説明

はすば歯車用金型

【課題】成形するはすばと同一リード角のガイド溝を有するガイド部で、ダイを成形時に案内して回転させ、その際に、下パンチを追従回転させるはすば歯車成形金型の初期セットを容易化することを課題としている。
【解決手段】ダイ1、ダイの成形用はすばGと噛み合うはすばG,Gを外周に形成した下パンチ2及び上パンチ3、コアロッド4、成形用はすばと同一リード角のガイド溝5aを備えたガイド部5を有し、上パンチ3がダイ1に押し込まれてキャビティ19内の原料粉末Pが圧縮され、このときに、下パンチ2がダイに追従して回転するはすば歯車成形用の金型において、位置の固定されたガイドホルダ9にボールプランジャ17を設け、そのボールプランジャのボールが、ガイド部5と下パンチ2の位相が一致した位置で下パンチ2の取付け部の外周に設けた係合用凹部に係合してガイド部5と下パンチ2の位置決め状態が保持されるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、焼結はすば歯車の製造において、粉末成形体の成形に用いるはすば歯車用金型に関する。
【背景技術】
【0002】
焼結はすば歯車は、原料粉末の圧粉成形工程を経た後、得られた粉末成形体を焼結して作られる。そのはすば歯車の圧粉成形工程で利用される金型のひとつに、下記特許文献1の図4に開示されたものがある。
【0003】
同文献の図4の金型(粉末成形装置)は、外歯はすば歯車の成形用であって、下パンチとダイの軸方向相対移動に伴って、内周に成形用はすばを有するダイが、成形用はすばと同一リードのガイド溝とカムフォロアを組み合わせたガイド部に案内されて回転する。
【0004】
また、ダイに進入した上パンチもガイド部に案内されてダイと同調するように回転する。さらに、成形圧力の影響でダイの回転が下パンチに伝わることから、その下パンチをガイド溝の位置が固定された前記ガイド部から独立させ、ダイに対する追従回転が許容される構造にして保護している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−113793号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1の図4の金型は、下パンチと前記ガイド部の位相を合わせ、この状態でダイを下パンチの外周に嵌めて金型を初期状態にセットする。
【0007】
ところが、これらの金型は、下パンチとガイド部が自由に相対回転できるため、両者の位相合わせ(位置決め)と位置決め状態の維持が容易でなく、金型の初期セットに手間と時間を要する不具合が合った。
【0008】
この発明は、ダイを成形時にガイド部で案内して回転させ、その際に、下パンチを追従回転させる上記金型の初期セットを容易化することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、この発明においては、下記のはすば歯車用金型を提供する。
(i)成形用はすばを内周に設けたダイと、このダイの成形用はすばと噛み合うはすばを外周に形成した下パンチ及び上パンチと、コアロッドと、前記成形用はすばと同一リードのガイド溝を備えたガイド部を有し、前記ダイ、下パンチ、及び上パンチがそれぞれ回転可能に支持され、
前記上パンチが、前記ダイと成形用はすばで噛み合い、回転しながら前記ダイに押し込まれて前記ダイ、下パンチ、コアロッド及び上パンチ間に形成されるキャビティ内の原料粉末が圧縮され、このときに、前記下パンチが前記ダイに追従して回転するはすば歯車成形用の金型において、
前記ガイド溝を有する位置の固定されたガイドホルダにボールプランジャを設け、弾性体に付勢されたそのボールプランジャのボールが、前記ガイド部と前記下パンチの位相が一致した位置で前記下パンチの取付け部の外周に設けた係合用凹部に係合するようにした金型。
【0010】
この金型は、外歯はすば歯車の成形用である。
【0011】
これ等の金型は、前記ボールプランジャと係合用凹部が最低で1組あれば発明の目的が達成されるが、そのボールプランジャと係合用凹部が周方向に定ピッチで複数設けられたものが好ましい。
【0012】
なお、前記ボールプランジャは、粉末成形時に下パンチに作用する回転力によって係合用凹部に対するボールの係合が解けるものを用いる。
【発明の効果】
【0013】
この発明の金型は、ガイド部と下パンチの位相が一致した位置で、ガイド部設置側の部材に設けたボールプランジャのボールが下パンチの取付け部の外周に設けた係合用凹部に入り込んで係合する。従って、ガイド部と下パンチの位相合わせ(位置決め)が簡単である。
【0014】
また、金型の初期セット時には、ガイド部と下パンチに大きな相対回転の力が働かないため、ボールプランジャによる両者の位置決め状態が安定して保持され、これにより、金型の初期セットが手間をかけずに簡単に行えるようになる。
【0015】
なお、金型の使用時(粉末成形時)に回転するダイから下パンチに回転力が伝達されるとその力で前記ボールプランジャのボールの係合用凹部に対する係合が自然に解けて下パンチが回転フリーとなる。従って、下パンチをダイの回転に追従させて保護する機能は、従来品と同様に確保される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明を外歯はすば歯車用の金型に適用した例を示す断面図
【図2】図1の金型の要部の拡大断面図
【図3】図2のIII−III線に沿った断面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、この発明のはすば歯車用金型の実施の形態を添付図面の図1〜図4に基づいて説明する。
【0018】
図1のはすば歯車用金型(ダイセット)は、外歯はすば歯車を成形するものであって、ダイ1と、下パンチ2と、上パンチ3と、コアロッド4を有する。また、ダイを案内して回転させるガイド部5を有する。ダイ1、下パンチ2、上パンチ3、及びコアロッド4は、4者間にキャビティ19を作り出す。
【0019】
ダイ1は、ダイプレート6に支持されている。また、ダイプレート6は、連結ロッド7を介してプレス機の下ラム21によって駆動されるヨークプレート8に連結されている。また、下パンチ2は、ガイドホルダ9を兼用したパンチホルダを用いてベースプレート10に取付けられており、コアロッド4は、ヨークプレート8に固定されている。
【0020】
さらに、上パンチ3は、プレス機の上ラム22によって駆動されるアッパープレート11に取付けられている。12は、ダイプレート6の上方に配置したガイドプレートである。このガイドプレート12は、ベースプレート10にガイドストッパ13を取付けてそのガイドストッパ13で支持している。
【0021】
また、そのガイドプレート12に、流体圧で作動させるシリンダ(図のそれはエアーシリンダ)14を介して前記アッパープレート11を接続している。15は、上パンチ3が降下するときにその上パンチ3を回転させるガイド部である。
【0022】
ダイ1の内周には、所定のリード角を持って傾斜する成形用はすばGが形成され、下パンチ2と上パンチ3の外周には、成形用はすばGに適合して噛み合う成形用はすばG、Gがそれぞれ形成されている。
【0023】
さらに、ダイ1と上パンチ3は、軸受16で支えて回転可能となしている。下パンチ2もガイドホルダ9によって定位置での回転が許容されるように支えられている。この下パンチ2の支持も、上パンチと同様に軸受を介して行ってもよいが、成形時に下パンチが回転する量はさほど大きくはないので、軸受無しでの支持でも、特に不具合は生じない。
【0024】
ガイド部5は、成形用はすばGと同一リード角のガイド溝5aとそのガイド溝に案内されるカムフォロア5bを組み合わせてなる。ガイド溝5aは、位置の固定されたガイドホルダ9に形成されており、カムフォロア5bはダイ1に取付けられている。
【0025】
ガイド部15も、成形用はすばGと同一リード角のガイド溝15aとそのガイド溝に案内されるカムフォロア15bを組み合わせてなる。ガイド溝15aは、上パンチ3の基端側の外周に形成されており、カムフォロア15bは、位置の固定されたガイドプレート12に取付けられている。
【0026】
ガイドホルダ9には、この発明を特徴づけるボールプランジャ17が設けられている。そのボールプランジャ17は、図2に示すようなもの、すなわち、中空ねじ17aの内部にボール17bを出没自在に設け、そのボール17bを弾性体17c(コイルばね)で付勢して中空ねじ17aの先端から突出させたものであって、市販品が存在する。
【0027】
このボールプランジャ17が、ガイドホルダ9に設けたねじ孔9aにねじ込まれ、ガイドホルダ9の内周面からボール17bが所定量突出する。
【0028】
また、下パンチ2の基端側に設けられる取付け部の外周には、ボールプランジャ17のボール17bが嵌り込んで係合する係合用凹部18が設けられている。その係合用凹部18は、円錐状のものが求心性に優れて好ましい。
【0029】
その係合用凹部18は、ガイド部5の位相と下パンチ2の位相(成形用はすばGの位相)が一致したときにボールプランジャ17のボール17bが嵌り込む位置に設けられている。そのために、下パンチ2をガイドホルダ9に予め挿入し、係合用凹部18にボール17bが嵌り込んだ状態(下パンチ2とガイドホルダ9の位置決め状態)をボールプランジャ17によって維持することができる。
【0030】
その状態で下パンチ2の外周にダイ1を嵌めれば位置決め状態の変化が起こらない。そのために、金型の初期セットを、手間をかけずに容易に行うことができる。
【0031】
また、上パンチ3が駆動されてダイ1に押し込まれ、その押し込みによりキャビティ19に投入された原料粉末Pの成形が行われて下パンチ2に回転力が加わると、ボール17bが弾性体を圧縮して逃げて係合用凹部18から外れ、これにより、下パンチ2が回転フリーとなってその下パンチに無理なひねりの力が加わることが回避される。
【0032】
なお、ボールプランジャ17と係合用凹部18は、図3に示すように、周方向に定ピッチで複数設けてボールプランジャ17の任意のどれかと係合用凹部18の任意のどれかが係合した位置でガイド部5と下パンチ2の位相が合うようにしておくと、位相合わせの作業がし易く、位相を合わせた(位置決めした)状態の保持安定性も高まる。
【符号の説明】
【0033】
1 ダイ
2 下パンチ
3 上パンチ
4 コアロッド
5,15 ガイド部
5a、15a ガイド溝
5b、15b カムフォロア
6 ダイプレート
7 連結ロッド
8 ヨークプレート
9 ガイドホルダ
10 ベースプレート
11 アッパープレート
12 ガイドプレート
13 ガイドストッパ
14 シリンダ
16 軸受
17 ボールプランジャ
17a 中空ねじ
17b ボール
17c 弾性体
18 係合用凹部
19 キャビティ
21 下ラム
22 上ラム
,G,G 成形用はすば
P 原料粉末

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形用はすば(G)を内周に設けたダイ(1)と、このダイの成形用はすばと噛み合うはすば(G,G)を外周に形成した下パンチ(2)及び上パンチ(3)と、コアロッド(4)と、前記成形用はすばと同一リードのガイド溝(5a)を備えたガイド部(5)を有し、
前記ダイ(1)、下パンチ(2)、及び上パンチ(3)がそれぞれ回転可能に支持され、
前記上パンチ(3)が、前記ダイ(1)と成形用はすばで噛み合い、回転しながら前記ダイ(1)に押し込まれて前記ダイ(1)、下パンチ(2)、コアロッド(4)及び上パンチ(3)間に形成されるキャビティ(19)内の原料粉末(P)が圧縮され、このときに、前記下パンチ(2)が前記ダイ(1)に追従して回転するはすば歯車成形用の金型において、
前記ガイド溝(5a)を有する位置の固定されたガイドホルダ(9)にボールプランジャ(17)を設け、弾性体(17c)に付勢されたそのボールプランジャのボール(17b)が、前記ガイド部(5)と前記下パンチ(2)の位相が一致した位置で前記下パンチ(2)の取付け部の外周に設けた係合用凹部(18)に係合するようにしたことを特徴とはすば歯車用金型。
【請求項2】
前記ボールプランジャ(17)と前記係合用凹部(18)を周方向に定ピッチで複数設けた請求項1に記載のはすば歯車用金型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−66921(P2013−66921A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−208691(P2011−208691)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(593016411)住友電工焼結合金株式会社 (214)