説明

ねじ込み式杭

【課題】鋼管の先端部又はその近傍に翼が取り付けられ、鋼管に回転力を与えることにより地中に貫入して埋設されるねじ込み式杭として、施工性に優れるとともに経済的なねじ込み式杭を提供する。
【解決手段】鋼管2の先端部に、内角の総和が360°になる2枚の扇形状平板11a、11bによって形成されたほぼ螺旋状の翼10が取り付けられたねじ込み式杭において、螺旋状の翼10の螺旋下端部(螺旋開始部)を切り欠いた切り欠き部21が設けられているとともに、螺旋状の翼10の中心付近に開口部30が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管の先端部又はその近傍に翼が取り付けられ、その鋼管に回転力を与えることにより、翼の木ねじ作用によって地中に埋設するねじ込み式杭に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼管の先端部又はその近傍に翼が取り付けられ、その鋼管に回転力を与えることにより、翼の木ねじ作用によって地中に埋設するねじ込み式杭は、これまで多数提案されている(例えば、特許文献1〜3)。
【0003】
まず、特許文献1に記載された鋼管杭(ねじ込み式杭)は、一枚の長さが半巻きで、外径が杭本体の1.5〜3倍程度である一対のラセン翼を、鋼管杭の下端部外周面の同じ高さ位置でラセン方向を同じにして互いに相対的に複数枚不連続に固定したものである。
【0004】
この構造では、レキ等の硬い地盤においても掘削開始時の杭芯のずれや推進時の杭体の傾斜がなく施工精度が高い上、安定した推進力を得ることができる。また、従来の杭と比較して掘削刃の擦り減りや変形及び排土量も少なく、ラセン翼の回転数も少なくて同じ掘削効果を発現できる。このため周辺摩擦の発現も期待でき、極限支持力の向上につながる。
【0005】
次に、特許文献2に記載された翼付きねじ込み鋼管杭は、先端部をほぼ螺旋状に切欠いて取付部が形成された鋼管と、半径が鋼管の半径より大きく内角の総和が320°〜400°になるように形成された2個又は3個の扇形状平板とを有し、これら扇形状平板をほぼ螺旋状の翼を形成するように鋼管の取付部に結合したものである。
【0006】
この構造では、鋼管の底板と螺旋翼の両方の機能を備えた翼の全体が鉛直力の作用時に支持体として働くため、大きな支持力を得ることができ、複数の扇形状平板を鋼管の先端部にほぼ螺旋状に配置して構成した翼により、螺旋翼を設けた場合と同等のねじ込み施工性が得られ、翼を鋼管の外周面でなく先端部に取り付ける構造なので、翼に発生した曲げモーメントが鋼管に伝達されて過大な曲げ応力を発生しにくい。
【0007】
次に、特許文献3に記載された翼付き鋼管杭(ねじ込み杭)は、鋼管と、二つの翼及び鋼管の軸方向に延びる板状体からなり、二つの翼は板状体を挟んで対向して並行するように配置され、一方の翼の先入部分に対向する他方の翼の後入部分及び他方の翼の先入部分に対向する一方の翼の後入部分の少なくとも一部分を切断し、あるいは、一方の翼の後入部分に対向する他方の翼の先入部分及び他方の翼の後入部分に対向する一方の翼の先入部分の少なくとも一部分を切断してあるものである。
【0008】
この構造では、一方の翼の先入部分に対向する位置に他方の翼の後入部分の一部或は全部が存在しないから、貫入の際、一方の翼の先入部分上の土が他方の翼の後入部分の裏面に蓄積して圧縮され、地盤が固くなることはないので、圧入機の押圧力や回転力を大きくする必要がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7−292666号公報
【特許文献2】特開平10−102489号公報
【特許文献3】特開2005−256500号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1においては、1枚あたりのラセン翼の長さは〔1÷(ラセン翼の枚数+1)〕以上〔1÷ラセン翼の枚数〕×1.1以下であり、2枚のラセン翼のときは1枚あたり0.33巻き〜0.55巻きとなり、下方から見た投影面積では、円が欠けた状態となっている。隙間が多い分、れき地盤での貫入性は良くなるが、ラセン翼に加工する手間と費用がかかる。また、側面に取り付けるため、地盤反力による曲げモーメントが鋼管部に伝達されるため、翼の板厚を大きくしたり、鋼管の板厚や強度をあげたりするなどの対応が必要であり、経済的でない。
【0011】
また、特許文献2においては、扇形状平板の内角の総和を360°より小さくしたので、隙間が生じ、360°の翼に比べれば施工性が向上するが、翼と翼の段差部のみを開口した程度では土の取り込み量が小さいので、それほど大きな施工性向上は期待できない。また、翼をどのように切断して取り付けたのか不明確である。
【0012】
また、特許文献3においては、2枚の翼を交差させて、かつ翼を切断して連続していないので、翼の上方に乗って推進力を発揮する土砂が、回転とともにすぐ翼から離れるため、十分な推進力を得られず、施工性が向上しない。
【0013】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたもので、鋼管の先端部又はその近傍に翼が取り付けられ、鋼管に回転力を与えることにより地中に貫入して埋設されるねじ込み式杭として、施工性に優れるとともに経済的なねじ込み式杭を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明は以下の特徴を有する。
【0015】
[1]鋼管の先端部又はその近傍に、内角の総和がほぼ360°になる複数枚の扇形状平板によって形成されたほぼ螺旋状の翼が取り付けられ、前記鋼管に回転力を与えることにより地中に貫入して埋設されるねじ込み式杭において、
前記螺旋状の翼を地面に投影した形状に関して、当初隣接している螺旋下端部と螺旋上端部の間を頂角が90°以下の扇形状に切り欠いて形成された切り欠き部が設けられているとともに、螺旋状の翼の中心付近を切り欠いて形成された開口部が設けられていることを特徴とするねじ込み式杭。
【0016】
[2]前記切り欠き部は、螺旋下端部側を頂角が90°以下の扇形状に切り欠いて形成された切り欠き部であることを特徴とする前記[1]に記載のねじ込み式杭。
【0017】
[3]前記切り欠き部は、螺旋上端部側を頂角が90°以下の扇形状に切り欠いて形成された切り欠き部であることを特徴とする前記[1]に記載のねじ込み式杭。
【0018】
[4]前記切り欠き部において、さらに切り欠いて形成された2段目の切り欠き部が設けられていることを特徴とする前記[1]〜[3]のいずれかに記載のねじ込み式杭。
【0019】
[5]前記螺旋状の翼は2枚の扇形状平板によって形成されていることを特徴とする前記[1]〜[4]のいずれかに記載のねじ込み式杭。
【発明の効果】
【0020】
本発明のねじ込み式杭においては、ほぼ螺旋状の翼の螺旋下端部あるいは螺旋上端部を切り欠いた切り欠き部が設けられているので、地盤への切り込み面が大きくなり、貫入性を螺旋翼とほぼ同等にすることができるとともに、螺旋状の翼の中心付近に開口部が設けられているので、土壌の取り込みを促進することができる。また、螺旋翼のような翼の曲げ加工が不要であるので、低コスト化が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1の実施形態を示す斜視図である。
【図2】本発明の第1の実施形態を示す縦断面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態を示す縦断面図である。
【図4】本発明の第1の実施形態を示す平面図である。
【図5】地盤に貫入する翼端部の状態を示す図である。
【図6】地盤に貫入した際の翼の作用を比較した図である。
【図7】本発明の第1の実施形態における鋼管の先端部分を示す図である。
【図8】補強板の取り付けを示す図である。
【図9】補剛材の取り付けを示す図である。
【図10】本発明の第1の実施形態の別の態様(鋳造成形により翼と鋼管との取り付け部を一体成形した例)を示す斜視図である。
【図11】本発明の第2の実施形態を示す斜視図である。
【図12】本発明の第2の実施形態を示す縦断面図である。
【図13】本発明の第3の実施形態を示す平面図である。
【図14】本発明の第4の実施形態を示す平面図である。
【図15】本発明の第5の実施形態を示す平面図である。
【図16】本発明の第5の実施形態の効果を示すための図である。
【図17】本発明の第6の実施形態を示す平面図である。
【図18】本発明の第7の実施形態を示す平面図である。
【図19】本発明の第8の実施形態を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0023】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態に係るねじ込み式杭を図1〜図4に示す。図1は、第1の実施形態に係るねじ込み式杭の斜視図であり、図2は図1において矢印X方向にみた縦断面図、図3は図1において矢印Y方向にみた縦断面図、図4は平面図である。
【0024】
図1〜図4に示すように、この第1の実施形態に係るねじ込み式杭1Aは、鋼管2の先端部に、内角の総和が360°になる2枚の扇形状平板(鋼板)11a、11bによって形成されたほぼ螺旋状の翼10が取り付けられ、鋼管2に回転力を与えることにより地中に貫入して埋設されるねじ込み式杭である。ここで、最初に地中に貫入する側の扇形状平板11aを下側翼11a、他方の扇形状平板11bを上側翼11bと呼ぶことにする。ちなみに、ほぼ螺旋状の翼10では、図2に示すように、下側翼11aと上側翼11bとの連結位置11sが鋼管2の外側にあるとともに、下側翼11aの傾斜角度γaと上側翼11bの傾斜角度γbとがほぼ等しくなっている(γa≒γb)。
【0025】
その上で、この実施形態に係るねじ込み式杭1Aは、図4に示すように、螺旋状の翼10を地面に投影した形状に関して、当初隣接している螺旋下端部(下側翼11aの傾斜下端部)と螺旋上端部(上側翼11bの傾斜上端部)の間について、螺旋下端部側(下側翼11aの傾斜下端部側)を鋼管中心Oを頂点とした頂角(中心角)αの扇形状に切り欠いた切り欠き部21が設けられているとともに、図1〜図4に示すように、螺旋状の翼10の中心付近を切り欠いた開口部30が設けられている。
【0026】
なお、図4においては、切り欠き部21を設ける前の螺旋下端部(当初の下側翼11aの傾斜下端部)を起点にして、螺旋が上昇する方向(図4では、反時計回り)に角度θをとって螺旋状の翼10の角度位置を表している。すなわち、角度θ=0°の位置が当初の螺旋の始点(当初の下側翼11aの傾斜下端部)、角度θ=αの位置が切り欠き後の螺旋の始点(切り欠き後の下側翼11aの傾斜下端部)、角度θ=180°の位置が螺旋の中間位置(下側翼11aと上側翼11bとの接続位置)、角度θ=360°の位置が螺旋の終点(上側翼11bの傾斜上端部)となる。したがって、ここでは、角度θ=0°〜45°の範囲が切り欠かれて、頂角α=45°の扇形状の切り欠き部21が形成されていることになる。
【0027】
以下に、図5に基づいて、切り欠き部21の切り欠き角度αについて述べる。ここで、図5は、切り欠き部21を設けた後の螺旋下端部(下側翼11aの下端部)における下側翼11aと土砂9の関係を示したものである。
【0028】
図5(a)に示す切り欠き角度α=0°の場合(すなわち、切り欠き部21が無い場合)は、新規地盤に当たるのは下側翼11aの半径方向の先端であり、点で地盤に当たる状態になるため、掘削力が小さい。それほど硬くない地盤では食い込み範囲が少なくなるため、貫入性があまり良くない。また、せっかく乗った土砂9が鋼管2から離れていくように下側翼11aが傾いているため、推進力に寄与する鉛直方向の分力が小さくなる。
【0029】
図5(b)に示す切り欠き角度α=45°の場合は、図5(a)に比べると、下側翼11aが鋼管2に対して直角に近くなり、下側翼11aの半径方向の面で地盤に当たる状態に近くなる。また、下側翼11aの上に乗る土砂9の動きも、図5(a)のα=0°に比べると小さくなり、土砂9の重量が推進力に寄与する。
【0030】
図5(c)に示す切り欠き角度α=90°の場合は、曲げ加工して製作した螺旋翼と同じように、鋼管2と直角に取り付いており、面で地盤に貫入するので、下側翼11aの上に土砂9が乗り、推進力が得やすい。すなわち、下側翼11aに乗った土砂9が翼10上から離れないので、土砂9の重量が推進力に十分寄与する。翼10の上に土砂9が常にあるような状態が一番推進力を得やすいので、それほど硬くない地盤においては、この構造の貫入性が良い。
【0031】
図5(d)に示す切り欠き角度α=135°の場合や図5(e)に示す切り欠き角度α=180°の場合は、下側翼11aの径方向の傾きが、図5(b)の切り欠き角度α=45°の場合や図5(a)の切り欠き角度α=0°の場合と逆になるため、土砂9は鋼管2に近づくような挙動となり、推進力に寄与する。
【0032】
ただし、切り欠き角度αが大きいと、鋼管2内部に土砂9をより多く取り込むことができるため、貫入性が向上するが、杭としての必要な機能である鉛直支持力に対しては、翼10の投影面積が小さくなるため、鉛直支持力が減少してしまう恐れがある。
【0033】
そこで、発明者らが解析により切り欠き角度を変化させて鉛直支持力を調査したところ、切り欠き部21が無い場合(すなわち、切り欠き角度α=0°の場合)の支持力を100%とすると、切り欠き角度α=45°の場合は約95%、切り欠き角度α=90°の場合は約88%であった。地盤の硬軟や施工の状況により、支持力値が変わることもあるが、定性的には解析が示す通りとなる。施工性と支持力を考慮すると、切り欠き角度αは10°〜45°程度の範囲が望ましい。また、切り欠き角度αが90°に近い状態であっても、掘削刃などを取り付けることにより、実質的に翼10の投影面積を増加させて、支持力増を図ることもできる。
【0034】
そして、この実施形態に係るねじ込み式杭1Aでは、角度θ=180°の位置から、下側翼11aの傾斜角度γaとほぼ同じ傾斜角度γbで上側翼11bが連続して取り付けられている。上側翼11bの角度位置θ=180°〜360°の範囲は、半径方向の翼の傾きが、下側翼11aの角度位置θ=0°〜90°の範囲と同じであるが、下側翼11aのように新規地盤に貫入するわけではないため、半径方向の傾きが同じでも貫入性に問題はない。
【0035】
その結果、図6(a)に示すように、この実施形態に係るねじ込み式杭1Aでは、ほぼ螺旋状の翼10が取り付けられているため、土砂9の軌跡が翼10の上面を通り推進力に寄与する機構となり、図6(b)に示すような螺旋翼80の場合と同様の挙動を示す。このことから、この実施形態に係るねじ込み式杭1Aは、螺旋翼80とほぼ同等の推進力を得ることができる。これに対して、図6(c)に示すように、扇形状平板91a、91bを鋼管中心で交差させて取り付けた翼90の場合は、翼90が不連続となり、土砂9が翼90の上に乗っている範囲が減るため、十分な推進力を得ることができない。
【0036】
また、前述したように、翼10の中心には、ほぼ円形の開口部30が設けられており、それによって、鋼管2内への土砂9の取り込みが促進されるようになっている。なお、開口部30の径は、鋼管2の外径Dの0.25〜0.9倍程度であるが、鋼管2の外径Dの0.4倍以上開口すると開口による土の取り込み効果が大きくなる。ただし、開口部30を大きくすると施工性は向上するが、支持力は低下するので、双方のバランスで形状を決めるのがよい。また、翼10の径を大きくして鋼管2からの張り出しが大きくなると、供用時の地盤反力により生じる曲げモーメントのバランスも悪くなるため、張り出しが大きいときは開口部30を小さくするのが望ましい。
【0037】
なお、鋼管2の先端部には、図7に示すように、円周方向に第1の段差部4aと第2の段差部4bを介して2分割して形成され、ほぼ同じ角度で同方向に向う傾斜面からなる第1の取り付け部3a(鋼管2の先端部側)と、第2の取り付け部3bとが設けられている。なお、これら第1の取り付け部3aと第2の取り付け部3bとは、不連続ではあるがほぼ螺旋状をなしている。そして、下側翼11aの下端部と上側翼11bの上端部との間の段差となる第1の段差部4aの高さh1は、杭1Aを貫入する地盤の状態、鋼管2の外径などによって異なるが、一般にh1=0.1〜0.5D(Dは鋼管2の直径)程度が望ましく、また、下側翼11aの上端部と上側翼11bの下端部との間の段差となる第2の段差部4bの高さh2は、翼10を構成する扇形状平板11a、11bの厚みより若干高く形成されている。第1の段差部4aの高さh1が0.1D未満の場合は、杭1Aの1回転当りの貫入量が著しく低下し、また、0.5Dを超えると1回転当りの貫入量が大きくなりすぎるため、杭1Aを回転するためのトルクが過大になる。
【0038】
また、翼10は、鋼管2の外径Dより大きい外径の円形鋼板又は楕円形鋼板を中央から2分割した平板11a、11bを用いて形成したものであり、翼10の径の大きさは、杭1Aを貫入させる地盤の状態、鋼管2の外径などによって異なるが、ねじ込み施工性と支持力の大きさとのバランスを考慮して、鋼管2の外径Dの1.2〜3倍程度が望ましい。
【0039】
そして、下側翼11aの上端部(終端部)と上側翼11bの下端部(始端部)との接合は溶接により行うが、図8に示すように、第2の段差部4bに補強板(閉塞板)41を取り付けることで、1枚の翼と同じような強度を得ることができる。また、翼10の板厚により、第1の段差部4aにも同様に補強板(閉塞板)を取り付けても良い。
【0040】
さらに、図9(a)、(b)に示すように、第1の段差部4aにおいて、鋼管2の内側あるいは外側に、鋼管2を補強するための補剛材42を設けることで、より大きなトルクに耐えられる構造も可能にすることができる。
【0041】
このようにして、この実施形態に係るねじ込み式杭1Aにおいては、ほぼ螺旋状の翼10の螺旋下端部(螺旋開始部)を切り欠いた切り欠き部21が設けられているので、地盤への切り込み面が大きくなり、貫入性を螺旋翼とほぼ同等にすることができるとともに、螺旋状の翼10の中心付近に開口部30が設けられているので、土壌の取り込みを促進することができる。そして、螺旋翼のような翼の曲げ加工が不要であるので、低コスト化が可能になる。したがって、この実施形態に係るねじ込み式杭1Aは、施工性に優れるとともに経済的なねじ込み式杭となっている。
【0042】
なお、この実施形態に係るねじ込み式杭1Aに用いる鋼管2の直径Dは100〜2000mm程度であるが、直径Dが800〜2000mm程度の大径の鋼管を用いる場合が特に効果が大きい。
【0043】
また、この実施形態においては、翼10は、鋼管2の外径Dより大きい外径の円形鋼板又は楕円形鋼板を中央から2分割した平板11a、11bを用いて形成されているが、鋳造成形により製作することも可能であり、同等の効果を得ることができる。
【0044】
すなわち、図10に示すように、鋳造成形により翼10と鋼管2との取り付け部2aを一体製作することができる。同一形状を大量生産する場合はコストを低減することができ、特に小径において効果が大きい。取り付け部2aの長さは10cm〜200cm程度で、鋼管径および製作状況により適宜変更することができる。鋼管2(鋼管本体)との接続は、溶接やボルト等を用いた機械式の継手により行う。翼形状に変わりはないので、円形鋼板または楕円形鋼板を中央から2分割した平板11a、11bを用いて形成した翼と、同等の施工性、支持力特性を得ることができる。
【0045】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態に係るねじ込み式杭は、基本的な構成は、上記の第1の実施形態に係るねじ込み式杭1Aと同じであるが、図11に斜視図、図12に縦断面図(図2に相当する縦断面図)を示すように、この第2の実施形態に係るねじ込み式杭1Bにおいては、下側翼11aと上側翼11bとの連結位置11sが鋼管2の下端位置となっている。翼の傾斜角度の関しては、上記の第1の実施形態に係るねじ込み式杭1Aと同様に、下側翼11aの傾斜角度γaと上側翼11bの傾斜角度γbとがほぼ等しくなっている(γa≒γb、ただし図12では図示省略)。
【0046】
翼10の厚さは、杭径や翼径、支持力などに応じて決められ、通常、杭体より厚い板厚が用いられる。この実施形態においては、下側翼11aと上側翼11bとの連結位置11sが鋼管2の下端位置としたので、翼同士を溶接で接合することができる。もし、隙間が生じる場合があれば、閉塞板で溶接すればよい。この第2の実施形態の場合にも、第1の実施の形態の場合と同等の効果を得ることができる。
【0047】
(第3の実施形態)
本発明の第3の実施形態に係るねじ込み式杭は、基本的な構成は、上記の第1の実施形態に係るねじ込み式杭1Aと同じであるが、図13に平面図を示すように、この第3の実施形態に係るねじ込み式杭1Cにおいては、螺旋状の翼10を地面に投影した形状に関して、当初隣接している螺旋下端部(下側翼11aの傾斜下端部)と螺旋上端部(上側翼11bの傾斜上端部)の間について、螺旋上端部側(上側翼11bの傾斜上端部側)を鋼管中心Oを頂点とした頂角αの扇形状に切り欠いた切り欠き部21が設けられている。すなわち、ここでは、角度θ=315°〜360°の範囲が切り欠かれて、頂角α=45°の扇形状の切り欠き部21が形成されている。
【0048】
この実施形態に係るねじ込み式杭1Cは、螺旋下端部側(螺旋始端部側)は切り欠いていないので、貫入性は低下する。しかし、貫入させる地盤が非常に硬い礫や岩である場合などでは、翼のピッチ通りの施工は困難であり、螺旋翼のように翼の面で掘削しようとするとトルクが上昇して、施工ができなくなったり、翼の破壊が生じたりする。そこで、施工は地盤を削りながら、トルクの上昇を抑えて実施することとなり、掘削位置が面で当たる螺旋翼より、点で当たるこのねじ込み式杭1Cの翼の方が適している。支持力特性に関しては、ねじ込み式杭1Aと同様である。第2の実施形態に係るねじ込み式杭1Bのように、下側翼11aと上側翼11bとの連結位置11sを鋼管2の下端位置としてもよい。
【0049】
(第4の実施形態)
本発明の第4の実施形態に係るねじ込み式杭は、基本的な構成は、上記の第1の実施形態に係るねじ込み式杭1Aと同じであるが、図14に平面図を示すように、この第4の実施形態に係るねじ込み式杭1Dにおいては、螺旋状の翼10を地面に投影した形状に関して、当初隣接している螺旋下端部(下側翼11aの傾斜下端部)と螺旋上端部(上側翼11bの傾斜上端部)の間について、螺旋下端部側(下側翼11aの傾斜下端部側)を鋼管中心Oを頂点とした頂角α1の扇形状に切り欠くとともに、螺旋上端部側(上側翼11bの傾斜上端部側)を鋼管中心Oを頂点とした頂角α2の扇形状に切り欠いて形成した、頂角α(α=α1+α2)の切り欠き部21が設けられている。すなわち、ここでは、角度θ=0°〜22.5°の範囲と角度θ=337.5°〜360°の範囲が切り欠かれて、頂角α=45°の扇形状の切り欠き部21が形成されている。
【0050】
この第4の実施形態に係るねじ込み式杭1Dでは、第1の実施形態に係るねじ込み式杭1Aと第3の実施形態に係るねじ込み式杭1Cとの中間的な施工性が得られ、地盤の状況に応じて適宜使い分けをするのが望ましい。この実施形態においても、第2の実施形態に係るねじ込み式杭1Bのように、下側翼11aと上側翼11bとの連結位置11sを鋼管2の下端位置としてもよい。
【0051】
(第5の実施形態)
本発明の第5の実施形態に係るねじ込み式杭は、基本的な構成は、上記の第1の実施形態に係るねじ込み式杭1Aと同じであるが、図15(a)に平面図を示すように、この第5の実施形態に係るねじ込み式杭1Eにおいては、切り欠き部21として、頂角αの1段目の切り欠き部21aに加えて、螺旋下端部側(下側翼11aの傾斜下端部側)の鋼管2の外側部分をさらに切り欠いて形成した頂角β1の2段目の切り欠き部21bが設けられている。また、この第5の実施形態に係るねじ込み式杭1Fにおいては、図15(b)に平面図を示すように、切り欠き部21として、頂角αの1段目の切り欠き部21aに加えて、頂角β1の2段目の切り欠き部21bと、さらに螺旋上端部側(上側翼11bの傾斜上端部側)の鋼管2の内側部分を切り欠いて形成された頂角β2の2段目の切り欠き部21cが設けられている。
【0052】
このように、頂角αの1段目の切り欠き部21aに加えて、頂角β1の2段目の切り欠き部21bを設けることによって、掘削のきっかけとなる螺旋下端部(下側翼11aの下端部)の形状が、図16(a)に示すねじ込み式杭1Aの場合に比べて、図16(b)に示すように、地盤と平行に近くなるので、推進力がより得られやすくなる。
【0053】
頂角αは0°〜45°の範囲、頂角β1は0°〜45°の範囲、頂角β2は0°〜45°の範囲とすることが望ましい(ただし、α、β1、β2の全てが0°の場合を除く)。頂角β2の2段目の切り欠き部21cは、砂礫地盤などに対して、開口部を広くして管内に礫を多く取り込めるようにした方がいい場合に設けるとよい。砂地盤などでは、図15(a)に示すように、頂角β2の2段目の切り欠き部21cを設ける必要はない。
【0054】
もちろん、第2の実施形態に係るねじ込み式杭1Bや、第3の実施形態に係るねじ込み式杭1C、第4の実施形態に係るねじ込み式杭1Dについても、同様に、2段目の切り欠き部を設けることができる。
【0055】
(第6の実施形態)
本発明の第6の実施形態に係るねじ込み式杭は、基本的な構成は、上記の第1の実施形態に係るねじ込み式杭1Aと同じであるが、図17に平面図を示すように、この第6の実施形態に係るねじ込み式杭1Gにおいては、螺旋状の翼10を地面に投影した形状に関して、当初隣接している螺旋下端部(下側翼11aの傾斜下端部)と螺旋上端部(上側翼11bの傾斜上端部)の間について、螺旋下端部側(下側翼11aの傾斜下端部側)を螺旋上端部とほぼ平行に間隔eを設けて切り欠くとともに、螺旋下端部側(下側翼11aの傾斜下端部側)の鋼管2の外側部分を、鋼管2の外周と螺旋下端部の交点近傍を頂点とした頂角β1の扇形状に切り欠いて形成した切り欠き部21が設けられている。
【0056】
間隔eは鋼管2の外径Dの1/4程度以下、頂角β1は60°以下とすることが望ましい。この実施形態においては、開口部を広くして管内に土砂を多く取り込めるようにし、さらに鋼管2の外側の翼を切り欠くようにしたので、推進力が得られやすい構造となっている。この実施形態においても、第2の実施形態に係るねじ込み式杭1Bのように、下側翼11aと上側翼11bとの連結位置11sを鋼管2の下端位置としてもよい。
【0057】
(第7の実施形態)
本発明の第7の実施形態に係るねじ込み式杭は、基本的な構成は、上記の第1の実施形態に係るねじ込み式杭1Aと同じであるが、図18に平面図を示すように、この第7の実施形態に係るねじ込み式杭1Hにおいては、螺旋状の翼10を地面に投影した形状に関して、当初隣接している螺旋下端部(下側翼11aの傾斜下端部)と螺旋上端部(上側翼11bの傾斜上端部)の間について、螺旋下端部側(下側翼11aの傾斜下端部側)を開口部30の外周(螺旋状の翼の内周)上の端部近傍を頂点とした頂角β1の扇形状に切り欠いて形成した切り欠き部21が設けられている。
【0058】
頂角β1は90°以下、さらには60°以下程度とすることが望ましい。この実施形態においても、開口部を広くして管内に土砂を多く取り込めるようにし、鋼管2の外側の翼を切り欠くようにしたので、推進力が得られやすい構造となっている。この実施形態においても、第2の実施形態に係るねじ込み式杭1Bのように、下側翼11aと上側翼11bとの連結位置11sを鋼管2の下端位置としてもよい。
【0059】
(第8の実施形態)
本発明の第8の実施形態に係るねじ込み式杭は、基本的な構成は、上記の第1の実施形態に係るねじ込み式杭1Aと同じであるが、図19に平面図を示すように、この第8の実施形態に係るねじ込み式杭1Iにおいては、螺旋状の翼10を、下側平板(下側翼)12a、中間平板(中間翼)12c、上側平板(上側翼)12bの3枚の扇形状平板で形成している。場合によっては、4枚以上の扇形状平板で形成することもできる。
【0060】
このように、扇形状平板の枚数を増やすことによって、製作時のハンドリングが容易になる。
【0061】
もちろん、第3の実施形態に係るねじ込み式杭1C等においても、同様に、扇形状平板の枚数を増やすことができる。
【実施例1】
【0062】
本発明例として、上記の第5の実施形態に係るねじ込み式杭1E(図15(a)参照)を用いて施工した。
【0063】
ここで、鋼管2の径はφ1200mm、鋼管2の板厚は19mm、翼10の径は1800mm、翼10の板厚は70mmであり、翼10の切り欠きについては、一段目の切り欠き角αを22.5°、二段目の切り欠き角β1を30°とするとともに、開口部30の大きさを鋼管径Dの0.5倍とした。
【0064】
なお、地盤の構成は、支持層がN値50以上の砂礫層、中間層はN値25〜35の硬質な砂層およびN値5〜15程度の粘土・シルト層が互層で分布していた。
【0065】
そして、ねじ込み式杭1Eを全周回転機によって根入れ長49mまで施工したところ、トルクは最大で2500kN・m程度で、それほど大きな値ではなく、支持層までスムーズに施工することができた。
【0066】
以上によって、本発明に係るねじ込み式杭の有効性を確認することができた。
【符号の説明】
【0067】
1A ねじ込み式杭
1B ねじ込み式杭
1C ねじ込み式杭
1D ねじ込み式杭
1E ねじ込み式杭
1F ねじ込み式杭
1G ねじ込み式杭
1H ねじ込み式杭
1I ねじ込み式杭
2 鋼管
2a 鋼管と翼との取り付け部
3a 第1の取り付け部
3b 第2の取り付け部
4a 第1の段差部
4b 第2の段差部
9 土砂
10 翼
11a 下側翼
11b 上側翼
11s 下側翼と上側翼の連結位置
12a 下側翼
12b 上側翼
12c 中間翼
20 段差部
21 切り欠き部
21a 一段目の切り欠き部
21b 二段目の切り欠き部
21c 二段目の切り欠き部
30 開口部
41 補強板
42 補剛材
80 螺旋翼
90 交差した翼
91a、91b 扇形状平板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管の先端部又はその近傍に、内角の総和がほぼ360°になる複数枚の扇形状平板によって形成されたほぼ螺旋状の翼が取り付けられ、前記鋼管に回転力を与えることにより地中に貫入して埋設されるねじ込み式杭において、
前記螺旋状の翼を地面に投影した形状に関して、当初隣接している螺旋下端部と螺旋上端部の間を頂角が90°以下の扇形状に切り欠いて形成された切り欠き部が設けられているとともに、螺旋状の翼の中心付近を切り欠いて形成された開口部が設けられていることを特徴とするねじ込み式杭。
【請求項2】
前記切り欠き部は、螺旋下端部側を頂角が90°以下の扇形状に切り欠いて形成された切り欠き部であることを特徴とする請求項1に記載のねじ込み式杭。
【請求項3】
前記切り欠き部は、螺旋上端部側を頂角が90°以下の扇形状に切り欠いて形成された切り欠き部であることを特徴とする請求項1に記載のねじ込み式杭。
【請求項4】
前記切り欠き部において、さらに切り欠いて形成された2段目の切り欠き部が設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のねじ込み式杭。
【請求項5】
前記螺旋状の翼は2枚の扇形状平板によって形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のねじ込み式杭。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2012−237194(P2012−237194A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−201189(P2012−201189)
【出願日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【分割の表示】特願2009−523(P2009−523)の分割
【原出願日】平成21年1月6日(2009.1.6)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】