説明

にきび疾患用オゾン治療装置

【課題】オゾンガスあるいはオゾン水が毛孔内深部に入り込むことができるようにして、当該深部の細菌に殺菌作用を十分施すことを可能とする。
【解決手段】にきび疾患用オゾン治療装置は、オゾンガスあるいはオゾン水発生装置4と、皮膚に密着させて発生したオゾンガスあるいはオゾン水を疾患部に噴霧する気孔を備えた皮膚カップリング装置2と、皮膚に密着させた皮膚カップリング装置内を真空にし、注入したオゾンガスあるいはオゾン水を皮膚内に含浸させ、かつ、オゾンガスあるいはオゾン水を前記皮膚カップリング装置2内から吸引する吸引装置9と、から構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体の皮膚の様々な疾患の治療等のために皮膚に当接させてオゾンガスやオゾン水を皮膚表面および皮膚内に含浸させて治療する治療装置に関し、とくに、ざ瘡(にきび)の治療に用いるオゾン治療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、オゾン(O3)の高い殺菌作用を利用した機器が様々な分野での応用が注目されつつある。
【0003】
現在、最も大量のオゾンを使用しているのは、上下水道の浄化で、水の殺菌および脱臭の目的で利用されている。その他に、オゾンは、(i)食品殺菌・鮮度の保持、(ii)プール・浴場用の水の殺菌、有機物低減、(iii)水族館・養魚場・動物園の用水の殺菌・脱色・有機物低減、(iv)温室栽培・水耕栽培の殺菌、(v)冷蔵庫・冷凍室内の殺菌・脱臭、(vi)パルプの漂白、(vii)室内空気の殺菌・脱臭、(viii)工場排水の脱臭・有害物質の除去、(ix)半導体微量有機物の除去、等に用いられている。
【0004】
また、オゾンは、他の殺菌剤や酸化剤などのように、残留性がなく、しかも、有害有機物を分解・無害化する作用があることから、環境を重視する昨今の世界的風潮の中で、その利用範囲は、今後、飛躍的に拡大していくと考えられている。
【0005】
さらに、オゾンを医療に使用する試みは、20世紀半ばから行われ、病院内の病室等の殺菌や消臭等への応用や医療機器の殺菌、治療用等として、広く脚光を浴びてきている。こうした医療分野で最もオゾンが活用されている機器には、歯科用の虫歯治療用オゾン発生器がある(非特許文献1)。
【0006】
オゾンは、3つの酸素原子をもつが非常に不安定な状態であり、そのうちの一つの原子が他の物質に移行することでO2、すなわち安定した酸素分子になろうとする性質がある。そのために強い酸化作用をもっている。その酸化作用の強さは、フッ素に次いで強く、過酸化水素、塩素、次亜塩素酸などよりも強い酸化力をもっており、殆どの有機物や金属がオゾンによって酸化される。
【0007】
医療用としてのオゾンは、オゾン含有気体(オゾンガス)として、あるいはオゾンを水に溶かしたオゾン水として使用されている。しかし、その殆どは、その強力な酸化作用により、(i)殺菌、(ii)脱臭、(iii)有機物除去、(iv)脱色、(v)有害物除去、(vi)化学物質合成、等に用いられている。
【0008】
皮膚疾患の原因となる皮膚常在菌として最も多いのは、ブドウ球菌の一種である表皮ブドウ球菌で、皮膚表面1cm2あたり数百から数十万個に及ぶ。次いで、ざ瘡(アクネ)棹菌(にきび菌)でざ瘡1cm2あたり数十から数百万個いる。ここで表皮ブドウ球菌とざ瘡(アクネ)棹菌は、ともに皮脂肪を好む。また、ざ瘡棹菌は、空気を嫌ういわゆる嫌気性の細菌であるので、毛孔閉鎖が進めば進むほど、人体の毛包内で増殖することになる。毛包内に貯留した皮脂が、これらの細菌によって分解されると、遊離脂肪酸に変化し、この遊離脂肪酸は、皮膚細胞に強い刺激を与える起炎症物質の一つとなる。このように、面皰(めんぼう)とかコメドとかいわれる皮脂が毛包内にたまった状態からざ瘡(にきび)へと症状が進むのは、前述したざ瘡棹菌が関係している。そして、炎症症状はやがて紅色丘疹となり、この丘疹部分が化膿すると膿疱ができる。
【0009】
にきび治療用の機器としては、現在、アミノレブリン酸を皮膚表面に塗布した後、紫外線領域(400nmから500nm)の光を皮膚に照射し一重項酸素(12)を発生させることで、アクネ棹菌(にきび菌)を死滅させる方法(略称PDP)(非特許文献2)や、フォトニュマティック・セラピー(略称PPx)等皮膚表面を吸引しながら440nm〜550nmのフラッシュ光を皮膚表面に照射することで、にきび菌を死滅させる方法等がある(非特許文献3)。
【0010】
しかし、現在、使用されている殆どのこの種のにきび治療用機器は、光を用いたものであるため、肌の色や日焼け直後などには治療ができなかったり、また、光がにきび菌に直接ダメージを与えることが無いので、すぐに治療効果が現れず、さらに数回の治療を要したりする等の問題点があった。
【0011】
さらに、従来のにきび治療用機器は、オゾンガスやオゾン水を皮膚疾患の表面に散布するだけであり、オゾンガスの不安定さにより殺菌の毒性効果がすぐ失われてしまうため、オゾンガス等を皮膚孔内や深部に浸透(含浸)させることが極めて困難であった。また、にきびのような、皮脂腺の奥深くに疾患があるときには、オゾンガスやオゾン水が当該疾患部に十分到達しない問題点があった。
【非特許文献1】http://jp.kavo.com/produkte/therapei#instrumente/healozone/healozone.asp?navid=26&lan=Js
【非特許文献2】http://www.nikibi.l.net/30/post#24.html
【非特許文献3】http://www.medieth.com/camp/cam#nikibi.html
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本発明は、皮膚表面に陰圧状態を作ることで、皮脂腺内の面皰を皮膚表面に摘出し、オゾンガスやオゾン水を皮膚内に深く浸透させるとともに、オゾンガス等をさらに完全に皮膚内に注入するために注射針を用いて、細菌による皮膚疾患を効率よく治療することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のにきび疾患用オゾン治療装置は、オゾンガスあるいはオゾン水の注入のオン・オフを制御するバルブを備えたオゾンガスあるいはオゾン水発生装置と、オゾンガスあるいはオゾン水が皮膚外部に漏れないように密着させて、オゾンガスあるいはオゾン水を疾患部に噴霧する気孔を備え、かつ、オゾンガスあるいはオゾン水を皮膚内に注入するための少なくとも一本以上の注射針を備えた皮膚カップリング装置と、皮膚に密着させたカップリング装置内を陰圧状態にし、皮膚腺内の面皰や汚れを摘出し、かつ、皮脂腺内奥深くまでオゾンガスあるいはオゾン水を含浸させ、かつ、オゾンガスやオゾン水を吸引するための吸引装置と、吸引装置により吸引されたオゾンガスあるいはオゾン水を分解するオゾンガスあるいはオゾン水分解装置と、皮膚を加圧してオゾンガスあるいはオゾン水を皮脂腺内に含浸させ、かつ、その加圧のオン・オフを制御するバルブを備えた加圧装置からなる。
【発明の効果】
【0014】
真空で吸引した疾患部(にきび)を有する皮下組織内にオゾンガスあるいはオゾン水を噴霧・注入することにより、オゾンガスあるいはオゾン水が毛孔内深部に入り込むことができ、当該毛孔内深部の細菌に殺菌作用を十分施すことができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明のにきび疾患用オゾン治療装置の実施例を添付した図面に基づいて詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明のにきび疾患用オゾン治療装置1の一実施例を示し、オゾンガスあるいはオゾン水発生装置4(以下、“オゾンガス(水)発生装置”という)と、オゾンガスあるいはオゾン水が皮膚外部に漏れないように皮膚に密着させてオゾンガスあるいはオゾン水を疾患部に噴霧する気孔を備え、かつオゾンガスあるいはオゾン水を皮膚内に注入するための少なくとも一本以上の注射針10を備えた皮膚カップリング装置2と、皮膚カップリング装置2と皮膚間にオゾンガスもしくはオゾン水を注入し、かつ、その注入のオン・オフを制御するバルブ8を備えた注入装置と、皮膚を加圧してオゾンガスあるいはオゾン水を皮膚内に含浸させ、かつ、その加圧のオン・オフを制御するバルブ7(コンプレッサー・バルブ)を備えた加圧装置5(コンプレッサー)と、皮膚に密着させたカップリング装置2から注入したオゾンガスやオゾン水をバルブ7(真空ポンプ・バルブ)を経て吸引する吸引装置6(真空ポンプ)と、吸引したオゾンガスやオゾン水を分解するオゾンガス分解装置13と、から構成されている。
【0017】
なお、オゾンガスはオゾン水と比して数十倍の殺菌効果があるとされている(柏木義勝外、オゾンガスとオゾン水の殺菌効果の相違に関する検討、医科器械学Vol.57,No.4(1987,184頁参照))。
【0018】
とくに、図2に示すように、皮膚カップリング装置2の先端に着脱自在に装着される着脱式アダプター3は、プラスチック材料(例えば、アクリル樹脂(PMMA))からなり、環状の本体部3aとその内側環状壁3dを脚部3eを介して連結する連結部3cと、本体部3aの下端部に装着されたシリコンゴムからなる当接部3bと、カップリング装置2の先端雄ネジ部に螺合される雌ネジ部3fとからなり、該連結部3cには、図2(b)に示すように、複数の、例えば5本の先端が鋭利に形成された、注射針10が連結部3cの上下面から突出するように植設されている。さらに、連結部3cには中心に設けた注射針10と同心円上に多数の気孔12(孔径:100μm)が穿設されている。
【0019】
ここで、これらの注射針10は、中空体からなり、かつ、先端が鋭く尖って形成された、例えば、その長さ10〜20mm、中空部(孔)の直径80μm、外径200μmのものを用いる(市販品では、岡野工業株式会社製の無痛針、商品名:ナノパス33が好適である)。
【0020】
また、注射針10の材質は、アルミニューム、ステンレス鋼、ニツケル、タンタル、モリブデン、純鉄が好適である。
【0021】
皮膚カップリング装置2は、オゾンに腐食しにくいステンレス鋼やチタン等を用い、例えば、その直径20〜30mm、長さ100から150mmとする。その例を図5に示す。
【0022】
そして、図6に示すように、オゾンガス(水)発生装置、コンプレッサー、真空ポンプ、オゾンガス分解装置等をケーシング内に収納し、皮膚カップリング装置をケーシングから延出して、携帯式治療装置として用いることもできる。
【0023】
次に本発明の皮膚疾患用オゾン治療装置1の操作方法を図3及び図4を用いて説明する。
【0024】
まず、図3(a)、図4(a)及び図6に示すように、皮膚の疾患部(にきび)を囲むように、皮膚カップリング装置2に装着した着脱式アダプター3を皮膚に対して押圧して、密着させてから、オゾンバルブ8と真空バルブ9とを開放し、オゾンガス(水)発生装置4から管路8aとオゾンバルブ8を経てカップリング装置2の中央孔2a内にオゾンガス(水)を引き込む(第1ステップ)。なお、着脱式アダプター3には、注射針10を植設し、さらに多数の気孔12を形成したものの外に、注射針10のみを植設したもの、あるいは気孔12だけを形成したものを用意し、にきび等の皮膚疾患の程度・状態により、それぞれ付け替えて使用することも可能である。なお、皮膚カップリング装置2の先端部と着脱式アダプター3の当接面には、2個のオーリング2c,2dを介装する。
【0025】
次いで、図3(b)と図4(b)に示すように、オゾンバルブ8とコンプレッサーバルブ7を閉じ、真空バルブ9を用いてカップリング装置2で囲った皮膚の部分を真空ポンプ6により1〜6kPaの真空圧で管路9aと孔2cを経て吸引する。これにより、疾患部(にきび)は、引張られてアダプター3に植設した注射針10に、図4(b)に当接して、注射針10が皮膚の内部に刺し込まれる(第2ステップ)。
【0026】
さらに、図3(c)と図4(c)に示すように、オゾンバルブ8を開いてカップリング装置2内を常圧(大気圧)にするとともに、オゾンガス(水)を注射針10の孔から皮膚に注入し、また当接したアダプター3の気孔12及び脚部3e間に形成された孔3gを介して空間S内に噴霧する(第3ステップ)。
【0027】
最後に、コンプレッサーバルブ7を開き、オゾンバルブ8と真空バルブ9を閉じてから、皮膚を1〜3kPaの圧力で管路7aと孔2cを経て加圧し、オゾンガスあるいはオゾン水を皮膚内に含浸(浸透)させる(第4ステップ)。
【0028】
第1ステップから第4ステップを所定回数(数回)繰り返した後、すべてのバルブを閉じて疾患部(にきび)治療を終了する。
【0029】
なお、オゾンガスあるいはオゾン水にビタミンあるいは他の薬剤を混ぜることにより、さらに、にきびの治療効果を高めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明のオゾン治療装置は、ざ瘡(にきび)の治療のほかに、褥瘡等他の皮膚疾患の治療に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明のにきび疾患用オゾン治療装置の一実施例の概念図である。
【図2】図1に示した本発明のオゾン治療装置の皮膚カップリング装置の先端に装着する着脱式アダプターを示し、図2(a)は、その平面図を、また、図2(b)は、図2(a)のA−A矢視断面図を示す。
【図3】本発明のオゾン治療装置の操作手順を示し、図3(a)は、オゾンバルブと真空バルブとを開き、オゾンガス(水)を皮膚カップリング装置内に引き込んだ状態を、図3(b)は、オゾンバルブとコンプレッサーバルブとを閉じ、真空バルブを開いて皮膚を吸引した状態を、図3(c)は、オゾンバルブを開いてカップリング装置内を常圧(大気圧)にするとともに、オゾンガス(水)を皮膚に噴霧した状態を、また、図3(d)は、コンプレッサーバルブを開き、オゾンバルブと真空バルブを閉じて、皮膚を加圧した状態を、それぞれ示す(ただし、ここには、着脱式カップリングは図示されていない)。
【図4】皮膚カップリング装置に着脱式アダプターを装着して皮膚の疾患部(にきび)に当接した状態を示し、図4(a)は、図3(a)に、図4(b)は、図3(b)に、図4(c)は、図3(c)に、また図4(d)は、図3(d)に対応した状態を、それぞれ示す。
【図5】皮膚カップリング装置から着脱式アダプターを外した斜視図を示す。
【図6】本発明のオゾン治療装置を疾患部(にきび)に密着させて治療していく状態を示す。
【符号の説明】
【0032】
1 にきび疾患用オゾン治療装置
2 皮膚カップリング装置
3 着脱式アダプター
4 オゾンガス(水)発生装置
5 コンプレッサー
6 真空ポンプ
7 コンプレッサー用バルブ(コンプレッサーバルブ)
8 オゾンガス(水)発生装置用バルブ(オゾンバルブ)
9 真空ポンプ用バルブ(真空バルブ)
10 注射針
11 ネジ部
12 気孔
13 オゾン分解装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オゾンガスあるいはオゾン水発生装置と、皮膚に密着させて発生したオゾンガスあるいはオゾン水を注入して疾患部に噴霧する皮膚カップリング装置と、注入したオゾンガスあるいはオゾン水を前記皮膚カップリング装置内から吸引し、かつ、前記皮膚カップリング内を真空にする吸引装置と、皮膚を加圧してオゾンガスあるいはオゾン水を皮膚内に含浸させる加圧装置と、からなるにきび疾患用オゾン治療装置。
【請求項2】
前記皮膚カップリング装置に、皮膚を加圧してオゾンガスあるいはオゾン水を皮膚内に含浸させる加圧装置を設けた請求項1に記載のオゾン治療装置。
【請求項3】
前記皮膚カップリング装置に、少なくとも一個以上の気孔を設けてオゾンガスあるいはオゾン水を疾患部に噴霧するようにした請求項1に記載のオゾン治療装置。
【請求項4】
前記皮膚カップリング装置の先端に着脱式アダプターを装着し、該アダプターに気孔を設けた請求項1に記載のオゾン治療装置。
【請求項5】
前記皮膚カップリング装置の先端に着脱式アダプターを装着し、該アダプターに注射針を設けた請求項1に記載のオゾン治療装置。
【請求項6】
前記皮膚カップリング装置の先端に着脱式アダプターを装着し、該アダプターに気孔及び注射針を設けた請求項1に記載のオゾン治療装置。
【請求項7】
前記吸引装置の上流にオゾンガスあるいはオゾン水分解装置を設けた請求項1に記載のオゾン治療装置。
【請求項8】
前記皮膚カップリング装置の上流に前記加圧装置を設けた請求項1に記載のオゾン治療装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−95410(P2009−95410A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−267706(P2007−267706)
【出願日】平成19年10月15日(2007.10.15)
【出願人】(505128957)
【Fターム(参考)】