説明

におい識別装置

【課題】
捕集剤中の移動速度に差がある複数のにおい成分をそれぞれ分離して検出する手段を提供し、におい識別装置の適用範囲の拡大を達成する。
【解決手段】
検出工程におけるキャリアガスが、キャリアガス供給部CからバルブV1−バルブV11−捕集管4−バルブV12−切り替えバルブ11−センサユニット8の流路を通過するように各バルブの開路方向を選択し、捕集管4内のキャリアガスの流通方向をにおい捕集時の試料流通方向と同じ方向、すなわちサイドAからサイドBの方向に流通させ、捕集管4内の捕集剤中のにおい成分の移動速度の差による分離を促進させ、移動速度の速い成分と移動速度の遅い成分を時間的に分離してセンサユニット8で検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は食品・香料・化成品製造における研究開発・品質管理や、環境の維持管理など、におい測定に関する分野において使用されるにおい識別装置に関する。
【背景技術】
【0002】
におい識別装置(以下、原則として装置と略記する)においては、測定するにおい成分を一度捕集管内の捕集剤に吸着捕集した後、あらためて捕集管を加熱し、吸着捕集された捕集成分を脱離させ、同一または複数の動作原理の単数または複数のセンサを内蔵したセンサユニットによってにおい成分を検出している(たとえば特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
図6は装置の基本的な構成を示している。試料容器1および吸入口2で構成される試料供給部SはバルブV1に接続される。バルブV1〜V3および六方弁3は装置内を流れる流体の流通路を切り替える。捕集管4はたとえばカーボン系などの吸着剤を内蔵し、におい成分を吸着する。必要に応じて捕集管4は加熱用のヒータHによって適切な温度に加熱される。なお捕集管4の左側開口部をサイドA、右側開口部をサイドBと呼称する。ポンプ5は試料を吸引して装置内の必要な流通路に貫流させ、第1排気口から排出させる。
【0004】
窒素ボンベ6と接続口7で構成されるキャリアガス供給部CはバルブV3に接続される。窒素ボンベ6は乾燥窒素ガスを充填しており、乾燥窒素ガスは捕集管4および装置の流通路内の残留試料、残留水分等を除去するための洗浄用ガスとして、また、におい成分をセンサユニット8に導入する際のキャリアガスとして使用される。
【0005】
六方弁3は外部に対して6個の接続ポートを有し、回転により第1ポジションおよび第2ポジションの2種類のポジションを順次選択する構造になっている。6個の接続ポートを時計方向にa、b、c、d、e、fとすると、たとえば第1ポジションではa−b、c−d、e−f間が開路(図6に実線で示す)となり、b−c、d−e、f−a間は閉路(図6に点線で示す)となる。第2ポジションでは開路と閉路が第1ポジションと逆転する。
【0006】
センサユニット8はたとえば導電性高分子を使用したセンサを内蔵しており、種々のにおいを検知する。なお、センサには金属酸化物半導体を感応膜に利用したものもあり、この種類のセンサは感応膜に吸着した酸素分子とにおい成分の分子との間の酸化還元反応によるセンサの導電率の変化を利用して検出を行うので測定時にはたとえば空気を試料とともに供給して酸素分子を補給する必要がある。この場合には装置に、たとえば圧縮空気を充填した空気ボンベから必要に応じて酸素を含んだ空気が供給される系が追加されるが、本発明はセンサの種類とは直接関連していないので、空気の供給系については説明は省略する。
【0007】
また図6はにおい識別装置の基本構造を示したものであり、実際の装置には必要に応じて、前記の空気供給系、におい成分と誤認される不純物等を除去するモレキュラーシーブ・活性炭などを使用したフィルタ、減圧弁、圧力計、流量計、流量調節弁などが使用されているが、本発明と直接の関連はないので図示を省略する。センサユニット8には、前記のように必要に応じて複数の原理のセンサを内蔵することもある。
【0008】
以下に測定の主要手順を示す。最初に試料中のにおい成分の捕集工程について説明する。この工程では六方弁3は前記の第1ポジションに選択されており、試料容器1内の試料が吸入口2−バルブV1−六方弁3−捕集管4−六方弁3−バルブV2−ポンプ5の流通路を通過するように、各バルブの開路方向を選択する。試料はポンプ5の吸引力によって上記の流通路を通過して第1排気口に排出されるが、この工程でにおい成分は常温の捕集管4内で捕集剤に吸着・蓄積される。
【0009】
におい成分の捕集の終了後、洗浄工程に移る。バルブV1の開路方向は切り替えられて吸入口2方向が閉止され、窒素ボンベ6からの乾燥窒素ガスは接続口7−バルブV3−バルブV1−六方弁3−捕集管4−六方弁3−バルブV2−流通路L−第1排気口の流通路で流され、この流通路内の残留試料、残留水分等が除去される。このとき、常温の捕集管4に吸着されている試料中のにおい成分は引き続き捕集管4に吸着されており、捕集管4内の残留水分のみが除去される。なお測定期間中は通常、六方弁3、センサユニット8および六方弁3からセンサユニット8に到る流通路は加熱器(図示せず)によって室温よりやや高温、たとえば40℃に保温されており、周囲温度の変動によるにおいセンサの特性変化および試料中の高沸点化合物の流通路内壁等への付着を防止している。
【0010】
次ににおいの検出工程を説明する。検出工程においては、六方弁3のポジションが第1ポジションから第2ポジションに切り替えられ、窒素ボンベ6からの窒素ガスは、接続口7−バルブV3−六方弁3−捕集管4−六方弁3−センサユニット8−第2排気口の流通路に流される。また捕集管4はたとえば10℃/秒の上昇速度で加熱開始される。この加熱により捕集管4内のにおい成分は順次脱離し窒素ガスに運ばれてセンサユニット8を通過し、センサユニット8に内蔵されているにおいセンサで検出される。
【0011】
検出工程においては、窒素ガスは前記のように、におい成分をセンサユニット8に運ぶキャリアガスとして使用されている。なおこの工程においては、捕集管4内のキャリアガスの流れの方向は試料捕集時の試料の流れとは逆になる。すなわち、試料捕集時には試料はサイドA側から捕集管4に導入され、サイドB側に排出されるが、におい成分の脱離時はキャリアガスはサイドB側から導入されサイドA側に排出される。
【0012】
測定終了後は試料容器1を吸入口2から取り外し、吸入口2に清浄なガスを充填したバッグ(図示せず)を接続してポンプ5を作動させ、吸入口2および装置内配管を洗浄し、次の試料の測定に備える。
【0013】
図7は、後記の図1から図4との対比の便のために、各要素を図6と異なる位置に配置して要素相互の接続を示したものであり、同一符号の各要素の構造および相互接続は図6と全く同一である。
【0014】
図8はにおい成分の捕集工程における捕集管4内の試料の濃度分布の一例を模式的に示している。すなわち捕集管4に到達した試料内のにおい成分は、最初にサイドA近傍の捕集剤に吸着され、ついで試料の流れに沿って捕集剤中をサイドA側からサイドB側に向けて移動して行くが、移動速度の速い成分は同図に示すように捕集管4の広い範囲に分布して行き、遅い成分は捕集管4のサイドA近傍に分布する。次に検出工程においてこのにおい成分をサイドB側からのキャリアガスによって脱離させると、図9に示されるようににおい成分はサイドA側に移動していき、サイドA側から順次脱離してセンサユニット8に導かれ検出される。この際に捕集工程で発生したにおい成分の捕集剤上での分離は検出工程で図9のように再び失われつつ脱離が行われる。
【0015】
【特許文献1】特開平11−218512号公報
【特許文献2】特開2002−22694号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
従来の装置についての構成および作動は以上のとおりであるが、この構成では複数のにおい成分が混合されている試料の場合に、それらの成分を時間的に分離して検出することは困難であった。すなわち、前記のように捕集管4にサイドA側から流入して捕捉される複数のにおい成分は、図8に模式的に示されるように移動速度の差により捕集剤の異なった位置に分布しているが、これらのにおい成分は検出工程においてサイドB側から流入するキャリアガスによって図9に示されるように再び成分が重畳される方向に移動しながらサイドA側から脱離していくため、捕集時に発生した分離は再び打ち消されていく。
【0017】
従来の検出工程においても、捕集剤からの脱離の温度依存性を利用した識別力の向上は行われていたが、本発明が提供する、積極的に移動速度の差に着目する測定は行われていなかったため、識別力向上の効果は限定されていた。本発明はこのような問題点を解決する手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、上記課題を解決するために、捕集剤が充填された捕集管と、捕集管を加熱し捕集剤に吸着したにおい成分を加熱脱離させるための加熱部と、捕集管にキャリアガスを流通させ脱離したにおい成分をキャリアガスと共にセンサに導く流通路を備え、においガスを測定して識別するにおい識別装置において、前記キャリアガスの捕集管への流通方向を逆転させる流通方向変更手段を設ける。また、流通方向変更手段は捕集管の両端にそれぞれ設けた2個の2方向以上の切替弁で構成する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、におい捕集工程で得られた捕集管内の成分分離が検出工程でさらに促進される方向にキャリアガスを通過させることが可能になるので、におい成分の時間的な分離検出が達成される。またキャリアガスの流通路の切り替えにより、1個の捕集管で従来と同様の全におい成分に対応した測定値を得ることも可能である。さらに検出工程における捕集管の加熱の温度勾配を変更し制御することによって、まず第1の温度で捕集剤からの脱離の温度依存性が類似した複数のにおい成分の移動速度の差に基づく分離検出を行い、さらに第2の温度に変更して別の複合成分の分離検出を行うことも可能になる。これらの効果により、におい識別装置の適用範囲の拡大が達成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下図示例にしたがって説明する。図1から図4は本発明の実施例の構成および工程別の試料または乾燥窒素ガスの流れを示している。図1から図4において図6と同一符号の部品の構成および作動は図6と同一である。
図1において試料供給部S側のバルブV11およびキャリアガス供給部C側のバルブV12はそれぞれ捕集管4の両端に配設されており、以下に説明する各工程に応じて、バルブV1、バルブV2および切り替えバルブ11と協動して試料またはキャリアガス供給部Cから供給される乾燥窒素ガスの流れを切り替える。
【0021】
切り替えバルブ11は図6における六方弁3と同じく回転により流路を切り替えるバルブであるが、回転子の流路は図1に示されるごとく、六方弁3とは異なっている。加熱脱離条件制御部12はヒータHの加熱条件を設定するための演算器、加熱電源ならびにキーボードまたはマウス等の入力機器(図示せず)から構成されており、あらかじめの設定または作業者からその場入力される信号によって捕集管4を加熱する条件を適切に変更し設定する。
【0022】
図1はにおい成分捕集時の構成と試料の流れを示しており、試料供給部Sから装置に導入された試料がバルブV1−バルブV11−捕集管4−バルブV12−切り替えバルブ11−バルブV2の流通路を通過するように、各バルブの開路および閉路が設定される。この工程ではヒータHには通電は行わなれないので、試料内のにおい成分は捕集管4内の常温の捕集剤に吸着される。なお、この工程ではキャリアガス供給部Cからの乾燥窒素ガスの流れが阻止されるようにバルブV1およびバルブV12の開閉方向が選択される。
【0023】
図2は洗浄工程におけるキャリアガス供給部Cからの乾燥窒素ガスの流れを示している。乾燥窒素ガスはバルブV1−バルブV11−捕集管4−バルブV12−切り替えバルブ11−バルブV2の流通路を通過し、流通路内の残留試料および捕集管4内の残留水分が除去される。この工程では前工程同様、ヒータHには通電はされないので、試料内のにおい成分は常温の捕集剤に引き続き吸着されている。
【0024】
図3は第1の検出工程におけるキャリアガスの流路を示している。キャリアガス供給部Cから導入されたキャリアガス(乾燥窒素ガス)がバルブV1−バルブV11−捕集管4−バルブV12−切り替えバルブ11−センサユニット8の流通路を通過し、におい成分がセンサユニット8で検出されるように各バルブの位置が選択される。キャリアガスは捕集管4のサイドA側から流入し、サイドB側からにおい成分と共に排出されるので、図5に模式的に示されるように、移動速度の差によってにおい成分の分離が進行し、最初に移動速度の速い成分がセンサユニット8で検出され、以後順次、移動速度の遅い成分が検出される。
【0025】
図4は第2の検出工程におけるキャリアガスの流通路を示している。キャリアガス供給部Cから導入されたキャリアガスはバルブV12−捕集管4−バルブV11−切り替えバルブ11−センサユニット8の流通路を通過する。この検出工程では背景技術の項で説明した従来の装置と同様、キャリアガスはサイドBから捕集管4に導入されるので、図9で説明したように、捕集工程において発生したにおい成分の分離は検出工程で再び失われる方向となり、主に全成分に対応した脱離が行われ、従来の装置と同様の測定結果が得られる。
【0026】
本発明は上記の実施例に限定されるものではなく、さらに種々の変形実施例を挙げることができる。たとえば、図1から図4では1個の捕集管4が示されているが、捕集管4の個数は1個に限定されているわけではなく、目的によって複数の捕集管4と複数のバルブV11、V12を常時、または取り替え可能に配設しても良い。加熱脱離条件制御部12にあらかじめ単数または複数の標準加熱プログラムを設定しておき、測定時はそれらの内どれかを選択して測定を開始しても良い。
【0027】
また加熱脱離条件制御部12の設定条件をまず第1の温度まで上昇して保持し、次に第2の温度まで上昇して保持することにより、まず第1の温度で脱離する複数のにおい成分を移動速度の差に基づき分離検出し、さらに第2の温度で脱離する複数のにおい成分を移動速度の差に基づき分離検出し、分離検出の精度をさらに向上するように設定することも可能である。加熱脱離条件制御部12を含む装置の作動、データ取得およびデータ解析をパーソナルコンピュータで制御し、装置の運転を自動化しても良い。
【0028】
またセンサユニット8には必要に応じて金属酸化物半導体センサ、導電性高分子センサ、または水晶振動子やSAWデバイスの表面にガス吸着膜を形成したセンサなどから適切なものを単数、または複数使用することができる。本発明はこれらをすべて包含する。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は食品・香料・化成品製造における研究開発・品質管理や、環境の維持管理など、におい測定に関する分野において使用されるにおい識別装置に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施例における、におい捕集時の試料の流通路を示す図である。
【図2】本発明の実施例における、捕集管の洗浄時のガス流通路を示す図である。
【図3】本発明の実施例の第1の検出工程におけるキャリアガスの流通路を示す図である。
【図4】本発明の実施例の第2の検出工程におけるキャリアガスの流路を示す図である。
【図5】本発明の実施例における、におい検出時の捕集管内のにおい成分の分離を示す模式図である。
【図6】従来のにおい識別装置の構成を示す図である。
【図7】従来のにおい識別装置の主要要素間の接続を、図1〜図4と類似の要素配置で示した図である。
【図8】従来のにおい識別装置における、におい捕集時の捕集管内の成分の分布を示す模式図である。
【図9】従来のにおい識別装置における、におい検出時の捕集管内の成分の分布を示す模式図である。
【符号の説明】
【0031】
1 試料容器
2 吸入口
3 六方弁
4 捕集管
5 ポンプ
6 窒素ボンベ
7 接続口
8 センサユニット
11 切り替えバルブ
12 加熱脱離条件制御部
H ヒータ
C キャリアガス供給部
S 試料供給部
V1 バルブ
V2 バルブ
V3 バルブ
V11 バルブ
V12 バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中のにおい成分を捕集する捕集剤が充填された捕集管と、捕集管を加熱し捕集剤に吸着したにおい成分を加熱脱離させるための加熱部と、捕集管にキャリアガスを流通させ脱離したにおい成分をキャリアガスと共にセンサに導く流通路を備え、においガスを測定して識別するにおい識別装置において、前記キャリアガスの捕集管への流通方向を逆転させる流通方向変更手段を設けたことを特徴とするにおい識別装置。
【請求項2】
流通方向変更手段は捕集管の両端にそれぞれ設けた2個の2方向以上の切替弁で構成されていることを特徴とする請求項1記載のにおい識別装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−145271(P2008−145271A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−332925(P2006−332925)
【出願日】平成18年12月11日(2006.12.11)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】