説明

ばね式ホースクランプ

【課題】経時変化によって或いは熱によってホースのクランプ箇所がへたりを生じた場合であっても、常に一定のクランプ力を保持することができ、一方で相手パイプに対し引抜方向に大きな力が働いた場合であっても抜ける恐れの無いばね式ホースクランプを提供する。
【解決手段】ホースの内部に相手パイプが軸方向に挿入された状態で締付バンド12によりホースを外周面からばね力で縮径方向に締め付けてホースを相手パイプに接続状態に固定するばね式ホースクランプ10において、締付バンド12の一対の自由端部12A,12Bを周方向に互いに重ね合わせるとともに、各重合せ面のそれぞれに複数の噛合歯16A,16Bを周方向に沿って列設しておく。またその噛合歯16A,16Bは、縮径方向には互いを乗り越えて相対移動が可能、拡径方向には互いの噛合いにより相対移動が不能の一方向性の噛合歯となしておく。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は環状の締付バンドを有し、その締付バンドのばね力でホースを外周面から縮径方向に締め付けて、ホースを相手パイプに接続状態に固定するばね式ホースクランプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ゴム製のホースの接続固定方法として、相手パイプをホース内に軸方向に挿入した状態でホースの端部外周面からホースクランプで縮径方向に締め付け、ホースを相手パイプに接続状態に固定する方法が広く採用されている。
そのためのホースクランプとして、ねじ式(ウォーム式)のホースクランプと、ばね力で締付力を発生させるばね式のホースクランプとが従来公知である。
【0003】
前者のねじ式のホースクランプについては、例えば下記特許文献1に開示されている。
図3はこの種ねじ式のホースクランプの一例を示している。
図3(II)中204はねじ式ホースクランプで、締付バンド206と、締付機構208とを有している。
ここで締付機構208は、筒状のハウジング210とその内部にねじ込まれるねじ212とを備えている。
【0004】
このねじ式ホースクランプ204によるホース200と相手パイプ202との接続固定は次のようにして行う。
即ち、図3(I),(II)に示すようにホース200の内部に剛性(主として金属製)の相手パイプ202を軸方向に挿入するとともに、ホース200の端部外周面に締付バンド206を巻き付けておき、その状態でねじ式ホースクランプ204のねじ212をねじ込んで行く。
このようにすると、締付バンド206によりホース200が外周面から縮径方向に締め付けられて、ホース200の端部が相手パイプ202に接続状態に強固に固定される。
【0005】
図3(III)はこのようにしてねじ式ホースクランプ204によりホース200の端部を相手パイプ202に接続固定した状態を表している。
同図に示しているように、この状態において締付バンド206はホース200の外周面に縮径方向に食い込んでおり、このときホース200の締付バンド206による締付箇所には縮径方向の強い圧縮力が作用し、ホース200はその圧縮力に基づく応力によって相手パイプ202に強く固定された状態となる。
【0006】
ところでこのねじ式ホースクランプ204は、ホース200に対して縮径方向に一定変位を与え、その際の圧縮力に基づいてホース200を相手パイプ202に固定する定変位式のもので、このねじ式ホースクランプ204を用いたホース200の接続固定では、そうした状態が長く続くとホース200の締付バンド206による締付箇所が圧縮永久歪、いわゆるへたりを生じてしまい、経時的にねじ式ホースクランプ204によるクランプ力(締付力)が低下してしまう。
特にエンジンルーム内等に配設される自動車用のホース等にあっては、エンジンからの熱が加わることによりそうした現象が促進される。
その結果、ホース200に対するねじ式ホースクランプ204によるクランプ力が低下し、これに伴ってシール性が低下する問題を生ずる。
【0007】
一方自動車の内部に配線されるハーネスを結束保持する結束クリップとして、図4(イ)に示すようなものが公知である(下記特許文献2)。
この結束クリップ213は、締付バンド214の基端部214Aにロック体216を設けて、そのガイド溝218内に締付バンド214の自由端部214Bを挿通するようになし、そしてその自由端部214Bの外周面に周方向に沿って複数設けた噛合歯220を、ロック体216のロック爪222に噛み合わせるようになしたものである。
ここで噛合歯220とロック爪222とは一方向性の爪となしてあり、締付バンド214はこれら噛合歯220とロック爪222との噛合いによって縮径方向にのみ変形が許容され、拡径方向には変形が阻止される。
しかしながらこの結束クリップ213もまた、基本的には定変位式のものであり、従ってこれをホースクランプに適用した場合においても上記と同様の問題が生ずる。
【0008】
図3及び図4(イ)に示すねじ式ホースクランプ204及び結束クリップ213は、何れも人の操作によって締付バンド206,214を縮径方向に変形させることができるものの、一旦締付力を及ぼした後は同一の縮径状態を保っており、従って改めて再び人が操作しない限り、締付バンド206,214は一定の径に保持され、従ってホースが経時的に、また熱によってへたりを生じたとき、クランプ力即ち締付力の低下を来してしまう。
【0009】
一方前記のばね式ホースクランプは、ホースに対して一定の荷重を与えてこれを相手パイプに締め付ける定荷重式のもので、この種のばね式ホースクランプについては、例えば下記特許文献3に開示がなされている。
図4(ロ)はその一具体例を示している。
同図において223は環状をなして弾性的に拡開,縮径可能な板ばね製の締付バンドで、一対の自由端部のそれぞれの先端に曲げ起し形状のつまみ224,226が設けられている。
このばね式ホースクランプ228では、一対のつまみ224,226を接近方向に移動させることで締付バンド223を弾性的に拡開させることができ、その状態で締付バンド223を図3(I)に示すホース200の外周面に被せておいて、つまみ224,226に加えていた力を除くと、ここにおいて締付バンド223が縮径方向に変形して、ばね力によりホース200を外周面から縮径方向に締め付け、ホース200を相手パイプ202に接続状態に固定する。
【0010】
このばね式ホースクランプ228の場合、ホース200がへたりを生じても、そのへたりに追従して板ばね製の締付バンド223が縮径方向に変形し、ホース200に対して常に一定の荷重即ち締付力を及ぼすことができ、ホース200のへたりに起因してクランプ力(締付力)が低下するのを防止できる利点を有する。
一方でこのばね式ホースクランプ228の場合、締付バンド223がホース200を締め付けた状態で拡径方向にも変形可能であり、従って図3(I)に示す相手パイプ202に対して軸方向の引抜力が働いたとき、相手パイプ202の端部の環状の突出部であるバルジ部202Aによって締付バンド223が拡開変形してしまい、場合によって相手パイプ202がホース200から抜ける恐れが生ずる。
【0011】
【特許文献1】特開平4−194486号公報
【特許文献2】特開平8−61316号公報
【特許文献3】特開平8−247363号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は以上のような事情を背景とし、経時変化によって或いは熱によってホースクランプによるホースの締付箇所がへたりを生じた場合であっても、常に一定のクランプ力(締付力)を保持することができ、一方で相手パイプに対し引抜方向に大きな力が働いた場合であっても、かかる相手パイプがホースから抜ける恐れの無いばね式ホースクランプを提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
而して請求項1のものは、環状をなして弾性的に拡開,縮径可能なばね製の締付バンドを有し、ホースの内部に相手パイプが軸方向に挿入された状態で該締付バンドにより該ホースを外周面からばね力で縮径方向に締め付けて、該ホースを該相手パイプに接続状態に固定するばね式ホースクランプにおいて、前記締付バンドの一対の自由端部を周方向に互いに重ね合わせるとともに、各重合せ面のそれぞれに複数の噛合歯を周方向に沿って列設して、各自由端部の各噛合歯を互いに噛み合わせるようにし、且つ該噛合歯は、縮径方向には互いを乗り越えて相対移動が可能、拡径方向には互いの噛合いにより相対移動が不能の一方向性の噛合歯となしてあることを特徴とする。
【0014】
請求項2のものは、請求項1において、前記一対の自由端部を軸方向の対向面で互いに周方向に重ね合わせてあり、該軸方向の各対向面のそれぞれに前記噛合歯が設けてあることを特徴とする。
【0015】
請求項3のものは、請求項1,2の何れかにおいて、前記噛合歯が鋸歯状をなしていて、前記縮径方向の面が、該縮径方向に進むにつれて該噛合歯の先端から基端に向かうカム面をなしていることを特徴とする。
【発明の作用・効果】
【0016】
以上のように本発明は、ばね式ホースクランプにおいて、締付バンドの一対の自由端部を周方向に互いに重ね合わせるとともに、各重合せ面のそれぞれに複数の噛合歯を周方向に沿って列設してそれぞれを噛み合わせるようになし、且つその噛合歯は、縮径方向には互いを乗り越えて相対移動が可能、拡径方向には互いの噛合いにより相対移動が不能の一方向性の噛合歯となしたもので、本発明によれば、定変位式のホースクランプの利点と、定荷重式のホースクランプの利点とを併せ有するホースクランプを実現することができる。
【0017】
即ち、本発明のホースクランプにおいてはばね製の締付バンドが縮径方向には変形可能であることから、ホースクランプ後においてホースのクランプ箇所(締付箇所)がへたりを生じても、締付バンドがこれに追従して縮径方向に変形することで、常に一定の荷重即ちクランプ力(締付力)をホースに対して及ぼすことができる。
一方で相手パイプに対し引抜方向に大きな力が働いた場合であっても、締付バンドは拡径方向には変形できないため、相手パイプのバルジ部等がホースにおけるクランプ箇所を軸方向に通過することができず、従って相手パイプがホースから抜けるのを確実に防止することができる。
【0018】
本発明においては、上記一対の自由端部を軸方向の対向面で互いに周方向に重ね合わせ、その軸方向の各対向面のそれぞれに上記の噛合歯を設けておくことができる(請求項2)。
またその噛合歯は鋸歯状となして、縮径方向の面をその縮径方向に進むにつれて噛合歯の先端から基端に向かうカム面となしておくことができる(請求項3)。
このようにすることで、噛合歯を容易に一方向性の噛合歯となすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に本発明の実施形態を図面に基づいて詳しく説明する。
図1において、10は本実施形態の金属製のばね式ホースクランプで、12はその主体をなす板ばね製の締付バンドである。
この締付バンド12は、その本体部の半分の幅で円弧状をなす一対の自由端部12A,12Bを有しており、それら自由端部12A,12Bが周方向に且つ軸方向に重ね合わされている。
【0020】
これら自由端部12A,12Bの各先端には、曲げ起し形状のつまみ14A,14Bが設けられている。
また各自由端部12A,12Bの軸方向の対向面のそれぞれには、図1(B)に示しているように複数の噛合歯16A,16Bが周方向に沿って間隔を置かずに連続して一列に並んだ状態で設けられており、それら噛合歯16A,16Bが互いに噛み合うようになっている。
詳しくは、それら噛合歯16A,16Bが締付バンド12における周方向且つ拡径方向に噛み合うようになっている。
【0021】
ここで各噛合歯16A,16Bは、図2(I)に示しているようにそれぞれが全体として先端が鋭角をなす鋸歯状をなしており、それぞれの縮径方向(噛合歯16Aでは図中左方向,噛合歯16Bでは図中右方向)の面が、縮径方向に向かうにつれて各噛合歯16A,16Bの先端から基端に向かう傾斜形状のカム面18とされている。
尚反対側の面、即ち拡径方向の面は軸方向(図中上下方向)に延びる噛合面20とされている。
【0022】
この図1に示すばね式ホースクランプ10にあっては、一対のつまみ14A,14Bに接近方向の力を加えて締付バンド12を拡径させ、その状態でホースを内部に通し、更にそのホース内部に相手パイプを挿入した状態で、つまみ14A,14Bに加えていた力を除くと、締付バンド12が元の形状に縮径変形するとともに、ホースを外周面からばね力で縮径方向に締め付け、これによりホースを圧縮変形させてホースと相手パイプとを接続状態に固定する。
【0023】
そのクランプ後において、ホースが経時変化により或いは熱によってクランプ箇所(締付箇所)でへたりを生じたとき、このばね式ホースクランプ10にあっては、図2(I)に示す各自由端部12A,12Bのそれぞれの噛合歯16A,16Bが互いに噛み合った状態から、締付バンド12の縮径方向のばね力により図2(II),(III)に示しているように互いを乗り越えて、それぞれが縮径方向の隣の位置にある噛合歯16A,16Bに噛み合うに到る。
そして更にホースのへたりが進行すれば、同様にして各噛合歯16A,16Bが縮径方向に移動して隣接する位置の各噛合歯16A,16Bに噛み合い、そしてこのような作用を繰り返して行くことで、ホースのへたりの量に追従して締付バンド12が縮径方向に変形し、ホースに対し常時一定のばね力、即ちクランプ力(締付力)を及ぼす。
従ってホースにへたりが生じた場合であっても、ホースに対するクランプ力は低下しない。
【0024】
一方で図3(I)に示す相手パイプ202に対し引抜方向に大きな力が働いた場合、噛合歯16A,16Bはそれぞれ間隔を置かず、連続して並んだ状態で設けられ、互いに軸方向に延びる噛合面20で噛み合っているので、拡径方向には相対移動できない。
このため一旦縮径変形した締付バンド12はその後拡径変形することはなく、相手パイプ202に設けられた環状の突出部であるバルジ部202Aは、ばね式ホースクランプ10によるホース200の締付箇所を軸方向に通過できず、従って相手パイプ202に引抜方向に大きな力が働いた場合であっても、相手パイプ202がホース200から抜けるのを確実に防止することができる。
【0025】
以上のような本実施形態のばね式ホースクランプ10によれば、定変位式のホースクランプの利点と定荷重式のホースクランプの利点とを併せ有するホースクランプを実現することができる。
また本実施形態においては、噛合歯16A,16Bを鋸歯状となし、更に縮径方向の面をその縮径方向に進むにつれて噛合歯16A,16Bの先端から基端に向かうカム面18となしてあるため、噛合歯16A,16Bを容易に一方向性の噛合歯となすことができる。
【0026】
以上本発明の実施形態を詳述したがこれはあくまで一例示である。
例えば上記実施形態では自由端部を軸方向に重ね合わせて、それぞれの対向面に噛合歯を設けているが、場合によって一対の自由端部を径方向に重ね合わせて、それぞれの対向面に上記形態の噛合歯を設けておくといったことも可能である。
更には噛合歯を上記とは異なった形態で構成することも可能であるなど、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲において種々変更を加えた形態で構成可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態であるばね式ホースクランプを示す図である。
【図2】同実施形態の作用を、要部を拡大して示す説明図である。
【図3】従来公知のねじ式ホースクランプの一例を示す図である。
【図4】従来公知の結束クリップ及びばね式ホースクランプの一例を示す図である。
【符号の説明】
【0028】
10 ばね式ホースクランプ
12 締付バンド
12A,12B 自由端部
16A,16B 噛合歯
18 カム面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状をなして弾性的に拡開,縮径可能なばね製の締付バンドを有し、ホースの内部に相手パイプが軸方向に挿入された状態で該締付バンドにより該ホースを外周面からばね力で縮径方向に締め付けて、該ホースを該相手パイプに接続状態に固定するばね式ホースクランプにおいて、
前記締付バンドの一対の自由端部を周方向に互いに重ね合わせるとともに、各重合せ面のそれぞれに複数の噛合歯を周方向に沿って列設して、各自由端部の各噛合歯を互いに噛み合わせるようにし、且つ該噛合歯は、縮径方向には互いを乗り越えて相対移動が可能、拡径方向には互いの噛合いにより相対移動が不能の一方向性の噛合歯となしてあることを特徴とするばね式ホースクランプ。
【請求項2】
請求項1において、前記一対の自由端部を軸方向の対向面で互いに周方向に重ね合わせてあり、該軸方向の各対向面のそれぞれに前記噛合歯が設けてあることを特徴とするばね式ホースクランプ。
【請求項3】
請求項1,2の何れかにおいて、前記噛合歯が鋸歯状をなしていて、前記縮径方向の面が、該縮径方向に進むにつれて該噛合歯の先端から基端に向かうカム面をなしていることを特徴とするばね式ホースクランプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−275277(P2006−275277A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−100059(P2005−100059)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】