説明

ふっ素樹脂被覆方法および定着部材

【課題】 シリコーンゴム層とふっ素樹脂膜が優れた接着力をもち、かつ膜厚が薄く表面平滑性の優れたふっ素樹脂膜を形成することができるふっ素樹脂被覆方法の提供。
【解決手段】 第一の工程として基材上に付加反応型液状シリコーンゴムの未硬化層を形成、第二の工程として熱可塑性樹脂粒子を前記シリコーンゴム表面に塗布し、第三の工程として前記の熱可塑性樹脂粒子を塗布したシリコーンゴムを加熱硬化し、第四の工程として前記の加熱硬化させたシリコーンゴム表面にふっ素樹脂粒子の分散液を塗布・乾燥し、第五の工程として前記ふっ素樹脂粒子を焼成・製膜することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円筒または円柱基材上へのふっ素樹脂被覆方法及び、この方法により製造した積層部材と、これを有してなる、複写機・レーザービームプリンタ(LBP)等の電子写真装置に配設される定着部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電子写真方式を用いた複写機・プリンタ・ファックス等の画像形成装置における記録材上の未定着画像を定着する定着装置としては、熱効率、安全性が良好な接触加熱方式の定着装置が広く知られているが、熱伝達効率が高く、装置の立ち上がりも早い方式として、熱容量の小さなベルトを介して加熱するベルト加熱方式の定着装置が、省エネルギー化の観点から多く採用されている。このベルトを基層として、弾性材料や離型材料を積層させることによって定着部材が構成されており、これらの構成材料においても省エネルギー化の工夫がなされている。例えば、ふっ素樹脂などの離型材料からなる表層においては、熱効率の観点からできるだけその膜厚は薄いほうが望ましく、これを実現する手段としては、基層あるいはゴム弾性層の上にふっ素樹脂分散液などをスプレーでコーティングして膜を形成するという方法がある。しかしこの方法には、チューブを被覆して表層を形成するという方法に比べると、表面平滑性の良好な膜に仕上げることが難しく、従って良質な画像が得られにくいという課題がある。さらに、表層と基層あるいは弾性層との接着不良などによる表層の剥離や磨耗といった耐久性における課題がある。これらの課題を解決する手段として、例えば加硫前のシリコーンゴムに表面化学処理を施したふっ素樹脂粉末を練りこみ、芯金上に塗布することによって、離型性に優れかつ耐久性のよい定着ローラを得るという先行技術がある(特許文献1)。しかしこれはゴム中に樹脂粒子を練りこむという点で、ゴムの硬度および粘度が高くなってしまい、作業性が悪くなってしまう上に、表面の平滑性を得にくいという点で、問題の解決には不十分である。表面平滑性の改善においては、芯がね上にシリコーンゴム弾性層を形成した後に、ふっ素ゴムにふっ素樹脂粒子を混合分散した塗料を積層し、その表面にふっ素樹脂材料をスプレー塗装してから焼成するという製造方法がある(特許文献2)が、これは、ふっ素ゴム層が熱伝導の妨げとなり、省エネルギーという観点からは外れるものである。またゴム層と樹脂層との接着性の改善に対しては、ゴム層に研磨あるいはブラストなどの処理を施して表面を粗面化し、その上に樹脂層を形成するという技術が知られている(特許文献3)。しかしこれは製造工程上、作業が煩雑になるという課題がある。
【特許文献1】特開平07−158632号公報
【特許文献2】特開2000−187407号公報
【特許文献3】特開平09−096987号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
これまでに述べたように、シリコーンゴム弾性層上にふっ素樹脂表層膜を積層する場合、シリコーンゴム層とふっ素樹脂層との接着力および、ふっ素樹脂表層の表面平滑性を満足させることが課題である。さらに、電子写真装置に配設される定着部材において表層はできるだけ薄い方が熱応答性の観点からも望ましい。しかし現状ではいずれの技術も、これらの要求を全て満足させるには不十分である。
【0004】
本発明は、前記従来の課題を解決するため、シリコーンゴム層とふっ素樹脂膜が優れた接着力をもち、かつ膜厚が薄く表面平滑性の優れたふっ素樹脂膜を形成することができるふっ素樹脂被覆方法、および、この方法によって得られる積層部材およびこの積層部材を有する定着部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を実現するために、本出願に係る第1の発明は、本発明の主たる目的に必要最小限なものであり、第一の工程として基材上に付加反応型液状シリコーンゴムの未硬化層を形成、第二の工程として熱可塑性樹脂粒子を前記シリコーンゴム表面に塗布し、第三の工程として前記の熱可塑性樹脂粒子を塗布したシリコーンゴムを加熱硬化し、第四の工程として前記の加熱硬化させたシリコーンゴム表面にふっ素樹脂粒子の分散液を塗布・乾燥し、第五の工程として前記ふっ素樹脂粒子を焼成・製膜することを特徴とするふっ素樹脂被覆方法を提供することにより、薄く、表面平滑性に優れたふっ素樹脂膜を得るとともに、ふっ素樹脂膜とシリコーンゴム層との良好な接着力を得ることが可能である。
【0006】
また、上記目的を実現するために、本出願に係る第2の発明は、第1の発明における熱可塑性樹脂粒子についての発明であり、熱可塑性樹脂粒子が脱ふっ素処理を施したふっ素樹脂粉末であることを特徴とする。脱ふっ素処理を施したふっ素樹脂粉末を用いることにより、ふっ素樹脂粉末とふっ素樹脂膜およびシリコーンゴム層との接触面積を広く確保するとともに、化学的な結合力を発揮することが可能となり、良好な接着性能(耐久性)を提供することができる。
【0007】
本出願に係る第3の発明は、第1または第2の発明のシリコーンゴムの組成についての発明であり、付加反応型液状シリコーンゴムが、加硫前のシロキサン結合の水素原子のモル数と、ビニル基のモル数の比率(H/Vi)を1.0〜5の範囲で配合することにより、脱ふっ素処理を施したふっ素樹脂粉末とシリコーンゴムとの化学的な結合力をより発揮しやすくすることを目的とする。
【0008】
本出願に係る第4の発明は、第1から第3の発明の熱可塑性樹脂粒子の粒子径および被覆面積占有率についての発明であり、粒子径が0.1μm以上15μm以下の粒子を用いるとともに、下層のシリコーンゴムに対する被覆面積占有率を70%以上100%未満とすることにより、ふっ素樹脂膜の表面平滑性と、ふっ素樹脂膜とシリコーンゴム層との接着力を両立することが可能となり、本発明の主たる目的をより効果的に達成することを目的とする。ここで粒子径とは平均粒子径のことであり、平均粒子径はレーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所(株)製 商品名 SALD−7000)で測定したメディアン径(D50)のことを示す。また、被覆面積占有率とは、シリコーンゴムに熱可塑性樹脂粒子を塗布したものの任意の5箇所における10mm×10mmの視野内で、シリコーンゴムを熱可塑性樹脂粒子塗布方向から見た熱可塑性樹脂粒子の被覆面積の合計の比の平均で表す。具体的には、高倍率ビデオマイクロスコープ(KEYENCE社製 商品名 デジタルHFマイクロスコープ VH−8000)によって塗布方向から加熱硬化前の熱可塑性樹脂粒子の付着した面を観察し、その観察画像を二値化処理することによって熱可塑性樹脂粒子のシリコーンゴム層に対する被覆面積占有率を算出した。同様にして観察・算出した5箇所の平均値をその部材における被覆面積占有率とした。
【0009】
本出願に係る第5・第6の発明は、第1から第4の発明のふっ素樹脂被覆方法を用いて形成する積層部材についての発明であり、付加反応型液状シリコーンゴムの硬化層とふっ素樹脂粒子の焼成層が脱ふっ素処理を施したふっ素樹脂粉末を介して積層してなることにより、本発明の主たる目的を達成することを目的とする。
【0010】
本出願に係る第7・第8の発明は、第5および第6の発明の積層部材を用いて形成する定着部材についての発明であり、基材上に第5および第6の発明の積層部材を有してなることを特徴とすることにより、本発明の主たる目的を達成することを目的とする。
【発明の効果】
【0011】
以上説明した本発明によれば、薄く表面平滑性に優れたふっ素樹脂膜を形成しながら、なおかつ、ふっ素樹脂膜とシリコーンゴム層との良好な接着力を確保しうる、ふっ素樹脂被覆方法を提供することができる。
【0012】
また、この方法を用いることにより、表面平滑性および耐久性に優れた、電子写真装置に配設される定着部材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を用いて本発明を実施した形態の一例を示した。
【0014】
図1は本発明のふっ素樹脂被覆方法を用いることによって形成できる積層部材である。11はふっ素樹脂からなる表層であり、12は熱可塑性樹脂粒子(脱ふっ素処理を施したふっ素樹脂粉末)、13はシリコーンゴムからなる弾性層である。
【0015】
本発明のふっ素樹脂被覆方法において、使用される熱可塑性樹脂粒子としては、接着性能の観点から、脱ふっ素処理を施したふっ素樹脂粉末であることが望ましい。前記ふっ素樹脂粉末の粒子径は0.1μm以上15μm以下であることが望ましい。これは、膜形成において膜厚を薄くするとともに、平滑性の良好な膜を形成することにおいても有利なためである。さらに、前記のふっ素樹脂粉末のシリコーンゴムに対する被覆面積占有率は70%以上100%未満であることが好ましい。これは、前記ふっ素樹脂粉末とシリコーンゴム弾性層、およびふっ素樹脂表層との接触面積を広く確保するという点と、表面性の良好な膜を形成するという点において有利なためである。また、使用されるシリコーンゴムの種類は、架橋反応の形態として特に限定されないが、シリコーンゴムの厚みをできるだけ薄くするため、およびふっ素樹脂粉末との接触面積を広く確保するためには、液状付加反応型が好適に用いられる。
【0016】
また、シリコーンゴムは官能基の種類が様々に知られているが、それら公知の種類の官能基を有したシリコーンゴムを用いても構わない。特に、メチル基のみを有したジメチルシリコーンゴムや、フェニル基を有したメチルフェニルシリコーンゴム/フェニルシリコーンゴムがトナー定着部材用に良く知られ、好んで用いられる。
【0017】
シリコーンゴムには、耐熱や伝熱や補強や増量等を目的として、無機系の粉末状の充填剤を配合しても良い。無機系充填剤は公知のものを用いることが出来る。例えば、結晶性シリカ、煙霧状シリカ、酸化鉄、アルミナなどを例示できる。好ましくは、これらの無機充填剤を、シリコーンゴム100重量部に対して、0.1重量部〜100重量部配合してなるものを用いる。
【0018】
この他、シリコーンゴムには各種特性の調整のために配合剤を加えても良い。
【0019】
前記付加反応型液状シリコーンゴムは、加硫前のシロキサン結合の水素原子のモル数と、ビニル基のモル数との比率(H/Vi)を1.0〜5の範囲で配合することが好ましい。これは、シリコーンゴムとしてのゴム弾性を維持しながら、脱ふっ素処理を施したふっ素樹脂粉末との化学的接着力の効果をより発揮しやすくするためである。また、使用されるふっ素樹脂粉末の種類は、公知である種類の材料を用いることができ、特に限定されない。一般によく知られる、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)、ポリフッ化塩化エチレン(CTFE)ポリフッ化ビニリデンなどのふっ素樹脂粉末の単一種、または複合種の材料を用いることが好ましい。
【0020】
以下実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、これらは何ら本発明を限定するものではない。
【0021】
(実施例1)
まず、第一の工程として、付加反応型の2液混合タイプの液状シリコーンゴム原料を用意した。これを円筒状芯体上に膜厚が均一になるように塗布した。その後、第二の工程として熱可塑性樹脂粒子としてPTFEの粉末を用意し、これに脱ふっ素処理を施した。脱ふっ素処理方法には金属ナトリウム−ナフタリン錯体のテトラヒドロフラン溶液を用いる化学的処理方法を採用した。具体的には、PTFE粉末を約5〜10秒間、室温に戻した金属ナトリウム−ナフタリン錯体のテトラヒドロフラン溶液((株)潤工社製 商品名 テトラエッチA)に浸し、その後PTFE粉末をエタノール、水、アセトンの順でよく洗浄した。以上述べたように脱ふっ素処理を施したPTFE粉末を前記シリコーンゴムの表面に塗布した。この時、下層のシリコーンゴムに対して前記ふっ素樹脂粉末の被覆面積占有率が70%以上100%未満となるようにした。被覆面積占有率は、高倍率ビデオマイクロスコープによって塗布後の表面観察を行い、被覆面積占有率を狙いどおりに制御できたことを確認した上で、第三の工程として前記ふっ素樹脂粉末を塗布したシリコーンゴムを200℃4時間で加熱硬化し、第四の工程として、ふっ素樹脂系ディスパージョン液(ダイキン工業(株)製 商品名 ネオフロンPFA 品番;AD−2CR)を用意した。これを前記の加熱硬化させたシリコーンゴム表面に塗布・乾燥し、第五の工程として前記ふっ素樹脂粒子を、室温から一時間かけて370℃まで昇温させて、加熱・焼成した。
【0022】
以上に述べたようなふっ素樹脂被覆方法を用いて得られる積層部材の製造方法について、図1にその形態を示しながら説明する。なお、この積層部材は主に複写機、レーザービームプリンタ(LBP)等の電子写真装置に配設される定着部材に用いられるものである。
【0023】
基層としては、外径70mm、厚さ30μmのSUS製無端ベルトを用意した。このベルトをアルミ製中空中子に挿入してワーク回転治具に装着し、ワークをベルト周方向に一定速度で回転させたベルト表面に、シリコーン用プライマー(東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製 商品名 DY39−051)を薄塗りして、200℃の温風オーブンにて1時間の加熱処理を行った。冷却後にベルト表面に、液状シリコーンゴム原料(東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製 商品名 DY35−561)を加硫前のH/Vi=1になるように調整し、膜厚が300μmになるように均一に塗布した。ついで、ベルトに塗布したシリコーンゴム上に化学的処理方法により脱ふっ素処理を施したふっ素樹脂粉末を静電塗装により塗布した。なお、ふっ素樹脂粉末は平均粒子径(凝集粒含む)が約5μmのPTFE粉末(ダイキン工業(株)製 商品名 ルブロン 品番;L−5F)を使用した。前記PTFE粉末を入れた塗装ガン(アネスト岩田(株)製 商品名 粉体静電用ガン 品番;PCH−85)を、ベルトからの距離を15cmに保ちながら、長軸方向に一定速度で移動させながら、アルミ製中空中子に挿入してワーク回転治具に装着し、ワークをベルト周方向に一定速度で回転させたベルト表面に、前述のPTFE粉末を静電塗装した。被覆面積占有率の制御は、ワーク回転速度、または塗装ガンの吐出量、印加電圧およびガン移動速度で調製した。例えば、被覆面積占有率を70%に制御するためにはベルトにあらかじめ余熱を与えた上で、ワーク回転速度および塗装ガンの吐出量と印加電圧を調整した。以上のような手法によって前述のPTFE粉末をスプレー塗布した時点で、高倍率ビデオマイクロスコープによってベルト表面観察を行い、被覆面積占有率が狙いどおり70%に制御できたことを確認した。なお、ふっ素樹脂粉末ののり量およびシリコーンゴム表面から突出している高さについては、同様にワーク回転速度、塗装ガンの吐出量、印加電圧、ガン移動速度などで調製し、のり量の確認は重量測定によって行い、ゴム表面からの高さは、粒子径の約半分であることを観察によって確認した。観察は高倍率ビデオマイクロスコープによって塗布後のゴムの断面方向からの観察を行った。被覆面積占有率およびシリコーンゴムからのPTFE粉末の高さを狙いどおりに制御できたことを確認した上で、前記PTFE粉末を塗布したシリコーンゴムを200℃にて4時間加熱硬化し、室温まで放冷した後に、表層を形成するふっ素樹脂材料として前述のPFAディスパージョン液をスプレー塗布した。スプレー塗布の方法は、塗料用のスプレーガン(アネスト岩田(株)製 商品名 自動ガン 品番;WA−100−101P)を使用し、長軸方向に一定速度でガンを移動させながら、アルミ製中空中子に挿入してワーク回転治具に装着し、ワークをベルト周方向に一定速度で回転させたベルト表面に、PFAディスパージョン液をスプレー塗布した。ワーク回転速度およびスプレーガンの吐出量と霧化圧を調整することによって、加熱焼成後の表層の厚さが15μm〜20μmの範囲に収まるように調整した。膜厚の管理はスプレー塗布後の重量を管理することで行った。以上の手法によりシリコーンゴム、ふっ素樹脂粉末、ふっ素樹脂ディスパージョン液の順で積層させたベルトをオーブンに入れ、室温から370℃まで一時間かけて加熱焼成した。
【0024】
(実施例2)
実施例1で用いた液状シリコーンゴム原料の加硫前のH/Viを、H/Vi=5になるように調整したものに変更した以外は、実施例1と同じ方法で定着部材を作製した。
【0025】
(実施例3)
実施例1で用いた液状シリコーンゴム原料の加硫前のH/Viを、H/Vi=0.5になるように調整したものに変更した以外は、実施例1と同じ方法で定着部材を作製した。
【0026】
(実施例4)
実施例1で用いたPTFE粉末(ダイキン工業(株)製 商品名 ルブロン 品番;L−5F)の平均粒子径を、平均粒子径が約25μmであるPTFE粉末(旭アイシーアイ フロロポリマーズ(株)社製 品番;G190)に変更した以外は、実施例1と同じ方法で定着部材を作製した。
【0027】
(実施例5)
実施例1で用いたPTFE粉末(ダイキン工業(株)製 商品名 ルブロン 品番;L−5F)の被覆面積占有率を、95%になるように変更した以外は、実施例1と同じ方法で定着部材を作製した。
【0028】
(実施例6)
実施例1で用いたPTFE粉末(ダイキン工業(株)製 商品名 ルブロン 品番;L−5F)の被覆面積占有率を、50%になるように変更した以外は、実施例1と同じ方法で定着部材を作製した。
【0029】
(実施例7)
実施例1で用いたPTFE粉末(ダイキン工業(株)製 商品名 ルブロン 品番;L−5F)を、脱ふっ素処理を行わずに用いた以外は、実施例1と同じ方法で定着部材を作製した。
【0030】
(比較例1)
実施例1で用いたPTFE粉末(ダイキン工業(株)製 商品名 ルブロン 品番;L−5F)を、フッ素ゴムとフッ素樹脂の混合物から成る水性塗料(ダイキン工業(株)製 商品名 ダイエルラテックス 品番;GLS−213)に変更した。この場合、ふっ素樹脂被覆方法およびそれを用いてできる積層部材・定着部材は、作製方法を以下のように変更した。まず、弾性層となる液状シリコーンゴムは、円筒状芯体上に塗布後、200℃4時間で加硫して室温まで放冷した。その後、加硫後のシリコーンゴム表面にラテックスを25μmの厚さになるようスプレー塗装した。前記ラテックスを塗装したシリコーンゴムを、200℃で30分加熱硬化後、室温まで放冷した。その後、ラテックス塗布面に表層となるふっ素樹脂ディスパージョン液をスプレー塗布した。
【0031】
以上の変更点以外は、実施例1と同じ方法で定着部材を作製した。
【0032】
以上に述べたようにして検討した実施例1〜7および比較例1を表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
[性能の評価 −加熱定着装置−]
上記の実施例および比較例の性能を評価するために、図2に示すような定着装置を用意した。図2は本発明の性能を評価した加熱定着装置の一例であり、加熱定着装置200は加熱体としてセラミックヒータを用いたベルト加熱方式の装置であり、定着ベルト210は前述の本発明のものである。
【0035】
ベルトガイド216cは耐熱性・断熱性のベルトガイドである。加熱体としてのセラミックヒータ212は、ベルトガイド216cの下面のほぼ中央部にガイド長手に沿って形成具備させた溝部に嵌入して固定支持させてある。そして、円筒状もしくはエンドレス状の本発明の定着ベルト210はベルトガイド216cにルーズに外嵌させてある。
【0036】
加圧用剛性ステイ222はベルトガイド216cの内側に挿通してある。
【0037】
加圧部材230は、本例では弾性加圧ローラである。この加圧部材230は、芯金230aにシリコーンゴム等の弾性層230bを設けて硬度を下げたもので、芯金230aの両端部を装置の不図示の手前側と奥側のシャーシ側板との間に回転自由に軸受け保持させて配設してある。弾性加圧ローラは、表面性を向上させるために、さらに外周にPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルエーテル共重合体)、FEP(テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体)等のフッ素樹脂層を設けてもよい。
【0038】
加圧用剛性ステイ222の両端部と装置シャーシ側のバネ受け部材(不図示)との間にそれぞれ加圧バネ(不図示)を縮設することで、加圧用構成ステイ222に押し下げ力を作用させている。これにより、ベルトガイド部材216aの下面に配設した摺動板240の下面と加圧ローラ230の上面とが定着ベルト210を挟んで圧接して所定幅の定着ニップ部Nが形成される。なお、ベルトガイド部材216としては、耐熱フェノール樹脂、LCP(液晶ポリエステル)樹脂、PPS(ポリフェニレンスルフィド)樹脂、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂等、耐熱性に優れた樹脂を用いる。
【0039】
加圧ローラ230は、駆動手段Mにより矢示のように反時計方向に回転駆動される。この加圧ローラ230の回転駆動による加圧ローラ230と定着ベルト210との外面との摩擦力で定着ベルト210に回転力が作用して、定着ベルト210はその内面が定着ニップ部Nにおいてセラミックヒータ212の下面に密着して摺動しながら、矢示のように時計方向に加圧ローラ230の回転周速度にほぼ対応した周速度でベルトガイド216cの外回りに回転する(加圧ローラ駆動方式)。
【0040】
本実施例では外径20mmの加圧ローラを用いてある。
【0041】
プリントスタート信号に基づいて加圧ローラ230の回転が開始され、またセラミックヒータ312のヒートアップが開始される。加圧ローラ230の回転による定着ベルト210の回転周速度が定常化し、セラミックヒータ212の温度が所定温度に立ち上がった状態において、定着ニップ部Nの定着ベルト210と加圧ローラ230との間に被加熱材としてのトナー画像tを担持させた被記録材Pがトナー画像担持面側を定着ベルト210側にして導入される。そして、被記録材Pは定着ニップ部Nにおいて定着ベルト210を介してセラミックヒータ212の下面に密着し、定着ベルト210と一緒に定着ニップ部Nを移動通過していく。その移動通過過程において、セラミックヒータ212の熱が定着ベルト210を介して被記録材Pに付与され、トナー画像tが被記録材P面に加熱定着される。定着ニップ部Nを通過した被記録材Pは定着ベルト210の外面から分離して搬送される。
【0042】
加熱体としてのセラミックヒータ212は、定着ベルト210・被記録材Pの移動方向に直交する方向を長手とする低熱容量の横長の線状加熱体である。チッ化アルミニウム等でできたヒータ基板212aと、このヒータ基板212aの表面にその長手に沿って設けた発熱層212b、例えばAg/Pd(銀/パラジウム)等の電気抵抗材料を約10μm、幅1〜5mmにスクリーン印刷等により塗工して設けた発熱層212bと、さらにその上に設けたガラスやフッ素樹脂等の保護層212cを基本構成とするものである。なお、用いるセラミックヒータはこのようなものに限定されるわけではない。
【0043】
そして、セラミックヒータ212の発熱層212bの両端間に通電されることで発熱層212bは発熱し、ヒータ212が急速に昇温する。そのヒータ温度が温度センサ(不図示)に検知され、ヒータ温度が所定の温度に維持されるように制御回路(不図示)で発熱層12bに対する通電が制御されてヒータ212は温調管理される。
【0044】
セラミックヒータ212は、ベルトガイド216cの下面のほぼ中央部にガイド長手に沿って形成具備させた溝部に、保護層212c側を上向きに嵌入して固定支持させてある。定着ベルト210と接触する定着ニップ部Nには、このセラミックヒータ212の摺動部材240の面と定着ベルト210の内面が相互接触摺動する。ニップ巾は記録紙のニップ滞留時間確保する為、プロセススピードに対応して変更される。
【0045】
[性能の評価 −評価方法と結果−]
定着画像の評価方法は、未定着トナー画像(シアン・マゼンタ2色ベタ画像 M/S=1.2)を、図2に組み込んだ各実施例および比較例の定着ベルトが加圧ローラと加熱圧接したニップ間に通紙して、通紙後のトナー定着画像のグロスを初期グロスとして評価した。グロスの評価は、本発明の目的である極めて高画質なトナー画像を感度良く判定するため、官能的評価にて行った。まず画像の光沢感については、評価に普遍性を与えるために、標準の見本画像を作製し、評価の基準を合わせた。すなわち、グロス値がそれぞれ30、40、50((株)堀場製作所製 IG−320 入射角60°使用にて)となるような3つの見本画像を作製した。これは、平滑面であるアルミシート上にシアン・マゼンタトナーを単位面積あたりのトナーのり量(mg/cm2)が1.2になるように載せ、様々な条件で熱プレスすることにより作製した。この3つの見本画像を数人の被験者に見せ、「光沢感が十分である」と認識してもらった上で、本発明を実施した2色ベタ画像の初期グロスについて、「○=光沢感ある」、「△=光沢感少なめ」「×=光沢感ない」の3水準で評価した。なお、各プロセス条件としては、ニップ内面圧力=1kgf/cm2、定着ベルト表面温度=160℃、定着ベルト回転速度=80rpm(回転/分)に設定した。以上の評価結果を、表層の熱応答性および表面平滑性の指標とした。
【0046】
空回転耐久試験とその評価については、定着器は、図2に示すような加熱定着装置を用いた。これに各実施例および比較例で作成した定着部材を装着し、500時間まで紙を通さずに空回転耐久試験を行った。各プロセス条件としては、ニップ内面圧力=1kgf/cm2、定着ベルト表面温度=210℃、定着ベルト回転速度=80rpm(回転/分)に設定した。100時間毎に定着部材の表面状態を目視で確認し、表層の剥離が見られなければ接着耐久性O.K.レベル、剥離を確認した時点で接着剥れとした。以上の評価結果を、表層と弾性層の接着性の指標とした。
【0047】
以上の方法で評価した実施例1〜7および比較例1の結果を下記表2に示す。
【0048】
【表2】

【0049】
[実施例1]
初期グロスおよび空回転耐久500時間後のベルト表層の表面性はいずれも良好な結果であった。これは、部材の表層が薄く、その表面が平滑であるとともに、表層と弾性層との接着力が優れていることを表している。
【0050】
よって、弾性層と表層との接着性を確保しながらも、熱応答性と表面平滑性に優れた定着部材を提供することができた。
【0051】
[実施例2]
初期グロス、耐久性、いずれにおいても良好な結果を得た。
【0052】
よって、弾性層と表層との接着性を損なうことなく、熱応答性と表面平滑性に優れた定着部材を提供することができた。
【0053】
[実施例3]
初期グロスにおいては良好な結果を得たが、空回転耐久試験において、500時間に到達する前の480時間で表層の剥離が見られた。これは弾性層のシリコーンゴムのH/Vi比が小さかったためと考えられるが、定着部材として使用するには問題のないレベルである。
【0054】
[実施例4]
耐久性においては良好な結果を得たが、初期グロスはやや劣る結果となった。これは、ふっ素樹脂粒子の粒子径が大きすぎたためにふっ素樹脂膜の表面平滑性に悪影響を及ぼしたためと考えられるが、定着部材として使用するには問題のないレベルである。
【0055】
[実施例5]
初期グロス、耐久性、いずれにおいても良好な結果を得た。
【0056】
よって、弾性層と表層との接着性を損なうことなく、熱応答性と表面平滑性に優れた定着部材を提供することができた。
【0057】
[実施例6]
初期グロスにおいては良好な結果を得たが、空回転耐久試験において、500時間に到達する前の480時間で表層の剥離が見られた。これはふっ素樹脂粒子の被覆面積占有率が少なかったためと考えられるが、定着部材として使用するには問題のないレベルである。
【0058】
[実施例7]
初期グロスにおいては良好な結果を得たが、空回転耐久試験においては、500時間に到達する前の450時間で表層の剥離が見られた。これはふっ素樹脂粒子に表面処理を施していなかったためと考えられるが、定着部材として使用するには問題のないレベルである。
【0059】
[比較例2]
初期グロスは上記実施例に比べ、悪い結果となった。これはシリコーンゴムと表層ふっ素樹脂との間に介在するラテックス層が熱伝達の妨げになっているためと考えられる。これは定着部材として使用することが困難なレベルである。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明を実施した形態の一例。
【図2】本発明の性能を評価した加熱定着装置の一例。
【符号の説明】
【0061】
11 表層
12 熱可塑性樹脂粒子
13 弾性層
200 加熱定着装置
210 定着ベルト
212 セラミックヒータ
216C ベルトガイド
222 加圧用剛性ステイ
230 加圧部材(加圧ローラ)
240 摺動板
N 定着ニップ部
t トナー画像
P 被記録材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の工程として基材上に付加反応型液状シリコーンゴムの未硬化層を形成、第二の工程として熱可塑性樹脂粒子を前記シリコーンゴム表面に塗布し、第三の工程として前記の熱可塑性樹脂粒子を塗布したシリコーンゴムを加熱硬化し、第四の工程として前記の加熱硬化させたシリコーンゴム表面にふっ素樹脂粒子の分散液を塗布・乾燥し、第五の工程として前記ふっ素樹脂粒子を焼成・製膜することを特徴とするふっ素樹脂被覆方法。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂粒子が、脱ふっ素処理を施したふっ素樹脂粉末であることを特徴とする請求項1記載のふっ素樹脂被覆方法。
【請求項3】
前記付加反応型液状シリコーンゴムが、加硫前のシロキサン結合の水素原子のモル数と、ビニル基のモル数の比率(H/Vi)を1.0〜5の範囲で配合することを特徴とする請求項1〜2記載のふっ素樹脂被覆方法。
【請求項4】
前記ふっ素樹脂粉末が、粒子径が0.1μm以上15μm以下であるとともに、下層のシリコーンゴムに対する被覆面積占有率が70%以上100%未満であることを特徴とする請求項1〜3に記載のふっ素樹脂被覆方法。
【請求項5】
付加反応型液状シリコーンゴムの硬化層とふっ素樹脂粒子の焼成層が熱可塑性樹脂粒子を介して積層してなることを特徴とする積層部材。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂粒子が、脱ふっ素処理を施したふっ素樹脂粉末であることを特徴とする請求項5記載の積層部材。
【請求項7】
基材上に請求項5に記載の積層部材を有してなることを特徴とする定着部材。
【請求項8】
基材上に請求項6に記載の積層部材を有してなることを特徴とする定着部材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−130822(P2006−130822A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−323605(P2004−323605)
【出願日】平成16年11月8日(2004.11.8)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】