説明

ぴったり適合し脱落しにくい、熱湯軟化式スポーツ用マウスピース。

【課題】従来の熱湯軟化式マウスピースは、マウスピースの内側部分と歯列をぴったり適合させることか出来ない為、脱落しやすいのでマウスピース本来の機能を十分に発揮できなかった。
【解決手段】軟化時にマウスピースの内側部分に高い流動性を付与することで、歯科医院で作成したオーダーメイドマウスピースのようにマウスピース内面と歯列をぴったり適合させ、脱落しにくくマウスピース本来の機能を十分に発揮できるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運動時に使用する熱可塑性弾性樹脂性の熱湯軟化式スポーツ用マウスピースに関する。
【背景技術】
【0002】
運動時にスポーツ用マウスピースは歯列にぴったりと適合し、上下の歯列を正しく咬合させることにより、最大限の筋力を発揮させ運動能力を向上させたり、歯牙及び口腔軟組織・顎骨・顎関節を外傷から保護するというマウスピース本来の目的がある。上顎歯列にぴったりと適合し、上下の歯列を正しく咬合させるスポーツ用マウスピースは、個々の使用者の歯列にぴったり適合するよう歯科医によりオーダーメイドされたものが望ましいが高価であるため、ある程度の歯列への適合を目的とした廉価である熱可塑性弾性樹脂性の熱湯軟化式マウスピースが広く普及している。
【0003】
従来の熱可塑性弾性樹脂性の熱湯軟化式マウスピース技術では、マウスピースを容器に注いだ熱湯で軟化後、箸などで取り出し、上顎歯列に装着・咬合させることで、各自の歯列の形状と咬合関係を記録させる方式である。軟化時にマウスピースがその原形をほぼ維持していないと口腔に挿入できないことと、柔らかすぎると咬合した時に噛み切ってしまうので軟化時に耳たぶ程度以上の硬さを呈する流動性の低い熱可塑性弾性樹脂が用いられている。
【0004】
熱湯で軟化した際にチューイングガムのような高い流動性を呈さず、耳たぶ程度以上の硬さを呈する流動性の低い熱可塑性弾性樹脂が用いられているために、口腔内に装着・咬合するとおおまかな歯列弓の形状と対合歯列との咬合関係のみが記録され、マウスピース内面に歯列に存在する個々の歯牙と口腔粘膜の精密な形状を記録することができない為、上顎歯列とマウスピース内面との間に空隙が生じ、ぴったり適合しないので運動時に脱落しやすく、装着感も悪いという欠点があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明では、従来どおりの方式の熱湯軟化式マウスピースでありながら、マウスピース内面に歯列に存在する個々の歯牙と口腔粘膜の精密な形状を精密に記録することで、マウスピースと上顎歯列をぴったり適合させるマウスピースの提供を目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成するために研究を行った結果、マウスピースを熱湯に浸し軟化した際、マウスピース内側部分はチューイングガムのような高い流動性を呈する熱可塑性弾性樹脂、外側部分は耳たぶ程度以上の硬さを呈する流動性の低い熱可塑性弾性樹脂を用いた熱湯軟化式マウスピースを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
熱湯で軟化した際に、耳たぶ程度以上の硬さを呈する流動性の低い外側部分は、上顎歯列に装着・咬合すると、おおまかな歯列の形状と対合歯列との咬合関係のみを記録する。
【0008】
チューイングガムのような高い流動性を呈する内側部分は歯列に存在する個々の歯牙と付帯する歯肉の形状を精密に記録する。
【0009】
このようにして完成されたマウスピースは、歯科医院で上下顎の印象採得と咬合採得を行い、既存の歯科技工法で個々の使用者の歯列に適合するようオーダーメイドされたものと同様に、上顎歯列にぴったりと適合し、上下の歯列が正しく咬合し、脱落しにくく装着感の良いマウスピースが提供できる。
【0010】
さらに、第2発明における咬合面部において、外側部分と内側部分の間に設けたパワーブレードは、咬合面に一定の厚みを確保するので、特別に強い咬合力からマウスピースの破断を防止する。
【0011】
熱湯軟化式マウスピースは熱湯に浸し口腔内に挿入するため、内側部分の熱可塑性弾性樹脂と外側部分の熱可塑性弾性樹脂との結合に、プライマーや接着剤を使用すると剥離や化学物質の口腔内流出の危険性の可能性があることから、内側部分と外側部分の熱可塑性弾性樹脂は熱溶融による結合が認められるものが望ましい。
【発明の効果】
【0012】
スポーツ用マウスピースは歯列弓にぴったりと密着し運動時に脱落やガタツキが無いことで、歯牙及び口腔軟組織を外傷から保護し上下の歯列を正しく咬合させることにより最大限の筋力を発揮させようとする目的があるが、装着感の悪さからマウスピースを装着しなかったために発生したスポーツ事故やマウスピースが脱落したことが原因で発生した危険や事故を防止でき、正しく噛みしめることで、咬筋の緊張を発生させ、運動能力の向上に役立つ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
発明の実施の形態を実施例にもとづき図面を参照して説明するが、これらの実施例に限定されるものではない。
【0014】
図1は本発明に係る熱湯軟化式マウスピースの全体を示す上部平面図、図2は本発明に係る熱湯軟化式マウスピースの全体を示す斜視図、図3は本発明に係る熱湯軟化式マウスピースの外側部分1と内側部分2の分解図である。
【0015】
外側部分1と内側部分2とは、常温においては共にゴム質を呈し、熱湯に浸すと共に軟化し、軟化時の流動性が異なることが条件とされるため、それぞれ熱湯軟化時の流動性が異なるエチレン−ビニル−アセテート共重合体を用いることが好ましい。
【0016】
図1、図2、図3に示す外側部分1は上顎歯列を覆うように中空の略馬蹄形をなし、この形状及び熱湯軟化時の流動性は従来の熱可塑性マウスピースと基本的に同一である。
【0017】
さらに、外側部分1を作成するには金型を用いた公知の成型方法があり、図1、図2、図3に示す内側部分2の作成方法は、2回法による射出成型法・完成した外側部分1にホットガン等で溶解させた内側部分2となるエチレン−ビニル−アセテート共重合を直接流し入れる方法・金型を用いた公知の成型方法で作成した内側部分2を外側部分1に嵌め込む等のどんな方法でも構わない。
【0018】
図4は図2の断面図であり、外側部分外壁1a、外側部分内壁1b、外側部分咬合面部1cに包まれるように内側部分2が存在し、材質が共にエチレン−ビニル−アセテート共重合体であるので、個々の人が熱湯に浸して軟化した際に、熱溶融による接着強度のさらなる増加が認められる。
【0019】
図5は本マウスピースを軟化後に上顎歯列に挿入、完成後の前歯部分の様相を示すものであり、外側部分外壁1aと外側部分内壁1bは前歯部頬側歯肉4a・上顎前歯3・前歯部口蓋側歯肉4bに沿ったおおまかな形状を記録し、外側部分咬合面部1cには下顎前歯7の圧痕を記録する。内側部分2は、前歯部頬側歯肉4a・上顎前歯3・前歯部口蓋側歯肉4bの正確な形状を記録する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
さらに、図6は臼歯部分の様相を示すものであり、外側部分外壁1aと外側部分内壁1bは臼歯部頬側歯肉6a・上顎臼歯5・臼歯部口蓋側歯肉6bに沿ったおおまかな形状を記録し、外側部分咬合面部1cには下顎臼歯8の圧痕を記録する。内側部分2は、臼歯部頬側歯肉6a・上顎臼歯5・臼歯部口蓋側歯肉6bの正確な形状を記録する。
【0021】
さらに、発明の実施の形態を実施例にもとづき図面を参照して説明するが、これらの実施例に限定されるものではない。
【0022】
図7は第2発明におけるパワーブレード9の上部平面図であり、図8はパワーブレード9を設けた本マウスピースの分解図、図9はその斜視図、図10はその断面図である。パワーブレード9は、図7、図8に示すように略馬蹄形の薄い板状を呈し、図10の断面図が示すように、外側部分咬合面部1cと内側部2との間にサンドイッチ状に挟まれる。
【0023】
パワーブレード9は、外側部分1と内側部分2と同様に常温においては共にゴム質を呈し、熱湯に浸すと共に軟化し、軟化時の流動性が異なることが条件とされるため、エチレン−ビニル−アセテート共重合体を用いることが好ましく、公知の成型方法で作成でき、外側部分1と内側部分2とは熱溶融により簡単に接着できる。
【0024】
パワーブレード9を咬合面に設けたマウスピースは、熱湯で軟化後、上顎歯列に装着・咬合した際に、パワーブレード9の熱可塑性弾性樹脂は外側部分1の熱可塑性弾性樹脂よりもさらに硬く低い流動性を呈するので、一定の咬合面の厚みを保持する。パワーブレート9と外側部分1と内側部分2は、材質が共にエチレン−ビニル−アセテート共重合体であるので、個々の人が熱湯に浸して軟化した際に、熱溶融による接着強度のさらなる増加が認められる。
【0025】
格段に強い咬合力でマウスピースを破断させてしまう人には、パワーブレード9を咬合面に設けることで、その破断を防止できる。
【実施例】
【0026】
以下に実施例において本発明を具体的に説明するが、これらの実施例に限定されるものではない。外側部分1と内側部分2は共に東ソー株式会社のウルトラセンを使用した。
【0027】
製品1の各部のサイズ及び重量
外側部分1、縱58mm×横69mm×高さ23mmの中空の略馬蹄形を呈し咬合面の厚み2.5mm、重量7g
内側部分2、縱47mm×横63mm×高さ15mmの略馬蹄形の実体、重量3.2g
【0028】
製造方法は、外側部分1は金型をもちいた射出成型法を用い、内側部分2は金型をもちいたプレス加工法で作成し、完成した外側部分1と内側部分2の接着部分を熱風で軟化させ圧接接着した。
【0029】
(1)製品1の熱湯軟化時における外側部分と内側部分の流動性確認試験
製品1を93℃の熱湯に1分間浸し、箸で取り出し被験者の上顎歯列に挿入、軽く咬合させ2分間放置後、取り出し歯列に存在する個々の歯牙と付帯する歯肉の形状が製品1の内側部分2に精密に記録され、且つ外側部分1にはおおまかな歯列の形状と対合歯列との圧痕による咬合関係が記録されていることを目視にて確認し、合格・不合格を判定する。
【0030】
製品1を用いて被験者20人に試験を実施したところすべて合格と判定した。
【0031】
以下に実施例において本発明を具体的に説明するが、これらの実施例に限定されるものではない。外側部分1と内側部分2とパワーブレード9は共に東ソー株式会社のウルトラセンを使用した。
【0032】
製品2の各部のサイズ及び重量
外側部分1、縱58mm×横69mm×高さ23mmの中空の略馬蹄形を呈し咬合面の厚み2.5mm、重量7g
内側部分2、縱47mm×横63mm×高さ15mmの略馬蹄形の実体、重量3.2g
パワーブレード9、縱47mm×横63mm×高さ0.5mmの略馬蹄形の板状の実体、重量0.5g
【0033】
製造方法は、外側部分1は金型をもちいた射出成型法を用い、内側部分2とパワーブレート9は金型をもちいたプレス加工法で作成し、完成した外側部分1にパワーブレード9と内側部分2の接着部分を熱風で軟化させ圧接接着した。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明におけるマウスピースは工場生産により大量に廉価供給でき、しかも従来は個々の使用者の歯列に正確に適合、且つ正しい咬合関係を記録するため歯科医によりオーダーメイドされていた高価なスポーツ用マウスピースと同様な製品を、簡単で短時間で完成することができるので、アメフト・ボクシング・ラグビー・野球・ウエイトリフティングなど多くのスポーツ選手の事故防止並びに運動能力の向上に役立つ。握力計を用いた最大握力テストでは本マウスピースを装着後、平均20%の増大が確認された。咬合力が強くマウスピースを破断させてしまう人もパワーブレード9を咬合面に設けることで、その破断を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】この発明に係わるマウスピースの一実施形態の上部平面図
【図2】図2はその斜視図
【図3】図3はその外側部分1と内側部分2の分解図
【図4】図4は図2における矢印A−Aの断面図
【図5】図5は本マウスピースを軟化後に上顎歯列に挿入、完成後の前歯部分の様相
【図6】図6は本マウスピースを軟化後に上顎歯列に挿入、完成後の臼歯部分の様相
【図7】図7はパワーブレードの上部平面図
【図8】図8はパワーブレートを設けた本マウスピースの分解図
【図9】図9はパワーブレートを設けた本マウスピースの斜視図
【図10】図10は図9における矢印B−Bの断面図
【符号の説明】
【0036】
1 マウスピース外側部分
1a 外側部分外壁
1b 外側部分内壁
1c 外側部分咬合面部
2 マウスピース内側部分
3 上顎前歯
4a 前歯部頬側歯肉
4b 前歯部口蓋側歯肉
5 上顎臼歯
6a 臼歯部頬側歯肉
6b 臼歯部口蓋側歯肉
7 下顎前歯
8 下顎臼歯
9 パワーブレード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外側部分と内側部分から構成される熱湯軟化式マウスピースであって、熱湯で軟化した時のマウスピース外側部分を構成する熱可塑性弾性樹脂の流動性が、マウスピース内側部分を構成する熱可塑性弾性樹脂の流動性に比べ、低いことを特徴とするマウスピース。
【請求項2】
請求項1のマウスピースであって、外側部分咬合面部と内側部分との間に、外側部分を構成する熱可塑性弾性樹脂よりもさらに流動性の低い熱可塑性弾性樹脂からなるパワーブレードを設けたマウスピース。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−165782(P2009−165782A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−28159(P2008−28159)
【出願日】平成20年1月11日(2008.1.11)
【出願人】(508040337)