胞の混合物から1種の嗅覚受容体を有する嗅細胞のみを分離し、所望の孔25に同一種類の嗅細胞23のみが配置されるようにしてもよい。
同一の孔25内に複数種類の嗅細胞23が配置される場合、各々の孔25には同一種類の嗅細胞23が2種以上配置されないようにすることが好ましい。また、同一の孔25に同一種類の嗅細胞23を配置する場合、同一の孔25内における同一の嗅細胞23の数は2以上であることが好ましい。
複数の微小な孔25に嗅細胞23を配置する方法は、においセンサ1Aの場合と同じ方法が使用できる。
【0042】
[第3実施形態]
以下、本発明のさらに他の実施形態例であるにおいセンサ3、およびにおいセンサ3を用いたにおい検知方法ついて説明する。
においセンサ3は、図7に示すように、基板31と、基板31上に配置された嗅細胞32、および嗅細胞32と結合した糸球体33と、におい分子に対する糸球体33の応答を光学的に計測する光学的計測手段とを有している。
基板31は、においセンサ1の基板11と同じものが使用できる。
【0043】
嗅細胞32は、においセンサ1の嗅細胞12と同じものが使用できる。
基板31上の嗅細胞32の量は、光学的計測手段により、嗅細胞32と結合している糸球体33の応答を計測してにおいを検知するのに充分な量であればよく、10〜10cells/cmであることが好ましい。
【0044】
糸球体33は、嗅細胞32と同様に、カエル等の両生類、魚類、マウス、ラット等の哺乳類から精製したものが使用できる。糸球体の精製は、公知の精製方法が使用できる。また、糸球体の分離は、嗅細胞の分離と同様に抗体を固定化したカラムによる方法等により行うことができる。
基板31上に配置する糸球体33の量は、光学的測手段により糸球体33の応答を計測してにおいを検知するのに充分な量であればよく、10〜10cells/cmであることが好ましい。
【0045】
糸球体33は、同一の嗅覚受容体を発現している嗅細胞32と結合している。すなわち、結合する嗅細胞32と糸球体33の組み合わせは、それらの種類によって決まっており、1種の糸球体33と結合する嗅細胞32は、特定の嗅覚受容体を発現する1種の嗅細胞32のみである。ただし、同一の嗅覚受容体を発現する2つ以上の嗅細胞32は、同一の糸球体33と結合できる。
そのため、におい分子が結合した嗅細胞32が投射する糸球体33の応答を計測することで、においセンサ1を用いる方法と同様に、においを検知、識別することができる。
【0046】
光学的計測手段は、嗅細胞32に発現している嗅覚受容体ににおい分子が結合したときの該嗅細胞32に結合している糸球体33の応答を光学的に計測できる手段であればよく、例えば、蛍光計測法を用いる計測手段が挙げられる。具体的には、蛍光顕微鏡等の蛍光強度を計測できる装置等が挙げられる。
【0047】
糸球体33は、嗅細胞32から神経伝達物質により信号が伝えられることで、膜電位が変化する。そのため、においセンサ1と同様に、膜電位に依存して蛍光を発する膜電位感受性蛍光色素を糸球体33に導入し、蛍光強度を計測することで、糸球体33の応答を計測できる。また、においセンサ1と同様に、神経伝達物質感受性蛍光色素を糸球体33に導入して、その蛍光強度の変化から糸球体33の応答を計測することもできる。
膜電位感受性蛍光色素と神経伝達物質感受性蛍光色素は、どちらか一方のみを用いてもよく、両方を同時に用いてもよい。
これらの蛍光色素を糸球体33に導入する方法としては、細胞内への蛍光色素の導入に通常用いられる公知の導入方法が使用できる。
【0048】
嗅細胞32は特定の糸球体33に対して信号を投射するが、前述したとおり、同じ嗅覚受容体を発現する複数の嗅細胞32が同一の糸球体33に投射するため、同じ嗅覚受容体を発現する嗅細胞32からの信号は1つの糸球体33に集積される。そのため、個々の糸球体33の応答を計測することで、嗅細胞32の応答を直接計測するよりも、1段階解析が進んだ情報を得ることができる。また、糸球体33の応答を計測することで、嗅細胞32の応答を直接計測するにおいセンサ1に比べて、より少ない計測数で同等以上の感度が実現できる。
【0049】
においセンサ3によるにおい検知方法としては、例えば、基板31上に嗅細胞32および糸球体33を配置する配置工程と、嗅細胞32および糸球体33を培養し、嗅細胞32と該嗅細胞32に対応する糸球体33とを結合させる培養工程と、糸球体33の応答を計測する計測工程と、を有する方法が挙げられる。
【0050】
まず、嗅細胞32を生体から精製し、必要に応じて特定の嗅覚受容体を発現する嗅細胞32ごとに分離する。また、嗅細胞32とは別に、生体から糸球体33を精製し、必要に応じて特定の嗅細胞32と結合する糸球体33ごとに分離する。また、膜電位感受性蛍光色素、神経伝達物質感受性蛍光色素のいずれか一方または両方を糸球体33に導入する。これら蛍光色素の糸球体33への導入方法は、細胞内に蛍光色素を導入するときに通常用いられる公知の導入方法を用いることができる。
配置工程では、これら嗅細胞32と糸球体33を、スポッティング等により基板31上に配置する。
【0051】
次に、基板31上に配置した嗅細胞32と糸球体33を培養する。培養条件は、嗅細胞と糸球体の公知の培養条件を用いることができる。この培養により、嗅細胞32と、該嗅細胞32と対応する適切な糸球体33とが、嗅細胞32から延びる軸索と呼ばれる嗅神経により結合する。
【0052】
計測工程では、においセンサ3表面に、においを検知する対象の試料を接触させ、蛍光強度の変化を計測する。これにより、におい分子が嗅細胞32の嗅覚受容体に結合することに起因する糸球体33の応答を計測し、においを検知することができる。
ただし、本実施形態のにおい検知方法は前述の工程には限定されず、予め作製しておいたにおいセンサ3を用いて行ってもよい。
【0053】
[第4実施形態]
以下、本発明のさらに他の実施形態例であるにおいセンサ4、およびにおいセンサ4を用いたにおい検知方法ついて説明する。
においセンサ4は、図8に示すように、電極42が設けられた基板41と、基板41上に配置された嗅細胞43と、電極42上に配置された、嗅細胞43と結合した糸球体44と、におい分子に対する糸球体44の応答を電気的に計測する電気的計測手段とを有している。においセンサ4は、電極42上に配置された糸球体44の応答を電気的計測手段により電気的に計測する。
基板41は、においセンサ2の基板21と同じものが使用できる。また、嗅細胞43および糸球体44は、においセンサ3の嗅細胞32と糸球体33と同じものが使用できる。
【0054】
電気的計測手段は、においセンサ2で挙げたものと同じものが使用できる。
嗅細胞43の嗅覚受容体ににおい分子が結合すると、該嗅細胞43と軸索により結合した糸球体44にその信号が投射され、神経伝達物質を介して伝わる。嗅細胞43から信号が投射された糸球体44では、該投射により電気信号が発生するので、これを電極42と接続した電気的計測手段により計測することで、糸球体44の応答が計測できる。
また、においセンサ2と同様に、電極42上に、神経伝達物質を酸化する酸化酵素と、該酸化酵素と電極42の間で電子の移動を媒介するメディエータを固定化した酵素電極を用い、電極42におけるメディエータの酸化電流を測定することで、糸球体44の応答を計測してもよい。
【0055】
においセンサ4を用いたにおい検知方法は、前述したにおいセンサ3を用いたにおい検知方法と同様に、嗅細胞43を基板41上の電極42以外の部分に配置し、糸球体44を電極42上に配置する配置工程と、嗅細胞43および糸球体44を培養し、嗅細胞43と該嗅細胞43に対応する糸球体44とを結合させる培養工程と、糸球体44の応答を計測する計測工程と、を有する方法が挙げられる。
該方法は、嗅細胞43と糸球体44を、基板41上の電極42以外の部分と、電極42上とに別々に配置する以外は、においセンサ3を用いたにおい検知方法と同様に行うことができる。
ただし、本実施形態のにおい検知方法は前述の工程には限定されず、予め作製しておいたにおいセンサ4を用いて行ってもよい。
【0056】
以上説明した本発明のにおいセンサおよびにおい検知方法によれば、嗅細胞の嗅覚受容体ににおい分子が結合したときの、嗅細胞または、嗅細胞と結合している糸球体の応答を光学的または電気的に計測することで、高感度でにおいを検知できる。
このように、本発明のにおいセンサおよびにおい検知方法は、生体における嗅覚システムを利用しているため、生体と同等の感度および識別能を実現できる。そのため、特定のにおい分子を対象とするガスセンサとしてだけでなく、医療分野においては疾病の診断や検査にも好適に用いることができる。また、これにより、特定の薬に対する客観的な薬理効果の実証も実現できると考えられる。さらに、用いる嗅細胞や該嗅細胞に対応する糸球体の種類をヒト以外のものにすることで、ヒトが検出できないにおいを検出、識別することもできるようになる。そのため、例えば犬の嗅細胞および糸球体を用いることで、有害なガスを回避することがより容易になると考えられる。
【0057】
また、アメニティの分野では、気になる体臭を毎日気楽にチェックできるようになるうえ、個人のにおいを同定して個人認証を行うこともできると考えられる。
また、各におい分子に対する、嗅細胞および糸球体から脳への信号の投射を観察することができれば、脳内の情報処理に対する新しい知見が得られると考えられる。このような知見は、例えば、異なる化学物質でもヒトにとっては同じにおいと感じる、等といったにおいの分類を行い、においのデジタル化、データベース化を進めることで、においの出るテレビや、五感通信の重要な要素であるにおい通信の実現にも繋がるものである。さらに、におい通信においては、有害な物質を、同等のにおいと認識される他の無害な物質に変換することも可能となる。また、意識的に特定のにおいを発するという技術も可能になり、より臨場感を高めることができる。
【0058】
さらに、本発明によりにおいの高度な識別が可能となれば、においの商標化も実現できると考えられ、においの知的財産としての価値を高めることができる。
また、本発明により、嗅覚に関してにおいのデータベースを向上させ、また分子構造との相関やマッピングを行うことは、脳神経系の基礎研究においても嗅覚における新たな知見を得ることができ、科学の大きな発展に繋がると考えられる。
【0059】
尚、本発明のにおいセンサは前述のにおいセンサ1〜4には限定されない。例えば、さらに効率良くにおい分子を嗅細胞に導入する点から、基板上に配置された嗅細胞まで到達する流路が、微細加工によって設けられたおいセンサであってもよい。また、基板上に哺乳類の鼻空を模した構造を有するにおいセンサとしてもよい。また、においセンサの基板または電極表面に、嗅上皮にある粘膜を模したゲル層が設けられたにおいセンサであってもよい。
また、嗅細胞および糸球体を両方用いるにおいセンサ3、4は、前述したにおいセンサ1A、2Aと同様に、嗅細胞と該嗅細胞と結合する糸球体が同一の孔に配置されるようにした、配列層を有するセンサであってもよい。
また、本発明のにおいセンサは、嗅細胞または糸球体の応答を計測する計測する手段として、光学的計測手段と電気的計測手段の両方を備えていてもよい。
また、本発明のにおい検知方法は、前述の方法には限定されない。例えば、嗅細胞または糸球体の応答を、光学的な計測手段と電気的な計測手段の両方を用いて行ってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明のにおいセンサおよびにおいセンシング方法は、ヒトの嗅覚を超えるすぐれた識別能と検出感度を実現することもでき、セキュリティや環境、アメニティや医療等の様々な分野で広く利用が可能な技術である。また、これまで実現できなかったにおい通信、においの商標化も可能となると考えられる。さらに、嗅覚システムの解明にも繋がると考えられる。
【符号の説明】
【0061】
1〜4 においセンサ 11、21、31、41 基板 22、42 電極 12、23、32、43 嗅細胞 13、24、33、43 糸球体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板上に配置された嗅細胞と、前記嗅細胞の嗅覚受容体ににおい分子が結合したときの該嗅細胞の応答を光学的に計測する計測手段と、を有するにおいセンサ。
【請求項2】
電極が設けられた基板と、前記電極上に配置された嗅細胞と、前記嗅細胞の嗅覚受容体ににおい分子が結合したときの該嗅細胞の応答を電気的に計測する計測手段と、を有するにおいセンサ。
【請求項3】
基板と、該基板に配置された、嗅細胞および前記嗅細胞と結合した糸球体と、前記嗅細胞の嗅覚受容体ににおい分子が結合したときの該嗅細胞に結合する糸球体の応答を光学的に計測する計測手段と、を有するにおいセンサ。
【請求項4】
電極が設けられた基板と、前記基板上に配置された嗅細胞と、前記電極上に配置された、前記嗅細胞と結合した糸球体と、前記嗅細胞の嗅覚受容体ににおい分子が結合したときの該嗅細胞に結合した糸球体の応答を電気的に計測する計測手段と、を有するにおいセンサ。
【請求項5】
前記電極が、前記嗅細胞から糸球体に投射する神経伝達物質を酸化する酸化酵素、および前記酸化酵素と前記電極の間の電子の移動を媒介する電子移動メディエータが固定化された酵素電極である、請求項2または4に記載のにおいセンサ。
【請求項6】
さらに、前記基板上に配置される前記嗅細胞を区画する、または前記嗅細胞と前記糸球体を区画する配列層を有する、請求項1〜5のいずれかに記載のにおいセンサ。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のにおいセンサを用いてにおいを検知するにおい検知方法。
【請求項8】
請求項3〜5のいずれかに記載のにおいセンサを用いてにおいを検知する方法であって、
基板上に嗅細胞および糸球体を配置する配置工程と、前記嗅細胞および糸球体を培養し、前記嗅細胞と該嗅細胞に対応する糸球体とを結合させる培養工程と、前記糸球体の応答を計測する計測工程と、を有するにおい検知方法。
【請求項9】
請求項1または3に記載のにおいセンサを用いてにおいを検知する方法であって、
膜電位感受性蛍光色素、カルシウム感受性蛍光色素、神経伝達物質感受性蛍光色素からなる群から選ばれる1種以上の蛍光色素を嗅細胞内または糸球体内に導入し、
前記蛍光色素の蛍光強度を計測して、前記嗅細胞または前記糸球体の応答を計測する請求項7に記載のにおい検知方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−7741(P2011−7741A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−153861(P2009−153861)
【出願日】平成21年6月29日(2009.6.29)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】