ひび割れが発生したコンクリートの改善方法
【課題】現在のセメントを用いてひび割れが発生したコンクリートにおいて、ひび割れを発生させる望ましくないセメントの水和反応を抑制あるいは止めて、正常な反応にする方法を提供する。
【解決手段】ひび割れが発生したコンクリート製壁勾欄1の表面に保水材2とヒーター3と保温材4とを順次当接し、これらを当板5を介してアンカーで壁勾欄1に固定し、且つ保水材2に水を湿潤させると共に面状ヒーター3で保水材2中の水温を80度以上にして壁勾欄1を加水加熱養生する。
【解決手段】ひび割れが発生したコンクリート製壁勾欄1の表面に保水材2とヒーター3と保温材4とを順次当接し、これらを当板5を介してアンカーで壁勾欄1に固定し、且つ保水材2に水を湿潤させると共に面状ヒーター3で保水材2中の水温を80度以上にして壁勾欄1を加水加熱養生する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ひび割れが発生したコンクリート製品やコンクリート構造物の改善方法、即ち、ひび割れの進行を抑制、防止する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄筋とコンクリート(セメント、骨材、水)からなる鉄筋コンクリート構造物は耐久性が高く、100年は持つと言われてきたが、近年環境の条件や使用材料、不適切な施工等によって性状が徐々に劣化し、短い年数でコンクリートにひび割れが生じることが多くなり、新聞等で高速道路の橋梁や側塀のひび割れが、大きな問題として取り上げられていることは周知の通りである。
【0003】
アルカリ骨材反応等によるコンクリートのひび割れの補修は現在、ひび割れ部に合成樹脂やセメントミルクを充填し、コンクリート表面には種々の材料を塗布あるいは被覆する方法が採られている。(特許文献1及び2参照)
【0004】
しかし、補修後もひび割れ現象が続き、再補修、再々補修しなければならないことが多い。
【0005】
最近の研究〔非特許文献1〜3〕によれば、アルカリ骨材反応によってひび割れが発生したとするコンクリートのセメント硬化体中に生成するセメント水和生成物(生成鉱物)は、ポルトランダイト(水酸化カルシウム,Ca(OH)2、カルシウム・アルミネート・ハイドレート(3CaO・Al2O3・8〜1220や4CaO・Al2O3・13H20など)及びエトリンガイトであることが特徴である。
【0006】
図1(a)〜(d)は、各地のひび割れが発生した橋梁コンクリートのひび割れ部の粉末X線回析図(2θ低角部分)で、それを良く示している。
【0007】
エトリンガイトの急激な生成がコンクリートのひび割れ発生の原因となることは周知のことであるが、ひび割れが発生したコンクリート中では、ポルトランダイトとカルシウム・アルミネート・ハイドレートの生成が顕著であり、これら生成物は成長が継続する。
【0008】
ポルトランダイトとカルシウム・アルミネート・ハイドレートは質量が小さく、その生成は、膨張反応であり、膨張反応が進行するのであれば、補修してもまたひび割れが生じることになる。
【0009】
健全なコンクリートでは、C−S−H(トベルモライトゲルと呼ばれ、化学組成は3CaO・2SiO・3H2O)、ポルトランダイト、モノサルフェート並びに未反応のエーライト又はビーライトを検出するが、他の鉱物は検出されない。
【0010】
以上、ひび割れが生じた最近の橋梁コンクリートのひび割れ発生の原因について説明したが、本発明者は材令70年と100年の古い橋梁下部コンクリートは肉眼的には全く変化は見られないのに対し、最近のコンクリートはひび割れ発生が見られるので、ひび割れ発生の主要な原因を探求すべく、更に市販のセメントの化学組成、粒度、構成鉱物、セメント水和生成物を調査したところ以下のことがわかった。
【0011】
(1)普通ポルトランドセメント及び高炉セメントはいずれも生産会社による化
学組成上の差違はない。
(2)セメントの構成鉱物は、3CaO・SiO2(エーライト)、2CaO・
SiO2(ビーライト)、4CaO・Al2O3・Fe2O3、ならびに
石膏であり、生産会社による差違はみられない。
(3)普通ポルトランドセメントの物性は、密度は3.15〜3.16、比表
面積は3.200〜3.600cm2/g、高炉セメントは、密度は3.
01〜3.02、比表面積は3.700〜3,800cm2/g、最近で
は4,000cm2/g以上であり、昭和23〜40年ごろの普通ボルト
ランドセメントの平均比表面積3,100〜3,200cm2/gに比べ
ると粉末度は高くなっている。
(4)セメントは、セメント水和生成物の種類とその組合せによって表1に示し
たように3つのタイプに分けられる。
【0012】
【表1】
【0013】
(5)セメントの水和生成物の種類は、セメント生産会社によって異なるが、セ
メント水和生成物は水セメント比(W/C),養生時間,材令が異なって
も変らない。
(6)セメント水和生成物は、セメント粒度が粗粒であったり、W/Cが低いと
生成が遅い。すなわち、ポルトランダイト,エトリンガイト,モノサルフ
エート,カルシウム・アルミネート・ハイドレートが急には成長しない。
(7)現在の市販セメントは、粒度が細かく、コンクリートは単位水量が多いの
で、ポルトランダイト,エトリンガイト,カルシウム・アルミネート・ハ
イドレートの成長が早く、特にボルトランダイトとカルシウム・アルミネ
ート・ハイドレート,ならびにゲル(トベルモライト様ゲルとは異なる)
が多量に生成する。
(8)最近のひび割れ等の不具合な現象が起ったコンクリート中には、ポルト
ランダイトとカルシウム・アルミネート・ハイドレートの生成が顕著で
ある。
(9)古いコンクリートで使用されているセメントの粒度は荒く、最近のコンク
リート中のセメント粒度は細かい。
【0014】
そして、古いコンクリートと最近のコンクリートを対比すると、いずれにおいても、ポルトランダイトやカルシウム・アルミネート・ハイドレートは生成されるが、古いコンクリートでは、これらセメント水和生成物は少なく、生成反応はゆっくりしたものであり、セメント硬化体の骨格となるC−S−Hも理想的に生成されている。
【0015】
一方最近のコンクリートは、セメントの粒度は細かく、水量が多いので、セメントの成分中イオン化傾向が高いカルシウムとアルミニウムがイオン化し、ポルトランダイトやカルシウム・アルミネート・ハイドレートが初期段階で急速に成長する。生成するカルシウム・アルミネート・ハイドレートは、本来であれば石膏と反応してエトリンガイトになるはずが、カルシウム・アルミネート・ハイドレートの成長が早いために石膏との反応が追い付かず、セメント硬化体中にカルシウム・アルミネート・ハイドレートが多量に生成する。
【0016】
そしてポルトランダイトとカルシウム・アルミネート・ハイドレートが多量に生成すると、理想的C−S−Hの生成に必要なカルシウムが不足することになり、カルシウムの少ないC−S−Hが形成されるか、ゲル状物質が多くなり、セメント硬化体は物理化学的に不安定な状態になるのではないか、と考えられる。
【0017】
最近のセメントは、施工の経済性、すなわち、早くコンクリートの強度を出させるために細かく粉砕されている。
【0018】
セメントが細かくなれば、比表面積が大きくなるので、コンクリート打設に必要な単位水量は増え、ポンプ施工では流動性を上げるために、水量はさらに多くなる。
【0019】
単位水量が多ければ乾燥ひび割れが発生する可能性は多くなり、早期に生成し成長するポルトランダイトとカルシウム・アルミネート・ハイドレートによりひび割れが発生するものと考えても不合理ではないものと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特許第3656417号
【特許文献2】特開2006−226365号公報
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】丸 章夫,「コンクリート構造物の異常ひび割れに関する岩石鉱物学的考察」コンクリート工学,第42巻,12号,社団法人 日本コンクリート工業協会,2004年12月1日,32〜81頁
【非特許文献2】丸 章夫,「異常ひび割れが発生した構造物コンクリートの鉱物学的考察」,粘土科学,第45巻,第2号,日本粘土学会,2006年3月6日,75〜89頁
【非特許文献3】丸 章夫,「石灰系骨材を使用して異常ひび割れが発生した構造物コンクリートの鉱物学的考察」,粘土科学 第46巻 第2号,日本粘土学会,2007年6月4日,106〜111頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
前述の研究結果によると最近のコンクリート構造物にひび割れ発生が多く見られるのは、コンクリートの強度を速く出すため、セメントの粒度を細かくしたことに起因するものと考えられる。
【0023】
どの様なセメント(普通ポルトランドセメント,高炉セメント,中庸熱ポルトランドセメント,フライアッシュセメント等)であっても、粒度を細かくすると、水和反応は嗜好的に、反応し易い反応が先に進み、例えば、Ca(OB)2の急激な生成反応を生じる。
【0024】
そして、セメントが細かくなると、混練に必要な水量が増え、水量が多いと上記Ca(OH)2や3CaO・Al2O3・8〜12H2O又は4CaO・Al2O3・13H2Oあるいはエトリンガイト等の生成が促進されることになる。
【0025】
そうして、日本のコンクリートの管理は強度で管理しているので、予定強度が出れば型枠を外すため(セメントを細かくするとコンクリートの見掛けの強度は早く出る)、昔よりも養生時間が短く悪いセメントの水和反応に導く原因の一つとなる。
【0026】
理想的なセメントの水和反応の場合は図2の(a)に示す通りであるが、現在のひび割れが発生したコンクリート中のセメントの水和反応の場合は図2(b)に示す様になり、反応は進行する。
【0027】
そこで、本発明の目的は、現在のセメントを用いてひび割れが発生したコンクリートにおいて、ひび割れを発生させる望ましくないセメントの水和反応を抑制あるいは止めて、正常な反応にする方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明は上記の課題を解決するためになされたもので、種々実験研究の結果、アルカリ骨材反応を初めとするセメントの異常反応が原因となるひび割れコンクリートを熱水又は水蒸気により加水加熱養生することにより、反応を抑制ないしは正常化させることが出来るという知見を得た。
【0029】
本発明はこの知見に基づくもので、請求項1記載の発明は、ひび割れ部分または全体を80℃以上の熱水又は蒸気により加水加熱養生することを特徴とするひび割れが発生したコンクリートの改善方法である。
【0030】
また、請求項2記載の発明は、ひび割れが発生したコンクリート構造物の表面に保水材と面状ヒーターと保温材とを順次当接し、且つ前記保水材に水を湿潤させると共に前記面状ヒーターで保水材中の水温を80℃以上にして加水加熱養生することを特徴とするひび割れが発生したコンクリートの改善方法である。
【0031】
また請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明において、前記保水材として上縁をコンクリート構造物方向に傾斜させたものを使用することを特徴とするひび割れが発生したコンクリートの改善方法である。
【0032】
請求項4記載の発明は、ひび割れが発生したコンクリート構造物に保温シートを被せ、該保温シート内に80℃以上の蒸気を注入して、前記コンクリート構造物を加水加熱養生することを特徴とするひび割れが発生したコンクリートの改善方法である。
【0033】
また請求項5記載の発明は、ひび割れが発生したコンクリート構造物のひび割れ部分を覆うように水槽形成用カバーを取り付け、このカバー内に水とヒーターを入れ、前記水を80℃以上に温度を上げて加水加熱養生することをひび割れが発生したコンクリートの改善方法である。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、セメント硬化体の化学的性状を安定化させ、ひび割れ膨張反応を抑制し、補修工事においては、膨張反応が続くことへの心配を払拭する。従って、産業上貢献するところ大である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】ひび割れが発生した各地の橋梁コンクリートのひび割れ部の粉末X線回析図。
【図2】理想的なセメントの水和反応の場合と、ひび割れが発生したコンクリート中のセメントの水和反応の場合の生成物を示す図。
【図3】ひび割れが発生したコンクリート構造物のコア試料を密封容器中で70℃、80℃、90℃、100℃等の種々の温度で、それぞれ加水加熱養生した後のコンクリート中のセメント水和生成物の粉末X線回析図。
【図4】安山岩砕石と天然砂を骨材として、ひび割れが発生した橋梁コンクリートのコア試料を100℃の水中又は97〜99℃の水蒸気で加水加熱養生した場合の時間と共にセメント硬化体中のセメントの水和生成物が如何に変化するかを示す粉末X線回析図。
【図5】粗骨材として安山岩砕石を、細骨材として安山岩砕石と天然砂を用いたひび割れが発生した橋梁コンクリートのコア試料の加水加熱処理前と、100℃に管理された水中で24時間加水加熱処理した後の粉末X線回析図。
【図6】ひび割れが発生した北海道の橋梁コンクリートのコア試料の熱水加熱処理前と処理後のセメントの水和生成物の粉末X線回析図。
【図7】ひび割れが発生した東北地方の橋梁コンクリートのコア試料の熱水加熱処理前と処理後のセメントの水和生成物の粉末X線回析図。
【図8】ひび割れが発生した他の東北地方のの橋梁コンクリートのコア試料の熱水加熱処理前と処理後のセメントの水和生成物の粉末X線回析図。
【図9】ひび割れが発生した中部地方の橋梁コンクリートのコア試料の熱水加熱処理前と処理後のセメントの水和生成物の粉末X線回析図。
【図10】ひび割れが発生した関東地方の壁コンクリートのコア試料の熱水加熱処理前と処理後のセメントの水和生成物の粉末X線回析図。
【図11】ひび割れが発生した近畿地方の橋梁コンクリートのコア試料の熱水加熱処理前と処理後のセメントの水和生成物の粉末X線回析図。
【図12】ひび割れが発生した九州地方の橋梁コンクリートのコア試料の熱水加熱処理前と処理後のセメントの水和生成物の粉末X線回析図。
【図13】本発明をひび割れが発生した高速道路の壁勾欄に適用した場合の模式的断面図。
【図14】水蒸気を用いる場合の本発明に係る加水加熱養生の一例を示す模式的断面図。
【図15】熱水により加水加熱養生する場合の一例を示す模式的斜視図。
【図16】図9の縦断面図。
【実施例1】
【0036】
実施例1は、ひび割れが発生したコンクリート構造物のひび割れ部をボーリングにより採取したコア試料を密封容器に入れて水中加熱養生又は蒸気による加水加熱養生する場合に関するものである。
【0037】
図3はひび割れが発生したコンクリート構造物のひび割れ部をボーリングして採取したコア試料を、密封容器に入れ、70℃、80℃、90℃、100℃の水中でそれぞれ加水加熱養生した場合の養生処理前と処理後のコンクリート中のセメント水和生成物の粉末X線回析図であり、この図から以下のことが読み取れる。
【0038】
温度80℃以下の70℃では、ひび割れの原因となる4CaO・Al2O3・13H2Oが成長する。
【0039】
ところが温度80℃以上では、生成していた4CaO・Al2O3・13H2Oが減少あるいは消滅する。そしてエトリンガイトは減少あるいは消滅し、モノサルフェートが生成成長する。
【0040】
以上の現象は、温度が高くなると急速に進み、時間と共に進む。
【0041】
従って、熱水の温度は管理が容易な100℃が好ましい。しかし、常圧下では水温は97〜99℃で管理する。
【0042】
図4は、安山岩砕石と天然砂を骨材として、ひび割れが発生した橋梁コンクリートのコア試料を100℃の水中又は97〜99℃の水蒸気で加水加熱養生した場合の時間と共にセメント硬化体中のセメントの水和生成物が如何に変化するかを示す粉末X線回析図によって示したもので、この検査結果から次のことが分かる。
【0043】
即ち、水中加熱する前のコンクリート中のセメントの硬化体中にはひび割れ発生の基因となるエトリンガイト、4CaO・Al2O3・13H2O、モノサルフェートならびにポルトランダイトを検出(2θが20°以下の範囲)したが、100℃の水中で6時間加熱すると、エトリンガイトの回析線は消えて、モノサルフェートの強い回析線が検出された。その後24時間経過するまで水中過熱を続けたが、セメント水和生成物は、モノサルフェートとポルトランダイトのみである。
【0044】
また、97〜99℃の水蒸気によりコンクリートのコア試料を湿空中に保った場合のセメント水和生成物が時間と共に変化する状況は、処理前はエトリンガイト、モノサルフェート及びポルトランダイトが認められるが、蒸気処理6時間ではエトリンガイトの回析線は消え、モノサルフェートとポルトランダイトのみの回析線となった。その後、12時間、24時間と加熱を継続した場合、モノサルフェートとポルトランダイトの回析線のみが検出された。即ち、膨張反応は止まった。
【0045】
図5は粗骨材として安山岩砕石を、細骨材として安山岩砕石と天然砂を用いたひび割れが発生した橋梁コンクリートのコア試料の加水加熱処理前と、100℃に管理された水中で24時間、加水加熱処理した後の粉末X線回析図を示すもので、加水加熱処理前はエトリンガイト、モノサルフェート、4CaO・Al2O3・13H2O、C−S−Hなどのセメント水和生成物、未水和のエーライト(3CaO・SiO2)又はビーライト(2CaO・SiO2)並びに骨材の構成鉱物である石英、長石を検出したが、加水加熱処理後は、エトリンガイトと4CaO・Al2O3・13H2Oの回析線が消え、モノサルフェートとC−S−Hの回析線が強くなった。即ち、ひび割れの進行は抑止されたことを示している。
【0046】
図6〜図12はひび割れが発生した各地方の橋梁コンクリート又は壁コンクリートを熱水加熱処理した場合の生成したセメントの水和生成物の粉末X線回析図で、熱処理前のコンクリートでは、エトリンガイト、4CaO・Al2O3・13H2O、3CaO・Al2O3・8〜12H2O、ポルトランダイトなどがみられるが、温度100℃の水中で加熱したコンクリートは、何れの場合においても、エトリンガイト、4CaO・Al2O3・13H2O、3CaO・Al2O3・8〜12H2Oの回析線が消えて、モノサルフェートの強い回析線が現れた。
【0047】
しかし、エトリンガイト、4CaO・Al2O3・13H2O、3CaO・Al2O3・8〜12H2Oなどのセメントの水和生成物は、殆どの場合、水中加熱24時間で消えた。数例において、僅かに残った弱いエトリンガイトや4CaO・Al2O3・13H2O、3CaO・Al2O3・8〜12H2Oの回析線も、この図では示さなかったが、更に48時間まで加熱した結果全て消失した。
【0048】
蒸気養生したコンクリートの二次製品であっても、養生処理が不充分であるとひび割れが発生する。この種のコンクリートで、Ca(OH)2や3CaO・Al2O3・8〜12H2O又は4CaO・Al2O3・13H2Oあるいはエトリンガイトが生成している場合には、本発明の方法が適用できる。
【0049】
ひび割れたコンクリートの加水加熱処理は、蒸気で行なっても水中で行なっても加水加熱の効果は同じである。
【0050】
コンクリートの二次製品の蒸気養生は、セメントの水和反応を促進し、コンクリートの硬化を早めるために行うものであり、本発明の加水加熱処理は、好ましくないひび割れを発生させるセメントの水和反応を正常の反応に導くために行うものである。
【0051】
本発明の加水加熱処理は、硬化作用には関係なく、セメントの水和反応を正常化することにある。
【0052】
以上説明した実施例の結果から明らかのように、
(A)アルカリ骨材反応を初めとするセメントの異常反応によってひび割れが発生したコンクリートを、本発明の熱水又は熱水蒸気により加水加熱処理すると、コンクリート中のセメント水和生成物は次のように変化する。
1)エトリンガイトは全てモノサルフェートに変化する。
2)3CaO・Al2O3・8〜12H2Oや4CaO・Al2O3・13
H2Oは消滅し、モノサルフェートが成長する。
3)C−S−Hが成長する。
4)ポルトランダイトが成長するが、成長する量が少ないのでひび割れが拡
張することはない。
(B)コンクリートを加熱する温度は常圧では80℃以上である。
(C)コンクリートの加熱時間は、温度が低い場合は長く、高い場合は短い。例
えば、100℃では最低6時間若しくはそれ以上である。
(D)コンクリート中のセメントの化学的性状は、必要時間の加熱によって変化
した後は、加熱を継続しても変わらない。
(E)加水加熱処理したコンクリートは、湿空促進膨張試験において膨張しない。
(F)加水加熱処理したコンクリートは、圧縮強度と弾性係数が若干低下する傾
向がある。
【実施例2】
【0053】
実施例2は本発明をひび割れが発生した高速道路の壁勾欄に適用した場合の実施例を示すもので、図13はその模式的断面図である。
【0054】
図13において、1はコンクリート製壁勾欄、2はその表面に当接した保水材、3はその外側に設けたフレキシブル面状ヒーター、4は保温材、5はベニヤ板を用いた当板で、上縁に適数のコ字状の止金具を嵌合させ、当板5の外側から、アンカーを挿し、保水材2、フレキシブル面状ヒーター3及び保温材4を当板5を介して、壁勾欄1に固定する。
【0055】
保水材2としては、厚さ2〜10mmの綿、麻等の植物性あるいはポリエステルなどの化学繊維の織布や不織布又は給水保水性合成樹脂シートを用い、実施例では厚さ2mmの綿毛布を用いた。
【0056】
この実施例ではヒーターとして市販の厚さ1〜5mmのフレキシブル面状ヒーターを用いたが、他のヒーターを用いることも出来る。なお、実施例では厚さ1mmのフレキシブル面状ヒーターを用いた。
【0057】
保温材4としては手軽に入手し得る厚さ20〜50mmの板状の発泡スチロール製の保温材が適当で、実施例では40mmのものを用い、上縁に壁勾欄1の方向に傾斜するテーパー4aを設けて,水分補給を容易にした。
【0058】
水分は予め保水材2に湿潤させておき、フレキシブル面状ヒーター3に通電して、97〜99℃に保水材2の温度を上昇させ、24時間加水加熱養生を行った。
【0059】
保水材2の湿潤度と温度は、保水材2とフレキシブル面状ヒーター3間に設けた湿度センサーと温度センサー(図示せず)によって管理する。
【0060】
上記の加水加熱養生により、処理後、コア試料の粉末X線回析図により、実施例1と同様の改善効果があることを確認した。
【実施例3】
【0061】
実施例3は、実施例2が、熱水によって加水加熱養生するものであるに対し、水蒸気によって加水加熱養生する場合の実施例である。
【0062】
図14はその模式的断面図を示すもので、1はコンクリート製壁勾欄、6はカバーシートで、壁勾欄1との間に空隙7が出来るように、裾を壁勾欄1、路面等に固定し、水蒸気供給管8を介して80℃以上の水蒸気を空隙7内に連続的に供給し、24時間加水加熱養生を行った。保温カバーシート6の両側はオープンのままでよい。
【0063】
上記の水蒸気による加水加熱養生により、処理後、コア試料の粉末X線回析図により、実施例1と同様の改善効果があることを確認した。
【実施例4】
【0064】
実施例4は、実施例2とは異なる熱水養生の実施例で、図15はその模式的斜視図、図16は図15の縦断面図である。
【0065】
この実施例は上部がオープンのステンレス製の皿状カバー9をコンクリート壁1’に固定して奥行きが5〜30mmの水槽を形成し、内部に水10とヒーター11(防水性ヒーターならば構造は問わない)を入れ、水10の温度を80℃以上に保持してコンクリート壁1’に発生したひび割れ部を加水加熱養生する。
【0066】
この実施例は、コンクリート壁1’の一部に発生したひび割れ部を改善する場合に用いるが、ひび割れ部の面積に応じた皿状カバー9を用意しなければならないので、利便性と経済性に問題がある。
【0067】
以上、4つの実施例について説明したが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものでないことは勿論である。
【0068】
なお、本発明はひび割れが発生したコンクリート製品やコンクリート構造物の改善、即ちひび割れの進行を停止するものであって、ひび割れ自体を消失させるものではないので、ひび割れの補修工事に際しては、本発明にかかる改善を行った後、段落〔0003〕に記載した方法等により表面を化粧するものである。
【符号の説明】
【0069】
1 コンクリート製壁勾欄
2 保水材
3 フレキシブル面状ヒーター
4 保温材
5 当板
6 保温カバーシート
7 空隙
8 水蒸気供給管
9 皿状カバー
10 水
11 ヒーター
【技術分野】
【0001】
本発明は、ひび割れが発生したコンクリート製品やコンクリート構造物の改善方法、即ち、ひび割れの進行を抑制、防止する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄筋とコンクリート(セメント、骨材、水)からなる鉄筋コンクリート構造物は耐久性が高く、100年は持つと言われてきたが、近年環境の条件や使用材料、不適切な施工等によって性状が徐々に劣化し、短い年数でコンクリートにひび割れが生じることが多くなり、新聞等で高速道路の橋梁や側塀のひび割れが、大きな問題として取り上げられていることは周知の通りである。
【0003】
アルカリ骨材反応等によるコンクリートのひび割れの補修は現在、ひび割れ部に合成樹脂やセメントミルクを充填し、コンクリート表面には種々の材料を塗布あるいは被覆する方法が採られている。(特許文献1及び2参照)
【0004】
しかし、補修後もひび割れ現象が続き、再補修、再々補修しなければならないことが多い。
【0005】
最近の研究〔非特許文献1〜3〕によれば、アルカリ骨材反応によってひび割れが発生したとするコンクリートのセメント硬化体中に生成するセメント水和生成物(生成鉱物)は、ポルトランダイト(水酸化カルシウム,Ca(OH)2、カルシウム・アルミネート・ハイドレート(3CaO・Al2O3・8〜1220や4CaO・Al2O3・13H20など)及びエトリンガイトであることが特徴である。
【0006】
図1(a)〜(d)は、各地のひび割れが発生した橋梁コンクリートのひび割れ部の粉末X線回析図(2θ低角部分)で、それを良く示している。
【0007】
エトリンガイトの急激な生成がコンクリートのひび割れ発生の原因となることは周知のことであるが、ひび割れが発生したコンクリート中では、ポルトランダイトとカルシウム・アルミネート・ハイドレートの生成が顕著であり、これら生成物は成長が継続する。
【0008】
ポルトランダイトとカルシウム・アルミネート・ハイドレートは質量が小さく、その生成は、膨張反応であり、膨張反応が進行するのであれば、補修してもまたひび割れが生じることになる。
【0009】
健全なコンクリートでは、C−S−H(トベルモライトゲルと呼ばれ、化学組成は3CaO・2SiO・3H2O)、ポルトランダイト、モノサルフェート並びに未反応のエーライト又はビーライトを検出するが、他の鉱物は検出されない。
【0010】
以上、ひび割れが生じた最近の橋梁コンクリートのひび割れ発生の原因について説明したが、本発明者は材令70年と100年の古い橋梁下部コンクリートは肉眼的には全く変化は見られないのに対し、最近のコンクリートはひび割れ発生が見られるので、ひび割れ発生の主要な原因を探求すべく、更に市販のセメントの化学組成、粒度、構成鉱物、セメント水和生成物を調査したところ以下のことがわかった。
【0011】
(1)普通ポルトランドセメント及び高炉セメントはいずれも生産会社による化
学組成上の差違はない。
(2)セメントの構成鉱物は、3CaO・SiO2(エーライト)、2CaO・
SiO2(ビーライト)、4CaO・Al2O3・Fe2O3、ならびに
石膏であり、生産会社による差違はみられない。
(3)普通ポルトランドセメントの物性は、密度は3.15〜3.16、比表
面積は3.200〜3.600cm2/g、高炉セメントは、密度は3.
01〜3.02、比表面積は3.700〜3,800cm2/g、最近で
は4,000cm2/g以上であり、昭和23〜40年ごろの普通ボルト
ランドセメントの平均比表面積3,100〜3,200cm2/gに比べ
ると粉末度は高くなっている。
(4)セメントは、セメント水和生成物の種類とその組合せによって表1に示し
たように3つのタイプに分けられる。
【0012】
【表1】
【0013】
(5)セメントの水和生成物の種類は、セメント生産会社によって異なるが、セ
メント水和生成物は水セメント比(W/C),養生時間,材令が異なって
も変らない。
(6)セメント水和生成物は、セメント粒度が粗粒であったり、W/Cが低いと
生成が遅い。すなわち、ポルトランダイト,エトリンガイト,モノサルフ
エート,カルシウム・アルミネート・ハイドレートが急には成長しない。
(7)現在の市販セメントは、粒度が細かく、コンクリートは単位水量が多いの
で、ポルトランダイト,エトリンガイト,カルシウム・アルミネート・ハ
イドレートの成長が早く、特にボルトランダイトとカルシウム・アルミネ
ート・ハイドレート,ならびにゲル(トベルモライト様ゲルとは異なる)
が多量に生成する。
(8)最近のひび割れ等の不具合な現象が起ったコンクリート中には、ポルト
ランダイトとカルシウム・アルミネート・ハイドレートの生成が顕著で
ある。
(9)古いコンクリートで使用されているセメントの粒度は荒く、最近のコンク
リート中のセメント粒度は細かい。
【0014】
そして、古いコンクリートと最近のコンクリートを対比すると、いずれにおいても、ポルトランダイトやカルシウム・アルミネート・ハイドレートは生成されるが、古いコンクリートでは、これらセメント水和生成物は少なく、生成反応はゆっくりしたものであり、セメント硬化体の骨格となるC−S−Hも理想的に生成されている。
【0015】
一方最近のコンクリートは、セメントの粒度は細かく、水量が多いので、セメントの成分中イオン化傾向が高いカルシウムとアルミニウムがイオン化し、ポルトランダイトやカルシウム・アルミネート・ハイドレートが初期段階で急速に成長する。生成するカルシウム・アルミネート・ハイドレートは、本来であれば石膏と反応してエトリンガイトになるはずが、カルシウム・アルミネート・ハイドレートの成長が早いために石膏との反応が追い付かず、セメント硬化体中にカルシウム・アルミネート・ハイドレートが多量に生成する。
【0016】
そしてポルトランダイトとカルシウム・アルミネート・ハイドレートが多量に生成すると、理想的C−S−Hの生成に必要なカルシウムが不足することになり、カルシウムの少ないC−S−Hが形成されるか、ゲル状物質が多くなり、セメント硬化体は物理化学的に不安定な状態になるのではないか、と考えられる。
【0017】
最近のセメントは、施工の経済性、すなわち、早くコンクリートの強度を出させるために細かく粉砕されている。
【0018】
セメントが細かくなれば、比表面積が大きくなるので、コンクリート打設に必要な単位水量は増え、ポンプ施工では流動性を上げるために、水量はさらに多くなる。
【0019】
単位水量が多ければ乾燥ひび割れが発生する可能性は多くなり、早期に生成し成長するポルトランダイトとカルシウム・アルミネート・ハイドレートによりひび割れが発生するものと考えても不合理ではないものと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特許第3656417号
【特許文献2】特開2006−226365号公報
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】丸 章夫,「コンクリート構造物の異常ひび割れに関する岩石鉱物学的考察」コンクリート工学,第42巻,12号,社団法人 日本コンクリート工業協会,2004年12月1日,32〜81頁
【非特許文献2】丸 章夫,「異常ひび割れが発生した構造物コンクリートの鉱物学的考察」,粘土科学,第45巻,第2号,日本粘土学会,2006年3月6日,75〜89頁
【非特許文献3】丸 章夫,「石灰系骨材を使用して異常ひび割れが発生した構造物コンクリートの鉱物学的考察」,粘土科学 第46巻 第2号,日本粘土学会,2007年6月4日,106〜111頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
前述の研究結果によると最近のコンクリート構造物にひび割れ発生が多く見られるのは、コンクリートの強度を速く出すため、セメントの粒度を細かくしたことに起因するものと考えられる。
【0023】
どの様なセメント(普通ポルトランドセメント,高炉セメント,中庸熱ポルトランドセメント,フライアッシュセメント等)であっても、粒度を細かくすると、水和反応は嗜好的に、反応し易い反応が先に進み、例えば、Ca(OB)2の急激な生成反応を生じる。
【0024】
そして、セメントが細かくなると、混練に必要な水量が増え、水量が多いと上記Ca(OH)2や3CaO・Al2O3・8〜12H2O又は4CaO・Al2O3・13H2Oあるいはエトリンガイト等の生成が促進されることになる。
【0025】
そうして、日本のコンクリートの管理は強度で管理しているので、予定強度が出れば型枠を外すため(セメントを細かくするとコンクリートの見掛けの強度は早く出る)、昔よりも養生時間が短く悪いセメントの水和反応に導く原因の一つとなる。
【0026】
理想的なセメントの水和反応の場合は図2の(a)に示す通りであるが、現在のひび割れが発生したコンクリート中のセメントの水和反応の場合は図2(b)に示す様になり、反応は進行する。
【0027】
そこで、本発明の目的は、現在のセメントを用いてひび割れが発生したコンクリートにおいて、ひび割れを発生させる望ましくないセメントの水和反応を抑制あるいは止めて、正常な反応にする方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明は上記の課題を解決するためになされたもので、種々実験研究の結果、アルカリ骨材反応を初めとするセメントの異常反応が原因となるひび割れコンクリートを熱水又は水蒸気により加水加熱養生することにより、反応を抑制ないしは正常化させることが出来るという知見を得た。
【0029】
本発明はこの知見に基づくもので、請求項1記載の発明は、ひび割れ部分または全体を80℃以上の熱水又は蒸気により加水加熱養生することを特徴とするひび割れが発生したコンクリートの改善方法である。
【0030】
また、請求項2記載の発明は、ひび割れが発生したコンクリート構造物の表面に保水材と面状ヒーターと保温材とを順次当接し、且つ前記保水材に水を湿潤させると共に前記面状ヒーターで保水材中の水温を80℃以上にして加水加熱養生することを特徴とするひび割れが発生したコンクリートの改善方法である。
【0031】
また請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明において、前記保水材として上縁をコンクリート構造物方向に傾斜させたものを使用することを特徴とするひび割れが発生したコンクリートの改善方法である。
【0032】
請求項4記載の発明は、ひび割れが発生したコンクリート構造物に保温シートを被せ、該保温シート内に80℃以上の蒸気を注入して、前記コンクリート構造物を加水加熱養生することを特徴とするひび割れが発生したコンクリートの改善方法である。
【0033】
また請求項5記載の発明は、ひび割れが発生したコンクリート構造物のひび割れ部分を覆うように水槽形成用カバーを取り付け、このカバー内に水とヒーターを入れ、前記水を80℃以上に温度を上げて加水加熱養生することをひび割れが発生したコンクリートの改善方法である。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、セメント硬化体の化学的性状を安定化させ、ひび割れ膨張反応を抑制し、補修工事においては、膨張反応が続くことへの心配を払拭する。従って、産業上貢献するところ大である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】ひび割れが発生した各地の橋梁コンクリートのひび割れ部の粉末X線回析図。
【図2】理想的なセメントの水和反応の場合と、ひび割れが発生したコンクリート中のセメントの水和反応の場合の生成物を示す図。
【図3】ひび割れが発生したコンクリート構造物のコア試料を密封容器中で70℃、80℃、90℃、100℃等の種々の温度で、それぞれ加水加熱養生した後のコンクリート中のセメント水和生成物の粉末X線回析図。
【図4】安山岩砕石と天然砂を骨材として、ひび割れが発生した橋梁コンクリートのコア試料を100℃の水中又は97〜99℃の水蒸気で加水加熱養生した場合の時間と共にセメント硬化体中のセメントの水和生成物が如何に変化するかを示す粉末X線回析図。
【図5】粗骨材として安山岩砕石を、細骨材として安山岩砕石と天然砂を用いたひび割れが発生した橋梁コンクリートのコア試料の加水加熱処理前と、100℃に管理された水中で24時間加水加熱処理した後の粉末X線回析図。
【図6】ひび割れが発生した北海道の橋梁コンクリートのコア試料の熱水加熱処理前と処理後のセメントの水和生成物の粉末X線回析図。
【図7】ひび割れが発生した東北地方の橋梁コンクリートのコア試料の熱水加熱処理前と処理後のセメントの水和生成物の粉末X線回析図。
【図8】ひび割れが発生した他の東北地方のの橋梁コンクリートのコア試料の熱水加熱処理前と処理後のセメントの水和生成物の粉末X線回析図。
【図9】ひび割れが発生した中部地方の橋梁コンクリートのコア試料の熱水加熱処理前と処理後のセメントの水和生成物の粉末X線回析図。
【図10】ひび割れが発生した関東地方の壁コンクリートのコア試料の熱水加熱処理前と処理後のセメントの水和生成物の粉末X線回析図。
【図11】ひび割れが発生した近畿地方の橋梁コンクリートのコア試料の熱水加熱処理前と処理後のセメントの水和生成物の粉末X線回析図。
【図12】ひび割れが発生した九州地方の橋梁コンクリートのコア試料の熱水加熱処理前と処理後のセメントの水和生成物の粉末X線回析図。
【図13】本発明をひび割れが発生した高速道路の壁勾欄に適用した場合の模式的断面図。
【図14】水蒸気を用いる場合の本発明に係る加水加熱養生の一例を示す模式的断面図。
【図15】熱水により加水加熱養生する場合の一例を示す模式的斜視図。
【図16】図9の縦断面図。
【実施例1】
【0036】
実施例1は、ひび割れが発生したコンクリート構造物のひび割れ部をボーリングにより採取したコア試料を密封容器に入れて水中加熱養生又は蒸気による加水加熱養生する場合に関するものである。
【0037】
図3はひび割れが発生したコンクリート構造物のひび割れ部をボーリングして採取したコア試料を、密封容器に入れ、70℃、80℃、90℃、100℃の水中でそれぞれ加水加熱養生した場合の養生処理前と処理後のコンクリート中のセメント水和生成物の粉末X線回析図であり、この図から以下のことが読み取れる。
【0038】
温度80℃以下の70℃では、ひび割れの原因となる4CaO・Al2O3・13H2Oが成長する。
【0039】
ところが温度80℃以上では、生成していた4CaO・Al2O3・13H2Oが減少あるいは消滅する。そしてエトリンガイトは減少あるいは消滅し、モノサルフェートが生成成長する。
【0040】
以上の現象は、温度が高くなると急速に進み、時間と共に進む。
【0041】
従って、熱水の温度は管理が容易な100℃が好ましい。しかし、常圧下では水温は97〜99℃で管理する。
【0042】
図4は、安山岩砕石と天然砂を骨材として、ひび割れが発生した橋梁コンクリートのコア試料を100℃の水中又は97〜99℃の水蒸気で加水加熱養生した場合の時間と共にセメント硬化体中のセメントの水和生成物が如何に変化するかを示す粉末X線回析図によって示したもので、この検査結果から次のことが分かる。
【0043】
即ち、水中加熱する前のコンクリート中のセメントの硬化体中にはひび割れ発生の基因となるエトリンガイト、4CaO・Al2O3・13H2O、モノサルフェートならびにポルトランダイトを検出(2θが20°以下の範囲)したが、100℃の水中で6時間加熱すると、エトリンガイトの回析線は消えて、モノサルフェートの強い回析線が検出された。その後24時間経過するまで水中過熱を続けたが、セメント水和生成物は、モノサルフェートとポルトランダイトのみである。
【0044】
また、97〜99℃の水蒸気によりコンクリートのコア試料を湿空中に保った場合のセメント水和生成物が時間と共に変化する状況は、処理前はエトリンガイト、モノサルフェート及びポルトランダイトが認められるが、蒸気処理6時間ではエトリンガイトの回析線は消え、モノサルフェートとポルトランダイトのみの回析線となった。その後、12時間、24時間と加熱を継続した場合、モノサルフェートとポルトランダイトの回析線のみが検出された。即ち、膨張反応は止まった。
【0045】
図5は粗骨材として安山岩砕石を、細骨材として安山岩砕石と天然砂を用いたひび割れが発生した橋梁コンクリートのコア試料の加水加熱処理前と、100℃に管理された水中で24時間、加水加熱処理した後の粉末X線回析図を示すもので、加水加熱処理前はエトリンガイト、モノサルフェート、4CaO・Al2O3・13H2O、C−S−Hなどのセメント水和生成物、未水和のエーライト(3CaO・SiO2)又はビーライト(2CaO・SiO2)並びに骨材の構成鉱物である石英、長石を検出したが、加水加熱処理後は、エトリンガイトと4CaO・Al2O3・13H2Oの回析線が消え、モノサルフェートとC−S−Hの回析線が強くなった。即ち、ひび割れの進行は抑止されたことを示している。
【0046】
図6〜図12はひび割れが発生した各地方の橋梁コンクリート又は壁コンクリートを熱水加熱処理した場合の生成したセメントの水和生成物の粉末X線回析図で、熱処理前のコンクリートでは、エトリンガイト、4CaO・Al2O3・13H2O、3CaO・Al2O3・8〜12H2O、ポルトランダイトなどがみられるが、温度100℃の水中で加熱したコンクリートは、何れの場合においても、エトリンガイト、4CaO・Al2O3・13H2O、3CaO・Al2O3・8〜12H2Oの回析線が消えて、モノサルフェートの強い回析線が現れた。
【0047】
しかし、エトリンガイト、4CaO・Al2O3・13H2O、3CaO・Al2O3・8〜12H2Oなどのセメントの水和生成物は、殆どの場合、水中加熱24時間で消えた。数例において、僅かに残った弱いエトリンガイトや4CaO・Al2O3・13H2O、3CaO・Al2O3・8〜12H2Oの回析線も、この図では示さなかったが、更に48時間まで加熱した結果全て消失した。
【0048】
蒸気養生したコンクリートの二次製品であっても、養生処理が不充分であるとひび割れが発生する。この種のコンクリートで、Ca(OH)2や3CaO・Al2O3・8〜12H2O又は4CaO・Al2O3・13H2Oあるいはエトリンガイトが生成している場合には、本発明の方法が適用できる。
【0049】
ひび割れたコンクリートの加水加熱処理は、蒸気で行なっても水中で行なっても加水加熱の効果は同じである。
【0050】
コンクリートの二次製品の蒸気養生は、セメントの水和反応を促進し、コンクリートの硬化を早めるために行うものであり、本発明の加水加熱処理は、好ましくないひび割れを発生させるセメントの水和反応を正常の反応に導くために行うものである。
【0051】
本発明の加水加熱処理は、硬化作用には関係なく、セメントの水和反応を正常化することにある。
【0052】
以上説明した実施例の結果から明らかのように、
(A)アルカリ骨材反応を初めとするセメントの異常反応によってひび割れが発生したコンクリートを、本発明の熱水又は熱水蒸気により加水加熱処理すると、コンクリート中のセメント水和生成物は次のように変化する。
1)エトリンガイトは全てモノサルフェートに変化する。
2)3CaO・Al2O3・8〜12H2Oや4CaO・Al2O3・13
H2Oは消滅し、モノサルフェートが成長する。
3)C−S−Hが成長する。
4)ポルトランダイトが成長するが、成長する量が少ないのでひび割れが拡
張することはない。
(B)コンクリートを加熱する温度は常圧では80℃以上である。
(C)コンクリートの加熱時間は、温度が低い場合は長く、高い場合は短い。例
えば、100℃では最低6時間若しくはそれ以上である。
(D)コンクリート中のセメントの化学的性状は、必要時間の加熱によって変化
した後は、加熱を継続しても変わらない。
(E)加水加熱処理したコンクリートは、湿空促進膨張試験において膨張しない。
(F)加水加熱処理したコンクリートは、圧縮強度と弾性係数が若干低下する傾
向がある。
【実施例2】
【0053】
実施例2は本発明をひび割れが発生した高速道路の壁勾欄に適用した場合の実施例を示すもので、図13はその模式的断面図である。
【0054】
図13において、1はコンクリート製壁勾欄、2はその表面に当接した保水材、3はその外側に設けたフレキシブル面状ヒーター、4は保温材、5はベニヤ板を用いた当板で、上縁に適数のコ字状の止金具を嵌合させ、当板5の外側から、アンカーを挿し、保水材2、フレキシブル面状ヒーター3及び保温材4を当板5を介して、壁勾欄1に固定する。
【0055】
保水材2としては、厚さ2〜10mmの綿、麻等の植物性あるいはポリエステルなどの化学繊維の織布や不織布又は給水保水性合成樹脂シートを用い、実施例では厚さ2mmの綿毛布を用いた。
【0056】
この実施例ではヒーターとして市販の厚さ1〜5mmのフレキシブル面状ヒーターを用いたが、他のヒーターを用いることも出来る。なお、実施例では厚さ1mmのフレキシブル面状ヒーターを用いた。
【0057】
保温材4としては手軽に入手し得る厚さ20〜50mmの板状の発泡スチロール製の保温材が適当で、実施例では40mmのものを用い、上縁に壁勾欄1の方向に傾斜するテーパー4aを設けて,水分補給を容易にした。
【0058】
水分は予め保水材2に湿潤させておき、フレキシブル面状ヒーター3に通電して、97〜99℃に保水材2の温度を上昇させ、24時間加水加熱養生を行った。
【0059】
保水材2の湿潤度と温度は、保水材2とフレキシブル面状ヒーター3間に設けた湿度センサーと温度センサー(図示せず)によって管理する。
【0060】
上記の加水加熱養生により、処理後、コア試料の粉末X線回析図により、実施例1と同様の改善効果があることを確認した。
【実施例3】
【0061】
実施例3は、実施例2が、熱水によって加水加熱養生するものであるに対し、水蒸気によって加水加熱養生する場合の実施例である。
【0062】
図14はその模式的断面図を示すもので、1はコンクリート製壁勾欄、6はカバーシートで、壁勾欄1との間に空隙7が出来るように、裾を壁勾欄1、路面等に固定し、水蒸気供給管8を介して80℃以上の水蒸気を空隙7内に連続的に供給し、24時間加水加熱養生を行った。保温カバーシート6の両側はオープンのままでよい。
【0063】
上記の水蒸気による加水加熱養生により、処理後、コア試料の粉末X線回析図により、実施例1と同様の改善効果があることを確認した。
【実施例4】
【0064】
実施例4は、実施例2とは異なる熱水養生の実施例で、図15はその模式的斜視図、図16は図15の縦断面図である。
【0065】
この実施例は上部がオープンのステンレス製の皿状カバー9をコンクリート壁1’に固定して奥行きが5〜30mmの水槽を形成し、内部に水10とヒーター11(防水性ヒーターならば構造は問わない)を入れ、水10の温度を80℃以上に保持してコンクリート壁1’に発生したひび割れ部を加水加熱養生する。
【0066】
この実施例は、コンクリート壁1’の一部に発生したひび割れ部を改善する場合に用いるが、ひび割れ部の面積に応じた皿状カバー9を用意しなければならないので、利便性と経済性に問題がある。
【0067】
以上、4つの実施例について説明したが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものでないことは勿論である。
【0068】
なお、本発明はひび割れが発生したコンクリート製品やコンクリート構造物の改善、即ちひび割れの進行を停止するものであって、ひび割れ自体を消失させるものではないので、ひび割れの補修工事に際しては、本発明にかかる改善を行った後、段落〔0003〕に記載した方法等により表面を化粧するものである。
【符号の説明】
【0069】
1 コンクリート製壁勾欄
2 保水材
3 フレキシブル面状ヒーター
4 保温材
5 当板
6 保温カバーシート
7 空隙
8 水蒸気供給管
9 皿状カバー
10 水
11 ヒーター
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ひび割れ部分または全体を80℃以上の熱水又は蒸気により加水加熱養生することを特徴とするひび割れが発生したコンクリートの改善方法。
【請求項2】
ひび割れが発生したコンクリート構造物の表面に保水材と面状ヒーターと保温材とを順次当接し、且つ前記保水材に水を湿潤させると共に前記面状ヒーターで保水材中の水温を80度以上にして加水加熱養生することを特徴とするひび割れが発生したコンクリートの改善方法。
【請求項3】
前記保水材として上縁をコンクリート構造物方向に傾斜させたものを使用することを特徴とする請求項2記載のひび割れが発生したコンクリートの改善方法。
【請求項4】
ひび割れが発生したコンクリート構造物に保温シートを被せ、該保温シート内に80℃以上の蒸気を注入して、前記コンクリート構造物を加水加熱養生することを特徴とするひび割れが発生したコンクリートの改善方法。
【請求項5】
ひび割れが発生したコンクリート構造物のひび割れ部分を覆うように水槽形成用カバーを取り付け、このカバー内に水とヒーターを入れ、前記水を80度以上に温度を上げて加水加熱養生することをひび割れが発生したコンクリートの改善方法。
【請求項1】
ひび割れ部分または全体を80℃以上の熱水又は蒸気により加水加熱養生することを特徴とするひび割れが発生したコンクリートの改善方法。
【請求項2】
ひび割れが発生したコンクリート構造物の表面に保水材と面状ヒーターと保温材とを順次当接し、且つ前記保水材に水を湿潤させると共に前記面状ヒーターで保水材中の水温を80度以上にして加水加熱養生することを特徴とするひび割れが発生したコンクリートの改善方法。
【請求項3】
前記保水材として上縁をコンクリート構造物方向に傾斜させたものを使用することを特徴とする請求項2記載のひび割れが発生したコンクリートの改善方法。
【請求項4】
ひび割れが発生したコンクリート構造物に保温シートを被せ、該保温シート内に80℃以上の蒸気を注入して、前記コンクリート構造物を加水加熱養生することを特徴とするひび割れが発生したコンクリートの改善方法。
【請求項5】
ひび割れが発生したコンクリート構造物のひび割れ部分を覆うように水槽形成用カバーを取り付け、このカバー内に水とヒーターを入れ、前記水を80度以上に温度を上げて加水加熱養生することをひび割れが発生したコンクリートの改善方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2012−180720(P2012−180720A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−45863(P2011−45863)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(592256704)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(592256704)
【Fターム(参考)】
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