説明

はんだ付け用フラックスおよびはんだペースト組成物

【課題】濡れ性、保存安定性、残渣部分の耐亀裂性能、および印刷時にスキージへ付着することなく、微細部分の印刷性能を向上させる、はんだペースト組成物を提供する。
【解決手段】ベース樹脂と活性剤とを含むはんだ付け用フラックスであって、前記ベース樹脂が、長鎖アルキル(メタ)アクリレートを含むモノマー成分を重合させて得られる熱可塑性アクリル樹脂を含有し、前記長鎖アルキル(メタ)アクリレートの長鎖アルキル部分が、炭素数12〜23の分岐構造を有し、前記アクリル樹脂の重量平均分子量が、30000以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、電子機器のプリント基板のような回路基板に対して回路部品等をはんだ接続する際に使用されるはんだ付け用フラックスに関する。特に、微細部分のはんだペーストの微細印刷性を向上するフラックスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子回路部品等をはんだ接続するために、はんだ粉末とフラックスとからなる種々のはんだペースト組成物が使用されている。
【0003】
ところで、はんだペーストの塗布方法は、はんだ付部に孔が設けられたメタルマスクやシルクスクリーン等をプリント基板の上に置いて、その上からはんだペーストを塗布する印刷法と、ディスペンサー等を用いてはんだ付部に1箇所ずつはんだペーストを塗布する吐出法とに大別できる。ファインピッチのパターンには、吐出法では塗布できないという欠点があり、例えば、ファインピッチの回路基板に電子回路部品等をはんだ接続する場合には、印刷法が用いられる。
【0004】
近年、電子機器の小型化によって実装技術も高密度化され、ますますファインピッチ化が進んでおり、はんだペーストには、従来求められていた特性(安定性、信頼性など)に加え、印刷性(転写性)に優れることが要求されるようになっている。印刷性とは、例えばメタルマスクを用いる場合、メタルマスク開口部の壁面等に付着したはんだペーストを基板へ効率よく転写することである。これまでに、印刷性の向上を実現するため、金属粒径の微細化やワックス量の増加等の手段が提案されている。しかしながら、金属粒径の微細化では、印刷性が向上するものの、「保存安定性」、「濡れ性の低下」等が見られる。一方、ワックス量の増加では、粘性の調整が難しく、濡れ性が低下しやすい。
【0005】
また、フラックスのベース樹脂の成分や性質により、はんだペーストの特性(印刷性など)を改善する試みも行われている。
【0006】
特許文献1および2には、はんだ付け後のフラックス残さ膜にクラックが発生せず絶縁性に優れたフラックス残渣膜を形成するために、ガラス転移温度を限定したアクリル樹脂を使用することが記載され、アクリル樹脂のモノマーとして「(メタ)アクリル酸オクタデシル」が例示されている。しかし、特許文献1および2は、印刷性向上の必要性を記載しているものの、特許文献1および2のフラックスは、印刷性について何ら解決していない。
【0007】
特許文献3には、はんだ付け後のフラックス残さ膜にクラックが発生せず防湿効果を発揮するフラックス残渣膜を形成するために、ロジンを反応させて得られる特定のモノマーを用いて得られるアクリル樹脂の使用が記載され、アクリルモノマーとして「(メタ)アクリル酸オクタデシル」が例示されている。しかし、特許文献3のフラックスでは、保存後の印刷性を保持(保存安定性の向上)できても、元々の印刷性を向上させることはできない。
【0008】
特許文献4には、寒暖の差の激しい雰囲気下においてもマイクロクラックを生じないフラックス膜を形成するために、沸点が150℃より低くない高沸点溶剤(可塑剤)を使用することが記載され、高沸点溶剤(可塑剤)として「アクリル酸イソステアリル」および「メタクリル酸ステアリル」が例示されている。しかし、特許文献4のフラックスでは、アクリル酸イソステアリルは、単に溶剤成分に過ぎず、樹脂成分として用いられているわけではなく、このフラックスでは、印刷性を向上させることはできない。
【0009】
特許文献5には、フラックス残渣の亀裂を抑制し高信頼性と良好なはんだ付け性とを得るために、ガラス転移温度が−50℃未満の熱可塑性アクリル樹脂を使用することが記載され、アクリル樹脂のモノマーとして(メタ)アクリル酸の各種エステルが例示されている。しかし、特許文献5には、イソ体など分岐構造を有する長鎖アルキル(メタ)アクリレートをモノマーとするアクリル樹脂は記載されておらず、このフラックスでは、印刷性を向上させることはできない。
【0010】
このように、従来のはんだペーストでは、電子機器等の小型化に起因する実装の高密度化に対応するのは困難である。したがって、高密度実装において、印刷性向上およびにじみの低減が実現できるはんだペーストが強く望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2008−110369号公報
【特許文献2】特開2008−110370号公報
【特許文献3】特開2008−110365号公報
【特許文献4】特開平10−075043号公報
【特許文献5】特開2008−062252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、濡れ性、保存安定性、残渣部分の耐亀裂性能、および印刷時にスキージへ付着することなく、微細部分の印刷性能を向上させる、はんだペースト組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、はんだペーストにおいて、特定の長鎖アルキル(メタ)アクリレートを含むモノマー成分を重合させて得られる熱可塑性アクリル樹脂を含有するフラックスを使用することにより、上記課題を解決できることを明らかにした。
(1)ベース樹脂と活性剤とを含むはんだ付け用フラックスであって、
前記ベース樹脂が、長鎖アルキル(メタ)アクリレートを含むモノマー成分を重合させて得られる熱可塑性アクリル樹脂を含有し、
前記長鎖アルキル(メタ)アクリレートの長鎖アルキル部分が、炭素数12〜23の分岐構造を有し、
前記熱可塑性アクリル樹脂の重量平均分子量が、30000以下であることを特徴とするはんだ付け用フラックス。
(2)前記長鎖アルキル(メタ)アクリレートが、イソステアリル(メタ)アクリレートである、(1)に記載のはんだ付け用フラックス。
(3)前記熱可塑性アクリル樹脂が、アゾ系開始剤を用いて得られる熱可塑性アクリル樹脂である、(1)または(2)に記載のはんだ付け用フラックス。
(4)前記熱可塑性アクリル樹脂の重量平均分子量が、25000以下である、(1)〜(3)のいずれかの項に記載のはんだ付け用フラックス。
(5)前記ベース樹脂が、0.5〜80重量%の割合で含有される、(1)〜(4)のいずれかの項に記載のはんだ付け用フラックス。
(6)前記熱可塑性アクリル樹脂のガラス転移温度が−20℃以下である、(1)〜(5)のいずれかの項に記載のはんだ付け用フラックス。
(7)(1)〜(6)のいずれかの項に記載のはんだ付け用フラックスとはんだ合金粉末とを含有することを特徴とするはんだペースト組成物。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、濡れ性、保存安定性、残渣部分の耐亀裂性能、および印刷時にスキージへ付着することなく、微細部分の印刷性能を向上させ得るという効果を奏する。
【0015】
印刷性不良は、印刷マスクの開口部端面とフラックス成分の滑り性不良により、基板電極上に塗布されないために発生すると考えられる。特定の熱可塑性アクリル樹脂を含有する本発明のフラックスを用いると、印刷マスクの開口部端面との滑り性が向上するため、印刷性が飛躍的に向上する。なぜなら、特定の熱可塑性アクリル樹脂に存在する疎水性を有する側鎖がマスク開口部端面との滑り性を向上するためである。一方、長鎖ノルマル体では、樹脂中の凝集力の向上のためスキージへの付着が起こる。また、炭素数が23を越えると融点が上昇し、室温で固体となるため使用に適さない。このため、凝集力が少なく、融点の低いイソ体の長鎖アルキル(メタ)アクリレートの使用が適している。
また、熱可塑性アクリル樹脂の重合の際に、重合開始剤としてアゾ系開始剤を使用すると、架橋構造や多分岐構造の重合体が生成しにくく、モノマー成分が直線状に重合した重合体が得られ、印刷性をより向上することができる。
さらに、熱可塑性アクリル樹脂のガラス転移温度Tg(℃)、重量平均分子量や、フラックス中のベース樹脂の含有量を調整することで、はんだ付け後のフラックス残渣膜の亀裂をより防止できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。
【0017】
本発明のはんだ付け用フラックス(以下、単に「フラックス」と記載する場合がある)は、ベース樹脂と活性剤とを含む。ベース樹脂は、アルキル部分が炭素数12〜23の分岐構造を有する長鎖アルキル(メタ)アクリレートを含むモノマー成分を重合させて得られる、重量平均分子量が30000以下の熱可塑性アクリル樹脂を含有する。なお、本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、アクリレートまたはメタクリレートを意味する。
【0018】
本発明に用いられるベース樹脂は、上記のように、アルキル部分が炭素数12〜23の分岐構造を有する長鎖アルキル(メタ)アクリレート(以下、「特定の長鎖アルキル(メタ)アクリレート」と記載する場合がある)を含むモノマー成分を重合させて得られる熱可塑性アクリル樹脂(以下、「特定の熱可塑性アクリル樹脂」と記載する場合がある)を含有する。
【0019】
特定の長鎖アルキル(メタ)アクリレートとしては、アルキル部分が炭素数12〜23の分岐構造を有するものであれば、特に限定されず、例えば、イソ体(イソアルキル)や、主鎖に複数の側鎖を有するアルキル(例えば、2,2−ジメチルラウリル(C14)、2,3−ジメチルラウリル(C14)、2,2−ジメチルステアリル(C20)、2,3−ジメチルステアリル(C20)など)などが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、印刷時のスキージへ付着を含む印刷性の向上の点で、長鎖アルキル部分がイソ体(例えば、イソラウリル(C12)、イソミリスチル(C14)、イソステアリル(C18)、イソベヘニル(C22)など)であることが好ましく、イソステアリル(イソステアリル(メタ)アクリレート)がより好ましい。上記のように、炭素数が23を超えると、室温で固体となるため使用に適さない。
【0020】
熱可塑性アクリル樹脂は、特定の長鎖アルキル(メタ)アクリレートのみからなる重合体であってもよいが、必要に応じて、この長鎖アルキル(メタ)アクリレートと重合し得る他のモノマーを含む共重合体であってもよい。他のモノマーとしては、短鎖アルキル(メタ)アクリレート(ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートなど)、アニオン性モノマー(アクリル酸、メタクリル酸など)などが挙げられる。これらの他のモノマーは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
熱可塑性アクリル樹脂を得るために用いられる各モノマー成分の使用量は特に限定されないが、通常、特定の長鎖アルキル(メタ)アクリレートを20〜100重量%程度含有するモノマー成分を用いることが、微細部分への印刷性能の観点から好ましい。
【0022】
これらモノマー成分の重合方法は、特に限定されず、公知の方法を採用することができる。例えば、上記モノマー成分を、必要に応じて、重合開始剤、溶媒、連鎖移動剤等の存在下で重合(ラジカル重合)させればよい。
【0023】
重合開始剤としては、例えば、分解してラジカルを発生する化合物(過酸化物系開始剤、アゾ系開始剤など)が挙げられる。これらの中でも、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、アゾビスメチルブチロニトリル(ABNE)、アゾビスジメチルバレロニトリル(ABNV)などのアゾ系開始剤が好ましい。アゾ系開始剤を使用すると、熱可塑性アクリル樹脂の重合配列が直鎖状となり、印刷性をより向上することができる。
【0024】
このようにして得られた熱可塑性アクリル樹脂の物性は、特に限定されないが、例えば、ガラス転移温度Tg(℃)を調整することで、はんだ付け後のフラックス残渣膜の亀裂を、より防止できる。
【0025】
本発明のフラックスに含まれる熱可塑性アクリル樹脂の重量平均分子量は、30000以下であり、好ましくは25000以下である。重量平均分子量が、30000を超えると、樹脂中の凝集力が上がり、スキージへの付着が発生するおそれがある。
【0026】
本発明のフラックスにおいて、ベース樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲で、特定の熱可塑性アクリル樹脂以外の樹脂を含んでいてもよい。特定の熱可塑性アクリル樹脂以外の樹脂としては、従来、一般的にフラックスに用いられているロジンやその誘導体、合成樹脂等が挙げられる。ロジンとしては、例えば、通常のガムロジン、トールロジン、ウッドロジン等が挙げられ、それらの誘導体としては、重合ロジン、アクリル化ロジン、水素添加ロジン、不均化ロジン、ホルミル化ロジン、ロジンエステル、ロジン変性マレイン酸樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、ロジン変性アルキド樹脂等が挙げられる。合成樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、スチレン−マレイン酸樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノキシ樹脂、テルペン樹脂等が挙げられる。
【0027】
ベース樹脂の含有量は、好ましくはフラックス総量の0.5〜80重量%であり、より好ましくは30〜60重量%である。ベース樹脂の含有量が0.5重量%より少ないと、十分な印刷性が得られないおそれがある。一方、ベース樹脂の含有量が80重量%より多いと、加熱時のダレ性が悪化し、はんだボールの発生が悪化するおそれがある。
【0028】
本発明のフラックスに含まれる活性剤としては、従来使用されている活性剤が挙げられる。このような活性剤としては、例えば、アミン類(ジフェニルグアニジン、ナフチルアミン、ジフェニルアミン、トリエタノールアミン、モノエタノールアミンなど)、アミン塩類(エチレンジアミン等のポリアミンや、シクロヘキシルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン等のアミンの有機酸塩や無機酸(塩酸、硫酸等の鉱酸)塩など)、有機酸類(コハク酸、アジピン酸、グルタル酸、セバシン酸、マレイン酸等のジカルボン酸;ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸等の脂肪酸;乳酸、ジメチロールプロピオン酸、リンゴ酸等のヒドロキシカルボン酸;安息香酸、フタル酸、トリメリット酸など)、アミノ酸類(グリシン、アラニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、バリンなど)等が挙げられる。
【0029】
活性剤の含有量は、特に限定されないが、フラックス総量に対して、好ましくは5〜25重量%である。活性剤の含有量が5重量%未満であると、活性力が不足し、はんだ付け性が低下するおそれがある。一方、活性剤の含有量が25重量%を超えると、フラックスの皮膜性が低下し、親水性が高くなるので、腐食性および絶縁性が低下するおそれがある。
【0030】
本発明のフラックスは、上述のベース樹脂および活性剤のほかに、必要に応じてチキソ剤を含有してもよい。さらに、フラックスと適当な有機溶剤とを混合して、液状で使用してもよい。
【0031】
チキソ剤としては、例えば、硬化ひまし油、蜜ロウ、カルナバワックス、ステアリン酸アミド、ヒドロキシステアリン酸エチレンビスアミド等が挙げられる。チキソ剤の含有量は、特に限定されず、フラックス総量に対して、好ましくは1〜8重量%である。
【0032】
有機溶剤としては、例えば、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、エチルセロソルブ、ブチルカルビトール等のアルコール系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤、トルエン、テレピン油等の炭化水素系溶剤等が挙げられる。本発明のフラックスを液状フラックスとして用いる場合には、これらの中でも、揮発性や活性剤の溶解性の点でイソプロピルアルコールが好ましい。他方、本発明のフラックスをはんだペースト組成物に適用する場合には、高沸点のブチルカルビトール等のような多価アルコールのエーテルが一般的であり、好ましい。
【0033】
有機溶剤の含有量は、フラックス総量に対して、好ましくは10〜30重量%である。有機溶剤の含有量が10重量%未満であると、フラックスの粘性が高くなり、フラックスの塗布性やはんだペースト組成物としたときの印刷性が悪化するおそれがある。一方、有機溶剤の含有量が30重量%を超えると、フラックスとしての有効成分(ベース樹脂等)が相対的に少なくなってしまうため、はんだ付け性が低下するおそれがある。
【0034】
さらに、本発明のはんだ付け用フラックスは、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、酸化防止剤、キレート化剤、防錆剤等を添加してもよい。
【0035】
本発明のはんだペースト組成物は、上述の本発明のフラックスとはんだ合金粉末とを含有する。
【0036】
はんだ合金粉末としては、特に限定されず、一般に用いられているSn−Pb合金、さらに銀、ビスマスまたはインジウムなどを添加したSn−Pb合金等を用いることができる。また、環境への影響を考慮すると、Sn−Ag系、Sn−Cu系、Sn−Ag−Cu等の鉛フリー合金が好ましい。なお、はんだ合金粉末の粒径は、好ましくは10〜40μm程度である。
【0037】
本発明のはんだペースト組成物におけるフラックスとはんだ合金粉末との重量比(フラックス:はんだ合金粉末)は、はんだペーストの用途や機能に応じて適宜設定すればよく、特に制限されないが、好ましくは8:92〜15:85程度である。
【0038】
本発明のはんだペースト組成物は、電子機器部品等をはんだ接続する際に、ディスペンサーやスクリーン印刷等により基板上に塗布される。そして、塗布後、例えば150〜200℃程度でプリヒートを行い、最高温度170〜250℃程度でリフローを行う。基板上への塗布およびリフローは、大気中で行ってもよく、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性雰囲気中で行ってもよい。
【実施例】
【0039】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0040】
(合成例1)熱可塑性アクリル樹脂の合成
温度計および窒素導入管を備えた反応容器(ガラス製フラスコ)に、溶剤として30重量部のヘキシルカルビトールを入れ、窒素雰囲気下で撹拌しながら90℃まで加熱した。次いで、モノマー成分として40重量部のイソステアリルメタクリレート(i−C18)、15重量部のラウリルメタクリレート(C12)および15重量部のトリデシルメタクリレート(C13)、ならびに重合開始剤として5重量部のアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を混合して、モノマー溶液を調製した。このモノマー溶液を、2時間かけて反応容器内に滴下し、90℃で反応を行った。全てのモノマー溶液を滴下した後、さらに90℃で2時間熟成し、熱可塑性アクリル樹脂(樹脂A、重量平均分子量:15000)を得た。
【0041】
(合成例2)熱可塑性アクリル樹脂の合成
重合開始剤として、AIBNの代わりに、過酸化物系重合開始剤(t−ブチルパーオキシベンゾエイト)を5重量部用いたこと以外は、合成例1と同様の手順で熱可塑性アクリル樹脂(樹脂B、重量平均分子量:15000)を得た。
【0042】
(合成例3)熱可塑性アクリル樹脂の合成
モノマー成分として70重量部のイソステアリルメタクリレート(i−C18)を用いたこと以外は、合成例1と同様の手順で熱可塑性アクリル樹脂(樹脂C、重量平均分子量:15000)を得た。
【0043】
(合成例4)熱可塑性アクリル樹脂の合成
重合開始剤(AIBN)を4重量部用いたこと以外は、合成例1と同様の手順で熱可塑性アクリル樹脂(樹脂D、重量平均分子量:25000)を得た。
【0044】
(比較合成例1)熱可塑性アクリル樹脂の合成
モノマー成分として20重量部の2−エチルヘキシルメタクリレート(C8)、25重量部のラウリルメタクリレート(C12)、および25重量部のトリデシルメタクリレート(C13)を用いたこと以外は、合成例1と同様の手順で熱可塑性アクリル樹脂(樹脂E、重量平均分子量:15000)を得た。
【0045】
(比較合成例2)熱可塑性アクリル樹脂の合成
モノマー成分として15重量部のラウリルメタクリレート(C12)、15重量部のトリデシルメタクリレート(C13)、および40重量部のステアリルメタクリレート(C18)を用いたこと以外は、合成例1と同様の手順で熱可塑性アクリル樹脂(樹脂F、重量平均分子量:8000)を得た。
【0046】
(比較合成例3)熱可塑性アクリル樹脂の合成
モノマー成分として70重量部の2−エチルヘキシルメタクリレート(C8)を用いたこと以外は、合成例1と同様の手順で熱可塑性アクリル樹脂(樹脂G、重量平均分子量:15000)を得た。
【0047】
(比較合成例4)熱可塑性アクリル樹脂の合成
重合開始剤(AIBN)を3重量部用いたこと以外は、合成例1と同様の手順で熱可塑性アクリル樹脂(樹脂H、重量平均分子量:40000)を得た。
【0048】
(比較合成例5)熱可塑性アクリル樹脂の合成
モノマー成分として30重量部のイソボロニルアクリレートおよび40重量部のシクロヘキシルアクリレートを用いたこと以外は、合成例1と同様の手順で熱可塑性アクリル樹脂(樹脂I、重量平均分子量:15000)を得た。
【0049】
(実施例1)
ベース樹脂として40重量部の合成例1で得られた樹脂A、活性剤として10重量部のセバシン酸、およびチキソ剤として5重量部のワックスを混合して、フラックスを得た。次いで、このフラックスとはんだ合金粉末(Sn−Ag−Cu系合金:粒径25〜38μm)とを、10:90の重量比で混合して、はんだペーストを得た。
【0050】
(実施例2〜4)
表1に記載のベース樹脂(合成例1〜4で得られた樹脂B〜樹脂D)、活性剤およびチキソ剤を、表1に記載の割合で混合してそれぞれフラックスを得、得られたフラックスとはんだ合金粉末とを表1に記載の重量比で混合して、それぞれはんだペーストを得た。
【0051】
(比較例1〜5)
表1に記載のベース樹脂(比較合成例1〜5で得られた樹脂E〜樹脂I)、活性剤およびチキソ剤を、表1に記載の割合で混合してそれぞれフラックスを得、得られたフラックスとはんだ合金粉末とを表1に記載の重量比で混合して、それぞれはんだペーストを得た。
【0052】
各実施例および各比較例で得られたはんだペーストを用いて、印刷性およびスキージへの付着性を調べた。結果を表1に示す。なお、印刷性およびスキージへの付着性は、以下のように評価を行った。
【0053】
<印刷性>
印刷性評価用基板(10×10ピンの0.5mmピッチBGA0.25mmφ開口パターンを有するガラエポ基板)を用い、対応する厚み150μmマスクを使用し、20枚の連続印刷性を以下の基準で評価した。
◎:全ての基板において10×10ピンの内、欠けることなく印刷されている場合。
○:全ての基板において10×10ピンの内、若干〜1割欠けている場合。
△:全ての基板において10×10ピンの内、1割〜5割欠けている場合。
×:全ての基板において10×10ピンの内、5割〜8割欠けている場合。
××:全ての基板において10×10ピンの内、8割以上欠けている場合。
【0054】
<スキージへの付着性>
上記印刷性試験における連続20枚印刷において、印刷機内のスキージ部分へのはんだペーストの付着により、印刷かすれを生じるか否かを目視にて以下の基準で評価した。
○:20枚印刷後、スキージへの付着により、印刷かすれを生じない場合。
△:20枚印刷後、スキージへの付着により、かすかに印刷かすれを生じる場合。
×:20枚印刷後、スキージへの付着により、明らかに印刷かすれを生じる場合。
【0055】
【表1】

【0056】
表1に示すように、実施例1〜4のはんだペーストを用いた場合、印刷性が良好であり、かつスキージへ付着しないことがわかった。一方、比較例1〜5のはんだペーストを用いた場合、印刷性およびスキージへの付着性の少なくともいずれかに劣ることがわかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース樹脂と活性剤とを含むはんだ付け用フラックスであって、
前記ベース樹脂が、長鎖アルキル(メタ)アクリレートを含むモノマー成分を重合させて得られる熱可塑性アクリル樹脂を含有し、
前記長鎖アルキル(メタ)アクリレートの長鎖アルキル部分が、炭素数12〜23の分岐構造を有し、
前記熱可塑性アクリル樹脂の重量平均分子量が、30000以下であることを特徴とするはんだ付け用フラックス。
【請求項2】
前記長鎖アルキル(メタ)アクリレートが、イソステアリル(メタ)アクリレートである、請求項1に記載のはんだ付け用フラックス。
【請求項3】
前記熱可塑性アクリル樹脂が、アゾ系開始剤を用いて得られる熱可塑性アクリル樹脂である、請求項1または2に記載のはんだ付け用フラックス。
【請求項4】
前記熱可塑性アクリル樹脂の重量平均分子量が、25000以下である、請求項1〜3のいずれかの項に記載のはんだ付け用フラックス。
【請求項5】
前記ベース樹脂が、0.5〜80重量%の割合で含有される、請求項1〜4のいずれかの項に記載のはんだ付け用フラックス。
【請求項6】
前記熱可塑性アクリル樹脂のガラス転移温度が−20℃以下である、請求項1〜5のいずれかの項に記載のはんだ付け用フラックス。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかの項に記載のはんだ付け用フラックスとはんだ合金粉末とを含有することを特徴とするはんだペースト組成物。

【公開番号】特開2012−200785(P2012−200785A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−70175(P2011−70175)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000233860)ハリマ化成株式会社 (167)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)