説明

ねじ締め装置

【課題】動力の伝達時の騒音、振動を低減させ、操作性に優れたクラッチ機構のあるねじ締め装置を提供する。
【解決手段】モータと、モータを収容するハウジング2と、ハウジング2に対して回転可能で、軸方向に移動可能なスピンドル16と、モータからの動力が伝達されるギヤ部5と、ギヤ部5からの動力が伝達される第1クラッチ部材7と、第1クラッチ部材7に設けられた第1の爪10と、スピンドル16に接続される第2クラッチ部材22と、第2クラッチ部材22に設けられ、第1の爪10と噛合う第2の爪23と、を有するねじ締め装置において、該ギヤ部5と第1クラッチ部材7の間、またはスピンドル16と第2クラッチ部材22の間に弾性体6を設け、該ギヤ5部と第1クラッチ部材7の間、またはスピンドル16と第2クラッチ部材22の間を相対的に回転可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ねじの締め付け及び緩め作業に用いられ、所定の締め付け深さでねじに加わるトルクを遮断するクラッチ機構を備えたねじ締め装置に関するものである。以下では、ねじ締め装置の一例としてスクリュウドライバを例に挙げて説明する。
【背景技術】
【0002】
従来から電動スクリュウドライバなどの装置には、クラッチ機構を有するものがあり、本体の一部に軸方向に位置調整可能なストッパを設けてある。作業者がねじ締めを行う場合、ストッパが被締結材に当接するまで電動スクリュウドライバ本体が移動すると、クラッチの遮断動作が行われる。しかしながら単に、ギヤ及びスピンドル間に各々爪クラッチが介装されているだけのものであれば、作業者が電動スクリュウドライバのドライバビットをねじから外さない限り、ねじ締め終了後も爪クラッチの再衝突により、大きな打撃音を発し続ける。これにより単に爪が痛むばかりではなく、騒音による周囲への迷惑となっていた。また、大きな振動により作業者自身が不快感を覚えるようになり、操作性の悪いものとなっていた。
【0003】
そこで、かかる騒音、振動、操作性を改善するために、ねじ締め終了後クラッチを完全に遮断状態とするものとして、特公平3−5952号公報、特許第2867107号公報に記載されているものがある。
【0004】
特公平3−5952号公報記載の電動スクリュウドライバは、駆動部の爪クラッチとねじ締め用ドライバビットを保持する出力軸に設ける爪クラッチとの間に、摺動自在な第三の中間爪クラッチを設け、所定の位置で駆動部の爪クラッチと中間爪クラッチが外れトルク伝達を遮断する。遮断後、両者の間に付勢したバネにより中間爪クラッチと駆動部のクラッチ間を一定の距離に保持し、爪クラッチの再衝突による打撃音をなくすように構成されている。
【0005】
特許第2867107号公報記載の電動スクリュウドライバは、軸方向に移動可能な駆動ギヤと、ハウジングに回転可能で軸方向に移動可能に支持されたスピンドルとの間にクラッチが設けられ、駆動ギヤとスピンドル間で動力の伝達、遮断をするものである。この装置の特徴は、ギヤ側に軸方向変位手段としての複数のクラッチピンを周方向に沿って傾倒可能に配置している。直立状態のクラッチピンにスピンドル側のクラッチ歯を係合させることによりクラッチピンを傾倒させ、ギヤ側のクラッチ歯を瞬時に前進させてスピンドル側クラッチ歯に噛合わせる。また、スピンドル側のクラッチ歯がクラッチピンから外れると、直ちにクラッチピンを直立状態に戻す。これによりギヤ側のクラッチ歯を瞬時に後退させてスピンドル側のクラッチ歯との間に適正な空間を発生させる構成となっている。
【0006】
【特許文献1】特公平3−5952号
【特許文献2】特許第2867107号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載された電動スクリュウドライバの場合、通常の遮断時には大きな効果が得られた。しかしながら、被締結材にバネ性がある場合には出力軸が上下動して、出力軸に設けた爪クラッチと駆動部に設けた爪クラッチが一度離れた後、再度衝突し騒音を発生していた。また、近年、ねじ締め作業速度の高速化により、モータを高速回転させる傾向が強い。ねじの締め始めにおいては、駆動部の爪クラッチが高速回転しているところに、静止する中間爪クラッチを噛合わせようとする。そのため、爪同士が激しくぶつかり合うことにより大きな騒音、振動が発生していた。また、爪形状は台形状をなしているため、互いに噛合うと今度は互いに噛合いを外そうとする力が発生し、より噛合いが難しくなっていた。そのため、作業者はこの噛合いを外す力に負けないだけの大きな推力で電動スクリュウドライバ本体を押付けなければならず、操作性はいたって悪いものとなっていた。
【0008】
特許文献2に記載された電動スクリュウドライバは、特許文献1の欠点を補うために成されたものである。作業者が大きな推力で瞬時に押すかわりに、ギヤ側の複数のクラッチピンにスピンドル側のクラッチ歯が係合すると、瞬時にギヤがスピンドル側にスライドし、ギヤ側のクラッチ歯とスピンドル側クラッチ歯が噛合い、動力を伝達し、遮断も確実に行われるというものである。しかし、瞬時にギヤ側のクラッチ歯とスピンドル側のクラッチ歯を衝撃的に噛合わせるため、単発の大きな騒音と衝撃力が発生することになる。そのため、各部の摩耗損傷も進展しやすくなっている。また、被締結材にバネ性がある場合も、瞬時にギヤ側のクラッチ歯とスピンドル側のクラッチ歯が噛合うことによる騒音、振動が発生する。
【0009】
本発明の目的は、上記従来の欠点を解消し、動力の伝達時の騒音、振動を低減させ、操作性に優れたねじ締め装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、請求項1の発明は、モータと、該モータを収容するハウジングと、該ハウジングに対して回転可能で、軸方向に移動可能なスピンドルと、該モータからの動力が伝達されるギヤ部と、該ギヤ部からの動力が伝達される第1クラッチ部材と、該第1クラッチ部材に設けられた第1の爪と、該スピンドルに接続される第2クラッチ部材と、該第2クラッチ部材に設けられ、該第1の爪と噛合う第2の爪と、を有するねじ締め装置において、該ギヤ部と該第1クラッチ部材の間、または該スピンドルと該第2クラッチ部材の間に弾性体を設け、該ギヤ部と該第1クラッチ部材の間、または該スピンドルと該第2クラッチ部材の間を相対的に回転可能としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1記載の発明によれば、ギヤ部と駆動爪を有する第1クラッチ板の間、またはスピンドルと従動爪を有する第2クラッチ板の間を弾性体を介して分離することにより、ねじ締め始め、及びねじ締め完了後の爪同士の衝撃的な衝突による騒音、振動を減少させることができる。そのため各部の摩耗損傷が抑えられ、ねじ締め装置の寿命を延ばすことができる。また、衝撃力が大幅に緩和されるため、爪同士の衝突時に発生する互いに離れようとする力が小さくなり、小さな押付け力でも爪同士が噛合うため、操作性が向上する。従って、動力の伝達時の騒音、振動を低減させ、操作性に優れたねじ締め装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下本発明の一実施形態を図1〜図5を参照して説明する。
【0013】
図1は本発明の実施形態に係るねじ締め装置の一部断面側面図である。図2は弾性体が変形していない時の図1のA−A断面図である。図3は弾性体が変形している時の図1のA−A断面図である。図4は本発明の実施形態に係るねじ締め装置のねじ締め前及びねじ締め完了状態を示す要部断面側面図である。図5は本発明の実施形態に係るねじ締め装置のねじ締め状態を示す要部断面側面図である。
【0014】
本発明の実施形態に係る、ねじ締め装置1のハウジング2の先端にはストッパスリーブ3がねじ込みで取り付けられている。ストッパスリーブ3を回転させ移動することにより、ハウジング2と図示省略の被締結材の距離を調節できる。ハウジング2内には図示省略のモータが収容され、モータの出力軸に取付けられたピニオン4がモータからの動力を伝達し、ギヤ5と噛合っている。ギヤ5の内部に4個の円柱形状の弾性体6を介して第1クラッチ板7が収納される。弾性体6は図2、図3に示すように、第1クラッチ板7の四角柱形状を成す平面8上にあり、またギヤ5の四角形状に穿設された角面9上に設置される。第1クラッチ板7はストッパスリーブ3側の端面に台形状の駆動爪10を複数枚有する。なお駆動爪10が第1の爪である。駆動爪10と平面8間は断面が円形状の円柱部11を有し、ギヤ5の断面が円形状の穴部12をガイド面として回動自在に取付けられている。また、第1クラッチ板7の中心にはシャフト13が圧入固定されている。シャフト13の図示省略のモータ側端面は軸受けに固定され、鍔部14があり、摺動材15に接触し、第1クラッチ板7の軸方向の移動を規制している。また、シャフト13の反モータ側端面は、ハウジング2に対して回転可能で、軸方向に移動可能なスピンドル16の軸心に穿設されたガイド穴17に回転自在に挿入される。スピンドル16はハウジング2の反モータ側である下方に取り付くメタル24に回転、摺動自在に装着され、先端部にはドライバビット18が着脱自在に取付けられる。図4、図5に示すように、スピンドル16のモータ側には大径部19を有し、ボール20が転動可能で、スピンドル16の軸心に対し円周上の左右に第1クラッチ板7方向に伸びるV溝21がスピンドル16の軸心に対称に2箇所穿設される。大径部19に回転、摺動自在な第2クラッチ板22がボール20を介して取付けられる。スピンドル16に接続される第2クラッチ板22は、第1クラッチ版7に設けた駆動爪10と噛合う、台形状の複数枚の従動爪23を有する。なお、従動爪23が第2の爪である。第2クラッチ板22の側面には2箇所の孔24が穿設され、ボール20を収納し、蓋25によってボール20の出口が塞がれている。第1クラッチ板7と第2クラッチ板22間にはバネ26が付勢され、ねじを締め付ける前の初期状態においては駆動爪10、従動爪23の距離を保ち、爪同士が接触しない様に設定されている。
【0015】
以上のように構成されたねじ締め装置1の動作を説明する。ドライバビット18の先端に図示省略のねじ等の先端工具を取り付け、図示省略のモータを回転させ、モータからの出力でピニオン4からギヤ5、第1クラッチ板7を回転させる。この時点では第2クラッチ板22は第1クラッチ板7と距離が離れているので回転しない。この状態からねじ締め装置1の操作者が推力を加えて、図示省略の被締結材にねじを押し付けると、スピンドル16はギヤ5方向にバネ26に抗して移動する。スピンドル16のギヤ5方向への移動により、回転している第1クラッチ板7の駆動爪10に第2クラッチ板22の従動爪23が噛合いをはじめようとすると、第2クラッチ板22のみが、ボール20を介してV溝21に沿って図5に示すように瞬時に図面左上方向へ移動し、直ちに双方の爪が噛合う。このときの噛合い時の衝撃力は第1クラッチ板7とギヤ5間の弾性体6の作用により、緩和される。すなわち、最初の大きな衝撃力は弾性体6が第1クラッチ板7とギヤ5間の双方に接触しながら囲われているため、第1クラッチ板7はねじ締め時の抵抗を受け、その場所にとどまろうとし、一方、ギヤ5は回転を続けようとする。ここで相対的に速度差が出るが、弾性体6はギヤ5と第1クラッチ板7との摩擦力により、図2において時計回り方向にギヤ5と同じく僅かに変形しながら転がり回転する。弾性体6は所定量回転すると、図3に示すようにその後は徐々に変形しながら安定した場所で停止し、ギヤ5と第1クラッチ板7は一体に回転する。この状態でさらにねじを締めていくと、ストッパスリーブ3が被締結材に突き当たる。同時に駆動爪10と従動爪23が台形状を成しているので、従動爪23が被締結材側に押し出され噛合いが外れ、バネ26の作用により第2クラッチ板22は図4の示す位置に戻り、駆動爪10と従動爪23の間には隙間が確保される。この状態から、例えスピンドル16が上下動して爪同士が接触しても、弾性体6の衝撃緩和作用で振動、騒音の発生を防ぐことができる。
【0016】
弾性体6をギヤ5と第1クラッチ板7との間に設けたことによる利点について説明する。
【0017】
ギヤ5と第1クラッチ板7に設けた駆動爪10を弾性体6を介して分離している。そのため、ねじの締め始め及びねじ締め完了後において、駆動爪10と従動爪23が噛合う際の衝撃的な衝突により発生していた騒音、振動は減少する。よって、各部の摩耗損傷が抑えら、ねじ締め装置の寿命を延ばすことができる。また、駆動爪10と従動爪23の衝撃力が大幅に緩和されるため、爪同士の衝突時に発生する互いに離れようとする分力が小さくなり、小さな押付け力でも爪同士が噛合うため、操作性が向上する。従って、操作性に優れたねじ締め装置を提供することができる。
【0018】
また、弾性体6による衝撃緩和作用は弾性体6の変形量が大きいほど効果があるが、一般的に変形量が元の大きさの10%から15%を超えると弾性体6は徐々に塑性変形を起こし、寿命が短くなる。そこで、駆動爪10と従動爪23が衝突する瞬間に発生する大きな衝撃力は弾性体6が変形することで緩和するのではなく、弾性体6がギヤ部5と駆動爪10を有する第1クラッチ板7間で転がりながら緩和する。そして、所定量の転がり後、徐々に変形しながら衝撃力を緩和させることにより、衝撃緩和効果を大きくできる。従って弾性体6の変形量を抑えることができるため弾性体6の寿命を延ばすことができる。
【0019】
なお、本発明の実施の形態においては、弾性体6をギヤ5と第1クラッチ板7との間に設けることによりギヤ5と第1クラッチ板7を分離させたが、弾性体6をスピンドル16と第2クラッチ板22との間に設けても同様の効果を得る事ができる。
【0020】
また、ねじを緩めるときは、モータを逆転させるだけであり、同じような効果を得ることができる。
【0021】
なお、弾性体6の変形量を規制するためのストッパ等をギヤ5と第1クラッチ板7間に設けても良い。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態に係るねじ締め装置の一部断面側面図。
【図2】弾性体が変形していない時の図1のA−A断面を示す側面図。
【図3】弾性体が変形している時の図1のA−A断面図である。
【図4】本発明の実施形態に係るねじ締め装置のねじ締め前及びねじ締め完了状態を示す要部断面側面図。
【図5】本発明の実施形態に係るねじ締め装置のねじ締め状態を示す要部断面側面図。
【符号の説明】
【0023】
1はねじ締め装置、5はギヤ、6は弾性体、7は第1クラッチ板、10は駆動爪、13はシャフト、16はスピンドル、20はボール、21はV溝、22は第2クラッチ板、23は従動爪、26はバネである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータと、
該モータを収容するハウジングと、
該ハウジングに対して回転可能で、軸方向に移動可能なスピンドルと、
該モータからの動力が伝達されるギヤ部と、
該ギヤ部からの動力が伝達される第1クラッチ部材と、
該第1クラッチ部材に設けられた第1の爪と、
該スピンドルに接続される第2クラッチ部材と、
該第2クラッチ部材に設けられ、該第1の爪と噛合う第2の爪と、
を有するねじ締め装置において、
該ギヤ部と該第1クラッチ部材の間、または該スピンドルと該第2クラッチ部材の間に弾性体を設け、該ギヤ部と該第1クラッチ部材の間、または該スピンドルと該第2クラッチ部材の間を相対的に回転可能としたことを特徴とするねじ締め装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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