説明

ねじ軸及びその製造方法並びにボールねじユニット

【課題】優れた精度及び強度を有する肉厚の小さい中空のねじ軸及びその製造方法を提供する。また、小型・軽量のボールねじユニットを提供する。
【解決手段】鋼製の棒状素材20の外周面に転造を施して螺旋状のねじ溝3aを形成した後に、外周面に熱処理を施した。そして、熱処理が施された棒状素材20に中ぐり加工を施して管状に形成し、中空のねじ軸3を製造した。このねじ軸3のねじ溝面の硬さはHv600超過であり、内周面の硬さはHv180超過Hv400未満であり、肉厚は0.65mm以上且つ内半径の50%以下である。このねじ軸3を備えるボールねじ1と、転がり軸受30、固定軸32、及びモータ38の内包物とを組み合わせて、ボールねじユニットとした。これら内包物は、ねじ軸3の中空部内に内包されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじのねじ軸及びその製造方法に関する。また、本発明は、ボールねじを備えるボールねじユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ボールねじにモータ、歯車等の部材を組み合わせたボールねじユニットが知られている(例えば特許文献1を参照)。このようなボールねじユニットには、小型化や軽量化が求められているが、ボールねじのナットの外周部にモータ、歯車等の部材が設けられるため、小型化には限界があった。そのため、ボールねじのねじ軸を中空軸として軽量化を行うとともに、この中空部内にモータ、歯車等の部材を収容することにより小型化を行う技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4697785号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、管状素材に転造や熱処理を施すことにより中空のねじ軸を製造するため、転造や熱処理により変形が生じて、ねじ溝形状の精度やねじ軸の真円度が低下するおそれがあった。また、肉厚の小さい管状素材に熱処理を施すと、靱性が低下し破損しやすくなるおそれがあった。管状素材の肉厚を大きくすれば、転造や熱処理による変形が小さくなり、上記のような精度低下や靱性低下が抑制されるが、そうすると軽量化が不十分となるおそれがあった。
そこで、本発明は上記のような従来技術が有する問題点を解決し、優れた精度及び強度を有する肉厚の小さい中空のねじ軸及びその製造方法を提供することを課題とする。また、小型・軽量のボールねじユニットを提供することを併せて課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するため、本発明の態様は次のような構成からなる。すなわち、本発明の一態様に係るねじ軸の製造方法は、ボールねじに使用される中空のねじ軸を製造する方法であって、棒状素材の外周面に転造を施して螺旋状のねじ溝を形成するねじ溝形成工程と、ねじ溝が形成された棒状素材の外周面に熱処理を施す熱処理工程と、熱処理が施された棒状素材に中ぐり加工を施して管状に形成する中ぐり工程と、を備えることを特徴とする。
【0006】
このようなねじ軸の製造方法は、熱処理工程と中ぐり工程との間に、棒状素材の端部を除去する端部除去工程を備えていてもよい。また、熱処理工程と中ぐり工程との間、又は、中ぐり工程の後に、ねじ溝の端部を除去するねじ溝除去工程を備えていてもよい。
また、本発明の他の態様に係るねじ軸は、ボールねじに使用され、螺旋状のねじ溝を外周面に有する中空のねじ軸であって、ねじ溝面の硬さはHv600超過であり、内周面の硬さはHv180超過Hv400未満であり、肉厚は0.65mm以上且つ内半径の50%以下であることを特徴とする。
【0007】
さらに、本発明の他の態様に係るボールねじユニットは、螺旋状のねじ溝を外周面に有する中空のねじ軸と、前記ねじ軸のねじ溝に対向するねじ溝を内周面に有するナットと、前記両ねじ溝により形成される螺旋状のボール転走路に転動自在に装填された複数のボールと、を備えるボールねじ、及び、前記ねじ軸の中空部内に配された内包物、を備え、前記ねじ軸のねじ溝面の硬さはHv600超過であり、内周面の硬さはHv180超過Hv400未満であり、肉厚は0.65mm以上且つ内半径の50%以下であることを特徴とする。
このようなボールねじユニットにおいては、前記内包物を、モータ、センサ、エンコーダ、ダンピング材、軸受、ブッシュ、及び軸のうち少なくとも1種としてもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明のねじ軸の製造方法は、転造及び熱処理を施した棒状素材に中ぐり加工を施すことにより中空のねじ軸を製造するので、優れた精度及び強度を有する肉厚の小さい中空のねじ軸を製造することができる。
また、本発明のねじ軸は、優れた強度を有しているので、肉厚の小さい中空のねじ軸であるにもかかわらず、破損が生じにくい。
さらに、本発明のボールねじユニットは、ねじ軸が中空であるため軽量である。また、ボールねじユニットに備えられる内包物がねじ軸の中空部内に配されているので、小型である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係るねじ軸の製造方法の一実施形態を説明する工程図である。
【図2】ボールねじの断面図である。
【図3】図2のボールねじに用いられるナットの要部断面図である。
【図4】本発明に係るボールねじユニットの一実施形態の構造を説明する側面図である。
【図5】図4のボールねじユニットのA−A断面図である。
【図6】本発明に係るボールねじユニットの別の実施形態の構造を説明する側面図である。
【図7】図6のボールねじユニットのB−B断面図である。
【図8】支持軸を取り外した状態の図6のボールねじユニットの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係るねじ軸及びその製造方法並びにボールねじユニットの実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
ボールねじに使用される中空のねじ軸の製造方法の一例を、図1を参照しながら説明する。なお、図1に示されたねじ軸及びその素材については、下側半分は側面が、上側半分は断面(軸方向に沿う平面で切断した断面)が図示されている。
【0011】
まず、鋼製の棒状素材20の外周面に転造を施して、螺旋状のねじ溝3aを形成した(ねじ溝形成工程)。転造によりねじ溝3aの加工を行うので、ねじ軸3の大量生産を効率良く行うことができる。そして、このねじ溝3aが形成された棒状素材20に、熱処理を施した(熱処理工程)。これにより、ねじ溝3aの表面(ねじ溝面)が硬化される。熱処理としては、浸炭処理、浸炭窒化処理、高周波焼入れ等の変態型の熱処理を用いることができる。熱処理として浸炭処理、浸炭窒化処理、又は高周波焼入れを採用すれば、棒状素材20の外周面の表層部分20a(特に、ねじ溝3aが形成されている部分)のみを硬化して、中心部分は非硬化とすることができる。
【0012】
なお、熱処理として高周波焼入れを採用することがより好ましい。高周波焼入れを用いれば、熱処理による粒界酸化を抑制することができる。また、高周波焼入れを用いれば、熱処理工程をインライン化することが可能となるので、ねじ軸3の大量生産を効率良く行うことができる。
次に、熱処理が施された棒状素材20に中ぐり加工を施して、軸方向に沿う貫通孔を両端面間に設け、管状に形成した(中ぐり工程)。前述したように、棒状素材20の中心部分を非硬化とすれば、中ぐり加工が容易である。このようにして、中空で軽量なねじ軸3が得られた。
【0013】
従来のように管状素材に転造や熱処理を施して中空のねじ軸を製造すると、転造や熱処理により変形が生じて、ねじ溝形状の精度やねじ軸の真円度が低下するおそれがあったが、本実施形態のように棒状素材20に転造や熱処理を施した後に中ぐり加工を施して中空のねじ軸3を製造すれば、転造や熱処理による変形が抑制されるので(例えば、熱処理による変形は中実のねじ軸と同程度である)、ねじ溝形状の精度やねじ軸3の真円度が優れた高精度の中空のねじ軸3を得ることができる。
【0014】
また、熱処理によって棒状素材20の外周面の表層部分20aのみを硬化することができるので、中ぐり加工により形成する貫通孔の直径を適宜調整すれば、中空のねじ軸3の外周面の表層部分20aのみ硬化されていて、それ以外の部分20bは非硬化とすることができる。その結果、非硬化の部分20bによって、中空のねじ軸3は優れた靱性及び強度を有しているので、肉厚が小さくても破損が生じにくい。
【0015】
さらに、中空のねじ軸3の内周面の硬さよりも外周面の硬さの方が硬いことにより、外周面と比較して内周面の減衰係数が大きくなるので、内周面の硬さが外周面の硬さ以上となっている場合よりも音響特性が優れている。
中空のねじ軸3のねじ溝面(外周面)の硬さはHv600超過とする必要がある。これにより、硬さに起因する上記効果に加えて、転動体の軌道面であるねじ溝面の硬さを十分に確保することができる。
【0016】
また、中空のねじ軸3の内周面の硬さはHv400未満とする必要がある。これにより、硬さに起因する上記効果に加えて、ねじ軸3全体の靱性を維持することができる。さらに、ねじ軸3の内周面が硬い場合と比較して、ねじ軸3と摺動する部材(例えば回り止め)が摩耗しにくい。ねじ軸3と摺動する部材の摩耗をより抑制するためには、ねじ軸3の内周面とねじ軸3と摺動する部材との硬さを同程度とすることが好ましい。
【0017】
さらに、中空のねじ軸3の内周面の硬さはHv180超過とする必要がある。これにより、硬さに起因する上記効果に加えて、内周面の強度を維持することができる。
さらに、中空のねじ軸3の肉厚は0.65mm以上且つ内半径の50%以下(すなわち、内径の25%以下)である必要がある。これにより、優れた強度と十分な軽量化を両立することができる。ここで、中空のねじ軸3の肉厚とは、ねじ溝3aが形成された外周面の径方向最内方側部分(すなわち、ねじ溝3aの溝底部分)と内周面との間の径方向距離を意味する。
【0018】
なお、熱処理が浸炭又は浸炭窒化である場合は、棒状素材20の材質は、炭素の含有量が0.10〜0.25質量%のクロム鋼又はクロムモリブデン鋼(例えばSCM420,SCM415)であることが好ましく、熱処理が高周波焼入れである場合は、炭素の含有量が0.4〜0.6質量%の炭素鋼(例えばS53C,SAE4150)であることが好ましい。このような材質とすることにより、硬さに起因する上記効果を確実に得ることができる。
【0019】
本実施形態のねじ軸3及びその製造方法は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態のねじ軸3及びその製造方法に限定されるものではない。例えば、本実施形態のねじ軸3の製造方法は、ねじ溝形成工程、熱処理工程、及び中ぐり工程を備える方法であったが、これら以外の工程をさらに備える方法としてもよい。その例を以下に説明する。
【0020】
本実施形態においては、転造によって棒状素材20の外周面にねじ溝3aを形成するが、棒状素材20の転造開始部分と転造終了部分において2個のロールダイスの接近又は離反動作があり、ロールダイス形状、ロールダイスのねじれ角度などによって不完全ねじ部が生じるおそれがある。不完全ねじ部は、有効ねじ部に比べ径が大きいので、棒状素材20の端部にかけて転造を施しても、端部に形成された不完全ねじ部によって、ねじ軸3とナット5の螺合に支障が生じたり、ねじ溝3aにボール9が挿入されたナットスクリューにねじ軸3が円滑に螺入できなかったりするおそれがあった。このように、不完全ねじ部によってねじ軸3とナット5の組付性が低下するため、ボールねじ1の生産性の低下の原因となっていた。
【0021】
また、ねじ溝3aが形成された外周面を熱処理によって硬化させるが、熱処理として高周波焼入れを採用した場合には、棒状素材20の端部については十分な熱処理を施すことができず、十分な硬化がなされていない不完全熱処理部が形成されるおそれがあった。
そこで、熱処理工程と中ぐり工程との間に、棒状素材20の端部を除去する端部除去工程を行うことが好ましい。これにより棒状素材20に形成された不完全ねじ部及び不完全熱処理部が除去されるので、上記のような問題が生じるおそれはない。なお、棒状素材20の端部を除去する方法は特に限定されるものではないが、切断、研削等があげられる。また、熱処理として浸炭処理又は浸炭窒化処理を採用した場合には、不完全熱処理部は形成されないが、硬化された棒状素材20の端面が除去されて非硬化面が露出するので、中ぐり加工を施しやすくなる。
【0022】
また、熱処理によりねじ溝3aの端部(螺旋状に連続するねじ溝3aの連続方向の端部)に残留応力が生じるため、ねじ溝3aの端部は膨張するおそれがある。その結果、ねじ溝3aの中央部(ねじ溝3aの連続方向の中央部)に圧縮応力が負荷されるので、ねじ溝3aの精度が低下するおそれがあった。
そこで、熱処理工程と中ぐり工程との間、又は、中ぐり工程の後に、ねじ溝3aの端部を除去するねじ溝除去工程を行うことが好ましい。これにより、ねじ溝3aに負荷された圧縮応力が解放されるので、ねじ溝3aの精度が高くなる。なお、ねじ溝3aの端部を除去する方法は特に限定されるものではないが、切削、研削等があげられる。例えば、棒状素材20又はねじ軸3の両端部の外周面を切削により削り取れば、棒状素材20又はねじ軸3の両端部の外周面に形成されたねじ溝3aを除去することができる。
【0023】
以上説明したようにして製造された中空のねじ軸3と、慣用の方法により製造されたナット5及びボール9とを組み合わせて、図2に示すボールねじ1を製造した。このボールねじ1は、中空のねじ軸3を備えているので軽量である。
ボール循環路を用いたボール循環形式としては、チューブ式,コマ式等が一般的であるが、ナットの内周面の一部を凹化させて凹溝を形成し、この凹溝をボール循環路とするボール循環形式を採用してもよい。チューブ式,コマ式の場合は、ボール循環路を構成する別部材(リターンチューブ,コマ)がナットに取り付けられるが、凹溝をボール循環路とする循環形式の場合は、ナットと一体的にボール循環路が形成されているので、別部材をナットに取り付ける必要はない。
【0024】
よって、別部材をナットに取り付ける手間やコストを低減することができる。また、コマがナットから脱落しないように、コマの外周部分にスリーブを設けてバックアップする必要がない。さらに、ナットにコマを取り付けるコマ穴が存在しないので、ナットの外周面に軸受等の別部材を圧入して嵌合させても、ナットの変形が生じにくく真円度の低下を抑制することができる。
【0025】
ここで、凹溝13をボール循環路11とするボール循環形式のボールねじ1の構造と動作について、図2,3を参照しながら説明する。図2に示すように、ボールねじ1は、螺旋状のねじ溝3aを外周面に有する中空のねじ軸3と、ねじ軸3のねじ溝3aに対向する螺旋状のねじ溝5aを内周面に有するナット5と、両ねじ溝3a,5aにより形成される螺旋状のボール転走路7内に転動自在に装填された複数のボール9と、ボール9をボール転走路7の終点から始点へ戻し循環させるボール循環路11と、を備えている。
【0026】
ボール循環路11は、ナット5の内周面に一体的に形成されている。詳述すると、ナット5の円柱面状の内周面の一部を例えば鍛造、切削加工により凹化させて形成した凹溝13を、ボール循環路11としている。よって、チューブ式,コマ式等のボール循環形式の場合とは異なり、ボール循環路11を構成する別部材は取り付けられていない。別部材が用いられていないので、別部材が用いられた場合に両部材の境界部分に生じる、エッジ部を有する段差が生じるおそれはない。
【0027】
また、ボール循環路11(凹溝13)は、ボール転走路7(ねじ溝5a)との接続部分である両端部が直線状となっており、これら両端部の間に位置する中間部が曲線状となっている。この中間部の両端と前記両端部とが滑らかに接続されていて、ナット5の中心から内周面を見た場合のボール循環路11(凹溝13)の全体形状は略S字状をなしている。ただし、ボール循環路11の全体形状は、略S字状に限定されるものではない。
【0028】
このようなボール循環路11を備えていることから、ボール転走路7内を移動しつつねじ軸3の回りを回ってボール転走路7の終点に至ったボール9は、ボール循環路11の一方の端部内に入り、この端部と中間部との境界部分近傍からボール循環路11(中間部)に掬い上げられてナット5の内部(径方向外方側)に沈み込む。そして、ボール循環路11の中間部を通ってねじ軸3のランド部(ねじ溝3aのねじ山)を乗り越えて、ボール循環路11の他方の端部に至り、そこからボール転走路7の始点に戻される。
【0029】
このようなボールねじ1は、ボール9を介してねじ軸3に螺合されているナット5とねじ軸3とを相対回転運動させると、ボール9の転動を介してねじ軸3とナット5とが軸方向に相対移動するようになっている。そして、ボール転走路7とボール循環路11により無端状のボール通路が形成されており、ボール9がボール通路内を無限に循環するようになっているため、ねじ軸3とナット5とは継続的に相対移動することができる。
【0030】
なお、ボール循環路11の断面形状(ボール循環路11の長手方向に直交する平面で切断した場合の断面の形状)は、円弧状(単一円弧状)でもよいしゴシックアーク状でもよい。また、ねじ溝3a,5aの断面形状(ねじ溝3a,5aの長手方向に直交する平面で切断した場合の断面の形状)も、円弧状(単一円弧状)でもよいしゴシックアーク状でもよい。さらに、ボール循環路11とボール転走路7とは、滑らかに接続されている。すなわち、ボール9と凹溝13の内面との接点の軌跡と、ボール9とねじ溝5aの内面との接点の軌跡とが、滑らかに連続するように、ボール循環路11とボール転走路7とが接続されている。その結果、前記ボール通路内をボール9が滑らかに循環する。
【0031】
このような本実施形態のボールねじ1と種々の部材(本発明の構成要件である内包物に相当するものであり、以下「内包物」と記すこともある)とを組み合わせて、ボールねじユニットとすることができる。ボールねじユニットにおいては、前記部材は、ボールねじ1のねじ軸3の中空部内に内包されている。前記部材の種類は特に限定されるものではないが、モータ、センサ、エンコーダ等の装置や、軸受、ブッシュ、軸等の機械要素や、ダンピング材(振動吸収材)があげられる。これらの部材は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0032】
このようなボールねじユニットは、ねじ軸3が中空状であるため軽量である。また、ボールねじユニットに備えられる前記部材が、ナット5の外周部ではなくねじ軸3の中空部内に配されているので、小型である。さらに、ボールねじユニットが軽量且つ小型であり、径方向の寸法が小さいので、遠心力等の影響を受けにくくイナーシャ(慣性)が小さい。その結果、本実施形態のボールねじユニットは、高精度の位置決め性能や高応答性を有する。
このような本実施形態のボールねじ1及びボールねじユニットの用途は特に限定されるものではないが、自動車部品(特に自動車のブレーキ用アクチュエータ),位置決め装置等に好適に使用可能である。
【0033】
以下に、本実施形態のボールねじユニットについて、さらに具体的に説明する。
〔第一実施形態〕
図4は、第一実施形態のボールねじユニットの側面図であり、図5は、図4のボールねじユニットのA−A断面図である。
前述のボールねじ1のねじ軸3の中空部内に固定軸32が同軸に挿通されている。また、ねじ軸3の中空部内の軸方向両端部にはそれぞれ転がり軸受30,30が配されており、転がり軸受30の外径面がねじ軸3の内周面に嵌合され、転がり軸受30の内径面が固定軸32の外周面に嵌合されている。これにより、ねじ軸3が固定軸32に対して回転可能に支持されている。
【0034】
さらに、ねじ軸3の内周面には、例えば磁石からなるロータ34が圧入,接着等の慣用の固着手段により固定されている。また、固定軸32の外周面には、ロータ34に周面対向するようにステータ36が固定されていて、ロータ34とステータ36によりモータ38が構成されている。このモータ38を駆動するとねじ軸3が回転し、ナット5が軸方向に直線移動するようになっている。このボールねじユニットにおいては、転がり軸受30、固定軸32、及びモータ38が内包物である。
【0035】
第一実施形態のボールねじユニットは、中空のねじ軸3が用いられているため軽量である。また、ねじ軸3の中空部内に内包物が内包されているため小型である(特に径方向の寸法が小さい)。さらに、従来においてはねじ軸の支持のためにねじ軸端部の外周面に嵌合させていた転がり軸受を、ねじ軸3の中空部内に内包させたので、軸方向の寸法も小型化される。さらに、モータ38により、歯車等を介することなく直接的にねじ軸3を回転駆動することができるので、第一実施形態のボールねじユニットはトルクの伝達ロスがない。また、逆回転時には回生も可能である。さらに、回転角の検出も可能である。
【0036】
〔第二実施形態〕
ボールねじ1を備えるボールねじユニットにおいて、ねじ軸3の内周面には、周方向に沿う内歯歯車(図示せず)が形成されている。また、ねじ軸3の中空部内にモータ(図示せず)が内包されており、モータの回転軸には前記内歯歯車に噛み合う外歯歯車が圧入、異形嵌合等の慣用の固着手段により取り付けられている。このモータを駆動するとねじ軸3が回転し、ナット5が軸方向に直線移動するようになっている。このボールねじユニットにおいては、モータと前記両歯車が内包物である。
第二実施形態のボールねじユニットは、中空のねじ軸3が用いられているため軽量である。また、ねじ軸3の中空部内に内包物が内包されているため小型である(特に径方向の寸法が小さい)。
【0037】
〔第三実施形態〕
ねじ軸3が回転しナット5が直線移動するタイプのボールねじ1を備えるボールねじユニットにおいて、ねじ軸3の内周面にエンコーダ(図示せず)を取り付け、このエンコーダからの信号を検出するセンサ(図示せず)をねじ軸3の中空部内に内包した。このボールねじユニットにおいては、エンコーダとセンサが内包物である。
第三実施形態のボールねじユニットは、中空のねじ軸3が用いられているため軽量である。また、ねじ軸3の中空部内に内包物が内包されているため小型である(特に径方向の寸法が小さい)。さらに、センサによりねじ軸3の回転を検出して、回転速度、回転方向等を測定することができる。なお、ねじ軸3の回転を制御する制御ユニットもねじ軸3の中空部内に内包すれば、ボールねじユニットをより小型化することができる。
【0038】
〔第四実施形態〕
ナット5が回転しねじ軸3が直線移動するタイプのボールねじ1を備えるボールねじユニットにおいて、ねじ軸3の直線移動を検出する変位センサ(図示せず)をねじ軸3の中空部内に内包した。このボールねじユニットにおいては、変位センサが内包物である。
第四実施形態のボールねじユニットは、中空のねじ軸3が用いられているため軽量である。また、ねじ軸3の中空部内に内包物が内包されているため小型である(特に径方向の寸法が小さい)。さらに、変位センサによりねじ軸3の変位を検出して、移動速度、移動方向等を測定することができる。
【0039】
〔第五実施形態〕
ねじ軸3が回転しナット5が直線移動するタイプのボールねじ1を備えるボールねじユニットにおいて、ねじ軸3の動バランスを保つバランサ(図示せず)をねじ軸3の内周面に取り付けた。このボールねじユニットにおいては、バランサが内包物である。
第五実施形態のボールねじユニットは、中空のねじ軸3が用いられているため軽量である。また、ねじ軸3の中空部内に内包物が内包されているため小型である(特に径方向の寸法が小さい)。さらに、バランサによりねじ軸3の動バランスを良好に保つことができるので、ボールねじ1の駆動時に発生する音や振動が抑制される。また、振動が低減される結果、ボールねじ1が長寿命化される。
【0040】
〔第六実施形態〕
ボールねじ1を備えるボールねじユニットにおいて、ねじ軸3の中空部内にダンピング材(図示せず)を内包した。ダンピング材は、ねじ軸3の中空部の全体に充填してもよいし、一部に配してもよい。このボールねじユニットにおいては、ダンピング材が内包物である。
第六実施形態のボールねじユニットは、中空のねじ軸3が用いられているため軽量である。また、ねじ軸3の中空部内に内包物が内包されているため小型である(特に径方向の寸法が小さい)。さらに、ダンピング材によりねじ軸3の固有値が変化するので、ボールねじ1の音響特性を最適化することが可能である(ボールねじ1の駆動時に発生する音を低減できる)。さらに、ダンピング材によりボールねじ1の駆動時に発生する振動が低減されるので、ボールねじ1が長寿命化される。
【0041】
〔第七実施形態〕
図6は、第七実施形態のボールねじユニットの側面図であり、図7は、図6のボールねじユニットのB−B断面図である。
前述のボールねじ1のねじ軸3の中空部内に支持軸40が同軸に挿通されている。この支持軸40は、図7に示すように中実軸でもよいが、中空軸でもよい。また、ねじ軸3の中空部内の軸方向両端部にはそれぞれ環状のブッシュ42,42が配されており、ねじ軸3の内周面に形成された環状溝44,44に嵌合されている。
【0042】
そして、ブッシュ42の内周面は支持軸40の外周面と滑り接触するようになっているため、ねじ軸3がブッシュ42を介して支持軸40に直線移動可能に支持される。よって、ナット5を回転させると、ねじ軸3が支持軸40に沿って軸方向に相対直線移動するようになっている。このボールねじユニットにおいては、支持軸40とブッシュ42が内包物である。
【0043】
第七実施形態のボールねじユニットは、中空のねじ軸3が用いられているため軽量である。また、ねじ軸3の中空部内に内包物が内包されているため小型である(特に径方向の寸法)。
なお、支持軸40を摺動性に優れた素材で構成するか、又は、支持軸40の外周面に摺動性に優れた被膜を被覆すれば、ブッシュ42を省略することができ、ねじ軸3の内周面と支持軸40の外周面とが滑り接触する構成とすることができる。そうすれば、偏荷重等によるねじ軸3の傾きが抑制されるので、ラジアル方向のコジリの発生が抑制され、ボールねじ1が長寿命化される。また、コジリの発生の抑制により、正逆作動効率が良好となる。
【0044】
また、図7,8に示すように、支持軸40の外周面に、支持軸40の両端間にわたって軸方向に延びる直線状の溝40aを設けるとともに、ねじ軸3の内周面に、径方向内方に向かって突出しその先端部が溝40a内に配される凸部46を設けてもよい。図7,8の例では、凸部46はねじ軸3の内周面の軸方向両端部にそれぞれ設けられている。凸部46が設けられている場合には、ブッシュ42を、略環状で且つ軸方向に延びるスリットを有する断面略C字状(軸方向に直交する平面で切断した断面の形状)の部材とし、凸部46がスリット内に配されるようにブッシュ42を取り付ける。
【0045】
このような構成であれば、凸部46が溝40a内及びブッシュ42のスリット内に配されているため、ねじ軸3及びブッシュ42が支持軸40に対して相対回転することが防止される。なお、ねじ軸3を製造する際にねじ軸3の内周面に凸部46を一体成形してもよいし(図7を参照)、ねじ軸3とは別体の凸部46をねじ軸3の内周面に圧入等によって固定してもよい。
【符号の説明】
【0046】
1 ボールねじ
3 ねじ軸
3a ねじ溝
5 ナット
5a ねじ溝
7 ボール転走路
9 ボール
11 ボール循環路
13 凹溝
20 棒状素材
30 転がり軸受
32 固定軸
34 ロータ
36 ステータ
38 モータ
40 支持軸
42 ブッシュ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボールねじに使用される中空のねじ軸を製造する方法であって、棒状素材の外周面に転造を施して螺旋状のねじ溝を形成するねじ溝形成工程と、ねじ溝が形成された棒状素材の外周面に熱処理を施す熱処理工程と、熱処理が施された棒状素材に中ぐり加工を施して管状に形成する中ぐり工程と、を備えることを特徴とするねじ軸の製造方法。
【請求項2】
熱処理工程と中ぐり工程との間に、棒状素材の端部を除去する端部除去工程を備えることを特徴とする請求項1に記載のねじ軸の製造方法。
【請求項3】
熱処理工程と中ぐり工程との間、又は、中ぐり工程の後に、ねじ溝の端部を除去するねじ溝除去工程を備えることを特徴とする請求項1に記載のねじ軸の製造方法。
【請求項4】
ボールねじに使用され、螺旋状のねじ溝を外周面に有する中空のねじ軸であって、ねじ溝面の硬さはHv600超過であり、内周面の硬さはHv180超過Hv400未満であり、肉厚は0.65mm以上且つ内半径の50%以下であることを特徴とするねじ軸。
【請求項5】
螺旋状のねじ溝を外周面に有する中空のねじ軸と、前記ねじ軸のねじ溝に対向するねじ溝を内周面に有するナットと、前記両ねじ溝により形成される螺旋状のボール転走路に転動自在に装填された複数のボールと、を備えるボールねじ、及び、前記ねじ軸の中空部内に配された内包物、を備え、
前記ねじ軸のねじ溝面の硬さはHv600超過であり、内周面の硬さはHv180超過Hv400未満であり、肉厚は0.65mm以上且つ内半径の50%以下であることを特徴とするボールねじユニット。
【請求項6】
前記内包物は、モータ、センサ、エンコーダ、ダンピング材、軸受、ブッシュ、及び軸のうち少なくとも1種であることを特徴とする請求項5に記載のボールねじユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−99840(P2013−99840A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−225039(P2012−225039)
【出願日】平成24年10月10日(2012.10.10)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】