説明

はんだ含浸シート材の製造方法及び製造装置

【課題】多孔質金属体にはんだを隙間無く含浸させ、内部欠陥(ブローホール)の少ないはんだ含浸シート材を得る。
【解決手段】金属粉末及び発泡剤を含有してなる発泡性スラリーをシート状に成形して発泡させた後、焼結して多孔質金属体2を形成する工程と、はんだを溶融状態で貯留するはんだ槽13内に多孔質金属体2を1秒〜3秒間浸漬して、その浸漬状態下で該多孔質金属体2に150Hz〜400Hzの振動を付与することにより、多孔質金属体2にはんだを含浸させる工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回路基板と半導体素子との接合等に用いられ、金属焼結体の骨格により三次元網構造をなす多孔質金属体にはんだを含浸させてなるはんだ含浸シート材の製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に電子部品等をはんだで基板に接合する場合には、フローやリフロー法等によるはんだ付けが実施される。しかし、近年は、半導体の集積度の向上や高性能化による高熱発生の問題及びこれらの放熱のために積層される銅やアルミニウム等の積層体との熱膨張係数差から生じる応力差により、はんだ付け部位に割れ発生等の問題が懸念されている。
これらの問題を解決するべく、本出願人は、熱伝導性、電気伝導度性、低膨張性等に優れる金属で三次元網状骨格体を作り、この金属骨格体にはんだを含浸させたはんだ含浸シート材を用いることにより、接合部に発生する熱ストレスを軽減し割れ等の発生を抑制する技術として、特許文献1記載のものを提案した。
【0003】
この特許文献1記載の技術は、パワーモジュール基板のはんだ接合部に適用したものである。このパワーモジュール基板は、セラミックス基板等の絶縁基板に回路層がろう付けされ、その回路層の上にはんだ含浸シート材を介して半導体素子が固着されており、そのはんだ含浸シート材は、金属粉末及び発泡剤を含有してなる発泡性スラリーをシート状に成形して発泡させた後焼結することにより、金属焼結体の骨格により三次元網構造をなす多孔質金属体を形成し、その多孔質金属体にはんだを含浸させてなる構成である。
【特許文献1】特開2004−298962号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、この様な多孔質金属体にはんだを含浸させる場合、単純平面の素材同士をはんだ付けする場合と異なり、三次元的な微細骨格構造を有する発泡体ではその表面積の違いから、単純にはんだ溶湯へ浸漬した場合、吸着等により表面に微細な気泡の付着が発生したり、厚みがある多孔質体の場合には内部まではんだが入り難い、吸着した気泡が抜け難い等の問題が多く発生する。この結果、含浸体内に多くの欠陥を発生させ所望の特性を得る製品が得られなかった。
改善策としては、多孔質金属体の含浸時の予熱温度、はんだ加熱温度、浸漬時間、フラックスの選定等に付いて試験したが、何れの組み合わせでも含浸層内部の空孔欠陥を完全に無くす事に関しては十分な対策とはならなかった。特に、はんだ材質がPb−Sn系はんだからPbフリーはんだへ変更となる事でより問題をクローズアップさせる事となった。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、多孔質金属体にはんだを隙間なく含浸させ、内部欠陥の少ないはんだ含浸シート材を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、金属焼結体の骨格により三次元網構造をなす板状の多孔質金属体にはんだを含浸させてはんだ含浸シート材を製造する方法であって、金属粉末及び発泡剤を含有してなる発泡性スラリーをシート状に成形して発泡させた後、焼結して多孔質金属体を形成する工程と、はんだを溶融状態で貯留するはんだ槽内に前記多孔質金属体を1秒〜3秒間浸漬して、その浸漬状態で該多孔質金属体に150Hz〜400Hzの振動を付与することにより、多孔質金属体にはんだを含浸させる工程とを有する。
【0007】
はんだ溶湯内へ多孔質金属体を浸漬し、この多孔質金属体へ振動を付与することにより多孔質金属体内及び多孔質金属体表面に吸着した無数の微細気泡を骨格から剥離させ多孔質金属体の空間を移動させ、追い出す事により健全性を向上させる事が可能となる。浸漬時間を1秒〜3秒にしたのは、1秒未満でははんだが多孔質空間に十分に充填されない事と気泡が十分抜けきる時間的余裕がないためである。
一方、振動数を150Hz〜400Hzとしたのは、150Hz未満では吸着した気泡を骨格から剥離させる力が作用し難く気泡が骨格中を十分移動しない等の問題がある事からであり、振動数が400Hzを超える様になるとはんだ溶湯中で加熱された多孔質金属体の骨格が軟化と共に骨格構造の変形を加速し所望の特性が得られなくなるためである。
【0008】
本発明のはんだ含浸シート材の製造方法において、前記はんだ槽から多孔質金属体を引き上げた後に該多孔質金属体に衝撃を付与した方が良い。
はんだ槽から引き上げた直後の多孔質金属体には、未凝固のはんだや多孔質金属体を把持している部分に付着したはんだ等が垂れ、滴を生成させる事から、強制的に衝撃を与えることでこの滴を除去する事が可能で製品の歩留り向上や外観の向上、はんだの節約にもつながる。
【0009】
また、本発明のはんだ含浸シート材の製造方法において、前記多孔質金属体が浸漬される位置における前記はんだ槽の表面ではんだ溶湯をオーバーフローさせた状態としておく事がよい。
はんだ溶湯をオーバーフローさせておくことにより、多孔質金属体が浸漬される位置の溶湯表面には、酸化物の無い常に新鮮なはんだ溶湯が存在することになり、多孔質金属体へのはんだの付着を確実にすると共に含浸シート材表面の清浄度も向上させる事が可能となる。
【0010】
さらに、本発明のはんだ含浸シート材の製造方法において、前記多孔質金属体にはんだを含浸させる前に、多孔質金属体の表面にニッケル皮膜、好ましくは電解Niメッキ(材質又は使用用途により無電解メッキでもよい)皮膜を形成する工程を有するものとすると良い。多孔質金属体の骨格全体を電解メッキにて高純度Ni皮膜を形成する事により、はんだのヌレ性を高めると共に、はんだ含浸条件にて幅がでてより健全な含浸が可能となる。特に、多孔質金属体として銅を使用する場合には、鉛フリーはんだとの反応時間を長く出来るために含浸体の組織安定性や健全に大きく関与する。
【0011】
そして、本発明のはんだ含浸シート材の製造装置は、金属焼結体の骨格により三次元網構造をなす板状の多孔質金属体にはんだを含浸させてはんだ含浸シート材を製造する装置であって、はんだを溶融状態で貯留する加熱手段を有するはんだ槽と、前記多孔質金属体を把持するハンド部材と、該ハンド部材を昇降させて前記多孔質金属体を前記はんだ槽内に浸漬し、引き上げる昇降手段と、前記ハンド部材を介して前記多孔質金属体に振動を付与する振動付与手段とが備えられたことを特徴とする。
また、本発明の製造装置において、前記はんだ槽の上方位置で前記昇降手段との間で前記ハンド部材を受け渡すとともに、該ハンド部材を前記はんだ槽の上方位置と、該上方位置から退避した側方位置との間で移動する移送手段が備えられ、該移送手段に前記昇降手段から前記ハンド部材が受け渡される際に該ハンド部材に衝撃を付与する衝撃付与手段が設けられているとよい。
【0012】
さらに、本発明のはんだ含浸シート材の製造装置において、前記はんだ槽に、前記多孔質金属体を面方向に挿入可能な偏平な開口部を有する筒状枠体が設けられるとともに、該開口部に向けてはんだ溶湯を下方から流通させて筒状枠体の上端部からオーバーフローさせる噴流手段が設けられている構成とするとよい。
扁平な開口部ではんだ溶湯をオーバーフローさせた状態とすることにより、該開口部表面には酸化物のない常に新鮮なはんだ溶湯面が存在することになり、多孔質金属体へのはんだの付着を確実にすることができる。しかも、偏平な開口部のみの限られた範囲でオーバーフロー状態を形成しており、効率がよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、はんだ槽内に多孔質金属体を浸漬した状態で振動を付与することにより、多孔質金属体の空隙内に入り込んでいた多数の微細気泡や骨格に吸着した気泡を強制的に剥離すると共に追い出して除去することができ、多孔質金属体にはんだを隙間なく含浸させ、内部欠陥の少ないはんだ含浸シート材を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を図面を参照しながら説明する。
予めはんだ含浸シート材について説明しておくと、このはんだ含浸シート材1は、図7に断面の一部を図示したように、例えば銅からなる多孔質金属体2にはんだ3が含浸されて一体化してなるものである。多孔質金属体2は、金属焼結体の骨格2aにより辺が構成されてなる複数の多面体が互いに連続状態に形成された三次元網構造をなすもので、全体として長方形の板状に形成されている。
この多孔質金属体2は、厚さが0.3mm〜3mm(圧延が可能なので実際には任意寸法に加工可能)とされ、骨格2aの間に形成されるす空隙2bは、気孔率(多孔質金属体と同形の中実体の重量に対する多孔質金属体の実測重量の百分率)が50%〜90%とされる。外表面における平均開口径(開口部の円相当直径)が150μ〜600μとされる。この多孔質金属体2の骨格2a表面には、Niメッキ皮膜4が形成されている。
【0015】
この多孔質金属体2を製造するには、金属粉末、発泡剤、バインダ(水溶性樹脂結合剤)、水、必要に応じて界面活性剤等を混合してなる発泡性スラリーを製作し、この発泡性スラリーを例えばドクターブレード法によりシート状に成形して、恒温高湿度条件下で発泡させた後、焼結することにより得ることができる。
図6は、多孔質金属体2を製造するためのグリーンシート成形装置5を示しており、このグリーンシート成形装置5は、発泡性スラリーFを貯留するホッパー6から発泡性スラリーFをキャリアシート7上に供給し、ブレード8によって所定厚さに成形しながら、キャリアシート7によって搬送し、恒温・高湿度槽9で発泡させ、乾燥槽10によって乾燥させることによりグリーンシートGを成形し、これを焼結して多孔質金属体2とするのである。
この多孔質金属体2に電解めっきによりニッケル被膜4を形成した後、後述のようにはんだ槽に浸漬してはんだを含浸させることにより、はんだ含浸シート材1となる。
【0016】
次に、多孔質金属体2にはんだ3を浸漬してはんだ含浸シート材1を製造する装置の実施形態について説明する。
図1〜図5は、本実施形態のはんだ含浸シート材製造装置を示している。この製造装置11は、架台12に、はんだ槽13と、多孔質金属体1のハンドリング手段14とが支持されている。
はんだ槽13は、全体としては立方体又は直方体等の方形に形成され、その底部にヒータ等の加熱手段15が備えられている。また、はんだ槽13の内部には、二つの筒状枠体16,17が配置され、これら筒状枠体16,17内に沿ってはんだ溶湯Sが流通させられるようになっている。その詳細を図3に示したように、一方の筒状枠体16は、はんだ槽13の内底部から液面に至るL字状をなしており、その垂直部分が、その上端部の開口部18をはんだ槽13の上部で上方に向けて開口している。この開口部18は、多孔質金属体2の板厚よりも若干大きい幅で、かつ多孔質金属体2の幅よりも若干長い帯状をなす偏平形状に形成されており、垂直に吊り下げた多孔質金属体2を上方から多孔質金属体2の面方向に沿って垂直に挿入可能で、その挿入姿勢において多孔質金属体2の周囲に若干の隙間が形成される大きさとされている。
【0017】
また、この筒状枠体16の下端部は、はんだ槽13の内底部で横向きに開口しており、その下端開口部19を囲むように、もう一つの筒状枠体17が設けられている。この筒状枠体17は横断面円形に形成された比較的短尺のものであり、はんだ槽13の内底面上に垂直方向に向けて配置されることにより、前記一方の筒状枠体16の下端開口部19に連通する垂直方向の流路を形成している。そして、この断面円形の筒状枠体17の上部開口部20は、はんだ槽13の内部で開口しており、この開口部20内に噴流手段21のプロペラ22が配置されている。この噴流手段21は、このプロペラ22を備えた軸23がはんだ槽13の上で減速機24に接続され、この減速機24に架台12側部に固定されたモータ25が接続されており、このモータ25によって減速機24を介して軸23を回転させ、そのプロペラ22の推進力によってはんだ槽13内のはんだ溶湯Sを両筒状枠体16,17に沿って図3の矢印で示すように流通させる構成である。
【0018】
ハンドリング手段14は、図1及び図2に示すように、多孔質金属体2を把持するハンド部材31と、このハンド部材31を昇降させてはんだ槽13内に浸漬し、引き上げる昇降手段32と、はんだ槽13の上方位置で昇降手段32との間でハンド部材31を受け渡すとともに、該ハンド部材31をはんだ槽13の上方位置と、該上方位置から退避した側方位置との間で往復移動する移送手段33とを備える構成とされている。
ハンド部材31は、図4に示すように、帯板状の桟部材34に、この桟部材34に直交する方向に延びる一対のアーム35が取り付けられるとともに、そのうちの一方のアーム35が桟部材34への取り付け部36を中心として図4の矢印で示すように揺動可能とされており、これらアーム35の間に多孔質金属体2を挟持した状態に保持する構成とされている。両アーム35は、その対向部に、多孔質金属体2を係合させる溝部37が長さ方向に沿って形成され、両アーム35の先端部(下端部)には、溝部37を閉塞するように受け部材38が設けられている。また、揺動可能なアーム35を他方のアーム35に接近させる方向に付勢するコイルばね39と、両アーム35に保持した多孔質金属体2の背面の上端を支持する裏当て材40とが設けられている。なお、両アーム35は、鉛フリーはんだに対する耐食性が良いと言われている純Ti又ステンレスを窒化処理した素材を使用しているが、耐食性を万全なものとするためにスプレー式のセラミック離形材等を塗布しても良い。
【0019】
昇降手段32は、図1に示すように、はんだ槽13の前方位置で架台12に上下方向に沿うレール45が固定されるとともに、そのレール45に上下スライダ部材46が上下移動可能に設けられ、この上下スライダ部材46に、ハンド部材31の桟部材34の両端部を把持可能なグリップ部材47が設けられた構成とされ、このグリップ部材47によりハンド部材31の桟部材34を把持して、アーム35を吊り下げ状態として上下移動させることができるようになっている。この場合、このグリップ部材47は、図3に示すように、はんだ槽13の前述した開口部18の上方位置を垂直に移動するようになっており、ハンド部材31を把持して下降することにより、ハンド部材31のアーム35を開口部18からはんだ槽13内に浸漬させ、上昇することにより、開口部18から引き上げる動作を繰り返すものである。また、このグリップ部材47には、これに振動を付与する振動モータ等の振動付与手段48が設けられている。
【0020】
一方、移送手段33は、はんだ槽13の上方に水平方向に沿って駆動するロッドレスシリンダ等の水平移動機構51が設けられるとともに、この水平移動機構51における水平スライダ部材52の両端部に、昇降手段32との間でハンド部材31を受け渡しする二つの受け渡し機構部53,54がそれぞれ設けられている。これら受け渡し機構部53,54は、水平スライダ部材52に前後方向に沿って駆動する押し出しシリンダ55が固定され、この押し出しシリンダ55のピストン軸56の先端に、ハンド部材31の桟部材34を載置状態に保持する爪部材57,58がブラケット59,60を介して設けられている。押し出しシリンダ55は、この爪部材57をはんだ槽13の開口部18の上方位置と、この上方位置から水平方向(前後方向)に退避した側方位置との間で往復移動するようになっている。
【0021】
また、両受け渡し機構部53,54のうち、図2の右側に配置されている第1の受け渡し機構部53には、ハンド部材31の桟部材34の中央部を下方から支持するように一個の爪部材57が設けられており、図2の左側に配置されている第2の受け渡し機構部54には、ハンド部材31の桟部材34の両端部を下方から支持するように二個の爪部材58が設けられている。また、これら二個の爪部材58は、図5に詳細に示したように、軸61を支点に回動可能に支持されており、常時は両爪部材58が対向する水平姿勢に保持されるが、これらの対向端部が下方から上方に向けて押し上げられることにより、対向端部間の距離を広げるように互いに反対方向に回動することができるようになっている。また、各爪部材58には、その押し上げ力が解除されると元の水平姿勢に戻されるばね等の付勢手段(図示略)が設けられている。
また、この第2の受け渡し機構部54における両爪部材58の上方位置には、これら爪部材58の間に掛け渡される桟部材34の両端部を上下スライド自在に案内するガイド部材62が設けられている。これらガイド部材62は、桟部材34の上下スライドを許容する大きさの隙間63を有するものであり、また、その隙間63が爪部材58よりも大きい寸法に設定されていることにより、爪部材58の回動を阻害しないようになっている。
【0022】
そして、移送手段33は、水平移動機構51の水平スライダ部材52の移動と、押し出しシリンダ55による前後方向の移動とにより、両受け渡し機構部53,54のうちの一方をはんだ槽13の上方位置に配置し、他方を水平方向に離間した側方位置に配置するというように、これらをはんだ槽13の上方位置と水平方向に離間した側方位置との間で交互に移動するようになっているものである。
【0023】
このように構成した製造装置11を使用して、多孔質金属体2にはんだ3を含浸させてはんだ含浸シート材1を製造する方法について説明する。
前述したようにグリーンシート成形装置5によって発泡性スラリーFからグリーンシートGを成形し、これを焼結して板状の多孔質金属体2を製作し、その表面に電解めっきによってニッケル被膜4を形成しておく。次いで、このニッケル被膜4を形成した多孔質金属体2をハンド部材31に保持させる。このハンド部材31は、両アーム35の一方が揺動して開くので、これを開いた状態として多孔質金属体2を間に介在させ、両アーム35を閉じて多孔質金属体2の両側部をアーム35の溝部37内に保持した状態とする。
【0024】
一方、はんだ含浸シート材製造装置11においては、はんだ槽13内ではんだSを例えば250℃に加熱して溶融状態に貯留しておく、そして、両受け渡し機構部53,54を図2の右側に移動させた状態としておき、多孔質金属体2を保持したハンド部材31の桟部材34を第1の受け渡し機構部53の爪部材57上に載置することにより、この受け渡し機構部53にハンド部材31を吊り下げ状態に支持させる。この状態で製造装置11を稼働すると、まず、水平移動機構51により、水平スライダ部材52が水平に移動し、ハンド部材31をはんだ槽13の開口部18の上方に移動させる。このとき、昇降手段32の上下スライダ部材46は、レール45の上方位置に待機させられており、この上下スライダ部材46が下降して、ハンド部材31の桟部材34の両端部をグリップ部材47が把持する。そして、ハンド部材31を若干上昇させるとともに、受け渡し機構部53の押し出しシリンダ55によって爪部材57が後退させられることにより、ハンド部材31の下方が開放状態となり、上下スライダ部材46は、ハンド部材31を把持したまま下方に移動し、図3に示すように、はんだ槽13の開口部18からハンド部材31とともに多孔質金属体2をはんだ溶湯S内に浸漬する。
【0025】
はんだ槽13においては、前述したように噴流手段21によって開口部18からはんだ溶湯Sがオーバーフローしており、そのオーバーフロー状態のはんだ溶湯Sの液面に多孔質金属体2が垂直に浸漬される。そして、浸漬状態において、振動付与手段48によってグリップ部材47を介してハンド部材31に振動が付与される。多孔質金属体2は、はんだ槽13に1秒〜3秒間浸漬され、その間に150Hz〜400Hzの周波数の振動が付与される。
この浸漬の間に、移送手段33を初期位置に戻し、ハンド部材31をはんだ槽13上まで移送してきた第1の受け渡し機構部53は、図2の右側に移動し、左側の第2の受け渡し機構部54がはんだ槽13の上方に配置され、それぞれ押し出しシリンダ55が作動して爪部57,58を前方に押し出した状態に待機される。この待機状態では、第2の受け渡し機構部54の両爪部材58がはんだ槽13の開口部18の上方に配置された状態となる。初期位置に戻された第1の受け渡し機構部53には、新たな多孔質金属体2を保持したハンド部材31が載置される。
【0026】
そして、昇降手段32によってはんだ槽13からハンド部材31を引き上げると、このハンド部材31の桟部材34の両端部が第2の受け渡し機構部54の両爪部材58の対向端部を下方から上方に押し上げることにより、図5に鎖線で示すように、この桟部材34の通過空間を開くように両爪部材58が回動し、桟部材34が通過した後にばねの復元力によって水平姿勢に戻される。グリップ部材47は、爪部材58の上方に設けられているガイド部材62に沿って両爪部材58よりも若干高い位置まで桟部材34を上昇させた後、桟部材34の把持状態を解除する。これにより、桟部材34は、水平姿勢に戻された爪部材58の上にガイド部材62に沿って落下させられ、その落下による衝撃が付与された状態となり、その衝撃により多孔質金属体2に浸み込んでいたはんだ溶湯Sの余剰分が多孔質金属体2から液切れされ、はんだ槽13内に落とされる。本発明の衝撃付与手段は、この実施形態では、ハンド部材31の持ち上げ高さとハンド部材31の重量を調整する事で、自由落下時の衝撃度合いを調整付与する構成である。
【0027】
このようにしてハンド部材31を第2の受け渡し機構部54に受け渡した後、上下スライダ部材46は上方の待機位置に退避させられ、水平スライダ部材52が第2の受け渡し機構部54をはんだ槽13の側方(図2の左方)に水平に移動させ、その水平移動に伴って、第1の受け渡し機構部53に載置された新たな多孔質金属体2がはんだ槽13の上方位置に移動させられる。一方、第2の受け渡し機構部54は、図2の鎖線で示すはんだ槽13の側方位置に移動させられた後、ハンド部材31が取り外され、その後、押し出しシリンダ55によって後退させられる。取り外したハンド部材31は、はんだの凝固が完全に完了し後に多孔質金属体2を開放して、新たな多孔質金属体2が保持される。以降、これらの一連の動作が繰り返され、順次、多孔質金属体2がはんだ槽13に浸漬されて、はんだ含浸シート材1が製造される。
【0028】
次に、この製造装置を使用して種々の条件ではんだを浸漬させ、ブローホールの発生状況等を観察した。
多孔質金属体としては、材質は純銅発泡体に0.5μで電解Niメッキ皮膜を形成し、呼び孔径300μ・試片寸法は厚さ1mm・幅50mm・長さ100mmの試片を使用し実験を実施した。はんだ溶湯温度を250℃に固定し、表1に示すような条件ではんだ含浸シート材を作成し、各試験片の健全性を評価した。評価法は、各試験片の概ね中心部より、約20mm角の試験片を採取しその断面を鏡面研磨し、光学顕微鏡を使用し倍率100倍でブローホールの長径が20μ以上のもの全てをカウントした。尚、使用したはんだは千住金属株式会社製の商品名M705(Sn−3Ag−0.5Cu)の鉛フリーはんだを使用し、フラックスとして同じく千住金属株式会社製の商品名ES−1016スパークルフラックスを使用した。
多孔質金属体を炭化水素系溶剤で脱脂後、前述したフラックスを加圧式のスプレーガンで塗布後100℃のオーブンで5分加熱し溶剤を飛ばすことと同時に多孔質金属体の予熱を兼ねて加熱し、取り出し後、すぐにハンド部材にセッティングし、本発明の装置にてはんだ含浸を実施し試験片とした。その評価試験結果を、表1に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
この表1からわかる様に、浸漬時間が1〜3秒、振動数150〜400Hzの範囲内では各試験片断面に実用上問題となる様なブローホールの発生は殆ど観察されなかった。これに比較して振動を全く付与しなかった試験片では著しいブローホールの発生が確認された。振動数が600Hz以上の場合や超音波振動を付与した試験片では、試験片の変形や部分的な試片の局部溶解が見られた。これは、はんだ浴中で多孔質金属体が軟化したところに強過ぎる振動が付与されたことによるものと推定される。
【0031】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記実施形態では、ハンド部材のアームによって多孔質金属体の両側部を保持してハンドリングする構成としたが、多孔質金属体の上端部を把持して吊り下げるなど、他の保持構造としてもよい。また、はんだ槽から引き揚げたハンド部材を受け渡し機構部に受け渡す際に爪部材上に落下させることにより、多孔質金属体に衝撃を付与する構成としたが、静止状態のハンド部材に打撃を加えるなど、他の方法によって衝撃を付与してもよい。その他、移送方法等の細部構成も適宜設計変更可能である。
はんだ材質によっては、滴の発生を抑えたPbフリーはんだも開発されており、前述の衝撃付与がなくても良い場合があるが、はんだ含浸シートの外観状態を考慮した場合には実施した方が良いと判断される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係るはんだ含浸シート材の製造装置の一実施形態を示す縦断面図である。
【図2】図1のA−A線に沿うグリップ部材を省略した矢視図である。
【図3】図1のはんだ槽の部分の拡大図である。
【図4】一実施形態の製造装置に用いられるハンド部材の正面図である。
【図5】図2の第2の受け渡し機構部の詳細を示しており、(a)が正面図、(b)が(a)のB−B線に沿う矢視断面図である。
【図6】多孔質金属体を製作するためのグリーンシート成形装置の模式図である。
【図7】はんだ含浸シート材の断面図である。
【符号の説明】
【0033】
1 はんだ含浸シート材
2 多孔質金属体
2a 骨格
2b 空隙
3 はんだ
4 ニッケル被膜
5 グリーンシート成形装置
11 はんだ含浸シート材製造装置
13 はんだ槽
14 ハンドリング手段
15 加熱手段
16,17 筒状枠体
18 開口部
21 噴流手段
31 ハンド部材
32 昇降手段
33 移送手段
34 桟部材
35 アーム
47 グリップ部材
51 水平移動機構
53,54 受け渡し機構部
57,58 爪部材
62 ガイド部材
S はんだ溶湯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属焼結体の骨格により三次元網構造をなす板状の多孔質金属体にはんだを含浸させてはんだ含浸シート材を製造する方法であって、
金属粉末及び発泡剤を含有してなる発泡性スラリーをシート状に成形して発泡させた後、焼結して多孔質金属体を形成する工程と、
はんだを溶融状態で貯留するはんだ槽内に前記多孔質金属体を1秒〜3秒間浸漬して、その浸漬状態で該多孔質金属体に150Hz〜400Hzの振動を付与することにより、多孔質金属体にはんだを含浸させる工程とを有するはんだ含浸シート材の製造方法。
【請求項2】
前記はんだ槽から多孔質金属体を引き上げた後に該多孔質金属体に衝撃を付与することを特徴とする請求項1記載のはんだ含浸シート材の製造方法。
【請求項3】
前記多孔質金属体が浸漬される位置における前記はんだ槽の表面ではんだ溶湯をオーバーフローさせた状態としておくことを特徴とする請求項1又は2に記載のはんだ含浸シート材の製造方法。
【請求項4】
前記多孔質金属体にはんだを含浸させる前に、該多孔質金属体の表面に電解めっきによりニッケル被膜を形成する工程を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のはんだ含浸シート材の製造方法。
【請求項5】
金属焼結体の骨格により三次元網構造をなす板状の多孔質金属体にはんだを含浸させてはんだ含浸シート材を製造する装置であって、
はんだを溶融状態で貯留する加熱手段を有するはんだ槽と、
前記多孔質金属体を把持するハンド部材と、
該ハンド部材を昇降させて前記多孔質金属体を前記はんだ槽内に浸漬し、引き上げる昇降手段と、
前記ハンド部材を介して前記多孔質金属体に振動を付与する振動付与手段とが備えられたことを特徴とするはんだ含浸シート材の製造装置。
【請求項6】
前記はんだ槽の上方位置で前記昇降手段との間で前記ハンド部材を受け渡すとともに、該ハンド部材を前記はんだ槽の上方位置と、該上方位置から退避した側方位置との間で移動する移送手段が備えられ、
該移送手段に前記昇降手段から前記ハンド部材が受け渡される際に該ハンド部材に衝撃を付与する衝撃付与手段が設けられていることを特徴とする請求項5記載のはんだ含浸シート材の製造装置。
【請求項7】
前記はんだ槽に、前記多孔質金属体を面方向に挿入可能な偏平な開口部を有する筒状枠体が設けられるとともに、該開口部に向けてはんだ溶湯を下方から流通させて筒状枠体の上端部からオーバーフローさせる噴流手段が設けられていることを特徴とする請求項5又は6記載のはんだ含浸シート材の製造装置。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−47787(P2010−47787A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−210833(P2008−210833)
【出願日】平成20年8月19日(2008.8.19)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】